(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154554
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】カール矯正機構、及び、紙葉類処理装置
(51)【国際特許分類】
B65H 29/70 20060101AFI20241024BHJP
G07D 11/175 20190101ALI20241024BHJP
B65H 5/06 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B65H29/70
G07D11/175
B65H5/06 B
B65H5/06 C
B65H5/06 F
B65H5/06 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068423
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000001432
【氏名又は名称】グローリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 隆徳
【テーマコード(参考)】
3E141
3F049
3F053
【Fターム(参考)】
3E141AA01
3E141BA06
3E141EA10
3E141FG04
3F049CA02
3F049CA03
3F049CA16
3F049DA11
3F049DA12
3F049EA10
3F049EA13
3F049EA17
3F049LB04
3F053HA03
3F053HA08
3F053HB01
3F053HB22
3F053HB24
3F053LB04
(57)【要約】
【課題】紙葉類のカールを矯正する際の、紙葉類へのダメージを低減する。
【解決手段】カール矯正機構6は、二つのローラ63、64の間の紙葉類9を送り出すフィード部62と、軸Y3を中心に紙葉類を搬送する方向に回転すると共に、第2方向Zにカールした紙葉類の第1面94に当たる、少なくとも一の当接部73を有する第1ローラ7と、紙葉類の第2面95に当たって当接部との間に紙葉類を挟む対向部8と、を備え、紙葉類は、回転する第1ローラと、対向部との間を通過することによってカールが矯正され、第1ローラと対向部とにより紙葉類に作用するグリップ力は、フィード部の二つのローラにより紙葉類に作用するグリップ力よりも小さい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類を搬送するコンベアに含まれかつ、紙葉類の搬送方向に交差する第2方向に対向した二つのローラが、前記搬送方向及び前記第2方向のそれぞれに交差する第3方向に延びる軸を中心に回転することにより、前記二つのローラの間の紙葉類を送り出すフィード部と、
前記フィード部に対して前記搬送方向の下流に位置し、前記第3方向に延びる軸を中心に紙葉類を搬送する方向に回転すると共に、前記第2方向にカールした紙葉類の第1面に当たる、少なくとも一の当接部を有する第1ローラと、
紙葉類の第2面に当たって前記当接部との間に紙葉類を挟む対向部と、を備え、
紙葉類は、回転する前記第1ローラと、前記対向部との間を通過することによって前記カールが矯正され、
前記第1ローラと前記対向部とにより紙葉類に作用するグリップ力は、前記フィード部の前記二つのローラにより紙葉類に作用するグリップ力よりも小さい、カール矯正機構。
【請求項2】
紙葉類は、前記第1面側が凸になる方向にカールしており、
前記当接部は、前記第1面に向かって凸となりかつ、前記第1ローラの外周円よりも大きい曲率の当接面を有している、請求項1に記載のカール矯正機構。
【請求項3】
前記第1ローラは、周方向に並んだ複数の当接部を有している、請求項1又は2に記載のカール矯正機構。
【請求項4】
前記フィード部と前記第1ローラとの間の距離は、紙葉類の前記搬送方向に沿った長さよりも短い、請求項1~3のいずれか1項に記載のカール矯正機構。
【請求項5】
前記対向部は、前記第1ローラに対し前記第2方向に対向して位置しかつ、前記第3方向に延びる軸を中心に回転可能なローラ形状である、請求項1~4のいずれか1項に記載のカール矯正機構。
【請求項6】
ローラ形状の前記対向部の外周部は、前記当接部よりも柔らかく、
前記第1ローラと前記対向部との軸間距離は、前記対向部の外周部が前記当接部に押されて弾性変形する距離である、請求項5に記載のカール矯正機構。
【請求項7】
前記第1ローラは、駆動源に連結され、前記駆動源によって回転され、
前記対向部は、駆動源に非連結である、請求項5又は6に記載のカール矯正機構。
【請求項8】
前記第1ローラの回転速度は、前記フィード部の前記ローラの回転速度よりも高い、請求項7に記載のカール矯正機構。
【請求項9】
前記第1ローラの回転速度を変更するコントローラーを備える、請求項8に記載のカール矯正機構。
【請求項10】
前記コントローラーは、紙葉類のカールの度合いが強い場合に前記第1ローラの回転速度を高く、紙葉類のカールの度合いが弱い場合に前記第1ローラの回転速度を低くする、請求項9に記載のカール矯正機構。
【請求項11】
前記コントローラーは、紙葉類のカールを矯正しない場合、前記第1ローラの回転速度を、前記フィード部の前記ローラの回転速度と同じにする、請求項9又は10に記載のカール矯正機構。
【請求項12】
前記フィード部は、収納部から繰り出された紙葉類を送り出し、
前記コントローラーは、前記収納部から繰り出された紙葉類の状態に応じて、前記第1ローラの回転速度を変更する、請求項9~11のいずれか1項に記載のカール矯正機構。
【請求項13】
前記コンベアによって搬送される紙葉類に対して、上に前記対向部が、下に前記第1ローラが、前記第2方向に互いに接触して位置し、
前記対向部は、第2ローラであって、前記第2ローラの表面が、前記第1ローラの表面を構成する材料と異なる材料によって、前記第1ローラの表面より柔らかく構成されており、
紙葉類は、その搬送方向における前端部及び後端部よりも、中間部が、前記第1ローラに近づく方向に位置するような状態でカールしており、
前記第1ローラ及び前記第2ローラは、前記第1ローラ及び前記第2ローラの間を紙葉類が通過することにより、紙葉類を前記カールした状態から、より平坦な状態へ矯正する、請求項1~12のいずれか1項に記載のカール矯正機構。
【請求項14】
請求項1~13のいずれか1項に記載のカール矯正機構と、
前記紙葉類を収納する巻取式の収納部と、
紙葉類を装置の外へ排出する排出部と、を備え、
前記カール矯正機構は、前記収納部と前記排出部とを接続するコンベアに含まれ、
前記カール矯正機構は、前記収納部から繰り出された紙葉類が前記排出部から前記装置の外へ排出される前に、紙葉類のカールを矯正する、紙葉類処理装置。
【請求項15】
請求項1~13のいずれか1項に記載のカール矯正機構と、
前記紙葉類を収納する巻取式の収納部と、
紙葉類を一時的に収納すると共に、収納している紙葉類を繰り出す一時保留部と、を備え、
前記カール矯正機構は、前記収納部と前記一時保留部とを接続するコンベアに含まれ、
前記カール矯正機構は、紙葉類が前記収納部と前記一時保留部との間で搬送される間に、紙葉類のカールを矯正する、紙葉類処理装置。
【請求項16】
前記コンベアは、紙葉類を第1搬送方向、及び、前記第1搬送方向とは逆の第2搬送方向の双方向に搬送し、
前記カール矯正機構は、紙葉類が前記第1搬送方向に搬送されている場合に、前記カールを矯正し、紙葉類が前記第2搬送方向に搬送されている場合に、前記カールの矯正を行わない、請求項14又は15に記載の紙葉類処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、カール矯正機構、及び、紙葉類処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、シート媒体平坦化装置が記載されている。この従来の平坦化装置は、金融セルフサービス機器に組み込まれる。金融セルフサービス機器は、リール式の紙幣ボックスを備えている。紙幣は、紙幣ボックスに長期間保管されると、円弧状の構造に曲げられる。従来の平坦化装置は、曲げられた紙幣を、平坦な状態に戻す。
【0003】
より具体的に、従来の平坦化装置は、通路板(passage plate)と、平坦化ブロック(flattening block)とを備えている。通路板は、搬送路(conveying passage)を形成する。通路板には、溝が形成されている。平坦化ブロックは、紙幣を溝に押し込む。平坦化ブロックと溝との間に挟まれた紙幣は、逆向きに曲げられる。平坦化ブロックの下流に位置する搬送ホイールセットが紙幣を搬送することによって、紙幣を平坦化ブロックと溝との間を通過し、曲げられた紙幣が、平坦な状態に戻る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2019/0026969号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の平坦化装置では、平坦化ブロックと溝との間に挟まれた紙幣が、搬送ホイールセットによって、その平坦化ブロックと溝との間から引き抜かれる。紙幣は、大きなダメージを受ける。従来の平坦化装置が紙幣を強く矯正しようとすれば、紙幣は、平坦化ブロックと溝との間において、より大きな曲率で逆向きに曲げられなければならない。平坦化ブロックと溝との間から引き抜かれる紙幣には、過剰な力が与えられる。その結果、従来の平坦化装置では、紙幣が破損する恐れがある。
【0006】
ここに開示する技術は、紙葉類のカールを矯正する際の、紙葉類へのダメージを低減する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ここに開示する技術は、カール矯正機構に係る。カール矯正機構は、紙葉類を搬送するコンベアに含まれかつ、紙葉類の搬送方向に交差する第2方向に対向した二つのローラが、前記搬送方向及び前記第2方向のそれぞれに交差する第3方向に延びる軸を中心に回転することにより、前記二つのローラの間の紙葉類を送り出すフィード部と、前記フィード部に対して前記搬送方向の下流に位置し、前記第3方向に延びる軸を中心に紙葉類を搬送する方向に回転すると共に、前記第2方向にカールした紙葉類の第1面に当たる、少なくとも一の当接部を有する第1ローラと、紙葉類の第2面に当たって前記当接部との間に紙葉類を挟む対向部と、を備え、紙葉類は、回転する前記第1ローラと、前記対向部との間を通過することによって前記カールが矯正され、前記第1ローラと前記対向部とにより紙葉類に作用するグリップ力は、前記フィード部の前記二つのローラにより紙葉類に作用するグリップ力よりも小さい、
ここで、紙葉類は、紙幣、小切手、商品券、及び、その他の有価媒体を含む。但し、紙葉類は、これらに限らない。また、紙葉類は、紙を素材とするものに限定されない。紙以外の素材をシート状に成形したもの、紙以外の素材と紙とを貼り合わせてシート状に成形したものも、紙葉類に含まれる。紙以外の素材は、例えば合成樹脂である。
【0008】
カール矯正機構は、カールした紙葉類のカールを矯正することによって、紙葉類を平坦又は略平坦な状態にする。カール矯正機構は、コンベアに含まれる。コンベアは、例えば後述する紙葉類処理装置に組み込まれてもよい。
【0009】
フィード部は、二つのローラを有する。二つのローラが回転することによって、二つのローラの間の紙葉類は、搬送方向に送り出される。
【0010】
第1ローラと対向部は、紙葉類の搬送方向について、フィード部の下流に位置している。フィード部によって送り出された紙葉類は、回転する第1ローラと対向部との間を通過する。紙葉類が第1ローラと対向部との間を通過することによって、紙葉類のカールが矯正される。
【0011】
第1ローラと対向部とにより紙葉類に作用するグリップ力は、フィード部の二つのローラにより紙葉類に作用するグリップ力よりも小さい。第1ローラと対向部との間を通過する紙葉類に、過剰な力が与えられない。カール矯正機構は、紙葉類のカールを矯正する際の、紙葉類へのダメージを低減できる。
【0012】
紙葉類は、前記第1面側が凸になる方向にカールしており、前記当接部は、前記第1面に向かって凸となりかつ、前記第1ローラの外周円よりも大きい曲率の当接面を有している、としてもよい。
【0013】
当接部の当接面が紙葉類の第1面に当たると、カールした紙葉類が、当接面に沿って、カールとは逆向きに曲げられる。当接面の曲率は相対的に大きいため、第1ローラと対向部との間を通過する紙葉類も、大きな曲率でカールとは逆向きに曲げられる。カール矯正機構は、紙葉類のカールを効率的に矯正できる。
【0014】
ここで、当接面は、角(かど)の無い滑らかな形状としてもよい。当接面が滑らかであれば、紙葉類へのダメージが低減する。当接面は、例えば円弧形状であってもよい。但し、当接面は円弧に限らない。
【0015】
前記第1ローラは、周方向に並んだ複数の当接部を有している、としてもよい。
【0016】
紙葉類が第1ローラと対向部との間を通過する間に第1ローラが回転することによって、当接部は、複数回、紙葉類の第1面に当接できる。カール矯正機構は、第2方向にカールした紙葉類を効率的に、平坦な状態にできる。
【0017】
前記フィード部と前記第1ローラとの間の距離は、紙葉類の前記搬送方向に沿った長さよりも短い、としてもよい。
【0018】
紙葉類が第1ローラと対向部との間を通過している間、その紙葉類の一部は、フィード部の二つのローラの間に挟まれている。紙葉類は、フィード部と第1ローラとの間で、搬送方向に引っ張られる。カール矯正機構は、紙葉類を引っ張ることにより、第2方向にカールした紙葉類を効率的に、平坦化できる。
【0019】
前記対向部は、前記第1ローラに対し前記第2方向に対向して位置しかつ、前記第3方向に延びる軸を中心に回転可能なローラ形状である、としてもよい。
【0020】
紙葉類の搬送に伴いローラ形状の対向部が回転することは、第1ローラと対向部との間を通過する紙葉類へ与えられるダメージを低減させる。また、紙葉類は、回転する第1ローラと、回転するローラ形状の対向部との間を通過するから、紙葉類の搬送異常を抑制できる。
【0021】
ローラ形状の前記対向部の外周部は、前記当接部よりも柔らかく、前記第1ローラと前記対向部との軸間距離は、前記対向部の外周部が前記当接部に押されて弾性変形する距離である、としてもよい。
【0022】
弾性変形する対向部は、第1ローラの当接部と対向部との間に挟まれた紙葉類を、当接部の方へ押し付ける。紙葉類は、当接部に沿って曲がる。紙葉類は、カールとは逆向きに曲げられる。
【0023】
前記第1ローラは、駆動源に連結され、前記駆動源によって回転され、前記対向部は、駆動源に非連結である、としてもよい。
【0024】
ローラ形状の対向部は、駆動源によって駆動されずに、紙葉類が移動することに伴いその紙葉類の移動力を受けて回転する。カール矯正機構は、第1ローラと対向部との間に挟まれた紙葉類に過剰な力を与えることなく、紙葉類のカールを矯正できる。
【0025】
前記第1ローラの回転速度は、前記フィード部の前記ローラの回転速度よりも高い、としてもよい。
【0026】
フィード部は高いグリップ力を有しているため、フィード部のローラの回転速度は、紙葉類の搬送速度に対応する。第1ローラは、紙葉類の搬送速度よりも高い回転速度で回転することにより、高いグリップ力のフィード部に挟まされた紙葉類は、紙葉類の搬送方向に引っ張られる。カール矯正機構は、紙葉類を引っ張ることによって、そのカールを効率的に矯正できる。
【0027】
また、前述の通り、第1ローラと対向部とのグリップ力は相対的に弱くかつ、ローラ形状の対向部は駆動源によって駆動されないため、第1ローラが高い回転速度で回転しても、紙葉類には過剰な力が加わらない。紙葉類へのダメージを低減と、効率的なカール矯正とが両立する。
【0028】
前記カール矯正機構は、前記第1ローラの回転速度を変更するコントローラーを備える、としてもよい。
【0029】
カール矯正機構は、第1ローラの回転速度が可変であることにより、紙葉類のカールを、そのカールの度合いに応じて矯正できる。
【0030】
尚、コントローラーは、第1ローラの回転速度を段階的に変えてもよいし、連続的に変えてもよい。
【0031】
前記コントローラーは、紙葉類のカールの度合いが強い場合に前記第1ローラの回転速度を高く、紙葉類のカールの度合いが弱い場合に前記第1ローラの回転速度を低くする、としてもよい。
【0032】
第1ローラの回転速度が高いと、フィード部の回転速度と第1ローラの回転速度との速度差が大きいから、紙葉類は、より強く引っ張られる。また、第1ローラの回転速度が高いと、第1ローラの当接部が紙葉類に当たる回数も増える。それらが組み合わさって、カール矯正機構は、カールの度合いが強い紙葉類に対し、カール矯正を効率的に実施できる。
【0033】
これとは逆に、第1ローラの回転速度が低いと、フィード部の回転速度と第1ローラの回転速度との速度差が小さいから、紙葉類に作用する引っ張り力は弱い。また、第1ローラの回転速度が低いと、第1ローラの当接部が紙葉類に当たる回数も減る。それらが組み合わさって、カール矯正機構は、カールの度合いが弱い紙葉類に対する過剰なカール矯正が抑制できる。
【0034】
コントローラーは、紙葉類の情報に基づいて第1ローラの回転速度を変更してもよい。ここで使用される紙葉類の情報は、1つまたは複数の情報であってもよい。
【0035】
前記コントローラーは、紙葉類のカールを矯正しない場合、前記第1ローラの回転速度を、前記フィード部の前記ローラの回転速度と同じにする、としてもよい。
【0036】
第1ローラの回転速度と、フィード部のローラの回転速度とが同じであれば、紙葉類は、実質的に引っ張られない。紙葉類に対するカールの矯正が抑制される。カール矯正機構は、例えばカールしていない紙葉類が通過する場合に、第1ローラの回転速度を、フィード部のローラの回転速度と同じにする。カール矯正機構が、カールしていない紙葉類に、カールを付与してしまうことが抑制される。
【0037】
前記フィード部は、収納部から繰り出された紙葉類を送り出し、前記コントローラーは、前記収納部から繰り出された紙葉類の状態に応じて、前記第1ローラの回転速度を変更する、としてもよい。
【0038】
紙葉類の状態は、例えばカールの度合いであってもよい。紙葉類の状態は、例えば収納部に収納されていた時間であってもよい。紙葉類の状態は、例えば収納部内における収納位置であってもよい。収納位置は、例えば紙葉類を曲げて収納する収納部において、曲げの曲率に関連するとしてもよい。
【0039】
コントローラーが、収納部から繰り出された紙葉類の状態に応じて、第1ローラの回転速度を変更することにより、紙葉類のカールは、適切に矯正される。
【0040】
前記コンベアによって搬送される紙葉類に対して、上に前記対向部が、下に前記第1ローラが、前記第2方向に互いに接触して位置し、前記対向部は、第2ローラであって、前記第2ローラの表面が、前記第1ローラの表面を構成する材料と異なる材料によって、前記第1ローラの表面より柔らかく構成されており、紙葉類は、その搬送方向における前端部及び後端部よりも、中間部が、前記第1ローラに近づく方向に位置するような状態でカールしており、前記第1ローラ及び前記第2ローラは、前記第1ローラ及び前記第2ローラの間を紙葉類が通過することにより、紙葉類を前記カールした状態から、より平坦な状態へ矯正する、としてもよい。
【0041】
第2ローラの表面が第1ローラの表面よりも柔らかいため、第1ローラ及び第2ローラの間を通過する間に紙葉類に作用するグリップ力は、相対的に小さい。また、第1ローラ及び第2ローラの間を通過する紙葉類は、第1ローラの当接部に沿って、カールとは逆向きに曲げられる。紙葉類は、カールした状態から、より平坦な状態へ矯正される。
【0042】
ここに開示する技術はまた、紙葉類処理装置に係る。この紙葉類処理装置は、前記のカール矯正機構と、前記紙葉類を収納する巻取式の収納部と、紙葉類を装置の外へ排出する排出部と、を備え、前記カール矯正機構は、前記収納部と前記排出部とを接続するコンベアに含まれ、前記カール矯正機構は、前記収納部から繰り出された紙葉類が前記排出部から前記装置の外へ排出される前に、紙葉類のカールを矯正する。
【0043】
例えば巻取式の収納部に長期間、収納されていた紙葉類は、収納中に曲げられているから、カールしている可能性がある。紙葉類処理装置の外へ排出される前にカール矯正機構が、紙葉類のカールを矯正すれば、紙葉類処理装置は、カールしていない紙葉類を排出できる。
【0044】
ここに開示する紙葉類処理装置はまた、前記のカール矯正機構と、前記紙葉類を収納する巻取式の収納部と、紙葉類を一時的に収納すると共に、収納している紙葉類を繰り出す一時保留部と、を備え、前記カール矯正機構は、前記収納部と前記一時保留部とを接続するコンベアに含まれ、前記カール矯正機構は、紙葉類が前記収納部と前記一時保留部との間で搬送される間に、紙葉類のカールを矯正する。
【0045】
収納部から繰り出された紙葉類のカールがカール矯正機構によって矯正された後、当該紙葉類が収納部に再収納されれば、巻取式の収納部に長期間、紙葉類が収納されていても、当該紙葉類のカールは弱い。紙葉類処理装置は、カールしていない又はカールの弱い紙葉類を装置の外へ排出できる。
【0046】
前記コンベアは、紙葉類を第1搬送方向、及び、前記第1搬送方向とは逆の第2搬送方向の双方向に搬送し、前記カール矯正機構は、紙葉類が前記第1搬送方向に搬送されている場合に、前記カールを矯正し、紙葉類が前記第2搬送方向に搬送されている場合に、前記カールの矯正を行わない、としてもよい。
【0047】
カール矯正機構は、紙葉類の搬送方向に応じて、カール矯正を選択的に行う。カールしていない、又は、カール矯正が不要な紙葉類について、カール矯正機構がカールの矯正を実施することが抑制される。
【発明の効果】
【0048】
前記のカール矯正機構、及び、紙葉類処理装置は、紙葉類のカールを矯正する際の、紙葉類へのダメージを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【
図2】
図2は、紙葉類のカールの度合いを示している。
【
図3】
図3は、カール矯正機構の第1ローラを示している。
【
図5】
図5は、紙葉類がカール矯正機構を通過している様子を示している。
【
図6】
図6は、紙葉類がカール矯正機構を通過している様子を示している。
【
図7】
図7は、第1ローラの回転速度を変えた場合の、カール矯正動作の変化を示している。
【
図8】
図8は、カール矯正機構を備えた紙葉類処理装置を示している。
【
図11】
図11は、収納期間、収納量と、カールの度合いとの関係を示している。
【
図12】
図12は、カールの度合いと、第1ローラの回転速度との関係を示している。
【発明を実施するための形態】
【0050】
以下、カール矯正機構、及び、紙葉類処理装置の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明するカール矯正機構、及び、紙葉類処理装置は例示である。
【0051】
(カール矯正機構)
図1は、カール矯正機構6を示している。カール矯正機構6は、カールしている紙葉類のカールを矯正することによって、紙葉類を平坦又は略平坦にする。カール矯正機構6は、後述するように紙葉類処理装置(紙幣処理装置1、
図8参照)に組み込まれる。紙葉類処理装置は、紙葉類の処理を実行する。具体的に、紙葉類処理装置は、装置内に収納している紙葉類を、装置の外へ払い出す処理を、少なくとも実行する。紙葉類は、例えば紙幣、小切手、商品券、及び、その他の有価媒体を含む。但し、紙葉類はこれらに限定されない。以下において紙葉類は、紙幣9とする。紙幣9は、
図3に示すように、縦の長さが横の長さよりも短い長方形である。尚、以下の説明において、紙幣9の縦を短辺96と呼び、紙幣9の横を長辺97と呼ぶ場合がある。なお、
図3では、紙葉類処理装置1が、紙幣の長辺97を先頭として紙幣が搬送される例を示しているが、装置によっては紙幣の短辺96を先頭として紙幣が搬送されることもある。
【0052】
カール矯正機構6は、紙幣9のコンベア61に含まれている。コンベア61は、紙幣9の長辺97の縁を前にして、紙幣9を、一枚ずつ搬送する(
図3も参照)。カール矯正機構6は、コンベア61によって搬送されている紙幣9のカールを矯正する。
【0053】
ここで、紙幣9のカールについて、
図2又は
図3を参照しながら説明する。
図2は、搬送される紙幣9を、紙幣9の搬送方向に垂直な側方から見た模式図である。紙幣9は、短辺96の方向についてカールしている。つまり、紙幣9の短辺96について、第1端91及び第2端92の位置に対し、第1端91と第2端92との中間部93の位置が、紙幣9の厚み方向にずれていることを、「紙幣9は、短辺の方向についてカールしている」という。また、カールとは紙幣9が撓むとも言うこともできる。
図2の203に示すように、第1端91及び第2端92の位置と、中間部93の位置とが、厚み方向にずれていない又は実質的にずれていない場合、当該紙幣9はカールしていない。
【0054】
図2の201に示すように、第1端91及び第2端92の位置と、中間部93の位置との、厚み方向のずれ量T1が相対的に大きいことを、ここでは、紙幣9のカールが強いと呼び、
図2の202に示すように、厚み方向のずれ量T2が相対的に小さいことを、ここでは、紙幣9のカールが弱いと呼ぶ。
【0055】
コンベア61は、第1フィード部62を備えている。第1フィード部62は、紙幣9に搬送力を付与する。第1フィード部62からの搬送力を受けた紙幣9は、
図1に矢印で示すように、第1搬送方向X1へ移動する。第1搬送方向X1は、ここでは、
図1における紙面の左から右へ向かう方向である。尚、第1搬送方向X1は、コンベア61に沿った紙幣9の搬送方向を意味し、水平方向であるとは限らない。
【0056】
第1フィード部62はまた、紙幣9を、第2搬送方向X2へ移動させる。第2搬送方向X2は、第1搬送方向X1に対して逆である。
【0057】
第1フィード部62は、二つのローラ63、64を有している。二つのローラ63、64は、第1搬送方向X1に交差する第2方向Zに対向している。
図1の構成例において、二つのローラ63、64は、第1搬送方向X1を水平方向とした場合の、上下方向に対向している。尚、第2方向Zは、上下方向とは限らない。
【0058】
二つのローラ63、64は、その間に紙幣9を挟む。二つのローラ63、64の一つは、駆動ローラ63である。駆動ローラ63は、第2方向Zについて、紙幣9の搬送位置に対し第1側Z1、つまり、下側に位置している。駆動ローラ63は、駆動源である第1電気モータ65に連結されている。第1電気モータ65が運転すると、駆動ローラ63は、第3方向Yに延びる軸Y1を中心に回転する。駆動ローラ63は、
図1における時計回り方向に回転する。駆動ローラ63はまた、
図1における反時計回り方向に回転できる。
【0059】
駆動ローラ63には、搬送ベルト66が巻き掛けられている。搬送ベルト66は、
図1における水平方向に延びている。搬送ベルト66は、紙幣9の第1面94に接する。第1面94は、第2方向Zについて、搬送されている紙幣9の第1側Z1を向いた面であって、ここでは水平方向に搬送される紙幣9の下面である。紙幣9は、
図1~
図3に示すように、第1面94の側が凸になる方向にカールしている。第1面94は、カールの向きによって定まる面である。
【0060】
駆動ローラ63が時計回り方向に回転すると、搬送ベルト66は、第1搬送方向X1へ走行する。搬送ベルト66は、紙幣9を第1搬送方向X1へ搬送する。駆動ローラ63が反時計回り方向に回転すると、搬送ベルト66が、第2搬送方向X2へ走行する。搬送ベルト66は、紙幣9を第2搬送方向X2へ搬送する。
【0061】
第1フィード部62の二つのローラ63、64の一つは、従動ローラ64である。従動ローラ64は、第2方向Zについて、紙幣9の搬送位置に対し第2側Z2、つまり、上側に位置している。従動ローラ64は、駆動源には連結されていない。従動ローラ64は、支持体67に、第3方向Yに延びる軸Y2を中心に回転可能に支持されている。駆動ローラ63の軸Y1と従動ローラ64の軸Y2とは平行である。
【0062】
支持体67は、従動ローラ64を、駆動ローラ63に押し付けている。支持体67は、付勢部材を有している。図例の付勢部材は、トーションばね671である。トーションばね671の弾性復元力が、従動ローラ64を、駆動ローラ63に強固に押し付ける。駆動ローラ63と従動ローラ64とにより紙幣9に作用するグリップ力は、相対的に高い。尚、グリップ力は、紙幣9を厚み方向に挟む力を意味している。
【0063】
コンベア61は、第2フィード部68を備えている。第2フィード部68は、第1フィード部62に対し、第1搬送方向X1に、距離L1だけ離れて位置している。言い換えると、第2フィード部68の回転中心は、第1フィード部62の回転中心に対し、第1搬送方向X1に、距離L1だけ離れている。距離L1は、紙幣9の短辺96の長さL3(
図2参照)よりも短い。第1フィード部62と、第2フィード部68とは、紙幣9の受け渡しが可能である。
【0064】
第2フィード部68も、二つのローラ69、610を有している。二つのローラ69、610は、第2方向Zに対向している。ローラ69には、搬送ベルト611が巻き掛けられている。ローラ610は、搬送ベルト611を介して、ローラ69に接している。二つのローラ69、610の間に挟まれた紙幣9は、第2フィード部68から搬送力が付与される。
【0065】
カール矯正機構6は、第1ローラ7を備えている。第1ローラ7は、搬送方向Xについて、第1フィード部62と第2フィード部68との間に位置している。言い換えると、第1ローラ7は、第1搬送方向X1について、第1フィード部62の下流に位置している。第1ローラ7の回転中心は、第1フィード部62の回転中心に対し、第1搬送方向X1に、距離L2だけ離れて位置している。距離L2は、紙幣9の短辺96の長さL3よりも短い。第1ローラ7は、第1フィード部62の二つのローラ69、610が紙幣9を挟んでいる状態で、紙幣9に当たる。尚、第1ローラ7と第2フィード部68との距離(L1-L2)も、紙幣9の短辺96の長さL3よりも短い。
【0066】
第1ローラ7は、第2方向Zについて、
図1に二点鎖線で示される紙幣9の搬送位置に対し第1側Z1に位置し、コンベア61によって搬送される紙幣9の第1面94に当たる。第1ローラ7は、紙幣9の下側に位置している。
【0067】
第1ローラ7は、第3方向Yに延びる軸Y3を中心に回転する。第1ローラ7の軸Y3は、駆動ローラ63の軸Y1と平行である。
【0068】
第1ローラ7は、シャフト71を有している。シャフト71は、
図3に示すように、第3方向Yに延びている。
図1に示すように、シャフト71は、第2電気モータ79に連結されている。第2電気モータ79は、第1ローラ7を、
図1における時計回り方向、及び、反時計回り方向へ回転させる。第1ローラ7は、第1フィード部62から独立している。
【0069】
第1ローラ7は、本体72を有している(
図4も参照)。本体72は、シャフト71に外挿されている。本体72は、
図4に点線で示すように、横断面円形である。
【0070】
第1ローラ7は、当接部73を有している。当接部73は、本体72の外周面から径方向の外方に向かって凸となった箇所である。当接部73と本体72とは一体である。
【0071】
当接部73は、紙幣9の第1面94に当接する。図例の当接部73は、円弧によって形成されている。当接部73を形成する円の半径はr1である。半径r1は、本体72の半径r2よりも小さい。
【0072】
当接部73は、当接面74を有している。当接面74は、第1ローラ7の回転中に、紙幣9の第1面94に当たって、紙幣9のカールの矯正に寄与する面である。
図4に示すように、当接面74は、円弧によって形成される当接部73において、その中心を挟んだ周方向の両側の所定角度の範囲内の面である。尚、当接部73の中心とは、当接部73において、第1ローラ7の最も外周となる位置をいう。当接面74の曲率は、1/r1で示される。当接面74の曲率1/r1は、第1ローラ7の外周円75の曲率1/r3よりも大きい。
【0073】
尚、当接面74は、円弧形状に限らない。当接面74は、滑らかな形状としてもよい。滑らかな形状の当接面74は、紙幣9へダメージを与えることを抑制する。
【0074】
尚、第1ローラ7において、当接部73の突出高さは適宜の高さに設定できる。後述するように、カール矯正機構6は、紙幣9を搬送方向に実質的に沿った状態で通過させるよう構成されている。当接部73の突出高さは、カール矯正機構6における紙幣9の搬送スペースとの関係で決定することができる。カール矯正機構6における搬送スペースは、カール矯正機構6の上流における搬送スペース、又は、下流における搬送スペースと同程度にしてもよい。
【0075】
第1ローラ7は、複数の当接部73を有している。複数の当接部73は、第1ローラ7の周方向に並んでいる。第1ローラ7は、周方向に隣り合う当接部73と当接部73との間に、紙幣9のカールの矯正に実質的に寄与しない凹みを有している。尚、図例の第1ローラ7は、6個の当接部73を有している。第1ローラ7における当接部73の数は、特定の数に限定されない。また、図例の第1ローラ7では、周方向に隣り合う当接部73と当接部73とは近接しているが、当接部73と当接部73とは、周方向に離れていてもよい。
【0076】
第1ローラ7の本体72及び当接部73は、合成樹脂、例えば硬質プラスチックによって形成されている。第1ローラ7の当接部73は、後述する第2ローラ8の外周部82よりも硬い。当接部73は、第2ローラ8と接触しても、円弧形状を維持する。
【0077】
第1ローラ7の本体72及び当接部73は、
図3に示すように、第3方向Yについて、一様な形状を有している。尚、本体72及び当接部73は、第3方向Yについて、複数に分割されていてもよい。
【0078】
カール矯正機構6は、第2ローラ8を備えている。詳細には、カール矯正機構6は、柱状のローラであって、回転軸に垂直な断面において、複数の突出した当接部73が実質的な正円の本体72の縁に形成された第1ローラ7と、柱状のローラであって、回転軸に垂直な断面において、実質的な正円により形成された第2ローラ8と、を備えている。第2ローラ8は、第2方向Zについて、紙幣9の搬送位置に対し第2側Z2に位置している。第2ローラ8は、第1ローラ7に対し、第2方向Zに対向している。第2ローラ8は、紙幣9の第2面95に当たる。第2面95は、
図2に示すように、紙幣9において、第1面94とは逆の面であり、ここでは水平方向に搬送される紙幣9の上面である。第2ローラ8は、紙幣9の上側に位置している。
【0079】
第2ローラ8は、本体81を有している。本体81は、例えば、後述する紙幣処理装置1の筐体に支持される。本体81は、第3方向Yの軸Y4を中心に回転可能である。第2ローラ8の軸Y4は、第1ローラ7の軸Y3と平行である。尚、第2ローラ8には、駆動源が連結されていない。第2ローラ8は、後述するように、第1フィード部62によって紙幣9が搬送されることに伴い、紙幣9の搬送力を受けて回転する。
【0080】
第2ローラ8は、外周部82を有している。外周部82は、本体81の外周囲を覆っている。外周部82は、第2ローラ8の表面を形成している。外周部82は、第1ローラ7の当接部73よりも柔らかい材料によって形成されている。外周部82は、例えば発泡プラスチック製である。外周部82は、第1ローラ7の当接部73に押されて弾性変形する。
【0081】
紙幣9が搬送されていない状態において、第2ローラ8は、第1ローラ7に接触している。より詳細に、第2ローラ8の外周部82は、第1ローラ7の当接部73に押されることによって、径方向の内方に弾性変形している。第1ローラ7と第2ローラ8との軸間距離T3は、第2ローラ8の半径r4と第1ローラ7の半径r3(
図4参照)との合計よりも短い。換言すると、第1ローラ7と第2ローラ8との軸間距離T3は、外周部82が、当接部73に押されて弾性変形する距離に設定されている。ここで、
図5及び6から明らかなように、第1ローラ7の本体72は、第2方向Zについて、二点鎖線で示される紙幣9の搬送位置よりも、第2方向Zの第2側Z2に位置することはなく、当接部73の一部が、紙幣9の搬送位置よりも、第2方向の第2側Z2に位置する。
【0082】
第2ローラ8の外周部82が柔らかい材料によって形成されているため、第1ローラ7と第2ローラ8とにより紙幣9に作用するグリップ力は小さい。第1ローラ7と第2ローラ8とにより紙幣9に作用するグリップ力は、第1フィード部62の二つのローラ63、64によって紙幣9に作用するグリップ力よりも、大幅に小さい。グリップ力が小さいことにより、第1ローラ7及び第2ローラ8は、紙幣9に搬送力を付与しない。コンベア61における紙幣9の搬送は、第1フィード部62及び第2フィード部68により行われる。
【0083】
(カール矯正機構によるカール矯正動作)
図5、6を参照しながら、カール矯正機構6によるカール矯正動作を説明する。
図5、6は、カール矯正機構6の第1ローラ7と第2ローラ8とが対向した箇所を、拡大して示している。紙幣9は、
図5、6における下向きに凸となるようカールしている。カール矯正機構6の動作は、
図5のS1、S2から、
図6のS3、S4へと進行する。
【0084】
前述したように、第1フィード部62は、紙幣9を、
図5、6の左から右へ送り出す。紙幣9は、第1ローラ7と第2ローラ8との間を通る。紙幣9が第1ローラ7と第2ローラ8との間を通る間、第1フィード部62の二つのローラ3、64は、紙幣9の一部を挟んでいる。前述したように、二つのローラ3、64により紙幣9に作用するグリップ力は、相対的に大きい。
【0085】
第1ローラ7の回転速度Vrは、紙幣9の搬送速度Vtと同じか、それ以上に設定される。搬送速度Vtは、第1フィード部62の駆動ローラ63の回転速度に対応する。尚、回転速度Vrは、第1ローラ7の回転数N(rpm)から算出した、第1ローラ7の最外周の移動速度である(Vr=2π・r3・N/60)。
【0086】
第1ローラ7の当接部73は、紙幣9の第1面94に当たる。第2ローラ8の外周部82は、紙幣9を、第1ローラ7の外周面へ押し付ける。紙幣9は、カールの向きとは逆向きに曲げられる。
【0087】
第1ローラ7の回転速度Vrが、紙幣9の搬送速度Vtよりも高い場合、回転速度Vrと搬送速度Vtとの速度差(Vr-Vt)により、当接部73に沿って曲げられた紙幣9の箇所が、第1搬送方向X1の方へ引っ張られる。カールの方向に曲がった紙幣9の繊維が、カールの方向とは逆方向に曲げられながら引っ張られることにより、繊維の曲がりが真っ直ぐになるよう矯正される。この紙幣9の曲げと、紙幣9の引っ張りとが組み合わさって、紙幣9のカールが矯正される。以下の説明においては、当接部73が、紙幣9に対して曲げと引っ張りとを加える動作を、カール矯正機構6の矯正動作と呼ぶ。
【0088】
カール矯正機構6は、紙幣9に対するグリップ力が小さい。第1ローラ7と第2ローラ8との間を通過する紙幣9に、過剰な力が与えられない。カール矯正機構6は、紙幣9のカールを矯正する際の、紙幣9へのダメージを低減できる。
【0089】
また、カール矯正機構6は、従来の平坦化装置のように紙幣9を大きく曲げることはしない。
図5、6に示すように、カール矯正機構6を通過する紙幣9は、局所的に曲げられるものの、紙幣9の全体としては、搬送方向に実質的に沿った状態を維持し、その通過の間にカールが矯正される。カール矯正機構6は、紙幣9に与えるダメージが小さい。
【0090】
第1ローラ7は、複数の当接部73を有している。第1ローラ7の回転に伴い、各当接部73は、紙幣9の第1面94に順次に当たるから、カール矯正機構6は、一枚の紙幣9に対して複数回の矯正動作を実施できる。
【0091】
図7は、第1ローラ7の回転速度Vrを変更した場合の、第1ローラ7の矯正動作の変化を示している。
図7の縦線98は紙幣9の長さを示している。この長さは、紙幣9の搬送方向に沿った長さであり、ここでは、短辺96の長さである。
図7の横線99は、紙幣9に対して当接部73が接する箇所を示している。図例においては、回転速度Vrが搬送速度Vtと同じ場合、当接部73は、紙幣9に6回、当接している。紙幣9は搬送されているため、紙幣9において当接部73が当接する箇所は、それぞれ異なる。
【0092】
回転速度Vrが搬送速度Vtと同じ場合、速度差がゼロであるため、当接部73によって紙幣9が引っ張られない。回転速度Vrが搬送速度Vtと同じ場合、カール矯正機構6は、実質的に、矯正動作を実施しない。
【0093】
回転速度Vrが搬送速度Vtの1.5倍である場合、当接部73は、紙幣9に対し、9回、当接している。また、速度差が生じるため、当接部73が紙幣9に当接する毎に、矯正動作が実施される。ここで、速度差が小さい場合、
図7において破線の矢印で示される矯正動作の範囲は小さい。矯正動作の範囲は、
図4に示す当接面74が、紙幣9の第1面に当接した範囲に対応する。速度差が大きいと、当接面74は、紙幣9よりも速く移動するから矯正動作の範囲は大きくなり、速度差が小さいと、当接面74と紙幣9とは同程度の速度で移動するから矯正動作の範囲は小さくなる。
図7に示すように、回転速度Vrが搬送速度Vtの1.5倍である場合、カール矯正機構6は、紙幣9のところどころにおいて、1回の矯正動作を実施する。カール矯正機構6によるカールの矯正は弱い。
【0094】
回転速度Vrが搬送速度Vtの3倍である場合、当接部73は、紙幣9に18回、当接している。また、速度差が大きいため、矯正動作の範囲も大きい。
図7において破線の矢印で示される矯正動作の範囲が重なり合う箇所は、紙幣9の同一箇所に対して、複数回の矯正動作が実施されることを意味している。回転速度Vrが搬送速度Vtの3倍である場合、カール矯正機構6は、紙幣9の各箇所において、4回のカールの矯正動作を実施する。カール矯正機構6は、紙幣9のカールを強く矯正できる。
【0095】
また、回転速度Vrが搬送速度Vtの2倍である場合、当接部73は、紙幣9に12回、当接し、カール矯正機構6は、紙幣9の各箇所において、1-2回のカールの矯正動作を実施する。回転速度Vrが搬送速度Vtの2.5倍である場合、当接部73は、紙幣9に15回、当接し、カール矯正機構6は、紙幣9の各箇所において、2-3回のカールの矯正動作を実施する。
【0096】
カール矯正機構6は、複数の当接部73を有する第1ローラ7の回転速度Vrを搬送速度Vtよりも高くすることにより、紙幣9の各箇所について、複数回の矯正動作を実施できる。また、カール矯正機構6は、複数の当接部73を有する第1ローラ7の回転速度Vrを搬送速度Vtよりも高くする度合いを変更することにより、紙幣9に対する矯正の度合いを変更できる。このときに、カール矯正機構6により紙幣9に作用するグリップ力は、相対的に小さいため、第1ローラ7の回転速度Vrを搬送速度Vtよりも高くしても、紙幣9に過剰な力が加わらない。カール矯正機構6は、紙幣9へのダメージを低減しながらも、紙幣9のカールを効率的に矯正できる。
【0097】
カール矯正機構6は、紙幣9のカールの度合いに応じて、第1ローラ7の回転速度Vrを変更する。具体的には、紙幣9のカールの度合いが強い場合は、第1ローラ7の回転速度Vrを高くし、紙幣9のカールの度合いが弱い場合は、第1ローラ7の回転速度Vrを低くする。カール矯正機構6は、紙幣9のカールを適切に矯正できる。第1ローラ7の回転速度Vrは、
図1に示すように、コントローラー15が第2電気モータ79の回転速度を変更することによって、変更される。
【0098】
カール矯正機構6はまた、紙幣9のカールを矯正しない場合、例えば紙幣9がカールしていない場合、第1ローラ7の回転速度Vrを、搬送速度Vtと同じにする。カール矯正機構6は、矯正動作を実施しない。尚、第1ローラ7の回転速度Vrは搬送速度Vtと実質的に同じであってもよい。
【0099】
カール矯正機構6は、ローラの回転速度の変更のみでカールの矯正の実行/非実行が切り替わる。カールの矯正の実行/非実行の切り替えために、例えば従来の平坦化装置の平坦化ブロックのような特定部材を、移動させる必要がない。特定部材を移動させる機構が省略できるため、カール矯正機構6の信頼性の向上に有利である。
【0100】
(紙葉類処理装置)
図8、9は、カール矯正機構6を備えた紙葉類処理装置を例示している。この紙葉類処理装置は、例えば銀行等の金融機関に設置される紙幣処理装置1である。紙幣処理装置1は、入金処理及び出金処理を含む各種の処理を実行する。紙幣処理装置1は、例えばリサイクラーである。尚、紙幣処理装置1は、金融機関に設置する以外に、例えば小売店舗のバックオフィス等に設置して使用できる。
【0101】
紙幣処理装置1は、処理部11と金庫部13とを有している。処理部11は、紙幣処理装置1の上部に位置する。金庫部13は、処理部11の下側に位置している。
【0102】
処理部11は、入金部21を有している。入金部21は、例えば入金処理において、利用者が入金のための紙幣9を投入する部位である。入金部21は、紙幣9を一枚ずつ装置の中へ繰り出す機構を有している。
【0103】
処理部11は、出金部22を有している。出金部22は、例えば出金処理において、出金のための紙幣9が払い出される部位である。
【0104】
処理部11は、一時保留部24を有している。一時保留部24は、後述する精査処理において、紙幣9を一時的に収納することに利用される。一時保留部24はまた、入金処理において利用される場合もある。尚、一時保留部24に、その他の機能が与えられてもよい。
【0105】
一時保留部24は、例えば巻取式の収納ユニットである。巻取式の収納ユニットは、ドラムとテープとを有している。ドラムは、一時保留部24の開口を通じて中に入った紙幣9を、テープと共に巻き取る。ドラムに巻き取られたテープが引き出されることによって、紙幣9は開口を通じて一時保留部24の外へ繰り出される。一時保留部24には、公知の様々な構造が採用できる。
【0106】
処理部11は、上部搬送路41を有している。紙幣9は、上部搬送路41に沿って、一枚一枚、間隔を開けて搬送される。
【0107】
上部搬送路41は、ループ状の搬送路411を有している。紙幣9は、ループ状の搬送路411に沿って、
図8における時計回り方向又は反時計回り方向に搬送される。入金部21、出金部22、及び、一時保留部24はそれぞれ、ループ状の搬送路411から分岐した搬送路412、413、414に接続されている。
【0108】
処理部11は、識別部25を有している。識別部25は、ループ状の搬送路411に位置している。紙幣9は、識別部25を通過する。識別部25は、識別部25を通過する紙幣9の一枚一枚について識別を行う。識別部25は、紙幣9の特徴を取得するためのセンサを有している。識別部25は、例えば、画像センサ、赤外線センサ、紫外線センサ、及び磁気センサを有している。識別部25は、紙幣9の特徴に基づいて、紙幣9の金種、真偽、及び、正損を識別する。識別部25はまた、紙幣9に印刷されている識別番号を取得する。
【0109】
金庫部13は、収納部を有している。金庫部13は、第1収納部31、第2収納部32、第3収納部33、第4収納部34、第5収納部35、第6収納部36、第7収納部37、第8収納部38、第9収納部39、及び、第10収納部310を有している。これらの収納部は、金庫部13の中において、前後方向に並んでいると共に、上下に重なっている。第1~第10収納部31~310は、例えば異なる金種の紙幣9を収納してもよい。
【0110】
第1~第10収納部31~310は、巻取式の収納ユニットである。第1~第10収納部31~310には、同じ収納ユニットが用いられている。
図10は、巻取式の収納ユニット30を例示している。
図10の収納ユニット30は、
図8の、例えば第2収納部32が設置されている向きで描かれている。
【0111】
収納ユニット30は、ドラム301を有している。ドラム301は、第3方向Yに延びる軸Y5を中心に、
図10の時計回り方向及び反時計回り方向に回転する。
【0112】
収納ユニット30が紙幣9を収納する場合、ドラム301は、時計回り方向に回転する。収納ユニット30の開口302を通過して収納ユニット30の内部に進入した紙幣9は、テープ303、304と共に、ドラム301の外周囲に巻き取られる。紙幣9は、後述するように、長辺97の縁を前にして搬送されているから、紙幣9は、短辺96の方向について、ドラム301の外周面に沿うように曲げられる。尚、テープ303、304は、テープリール305から引き出される。
【0113】
収納ユニット30の収納量が少ない場合、紙幣9は、ドラム301に近い位置に巻き取られる。ドラム301に近い位置に巻き取られた紙幣9の曲げの曲率1/r5は、相対的に大きい。収納ユニット30の収納量が多くなればなるほど、紙幣9は、ドラム301から離れた位置に巻き取られる。ドラム301から離れた位置に巻き取られた紙幣9の曲げの曲率1/r6は、相対的に小さい。
【0114】
収納ユニット30が紙幣9を繰り出す場合、ドラム301は、反時計回り方向に回転する、ドラム301の外周囲に巻き取られていた紙幣9は、テープ303、304と共に、ドラム301から離れて、開口302から収納ユニット30の外へ繰り出される。収納ユニット30は、先に収納された紙葉類が、後から繰り出される構造を有している。
【0115】
尚、紙幣処理装置1に適用可能な収納ユニット30は、
図10の構造に限定されない。公知の様々な構造の収納ユニットが、紙幣処理装置1の収納部31~310として採用できる。また、一時保留部24に、
図10の収納ユニット30を用いてもよい。
【0116】
金庫部13は、下部搬送路42を有している。紙葉類は、下部搬送路42に沿って、一枚一枚、間隔を開けて搬送される。
【0117】
下部搬送路42は、上部搬送路41のループ状の搬送路411から分岐した分岐路421を有している。第1収納部31、第2収納部32、第3収納部33、第4収納部34、第5収納部35、第6収納部36、第7収納部37、及び、第8収納部38はそれぞれ、分岐路421からさらに分岐した分岐路422に接続されている。第9収納部39、及び、第10収納部310はそれぞれ、分岐路421からさらに分岐した分岐路423に接続されている。
【0118】
搬送部4は、上部搬送路41又は下部搬送路42に沿って、紙幣9を搬送する。紙幣9は、上部搬送路41及び下部搬送路42において、その長辺97の縁を前にして搬送される。
【0119】
上部搬送路41及び下部搬送路42はそれぞれ、一又は複数のコンベアによって構成されている。コンベアは、ローラ、搬送ベルト、モータ、及び、ガイドの組み合わせによって構成されている。
【0120】
上部搬送路41及び下部搬送路42における各分岐箇所には、分岐機構が配設されている。分岐機構は、紙幣9の搬送方向を切り替える。分岐機構の構造は公知である。また、上部搬送路41及び下部搬送路42における各所には、通過センサが配設されている。通過センサは、光学式、超音波式又は機械式のセンサであって、紙幣9の通過を検知する。通過センサは、後述するコントローラー15へ検知信号を出力する。搬送部4は、コントローラー15からの制御信号と通過センサの検知信号とに基づいて各分岐機構を制御する。紙幣9は、所定の搬送先へ搬送される。
【0121】
尚、
図1の搬送部4の構成は一例である。上部搬送路41及び下部搬送路42の構成は、入金部21、出金部22、一時保留部24、識別部25、及び、収納部31~310の配置に応じて、適宜変更することができる。
【0122】
紙幣処理装置1は、
図9に示すように、コントローラー15を備えている。コントローラー15は、CPU(Central Processing Unit)、メモリ、及び、I/O回路を含んで構成することができる。CPUは、プログラムを実行する。メモリは、紙幣処理装置1の動作のためのプログラム及びデータを格納する。メモリは、例えばRAM(Random Access Memory)及び/又はROM(Read Only Memory)である。I/O回路は、コントローラー15とコントローラー15に接続された各機器との間の電気信号の入出力を行う。コントローラー15には、入金部21、出金部22、一時保留部24、識別部25、搬送部4、及び、第1~第10収納部31~310が、それぞれ信号の授受可能に接続されている。
【0123】
紙幣処理装置1は、インターフェース26を有している。インターフェース26は、コントローラー15に信号の授受可能に接続されている。インターフェース26は、利用者が操作を行う部位である。インターフェース26は、例えばタッチパネルディスプレイ、及び/又は、EPP(Encrypting Pin Pad)としてもよい。利用者は、インターフェース26を通じて、入金処理、出金処理又は精査処理の実行を、紙幣処理装置1へ指示することができる。インターフェース26はまた、外部装置からの信号を受信する受信機であってもよい。利用者が外部装置を操作することにより、外部装置はインターフェース26へ信号を送信する。インターフェース26は、利用者の操作に対応する信号を、コントローラー15へ出力する。
【0124】
紙幣処理装置1は、記憶部27を有している。記憶部27は、各種の情報を記憶する。記憶部27は、例えば、第1~第10収納部31~310のそれぞれに収納されている紙幣9の情報を記憶する。記憶部27は、具体的には、第1~第10収納部31~310のそれぞれに収納されている紙幣9の枚数及び金種を記憶している。記憶部27はまた、第1~第10収納部31~310それぞれの在高を記憶している。在高は、紙幣9の枚数及び金種に基づく合計金額である。
【0125】
記憶部27はまた、第1~第10収納部31~310に収納されている紙幣9の識別番号を記憶している。記憶部27は、第1~第10収納部31~310における紙幣9の収納順に、識別番号を記憶している。第1~第10収納部31~310に紙幣9が収納され、第1~第10収納部31~310から紙幣9が繰り出される毎に、記憶部27は、識別番号の情報を更新する。コントローラー15は、この識別番号の情報に基づいて、第1~第10収納部31~310から繰り出された紙幣9が、当該収納部31~310に収納されていた期間、及び/又は、収納位置(つまり、ドラム301の径方向の位置)を判断できる。
【0126】
コントローラー15は、利用者の指示に関する信号であって、インターフェース26からの信号を受けた場合に、紙幣処理装置1が所定の動作を行うよう、入金部21、出金部22、一時保留部24、識別部25、搬送部4、又は、第1~第10収納部31~310へ制御信号を出力する。以下、紙幣処理装置1が各種の処理を実行する際の動作を、簡単に説明する。
【0127】
(入金処理)
利用者は、入金のための紙幣9を、入金部21に投入する。入金部21は、紙幣9を一枚一枚、装置の中へ繰り出す。搬送部4は、紙幣9を識別部25へ搬送する。識別部25は、紙幣9を識別する。識別部25はまた、紙幣9から識別番号を読み取る。
【0128】
搬送部4は、識別部25の識別結果に従って、紙幣9を、第1~第10収納部31~310へ搬送する。収納部31~310は、紙幣9を収納する。尚、搬送部4は、識別部25がリジェクト紙幣であると識別した紙幣9を、利用者へ返却するために、出金部22へ搬送する。入金が確定すれば、記憶部27は、収納部31~310に収納された紙幣9に関する情報を記憶する。
【0129】
(出金処理)
利用者は、インターフェース26を通じて、出金すべき紙幣9の金種及び枚数を指定する。利用者は、出金すべき金額を指定してもよい。
【0130】
第1~第10収納部31~310は、出金のための紙幣9を繰り出す。具体的には、出金すべき金種の紙幣9を収納している収納部が、紙幣9を繰り出す。搬送部4は、紙幣9を、識別部25へ搬送する。識別部25は、紙幣9の識別を行う。搬送部4は、識別部25によって非リジェクト紙幣と判断された紙幣9、つまり正常紙幣を、出金部22へ搬送する。出金部22は紙幣9を保持する。出金すべき紙幣9が全て、出金部22に払い出されれば、出金処理は終了する。記憶部27は、出金処理後に、収納部31~310から繰り出された紙幣9に関する情報を、消去する。
【0131】
(精査処理)
精査処理は、収納部31~310に収納されている紙幣9を確定するための処理である。精査処理の対象の収納部31~310は、紙幣9を繰り出す。搬送部4は、紙幣9を、識別部25へ搬送する。識別部25は、紙幣9の識別を行う。搬送部4は、識別部25を通過した紙幣9を一時保留部24へ搬送する。一時保留部24は紙幣9を収納する。
【0132】
処理対象の収納部31~310から繰り出された紙幣9が、一時保留部24に収納されれば、一時保留部24は、収納した紙幣9を繰り出す。搬送部4は、紙幣9を元の収納部31~310へ搬送する。搬送部4は、紙幣9が識別部25を通過する経路で、紙幣9を搬送してもよい。識別部25は、紙幣9の識別を省略してもよい。収納部31~310は、紙幣9を再収納する。記憶部27は、再収納された紙幣9の情報を記憶する。
【0133】
(カール矯正機構の配置)
前述したように、紙幣9の長辺97を先頭にして紙幣9が搬送される装置においては、巻取式の収納ユニット30に収納された紙幣9は、短辺96の方向について曲げられる。収納ユニット30に収納された時間が長く継続すると、紙幣9はカールする場合がある。収納時間が長くなればなるほど、紙幣9はカールしやすい。収納ユニット30から、カールした紙幣9が繰り出される。
【0134】
図8の符号Cは、収納部31~310の内部、又は、各搬送路411、421、422、423において搬送される紙幣9のカールの向きを示している。紙幣9のカールの向きは、ドラム301の巻き取り方向によって定まる。
【0135】
図1に示すカール矯正機構6は、
図8に示されるように、ループ状の搬送路411の特定箇所に位置している。より詳細にカール矯正機構6は、ループ状の搬送路411において、収納部31~310から繰り出されて、識別部25へ向かう紙葉類が、
図8の左から右へ搬送される箇所に位置している。カール矯正機構6は、言い換えると、収納部31~310と出金部22とを接続する搬送路を構成するコンベアに含まれている。また、カール矯正機構6は、言い換えると、収納部31~310と一時保留部24とを接続する搬送路を構成するコンベアに含まれている。
【0136】
この位置においてカール矯正機構6を通過する紙幣9は、第2方向Zの第1側Z1(つまり、
図8の下側)に凸となるようカールしている。カール矯正機構6は、
図1に示す向きで、紙幣処理装置1に搭載されている。
【0137】
(カール矯正機構の制御)
カール矯正機構6は、コントローラー15からの制御信号を受けて、紙幣処理装置1が出金処理を実行する際に、紙幣9のカールを矯正する。具体的にカール矯正機構6は、いずれかの収納部31~310から繰り出された紙幣9が、出金部22から紙幣処理装置1の外へ排出される前に、紙幣9のカールを矯正する。紙幣処理装置1は、カールしていない、平坦な又は略平坦な紙幣9を、出金部22へ排出できる。
【0138】
カール矯正機構6は、コントローラー15からの制御信号を受けて、紙幣処理装置1が精査処理を実行する際に、紙幣9のカールを矯正する。具体的にカール矯正機構6は、いずれかの収納部31~310から繰り出された紙幣9が、収納部31~310から一時保留部24へ搬送される間に、紙幣9のカールを矯正する。収納部31~310から繰り出された紙幣9のカールがカール矯正機構6によって矯正された後、当該紙幣9が収納部31~310に再収納される。巻取式の収納部31~310に長期間、紙幣9が収納されても、精査処理に併せてカール矯正を行えば、当該紙幣9のカールの度合いは弱くなる。紙幣処理装置1は、例えば出金処理の際に、カールしていない又はカールの弱い紙幣9を装置の外へ排出できる。
【0139】
尚、カール矯正機構6は、紙幣9が一時保留部24から収納部31~310へ搬送される際、換言すれば、紙幣9が第2搬送方向X2へ搬送される際には、前述の通り、コントローラー15は、第1ローラ7の回転速度Vrを、紙幣9の搬送速度Vtと同じにしてもよい。このことにより、カール矯正機構6は、紙幣9のカールの矯正を行わない。
【0140】
また、これとは異なり、カール矯正機構6は、収納部31~310から一時保留部24へ紙幣9が搬送される際には、紙幣9のカールの矯正を行わず、一時保留部24から収納部31~310へ紙幣9が搬送される際に、紙幣9のカールを矯正してもよい。カール矯正機構6のカールの矯正と非矯正との切り替えは、第1ローラ7の回転速度の変更によって行われるため、カール矯正機構6は、紙幣9が第1搬送方向X1に搬送されている場合と、第2搬送方向X2に搬送されている場合との両方において、紙幣9のカールを矯正できる。
【0141】
尚、カール矯正機構6は、出金処理及び精査処理のいずれか一方の処理時に、紙幣9のカールを矯正してもよい。
【0142】
カール矯正機構6は、例えば紙幣処理装置1が入金処理を実行する際には、コントローラー15からの制御信号を受けて、紙幣9のカールの矯正を実施しない。入金処理時に、カール矯正機構6を、第2搬送方向X2に通過する紙幣9は、カールしていないためである。カール矯正機構6は、紙幣9が第2搬送方向X2に搬送されている場合に、第1ローラ7の回転速度Vrを、搬送速度Vtと同じにする。これにより、これから収納部31~310へ収納される紙幣9については、カールの矯正が行われない。
【0143】
なお、入金処理時にも紙幣9のカールの矯正を実施してもよい。入金部21に載置された状態で上方にカールする紙幣が入金されるときは、カール矯正機構6は、カールの矯正を実施してもよい。紙幣処理装置1は、カールの矯正を実施するか否かの問い合わせを、紙幣処理装置1のディスプレイ(図示せず)に表示してもよい。例えば、他の紙幣処理装置に収納されていたことによりカールした紙幣を、紙幣処理装置1に入金する場合、上方にカールする紙幣が入金口にセットされたときは、利用者は、カールの矯正を実施するように紙幣処理装置1に指示を与えることができる。
【0144】
前述したように、収納部31~310に収納されている紙幣9は、その収納量に応じて曲げの曲率が異なり、収納量が少ないと曲率が大きく、収納量が多いと曲率が小さい。収納部31~310のドラム301に近い位置で収納される紙幣9は曲率が大きい状態で収納され、収納部31~310のドラム301から遠い位置で収納される紙幣9は曲率が小さい状態で収納される。また、収納部31~310に収納されている紙幣9は、その収納期間に応じて、曲げられたままで保持される期間が異なる。従って、収納部31~310から繰り出された紙幣9のカールの度合いは一様ではない。
【0145】
例えば
図11は、収納部31~310から繰り出された紙幣9のカールの度合いを例示している。
図11は、紙幣9が収納部31~310に収納されていた期間(つまり、収納期間)の長短と、紙幣9が収納部31~310に収納された際の収納部31~310の収納量の大小と、カールの度合いとの関係を示している。
図11の関係マップは、記憶部27に記憶されている。収納期間が短い場合、紙幣9にはカールがつきにくく、収納期間が長い場合、紙幣9にはカールがつきやすい。収納量が大の場合、曲げの曲率が小さいため、紙幣9にはカールがつきにくく、収納量が小の場合、曲げの曲率が大きいため、紙幣9にはカールがつきやすい。
図11では、収納期間の長短と、収納量の大小とに応じて、紙幣9のカールの度合いを、強、中、弱、及び無しの四つに分類している。コントローラー15は、記憶部27に記憶されている収納部31~310内の紙幣9の情報に基づいて、収納部31~310から繰り出された紙幣9のカールの度合いを推定する。なお、カールの度合いの推定は、各種要素に基づいて行うことができる。各種要素は、収納期間の長短、収納量の大小(収納位置)、紙幣の材質、などの要素あり、前述の要素を単独で又は組み合わせてカールの度合いの推定を行ってもよい。これらの要素は、紙幣の情報に相当する。
【0146】
尚、コントローラー15は、収納期間の長短のみに基づいて、紙幣9のカールの度合いを推定してもよい。コントローラー15は、収納量の大小のみに基づいて、紙幣9のカールの度合いを推定してもよい。また、収納量の大小に代えて、収納部31~310内における、紙幣9の収納位置(ドラム301の径方向の位置)が用いられてもよい。
【0147】
また、カールの度合いは、四つに分類することに限らない。分類の数は、適宜の数を採用できる。
【0148】
コントローラー15は、収納部31~310から繰り出された紙幣9のカールの度合いに応じて、カール矯正機構6の第1ローラ7の回転速度Vrを変更する。
図12は、紙幣9のカールの度合いと、回転速度Vrとの関係を例示している。カールの度合いが強い場合、回転速度Vrは高くされ、カールの度合いが弱い場合、回転速度Vrは低くされる。但し、回転速度Vrは搬送速度Vtよりも高い。紙幣9がカールしていない場合、回転速度Vrは搬送速度Vtと同じにされる(Vr=Vt)。
【0149】
紙幣9のカールの度合いに応じて第1ローラ7の回転速度Vrが変わるため、カール矯正機構6は、紙幣9のカールを適切に矯正することができる。
【0150】
尚、ここでは、第1ローラ7の回転速度Vrを段階的に変更しているが、第1ローラ7の回転速度Vrは、連続的に変更されてもよい。例えば
図11の関係マップに代えて、収納期間の長短と、収納量の大小と、カールの度合いとの関係を示すモデル式を予め定めておき、コントローラー15は、モデル式に基づいて、カールの度合いを数値化してもよい。この場合、数値化されたカールの度合いに基づいて、コントローラー15は、第1ローラ7の回転速度Vrを連続的に変更できる。また、収納期間の長短と、収納量の大小と、カールの矯正するための第1ローラ7の回転速度Vrとの関係を示すモデル式を予め定め、当該モデル式に基づいて、コントローラー15は、第1ローラ7の回転速度Vrを連続的に変更してもよい。
【0151】
(カール矯正機構の変形例)
図13は、カール矯正機構60を示している。カール矯正機構60は、カール矯正機構6の変形例である。カール矯正機構60は、カール矯正機構6に代えて、紙幣処理装置1に搭載できる。
【0152】
カール矯正機構60は、第1ローラ70を備えている。第1ローラ70は、第1搬送方向X1について、第1フィード部62の下流に位置している。第1ローラ70は、第2方向Zについて、紙幣9の搬送位置に対し第1側Z1に位置し、コンベア612によって搬送される紙幣9の第1面94に当たる。
【0153】
第1ローラ70は、第3方向Yに延びる軸Y6を中心に回転する。第1ローラ70の軸Y6は、駆動ローラ63の軸Y1と平行である。
【0154】
第1ローラ70は、横断面円形である。第1ローラ70の径は、第1フィード部62の駆動ローラ63の径よりも小さい。第1ローラ70の径は、後述する第2ローラ80の径よりも、大幅に小さい。第1ローラ70は、例えば金属製である。第1ローラ70の当接部及び当接面は、第1ローラ70の外周面の全体であり、当接面の曲率は、第2ローラ80の曲率よりも小さい。
【0155】
第1ローラ70は、第1フィード部62の駆動ローラ63と従動ローラ64との当接位置に対し、第2側Z2にずれた位置に位置している。第1ローラ70と第1フィード部62との間には、紙幣9を案内する第1ガイド613が位置している。第1ガイド613は、第1搬送方向X1に搬送される紙幣9を、斜め上方へ案内する。また、第1ローラ70に対し、第1搬送方向X1の下流には第2ガイド614が位置している。第2ガイド614は、第1ガイド613に対し、第1ローラ70の中心軸を含む面について対称な形状を有している。
【0156】
カール矯正機構60は、第2ローラ80を備えている。第2ローラ80は、第2方向Zについて、紙幣9の搬送位置に対し第2側Z2に位置している。第2ローラ80は、第1ローラ70に対し、第2方向Zに対向している。第2ローラ80は、紙幣9の第2面95に当たる。
【0157】
第2ローラ80は、第3方向Yに延びる軸Y7を中心に回転可能である。第2ローラ80の軸Y7は、第1ローラ70の軸Y6と平行である。
【0158】
第2ローラ80は、横断面円形である。第2ローラ80は、第1ローラ70よりも柔らかい材料によって形成されている。第2ローラ80は、例えば合成ゴム製である。第2ローラ80は、第1ローラ70に押されて弾性変形する。
【0159】
第1ローラ70と第2ローラ70とにより紙幣9に作用するグリップ力は、第1フィード部62の二つのローラ63、64によって紙幣9に作用するグリップ力よりも小さい。
【0160】
第1フィード部62が送り出した紙幣9は、第1ガイド613によって案内されて、第1ローラ70と第2ローラ80とに挟まれる。第1ローラ70及び第2ローラ80を通過した紙幣9は、第2ガイド614に案内される。第1ローラ70と第2ローラ80とに挟まれた紙幣9は、カールの向きとは逆向きに曲げられ、それによって、カールが矯正される。
【0161】
尚、紙幣処理装置1におけるカール矯正機構6、60の位置は、
図8に示す位置に限定されない。カール矯正機構6、60は、紙幣処理装置1における適宜の位置に設置が可能である。但し、カール矯正機構6、60は、紙幣9のカールの向きに応じた向きに設置される。
【0162】
前述したカール矯正機構6、60は、短辺の方向についてカールした紙幣9のカールを矯正しているが、カール矯正機構6、60は、長辺97の方向についてカールした紙幣9のカールを矯正することも可能である。その場合、紙幣処理装置1の搬送部4は、上部搬送路41及び下部搬送路42において、紙幣9を、その短辺96の縁を前にして搬送すればよい。
【0163】
さらに、カール矯正機構6の第2ローラ8は、紙幣9を第1ローラ7へ押さえる機能を有していればよい。従って、第2ローラ8に代えて、カール矯正機構6は、第1ローラ7に対し、第2方向Zに対向する対向部を備えてもよい。対向部は、例えば第1ローラ7の当接部73に当接し、当接部73に押されて弾性変形する対向面を有してもよい。
【0164】
また、ここに開示するカール矯正機構6、60が搭載可能な装置は、
図8の紙幣処理装置1に限らない。カール矯正機構6、60は、様々な紙葉類処理装置に搭載することが可能である。
【符号の説明】
【0165】
1 紙幣処理装置(紙葉類処理装置)
15 コントローラー
22 出金部(排出部)
24 一時保留部
31~310 収納部
6 カール矯正機構
61 コンベア
62 第1フィード部
63 駆動ローラ
64 従動ローラ
7 第1ローラ
73 当接部
74 当接面
79 第2電気モータ(駆動源)
8 第2ローラ(対向部)
82 外周部
9 紙幣(紙葉類)