(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154563
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】地盤凍結システム及び地盤凍結工法
(51)【国際特許分類】
E02D 3/115 20060101AFI20241024BHJP
E02D 19/14 20060101ALI20241024BHJP
E21D 1/12 20060101ALI20241024BHJP
E21D 9/04 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
E02D3/115
E02D19/14
E21D1/12
E21D9/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068449
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】591063486
【氏名又は名称】一般財団法人先端建設技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】390002233
【氏名又は名称】ケミカルグラウト株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000194756
【氏名又は名称】成和リニューアルワークス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096002
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 弘之
(74)【代理人】
【識別番号】100091650
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 規之
(72)【発明者】
【氏名】吉川 正
(72)【発明者】
【氏名】橋立 健司
(72)【発明者】
【氏名】河原 一弘
(72)【発明者】
【氏名】相馬 啓
(72)【発明者】
【氏名】塩屋 祐太
(72)【発明者】
【氏名】小池 遼太郎
(72)【発明者】
【氏名】西 征一郎
【テーマコード(参考)】
2D043
2D054
【Fターム(参考)】
2D043CA14
2D054FA04
(57)【要約】
【課題】冷凍機側に戻される冷媒中の気液の混合比率を定量的に計測することにより、最適な配管長及び適正な冷媒流量を導出可能とする技術の実現。
【解決手段】気液の相変化を伴う冷媒によって周囲の土壌22を冷却する凍結管16と、土壌22との熱交換によって気化された冷媒を冷却して液体に戻す冷凍機12と、凍結管16と冷凍機12との間で冷媒を循環させる第3の配管70と、凍結管16から排出された冷媒中の気体成分の割合を計測し、外部に出力する乾き度検出手段を備えた地盤凍結システム10。乾き度検出手段としては、例えば乾き度センサ18が該当する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
気液の相変化を伴う冷媒によって周囲の土壌を冷却する凍結管と、
土壌との熱交換によって気化された冷媒を冷却して液体に戻す冷凍機と、
上記凍結管と冷凍機との間で冷媒を循環させる配管と、
上記凍結管から排出された冷媒中の気体成分の割合を計測し、外部に出力する乾き度検出手段と、
を備えた地盤凍結システム。
【請求項2】
上記乾き度検出手段が、
凍結管に供給される冷媒の単位時間当たりの質量を計測する第1の流量計と、
凍結管から排出された冷媒を気体成分と液体成分に分離する気液分離装置と、
気液分離装置から排出された液体成分の単位時間当たりの質量を計測する第2の流量計と、
第1の流量計及び第2の流量計の出力結果に基づいて気体成分の割合を算出する演算手段と、
からなることを特徴とする請求項1に記載の地盤凍結システム。
【請求項3】
上記乾き度検出手段が、凍結管から排出された冷媒中の気体成分の割合を計測する機能を備えた乾き度センサよりなることを特徴とする請求項1に記載の地盤凍結システム。
【請求項4】
上記配管の途中に介装され、複数本の凍結管に並列的に冷媒を供給するヘッダ管と、
上記ヘッダ管に接続された複数本の凍結管とを備え、
上記凍結管の少なくとも一つに上記乾き度検出手段が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の地盤凍結システム。
【請求項5】
前の凍結管の戻り側配管から排出された冷媒が、次の凍結管の送り側配管に供給され、最前の凍結管の送り側配管に冷凍機によって冷却された冷媒が供給されると共に、最後の凍結管の戻り側配管から排出された冷媒が冷凍機に戻される凍結管の直列接続構造を備え、
上記第1の流量計が最前の凍結管の送り側配管と冷凍機との間に介装されており、
上記第2の流量計が最後の凍結管の戻り側配管と冷凍機との間に介装されていることを特徴とする請求項2に記載の地盤凍結システム。
【請求項6】
前の凍結管の戻り側配管から排出された冷媒が、次の凍結管の送り側配管に供給され、最前の凍結管の送り側配管に冷凍機によって冷却された冷媒が供給されると共に、最後の凍結管の戻り側配管から排出された冷媒が冷凍機に戻される凍結管の直列接続構造を備え、
上記乾き度センサが、最後の凍結管の戻り側配管と冷凍機との間に介装されていることを特徴とする請求項3に記載の地盤凍結システム。
【請求項7】
請求項1に記載の地盤凍結システムを用いた地盤凍結工法であって、
冷凍機と凍結管との間の配管長を段階的に延長する工程と、
配管長を段階的に延長する各段階における冷媒の気体成分の割合を計測する工程と、
この計測結果に基づいて最適な配管長を決定する工程と、
からなる地盤凍結工法。
【請求項8】
請求項1に記載の地盤凍結システムを用いた地盤凍結工法であって、
冷凍機から凍結管に供給する冷媒の流量を段階的に増加させる工程と、
冷媒の流量を段階的に増加させる各段階における冷媒の気体成分の割合を計測する工程と、
この計測結果に基づいて最適な流量を決定する工程と、
からなる地盤凍結工法。
【請求項9】
請求項5または6に記載の地盤凍結システムを用いた地盤凍結工法であって、
直列接続される凍結管の本数を段階的に増加させる工程と、
各段階における冷媒の気体成分の割合を計測する工程と、
この計測結果に基づいて最適な凍結管の本数を決定する工程と、
からなる地盤凍結工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は地盤凍結システム及び地盤凍結工法に係り、特に、土壌の凍結を担う冷媒として気液の相変化を伴う物質を用いる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工法の一つとして、地下水を含む土壌を凍らせることによって地盤の安定化を図る地盤凍結工法が知られている。
この工法においては、地中に凍結管を複数本埋設し、冷凍機で冷却した冷媒を各凍結管に循環させることが行われる。
この結果、各凍結管の周囲に凍土が年輪のように成長していき、やがて隣接する凍結管の凍土が結合することにより、凍土壁が形成される。
凍結した土は水を通すこともなく、コンクリートと同様の高い強度を備えるため、地下水の噴出や土砂の崩壊を防ぐことが可能となる。
【0003】
凍結管に供給する冷媒としては、塩化カルシウム水溶液等のブライン(不凍液)が最も一般的であるが、最近では液化二酸化炭素を用いた地盤凍結工法の採用例も増えてきている。
【特許文献1】特許第6448085号
【0004】
液化二酸化炭素を用いた凍結工法の場合、冷凍機で冷却した一次冷媒と液化二酸化炭素間で熱交換を行い、土壌の熱を受けて部分的に気化した二酸化炭素を液体に戻すことが行われる。
この凍結工法は液化二酸化炭素の気化潜熱を利用して地盤を冷却する方式であり、冷媒の顕熱を利用する従来のブライン方式に比較して熱効率に優れる利点を有している。また、液化二酸化炭素の動粘性係数は従来のブラインの動粘性係数の1/90と極めて小さいため、冷媒を循環させる配管の断面積を小さくできると共に、循環ポンプの容量を小さくできるメリットも生じる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これまでは気液混合状態で冷凍機側に戻された冷媒については単にサイトグラスを介してその外観が目視されるだけであり、気液の混合比率を定量的に計測及び解析することが行われてこなかったため、以下のような問題があった。
【0006】
(1) 最適な配管長がわからない問題
冷媒を送るための配管が長くなればなるほど熱損失が増大することから、これまでは冷却能力の確保を優先するあまり、また配管長と熱損失の関係を定量的に把握する手段がないことから、必要以上に配管長を短く設計せざるを得なかった。
戻された冷媒の気液混合状態の定量的な計測及び解析に基づいて配管長の合理的な限界を割り出すことができれば、その分、プラント設計に柔軟性を付与することができる。また、複数本の凍結管を直列に接続することで、配管処理の簡素化も可能となる。
【0007】
(2) 適正な冷媒流量がわからない問題
冷媒の流量についても最適解を導くことができないため、必要以上に流量を多く設定せざるを得なかった。
戻された冷媒の状態に基づいて冷媒流量の適正値を導出できれば、冷媒の過剰な供給を抑えることで省エネルギやコストダウンに貢献することが可能となる。
【0008】
この発明は、このような現状に鑑みて案出されたものであり、冷凍機側に戻される冷媒中の気液の混合比率を定量的に計測することにより、最適な配管長及び適正な冷媒流量を導出可能とする技術の実現を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の目的を達成するため、請求項1に記載した地盤凍結システムは、気液の相変化を伴う冷媒によって周囲の土壌を冷却する凍結管と、土壌との熱交換によって気化された冷媒を冷却して液体に戻す冷凍機と、上記凍結管と冷凍機との間で冷媒を循環させる配管と、上記凍結管から排出された冷媒中の気体成分の割合を計測し、外部に出力する乾き度検出手段とを備えたことを特徴としている。
【0010】
請求項2に記載した地盤凍結システムは、請求項1のシステムであって、上記乾き度検出手段が、凍結管に供給される冷媒の単位時間当たりの質量を計測する第1の流量計と、凍結管から排出された冷媒を気体成分と液体成分に分離する気液分離装置と、気液分離装置から排出された液体成分の単位時間当たりの質量を計測する第2の流量計と、第1の流量計及び第2の流量計の出力結果に基づいて気体成分の割合を算出する演算手段とからなることを特徴としている。
【0011】
請求項3に記載した地盤凍結システムは、請求項1のシステムであって、上記乾き度検出手段が、凍結管から排出された冷媒中の気体成分の割合を計測する機能を備えた乾き度センサよりなることを特徴としている。
【0012】
請求項4に記載した地盤凍結システムは、請求項1のシステムであって、上記配管の途中に介装され、複数本の凍結管に並列的に冷媒を供給するヘッダ管と、上記ヘッダ管に接続された複数本の凍結管とを備え、上記凍結管の少なくとも一つに上記乾き度検出手段が設けられていることを特徴としている。
【0013】
請求項5に記載した地盤凍結システムは、請求項2のシステムであって、前の凍結管の戻り側配管から排出された冷媒が、次の凍結管の送り側配管に供給され、最前の凍結管の送り側配管に冷凍機によって冷却された冷媒が供給されると共に、最後の凍結管の戻り側配管から排出された冷媒が冷凍機に戻される凍結管の直列接続構造を備え、上記第1の流量計が最前の凍結管の送り側配管と冷凍機との間に介装されており、上記第2の流量計が最後の凍結管の戻り側配管と冷凍機との間に介装されていることを特徴としている。
【0014】
請求項6に記載した地盤凍結システムは、請求項3のシステムであって、前の凍結管の戻り側配管から排出された冷媒が、次の凍結管の送り側配管に供給され、最前の凍結管の送り側配管に冷凍機によって冷却された冷媒が供給されると共に、最後の凍結管の戻り側配管から排出された冷媒が冷凍機に戻される凍結管の直列接続構造を備え、上記乾き度センサが、最後の凍結管の戻り側配管と冷凍機との間に介装されていることを特徴としている。
【0015】
請求項7に記載した地盤凍結工法は、請求項1に記載の地盤凍結システムを用いた工法であって、冷凍機と凍結管との間の配管長を段階的(例えば10m単位)に延長する工程と、配管長を段階的に延長する各段階における冷媒の気体成分の割合を計測する工程と、この計測結果に基づいて最適な配管長を決定する工程と、からなることを特徴としている。
【0016】
請求項8に記載した地盤凍結工法は、請求項1に記載の地盤凍結システムを用いた工法であって、冷凍機から凍結管に供給する冷媒の流量を段階的(例えば0.5L/min単位)に増加させる工程と、冷媒の流量を段階的に増加させる各段階における冷媒の気体成分の割合を計測する工程と、この計測結果に基づいて最適な流量を決定する工程と、からなることを特徴としている。
【0017】
請求項9に記載した地盤凍結工法は、請求項5または6に記載の地盤凍結システムを用いた工法であって、直列接続される凍結管の本数を段階的(例えば1本単位)に増加させる工程と、各段階における冷媒の気体成分の割合を計測する工程と、この計測結果に基づいて最適な凍結管の本数を決定する工程と、からなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0018】
この発明にあっては、冷凍機側に戻される冷媒中の気体成分の割合を定量的に計測する乾き度検出手段を備えているため、この乾き度検出手段の出力に基づいて最適な配管長や適正な冷媒流量を導出可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】この発明に係る地盤凍結システムの概念図である。
【
図2】液化二酸化炭素を異なる流量で凍結管に供給した際の乾き度を計測した結果を示すグラフである。
【
図3】並列に接続された4本の凍結管の中の一つに乾き度センサを装着した例を示す概念図である。
【
図4】直列に接続された5本の凍結管に乾き度センサを装着した例を示す概念図である。
【
図5】直列接続される凍結管の本数を段階的に増設していった際の、乾き度の推移を示すグラフである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、添付の図面に従い、この発明の実施形態を説明する。
図1は、この発明に係る地盤凍結システム10の概念図であり、冷凍機12と、ヘッダ管14と、凍結管16と、乾き度センサ18と、気液分離装置20とを備えている。
【0021】
凍結管16は、土壌22中に埋設された金属製の外管24と、外管24に挿入された冷媒循環用配管26を備えている。
冷媒循環用配管26は、断面矩形状の複数の微小冷媒流路を横に連結した扁平なマイクロチャンネル構造を備えた送り側配管26aと、同じくマイクロチャンネル構造を備えた戻り側配管26bと、両配管を連結するソケット26cを備えている。
ただし、凍結管16の形態としては図示のものに限定されるものではなく、例えば外管24内中央に冷媒の供給側配管26aを設け、下端のソケット26cでマイクロチャンネル構造を備えた2枚の戻り側配管26bに分岐させる構成を選択することも可能である。
【0022】
凍結管16の送り側配管26aは、接続パイプ28及び送り配管29を介して送り側ヘッダ管14aと接続されている。また、この送り配管29の途中には、送り側の第1の流量計30が介装されている。
凍結管16の戻り側配管26bは、接続パイプ32を介して乾き度センサ18の入力口に接続されている。
【0023】
乾き度センサ18は、内部を通過する気液二相流体を計測対象としており、当該流体中の気相が占める重量比を高精度で連続的に計測する機能を備えている。
乾き度センサ18の出力口は、接続パイプ34を介して気液分離装置20内に連通している。
【0024】
気液分離装置20は、垂直に配置された管状の本体36と、本体上部に設けられた気体排出口38と、本体下部に設けられた液体排出口40と、本体36と平行するように配置された液面計42を備えている。
乾き度センサ18の出力口から排出された気液二相流体は、気液分離装置20内で液体と気体に分離され、液体成分は液体排出口40から排出され、接続パイプ43及び液体用の戻り配管44を介して戻り側ヘッダ管14bに送られる。この戻り配管44の途中には、戻り側の第2の流量計46が介装されている。
気液分離装置20の本体36内で分離された気体成分は、気体排出口38から排出され、接続パイプ45及び気体用の戻り配管48を介して戻り側ヘッダ管14bに送られ、液体成分と合流される。
【0025】
第1の流量計30、乾き度センサ18、第2の流量計46は、信号線50を介してデータロガー52に接続されており、それぞれの出力データはデータロガー52内の記憶装置に保存される。
また、データロガー52内に蓄積されたデータは、信号線50を介してを計測用PC54に取り込まれ、所定のアプリケーションプログラムを介してディスプレイに表示される。
【0026】
冷凍機12は、冷却塔56と、凝縮器58と、冷却塔56及び凝縮器58間を接続する第1の配管60と、第1の配管60に介装された第1の循環ポンプ62と、液化器64と、凝縮器58及び液化器64間を接続する第2の配管66と、第2の配管66に介装された圧縮機68を備えている。
液化器64は、第3の配管70を介してヘッダ管14と接続されている。
第3の配管70には、第2の循環ポンプ72が介装されている。
【0027】
第1の配管60内には、冷却水が循環されている。また、第2の配管66内には、気液の相変化を伴う第1の冷媒としてのアンモニアが循環されている。アンモニアの代わりにR-404Aを用いることもできる。
第3の配管70内には、第2の冷媒としての液化二酸化炭素が循環されている。
【0028】
ここで、第2の循環ポンプ72が稼働すると、送り側ヘッダ管14aを経由して第3の配管70内の液化二酸化炭素が凍結管16の送り側配管26aに供給される。この際、第1の流量計30により、ヘッダ管14から凍結管16に向かう液化二酸化炭素の単位時間当たりの質量が計測される。
そして、土壌22の熱を奪うことによって部分的に気化した二酸化炭素は、戻り側配管26bを介して乾き度センサ18内を通過し、その乾き度が計測される。
乾き度センサ18からの出力は、信号線50を介してデータロガー52に格納される。
【0029】
乾き度センサ18の出力口から気液分離装置20に到達した二酸化炭素は、本体36内で気体成分と液体成分に分離される。
そして、気体成分は気体排出口38から戻り側ヘッダ管14bに到達する。
液体成分も、液体排出口40から戻り側ヘッダ管14bに到達し、そこで気体成分と合流し、第3の配管70を経由して冷凍機12に戻される。この際、第2の流量計46によって液体成分の単位時間当たりの質量が計測される。
【0030】
冷凍機12に戻された二酸化炭素は、液化器64内において液化アンモニアと熱交換を行うことにより、液体に復帰する。
また、二酸化炭素との熱交換を通じて気化したアンモニアは、圧縮機68において高温・高圧に圧縮された後、凝縮器58において冷却水に熱を受け渡し、液体に戻される。
この熱を受けて昇温した冷却水は、冷却塔56において熱を外気に放出することにより、冷却される。
【0031】
この地盤凍結システム10の場合、乾き度センサ18及び気液分離装置20を二酸化炭素の戻り側に設置しているため、土壌22を冷却した直後の二酸化炭素の気液の分布状態を把握することができる。
【0032】
すなわち、第1の流量計30から出力される単位時間当たりの質量(気液混合状態の二酸化炭素の質量)から、第2の流量計46から出力される単位時間当たりの質量(二酸化炭素の液体成分の質量)を減算することにより、気体成分の質量が求められ、これを全体の質量で除することで乾き度(気体成分の質量%)が導かれる。これらの計算は、計測用PC54に搭載されたアプリケーションプログラムによって実行され、算出結果がディスプレイに表示される。
また、乾き度センサ18からは戻り側の二酸化炭素の乾き度(気体成分の質量%)が直接出力され、計測用PC54のディスプレイにリアルタイムに表示される。
【0033】
冷凍機12に戻される二酸化炭素中の気体の割合が大きいということは、凍結管16における土壌22との熱交換が活発となっている、すなわち凍土の形成途上にあることを示しているため、「第2の循環ポンプ72の出力を上げ、液化二酸化炭素の供給量を増やして冷却を促進させる」といった調整が可能となる。
逆に、冷凍機12に戻される二酸化炭素中の気体の割合が小さいということは、凍結管16における土壌22との熱交換が不活発となっている、すなわち凍土の形成が完成に近づいていることを示しており、この場合には「第2の循環ポンプ72の出力を下げ、液化二酸化炭素の流量を減らす」といった調整が可能となる。
これらの調整は、計測用PC54からの指令に基づき、第2の循環ポンプ72や圧縮機68の出力を自動制御することによって実現してもよい。
【0034】
以上のように、この地盤凍結システム10の場合には土壌22の冷却後における二酸化炭素の気液の比率を取得し、これを外部に出力する機能を備えているため、これに基づいて二酸化炭素の流量を最適化することができる。
【0035】
図2は、同一施工箇所における同一の凍結管16に0.5L/minと1.0L/minの2種類の流量で液化二酸化炭素を24時間供給した際の乾き度を、乾き度センサ18で計測した結果を示すグラフである。
図示の通り、1.0L/minで液化二酸化炭素を供給した場合、乾き度は70%前後で安定的に推移しており、土壌22との熱交換が順調に進んでいることが示されている。また、0.5L/minの流量の場合でも乾き度は80~90%の範囲で推移しており、まだ余力がある(乾き度100%に達していない)ことが示されている。
【0036】
戻り側の液化二酸化炭素の乾き度を計測することにより、配管長の最適化を図ることもできる。
すなわち、ヘッダ管14に接続された第3の配管70の長さを段階的(例えば10m単位)に延ばしていき、その都度、戻り側の冷媒の乾き度を計測することで、適切な配管長を導くことが可能となる。
【0037】
上記のように地盤凍結システム10の凍結管16に乾き度センサ18と気液分離装置20の両方を設けることにより、同じ液化二酸化炭素について複数の手段によって同時に気液の分布状況を確認できる。
このため、両者の出力結果を比較することによって計測結果の信頼性を確認できる利点がある。
【0038】
ただし、この発明はこの構成に限定されるものではなく、乾き度検出手段として何れか一方のみを設けることによっても成立し得る。
因みに、乾き度センサ18を省略して気液分離装置20のみを設置する場合には、凍結管16の戻り側配管26bと連通する接続パイプ32を、直に気液分離装置20の本体36内に引き込めばよい。
また、気液分離装置20の設置を省略する場合には、乾き度センサ18の出力口に繋がる接続パイプ34を、気液混合体用の戻り配管を介して戻り側ヘッダ管14bに繋げればよい。この場合、第1の流量計30及び第2の流量計46の設置も当然ながら不要となる。
【0039】
また、1本の凍結管16毎に乾き度センサ18や気液分離装置20を設ける必要もなく、複数の凍結管16毎にこれらの装置を設けてもよい。
例えば
図3に示すように、4本の凍結管16が一つのヘッダ管14に並列に接続されている場合に、その中の一つの凍結管16の戻り側配管26bを接続パイプ32を介して乾き度センサ18の入力口に接続すると共に、乾き度センサ18の出力口を接続パイプ34及び気液混合体用の戻り配管74を介して戻り側ヘッダ管14bに接続する。
【0040】
このように、共通のヘッダ管14に接続された同一系統に属する複数の凍結管16単位で乾き度センサ18を設けることにより、コストの削減効果が生じる。
同一系統に含まれる凍結管16同士は比較的類似の環境下に設置されるケースが多いため、一つの凍結管16について計測した結果を他の凍結管16に適用しても大きな誤差は生じないものと考えられる。
【0041】
この地盤凍結システム10は、凍結管16の直列接続の実用化にも貢献できる。
ここで直列接続とは、各凍結管16から排出された冷媒が戻り側ヘッダ管14bを介して冷凍機12側にダイレクトに戻される並列接続と異なり、一つの凍結管16の戻り側配管26bから排出された冷媒が、そのまま次の凍結管16の送り側配管26aに流入するように配管される接続方式を指す。
できるだけ多くの凍結管16を直列接続できれば、その分、ヘッダ管14との間の配管処理を簡素化できる利点が生じることは自明であるが、これまでは冷却能力の低下を危惧して実用化が避けられてきた。
【0042】
図4は、送り側ヘッダ管14aから供給された冷媒が、直列に接続された5本の凍結管16を経由して乾き度センサ18に流入し、戻り側ヘッダ管14bから冷凍機12に戻される例を示している。
上流側に位置する凍結管16の戻り側配管26bと、隣接する下流側の凍結管16の送り側配管26aは、連結パイプ74を介して接続されている。
【0043】
この場合も、直列に接続される凍結管16の本数を段階的に増やしていき、その都度、戻り側の冷媒の乾き度を計測することで、直列接続に供する適切な本数を導くことが可能となる。
図5は、特定の施工箇所において直列接続される凍結管16の本数を3本→5本→7本と段階的に増設していった際の、乾き度の推移を示すグラフである。各凍結管16に供給される液化二酸化炭素の流量は1.0L/minである。
【0044】
このグラフからは、以下のことが読み取れる。
(1) 凍結管16を直列に7本接続すると、乾き度が一貫して95%を超えているため、この流量では限界に近い。
(2) 少なくとも3~5本の間であれば、この流量で凍結管16を直列接続しても十分に凍土の形成に耐え得る。
7本以上の凍結管16を直列接続する場合であっても、液化二酸化炭素の流量を段階的に増やすことにより、凍土の形成を実現できる可能性はある。
【0045】
直列接続された複数本の凍結管16に対して乾き度センサ18の代わりに気液分離装置20を用いる場合には、図示は省略したが、最後の凍結管16の戻り側配管26bを、接続パイプ32を介して気液分離装置20の本体36内に引き込むと共に、気液分離装置20の気体排出口38及び液体排出口40を気体用の戻り配管48及び液体用の戻り配管44を介して戻り側ヘッダ管14bに接続する。
また、送り側ヘッダ管14aと最前の凍結管16の送り側配管26aとの間を繋ぐ送り配管29に第1の流量計30を介装すると共に、液体用の戻り配管44に第2の流量計46を介装する。
【0046】
上記においては、凍結管16に供給される冷媒として液化二酸化炭素を用いることを前提に説明したが、この発明はこれに限定されるものではなく、気液の相変化を伴う他の物質を冷媒として凍結管16に供給する地盤凍結工法に広く適用可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 地盤凍結システム
12 冷凍機
14 ヘッダ管
14a 送り側ヘッダ管
14b 戻り側ヘッダ管
16 凍結管
18 乾き度センサ
20 気液分離装置
22 土壌
24 外管
26 冷媒循環用配管
26a 送り側配管
26b 戻り側配管
26c ソケット
29 送り配管
30 第1の流量計
38 気体排出口
40 液体排出口
44 液体用の戻り配管
46 第2の流量計
48 気体用の戻り配管
50 信号線
52 データロガー
54 計測用PC
56 冷却塔
58 凝縮器
60 第1の配管
62 第1の循環ポンプ
64 液化器
66 第2の配管
68 圧縮機
70 第3の配管
72 第2の循環ポンプ
74 気液混合体用の戻り配管