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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154532
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】分光イメージングセンサ
(51)【国際特許分類】
   G01J 3/12 20060101AFI20241024BHJP
   G01J 3/36 20060101ALI20241024BHJP
   G02B 5/20 20060101ALI20241024BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G01J3/12
G01J3/36
G02B5/20
H01L27/146 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068381
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クマル ラフル
(72)【発明者】
【氏名】沖野 泰之
【テーマコード(参考)】
2G020
2H148
4M118
【Fターム(参考)】
2G020CB04
2G020CC01
2G020CC16
2G020CC26
2G020CC31
2G020CC63
2G020CD04
2G020CD24
2G020CD33
2G020CD36
2G020CD37
2H148AA07
2H148AA18
2H148AA21
4M118AA10
4M118AB01
4M118AB04
4M118BA10
4M118BA14
4M118CA01
4M118CB01
4M118GC20
(57)【要約】
【課題】複雑な広帯域スペクトルを有する入射光を精度よく再構成することができる分光イメージングセンサを提供する。
【解決手段】本発明に係る分光イメージングセンサは、複素誘電率の虚部が互いに異なる第1および第2層によって構成された光フィルタユニットを備え、各層を貫通する第1および第2孔の平面形状プロファイルは互いに異なる。
【選択図】図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分光法を用いて入射光を検出する分光イメージングセンサであって、
前記入射光をフィルタリングする光フィルタユニット、
前記光フィルタユニットによってフィルタリングされた前記入射光を検出するイメージセンサ、
を備え、
前記光フィルタユニットは、第1層と第2層とを備え、
前記第1層は、第1虚部を有する第1複素誘電率を有し、
前記第2層は、前記第1虚部とは異なる第2虚部を有する第2複素誘電率を有し、
前記光フィルタユニットはさらに、それぞれ前記光フィルタユニットを貫通する第1孔と第2孔とを備え、
前記第1孔は、第1平面形状プロファイルを有し、
前記第2孔は、前記第1平面形状プロファイルとは異なる第2平面形状プロファイルを有する
ことを特徴とする分光イメージングセンサ。
【請求項2】
前記第1層は、前記第1虚部が0.01未満の誘電材料で形成されており、
前記第2層は、前記第2虚部が0.01より大きい半導体材料で形成されている
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項3】
前記光フィルタユニットはさらに、前記第1層と前記第2層を支持する支持層を備え、
前記第1層は前記第2層上に配置され、
前記第1層または前記第2層のうちいずれか一方は前記支持層と直接接触している
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項4】
前記光フィルタユニットは、前記イメージセンサの第1画素に対応する第1フィルタと、前記イメージセンサの第2画素に対応する第2フィルタとを備え、
前記第1フィルタは、前記入射光を第1スペクトル特性で通過させ、
前記第2フィルタは、前記入射光を第2スペクトル特性で通過させ、
前記第1フィルタと前記第2フィルタは、前記第1虚部、前記第2虚部、前記第1平面形状プロファイル、および前記第2平面形状プロファイルによって、前記第1スペクトル特性と前記第2スペクトル特性との間の相関が0.1未満となるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項5】
前記第1層は第1厚さを有し、
前記第2層は第2厚さを有し、
前記光フィルタユニットは、前記イメージセンサの第1画素に対応する第1フィルタと、前記イメージセンサの第2画素に対応する第2フィルタとを備え、
前記第1フィルタは、前記入射光を第1スペクトル特性で通過させ、
前記第2フィルタは、前記入射光を第2スペクトル特性で通過させ、
前記第1厚さと前記第2厚さは、前記第1スペクトル特性と前記第2スペクトル特性との間の相関が0.1未満となるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項6】
前記第1平面形状プロファイルは、第1開口形状を有し、
前記第2平面形状プロファイルは、前記第1開口形状とは異なる第2開口形状を有する
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項7】
前記分光イメージングセンサは、複数の前記第1孔と複数の前記第2孔とを備え、
前記第1平面形状プロファイルは、前記第1孔間の間隔が第1間隔となるように構成されており、
前記第2平面形状プロファイルは、前記第2孔間の間隔が第2間隔となるように構成されており、
前記第2間隔は前記第1間隔とは異なる
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項8】
前記分光イメージングセンサはさらに、前記イメージセンサからの出力にしたがって前記入射光のスペクトルプロファイルを再構成するように構成されたプロセッサを備える
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項9】
前記光フィルタユニットはさらに第3層を備え、
前記第3層は、
前記第3層の厚さが、前記第1層の厚さまたは前記第2層の厚さのうち少なくともいずれかとは異なる、
前記第3層の複素誘電率の第3虚部が、前記第1虚部または前記第2虚部のうち少なくともいずれかとは異なる、
前記第3層の材料が、前記第1層の材料または前記第2層の材料のうち少なくともいずれかとは異なる、
のうち少なくともいずれかとなるように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項10】
前記分光イメージングセンサはさらに、
非透明層、
前記光フィルタユニットと前記非透明層との間に配置された薄膜、
を備え、
前記非透明層の一部は、前記薄膜に向かって凹んだ部分を有することにより、前記入射光が前記第1孔と前記第2孔を通過するとともに前記薄膜を透過して前記非透明層の外側に向かうように構成されている
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項11】
前記分光イメージングセンサはさらに、
2次元に配列された複数の前記光フィルタユニット、
前記イメージセンサからの出力にしたがって前記入射光を再構成するように構成されたプロセッサ、
を備え、
前記イメージセンサは、各前記光フィルタユニットにそれぞれ対応する画素を備え、
前記プロセッサは、前記イメージセンサからの出力にしたがってハイパースペクトルデータキューブを作成する
ことを特徴とする請求項1記載の分光イメージングセンサ。
【請求項12】
前記分光イメージングセンサはさらに、
2次元に配列された複数の前記光フィルタユニット、
前記イメージセンサからの出力にしたがって前記入射光を再構成するように構成されたプロセッサ、
を備え、
前記光フィルタユニットの数は、前記プロセッサによって再構成されるスペクトルチャネルの数以下である
ことを特徴とする請求項1に記載の分光イメージングセンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分光イメージングセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の回折格子を用いた分光計は、良好なスペクトル分解能を提供するために長い光路を必要とする。このような長い光路は、分光計を小型化するに際して制約となり、例えば携帯型分光計を製造する際の妨げとなる。
【0003】
近年、いくつかのオンチップ光学フィルタユニットを使用するとともに圧縮センシング技術を利用して、入射スペクトル信号を再構成することができる、光学フィルタベースの小型分光計が開発されている。しかしながら、そのような小型分光計は、いくつかの要件を満たす必要がある。例えば以下のような要件が考えられる。各光学フィルタユニットのスペクトル特性間の相関が可能な限り低くあるべきである。フィルタにおける入射スペクトル信号の反射および吸収は、より良好な信号対雑音比を保証するために、より少なくあるべきである。光学フィルタ構造の設計は、既存のウエハレベルの大規模製造プロセスと互換性があるべきである。
【0004】
特許文献1は、この分野に関連する先行技術であり、入射スペクトル信号を再構成するために、単層からなる光学フィルタ構造を使用してコンパクトな分光計を実現する。このデバイスは、スペクトルのピーク値がごく少数であるような狭帯域スペクトル信号を感知することができるが、多数のスペクトルピーク値を有する複雑な広帯域スペクトル信号を感知することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】US2022/0178748A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
現在、光学フィルタベースのコンパクト分光計は、広帯域スペクトルおよび他の複雑なスペクトルを再構成する能力が限られている。さらに、構成材料の光学特性の制約のために、スペクトル範囲に依存して、複雑なスペクトルを再構成するときの光学分解能には制限がある。上述のように、小型分光計が備える光学フィルタは、固有かつ多様な光透過特性を有するべきである。しかし、単層(誘電体または半導体材料)ベースの従来の光学フィルタは、多様なスペクトルを生成することが困難であり、したがって従来の小型分光計は信号再構成能力に限界がある。
【0007】
本発明は、上記のような課題に鑑みなされたものであり、複雑な広帯域スペクトルを有する入射光を精度よく再構成することができる分光イメージングセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る分光イメージングセンサは、複素誘電率の虚部が互いに異なる第1および第2層によって構成された光フィルタユニットを備え、各層を貫通する第1および第2孔の平面形状プロファイルは互いに異なる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る分光イメージングセンサによれば、複雑な広帯域スペクトルを有する入射光を精度よく再構成することができる。本発明のその他の課題、構成、利点などについては、以下の実施形態の説明によって明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】実施形態1に係る分光イメージングセンサが備える光学フィルタユニット1の構造を示す側面図である。
図1B】実施形態1に係る分光イメージングセンサが備える光学フィルタユニット1の構造を示す側面図である。
図2A】光学フィルタユニット1を画像センサユニット2に対して取り付ける方法を示す。
図2B】光学フィルタユニット1を画像センサユニット2に対して取り付ける方法を示す。
図3】光学フィルタユニット1が提供するスペクトル特性を説明する図である。
図4】バックグラウンド信号がゼロではないマルチバンド信号を再構成した例を示す。
図5】広帯域信号のスペクトルを再構成した例を示す。
図6】光学フィルタユニット1の光学材料層の別構成例を示す。
図7】実施形態2に係る光学フィルタユニット1が備えるナノホール13のパターンアレイの例を示す平面図である。
図8】光学フィルタユニット1と画像センサユニット2のピクセルとの間の関係を示す模式図である。
図9A】実施形態3に係る光学フィルタユニット1の構成例を示す側面図である。
図9B】実施形態3に係る光学フィルタユニット1の構成例を示す側面図である。
図9C】実施形態3に係る光学フィルタユニット1の構成例を示す側面図である。
図10】実施形態4に係る光学フィルタユニット1のアプリケーション例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<本発明の一般的原理について>
本発明者は、誘電体の複素誘電率の虚数部(ε’’)の値に基づいて選択された、複数の光学材料からなるハイブリッド多層構造を有する光学フィルタ、およびこれを用いるコンパクトな分光計設計を提案する。光学フィルタの材料層の層厚は、ランダムで多様なスペクトル透過特性を形成するように最適化されており、圧縮センシング技術を使用する未知のスペクトル信号再構成において適している。この多層光学フィルタ設計を使用して、複雑で広帯域の入射スペクトル信号を再構成することが可能である。
【0012】
本発明の光学フィルタは、複素誘電率の虚数部(ε’’)の値が異なる複数の材料層からなる。光学フィルタ構造体内の層の順序は、製造工程の容易さに基づいて決定することができる。光学フィルタは以下の実施形態で論じられるように、複数の異なる方法で、画像センサの上に取り付け、または配置することができる。光学フィルタの目的に応じて、材料層の組み合わせを変更することができる。
【0013】
圧縮センシングは、計測対象データがスパースであると仮定して、本来必要であるよりも少ない計測データから計測対象を復元する技術である。従来、圧縮センシング技術を使用して広帯域信号を正確に再構成することは、スペクトルピークの数が大きいので一般に困難である。未知数パラメータの数に応じて方程式の数が増加するので、広帯域信号をより正確に再構成するためには、より多くの数の光学フィルタユニットが必要である。本発明の光学フィルタ構造は、少ない数の光学フィルタであっても、フィルタが固有の多様なスペクトル特性を有することにより、スペクトル信号を再構成するために必要な情報を捕捉することができるので、広帯域信号を良好に再構成することができる。
【0014】
本発明における光学フィルタユニットは、圧縮センシング技術を実行するのに適した方法で入射光を調整する。本発明における光学フィルタは、圧縮センシング技術を用いた元の入射信号の効果的な再構成において役立つ信号を生成することができる。光学フィルタユニットおよび小型分光計について、以下の実施形態を通してより詳細に説明する。
【0015】
<実施の形態1>
図1A図1Bは、本発明の実施形態1に係る分光イメージングセンサが備える光学フィルタユニット1の構造を示す側面図である。光学材料層は、複数の薄膜層からなり、支持層14上に配置されている。光学材料層のうち1つの層は、0.01未満の複素誘電率の虚部を有し、他の層は0.01を超える複素誘電率の虚部を有する。例えば前者は誘電体層11(第1層)であり、後者は半導体材料層12(第2層)である。特定の波長に対する任意の光学材料の複素誘電率εは、下記式で表すことができる。ε’は実数部であり、ε’’は虚数部である:ε=ε’-iε’’。一般に、誘電体はε’’<0.01であり、半導体材料はε’’>0.01であるが、本発明はこれらの条件に厳密に限定されるものではない。
【0016】
各層は、2次元パターンで配置された、異なるサイズおよび形状のナノホール13の周期的アレイを有し、ナノホール13は光学フィルタ構造を貫通する。入射スペクトル信号は、これらナノホール13と相互作用しながら変調される。変調された信号は、各フィルタユニットの下に位置し、各フィルタユニットに対応する画像センサピクセルによって、捕捉される。
【0017】
光学フィルタユニット1の光学材料層の順序は、用途および製造方法に応じて、図1Aまたは図1Bいずれの順序であってもよい。図1Aは支持層14に対して半導体材料層12が直接接している例であり、図1Bは支持層14に対して誘電体層11が直接接している例である。
【0018】
図2A図2Bは、光学フィルタユニット1を画像センサユニット2に対して取り付ける方法を示す。用途および光学干渉現象に応じて、図2A図2Bに示すように、光学フィルタユニット1を2つの方法で取り付けることができる。光学干渉の効果は、取付方法によって異なり、これにより機能性に対して影響を及ぼす可能性がある。支持層14は例えば、二酸化ケイ素(SiO)または石英の薄層などの光透過性媒体層である。支持層14の厚さは、用途および使用される製造方法に応じて、例えば1ミクロンから400ミクロンである。
【0019】
光学フィルタ中の薄層は、化学蒸着、スパッタリングなどの技術を使用して堆積させることができる。ナノホール13のパターンアレイはリソグラフィおよびドライエッチングなどの標準的な技術を使用して作製することができるが、これらに限定されない。
【0020】
例えば、入射光が300nm~1000nmの波長範囲の場合、光学フィルタ層構造を形成する適切な材料としては、シリコン(Si)と窒化ケイ素(SiN)との組み合わせが考えられる。SiNは誘電体層11として用いることができる。Siは半導体材料層12として用いることができる。石英ウエハまたはシリコンウェハは支持層14として作用することができるが、これらに限定されない。層厚はそれぞれ、(SiN)=180nmおよび(Si)=20nmとすることができるが、これらの寸法のみに限定されない。一般に、Si層は10nmから100nmまでとすることができ、SiN層は100nmから400nmまでとすることができる。特定のカスタマイズされた用途を達成するために、金(Au)または銀(Ag)などのような金属層を添加することによって表面プラズモン共鳴の効果を発揮させることも可能であるが、添加金属はこれらに限定されない。本発明者らは一般的な説明のために実施形態において光学フィルタの2重層構造を示したが、異なる材料の3つ以上の層を配置することにより、それら材料層の累積効果が非常に多様で独特なスペクトル特性となるようにすることができる。
【0021】
図3は、光学フィルタユニット1が提供するスペクトル特性を説明する図である。図3におけるグラフ内の線は、1つのナノホールグループ(具体例は後述)のスペクトル透過特性を表す。図3に示すように、光学フィルタユニット1の光学材料層においてSiおよびSiNからなる多層(2重層)を使用すると、これらの材料の単層のみを使用して生成される透過スペクトル特性と比較して、より多様な透過スペクトル特性を生成することができる。本実施形態における光学フィルタユニット1は例えば、全ての透過スペクトルを考慮した平均相関(cavg)を<0.1の非常に低い値に低減することができる。このような低い相関は、マイクロ分光計の効果的な動作において必要とされるスペクトル特性の一意性を示す。すなわち、各ナノホールグループのスペクトル透過特性間の相関は0.1未満となるようにすることができる。このような材料層の組み合わせは、スペクトルの均一な分布と、多様なスペクトル特性とを実現することができる。これらは、信号の圧縮センシング再構成のための重要な要因である。
【0022】
入射スペクトルを再構成する性能の評価のために、再構成誤差を評価した。再構成誤差REは、RE=100(%)×|I-I’|/Iと定義される。Iは入射スペクトル信号であり、I’は再構成したスペクトル信号である。図3に示すように、共通の基準スペクトル信号について、本実施形態における多層構造は、他の単層ベースの構造と比較して、最小のRE値を示す。これは、多材料および多層設計による多様なスペクトル特性に起因する。
【0023】
図4は、バックグラウンド信号がゼロではないマルチバンド信号を本実施形態によって再構成した例を示す。図4に示すように、バックグラウンド信号がゼロではないマルチバンド信号は、本発明者らの提案した分光計を用いて精度よく再構成することができる。
【0024】
図5は、広帯域信号のスペクトルを本実施形態によって再構成した例を示す。図5の信号は、スペクトルピークが複数存在する複雑なスペクトル特性を有する。従来、このような信号は分光計を使用して再構成することが困難である。本実施形態によれば、図5のような複雑なスペクトル特性を有する入射信号であっても、そのスペクトル特性を精度よく再構成することができる。
【0025】
光学フィルタユニット1の光学材料層は、再構成する入射光のスペクトル範囲によって最適化することができる。例えば近赤外(NIR)のスペクトル範囲を再構成する場合においては、インジウムガリウムヒ素(InGaAs)、SiCなどを半導体材料層12として用い、SiNを誘電体層11として用いることができる。光学材料層の構成はこれらに限定されない。
【0026】
図6は、光学フィルタユニット1の光学材料層の別構成例を示す。図6における光学材料層は、様々な厚さのいくつかの光学材料の複数の層からなる。この例においては誘電体層11と半導体材料層12に加えて層61(第3層)を追加した例を示したがこれに限らない。異なるスペクトル領域において感度が高いいくつかの材料を組み合わせることにより、より広いスペクトル範囲に対して多様なスペクトル特性を再構成することができる。
【0027】
層61の材料、層61の厚さ、層61の複素誘電率の虚部、のうち少なくともいずれかは、他層の材料、厚さ、複素誘電率の虚部、とは異なるように構成することが望ましい。ただし必ずしも誘電体層11と半導体材料層12いずれとも異なるように構成する必要はなく、少なくとも誘電体層11と半導体材料層12のうちいずれかと異なるように構成すればよい。換言すると、各ナノホールグループのスペクトル透過特性間の相関が十分低ければよい。
【0028】
<実施の形態1:まとめ>
実施形態1に係る光学フィルタユニット1は、誘電体層11と半導体材料層12を備え、これらの層の複素誘電率の虚部は互いに異なる。さらに、複数のナノホール13の平面形状プロファイル(開口形状、隣接するナノホール13間の間隔、その他の2次元形状)は、互いに異なるように構成されている。これにより、ナノホールグループのスペクトル透過特性間の相関を最小化することができるので、広帯域入射光の再構成誤差を最小化することができる。
【0029】
<実施の形態2>
図7は、本発明の実施形態2に係る光学フィルタユニット1が備えるナノホール13のパターンアレイの例を示す平面図である。ナノホール13は、光学フィルタユニット1の光入射面において、互いに異なるパターン形状のアレイを構成することができる。図7においては、アレイ131~134の4種類のパターン形状アレイを例示した。ナノホールアレイ以外に関する事項は実施形態1と同様である。アレイ131~134はそれぞれナノホールグループを構成する。各ナノホールグループは1つの光学フィルタとして動作することができる。
【0030】
ナノホール13のアレイはいくつかの開口形状が可能であり、例えば円形、正方形、十字形などの開口形状を有することができるが、これらに限定されない。逆設計のための深層学習技法を使用することによる対称自由形状の生成も可能である。ナノホール13のレイアウトは、それらとの光相互作用が入射スペクトル信号の偏光に対して鈍感であるように、例えば4回対称であるように設計することができ、このようにして、任意のタイプの信号に対する最大の応答が保証される。
【0031】
300nm~1000nmのスペクトル範囲における用途のために、ナノホール13の開口サイズは例えば100nm~750nmとすることができ、周期性(隣接するナノホール13間の間隔)は例えば300nm~1000nmとすることができる。これらのパラメータは、関連するスペクトル領域および選択される光学材料のタイプに応じて変化し得る。光学フィルタユニット1の数は用途に応じて例えば36から400まで変化し得るが、厳密にはこの値の範囲に限定されない。
【0032】
図8は、光学フィルタユニット1と画像センサユニット2のピクセルとの間の関係を示す模式図である。光学フィルタユニット1は、画像センサユニット2の各ピクセル値(p1,p2,・・・)がそれぞれ異なるスペクトル特性を受け取るように構成される。すなわち、各ピクセル値(p1,p2,・・・)に対応する光学フィルタユニット1上のピクセル(t1,t2,・・・)は、透過特性の平均相関が最小となるように構成される。光学フィルタユニット1上のピクセルは、ナノホールグループによって構成することができる。例えば1つのナノホールグループは、画像センサユニット2の1つのピクセルに対応して配置されている。
【0033】
光学フィルタユニット1に対応する各画素値を考慮し、図8に示すように、実際の信号を再構成するためにスペクトル再構成アルゴリズムを使用する。スペクトル信号タイプに応じて、再構成アルゴリズムは、Lノルム、辞書学習、畳み込みネットワークを使用するディープラーニング、などに基づくことができる。所望のスペクトル分解能および再構成誤差許容度に基づいて、フィルタチップ上の光学フィルタユニット1の数をカスタマイズすることができる。
【0034】
プロセッサ3は、画像センサユニット2の各ピクセルが検出した信号を用いて、入射信号のスペクトル特性を再構成する。プロセッサ3は、その機能を実装した回路デバイスなどのハードウェアによって構成することもできるし、その機能を実装したソフトウェアをCPU(Central Processing Unit)などの演算装置が実行することによって構成することもできる。
【0035】
光学フィルタユニット1を含むフィルタチップ、画像センサユニット2、プロセッサ3は、入射光信号のスペクトル特性を再構成する分光イメージングセンサとして動作することができる。
【0036】
図8のような光学フィルタユニット1は、CMOS、CCD、InGaAsセンサなどの適切な画像センサを選択することができる領域に応じて、電磁スペクトルの異なる領域、すなわち、紫外線、可視、近赤外線、短波赤外線などで動作するように設計することができる。
【0037】
<実施の形態3>
図9A図9Cは、本発明の実施形態3に係る光学フィルタユニット1の構成例を示す側面図である。本実施形態における光学フィルタユニット1は、自立薄膜型ユニットとして構成されている。例えばSiウエハ91(非透明層)上に薄い酸化物層92(薄膜)を配置し、さらにその上に実施形態1で説明した光学材料層を積層することにより、本実施形態における光学フィルタユニット1を形成することができる。その他の構成は実施形態1~2と同様である。Siウエハ91に代えてその他の光を透過しない(または光透過率が小さい)材料層を用いることもできる。
【0038】
Siウエハ91は、入射光が、ナノホール13と酸化物層92を通過し、画像センサの画素によって感知されることができるように、裏面からエッチングされる。したがってSiウエハ91は、ナノホール13の下方において、凹部を有する。凹部は酸化物層92まで達している。酸化物層92は、SiO、SiN等などのような光透過性材料によって構成することができる。
【0039】
図9Aに示す構造を製造するために、リフトオフフリーウエハスケール製造方法を使用することができる。ナノホール13のアレイパターンは、UVリソグラフィを使用することによって形成できる。ドライエッチングによって、光学材料層を貫通するナノホール13が実現される。Siウエハ91裏面の窓パターン(凹部)をリソグラフィにより作製し、KOH溶液を用いたウェットエッチングにより、本実施形態に係る自立薄膜型光学フィルタユニット1を作製することができる。
【0040】
光学フィルタユニット1は、2つの異なる方法で画像センサユニット2に対して取り付けることができる。図9Bの例においては、裏面をエッチング除去されたSiウエハ91が画像センサユニット2と直接接触する。図9Cの例においては、ナノホール13のパターンを有する層が、画像センサユニット2と直接接触する。
【0041】
<実施の形態4>
図10は、本発明の実施形態4に係る光学フィルタユニット1のアプリケーション例を示す模式図である。実施形態1~3で説明した光学フィルタユニット1は、図10に示すように、スナップショットタイプのハイパースペクトルイメージャを実現するために用いることができる。ハイパースペクトルイメージャ(HSI)は基本的にイメージング分光技術を用いるものであり、光学フィルタユニット1のグループであるマイクロピクセルがマイクロ分光計として機能する。このマイクロピクセルを使用して、広い波長範囲にわたる連続スペクトルデータが画像として捕捉され、ハイパースペクトルデータキューブとして処理される。
【0042】
スナップショットタイプのHSIは、妥当な空間分解能およびスペクトル分解能を提供することができるので、大きな可能性を有する。また、装置の小型化、軽量化により、ドローンを用いた空中測量、監視、森林管理などの用途へ向けてHSIの産業化を早めることができる。スナップショットタイプHSIの場合、空間分解能とスペクトルチャネルの総数との間にトレードオフがあり、それらはマイクロピクセル内の光学フィルタユニット1の総数に依存する。マイクロピクセル内の光学フィルタユニット1の数は、スペクトル信号再構成品質を同じレベルに保ちながら低減することができる。すなわち、マイクロピクセル内の光学フィルタユニット1の個数は、再構成するスペクトルチャネル数以下にすることができる。これにより、マイクロピクセルの数を増加させることができるので、空間分解能を向上させることができる。
【0043】
HSIレイアウトおよび分光計レイアウトからなるチップレイアウトを設計することが可能であり、その結果、分光計デバイスは、フルスペクトル範囲分光計およびHSI機能の2つの機能を有することができる。分光計デバイスの小型化により、将来的には、HSIとハンドヘルドスマートフォンカメラとを統合することが可能であると考えられる。
【0044】
<本発明の変形例について>
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、発明の趣旨を逸脱しない範囲で、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることが可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0045】
以上の実施形態において、ナノホール13は光学材料層(誘電体層11と半導体材料層12)を貫通することを説明したが、入射光が光学材料層を透過することができるのであれば必ずしも貫通する必要はない。あるいはナノホール13のうち一部のみが貫通するようにしてもよい。
【0046】
以上の実施形態において、1つのナノホールグループは画像センサユニット2の1つのピクセルに対応して配置されていることを説明したが、必ずしもこれに限らない。例えば画像センサユニット2の1つのピクセルに対応して、2つ以上のナノホールグループを対応させて配置することができる。あるいは1つのナノホールグループに対して画像センサユニット2の複数のピクセルを対応させることができる。
【符号の説明】
【0047】
1:光学フィルタユニット
11:誘電体層
12:半導体材料層
2:画像センサユニット
3:プロセッサ
図1A
図1B
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9A
図9B
図9C
図10