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特開2024-154643燃料電池制御装置、燃料電池制御方法及び燃料電池システム
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  • 特開-燃料電池制御装置、燃料電池制御方法及び燃料電池システム 図1
  • 特開-燃料電池制御装置、燃料電池制御方法及び燃料電池システム 図2
  • 特開-燃料電池制御装置、燃料電池制御方法及び燃料電池システム 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154643
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】燃料電池制御装置、燃料電池制御方法及び燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/04746 20160101AFI20241024BHJP
   H01M 8/04228 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/04303 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/04858 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/04694 20160101ALI20241024BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M8/04746
H01M8/04228
H01M8/04303
H01M8/04858
H01M8/04694
H01M8/04 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068580
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高島 裕也
【テーマコード(参考)】
5H127
【Fターム(参考)】
5H127AB04
5H127AC05
5H127AC07
5H127BA02
5H127BA39
5H127BB02
5H127BB12
5H127BB37
5H127BB39
5H127DA11
5H127DC22
5H127DC29
5H127DC39
(57)【要約】
【課題】コストの増加を抑制しつつ燃料電池の劣化を抑制することができる燃料電池制御装置及び燃料電池システムを提供する。
【解決手段】制御装置10は、燃料電池セル51のカソード側に連通する気体通路11を燃料電池セル51の上流側で閉止する上流側弁12、気体通路11を燃料電池セル51の下流側で閉止する下流側弁14、及び空気を燃料電池セル51に送るブロワ13を備える燃料電池50を制御する制御装置10において、燃料電池50が発電を停止してから所定時間後に下流側弁14を閉じる下流側弁制御部22と、上流側弁12の閉止後にブロワ13で燃料電池セル51内の圧力を低下させて負圧にするブロワ制御部23と、燃料電池50内の圧力が負圧になった場合に、上流側弁12を閉じる上流側弁制御部21と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池セルのカソード側に連通する気体通路を前記燃料電池セルの上流側で閉止する上流側弁、前記気体通路を前記燃料電池セルの下流側で閉止する下流側弁、及び空気を前記燃料電池セルに送るブロワを備える燃料電池を制御する燃料電池制御装置において、
前記燃料電池が発電を停止してから所定時間後に前記下流側弁を閉じる下流側弁制御部と、
前記上流側弁の閉止後に前記ブロワで前記燃料電池セル内の圧力を低下させて負圧にするブロワ制御部と、
前記燃料電池内の圧力が前記負圧になった場合に、前記上流側弁を閉じる上流側弁制御部と、を備えることを特徴とする燃料電池制御装置。
【請求項2】
積層した燃料電池セルを内蔵する燃料電池と、
前記燃料電池セルのカソード側に連通する気体通路と、
前記気体通路を前記燃料電池セルの上流側で閉止する上流側弁と、
前記気体通路を前記燃料電池セルの下流側で閉止する下流側弁と、
空気を前記燃料電池セルに送るブロワと、
前記燃料電池が発電を停止してから所定時間後に前記下流側弁を閉じる下流側弁制御部と、
前記上流側弁の閉止後に前記ブロワで前記燃料電池セル内の圧力を低下させて負圧にするブロワ制御部と、
前記燃料電池内の圧力が前記負圧になった場合に、前記上流側弁を閉じる上流側弁制御部と、を備えることを特徴とする燃料電池システム。
【請求項3】
前記燃料電池セルは、前記ブロワを逆回転させることで前記負圧にされる請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項4】
前記燃料電池の下流側の前記気体通路に連通される希釈機構を備え、
前記上流側弁は、前記希釈機構よりも前記燃料電池に近い位置に設けられる請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項5】
前記燃料電池の下流側の前記気体通路に連通される希釈機構を備え、
前記ブロワは、上流側で前記希釈機構に連通している請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項6】
前記気体通路には、前記上流側弁及び前記下流側弁の少なくとも一方と前記燃料電池との間に圧力計を備える請求項2に記載の燃料電池システム。
【請求項7】
燃料電池セルのカソード側に連通する気体通路を前記燃料電池セルの上流側で閉止する上流側弁、前記気体通路を前記燃料電池セルの下流側で閉止する下流側弁、及び空気を前記燃料電池セルに送るブロワを備える燃料電池を制御する燃料電池制御装置において、
前記燃料電池が発電を停止してから所定時間後に前記下流側弁を閉じるステップと、
前記上流側弁の閉止後に前記ブロワで前記燃料電池セル内の圧力を低下させて負圧にするステップと、
前記燃料電池内の圧力が前記負圧になった場合に、前記上流側弁を閉じるステップと、を含むことを特徴とする燃料電池制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池を制御する燃料電池制御装置及び燃料電池を含むシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
発電が停止した直後の燃料電池の単セル内は、アノード側は未反応の水素で、カソード側は未反応の空気で、満たされている。このような単セル内に残留した空気のうち、残留した水素との発電後の化学反応によっても消費されなかったカソード側の空気は、電解質膜を透過してアノード側に充満する。空気がアノード側に透過した状態で再度燃料電池を稼働させると、アノード側の上流は水素で満たされる。一方、アノード側の下流には空気が残存するため、単セル内で局部的に電池反応が発生する。この電池反応により、セル単体の開放端における電圧が高電位になる。開放端が高電位な状態が続くと、燃料電池の発電性能が不可逆的に低下するおそれがある。そこで、従来から、燃料電池システムの起動時に三方弁を用いてカソード側に負圧を発生させることで、カソード側の空気を減少させ、燃料電池の劣化を抑制する技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-158552号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の従来の技術では、燃料電池システムの停止時から起動時までの間に、カソード側に残存する空気が、電解質膜を介してアノード側へ透過してしまうおそれがある。また、単セル内に不活性ガスを供給して単セル内を掃気する場合には、別の機構を設置しなければならず、コストが増加してしまう。
【0005】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、コストの増加を抑制しつつ燃料電池の劣化を抑制することができる燃料電池制御装置、燃料電池制御方法、及び燃料電池システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本実施形態に係る燃料電池制御装置は、燃料電池セルのカソード側に連通する気体通路を前記燃料電池セルの上流側で閉止する上流側弁、前記気体通路を前記燃料電池セルの下流側で閉止する下流側弁、及び空気を前記燃料電池セルに送るブロワを備える燃料電池を制御する燃料電池制御装置において、前記燃料電池が発電を停止してから所定時間後に前記下流側弁を閉じる下流側弁制御部と、前記上流側弁の閉止後に前記ブロワで前記燃料電池セル内の圧力を低下させて負圧にするブロワ制御部と、前記燃料電池内の圧力が前記負圧になった場合に、前記上流側弁を閉じる上流側弁制御部と、を備えるものである。
【0007】
本実施形態に係る燃料電池システムは、積層した燃料電池セルを内蔵する燃料電池と、前記燃料電池セルのカソード側に連通する気体通路と、前記気体通路を前記燃料電池セルの上流側で閉止する上流側弁と、前記気体通路を前記燃料電池セルの下流側で閉止する下流側弁と、空気を前記燃料電池セルに送るブロワと、前記燃料電池が発電を停止してから所定時間後に前記下流側弁を閉じる下流側弁制御部と、前記上流側弁の閉止後に前記ブロワで前記燃料電池セル内の圧力を低下させて負圧にするブロワ制御部と、前記燃料電池内の圧力が前記負圧になった場合に前記上流側弁を閉じる上流側弁制御部と、を備えるものである。
【0008】
本実施形態に係る燃料電池制御方法は、燃料電池セルのカソード側に連通する気体通路を前記燃料電池セルの上流側で閉止する上流側弁、前記気体通路を前記燃料電池セルの下流側で閉止する下流側弁、及び空気を前記燃料電池セルに送るブロワを備える燃料電池を制御する燃料電池制御装置において、前記燃料電池が発電を停止してから所定時間後に前記下流側弁を閉じるステップと、前記上流側弁の閉止後に前記ブロワで前記燃料電池セル内の圧力を低下させて負圧にするステップと、前記燃料電池内の圧力が前記負圧になった場合に、前記上流側弁を閉じるステップと、を含むものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、コストの増加を抑制しつつ燃料電池の劣化を抑制することができる燃料電池制御装置、燃料電池制御方法、及び燃料電池システムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図。
図2】燃料電池セルの断面図。
図3】実施形態に係る燃料電池システムの概略構成図であって、燃料電池内を負圧にしている状態を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明する。
なお、特に断らない限り、「上流側」及び「下流側」は燃料電池が通常に発電しているときの空気の流方向を基準に規定する。
【0012】
まず、図1の燃料電池システム(以下、単に「システム」という)100の概略構成図を用いて、燃料電池制御装置(以下、単に「制御装置」という)10、燃料電池50、及びシステム100の関係について説明する。
システム100は、例えば、燃料電池車両に駆動源として搭載される。システム100は、燃料電池50に、空気通路11及び制御装置10が接続されて構成される。
【0013】
空気通路11は、燃料電池50の上流側に接続される上流側空気通路11aと、燃料電池50の下流側に接続される下流側空気通路11bで構成される。上流側空気通路11aには、上流側弁12が設けられる。また、上流側空気通路11aには、上流側弁12のさらに上流側にブロワ13が設けられる。ブロワ13により、大気開放された上流側空気通路11aの一端から空気Aが取り込まれて、燃料電池50内部に供給される。一方、下流側空気通路11bには、下流側弁14が設けられる。上流側弁12及び下流側弁14のそれぞれは、空気通路11を完全に封止する封止弁であることが望ましいが、空気通路11の圧力を調整する調圧弁であってもよい。
【0014】
下流側空気通路11bには、燃料電池50で使用されずに下流側空気通路11bに排出された水素を空気Aで希釈する希釈機構15が連通される。なお、空気通路11上には、燃料電池50の付近に圧力計16が設けられる。圧力計16は、燃料電池50内の圧力を推定するものであるため、例えば上流側空気通路11aの、上流側弁12と燃料電池50との間に設けられる。圧力計16は、下流側空気通路11bの、下流側弁14と燃料電池50との間に設けられてもよい。
【0015】
また、ブロワ13より上流側の上流側空気通路11aには、バイパス通路17の一端が接続される。上流側空気通路11aとバイパス通路17との接続部には、例えば三方弁のバイパス弁18が設けられる。また、バイパス通路17の他端は、下流側弁14より下流側の下流側空気通路11bに接続される。なお、上述の空気通路11、ブロワ13、上流側弁12、下流側弁14、及び希釈機構15などは、システム100に限らず一般的な燃料電池システムにも設置されていることが多い。よって、システム100は一般的な燃料電池システムの構造を大幅に変更する必要も、部品点数を大幅に増やす必要もない。
【0016】
燃料電池50は、燃料電池セル(単セルともいう)51を多数積層させた燃料電池スタック52を内蔵する。燃料電池セル51は、上流側空気通路11aから供給される空気中の酸素に、不図示の供給路から供給される水素を反応させることで発電する。
ここで、図2は、1つの燃料電池セル51の各層が分かるように切断した燃料電池セル51の断面図である。
燃料電池セル51は、図2に示されるように、一対のセパレータ53が膜電極接合体54を、ガス拡散層55を介して挟み込む構造を有する。それぞれのセパレータ53の一面には、気体が通流する経路を形成する溝が掘り込まれている。以下、溝に空気Aが供給されるセパレータ53をカソード側セパレータ53a、溝に水素が供給されるセパレータ53をアノード側セパレータ53bという。
【0017】
カソード側セパレータ53aの溝の一端には、上流側空気通路11aが接続され、他端には下流側空気通路11bが接続される。つまり、ブロワ13で大気から供給された空気Aは、上流側空気通路11aからカソード側セパレータ53aの溝に供給され、溝から膜電極接合体54に拡散される。そして、発電に寄与しなかった空気Aが溝から下流側空気通路11bを流通して希釈機構15へ排出される。
【0018】
膜電極接合体54は、カソード側セパレータ53a側から順に、例えば、カソード触媒層56、電解質膜57、アノード触媒層58、で構成されている。以下、電解質膜57を境にアノード触媒層58からアノード側セパレータ53bまでを「アノード側」という。カソード触媒層56からカソード側セパレータ53aまでを「カソード側」という。なお、触媒層56,58には、水素又は酸素を固定する土台となる担体が含まれる。
【0019】
前述したように、発電が停止した直後の燃料電池セル51内は、アノード側は未反応の水素で、カソード側は未反応の空気Aで満たされる。燃料電池セル51内に残留した空気Aのうち、残留した水素との発電後の化学反応によっても消費されずに残留したカソード側の空気Aは、電解質膜57を透過してアノード側に充満する。空気Aがアノード側に透過した状態で再度燃料電池50を稼働させると、アノード側の上流領域59が水素で満たされる。一方、アノード側の下流領域60には空気Aが残存するため、燃料電池セル51内で局部的に電池反応し、燃料電池セル51の開放端における電圧が高くなる。開放単における高電圧により、カソード触媒層56の担体の炭素が酸化すると、炭素が消失し、担体の凝集や脱落が発生する。また、透過した酸素がアノード触媒層58においてこの電池反応で燃焼する際、過酸化水素さらにヒドロキシスラジカルを発生させることがある。このヒドロキシスラジカルにより、電解質膜57が劣化する。
【0020】
そこで、実施形態に係る制御装置10は、発電停止時に燃料電池セル51の開放端における電圧が高電位になることを防止又は抑制する。より具体的には制御装置10は、発電停止時に燃料電池セル51のカソード側に残存する空気Aを除去し、停止後も燃料電池セル51内への空気Aの流入を防止又は抑制する。以下、図1に戻って、制御装置10について説明する。実施形態に係る制御装置10は、上流側弁制御部21、下流側弁制御部22、ブロワ制御部23、燃料電池起動部24、及びバイパス制御部25を備える。
【0021】
下流側弁制御部22は、燃料電池起動部24が燃料電池50の発電を停止させてから所定時間後に、下流側弁14を制御して下流側弁14を閉止又は絞る。発電停止後にカソード側に残存する空気Aがアノード側へ透過するには電解質膜57の厚み及び物性によってある程度時間を要する。また、下流側弁14及び下流側弁14は、密閉度が高い封止弁であることが多いため、一般に即応性が低い。つまり、発電停止後即時に燃料電池50を再始動する場合、発電停止から一定時間は下流側弁14を閉止しない方が却って発電の応答性が高まる。そこで、発電停止後即時に発電を再開する場合を考慮して、発電が停止されて所定時間経過の後に下流側弁14を閉止する。この所定時間は、各システム100によって、又はシステム100の使用態様によって理論的又は実験的に特定され規定される。
【0022】
なお、この所定時間は、アノード側の水素が消費されるまでの時間で規定してもよい。例えば、下流側弁14の閉止は、発電停止からアノード側の圧力が最小値になった時点で開始してもよい。水素がアノード側へ透過するとアノード側の圧力が低下する。透過した水素と酸素の消費が終わると、カソード側から透過される空気の影響を受けてアノード側の圧力が増加し始める。このときの、圧力の変曲点のタイミングで下流側弁14を閉止するのが好ましい。なお、下流側弁14は、上流側が負圧になると密閉性が向上する機構を有する製品を使用し、燃料電池50内が負圧になるとその特性が発揮される向きに設置することが望ましい。
【0023】
ブロワ制御部23は、上流側弁12の閉止後にブロワ13で燃料電池50内の圧力を低下させて燃料電池50内を負圧にする。ここでいう負圧とは、大気圧よりも燃料電池50内の圧力が低くなるこという。例えば、ブロワ制御部23でブロワ13を逆回転させることで、燃料電池50内の空気Aを吸引して負圧にする。
【0024】
ここで図3は、図1のシステム100を示す図において、ブロワ13による負圧制御中の様子を示す図である。図3では、バイパス弁18の上流側空気通路11aの大気開放側を閉止して、バイパス通路17側を開放し、さらに、下流側弁14を閉止してブロワ13による吸引をしている状態を示している。なお、図3及び図1において、各弁12,14,18の黒色は閉止状態を示し、白色は開放状態を示している。
【0025】
日本の法規上、水素を排出する際は、水素を十分に希釈することが求められる。システム100では、負圧発生の制御を行った場合、水素が燃料電池50のカソード側に透過してくることが予想される。そこで、図3に示されるように、ブロワ13の上流側で空気通路11にバイパス通路17を接続してブロワ13の上流側を希釈機構15に連通させることが望ましい。そして、バイパス制御部25でバイパス通路17に空気Aを流入させることで、空気Aに加え、逆流させた水素も希釈機構15に流して排出することが好ましい。このような、バイパス通路17及び希釈機構15の配置関係により、水素排出に関する法規を遵守しつつ燃料電池50の劣化を防止することができる。
【0026】
燃料電池50内を負圧にすることで、燃料電池セル51のカソード側から空気Aを除去することができる。圧力計16は、一般に燃料電池50の外部に設けられるため、圧力計16が負圧を示す場合、つまり、空気通路11内が負圧になったことを以て燃料電池50内が負圧になったと推定することができる。ブロワ13の逆回転により燃料電池50内の吸引された空気Aはバイパス通路17を流通して希釈機構15へと送り込まれる。
また、ブロワ13で燃料電池セル51内を吸引することで、空気Aに加え、水素や、燃料電池セル51の下流領域60に溜まっている水分を上流側へ逆流させることになる。よって、燃料電池セル51内の湿度分布を均一化でき、水素原子Hの移動抵抗を低減することができる。
【0027】
なお、ブロワ13の送風の向きを変更しないでも、バイパス通路17の接続位置を工夫して、バイパス通路17を開閉することで送風向きを反転させることができる。例えば燃料電池50と下流側弁14との間に加湿器(不図示)を設置して、ブロワ13による吸引により、加湿器内の水蒸気も燃料電池セル51内の空気Aとともに吸引除去してもよい。加湿器内の水分も除去することで、冬季にも加湿器内の凍結を防止することができる。
【0028】
上流側弁制御部21は、燃料電池50内の圧力が所定圧力以下の負圧になった場合に、上流側弁12を閉止する。下流側弁14及び上流側弁12の閉止によりカソード側の空気濃度が低下した状態で燃料電池50が密閉されるため、大気中の酸素が燃料電池セル51のカソード側に流入することが防止又は抑制される。よって、例えば車両を数週間放置してもアノード側へ酸素が透過することを抑制できため、上述したカソード触媒層56や電解質膜57の不可逆的な劣化を抑制することができる。なお、上流側弁12を閉止する直前に燃料電池50の上流側から燃料電池50に窒素や不活性ガスを供給してもよい。この場合、燃料電池セル51のカソード側は窒素や不活性ガスで充満するため、カソード側の負圧は緩和される。
【0029】
なお、上述の上流側弁12は、希釈機構15よりも燃料電池50に近い位置に設けられる。上流側弁12が燃料電池50から離れた位置にある場合、負圧発生制御時にカソード側に空気Aが流入して上述したカソード触媒層56や電解質膜57の劣化が発生するおそれがある。そこで、希釈機構15よりも燃料電池50に近い位置に上流側弁12を設けることで、更に燃料電池50の劣化を抑制する。
【0030】
なお、バイパス通路17の気体通路11への接続位置は、ブロワ13の下流側であってもよい。バイパス通路17の接続位置がブロワ13の下流側である場合、燃料電池50の停止後、まず、上流側弁12を閉止する。そして、バイパス弁18を切り替えた後、ブロワ13を逆回転させて燃料電池50内を負圧にし、下流側弁14を閉止する。このような、バイパス通路17の気体通路11への接続位置とブロワ13との位置関係では、燃料電池50内における空気Aの流方向が発電時と同じ向きになるため、外気が低温な場合でも、燃料電池セル51内に溜まった水分を排出及び掃気しやすくなる。なお、この場合、バイパス弁18に代えて又は加えて、下流側弁14の下流側の下流側気体通路11bとバイパス通路17との接続部にも通路切り替え用の弁が必要になる。
【0031】
以上のように、実施形態にかかるシステム100よれば、既存の構造を利用してコストの増加を抑制しつつ、燃料電池50の劣化を抑制することができる。
【0032】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。
これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更、組み合わせを行うことができる。
これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
【0033】
例えば、実施形態では、空気通路の空気の制御を、ブロワを用いて行ったが、ブロワはコンプレッサであってもよい。
【符号の説明】
【0034】
10…燃料電池制御装置(制御装置)、11(11a,11b)…空気通路(上流側空気通路,下流側空気通路)、12…上流側弁、13…ブロワ、14…下流側弁、15…希釈機構、16…圧力計、17…バイパス通路、18…バイパス弁、21…上流側弁制御部、22…下流側弁制御部、23…ブロワ制御部、24…燃料電池起動部、25…バイパス制御部、50…燃料電池、51…燃料電池セル、52…燃料電池スタック、53(53a,53b)…セパレータ(カソード側セパレータ,アノード側セパレータ)、54…膜電極接合体、55…ガス拡散層、56…カソード触媒層、57…電解質膜、58…アノード触媒層、59…燃料電池セルの上流領域、60…燃料電池セルの下流領域、100…燃料電池システム(システム)、A…空気。
図1
図2
図3