(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154736
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】筆記具用水性インク組成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/16 20140101AFI20241024BHJP
B43K 8/02 20060101ALI20241024BHJP
B43K 7/01 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C09D11/16
B43K8/02 110
B43K7/01
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068737
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】000005957
【氏名又は名称】三菱鉛筆株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101878
【弁理士】
【氏名又は名称】木下 茂
(74)【代理人】
【識別番号】100187506
【弁理士】
【氏名又は名称】澤田 優子
(72)【発明者】
【氏名】有永 幹基
【テーマコード(参考)】
2C350
4J039
【Fターム(参考)】
2C350GA03
2C350GA04
2C350HA08
2C350HA15
2C350NA11
4J039BC13
4J039BE01
4J039BE02
4J039BE12
4J039CA05
4J039DA02
4J039EA43
4J039EA47
4J039GA26
4J039GA27
(57)【要約】
【課題】ペン先は乾燥し難く、かつ、短時間で筆跡は乾いて紙に滲まない、耐滲み性および良好な筆記性を長期に渡り安定的に維持することができる筆記具用水性インク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、水不溶性粒子と水溶性溶剤とを含み、1kg荷重下に水性インク組成物をポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径8μm)で濾過したときの1分後の通液量が0.1g以上であり、同じくポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径5μm)で濾過したときの1分後の通液量が20g以下であり、さらに体積基準で算出した粒度分布の累積の10%粒子径(D10)が1.5μm以下、累積の50%粒子径(D50)が6.5μm以下、累積の90%粒子径(D90)が15μm以下であり、EMD型回転粘度計における50回転でのインク粘度が30mPa以下である筆記具用水性インク組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、水不溶性粒子と水溶性溶剤とを含み、
1kg荷重下に水性インク組成物をポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径8μm)で濾過したときの1分後の通液量が0.1g以上であり、同じくポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径5μm)で濾過したときの1分後の通液量が20g以下であり、さらに体積基準で算出した粒度分布の累積の10%粒子径(D10)が1.5μm以下、累積の50%粒子径(D50)が6.5μm以下、累積の90%粒子径(D90)が15μm以下であり、
EMD型回転粘度計における50回転でのインク粘度が30mPa以下である筆記具用水性インク組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の筆記具用水性インク組成物を搭載した筆記具。
【請求項3】
請求項1に記載の筆記具用水性インク組成物を搭載したマーキングペン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ペン先の乾燥を抑えつつ、筆記用紙に書いた描線が滲むことのない筆記具用水性インク組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
水性インク組成物を含む筆記具は、水や水溶性溶剤を主成分としているため、キャップを外したまま長時間放置すると、ペン先から水分が蒸発して、インクの粘度が上がり、筆記不良が発生する。ペン先が乾燥して筆記できなくなる問題は、グリコール類のような高沸点溶媒を添加することで解決されるが(特許文献1)、添加量が多いと粘度が高くなり、描線が乾燥し難くなる。
【0003】
着色剤の粒子径が大きくなれば、筆記用紙に書いた描線の滲みを抑えることができるが、その一方で、粒径があまり大きくなると、インク組成物中で沈降したり、紙面で目詰まりを起こすことがある。また、水性インクは、水に不溶な着色剤のほかに、分散剤および界面活性剤等を含む複雑な成分系であり、着色剤は、これらの成分の影響を受けて、その分散状態や凝集状態が複雑に変化する。特許文献2では、顔料に対して、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸系分散剤(POEP)およびポリオキシエチレンアルキルエーテルサルフェート系分散剤(POES)のうち一種以上の分散剤を5~30重量%で配合して耐滲み性を向上させている。このような着色剤の粒径に関して、レーザー回折法を用いた粒度分布による累積の50%粒子径(D50)が0.2~1.0μm、70%粒子径(D70)が0.1~0.3μm、90%粒径(D90)が1.0~5.0μm(いずれも体積基準)となるように、水性ボールペン用組成物の黒色顔料の粒子径を調整する報告例がある(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-206823号公報
【特許文献2】特開2004-67769号公報
【特許文献3】特開2021-181515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、前記した従来の課題を解決すべく、ペン先は乾燥し難く、かつ、短時間で筆跡は乾いて紙に滲まない、耐滲み性および良好な筆記性を長期に渡り安定的に維持することができる筆記具用水性インク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の筆記具用水性インク組成物は、少なくとも、水不溶性粒子と水溶性溶剤とを含み、1kg荷重下に水性インク組成物をポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径8μm)で濾過したときの1分後の通液量が0.1g以上であり、同じくポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径5μm)で濾過したときの1分後の通液量が20g以下であり、さらに体積基準で算出した水不溶性粒子の粒度分布の累積の10%粒子径(D10)が1.5μm以下、累積の50%粒子径(D50)が6.5μm以下、累積の90%粒子径(D90)が15μm以下であり、EMD型回転粘度計における50回転でのインク粘度が30mPa以下であることを特徴とする。
このように、水不溶性粒子の大きさの指標となるインク通液性と低いインク粘度とを備えることで、筆記具用水性インク組成物が良好な筆記性と耐滲み性を持つことができる。
【0007】
本発明の筆記具は、前記水性インク組成物を搭載したものである。
本発明のマーキングペンは、前記水性インク組成物を搭載したものである。
前記した組成を有する水性インク組成物を用いることで、高い滲み防止効果と良好な筆記性を有するマーキングペン等の筆記具が得られる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、kg荷重下に水性インク組成物をポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径8μm)で濾過したときの1分後の通液量が0.1g以上であり、同じくポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径5μm)で濾過したときの1分後の通液量が20g以下にすることにより、耐滲み性に優れ、かつ、良好な筆記性を長期に渡り維持することができる筆記具用水性インク組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の筆記具用水性インク組成物(以下単に「水性インク組成物」ともいう。)について詳細に説明する。
前記水性インク組成物は、少なくとも、水不溶性粒子と水溶性溶剤とを含み、1kg荷重下に水性インク組成物をメンブレンフィルター(直径25mm、孔径8μm)で濾過したときの1分後の通液量が0.1g以上であり、同じくポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径5μm)で濾過したときの1分後の通液量が20g以下であり、さらにレーザー回折法による粒度分布の測定により求めた水性インク組成物の水不溶性粒子の累積の10%粒子径(D10)が1.5μm以下、累積の50%粒子径(D50)が6.5μm以下、累積の90%粒子径(D90)が15μm以下、EMD型回転粘度計における50回転でのインク粘度が30mPa以下である。
【0010】
水不溶性粒子は、具体的には染料または/および顔料で着色された粒子である。
顔料は無機顔料および有機顔料のいずれも用いることができる。
無機顔料は、例えば、カーボンブラックや金属粉等である。
有機顔料は、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、キレートアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレンおよびペリノン系の顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、染料レーキ、ニトロ顔料およびニトロソ顔料等である。具体的には、フタロシアニンブルー(C.I.74160)、フタロシアニングリーン(C.I.74260)、ハンザイエロー3G(C.I.11670)、ジスアゾイエローGR(C.I.21100)、パーマネントレッド4R(C.I.12335)、ブリリアントカーミン6B(C.I.15850)およびキナクリドンレッド(C.I.46500)等が挙げられる。その他、スチレンやアクリル樹脂の粒子から構成されているプラスチックピグメントも使用できる。また、粒子内部に空隙のある中空樹脂粒子は、白色顔料として、または染料で染着した擬似顔料として多色用等に使用できる。
【0011】
本発明で用いる水不溶性粒子は、公知の懸濁重合や分散重合等の手法により、樹脂成分を前記した着色剤で着色した着色樹脂粒子であってもよい。
着色樹脂粒子の樹脂成分は、例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、アクリロニトリル、ブタジエン等の重合体およびこれらの共重合体、ベンゾグアナミン、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ならびにウレタン樹脂等である。これらの樹脂はその一部が架橋していてもよい。
【0012】
着色樹脂粒子は、(ア)樹脂粒子中に顔料が分散した着色樹脂粒子、(イ)樹脂粒子の表面が前記顔料で被覆された着色樹脂粒子、(ウ)樹脂粒子が、前記水溶性染料で染色された着色樹脂粒子、(エ)ロイコ色素と顕色剤との可逆反応を利用した熱変色性の着色樹脂粒子、などである。
【0013】
(エ)の熱変色性の着色樹脂粒子としては、ロイコ色素、顕色剤および変色温度調整剤を含み、二段階(有色・無色)に色調が変化するロイコ色素と顕色剤とが可逆的に反応して熱で変色する熱変色性組成物をマイクロカプセル化した着色樹脂粒子が挙げられる。なお、カプセル膜剤には、壁膜がウレタン樹脂、エポキシ樹脂またはアミノ樹脂等となる樹脂原料が用いられる。
これらを必要に応じて混合に用い、通液性を調整することで、より本件の効果を発揮することができる。
【0014】
水不溶性粒子に着色する染料としては、塩基性染料、油溶性染料、酸性染料および分散染料等が用いられ、染める水不溶性粒子の基材によって使い分ける。特に、塩基性染料、油溶性染料および分散染料が好ましい。
【0015】
これらの着色剤は、単独でも二種類以上を併用してもよい。
水溶性インク組成物中の着色剤含有量は、通常0.5~30重量%、好ましくは1~15重量%である。30重量%を超える場合、経時的に顔料が凝集したり、染料が析出したりして、ペン先に詰まり、筆記不良を起こすことがある。一方、0.5重量%未満では、着色が弱く、筆跡の色相が分かり難くなる。
【0016】
水性インク組成物中の水不溶性粒子の粒度分布の累積の10%粒子径(D10)は1.5μm以下、累積の50%粒子径(D50)は6.5μm以下、累積の90%粒子径(D90)は15μm以下である。好ましくは、水性インク組成物中の水不溶性粒子の累積の10%粒子径(D10)は0.1~1.0μm、累積の50%粒子径(D50)は0.1~3.0μm、累積の90%粒子径(D90)は0.1~10μmである。また、水不溶性粒子が酸化チタンを含まない場合は、累積の10%粒子径(D10)は1.5μm以下、累積の50%粒子径(D50)は3μm以下、累積の90%粒子径(D90)は6.5μm以下とすることが好ましい。前記「粒径」とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した粒径分布の体積基準による累積粒度曲線に基づく粒径をいう。「D10」、「D50」および「D90」とは、レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置を用いて測定した粒径分布の累積粒度曲線において、その積算量が体積基準でそれぞれ、10%、50%、および90%を占めるときの粒径(μm)を示す。このような累積粒度分布を有する各種の異形の水不溶性粒子を用いることにより、耐滲み性と良好な描線が得られる。一方、水不溶性粒子の粒径が前記範囲を逸脱すると、水性インク組成物が分散性に低下し、筆記不良を起こすことがある。
【0017】
体積基準による累積粒度分布のD10、D50、D90を満たす水不溶性粒子は、以下のように、分散方法(メディア分散、ロールミルによる分散)、メディア(種類、大きさ)、分散時間を適宜組み合わせることにより調整することができる。
【0018】
メディア分散機としては、例えば、スターミルナノゲッター、スターミルZRS(アシザワ・ファインテック株式会社、製品名)、ウルトラアペックスミル、デュアルアペックスミル(株式会社広島メタル&マシナリー、製品名)、ピコミル、ナノミル(淺田鉄工株式会社、製品名)、マイクロメディア(ビューラー株式会社、製品名)、MSC-MILL(日本コークス工業株式会社、製品名)、サンドミル等が挙げられる。
【0019】
分散メディア粒子の材質としては、特に限定されないが、分散体への金属不純物を低減するという観点から、ガラスビーズ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素等のセラミックス製のメディア等を用いることができる。
分散メディア粒子径は、分散処理の効率化、前記の累積粒度分布を得る点から、0.05~2.0mmのものを用いることができる。
メディア分散機の回転数や周速、分散時間は水不溶性粒子の種類に応じて適宜設定される。
【0020】
ロールミルによる分散は、ロール間圧力を利用した圧縮作用と、周速度が異なるロール間でのせん断作用により分散を行うものが挙げられ、例えば、ロールミル等が挙げられる。ロールミルとしては特に限定されず、公知の三本ロールミルを使用できる。三本ロールミルにより互いに異なる方向・所定の速度比で回転・接触し圧力・せん断力を与え、本発明の所定の累積粒度分布となる水不溶性粒子を分散し、調整することができる。
【0021】
前記水不溶性粒子の含有量は、水性インク組成物全量中、通常は0.5~60重量%、好ましくは1.0~30重量%である。水不溶性粒子の配合量が60重量%を超えると、ペン体での目詰まりなど起こしやすく、筆記不良の原因になりやすい。
【0022】
水溶性溶剤は、低温下でインクが凍結したり、ペン先でのインクが乾燥したりするのを防止する等の目的で使用される。
水溶性溶剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、ポリエチレングリコール、1,3-ブチレングリコール、ジプロピレングリコール、チオジエチレングリコールおよびグリセリン等のグリコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルおよびジエチレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類が用いられる。これらの水溶性溶剤は単独でも二種類以上を併用してもよい。水溶性溶剤の含有量は、水溶性インク組成物全量に対して、通常は3~40%、好ましくは5~30%である。
【0023】
本発明の水性インク組成物は、水不溶性粒子、水溶性溶剤および水に加えて、必要に応じて、分散剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤、防錆剤、防腐・防菌剤、pH調整剤等を含有することができる。
さらに、本発明の水性インク組成物は、発明の効果を損なわない範囲で、着色剤で着色しない無色の水不溶性粒子も併用することができる。
【0024】
水には、水道水、蒸留水、イオン交換水およびRO水が用いられる。
水不溶性粒子として、顔料で着色した着色樹脂粒子を用いる場合、分散剤を使用することが好ましい。分散剤には、非イオン系および陰イオン系の界面活性剤や水溶性高分子が用いられる。これらのうち水溶性高分子、具体的には、スチレン-マレイン酸共重合体のアンモニウム塩やスチレン-アクリル酸共重合体のアンモニウム塩等が好ましい。これらの分散剤は、顔料表面に吸着して、着色樹脂粒子を水中で安定に分散させる働きをする。
【0025】
潤滑剤には、顔料の表面処理剤にも用いられる多価アルコールの脂肪酸エステル、糖の高級脂肪酸エステル、ポリオキシアルキレン高級脂肪酸エステル、アルキル燐酸エステルなどのノニオン系や、高級脂肪酸アミドのアルキルスルホン酸塩、アルキルアリルスルホン酸塩などのアニオン系、ポリアルキレングリコールの誘導体やフッ素系界面活性剤、ポリエーテル変性シリコーン等が挙げられる。
【0026】
増粘剤は、水性インク組成物の粘度を上げ、特に水不溶性粒子の沈降抑制のため、少量添加することが効果的である。増粘剤には、インクの流出および水不溶性粒子の沈降の抑制において擬塑性を付与する剪断減粘性付与剤が好ましい。剪断減粘性付与剤には、合成高分子、天然ゴム、セルロース、多糖類等が用いられる。
【0027】
増粘剤の具体例は、アラビアガム、サクシノグリカン、ウェランガム、トラガカントガム、グアーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、カラギーナン、ゼラチン、カゼイン、キサンタンガム、デキストラン、デンプングリコール酸ナトリウム、アルギン酸プロピレングリコールエステル、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸ナトリウム、カルボキシビニルポリマー、ポリエチレンオキサイド、酢酸ビニルとポリビニルピロリドンの共重合体、架橋型アクリル酸重合体、スチレンアクリル酸共重合体の塩等である。水性インク組成物中の増粘剤の含有量は、固形分で通常0.1~0.6重量%、好ましくは0.1~0.4重量%である。
【0028】
界面活性剤には、非イオン系およびイオン系の界面活性剤のいずれを用いてもよいが、良好な濡れ性と消泡性を持つ点から、非イオン系界面活性剤であるアセチレン界面活性剤が好ましい。アセチレン界面活性剤は、水性インク組成物のうち、特に水溶性溶剤と親和することで、その粘度を調節し、書き始めから安定してインクが出る働きをする。
【0029】
防錆剤は、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、ジシクロへキシルアンモニウムナイトライト、サポニン類など、pH調整剤としてはアンモニア、尿素、トリエタノールアミン、アミノメチルプロパノール、水酸化ナトリウム等であり、防腐剤もしくは防菌剤は、例えば、フェノール、ナトリウムオマジン、安息香酸ナトリウム、ベンズイミダゾール系化合物等である。
【0030】
本発明の水性インク組成物を1kg荷重下にポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径8μm)で濾過したときの1分後の通液量は0.1g以上であり、好ましくは0.5g以上である。また、同じく前記水性インク組成物を1kg荷重下にポリカーボネート製メンブレンフィルター(直径25mm、孔径5μm)で濾過したときの1分後の通液量は20g以下であり、好ましくは18g以下である。前記通液量とは、直径25mm、孔径8μm、ないし孔径5μmのシリンジフィルターに水性インク組成物を充填し、1kgの荷重下に1分間、ピストンで加圧濾過した場合の通液量(g/1分)である。なお、本発明では、ポリカーボネート製のシリンジフィルターを使用するが、特段これに限定されるものでなく、例えば、ポリテトラフルオロエチレン製であってもよい。
【0031】
EMD型回転粘度計により測定した温度25℃、回転数50回転、剪断速度191.5sec-1のときの水性インク組成物の粘度は30mPa以下、好ましくは3~20mPaである。
【0032】
本発明の水性インク組成物は、水不溶性粒子、水溶性溶剤および水と、分散剤、潤滑剤、増粘剤、界面活性剤等の任意成分とをホモミキサー、ホモジナイザーまたはホモディスパー等の攪拌機により撹拌混合することにより調製することができる。さらに必要に応じて、ろ過や遠心分離によって水性インク組成物中の粗大粒子を除去する操作を加えてもよい。
【0033】
本発明の筆記具は、前記水性インク組成物を搭載したものである。筆記具は、低粘度ボールペン(中綿式・直液式)、ゲルインクボールペン、およびフェルトペン(中綿式・バルブ式)等である。
本発明の水性インク組成物は、ボール抱持部におけるボールの軸方向の移動距離(移動量)、すなわち、ボールペン用チップのクリアランスが10~45μmのボールペンや、気孔率が30~70%のペン芯を有するマーキングペンに好適に用いられる。
【実施例0034】
次に、筆記具用水性インク組成物の実施例1~12および比較例1~6により本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例等に限定されるものではない。
[水性インク組成物の測定および評価]
(1)粘度
EMD型回転粘度計(東京計器株式会社)を用いて、温度25℃、回転数50回転、剪断速度191.5sec-1のときの条件における水性インク組成物の粘度を測定した。
【0035】
(2)水不溶性粒子の粒径
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置 LA-960シリーズ(株式会社堀場製作所、製品名)を用いて、レーザー回折法で測定される体積基準により算出された粒度分布の累積の10%粒子径(D10)、累積の50%粒子径(D50)、累積の90%粒子径(D90)を粒径(μm)とした。
粒径の計算にあたり、水不溶性粒子A~Cの各材質の屈折率を用いた。二種以上の材質で形成されている場合、各材質の屈折率のおおよその平均値として1.81とした。
【0036】
(3)水性インク組成物の通液性
25mlのシリンジに水性インク組成物を吸い上げ、質量1kgの錘を載せてその自重で水性インク組成物をメンブレンフィルター(直径25mm、孔径8μm;ポリカーボネートメンブレン)に通液させて、3分放置した後の通液量(g)を求めた。
【0037】
(4)耐滲み性
水性インク組成物を装填したサインペンまたは水性ボールペンを用いて、ISO規格に準拠した筆記用紙に手書きで約25cm描線し、下記の評価基準で、目視で耐滲み性を評価した。
評価基準:
A:滲みが全くなし
B:若干滲みが発生している
C:描線・終筆部に滲みあり
【0038】
(5)保存安定性
水性インク組成物を装填したサインペンまたは水性ボールペンのキャップを閉めて60℃、30%RHの恒温恒湿槽で下向きで30日間静置した。その後、室温まで放冷後、手書きで螺旋状の丸を連続筆記して、下記の評価基準で筆記性を評価した。
A:問題なく筆記できる
B:擦れが発生している
C:筆記できない
【0039】
〔水性インク組成物の調製〕
[実施例1]
表1に示すように、水不溶性粒子A(着色樹脂粒子)(ラブコロール224(SMD)ブラック;大日精化工業株式会社)を5重量部、水溶性溶剤(グリセリン)10重量部、防腐剤(バイオデン421;大和化学工業株式会社)0.3重量部、および水84.7重量部をビーズミル分散機と羽根つき撹拌機を用いて分散、混合して水性インク組成物を調製した。水84.7重量部は、表1中、水性インク組成物の各成分の合計100重量部から水不溶性粒子A、水溶性溶剤および防腐剤の含有量を除いた残部である。
【0040】
[実施例2~12][比較例1~6]
表1および表2に示す配合量で水性インク組成物を調製した。
【0041】
〔サインペンの作製〕
前記水性インク組成物を軸筒(品名 PC-5M、三菱鉛筆(株))内に充填してサインペンを作製した。サインペン用のインク収容管に収容するペン芯には、太さ3デニールのポリエステル繊維を圧縮し、気孔率を調整し、束ねたものをそれぞれ用いた。
なお、気孔率は、下記のようにして算出される。まず、既知の質量及び見掛け体積を有するペン芯を水中に浸し、十分に水を浸み込ませた後、水中から取り出した状態で質量を測定する。測定した質量から、ペン芯に浸み込ませた水の体積が導出される。この水の体積をペン芯の気孔体積と同一として、下記式(A)から、気孔率が算出される。
気孔率(単位:%)=(水の体積)/(ペン芯の見掛け体積)×100 ……(A)
【0042】
〔水性ボールペンの作製〕
ボールペン〔三菱鉛筆株式会社製、商品名:シグノUM-151〕の軸を使用し、内径3.8mm、長さ113mmのポリプロピレン製インク収容管ボールペンチップ(ホルダー:ステンレス製、ボール:超硬合金ボール、ボール径0.5mm)、および該収容管と該チップを連結する継手からなるリフィールに、上記で得られた水性インク組成物を充填し、インク後端にポリブテンからなるインク追従体を充填して水性ボールペンを作製した。筆記ボールの軸方向(上下方向)の移動量(移動距離)は、表1および表2の通り、各種調整したものを用いた。
【0043】
【0044】
【0045】
表1および表2中の材料は以下の通りである。
※1:水不溶性粒子A(着色樹脂粒子)
(ラブコール224(SMD)ブラック)(黒色粉末;大日精化工業株式会社製)
※2:水不溶性粒子B(熱変色マイクロカプセル)
(熱変色マイクロカプセル顔料)(青色粉末)
※3:水不溶性粒子C(酸化チタン)
(JR-701)(白色粉末;テイカ株式会社製)
本発明の水性インク組成物は、低粘度ボールペン等の中綿式もしくは直液式のマーキングペン、中綿式もしくはバルブ式のフェルトペン、特にマーキングペンに好適に用いられる。