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  • 特開-インクジェット記録装置 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154568
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/19 20060101AFI20241024BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B41J2/19
B41J2/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068456
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】坂岡 伸哉
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA15
2C056EC16
2C056EC49
2C056KB16
2C056KD02
(57)【要約】
【課題】液体の量が多くても、簡潔な構成で効率よく脱気することを目的とする。
【解決手段】インクジェット記録装置は、液体を貯留する複数の液体タンクと、前記液体タンク内を減圧する減圧装置と、前記液体タンクの各々に設けられ、前記液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路と、前記循環流路を通して液体を循環させる循環装置と、前記液体タンクから供給された液体を吐出する記録ヘッドと、前記液体タンク内の液体の溶存気体量に基づいて、前記記録ヘッドに液体を供給する前記液体タンクを選択する制御装置と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を貯留する複数の液体タンクと、
複数の前記液体タンク内を減圧する減圧装置と、
複数の前記液体タンクの各々に設けられ、前記液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路と、
前記循環流路を通して液体を循環させる循環装置と、
複数の前記液体タンクから供給された液体を吐出する記録ヘッドと、
複数の前記液体タンク内の溶存気体量に基づいて、前記記録ヘッドに液体を供給する前記液体タンクを選択する制御装置と、を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項2】
前記制御装置は、溶存気体量が目標値を満たしている前記液体タンクが複数ある場合に、溶存気体量と液体残量と前記記録ヘッドへの接続状況との少なくとも1つに基づいて前記液体タンクを選択することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記制御装置は、溶存気体量が目標値を満たしている前記液体タンクがない場合に、複数の前記液体タンクのいずれか1つを前記減圧装置及び前記循環装置を用いて脱気することを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記制御装置は、複数の前記液体タンクのうち、脱気が最も早く完了する前記液体タンクを脱気することを特徴とする請求項3に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
複数の前記液体タンクの少なくとも1つは、他の前記液体タンクと容量が異なり、
前記制御装置は、最も容量が小さい前記液体タンクを脱気することを特徴とする請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置において、インクの溶存気体量が多くなると、記録ヘッドの内部で気泡が発生して吐出不良を起こすおそれがある。そこで、従来、インクの溶存気体量を減らす技術が検討されている。例えば、特許文献1、2では、インクタンク内を減圧した状態でインクタンクのインクを攪拌することでインクを脱気する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-162821号公報
【特許文献2】特開2019-142189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載の脱気装置では、インクタンク内のインクが撹拌されて液面付近でインクが脱気される。しかしながら、撹拌子がインクタンクの底部に位置することから、インク容量が大きくなると、溶存気体量が少ない液面付近のインクと溶存気体量が多い底面付近のインクが入れ替わり難くなって脱気効率が低下する。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮し、液体の量が多くても、簡潔な構成で効率よく脱気することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係るインクジェット記録装置は、液体を貯留する複数の液体タンクと、複数の前記液体タンク内を減圧する減圧装置と、複数の前記液体タンクの各々に設けられ、前記液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路と、前記循環流路を通して液体を循環させる循環装置と、複数の前記液体タンクから供給された液体を吐出する記録ヘッドと、複数の前記液体タンク内の溶存気体量に基づいて、前記記録ヘッドに液体を供給する前記液体タンクを選択する制御装置と、を備える。
【0007】
前記制御装置は、溶存気体量が目標値を満たしている前記液体タンクが複数ある場合に、溶存気体量と液体残量と前記記録ヘッドへの接続状況との少なくとも1つに基づいて前記液体タンクを選択してもよい。
【0008】
前記制御装置は、溶存気体量が目標値を満たしている前記液体タンクがない場合に、複数の前記液体タンクのいずれか1つを前記減圧装置及び前記循環装置を用いて脱気してもよい。
【0009】
前記制御装置は、複数の前記液体タンクのうち、脱気が最も早く完了する前記液体タンクを脱気してもよい。
【0010】
複数の前記液体タンクの少なくとも1つは、他の前記液体タンクと容量が異なり、前記制御装置は、最も容量が小さい前記液体タンクを脱気してもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液体の量が多くても、簡潔な構成で効率よく脱気することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係る脱気装置の動作を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態のインクジェット記録装置1について説明する。図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置1を示す模式図である。説明の便宜上、図1における紙面前側をインクジェット記録装置1の正面側(前側)とし、左右の向きはインクジェット記録装置1を正面から見た方向を基準として説明する。各図に付される矢印L、R、U、Loは、それぞれインクジェット記録装置1の左側、右側、上側、下側を示している。
【0014】
インクジェット記録装置1は、インクジェット式の各記録ヘッド21から記録媒体としてのシートSに向けてインクを吐出して印刷する。インクジェット記録装置1は、各種機器が収容された箱型形状のハウジング10を備えている。ハウジング10の下部にはシートSがセットされる給紙カセット11が収容され、ハウジング10の右側面にはシートSが手差しでセットされる手差しトレイ12が設置されている。ハウジング10の左側面の上側には、記録済みのシートSが積載される排紙トレイ13が設置されている。
【0015】
ハウジング10内の右側部には、給紙カセット11からハウジング10中央の記録ヘッド21に向けてシートSを搬送する第1搬送経路14が形成されている。第1搬送経路14の上流には給紙カセット11のシート束からシートSを取り出す第1給紙部15が設けられ、第1搬送経路14の下流にはシートSの送り出しタイミングを調整するレジストローラー18が設けられている。また、第1搬送経路14の下流には手差しトレイ12の給紙経路16が合流しており、給紙経路16には手差しトレイ12のシート束からシートSを取り出す第2給紙部17が設けられている。
【0016】
レジストローラー18の下流には搬送装置22と色毎(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)の記録ヘッド21が設置されている。レジストローラー18は、シートSのスキューを矯正して、各記録ヘッド21によるインクの吐出動作に合わせて搬送装置22にシートSを送り出す。ハウジング10には記録ヘッド21毎にインクコンテナ31及びインクタンク32が設けられている。各インクコンテナ31のインクがインクタンク32に一時的に貯留され、必要に応じてインクが脱気されて、インクタンク32から記録ヘッド21にインクが供給される。
【0017】
搬送装置22は、各記録ヘッド21の下方に設置された複数の張架ローラー23に搬送ベルト24を巻き掛けて構成されている。搬送装置22の下流には、シートSのインクを乾燥する乾燥装置25が設けられている。乾燥装置25の下流には、インクの乾燥によってシートSに生じたカールを矯正するデカール装置26が設けられている。デカール装置26の下流には、排紙トレイ13に向けてシートSを搬送する第2搬送経路27が形成されている。第2搬送経路27の下流には、排紙トレイ13に記録済みのシートSを排出する排紙部28が設けられている。
【0018】
乾燥装置25の下方には、記録ヘッド21をクリーニングするメンテナンスユニット35と、記録ヘッド21をキャッピングするキャップユニット36とが設けられている。メンテナンスユニット35にはスキージ状のワイピングブレードが設けられており、ワイピングブレードによって記録ヘッド21のノズル面に残ったインクが掻き取られる。キャップユニット36にはヘッドキャップが設けられており、ヘッドキャップが記録ヘッド21のノズル面に被せられる。ヘッドキャップによりノズル内のインクの乾燥が抑制される。ヘッドキャップ内に洗浄液などの液体を貯めておくことでノズル内のインクの乾燥を、より抑制してもよい。
【0019】
また、インクジェット記録装置1には、装置全体を統括制御する制御装置38が設けられている。制御装置38は、プロセッサによって構成されてもよいし、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)によって構成されてもよい。プロセッサで構成される場合には、プロセッサがメモリに記憶されているプログラムを読み出して実行することで各種処理が実施される。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)が使用される。メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶装置によって構成されている。
【0020】
画像記録時には、第1給紙部15、第2給紙部17によってそれぞれ給紙カセット11、手差しトレイ12からシートSが取り出されてレジストローラー18に送られる。インクの吐出タイミングに合わせて、レジストローラー18から搬送ベルト24にシートSが送られて、各記録ヘッド21から脱気済みのインクが吐出されてシートSの表面にカラー画像が記録される。乾燥装置25によってシートSが乾燥され、デカール装置26によってシートSのカールが矯正される。第2搬送経路27を通って排紙部28にシートSが搬送されて、排紙部28によって記録済みのシートSが排紙トレイ13に排出される。
【0021】
ところで、インクタンク32内でインクの液面が空気に触れて空気の溶解が進行し、インク内の気泡によって記録ヘッド21のノズルが目詰まりする場合がある。このため、インク内の溶存気体量を適切に抑えることが望まれている。例えば、中空糸フィルターの周囲を減圧した状態で、中空糸フィルターにインクを通すことで、中空糸の壁面から減圧側に空気が移動して脱気する方法が提案されている。この方法では、高価な中空糸フィルターが必要になると共に定期的な交換作業が必要になってコストが増加する。
【0022】
また、ノズルの目詰まりを防止するために、インクタンク32内を大気圧以下に減圧した状態で、撹拌子によってインクを撹拌して脱気する方法(以下、撹拌脱気方式と称する)が提案されている。撹拌脱気方式ではインクタンク32内の撹拌子に外部から磁力が加えられて、磁力によって撹拌子が回転してインクタンク32内のインクが撹拌される。インクの深さやタンク径が大きい場合にはインクが撹拌され難くなって脱気効率が低下する。撹拌子の回転数を高くすれば撹拌され易くなるが、撹拌子の回転数が高くなり過ぎると脱調現象が生じると共に撹拌子の回転音も大きくなる。そこで、本実施形態では、以下に示される循環脱気方式が採用されている。
【0023】
[脱気装置]
本実施形態に係るインクジェット記録装置1は、液体(例えば、インク)を貯留する複数の液体タンク(例えば、インクタンク32A、32B)と、複数の液体タンク内を減圧する減圧装置(例えば、減圧ポンプ62)と、複数の液体タンクの各々に設けられ、液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路47、47A、47B、47AA、47BBと、循環流路47、47A、47B、47AA、47BBを通して液体を循環させる循環装置(例えば、循環ポンプ67)と、複数の液体タンクから供給された液体を吐出する記録ヘッド21と、複数の液体タンク内の溶存気体量に基づいて、記録ヘッド21に液体を供給する液体タンクを選択する制御装置38と、を備える。具体的には、以下のとおりである。なお、本実施形態では、溶存気体量として溶存酸素量を用いる。
【0024】
図2は、本実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。本実施形態に係るインクジェット記録装置1にはインクの色毎にインク供給構造が設けられているが、これらのインク供給構造の構成は同一であるため、ここでは1つのインク供給構造について説明する。
【0025】
[インクタンク]
インクタンク32A、32Bは、例えば、上下方向を軸方向とする筒の上端部と下端部が塞がれた形状を有する。インクタンク32A、32Bの水平断面は、円形が望ましい。
【0026】
なお、図1等は模式的に描かれており、実際には、記録ヘッド21は、インクタンク32A、32Bより上方に配置されている。記録ヘッド21内のインクには、インクタンク32A、32B内のインクとの水頭差により負圧が加わっており、その負圧により、記録ヘッド21のノズルにはメニスカスが形成されている。記録ヘッド21からインクが吐出された後、インクの表面張力がメニスカスの表面積を減らすように働き、それによって生じる負圧によって、インクタンク32A、32Bから記録ヘッド21に、減った分のインクが引き込まれる。
【0027】
[補給流路]
補給流路41は、補給流路41Aと補給流路41Bとに分岐している。補給流路41A、41Bは、それぞれインクタンク32A、32Bに接続されている。補給ポンプ61は、補給流路41に設けられている。補給流路41A、41Bには、それぞれ補給バルブ51A、51Bが設けられている。
【0028】
[大気開放流路]
大気開放流路43Aは、インクタンク32Aの頂部に接続され、インクタンク32A内の液面よりも上方の空間である上部空間34Aに連通している。大気開放流路43Aには、大気開放バルブ53Aが設けられている。大気開放流路43Bは、インクタンク32Bの頂部に接続され、インクタンク32B内の液面よりも上方の空間である上部空間34Bに連通している。大気開放流路43Bには、大気開放バルブ53Bが設けられている。
【0029】
[減圧流路]
減圧流路42は、減圧流路42Aと減圧流路42Bとに分岐している。減圧流路42Aは、インクタンク32Aの頂部に接続され、インクタンク32Aの上部空間34Aに連通している。減圧流路42Bは、インクタンク32Bの頂部に接続され、インクタンク32Bの上部空間34Bに連通している。減圧ポンプ62は、減圧流路42に設けられている。減圧流路42A、42Bには、それぞれ減圧バルブ52A、52Bが設けられている。
【0030】
[供給流路]
インクタンク32A、32Bには、それぞれ供給流路44A、44Bが接続されている。供給流路44A、44Bは、供給流路44に合流している。供給流路44は、記録ヘッド21に接続されている。供給流路44A、44Bには、それぞれ供給バルブ54A、54Bが設けられている。供給流路44には、供給バルブ54と供給ポンプ64が設けられている。
【0031】
[回収流路]
インクタンク32A、32Bには、それぞれ回収流路45A、45Bが接続されている。回収流路45A、45Bは、回収流路45に合流している。回収流路45は、記録ヘッド21に接続されている。回収流路45A、45Bには、それぞれ回収バルブ55A、55Bが設けられている。
【0032】
[バイパス流路]
供給流路44には、供給バルブ54と供給ポンプ64を迂回するバイパス流路46が設けられている。バイパス流路46には、バイパスバルブ56が設けられている。
【0033】
[循環流路]
インクタンク32A、32Bの底部には、それぞれ循環流路47A、47Bが接続されている。循環流路47A、47Bには、それぞれ循環バルブ57A、57Bが設けられている。循環流路47A、47Bは、循環流路47に合流している。循環流路47には、循環ポンプ67が設けられている。循環流路47は、循環流路47AA、47BBに分岐している。循環流路47AA、47BBは、それぞれインクタンク32A、32Bの底部よりも上方の箇所に接続されている。循環流路47AA、47BBには、それぞれ循環バルブ57AA、57BBが設けられている。
【0034】
[制御装置]
上記の各ポンプ、各バルブは、制御装置38(図1参照)によって制御される。制御装置38には、インクの放置時間に応じて脱気動作の要否を判定する判定部39が設けられている。
【0035】
次に、脱気装置40の基本的な動作について説明する。インクタンク32Aに係る脱気装置40の動作とインクタンク32Bに係る脱気装置40の動作は同様であるため、以下ではインクタンク32Aに係る動作について説明する。インクタンク32Bに係る動作は、符号の末尾のAをBに読み換えることで説明される。
【0036】
[待機状態]
インクタンク32Aの待機状態においては、大気開放バルブ53A、供給バルブ54A、回収バルブ55A、バイパスバルブ56のみが開放される。インクタンク32Aにはインクが貯留されており、大気開放された上部空間34Aの空気に液面が触れることで時間経過に伴ってインクに空気が溶解していく。
【0037】
待機状態において、制御装置38の判定部39は、脱気の要否を判定する。例えば、制御装置38にはタイマーが設けられ、タイマーによってインクの放置時間が計時されている。インクの溶存酸素量は、気圧、インクの温度、前回印刷時からの経過時間等の1つ又は複数のパラメータから推定可能である。このため、判定部39には各パラメータとインクの溶存酸素量との対応関係を示す変換情報が記憶されており、各パラメータに基づいてインクの溶存酸素量が推定される。また、判定部39にはインクの溶存酸素量と許容時間の対応関係を示す変換情報が記憶されており、インクの溶存酸素量に基づいて許容時間が設定される。許容時間は、インクを放置していても脱気せずに印刷が許容される時間である。なお、各パラメータとインクの溶存酸素量の対応関係を示す変換情報やインクの溶存酸素量と許容時間の対応関係を示す変換情報には、マップデータ、ルックアップテーブル、変換式等が用いられる。これらマップデータ、ルックアップテーブル、変換式は、事前に実験的、経験的、理論的に求められたものが使用される。
【0038】
インクの放置時間が許容時間内である場合には、酸素飽和度が低いため、判定部39は、脱気が不要と判定する。インクの放置時間が許容時間を超えた場合には、酸素飽和度が高いため、判定部39は、脱気が必要と判定する。脱気が必要な場合、制御装置38は、減圧工程に移行する。
【0039】
[減圧工程]
減圧工程においては、制御装置38は、減圧バルブ52Aのみを開放し、減圧ポンプ62を駆動する。すると、インクタンク32Aの上部空間34Aから空気が吸い出されて上部空間34Aが減圧される。制御装置38は、気圧計(図示省略)が示す上部空間34Aの気圧が目標値(例えば、-50[kPa])に到達すると減圧ポンプ62を停止させる。
【0040】
[脱気工程]
減圧工程が終了すると、制御装置38は、脱気工程を実行する。脱気工程においては、制御装置38は、循環バルブ57A、57AAのみを開放し、所定時間、循環ポンプ67を駆動する。循環ポンプ67を駆動すると、循環流路47A、47、47AAを通じてインクタンク32A内のインクが循環する。インクタンク32Aの溶存気体量が多い底面付近のインクが循環流路47に流出し、循環流路47内のインクがインクタンク32A内の液面付近に向けて流入する。インクの液面が減圧雰囲気下に晒されて、液面付近のインクに溶存した空気が除去される。溶存気体量が少ない液面付近のインクと溶存気体量が多い底面付近のインクがスムーズに入れ替えられて脱気効率が向上する。また、撹拌脱気方式とは異なり、インクの深さやタンク径に影響を受けることがなく、撹拌子の回転音よりも循環ポンプ67の駆動音が抑えられて静音性が高められる。
【0041】
[ヘッド循環工程]
ヘッド循環工程は、脱気工程の前又は後に行われてもよく、独自のタイミングで行われてもよい。ヘッド循環工程においては、制御装置38は、大気開放バルブ53A、供給バルブ54A、54、回収バルブ55Aのみを開き、供給ポンプ64を駆動する。すると、供給流路44A、44を通じてインクタンク32Aから記録ヘッド21にインクが供給され、回収流路45、45Aを通じて記録ヘッド21からインクタンク32Aにインクが回収される。記録ヘッド21とインクタンク32Aの間でインクが循環されることで、記録ヘッド21内で粘度が増加したインクが入れ替えられると共に記録ヘッド21から気泡が除去される。
【0042】
[印刷工程]
記録ヘッド21による印刷動作時には、大気開放バルブ53A、供給バルブ54A、回収バルブ55A、バイパスバルブ56のみが開かれる。つまり、印刷動作時には、インクタンク32Aは、大気解放されて、大気圧となっている。印刷動作時には、インクタンク32Aは、実質的な脱気が生じるような減圧をされない。記録ヘッド21からインクが吐出される度に、バイパス流路46、回収流路45A、45を通じてインクタンク32Aから記録ヘッド21にインクが供給される。インクの入れ替え動作時や印刷動作時等の途中でインクが補給される場合がある。このインクの補給動作時には補給バルブ51が開かれて補給ポンプ61が駆動する。補給ポンプ61の駆動によって補給流路41を通じてインクコンテナ31からインクタンク32にインクが補給される。
【0043】
なお、図1等は模式的に描かれており、実際には、記録ヘッド21は、インクタンク32Aより上方に配置されている。記録ヘッド21内のインクには、インクタンク32A内のインクとの水頭差により負圧が加わっており、その負圧により、記録ヘッド21のノズルにはメニスカスが形成されている。記録ヘッド21からインクが吐出された後、インクの表面張力がメニスカスの表面積を減らすように働き、それによって生じる負圧によって、インクタンク32Aから記録ヘッド21に、減った分のインクが引き込まれる。なお、回収バルブ55Aを閉じて、記録ヘッド21へのインク供給を、バイパス流路46からだけにしてもよい。
【0044】
また、記録ヘッド21とインクタンク32A、32Bとが繋がった状態で、インクタンク32A、32Bを実質的な脱気が起きるほど減圧すると、ノズルのメニスカスが破壊されるおそれがある。メニスカスが破壊されなかったとしても、ノズル内のメニスカスの形状が、インクタンク32A、32Bが大気解放されているときと変わり、インクの吐出特性が変わるおそれがある。これに対して、本実施形態では、インクタンク32A、32Bの一方において減圧工程、脱気工程を実行している間に、インクタンク32A、32Bの他方において印刷工程が実行可能である。この場合、インクタンク32A、32Bの他方では実質的な脱気が生じるような減圧をされないので、記録ヘッド21のノズル内のメニスカスは、破壊されることはなく、また、形状が変わって、吐出特性が変わることもない。
【0045】
次に、本実施形態の特徴について詳細に説明する。図3は、脱気装置40の動作を示す流れ図である。最初に、制御装置38は、インクジェット記録装置1に印刷ジョブが入力されたか否かを判定する(ステップS01)。印刷ジョブが入力されていない場合には(ステップS01:NO),制御装置38は、ステップS01の処理を繰り返す。一方、印刷ジョブが入力された場合には(ステップS01:YES)、制御装置38は、記録ヘッド21に接続されているインクタンクが要件を満たしているか否かを判定する(ステップS02)。
【0046】
ここで、「記録ヘッド21に接続されているインクタンク」とは、インクタンク32A、32Bのうち、大気開放バルブ53A又は53B、供給バルブ54A又は54B、回収バルブ55A又は55B、バイパスバルブ56が開放されて記録ヘッド21へのインク供給の準備が整っているインクタンクである。接続されているインクタンクは、前回の印刷ジョブにおいて記録ヘッド21に接続されたインクタンクである場合もあるが、電源投入時やスリープ解除時に初期設定として記録ヘッド21に接続されるインクタンクである場合もある。
【0047】
また、「要件」とは、印刷ジョブの実行中にインクの溶存酸素量が目標値を超えないことと、インク残量が印刷ジョブを完了可能な量であること、の2点である。ここで、インクの溶存酸素量は、予測又は実測により取得される。例えば、環境温度、環境気圧、インクコンテナ31の装着時からの経過時間、印刷ジョブにおける画像の濃度、などの数値の少なくとも1つから溶存酸素量が予測可能である。例えば、低温、低圧の場合には、飽和溶存酸素量が少なくなるため、溶存酸素量は少なくなる。また、インクコンテナ31の装着時には、インクが脱気されているから、装着からの時間が短い場合には溶存酸素量は少なくなる。また、画像の濃度が高い場合には、インクコンテナ31からのインク供給が活発になるため、溶存酸素量は少なくなる。溶存酸素量の実測は、循環流路47等に設けられた気泡センサーによって行われる。気泡センサーは、主に、光電式、静電容量式、超音波式の3方式があるが、超音波式が最も精度が高い。
【0048】
選択されているインクタンクが要件を満たしている場合には(ステップS02:YES)、制御装置38は、印刷ジョブを開始する(ステップS07)。一方、選択されているインクタンクが要件を満たしていない場合には(ステップS02:NO)、制御装置38は、溶存酸素量が目標値を満たしているインクタンクがあるか否かを判定する(ステップS03)。
【0049】
溶存酸素量が目標値を満たしているインクタンクがない場合には(ステップS03:NO)、制御装置38は、脱気するインクタンクを選択する(ステップS04)。具体的には、制御装置38は、脱気を最も早く完了することができるインクタンクを選択する。例えば、制御装置38は、インク残量の最も少ないインクタンクを選択してもよい。あるいは、複数のインクタンクの少なくとも1つは、他のインクタンクと容量が異なっていてもよい。この場合、制御装置38は、複数のインクタンクのうち最も容量の少ないインクタンクを選択してもよい。続いて、制御装置38は、前述した減圧工程(ステップS05)と脱気工程(ステップS06)を実行し、印刷ジョブを開始する(ステップS07)。
【0050】
一方、ステップ03において、溶存酸素量が目標値を満たしているインクタンクがある場合には(ステップS03:YES)、制御装置38は、溶存酸素量が目標値を満たしているインクタンクが2つ以上であるか否かを判定する(ステップS21)。溶存酸素量が目標値を満たしているインクタンクが2つ以上である場合には(ステップS21:YES)、制御装置38は、印刷に使用するインクタンクを選択する(ステップS22)。印刷に使用するインクタンクは、インク中の溶存酸素量と、インク残量と、記録ヘッド21への接続状況と、の少なくとも1つの項目に基づいて決定する。
【0051】
例えば、満たされている項目の数が最も多いインクタンクが選択されてもよい。あるいは、単に、溶存酸素量が最も少ないインクタンクが選択されてもよく、インク残量が最も多いインクタンクが選択されてもよい。あるいは、2つ以上のインクタンクが溶存酸素量とインク残量の目標値を満たしている場合に、記録ヘッド21に接続されているインクタンクが選択されてもよい。あるいは、2つ以上のインクタンクが溶存酸素量とインク残量の目標値を満たしている場合に、溶存酸素量が少ないインクタンク又はインク残量が多いインクタンクが選択されてもよい。
【0052】
なお、溶存酸素量が目標値を満たしているインクタンクが2つ以上でない場合には(ステップS21:NO)、溶存酸素量が目標値を満たしているインクタンクは1つであるから、制御装置38は、このインクタンクを選択する。
【0053】
印刷ジョブの開始後、制御装置38は、脱気を要するインクタンクがあるか否かを判定する(ステップS08)。脱気の要否は、前述した待機状態における判定と同様に判定部39が判定する。脱気を要するインクタンクがある場合には(ステップS08:YES)、制御装置38は、減圧工程(ステップS31)と脱気工程(ステップS32)を実行する。一方、脱気を要するインクタンクがない場合には(ステップS08:NO)、制御装置38は、インクタンクを切り替えるか否かを判定する(ステップS09)。
【0054】
具体的には、印刷に使用しているインクタンクのインク残量が目標値よりも少なくなった場合、及び、溶存酸素量が目標値を超えた場合に、インクタンクの切り替えが必要となる。インクタンクを切り替える場合には(ステップS09:YES)、制御装置38は、インク残量と溶存酸素量が目標値を満たしているインクタンクに切り替える(ステップS10)。次に、制御装置38は、印刷ジョブが終了したか否かを判定する(ステップS11)。印刷ジョブが終了した場合には(ステップS11:YES)、制御装置38は、ステップS01以降の処理を繰り返し、印刷ジョブが終了していない場合には(ステップS11:NO)、制御装置38は、ステップS08以降の処理を繰り返す。
【0055】
以上説明した本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、液体(例えば、インク)を貯留する複数の液体タンク(例えば、インクタンク32A、32B)と、複数の液体タンク内を減圧する減圧装置(例えば、減圧ポンプ62)と、複数の液体タンクの各々に設けられ、液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路47、47A、47B、47AA、47BBと、循環流路47、47A、47B、47AA、47BBを通して液体を循環させる循環装置(例えば、循環ポンプ67)と、複数の液体タンクから供給された液体を吐出する記録ヘッド21と、複数の液体タンク内の溶存気体量に基づいて、記録ヘッド21に液体を供給する液体タンクを選択する制御装置38と、を備える。この構成によれば、液体の量が多くても、簡潔な構成で効率よく脱気することができる。
【0056】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、制御装置38は、溶存気体量が目標値を満たしている液体タンクが複数ある場合に、溶存気体量と液体残量と記録ヘッド21への接続状況との少なくとも1つに基づいて液体タンクを選択する。この構成によれば、適切な液体タンクを選択することができる。
【0057】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、制御装置38は、溶存気体量が目標値を満たしている液体タンクがない場合に、複数の液体タンクのいずれか1つを減圧装置及び前記循環装置を用いて脱気する。この構成によれば、インクジェット記録装置1を印刷可能な状態に回復させることができる。
【0058】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、制御装置38は、複数の液体タンクのうち、脱気が最も早く完了する液体タンクを脱気する。印刷ができない時間を短縮することができる。
【0059】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、複数の液体タンクの少なくとも1つは、他の液体タンクと容量が異なり、制御装置38は、最も容量が小さい液体タンクを脱気する。印刷ができない時間を短縮することができる。
【0060】
上記実施形態は以下のように変形されてもよい。
【0061】
[その他の変形例]
上記実施形態では、インクジェット記録装置1に脱気装置40が設けられた例が示されたが、脱気装置40は半導体の製造分野、ディスプレイの製造分野等の他分野で使用される装置にも適用可能である。すなわち、インク以外の薬液、電解液、液状樹脂、接着剤、溶剤、潤滑油、液状食品、美容液等の脱気にも適用可能である。
【0062】
上記実施形態では、減圧装置として減圧ポンプ62が例示されたが、減圧装置はインクタンク32内を減圧可能な装置であればよく、例えば減圧装置はエジェクターでもよい。
【0063】
上記実施形態では、循環装置として循環ポンプ67が例示されたが、循環装置は循環流路47を通してインクを循環可能な装置であればよく、例えば循環装置はエジェクターでもよい。
【符号の説明】
【0064】
1 インクジェット記録装置
21 記録ヘッド
32A、32B インクタンク(液体タンク)
38 制御装置
47、47A、47B、47AA、47BB 循環流路
62 減圧ポンプ(減圧装置)
67 循環ポンプ(循環装置)
S シート
図1
図2
図3