(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154584
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】車両用操向装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20241024BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068482
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】523207386
【氏名又は名称】NSKステアリング&コントロール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103850
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 秀▲てつ▼
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100066980
【弁理士】
【氏名又は名称】森 哲也
(74)【代理人】
【識別番号】100075579
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 嘉昭
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100175259
【弁理士】
【氏名又は名称】尾林 章
(72)【発明者】
【氏名】本橋 祐也
【テーマコード(参考)】
3D232
3D333
【Fターム(参考)】
3D232CC08
3D232DA03
3D232DA04
3D232DA15
3D232DA23
3D232DA63
3D232DA64
3D232DC08
3D232DC22
3D232DD01
3D232DD05
3D232EA01
3D232EB04
3D232EC23
3D232EC29
3D232EC37
3D232GG01
3D333CB02
3D333CB29
3D333CB44
3D333CE49
3D333CE50
(57)【要約】
【課題】ステアリングホイールの操舵角に応じた第1反力トルクと、路面からステアリングラックに加わるラック軸力の推定値に応じた第2反力トルクとを、合成して得られる操舵反力トルクをステアリングホイールに付与する車両用操向装置において、第1反力トルクと第2反力トルクとの配分比率に応じた適切なヒステリシス特性を有する操舵反力トルクを実現する。
【解決手段】車両用操向装置1は、第1反力トルクと第2反力トルクの配分比率を設定する配分比率設定部61と、ステアリングホイール10の操舵状態及び操舵角に応じたヒステリシス特性を持つ補正トルクを配分比率に応じて設定するヒステリシス補償部66と、第1反力トルクと第2反力トルクとを配分比率で合成して得られる合成反力トルクに補正トルクを加えて目標操舵反力トルクを演算する目標操舵反力トルク演算部(64、67、68)と、を備える。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の車両用操向装置であって、
前記ステアリングホイールの操舵角に応じた操舵反力トルクである第1反力トルクを演算する第1反力トルク演算部と、
路面からステアリングラックに加わるラック軸力に応じた操舵反力トルクである第2反力トルクを推定する第2反力トルク推定部と、
前記第1反力トルクと前記第2反力トルクの配分比率を設定する配分比率設定部と、
前記ステアリングホイールの操舵状態及び前記操舵角に応じたヒステリシス特性を持つ補正トルクを、前記配分比率に応じて設定するヒステリシス補償部と、
前記第1反力トルクと前記第2反力トルクとを前記配分比率で合成して得られる合成反力トルクに前記補正トルクを加えて目標操舵反力トルクを演算する目標操舵反力トルク演算部と、
前記目標操舵反力トルクに応じた電流指令値で駆動されて前記ステアリングホイールに操舵反力を発生させる反力アクチュエータと、
を備えることを特徴とする車両用操向装置。
【請求項2】
前記ヒステリシス補償部は、前記第2反力トルクの前記配分比率が小さい場合に比べて大きい場合に、より小さな前記補正トルクを設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用操向装置。
【請求項3】
前記ヒステリシス補償部は、前記第2反力トルクの前記配分比率が小さい場合に比べて大きい場合に、より大きな前記補正トルクを設定することを特徴とする請求項1に記載の車両用操向装置。
【請求項4】
前記ヒステリシス補償部は、前記ステアリングホイールの操舵状態及び前記操舵角に基づいてヒステリシス特性を持つ基本補正トルクを設定し、前記配分比率に応じて設定されたゲインを前記基本補正トルクに乗算することにより、前記補正トルクを設定することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用操向装置。
【請求項5】
前記配分比率設定部は、車速又は前記操舵角の少なくとも一方に応じて前記配分比率を設定することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の車両用操向装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用操向装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ(SBW:Steer-By-Wire)式の車両用操向装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ステアバイワイヤ式の車両用操向装置の場合、ステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されているため、路面から受ける操舵感がステアリングホイールに機械的に伝達されない。このため、操舵角に基づいて演算された操舵反力トルクである第1反力トルクに、ラック軸力の推定値に応じた操舵反力トルクである第2反力トルクを加えた操舵反力トルクを電気的に発生させることにより、第2反力トルクに含まれる路面情報が反映された操舵感を実現できる。さらに、第1反力トルクと第2反力トルクの配分比率を走行状態(例えば車速など)に応じて変更することで、より適切な操舵感を運転者に付与できる。
【0005】
一方で、ヒステリシス特性を有する補正トルクを操舵反力トルクに付加することで、運転者がステアリングホイールの操舵角を維持している保舵状態でステアリングホイールが過敏に動かないようにステアリングホイールの挙動を安定させることができる。
しかしながら、第2反力トルクもヒステリシス特性を有するため、第2反力トルクの配分比率によっては操舵反力トルクのヒステリシス特性が不適切になることによって操舵感が低下する虞がある。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ステアリングホイールの操舵角に応じた第1反力トルクと、路面からステアリングラックに加わるラック軸力の推定値に応じた第2反力トルクとを、合成して得られる操舵反力トルクをステアリングホイールに付与する車両用操向装置において、第1反力トルクと第2反力トルクとの配分比率に応じた適切なヒステリシス特性を有する操舵反力を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様によればステアリングホイールと操向輪との間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の車両用操向装置が与えられる。車両用操向装置は、ステアリングホイールの操舵角に応じた操舵反力トルクである第1反力トルクを演算する第1反力トルク演算部と、路面からステアリングラックに加わるラック軸力に応じた操舵反力トルクである第2反力トルクを推定する第2反力トルク推定部と、第1反力トルクと第2反力トルクの配分比率を設定する配分比率設定部と、ステアリングホイールの操舵状態及び操舵角に応じたヒステリシス特性を持つ補正トルクを、配分比率に応じて設定するヒステリシス補償部と、第1反力トルクと第2反力トルクとを配分比率で合成して得られる合成反力トルクに補正トルクを加えて目標操舵反力トルクを演算する目標操舵反力トルク演算部と、目標操舵反力トルクに応じた電流指令値で駆動されてステアリングホイールに操舵反力を発生させる反力アクチュエータと、を備える。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ステアリングホイールの操舵角に応じた第1反力トルクと、路面からステアリングラックに加わるラック軸力の推定値に応じた第2反力トルクとを、合成して得られる操舵反力トルクをステアリングホイールに付与する車両用操向装置において、第1反力トルクと第2反力トルクとの配分比率に応じた適切なヒステリシス特性を有する操舵反力を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態の車両用操向装置の一例の概要を示す構成図である。
【
図2】
図1の車両用操向装置の全体の制御構成例を示すブロック図である。
【
図3】路面反力推定部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図4】路面反力トルク推定部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図5】路面反力適応トルクマップの特性例を示す線図である。
【
図6】目標操舵トルク演算部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図7】基本操舵反力演算部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図8】操舵反力トルクマップの特性例を示す線図である。
【
図9】(a)及び(b)は配分比率の設定例を示す線図である。
【
図10】ダンピングトルク補償部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図11】ヒステリシス補償部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図12】基本ヒステリシス補償トルクの特性例を示す線図である。
【
図13】(a)~(d)はヒステリシスゲインの設定例を示す線図である。
【
図14】操舵トルク制御部の機能構成例を示すブロック図である。
【
図15】(a)及び(b)は比較例の操舵反力トルクのヒステリシス特性を概念的に示す線図であり、(c)は実施形態の操舵反力トルクのヒステリシス特性を概念的に示す線図である。
【
図16】実施形態の車両用操向方法の一例のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下に示す本発明の実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の構成、配置等を下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0011】
(構成)
図1は、第1実施形態の車両用操向装置1の一例の概要を示す構成図である。車両用操向装置1は、ステアリングホイールと操向輪とが機械的に分離したステアバイワイヤ式の車両用操向装置であり、ステアリングホイール10を含む操舵装置における操作を、電気信号によって操向輪WL及びWRを転舵させる転舵装置に伝えるシステムである。
車両用操向装置1は、操舵装置2と、転舵装置3と、タイロッド4a及び4bと、ハブユニット5a及び5bと、反力制御部30と、転舵制御部31を備える。
【0012】
操舵装置2は、ステアリングホイール10と、操舵軸(ステアリングシャフト、ハンドル軸、コラム軸)11とを備え、ステアリングホイール10に連結した操舵軸11には、操舵角センサ12と、トルクセンサ13と、減速ギア14が設けられている。
操舵軸11は、ステアリングホイール10に連結した入力軸と、減速ギア14に連結した出力軸と、入力軸と出力軸との間に介挿したトーションバーを備える。操舵角センサ12は、操舵軸11の入力軸の操舵角θshを検出し、検出した操舵角θshの情報を反力制御部30に出力する。
【0013】
トルクセンサ13は、トーションバーの捩れ角を、操舵軸11の操舵トルクThとして電磁気的に検出し、検出した操舵トルクThの情報を反力制御部30に出力する。以下の説明においてトルクセンサ13が検出した操舵トルクThを「実操舵トルクTh」と表記することがある。
さらに操舵装置2は、減速ギア14を介して操舵軸11の出力軸に連結された反力モータ15とモータ電流センサ16とモータ角度センサ17を備える。反力モータ15は、反力制御部30から出力される駆動電流Isrによって駆動されて回転駆動力を発生し、操舵反力として操舵軸11に付与する。反力モータ15は、特許請求の範囲に記載の「反力アクチュエータ」の一例である。モータ電流センサ16は、反力モータ15に流れる反力モータ電流を検出し、その検出値Ismの情報を反力制御部30に出力する。また、モータ角度センサ17は、反力モータ15の角度情報を検出し、その検出値θsmの情報を反力制御部30に出力する。
【0014】
反力制御部30は、マイクロコントールユニット(MCU:Micro Control Unit)などのプロセッサや、記憶装置等の周辺部品を含む電子制御ユニット(ECU:Electronic Control Unit)である。以下に説明する反力制御部30の機能は、記憶装置に格納されたプログラムをMCUが実行することによって実現される。MCUに代えて、マイクロプロセッサユニット(MPU:Micro Processor Unit)やCPU(Central Processing Unit)等の他の種類のプロセッサを備えてもよい。
後述するように、反力制御部30は、操舵角θsh等の情報に基づいて操舵軸11に付与する模擬的な操舵反力を演算する。反力制御部30は、演算した操舵反力を生じさせる駆動電流Isrを反力モータ15に供給する。
【0015】
転舵装置3は、操舵装置2の操舵軸11から機械的に切り離されたピニオンシャフト20と、ラックアンドピニオン機構21を備えている。さらに転舵装置3は、減速ギア23を介してピニオンシャフト20に連結された転舵モータ24とモータ電流センサ25とモータ角度センサ26を備える。転舵モータ24は、転舵制御部31から出力される駆動電流Itrによって駆動されて回転駆動力を発生する。モータ電流センサ25は、転舵モータ24に流れる転舵モータ電流を検出し、その検出値Itmの情報を転舵制御部31に出力する。また、モータ角度センサ26は、転舵モータ24の角度情報を検出し、その検出値θtmの情報を転舵制御部31に出力する。
【0016】
ラックアンドピニオン機構21は、ピニオンシャフト20に連結されたピニオン21aと、このピニオン21aに噛合するステアリングラック(以下「ラック」と表記する)21bとを有し、ラック21bは、タイロッド4a、4bとハブユニット5a、5bとを介して操向輪WL及びWRに連結されている。転舵モータ24からピニオン21aに伝達される回転運動は、ラック21bで車幅方向の直進運動に変換されて、操向輪WL及びWRを転舵させる。
ピニオンシャフト20には、さらに転舵角センサ22が設けられている。転舵角センサ22は、ピニオンシャフト20の回転角度を、操向輪WL及びWRの実際の転舵角θtpとして検出し、検出した転舵角θtpの情報を転舵制御部31に出力する。以下の説明において、転舵角センサ22が検出した操向輪WL及びWRの実際の転舵角θtpを「実転舵角θtp」と表記することがある。
【0017】
転舵制御部31は、操向輪WL及びWRの転舵角を制御する電子制御ユニットである。例えば、転舵制御部31は、マイクロコントールユニットなどのプロセッサや、記憶装置等の周辺部品を含む。以下に説明する転舵制御部31の機能は、記憶装置に格納されたプログラムをMCUが実行することによって実現される。MCUに代えて、MPUやCPU等の他の種類のプロセッサを備えてもよい。
反力制御部30及び転舵制御部31は、車両CAN(Controller Area Network)32に接続されており、車両の各種情報を車両CAN32から受信する。例えば反力制御部30及び転舵制御部31は、図示しない車速センサが検出した車両の車速Vhの情報を車両CAN32から受信してよい。また、反力制御部30及び転舵制御部31には、車両CAN32以外の通信、アナログ/ディジタル信号、電波等を授受する非CAN33も接続可能である。
【0018】
さらに、反力制御部30と転舵制御部31とは、専用CAN(Private Controller Area Network)34によって接続されている。専用CAN34は、反力制御部30と転舵制御部31との間の専用のネットワークであり、車両CAN32の通信速度よりも高い通信速度を有するネットワークを利用できる。たとえば、車両CAN32として、数百kbpsの通信速度を有するネットワークを利用し、専用CAN34として数Mbpsの通信速度を有するネットワークを利用してもよい。
【0019】
操向輪WL及びWRの実転舵角θtpの目標値である目標転舵角θtrefは、反力制御部30が演算する。反力制御部30は、少なくとも操舵角θshに基づいて、目標転舵角θtrefを演算する。反力制御部30は、車速Vhに応じて操舵角θshと目標転舵角θtrefとの間の比率を可変にしてもよい。
【0020】
反力制御部30は、演算した目標転舵角θtrefを専用CAN34経由で転舵制御部31に送信する。
転舵制御部31は、専用CAN34経由で反力制御部30から送信された目標転舵角θtrefを受信する。転舵制御部31は、転舵角センサ22が検出した実転舵角θtpが目標転舵角θtrefとなるように転舵モータ24の駆動電流Itrを制御する。
なお、反力制御部30の代わりに転舵制御部31が目標転舵角θtrefを演算してもよい。この場合、例えば転舵制御部31は、操舵角θsh等の必要な情報を反力制御部30から専用CAN34経由で受信してよい。
【0021】
図2は、車両用操向装置1の全体の制御構成例を示すブロック図である。車両用操向装置1は、反力制御部30と転舵制御部31は、所定のプログラムを実行することにより、目標転舵角設定部40と、転舵角制御部41と、電流制御部42及び47と、路面反力推定部43と、目標操舵トルク演算部45と、操舵トルク制御部46の機能を実現する。例えば転舵角制御部41及び電流制御部42における処理を転舵制御部31が実行し、目標操舵トルク演算部45、操舵トルク制御部46及び電流制御部47が実行してよい。目標転舵角設定部40と路面反力推定部43における処理は、反力制御部30が実行してもよく、転舵制御部31が実行してもよい。
【0022】
目標転舵角設定部40は、少なくとも操舵角θshに基づいて、目標転舵角θtrefを演算する。目標転舵角設定部40は、車速Vhに応じて操舵角θshと目標転舵角θtrefとの間の比率を可変にしてもよい。
転舵角制御部41は、目標転舵角θtrefに対して実転舵角θtpが追従するように(すなわち目標転舵角θtrefに対する実転舵角θtpの角度偏差が減少するように)、転舵モータ24の駆動電流Itrの指令値である電流指令値Itrefを演算する。例えば転舵角制御部41は、目標転舵角θtrefに対する実転舵角θtpの角度偏差を減少させる比例積分微分(PID:Proportional-Integral-Differential)制御や、微分先行型PID制御(PI-D制御)により電流指令値Itrefを演算してよい。
【0023】
電流制御部42は、電流指令値Itrefに対する転舵モータ電流の検出値Itmの電流偏差を減少するような電圧制御指令値を、例えば比例積分(PI:Proportional-Integral)制御や、PID制御に基づいて演算し、演算した電圧制御指令値に基づくPWM制御によって駆動電流Itrを生成する。
路面反力推定部43は、路面からラック21bに加わるラック軸力を推定し、ラック軸力に応じた操舵反力トルクである路面反力適応トルクTrefbを推定する。路面反力適応トルクTrefbは、特許請求の範囲に記載の「第2反力トルク」の一例である。
【0024】
図3は、路面反力推定部43の機能構成例を示すブロック図である。路面反力推定部43は、路面反力トルク推定部50と、符号抽出部51と、絶対値演算部52と、反力トルク推定部53と、乗算器54を備える。
路面反力トルク推定部50は、転舵モータ電流の電流指令値Itrefと実転舵角θtpとに応じて、転舵モータ24で操向輪WL及びWRを転舵することによって発生する路面反力トルクの推定値Tsatestを算出する。
【0025】
図4は、路面反力トルク推定部50の機能構成例を示すブロック図である。路面反力トルク推定部50は、トルク換算部50aと、微分器50b及び50dと、減衰トルク演算部50cと、慣性トルク演算部50eと、加算器50fと、減算器50gとを備える。
転舵モータ24がモータトルクTmを発生して操向輪WL及びWRを転舵すると、路面反力トルクTsatが発生する。一方、減速ギア23等によりピニオン軸に作用する抵抗トルクとして慣性トルクTiや減衰トルクTdが発生する。これらの力のつり合いから、運動方程式Tsat=Tm-Td-Tiが得られる。
【0026】
このためトルク換算部50aは、転舵モータ電流の電流指令値Itrefを転舵モータ24のモータトルクTmに換算する。微分器50b及び50dは、それぞれ実転舵角θtpの角速度ωtp及び角加速度αtpを算出する。減衰トルク演算部50cは、角速度ωtpと減衰係数Dmとを乗算して減衰トルク(Dm×ωtp)を演算する。慣性トルク演算部50eは、角加速度αtpと慣性モーメントJとを乗算して慣性トルク(J×αtp)を演算する。
加算器50fと減算器50gは、モータトルクTmから減衰トルク(Dm×ωtp)と慣性トルク(J×αtp)を減算することにより、路面反力トルクTsatの推定値Tsatest=Tm-(Dm×ωtp)-(J×αtp)を算出する。
【0027】
図3を参照する。符号抽出部51は、路面反力トルクの推定値Tsatestの符号sgn(Tsatest)を抽出して、乗算器54に入力する。符号関数sgn(x)は、変数xが0以上の場合に「+1」を返し、変数xが0未満の場合に「-1」を返す関数である。絶対値演算部52は、推定値Tsatestの絶対値|Tsatest|を演算する。
【0028】
反力トルク推定部53は、絶対値|Tsatest|と車速Vhとに応じた反力トルクTrefb0を推定する。例えば反力トルク推定部53は、絶対値|Tsatest|と車速Vhの組合せに対応する反力トルクTrefb0を記憶した路面反力適応トルクマップに基づいて、絶対値|Tsatest|と車速Vhとに応じた反力トルクTrefb0を推定してよい。
【0029】
図5は、路面反力適応トルクマップの特性例を示す線図である。路面反力適応トルクマップは、絶対値|Tsatest|が増加するにつれて反力トルクTrefb0が増加し、車速Vhが増加するにつれて反力トルクTrefb0が増加する特性を有する。路面反力適応トルクマップは、例えばルックアップテーブルとして実現してもよく計算式として実現してもよい。
図3を参照する。乗算器54は、反力トルクTrefb0に符号sgn(Tsatest)を乗算して路面反力適応トルクTrefbを算出する。
【0030】
図6は、目標操舵トルク演算部45の機能構成例を示すブロック図である。目標操舵トルク演算部45は、車速Vhと、操舵軸11の操舵角θshと、路面反力適応トルクTrefbに基づいて、反力モータ15から操舵軸11に付与する操舵反力トルクの目標値である目標操舵反力トルクThrefを演算する。目標操舵トルク演算部45は、基本操舵反力演算部60と、配分比率設定部61と、乗算器62及び63と、加算器64、67及び68と、ダンピングトルク補償部65と、ヒステリシス補償部66を備える。
【0031】
図7は、基本操舵反力演算部60の機能構成例を示すブロック図である。基本操舵反力演算部60は、操舵角θshと車速Vhとに基づいて操舵角θshに応じた操舵反力トルクである基本操舵反力トルクTrefaを演算する。基本操舵反力トルクTrefaは、特許請求の範囲に記載の「第1反力トルク」の一例である。基本操舵反力演算部60は、絶対値演算部60aと、符号抽出部60bと、反力トルク生成部60cと、乗算器60dを備える。
【0032】
絶対値演算部60aは、操舵角θshの絶対値|θsh|を演算する。符号抽出部60bは、操舵角θshの符号sgn(θsh)を抽出して、乗算器60dに入力する。
反力トルク生成部60cは、絶対値|θsh|と車速Vhとに応じた反力トルクTrefa0を生成する。例えば反力トルク生成部60cは、絶対値|θsh|と車速Vhの組合せに対応する反力トルクTrefa0を記憶した操舵反力トルクマップに基づいて、絶対値|θsh|と車速Vhとに応じた反力トルクTrefa0を生成してよい。
【0033】
図8は、操舵反力トルクマップの特性例を示す線図である。操舵反力トルクマップは、絶対値|θsh|が増加するにつれて反力トルクTrefa0が増加し、車速Vhが増加するにつれて反力トルクTrefa0が増加する特性を有する。操舵反力トルクマップは、例えばルックアップテーブルとして実現してもよく計算式として実現してもよい。
図7を参照する。乗算器60dは、反力トルクTrefa0に符号sgn(θsh)を乗算して基本操舵反力トルクTrefaを算出する。
【0034】
図6を参照する。配分比率設定部61は、走行状態(例えば車速Vhや操舵角θsh等)に応じて、基本操舵反力トルクTrefaと路面反力適応トルクTrefbとの間の配分比率Ga:Gbを設定する。
配分比率Gaは、基本操舵反力トルクTrefaと路面反力適応トルクTrefbとを合成して得られる合成反力トルク(Ga×Trefa+Gb×Trefb)のうち、基本操舵反力トルクTrefaが占める配分比率である。配分比率Gbは、合成反力トルク(Ga×Trefa+Gb×Trefb)のうち、路面反力適応トルクTrefbが占める配分比率である。
例えば配分比率Ga及びGbは、0以上1以下の値に設定してよい。また例えば、配分比率Ga及びGbの和(Ga+Gb)が「1」となるように、配分比率Ga及びGbを設定してもよい。
【0035】
例えば配分比率設定部61は、車速Vhに応じて配分比率Ga:Gbを設定してよい。
図9(a)は、配分比率Ga:Gbの第1設定例を示す線図である。例えば配分比率設定部61は、車速Vhが高い場合に比べて低い場合により大きな配分比率Gaを設定し、車速Vhが高い場合に比べて低い場合により小さな配分比率Gbを設定してよい。例えば、車速Vhが速度V1以下の範囲では配分比率Gaを最大値G1に設定し、車速Vhが速度V2以上の範囲では配分比率Gaを最小値G2に設定し、車速Vhが速度V1以上V2以下の範囲では、車速Vhが高くなるほど最大値G1から最小値G2に減少するように配分比率Gaを設定してよい。
【0036】
また車速Vhが速度V1以下の範囲では配分比率Gbを最小値G2に設定し、車速Vhが速度V2以上の範囲では配分比率Gbを最大値G1に設定し、車速Vhが速度V1以上V2以下の範囲では、車速Vhが高くなるほど最小値G2から最大値G1に増加するように配分比率Gbを設定してよい。
最大値G1と、最大値G1よりも小さい最小値G2は、0以上1以下の値に設定してよく、これらの和(G1+G2)が「1」となるように設定してもよい。
【0037】
また例えば配分比率設定部61は、操舵角θshに応じて配分比率Ga:Gbを設定してもよい。
図9(b)は、配分比率の第2設定例を示す線図である。例えば配分比率設定部61は、操舵角θshが大きい場合に比べて小さい場合により大きな配分比率Gaを設定し、操舵角θshが大きい場合に比べて小さい場合により小さな配分比率Gbを設定してよい。例えば、操舵角θshが角度θ1以下の範囲では配分比率Gaを最大値G3に設定し、操舵角θshが角度θ2以上の範囲では配分比率Gaを最小値G4に設定し、操舵角θshが角度θ1以上θ2以下の範囲では、操舵角θshが大きくなるほど最大値G3から最小値G4に減少するように配分比率Gaを設定してよい。
【0038】
また操舵角θshが角度θ1以下の範囲では配分比率Gbを最小値G4に設定し、操舵角θshが角度θ2以上の範囲では配分比率Gbを最大値G3に設定し、操舵角θshが角度θ1以上θ2以下の範囲では、操舵角θshが大きくなるほど最小値G4から最大値G3に増加するように配分比率Gbを設定してよい。
最大値G3と、最大値G3よりも小さい最小値G4は、0以上1以下の値に設定してよく、これらの和(G1+G2)が「1」となるように設定してもよい。
【0039】
また、配分比率設定部61は、車速Vhと操舵角θshの組合せに応じて配分比率Ga:Gbを設定してよい。例えば
図9(a)の特性を有する配分比率Ga及びGbをそれぞれ配分比率Ga1及びGb1と表記し、
図9(b)の特性を有する配分比率Ga及びGbをそれぞれ配分比率Ga2及びGb2と表記した場合に、配分比率Ga1とGa2の積を配分比率Ga=Ga1×Ga2として設定し、配分比率Gb1とGb2の積を配分比率Gb=Gb1×Gb2として設定してもよい。
【0040】
図6を参照する。乗算器62及び63と加算器64は、基本操舵反力トルクTrefaと路面反力適応トルクTrefbとを配分比率Ga:Gbで合成して得られる合成反力トルク(Ga×Trefa+Gb×Trefb)を算出する。
図10は、ダンピングトルク補償部65の機能構成例を示すブロック図である。ダンピングトルク補償部65は、操舵角θshと車速Vhに基づいて、操舵トルクの摩擦成分及び粘性成分を模擬したダンピングトルクTrefcを演算する。
【0041】
ダンピングトルク補償部65は、微分器65aと、ゲイン設定部65bと、乗算器65cを備える。微分器65aは、操舵角θshを時間微分して操舵角速度ωshを算出する。ゲイン設定部65bは、車速Vhに応じたダンピングゲインGdを設定する。ダンピングゲインGdは、
図10に示すように、車速Vhに応じて増減する車速感応型の特性を有するゲインである。乗算器65cは、操舵角速度ωshとダンピングゲインGdとを乗算してダンピングトルクTrefcを演算する。
【0042】
図11は、ヒステリシス補償部66の機能構成例を示すブロック図である。ヒステリシス補償部66は、ステアリングホイール10の操舵状態及び操舵角θsh並びに路面反力適応トルクTrefbの配分比率Gbに応じてヒステリシス補償トルクTrefdを設定する。
ヒステリシス補償トルクTrefdは、操舵状態及び操舵角θshに応じたヒステリシス特性を有し、反力モータ15が操舵軸11に付与する操舵反力トルクに、ステアリングホイール10の操舵状態及び操舵角θshに応じたヒステリシス特性を持たせるための補正トルクである。ステアリングホイール10の操舵状態及び操舵角θshに応じたヒステリシス特性を持たせることにより、保舵状態においてステアリングホイール10の挙動の安定感を向上できる。
【0043】
ヒステリシス補償部66は、微分器66aと、補償値演算部66bと、ゲイン設定部66cと、乗算器66dを備える。微分器66aは、操舵角θshを時間微分して操舵角速度ωshを算出する。補償値演算部66bは、操舵角θsh及び操舵角速度ωshに基づいてステアリングホイール10の操舵状態を推定し、推定した操舵状態と操舵角θshに基づいて、操舵状態と操舵角θshに応じたヒステリシス特性を持つ基本ヒステリシス補償トルクTrefd0を設定する。
【0044】
例えば補償値演算部66bは、ステアリングホイール10の操舵状態としてステアリングホイール10の操舵方向(すなわち操舵角θshの変化方向)を推定してよい。例えばステアリングホイール10が右に操舵されている場合の操舵角θshの符号を正の値と定義し、左に操舵されている場合の操舵角θshの符号を負の値と定義すると、補償値演算部66bは、操舵角速度ωshの符号が正である場合にはステアリングホイール10の操舵方向が時計回りであると推定し、操舵角速度ωshの符号が負である場合にはステアリングホイール10の操舵方向が反時計回りであると推定する。
【0045】
図12は、基本ヒステリシス補償トルクTrefd0の特性例を示す線図である。
図12において横軸は操舵角θshを示し、縦軸は基本ヒステリシス補償トルクTrefd0を示している。また、
図12において、実線L1及び一点鎖線L3は、時計回りに操舵したときの基本ヒステリシス補償トルクTrefd0を示し、破線L2は、反時計回りに操舵したときの基本ヒステリシス補償トルクTrefd0を示している。
【0046】
図12に示すように、補償値演算部66bにおいて演算される基本ヒステリシス補償トルクTrefd0は、時計回りに操舵されるときと反時計回りに操舵されるときと異なる値を有するヒステリシス特性を有している。実線L1は、ステアリングホイール10の中立位置(原点(0,0))から時計回りに操舵したときの軌跡を示し、破線L2は、座標A(x1,y1)において時計回りから反時計回りへ切り替えが発生した場合の軌跡を示し、一点鎖線L3は、座標B(x2,Y2)において反時計回りから時計回りへ切り替えが発生した場合の軌跡を示している。
【0047】
補償値演算部66bは、操舵角θsh及び操舵角速度ωshに基づいて下式(1)及び(2)に示す基本ヒステリシス補償トルクTrefd0を演算する。具体的には、操舵角速度ωshの符号が正である場合には下式(1)を用いて基本ヒステリシス補償トルクTrefd0を演算し、操舵角速度ωshの符号が負である場合には下式(2)を用いて基本ヒステリシス補償トルクTrefd0を演算する。
Trefd0=Ahys(1-a-c(θsh-b)) …(1)
Trefd0=-Ahys(1-ac(θsh-b’)) …(2)
【0048】
上式(1)及び(2)において、定数Ahysはヒステリシス幅(すなわちヒステリシス特性の出力幅である基本ヒステリシス補償トルクTrefd0の幅)を示し、定数aは1よりも大きい値であり、定数cはヒステリシス特性の丸みを定める係数である。
操舵方向の切り替えが発生した場合、補償値演算部66bは、操舵角θshと基本ヒステリシス補償トルクTrefd0の前回値を引き継ぎ、操舵方向の切り替え後に適用する上式(1)又は(2)へ、下式(3)又は(4)に示す係数b又はb’を代入する。
b=θsh+(1/c)loga[1-Trefd0/Ahys] …(3)
b’=θsh-(1/c)loga[1+refd0/Ahys] …(4)
【0049】
具体的には、時計回りから反時計回りへの操舵方向の切り替えが発生した場合には、補償値演算部66bは、操舵角θshと基本ヒステリシス補償トルクTrefd0の前回値(
図12に示す座標A(x1,y1))を上式(2)に代入し、下式(4)に示す係数b’を算出し、係数b’を下式(2)に代入して基本ヒステリシス補償トルクTrefd0を算出する。
【0050】
同様に、反時計回りから時計回りへの操舵方向の切り替えが発生した場合には、補償値演算部66bは、操舵角θshと基本ヒステリシス補償トルクTrefd0の前回値(
図12に示す座標B(x2,y2))を上式(1)に代入し、下式(3)に示す係数bを算出し、係数bを下式(1)に代入して基本ヒステリシス補償トルクTrefd0を算出する。
【0051】
図11を参照する。ゲイン設定部66cは、路面反力適応トルクTrefbの配分比率Gbに応じた設定されたヒステリシスゲインGhを設定する。
図13(a)~
図13(d)はヒステリシスゲインGhの設定例を示す線図である。
例えばゲイン設定部66cは、
図13(a)及び
図13(c)に示すように、配分比率Gbが小さい場合に比べて大きい場合に、より小さなヒステリシスゲインGhを設定してよい。例えば配分比率Gbが大きいほど小さなヒステリシスゲインGhを設定してもよく、ステップ状に減少するヒステリシスゲインGhを設定してもよい。
【0052】
また例えばゲイン設定部66cは、
図13(b)及び
図13(d)に示すように、配分比率Gbが小さい場合に比べて大きい場合に、より大きなヒステリシスゲインGhを設定してよい。例えば配分比率Gbが大きいほど大きなヒステリシスゲインGhを設定してよく、ステップ状に増加するヒステリシスゲインGhを設定してもよい。
またゲイン設定部66cは、
図13(a)及び
図13(b)に示すように配分比率Gbの変化に対して線形的に変化するヒステリシスゲインGhを設定してもよく、
図13(c)及び
図13(d)に示すように非線形に変化するヒステリシスゲインGhを設定してもよい。ヒステリシスゲインGhの特性線の形状は車両に応じて適宜設定してよい。
また、ゲイン設定部66cは、車両の走行状態やユーザの選択操作に応じて、これらの異なるヒステリシスゲインGhの特性を切り替えて選択してもよい。
乗算器66dは、基本ヒステリシス補償トルクTrefd0とヒステリシスゲインGhとを乗算してヒステリシス補償トルクTrefdを演算する。
【0053】
図6を参照する。加算器67及び68は、合成反力トルク(Ga×Trefa+Gb×Trefb)に、ダンピングトルクTrefcとヒステリシス補償トルクTrefdとを加算して、目標操舵反力トルクThrefを演算する。
路面反力適応トルクTrefbを含んだ目標操舵反力トルクThrefを演算することにより、路面情報が反映された操舵反力トルクをステアリングホイール10に付与できる。また、ヒステリシス補償トルクTrefdを含んだ目標操舵反力トルクThrefを演算することにより、操舵反力トルクにヒステリシス特性を持たせて保舵状態でステアリングホイールが過敏に動かないように、ステアリングホイール10の挙動の安定感を向上できる。
【0054】
また、路面反力適応トルクTrefbの配分比率Gbに応じてヒステリシスゲインGhを変化させることにより、目標操舵反力トルクThrefに含まれるヒステリシス補償トルクTrefdを、配分比率Gbに応じて変更することができる。これにより、配分比率Ga:Gbに応じた適切なヒステリシス特性を有する目標操舵反力トルクThrefを演算できる。
【0055】
例えば、路面反力適応トルクTrefbはヒステリシス特性を有するため、配分比率Gbが増加して目標操舵反力トルクThrefに含まれる路面反力適応トルクTrefbが大きくなると、目標操舵反力トルクThrefのヒステリシス特性が変化することにより、保舵状態におけるステアリングホイール10の挙動の安定感(操舵トルクの微小な変化に対してステアリングホイールの過敏に動かなくなる感覚)が変化して、操舵しにくくなる虞がある。
そこで、配分比率Gbが小さい場合に比べて大きい場合により小さなヒステリシス補償トルクTrefdを設定することにより、配分比率Gbの増加に伴う(すなわち路面反力適応トルクTrefbの増加に伴う)目標操舵反力トルクThrefのヒステリシス特性の変化を抑制して、保舵状態におけるステアリングホイール10の挙動の安定感を維持することができる。
【0056】
また例えば、比較的大きな配分比率Gbが設定される走行シーン(例えば車速Vhが高いシーンや、大きな操舵角θshで旋回するシーン等)において、保舵状態におけるステアリングホイール10の挙動の安定感が不足する場合には、配分比率Gbが小さい場合に比べて大きい場合により大きなヒステリシス補償トルクTrefdを設定することにより、保舵状態におけるステアリングホイール10の挙動の安定感を増加することができる。
【0057】
図14は、操舵トルク制御部46の機能構成例を示すブロック図である。操舵トルク制御部46は、目標操舵反力トルクThrefに対して実操舵トルクThが追従するように(すなわち目標操舵反力トルクThrefに対する実操舵トルクThの偏差が減少するように)、反力モータ15の駆動電流Isrの指令値である電流指令値Isrefを演算する。
【0058】
操舵トルク制御部46は、変換部46a及び46dと、リミッタ46bと、レートリミッタ46cと、減算器46eと、捩れ角制御部46fを備える。
変換部46aは、目標操舵反力トルクThrefを、トルクセンサ13のトーションバーの捩れ角の目標値である目標捩れ角Δθrefに変換する。リミッタ46bとレートリミッタ46cは、それぞれ目標捩れ角Δθrefの上限値と変化速度を制限して、制限後の目標捩れ角Δθref’を算出する。
【0059】
変換部46dは、実操舵トルクThをトルクセンサ13のトーションバーの捩れ角Δθaへ変換する。減算器46eは、目標捩れ角Δθref’から捩れ角Δθaを減算することにより、目標捩れ角Δθref’に対する捩れ角Δθaの偏差を演算する。捩れ角制御部46fは、目標捩れ角Δθref’に対する捩れ角Δθaの偏差を減少するPID制御や、PI-D制御により電流指令値Isrefを演算する。
【0060】
図2を参照する。電流制御部47は、電流指令値Isrefに対する反力モータ電流の検出値Ismの電流偏差を減少するような電圧制御指令値を、例えばPI制御や、PID制御に基づいて演算し、演算した電圧制御指令値に基づくPWM制御によって駆動電流Itrを生成する。
【0061】
(実施例)
図15(a)及び
図15(b)は比較例の操舵反力トルクのヒステリシス特性を概念的に示す線図である。
図15(a)は、路面反力適応トルクTrefbを目標操舵反力トルクThrefに含めずに(Gb=0)、ヒステリシス補償トルクTrefdを目標操舵反力トルクThrefに含めた場合における、反力モータ15が発生した操舵反力トルクのヒステリシス特性を示している。
【0062】
一方で、
図15(b)は、路面反力適応トルクTrefbを目標操舵反力トルクThrefに含めるとともに(Gb>0)、ヒステリシス補償トルクTrefdを路面反力適応トルクTrefbの配分比率Gbに応じて変化させない場合(すなわち
図15(a)と同じヒステリシス補償トルクTrefdを含めた場合)における操舵反力トルクのヒステリシス特性を示している。
【0063】
図15(a)と
図15(b)を比較すると、路面反力適応トルクTrefbのヒステリシス特性が加わることにより、
図15(a)のヒステリシス特性のヒステリシス幅Laに比べて
図15(b)のヒステリシス特性のヒステリシス幅Lbが増加している。このようにヒステリシス幅が変化すると、保舵状態におけるステアリングホイール10の挙動の安定感が変化して、操舵しにくくなる虞がある。
【0064】
図15(c)は実施形態の操舵反力トルクのヒステリシス特性を示す線図であり、路面反力適応トルクTrefbを目標操舵反力トルクThrefに含めるとともに(Gb>0)、配分比率Gbに応じてヒステリシス補償トルクTrefdを減少させた場合(配分比率Gbが小さい場合に比べて大きい場合により小さなヒステリシス補償トルクTrefdを設定した場合)における操舵反力トルクのヒステリシス特性を示している。
【0065】
配分比率Gbに応じてヒステリシス補償トルクTrefdを減少させて
図15(b)のヒステリシス特性のヒステリシス幅Lbを圧縮することにより、
図15(c)のヒステリシス特性のヒステリシス幅Lcが、
図15(a)のヒステリシス特性のヒステリシス幅Laと同等の大きさに維持されている。
このように本実施形態によれば、路面反力適応トルクTrefbを目標操舵反力トルクThrefに含めても、反力モータ15が発生した操舵反力トルクのヒステリシス特性の変動を抑制することができる。これにより、保舵状態におけるステアリングホイール10の挙動の安定感を維持して操舵フィーリングを向上しながら、路面情報をステアリングホイール10に伝達することができる。
【0066】
(動作)
図16は、実施形態の車両用操向方法の一例のフローチャートである。
ステップS1において操舵角センサ12は、操舵軸11の操舵角θshを検出する。
ステップS2において転舵角センサ22は、操向輪WL及びWRの実転舵角θtpを検出する。
ステップS3において転舵制御部31は、実転舵角θtpが、操舵角θshに応じて演算された目標転舵角θtrefとなるように転舵モータ24を制御して、操向輪WL及びWRを転舵する。
【0067】
ステップS4において車速センサ(図示せず)は、車両の車速Vhを検出する。
ステップS5において目標操舵トルク演算部45の基本操舵反力演算部60は、操舵角θshと車速Vhとに基づいて、操舵角θshに応じた基本操舵反力トルクTrefaを演算する。
ステップS6において路面反力推定部43は、路面からラック21bに加わるラック軸力に応じた操舵反力トルクである路面反力適応トルクTrefbを推定する。
【0068】
ステップS7において目標操舵トルク演算部45の配分比率設定部61は、配分比率Ga:Gbを設定する。
ステップS8においてダンピングトルク補償部65は、操舵角θshと車速Vhに基づいてダンピングトルクTrefcを演算する。ヒステリシス補償部66は、ステアリングホイール10の操舵状態及び操舵角θsh並びに路面反力適応トルクTrefbの配分比率Gbに応じてヒステリシス補償トルクTrefdを設定する。
【0069】
ステップS9において乗算器62及び63と加算器64は、基本操舵反力トルクTrefaと路面反力適応トルクTrefbとを配分比率Ga:Gbで合成して得られる合成反力トルク(Ga×Trefa+Gb×Trefb)を算出する。加算器67及び68は、合成反力トルク(Ga×Trefa+Gb×Trefb)に、ダンピングトルクTrefcとヒステリシス補償トルクTrefdとを加算して、目標操舵反力トルクThrefを演算する。
【0070】
ステップS10においてトルクセンサ13は、操舵軸11の実操舵トルクThを検出する。
ステップS11において操舵トルク制御部46は、目標操舵反力トルクThrefに対して実操舵トルクThが追従するように、反力モータ15の駆動電流の電流指令値Isrefを演算する。電流制御部47は、電流指令値Isrefと反力モータ電流の検出値Ismの電流偏差を減少するように反力モータ15を制御する。その後に処理は終了する。
【0071】
(実施形態の効果)
(1)ステアリングホイール10と操向輪WL及びWRとの間が機械的に分離されたステアバイワイヤ式の車両用操向装置1は、ステアリングホイール10の操舵角に応じた操舵反力トルクである第1反力トルクを演算する基本操舵反力演算部60と、路面からステアリングラック21bに加わるラック軸力に応じた操舵反力トルクである第2反力トルクを推定する路面反力推定部43と、第1反力トルクと第2反力トルクの配分比率Ga:Gbを設定する配分比率設定部61と、ステアリングホイール10の操舵状態及び操舵角に応じたヒステリシス特性を持つ補正トルクを配分比率Gbに応じて設定するヒステリシス補償部66と、第1反力トルクと第2反力トルクとを配分比率Ga:Gbで合成して得られる合成反力トルクに補正トルクを加えて目標操舵反力トルクを演算する加算器64、67及び68と、目標操舵反力トルクに応じた電流指令値で駆動されてステアリングホイール10に操舵反力を発生させる反力モータ15を備える。
【0072】
このように第2反力トルクを含んだ目標操舵反力を演算することにより、路面情報が反映された操舵反力トルクをステアリングホイール10に付与できる。また、ヒステリシス特性を持つ補正トルクを加えて目標操舵反力トルクを演算することにより、ヒステリシス特性を持つ操舵反力を実現できる。これにより、保舵状態でステアリングホイールが過敏に動かないように、ステアリングホイール10の挙動の安定感を向上できる。さらに、ヒステリシス特性を持つ補正トルクの大きさを、第2反力トルクの配分比率Gbに応じて設定することにより、第1反力トルクと第2反力トルクとの配分比率Ga:Gbに応じた適切なヒステリシス特性を有する操舵反力を実現できる。
【0073】
(2)ヒステリシス補償部66は、第2反力トルクの配分比率Gbが小さい場合に比べて大きい場合に、より小さな補正トルクを設定してよい。
これにより、配分比率Gbの増加に伴う(すなわち第2反力トルクの増加に伴う)目標操舵反力トルクのヒステリシス特性の変化を抑制して、保舵状態におけるステアリングホイール10の挙動の安定感を維持することができる。
【0074】
(3)ヒステリシス補償部66は、第2反力トルクの配分比率Gbが小さい場合に比べて大きい場合に、より大きな補正トルクを設定してよい。
これにより、大きな配分比率Gbが設定される走行シーン(例えば車速が高かったり大きな操舵角で旋回するシーン等)等において、保舵状態におけるステアリングホイール10の挙動の安定感が不足する場合に、ヒステリシス特性を増加させてステアリングホイール10の挙動の安定感を向上できる。
【0075】
(4)ヒステリシス補償部は、ステアリングホイール10の操舵状態及び操舵角に基づいてヒステリシス特性を持つ基本補正トルクを設定し、配分比率Gbに応じて設定されたヒステリシスゲインGhを基本補正トルクに乗算することにより、補正トルクを設定してよい。
これにより、配分比率Gbに応じたヒステリシス特性を持つ補正トルクを設定できる。
【0076】
(5)配分比率設定部61は、車速又は操舵角の少なくとも一方に応じて配分比率Ga:Gbを設定してよい。
これにより、車速や操舵角といった車両の走行状態に応じた大きさの路面情報を含んだ操舵反力トルクをステアリングホイール10に付与することができる。
【符号の説明】
【0077】
1…車両用操向装置、2…操舵装置、3…転舵装置、4a、4b…タイロッド、5a、5b…ハブユニット、10…ステアリングホイール、11…操舵軸、12…操舵角センサ、13…トルクセンサ、14、23…減速ギア、15…反力モータ、16、25…モータ電流センサ、17、26…モータ角度センサ、20…ピニオンシャフト、21…ラックアンドピニオン機構、21a…ピニオン、21b…ラック(ステアリングラック)、22…転舵角センサ、24…転舵モータ、30…反力制御部、31…転舵制御部、40…目標転舵角設定部、41…転舵角制御部、42、47…電流制御部、43…路面反力推定部、45…目標操舵トルク演算部、46…操舵トルク制御部、46a、46d…変換部、46b…リミッタ、46c…レートリミッタ、46e、50g…減算器、46f…捩れ角制御部、50…路面反力トルク推定部、50a…トルク換算部、50b、50d、65a、66a…微分器、50c…減衰トルク演算部、50e…慣性トルク演算部、50f、64、67、68…加算器、51、60b…符号抽出部、52、60a…絶対値演算部、53…反力トルク推定部、54、60d、62、63、65c、66d…乗算器、60…基本操舵反力演算部、60c…反力トルク生成部、61…配分比率設定部、65…ダンピングトルク補償部、65b、66c…ゲイン設定部、66…ヒステリシス補償部、66b…補償値演算部