(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154527
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/131 20100101AFI20241024BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M4/131
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068367
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】馬原 優治
(72)【発明者】
【氏名】牧村 嘉也
【テーマコード(参考)】
5H050
【Fターム(参考)】
5H050AA08
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA09
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050HA01
5H050HA07
5H050HA08
5H050HA19
(57)【要約】
【課題】電極体積あたりのエネルギー密度をより高める。
【解決手段】電極は、Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と、導電材と、を含み、結着材を含んでもよく、空孔を有し、前記導電材の含有量が20質量%以下であり、電極断面をSEM観察して画像解析したときに、前記活物質の輪郭線の面積に対する、前記活物質と前記空孔との境界線の面積の割合である非接触割合の平均値が8%以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と、導電材と、を含み、結着材を含んでもよく、空孔を有し、前記導電材の含有量が20質量%以下であり、電極断面をSEM観察して画像解析したときに、前記活物質の輪郭線の面積に対する、前記活物質と前記空孔との境界線の面積の割合である非接触割合の平均値が8%以下である、電極。
【請求項2】
前記リチウム複合酸化物は、一般式LiaMxO2-yAy(ただし、0<a<2、0<x<2、0≦y<2であり、MはB、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeからなる群より選ばれる1以上であり、AはF、Cl、Br、I、Sからなる群より選ばれる1以上である)で表され、Pを含む、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記金属元素としてMnを含む、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項4】
電極体積あたりのエネルギー密度が700Wh/L以上である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項5】
前記非接触割合の平均値が7%以下である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項6】
前記導電材の含有量が15質量%以下である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項7】
前記活物質質量あたりの放電容量が300mAh/g以上である、請求項1又は2に記載の電極。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の電極と、
前記電極に接触しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた、蓄電デバイス。
【請求項9】
Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と、嵩密度0.07g/cm3以下の第1導電材とを混合した後、前記第1導電材よりも嵩密度の大きい第2導電材と必要に応じて結着材とを配合して調製した電極合材を用いて電極を作製する、電極の製造方法。
【請求項10】
前記電極合材は、前記第1導電材及び前記第2導電材の含有量が合計で20質量%以下である、請求項9に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、リチウム二次電池の正極活物質として、層状型岩塩構造を有するLiMO2(ただし、M=Co、Ni、Mn)が知られている。この組成での理論的な最大放電容量は約280mAh/gであるが、電位、構造安定性の観点から取り出せる容量はその7割程度である。そこで、組成内のLiを過剰にし、利用可能な放電容量を増加させる提案がなされている。特に活物質を不規則岩塩構造にすることでLiが3次元的に充放電可能となり、高い放電容量を示すことが知られている(例えば、特許文献1~4など参照)。これは、アモルファス構造となることでLiが3次元的に移動可能となり、Li過剰組成でもLiが可逆的に挿入脱離するようになるためである。また、スピネル構造および層状岩塩構造を有する正極も提案されている(例えば、特許文献5など参照)。また、層状構造のLiMnO2とLi3PO4とをメカニカルミリング法で混合した(1-α)LiMnO2・αLi3PO4(αは0.1、0.2又は0.3)の組成のリチウム複合酸化物が提案されている(非特許文献1参照)。このリチウム複合酸化物は、無秩序岩塩構造を有しており、Mn3+/Mn4+の酸化還元に基づく理論容量を上回る高容量を示すとされている。また、本願発明者らは、例えば放電容量が300mAh/gを超えるランダム岩塩構造の高容量正極を提案している(例えば、特許文献6など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-92958
【特許文献2】特開2017-202954
【特許文献3】特表2019-523532
【特許文献4】特開2015-166291
【特許文献5】特開2016-25009
【特許文献6】特開2021-128880
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】M. Sawamura, et al., ACS Cent. Sci. 2020, 6, 2326-2338
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1~6や非特許文献1のように立方晶系の活物質を用いた電極では、層状型岩塩構造を有するLiMO2などを用いた電極よりも、活物質質量あたりの放電容量は高いものの、電極体積あたりのエネルギー密度が低いことがあった。このため、電極体積あたりのエネルギー密度をより高めることが望まれていた。
【0006】
本開示は、このような課題を解決するためになされたものであり、電極体積あたりのエネルギー密度をより高めることができる電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した目的を達成するために、本発明者らは鋭意研究した。そして、電極断面をSEM観察して画像解析したときに、活物質の輪郭線の面積に対する、活物質と空孔との境界線の面積の割合である非接触割合の平均値が8%以下である電極では、立方晶系のリチウム複合酸化物の活物質を含むものにおいて、電極体積あたりのエネルギー密度をより高められることを見出し、本明細書で開示する発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本明細書で開示する電極は、
Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と、導電材と、を含み、結着材を含んでもよく、空孔を有し、前記導電材の含有量が20質量%以下であり、電極断面をSEM観察して画像解析したときに、前記活物質の輪郭線の面積に対する、前記活物質と前記空孔との境界線の面積の割合である非接触割合の平均値が8%以下であるものである。
【0009】
本明細書で開示する蓄電デバイスは、
上述した電極と、
前記電極に接触しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えたものである。
【0010】
本明細書で開示するリチウム複合酸化物の製造方法は、
Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と、嵩密度0.07g/cm3以下の第1導電材とを混合した後、前記第1導電材よりも嵩密度の大きい第2導電材と必要に応じて結着材とを配合して調製した電極合材を用いて電極を作製するものである。
【発明の効果】
【0011】
本開示では、電極体積あたりのエネルギー密度をより高めることができる電極、蓄電デバイス及び電極の製造方法を提供することができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質は、層状岩塩型の活物質などに比べて活物質質量あたりの容量は高い一方で導電率は低い傾向にあり、活物質の容量を引き出すために多量の導電材が用いられることが多い。これに対して、本開示では、活物質の周囲に導電材や空孔が適切に配置されているため、多量の導電材を用いることなく活物質の容量を効率よく引き出すことが可能であり、電極体積あたりのエネルギー密度を高めることができると推察される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】蓄電デバイス20の構成の一例を示す模式図。
【
図2】実験例1~6の正極活物質を用いたハーフセルの放電曲線。
【
図3】実験例1~6の電極密度と放電容量との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[電極]
本実施形態の電極は、蓄電デバイスに用いられる電極である。蓄電デバイスは、リチウム二次電池やリチウムイオン二次電池、キャパシタ、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。電極は、活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなる。活物質は、蓄電デバイスのキャリアイオンを吸蔵放出する。キャリアイオンは、蓄電デバイスに用いられるものであれば特に限定されないが、例えば、アルカリ金属イオンや第2族元素イオンなどが挙げられる。アルカリ金属イオンとしては、例えば、リチウムイオンやナトリウムイオン、カリウムイオンなどが挙げられる。第2族元素イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、カルシウムイオンなどが挙げられる。ここでは、電極が、リチウムイオンをキャリアとするリチウムイオン二次電池の正極である場合を主たる一例として以下説明する。
【0014】
この電極は、活物質と導電材とを含み、結着材を含んでもよく、空孔を有する。空孔には、イオン伝導媒体等が満たされていてもよい。この電極は、集電体と集電体上に形成された電極合材とを備えていてもよい。その場合、電極合材は、活物質と導電材とを含み、結着材を含んでもよく、空孔を有するものとしてもよい。
【0015】
活物質は、Li及びLi以外の金属元素を含む立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物である。立方晶系の結晶構造としては、例えば、岩塩構造やスピネル構造が挙げられる。このリチウム複合酸化物は、XRDスペクトルが立方晶系の無秩序岩塩構造(ランダム岩塩構造とも称される)のピークパターンを示すものとしてもよいし、立方晶系のスピネル構造のピークパターンを示すものとしてもよい。無秩序岩塩構造のリチウム複合酸化物は、XRDスペクトルにおいて、2θが35°以上39°以下の範囲、42°以上48°以下の範囲、62°以上68°以下の範囲、及び80°以上84°以下の範囲の少なくとも4つに回折ピークを有するピークパターンを示すものとしてもよい。また、無秩序構造を有することから、回折ピークは比較的ブロードであり、2θ=42°~48°のメインピークの半価幅が1.5°以上を示し、2θ=62°~68°のピークの半価幅が2°以上を示すものとしてもよい。また、スピネル構造のリチウム複合酸化物は、XRDスペクトルにおいて、2θが15°以上22°以下の範囲、33°以上39°以下の範囲、42°以上48°以下の範囲、62°以上68°以下の範囲、及び80°以上84°以下の範囲の少なくとも5つに回折ピークを有するピークパターンを示すものとしてもよい。また、スピネル構造では、回折ピークは比較的ブロードであり、2θ=15°~22°のピークの半価幅が1.5°以上を示し、2θ=42°~48°のメインピークの半価幅が1.5°以上を示すものとしてもよい。リチウム複合酸化物は、無秩序岩塩型の結晶構造を有するものが好ましい。無秩序岩塩構造のリチウム複合酸化物は、これまで実用されてきた層状型正極とは異なり、Liが3次元的に泳動可能であり、より多くのLiイオンを挿入脱離可能となると考えられる。
【0016】
このリチウム複合酸化物は、金属元素として、例えば、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeのうちの1以上を含むものとしてもよく、このうち、Mnを含むものが好ましい。このリチウム複合酸化物は、例えば、B及びPのうちの1以上の非金属元素を含むものとしてもよく、これらは、上述した金属元素の一部を置換していてもよい。また、このリチウム複合酸化物は、F、Cl、Br、I、Sからなる群より選ばれる1以上を含むものとしてもよく、これらは、酸素の一部を置換していてもよい。
【0017】
このリチウム複合酸化物は、一般式LiaMxO2-yAyで表されるものとしてもよい。ただし、一般式LiaMxO2-yAyにおいて、0<a<2、0<x<2、0≦y<2であり、MはB、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeからなる群より選ばれる1以上であり、AはF、Cl、Br、I、Sからなる群より選ばれる1以上であるものとする。一般式LiaMxO2-yAyにおけるLiの含有量aは、リチウムイオンの吸蔵放出により変動するものであり、任意の値であるが、例えば、充放電を行っていない状態において1≦a≦1.25を満たすものとしてもよい。このリチウム複合酸化物は、元素Mとして、金属元素Me(Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Vu、Zn、Ga及びGeのうちの1以上)を含むものとしてもよく、このうち遷移金属元素(Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cuのうちの1以上)を含むものとしてもよく、少なくともMnを含むことが好ましい。このリチウム複合酸化物は、元素Mとして、金属元素Meに加えて、非金属元素Mx(B及びPのうちの1以上)を含むものとしてもよい。このとき、リチウム複合酸化物は、一般式LiaMxx1Mex2O2-yAyで表されるものとしてもよい。一般式LiaMxO2-yAyにおいて、元素Mの含有量xは、0.8以上を満たすものとしてもよいし、0.85以上を満たすものとしてもよいし、0.90以上としてもよい。また、この含有量xは、1未満を満たすものとしてもよいし、0.98以下を満たすものとしてもよいし、0.96以下を満たすものとしてもよいし、0.95以下としてもよい。非金属元素Mxの含有量x1は、0≦x1≦0.3を満たすものとしてもよい。また、金属元素Meの含有量x2は、0.5≦x2≦0.98を満たすものとしてもよい。非金属元素MxがPの場合、非金属元素Mxの含有量x1は、0.02≦x1≦0.08を満たすことが好ましく、0.03≦x1≦0.08を満たすことがより好ましい。また、非金属元素MxがPの場合、金属元素Meの含有量x2は、0.65≦x2<1を満たすことが好ましく、0.7≦x2≦0.95を満たすことがより好ましい。非金属元素MxがBの場合、非金属元素Mxの含有量x1は、0.03≦x1≦0.27を満たすことが好ましく、0.05≦x1≦0.25を満たすことがより好ましい。非金属元素MxがBの場合、金属元素Meの含有量x2は、0.75≦x2<1を満たすことが好ましく、0.8≦x2≦0.95を満たすことが好ましい。一般式LiaMxO2-yAyにおいて、元素Aとしては、例えば、F、Cl、Br、I及びSのうちの1以上が挙げられ、そのうちハロゲン元素が好ましく、Fとしてもよい。元素Aの含有量yは、0≦y<0.5を満たすことが好ましく、0.3≦y<0.5を満たすものとしてもよい。このリチウム複合酸化物は、酸素欠陥を有するものとしてもよいが、酸素欠陥がより少ないものが好ましい。酸素欠陥の低減によって、隣接するMnの電子状態を理想状態とし、十分に酸化還元がされるため、放電容量がより向上するものと推察される。このリチウム複合酸化物は、一般式LiaMxO2-yAyに酸素欠陥zを反映した式LiaMxO2-y-zAyにおいて、酸素欠陥zが、0≦z≦0.15を満たすものとしてもよい。この酸素欠陥zは、z≦0.10を満たすことが好ましく、z≦0.05を満たすことがより好ましく、z≦0.03を満たすことが更に好ましい。このリチウム複合酸化物は、元素MにPを含む場合、酸素欠陥がPO4イオンにより低減されているものとしてもよい。このとき、リチウム複合酸化物は、一般式LiaPx1Mnx2O2-zで表され、0<a<2、0<x1≦0.09、0<x2<1、0≦z≦0.15を満たすものとしてもよい。
【0018】
このリチウム複合酸化物は、例えば、特開2018-92958、特開2017-202954、特表2019-523532、特開2015-166291、特開2016-25009、特開2021-128880、ACS Cent Sci, 6 (2020) 2326-2338、Nat. Commun., 2019, 10, 592、Energy Environ. Sci., 2018, 11, 926-932、Nature, 2018, 556, 185-190、Nature Energy, 2020, 5, 213-221、ACS Cent Sci, 2020, 6, 2326-2338などに開示されたリチウム複合酸化物としてもよい。
【0019】
電極は、活物質と導電材と必要に応じて結着材とを混合した電極合材を集電体上に形成したものとしてもよい。電極の形成にあたり、電極合材は、適当な溶剤を用いて電極合材スラリーにして用いてもよく、集電体上に電極合材スラリーを塗布・乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。電極の形成にあたり、電極合材は、スラリー化せず、乾式で形成してもよい。電極は、導電材の含有量が20質量%以下であればよいが、17質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。電極において、導電材の含有量は、5質量%以上としてもよく、7質量%以上としてもよく、10質量%以上としてもよい。電極において、活物質の含有量は、75質量%以上としてもよく、77質量%以上としてもよく、80質量%以上としてもよい。電極において、活物質の含有量は、90質量%以下としてもよく、85質量%以下としてもよく、80質量%以下としてもよい。電極において、結着材の含有量は、1質量%以上としてもよいし、3質量%以上としてもよいし、5質量%以上としてもよい。電極において、結着材の含有量は10質量%以下としてもよいし、8質量%以下としてもよい。なお、導電材、活物質、結着材の含有量は、電極が集電体を有する場合であっても、電極合材の全体を100質量%としたときの値とする。
【0020】
導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、ケッチェンブラック、カーボンブラック及びアセチレンブラックのうちの1以上が好ましい。
【0021】
導電材は、嵩密度の小さい第1導電材と、第1導電材よりも嵩密度が大きい第2導電材と、を含むものとしてもよい。第1導電材の嵩密度は、0.07g/cm3以下としてもよく、0.06g/cm3以下としてもよく、0.05g/cm3以下としてもよい。第1導電材の嵩密度は、0.01g/cm3以上としてもよく、0.02g/cm3以上としてもよく、0.03g/cm3以上としてもよい。第2導電材の嵩密度は、0.07g/cm3超過としてもよく、0.08g/cm3以上としてもよく、0.09g/cm3以上としてもよい。第2導電材の嵩密度は、0.15/cm3以下としてもよく、0.12g/cm3以下としてもよく、0.11g/cm3以下としてもよい。第1導電材と第2導電材のうち、嵩密度の小さい第1導電材は、活物質の周囲にその多くが偏在していることが好ましい。嵩密度の小さい第1導電材は、第2導電材よりも導電性が高いものとしてもよい。導電性の高い第1導電材を活物質の周囲に配置することで、活物質の容量を効率よく引き出すことができると考えられる。また、第1導電材の周辺に高密度な第2導電材を配置することで、活物質の容量をより効率よく引き出すことができると考えられる。第1導電材としては、ケッチェンブラックや、アセチレンブラックが好適であり、ケッチェンブラックがより好適である。また、第2導電材としては、カーボンブラックや鱗片黒鉛、カーボンナノチューブ、ロット状黒鉛等が好適であり、カーボンブラックがより好適である。第1導電材は、第2導電材よりも少量であるものとしてもよく、第1導電材は第2導電材の90質量%以下としてもよく、70質量%以下としてもよく、50質量%以下としてもよい。また、第1導電材は、第2導電材の30質量%以上としてもよく、40質量%以上としてもよく、50質量%以上としてもよい。
【0022】
結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンモノマー(EPDM)ゴム、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体としては、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。
【0023】
この電極は、電極断面をSEM観察して画像解析したときに、活物質の輪郭線の面積に対する、活物質と空孔との境界の面積の割合である非接触割合の平均値が8%以下である。この非接触割合の平均値は、以下のように求めた値とする。まず、走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、5.9μm×4.5μmの視野を観察して、927ピクセル×698ピクセルのSEM像(反射電子像)を得る。SEM像では、通常、活物質が白、導電材と結着材との混合材が灰色、空孔が黒く現れる。このSEM像について、PythonのオープンライブラリであるOpenCVを用いて画像解析を行う。具体的には、まず、SEM像を3値化する。3値化に用いる閾値(ここでは、低い側の閾値をL、高い側の閾値をHとする)は、SEM像に応じ、経験に基づいて適切な値を選択する。得られた3値像について、前処理として、モルフォロジー演算により、Open処理(収縮1回→膨張1回)及びClose処理(膨張1回→収縮1回)をこの順に2回行う。次に、前処理後の画像について、モルフォロジー勾配処理を行うことで活物質の輪郭線を抽出する。また、前処理後の画像について、モルフォロジー勾配処理を行うことで、正極活物質の周囲について、導電性部分(導電材+結着材部分)と接している部分と、空孔と接している部分との切り分けを行い、活物質と空孔との境界線を抽出する。そして、活物質の輪郭線の面積と、活物質と空孔との境界線の面積を求め、非接触割合[%]=(活物質と空孔との境界線の面積)×100/(活物質の輪郭線の面積)の式から、非接触割合を求める。なお、モルフォロジー演算やモルフォロジー勾配処理には、3×3の正方形の構造要素(カーネル)を用いる。1視野分のSEM像あたり、低い側の閾値を、L-3、L-2、L-1、L、L+1、L+2、L+3の7パターン、高い側の閾値をH-3、H-2、H-1、H、H+1、H+2、H+3の7パターン、の合計49パターンについて、それぞれ非接触割合を求める。これを、5視野分のSEM像に対して行い、全245のデータから、非接触割合の平均値及び標準偏差を求める。非接触割合の平均値は、6.7%以下としてもよいし、6.5%以下としてもよいし、6%以下としてもよい。また、非接触割合の平均値は、2%以上としてもよいし、3%以上としてもよいし、4%以上としてもよいし、5%以上としてもよい。非接触割合の標準偏差は、±1.5%以内としてもよく、±1.2%以内としてもよく、±1.0%以内としてもよい。非接触割合の最大値は、12%以下としてもよく、11%以下としてもよく、8%以下としてもよい。非接触割合の最大値は、6%以上としてもよく、6.5%以上としてもよく、7%以上としてもよい。非接触割合の最小値は、1%以上としてもよく、1.5%以上としてもよく、2%以上としてもよい。非接触割合の最小値は、5.5%以下としてもよく、5%以下としてもよく、4%以下としてもよい。
【0024】
この電極は、電極体積あたりのエネルギー密度が700Wh/L以上であることが好ましく、800Wh/L以上であることがより好ましく、900Wh/L以上であることがさらに好ましく、1100Wh/L以上であるものとしてもよい。なお、電極体積あたりのエネルギー密度は、電極が集電体を有する場合であっても、電極合材の体積あたりのエネルギー密度とする。なお、このエネルギー密度は、この電極を備えた蓄電デバイスを20℃の温度環境下、リチウム基準電位で4.8~1.5Vの電位範囲、20mA/gの電流値で充放電測定を行ったときの初回放電時のエネルギー密度とする。
【0025】
この電極は、活物質質量あたりの放電容量が300mAh/g以上であることが好ましく、310mAh/g以上であることがより好ましく、320mAh/g以上であることがさらに好ましく、330mAh/g以上であるものとしてもよい。なお、この放電容量は、この電極を備えた蓄電デバイスを20℃の温度環境下、リチウム基準電位で4.8~1.5Vの電位範囲、20mA/gの電流値で充放電測定を行ったときの初回放電容量とする。
【0026】
この電極は、電極密度が0.5g/cm3以上であるものとしてもよく、0.7g/cm3以上であるものとしてもよく、0.9g/cm3以上であるものとしてもよい。また、電極密度が1.7g/cm3以下であるものとしてもよく、1.5g/cm3以下であるものとしてもよく、1.3g/cm3以下であるものとしてもよい。なお、電極密度は、電極が集電体を有する場合であっても、電極合材の密度とする。
【0027】
[電極の製造方法]
本実施形態の電極の製造方法は、蓄電デバイスに用いられる電極の製造方法である。この製造方法は、上述した電極を製造する製造方法としてもよい。この電極の製造方法では、Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と、嵩密度0.07g/cm3以下の第1導電材とを混合した後、第1導電材よりも嵩密度の大きい第2導電材と必要に応じて結着材とを配合して調製した電極合材を用いて電極を作製する。この電極の製造方法は、活物質を作製する活物質工程と、活物質と第1導電材とを混合する混合工程と、混合工程で得られた混合物を用いて電極合材を調製する合材工程と、合材工程で得られた電極合材を用いて電極を形成する形成工程と、を含むものとしてもよい。この電極の製造方法では、例えば、リチウム複合酸化物の活物質を別途用意し、活物質工程を省略してもよい。なお、材質、配合比や組成などは、上述した電極で例示したものを適宜選択することができる。
【0028】
(活物質工程)
活物質工程では、Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質を作製する。活物質工程では、Li及びLi以外の金属元素を含む斜方晶のリチウム複合酸化物を、粉砕処理することにより、立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質を作製するものとしてもよい。活物質工程では、斜方晶のリチウム複合酸化物を作製する原料作製処理と、粉砕処理と、を行うものとしてもよい。
【0029】
原料作製処理では、Li及びLi以外の金属元素を含む斜方晶のリチウム複合酸化物を、焼成条件を調整しつつ作製してもよい。斜方晶のリチウム複合酸化物は、金属元素として、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeのうちの1以上を含むものとしてもよい。この原料作製処理では、斜方晶のLiMeO2を作製するものとしてもよい。なお、斜方晶のLiMeO2や、後述するLi2MeO3、MeOにおいて、金属元素Meは、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeのうちの1以上としてもよい。原料作製処理では、まず、800℃以上1100℃以下、6時間以上15時間以下の範囲で焼成することにより原料のLi2MeO3を得るものとしてもよい。斜方晶のLiMeO2は、例えば、Li2MeO3とMeOとを等モルで配合し、不活性雰囲気中(例えばAr中)、900℃以上1100℃以下の範囲、6時間以上24時間以下の範囲で焼成することにより得ることができる。
【0030】
粉砕処理では、斜方晶のリチウム複合酸化物を粉砕することによって、Li及びLi以外の金属元素を含み、立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物を作製してもよい。粉砕処理では、斜方晶のリチウム複合酸化物に対し、メカノケミカル法による粉砕を行うことが好ましい。粉砕は、例えば、ボールミルや遊星ボールミルなどで行うことができ、特に遊星ボールミルで行うことが好ましい。遊星ボールミルにおいて、その回転数は、原料を収容する容積に応じて適宜設定すればよいが、例えば、400rpm以上1000rpm以下の範囲が好ましく、500rpm以上800rpm以下の範囲がより好ましく、550rpm以上650rpm以下の範囲がより好ましい。粉砕処理の時間は、例えば、2時間以上40時間以下としてもよい。このような粉砕処理を行うことにより、立方晶系のリチウム複合酸化物を作製することができる。
【0031】
粉砕処理では、原料作製処理で得られた斜方晶のリチウム複合酸化物のほかに、非金属元素Mx(B及びPのうちの1以上)を含むMx源及び元素A(F、Cl、Br、I及びSのうちの1以上)を含むA源のうちの1以上を配合して混合粉砕を行うものとしてもよい。また、粉砕処理では、まず、Mx源やA源を加えずに立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物を作製した後に、Mx源及びA源のうちの1以上を配合して混合粉砕を行うものとしてもよい。Mx源は、LiとP及びBのうちの1以上とを含む複合酸化物としてもよく、Li3PO4やLi2B4O7などが挙げられる。A源としては、Liと元素Aとを含む化合物としてもよく、LiF、LiCl、LiBr、LiI、Li2Sなどが挙げられ、これらのうちLiFが好ましい。こうした粉砕処理により、立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物が得られる。
【0032】
粉砕処理の後に、酸化雰囲気下において250℃以上500℃以下で加熱する熱処理を行うものとしてもよい。熱処理を行うことで、酸素欠陥を低減することができ、好ましい。熱処理は、無秩序岩塩構造からスピネル構造への移行がより少ない条件や、より結晶化の少ない条件で行うことがより好ましい。熱処理では、粉砕処理で得られたリチウム複合酸化物を酸化することによって、酸素欠陥をより低減することができる。この熱処理は、例えば、酸素雰囲気下で行うことが好ましく、空気雰囲気で行ってもよい。また、この熱処理は、275℃以上や、300℃以上の範囲で行うものとしてもよいし、400℃以下や350℃以下、325℃以下の範囲で行うものとしてもよい。熱処理の処理時間は、10分以上や、20分以上、30分以上としてもよいし、2時間以下、1時間以下、45分以下としてもよい。
【0033】
(混合工程)
混合工程では、活物質と、嵩密度0.07g/cm3以下の第1導電材とを混合する。第1導電材としては、上述の電極の導電材として例示した導電材などから、嵩密度0.07g/cm3以下の導電材を適宜選択すればよい。第1導電材としては、例えば、ケッチェンブラックを好適に用いることができる。活物質と第1導電材との混合には、乳鉢や、ミキサー、ボールミル、ビーズミルなどを用いることができ、このうち、乳鉢を用いることが好ましい。混合時の温度は、特に限定されないが、0℃以上50℃以下としてもよく、10℃以上40℃以下としてもよく、20℃以上30℃以下としてもよい。混合時間は、混合方法に応じて適宜設定すればよい。混合工程では、活物質粒子がその形状を保ったまま、活物質粒子の表面に第1導電材が付着又は複合化するような条件で混合するものとしてもよい。
【0034】
(合材工程)
合材工程では、混合工程で得られた混合物と、第1導電材よりも嵩密度の大きい第2導電材と、必要に応じて結着材とを用いて電極合材を調製する。合材工程では、溶剤を用いてスラリー状にした電極合材スラリーを調製してもよい。第2導電材としては、上述の電極の導電材として例示した導電材などから、第1導電材よりも嵩密度が大きい導電材を適宜選択すればよい。第2導電材は、嵩密度が0.07g/cm3超過であるものとしてもよい。第2導電材としては、例えば、カーボンブラックを好適に用いることができる。結着材や溶剤としては、上述の電極の結着材や溶剤として例示したものなどから、適宜選択すればよい。合材工程では、混合工程で得られた混合物や、第2導電材、結着材、溶剤などを、撹拌などによって混合して、電極合材を調製してもよい。
【0035】
(形成工程)
形成工程では、合材工程で調製した電極合材を用いて電極を形成する。形成工程では、集電体上に電極合材を形成してもよい。形成工程では、電極合材スラリーを集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を圧縮して電極を形成してもよい。また、形成工程では、電極合材を乾式でペレット状などに成形し、集電体とともにプレスして形成してもよい。このような工程を行うことによって、例えば上述した電極を形成することができる。
【0036】
[蓄電デバイス]
本実施形態の蓄電デバイスは、上述した電極と、電極に接触しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極活物質を有する正極と、負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体とを備えているものとしてもよい。この蓄電デバイスは、上述した電極を正極として有するものとしてもよい。また、この蓄電デバイスは、金属リチウムやリチウム合金を負極活物質とするリチウム二次電池や、リチウムイオンを吸蔵放出する負極活物質を有するリチウムイオン二次電池や、イオンを吸着、脱離する負極活物質を有するハイブリッドキャパシタとしてもよい。
【0037】
正極は、上述した電極、つまり、Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と、導電材と、を含み、結着材を含んでもよく、空孔を有し、導電材の含有量が20質量%以下であり、電極断面をSEM観察して画像解析したときに、活物質の輪郭線の面積に対する、活物質と空孔との境界線の面積の割合である非接触割合の平均値が8%以下である電極である。
【0038】
負極は、負極活物質と集電体とを密着させて形成したものとしてもよいし、例えば負極活物質と結着材と必要に応じて導電材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。負極活物質としては、リチウム、リチウム合金、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、複数の元素を含む複合酸化物、導電性ポリマーなどが挙げられる。炭素質材料は、例えば、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり支持塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。複合酸化物としては、例えば、リチウムチタン複合酸化物やリチウムバナジウム複合酸化物などが挙げられる。負極活物質としては、このうち、炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ上述の電極で例示したものを用いることができる。負極の集電体には、銅、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、アルミニウム、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラス、Al-Cd合金などのほか、接着性、導電性及び耐還元性向上の目的で、例えば銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものも用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状は、上述した電極で例示したものを用いることができる。
【0039】
イオン伝導媒体は、リチウムを含む支持塩と、非水系の溶媒とを含む非水系電解液としてもよい。非水系電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。
【0040】
支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO2)2、LiC(CF3SO2)3などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水系電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。イオン伝導媒体は、支持塩と非水系の溶媒とを含む非水系電解液に限定されず、例えば、イオン液体としてもよいし、水溶液系電解液としてもよいし、固体電解質としてもよい。
【0041】
この蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、蓄電デバイスの使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0042】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、こうした蓄電デバイスを複数直列に接続して電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。
図1は、本実施形態の蓄電デバイス20の一例を示す模式図である。この蓄電デバイス20は、集電体21に正極合材22を形成した正極シート23と、集電体24の表面に負極合材25を形成した負極シート26と、正極シート23と負極シート26との間に設けられたセパレータ28と、正極シート23と負極シート26との間を満たす非水系電解液29と、を備えている。この蓄電デバイス20では、正極シート23と負極シート26との間にセパレータ28を挟み、これらを捲回して円筒ケース32に挿入し、正極シート23に接続された正極端子34と負極シート26に接続された負極端子36とを配設して形成されている。正極合材22は、Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と導電材とを含み、結着材を含んでもよく、空孔を有し、導電材の含有量が20質量%以下であり、電極断面をSEM観察したときに、活物質の輪郭線の面積に対する、活物質と空孔との境界線の面積の割合である非接触割合の平均値が8%以下である。
【0043】
以上詳述した本実施形態の電極、電極の製造方法及び蓄電デバイスでは、電極体積あたりのエネルギー密度をより高めることができる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。例えば、立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質は、層状岩塩型の活物質などに比べて活物質質量あたりの容量は高い一方で導電率は低い傾向にあり、活物質の容量を引き出すために多量の導電材が用いられることが多い。これに対して、本開示では、活物質の周囲の導電材や空孔が適切に配置されているため、多量の導電材を用いることなく活物質の容量を効率よく引き出すことが可能であり、電極体積あたりのエネルギー密度を高めることができると推察される。このため、自動車用車載用電池やスマートフォンなどの電子機器用電池などの、限られた空間内に配置される蓄電デバイスなどにも、好適に用いることができる。
【0044】
なお、一般式LiMO2(ただし、M=Co,Ni,Mn)などで表される層状岩塩型の活物質は、活物質質量あたりの理論的な最大容量は約280mAh/gであるが、電位や構造安定性の観点から、取り出せる容量はその7割程度である。これに対して、立方晶系の活物質では、Liが3次元的に充放電可能となることなどにより、高い放電容量を実現できる。一方で、立方晶系の活物質を用いた電極は、電極体積あたりのエネルギー密度が、層状岩塩型の活物質を用いた場合よりも低い傾向がある。これは、立方晶系の活物質は、電子導電性が低くかつ高表面積であり、比較的多量の導電材を必要とするためと推察される。導電材のカーボンは、活物質に比べて密度が低いため、導電材が多いと電極が低密度になり、その結果、電極体積あたりのエネルギー密度も低下すると推察されるのである。電極を高密度化するためには、密度の高いカーボンを高密度化して使用することが考えられるが、それだけでは、電子導電性が確保できず、容量が低下するおそれがある。本実施形態では、例えば、活物質に近い周囲に電子導電性が高いケッチェンブラックを配置し、その周辺は比較的高密度なカーボンブラックを配置することなどにより、導電材や空孔の配置が適切となり、電極体積あたりのエネルギー密度を高めることができると推察される。
【0045】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0046】
本開示は、以下の[1]~[10]のいずれかに示すものとしてもよい。
[1] Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と、導電材と、を含み、結着材を含んでもよく、空孔を有し、前記導電材の含有量が20質量%以下であり、電極断面をSEM観察して画像解析したときに、前記活物質の輪郭線の面積に対する、前記活物質と前記空孔との境界線の面積の割合である非接触割合の平均値が8%以下である、電極。
[2] 前記リチウム複合酸化物は、一般式LiaMxO2-yAy(ただし、0<a<2、0<x<2、0≦y<2であり、MはB、P、Al、Si、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga及びGeからなる群より選ばれる1以上であり、AはF、Cl、Br、I、Sからなる群より選ばれる1以上である)で表され、Pを含む、[1]に記載の電極。
[3] 前記金属元素としてMnを含む、[1]又は[2]に記載の電極。
[4] 電極体積あたりのエネルギー密度が700Wh/L以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の電極。
[5] 前記非接触割合の平均値が7%以下である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の電極。
[6] 前記導電材の含有量が15質量%以下である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の電極。
[7] 前記活物質質量あたりの放電容量が300mAh/g以上である、[1]~[6]のいずれか1つに記載の電極。
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の電極と、
前記電極に接触しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた、蓄電デバイス。
[9] Li及びLi以外の金属元素を含み立方晶系の結晶構造を有するリチウム複合酸化物の活物質と、嵩密度0.07g/cm3以下の第1導電材とを混合した後、前記第1導電材よりも嵩密度の大きい第2導電材と必要に応じて結着材とを配合して調製した電極合材を用いて電極を作製する、電極の製造方法。
[10] 前記電極合材は、前記第1導電材及び前記第2導電材の含有量が合計で20質量%以下である、[9]に記載の電極の製造方法。
【実施例0047】
以下には、本開示の電極及び蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。なお、実験例5~6が実施例に相当し、実験例1~4が比較例に相当する。
【0048】
[Li0.90P0.04Mn0.84O2正極活物質の合成]
原材料として斜方晶LiMnO2を直径5mmのジルコニア製ボールとともに500mLのジルコニア製ポットに封入し、遊星型ボールミルで560rpm、28h粉砕処理を行うことで、無秩序岩塩型の相を有するLiMnO2粉末を得た。原材料として上記の手法で得たLiMnO2とLi3PO4とをLi3PO4が5質量%となるようにメノウ鉢で混合したのち、ジルコニア製ボールと共にジルコニア製ポットに封入し、遊星型ボールミルで600rpm、36h粉砕処理を行った。回収した粉末を管状型焼成炉にて空気雰囲気下で300℃30分焼成することで、立方晶系の相を有するLi0.90P0.04Mn0.84O2正極活物質を合成した。なお、この正極活物質では、立方晶系の相として、岩塩型とスピネル型の両方が確認された。
【0049】
[正極の作製]
(実験例1)
Li0.90P0.04Mn0.84O2正極活物質を70質量部、ケッチェンブラック(KB、ECP-600JP、ライオン製、嵩密度=0.04gcm-3)を25質量部、結着材(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、F-104、ダイキン製)を5質量部、の比率で混合し、ミキサーで解砕し、乾式合材を作製した。得られた合材をΦ10mmの円形ペレットとし、Alエキスパントメタルに載せてプレスすることで、実験例1の正極を得た。合材層の目付量は、19.8mg/cm2であった。
(実験例2)
Li0.90P0.04Mn0.84O2正極活物質を85質量部、ケッチェンブラックを10質量部、結着材(ポリフッ化ビニリデン(PVDF))を5質量部、の比率で配合し、溶媒としてN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を用いてスラリー化し、Al集電箔に塗工・乾燥し、φ16mmの円形に切り抜くことで、実験例2の正極を得た。合材層の目付量は、2.7mg/cm2であった。
(実験例3)
Li0.90P0.04Mn0.84O2正極活物質を85質量部、カーボンブラック(CB、TB5500、東海カーボン製、嵩密度=0.10g/cm3)を10質量部、結着材(PVDF)を5質量部の比率で配合し、溶媒としてNMPを用いてスラリー化し、Al集電箔に塗工・乾燥し、φ16mmの円形に切り抜くことで、実験例3の正極を得た。合材層の目付量は、8.6mg/cm2であった。
(実験例4)
Li0.90P0.04Mn0.84O2正極活物質を85質量部、導電性カーボンを10質量部、結着材(PVDF)を5質量部の比率で配合し、溶媒としてNMPを用いてスラリー化し、Al集電箔に塗工・乾燥し、φ16mmの円形に切り抜くことで、実験例4の正極を得た。導電性カーボンには、CBとKBの他に繊維状黒鉛(FG)とカーボンナノチューブ(CNT)を用いた。CBとKBとFGとCNTは質量比2:1:1:1となるように混合した。合材層の目付量は、6.1mg/cm2であった。
(実験例5)
Li0.90P0.04Mn0.84O2正極活物質77質量部と、ケッチェンブラック7質量部と、をメノウ鉢で混合した。その後、カーボンブラック8質量部と、結着材(PVDF)8質量部と、溶媒NMPを用いて混合しスラリー化し、Al集電箔に塗工・乾燥し、φ16mmの円形に切り抜くことで、実験例5の正極を得た。合材層の目付量は、4.0mg/cm2であった。
(実験例6)
Li0.90P0.04Mn0.84O2正極活物質85質量部と、ケッチェンブラック3質量部と、をメノウ鉢で混合した。その後、カーボンブラック7質量部と、結着材(PVDF)5質量部と、溶媒NMPを用いて混合しスラリー化し、Al集電箔に塗工・乾燥し、φ16mmの円形に切り抜くことで、実験例6の正極を得た。合材層の目付量は、4.7mg/cm2であった。
【0050】
[正極の電極密度]
実験例1~6の正極について、電極の厚みと質量を計測し、電極合材の体積を算出することにより、電極密度を測定した。
【0051】
[正極のハーフセル充放電]
実験例1~6の正極を用い、負極に金属Liを用い、セパレータ(東燃化学株式会社製E20MMS)と電解液を介させてハーフセルを作製した。電解液は、エチレンカーボネート(EC)を30体積%、ジメチルカーボネート(DMC)を40体積%、エチルメチルカーボネート(EMC)を30体積%含む混合溶媒にLiPF6を1M濃度で溶解させたものとした。作製したハーフセルを用いて、4.8~1.5V vs.Li+/Liの電位範囲で、正極活物質質量あたり20mA/gの電流値で、定電流・定電圧充放電測定を行った。測定結果から、初回放電容量及び体積エネルギー密度を求めた。初回放電容量は、正極活物質質量あたりの放電容量とした。また、体積あたりエネルギー密度は、初回放電時の正極の電極合材体積あたりのエネルギー密度とした。
【0052】
[正極における非接触割合]
正極の断面出しおよび観察はメルコセミコンダクタエンジニアリング株式会社にて行った。走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、倍率20000倍にて、反射電子顕微鏡像を観察した。上記の手法にて得た正極の断面SEM像(5.9μm×4.5μmの視野を927ピクセル×698ピクセルに表示したもの)について、モルフォロジー解析によって、正極における非接触割合を算出した。具体的には、SEM像を、PythonのオープンライブラリであるOpenCVを用いて3値化し、正極活物質部分(白)、導電材+結着材部分(グレー)、空孔部分(黒色)の3つに切り分けた。3値化を行う際の閾値は、それぞれの断面SEM像を確認後、妥当な値をそれぞれ用いたのち、その値から-3、-2、-1、+1、+2、+3の値としたものも解析に用いた。得られた3値像について、モルフォロジー演算による膨張および収縮処理を行うことで前処理をし、その後、モルフォロジー勾配処理を行うことで、正極活物質の周囲について、導電性材料(導電材+結着材部分)と接している部分と、空孔と接している部分について切り分けた。この解析によって、正極活物質表面における導電性材料(導電材+結着材部分)との非接触部分の割合を示す非接触割合を算出した。解析には5枚の倍率20000倍の断面SEM像を用いて行い、それぞれ3値化の条件が異なる49パターンについて、全245のデータの平均・標準偏差をとった。
【0053】
[結果と考察]
表1に、実験例1~6について、正極活物質・導電材・結着材の種類と構成比、電極密度、初回放電容量、非接触割合、体積あたりエネルギー密度をまとめた。
図2に、実験例1~6の正極活物質を用いたハーフセルの放電曲線を示した。
図3に、実験例1~6の電極密度と放電容量との関係を示した。
図4に、実験例3の非接触割合の導出過程を示した。
図5に、実験例5の非接触割合の導出過程を示した。
【0054】
(電極密度と充放電容量との関係)
ケッチェンブラックの構成割合が十分に多い実験例1では、放電容量359mAh/gという非常に高い容量を示した。しかし、ケッチェンブラックは電子伝導性が高い一方で、かさ高く低密度であるため、実験例1の電極密度は0.32g/cm3と、他の実験例の正極に比べて低かった。そのため、実験例1の電極体積あたりのエネルギー密度は244Wh/Lと低かった。
【0055】
ケッチェンブラックの割合を減少させた実験例2では、放電容量は297mAh/gと、実験例1よりも低い値であった。これは、実験例1に比べて電子伝導性が確保できなかったためと推察された。一方で、実験例2では、電極体積あたりのエネルギー密度は542Wh/Lまで向上した。これは、電極密度が0.70g/cm3まで増加できたためと推察された。
【0056】
かさ高いケッチェンブラックを用いずに、カーボンブラックを用いた実験例3では、放電容量は272mAh/gと、実験例2よりもさらに低い値であった。これは、実験例2に比べて電子伝導性が確保できなかったためと推察された。一方で、実験例3では、電極体積あたりのエネルギー密度は945Wh/Lまで更に向上した。これは、電極密度が1.32gcm-3まで増加できたためと推察された。
【0057】
電子伝導性が高いが低密度なケッチェンブラックと、電子伝導性は低いが高密度なカーボンブラックを混合させた実験例4では、放電容量277mAh/g、体積あたりのエネルギー密度653Wh/Lだった。
【0058】
実験例1~4までの4つの正極については、
図2に示すように、電極密度と放電容量は排反の関係にあり、体積あたりのエネルギー密度には限界があると推察された。
【0059】
そこで、電極作製プロセスと原料を改良し、実験例5及び実験例6の正極を作製した。作製プロセスの改良点は、正極活物質と電子伝導性の高いケッチェンブラックをあらかじめ混合させておき、その後、カーボンブラックと混合させてスラリー化・塗工した点である。このプロセスによって、正極の導電性を限りなく確保した上で、電極を高密度化することが可能となると推察された。
【0060】
改良した手法で作製した実験例5の正極は、放電容量334mAh/gを示すとともに、電極体積あたりのエネルギー密度は749Wh/Lまで増加した。これは、ケッチェンブラックで導電性を確保しつつ、電極密度を0.94g/cm3まで高めることができたためと推察された。
【0061】
更に、原料比を最適化して作製した実験例6の正極は、放電容量322mAh/gを示すとともに、電極体積あたりのエネルギー密度は1103Wh/Lと非常に高い値を示した。
【0062】
実験例5~6の正極については、
図2に示すように、実験例1~4で得られた排反のトレンドラインからは外れ、同じ電極密度でも、放電容量をより高めることができることが分かった。
【0063】
(SEM観察の画像解析による活物質導電パスの定量化)
電極の電子伝導性の確保について評価するために、走査電子顕微鏡(SEM)観察を行い、収集した画像を解析することで、擬似的な正極活物質の導電パスの定量化を試みた。代表として、
図4Aに実験例3の正極の断面SEM像(反射電子像)を示した。より白く明るい部分が正極活物質(Li
0.90P
0.04Mn
0.84O
2)、灰色の部分が導電材と結着材との混合材、黒の部分が空孔を表すことを確認した。
図4Aから、正極活物質には導電材と結着材との混合材と接触している部分と、接触していない(空孔と接触している)部分が存在していることがわかった。空孔と接している正極活物質の容量がハーフセルで取り出せていないと考えられた。そのため、正極活物質がどれだけ空孔と接しているかを定量化することで、容量を取り出せるかどうかの指標になると推察された。そこで、SEM像を画像処理することで、正極活物質がどれだけ空孔と接しているかを定量化した。
【0064】
実験例3の正極を解析した過程を、
図4A~Fに示した。
図4Bは、
図4Aの断面SEM像を閾値L=96、H=130で3値化し、正極活物質と導電材を含む混合材と空孔とに切り分けた図である。この図では、各要素のノイズが顕著であったため、より各部位の部分を明確化するために画像処理におけるopen処理と、close処理を行った。その結果を
図4Cに示した。
図4Bに比べて、
図4Cのほうがより各要素の切り分けが上手くいっていることがわかった。この図について、モルフォロジー勾配処理を行うことで、正極活物質周辺の像(
図4D)と、それらのうち、空孔部分と接している部分の像(
図4E)を算出した。この面積割合を正極における非接触割合として算出すると、
図4Fに示すように、10.9%となった。実験例3の正極について、
図4Aを含む5枚の断面SEM像にて、閾値を変えた49パターンについて同様の解析を行ったところ、非接触割合は8.5±1.7%だった。
【0065】
実験例5の正極を解析した過程を、
図5A~Fに示した。
図5Bは、
図5Aの断面SEM像を閾値L=71、H=134で3値化し、正極活物質と導電材を含む混合材と空孔とに切り分けた図である。この図でも、各要素のノイズが顕著であったため、実験例3と同様にopen処理とclose処理を行い、その結果を
図5Cに示した。この図について、モルフォロジー勾配処理を行うことで、正極活物質周辺の像(
図5D)と、それらのうち、空孔部分と接している部分の像(
図5E)を算出した。この面積割合を正極における非接触割合として算出すると、
図5Fに示すように、3.3%となった。
図5Aを含む5枚の断面SEM像にて、閾値を変えた49パターンについて同様の解析を行ったところ、非接触割合は4.2±0.8%であり実験例3の正極に比べて値が小さかった。非接触割合の値が小さいということは、正極活物質と導電材とがより接触しているということを意味していると推察された。実験例5、実験例6の非接触割合の平均値は、それぞれ4.2%、6.5%であり、実験例1~4の正極の非接触割合の平均値よりも小さかった。このことから、実験例5~6の正極では、正極活物質と導電材との接触が良好であるために、高容量が取り出せたと推察された。特に、実験例6では、1100Wh/Lを超える電極体積あたりのエネルギー密度を実現でき、好ましいことがわかった。
【0066】
【0067】
なお、本開示は上述した実施例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
20 蓄電デバイス、21 集電体、22 正極合材、23 正極シート、24 集電体、25 負極合材、26 負極シート、28 セパレータ、29 非水系電解液、32 円筒ケース、34 正極端子、36 負極端子。