(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154687
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】脱気装置及びインクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/19 20060101AFI20241024BHJP
B41J 2/18 20060101ALI20241024BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B41J2/19
B41J2/18
B41J2/01 451
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068656
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111202
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 周彦
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 裕朗
(72)【発明者】
【氏名】石田 英樹
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健
(72)【発明者】
【氏名】坂岡 伸哉
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA15
2C056EB20
2C056EB30
2C056EB34
2C056EB38
2C056EB59
2C056EC06
2C056EC28
2C056HA30
2C056HA46
2C056JA01
2C056JB04
2C056KA06
2C056KB16
2C056KC01
2C056KC16
2C056KD02
(57)【要約】
【課題】溶存気体量に応じて脱気効率を向上させることを目的とする。
【解決手段】脱気装置40は、液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置40であって、液体を貯留する液体タンク(例えば、インクタンク32)と、液体タンク内を減圧する減圧装置(例えば、減圧ポンプ62)と、液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路47と、循環流路47を通して液体を循環させる循環装置(例えば、循環ポンプ67)と、液体タンク内の液体の溶存気体量を計測する溶存気体量計測装置81と、溶存気体量計測装置81により計測された溶存気体量に応じて循環装置を制御する制御装置38と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置であって、
液体を貯留する液体タンクと、
前記液体タンク内を減圧する減圧装置と、
前記液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路と、
前記循環流路を通して液体を循環させる循環装置と、
前記液体タンク内の液体の溶存気体量を計測する溶存気体量計測装置と、
前記溶存気体量計測装置により計測された溶存気体量に応じて前記循環装置を制御する制御装置と、を備えることを特徴とする脱気装置。
【請求項2】
前記液体タンク内の液体の温度を計測する温度計測装置を備え、
前記制御装置は、前記溶存気体量計測装置により計測された溶存気体量と、前記温度計測装置により計測された温度と、に対応する気体飽和度に応じて前記循環装置を制御することを特徴とする請求項1に記載の脱気装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記気体飽和度に応じて前記循環装置の流量を制御することを特徴とする請求項2に記載の脱気装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記気体飽和度が目標値に到達した場合に、前記循環装置を停止させることを特徴とする請求項2又は3に記載の脱気装置。
【請求項5】
請求項1に記載の脱気装置と、
前記脱気装置により脱気された液体をシートに吐出する記録ヘッドと、を備えていることを特徴とするインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱気装置及びインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置において、インクの溶存気体量が多くなると、記録ヘッドの内部で気泡が発生して吐出不良を起こすおそれがある。そこで、従来、インクの溶存気体量を減らす技術が検討されている。例えば、特許文献1、2では、インクタンク内を減圧した状態でインクタンクのインクを攪拌することでインクを脱気する構成が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-162821号公報
【特許文献2】特開2019-142189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1、2に記載の脱気装置では、インクタンク内のインクが撹拌されて液面付近でインクが脱気される。しかしながら、撹拌子がインクタンクの底部に位置することから、インク容量が大きくなると、溶存気体量が少ない液面付近のインクと溶存気体量が多い底面付近のインクが入れ替わり難くなって脱気効率が低下する。また、脱気装置に供給する電力が一律の場合、溶存気体量が少ない場合に電力を使い過ぎたり、溶存気体量が多い場合に脱気に要する時間が長くなったりして、脱気効率が低下するおそれがある。
【0005】
本発明は、上記事情を考慮し、溶存気体量に応じて脱気効率を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明に係る脱気装置は、液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置であって、液体を貯留する液体タンクと、前記液体タンク内を減圧する減圧装置と、前記液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路と、前記循環流路を通して液体を循環させる循環装置と、前記液体タンク内の液体の溶存気体量を計測する溶存気体量計測装置と、前記溶存気体量計測部により計測された溶存気体量に応じて前記循環装置を制御する制御装置と、を備える。
【0007】
前記脱気装置は、前記液体タンク内の液体の温度を計測する温度計測装置を備え、前記制御装置は、前記溶存気体量計測装置により計測された溶存気体量と、前記温度計測装置により計測された温度と、に対応する気体飽和度に応じて前記循環装置を制御してもよい。
【0008】
前記制御装置は、前記気体飽和度に応じて前記循環装置の流量を制御してもよい。
【0009】
前記制御装置は、前記気体飽和度が目標値に到達した場合に、前記循環装置を停止させてもよい。
【0010】
また、本発明に係るインクジェット記録装置は、前記脱気装置と、前記脱気装置により脱気された液体をシートに吐出する記録ヘッドと、を備えている。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、溶存気体量に応じて脱気効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の一実施形態に係るインクジェット記録装置を示す模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る循環ポンプを示す模式図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る脱気装置を模式的に示す断面図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る脱気装置の動作の全体を示す流れ図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係る脱気装置の減圧工程の動作を示す流れ図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係る脱気装置の脱気工程の動作を示す流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態のインクジェット記録装置1について説明する。
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置1を示す模式図である。説明の便宜上、
図1における紙面前側をインクジェット記録装置1の正面側(前側)とし、左右の向きはインクジェット記録装置1を正面から見た方向を基準として説明する。各図に付される矢印L、R、U、Loは、それぞれインクジェット記録装置1の左側、右側、上側、下側を示している。
【0014】
インクジェット記録装置1は、インクジェット式の各記録ヘッド21から記録媒体としてのシートSに向けてインクを吐出して印刷する。インクジェット記録装置1は、各種機器が収容された箱型形状のハウジング10を備えている。ハウジング10の下部にはシートSがセットされる給紙カセット11が収容され、ハウジング10の右側面にはシートSが手差しでセットされる手差しトレイ12が設置されている。ハウジング10の左側面の上側には、記録済みのシートSが積載される排紙トレイ13が設置されている。
【0015】
ハウジング10内の右側部には、給紙カセット11からハウジング10中央の記録ヘッド21に向けてシートSを搬送する第1搬送経路14が形成されている。第1搬送経路14の上流には給紙カセット11のシート束からシートSを取り出す第1給紙部15が設けられ、第1搬送経路14の下流にはシートSの送り出しタイミングを調整するレジストローラー18が設けられている。また、第1搬送経路14の下流には手差しトレイ12の給紙経路16が合流しており、給紙経路16には手差しトレイ12のシート束からシートSを取り出す第2給紙部17が設けられている。
【0016】
レジストローラー18の下流には搬送装置22と色毎(例えば、ブラック、シアン、マゼンタ、イエロー)の記録ヘッド21が設置されている。レジストローラー18は、シートSのスキューを矯正して、各記録ヘッド21によるインクの吐出動作に合わせて搬送装置22にシートSを送り出す。ハウジング10には記録ヘッド21毎にインクコンテナ31及びインクタンク32が設けられている。各インクコンテナ31のインクがインクタンク32に一時的に貯留され、必要に応じてインクが脱気されて、インクタンク32から記録ヘッド21にインクが供給される。
【0017】
搬送装置22は、各記録ヘッド21の下方に設置された複数の張架ローラー23に搬送ベルト24を巻き掛けて構成されている。搬送装置22の下流には、シートSのインクを乾燥する乾燥装置25が設けられている。乾燥装置25の下流には、インクの乾燥によってシートSに生じたカールを矯正するデカール装置26が設けられている。デカール装置26の下流には、排紙トレイ13に向けてシートSを搬送する第2搬送経路27が形成されている。第2搬送経路27の下流には、排紙トレイ13に記録済みのシートSを排出する排紙部28が設けられている。
【0018】
乾燥装置25の下方には、記録ヘッド21をクリーニングするメンテナンスユニット35と、記録ヘッド21をキャッピングするキャップユニット36とが設けられている。メンテナンスユニット35にはスキージ状のワイピングブレードが設けられており、ワイピングブレードによって記録ヘッド21のノズル面に残ったインクが掻き取られる。キャップユニット36にはヘッドキャップが設けられており、ヘッドキャップが記録ヘッド21のノズル面に被せられる。ヘッドキャップによりノズル内のインクの乾燥が抑制される。ヘッドキャップ内に洗浄液などの液体を貯めておくことでノズル内のインクの乾燥を、より抑制してもよい。
【0019】
また、インクジェット記録装置1には、装置全体を統括制御する制御装置38が設けられている。制御装置38は、プロセッサによって構成されてもよいし、集積回路等に形成された論理回路(ハードウェア)によって構成されてもよい。プロセッサで構成される場合には、プロセッサがメモリに記憶されているプログラムを読み出して実行することで各種処理が実施される。プロセッサとしては、例えば、CPU(Central Processing Unit)が使用される。メモリは、用途に応じてROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)等の一つ又は複数の記憶装置によって構成されている。
【0020】
画像記録時には、第1給紙部15、第2給紙部17によってそれぞれ給紙カセット11、手差しトレイ12からシートSが取り出されてレジストローラー18に送られる。インクの吐出タイミングに合わせて、レジストローラー18から搬送ベルト24にシートSが送られて、各記録ヘッド21から脱気済みのインクが吐出されてシートSの表面にカラー画像が記録される。乾燥装置25によってシートSが乾燥され、デカール装置26によってシートSのカールが矯正される。第2搬送経路27を通って排紙部28にシートSが搬送されて、排紙部28によって記録済みのシートSが排紙トレイ13に排出される。
【0021】
ところで、インクタンク32内でインクの液面が空気に触れて空気の溶解が進行し、インク内の気泡によって記録ヘッド21のノズルが目詰まりする場合がある。このため、インク内の溶存気体量を適切に抑えることが望まれている。例えば、中空糸フィルターの周囲を減圧した状態で、中空糸フィルターにインクを通すことで、中空糸の壁面から減圧側に空気が移動して脱気する方法が提案されている。この方法では、高価な中空糸フィルターが必要になると共に定期的な交換作業が必要になってコストが増加する。
【0022】
また、ノズルの目詰まりを防止するために、インクタンク32内を大気圧以下に減圧した状態で、撹拌子によってインクを撹拌して脱気する方法(以下、撹拌脱気方式と称する)が提案されている。撹拌脱気方式ではインクタンク32内の撹拌子に外部から磁力が加えられて、磁力によって撹拌子が回転してインクタンク32内のインクが撹拌される。インクの深さやタンク径が大きい場合にはインクが撹拌され難くなって脱気効率が低下する。撹拌子の回転数を高くすれば撹拌され易くなるが、撹拌子の回転数が高くなり過ぎると脱調現象が生じると共に撹拌子の回転音も大きくなる。そこで、本実施形態では、以下に示される循環脱気方式が採用されている。
【0023】
[脱気装置]
本実施形態に係る脱気装置40について説明する。
図2は、本実施形態に係るインク供給構造を示す模式図である。
図3は、本実施形態に係る循環ポンプ67を示す模式図である。
図4は、脱気装置40を模式的に示す断面図である。
【0024】
本実施形態に係るインクジェット記録装置1にはインクの色毎にインク供給構造が設けられているが、これらのインク供給構造の構成は同一であるため、ここでは1つのインク供給構造について説明する。
【0025】
[インクタンク]
インクタンク32は、上下方向を軸方向とする筒状の側壁部32Wと、側壁部32Wの下端部を塞ぐ底部32Bと、側壁部32Wの上端部を塞ぐ蓋体部32Cと、を有する。側壁部32Wの内面の水平断面は、円形が望ましい。側壁部32Wと底部32Bは、一体的に形成されていることが望ましい。
【0026】
[補給流路]
補給流路41は、インクコンテナ31とインクタンク32とに連通している。補給流路41の一端部は、インクタンク32の側壁部32Wの液面よりも下方の箇所に接続されている。補給流路41には、補給ポンプ61と補給バルブ51が設けられている。
【0027】
[大気開放流路]
大気開放流路43は、蓋体部32Cに接続され、インクタンク32の上部空間34に連通している。大気開放流路43には、大気開放バルブ53が設けられている。
【0028】
[減圧流路]
減圧流路42は、蓋体部32Cに接続され、インクタンク32の上部空間34に連通している。減圧流路42には、減圧ポンプ62と減圧バルブ52が設けられている。
【0029】
[供給流路]
供給流路44は、インクタンク32と記録ヘッド21とに連通している。供給流路44の一端部は、インクタンク32の底部32Bに接続されている。供給流路44には、供給バルブ54と供給ポンプ64が設けられている。
【0030】
[回収流路]
回収流路45は、インクタンク32と記録ヘッド21に連通している。回収流路45の一端部は、インクタンク32の側壁部32Wに接続されている。回収流路45には、回収バルブ55が設けられている。
【0031】
[バイパス流路]
供給流路44には、供給バルブ54と供給ポンプ64を迂回するバイパス流路46が設けられている。バイパス流路46には、バイパスバルブ56が設けられている。
【0032】
[循環流路]
循環流路47は、インクタンク32のインクの底面付近と液面付近とに連通している。循環流路47は、インクタンク32から循環流路47へとインクが流出する流出口71と、循環流路47からインクタンク32へとインクが流入する流入口72(
図4の第1流入口721)と、を有する。インクタンク32の側壁部32Wの底部32B側の箇所に流出口71が接続され、インクタンク32の側壁部32Wの液面付近の箇所に流入口72が接続されている。つまり、流出口71よりも流入口72が高い位置に位置している。循環流路47には循環ポンプ67が設けられている。循環ポンプ67によって循環流路47を経由してインクが循環される。流出口71は、インクタンク32の底部32Bに接続されていてもよい。なお、循環流路47の詳細については、後述する。
【0033】
[循環ポンプ]
脱気動作時にはインクタンク32内が減圧状態であるため、ダイヤフラム式ポンプ等の往復ポンプは減圧の影響を受け易い。そこで、循環ポンプ67には回転体によってインクを送り出すポンプが用いられることが好ましい。例えば、循環ポンプ67としては、遠心ポンプ、斜流ポンプ、軸流ポンプ等の非容積式ポンプが用いられてもよいし、ベーンポンプ、ギアポンプ、ネジポンプ等の容積式の回転ポンプが用いられてもよい。これらのポンプを用いることにより、往復ポンプとは異なり、インクタンク32内の減圧の影響を抑えてインクを循環させることができる。
【0034】
なお、一般的には、循環脱気方式の循環流路47の中に記録ヘッド21が含まれるように構成してもよいが、本実施形態では、循環流路47の中に記録ヘッド21は含まれていない。つまり、循環流路47は、記録ヘッド21にインクを供給する経路とは別に設けられている。記録ヘッド21が循環流路47の中に含まれないことで、脱気する際の減圧で、記録ヘッド21のノズル内に形成されているメニスカスが破壊されて、外部の空気が記録ヘッド21内に入ってくる可能性を少なくできる。
【0035】
図3に示すように、循環ポンプ67のポンプ軸73とモーター軸75が隔壁77を挟んで非接触で動力が伝達可能になっている。循環流路47の途中にはポンプケーシング76が形成され、ポンプケーシング76内に羽根車74が付いたポンプ軸73が収容されている。循環流路47の外側にはモーター(図示省略)が設置されている。ポンプ軸73及びモーター軸75の端部にはディスク78、79が設けられ、ディスク78、79がポンプケーシング76の隔壁77を挟んで対向している。ディスク78、79の対向面には、それぞれ周方向にS極とN極が交互に並んだマグネット(図示省略)が設置されている。
【0036】
ポンプ軸73とモーター軸75が磁気的に連結され(マグネットカップリング)、磁力を用いてモーター軸75からポンプ軸73に動力が伝達される。モーター軸75にポンプケーシング76を貫通させることなく、ポンプケーシング76が液密に密閉された状態のまま、ポンプケーシング76内の羽根車74を回転させることができる。ポンプ軸73とモーター軸75のディスク78、79の間がポンプケーシング76の隔壁77に仕切られることで、インクタンク32を減圧したときにポンプケーシング76内外の気圧差が生じても、この気圧差に起因したインク漏れが確実に防止される。
【0037】
[制御装置]
補給ポンプ61、減圧ポンプ62、供給ポンプ64、循環ポンプ67及び補給バルブ51、減圧バルブ52、大気開放バルブ53、供給バルブ54、回収バルブ55、バイパスバルブ56は、制御装置38によって制御される。制御装置38には、インクの放置時間に応じて脱気動作の要否を判定する判定部39が設けられている。判定部39によってインクの脱気が不要と判定された場合には脱気動作が実行されない。インクの放置によって空気が再溶解していても、許容時間内であれば脱気することなくインクを使用できる。
【0038】
[気圧計]
インクタンク32には、インクタンク32の上部空間34内の気圧を計測する気圧計33が設けられている。制御装置38は、気圧計33から気圧データを取得する。
【0039】
次に、脱気装置40の基本的な動作について説明する。ここでは、待機状態を初期状態として説明する。
【0040】
[待機状態]
待機状態においては、補給バルブ51、減圧バルブ52、供給バルブ54が閉じられ、大気開放バルブ53、回収バルブ55、バイパスバルブ56が開かれている。インクタンク32にはインクが貯留されており、大気開放された上部空間34の空気に液面が触れることで時間経過に伴ってインクに空気が溶解していく。
【0041】
待機状態において、制御装置38の判定部39は、脱気の要否を判定する。例えば、制御装置38にはタイマーが設けられ、タイマーによってインクの放置時間が計時されている。インクの溶存気体量は、気圧、インクの温度、前回印刷時からの経過時間等の1つ又は複数のパラメータから推定可能である。このため、判定部39には各パラメータとインクの溶存気体量との対応関係を示す変換情報が記憶されており、各パラメータに基づいてインクの溶存気体量が推定される。また、判定部39にはインクの溶存気体量と許容時間の対応関係を示す変換情報が記憶されており、インクの溶存気体量に基づいて許容時間が設定される。許容時間は、インクを放置していても脱気せずに印刷が許容される時間である。なお、各パラメータとインクの溶存気体量の対応関係を示す変換情報やインクの溶存気体量と許容時間の対応関係を示す変換情報には、マップデータ、ルックアップテーブル、変換式等が用いられる。これらマップデータ、ルックアップテーブル、変換式は、事前に実験的、経験的、理論的に求められたものが使用される。
【0042】
インクの放置時間が許容時間内である場合には、酸素飽和度が低いため、判定部39は、脱気が不要と判定する。インクの放置時間が許容時間を超えた場合には、酸素飽和度が高いため、判定部39は、脱気が必要と判定する。脱気が必要な場合、制御装置38は、下記の減圧工程と脱気工程を実行する。
【0043】
[減圧工程]
減圧工程においては、制御装置38は、補給バルブ51、大気開放バルブ53、供給バルブ54、回収バルブ55、バイパスバルブ56を閉鎖し、減圧バルブ52を開放し、減圧ポンプ62を駆動する。すると、インクタンク32の上部空間34から空気が吸い出されて上部空間34が減圧される。制御装置38は、気圧計33が示す上部空間34の気圧が目標値(例えば、-50[kPa])に到達すると減圧ポンプ62を停止させる。
【0044】
[脱気工程]
減圧工程が終了すると、制御装置38は、脱気工程を実行する。脱気工程においては、制御装置38は、補給バルブ51、減圧バルブ52、大気開放バルブ53、供給バルブ54、回収バルブ55、バイパスバルブ56を閉鎖し、所定時間、循環ポンプ67を駆動する。循環ポンプ67を駆動すると、循環流路47を通じてインクタンク32内のインクが循環する。インクタンク32の溶存気体量が多い底面付近のインクが流出口71を通じて循環流路47に流出し、循環流路47内のインクが流入口72(
図4の第1流入口721)を通じてインクタンク32内の液面付近に向けて流入する。インクの液面が減圧雰囲気下に晒されて、液面付近のインクに溶存した空気が除去される。溶存気体量が少ない液面付近のインクと溶存気体量が多い底面付近のインクがスムーズに入れ替えられて脱気効率が向上する。また、撹拌脱気方式とは異なり、インクの深さやタンク径に影響を受けることがなく、撹拌子の回転音よりも循環ポンプ67の駆動音が抑えられて静音性が高められる。
【0045】
[ヘッド循環工程]
ヘッド循環工程は、脱気工程の前又は後に行われてもよく、独自のタイミングで行われてもよい。ヘッド循環工程においては、制御装置38は、補給バルブ51、減圧バルブ52、バイパスバルブ56を閉じ、大気開放バルブ53、供給バルブ54、回収バルブ55を開き、供給ポンプ64を駆動する。すると、供給流路44を通じてインクタンク32から記録ヘッド21にインクが供給され、回収流路45を通じて記録ヘッド21からインクタンク32にインクが回収される。記録ヘッド21とインクタンク32の間でインクが循環されることで、記録ヘッド21内で粘度が増加したインクが入れ替えられると共に記録ヘッド21から気泡が除去される。
【0046】
[印刷工程]
記録ヘッド21による印刷動作時には、補給バルブ51、減圧バルブ52、供給バルブ54が閉じられ、大気開放バルブ53、回収バルブ55、バイパスバルブ56が開かれる。つまり、印刷動作時には、インクタンク32は、大気解放されて、大気圧となっている。印刷動作時には、インクタンク32は、実質的な脱気が生じるような減圧をされない。記録ヘッド21からインクが吐出される度に、バイパス流路46、回収流路45を通じてインクタンク32から記録ヘッド21にインクが供給される。インクの入れ替え動作時や印刷動作時等の途中でインクが補給される場合がある。このインクの補給動作時には補給バルブ51が開かれて補給ポンプ61が駆動する。補給ポンプ61の駆動によって補給流路41を通じてインクコンテナ31からインクタンク32にインクが補給される。
【0047】
なお、
図1等は模式的に描かれており、実際には、記録ヘッド21は、インクタンク32より上方に配置されている。記録ヘッド21内のインクには、インクタンク32内のインクとの水頭差により負圧が加わっており、その負圧により、記録ヘッド21のノズルにはメニスカスが形成されている。記録ヘッド21からインクが吐出された後、インクの表面張力がメニスカスの表面積を減らすように働き、それによって生じる負圧によって、インクタンク32から記録ヘッド21に、減った分のインクが引き込まれる。なお、回収バルブ55を閉じて、記録ヘッド21へのインク供給を、バイパス流路46からだけにしてもよい。
【0048】
また、記録ヘッド21とインクタンク32とが繋がった状態で、インクタンク32を実質的な脱気が起きるほど減圧すると、ノズルのメニスカスが破壊されるおそれがある。メニスカスが破壊されなかったとしても、ノズル内のメニスカスの形状が、インクタンク32が大気解放されているときと変わり、インクの吐出特性が変わるおそれがある。本実施形態では、印刷動作時には、インクタンク32は、実質的な脱気が生じるような減圧をされないので、記録ヘッド21のノズル内のメニスカスは、破壊されることはなく、また、形状が変わって、吐出特性が変わることもない。
【0049】
次に、本実施形態の特徴について詳細に説明する。本実施形態に係る脱気装置40は、液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置40であって、液体を貯留する液体タンク(例えば、インクタンク32)と、液体タンク内を減圧する減圧装置(例えば、減圧ポンプ62)と、液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路47と、循環流路47を通して液体を循環させる循環装置(例えば、循環ポンプ67)と、液体タンク内の液体の溶存気体量を計測する溶存気体量計測装置81と、溶存気体量計測装置81により計測された溶存気体量に応じて循環装置を制御する制御装置38と、を備える。具体的には、以下のとおりである。なお、インクタンク32、減圧ポンプ62、循環流路47、循環ポンプ67については前述のとおりであるから、以下では、主に、制御装置38が実行する処理の内容について説明する。
【0050】
[溶存気体量計測装置、温度計測装置]
インクタンク32には、溶存気体量計測装置81と、温度計測装置82と、が設けられている(
図2、4参照)。溶存気体量計測装置81は、例えば、蛍光法によりインクタンク32内のインクの溶存気体量(例えば、溶存酸素量)を計測するセンサーである。温度計測装置82は、例えば、測温抵抗体、熱電対、サーミスター等によりインクタンク32の内のインクの温度を計測するセンサーである。
【0051】
図5は、脱気装置40の動作の全体を示す流れ図である。
図6は、脱気装置40の減圧工程の動作を示す流れ図である。
図7は、脱気装置40の脱気工程の動作を示す流れ図である。
【0052】
ここでは、待機状態を初期状態として説明する。待機状態では、補給バルブ51、減圧バルブ52、供給バルブ54が閉じられ、大気開放バルブ53、回収バルブ55、バイパスバルブ56が開かれている。インクタンク32にはインクが貯留されており、大気開放された上部空間34の空気に液面が触れることで時間経過に伴ってインクに空気が溶解していく。
【0053】
最初に、制御装置38は、印刷ジョブが実行中であるか否かを判定する(
図5、ステップS01)。印刷ジョブが実行中である場合には(ステップS01:YES)、制御装置38は、ステップS01の判定を繰り返す。一方、印刷ジョブが実行中でない場合には(ステップS01:NO)、制御装置38の判定部39は、脱気を実行するか否かを判定する(ステップS02)。例えば、制御装置38にはタイマーが設けられ、タイマーによってインクの放置時間が計時されている。インクの溶存気体量は、気圧、インクの温度、前回印刷時からの経過時間等の1つ又は複数のパラメータから推定可能である。このため、判定部39には各パラメータとインクの溶存気体量の対応関係を示す変換情報が記憶されており、各パラメータに基づいてインクの溶存気体量が推定される。また、判定部39にはインクの溶存気体量と許容時間の対応関係を示す変換情報が記憶されており、インクの溶存気体量に基づいて許容時間が設定される。なお、許容時間は、インクを放置していても脱気せずに印刷が許容される時間である。
【0054】
インクの放置時間が許容時間内での場合には、酸素飽和度が低いので判定部39によって脱気が不要と判定されて脱気動作が実施されない。インクの放置時間が許容時間を超えた場合には、酸素飽和度が高いので判定部39によって脱気が必要と判定されて脱気動作が実施される。なお、各パラメータとインクの溶存気体量の対応関係を示す変換情報やインクの溶存気体量と許容時間の対応関係を示す変換情報には、マップデータ、ルックアップテーブル、変換式等が用いられる。これらマップデータ、ルックアップテーブル、変換式は、事前に実験的、経験的、理論的に求められたものが使用される。
【0055】
ステップS02において脱気を実行しないと判定した場合には(ステップS02:NO)、制御装置38は、ステップS01の判定を繰り返す。一方、脱気を実行すると判定した場合には(ステップS02:YES)、制御装置38は、減圧工程(ステップS03、
図6参照)を実行する。具体的には、制御装置38は、補給バルブ51、大気開放バルブ53、供給バルブ54、回収バルブ55、バイパスバルブ56を閉鎖し、減圧バルブ52を開放し、減圧ポンプ62を駆動する(ステップS11)。次に、制御装置38は、気圧計33が示すインクタンク32内の気圧が所定の負圧に到達したか否かを判定する(ステップS12)。気圧が所定の負圧に到達していないと判定した場合には(ステップS12:NO)、制御装置38は、減圧ポンプ62を駆動したままステップS12の判定を繰り返す。一方、気圧が所定の負圧に到達したと判定した場合には(ステップS12:YES)、制御装置38は、減圧バルブ52を閉鎖し、減圧ポンプ62を停止させる(ステップS13)。
【0056】
次に、制御装置38は、脱気工程を実行する(
図5のステップS04、
図7参照)。最初に、制御装置38は、気体飽和度を取得する(ステップS21)。具体的には、制御装置38は、溶存気体量計測装置81により計測された溶存気体量と、温度計測装置82により計測された温度と、に対応する気体飽和度(例えば、酸素飽和度)を求める。制御装置38には、溶存気体量と温度と気体飽和度との対応関係を示す変換情報が記憶されており、制御装置38は、溶存気体量と温度とに対応する気体飽和度を変換情報から求める。
【0057】
次に、制御装置38は、気体飽和度に応じた流量で循環ポンプ67を駆動する(ステップS22)。循環ポンプ67の流量は、循環ポンプ67に供給される電力の電圧値によって制御される。制御装置38には、気体飽和度と電圧値との対応関係を示す変換情報が記憶されている。循環ポンプ67の電圧値は、気体飽和度が高いほど段階的又は連続的に高くなるように定められている。例えば、気体飽和度が95%未満である場合に第1の電圧値が設定され、気体飽和度が95%以上である場合に第2の電圧値(第1の電圧値よりも大きい)が設定されている。制御装置38は、気体飽和度に対応する電圧値を変換情報から求め、求められた電圧値で循環ポンプ67を駆動する。
【0058】
循環ポンプ67を駆動すると、循環流路47を通じてインクタンク32内のインクが循環される。インクタンク32の溶存気体量が多い底面付近のインクが流出口71を通じて循環流路47に流出し、循環流路47内のインクが流入口72を通じてインクタンク32内の液面付近に向けて流入する。インクの液面が減圧雰囲気下に晒されて、液面付近のインクに溶存した空気が除去される。溶存気体量が少ない液面付近のインクと溶存気体量が多い底面付近のインクがスムーズに入れ替えられて脱気効率が向上する。
【0059】
また、前述のとおり、循環ポンプ67の電圧値は、気体飽和度が高いほど段階的又は連続的に高くなるように定められている。仮に、気体飽和度にかかわらず電圧値を一律に設定した場合、気体飽和度が比較的低い場合に電力を使い過ぎるおそれがあり、一方、気体飽和度が比較的高い場合に脱気に要する時間が長くなるおそれがある。これに対して、本実施形態では、気体飽和度が比較的低い場合に電力の使い過ぎを防ぐことができ、一方、気体飽和度が比較的高い場合に脱気に要する時間を短縮することができる。
【0060】
次に、制御装置38は、気体飽和度が目標値に到達したか否かを判定する(ステップS23)。気体飽和度の目標値は、画像品質との関係に基づいて予め定められている。気体飽和度が目標値に到達していないと判定した場合には(ステップS23;NO)、制御装置38は、ステップS21以降の処理を繰り返す。一方、気体飽和度が目標値に到達したと判定した場合には(ステップS23:YES)、制御装置38は、循環ポンプ67を停止させる(ステップS24)。
【0061】
次に、制御装置38は、印刷ジョブを実行するか否かを判定する(
図5のステップS05)。印刷ジョブを実行しないと判定した場合には(ステップS05:NO)、制御装置38は、ステップS05の判定を繰り返す。一方、印刷ジョブを実行すると判定した場合には(ステップS05:YES)、制御装置38は、大気開放バルブ53を開放し(ステップS06)、印刷ジョブを実行し(ステップS07)、ステップS01以降の処理を繰り返す。
【0062】
以上説明した本実施形態に係る脱気装置40によれば、液体に溶存した空気を減圧雰囲気下で除去する脱気装置40であって、液体を貯留する液体タンク(例えば、インクタンク32)と、液体タンク内を減圧する減圧装置(例えば、減圧ポンプ62)と、液体タンクの異なる位置を連通させる循環流路47と、循環流路47を通して液体を循環させる循環装置(例えば、循環ポンプ67)と、液体タンク内の液体の溶存気体量を計測する溶存気体量計測装置81と、溶存気体量計測装置81により計測された溶存気体量に応じて循環装置を制御する制御装置38と、を備える。仮に、溶存気体量にかかわらず循環ポンプ67の出力を一律に設定した場合、溶存気体量が比較的低い場合に電力を使い過ぎ、一方、溶存気体量が比較的高い場合に脱気に要する時間が長くなるなどして、脱気効率が低下するおそれがある。これに対して、本実施形態では、溶存気体量に応じて循環装置を制御するから、溶存気体量に応じて脱気効率を向上させることができる。
【0063】
また、本実施形態に係る脱気装置40によれば、液体タンク内の液体の温度を計測する温度計測装置82を備え、制御装置38は、溶存気体量計測装置81により計測された溶存気体量と、温度計測装置82により計測された温度と、に対応する気体飽和度に応じて循環装置を制御する。気泡は、液体の気体飽和度が高いほど発生しやすくなるが、飽和溶存気体量は液体の温度によって変化するため、気体飽和度も温度の影響を受ける。従って、気泡の発生のしやすさを評価するには、溶存気体量だけではなく、液体の温度の影響を加味した気体飽和度を用いることが望ましい。本実施形態によれば、液体の温度の影響を加味して循環装置を制御することができる。
【0064】
また、本実施形態に係る脱気装置40によれば、制御装置38は、気体飽和度に応じて循環装置の流量を制御する。この構成によれば、気体飽和度が比較的低い場合に電力の使い過ぎを防ぐことができ、一方、気体飽和度が比較的高い場合に脱気に要する時間を短縮することができる。よって、循環装置を効率的に運転することができる。
【0065】
また、本実施形態に係る脱気装置40によれば、制御装置38は、気体飽和度が目標値に到達した場合に、循環装置を停止させる。この構成によれば、電力の浪費を防ぐことができる。
【0066】
また、本実施形態に係るインクジェット記録装置1によれば、脱気装置40と、脱気装置40により脱気された液体をシートSに吐出する記録ヘッド21と、を備えている。この構成によれば、気泡の発生による画質の低下を抑制することができる。
【0067】
上記実施形態は以下のように変形されてもよい。
【0068】
上記実施形態では、インクジェット記録装置1に脱気装置40が設けられた例が示されたが、脱気装置40は半導体の製造分野、ディスプレイの製造分野等の他分野で使用される装置にも適用可能である。すなわち、インク以外の薬液、電解液、液状樹脂、接着剤、溶剤、潤滑油、液状食品、美容液等の脱気にも適用可能である。
【0069】
上記実施形態では、減圧装置として減圧ポンプ62が例示されたが、減圧装置はインクタンク32内を減圧可能な装置であればよく、例えば減圧装置はエジェクターでもよい。
【0070】
上記実施形態では、循環装置として循環ポンプ67が例示されたが、循環装置は循環流路47を通してインクを循環可能な装置であればよく、例えば循環装置はエジェクターでもよい。
【符号の説明】
【0071】
1 インクジェット記録装置
21 記録ヘッド
32 インクタンク(液体タンク)
40 脱気装置
47 循環流路
62 減圧ポンプ(減圧装置)
67 循環ポンプ(循環装置)
81 溶存気体量計測装置
82 温度計測装置
S シート