(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154583
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ガス回収方法、ガス回収システムおよびハイドレート集積器
(51)【国際特許分類】
E21B 43/00 20060101AFI20241024BHJP
E21C 50/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
E21B43/00 A
E21C50/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068481
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000219406
【氏名又は名称】東亜建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100152205
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 昌司
(72)【発明者】
【氏名】森澤 友博
(72)【発明者】
【氏名】武田 将英
【テーマコード(参考)】
2D065
【Fターム(参考)】
2D065FA03
2D065FA21
2D065FA31
(57)【要約】
【課題】ガスハイドレートが賦存する地盤を掘削することなく、効率良くガスを回収する。
【解決手段】実施形態のガス回収システム1は、表層型ガスハイドレートが賦存する水域に設置され、水域の水底面Bから湧出するガスプルームPを内部空間でハイドレート化し、ハイドレート塊HCに成長させるハイドレート集積器10と、ハイドレート集積器10を水底面Bから少なくともハイドレート塊HCが分解する水深まで引き上げ、ハイドレート塊HCが分解して生成したガスGを回収する船舶20と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表層型ガスハイドレートが賦存する水域にハイドレート集積器を設置する工程と、
前記水域の水底面から湧出するガスプルームを前記ハイドレート集積器の内部空間でハイドレート化し、ハイドレート塊に成長させる工程と、
前記ハイドレート塊を有する前記ハイドレート集積器を前記水底面から少なくとも前記ハイドレート塊が分解する水深まで引き上げ、前記ハイドレート塊が分解して生成したガスを回収する工程と、
を備えるガス回収方法。
【請求項2】
前記ハイドレート集積器を設置する工程において、前記ハイドレート集積器を平面的に複数設置する、請求項1に記載のガス回収方法。
【請求項3】
前記平面的に設置された複数のハイドレート集積器の上に、ハイドレート集積器間の隙間を埋めるように別のハイドレート集積器を設置する、請求項2に記載のガス回収方法。
【請求項4】
前記ハイドレート集積器内に所定量のハイドレートが集積された後、前記ハイドレート集積器を引き上げる、請求項1に記載のガス回収方法。
【請求項5】
前記ハイドレート集積器の接地圧が所定値より小さくなった後に、前記ハイドレート集積器を引き上げる、請求項4に記載のガス回収方法。
【請求項6】
前記ガスを回収する工程において、前記ガスの回収量に基づいて前記ハイドレート集積器の水深を調整する、請求項1~5のいずれかに記載のガス回収方法。
【請求項7】
表層型ガスハイドレートが賦存する水域に設置され、前記水域の水底面から湧出するガスプルームを内部空間でハイドレート化し、ハイドレート塊に成長させるハイドレート集積器と、
前記ハイドレート塊を有する前記ハイドレート集積器を前記水底面から少なくとも前記ハイドレート塊が分解する水深まで引き上げ、前記ハイドレート塊が分解して生成したガスを回収する船舶と、
を備えるガス回収システム。
【請求項8】
前記ハイドレート集積器は、前記水域の水底面に平面的に複数設置されている、請求項7に記載のガス回収システム。
【請求項9】
前記平面的に設置された複数のハイドレート集積器の上に、ハイドレート集積器間の隙間を埋めるように設置された別のハイドレート集積器をさらに備える、請求項8に記載のガス回収システム。
【請求項10】
前記ガスを回収する際に引き上げられた前記ハイドレート集積器を前記船舶に接続する回収管をさらに備える、請求項7~9のいずれかに記載のガス回収システム。
【請求項11】
表層型ガスハイドレートが賦存する水域に設置され、前記水域の水底面から湧出するガスプルームを内部空間においてハイドレート化し、ハイドレート塊に成長させる、ハイドレート集積器。
【請求項12】
前記ハイドレート集積器は、下部に重心を有するように構成されている、請求項11に記載のハイドレート集積器。
【請求項13】
ガスを回収するための回収管に結合可能であり、前記内部空間と連通する接続部をさらに有する、請求項11に記載のハイドレート集積器。
【請求項14】
前記ハイドレート集積器は、前記内部空間を画成する天部および側部を有する、請求項11に記載のハイドレート集積器。
【請求項15】
前記内部空間の内面には、前記ガスプルームのハイドレート化を促進するための促進部が設けられている、請求項11~14のいずれかに記載のハイドレート集積器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス回収方法、ガス回収システムおよびハイドレート集積器に関し、より詳しくは、表層型ガスハイドレートが賦存する水域からメタンガス等のガスを回収するためのガス回収方法、ガス回収システムおよびハイドレート集積器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、海洋エネルギー資源としてメタンハイドレートが期待されている。メタンハイドレートには、海底表層付近に賦存する表層型メタンハイドレートと、地下深部に賦存する砂層型メタンハイドレートがある。表層型メタンハイドレートが賦存する海域では、海底面から気泡状のメタンガスプルームが湧出している。メタンガスプルームは海底面から浮上すると速やかにハイドレート化する。メタンハイドレートは、深海のような高圧、低温の条件下において安定しているが、密度が海水より低いために浮上する。そして、浅い水深まで浮上すると、圧力の低下と温度の上昇によって分解してメタンガスを放出する。
【0003】
このようにして海洋・大気中においてメタンガスが常に拡散している。メタンガスは二酸化炭素の約25倍の強力な温室効果ガスであり、地球温暖化を促進している。
【0004】
ところで、従来、海底地盤を掘削してメタンハイドレートを採取する手法が種々提案されている(特許文献1~3)。しかし、専用の船舶や掘削機械が必要となるため、イニシャルコストが高く、船舶・掘削機械の製造に伴う炭素排出量も大きい。加えて、船舶や掘削機械の稼働に要するエネルギー以上のハイドレートを回収することは現状において容易でない。
【0005】
また、地盤の掘削中、船舶は同じ海域に長期間にわたって留まる必要があるところ、荒天により作業の継続性、安全性が脅かされる可能性がある。
【0006】
さらに、掘削によって、海底地盤の安定性を損なったり、堆積泥の巻き上げにより水質が低下するなど、海洋環境に悪影響を与える懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003-193788号公報
【特許文献2】特開2016-108774号公報
【特許文献3】特許7016077号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記技術的認識に基づいてなされたものであり、その課題は、ガスハイドレートが賦存する地盤を掘削することなく、効率良くガスを回収することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係るガス回収方法は、
表層型ガスハイドレートが賦存する水域にハイドレート集積器を設置する工程と、
前記水域の水底面から湧出するガスプルームを前記ハイドレート集積器の内部空間でハイドレート化し、ハイドレート塊に成長させる工程と、
前記ハイドレート塊を有する前記ハイドレート集積器を前記水底面から少なくとも前記ハイドレート塊が分解する水深まで引き上げ、前記ハイドレート塊が分解して生成したガスを回収する工程と、
を備える。
【0010】
また、前記ガス回収方法において、
前記ハイドレート集積器を設置する工程において、前記ハイドレート集積器を平面的に複数設置してもよい。
【0011】
また、前記ガス回収方法において、
前記平面的に設置された複数のハイドレート集積器の上に、ハイドレート集積器間の隙間を埋めるように別のハイドレート集積器を設置してもよい。
【0012】
また、前記ガス回収方法において、
前記ハイドレート集積器内に所定量のハイドレートが集積された後、前記ハイドレート集積器を引き上げるようにしてもよい。
【0013】
また、前記ガス回収方法において、
前記ハイドレート集積器の接地圧が所定値より小さくなった後に、前記ハイドレート集積器を引き上げるようにしてもよい。
【0014】
また、前記ガス回収方法において、
前記ガスを回収する工程において、前記ガスの回収量に基づいて前記ハイドレート集積器の水深を調整するようにしてもよい。
【0015】
本発明の一態様に係るガス回収システムは、
表層型ガスハイドレートが賦存する水域に設置され、前記水域の水底面から湧出するガスプルームを内部空間でハイドレート化し、ハイドレート塊に成長させるハイドレート集積器と、
前記ハイドレート塊を有する前記ハイドレート集積器を前記水底面から少なくとも前記ハイドレート塊が分解する水深まで引き上げ、前記ハイドレート塊が分解して生成したガスを回収する船舶と、
を備える。
【0016】
また、前記ガス回収システムにおいて、
前記ハイドレート集積器は、前記水域の水底面に平面的に複数設置されていてもよい。
【0017】
また、前記ガス回収システムにおいて、
前記平面的に設置された複数のハイドレート集積器の上に、ハイドレート集積器間の隙間を埋めるように設置された別のハイドレート集積器をさらに備えてもよい。
【0018】
また、前記ガス回収システムにおいて、
前記ガスを回収する際に引き上げられた前記ハイドレート集積器を前記船舶に接続する回収管をさらに備えてもよい。
【0019】
本発明の一態様に係るハイドレート集積器は、
表層型ガスハイドレートが賦存する水域に設置され、前記水域の水底面から湧出するガスプルームを内部空間においてハイドレート化し、ハイドレート塊に成長させる。
【0020】
また、前記ハイドレート集積器において、
前記ハイドレート集積器は、下部に重心を有するように構成されていてもよい。
【0021】
また、前記ハイドレート集積器において、
ガスを回収するための回収管に結合可能であり、前記内部空間と連通する接続部をさらに有してもよい。
【0022】
また、前記ハイドレート集積器において、
前記ハイドレート集積器は、前記内部空間を画成する天部および側部を有してもよい。
【0023】
また、前記ハイドレート集積器において、
前記内部空間の内面には、前記ガスプルームのハイドレート化を促進するための促進部が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、ガスハイドレートが賦存する地盤を掘削することなく、効率良くガスを回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】実施形態に係るガス回収システムの概略的構成を示す図である。
【
図2】水底面に平面的に設置された複数のハイドレート集積器を示す図である。
【
図3】互い違いに2段に積まれた複数のハイドレート集積器を示す図である。
【
図4】(a)は実施形態に係るハイドレート集積器の斜視図であり、(b)は当該ハイドレート集積器の上面図であり、(c)は当該ハイドレート集積器の下面図である。
【
図5】実施形態の変形例1に係るハイドレート集積器の断面図である。
【
図6】実施形態の変形例2に係るハイドレート集積器の断面図である。
【
図7】実施形態の変形例3に係るハイドレート集積器の断面図である。
【
図8】実施形態に係るガス回収方法を説明するためのフローチャートである。
【
図9】実施形態に係るガス回収方法におけるハイドレートの成長を示す模式図である。
【
図10】吊り治具を用いたハイドレート集積器の設置方法を説明するための図である。
【
図11】スラスター付きの吊り治具を用いたハイドレート集積器の設置方法を説明するための図である。
【
図12】シンカーブロックおよびガイドワイヤーを用いたハイドレート集積器の設置方法を説明するための図である。
【
図13】ガスの回収工程を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施形態について図面を参照しながら説明する。なお、各図においては、同等の機能を有する構成要素に同一の符号を付している。また、各構成要素の縮尺比率は、図面上で認識可能な程度の大きさとするため、適宜に変えている。
【0027】
<ガス回収システム1>
図1~
図4を参照して、実施形態に係るガス回収システム1について説明する。
図1は、ガス回収システム1の概略的構成を示す図である。
図2は、水底面(海底面、湖底面等)Bに平面的に設置された複数のハイドレート集積器10の断面を示す図である。
図3は、水底面Bに互い違いに2段に積まれた複数のハイドレート集積器10を示す図である。
【0028】
本実施形態に係るガス回収システム1は、複数のハイドレート集積器10と、船舶20と、回収管30と、を備えている。ガス回収システム1は、ハイドレート集積器10内に集積されたガスハイドレートが分解して生成したガスを回収するように構成されている。ガス回収システム1は、たとえば、メタンハイドレートが分解して生成したメタンガスを回収する。メタンガス以外のガスの回収にガス回収システム1を適用することも可能である。
【0029】
以下、ガス回収システム1の構成要素について詳しく説明する。
【0030】
ハイドレート集積器10は、表層型ガスハイドレートが賦存する水域に設置されている。本実施形態では、複数のハイドレート集積器10が当該水域の水底面Bに平面的に設置されている。すなわち、水底面Bを略覆うように沈設されている。これにより、広い面積をカバーして有意な量のガスを回収可能とすることができる。また、ガスプルームPの湧出位置が移動した場合でも、他のハイドレート集積器10によってガスプルームPを捕捉することができる。本実施形態においてガスプルームPは、メタンガスプルーム(水底面から湧出する気泡状のメタンガス)である。
【0031】
ハイドレート集積器10は、表層型ガスハイドレートから生成され水底面Bから湧出するガスプルームPを捕捉し、ガスプルームPを内部空間でハイドレート化し、ハイドレート塊に成長させるように構成されている。本実施形態では、
図2および
図4(a)~(c)に示すように、ハイドレート集積器10は、下面が開放されたボックス形状である。ガスプルームPはハイドレート集積器10の内壁に付着してハイドレート化し、ハイドレート塊HCに成長する。その結果、ハイドレート集積器10の内部空間はハイドレートで満たされる。
【0032】
なお、
図3に示すように、ハイドレート集積器10は段積みされてもよい。すなわち、ガス回収システム1は、水底面Bに平面的に設置された複数のハイドレート集積器10の上に、ハイドレート集積器10間の隙間を埋めるように設置された別のハイドレート集積器10を備えてもよい。これにより、ガスプルームPの捕捉効率をさらに向上させることができる。
【0033】
また、ハイドレート集積器10は、水底面B上に直接設置される場合のほか、ガスプルームPを妨げない構成の設置台、たとえば、複数のハイドレート集積器10に共通の台の上に設置されてもよい。
【0034】
船舶20は、設置されたハイドレート集積器10を引き上げ、ハイドレート集積器10からガスを回収する。詳しくは、船舶20は、ハイドレート集積器10を水底面Bから少なくともハイドレート塊HCが分解する水深まで引き上げ、ハイドレート集積器10内に集積されたハイドレート塊HCが分解して生成したガスを回収する。
【0035】
なお、船舶20は、回収されたガスを蓄えるタンクを有してもよい。また、船舶20は、回収されたガスを用いて発電を行う発電装置や、発電された電力を蓄積する電池を有してもよい。船舶20には、発電された電力を水素等のエネルギーキャリアに変換する装置が設けられてもよい。
【0036】
また、船舶20は、ハイドレート集積器10が設置された水域に常に配備される必要はなく、ガスを回収する際にハイドレート集積器10が設置された水域に配備されればよい。
【0037】
回収管30は、水底面Bから引き上げられたハイドレート集積器10に結合され、ハイドレート集積器10の内部空間に連通する。すなわち、ガスを回収する際、回収管30は、一端が船舶20に接続され、他端がハイドレート集積器10(の接続部14)に接続される。なお、ここでいう「結合」は、ハイドレート集積器10と回収管30とが物理的に接続される場合に限られず、ハイドレート集積器10から放出されるガスが回収管30内に導かれる態様のものを含む。たとえば、後述の
図13に示すように、ハイドレート集積器10と回収管30の間にギャップがあってもよい。
【0038】
回収管30の材質は特に限定されず、たとえば、鋼、炭素繊維強化プラスチック(Carbon Fiber Reinforced Plastics:CFRP)またはステンレスである。回収管30は、折り曲げ可能なフレキシブル配管であってもよい。
【0039】
<ハイドレート集積器10>
図4を参照して、実施形態に係るハイドレート集積器10について詳しく説明する。
【0040】
ハイドレート集積器10は、前述のように、表層型ガスハイドレートが賦存する水域に設置される。そして、ハイドレート集積器10は、表層型ガスハイドレートから生成されるガスプルームPを内部空間においてハイドレート化し、ハイドレート塊HCに成長させるように構成されている。
【0041】
図4に示すように、本実施形態のハイドレート集積器10は、下面が開放された直方体状の構造を有している。ハイドレート集積器10は、内部空間を画成する天部11と、側部12,13とを有している。また、ハイドレート集積器10は、内部空間と連通する接続部14を有している。この接続部14は、ガスを回収する際、回収管30に結合される。
【0042】
ハイドレート集積器10の設置当初においては、接続部14からハイドレートが漏れ出すが、ハイドレートが内部空間で成長すると接続部14が閉塞され、ハイドレートが漏れ出さないようになる。
【0043】
なお、接続部14は複数の小孔が設けられた細孔板により塞がれてもよいし、あるいは、接続部の上端に開閉可能な蓋が設けられてもよい。これにより、ハイドレートの集積効率を高く維持しつつ、接続部14の太径化を図ることができる。その結果、ガスの回収効率を向上させることができる。
【0044】
ハイドレート集積器10の構成材は特に限定されない。たとえば、ハイドレート集積器10は、コンクリートから構成されてもよいし、鉄筋コンクリート、あるいは鋼等の金属から構成されてもよい。
【0045】
ハイドレート集積器10の形状は、特に限定されず、直方体状のほか、ドーム状、円柱状、円錐状、多角錐状、錐台状等であってもよい。ハイドレート集積器10は、隣接して設置されるハイドレート集積器10と接続可能なブロック構造を有してもよい。たとえば、ハイドレート集積器10は、隣接するハイドレート集積器10と係合するための係合部を有してもよい。
【0046】
ハイドレート集積器10は、下部に重心を有するように構成されている。これにより、設置状態および引き上げの際に、ハイドレート集積器10が反転することを防止できる。本実施形態では、側部12,13は下方にいくにつれて重くなるように構成されている。たとえば、側部12,13の下端に錘または鍔部が設けられる。その他、側部12,13の下方にいくにつれて、側部12,13を肉厚にしたり、内部の骨材の密度を高くしたり、または配筋量を多くしてもよい。また、天部11および側部12,13を鉄筋コンクリートで構成し、側部12,13の下部に適用する鉄筋またはコンクリートについては上部よりも相対的に重い材料を用いてもよい。このようにハイドレート集積器10は、複数の材料から構成されるハイブリッド構造とし、ハイドレート集積器10の下部が相対的に重い材料で構成されるようにしてもよい。
【0047】
なお、ハイドレート集積器10は、その水中重量が内部空間に充填されたハイドレートの浮力よりも大きくなるように構成されてもよい。これにより、ハイドレート集積器10は水底面に安定して留まることができる。反対に、ハイドレート集積器10は、その水中重量が内部空間に充填されたハイドレートの浮力よりも小さくなるように構成されてもよい。これにより、ハイドレート集積器10の内部空間がハイドレートで満たされると、自動的に浮上するようにすることができる。
【0048】
また、ハイドレート集積器10は、水底面B等の接地面からハイドレート集積器10の底面に作用する接地圧を測定する測定装置(図示せず)を備えてもよい。測定装置としてロードセル等が用いられる。これにより、ハイドレート集積器10内に所定量のハイドレートが集積されたことを検出することができる。ハイドレートの集積が進むとハイドレート塊HCの浮力によりハイドレート集積器10の接地圧が低下するためである。
【0049】
また、ハイドレート集積器10は、ロードセル等の測定装置により測定されたデータを送信するための水中通信装置を備えてもよい。水中通信装置として、たとえば、音響通信装置やLED・レーザなどを用いた可視光通信装置が用いられる。
【0050】
なお、引き上げ時に内部のハイドレート塊HCやガスが漏出しないように、ハイドレート集積器10は水底面から離れると底面が閉じるように構成されてもよい。たとえば、ハイドレート集積器10は、エクマンバージ採泥器等で用いられている開閉可能な2個の半円形のジョーを下部に備えてもよい。
【0051】
また、シートを用いてハイドレート集積器10を構成してもよい。詳しくは、ハイドレート集積器10は、高分子素材等のフレキシブル材料で構成されたシート部と、シート部の縁部に設けられた錘部とを有する。シート部の内面に付着したガスプルームがハイドレート化し、ハイドレートが集積されるにつれてシート部が膨らむようになる。
【0052】
次に、ハイドレート集積器10の変形例1~3について説明する。いずれの変形例に係るハイドレート集積器も、ガスプルームのハイドレート化を促進するための構成(促進部)を備えている。
【0053】
<変形例1>
図5に示すように、本変形例に係るハイドレート集積器10Aは、天部11および側部12,13の内壁にリブ15が設けられている。ガスプルームPはリブ15等に付着してハイドレートHとなる。ガスプルームPがリブ15に付着し易いため、ハイドレート集積器内部のハイドレート化を促進することができる。リブ15は、特許請求の範囲における促進部の一例である。
【0054】
なお、リブ15の形状、数は特に限定されない。リブ15は天部11および側部12,13のいずれか一方にのみ設けられてもよい。
【0055】
また、リブ15に限らず、半球状、柱状等、任意形状の突起(図示せず)が設けられてもよいし、あるいは、任意形状の窪みが内部空間の内壁に設けられてもよい。
【0056】
<変形例2>
図6に示すように、本変形例に係るハイドレート集積器10Bは、天部11から網部(ネット)16が吊り下げられている。ガスプルームPは網部16等に付着してハイドレートHとなる。ガスプルームPが網部16に付着し易いため、ハイドレート集積器内部のハイドレート化を促進することができる。網部16は、特許請求の範囲における促進部の一例である。
【0057】
なお、網部16の形状、数は特に限定されない。
【0058】
<変形例3>
図7に示すように、本変形例に係るハイドレート集積器10Cは、天部11から紐部17が吊り下げられている。ガスプルームPは紐部17等に付着してハイドレートHとなる。ガスプルームPが紐部17に付着し易いため、ハイドレート集積器内部のハイドレート化を促進することができる。紐部17は、特許請求の範囲における促進部の一例である。
【0059】
なお、紐部17の太さ、本数は特に限定されない。
【0060】
<ガス回収方法>
図8および
図9等を参照して、実施形態に係るガス回収方法の一例について説明する。
図8は、実施形態に係るガス回収方法を説明するためのフローチャートである。
図9は、実施形態に係るガス回収方法におけるハイドレートの成長を示す模式図である。
【0061】
ステップS1:表層型ガスハイドレートが賦存する水域にハイドレート集積器を設置する。本例では、
図9(a)に示すように、ハイドレート集積器10を水中で降下させていき、水底面Bから湧出するガスプルームPを覆うように沈設する。
【0062】
本ステップS1では、
図10に示すように、船舶25のウインチWを用いて、吊り治具Jに釣支されたハイドレート集積器10を降下させ、水底面Bに設置する。なお、船舶25は前述の船舶20と異なる船であってもよいし、同じ船であってもよい。ハイドレート集積器10は、船積みにより対象水域まで運搬される。これに限らず、船舶によって対象水域までハイドレート集積器10をえい航してもよい。
【0063】
このように吊り治具Jを用いることで、ハイドレート集積器10を所望の位置に水平を保った状態で沈設することができる。また、設置水域に海流等の強い流れがある場合でも、ハイドレート集積器10を所望の位置に水平を保った状態で設置することができる。この場合、吊り治具Jに吊り下げられたハイドレート集積器10を、強い流れを回避可能な水深まで降下させ、ハイドレート集積器10の水中動揺が安定してから、降下させ水底面Bに設置する。
【0064】
本ステップS1において、
図1および
図2を参照して説明したように、表層型ガスハイドレートが賦存する水域の水底面Bに平面的に複数のハイドレート集積器10を設置してもよい。さらに、水底面Bに設置された複数のハイドレート集積器10の上に、ハイドレート集積器間の隙間を埋めるように別のハイドレート集積器10を設置してもよい。
【0065】
なお、ガスプルームPの湧出位置は変化することがあるため、ハイドレート集積器10の設置時点で設置箇所においてガスプルームPが湧出していなくてもよい。
【0066】
なお、吊り治具Jとハイドレート集積器10との接続にオートリリースフックを用いてもよい。これにより、ハイドレート集積器10が水底面Bに着底した後、自動的に吊り治具Jがハイドレート集積器10から切り離される。
【0067】
また、吊り治具Jとハイドレート集積器10との接続/切り離しは、遠隔操作型無人潜水機(ROV)を用いて行ってもよい。
【0068】
図11に示すように、吊り治具JはスラスターTを備えてもよい。これにより、ハイドレート集積器10の設置位置を調整することが可能となり、ハイドレート集積器10を高精度に設置することができる。
【0069】
図12に示すように、ガイドワイヤーGWおよびシンカーブロックSBを用いてハイドレート集積器10を設置してもよい。ガイドワイヤーGWは吊り治具Jの円筒部Cに挿通されており、上端は船舶26に接続され、下端がシンカーブロックSBに接続される。なお、ガイドワイヤーGWの上端は船舶25に接続されてもよい。
【0070】
ガイドワイヤーGWおよびシンカーブロックSBを用いる場合、まず、ガイドワイヤーGWに接続されたシンカーブロックSBが所望の設置位置付近に沈設される。その後、ハイドレート集積器10の円筒部CにガイドワイヤーGWを挿通し、ガイドワイヤーGWに沿ってハイドレート集積器10をシンカーブロックSB付近まで降下させる。これにより、所望の位置に安定的にハイドレート集積器10を設置することができる。
【0071】
ステップS2:水底面から湧出するガスプルームをハイドレート集積器の内部空間でハイドレート化し、ハイドレート塊に成長させる。本例では、水底面Bから湧出するガスプルームPをハイドレート集積器10の内部空間でハイドレート化し、内部空間を充填するまでハイドレート塊HCを成長させる。
【0072】
本ステップS2において、ハイドレート集積器10に捕捉されたガスプルームPは、天部11、側部12,13の内壁に付着してハイドレート化する。
図9(b),(c),(d)に示すように、ハイドレート集積器10内のハイドレート塊HCは内部空間をほぼ充填するまで成長する。
【0073】
ステップS3:ハイドレート塊を有するハイドレート集積器を水底面から少なくともハイドレート塊が分解する水深まで引き上げ、ハイドレート塊が分解して生成したガスを回収する。本例では、
図9(d)および
図13に示すように、ハイドレート塊HCを有するハイドレート集積器10を水底面Bから少なくともハイドレート塊HCが分解する水深まで引き上げる。その後、回収管30を通じて、ハイドレート塊HCが分解したガスを回収する。
【0074】
なお、本例ではハイドレート集積器10の内部空間がハイドレート塊HCにより充填されてから引き上げるが、引き上げタイミングは特に限定されない。ハイドレート集積器10内に所定量のハイドレートが集積された後、ハイドレート集積器10を引き上げるようにしてもよい。この場合、ハイドレート集積器10の接地圧に基づいて引き上げタイミングを決めてもよい。
【0075】
詳しくは、ハイドレートの集積が進むと、ハイドレート塊の浮力によりハイドレート集積器10の接地圧が低下することを利用して、たとえば、ハイドレート集積器10の接地圧が所定値より小さくなった後に、ハイドレート集積器10を引き上げる。ここで、接地圧は、ハイドレート集積器10に設けられたロードセル等により測定される。測定データは、音響通信、LED・レーザなどを用いた可視光通信等の水中通信技術を用いて船舶等の洋上に送信される。
【0076】
本ステップS3において、ハイドレート集積器10は、船舶25から吊り下ろされた吊り治具Jに接続され、ウインチWによって所定の水深まで引き上げられる。たとえば、ハイドレート集積器10の引き上げ水深は、海流等の影響を受けない水深(たとえば、水深200~300メートル以下)である。海流等の影響が少ない水域の場合は、洋上までハイドレート集積器10を引き上げてもよい。
【0077】
そして、引き上げられたハイドレート集積器10は、
図13に示すように、回収管30に結合される。ハイドレート集積器10内のハイドレート塊HCが分解して生成したガスG(メタンガス)は、接続部14および回収管30を通って浮上し、回収される。なお、回収には、ガスリフト効果を用いてもよいし、ポンプを用いてもよい。
【0078】
なお、本ステップS3において、ガスGとともに、ガスGの溶存液を回収してもよい。また、気泡状のメタンガスが湧出する海域の海底付近の海水はメタン濃度が高いことから、ハイドレート集積器10を水底面Bに留めることによって内部空間を満たす海水のメタン濃度を高め、回収管30を通じてそれを洋上に回収してもよい。
【0079】
また、ガスGの回収量に基づいてハイドレート集積器10の水深を調整してもよい。たとえば、ガスGの回収量が所定値より多い場合、ハイドレート集積器10の水深を深くすることで高圧・低温環境とし、ハイドレート塊HCの分解を抑制してガス発生量を減らす。反対に、ガスGの回収量が所定値より少ない場合、ハイドレート集積器10の水深を浅くすることで低圧・高温環境とし、ハイドレート塊HCの分解を促進してガス発生量を増やす。たとえば、回収の初期段階では、ハイドレート集積器10の水深を深くしておき、ハイドレート集積器10内のハイドレート量の減少に応じてハイドレート集積器10を徐々に引き上げて水深を浅くする。これにより、ガス回収量の均一化を図ることができる。
【0080】
上記のガス回収方法は、ハイドレート集積器10による方法の一例に過ぎない。他の例として、内部空間に充填されたハイドレートの浮力よりも水中重量が小さいハイドレート集積器10を用い、ハイドレート塊HCが成長して水面に浮上したハイドレート集積器10からガスを回収してもよい。
【0081】
<作用効果>
以上説明したように、本実施形態では、表層型ガスハイドレートが賦存する水域の水底面Bから湧出するガスプルームPをハイドレート集積器10で捕捉し、内部空間でハイドレート化してハイドレート塊HCに成長させる。その後、水底面Bのハイドレート集積器10を引き上げ、ハイドレート塊HCが分解して生成したガスGを回収する。
【0082】
上記のように、本実施形態によれば、ガスハイドレートが賦存する地盤を掘削することなく、メタンガス等のガスを回収することができる。したがって、地盤の安定性を損なうおそれがない。よって、漁業資源、環境に大きな影響を与えずにガスを回収することができる。
【0083】
さらに、本実施形態によれば、専用の船舶や掘削機械を用意する必要がなく、起重機船など既存の船舶を利用することができるため、イニシャルコストを大幅に低減することができる。
【0084】
また、本実施形態によれば、船舶はハイドレート集積器10の設置および回収のときにだけ用いればよいため、ガス回収作業の省力化が可能であり、低コストで実施することができる。
【0085】
また、本実施形態によれば、ハイドレート集積器10の設置およびガスの回収は海象条件が良い時期に行えばよいことから、比較的安全に実施することができる。
【0086】
従来の水底地盤の掘削によるメタンハイドレートの採取作業においては、水中の掘削機械にガスプルームが付着してハイドレート化することが作業の支障になっていた。これに対し、本実施形態は、ガスプルームが物体に付着してハイドレート化する性質を積極的に利用するものである。
【0087】
メタンガスの拡散を放置すれば地球温暖化が促進されてしまうところ、本実施形態によれば、メタンガスプルームを拡散前に捕捉、回収し、エネルギー源として有効に利用することができる。これにより、回収したメタンガス分の既存化石燃料の使用量を減らしたことになり、カーボンニュートラルの達成に貢献することができる。
【0088】
以上のように本発明は、水底面から湧出するガスプルームを効果的に捕捉、回収することで地球温暖化の緩和を図りつつ、環境に影響を与えずに省力的にエネルギー資源を得ることを可能とするものである。
【0089】
上記の記載に基づいて、当業者であれば、本発明の追加の効果や種々の変形を想到できるかもしれないが、本発明の態様は、上述した実施形態に限定されるものではない。特許請求の範囲に規定された内容およびその均等物から導き出される本発明の概念的な思想と趣旨を逸脱しない範囲で種々の追加、変更および部分的削除が可能である。
【符号の説明】
【0090】
1 ガス回収システム
10,10A,10B,10C ハイドレート集積器
11 天部
12,13 側部
14 接続部
15 リブ
16 網部
17 紐部
20,25,26 船舶
30 回収管
B 水底面
C 円筒部
SB シンカーブロック
G ガス
UG 水底地盤
J 吊り治具
H ハイドレート
HC ハイドレート塊
P ガスプルーム
T スラスター
W ウインチ
GW ガイドワイヤー