(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154668
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ガラス母材の製造方法
(51)【国際特許分類】
C03B 8/04 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C03B8/04 C
C03B8/04 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068620
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】大縄 和哉
(72)【発明者】
【氏名】高城 充
【テーマコード(参考)】
4G014
【Fターム(参考)】
4G014AH15
4G014AH16
(57)【要約】 (修正有)
【課題】バーナのフードの劣化を抑制するとともに、助燃性ガスの使用量を抑制する、ガラス母材の製造方法を提供する。
【解決手段】バーナをターゲットに対して相対的に往復移動させながら、ガラス微粒子をターゲットに噴射して堆積させるガラス母材の製造方法であって、バーナは、本体部とフードを有する。本体部は、原料ガスポートと、燃料ガスポートと、第一助燃性ガスポートと、第二助燃性ガスポートと、を有し、ガラス母材の製造方法は、ガラス微粒子の堆積開始時であって、燃料ガスポートから燃料ガスの流量を増加させるとともに第二助燃性ガスポートから助燃性ガスの流量を一定にして、ガラス微粒子を堆積する第一堆積工程と、第一堆積工程後、燃料ガスポートから燃料ガスの流量を増加させるとともに第二助燃性ガスポートから助燃性ガスの流量を増加させて、ガラス微粒子を堆積する第二堆積工程と、を備える。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バーナをターゲットに対して相対的に往復移動させながら、前記バーナが形成する火炎内でガラス微粒子を生成し、生成した前記ガラス微粒子を前記ターゲットに噴射して堆積させる、ガラス母材の製造方法であって、
前記バーナは、
本体部と、
前記本体部の外周に設けられ、前記本体部の噴射面よりも、噴射方向下流に突出するフードと、を有し、
前記本体部は、
前記噴射面の中央に設けられ、ガラス原料ガスを噴射する原料ガスポートと、
前記原料ガスポートの外周に設けられ、燃料ガスを噴射する燃料ガスポートと、
前記燃料ガスポート内に設けられ、助燃性ガスを噴射する、複数の第一助燃性ガスポートと、
前記燃料ガスポートの外周に設けられ、助燃性ガスを噴射する第二助燃性ガスポートと、を有し、
前記ターゲットに対する、前記ガラス微粒子の堆積開始時であって、前記燃料ガスポートから噴射される前記燃料ガスの流量を増加させるとともに前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの流量を一定にして、前記ガラス微粒子を堆積する第一堆積工程と、
前記第一堆積工程後、前記燃料ガスポートから噴射される前記燃料ガスの流量を増加させるとともに前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの流量を増加させて、前記ガラス微粒子を堆積する第二堆積工程と、を備える、ガラス母材の製造方法。
【請求項2】
前記第一堆積工程において、前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの噴射速度は2m/秒以上である、請求項1に記載のガラス母材の製造方法。
【請求項3】
前記第二堆積工程において、前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの流量は、前記燃料ガスの流量の0.4倍以上0.6倍以下である、請求項1または請求項2に記載のガラス母材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガラス母材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、OVD法およびVAD法による、多孔質ガラス微粒子堆積体の製造に用いられるバーナを開示している。特許文献1のバーナには、ガラス原料を噴射する多重管と、二重管構造を有し、燃料ガスおよび助燃性ガスを噴射する、複数の火炎噴射ノズルが配置されている。
【0003】
特許文献2は、複数のバーナそれぞれにおいてガラス微粒子が堆積している部分の外径をモニターし、外径が長手方向で均一になるようガラス原料の供給量を調整するガラス母材の製造方法を開示している。
【0004】
特許文献3は、突き出しを備える、同心円状の多重管バーナを開示している。バーナ中心から噴射されるガラス原料ガスのガス流速に対して、突き出し部内側から噴射される火炎用ガスのガス流速が0.3倍から1.0倍である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004-331440号公報
【特許文献2】特開2006-160551号公報
【特許文献3】国際公開第2017/188334号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バーナには、火炎分解反応を安定させるため、バーナの本体部の外周に設けられるとともに、本体部の噴射面から噴射方向下流に突出するフードが設けられることがある。このフードは、火炎による赤熱で劣化しやすい。フードの赤熱による劣化を抑制するため、出射面の外周から助燃性ガスを噴射することが好ましい。しかしながら、助燃性ガスの使用量については、過剰供給の観点で、改善の余地があった。
【0007】
本開示は、バーナのフードの劣化を抑制するとともに、助燃性ガスの使用量を抑制する、ガラス母材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
バーナをターゲットに対して相対的に往復移動させながら、前記バーナが形成する火炎内でガラス微粒子を生成し、生成した前記ガラス微粒子を前記ターゲットに噴射して堆積させる、ガラス母材の製造方法であって、
前記バーナは、
本体部と、
前記本体部の外周に設けられ、前記本体部の噴射面よりも、噴射方向下流に突出するフードと、を有し、
前記本体部は、
前記噴射面の中央に設けられ、ガラス原料ガスを噴射する原料ガスポートと、
前記原料ガスポートの外周に設けられ、燃料ガスを噴射する燃料ガスポートと、
前記燃料ガスポート内に設けられ、助燃性ガスを噴射する、複数の第一助燃性ガスポートと、
前記燃料ガスポートの外周に設けられ、助燃性ガスを噴射する第二助燃性ガスポートと、を有し、
前記ターゲットに対する、前記ガラス微粒子の堆積開始時であって、前記燃料ガスポートから噴射される前記燃料ガスの流量を増加させるとともに前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの流量を一定にして、前記ガラス微粒子を堆積する第一堆積工程と、
前記第一堆積工程後、前記燃料ガスポートから噴射される前記燃料ガスの流量を増加させるとともに前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの流量を増加させて、前記ガラス微粒子を堆積する第二堆積工程と、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、バーナのフードの劣化を抑制するとともに、助燃性ガスの使用量を抑制する、ガラス母材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るガラス母材の製造方法で用いる、製造装置を示す概略構成図である。
【
図2】
図2は、製造装置のバーナを
図1のII-II線の位置で示す断面図である。
【
図3】
図3は、燃料ガスおよび助燃性ガスの評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(本開示の一形態の説明)
まず本開示の実施態様を列記して説明する。
本開示の一態様に係るガラス母材の製造方法は、
(1)バーナをターゲットに対して相対的に往復移動させながら、前記バーナが形成する火炎内でガラス微粒子を生成し、生成した前記ガラス微粒子を前記ターゲットに噴射して堆積させる、ガラス母材の製造方法であって、
前記バーナは、
本体部と、
前記本体部の外周に設けられ、前記本体部の噴射面よりも、噴射方向下流に突出するフードと、を有し、
前記本体部は、
前記噴射面の中央に設けられ、ガラス原料ガスを噴射する原料ガスポートと、
前記原料ガスポートの外周に設けられ、燃料ガスを噴射する燃料ガスポートと、
前記燃料ガスポート内に設けられ、助燃性ガスを噴射する、複数の第一助燃性ガスポートと、
前記燃料ガスポートの外周に設けられ、助燃性ガスを噴射する第二助燃性ガスポートと、を有し、
前記ターゲットに対する、前記ガラス微粒子の堆積開始時であって、前記燃料ガスポートから噴射される前記燃料ガスの流量を増加させるとともに前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの流量を一定にして、前記ガラス微粒子を堆積する第一堆積工程と、
前記第一堆積工程後、前記燃料ガスポートから噴射される前記燃料ガスの流量を増加させるとともに前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの流量を増加させて、前記ガラス微粒子を堆積する第二堆積工程と、を備える。
【0012】
本開示によれば、本体部の外周に設けられるフードと、燃料ガスポートの外周に設けられる第二助燃性ガスポートは、互いに近接する。さらに、第一堆積工程および第二堆積工程の両方において、フードに近接する第二助燃性ガスポートから、助燃性ガスが噴射される。このため、第二助燃性ガスポートから噴射される助燃性ガスにより、赤熱によるフードの劣化を抑制することができる。
【0013】
さらに第一堆積工程では、燃料ガスの流量は増加させるものの助燃性ガスの流量は一定である。そして第二堆積工程において助燃性ガスの流量を増加する。したがって、赤熱によるフードの劣化を抑制するため第一堆積工程の堆積開始時から助燃性ガスの流量を増加しておき、その後第二堆積工程が終わるまで助燃性ガスの流量を一定とする場合と比較して、助燃性ガスの使用量を抑制しながらフードの劣化を抑制することができる。
【0014】
(2)上記(1)において、前記第一堆積工程において、前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの噴射速度は2m/秒以上であってもよい。
【0015】
第一堆積工程における、第二助燃性ガスポートから噴射される助燃性ガスの噴射速度が2m/秒であるため、赤熱によるフードの劣化を効果的に抑制することができる。
【0016】
(3)上記(1)または(2)において、前記第二堆積工程において、前記第二助燃性ガスポートから噴射される前記助燃性ガスの流量は、前記燃料ガスの流量の0.4倍以上0.6倍以下であってもよい。
【0017】
第二堆積工程において、仮に第二助燃性ガスポートから噴射される助燃性ガスの流量が燃料ガスの流量の0.4倍未満の場合、ガラス微粒子の単位時間当たりの堆積量(堆積効率)が下がり、ターゲットにガラス微粒子を堆積させるために要する時間が長くなってしまう。また、赤熱によるフードの劣化を抑制するために必要な助燃性ガスの流量は、多い方がフードの温度が低下するため好ましいが、多すぎるとガラス微粒子堆積体の表面温度が低下してガラス微粒子堆積体が割れる場合がある。助燃性ガスの流量は燃料ガスの流量の0.6倍以下であればよい。仮に第二助燃性ガスポートから噴射される助燃性ガスの流量が、燃料ガスの流量の0.6倍を超える場合、助燃性ガスを過剰に使用してしまう。本開示では、第二堆積工程において、第二助燃性ガスポートから噴射される助燃性ガスの流量は、燃料ガスの流量の0.4倍以上0.6倍以下である。このため、ガラス微粒子の堆積効率を担保しつつ、赤熱によるフードの劣化を抑制するとともに、助燃性ガスの過剰な使用を避けることができる。
【0018】
(本開示の一形態の詳細)
本開示の一形態に係るガラス母材の製造方法の具体例を、図面を参照しつつ説明する。
なお、本開示はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0019】
(ガラス母材の製造装置)
まず、
図1を参照して、本実施形態に係るガラス母材の製造方法で用いる、製造装置について説明する。
図1は、ガラス母材の製造装置1を示す概略構成図である。
図1に示すように、製造装置1は、反応容器2と、トラバース装置3と、支持棒4と、ガス供給装置5と、複数のバーナ6と、複数の排気管7と、を備える。
【0020】
反応容器2は、その内部で、ガラス微粒子堆積体Mが形成される容器である。ガラス微粒子堆積体Mは、ガラス母材として透明化される前に形成される。反応容器2の上方には、トラバース装置3と、支持棒4と、が設けられている。支持棒4の上部はトラバース装置3により支持される。支持棒4は、反応容器2の上壁に形成された貫通孔を挿通して配置される。ターゲットTは、反応容器2内で、支持棒4により支持される。ターゲットTは、円柱または円筒状である。ターゲットTは、たとえば主に石英ガラスからなる光ファイバ用コアガラスロッドである。
【0021】
トラバース装置3は、支持棒4を介して、反応容器2の内部でターゲットTを回転させつつ上下方向に往復移動させるように構成されている。トラバース装置3は、制御部(不図示)により、ターゲットTの回転速度および上下方向の移動速度を制御しうる。これにより、複数のバーナ6は、ターゲットTに対して相対的に往復移動する。ターゲットTの表面に、複数のバーナ6からガラス微粒子が噴き付けられて堆積することにより、ガラス微粒子堆積体Mが形成される。
【0022】
ガス供給装置5は、複数のバーナ6それぞれに、ガラス原料ガス、燃料ガス、助燃性ガスを供給するように構成されている。ガラス原料ガスは、たとえば四塩化ケイ素(SiCl4)ガスである。燃料ガスは、たとえば水素(H2)ガスである。助燃性ガスは、たとえば酸素(O2)ガスである。加えてガス供給装置5は、シールガスとして、たとえば窒素(N2)ガスを複数のバーナ6それぞれに供給してもよい。ガス供給装置5は、制御部(不図示)により、各ガスの単位時間当たりの流量(以下、単に「流量」という)や単位時間当たりの流速(以下、単に「流速」という)を制御しうる。
【0023】
反応容器2の側面には、複数のバーナ6が取り付けられている。本実施形態では、八つのバーナ6が設けられている。さらに、反応容器2の他の側面(複数のバーナ6が取り付けられた位置とは異なる位置にある側面)には、複数の排気管7が取り付けられている。複数の排気管7それぞれは、ガラス微粒子堆積体Mに付着されなかったガラス微粒子を反応容器2の外へ排出するように構成されている。本実施形態では、三つの排気管7が設けられている。
【0024】
複数のバーナ6それぞれは、ターゲットTに対して、ガラス原料ガス、燃料ガス、助燃性ガスを噴射するように構成されている。複数のバーナ6は加えて、シールガスを噴射するように構成されていてもよい。燃料ガスおよび助燃性ガスにより形成される火炎内では、ガラス原料ガスが火炎分解反応することで、ガラス微粒子が生成される。複数のバーナ6それぞれは、このガラス微粒子をターゲットTに対して噴き付けるように構成されている。
【0025】
複数のバーナ6それぞれは、円筒状である。複数のバーナ6それぞれは、本体部61と、フード69と、を有している。フード69は、本体部61の外周に設けられるとともに、本体部61の噴射面62よりも、ガラス原料ガスの噴射方向下流に突出している。噴射面62から、噴射方向におけるフード69の先端までの長さは、たとえば50mmから100mmである。
【0026】
図2は、バーナ6を
図1のII-II線の位置で示す断面図である。
図2に示すように、本体部61は、多重管構造を有している。本体部61は、原料ガスポート63と、燃料ガスポート65と、複数の第一助燃性ガスポート66と、第二助燃性ガスポート67と、を有する。加えて本体部61は、シールガスポート64を有してもよい。
【0027】
原料ガスポート63は、噴射面62の中央に設けられる。原料ガスポート63は、ターゲットTに対して、ガラス原料ガスを噴射するように構成されている。
【0028】
シールガスポート64は、原料ガスポート63の同心円状であって、原料ガスポート63と燃料ガスポート65の間に設けられてもよい。シールガスポート64は、原料ガスポート63から噴射されるガラス原料ガスが、噴射面62近傍で燃料ガスと反応しないように、シールガスを噴射するように構成されている。
【0029】
燃料ガスポート65は、原料ガスポート63の外周に設けられる。本体部61がシールガスポート64を有する場合、燃料ガスポート65はシールガスポート64を介して原料ガスポート63の外周に設けられている。燃料ガスポート65は、原料ガスポート63の同心円状に設けられる。燃料ガスポート65の内径は、原料ガスポート63の内径よりも大きい。燃料ガスポート65は、ターゲットTに対して、燃料ガスを噴射するように構成されている。
【0030】
複数の第一助燃性ガスポート66は、燃料ガスポート65内に設けられる。複数の第一助燃性ガスポート66それぞれは、ターゲットTに対して、助燃性ガスを噴射するように構成されている。本実施形態においては、原料ガスポート63を中心に、八つの第一助燃性ガスポート66が設けられている。第一助燃性ガスポート66それぞれの内径は、原料ガスポート63の内径よりも小さい。
【0031】
第二助燃性ガスポート67は、燃料ガスポート65の外周に設けられる。第二助燃性ガスポート67は、原料ガスポート63の同心円状に設けられる。第二助燃性ガスポート67の内径は、燃料ガスポート65の内径よりも大きい。第二助燃性ガスポート67は、ターゲットTに対して、助燃性ガスを噴射するように設けられている。
【0032】
本実施形態において、第二助燃性ガスポート67は、噴射面62の最も外側に設けられている。本体部61の外周にはフード69が設けられており、第二助燃性ガスポート67とフード69は互いに近接している。
【0033】
(ガラス母材の製造方法)
次に、本実施形態に係るガラス母材の製造方法について説明する。本実施形態のガラス母材の製造方法は、OVD(Outside Vapor Deposition)法である。OVD法は、少なくとも一つのバーナ6をターゲットTに対して相対的に往復移動させる。さらに、バーナ6が形成する火炎内でガラス微粒子を生成し、生成したガラス微粒子をターゲットTに噴射して堆積させることで、ガラス微粒子堆積体Mが形成される。
【0034】
本実施形態のガラス母材の製造方法は、第一堆積工程と、第二堆積工程と、脱水焼結工程とを有する。
【0035】
第一堆積工程および第二堆積工程はともに、ターゲットTに対して、ガラス微粒子を堆積させる工程である。第一堆積工程および第二堆積工程ではともに、複数のバーナ6それぞれが、ガラス原料ガス、燃料ガスおよび助燃性ガスを噴射する。各バーナ6では、燃料ガスおよび助燃性ガスにより形成される火炎内で、ガラス原料ガスが火炎分解反応し、ガラス微粒子が生成される。生成されたガラス微粒子は、ターゲットTに対して噴き付けられる。さらに、複数のバーナ6は、ターゲットTに対して相対的に往復移動される。本実施形態では、トラバース装置3が、支持棒4を介して、ターゲットTを回転させつつ、上下方向に往復移動させる。こうして、ターゲットTの径方向にガラス微粒子が次々に堆積され、ガラス微粒子堆積体Mが形成される。
【0036】
第一堆積工程は、ターゲットTに対して、ガラス微粒子を堆積させる初期工程である。第一堆積工程は、ターゲットTに対する、ガラス微粒子の堆積開始時を含む。第一堆積工程は、燃料ガスポート65から噴射される燃料ガスの流量を増加させるとともに、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの流量を一定にして、ガラス微粒子をターゲットTに堆積させる。さらに第一堆積工程では、原料ガスポート63からガラス原料ガスが噴射されるとともに、第一助燃性ガスポート66から助燃性ガスも噴射される。第一堆積工程は、原料ガスの単位時間当たりの流量を、たとえば一定とする。第一堆積工程は、燃料ガスの単位時間当たりの流量を、たとえば堆積開始時の流量からその1.5倍まで増加させる。第一堆積工程は、第一助燃性ガスポート66から噴射される助燃性ガスの単位時間当たりの流量を、たとえば一定とする。第一堆積工程は、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの単位時間当たりの流量を、たとえば50×10-5m3/s(0℃、1気圧換算値)から84×10-5m3/s(0℃、1気圧換算値)の範囲で一定とする。
【0037】
第一堆積工程において、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの噴射速度は2m/秒以上である。本実施形態では、ガス供給装置5が、助燃性ガスの噴射速度は2m/秒以上となるように、助燃性ガスの流量あるいは流速を制御して、助燃性ガスを複数のバーナ6それぞれに供給する。
【0038】
第二堆積工程は、第一堆積工程後、ターゲットTに対して、ガラス微粒子をさらに堆積させる工程である。第二堆積工程は、燃料ガスポート65から噴射される燃料ガスの流量を増加させるとともに第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの流量を増加させて、ガラス微粒子をターゲットTにさらに堆積させる。さらに第二堆積工程では、原料ガスポート63からガラス原料ガスが噴射されるとともに、第一助燃性ガスポート66から助燃性ガスも噴射される。第二堆積工程は、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの単位時間当たりの流量を、たとえば第一堆積工程の流量からその1.3倍まで増加させる。第二堆積工程における、他のガスの単位時間当たりの流量は、第一堆積工程における、他のガスの単位時間当たりの流量と同じである。
【0039】
第二堆積工程において、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの流量は、燃料ガスの流量の0.4倍以上0.6倍以下である。本実施形態では、ガス供給装置5が、制御部(不図示)により、助燃性ガスの流量および燃料ガスの流量を制御しうる。このように、第一堆積工程と第二堆積工程を経て、ガラス微粒子堆積体Mが形成される。
【0040】
脱水焼結工程は、第二堆積工程後、形成されたガラス微粒子堆積体Mを、脱水焼結炉により加熱して透明化させ、ガラス母材とする工程である。たとえば、ガラス微粒子堆積体Mは、脱水焼結炉内で不活性ガスと塩素ガスの混合雰囲気中で加熱されることにより脱水処理され、その後、ヘリウムガス雰囲気中でさらに加熱されることにより焼結されて、透明化される。こうして、透明なガラス母材が形成される。
【0041】
以上説明したように、本実施形態では、本体部61の外周に設けられるフード69と、燃料ガスポート65の外周に設けられる第二助燃性ガスポート67が、互いに近接する。さらに、第一堆積工程および第二堆積工程の両方において、フード69に近接する第二助燃性ガスポート67から、助燃性ガスが噴射される。このため、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスにより、赤熱によるフード69の劣化を抑制することができる。
【0042】
第一堆積工程では、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの流量は一定である。そして第二堆積工程において助燃性ガスの流量を増加する。したがって、赤熱によるフードの劣化を抑制するため第一堆積工程の堆積開始時から助燃性ガスの流量を増加しておき、その後第二堆積工程が終わるまで助燃性ガスの流量を一定とする場合と比較して、助燃性ガスの使用量を抑制することができる。
【0043】
さらに、第一堆積工程において助燃性ガスの使用量を抑制することで、反応容器2へ供給される助燃性ガスの流量も減少する。すると、ガラス原料ガスの火炎分解反応で発生する塩素も相対的に減少する。塩素は一般的に排気管7に蓄積しえ、その処理にコストもかかっていたところ、塩素が減少するため、このような塩素処理コストも低減することができる。
【0044】
本実施形態では、第一堆積工程において、助燃性ガスの噴射速度は2m/秒以上である。このため、赤熱によるフード69の劣化を抑制することができる。
【0045】
第二堆積工程において、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの流量が燃料ガスの流量の0.4倍未満の場合、ガラス微粒子の単位時間当たりの堆積量(堆積効率)が下がり、ターゲットTにガラス微粒子を堆積させる時間が長くなってしまう。また、赤熱によるフード69の劣化を抑制するために必要な助燃性ガスの流量は、多い方がフードの温度が低下するため好ましいが、多すぎるとガラス微粒子堆積体の表面温度が低下してガラス微粒子堆積体が割れる場合がある。助燃性ガスの流量は燃料ガスの流量の0.6倍以下であればよい。仮に助燃性ガスの流量が、燃料ガスの流量の0.6倍を超える場合、助燃性ガスを過剰に使用してしまう。本実施形態では、第二堆積工程において、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの流量は、燃料ガスの流量の0.4倍以上0.6倍以下である。このため、ガラス微粒子の堆積効率を担保しつつ、赤熱によるフード69の劣化を抑制するとともに、助燃性ガスの過剰な使用を避けることができる。
【0046】
(評価実験)
図1に示した製造装置1を用いてガラス微粒子をターゲットTに堆積させたときの、燃料ガスおよび助燃性ガスの評価を行った。評価実験において、燃料ガスは水素(H
2)ガスである。助燃性ガスは酸素(O
2)ガスである。
【0047】
図3は、燃料ガスおよび助燃性ガスの評価結果を示すグラフである。
図3の横軸は、ターゲットTにガラス微粒子を堆積させる堆積時間である。
図3に示す堆積時間は、第一堆積工程と、第二堆積工程とを含む。
図3に示す助燃性ガスは、第一助燃性ガスポート66から噴射される助燃性ガスは含まず、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスのみを示す。なお、堆積開始時直後では、バーナ6において火炎を形成するため、各ガスが一時的に多く噴射される。しかし、ターゲットTにガラス微粒子を堆積させる観点ではその影響が大きくないため、堆積開始時直後における、各ガスの流量の一時的な増加は考慮しない。
図3の縦軸は、燃料ガスの流量を正規化した場合の、各ガスの流量を示す。
【0048】
図3に示すように、第一堆積工程においては、燃料ガスポート65から噴射される燃料ガスの流量は増加する。このときの、助燃性ガスの噴射速度は2m/秒以上である。また、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの流量は一定である。助燃性ガスの流量はたとえば50×10
-5m
3/s(0℃、1気圧換算値)から84×10
-5m
3/s(0℃、1気圧換算値)である。
【0049】
第一堆積工程中において、バーナ6の噴射面62から最も離れた位置におけるフード69の温度が750℃を超えないことを確認した。以上より、本実施形態の製造方法によれば、第一堆積工程中においてフード69の赤熱による劣化を抑制できることが確認された。
【0050】
さらに第一堆積工程では、助燃性ガスの流量は一定である。そして第二堆積工程において助燃性ガスの流量を増加する。したがって、赤熱によるフードの劣化を抑制するため第一堆積工程の堆積開始時から助燃性ガスの流量を増加しておき、その後第二堆積工程が終わるまで助燃性ガスの流量を一定とする場合と比較して、助燃性ガスの使用量を抑制できることが確認された。
【0051】
第二堆積工程においては、燃料ガスポート65から噴射される燃料ガスの流量は増加する。このときの、助燃性ガスの噴射速度は2m/秒以上である。また、第二助燃性ガスポート67から噴射される助燃性ガスの流量も増加する。
図3は、燃料ガスの流量の0.4倍の流量と、燃料ガスの流量の0.6倍の流量を破線で示しており、第二堆積工程中における助燃性ガスの流量は、燃料ガスの流量の0.4倍以上0.6倍以下であることを示している。
【0052】
第二堆積工程中においても、バーナ6の噴射面62から最も離れた位置におけるフード69の温度が750℃を超えないことを確認した。以上より、第二堆積工程中において助燃性ガスの流量が、燃料ガスの流量の0.4倍以上0.6倍以下であっても、本実施形態の製造方法によれば、フード69の赤熱による劣化を抑制できることが確認された。
【0053】
以上、本開示を詳細にまた特定の実施態様を参照して説明したが、本開示の精神と範囲を逸脱することなく様々な変更や修正を加えることができることは当業者にとって明らかである。また、上記説明した構成部材の数、位置、形状等は上記実施の形態に限定されず、本開示を実施する上で好適な数、位置、形状等に変更することができる。
【符号の説明】
【0054】
1 製造装置
2 反応容器
3 トラバース装置
4 支持棒
5 ガス供給装置
6 バーナ
7 排気管
61 本体部
62 噴射面
63 原料ガスポート
64 シールガスポート
65 燃料ガスポート
66 第一助燃性ガスポート
67 第二助燃性ガスポート
69 フード