(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154550
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】設計支援装置、設計支援方法、および設計支援用コンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20241024BHJP
G06F 30/13 20200101ALI20241024BHJP
【FI】
G06F30/20
G06F30/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068418
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100122116
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩二
(72)【発明者】
【氏名】濱地 南美
(72)【発明者】
【氏名】廣嶋 哲
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146AA04
5B146DC05
5B146DE11
5B146DG02
5B146DJ02
5B146DJ14
5B146DL08
(57)【要約】
【課題】貫通孔を有する梁部材について、貫通孔の周辺を補強せずに曲げ耐力およびせん断耐力を確保した設計を支援し、かかる設計に要する時間を短縮する。
【解決手段】設計支援装置1は、建築物を構成する、所定の断面形状および所定の鋼材強度を有する鋼材からなる部材が、所定位置に所定寸法で貫通孔が設けられたときに所定の部材耐力を有するか否かを判定し、部材が所定の部材耐力を有しないと判定された場合、所定の部材耐力を有するように鋼材の断面形状および鋼材強度の少なくとも一方を変更し、判定および/または変更の結果を出力する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
建築物を構成する、所定の断面形状および所定の鋼材強度を有する鋼材からなる部材が、所定位置に所定寸法で貫通孔が設けられたときに所定の部材耐力を有するか否かを判定する判定部と、
前記部材が前記所定の部材耐力を有しないと判定された場合、前記所定の部材耐力を有するように前記鋼材の前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方を変更する変更部と、
前記判定および/または前記変更の結果を出力する出力部と、
を備える設計支援装置。
【請求項2】
前記部材は、前記建築物の梁構造を構成する梁部材である請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項3】
前記鋼材はH形鋼であり、前記貫通孔は前記H形鋼におけるウェブの前記所定位置に設けられる請求項2に記載の設計支援装置。
【請求項4】
前記変更部は、前記断面形状の変更において、前記ウェブの厚さを変更する請求項3に記載の設計支援装置。
【請求項5】
前記変更部は、前記鋼材の変更前の前記ウェブの厚さと変更後のウェブの厚さとの差が所定の厚さ差分閾値を超えても前記部材が前記所定の部材耐力を有しない場合に、前記鋼材の前記鋼材強度を変更する請求項4に記載の設計支援装置。
【請求項6】
前記変更部は、前記鋼材について適用可能な前記断面形状または前記鋼材強度の複数の候補を含む候補リストから一の候補を選択することにより、前記鋼材の前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方を変更する請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方が変更された前記鋼材からなる前記部材において、前記所定の部材耐力を有しつつ前記貫通孔を設けることができる位置を表す設置可能情報をさらに出力する、請求項1に記載の設計支援装置。
【請求項8】
前記設置可能情報は、前記貫通孔の寸法ごとに前記貫通孔を設けることができる位置を表す、請求項7に記載の設計支援装置。
【請求項9】
建築物の設計を支援する設計支援装置が、
前記建築物を構成する、所定の断面形状および所定の鋼材強度を有する鋼材からなる部材が、所定位置に所定寸法で貫通孔が設けられたときに所定の部材耐力を有するか否かを判定し、
前記部材が前記所定の部材耐力を有しないと判定された場合、前記所定の部材耐力を有するように前記鋼材の前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方を変更し、
前記判定および/または前記変更の結果を出力する、
ことを含む設計支援方法。
【請求項10】
建築物を構成する、所定の断面形状および所定の鋼材強度を有する鋼材からなる部材が、所定位置に所定寸法で貫通孔が設けられたときに所定の部材耐力を有するか否かを判定することと、
前記部材が前記所定の部材耐力を有しないと判定された場合、前記所定の部材耐力を有するように前記鋼材の前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方を変更することと、
前記判定および/または前記変更の結果を出力することと、
をコンピュータに実行させる設計支援用コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建築物の設計を支援する設計支援装置、設計支援方法、および設計支援用コンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
H形鋼などの梁部材により構成された梁構造を有する建造物では、梁構造に支持される床スラブの下の天井裏部分において、梁部材と設備配管とが干渉することがある。このような場合、梁部材の鉛直部分(H形鋼におけるウェブ)に貫通孔を設けることで、梁部材と設備配管との干渉を解消することができる。
【0003】
梁部材と設備配管との干渉を解消するために梁部材に貫通孔を設けると、梁部材の曲げ耐力およびせん断耐力といった部材耐力が低下する。梁構造の設計は設備配管の設計に先立って行われるため、予め貫通孔の設置による部材耐力の低下を見込んだ適切な梁構造を設計することは困難である。梁構造の設計を維持しつつ、貫通孔の設置により低下する梁部材の部材耐力を確保するため、貫通孔の周辺の補強が行われる。
【0004】
特許文献1には、鉄骨梁貫通孔の補強設計を効率良く行う鉄骨梁貫通孔の補強設計支援システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
貫通孔の周辺の補強には、補強部材の加工や接合等に手間やコストが必要となる。建築物の施工の生産性向上のためには、補強することなく梁部材に貫通孔を設けることが望ましい。
【0007】
特許文献1に記載の補強設計支援システムによると、貫通孔を設けた梁部材の補強の要否の判定および補強部材の仕様の検討を行うことができる。しかし、この補強設計支援システムは貫通孔への補強を前提としているため、補強が必要との結果が得られた場合に、貫通孔の設置による強度低下を見込んだ上で補強が不要となるように梁部材を設計することはできない。
【0008】
近年、建築物の設計に、パーツの形状および属性を有するパラメータの集合として建築物の構造を表すBIM(Building Information Modeling)アプリケーションプログラムが用いられている。BIMアプリケーションプログラムのデータ(BIMデータ)は、設計者、施工者、維持管理者といった関係者に共有され、効率的に活用される。
【0009】
関係者によりBIMデータが共有されるBIMシステムにおいては、関係者は梁構造の設計と設備配管の設計とを並行して進めることができる。このような設計環境に対応した、貫通孔を有する梁部材の設計支援装置が求められている。
【0010】
そこで、本開示は、貫通孔を有する梁部材について、貫通孔の周辺を補強せずに部材耐力を確保した設計を支援し、かかる設計に要する時間を短縮する設計支援装置、設計支援方法、および設計支援用コンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の要旨は以下のとおりである。
【0012】
(1)建築物を構成する、所定の断面形状および所定の鋼材強度を有する鋼材からなる部材が、所定位置に所定寸法で貫通孔が設けられたときに所定の部材耐力を有するか否かを判定する判定部と、
前記部材が前記所定の部材耐力を有しないと判定された場合、前記所定の部材耐力を有するように前記鋼材の前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方を変更する変更部と、
前記判定および/または前記変更の結果を出力する出力部と、
を備える設計支援装置。
【0013】
(2)前記部材は、前記建築物の梁構造を構成する梁部材である上記(1)に記載の設計支援装置。
【0014】
(3)前記鋼材はH形鋼であり、前記貫通孔は前記H形鋼におけるウェブの前記所定位置に設けられる上記(1)または(2)に記載の設計支援装置。
【0015】
(4)前記変更部は、前記断面形状の変更において、前記ウェブの厚さを変更する上記(3)に記載の設計支援装置。
【0016】
(5)前記変更部は、前記鋼材の変更前の前記ウェブの厚さと変更後のウェブの厚さとの差が所定の厚さ差分閾値を超えても前記部材が前記所定の部材耐力を有しない場合に、前記鋼材の前記鋼材強度を変更する上記(4)に記載の設計支援装置。
【0017】
(6)前記変更部は、前記鋼材について適用可能な前記断面形状または前記鋼材強度の複数の候補を含む候補リストから一の候補を選択することにより、前記鋼材の前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方を変更する上記(1)-(5)のいずれか一つに記載の設計支援装置。
【0018】
(7)前記出力部は、前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方が変更された前記鋼材からなる前記部材において、前記所定の部材耐力を有しつつ前記貫通孔を設けることができる位置を表す設置可能情報をさらに出力する、上記(1)-(6)のいずれか一つに記載の設計支援装置。
【0019】
(8)前記設置可能情報は、前記貫通孔の寸法ごとに前記貫通孔を設けることができる位置を表す、上記(7)に記載の設計支援装置。
【0020】
(9)建築物の設計を支援する設計支援装置が、
前記建築物を構成する、所定の断面形状および所定の鋼材強度を有する鋼材からなる部材が、所定位置に所定寸法で貫通孔が設けられたときに所定の部材耐力を有するか否かを判定し、
前記部材が前記所定の部材耐力を有しないと判定された場合、前記所定の部材耐力を有するように前記鋼材の前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方を変更し、
前記判定および/または前記変更の結果を出力する、
ことを含む設計支援方法。
【0021】
(10)建築物を構成する、所定の断面形状および所定の鋼材強度を有する鋼材からなる部材が、所定位置に所定寸法で貫通孔が設けられたときに所定の部材耐力を有するか否かを判定することと、
前記部材が前記所定の部材耐力を有しないと判定された場合、前記所定の部材耐力を有するように前記鋼材の前記断面形状および前記鋼材強度の少なくとも一方を変更することと、
前記判定および/または前記変更の結果を出力することと、
をコンピュータに実行させる設計支援用コンピュータプログラム。
【発明の効果】
【0022】
本開示にかかる設計支援装置によると、貫通孔を有する梁部材について、貫通孔の周辺を補強せずに部材耐力を確保した設計を支援し、かかる設計に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】建築物設計システムの構成例を表す模式図である。
【
図2】貫通孔を有する梁部材を含む梁構造の模式図である。
【
図3】(a)は貫通孔を有する梁部材の側面を表す模式図であり、(b)は貫通孔を有する梁部材の正面を表す模式図である。
【
図4】設計データの例を表す例を説明する図である。
【
図5】設計支援装置のハードウェア構成を表す模式図である。
【
図8】設計支援装置が有するプロセッサの機能ブロック図である。
【
図9】判定結果を表す結果データの例を説明する図である。
【
図10】変更結果を表す結果データの例を説明する図である。
【
図12】設計支援方法の処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照して、貫通孔を有する梁部材について、貫通孔の周辺を補強せずに曲げ耐力およびせん断耐力を確保した設計を支援し、かかる設計に要する時間を短縮することができる設計支援装置について詳細に説明する。設計支援装置は、例えば、建築物設計システムの一部として使用される。
図1は、建築物設計システムの構成例を表す模式図である。
【0025】
図1に表される建築物設計システムBDSは、設計支援装置1-1~1-3(以下、あわせて「設計支援装置1」ともいう)と、サーバ20とを有する。設計支援装置1-1~1-3のそれぞれと、サーバ20とは、通信ネットワークNWを介して通信可能に接続される。
【0026】
設計支援装置1は、建築物の設計データの生成、編集、および閲覧を行う機能を有する。設計支援装置1は、生成または編集した設計データを、通信ネットワークNWを介してサーバ20に保存する。また、設計支援装置1は、サーバ20に保存された設計データを、通信ネットワークNWを介して取得し、編集または閲覧を行う。
【0027】
設計データは、BIMデータであってよい。建築物設計システムBDSによると、多くの関係者により設計データを共有することができる。
【0028】
例えば、建築物の基本設計を担当するユーザが設計支援装置1-1を使用し、建築物の実施設計を担当するユーザが設計支援装置1-2を使用し、建築物の施工を担当するユーザが設計支援装置1-3を使用してよい。このような建築物設計システムBDSでは、建築物の建設における各工程で設計データが共有されるため、各工程の作業を効率的に進めることができる。
【0029】
設計支援装置1は、建築物の設計データに含まれる部材が、貫通孔を設けられたときに所定の部材耐力を有するか否かを判定する機能を有する。
【0030】
図2は、貫通孔を有する梁部材を含む梁構造の模式図である。
図2では、建築物における所定の階の床を支持する梁構造100の平面図を表している。
【0031】
大梁LB1-LB6は、梁構造100を構成する梁部材の一例である。例えば、大梁LB1は、通り符号X2と通り符号Y1との交点に位置する柱P21と、通り符号X2と通り符号Y2との交点に位置する柱P22との間に設置される。
【0032】
図3(a)は貫通孔を有する梁部材の一例である大梁LB1の側面を表す模式図であり、
図3(b)は大梁LB1の正面を表す模式図である。
【0033】
大梁LB1は、上側に配置される上フランジf
uおよび下側に配置される下フランジf
l(以下、あわせて「フランジf」ともいう)と、上フランジf
uおよび下フランジf
lの間に配置されるウェブwとを有する。フランジfは梁幅Bとフランジ厚さt
fと材軸方向長さLとを有する鋼材である。材軸方向は、鋼材の長手方向を表し、
図3(a)におけるx軸方向に対応する。ウェブwはウェブ高さhとウェブ厚さt
wと材軸方向長さLとを有する鋼材である。ウェブ高さhは、梁高さHから上下のフランジ厚さt
fを引いた高さに相当する。大梁LB1は、圧延により一体で形成されたH形鋼であってよく、フランジfおよびウェブwにそれぞれ対応する複数の鋼板を溶接等により接合することにより形成されていてもよい。
【0034】
大梁LB1は、ウェブwを貫通する貫通孔TH1-TH4(以下、あわせて「貫通孔TH」ともいう)を有する。貫通孔THは、貫通孔径Rを直径とする円形の開口として構成される。貫通孔THを構成する円の中心は、ウェブwの上端から鉛直下方向の長さであるウェブ上高さh′uのところ、または、ウェブwの下端から鉛直上方向の長さであるウェブ下高さh′lのところに位置する。
【0035】
図4は、設計データの例を説明する図である。
図4に示す設計データDDは、梁構造100を構成する部材に関する情報を含んでいる。
【0036】
設計データDDでは、部材ごとに、識別子(ID)、部材区分(柱、大梁、小梁、横補剛材等の別)、位置、鋼材規格(材料規格)、基準強度F、および寸法が関連づけられる。設計データDDは、梁部材の寸法を、梁高さH、梁幅B、ウェブ厚さTw、フランジ厚さTf、および材軸方向長さLにより表す。部材の位置は、通り符号で表されてもよく、座標で表されてもよい。基準強度Fは、鋼材が有する強度を表す鋼材強度の一例であり、例えば平成12年建設省告示第2464号第一に定められる鋼材等の許容応力度の基準強度に対応する。
【0037】
貫通孔THを有する梁部材については、さらに、貫通孔THの大きさとして貫通孔径Rと、貫通孔THの位置としてウェブ下高さh′lおよび梁部材の材軸方向の一方の端部(例えばi端)から貫通孔THの中心までの距離とが関連づけられる。設計データDDでは、貫通孔THの位置として、貫通孔THの中心の位置が関連づけられていてもよい。貫通孔THの中心の位置は、貫通孔THの中心の座標で表されていてもよい。
【0038】
一つの梁部材に貫通孔THが複数設けられる場合、設計データDDでは、複数の貫通孔径Rおよび貫通孔THの位置が関連づけられる。設計データDDでは、ウェブ下高さh′lに代えて、ウェブ上高さh′uが用いられてもよい。
【0039】
図5は、設計支援装置のハードウェア構成を示す模式図である。設計支援装置1は、建築物の設計データに含まれる部材が、貫通孔を設けられたときに所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有するか否かを判定することにより、建築物の設計を支援する。
【0040】
設計支援装置1は、入出力インタフェース11と、メモリ12と、プロセッサ13とを備えるコンピュータである。コンピュータは、メモリ12に保存された設計支援用コンピュータプログラムをプロセッサ13が実行することにより、設計支援装置1として動作する。なお、設計支援装置1は、利用者が直接操作するパーソナルコンピュータ、タブレットPC、スマートフォン等であってよい。また、設計支援装置1は、通信ネットワークを介して利用者が直接操作するパーソナルコンピュータ、タブレットPC、スマートフォン等に接続されるサーバコンピュータであってもよい。
【0041】
入出力インタフェース11は、設計支援装置1が処理すべきデータを受け付け、または、設計支援装置1により処理されたデータを出力するためのインタフェース回路を有する。入出力インタフェース11は、例えば設計支援装置1を通信ネットワークに接続するための通信インタフェース回路、または設計支援装置1をキーボード、マウス、ディスプレイといった各種周辺機器と接続するための周辺機器インタフェース回路を含む。入出力インタフェース11は、通信インタフェース回路を介して他の機器から、または、周辺機器インタフェース回路を介してキーボード、マウス、記録媒体を読み取り可能なファイル装置といった入力機器から、設計データの入力を受け付ける。また、入出力インタフェース11は、通信インタフェース回路を介して他の機器に、または、周辺機器インタフェース回路を介してディスプレイに、判定または変更の結果を表す結果データを出力する。
【0042】
メモリ12は、例えば、半導体メモリ、磁気ディスク装置および光ディスク装置のうちの少なくとも1つを有する。メモリ12は、プロセッサ13による処理に用いられる各種データ、例えば鋼材の断面形状および基準強度の少なくとも一方を変更するために適用可能な複数の鋼材を含む候補リストを保存する。また、メモリ12は、入出力インタフェース11を介して受け付けた建築物の設計データを保存する。また、メモリ12は、ドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、設計支援用コンピュータプログラムといった各種プログラムを保存する。
【0043】
図6は候補リストの第1の例を説明する図であり、
図7は候補リストの第2の例を説明する図である。
【0044】
図6に示す断面形状リスト121は、鋼材の断面形状の候補を表す候補リストの第1の例である。断面形状リスト121において、鋼材の断面形状は、梁高さHと、梁幅Bと、ウェブ厚さt
wと、フランジ厚さt
fとにより表される。断面形状リスト121には、入手が比較的容易な鋼材の断面寸法が含まれる。なお、断面形状リストは、設計支援装置1のユーザや管理者等が適宜追加または変更することができる。
【0045】
図7に示す基準強度リスト122は、鋼材の基準強度の候補を表す候補リストの第2の例である。基準強度リスト122において、鋼材の基準強度は、鋼材の厚さの範囲に応じて表される。基準強度リスト122には、規格により定められた種類記号に対応する基準強度が含まれる。なお、基準強度リストは、設計支援装置1のユーザや管理者等が適宜追加または変更することができる。
【0046】
図5に戻り、プロセッサ13は、1以上のプロセッサおよびその周辺回路を備える。プロセッサ13は、設計支援装置1の全体的な動作を統括的に制御する処理回路であり、例えば、CPU(Central Processing Unit)である。プロセッサ13は、設計支援装置1の各種処理がメモリ12に記憶されているプログラム等に基づいて適切な手段で実行されるように、入出力インタフェース11等の動作を制御する。プロセッサ13は、メモリ12に記憶されている各種プログラムに基づいて処理を実行する。また、プロセッサ13は、複数の各種プログラムを並列に実行することができる。
【0047】
図8は、設計支援装置1が有するプロセッサ13の機能ブロック図である。
【0048】
設計支援装置1のプロセッサ13は、機能ブロックとして、判定部131と、変更部132と、出力部133とを有する。プロセッサ13が有するこれらの各部は、プロセッサ13で実行されるプログラムによって実装される機能モジュールである。プロセッサ13の各部の機能を実現するコンピュータプログラムは、半導体メモリ、磁気記録媒体または光記録媒体といった、コンピュータ読取可能な可搬性の記録媒体に記録された形で提供されてもよい。あるいは、プロセッサ13が有するこれらの各部は、独立した集積回路、マイクロプロセッサ、またはファームウェアとして設計支援装置1に実装されてもよい。
【0049】
判定部131は、メモリ12に保存された設計データDDに含まれる部材が、所定位置に所定寸法で貫通孔THが設けられたときに所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有するか否かを判定する。曲げ耐力およびせん断耐力は、部材が有する部材耐力の一例である。
【0050】
判定部131は、判定の対象となる部材について、貫通孔THが設けられたときの曲げ耐力およびせん断耐力を算出する。部材に貫通孔THが設けられたときのせん断耐力は、例えば、以下の式(1)-(2)を用いて、部材の降伏せん断力として算出することができる。
【0051】
【0052】
【0053】
ここで、V
phは貫通孔THが設けられたときの部材の降伏せん断力であり、V
pは貫通孔THが設けられていないときの部材の降伏せん断力であり、上線つきRはウェブ高さhに対する貫通孔径Rの比であり、上線つきt
fはウェブ高さhに対するフランジ厚t
fの比である。なお、貫通孔THが設けられていないときの部材の降伏せん断力V
pは、貫通孔THが設けられていない部材の正面の断面積(
図3(b)の断面の面積)と鋼材の許容せん断応力度とを乗じて算出することができる。鋼材の許容せん断応力度は、基準強度に1/√3を乗じて算出することができる。
【0054】
また、部材に貫通孔THが設けられたときの曲げ耐力は、例えば、以下の式(3)-(4)を用いて、部材の全塑性モーメントとして算出することができる。
【0055】
【0056】
【0057】
ここで、Mfphは貫通孔THが設けられたときの部材の全塑性モーメントであり、Mfpはフランジfのみの全塑性モーメントであり、h′はウェブ上高さh′uまたはウェブ下高さh′lである。なお、フランジfのみの全塑性モーメントMfpは、フランジfのみを考慮した断面係数と基準強度とを乗じて算出することができる。
【0058】
判定部131は、式(1)-(4)以外の方法を用いて、貫通孔THが設けられたときの部材の曲げ耐力およびせん断耐力を算出してもよい。
【0059】
判定部131は、算出された貫通孔THが設けられたときの部材の曲げ耐力およびせん断耐力と、設計データDDから得られる当該部材に作用する荷重とを比較し、部材の曲げ耐力およびせん断耐力が作用する荷重よりも大きい場合、当該部材は貫通孔THが設けられたときに所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有すると判定する。一方、判定部131は、部材の曲げ耐力およびせん断耐力が作用する荷重以下の場合、当該部材は貫通孔THが設けられたときに所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有しないと判定する。
【0060】
判定の対象となる部材に複数の貫通孔が設けられる場合、判定部131は、貫通孔ごとに上述の判定を繰り返す。
【0061】
変更部132は、部材が所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有しないと判定された場合、所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有するように、部材を構成する鋼材の断面形状および基準強度の少なくとも一方を変更する。
【0062】
例えば、変更部132は、メモリ12に記憶された断面形状リスト121を参照し、所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有しないと判定された部材について、当該部材を構成する鋼材と比較してウェブ厚さtwが大きく、かつ、他の項目が大きいか等しい鋼材を選択する。そして、変更部132は、その鋼材により当該部材を構成した場合の曲げ耐力およびせん断耐力が所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有するか否かを判定する。
【0063】
その鋼材により当該部材を構成した場合の曲げ耐力およびせん断耐力が所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有しないと判定された場合、変更部132は、その鋼材よりもさらにウェブ厚さtwが大きい鋼材を選択し、上述の判定を繰り返す。
【0064】
その鋼材により当該部材を構成した場合の曲げ耐力およびせん断耐力が所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有すると判定された場合、変更部132は、その部材を構成する鋼材の断面形状を、選択された鋼材の断面形状に変更する。
【0065】
その部材の変更前の鋼材のウェブ厚さと選択された鋼材のウェブ厚さとの差が所定の厚さ差分閾値(例えば6mm)を超えてもその鋼材により当該部材を構成した場合の曲げ耐力およびせん断耐力が所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有すると判定されない場合、変更部132は、メモリ12に記憶された基準強度リスト122を参照し、当該部材を構成する鋼材と比較して基準強度の大きい鋼材を選択してよい。なお、厚さ差分閾値は、設計支援装置1のユーザや管理者等が適宜設定することができる。そして、変更部132は、その鋼材により当該部材を構成した場合の曲げ耐力およびせん断耐力が所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有するか否かを判定する。その鋼材により当該部材を構成した場合の曲げ耐力およびせん断耐力が所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有すると判定された場合、変更部132は、その部材を構成する鋼材の基準強度を、選択された鋼材の基準強度に変更する。
【0066】
出力部133は、貫通孔が設けられる部材の曲げ耐力およびせん断耐力に関する判定および/または部材に関する変更の結果を出力する。
【0067】
出力部133は、判定および/または変更の結果を表す結果データを、入出力インタフェース11を介して他装置に出力する。他装置は、例えば結果データを視認可能に表示するディスプレイであってよく、通信ネットワークNWを介して通信可能に接続され結果データを保存するサーバ20であってもよい。
【0068】
図9は判定結果を表す結果データの例を説明する図であり、
図10は変更結果を表す結果データの例を説明する図である。
【0069】
判定結果を表す結果データRD1では、貫通孔を設けられたときに所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有するか否かについての判定結果が部材ごとに表される。結果データRD1の例では、所定の曲げ耐力およびせん断耐力は、長期許容耐力、短期許容耐力、全塑性耐力のそれぞれの状態に対応する曲げモーメントおよびせん断力について判定され、大梁LB1、LB2が所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有していないと判定されたことがわかる。
【0070】
貫通孔が設けられた部材の長期許容耐力に対応する曲げ耐力およびせん断耐力は、式(1)および式(3)より求められる降伏せん断耐力または全塑性モーメントに低減係数を乗じて降伏時のせん断耐力および曲げモーメントを算出し、さらに安全率(例えば2/3)を乗じて算出される。低減係数は、例えば式(1)により求められるせん断耐力について0.8、式(3)により求められる全塑性モーメントについて0.87のように設定されてよい。貫通孔が設けられた部材の長期許容耐力が、建物自体の重さ(建物自重)および人や家具など建物に積載される物の重さ(積載荷重)といった鉛直方向に作用する荷重が部材に作用して生じる曲げモーメントおよびせん断力よりも大きければ、部材は長期許容耐力に対応する所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有していると判定される。なお、建物自重および積載荷重は、建物の規模や仕様、用途に従って決定される。
【0071】
貫通孔が設けられた部材の短期許容耐力に対応する曲げ耐力およびせん断耐力は、式(1)および式(3)により求められる降伏せん断耐力または全塑性モーメントに低減係数を乗じた降伏時のせん断耐力および曲げモーメントとして算出される。低減係数は、例えば式(1)により求められるせん断耐力について0.8、式(3)により求められる全塑性モーメントについて0.87のように設定されてよい。貫通孔が設けられた部材の短期許容耐力が、建物自重および積載荷重といった鉛直方向の荷重に加えて地震などにより水平方向に作用する水平荷重が部材に作用して生じる曲げモーメントおよびせん断力よりも大きければ、部材は短期許容耐力に対応する所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有していると判定される。なお、地震による水平荷重は、建物の用途に従って決定される。
【0072】
貫通孔が設けられた部材は、部材の材軸方向の両端部が全塑性耐力に至るまで崩壊しないことが求められる。したがって、貫通孔が設けられた部材の全塑性耐力に対応する曲げ耐力およびせん断耐力が、部材の材軸方向の両端部が全塑性耐力に至る時に部材に生じるせん断力および曲げモーメントよりも大きければ、部材は全塑性耐力に対応する所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有していると判定される。貫通孔が設けられた部材の全塑性耐力に対応する曲げ耐力およびせん断耐力は、式(1)および式(3)により求められる降伏せん断耐力または全塑性モーメントとして算出される。部材の材軸方向の両端部の全塑性耐力に対応するせん断耐力および全塑性モーメントは、部材の材軸方向の両端部が貫通孔の設けられない位置であることから、式(1)および式(3)におけるVpおよびMfpとして算出される。
【0073】
変更結果を表す結果データRD2に表される内容は、設計データDDに対応している。設計データDDから変更された値を、結果データRD2では説明のため下線を付して表している。結果データRD2の例では、大梁LB1についてウェブ厚さTwとフランジ厚さTfとが変更され、大梁LB2についてウェブ厚さTwが変更されたことがわかる。
【0074】
出力部133は、断面形状および基準強度の少なくとも一方が変更された鋼材からなる部材において、所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有しつつ貫通孔THを設けることができる位置を表す設置可能情報をさらに出力してもよい。
【0075】
例えば、出力部133は、ある貫通孔径Rの貫通孔THの中心とすることのできる範囲を、貫通孔THの中心の座標により表す。出力部133は、貫通孔THの中心とすることのできる範囲を、ウェブ下高さh′lと、梁部材の材軸方向の一方の端部(例えばi端)から貫通孔THの中心までの距離とで表してもよい。
【0076】
また、出力部133は、所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有しつつ貫通孔THを設けることができる位置を図示する設置可能情報を出力してもよい。
【0077】
【0078】
図11に示す設置可能情報AIは、所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有しつつ貫通孔THを設けることができる位置を、貫通孔THの寸法ごとに貫通孔THを設けることができる位置を表している。例えば、貫通孔径Rが100mm以下の貫通孔THを設けることができる位置R1は空白で示され、貫通孔径Rが200mm以下の貫通孔THを設けることができる位置R2は網掛けで示され、貫通孔径Rが300mm以下の貫通孔THを設けることができる位置R3はハッチングで示される。
【0079】
図12は、設計支援方法の処理フローチャートである。
【0080】
設計支援装置1のプロセッサ13は、指定された設計データに対する設計支援要求を受け付ける度に、
図12に示す処理を実行する。
【0081】
まず、プロセッサ13の判定部131は、建築物を構成する、所定の断面形状および所定の基準強度を有する鋼材からなる部材が、所定位置に所定寸法で貫通孔が設けられたときに所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有するか否かを判定する(ステップS1)。
【0082】
判定部131は、その部材に設けられるすべての貫通孔について所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有するか否かを判定する(ステップS2)。すべての貫通孔について所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有すると判定された場合、プロセッサ13の処理は、後述するステップS4に進む。
【0083】
すべての貫通孔について所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有しない(所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有しない貫通孔がある)と判定された場合(ステップS2:N)、プロセッサ13の変更部132は、所定の曲げ耐力およびせん断耐力を有するように鋼材の断面形状および基準強度の少なくとも一方を変更する(ステップS3)。
【0084】
そして、出力部133は、判定および/または変更の結果を出力し(ステップS4)、設計支援処理を終了する。ステップS4において、出力部133は、対象となる一つの部材の結果のみを出力してよく、設計データDDに含まれる複数の部材についての結果をまとめて出力してもよい。
【0085】
設計支援装置1は、上記のように処理を実行することにより、貫通孔を有する梁部材について、補強することなく部材耐力を確保した設計を支援し、かかる設計に要する時間を短縮することができる。
【0086】
また、設計支援装置1は、梁部材に複数の貫通孔が設けられる場合であっても、それぞれの貫通孔に補強することなく部材耐力を確保した設計を支援し、かかる設計に要する時間を短縮することができる。
【0087】
なお、設計支援用コンピュータプログラムは、オペレーティングシステム上で独立に動作するアプリケーションプログラムである。また、設計支援用コンピュータプログラムは、設計データDDを読み書き可能なBIMアプリケーションプログラムに追加機能を提供するモジュール(プラグイン)であってもよい。
【0088】
変形例によると、候補リストには、鋼材ごとに価格情報が関連づけられていてもよい。この場合、変更部132は、候補リストに含まれる鋼材から、部材が所定の部材耐力を有するように選択される1以上の鋼材のうち、最も価格が小さい鋼材を選択するようにすることで、建築物の建築費用を抑制することができる。なお、鋼材ごとの価格情報は、設計支援装置1のユーザや管理者が、適宜設定・変更することができる。
【0089】
当業者は、本開示の精神および範囲から外れることなく、種々の変更、置換および修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。
【符号の説明】
【0090】
1 設計支援装置
131 判定部
132 変更部
133 出力部