IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本車輌製造株式会社の特許一覧

特開2024-154716レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置
<>
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図1
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図2
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図3
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図4
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図5
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図6
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図7
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図8
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図9
  • 特開-レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154716
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20241024BHJP
【FI】
B23K26/00 P
B23K26/00 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068698
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004617
【氏名又は名称】日本車輌製造株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000291
【氏名又は名称】弁理士法人コスモス国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 正浩
(72)【発明者】
【氏名】須田 俊之
(72)【発明者】
【氏名】幸村 惟史
【テーマコード(参考)】
4E168
【Fターム(参考)】
4E168BA72
4E168CA07
4E168CA13
4E168CB04
4E168CB13
4E168CB22
4E168EA17
4E168EA24
(57)【要約】
【課題】加工用レーザの照射により生じるキーホールの底部の位置を正確に測定することが可能なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を提供すること。
【解決手段】溶接ヘッド10が照射する加工用レーザL11によって外板51および横骨52の連続溶接を行うレーザ溶接方法において、連続溶接が行われる間、光干渉断層法による計測光L21を、溶接ヘッド10の移動の速度に応じた所定の走査量(値S11または値S12)をもって、加工用レーザL11の照射部よりも連続溶接の進行方向の後方に照射することで、加工用レーザL11の照射により生じるキーホール54の底部54aの位置を計測する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ照射手段が照射する加工用レーザによって母材の連続溶接を行うレーザ溶接方法において、
前記連続溶接が行われる間、光干渉断層法による計測光を、前記レーザ照射手段の移動の速度に応じた所定の走査量をもって、前記加工用レーザの照射部よりも前記連続溶接の進行方向の後方に照射することで、前記加工用レーザの照射により生じるキーホールの底部の位置を計測すること、
を特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
請求項1に記載のレーザ溶接方法において、
前記母材の上に、前記連続溶接の始点位置および終点位置があること、
前記走査量は、
前記レーザ照射手段が一定の速度で移動する定常状態では、第1の所定量であり、
前記レーザ照射手段が前記定常状態よりも速度の遅い低速状態では、前記第1の所定量よりも小さい第2の所定量であること、
を特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項3】
請求項2に記載のレーザ溶接方法において、
前記低速状態には、
前記レーザ照射手段が、前記始点位置で停止された状態から前記終点位置に向かって移動を開始し、前記定常状態に至るまで加速する加速状態と、
前記レーザ照射手段が、前記定常状態から、前記終点位置で停止されるまで減速する減速状態と、
が含まれること、
を特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項4】
請求項3に記載のレーザ溶接方法において、
前記加速状態では、前記走査量が、前記第2の所定量から前記第1の所定量まで漸次増大すること、
を特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項5】
請求項3または4に記載のレーザ溶接方法において、
前記減速状態では、前記走査量が、前記第1の所定量から前記第2の所定量まで漸次減少すること、
を特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項6】
加工用レーザによって母材の連続溶接を行うレーザ溶接装置において、
前記加工用レーザを照射するためのレーザ照射手段と、
前記レーザ照射手段を、移動させるための駆動手段と、
光干渉断層法による計測光を発生する光干渉計と、
前記計測光を走査するための走査手段と、
レーザ溶接装置を制御するための制御プログラムを備える制御装置と、
を備えること、
前記制御プログラムは、前記レーザ照射手段により前記加工用レーザを照射しつつ、前記駆動手段により、前記母材の上を移動させて前記連続溶接を行うとともに、前記光干渉計から前記計測光を発生させ、前記計測光を、前記走査手段により、前記レーザ照射手段の移動の速度に応じた所定の走査量をもって、前記加工用レーザの照射部よりも前記連続溶接の進行方向の後方に照射し、前記加工用レーザの照射により生じるキーホールの底部の位置を計測すること、
を特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項7】
請求項6に記載のレーザ溶接装置において、
前記母材の上に、前記連続溶接の始点位置および終点位置があること、
前記走査量は、
前記レーザ照射手段が一定の速度で移動する定常状態では、第1の所定量であり、
前記レーザ照射手段が前記定常状態よりも速度の遅い低速状態では、前記第1の所定量よりも小さい第2の所定量であること、
を特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項8】
請求項7に記載のレーザ溶接装置において、
前記低速状態には、
前記レーザ照射手段が、前記始点位置で停止された状態から前記終点位置に向かって移動を開始し、前記定常状態に至るまで加速する加速状態と、
前記レーザ照射手段が、前記定常状態から、前記終点位置で停止されるまで減速する減速状態と、
が含まれること、
を特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項9】
請求項8に記載のレーザ溶接装置において、
前記加速状態では、前記走査量が、前記第2の所定量から前記第1の所定量まで漸次増大すること、
を特徴とするレーザ溶接装置。
【請求項10】
請求項8または9に記載のレーザ溶接装置において、
前記減速状態では、前記走査量が、前記第1の所定量から前記第2の所定量まで漸次減少すること、
を特徴とするレーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ照射手段が照射する加工用レーザによって母材の連続溶接を行うレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の外表面を構成する外板は、鉄道車両の内方側の面(以下、裏面)に、車両高さ方向に沿って延在する縦骨や、軌道方向に沿って延在する横骨等の骨部材が接合されている。この外板に対する骨部材の接合は、レーザ溶接により行われることが一般的である。
【0003】
具体的には、例えば、図7に示す通りである。図7は、外板に横骨が接合されている状態を示す図である。なお、図7は、説明のために簡略化した図であり、正確な形状や大きさを表すものではない。
【0004】
図7に示す通り、外板51の裏面51aには、断面ハット形の横骨52(骨部材の一例)が延在しており、横骨52のフランジ部52aが、外板51の裏面51aに対し、レーザ溶接により接合されている。このレーザ溶接は、溶接部57として示すように、横骨52の長手方向に沿った連続溶接であり、横骨52側から加工用レーザを照射することで行われる。
【0005】
溶接部57の強度確保のためには、外板51まで達する溶込み深さを得る必要がある。かといって、外板51の裏面側から照射するレーザを、外板51の裏面51aとは反対側の表面まで達するように照射してしまうと、溶接痕が外板51の表面に残ってしまう。すなわち、鉄道車両の外表面に残ってしまう。これは、鉄道車両の意匠性を損なうため、レーザ溶接を行う際には、加工用レーザが外板51の表面まで達しないよう管理した上で、十分な溶込み深さを得られるよう溶接を行う必要がある。
【0006】
しかし、加工用レーザが外板51の表面まで達しないようにすると、十分な溶込み深さが得られているのか、外観からでは判別することができない。そのような中、十分な溶込み深さが得られているか否かを、非破壊検査の実施により判別することや、光干渉断層法により判別することが行われている。
【0007】
光干渉断層法を利用して、十分な溶込み深さが得られているか否かを判別する方法としては、例えば特許文献1に開示される方法が知られている。ここで、特許文献1に開示される方法によって、十分な溶込み深さが得られているか否かを判別する方法を、図8および図9を用いて説明する。図8は、従来技術に係るレーザ照射手段200から照射する加工用レーザL11により、外板51と外板51の上に重ねられた横骨52(フランジ部52a)とを溶接する様子を示す図である。また、図9は、図8のB-B断面図である。
【0008】
外板51と横骨52ともにオーステナイト系ステンレス鋼からなり、外板51の厚みは約2mm、横骨52(フランジ部52a)の厚みは約1.5mmである。また、図8中の矢印Yは、連続溶接の進行方向であり、レーザ照射手段200は、加工用レーザL11を照射しつつ、矢印Yの方向に移動することで、連続溶接を行う。レーザ照射手段200は、横骨52側から加工用レーザL11を外板51および横骨52に照射している。この加工用レーザL11の照射により、外板51と横骨52とが溶融し、溶融物55が生じる。さらに溶融物55が蒸発することでキーホール54が生じている。そして、キーホール54の、進行方向の反対側には、溶融物55が凝固した溶接ビード56が形成されている。
【0009】
さらに、レーザ照射手段200は、光干渉断層法による計測光L31を、加工用レーザL11と同軸に出力することで、キーホール54の底部54aに照射する。これにより、キーホール54の底部54aの位置(間隔d1)を測定することが可能になっている。また、レーザ照射手段200は 光干渉断層法による計測光L32を、横骨52(フランジ部52a)の表面52bに照射する。これにより、横骨52(フランジ部52a)の表面52bの位置(間隔d2)を測定することが可能となっている。そして、底部54aの位置(間隔d1)と表面52bの位置(間隔d2)との差から、加工用レーザL11の進入深さd21が算出される。このレーザの進入深さd21は、図9中の溶込み深さd31と同一視可能であるため、加工用レーザL11の進入深さd21を算出し、その値を確認することによって、十分な溶込み深さd31を得られているか否かを判別することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2016-538134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の通り、レーザ照射手段200は、矢印Yの方向に移動しながら溶接を行う。この場合、キーホールの形状は、図8に示すような単純な円錐様にならず、例えば図10に示すように、略弓なり状に歪んだものになる。図10は、従来技術に係るレーザ照射手段200が、移動しながら溶接を行う際のキーホールの形状を例示するものである。
【0012】
レーザ照射手段200が、移動しながら溶接を行うとき、キーホール54の底部54aは、加工用レーザL11が照射されている照射部よりも、進行方向の後方側に位置する。より具体的には、底部54aは、加工用レーザL11の軸心A11の位置)よりも、進行方向の後方側に位置する。このため、計測光L31を加工用レーザL11と同軸に照射したのでは、キーホール54の底部の位置を正確に測定することができないおそれがある。つまり、加工用レーザL11の進入深さd21および溶込み深さd31を正確に算出することができないおそれがある。
【0013】
本発明は、上記問題点を解決するためのものであり、加工用レーザの照射により生じるキーホールの底部の位置を正確に測定することが可能なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ溶接方法は、次のような構成を有している。
【0015】
レーザ照射手段が照射する加工用レーザによって母材の連続溶接を行うレーザ溶接方法において、前記連続溶接が行われる間、光干渉断層法による計測光を、前記レーザ照射手段の移動の速度に応じた所定の走査量をもって、前記加工用レーザの照射部よりも前記連続溶接の進行方向の後方に照射することで、前記加工用レーザの照射により生じるキーホールの底部の位置を計測すること、を特徴とする。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明のレーザ溶接装置は、次のような構成を有している。
【0017】

加工用レーザによって母材の連続溶接を行うレーザ溶接装置において、前記加工用レーザを照射するためのレーザ照射手段と、前記レーザ照射手段を、移動させるための駆動手段と、光干渉断層法による計測光を発生する光干渉計と、前記計測光を走査するための走査手段と、レーザ溶接装置を制御するための制御プログラムを備える制御装置と、を備えること、前記制御プログラムは、前記レーザ照射手段により前記加工用レーザを照射しつつ、前記駆動手段により、前記母材の上を移動させて前記連続溶接を行うとともに、前記光干渉計から前記計測光を発生させ、前記計測光を、前記走査手段により、前記レーザ照射手段の移動の速度に応じた所定の走査量をもって、前記加工用レーザの照射部よりも前記連続溶接の進行方向の後方に照射し、前記加工用レーザの照射により生じるキーホールの底部の位置を計測すること、を特徴とする。
【0018】
上記のレーザ溶接方法、または、上記のレーザ溶接装置によれば、光干渉断層法による計測光を、所定の走査量をもって、加工用レーザの照射部よりも連続溶接の進行方向の後方に照射するため、計測光を、加工用レーザの照射部よりも、進行方向の後方側に位置するキーホールの底部に照射することができる。よって、レーザ照射手段が移動しながら連続溶接を行う間、キーホールの底部の位置を正確に計測することが可能になる。
【0019】
なお、上記の所定の走査量は、レーザ照射手段の移動の速度に応じたものである。具体的には、加工用レーザの照射部とキーホールの底部の位置の距離は、レーザ照射手段の移動の速度に応じて増減するため、予め試験的に求めた値を用いることが望ましい。
【0020】
また、上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置において、前記母材の上に、前記連続溶接の始点位置および終点位置があること、前記走査量は、前記レーザ照射手段が一定の速度で移動する定常状態では、第1の所定量であり、前記レーザ照射手段が前記定常状態よりも速度の遅い低速状態では、前記第1の所定量よりも小さい第2の所定量であること、が好ましい。
【0021】
また、上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置において、前記低速状態には、前記レーザ照射手段が、前記始点位置で停止された状態から前記終点位置に向かって移動を開始し、前記定常状態に至るまで加速する加速状態と、前記レーザ照射手段が、前記定常状態から、前記終点位置で停止されるまで減速する減速状態と、が含まれること、が好ましい。
【0022】
また、上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置において、前記加速状態では、前記走査量が、前記第2の所定量から前記第1の所定量まで漸次増大すること、が好ましい。
【0023】
また、上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置において、前記減速状態では、前記走査量が、前記第1の所定量から前記第2の所定量まで漸次減少すること、が好ましい。
【0024】
上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置によれば、レーザ照射手段が移動しながら連続溶接を行う間、その移動速度に変動(例えば加減速)があったとしても、キーホールの底部の位置を正確に計測することが可能になる。以下に、詳細に説明する。
【0025】
レーザ照射手段が溶接対象の母材の上を一定速度で通過することで連続溶接を行う場合は、走査量として、その通過する速度に合った一定の値を与えることで、キーホールの底部の位置を計測可能である。これは、加工用レーザの照射部とキーホールの底部の位置の距離は、レーザ照射手段の移動の速度に応じて増減するところ、レーザ照射手段がワーク上を一定速度で通過する場合には、加工用レーザの照射部とキーホールの底部との距離の変動が小さいからである。
【0026】
しかし、母材の上に、連続溶接の始点位置と終点位置がある場合、走査量として一定の値を与えることでは、キーホールの底部の位置を正確に計測できないおそれがある。ここで、連続溶接の始点位置とは、レーザ照射手段が、停止状態から、加工用レーザを照射しながらの移動を開始する点であり、終点位置とは該移動を停止する点である。
【0027】
母材の上に始点位置と終点位置があるとすれば、始点位置では、レーザ照射手段が停止した状態である。そこから連続溶接を開始すると、レーザ照射手段は終点位置に向かって動き始める。すなわち、加速を開始する。この加速により所定の速度に達すると、一定の速度で移動する定常状態となる。そして、終点位置に近づくと、レーザ照射手段は、減速を開始し、終点位置で停止する。つまり、ワーク上で、レーザ照射手段の移動する速度が変動する。
【0028】
キーホールの形状はレーザ照射手段の移動の速度(溶接を行う速度)に依存するものであるところ、一定の速度で移動する定常状態と、加速状態および減速状態(まとめて、低速状態という)とでは、加工用レーザの照射部とキーホールの底部との距離が異なる。
【0029】
よって、走査量として、一定の値を与えたのでは、キーホールの底部の位置を正確に計測することができないという問題がある。具体的には、例えば、走査量として、定常状態に合った値を与えたのでは、定常状態においてはキーホールの底部位置を計測可能であるが、低速状態においては、正確に計測をすることができない。また、走査量として、低速状態に合った値を与えたのでは、低速状態においてはキーホールの底部位置を計測可能であるが、定常状態においては、正確に計測をすることができない。
【0030】
特に、鉄道車両の、外板51と横骨52とを溶接するにおいては、上記の問題が顕著である。なぜなら、外板51と横骨52と間の隙間を可能な限り無くした状態で接合するために、レーザ照射手段に備えられたローラ等の押圧手段により横骨52を外板51に押さえつけながら連続溶接を行われることが一般的であることから、横骨52上に連続溶接の始点位置および終点位置を設けるケースがあるからである。
【0031】
そのような中、上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置によれば、走査量は、レーザ照射手段が一定の速度で移動する定常状態では、第1の所定量であり、レーザ照射手段が定常状態よりも速度の遅い低速状態(例えば、加速状態または減速状態)では、第1の所定量よりも小さい第2の所定量であるため、レーザ照射手段が定常状態か低速状態かに応じて、計測光の照射位置が変動する。よって、レーザ照射手段が移動しながら連続溶接を行う間、その移動速度に変動があったとしても、キーホールの底部の位置を正確に計測することが可能になる。
【0032】
また、加速状態では、走査量が第2の所定量から第1の所定量まで漸次増大するものとし、減速状態では、走査量が第1の所定量から第2の所定量まで漸次減少するものとすれば、レーザ照射手段が加速または減速を行う間において、より正確にキーホールの底部の位置を計測することが可能である。なお、漸次増大とは、時間経過に応じて線形的に増大するものとしても良いし、段階的に増大するものとしても良い。また、漸次減少も同様に、時間経過に応じて線形的に減少するものとしても良いし、段階的に減少するものとしても良い。
【発明の効果】
【0033】
本発明のレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置によれば、加工用レーザの照射により生じるキーホールの底部の位置を正確に測定することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0034】
図1】レーザ溶接装置の概略構成を示す図である。
図2】本実施形態に係るレーザ溶接装置を用いて、外板および横骨上の始点位置から終点位置まで連続溶接する様子を経時的に表現した図である。
図3】本実施形態における溶接ヘッドが、始点位置から移動を開始した直後または終点位置に停止する直前の、キーホールの形状を示す図である。
図4】本実施形態における溶接ヘッドが、定常状態にある時のキーホールの形状を示す図である。
図5図5(A)は、加工用レーザの強度と時間の関係を表すグラフである。図5(B)は、溶接ヘッドの移動速度と時間の関係を表すグラフである。図5(C)は、計測光の走査量と時間の関係を表すグラフである。図5(D)は、同期信号のONおよびOFFと時間の関係を表すグラフである。図5(E)は、底部の位置の計測のONおよびOFFと時間の関係を表すグラフである。
図6図6(A)は、本実施形態に係るレーザ溶接装置により始点位置から終点位置まで連続溶接を行ったときの、溶接ビードの断面写真である。図6(B)は、始点位置から終点位置まで、計測光の走査量を第2の所定量で一定にして、計測された値をプロットしたグラフである。図6(C)は、始点位置から終点位置まで、計測光の走査量を第1の所定量で一定にして、計測された値をプロットしたグラフである。図6(D)は、本実施形態において、計測光により計測された値をプロットしたグラフである。
図7】外板に横骨が接合されている状態を示す図である。
図8】従来技術に係るレーザ溶接装置から照射するレーザにより、外板と横骨とを溶接する様子を示す図である。
図9図8のB-B断面図である。
図10】従来技術に係るレーザ照射手段が、移動しながら溶接を行う際のキーホール形状を例示するものである。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明に係るレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0036】
(レーザ溶接装置の構成について)
まず、本実施形態に係るレーザ溶接装置1の構成について説明する。図1は、レーザ溶接装置1の概略構成を示す図である。レーザ溶接装置1は、例えば、図7に示すような、鉄道車両の外板51(母材の一例)と横骨52(母材の一例)とを重ね合わせて接合するために用いられる。具体的には、外板51の上に横骨52が重ねて配置され、溶接ヘッド10が、横骨52の側から加工用レーザL11を照射しつつ、横骨52の上を移動することで連続溶接を行い、外板51と横骨52とが接合される。外板51と横骨52ともにオーステナイト系ステンレス鋼からなる。また、外板51の厚みは、特に限定されないが、例えば約2mmである。横骨52の厚みは、特に限定されないが、例えば約1.5mmである。
【0037】
外板51の鉄道車両の内方側の面が裏面51aであり、この裏面51aに、断面ハット形の横骨52が、例えば軌道方向に沿って延在している。この横骨52のフランジ部52aが、外板51の裏面51aに対し、レーザ溶接により接合されている。このレーザ溶接は、横骨52の長手方向に沿った連続溶接である。連続溶接は、例えば、図1に示すように、外板51の上に横骨52を重ねた状態で、レーザ溶接装置1を用いて、横骨52の側から加工用レーザL11を照射することで行われる。
【0038】
レーザ溶接装置1は、溶接ヘッド10(レーザ照射手段の一例)と、レーザ光源2と、光干渉計3と、を備えている。また、レーザ溶接装置1は、溶接ヘッド10を移動させるための駆動手段(不図示)を備えており、該駆動手段により、溶接ヘッド10を、例えばガイド等に沿って直線移動させながら連続溶接を行うことが可能である。なお、図中の矢印Yが連続溶接の進行方向である。また、レーザ溶接装置1は、制御装置(不図示)に電気的に接続されており、制御装置に記憶された制御プログラムにより、溶接ヘッド10、レーザ光源2、光干渉計3、前述の駆動手段等の動作が制御される。
【0039】
溶接ヘッド10は、レーザ入射部11を備えている。そして、レーザ入射部11には、レーザ光源2が光ファイバ27により接続されている。レーザ光源2から出力された加工用レーザL11は、光ファイバ27を通じて、レーザ入射部11から溶接ヘッド10に入射される。入射された加工用レーザL11は、第1のコリメータレンズ12によりコリメート光とされる。コリメート光となった加工用レーザL11は、第1のダイクロイックミラー13によって反射され、進行方向が90度転向される。その後、加工用レーザL11はフォーカスレンズ15により合焦された上で溶接ヘッド10から出力され、外板51および横骨52に照射される。なお、フォーカスレンズ15は、軸方向(図1中の上下方向)に位置を変動させることができる。これにより、加工用レーザL11の焦点位置を、軸方向(図1中の上下方向)に変化させることが可能となっている。
【0040】
溶接ヘッド10から出力された加工用レーザL11は、加工用レーザL11の周囲の外板51および横骨52を溶融および蒸発させ、外板51および横骨52内にキーホール54(図2参照)を形成する。キーホール54は、外板51および横骨52が溶融した溶融物55(図2参照)によって包囲されており、その溶融物55は加工用レーザL11の焦点からの距離が離れるにつれて凝固する。したがって、連続溶接の進行方向(矢印Yの方向)とは反対側に、溶融物55が凝固した溶接ビード56(図2参照)が形成されていく。
【0041】
また、溶接ヘッド10は、計測光入射部19を備えている。そして、計測光入射部19には、光干渉計3が光ファイバ29により接続されている。光干渉計3から出力される計測光L21は、光ファイバ29を通じて、計測光入射部19から溶接ヘッド10に入射される。入射された計測光L21は、第2のコリメータレンズ21によりコリメート光とされる。コリメート光となった計測光L21は、第2のダイクロイックミラー23によって反射され、進行方向が略90度転向される。その後、計測光L21は、第1のダイクロイックミラー13を透過し、フォーカスレンズ15により合焦された上で溶接ヘッド10から出力される。これにより、計測光L21は、外板51および横骨52の計測対象となる部位に照射される。計測対象となる部位は、少なくとも、キーホール54の底部54a(図2図4参照)である。そして、照射された計測光L21は、計測対象となる部位にて反射され、第1のダイクロイックミラー13および第2のダイクロイックミラー23を介して計測光入射部19に戻り、光ファイバ29を通じて光干渉計3に入射する。
【0042】
光干渉計3は、例えば、光干渉断層法の一つであるSwept Source Optical Coherence Tomography(SS-OCT:波長走査型光干渉断層法)の技術を用いるものであり、計測光L21の光路長を測定し、測定した光路長に基づいて、計測対象となる部位の位置を測定することができる。なお、光干渉計3は、SS-OCTの技術を用いるものに限定されるものでなく、Spectral domain Optical Coherence Tomography(SD-OCT:スペクトル領域光干渉断層法)や、Time domain Optical Coherence Tomography(TD-OCT:時間領域光干渉断層法)の技術を用いるものであっても良い。
【0043】
また、溶接ヘッド10は、第2のダイクロイックミラー23を揺動させるための走査手段25を備えている。走査手段25は、第2のダイクロイックミラー23を揺動させることで、計測光L21を走査し、照射位置を変動させることができる。これにより、計測光L21を、位置ずれ量に応じて設定される所定の走査量をもって、加工用レーザL11の照射部よりも連続溶接の進行方向の後方に照射する(詳細は後述する)。
【0044】
また、溶接ヘッド10は、外板51および横骨52を レーザ溶接する際に発生するスパッタやヒュームから、溶接ヘッド10の内部を保護するため、保護レンズ17が取り付けられている。
【0045】
(連続溶接について)
以上のようなレーザ溶接装置1を用いて行う連続溶接について、図2を参照して説明する。図2は、本実施形態に係るレーザ溶接装置1を用いて、外板51および横骨52上の始点位置P11から終点位置P12まで連続溶接する様子を経時的に表現した図である。
【0046】
本実施形態における連続溶接は、溶接ヘッド10が、横骨52の側から加工用レーザL11を照射しつつ、外板51および横骨52上を、始点位置P11から終点位置P12に向かって移動することで行われる。
【0047】
始点位置P11から終点位置P12に向かって連続溶接を行う場合、溶接ヘッド10は、始点位置P11で停止された状態から、終点位置P12に向かって移動を開始する。溶接ヘッド10は、移動を開始すると、所定の速度V11(図5(B)参照)まで加速する加速状態になる。そして、溶接ヘッド10は、所定の速度V11に達すると、その速度V11を一定として移動する定常状態になる。そして、溶接ヘッド10は、終点位置P12が近づくと、移動速度が減速される減速状態になり、終点位置P12で停止される。なお、加速状態と減速状態は、定常状態に比べて溶接ヘッド10の移動速度が遅い状態であるので、以下において、加速状態と減速状態とをまとめて低速状態という場合がある。
【0048】
なお、速度V11は、特に限定されないが、例えば6m/minである。加速状態が継続される時間は、速度V11の値に応じて適宜設定されるものであるが、本実施形態では、加速状態は0.5秒継続される。つまり、溶接ヘッド10が移動を開始してから0.5秒で、移動速度が6m/minに達するように設定されている。減速状態が継続される時間も、速度V11の値に応じて適宜設定されるものであるが、本実施形態では、減速状態は0.5秒継続される。つまり、溶接ヘッド10が、終点位置P12に達する0.5秒前に減速状態となり、0.5秒で溶接ヘッド10の移動速度が6m/minから停止状態になる。また、始点位置P11から終点位置P12までの距離は、特に限定されないが、例えば約6mである。
【0049】
以上のように、溶接ヘッド10が矢印Yの方向に移動しながら溶接を行う場合、キーホール54の形状は略弓なり状に歪んだものになり、キーホール54の底部54aの位置は、加工用レーザL11の照射部よりも、連続溶接の進行方向において後方に位置する。具体的には、底部54aの位置は、加工用レーザL11の軸心A11よりも、連続溶接の進行方向において後方に位置する。以下、底部54aの、連続溶接の進行方向における軸心A11に対する距離を、位置ずれ量という。
【0050】
位置ずれ量は、溶接ヘッド10の移動速度により異なる。具体的には、図3および図4に示すキーホール54の形状を参照されたい。なお、図3および図4に示すキーホール54の形状は試験的に得た結果を模式的に示したものである。具体的には、図2に示す通りの連続溶接を行いながら、計測光を、連続溶接の進行方向の前後に走査することで得た。
【0051】
図3は、本実施形態における溶接ヘッド10が、始点位置P11から移動を開始した直後または終点位置P12に停止する直前の、キーホール54の形状を示す図である。底部54aは、加工用レーザL11の軸心A11よりも後方に位置しており、このときの位置ずれ量D11は、定常状態における溶接ヘッド10の速度、加速状態および減速状態の継続される時間等に応じて変動するものであるが、本実施形態においては約0.05mmである。
【0052】
移動速度が速くなるにつれ、キーホール54の歪みが大きくなり、位置ずれ量も大きくなる。図4は、本実施形態における溶接ヘッド10が、定常状態にある時のキーホール54の形状を示す図である。定常状態は、図2に示す連続溶接を行う間で、位置ずれ量が最も大きくなる状態であり、このときの位置ずれ量D12は、定常状態における溶接ヘッド10の速度に応じて変動するものであるが、本実施形態においては約0.25mmである。
【0053】
図2に示す連続溶接は、制御プログラムが、図5に示すようにして、レーザ溶接装置1を制御することで行われる。図5(A)は、加工用レーザL11の強度と時間の関係を表すグラフである。図5(B)は、溶接ヘッド10の移動速度と時間の関係を表すグラフである。図5(C)は、計測光L21の走査量と時間の関係を表すグラフである。図5(D)は、同期信号のONおよびOFFと時間の関係を表すグラフである。なお、同期信号とは、計測光L21の走査量の漸次増大、漸次減少を開始するタイミングを指示するための信号である(漸次増大および漸次減少については後述)。図5(E)は、底部54aの位置の計測のONおよびOFFと時間の関係を表すグラフである。なお、図5中、時点t1から連続溶接が開始され、時点t4で連続溶接が完了するのであり、時点t1から時点t2が加速状態に対応し、時点t2から時点t3が定常状態に対応し、時点t3から時点t4が減速状態に対応している。
【0054】
まず、連続溶接が開始される時点t1より前の時点t0から、図5(E)に示すように、底部54aの位置の計測がONになる。これにより、光干渉計3から計測光L21が発生され、溶接ヘッド10からの計測光L21の照射が開始される。ただし、この時点では、加工用レーザL11の照射が開始されておらず、キーホール54は形成されていないため、この時点での、底部54aの位置の計測がONとは、現に計測を行っているのではなく、あくまでもレーザ溶接装置1が底部54aの位置を計測可能な状態になっていることを意味する。
【0055】
また、図5(C)に示すように、時点t0において、計測光L21の走査量が値S11(第2の所定量の一例)にされている。つまり、この値S11の分だけ、計測光L21が、加工用レーザL11の照射部よりも、連続溶接の進行方向において後方に照射されている。なお、時点t0においては、加工用レーザL11の照射は開始されていないため、計測光L21は、加工用レーザL11が照射されるとした場合の軸心A11の位置から、値S11の分だけ、後方に照射されている状態である。
【0056】
走査量の値S11は、予め試験的に求めた位置ずれ量D11(図3参照)に対応する値であり、連続溶接の開始前に設定される値である。本実施形態においては、値S11は、位置ずれ量D11が約0.05mmであるのに対応して、0.05mmに設定されている。なお、時点t0から時点t1の間隔は、特に限定されないが、例えば約0.1秒である。
【0057】
次に、時点t1から、同期信号がONになる(図5(D)参照)。これにより、連続溶接が開始される。つまり、溶接ヘッド10が、加工用レーザL11の照射を開始するとともに、始点位置P11から矢印Yの方向に移動を開始し、加速状態になる。
【0058】
具体的には、レーザ光源2から加工用レーザL11を発生させて、外板51および横骨52に対し、横骨52の側から加工用レーザL11を照射する。このとき、外板51および横骨52に対する加工用レーザL11の進入深さの目標値に応じて、加工用レーザL11の焦点位置が、フォーカスレンズ15により調整される。そして、図5(A)に示すように、加工用レーザL11の強度が、時間経過に応じて線形に上昇されるとともに、図5(B)に示すように、溶接ヘッド10の移動速度が、速度V11に向かって加速される。加工用レーザL11の強度を漸次増大させるのは、溶接ヘッド10の移動速度が遅いうちに、加工用レーザL11の強度を上げてしまうと、外板51および横骨52に過剰な溶け込みが発生するおそれがあるためである。
【0059】
さらに、同期信号がONになることで、走査量の漸次増加が開始される。具体的には、図5(C)に示すように、走査量が値S11から値S12(第1の所定量の一例)に向かって線形に漸次増加していく。つまり、溶接ヘッド10が移動速度を速めるにつれ、計測光L21の照射される位置が、加工用レーザL11の軸心A11から、進行方向の反対側に離れていく。ここで、走査量の値S12は、予め試験的に求めた位置ずれ量D12(図4参照)に対応する値であり、連続溶接の開始前に設定される値である。本実施形態においては、値S12は、位置ずれ量D12が約0.25mmであるのに対応して、0.25mmに設定されている。
【0060】
溶接ヘッド10の移動速度が速くなるにつれ、位置ずれ量が次第に大きくなるが、走査量を線形に漸次増加させることで、溶接ヘッド10が加速状態にあっても、位置ずれ量が大きくなる底部54aを追いかけるようにして、計測光L21を底部54aに照射することが可能である。よって、溶接ヘッド10が加速状態にあっても、底部54aの位置を正確に計測することが可能である。
【0061】
次に、時点t2において、図5(A)に示すように、加工用レーザL11の強度が最大強度W11に達するとともに、図5(B)に示すように、溶接ヘッド10は、移動速度が速度V11に達して定常状態になる。なお、最大強度W11の値は、外板51および横骨52に対する加工用レーザL11の進入深さの目標値に基づいて適宜設定される。また、溶接ヘッド10が定常状態になるとともに、図5(C)に示すように、走査量が値S12に達する。定常状態が継続される間、走査量は値S12で一定である。定常状態にある場合、位置ずれ量の変動は小さいため、走査量が値S12で一定であっても十分に底部54aの位置を計測可能である。
【0062】
次に、時点t3で同期信号がOFFになる(図5(D)参照)。これにより、溶接ヘッド10が減速状態になる。具体的には、速度V11で移動していた溶接ヘッド10が、図5(B)に示すように、終点位置P12で停止するために、時間の経過とともに速度を落としていく。これに合わせて、図5(A)に示すように、時間経過とともに加工用レーザL11の強度を低下させていく。
【0063】
さらに、同期信号がOFFになることで、走査量の漸次減少が開始される。具体的には、図5(C)に示すように、走査量が値S12から値S11に向かって線形に漸次減少する。つまり、溶接ヘッド10の移動速度が遅くなるにつれ、計測光L21の照射される位置が、進行方向の反対側から加工用レーザL11の軸心A11に近づいていく。
【0064】
溶接ヘッド10の移動速度が遅くなるにつれ、位置ずれ量が次第に小さくなるが、走査量を線形に漸次減少させることで、位置ずれ量が小さくなる底部54aを追いかけるようにして、計測光L21を底部54aに照射することが可能である。よって、溶接ヘッド10が減速状態にあっても、底部54aの位置を正確に計測することが可能である。
【0065】
次に時点t4で、溶接ヘッド10は、移動速度がゼロになり、終点位置P12に停止するとともに、加工用レーザL11の強度がゼロになり、その照射が停止される。これにより、連続溶接が完了される。この時点で、底部54aの位置の計測は、図5(E)に示すように、ONの状態であり、溶接ヘッド10は、走査量を値S11として、計測光L21を照射した状態である。そして、時点t5で、底部54aの位置の計測がOFFになる。つまり、計測光L21の照射が停止される。なお、時点t4から時点t5の間隔は、特に限定されないが、例えば約0.1秒である。
【0066】
以上説明したように連続溶接を行いながら、計測光L21により底部54aの位置の計測を行った結果について、図6を用いて説明する。図6(A)は、本実施形態に係るレーザ溶接装置1により始点位置P11から終点位置P12まで連続溶接を行ったときの、溶接ビード56の断面写真である。図6(A)中に示す、「加速領域」は、溶接ヘッド10が加速状態にあるときに連続溶接を行った領域であることを意味し、「定常領域」は、溶接ヘッド10が定常状態にあるときに連続溶接を行った領域であることを意味し、「減速領域」は、溶接ヘッド10が減速状態にあるときに連続溶接を行った領域であることを意味する。図6(B)は、始点位置P11から終点位置P12まで、計測光L21の走査量を値S11で一定にして、計測された値をプロットしたグラフである。図6(C)は、始点位置P11から終点位置P12まで、計測光L21の走査量を値S12で一定にして、計測された値をプロットしたグラフである。図6(D)は、本実施形態において、計測光L21により計測された値をプロットしたグラフである。すなわち、加速状態では、計測光L21の走査量を値S11から値S12に漸次増大させ、定常状態では、計測光L21の走査量を値S12とし、減速状態では、計測光L21の走査量を値S12から値S11に漸次減少させて、計測された値をプロットしたグラフである。
【0067】
上に述べた連続溶接は、外板51および横骨52上に、連続溶接の始点位置P11と終点位置P12がある場合を以って説明している。しかし、外板51および横骨52上に、連続溶接の始点位置P11と終点位置P12がなく、溶接ヘッド10が外板51および横骨52上を一定速度で通過することで連続溶接を行う場合(すなわち、外板51および横骨52上を定常状態で通過しながら連続溶接を行う場合)は、走査量として、その通過する速度に合った一定の値を与えることで、キーホール54の底部54aの位置を計測可能である。例えば、6m/minで通過するのであれば、走査量を0.25mmに設定すれば、連続溶接を行う間、底部54aの位置を計測可能である。
【0068】
しかし、外板51および横骨52上に始点位置P11と終点位置P12があるとすれば、既に図2および図3で説明したように、溶接ヘッド10の移動速度が、加速状態、定常状態、減速状態と、変動するに応じて、底部54aの位置ずれ量が変動する。よって、この場合、走査量として、一定の値を与えたのでは、キーホール54の底部54aの位置を正確に計測することができない。具体的には、図6(B)および図6(C)に示す通りである。
【0069】
図6(B)に示すように、始点位置P11から終点位置P12まで、計測光L21の走査量を値S11で一定にした場合、加速領域の初期および減速領域の終期の溶接ヘッド10の速度が比較的遅い領域(以降、低速状態の始終領域という)においては、図6(A)に示す溶接ビード56の下端部形状に沿うような形で、計測された値がプロットされていることから、キーホール54の底部54aの位置が正確に計測できていると言える。これは、溶接ヘッド10が低速状態の始終領域(加速状態の初期または減速状態の終期)で溶接ヘッド10の速度が比較的遅い状態にあるときは、キーホール54の底部54aの位置ずれ量と、走査量の値S11が合致し、計測光L21を底部54aに照射できていたためである。一方で、低速状態の始終領域以外の領域および定常領域では、正確に計測できていないと言える。これは、溶接ヘッド10が低速状態の始終領域以外の領域および定常領域で溶接ヘッド10の速度が比較的速い状態にあるときは、低速状態の始終領域にあるときよりも、キーホール54の底部54aの位置ずれ量が大きくなるため、走査量が値S11では十分でなく、計測光L21を底部54aに照射できていなかったためであると考えられる。
【0070】
また、図6(C)に示すように、始点位置P11から終点位置P12まで、計測光L21の走査量を値S12で一定にした場合、低速状態の始終領域以外の領域および定常領域では、図6(A)に示す溶接ビード56の下端部形状に沿うような形で、計測された値がプロットされていることから、キーホール54の底部54aの位置が正確に計測できていると言える。これは、溶接ヘッド10が低速状態の始終領域以外の領域および定常状態にあるときは、キーホール54の底部54aの位置ずれ量と、走査量の値S12が合致し、計測光L21を底部54aに照射できていたためである。一方で、低速状態の始終領域(加速領域の初期および減速領域の終期)では、正確に計測できていないと言える。これは、溶接ヘッド10が低速状態の始終領域(加速状態の初期または減速状態の終期)で比較的溶接ヘッド10の速度が遅い領域にあるときは、低速状態の始終領域以外の領域或いは定常領域で溶接ヘッド10の速度が比較的速い状態にあるときよりも、キーホール54の底部54aの位置ずれ量が小さくなるため、走査量が値S12では大きすぎ、計測光L21を底部54aに照射できていなかったためであると考えられる。
【0071】
上記のように、走査量を一定に設定した場合に対し、加速状態では、計測光L21の走査量を値S11から値S12に漸次増大させ、定常状態では、計測光L21の走査量を値S12とし、減速状態では、計測光L21の走査量を値S12から値S11に漸次減少させた場合、図6(D)に示すように、加速領域、定常領域、減速領域の全ての領域において、図6(A)に示す溶接ビード56の下端部形状に沿うような形で、計測された値がプロットされていることが分かる。よって、キーホール54の底部54aの位置を、始点位置P11から終点位置P12まで正確に計測できていると言える。
【0072】
このように、溶接ヘッド10が定常状態か低速状態かに応じて、走査量を変動、すなわち、計測光L21の照射位置を変動させることで、キーホール54の底部54aの位置を正確に計測することが可能になる。
【0073】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ溶接方法は、レーザ照射手段(例えば溶接ヘッド10)が照射する加工用レーザL11によって母材(例えば外板51および横骨52)の連続溶接を行うレーザ溶接方法において、連続溶接が行われる間、光干渉断層法による計測光L21を、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)の移動の速度に応じた所定の走査量(例えば値S11または値S12)をもって、加工用レーザL11の照射部よりも連続溶接の進行方向の後方に照射することで、加工用レーザL11の照射により生じるキーホール54の底部54aの位置を計測すること、を特徴とする。
【0074】
また、以上説明したように、本実施形態に係るレーザ溶接装置1は、加工用レーザL11によって母材(例えば外板51および横骨52)の連続溶接を行うレーザ溶接装置1において、加工用レーザL11を照射するためのレーザ照射手段(例えば溶接ヘッド10)と、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)を移動させるための駆動手段と、光干渉断層法による計測光L21を発生する光干渉計3と、計測光L21を走査するための走査手段25と、レーザ溶接装置1を制御するための制御プログラムを備える制御装置と、を備えること、制御プログラムは、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)により加工用レーザL11を照射しつつ、駆動手段により、母材(外板51および横骨52)の上を移動させて連続溶接を行うとともに、光干渉計3から計測光L21を発生させ、計測光L21を、走査手段25により、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)の移動の速度に応じた所定の走査量(例えば値S11または値S12)をもって、加工用レーザL11の照射部よりも連続溶接の進行方向の後方に照射し、加工用レーザL11の照射により生じるキーホール54の底部54aの位置を計測すること、を特徴とする。
【0075】
上記のレーザ溶接方法、または、上記のレーザ溶接装置1によれば、光干渉断層法による計測光L21を、所定の走査量(値S11または値S12)をもって、加工用レーザL11の照射部よりも連続溶接の進行方向の後方に照射するため、計測光L21を、加工用レーザL11の照射部よりも、進行方向の後方側に位置するキーホール54の底部54aに照射することができる。よって、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が移動しながら連続溶接を行う間、キーホール54の底部54aの位置を正確に計測することが可能になる。
【0076】
なお、上記の所定の走査量(値S11または値S12)は、レーザ照射手段の移動の速度に応じたものである。具体的には、キーホール54の形状はレーザ照射手段(溶接ヘッド10)の移動の速度(溶接を行う速度)に依存して形状が変わるものであり、加工用レーザL11の照射部とキーホール54の底部54aの位置の距離(例えば、位置ずれ量D11または位置ずれ量D12)は、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)の移動の速度に応じて増減するため、予め試験的に求めた値を用いることが望ましい。
【0077】
また、上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置1において、母材(外板51および横骨52)の上に、連続溶接の始点位置P11および終点位置P12がある場合には、走査量は、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が一定の速度V11で移動する定常状態では、第1の所定量(値S12)であり、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が定常状態よりも速度の遅い低速状態では、第1の所定量(値S12)よりも小さい第2の所定量(値S11)であること、が好ましい。
【0078】
上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置1において、低速状態には、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が、始点位置P11で停止された状態から終点位置P12に向かって移動を開始し、定常状態に至るまで加速する加速状態と、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が、定常状態から、終点位置P12で停止されるまで減速する減速状態と、が含まれること、が好ましい。
【0079】
上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置1において、加速状態では、走査量が、第2の所定量(値S11)から第1の所定量(値S12)まで漸次増大すること、が好ましい。
【0080】
上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置1において、減速状態では、走査量が、第1の所定量(値S12)から第2の所定量(値S11)まで漸次減少すること、が好ましい。
【0081】
上記のレーザ溶接方法またはレーザ溶接装置1によれば、走査量は、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が一定の速度で移動する定常状態では、第1の所定量(値S12)であり、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が定常状態よりも速度の遅い低速状態(例えば、加速状態または減速状態)では、第1の所定量(値S12)よりも小さい第2の所定量(値S11)であるため、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が定常状態か低速状態かに応じて、計測光L21の照射位置が変動する。よって、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が移動しながら連続溶接を行う間、その移動速度に変動があったとしても、キーホール54の底部54aの位置を正確に計測することが可能になる。
【0082】
また、加速状態では、走査量が第2の所定量(値S11)から第1の所定量(値S12)まで漸次増大するものとし、減速状態では、走査量が第1の所定量(値S12)から第2の所定量(値S11)まで漸次減少するものとすれば、レーザ照射手段(溶接ヘッド10)が加速または減速を行う間において、より正確にキーホール54の底部54aの位置を計測することが可能である。
【0083】
なお、上記の実施形態は単なる例示にすぎず、本発明を何ら限定するものではない。したがって本発明は当然に、その要旨を逸脱しない範囲内で様々な改良、変形が可能である。例えば、本実施形態においては、走査量の漸次増大とは、時間経過に応じて線形的に増大するものとしているが、段階的に増大するものとしても良い。また、走査量の漸次減少も同様に、本実施形態においては、時間経過に応じて線形的に減少するものとしているが、段階的に減少するものとしても良い。
【0084】
また、溶接ヘッド10が低速状態において、走査量を漸次増大または漸次減少させることが最も望ましいが、低速状態にある間、走査量を値S11で一定としても、底部54aの位置を計測可能と考えられる。
【0085】
さらに、特許文献1に開示されるように、キーホール54の底部54aの位置と、横骨52の表面の位置と、に基づき、加工用レーザL11の、外板51および横骨52に対する進入深さを計算するものとしても良い。具体的には、計測光L21を走査することで、キーホール54の底部54aの位置を計測するとともに、横骨52の表面の位置を計測し、底部54aの位置と横骨52の表面の位置との差から、加工用レーザL11の進入深さを計算する。
【0086】
または、本出願人の出願する特願2021-204981に開示されるように、計測光L21を走査することで、溶接ビード56の高さを計測し、溶接ビード56の高さに基づいて外板51と横骨52との隙間を算出し、該隙間と底部54aの位置と横骨52の表面の位置とに基づき、加工用レーザL11の進入深さを計算するものとしても良い。また、本実施形態では、第1の母材(外板51)と第2の母材(横骨52)とを重ねた状態で溶接する重ね継手を例として説明しているが、隅肉継手や突き合わせ継手であっても良い。
【符号の説明】
【0087】
1 レーザ溶接装置
10 溶接ヘッド(レーザ照射手段の一例)
51 外板(母材の一例)
52 横骨(母材の一例)
54 キーホール
54a 底部
L11 加工用レーザ
L21 計測光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10