(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154588
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】油圧システム、及び、油圧システムの制御方法
(51)【国際特許分類】
F04B 49/06 20060101AFI20241024BHJP
F04B 49/08 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
F04B49/06 321A
F04B49/08 321
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068491
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000183369
【氏名又は名称】住友精密工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 和臣
【テーマコード(参考)】
3H145
【Fターム(参考)】
3H145AA04
3H145AA24
3H145AA32
3H145BA12
3H145BA31
3H145CA03
3H145CA06
3H145DA05
3H145DA25
3H145EA13
3H145EA14
3H145EA33
3H145EA34
3H145EA42
3H145GA03
(57)【要約】
【課題】流量の制御範囲が広い電動の油圧システムを提供する。
【解決手段】油圧システム1は、油圧機器(21~26)へ作動油を供給する可変容量ポンプ3と、可変容量ポンプを駆動する電気モータ5と、可変容量ポンプの運転を制御するコントローラー6と、油圧機器へ供給される作動油の供給流量に関係する計測信号を、コントローラーへ出力するセンサ(圧力センサ61)と、を備え、可変容量ポンプは、供給路における作動油の圧力を受けることによりポンプ容量を変更する機械式のコンペンセーター31を有し、コントローラーは、センサの計測信号に基づいて、供給流量が油圧機器の必要流量を下回る場合に、電気モータの回転速度を高める制御信号を出力し、供給流量が、油圧機器の必要流量を上回る場合に、電気モータの回転速度を下げる制御信号を出力する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
供給路を介して少なくとも一の油圧機器に接続されかつ、前記供給路を通じて前記油圧機器へ作動油を供給する可変容量ポンプと、
前記可変容量ポンプに連結されかつ、前記可変容量ポンプを駆動する電気モータと、
前記電気モータに電気的に接続されかつ、前記電気モータへの制御信号の出力を通じて前記可変容量ポンプの運転を制御するコントローラーと、
前記油圧機器へ供給される作動油の供給流量に関係する計測信号を、前記コントローラーへ出力するセンサと、を備え、
前記可変容量ポンプは、前記供給路における作動油の圧力を受けることによりポンプ容量を変更する機械式のコンペンセーターを有し、
前記コントローラーは、前記センサの計測信号に基づいて、前記供給流量が、前記油圧機器の必要流量を下回る場合に、前記電気モータの回転速度を高める制御信号を出力し、前記供給流量が、前記油圧機器の必要流量を上回る場合に、前記電気モータの回転速度を下げる制御信号を出力する、油圧システム。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧システムにおいて、
前記コントローラーは、前記可変容量ポンプの吐出流量が低い低流量域において、前記電気モータの回転速度を低速の第1速度にし、前記低流量域よりも前記吐出流量が高い高流量域において、前記電気モータの回転速度を前記第1速度よりも高速でかつ、前記必要流量が高くなるに従い高くし、
前記可変容量ポンプのポンプ容量は、前記低流量域において、前記必要流量が高くなるに従い前記コンペンセーターによって大きくなり、前記高流量域において、最大である、油圧システム。
【請求項3】
請求項2に記載の油圧システムにおいて、
前記コントローラーは、前記可変容量ポンプの吐出流量を、前記低流量域から前記高流量域までの全域にわたって、連続的に高める、油圧システム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の油圧システムにおいて、
前記油圧機器は、航空機における、フライトコントロールアクチュエータと、離着陸用アクチュエータとを含んでいる、油圧システム。
【請求項5】
請求項4に記載の油圧システムにおいて、
前記コントローラーは、
前記フライトコントロールアクチュエータが動きかつ、前記離着陸用アクチュエータが動かない前記航空機の飛行中は、前記電気モータの回転速度を低速の第1速度にし、
前記フライトコントロールアクチュエータ、及び、前記離着陸用アクチュエータが動く前記航空機の離着陸時は、前記電気モータの回転速度を前記第1速度よりも高速でかつ、前記必要流量が高くなるに従い高くする、油圧システム。
【請求項6】
油圧システムの制御方法であって、
前記油圧システムは、
供給路を介して少なくとも一の油圧機器に接続されかつ、前記供給路を通じて前記油圧機器へ作動油を供給する可変容量ポンプであって、前記供給路における作動油の圧力を受けることによりポンプ容量を変更する機械式のコンペンセーターを有する可変容量ポンプと、
前記可変容量ポンプに連結されかつ、前記可変容量ポンプを駆動する電気モータと、
前記電気モータに電気的に接続されかつ、前記電気モータへの制御信号の出力を通じて前記可変容量ポンプの運転を制御するコントローラーと、
前記油圧機器へ供給される作動油の供給流量に関係する計測信号を、前記コントローラーへ出力するセンサと、を備え、
前記可変容量ポンプの吐出流量が低い低流量域において、前記コントローラーが、前記電気モータの回転速度を低速の第1速度にしかつ、前記可変容量ポンプが、前記コンペンセーターによって、前記油圧機器の必要流量が高くなるに従い前記ポンプ容量を大きくし、
前記低流量域よりも前記吐出流量が高い高流量域において、前記可変容量ポンプが、前記コンペンセーターによって、前記ポンプ容量を最大にしかつ、前記コントローラーが、前記センサの計測信号に基づいて、前記電気モータの回転速度を前記第1速度よりも高速でかつ、前記必要流量が高くなるに従い高くする、油圧システムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示する技術は、油圧システム、及び、油圧システムの制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、例えば射出成形機といった産業機械の技術分野において使用される油圧システムが記載されている。この従来の油圧システムは、アクチュエータへ作動油を供給する可変容量型の斜板式ポンプを備えている。当該システムの制御装置は、ポンプを駆動するサーボモータの回転速度の制御と、斜板式ポンプの斜板の角度調整によるポンプ容量の変更制御との両方を実行する。
【0003】
制御装置は、第1、第2、及び第3モードを切り替える。第1モードにおいて制御装置は、斜板式ポンプのポンプ容量を小容量に固定し、指令流量に応じてサーボモータの回転速度を変更する。第2モードにおいて制御装置は、サーボモータの回転速度を低速に固定し、指令流量に応じて斜板式ポンプのポンプ容量を変更する。第3モードにおいて制御装置は、斜板式ポンプのポンプ容量を最大容量に固定し、指令流量に応じてサーボモータの回転速度を変更する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、航空機には、エルロン用アクチュエータ、フラップ用アクチュエータ、又は、ギヤアクチュエータといった、様々な油圧アクチュエータが搭載されている。航空機の油圧システムにおける集中油圧源が、これらの油圧アクチュエータのそれぞれへ作動油を供給している。
【0006】
近年、航空機の電動化が進められている。従来の油圧システムは、エンジンの動力を利用していたが、エンジンに代えて、定速の電気モータと可変容量ポンプとを、油圧システムの油圧源に用いることが検討されている。可変容量ポンプは、各油圧アクチュエータの動作に必要な作動油の流量に応じて吐出流量を変える。可変容量ポンプが、例えば吐出圧力に応じてポンプ容量を自動的に変更する機械式のコンペンセーターを有するポンプであれば、油圧システムは簡略化できる。
【0007】
ところが、定速の電気モータと可変容量ポンプとを用いた油圧システムでは、ポンプ容量が最大容量になれば、可変容量ポンプの吐出流量をそれ以上に高めることができないという問題がある。つまり、この油圧システムは、流量の制御範囲が狭い。
【0008】
ここに開示する技術は、流量の制御範囲が広い電動の油圧システムを実現する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
ここに開示する技術は、油圧システムに係る。この油圧システムは、
供給路を介して少なくとも一の油圧機器に接続されかつ、前記供給路を通じて前記油圧機器へ作動油を供給する可変容量ポンプと、
前記可変容量ポンプに連結されかつ、前記可変容量ポンプを駆動する電気モータと、
前記電気モータに電気的に接続されかつ、前記電気モータへの制御信号の出力を通じて前記可変容量ポンプの運転を制御するコントローラーと、
前記油圧機器へ供給される作動油の供給流量に関係する計測信号を、前記コントローラーへ出力するセンサと、を備え、
前記可変容量ポンプは、前記供給路における作動油の圧力を受けることによりポンプ容量を変更する機械式のコンペンセーターを有し、
前記コントローラーは、前記センサの計測信号に基づいて、前記供給流量が、前記油圧機器の必要流量を下回る場合に、前記電気モータの回転速度を高める制御信号を出力し、前記供給流量が、前記油圧機器の必要流量を上回る場合に、前記電気モータの回転速度を下げる制御信号を出力する。
【0010】
油圧システムは、油圧機器へ作動油を供給するシステムである。油圧機器は、油圧アクチュエータ、及び/又は、油圧モータである。
【0011】
油圧システムは、可変容量ポンプと、電気モータとを備える。可変容量ポンプは、例えば可変容量の斜板式ポンプであってもよい。可変容量ポンプは、例えば可変容量の斜軸式ポンプであってもよい。可変容量ポンプは、例えば可変容量のベーンポンプであってもよい。
【0012】
可変容量ポンプは、機械式のコンペンセーターを有している。コンペンセーターは、供給路における作動油の圧力に応じて、ポンプ容量を変更する。可変容量ポンプのポンプ容量はコンペンセーターによって自動的に変更され、コントローラーが可変容量ポンプのポンプ容量を変更しないため、油圧システムが簡略化できる。
【0013】
電気モータは、例えばサーボモータであってもよい。コントローラーは、サーボコントローラーであってもよい。コントローラーは、電気モータの制御を通じて、可変容量ポンプの運転を、より具体的には回転速度を、制御する。
【0014】
センサは、油圧機器へ供給される作動油の供給流量に関係する計測信号を出力する。センサは、例えば供給路に設置されかつ、供給路における作動油の圧力を計測する圧力センサであってもよい。供給路における作動油の圧力は、油圧機器へ供給される作動油の供給流量に関係する。油圧機器への供給流量が油圧機器の必要流量を下回ると、供給路における作動油の圧力は下がる。コントローラーは、センサの計測信号に基づいて、油圧機器への供給流量が、油圧機器の必要流量を下回っているか否かを判断できる。但し、センサは、圧力センサに限らない。
【0015】
コンペンセーターは、供給路における作動油の圧力に応じて、ポンプ容量を変更する。コントローラーが可変容量ポンプの速度制御を行わなくても、可変容量ポンプは、油圧機器の必要流量が満足されるように、作動油を吐出することができる。
【0016】
可変容量ポンプのポンプ容量が、コンペンセーターによって最大容量になった状態で、油圧機器への供給流量が、油圧機器の必要流量を下回る場合、可変容量ポンプは、そのままでは必要流量を満足させることができない。そこで、コントローラーは、電気モータの回転速度を高める制御信号を出力する。可変容量ポンプの回転速度が高くなって、可変容量ポンプの吐出流量が増大する。その結果、可変容量ポンプは必要流量を満足させることができる。尚、供給流量が、油圧機器の必要流量を上回る場合に、コントローラーは、電気モータの回転速度を下げる制御信号を出力する。
【0017】
従って、前記の油圧システムは、機械式のコンペンセーターを有する可変容量ポンプを備えた簡易な構成の電動の油圧システムでありながら、流量の制御範囲を広くできる。
【0018】
前記コントローラーは、前記可変容量ポンプの吐出流量が低い低流量域において、前記電気モータの回転速度を低速の第1速度にし、前記低流量域よりも前記吐出流量が高い高流量域において、前記電気モータの回転速度を前記第1速度よりも高速でかつ、前記必要流量が高くなるに従い高くし、
前記可変容量ポンプのポンプ容量は、前記低流量域において、前記必要流量が高くなるに従い前記コンペンセーターによって大きくなり、前記高流量域において、最大である、としてもよい。
【0019】
低流量域において、電気モータの回転速度が低速の第1速度であるため、油圧システムは、電力消費を抑えることができる。例えば第1速度が、電気モータ及び/又は可変容量ポンプにおいて高効率な回転速度に調整されれば、油圧システムは、さらなる省電力化を実現できる。第1速度は、一定であってもよいし、一定でなくてもよい。低流量域においては、コンペンセーターがポンプ容量を調整するため、電気モータ及び可変容量ポンプの回転速度が仮に一定であっても、可変容量ポンプは、必要流量を満たすことができる。
【0020】
また、低流量域において、電気モータ及び可変容量ポンプの回転速度が低速であるため、可変容量ポンプが高速で運転し続ける状況が抑制される。可変容量ポンプが摩耗してしまうことが抑制され、可変容量ポンプが長寿命になる。
【0021】
高流量域において、可変容量ポンプのポンプ容量は最大である。つまり、ポンプ容量は一定になる。一方、コントローラーは、電気モータの回転速度を、必要流量が高くなるに従い高くする。可変容量ポンプの回転速度が第1速度よりも高くなるから、可変容量ポンプは、必要流量を満たすことができる。
【0022】
前記コントローラーは、前記可変容量ポンプの吐出流量を、前記低流量域から前記高流量域までの全域にわたって、連続的に高める、としてもよい。
【0023】
この油圧システムは、可変容量ポンプのポンプ容量を変更することと、電気モータの回転速度を変更することを組み合わせることによって、可変容量ポンプの吐出流量を広い流量範囲にわたって連続的に変更できる。
【0024】
前記油圧機器は、航空機における、フライトコントロールアクチュエータと、離着陸用アクチュエータとを含んでいる、としてもよい。
【0025】
フライトコントロールアクチュエータには、例えばエルロン用アクチュエータ、エレベータ用アクチュエータ、及び/又は、ラダー用アクチュエータが含まれる。これらのフライトコントロールアクチュエータの動作に必要な作動油の流量は、相対的に低い。
【0026】
離着陸用アクチュエータには、例えば脚柱を揚降するギヤアクチュエータ、格納室のドアを開閉するドアアクチュエータ、及び/又は、脚柱を降ろした状態で固定するダウンロック機構を解除するダウンロックリリースアクチュエータが含まれる。離着陸用アクチュエータに、フラップ用アクチュエータ、及び/又は、スラット用アクチュエータが含まれてもよい。これらの離着陸用アクチュエータはストロークが大きいため、これらの離着陸用アクチュエータは、その動作のために、相対的に高流量の作動油を必要とする。
【0027】
前記の油圧システムは、可変容量ポンプの吐出流量を、低流量域から高流量域までの広い範囲に亘って変更できるため、フライトコントロールアクチュエータ、及び、離着陸用アクチュエータを含む航空機用の、電動の油圧システムに適している。
【0028】
前記コントローラーは、
前記フライトコントロールアクチュエータが動きかつ、前記離着陸用アクチュエータが動かない前記航空機の飛行中は、前記電気モータの回転速度を低速の第1速度にし、
前記フライトコントロールアクチュエータ、及び、前記離着陸用アクチュエータが動く前記航空機の離着陸時は、前記電気モータの回転速度を前記第1速度よりも高速でかつ、前記必要流量が高くなるに従い高くする、としてもよい。
【0029】
航空機の飛行中は、フライトコントロールアクチュエータは動きかつ、離着陸用アクチュエータは動かない。前述したように、フライトコントロールアクチュエータの必要流量は低い。また、フライトコントロールアクチュエータは、航空機の飛行中に長時間動作する。航空機の飛行中、コントローラーは、電気モータの回転速度を低速の第1速度にする。可変容量ポンプがポンプ容量を変更することによって、可変容量ポンプは、飛行中におけるフライトコントロールアクチュエータの必要流量を、満足させることができる。また、電気モータの回転速度が、長時間にわたって、低速であるため、油圧システムの省電力化に有利である。
【0030】
航空機の離着陸時は、フライトコントロールアクチュエータに加えて、離着陸用アクチュエータが動く。前述したように、離着陸用アクチュエータの必量流量は高い。また、離着陸用アクチュエータは、離着陸時に一時的に動作する。航空機の離着陸時に、コントローラーは、電気モータの回転速度を、必要流量が高くなるに従い高くする。可変容量ポンプの回転速度が、第1速度よりも高くなることによって、可変容量ポンプは、フライトコントロールアクチュエータ及び/又は離着陸用アクチュエータの動作に必要な流量を満たすことができる。電気モータの回転速度が高くなるものの、離着陸用アクチュエータの動作が一時的であるため、油圧システムの電力消費は抑制される。また、可変容量ポンプの高速運転が長く継続しないため、可変容量ポンプの長寿命化に有利である。
【0031】
従って、航空機の油圧システムは、フライトコントロールアクチュエータと離着陸用アクチュエータとのそれぞれを適切に動作させることと、省電力化及び長寿命化とを両立できる。
【0032】
ここに開示する技術は、油圧システムの制御方法に係る。前記油圧システムは、
供給路を介して少なくとも一の油圧機器に接続されかつ、前記供給路を通じて前記油圧機器へ作動油を供給する可変容量ポンプであって、前記供給路における作動油の圧力を受けることによりポンプ容量を変更する機械式のコンペンセーターを有する可変容量ポンプと、
前記可変容量ポンプに連結されかつ、前記可変容量ポンプを駆動する電気モータと、
前記電気モータに電気的に接続されかつ、前記電気モータへの制御信号の出力を通じて前記可変容量ポンプの運転を制御するコントローラーと、
前記油圧機器へ供給される作動油の供給流量に関係する計測信号を、前記コントローラーへ出力するセンサと、を備える。
【0033】
前記油圧システムの制御方法は、
前記可変容量ポンプの吐出流量が低い低流量域において、前記コントローラーが、前記電気モータの回転速度を低速の第1速度にしかつ、前記可変容量ポンプが、前記コンペンセーターによって、前記油圧機器の必要流量が高くなるに従い前記ポンプ容量を大きくし、
前記低流量域よりも前記吐出流量が高い高流量域において、前記可変容量ポンプが、前記コンペンセーターによって、前記ポンプ容量を最大にしかつ、前記コントローラーが、前記センサの計測信号に基づいて、前記電気モータの回転速度を前記第1速度よりも高速でかつ、前記必要流量が高くなるに従い高くする。
【0034】
この制御方法によれば、機械式のコンペンセーターを有する可変容量ポンプを備えた簡易な構成の電動の油圧システムにおいて、流量の制御範囲を広くすることができる。
【発明の効果】
【0035】
前述した油圧システム、及び、油圧システムの制御方法によると、機械式のコンペンセーターを有する可変容量ポンプを備えた簡易な構成の電動の油圧システムによって、流量の制御範囲を広くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図2】
図2は、航空機の油圧アクチュエータの配置を例示している。
【
図3】
図3は、油圧アクチュエータの必要流量に対する、可変容量ポンプの吐出流量の変化、可変容量ポンプの回転速度の変化、及び、可変容量ポンプのポンプ容量の変化を示している。
【
図4】
図4は、コントローラーが実行する電気モータの制御手順を示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、油圧システム、及び、油圧システムの制御方法の実施形態について、図面を参照しながら説明する。ここで説明する油圧システム、及び、油圧システムの制御方法は例示である。
【0038】
(油圧システムの構成)
図1は、油圧システム1を示している。油圧システム1は、
図2に示す航空機2に搭載されるシステムである。油圧システム1は、複数の油圧機器のそれぞれへ、作動油を供給するためのシステムである。ここに開示する油圧システム1が作動油を供給する油圧機器には、
図2に示すように、エルロン用アクチュエータ21、エレベータ用アクチュエータ22、ラダー用アクチュエータ23、フラップ用アクチュエータ24、スラット用アクチュエータ25、及び、脚揚降用アクチュエータ26が含まれる。脚揚降用アクチュエータ26には、例えばギヤアクチュエータ、ドアアクチュエータ、及び/又は、ダウンロックリリースアクチュエータが含まれる。ギヤアクチュエータは、着陸装置の脚柱を揚降するアクチュエータである。ドアアクチュエータは、着陸装置を格納する格納室のドアを開閉するアクチュエータである。ダウンロックリリースアクチュエータは、脚柱を降ろした状態で固定するダウンロック機構を解除するアクチュエータである。
【0039】
尚、航空機2は、エルロン用アクチュエータ21、エレベータ用アクチュエータ22、ラダー用アクチュエータ23、フラップ用アクチュエータ24、スラット用アクチュエータ25、及び、脚揚降用アクチュエータ26のそれぞれについて、
図2に示すように、複数の油圧アクチュエータを有している。以下の説明において、エルロン用アクチュエータ21、エレベータ用アクチュエータ22、ラダー用アクチュエータ23、フラップ用アクチュエータ24、スラット用アクチュエータ25、及び、脚揚降用アクチュエータ26のそれぞれには、これら複数の油圧アクチュエータが含まれる。
【0040】
また、油圧システム1は、これらの油圧アクチュエータ21~26の一部へ作動油を供給してもよい。油圧システム1は、これらの油圧アクチュエータ21~26とは別の油圧機器へ作動油を供給してもよい。
【0041】
油圧アクチュエータ21~26は、例えばシリンダとピストンとを有する伸縮アクチュエータである。エルロン用アクチュエータ21、エレベータ用アクチュエータ22、及び、ラダー用アクチュエータ23は、航空機2の飛行中、及び、離着陸時に動作するフライトコントロールアクチュエータ21~23である。フライトコントロールアクチュエータ21~23は、そのストロークは比較的短い一方で、航空機2の飛行中に、長時間にわたって、随時、動作する。フライトコントロールアクチュエータ21~23の動作に必要な作動油の流量は、相対的に低い。
【0042】
フラップ用アクチュエータ24、スラット用アクチュエータ25、及び、脚揚降用アクチュエータ26は、航空機2の離着陸時に動作するアクチュエータである。フラップ用アクチュエータ24及びスラット用アクチュエータ25は、そのストロークは中程度である一方で、航空機2の離着陸時に、一時的に、動作する。脚揚降用アクチュエータ26は、そのストロークは比較的長い一方で、航空機2の離着陸時に、一時的に、動作する。以下、これらフラップ用アクチュエータ24、スラット用アクチュエータ25、及び、脚揚降用アクチュエータ26を総称して、離着陸用アクチュエータ24~26と呼ぶ場合がある。離着陸用アクチュエータ24~26の動作に必要な作動油の流量は、相対的に高い。
【0043】
油圧システム1は、ポンプ3を備えている。ポンプ3は、可変容量ポンプである。ポンプ3は、例えば、
図1に示すように、斜板式のポンプであってもよい。ポンプ3はまた、斜軸式のポンプであってもよい。ポンプ3は、ベーンポンプであってもよい。油圧システム1のポンプ3には、公知の可変容量ポンプを、適宜採用することが可能である。
【0044】
ポンプ3の吐出ポートは、供給路41に接続されている。供給路41は、油圧アクチュエータ21~26のそれぞれに接続されている。各油圧アクチュエータ21~26は、ポンプ3に対して並列である。ポンプ3は、供給路41を介して、エルロン用アクチュエータ21、エレベータ用アクチュエータ22、ラダー用アクチュエータ23、フラップ用アクチュエータ24、スラット用アクチュエータ25、及び、脚揚降用アクチュエータ26のそれぞれに、個別に、作動油を供給する。
【0045】
ポンプ3の吸込ポートは、戻り路42に接続されている。戻り路42は、ポンプ3と、各油圧アクチュエータ21~26とを接続している。戻り路42には、タンク43が接続されている。タンク43は、作動油を貯留するリザーバーである。
【0046】
各油圧アクチュエータ21~26、ポンプ3、供給路41、戻り路42、及び、タンク43は、油圧システム1の油圧回路10を構成する(
図1の矢印参照)。
【0047】
ポンプ3は、機械式のコンペンセーター31を有している。コンペンセーター31には、制御路44が接続されている。制御路44は、供給路41に接続されている。コンペンセーター31は、制御路44を通じて、ポンプ3が吐出した作動油の圧力を受けて、斜板の角度を変更する。機械式のコンペンセーター31は、ポンプ3のポンプ容量を、ポンプ3の吐出圧力に応じて自動的に変更する。より具体的に、油圧アクチュエータ21~26への供給流量が、油圧アクチュエータ21~26の必要流量を下回ることによって、供給路41における作動油の圧力が低下すれば、コンペンセーター31は、ポンプ3のポンプ容量が増大するように、斜板の角度を変更する。それによって、ポンプ3の吐出流量が高まって、油圧アクチュエータ21~26への供給流量が満たされる。
【0048】
ポンプ3には、電気モータ5が連結されている。電気モータ5は、ポンプ3を駆動する。電気モータ5は、例えばサーボモータとしてもよい。
【0049】
電気モータ5には、コントローラー6が電気的に接続されている。コントローラー6にはまた、圧力センサ61が電気的に接続されている。圧力センサ61は、供給路41に設けられている。圧力センサ61は、供給路41における作動油の圧力に対応する計測信号を、コントローラー6へ出力する。供給路41における作動油の圧力は、前述したように、油圧アクチュエータ21~26への供給流量と、油圧アクチュエータ21~26の必要流量とに関係する。
【0050】
コントローラー6はさらに、上位コントローラーに接続されている。上位コントローラーは、例えばフライトコントローラーである。コントローラー6は、上位コントローラーが出力した、必要流量に関する信号を受信する。必要流量は、フライトコントロールアクチュエータ21~23、及び/又は、離着陸用アクチュエータ24~26が動作するために必要な作動油の流量である。上位コントローラーは、航空機2の操縦士による操作に応じて、及び/又は、航空機2の飛行状況に応じて、フライトコントロールアクチュエータ21~23、及び/又は、離着陸用アクチュエータ24~26が動作するよう、必要流量に関する信号を、コントローラー6へ送信する。
【0051】
コントローラー6は、圧力センサ61の計測信号と、上位コントローラーからの必要流量に関する信号とに応じた制御信号を、電気モータ5へ出力する。電気モータ5の回転速度は、コントローラー6からの制御信号に応じて変化する。電気モータ5の回転速度が変化することに伴いポンプ3の回転速度が変更され、その結果、ポンプ3の吐出流量が変化する。
【0052】
尚、油圧システム1のセンサは、圧力センサ61に限定されない。また、油圧システム1は、冗長化のために、複数のポンプ3及び電気モータ5を備えても良い。
【0053】
(油圧システムの制御)
油圧システム1は、機械式のコンペンセーター31を有する可変容量のポンプ3と、コントローラー6からの制御信号に応じて回転速度を変更する電気モータ5との組み合わせによって構成されている。
【0054】
コントローラー6は、上位コントローラーからの必要流量と、圧力センサ61の計測信号とに基づいて、油圧アクチュエータ21~26への供給流量が、油圧アクチュエータ21~26の必要流量を下回る場合に、電気モータ5の回転速度を高める制御信号を、電気モータ5へ出力する。コントローラー6はまた、油圧アクチュエータ21~26への供給流量が、油圧アクチュエータ21~26の必要流量を上回る場合に、電気モータ5の回転速度を下げる制御信号を、電気モータ5へ出力する。
【0055】
より詳細に、コントローラー6は、
図3の上図に示すように、ポンプ3の吐出流量が、低流量から高流量まで連続的に変化するよう、電気モータ5を制御する。コントローラー6は、
図3の中図に示すように、ポンプ3の吐出流量が低い低流量域において、電気モータ5の回転速度を低速の第1速度で一定にする。ここでいう低速は、電気モータ5の最高速度よりも低い意味である。後述するように、低速の第1速度は、電気モータ5、及び/又は、ポンプ3が高効率となる速度に設定してもよい。
【0056】
コントローラー6はまた、低流量域よりも、ポンプ3の吐出流量が高い高流量域において、電気モータ5の回転速度を第1速度よりも高速でかつ、必要流量が高くなるに従い、高くする。
【0057】
ポンプ3のコンペンセーター31は、
図3の下図に示すように、電気モータ5の回転速度が一定速度である低流量域において、ポンプ3のポンプ容量を、必要流量が高くなるに従い、大きくする。コンペンセーター31はまた、高流量域において、ポンプ3のポンプ容量を最大容量で一定にする。
【0058】
その結果、ポンプ3の吐出流量は、
図3の上図に示すように、低流量から高流量まで連続的に変化する。
【0059】
前述した低流量域は、航空機2の飛行中に対応する。航空機2の飛行中は、フライトコントロールアクチュエータ、つまり、エルロン用アクチュエータ21、エレベータ用アクチュエータ22、及び、ラダー用アクチュエータ23が動く。一方、離着陸用アクチュエータ、つまり、フラップ用アクチュエータ24、スラット用アクチュエータ25、及び、脚揚降用アクチュエータ26は、航空機2の飛行中は、動かない。
【0060】
フライトコントロールアクチュエータ21~23は、必要流量が相対的に低い。電気モータ5の回転速度を低速の第1速度で一定にし、それによってポンプ3の回転速度が低速の一定速度の状態で、ポンプ3がポンプ容量を変更することにより、ポンプ3は、飛行中において、フライトコントロールアクチュエータ21~23の必要流量を満たすことができる。
【0061】
航空機2の飛行中の長い時間にわたって、電気モータ5の回転速度が低速の一定速度に維持されるため、油圧システム1の省電力化に有利である。電気モータ5、及び/又は、ポンプ3が高効率で運転するように、電気モータ5の第1速度を設定すれば、油圧システム1の電力消費をさらに低減させることが可能になる。尚、
図3の中図に破線の矢印で示すように、電気モータ5の第1速度が変わることに伴い、ポンプ容量が最大の場合のポンプ3の吐出流量が変わるため、低流量域と高流量域との境は変わる。低流量域と高流量域との境は、電気モータ5の回転速度が第1速度でかつ、ポンプ3が最大容量になった状態で、ポンプ3が必要流量を満たすことができる限界である。
【0062】
前述した高流量域は、航空機2の離着陸時に対応する。航空機2の離着陸時には、フライトコントロールアクチュエータ21~23の他に、離着陸用アクチュエータ24~26が動く。
【0063】
離着陸用アクチュエータ24~26は、必要流量が相対的に高い。そのため、ポンプ容量が最大容量であっても、電気モータ5の回転速度が低速の第1速度であれば、ポンプ3は、必要流量を満たすことができない。そこで、コントローラー6は、電気モータ5の回転速度を、必要流量が高くなるに従い、第1速度よりも高くする。ポンプ3は、フライトコントロールアクチュエータ21~23及び離着陸用アクチュエータ24~26の動作に必要な流量を満たすことができる。この場合、電気モータ5の回転速度が高くなるものの、離着陸用アクチュエータ24~26の動作は一時的であるため、油圧システム1の電力消費は抑制される。
【0064】
従って、油圧システム1は、低流量域から高流量域までの広い範囲に亘ってポンプ3の吐出流量が連続的に変更することにより、フライトコントロールアクチュエータ21~23と離着陸用アクチュエータ24~26とのそれぞれが適切に動作すると共に、油圧システム1の省電力化が実現できる。
【0065】
また、油圧システム1は、電気モータ5及びポンプ3の高速運転が一時的であり、ポンプ3が最大容量でかつ高速で、長時間継続的に運転することが抑制される。容積型ポンプであるポンプ3の摩耗が抑制されるから、ポンプ3が長寿命化する。
【0066】
図4は、コントローラー6が実行する油圧システム1の制御手順を示している。スタート後のステップS41において、コントローラー6は、上位コントローラーからの信号、及び、圧力センサ61からの計測信号を読み込む。続くステップS42において、コントローラー6は、ポンプ3の吐出流量が低流量域であるか否かを判断する。尚、ステップS42の判断に代えて、コントローラー6は、航空機2が飛行中であるか否か(離着陸時でないか否か)を判断してもよい。
【0067】
ステップS42の判断がYesの場合、つまり、吐出流量が低流量域である場合(又は、航空機2が飛行中である場合)、コントローラー6は、ステップS43において、電気モータ5の回転速度を第1速度で一定にする。
【0068】
ステップS42の判断がNoの場合、つまり、吐出流量が高流量域である場合(又は、航空機2が離着陸時である場合)。コントローラー6は、ステップS44において、電気モータ5の回転速度を、必要流量に応じて変更する。
【0069】
尚、前述した油圧システム1では、第1速度が一定であったが、第1速度は必ずしも一定である必要はない。
【0070】
また、ここに開示する油圧システムは、前述したフライトコントロールアクチュエータ21~23及び離着陸用アクチュエータ24~26を制御するための航空機の油圧システムに限らない。ここに開示する油圧システムは、様々な産業機械用の油圧システムにも適用することが可能である。
【0071】
また、油圧システムが作動油を供給する油圧機器には、油圧アクチュエータの他にも、油圧モータが含まれる。
【符号の説明】
【0072】
1 油圧システム
21 エルロン用アクチュエータ(油圧機器)
22 エレベータ用アクチュエータ(油圧機器)
23 ラダー用アクチュエータ(油圧機器)
24 フラップ用アクチュエータ(油圧機器)
25 スラット用アクチュエータ(油圧機器)
26 脚揚降用アクチュエータ(油圧機器)
3 ポンプ(可変容量ポンプ)
31 コンペンセーター
41 供給路
5 電気モータ
6 コントローラー
61 センサ(圧力センサ)