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特開2024-154733炭酸カルシウムの製造装置、該装置に用いられるパーツおよび炭酸カルシウムの製造方法
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  • 特開-炭酸カルシウムの製造装置、該装置に用いられるパーツおよび炭酸カルシウムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154733
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】炭酸カルシウムの製造装置、該装置に用いられるパーツおよび炭酸カルシウムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01F 11/18 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C01F11/18 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068730
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100121186
【弁理士】
【氏名又は名称】山根 広昭
(72)【発明者】
【氏名】吉野 泰
(72)【発明者】
【氏名】大橋 隆行
【テーマコード(参考)】
4G076
【Fターム(参考)】
4G076AA16
4G076AB06
4G076BA30
4G076BD04
4G076BE11
4G076BH01
4G076CA02
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができる炭酸カルシウムの製造装置を提供すること。
【解決手段】ここに開示される炭酸カルシウムの製造装置100は、水酸化カルシウムを含むスラリーを供給するスラリー供給部110と、スラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として供給する二酸化炭素供給部120と、生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収するスラリー回収部130と、スラリー供給部110、二酸化炭素供給部120およびスラリー回収部130を接続する接続ライン140と、を備えている。かかる製造装置100は、1つの微細気泡発生装置20と1つのスタティックミキサー30との構成を1単位としたときに、該単位をスラリーの流れ方向に沿って少なくとも2単位以上有している。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウムの製造装置であって、
水酸化カルシウムを含むスラリーを供給するスラリー供給部と、
前記スラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として供給する二酸化炭素供給部と、
生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収するスラリー回収部と、
前記スラリー供給部、前記二酸化炭素供給部および前記スラリー回収部を接続する接続ラインと、
を備えており、
前記二酸化炭素供給部は、
前記スラリーの流れ方向に沿って、上流側に配置される微細気泡発生装置と、下流側に配置されるスタティックミキサーと、を有しており、
前記微細気泡発生装置1つと前記スタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときに、該単位を前記スラリーの流れ方向に沿って少なくとも2単位以上有している、炭酸カルシウムの製造装置。
【請求項2】
前記微細気泡発生装置は、微細気孔を有する多孔質体からなる微細気泡発生管を備えている、請求項1に記載の製造装置。
【請求項3】
前記微細気泡発生装置は、前記微細気孔の平均細孔径が0.5μm以上10μm以下である、請求項2に記載の製造装置。
【請求項4】
前記微細気泡発生装置は、
平均粒径が100μm以下であり、少なくとも粒径が1μm未満のウルトラファインバブルを含むように微細気泡を発生させる、請求項1に記載の製造装置。
【請求項5】
前記スラリー供給部は開放系の供給タンクを有し、
前記スラリー回収部は開放系の回収タンクを有しており、
前記供給タンク、前記微細気泡発生装置、前記スタティックミキサー、および前記回収タンクが前記接続ラインによって接続されている、請求項1に記載の製造装置。
【請求項6】
前記微細気泡発生装置はそれぞれ、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給ラインに接続されており、
前記接続ライン内を流れるスラリーの流量を流量X、前記二酸化炭素供給ラインに供給される二酸化炭素の供給量を供給量Yとしたときに、
流量Xに対する供給量Yの比(Y/X)が1未満である、請求項1に記載の製造装置。
【請求項7】
前記微細気泡発生装置1つと前記スタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときに、該単位を前記スラリーの流れ方向に沿って2単位以上50単位以下有している、請求項1に記載の製造装置。
【請求項8】
請求項1に記載の製造装置に用いられるパーツであって、
スラリーの流れ方向に沿って上流側に配置される1つの微細気泡発生装置と、
下流側に配置される1つのスタティックミキサーと、
前記微細気泡発生装置と前記スタティックミキサーとを接続する接続ラインと、
を備えるパーツ。
【請求項9】
炭酸カルシウムの製造方法であって、
水酸化カルシウムを含むスラリーを供給する工程と、
前記スラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として供給する工程と、
生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収する工程と、
を含み、
前記二酸化炭素供給工程では、
前記スラリーの流れ方向に沿って上流側に配置される1つの微細気泡発生装置と、下流側に配置される1つのスタティックミキサーとの構成を1単位としたときに、該単位を少なくとも2回以上通過させることを特徴とする、炭酸カルシウムの製造方法。
【請求項10】
前記スラリー供給工程における前記スラリーの流量を流量X、前記二酸化炭素供給工程における二酸化炭素の供給量を供給量Yとしたときに、
前記流量Xに対する前記供給量Yが1未満となるように前記スラリーの流量と前記二酸化炭素の供給量とを調整する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記水酸化カルシウムを含むスラリー中の該水酸化カルシウムの濃度は、0.1mol/L以上4mol/L以下である、請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記二酸化炭素供給工程では、
平均粒径が100μm以下であり、少なくとも粒径が1μm未満のウルトラファインバブルを含む微細気泡として二酸化炭素を供給する、請求項9に記載の製造方法。
【請求項13】
前記スラリー回収工程において回収されたスラリーに対して、さらに二酸化炭素を供給する第2の二酸化炭素供給工程を含む、請求項9に記載の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭酸カルシウムの製造装置、該装置に用いられるパーツおよび炭酸カルシウムの製造方法に関する。より詳細には、炭酸カルシウムを連続的に製造する装置、該装置に用いられるパーツ、および炭酸カルシウムを連続的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
二酸化炭素(CO)は、地球温暖化等への環境問題に対して大きな影響を及ぼす温室効果ガスとなることから、排出量の大幅な削減が求められている。このため、火力発電所や工場等から排出される二酸化炭素を選択的に回収し、固定化する技術の開発が進められている。
【0003】
二酸化炭素の回収、固定化に関する技術としては、例えば、二酸化炭素を化学反応により、炭酸塩(例えば炭酸カルシウムや炭酸マグネシウム)として固定化する方法が知られている。特許文献1および2には、炭酸カルシウムを製造する方法が記載されている。また、炭酸カルシウムの製造方法は様々な技術が提案されており、特許文献3においては、炭酸ガスを含むウルトラファインバブルの存在下で炭酸カルシウムおよび/または炭酸マグネシウムを析出させる方法が開示されている。特許文献4では、密閉容器内で微細気孔を有する多孔質部を備えた微細気泡発生装置を用いることにより、二酸化炭素を外部に放出させることなく炭酸カルシウムとして固定化させることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3995761号公報
【特許文献2】特許第4961074号公報
【特許文献3】特許第6742867号公報
【特許文献4】特許第7196254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献3の図6に開示されるような構成の装置では、ウルトラファインバブルを吹き込みしてからの撹拌・混合が不十分な状態で開放系の容器に供給される。このため、大気中に放出される二酸化炭素が多くなる虞がある。また、特許文献4に開示されるような密閉系の容器を用いた場合、容器内圧力を上昇させないために、新たに水酸化カルシウムを補充する量と同量の反応済みのスラリーを抜く必要があり、連続的に炭酸カルシウムを製造する観点からは未だ課題があった。
【0006】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができる炭酸カルシウムの製造装置を提供することにある。また、他の目的は、かかる製造装置に用いるパーツ、および、炭酸カルシウムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を実現するべく、ここに開示される炭酸カルシウムの製造装置が開示される。ここに開示される炭酸カルシウムの製造装置は、水酸化カルシウムを含むスラリーを供給するスラリー供給部と、上記スラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として供給する二酸化炭素供給部と、生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収するスラリー回収部と、上記スラリー供給部、上記二酸化炭素供給部および上記スラリー回収部を接続する接続ラインと、を備えている。上記二酸化炭素供給部は、上記スラリーの流れ方向に沿って、上流側に配置される微細気泡発生装置と、下流側に配置されるスタティックミキサーと、を有しており、上記微細気泡発生装置1つと上記スタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときに、該単位を上記スラリーの流れ方向に沿って少なくとも2単位以上有している。
【0008】
かかる構成によれば、微細気泡発生装置により二酸化炭素を微細気泡として供給することで、水酸化カルシウムと二酸化炭素とが好適に混合する。そして、スタティックミキサーの分割作用や転換作用により、スラリーの撹拌と混合が十分に行われるため、炭酸化反応を速やかに完了させることができる。かかる微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときに、該単位を2単位以上有していることにより、炭酸化反応をほとんど完了させることができる。したがって、かかる構成によれば、二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができる。また、かかる構成によれば、二酸化炭素を好適に炭酸カルシウムとして固定化させることができる。
【0009】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記微細気泡発生装置は、微細気孔を有する多孔質体からなる微細気泡発生管を備えている。
かかる構成によれば、二酸化炭素を含む微細気泡を好適に発生させることができる。
【0010】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記微細気泡発生装置は、上記微細気孔の平均細孔径が0.5μm以上10μm以下である。
かかる構成によれば、二酸化炭素を含む微細気泡を好適に発生させることができる。
【0011】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記微細気泡発生装置は、平均粒径が100μm以下であり、少なくとも粒径が1μm未満のウルトラファインバブルを含むように微細気泡を発生させる。
かかる構成によれば、スラリー中の水酸化カルシウムと二酸化炭素とがより好適に混合され、炭酸化反応が速やかに進む。
【0012】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記スラリー供給部は開放系の供給タンクを有し、上記スラリー回収部は開放系の回収タンクを有しており、上記供給タンク、上記微細気泡発生装置、上記スタティックミキサー、および上記回収タンクが上記接続ラインによって接続されている。
ここに開示される製造装置では、上記したとおり、微細気泡発生装置とスタティックミキサーとを用いることによって水酸化カルシウムと二酸化炭素とが速やかに反応する。このため、開放系の回収タンクを用いたとしても、ほとんど二酸化炭素を外部に放出することなく二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化することができる。
【0013】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記微細気泡発生装置はそれぞれ、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給ラインに接続されており、上記接続ライン内を流れるスラリーの流量を流量X、上記二酸化炭素供給ラインに供給される二酸化炭素の供給量を供給量Yとしたときに、流量Xに対する供給量Yの比(Y/X)が1未満である。
かかる構成によれば、供給された二酸化炭素をさらに好適に炭酸カルシウムとして固定化することができる。
【0014】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記微細気泡発生装置1つと上記スタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときに、該単位を上記スラリーの流れ方向に沿って2単位以上50単位以下有している。
かかる構成によれば、好適に炭酸化反応を完了させることができる。
【0015】
また、ここに開示される技術の他の側面として、上記炭酸カルシウムの製造装置に用いられるパーツが提供される。ここに開示される炭酸カルシウムの製造装置のパーツは、スラリーの流れ方向に沿って上流側に配置される1つの微細気泡発生装置と、下流側に配置される1つのスタティックミキサーと、上記微細気泡発生装置と上記スタティックミキサーとを接続する接続ラインと、を備える。
既存の炭酸カルシウム製造装置のスラリーを供給するラインにかかる構成のパーツを組み付けることで、二酸化炭素を好適に炭酸カルシウムとして固定化させることができる。
【0016】
また、ここに開示される技術の他の側面として、炭酸カルシウムの製造方法が提供される。ここに開示される製造方法は、水酸化カルシウムを含むスラリーを供給する工程と、上記スラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として供給する工程と、生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収する工程と、を含む。上記二酸化炭素供給工程では、上記スラリーの流れ方向に沿って上流側に配置される1つの微細気泡発生装置と、下流側に配置される1つのスタティックミキサーとの構成を1単位としたときに、該単位を少なくとも2回以上通過させることを特徴とする。
かかる構成によれば、水酸化カルシウムと二酸化炭素との反応を速やかに完了させることができる。これにより、二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造する方法が実現される。
【0017】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記スラリー供給工程における上記スラリーの流量を流量X、上記二酸化炭素供給工程における二酸化炭素の供給量を供給量Yとしたときに、上記流量Xに対する上記供給量Yが1未満となるように上記スラリーの流量と上記二酸化炭素の供給量とを調整する。
かかる構成によれば、より好適に二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化することができる。
【0018】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記水酸化カルシウムを含むスラリー中の該水酸化カルシウムの濃度は、0.1mol/L以上4mol/L以下である。
かかる構成によれば、効率よく炭酸カルシウムを製造することができる。
【0019】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記二酸化炭素供給工程では、平均粒径が100μm以下であり、少なくとも粒径が1μm未満のウルトラファインバブルを含む微細気泡として二酸化炭素を供給する。
かかる構成によれば、微細気泡による撹拌力向上や、二酸化炭素の接触比表面積向上によって、さらに速やかに水酸化カルシウムと二酸化炭素とを反応させることができる。
【0020】
ここに開示される製造装置の好適な一態様では、上記スラリー回収工程において回収されたスラリーに対して、さらに二酸化炭素を供給する第2の二酸化炭素供給工程を含む。
かかる構成によれば、さらに炭酸化率を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、一実施形態に係る炭酸カルシウム製造装置を模式的に示す図である。
図2図2は、一実施形態に係る微細気泡発生装置の構成を模式的に示す図である。
図3図3は、一実施形態に係るスタティックミキサーを模式的に示す図である。
図4図4は、一実施形態に係る炭酸カルシウム製造装置の他の一例を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、適宜図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。なお、本明細書において数値範囲を示す「A~B」との表記は、特にことわりの無い限り「A以上B以下」を意味する。
【0023】
図1は、ここに開示される炭酸カルシウムの製造装置100を模式的に示す図である。なお、図1中の矢印はスラリーの流れ方向を示している。なお、本明細書において、スラリーの流れに沿ってスラリー供給部110に近い側を上流側、スラリー供給部110から遠ざかる側を下流側という。以下、ここに開示される製造装置100の各構成について、図1等を参照しながら説明する。
【0024】
図1に示すように、製造装置100は、スラリー供給部110と、二酸化炭素供給部120と、スラリー回収部130と、接続ライン140と、を備えている。スラリー供給部110と、二酸化炭素供給部120と、スラリー回収部130とは、スラリーが流動可能に構成された接続ライン140によって接続されている。二酸化炭素供給部120は、後述する微細気泡発生装置20とスタティックミキサー30とを少なくとも備えており、スラリーの流れ方向に沿って、上流側に微細気泡発生装置20が配置され、下流側にスタティックミキサー30が配置されている。ここに開示される製造装置100は、1つの微細気泡発生装置20と1つのスタティックミキサー30との構成を1単位としたときに、該単位をスラリーの流れ方向に沿って少なくとも2単位以上有している。これにより、簡便な装置構成でありながら、二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができる。かかる製造装置100によれば、二酸化炭素を好適に炭酸カルシウムとして固定化させることができる。
【0025】
ここで、「二酸化炭素を固定化する」とは、二酸化炭素を溶液等と化学反応させることによって、炭酸化合物に変換することを意味する。例えば、ここに開示される技術によれば、二酸化炭素を含む微細気泡と水酸化カルシウムを含むスラリーとを化学反応させることによって、二酸化炭素を炭酸カルシウムに変換(固定)することをいう。このように、二酸化炭素を有用な炭酸化合物に変換することで、大気中に排出される二酸化炭素の量を大幅に削減し、かつ、二酸化炭素が再資源化されるため地球温暖化等の環境問題の解決に貢献し得る。固定化する対象としての二酸化炭素の供給(発生)源については、特に限定されない。例えば、工場、火力発電所、自動車等から発生する二酸化炭素を回収して、炭酸カルシウムとして固定化するとよい。
【0026】
スラリー供給部110は、水酸化カルシウムを含むスラリーを供給するためのものである。スラリー供給部110の構成は特に限定されない。例えばスラリー供給部110は、図1に示すように、原料(スラリー)が流動可能な空間を有する供給ライン111と、供給ライン111を開閉するためのバルブ112と、スラリーを一時的に貯留する供給タンク113と、スラリーを接続ライン140に供給するための送液ポンプ114と、を備え得る。バルブ112の開弁時には、図示されない原料タンクから原料(スラリー)が供給タンク113に供給され、バルブ112の閉弁時には原料の供給が停止される。供給タンク113には、水酸化カルシウムを水系溶媒(例えば、水)に溶解または分散させたスラリーが貯留されている。
【0027】
供給タンク113は、開放系のタンクであってもよいし、密閉系のタンクであってもよい。製造効率を向上する観点からは、供給タンク113は開放系であることが好ましい。供給タンク113の形状は特に限定されず、例えば略円筒状であってもよいし、略直方体状であってもよい。供給タンク113は、例えば容器の内径Dに対する容器の高さHの比(H/D)が1.0~1.5程度の略円筒状の容器であってもよい。あるいは、供給タンク113は、例えば容器の内径Dに対する容器の高さHの比(H/D)が1.5を超えて2以下程度の高さ方向に長い略円筒状の容器であってもよい。また、供給タンク113は、図1に示すように、高さ方向に沿う断面視において下側に向けて凸状となるように構成されていてもよい。これにより、水酸化カルシウムを含むスラリーを好適に接続ライン140に供給することができる。
【0028】
特に限定されないが、スラリー供給部110は、図1に示すように、撹拌機115を備えていてもよい。撹拌機115は、供給タンク113の内部に配置され、供給タンク113に貯留されるスラリーを撹拌する。撹拌機115は、特に限定されるものでないが、例えば、撹拌翼と、撹拌軸を介して撹拌翼と接続されたモーターと、を備えている。スラリー供給部110が撹拌機115を備えていることにより、供給タンク内のスラリーが沈殿することなく好適な状態を保つことができる。
【0029】
接続ライン140を流動するスラリーの流量Xは、送液ポンプ114によって適宜調整することができる。スラリーの流量Xは、二酸化炭素の供給量Yとの関係によって適宜変更されるため、一概に限定されないが、例えば800ml/min~2500ml/min程度であることが好ましい。
【0030】
二酸化炭素供給部120は、接続ライン140を流動するスラリーに対して二酸化炭素を含む気体を供給するためのものである。当該二酸化炭素供給部120において供給される気体は、二酸化炭素を90%以上(より好ましくは95%以上)含む気体(例えば炭酸ガス)であることが好ましい。二酸化炭素供給部120は、少なくとも微細気泡発生装置20と、スタティックミキサー30と、を備えている。微細気泡発生装置20は、スラリーに対して二酸化炭素を含む微細気泡を吹き込む装置である。スタティックミキサー30は、微細気泡発生装置20から供給された二酸化炭素を含む微細気泡と、スラリーとを混合する部材である。二酸化炭素供給部120は、上記した微細気泡発生装置20とスタティックミキサー30とに加えて、二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を貯留するガス貯留部122と、二酸化炭素が流動可能な空間を有する二酸化炭素供給ライン124と、二酸化炭素の供給圧力を調整する圧力調整バルブ126と、二酸化炭素の供給量(流量)を調整するニードルバルブ128、を備え得る。二酸化炭素供給ライン124は、複数の微細気泡発生装置20とそれぞれ接続されている。
【0031】
ここで、本明細書において「二酸化炭素を含む微細気泡」とは、例えば、二酸化炭素を90%以上(より好ましくは95%以上)含む気体(炭酸ガス)が微細気泡発生装置に圧入されることによって形成される微細気泡のことをいう。また、本明細書において「微細気泡」は、「マイクロバブル」と「ウルトラファインバブル」とを少なくとも含んでいる。なお、マイクロバブルおよびウルトラファインバブルの定義は、国際標準化機構(ISO)の規格に準拠しており、マイクロバブルとは平均粒径が1μm以上100μm未満の気泡のことであり、ウルトラファインバブルとは平均粒径が1μm未満の気泡のことである。
【0032】
ガス貯留部122は、固定化の対象となる二酸化炭素ガス(炭酸ガス)を一時的に貯留する。ガス貯留部122に貯留される二酸化炭素ガスの由来(二酸化炭素ガスの発生源)は、特に限定されない。例えば、工場等において発生する二酸化炭素を含む排ガス等であってもよい。このような排ガスの供給(発生)源に、二酸化炭素吸収材を設置し、吸着された二酸化炭素を、例えばスチーム等を用いた加温によって放出させることで、ガス貯留部122に排ガスに由来する二酸化炭素ガスを貯留することができる。かかる二酸化炭素吸収材料としては、例えば、多孔質材料、二酸化炭素吸収能を有するアミノ基等を導入した化学吸収材料、金属有機構造体(Metal-Organic Framework:MOF)、炭素質材料、アルカリ金属炭酸カルシウム等からなる二酸化炭素吸着材料/吸収材料が挙げられる。このような二酸化炭素吸収材料は、小型化が容易であるため、工場等から二酸化炭素を直接導入するために配管を設置するよりも低コストで実施することができる。好ましい一態様では、二酸化炭素吸収能を有するアミノ基等を導入した化学吸収材料に吸着した二酸化炭素を用いるとよい。
【0033】
図2は、ここに開示される製造装置100において用いられる微細気泡発生装置20の構成を模式的に示す図である。図2に示すように、微細気泡発生装置20は、微細気孔を有する多孔質体からなる管状の微細気泡発生管21と、微細気泡発生管21を包囲する基材部22と、を有している。微細気泡発生管21は、接続ライン140と接続している。なお、図2に示す例では、微細気泡発生管21は1つであるが、微細気泡発生管21は2つ以上(すなわち、複数)設けられていてもよい。また、以下の説明では、スラリーの流れ方向に沿って、微細気泡発生管21の一方の端部を上流側端部21a(図2の右側の端部)といい、他方の端部を下流側端部21b(図2の左側の端部)という。
【0034】
基材部22は、微細気泡発生管21の上流側端部21aを支持する上流側支持部23aと、下流側端部21bを支持する下流側支持部23bと、上流側支持部23aおよび下流側支持部23bの間に取り付けられ、微細気泡発生管21を包囲する胴部24と、を有している。上流側支持部23aには、少なくとも一つのスラリー流入口25が設けられており、下流側支持部23bには、少なくとも一つのスラリー流出口26が設けられている。また、胴部24には、少なくとも一つの二酸化炭素流入口27が設けられている。
【0035】
微細気泡発生装置20は、微細気泡発生管21の外面側から気体(ここでは炭素ガス)を供給し、微細気泡発生管内を通過する液体(ここではスラリー)へ微細気泡を供給する、所謂、インライン型の微細気泡発生装置20である。かかるインライン型の微細気泡発生装置20では、二酸化炭素が圧力をかけられた状態で二酸化炭素流入口27から供給されることにより、微細気泡発生管内を通過するスラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として吹き込むことができる。スラリーに対して、二酸化炭素をウルトラファインバブルやマイクロバブルを含む微細気泡として吹き込むことにより、撹拌力や接触比表面積が向上するため、より短時間で水酸化カルシウムと二酸化炭素とを反応させることができる。
【0036】
二酸化炭素供給ライン124における二酸化炭素の供給量(流量)Yは、ニードルバルブ128によって適宜調整される。二酸化炭素の供給量Yは、スラリーの流量Xとの関係によって適宜変更されるため、一概に限定されないが、例えば100ml/min~2000ml/min程度であることが好ましい。
【0037】
ここに開示される製造装置100では、スラリーの流量Xに対する二酸化炭素の供給量Yの比(Y/X)が1未満であることが好ましい。これにより、供給した二酸化炭素がロスすることなくスラリー中の水酸化カルシウムと反応し、炭酸カルシウムとして好適に固定化される。かかるスラリーの流量Xに対する二酸化炭素の供給量Yの比(Y/X)は、例えば0.91以下であることが好ましく、0.83以下であってもよい。製造効率の観点からは、スラリーの流量Xに対する二酸化炭素の供給量Yの比(Y/X)は、0.1以上であることが好ましく、0.27以上であることがより好ましい。なお、スラリーの流量Xおよび二酸化炭素ガスの供給量Yは、上記した(Y/X)を満たすように設定されればよく、接続ライン140の内径等を考慮して、適宜設定され得る。例えば、スラリーの流量Xおよび二酸化炭素の供給量Yのそれぞれの値が上記した範囲を超える場合であっても、上記した(Y/X)の範囲を満たすように当該スラリーの流量Xおよび二酸化炭素ガスの供給量Yが制御されていればよい。
【0038】
二酸化炭素の供給圧力(MPa)は、圧力調整バルブ126によって、それぞれ調整される。二酸化炭素の供給圧力は、ウルトラファインバブルが生成しやすい供給圧力に設定され得る。例えば、二酸化炭素の供給圧力は、微細気泡発生装置の微細気泡発生管内の蒸留水におけるバブルポイントテストの圧力を0として、配管(微細気泡発生管)内の圧力との圧力差で例えば、0.01MPa以上0.8MPa以下であることが好ましく、0.04MPa以上0.6MPa以下であることがより好ましく、0.1MPa以上0.6MPa以下であることが特に好ましい。上述した範囲の供給圧力に制御することにより、微細気泡がウルトラファインバブルを含む形態で供給されるため、スラリー中の水酸化カルシウムとの比表面積を増加させることができる。これによって、二酸化炭素と水酸化カルシウムとの反応が好適に進行し、反応時間を短縮することができる。なお、二酸化炭素の供給圧力と配管内の圧力との圧力差は、微細気泡発生管21の平均細孔径ごとに適切な範囲があり、二酸化炭素の供給圧力が高すぎる場合には、ウルトラファインバブルが生成されずに平均粒径が100μm以上のミリバブルが主に生成され、反応速度の低下や配管内の圧力の急上昇を招くおそれがある。
【0039】
微細気泡発生管21は、スラリーが流動可能な空間を有していれば形状は特に限定されない。微細気泡発生管21は、例えば断面円形であり、直線状に延びる円管であり得る。なお、微細気泡発生管21の形状はこれに限定されず、例えば断面四角形状、断面六角形状等の角管であってもよい。また、微細気泡発生管21は、上流側と下流側とで径が異なるような形状(例えば円錐形状)であってもよい。微細気泡発生管21の外径R1は例えば3mm~16mm程度、内径R2は例えば1mm~12mm程度(好ましくは、3mm~10mm)であるとよい。微細気泡発生管21の有効長さ(すなわち、微細気泡発生管21の内部を流れるスラリー10に対して二酸化炭素ガスを供給可能な部分の長さ)Lは、例えば50mm~1000mm程度であることが好ましい。このように構成される微細気泡発生管21によれば、外部から気体(例えば炭酸ガス)を圧入することにより、微細気泡発生管21の内部を流動するスラリー10に対して、好適に二酸化炭素を含む微細気泡を発生させることができる。
【0040】
微細気泡発生管21は、連通した気孔を有しており、気孔率が20~60%程度の多孔質体から構成され得る。多孔質体の材質としては、セラミックであることが好ましい。具体的な材質としては、アルミナ(Al),ジルコニア(ZrO),マグネシア(MgO),シリカ(SiO),チタニア(TiO),ジルコン(ZrSiO),ムライト(Al13Si)等の酸化物系セラミックであっても良いし、窒化ケイ素(Si),窒化ホウ素(BN),窒化アルミニウム(AlN),炭化ケイ素(SiC),炭窒化ホウ素等の非酸化物系セラミックであってもよいし、もしくはこれらのようなセラミックを少なくとも1種以上含む複合材料などであってもよい。なかでも、品質が安定し安価で入手が容易なアルミナ、ベーマイト、シリカおよびチタニアが好ましく用いられる。なお、上記物質名の後の括弧内に示された化学式は、当該物質の代表組成を示すものであり、実際のセラミックの組成がかかる化学式のものに限定されることを意図したものではない。
【0041】
特に限定されないが、微細気泡発生装置20は、平均粒径が100μm以下であり、粒径が1μm未満のウルトラファインバブルを含む微細気泡を発生させるように構成されていることが好ましい。平均粒径が100μm以下程度の微細気泡であれば、撹拌力が向上し、撹拌に用いる動力を大幅に削減することができる。また、微細気泡がウルトラファインバブルを含むことにより、吹き込まれた二酸化炭素の接触比表面積が増大し、水酸化カルシウムと短時間で反応させることができる。したがって、省エネルギー化と反応促進とが実現される。なお、本明細書において「平均粒径」とは、一般的な画像解析法に基づく個数基準の粒度分布において、粒径が小さい微粒子側からの累積頻度50個数%に相当する粒径(D50、メジアン径ともいう。)をいう。かかる画像解析法は、例えば動的画像解析式の粒子形状・粒度分布測定装置を用いて行うことができる。
【0042】
微細気泡発生管21の平均細孔径は、ウルトラファインバブルおよびマイクロバブルを含む微細気泡を発生させられる限りにおいて特に限定されない。微細気泡発生管21の平均細孔径は、例えば0.5μm以上であることが好ましく、1μm以上であることがより好ましく、1.3μm以上であってもよく、3μm以上であってもよい。また、平均細孔径が大きすぎる場合には、所望する大きさの微細気泡(バブル)を生じさせることができないため、例えば10μm以下であることが好ましく、9μm以下であってもよく、7μm以下であってもよい。例えば微細気泡発生管21の平均細孔径は1.3μm~10μmであることが好ましい。なお、微細気泡発生管21の平均細孔径は、例えば水銀圧入法によって測定することができる。
【0043】
図3は、ここに開示される製造装置100において用いられるスタティックミキサーを模式的に示す図である。スタティックミキサー30は、作動部を有しない静止型混合装置である。スタティックミキサー30は、スラリーが管路内を通過するときの速度エネルギーを消費することによって、スラリーを混合する。言い換えれば、スタティックミキサー30を用いることにより、スラリーを流動させるためのエネルギーのみでスラリーと微細気泡とを混合することができる。したがって、省エネルギー化を実現することができる。
【0044】
スタティックミキサー30の材質は特に限定されないが、例えば、ステンレス鋼等の金属材料、ポリ塩化ビニル等の樹脂材料から構成され得る。スタティックミキサー30は、図3に示すように、円管状の管路32と、混合素子34(以下、「エレメント34」ともいう。)と、を有している。スタティックミキサー30は、管路内にエレメント34が設置されている。エレメント34の形状は、長方形の板材を左右逆方向に180度ひねったものである。複数のエレメント34は、管路32の管軸CLを中心として軸方向に沿って配置される。複数のエレメント34は、図3に示すように、右エレメント34aと左エレメント34bとが交互に配置される。スタティックミキサー30の管路32は、接続ライン140と接続されている。スラリーは、管路内を通過する過程で管路内に配置された複数のエレメント34によって、反転、分割、転換作用を受け、好適に微細気泡と混合される。
【0045】
特に限定されないが、スタティックミキサー30のエレメント数は、好適な混合を実現する観点から、6~36であることが好ましく、12~24であることがより好ましい。なお、「エレメント数」とは、エレメント34の枚数のことであり、例えば、図3に示されるスタティックミキサー30のエレメント数は4である。
【0046】
スタティックミキサー30の内径R3は、スラリーが流動可能である限り特に限定されない。スタティックミキサー30の内径R3は、微細気泡発生管21の内径R2と極端に異ならない内径であることが好ましい。一例として、スタティックミキサー30の内径R3は3mm~12mm程度(好ましくは、6mm~10mm)であってもよい。
【0047】
上記したとおり、ここに開示される製造装置100では、微細気泡発生装置20を用いることにより、二酸化炭素をウルトラファインバブルやマイクロバブルの状態でスラリーに吹き込むことができる。また、スタティックミキサー30の分割作用や転換作用により、インラインの状態であっても短時間で水酸化カルシウムと二酸化炭素とを反応させることができる。このため、これらをスラリーの流れ方向に沿って、これら微細気泡発生装置20とスタティックミキサー30とを直列に配置することで、より効率的に炭酸カルシウムを製造することができる。具体的には、ここに開示される製造装置100では、1つの微細気泡発生装置20と1つのスタティックミキサー30との構成を1単位としたときに、該単位をスラリーの流れ方向に沿って少なくとも2単位以上有している。これにより、コンパクトな形態であるにもかかわらず、十分な炭酸化率を実現しつつ、吹き込んだ二酸化炭素を炭酸カルシウムとして好適に固定化することができる。そして、微細気泡発生装置20とスタティックミキサー30とを通過したスラリーは、水酸化カルシウムと二酸化炭素との反応がほぼ完了しているため、後述する回収タンク132が開放系のタンクであったとしても、二酸化炭素を外部に放出する可能性が低い。したがって、簡便な装置構成でありながら、二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができる。
【0048】
図4は、ここに開示される製造装置100の他の一例を模式的に示す図である。図4に示す製造装置100では、スラリーの流れ方向に沿って、微細気泡発生装置20とスタティックミキサー30とがn単位繰り返し接続されている。1つの微細気泡発生装置20と1つのスタティックミキサー30との構成を1単位としたときの単位数(以下、単に「単位数」ともいう。)は、2単位以上であればよい。例えば、図4に示すように、n単位接続されていてもよい。かかる単位数は、目的とする炭酸化率に応じて適宜設定すればよく特に限定されないが、製造効率の観点から、炭酸化率が5%以上となるように設定するとよい。例えば、単位数は、2単位以上であって、4単位以上であることが好ましく、10単位以上であることがより好ましく、14単位以上であってもよく、20単位以上であってもよく、24単位以上であってもよく、30単位以上であってもよい。単位数が多くなるにつれて、スラリーに対して吹き込める二酸化炭素の量を増加させることができるため、炭酸化率を好適に向上させることができる。また、単位数の上限は、特に限定されないが、例えば60単位以下であってもよく、50単位以下であってもよい。
【0049】
1つの微細気泡発生装置20と1つのスタティックミキサー30と、これらを接続する接続ライン140とを有するパーツは、既存の開放系の炭酸カルシウム製造ラインに簡単に組み付けることができる。すなわち、かかるパーツを既存の炭酸カルシウム製造ラインに用いることで、簡便な方法で二酸化炭素を炭酸塩として固定化することができる。
【0050】
スラリー回収部130は、二酸化炭素供給部120よりも下流側に配置される。スラリー回収部130は、生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収するためのものである。スラリー回収部130の構成は特に限定されない。例えばスラリー回収部130は、図1に示すように、生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収する回収タンク132と、回収タンク132に接続される回収ライン134と、回収ライン134を開閉するためのバルブ136と、を備え得る。
【0051】
回収タンク132は、開放系のタンクであってもよいし、密閉系のタンクであってもよい。回収タンク132が密閉系のタンクである場合には、回収タンク132は安全弁(図示せず)を有していることが好ましい。安全弁は、容器内の内圧が何らかの理由によって所定レベル以上に上昇した場合に、該内圧を開放するように設定され得る。スラリー回収部130が備える回収タンク132の形状は、スラリー供給部110が備える供給タンク113と略同様の形状であってもよい。すなわち、回収タンク132の形状は特に限定されず、例えば、略円筒状であってもよいし、略直方体状であってもよい。
【0052】
特に限定されないが、スラリー回収部130は、図1に示すように、撹拌機138を備えていてもよい。撹拌機138は、スラリー供給部110が備え得る撹拌機115とほぼ同様の構成の撹拌機であってよい。スラリー回収部130が撹拌機138を備えていることにより、スラリーと二酸化炭素を含む微細気泡とがより好適に混合される。
【0053】
接続ライン140は、スラリーが流動可能な空間を有している。接続ライン140は、上記したスラリー供給部110と、二酸化炭素供給部120と、スラリー回収部130と、を接続する。より具体的には、接続ライン140は、供給タンク113と、微細気泡発生装置20と、スタティックミキサー30と、回収タンク132と、を接続し得る。接続ライン140は、図1に示すように、2つの三方弁142a、142bと、回収タンク132への供給/停止を調節するバルブ144と、を備え得る。供給タンク113に貯留されたスラリーは、送液ポンプ114を作動させることにより、所望する量のスラリーが接続ライン140に供給される。スラリーは、接続ライン140の内部を流れ、微細気泡発生装置20を通過する。このとき、微細気泡発生装置20は、通過するスラリーに対して二酸化炭素を含む微細気泡を圧入する。スラリーは再び接続ライン140の内部を流れ、スタティックミキサー30を通過する。このとき、スタティックミキサー30は、スラリーと二酸化炭素を含む微細気泡とを混合する。微細気泡発生装置20による二酸化炭素を含む微細気泡の圧入、および、スタティックミキサー30によるスラリーと微細気泡との混合を複数回(すなわち、単位数分)繰り返した後、スラリーは、接続ライン140を介して回収タンク132に投入される。かかる構成によれば、送液ポンプ114の動力によってほとんどの工程を実施することができ、省エネルギー化を実現することができる。
【0054】
接続ライン140の内径は、スラリーが流動可能である限り特に限定されないが、微細気泡発生管21の内径R2と極端に異ならない内径であることが好ましい。一例として、接続ライン140の内径は3mm~12mm程度であってもよい。
【0055】
図1に示す例では、接続ライン140は、スラリーを回収タンク132の上方側から投入する構成となっているが、接続ライン140と回収タンク132との接続の形態はこれに限定されない。例えば、接続ライン140は、スラリーを回収タンク132の下方側から投入する構成となっていてもよい。スラリーが回収タンク132の下方側から投入されることにより、スラリーと共に微細気泡として供給される二酸化炭素は、スラリー中を浮上しながら移動するため、より好適に炭酸カルシウムとして固定化される。このため、回収タンク132が開放系のタンクであったとしても、二酸化炭素が外部に放出されることをさらに抑制することができる。
【0056】
回収タンク132において回収された炭酸カルシウムを含むスラリーは、回収ライン134のバルブ136を開放することにより回収することができる。ここで回収されるスラリーは、炭酸カルシウムが液中に分散した懸濁液の状態で回収される。かかる懸濁液を必要に応じて、従来公知の装置を用いて貯蔵、濃縮、乾燥等させることにより、所望する形態に加工して利用することができる。
【0057】
図示は省略するが、製造装置100は、回収タンク132に回収されたスラリーに対してさらに二酸化炭素をさらに吹き込む機構を備えていてもよい。このとき、純度の高い(例えば99%以上の)二酸化炭素を吹き込んでもよいし、工場等から排出される排気ガスを吹き込んでもよい。回収タンク132に回収されたスラリーに対してさらに二酸化炭素を吹き込むことにより、より炭酸化率を高くすることができる。なお、本明細書において「炭酸化率」とは、スラリーを調整する際に用いた水酸化カルシウムの物質量に対する、析出した炭酸カルシウムの物質量のことである。かかる「炭酸化率」は、上記回収したスラリーを乾燥させ、熱重量測定装置(Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis:TG-DTA)を用いて測定することができる。
【0058】
以上、炭酸カルシウムを好適に製造する装置について説明した。かかる製造装置によれば、簡便な装置構成でありながら、二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができる。このため、二酸化炭素をより好適に固定化させ、かつ、効率よく炭酸カルシウムを製造することができる。また、かかる装置によれば、当該装置を用いて固定化した二酸化炭素の量を提示するシステムを構築することができる。
【0059】
以下、ここに開示される炭酸カルシウムを製造方法について説明する。ここに開示される炭酸カルシウムの製造方法は、水酸化カルシウムを含むスラリーを供給するスラリー供給工程と、スラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として供給する二酸化炭素供給工程と、生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収するスラリー回収工程と、を少なくとも含んでいる。ここに開示される製造方法は、上記二酸化炭素供給工程において、スラリーの流れ方向に沿って上流側に配置される1つの微細気泡発生装置と、下流側に配置される1つのスタティックミキサーとの構成を1単位としたときに、該単位を少なくとも2回以上通過させることを特徴付けられており、このこと以外は従来の炭酸カルシウムの製造プロセスと同様であってもよい。また、任意の段階でさらに他の工程を含んでいてもよい。
【0060】
スラリー供給工程は、炭酸カルシウムの原料となる水酸化カルシウムを含むスラリーを供給する工程である。当該工程において供給されるスラリーは、水酸化カルシウムが水系溶媒等の液状媒体に分散した分散液またはスラリー状組成物の形態である。ここで、水系溶媒は例えば、水であってもよく、水とアルコールとの混合溶液であってもよい。水系溶媒としては、イオン交換水(脱イオン水)、純水、超純水、蒸留水等を好ましく用いることができる。
【0061】
水酸化カルシウムを含むスラリーの該水酸化カルシウムの濃度は、0.1mol/L以上であることが好ましく、0.5mol/L以上であることがより好ましく、1mol/L以上であってもよい。また、水酸化カルシウムの濃度の上限は、5mol/L以下であることが好ましく、4mol/L以下であることがより好ましく、3mol/L以下であってもよい。かかる濃度の範囲内であれば、微細気泡として供給された二酸化炭素と、スラリー中の水酸化カルシウムとが好適に反応し、安定的に炭酸カルシウムを製造し得る。また、スラリー供給工程において供給されるスラリーのpHは、特に限定されるものではないが、例えば12以上13以下程度に調整されているとよい。
【0062】
スラリー供給工程では、上記用意したスラリーを、接続ライン140に供給する。例えば、供給タンク113と接続する送液ポンプ114を作動させ、所望する量のスラリーを接続ライン140に供給するとよい。スラリー供給工程におけるスラリーの流量Xは、二酸化炭素供給工程における二酸化炭素の供給量Yとの関係によって適宜変更されるため、一概に限定されないが、例えば800ml/min~2500ml/min程度であることが好ましい。
【0063】
二酸化炭素供給工程では、スラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として供給する。二酸化炭素供給工程では、上記した微細気泡発生装置20を用いて、二酸化炭素を含む微細気泡をスラリーに対して吹き込む。そして、微細気泡発生装置20の下流側に配置されるスタティックミキサー30によって、スラリーと上記吹き込まれた微細気泡とを混合する。かかる構成によれば、スラリー中の水酸化カルシウムと微細気泡として吹き込まれた二酸化炭素とを好適に混合させることができる。特に1つの微細気泡発生装置20と1つのスタティックミキサー30との構成を1単位としたときに、該単位を2回以上通過させることにより、水酸化カルシウムと二酸化炭素とをより短時間で反応させることができる。したがって、ここに開示される製造方法によれば、二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができる。
【0064】
二酸化炭素供給工程において、1つの微細気泡発生装置20と1つのスタティックミキサー30との構成を通過させる回数は、2回以上であって、4回以上であることが好ましく、10回以上であることがより好ましく、14回以上であってもよく、20回以上であってもよく、24回以上であってもよく、30回以上であってもよい。単位数が多くなるにつれて、スラリーに対して吹き込める二酸化炭素の量を増加させることができるため、炭酸化率を好適に向上させることができる。1つの微細気泡発生装置20と1つのスタティックミキサー30との構成を通過させる回数は、目的とする炭酸化率に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。また、単位数の上限は、例えば60回以下であってもよく、50回以下であってもよい。
【0065】
二酸化炭素供給工程における二酸化炭素の供給量Yは、スラリー供給工程におけるスラリー流量Xとの関係によって適宜変更されるため、一概に限定されないが、例えば100ml/min~2000ml/min程度であることが好ましい。
【0066】
ここに開示される製造方法では、スラリー供給工程におけるスラリーの流量Xに対する二酸化炭素供給工程における二酸化炭素の供給量Yの比(Y/X)は、1未満であることが好ましい。これにより、供給した二酸化炭素がロスすることなくスラリー中の水酸化カルシウムと反応し、炭酸カルシウムとして好適に固定化される。かかるスラリーの流量Xに対する二酸化炭素の供給量Yの比(Y/X)は、例えば0.91以下であることが好ましく、0.83以下であってもよい。製造効率の観点からは、スラリーの流量Xに対する二酸化炭素の供給量Yの比(Y/X)は、0.1以上であることが好ましく、0.27以上であることがより好ましい。
【0067】
特に限定されないが、二酸化炭素供給工程では、平均粒径が100μm以下であり、1μm未満のウルトラファインバブルを含む微細気泡として二酸化炭素を供給することが好ましい。これにより、撹拌力の向上や接触比表面積を向上させることができ、水酸化カルシウムを含むスラリーと二酸化炭素とを短時間で反応させることができる。
【0068】
二酸化炭素供給工程において、二酸化炭素の供給圧力(MPa)は、上記したようなウルトラファインバブルが生成しやすい供給圧力に設定され得る。例えば、二酸化炭素の供給圧力は微細気泡発生装置の微細気泡発生管内の蒸留水におけるバブルポイントテストの圧力を0として、配管(微細気泡発生管)内の圧力との圧力差で例えば、0.01MPa以上0.8MPa以下であることが好ましく、0.04MPa以上0.6MPa以下であることがより好ましく、0.06MPa以上0.4MPa以下であることが特に好ましい。
【0069】
スラリー回収工程では、生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収する。例えば、接続ライン140から供給されるスラリーを一時的に回収タンク132に貯留することで、スラリーを回収することができる。上記したとおり、二酸化炭素供給工程において二酸化炭素を微細気泡として吹き込み、スタティックミキサー30を用いてすぐに混合することにより、スラリー中の水酸化カルシウムと二酸化炭素との反応はほとんど完了している。このため、スラリー回収工程では開放系の回収タンク132でスラリーを回収したとしても、二酸化炭素を外部に放出することがほとんどない。したがって、簡便な方法により、好適に二酸化炭素を炭酸塩(炭酸カルシウム)として固定化することができる。かかるスラリー回収工程で回収されたスラリーを、乾燥、濾過することにより、炭酸カルシウムを得ることができる。かかる炭酸カルシウムは、顔料や塗料、ゴム、製紙等の産業において利用され得る。
【0070】
ここに開示される製造方法においては、スラリー回収工程よりも下流側の工程において、さらに二酸化炭素を供給する第2の二酸化炭素供給工程を含んでいてもよい。これにより、さらに炭酸化率を向上させることができる。かかる工程は、従来公知の方法により二酸化炭素を吹き込むことにより行うことができる。このとき、工場等から排出される排気ガスを吹き込む二酸化炭素ガスとして利用するとよい。これにより、大気に排出される二酸化炭素の量をさらに削減することができる。なお、排気ガスを二酸化炭素ガスとして用いる場合には、フィルタ等を利用して除塵したガスを用いるとよい。
【0071】
上述した構成によれば、微細気泡発生装置20とスタティックミキサー30とを2回以上通過させることによって、好適に二酸化炭素を炭酸カルシウムとして固定化させることができる。このため、二酸化炭素供給工程において供給した二酸化炭素の量を計測することにより、炭酸カルシウムとして固定化させた二酸化炭素の量を算出することができる。すなわち、ここに開示される製造方法によれば、二酸化炭素を炭酸カルシウムとしてどの程度固定することができたか明示することも可能である。
【0072】
[試験例]
以下、ここに開示される技術に関する実施例を説明するが、ここに開示される技術をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0073】
1.第1の試験
<比較例1>
まず、インライン型のセラミックス製の微細気泡発生装置(ノリタケカンパニーリミテド製、平均細孔径:3.4μm、内径:3mm、長さ(L):100mm)と、スタティックミキサー(ノリタケカンパニーリミテド製のM6-12R、エレメント数:12、内径:6mm)と、を用意した。次いで、水酸化カルシウムを含むスラリーを貯留する供給タンクと、微細気泡発生装置と、スタティックミキサーと、二酸化炭素と反応済みのスラリーを回収する回収タンクと、を接続ラインによって接続した。このとき、スラリーの流れ方向に沿って微細気泡発生装置の下流側にスタティックミキサーを接続した。比較例1では、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位として、該単位を1単位有する装置を構築した。
次いで、1mol/Lの水酸化カルシウムスラリーを3L用意し、当該スラリーを円筒形状の供給タンクに投入した。供給タンク内で沈殿が起きないようにプロペラ式撹拌機でスラリーを撹拌した。反応開始前の水酸化カルシウムスラリーのpHは12.55~12.6程度、温度は20℃~22℃であった。そして、送液ポンプを作動させることにより、供給タンクに貯留されているスラリーを送液した。このとき、送液するスラリーの流量Xは、1400ml/min(微細気泡発生管内の流速は3.3m/s)となるように制御した。また、100%の二酸化炭素ガスを、当該二酸化炭素の供給量Yが1270ml/minとなるように制御して上記用意した微細気泡発生装置に供給し、スラリーに対して二酸化炭素を含む微細気泡を吹き込んだ。なお、二酸化炭素の供給圧力は0.285MPa~0.290MPaで制御し、ウルトラファインバブルが生成しやすい配管内との差圧を維持した。送液および吹き込みは、2分間行った。二酸化炭素と反応済みのスラリーは、安全弁を備える密閉系の回収タンクに回収した。かかる安全弁は、スラリーの導入により圧力が上がらないようガスを逃がす機構である。回収タンクは、スラリー供給停止後は完全な密閉状態として、二酸化炭素がタンク内の気相に出ることによる容器内圧力の上昇が無いことを確認した。
【0074】
<実施例1~3>
実施例1~3では、1mol/Lの水酸化カルシウムスラリーを10L用意した。また、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数と、二酸化炭素の供給圧力と、を表1に示すようにそれぞれ変更した。これらのこと以外は比較例1と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0075】
<比較例2>
比較例2では、スタティックミキサーはエレメント数が24のものを使用した。また、スラリーの流量Xは、915ml/min(微細気泡発生管内の流速は2.16m/s)となるように制御し、二酸化炭素ガスの供給量Yは、730ml/minとなるように制御した。そして、二酸化炭素の供給圧力は0.370MPa~0.375MPaで制御し、ウルトラファインバブルが生成しやすい配管内との差圧を維持した。これらのこと以外は比較例1と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0076】
<実施例4~6>
実施例4~7では、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数と、二酸化炭素の供給圧力と、を表1に示すように変更した。これらのこと以外は比較例2と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0077】
<参考例>
参考例では、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数と、二酸化炭素の供給圧力と、を表1に示すようにそれぞれ変更した。これらのこと以外は比較例2と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
なお、参考例では、炭酸化率を100%とすることを目的として、二酸化炭素を炭酸カルシウムの化学量論比よりも多く吹き込んだ。参考例では、スラリー供給停止後において完全な密閉状態とした際に、未反応の二酸化炭素がタンク内の気相に出ることにより、わずかに容器内圧力の上昇が確認された。
【0078】
<炭酸化率の測定>
各例の生成物(スラリー)を回収して乾燥させた後、(株)リガク社製の熱重量測定装置(Thermogravimetry-Differential Thermal Analysis:TG-DTA)を用いて炭酸化率(%)を測定した。また、吹き込んだ二酸化炭素ガスの量をもとに炭酸化率の理論値(%)を算出し、当該理論値(%)との差を算出した。結果を表1に示す。
【0079】
<二酸化炭素濃度の測定>
比較例1と実施例3について、回収タンクの安全弁から排出されるガスを熱伝導度検出器型ガスクロマトグラフ(島津製作所社製)で分析した。比較例1では、試験中にCO濃度が上昇していなかった。実施例3ではわずかにCO濃度が上昇していた。
【0080】
【表1】
【0081】
表1に示すように、単位数が1単位である比較例1および2では炭酸化率が5%未満である一方で、単位数が2単位以上である実施例1~6では炭酸化率が5%以上となることがわかる。製造効率の観点からは、微細気泡発生装置とスタティックミキサーとを2単位以上有していることが好ましい。微細気泡発生装置とスタティックミキサーとを2単位以上有する製造装置を用いることにより、二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができる。
【0082】
また、表1に示すように、単位数が10を超える実施例3および6では、高い炭酸化率を達成することができる。特に実施例3では、炭酸化率が50%近くまで達成することができ、さらに理論値との差が1%未満であることがわかる。
【0083】
また、比較例1、実施例3、実施例6、参考例では、スラリーのpHを確認した。かかるスラリーのpHは、配管容積を算出し、配管容積分の初期流出スラリーは除去して、安定した状態のスラリーにおいて測定した。比較例1および実施例3では、pHは12.55~12.6程度で変化がなかった。実施例6では、pHは11.9~12.1程度であった。参考例では、pHは6.5であった。炭酸化率が90%を超える実施例6および参考例では、未反応のスラリーに対して明確にpHが低下していた。
【0084】
2.第2試験
<実施例11>
まず、インライン型のセラミックス製の微細気泡発生装置(ノリタケカンパニーリミテド製、平均細孔径:3.4μm、内径:3mm、長さ(L):100mm)と、スタティックミキサー(ノリタケカンパニーリミテド製のM6-24R、エレメント数:24、内径:6mm)と、を用意した。次いで、水酸化カルシウムを含むスラリーを貯留する供給タンクと、微細気泡発生装置と、スタティックミキサーと、二酸化炭素と反応済みのスラリーを回収する回収タンクと、を接続ラインによって接続した。このとき、スラリーの流れ方向に沿って微細気泡発生装置の下流側にスタティックミキサーを接続した。実施例11では微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位として、該単位を6単位有する装置を構築した。
次いで、2mol/Lの水酸化カルシウムスラリーを10L用意し、当該スラリーを円筒形状の供給タンクに投入した。供給タンク内で沈殿が起きないようにプロペラ式撹拌機でスラリーを撹拌した。反応開始前の水酸化カルシウムスラリーのpHは12.55~12.6程度、温度は20℃~22℃であった。次いで、吸引ポンプを作動させることにより、供給タンクに貯留されているスラリーを送液した。このとき、送液するスラリーの流量Xは、2010ml/min(微細気泡発生管内の流速は4.74m/s)となるように制御した。次いで、100%の二酸化炭素ガスを、当該二酸化炭素の供給量Yが800ml/minとなるように制御して上記用意した微細気泡発生装置に供給し、スラリーに対して二酸化炭素を含む微細気泡を吹き込んだ。なお、二酸化炭素の供給圧力は0.37MPa~0.39MPaで制御し、ウルトラファインバブルが生成しやすい配管内との差圧を維持した。送液および吹き込みは、2分間行った。二酸化炭素と反応済みのスラリーは、安全弁を備える密閉系の回収タンクに回収した。かかる安全弁は、スラリーの導入により圧力が上がらないようガスを逃がす機構である。回収タンクは、スラリー供給停止後は完全な密閉状態として、二酸化炭素がタンク内の気相に出ることによる容器内圧力の上昇が無いことを確認した。
【0085】
<実施例12および13>
実施例12および13では、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数と、二酸化炭素の供給量Yと、二酸化炭素の供給圧力と、を表2に示すようにそれぞれ変更した。これらのこと以外は実施例11と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0086】
<実施例14>
実施例14では、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位として、該単位を30単位有する装置を構築した。また、二酸化炭素の供給量Yを600ml/minとし、二酸化炭素の供給圧力は0.37MPa~0.48MPaで制御した。実施例14では、回収タンクを開放した状態で反応後のスラリーを投入した後、すぐに蓋をして密閉した。そして、実施例14でも、二酸化炭素がタンク内の気相に出ることによる容器内圧力の上昇が無いことを確認した。これらのこと以外は実施例11と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0087】
<実施例15>
実施例15では、0.25mol/Lの水酸化カルシウムスラリーを10L用意した。また、スタティックミキサーはエレメント数が12のものを使用し、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数14とした。さらに、スラリー流量Xを1650ml/min(微細気泡発生管内の流速は3.89m/s)、二酸化炭素の供給量Yを450ml/minとし、二酸化炭素の供給圧力は0.28MPa~0.35MPaで制御した。これらのこと以外は実施例11と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0088】
<実施例16>
実施例16では、3mol/Lの水酸化カルシウムスラリーを10L用意した。また、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数30とした。さらに、スラリー流量Xを550ml/min(微細気泡発生管内の流速は1.3m/s)、二酸化炭素の供給量Yを950ml/minとし、二酸化炭素の供給圧力は0.37MPa~0.46MPaで制御した。これらのこと以外は実施例11と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0089】
<実施例17および18>
実施例17および18では、インライン型のセラミックス製の微細気泡発生装置において、微細気泡発生管の平均細孔径が1.3μmのものを使用し、スタティックミキサーはエレメント数が12のものを使用した。また、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数と、スラリー濃度、スラリーの流量X、二酸化炭素の供給量Y、および二酸化炭素の供給圧力を表2に示すようにそれぞれ変更した。これらのこと以外は実施例11と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0090】
<実施例19~21>
実施例19~21では、インライン型のセラミックス製の微細気泡発生装置において、微細気泡発生管の平均細孔径が10μmのものを使用し、スタティックミキサーはエレメント数が12のものを使用した。また、実施例19~21では、2mol/Lの水酸化カルシウムスラリーを10L用意した。また、微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数と、スラリーの流量X、二酸化炭素の供給量Y、および二酸化炭素の供給圧力を表2に示すようにそれぞれ変更した。これらのこと以外は実施例11と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0091】
<実施例22~25>
実施例22~25では、インライン型のセラミックス製の微細気泡発生装置において、微細気泡発生管の平均細孔径が10μmのものを使用し、スタティックミキサーはエレメント数が24のものを使用した。また、実施例22~25では、1mol/Lの水酸化カルシウムスラリーを10L用意した。微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数と、スラリーの流量X、二酸化炭素の供給量Y、および二酸化炭素の供給圧力を表2に示すようにそれぞれ変更した。これらのこと以外は実施例11と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0092】
<実施例26>
実施例26では、インライン型のセラミックス製の微細気泡発生装置において、微細気泡発生管の平均細孔径が10μmのものを使用し、スタティックミキサーは、エレメント数が18、内径が10mmのものを使用した。また、実施例26では、4mol/Lの水酸化カルシウムスラリーを10L用意した。微細気泡発生装置1つとスタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときの該単位数と、スラリーの流量X、二酸化炭素の供給量Y、および二酸化炭素の供給圧力を表2に示すようにそれぞれ変更した。これらのこと以外は実施例11と同様にして、炭酸カルシウムを製造した。
【0093】
<炭酸化率の測定>
各例の生成物(スラリー)を回収して乾燥させた後、上記した熱重量測定装置(TG-DTA)を用いて炭酸化率(%)を測定した。また、吹き込んだ二酸化炭素ガスの量をもとに炭酸化率の理論値(%)を算出し、当該理論値(%)との差を算出した。結果を表2に示す。なお、表2には、比較のために比較例1の結果も記載する。
【0094】
【表2】
【0095】
表2に示すように、単位数が1単位である比較例1では炭酸化率が5%未満である一方で、単位数が2単位以上である実施例11~26では炭酸化率が5%以上となることがわかる。製造効率の観点からは、微細気泡発生装置とスタティックミキサーとを2単位以上有していることが好ましい。微細気泡発生装置とスタティックミキサーとを2単位以上有する製造装置を用いることにより、二酸化炭素をほとんど外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができる。
【0096】
表2に示すように、単位数が10単位を超える実施例13~18、20、21、23~26では、炭酸化率が高くなることがわかる。炭酸化率をより向上させる観点からは、単位数が10単位を超えることが好ましい。また、スラリー流量Xに対するガス供給量Yの比(Y/X)が1.73である実施例16では、炭酸化率は良好である一方で、理論値との差が大きいことがわかる。実施例16では、スラリー流量Xに対してガス供給量Yが過剰傾向にありフラッディングが生じていたが、スタティックミキサーの撹拌効果により炭酸化率は良好であった。これらの結果から、炭酸化率を良好にしつつ、理論値との差を小さくするためには、スラリー流量Xに対するガス供給量Yの比(Y/X)が1を下回るように調整することが好ましい。
【0097】
微細気泡発生装置の平均細孔径が10μmである実施例19~26では、微細気泡発生装置の平均細孔径が3.4μmである実施例11~16や、1.3μmである実施例17および18と比較して、二酸化炭素の供給圧力が小さくてもウルトラファインバブルを好適に発生させることができた。
【0098】
実施例26では、スラリー濃度を4mol/Lとしたため、スラリーの粘度が高かった。実施例26では、反応がすすむにつれてさらに粘度が高くなる傾向にあり、スタティックミキサー内でつまりが発生しやすかった。スラリー濃度が高い場合には、スタティックミキサーの内径や、微細気泡発生装置の内径等を大きくするほうがよいと考えられる。
【0099】
実施例14では、回収タンクを開放した状態で反応後のスラリーを投入した後、すぐに蓋をして密閉したが、この場合においてもタンク内の圧力上昇は見られなかった。したがって、吹き込んだ二酸化炭素ガスは容器内のスラリーにほとんど溶け込んでおり、タンク内の気相(スラリーが存在しない部分)への放出はほとんどないと考えられる。例えば炭酸化率が40%以下程度となる条件に設定することにより、既存の開放系のタンクの間に当該微細気泡発生装置とスタティックミキサーとを接続するだけで、二酸化炭素を外部に放出することなく連続的に炭酸カルシウムを製造することができると推測される。ここに開示される微細気泡発生装置とスタティックミキサーとの構成によれば、固定化した二酸化炭素量を明確に提示可能なシステムを構築することができる。
【0100】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0101】
なお、ここに開示される技術は以下の項目1~13を含んでいる。以下の項目1~13は、上記した実施形態に限定されない。
【0102】
項目1は、炭酸カルシウムの製造装置に関する。項目1における炭酸カルシウムの製造装置は、
水酸化カルシウムを含むスラリーを供給するスラリー供給部と、
前記スラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として供給する二酸化炭素供給部と、
生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収するスラリー回収部と、
前記スラリー供給部、前記二酸化炭素供給部および前記スラリー回収部を接続する接続ラインと、
を備えており、
前記二酸化炭素供給部は、
前記スラリーの流れ方向に沿って、上流側に配置される微細気泡発生装置と、下流側に配置されるスタティックミキサーと、を有しており、
前記微細気泡発生装置1つと前記スタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときに、該単位を前記スラリーの流れ方向に沿って少なくとも2単位以上有している。
【0103】
項目2は、項目1に記載された製造装置であって、
前記微細気泡発生装置は、微細気孔を有する多孔質体からなる微細気泡発生管を備えている。
【0104】
項目3は、項目2に記載された製造装置であって、
前記微細気泡発生装置は、前記微細気孔の平均細孔径が0.5μm以上10μm以下である。
【0105】
項目4は、項目1~3のいずれか一つに記載された製造装置であって、
前記微細気泡発生装置は、
平均粒径が100μm以下であり、少なくとも粒径が1μm未満のウルトラファインバブルを含むように微細気泡を発生させる。
【0106】
項目5は、項目1~4のいずれか一つに記載された製造装置であって、
前記スラリー供給部は開放系の供給タンクを有し、
前記スラリー回収部は開放系の回収タンクを有しており、
前記供給タンク、前記微細気泡発生装置、前記スタティックミキサー、および前記回収タンクが前記接続ラインによって接続されている。
【0107】
項目6は、項目1~5のいずれか一つに記載された製造装置であって、
前記微細気泡発生装置はそれぞれ、二酸化炭素を供給する二酸化炭素供給ラインに接続されており、
前記接続ライン内を流れるスラリーの流量を流量X、前記二酸化炭素供給ラインに供給される二酸化炭素の供給量を供給量Yとしたときに、
流量Xに対する供給量Yの比(Y/X)が1未満である。
【0108】
項目7は、項目1~6のいずれか一つに記載された製造装置であって、
前記微細気泡発生装置1つと前記スタティックミキサー1つとの構成を1単位としたときに、該単位を前記スラリーの流れ方向に沿って2単位以上50単位以下有している。
【0109】
項目8は、項目1~7のいずれか一つに記載の製造装置に用いられるパーツに関するものである。項目8におけるパーツは、
スラリーの流れ方向に沿って上流側に配置される1つの微細気泡発生装置と、
下流側に配置される1つのスタティックミキサーと、
前記微細気泡発生装置と前記スタティックミキサーとを接続する接続ラインと、
を備える。
【0110】
項目9は、炭酸カルシウムの製造方法に関するものである。項目9における炭酸カルシウムの製造方法は、
水酸化カルシウムを含むスラリーを供給する工程と、
前記スラリーに対して二酸化炭素を微細気泡として供給する工程と、
生成した炭酸カルシウムを含むスラリーを回収する工程と、
を含み、
前記二酸化炭素供給工程では、
前記スラリーの流れ方向に沿って上流側に配置される1つの微細気泡発生装置と、下流側に配置される1つのスタティックミキサーとの構成を1単位としたときに、該単位を少なくとも2回以上通過させることを特徴とする。
【0111】
項目10は、項目9に記載された製造方法であって、
前記スラリー供給工程における前記スラリーの流量を流量X、前記二酸化炭素供給工程における二酸化炭素の供給量を供給量Yとしたときに、
前記流量Xに対する前記供給量Yが1未満となるように前記スラリーの流量と前記二酸化炭素の供給量とを調整する。
【0112】
項目11は、項目9または10に記載された製造方法であって、
前記水酸化カルシウムを含むスラリー中の該水酸化カルシウムの濃度は、0.1mol/L以上4mol/L以下である。
【0113】
項目12は、項目9~項目11のいずれか一つに記載された製造方法であって、
前記二酸化炭素供給工程では、
平均粒径が100μm以下であり、少なくとも粒径が1μm未満のウルトラファインバブルを含む微細気泡として二酸化炭素を供給する。
【0114】
項目13は、項目9~項目12のいずれか一つに記載された製造方法であって、
前記スラリー回収工程において回収されたスラリーに対して、さらに二酸化炭素を供給する第2の二酸化炭素供給工程を含む。
【符号の説明】
【0115】
20 微細気泡発生装置
21 微細気泡発生管
21a 上流側端部
21b 下流側端部
22 基材部
23a 上流側支持部
23b 下流側支持部
24 胴部
25 スラリー流入口
26 スラリー流出口
27 二酸化炭素流入口
30 スタティックミキサー
32 管路
34 混合素子(エレメント)
34a 右エレメント
34b 左エレメント
100 製造装置
110 スラリー供給部
111 供給ライン
112 バルブ
113 供給タンク
114 送液ポンプ
115 撹拌機
120 二酸化炭素供給部
122 ガス貯留部
124 二酸化炭素供給ライン
126 圧力調整バルブ
128 ニードルバルブ
130 スラリー回収部
132 回収タンク
134 回収ライン
136 バルブ
138 撹拌機
140 接続ライン
142a 三方弁
142b 三方弁
144 バルブ
図1
図2
図3
図4