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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154611
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】化学蓄熱体、及び化学蓄熱反応器
(51)【国際特許分類】
   F28D 20/00 20060101AFI20241024BHJP
   C09K 5/16 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
F28D20/00 G
C09K5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068532
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】藤本 蛍子
(57)【要約】
【課題】化学蓄熱物質の固結を要因とした化学蓄熱物質の反応性の低下を抑えることが可能となる化学蓄熱体、及び化学蓄熱反応器を提供する。
【解決手段】化学蓄熱体は、脱水反応により蓄熱し、かつ水和反応により放熱する化学蓄熱物質の粒子21を含有する化学蓄熱材12を備える。化学蓄熱材12は、例えば、化学蓄熱物質の粒子21と、化学蓄熱物質の粒子21の外面を部分的に被覆する被覆層22とを備える。被覆層22は、化学蓄熱物質の粒子21の潮解により生成する水溶液に溶解可能な界面活性剤を含有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱水反応により蓄熱し、かつ水和反応により放熱する化学蓄熱物質の粒子を含有する化学蓄熱材を備え、
前記化学蓄熱材は、前記化学蓄熱物質の粒子の潮解により生成する水溶液に溶解可能な界面活性剤を含有する、化学蓄熱体。
【請求項2】
前記化学蓄熱材は、前記化学蓄熱物質の粒子と、前記化学蓄熱物質の粒子の外面を部分的に被覆する被覆層とを備える化学蓄熱材を含み、
前記被覆層は、前記界面活性剤を含有する、請求項1に記載の化学蓄熱体。
【請求項3】
前記化学蓄熱材は、前記化学蓄熱物質の粒子と前記界面活性剤の粒子とを一体化してなる化学蓄熱材を含む、請求項1に記載の化学蓄熱体。
【請求項4】
前記化学蓄熱物質は、アルカリ土類金属のハロゲン化物を含む、請求項1に記載の化学蓄熱体。
【請求項5】
化学蓄熱体と、
前記化学蓄熱体に接続される水蒸気流路と、
前記化学蓄熱体と熱交換を行う熱交換器と、を備え、
前記化学蓄熱体は、脱水反応により蓄熱し、かつ水和反応により放熱する化学蓄熱物質の粒子を含有する化学蓄熱材を備え、
前記化学蓄熱材は、前記化学蓄熱物質の粒子の潮解により生成する水溶液に溶解可能な界面活性剤を含有する、化学蓄熱反応器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蓄熱体、及び化学蓄熱反応器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されるように、化学蓄熱体と、化学蓄熱体に接続される水蒸気流路と、化学蓄熱体と熱交換を行う熱交換器とを備える化学蓄熱反応器が知られている。化学蓄熱体を構成する化学蓄熱物質は、脱水反応により蓄熱する。また、化学蓄熱物質は、水和反応により放熱する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2022-040463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような化学蓄熱反応器で用いる化学蓄熱体が、潮解性を有する化学蓄熱物質の粒子を含む場合、化学蓄熱物質が潮解によって化学蓄熱物質の水溶液が生成する。このような水溶液は、化学蓄熱物質の粒子同士を固結させる要因となるおそれがある。化学蓄熱物質の粒子の固結は、化学蓄熱物質の反応性の低下を招くため、このような粒子の固結を抑えることが望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決する化学蓄熱体、及び化学蓄熱反応器の各態様について説明する。
態様1の化学蓄熱体は、脱水反応により蓄熱し、かつ水和反応により放熱する化学蓄熱物質の粒子を含有する化学蓄熱材を備え、前記化学蓄熱材は、前記化学蓄熱物質の粒子の潮解により生成する水溶液に溶解可能な界面活性剤を含有する。
【0006】
化学蓄熱物質が潮解すると、化学蓄熱物質の粒子の間に化学蓄熱物質の水溶液の架橋が形成される場合がある。このような水溶液の架橋である液架橋は、化学蓄熱物質の粒子を固結させる要因となる。上記構成によれば、化学蓄熱物質の水溶液の表面張力を界面活性剤により低下させることができる。これにより、化学蓄熱物質の粒子間における液架橋の形成を抑えることが可能となる。
【0007】
態様2の化学蓄熱体では、態様1において、前記化学蓄熱材は、前記化学蓄熱物質の粒子と、前記化学蓄熱物質の粒子の外面を部分的に被覆する被覆層とを備える化学蓄熱材を含み、前記被覆層は、前記界面活性剤を含有してもよい。
【0008】
態様3の化学蓄熱体では、態様1又は態様2において、前記化学蓄熱材は、前記化学蓄熱物質の粒子と前記界面活性剤の粒子とを一体化してなる化学蓄熱材を含んでもよい。
上記構成によれば、化学蓄熱物質の粒子の外面又は外面付近に界面活性剤を固定することができる。このため、化学蓄熱物質の粒子の潮解により生成する水溶液に界面活性剤を速やかに溶解させることができる。これにより、化学蓄熱物質の固着を効率的に抑えることが可能となる。
【0009】
態様4の化学蓄熱体では、態様1又は態様2において、前記化学蓄熱物質は、アルカリ土類金属のハロゲン化物を含んでもよい。この構成によれば、例えば、120℃以下の排熱等、比較的低温の排熱を利用して、蓄熱動作を行うことが可能となる。
【0010】
態様5の化学蓄熱反応器は、化学蓄熱体と、前記化学蓄熱体に接続される水蒸気流路と、前記化学蓄熱体と熱交換を行う熱交換器と、を備え、前記化学蓄熱体は、脱水反応により蓄熱し、かつ水和反応により放熱する化学蓄熱物質の粒子を含有する化学蓄熱材を備え、前記化学蓄熱材は、前記化学蓄熱物質の粒子の潮解により生成する水溶液に溶解可能な界面活性剤を含有する。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、化学蓄熱物質の固結を要因とした化学蓄熱物質の反応性の低下を抑えることが可能となる効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は、実施形態における化学蓄熱体、及び熱交換器の一部を示す斜視図である。
図2図2は、化学蓄熱材を模式的に示す断面図である。
図3図3は、化学蓄熱反応器の一例を示す部分断面図である。
図4図4は、化学蓄熱材を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、化学蓄熱体、及び化学蓄熱反応器の実施形態について図面を参照して説明する。
<化学蓄熱体の全体構成>
図1に示すように、本実施形態の化学蓄熱体11は、化学蓄熱材12と、化学蓄熱材12を収容する容器13とを備えている。図2に示すように、化学蓄熱材12は、化学蓄熱物質の粒子21と、化学蓄熱物質の粒子21の外面を部分的に被覆する被覆層22とを備えている。このように本実施形態の化学蓄熱材12は、被覆層付き粒子により構成されている。
【0014】
<化学蓄熱材>
化学蓄熱材12を構成する化学蓄熱物質は、脱水反応により蓄熱し、かつ水和反応により放熱する物質である。化学蓄熱物質としては、例えば、アルカリ土類金属のハロゲン化物、硫酸カルシウム等が挙げられる。化学蓄熱物質は、一種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。化学蓄熱物質としては、反応性が高いという観点から、アルカリ土類金属のハロゲン化物が好適である。
【0015】
化学蓄熱物質の一種である塩化カルシウムの脱水反応及び水和反応は、例えば、下記式(A)で表される。
CaCl・HO+HO⇔CaCl・2HO・・・(A)
化学蓄熱物質の粒子21の平均粒径は、例えば、1μm以上、1000μm以下の範囲内である。
【0016】
化学蓄熱材12を構成する被覆層22は、界面活性剤を含有する。界面活性剤は、化学蓄熱物質の粒子21の潮解により生成する水溶液に溶解可能である。界面活性剤は、水溶性を有している。
【0017】
界面活性剤としては、例えば、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤等が挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、例えば、脂肪酸塩、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリルスルホン酸塩、アルキル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸塩、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム等のアルキルナフタレンスルホン酸塩、カルシウムペトロリウムスルホネート等のスルホン酸カルシウム等が挙げられる。
【0018】
カチオン性界面活性剤としては、例えば、オクタデシルアミン酢酸塩、ドデシルアミン酢酸塩等のアルキルアミン酢酸塩、第四級アンモニウム塩等が挙げられる。
ノニオン性界面活性剤としては、例えば、ポリエチレングリコールアルキルエーテル等のアルキルエーテル型界面活性剤、ポリオキシエチレンオレエート等の脂肪酸エーテルエステル型界面活性剤、ソルビタンモノラウレート等のソルビタン脂肪酸エステル型界面活性剤等が挙げられる。
【0019】
両性界面活性剤としては、アルキルアミノ脂肪酸塩、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
界面活性剤は、一種を用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。界面活性剤は、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルアリルスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸ナトリウム、アルキルナフタリンスルホン酸ナトリウム、カルシウムペトロリウムスルホネート、オクタデシルアミン酢酸塩、ドデシルアミン酢酸塩、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレンオレエート、及びソルビタンモノラウレートから選ばれる少なくとも一種を用いることができる。
【0020】
被覆層22は、界面活性剤以外にバインダー樹脂等を含有していてもよい。バインダー樹脂としては、例えば、水蒸気透過性樹脂が挙げられる。
被覆層22の厚さは、特に限定されないが、例えば、1μm以上、500μm以下の範囲内である。被覆層22に含有する界面活性剤は、化学蓄熱物質の粒子21の外面に接触した状態であってもよいし、化学蓄熱物質の粒子21の外面に非接触の状態であってもよい。
【0021】
化学蓄熱材12に含有される界面活性剤の含有量は、化学蓄熱物質100質量部に対して、例えば、0.001質量部以上、0.01質量部以上、0.1質量部以上である。化学蓄熱材12に含有される界面活性剤の含有量は、化学蓄熱物質100質量部に対して、例えば、30質量部以下、10質量部以下、5質量部以下である。
【0022】
次に、化学蓄熱材12の製造方法の一例について説明する。化学蓄熱材12の製造方法は、例えば、化学蓄熱物質の粒子21の外面に、界面活性剤を含有する水溶液を付着させる付着工程と、化学蓄熱物質の粒子21の外面に付着した界面活性剤の水溶液を乾燥させることで、被覆層22を形成する被覆層形成工程とを備える。付着工程では、例えば、界面活性剤を含有する水溶液を噴霧する噴霧装置を用いることができる。水溶液は、例えば、バインダー樹脂等を含有していてもよい。被覆層形成工程では、例えば、温風や赤外線等の熱源により加熱する加熱装置を用いることができる。
【0023】
<容器>
化学蓄熱体11の容器13は、容器13内外の水蒸気の透過を許容する水蒸気透過部13aを有している。水蒸気透過部13aは、非多孔質の水蒸気透過性フィルムから構成されている。本実施形態の容器13は、非多孔質の水蒸気透過性フィルムにより袋状に形成されている。本実施形態の化学蓄熱体11では、容器13の全体が水蒸気透過性を有しているが、容器13の上部及び下部が水蒸気透過部13aとして利用される。容器13の側部は、後述する熱交換器と接触して配置され、熱の出入りを行う熱伝導部13bとして利用される。
【0024】
水蒸気透過性フィルムの水蒸気透過係数は、化学蓄熱材12の水蒸気圧の条件をより調整し易くするという観点から、1×10-13[mol・m/(m・sec・Pa)]以上であることが好ましい。水蒸気透過性フィルムの水蒸気透過係数は、特に限定されないが、例えば、1×10-7[mol・m/(m・sec・Pa)]以下である。水蒸気透過性フィルムの水蒸気透過係数は、例えば、感湿センサー法(JIS K7129:2008)により測定することができる。
【0025】
水蒸気透過性フィルムは、180℃以上の耐熱温度を有することが好ましい。水蒸気透過性フィルムの耐熱温度の上限は、特に限定されないが、例えば、260℃以下である。
水蒸気透過性フィルムの厚さは、容器13の成形性を確保するという観点から、3μm以上であることが好ましく、より好まししくは、5μm以上である。水蒸気透過性フィルムの厚さは、水蒸気透過性能と熱伝導性能を高めるという観点から、30μm以下であることが好ましく、より好ましくは、25μm以下であり、さらに好ましくは、20μm以下である。
【0026】
水蒸気透過性フィルムとしては、熱可塑性樹脂フィルムであってもよいし、熱硬化性樹脂フィルムであってもよい。水蒸気透過性フィルムが、熱可塑性樹脂フィルムの場合、熱可塑性樹脂フィルムの熱融着を利用して容器13を成形することが可能となる。なお、このように熱融着を利用して成形された容器13は、例えば、帯状の熱融着部分を有しているが、図面では、熱融着部分を省略して示している。袋状の容器13の形態としては、例えば、三方シール袋、四方シール袋、ピロー袋、ガゼット袋等が挙げられる。このように化学蓄熱体11は、水蒸気透過性フィルムにより化学蓄熱材12を袋状に包装することで容易に得ることができる。なお、袋状の容器13は、粉体状の化学蓄熱材12が漏れ出さないように封止されている。
【0027】
水蒸気透過性フィルムとしては、例えば、ポリメチルペンテンフィルム、エチレン-ビニルアルコール共重合体フィルム、ポリアミドフィルム、ポリスチレンフィルム等が挙げられる。水蒸気透過性フィルムは、水蒸気透過性能と耐熱性能の両性能に優れる観点から、ポリメチルペンテンフィルム、及びエチレン-ビニルアルコール共重合体フィルムの少なくとも一方であることが好ましい。
【0028】
<化学蓄熱反応器>
次に、化学蓄熱反応器14について説明する。
図3に示すように、化学蓄熱反応器14は、上述した化学蓄熱体11と、化学蓄熱体11に接続される水蒸気流路P1と、化学蓄熱体11と熱交換を行う熱交換器31とを備えている。図1及び図3に示すように、水蒸気流路P1は、化学蓄熱体11の水蒸気透過部13aに接続されている。水蒸気流路P1は、蓄熱動作時において、化学蓄熱材12の脱水反応で生じた水蒸気を化学蓄熱体11の水蒸気透過部13aから排出する。また、水蒸気流路P1は、放熱動作時において、化学蓄熱体11の水蒸気透過部13aに水蒸気を供給する。
【0029】
詳述すると、図3に示すように、化学蓄熱体11は、例えば、圧力調整容器41内に配置される。この圧力調整容器41内が上記水蒸気流路P1となる。すなわち、圧力調整容器41内の水蒸気圧を調整することで、化学蓄熱体11の容器13からの水蒸気の排出と、化学蓄熱体11の容器13内への水蒸気の供給を行うことができる。蓄熱動作時には、例えば、水蒸気を吸収する吸収材が収容された吸収器や凝縮器を圧力調整容器41に接続する。これにより、圧力調整容器41内の水蒸気圧を低下することで、蓄熱動作の脱水反応を行うことができる。また、放熱動作時には、例えば、排熱を利用して水蒸気を発生する蒸発器を圧力調整容器41に接続する。これにより、圧力調整容器41内の水蒸気圧を高めることで、放熱動作の水和反応を行うことができる。
【0030】
図1に示すように、熱交換器31は、熱媒体を流通する流路管32と、流路管32に接続される伝熱用フィン33とを備えている。すなわち、本実施形態の熱交換器31は、フィンチューブ型の熱交換器である。熱交換器31の流路管32は、熱媒体流路P2を構成している。熱交換器31は、例えば、金属材料から構成される。
【0031】
図3に示すように、熱交換器31は、例えば、圧力調整容器41の外部から熱媒体を流入する流入管34と、圧力調整容器41の外部に熱媒体を流出する流出管35とに接続される。熱媒体流路P2は、蓄熱動作時において、図示を省略した外部の排熱源から熱交換器31に熱を供給する。また、熱媒体流路P2は、放熱動作時において、図示を省略した外部の加熱対象に熱を供給する。
【0032】
図1に示すように、本実施形態の熱交換器31の流路管32は、扁平形状の流路管(扁平管)であるが、円形管等の他の形状の流路管であってもよい。また、一つの流路管32の流路は、単数であってもよいし、例えば、扁平多孔管のように複数であってもよい。また、熱交換器31の伝熱用フィン33は、波板状のコルゲートフィンであるが、平板状のストレートフィン等、他の形状の伝熱用フィンであってもよい。
【0033】
化学蓄熱体11は、熱交換器31の伝熱用フィン33に接触するように配置される。詳述すると、熱交換器31は、長さ方向が互いに平行となるように配置される複数の流路管32を有している。伝熱用フィン33は、隣り合う流路管32の間において流路管32の長さ方向に沿って離間して配置される複数のフィン部Fを有している。複数の化学蓄熱体11は、隣り合う複数のフィン部Fの間に配置されている。化学蓄熱体11は、隣り合う複数のフィン部Fの間に挿入されることで、熱交換器31に組み付けることができる。
【0034】
ここで、図1のX軸方向に沿った化学蓄熱体11の厚さ寸法は、隣り合う複数のフィン部Fの間隔寸法となる。化学蓄熱体11の厚さ寸法は、単位体積当たりの化学蓄熱材12の充填量を確保するという観点から、1mm以上であることが好ましい。化学蓄熱体11の厚さ寸法は、熱伝導性能を高めるという観点から、10mm以下であることが好ましい。
【0035】
また、図1のY軸方向に沿った化学蓄熱体11の幅寸法は、隣り合う流路管32の間隔寸法と略同一となる。化学蓄熱体11の幅寸法は、単位体積当たりの化学蓄熱材12の充填量を確保するという観点から、5mm以上であることが好ましい。化学蓄熱体11の幅寸法は、熱伝導性能を高めるという観点から、30mm以下であることが好ましい。
【0036】
また、図1に示すZ軸方向に沿った方向を化学蓄熱体11の長さ方向とした場合、化学蓄熱体11の長さ寸法は、単位体積当たりの化学蓄熱材12の充填量を確保するという観点から、10mm以上であることが好ましい。化学蓄熱体11の長さ寸法は、水蒸気の拡散性を確保し、化学蓄熱材12の化学蓄熱物質の反応性を高めるという観点から、100mm以下であることが好ましい。
【0037】
<動作>
次に、化学蓄熱体11及び化学蓄熱反応器14の動作の一例について説明する。
化学蓄熱物質の一種である塩化カルシウムの蓄熱動作時の脱水反応は、例えば、下記式(1)で表される。
【0038】
CaCl・2HO→CaCl・HO+HO・・・(1)
塩化カルシウムには、例えば、水蒸気圧が2kPaの条件の場合、80℃の排熱を利用して蓄熱させることができる。
【0039】
また、塩化カルシウムの放熱動作時の水和反応は、例えば、下記式(2)で表される。
CaCl・HO+HO→CaCl・2HO・・・(2)
塩化カルシウムは、例えば、水蒸気圧が95kPaの条件の場合、170℃の熱を放熱する。
【0040】
すなわち、例えば、蓄熱動作の温度条件を80℃、放熱動作の温度条件を170℃とした場合、塩化カルシウムの雰囲気における水蒸気圧を2kPaから95kPaまで上昇させることで、放熱動作が開始される。
【0041】
化学蓄熱反応器14の蓄熱動作は、排熱を利用して行うことができる。化学蓄熱反応器14の熱交換器31に熱輸送された排熱により化学蓄熱材12を加熱するとともに、化学蓄熱材12の周囲の水蒸気圧を低下させることで、化学蓄熱物質の脱水反応が行われる。化学蓄熱物質から発生した水蒸気は、容器13の水蒸気透過部13a、水蒸気流路P1を順に通じて化学蓄熱反応器14の外部に排出される。
【0042】
化学蓄熱反応器14の放熱動作は、化学蓄熱反応器14の外部から水蒸気流路P1、容器13の水蒸気透過部13aを順に通じて水蒸気を供給することで、化学蓄熱材12の周囲の水蒸気圧を高くする。これにより、化学蓄熱物質の水和反応が行われる。化学蓄熱物質から発生した熱は、熱交換器31の熱媒体と熱交換されることで、化学蓄熱反応器14の外部に熱輸送される。
【0043】
ここで、化学蓄熱反応器14の放熱動作時に、化学蓄熱材12の温度に対して化学蓄熱材12の周囲の水蒸気圧が過剰に高くなると、化学蓄熱物質が潮解する。例えば、化学蓄熱物質の一種である塩化カルシウムは、温度が80℃の化学蓄熱物質の周囲の水蒸気圧が8kPa以上になると潮解する。
【0044】
化学蓄熱物質が潮解すると、化学蓄熱物質の粒子21の間に化学蓄熱物質の水溶液の架橋が形成される場合がある。このような水溶液の架橋である液架橋は、化学蓄熱物質の粒子21を固結させる要因となる。このとき、本実施形態の化学蓄熱材12は、化学蓄熱物質の粒子21の潮解により生成する水溶液に溶解可能な界面活性剤を含有している。この構成によれば、化学蓄熱物質の水溶液の表面張力を界面活性剤により低下させることができる。これにより、化学蓄熱物質の粒子21間における液架橋の形成を抑えることが可能となる。
【0045】
このような表面張力と液架橋と関係について詳述すると、2つの球形粒子の間がリング状の液体により架橋されている場合の液体架橋力(Fc)は、以下のラプラス・ヤングの式で表される。
【0046】
Fc=-2πaγ-πa γ{(1/a)-(1/a)}
[m]:リング状の液体の最も狭い部分の半径
[m]:リング状の液体の凹面の曲率半径
γ[Nm-1]:液体の表面張力
上記式から、液架橋は、液体の表面張力が大きいほど形成され易い。このため、上述したように化学蓄熱物質の表面張力を低下させることで、液架橋の形成を抑えることが可能となる。
【0047】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)化学蓄熱体11の化学蓄熱材12は、脱水反応により蓄熱し、かつ水和反応により放熱する化学蓄熱物質の粒子21を含有している。化学蓄熱材12は、化学蓄熱物質の粒子21の潮解により生成する水溶液に溶解可能な界面活性剤を含有している。この構成によれば、上述したように、化学蓄熱物質の粒子21間における液架橋の形成を抑えることが可能となる。これにより、化学蓄熱物質の固着を抑えることが可能となる。従って、化学蓄熱物質の固結を要因とした化学蓄熱物質の反応性の低下を抑えることが可能となる。すなわち、この化学蓄熱体11を用いることで、蓄熱及び放熱の性能の低下を抑えることが可能となる。
【0048】
(2)化学蓄熱体11の化学蓄熱材12は、化学蓄熱物質の粒子21と、化学蓄熱物質の粒子21の外面を部分的に被覆する被覆層22とを備えている。被覆層22は、化学蓄熱物質の粒子21の潮解により生成する水溶液に溶解可能な界面活性剤を含有している。この場合、化学蓄熱物質の粒子21の外面又は外面付近に界面活性剤を固定することができる。このため、化学蓄熱物質の粒子21の潮解により生成する水溶液に界面活性剤を速やかに溶解させることができる。これにより、化学蓄熱物質の固着を効率的に抑えることが可能となる。従って、化学蓄熱物質の固結を要因とした化学蓄熱物質の反応性の低下を効率的に抑えることが可能となる。
【0049】
(3)化学蓄熱物質がアルカリ土類金属のハロゲン化物を含むことにより、例えば、120℃以下の排熱等、比較的低温の排熱を利用して、蓄熱動作を行うことが可能となる。
(4)化学蓄熱体11は、化学蓄熱材12を収容する容器13を備えている。容器13は、容器13の内外の水蒸気の透過を許容する水蒸気透過部13aを有している。水蒸気透過部13aは、非多孔質の水蒸気透過性フィルムから構成されている。この場合、化学蓄熱物質の粒子21の潮解により生成する水溶液の流出を抑えることができる。これにより、例えば、化学蓄熱反応器14の性能の低下を抑えたり、化学蓄熱反応器14の寿命を延ばしたりすることができる。
【0050】
<変更例>
上記実施形態を次のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0051】
・上記実施形態の化学蓄熱材12を次のように変更することもできる。例えば、図4に示すように、化学蓄熱材12は、化学蓄熱物質の粒子21と界面活性剤の粒子23とを一体化した構成であってもよい。このように化学蓄熱材12は、化学蓄熱物質の粒子21と界面活性剤の粒子23とを一体化してなる粒状体から構成することもできる。この場合、化学蓄熱物質の粒子21の外面に界面活性剤を固定することができる。このため、化学蓄熱物質の粒子21の潮解により生成する水溶液に界面活性剤を速やかに溶解させることができる。これにより、化学蓄熱物質の固着をより抑えることが可能となる。従って、化学蓄熱物質の固結を要因とした化学蓄熱物質の反応性の低下をより抑えることが可能となる。
【0052】
この変更例の化学蓄熱材12は、例えば、化学蓄熱物質の粒子21と界面活性剤の粒子23とを圧縮成形することで得ることができる。圧縮成形には、例えば、打錠機等を用いることができる。界面活性剤の粒子23の平均粒径は、例えば、1μm以上、1000μm以下の範囲内である。
【0053】
また、例えば、化学蓄熱材12は、化学蓄熱物質の粒子21と、界面活性剤の粒子23とを混合した混合粉末であってもよい。化学蓄熱体11は、一種類の化学蓄熱材12を備えていてもよいし、複数種の化学蓄熱材12を備えていてもよい。
【0054】
・化学蓄熱体11の容器13を省略することもできる。
・化学蓄熱反応器14の熱交換器31は、フィンチューブ式熱交換器であるが、この熱交換器31をフィンレス熱交換器に変更することもできる。
【符号の説明】
【0055】
11…化学蓄熱体
12…化学蓄熱材
14…化学蓄熱反応器
21…化学蓄熱物質の粒子
22…被覆層
23…界面活性剤の粒子
31…熱交換器
P1…水蒸気流路
図1
図2
図3
図4