(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154793
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】複合材料
(51)【国際特許分類】
C08J 5/04 20060101AFI20241024BHJP
C08G 61/06 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08J5/04
C08G61/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068858
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】503423096
【氏名又は名称】RIMTEC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000486
【氏名又は名称】弁理士法人とこしえ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福本 直記
(72)【発明者】
【氏名】亀井 伸人
【テーマコード(参考)】
4F072
4J032
【Fターム(参考)】
4F072AB03
4F072AB29
4F072AD11
4F072AG03
4F072AH04
4F072AH21
4F072AJ22
4J032CA32
4J032CA38
4J032CB04
4J032CC03
4J032CD02
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成形性およびリサイクル性に優れる複合材料を提供すること。
【解決手段】熱可塑性有機繊維および天然有機繊維から選択される少なくとも一種の繊維からなる繊維状部材と、シクロオレフィンモノマーおよびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物とを含む複合材料を提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性有機繊維および天然有機繊維から選択される少なくとも一種の繊維からなる繊維状部材と、シクロオレフィンモノマーおよびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物とを含む複合材料。
【請求項2】
前記シクロオレフィンモノマーが、極性基を有しないシクロオレフィンモノマーである請求項1に記載の複合材料。
【請求項3】
前記シクロオレフィンモノマーが、ジシクロペンタジエン類および四環以上の環状オレフィン類を含有する請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項4】
前記繊維状部材に、前記重合性組成物を含浸させてなる請求項1または2に記載の複合材料。
【請求項5】
請求項1または2に記載の複合材料を硬化させてなる複合材料成形体。
【請求項6】
請求項5に記載の複合材料成形体を粉砕してなる再生材料。
【請求項7】
請求項6に記載の再生材料、前記シクロオレフィンモノマー、および前記メタセシス重合触媒を含む再生重合性組成物。
【請求項8】
請求項7に記載の再生重合性組成物を硬化させてなる再生材料含有成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合材料に関し、特に、成形性およびリサイクル性に優れる複合材料に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラス繊維や炭素繊維に、マトリックス樹脂を含浸させてなる複合材料が知られている(例えば、特許文献1)。このような複合材料は、成形性や、得られる複合材料の諸物性に優れることから、様々な分野で活用されている一方で、リサイクル性に劣り、最終的には埋め立て処分となるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、成形性およびリサイクル性に優れる複合材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者は、上記目的を達成すべく検討を行ったところ、特定の繊維状部材と、特定の重合性組成物とを組み合わせて用いることにより、上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明によれば、以下の複合材料が提供される。
[1] 熱可塑性有機繊維および天然有機繊維から選択される少なくとも一種の繊維からなる繊維状部材と、シクロオレフィンモノマーおよびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物とを含む複合材料。
[2] 前記シクロオレフィンモノマーが、極性基を有しないシクロオレフィンモノマーである[1]に記載の複合材料。
[3] 前記シクロオレフィンモノマーが、ジシクロペンタジエン類および四環以上の環状オレフィン類を含有する[1]または[2]に記載の複合材料。
[4] 前記繊維状部材に、前記重合性組成物を含浸させてなる[1]~[3]のいずれかに記載の複合材料。
【0007】
また、本発明によれば、以下の複合材料成形体、再生材料、再生重合性組成物および再生材料含有成形体が提供される。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の複合材料を硬化させてなる複合材料成形体。
[6] [5]に記載の複合材料成形体を粉砕してなる再生材料。
[7] [6]に記載の再生材料、前記シクロオレフィンモノマー、および前記メタセシス重合触媒を含む再生重合性組成物。
[8] [7]に記載の再生重合性組成物を硬化させてなる再生材料含有成形体。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、成形性およびリサイクル性に優れる複合材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<複合材料>
本発明の複合材料は、熱可塑性有機繊維および天然有機繊維から選択される少なくとも一種の繊維からなる繊維状部材と、シクロオレフィンモノマーおよびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物とを含む。
【0010】
[繊維状部材]
本発明で用いる繊維状部材は、熱可塑性有機繊維および天然有機繊維から選択される少なくとも一種の繊維からなる部材である。
【0011】
繊維状部材は、一種単独の熱可塑性有機繊維からなるものであってよく、一種単独の天然有機繊維からなるものであってよく、二種以上の熱可塑性有機繊維からなるものであってよく、二種以上の天然有機繊維からなるものであってよく、一種以上の熱可塑性有機繊維および一種以上の天然有機繊維からなるものであってよい。また、繊維状部材は、一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて(たとえば、積層して)用いてもよい。
【0012】
熱可塑性有機繊維は、熱可塑性樹脂からなる有機繊維である。熱可塑性有機繊維を形成する熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、フッ素樹脂;アクリル樹脂;シリコーン樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリメチルペンテンなどのオレフィン重合体系樹脂;ポリ塩化ビニル;ポリ塩化ビニリデン;ポリ酢酸ビニル;エチレン-酢酸ビニル共重合体;ポリビニルアルコール;ポリアセタール;ポリエチレンテレフタレート;ポリブチレンテレフタレート;ポリエチレンナフタレート;ポリスチレン;ポリアクリロニトリル;スチレン-アクリロニトリル共重合体;アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ニトリルゴム);アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS樹脂);スチレン-ブタジエンブロック共重合体またはその水素添加物;スチレン-イソプレンブロック共重合体またはその水素添加物;ポリフェニレンエーテル;変性ポリフェニレンエーテル;脂肪族ポリアミド類;芳香族ポリアミド類;ポリアミドイミド;ポリカーボネート;ポリフェニレンスルフィド;ポリサルホン;ポリエーテルサルホン;ポリエーテルニトリル;ポリエーテルケトン;ポリケトン;ポリウレタン;液晶ポリマー;アイオノマー;などが挙げられる。また、熱可塑性有機繊維としては、ペットボトルを再生してできたポリエステル等のリサイクル繊維も挙げられる。これらの中でも、熱可塑性有機繊維としては、融点が100℃以上である熱可塑性有機繊維が好ましく、融点が100℃以上であるオレフィン系重合体がより好ましく、ポリエチレンおよびポリプロピレンがさらに好ましい。
【0013】
天然有機繊維としては、綿(木綿)、ジュート、麻、ケナフ等の植物繊維;羊毛、モヘヤ、カシミア、キャメル、ラマ、アルパカ、ビキューナ、アンゴラ、天蚕糸、絹、豚革、牛革等の動物繊維;等が挙げられる。これらの中でも、天然有機繊維としては、植物繊維が好ましく、ジュート、麻およびケナフがより好ましい。
【0014】
繊維状部材を形成する繊維の長さは、用途に応じて適宜選択すればよく、短繊維および長繊維のいずれのものも用いることができる。得られる複合材料成形体の機械的強度をより高める観点から、繊維の長さは、通常、1cm以上、好ましくは2cm以上、より好ましくは3cm以上である。
【0015】
繊維状部材の形状としては、編物、織物、不織布等のシート状;ステープル;フィラメント;コード状;ロープ状;等が挙げられる。
【0016】
織物の形態としては、従来公知のものが利用可能であり、例えば、平織、繻子織、綾織、3軸織物等の繊維が交錯する織り構造の全てが利用できる。また、織物の形態としては、2次元だけでなく、織物の厚み方向に繊維が補強されているステッチ織物や3次元織物等も利用できる。
【0017】
織物等は、繊維束糸条により形成されていてもよい。繊維束糸条1本中のフィラメント数としては、特に限定はないが、好ましくは5~200本、より好ましくは10~100本である。
【0018】
繊維状部材がシート状である場合、繊維状部材の目付量は、使用目的に応じて適宜選択されるが、50~4500g/m2が好ましく、100~4500g/m2がより好ましく、200~2000g/m2がさらに好ましく、300~1500g/m2が特に好ましい。なお、シートを複数枚積層して、繊維状部材として用いてもよく、この場合、合計の目付量が上記範囲内であることが好ましい。
【0019】
[重合性組成物]
本発明で用いる重合性組成物は、シクロオレフィンモノマーおよびメタセシス重合触媒を含む。
【0020】
シクロオレフィンモノマーは、分子内に脂環式構造と炭素-炭素二重結合とを有する化合物である。シクロオレフィンモノマーを構成する脂環式構造としては、単環、多環、縮合多環、橋かけ環およびこれらの組み合わせ多環などが挙げられる。脂環式構造を構成する炭素数に格別な制限はないが、通常4~30個、好ましくは5~20個、より好ましくは5~15個である。
【0021】
シクロオレフィンモノマーとしては、単環シクロオレフィンモノマーや、ノルボルネン系モノマーなどが挙げられ、ノルボルネン系モノマーが好ましい。ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環構造を分子内に有するシクロオレフィンモノマーである。これらは、アルキル基、アルケニル基、アルキリデン基、アリール基などの炭化水素基や、極性基などによって置換されていてもよい。また、ノルボルネン系モノマーは、ノルボルネン環の二重結合以外に、二重結合を有していてもよい。
【0022】
単環シクロオレフィンモノマーとしては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロオクテン、シクロドデセン、シクロペンタジエン、1,5-シクロオクタジエンなどが挙げられる。
【0023】
ノルボルネン系モノマーの具体例としては、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエンなどのジシクロペンタジエン類;
テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-エチリデンテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、9-フェニルテトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-4-エン、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン-4-カルボン酸、テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ-9-エン-4,5-ジカルボン酸無水物などのテトラシクロドデセン類;
2-ノルボルネン、5-エチリデン-2-ノルボルネン、5-ビニル-2-ノルボルネン、5-フェニル-2-ノルボルネン、アクリル酸5-ノルボルネン-2-イル、メタクリル酸5-ノルボルネン-2-イル、5-ノルボルネン-2-カルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸、5-ノルボルネン-2,3-ジカルボン酸無水物などのノルボルネン類;
7-オキサ-2-ノルボルネン、5-エチリデン-7-オキサ-2-ノルボルネンなどのオキサノルボルネン類;
テトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエン(1,4-メタノ-1,4,4a,9a-テトラヒドロ-9H-フルオレンともいう)、ペンタシクロ[6.5.1.13,6.02,7.09,13]ペンタデカ-4,10-ジエン、ペンタシクロ[9.2.1.02,10.03,8]ペンタデカ-5,12-ジエン、トリシクロペンタジエンなどの四環以上の環状オレフィン類;などが挙げられる。
【0024】
これらのシクロオレフィンモノマーのうち、極性基を有しないシクロオレフィンモノマーが、低吸水性の成形体を得ることができるので好ましい。またテトラシクロ[9.2.1.02,10.03,8]テトラデカ-3,5,7,12-テトラエンなどの芳香族性の縮合環を有するものを用いると重合性組成物の粘度を下げることができる。
【0025】
これらのシクロオレフィンモノマーは一種を単独で用いても良いし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明で用いる重合性組成物は、シクロオレフィンモノマーとして、ジシクロペンタジエン類および四環以上の環状オレフィン類を組み合わせて含有することが好ましい。これらを組み合わせることで、得られる複合材料成形体の物性を適宜調整することができる。なお、本発明で用いる重合性組成物には、本発明の効果の発現が阻害されない限り、シクロオレフィンモノマーと共重合可能な任意のモノマーが含まれていてもよい。
【0026】
本発明で用いるメタセシス重合触媒は、シクロオレフィンモノマーを開環重合できるものであれば特に限定されず、公知のものを使用することができる。
【0027】
本発明で用いるメタセシス重合触媒は、遷移金属原子を中心原子として、複数のイオン、原子、多原子イオンおよび/または化合物が結合してなる錯体である。遷移金属原子としては、第5、6および8族(長周期型周期表、以下同様)の原子が使用される。それぞれの族の原子は特に限定されないが、第5族の原子としては、例えば、タンタルが挙げられ、第6族の原子としては、例えば、モリブデンやタングステンが挙げられ、第8族の原子としては、例えば、ルテニウムやオスミウムが挙げられる。これら遷移金属原子の中でも、第8族のルテニウムやオスミウムが好ましい。すなわち、本発明で使用されるメタセシス重合触媒としては、ルテニウムまたはオスミウムを中心原子とする錯体が好ましく、ルテニウムを中心原子とする錯体がより好ましい。ルテニウムを中心原子とする錯体としては、カルベン化合物がルテニウムに配位してなるルテニウムカルベン錯体が好ましい。ここで、「カルベン化合物」とは、メチレン遊離基を有する化合物の総称であり、(>C:)で表されるような電荷のない2価の炭素原子(カルベン炭素)を持つ化合物をいう。ルテニウムカルベン錯体は、塊状開環重合時の触媒活性に優れるため、得られる重合体には未反応のモノマーに由来する臭気が少なく、生産性良く良質な重合体が得られる。また、酸素や空気中の水分に対して比較的安定であって、失活しにくいので、大気下でも使用可能である。メタセシス重合触媒は、一種類のみを使用してもよく、複数の種類を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
ルテニウムカルベン錯体としては、下記一般式(1)または一般式(2)で表されるものが挙げられる。
【化1】
【0029】
上記一般式(1)および(2)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。R1およびR2が互いに結合して環を形成した例としては、フェニルインデニリデン基等の、置換基を有していてもよいインデニリデン基が挙げられる。
【0030】
ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数6~20のアリール基、炭素数1~20のアルコキシ基、炭素数2~20のアルケニルオキシ基、炭素数2~20のアルキニルオキシ基、炭素数6~20のアリールオキシ基、炭素数1~8のアルキルチオ基、カルボニルオキシ基、炭素数1~20のアルコキシカルボニル基、炭素数1~20のアルキルスルホニル基、炭素数1~20のアルキルスルフィニル基、炭素数1~20のアルキルスルホン酸基、炭素数6~20のアリールスルホン酸基、ホスホン酸基、炭素数6~20のアリールホスホン酸基、炭素数1~20のアルキルアンモニウム基、および炭素数6~20のアリールアンモニウム基等を挙げることができる。これらの、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基は、置換基を有していてもよい。置換基の例としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、および炭素数6~10のアリール基等を挙げることができる。
【0031】
X1およびX2は、それぞれ独立して、任意のアニオン性配位子を示す。アニオン性配位子とは、中心金属原子から引き離されたときに負の電荷を持つ配位子であり、例えば、ハロゲン原子、ジケトネート基、置換シクロペンタジエニル基、アルコキシル基、アリールオキシ基、カルボキシル基等を挙げることができる。
【0032】
L1およびL2は、ヘテロ原子含有カルベン化合物またはヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物を表す。ヘテロ原子含有カルベン化合物およびヘテロ原子含有カルベン化合物以外の中性電子供与性化合物は、中心金属から引き離されたときに中性の電荷を持つ化合物である。触媒活性向上の観点からヘテロ原子含有カルベン化合物が好ましい。ヘテロ原子とは、周期律表第15族および第16族の原子を意味し、具体的には、窒素原子、酸素原子、リン原子、硫黄原子、ヒ素原子、およびセレン原子等を挙げることができる。これらの中でも、安定なカルベン化合物が得られる観点から、窒素原子、酸素原子、リン原子、および硫黄原子が好ましく、窒素原子がより好ましい。
【0033】
前記ヘテロ原子含有カルベン化合物としては、下記一般式(3)または(4)で示される化合物が好ましく、触媒活性向上の観点から、下記一般式(3)で示される化合物がさらに好ましい。
【化2】
【0034】
上記一般式(3)および(4)中、R3、R4、R5およびR6は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20個の有機基;を表す。ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例は、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。また、R3、R4、R5およびR6は任意の組合せで互いに結合して環を形成していてもよい。
【0035】
なお、本発明の効果がより一層顕著になることから、R5およびR6が水素原子であることが好ましい。また、R3およびR4は、置換基を有していてもよいアリール基が好ましく、置換基として炭素数1~10のアルキル基を有するフェニル基がより好ましく、メシチル基がさらに好ましい。
【0036】
前記中性電子供与性化合物としては、例えば、酸素原子、水、カルボニル類、エーテル類、ニトリル類、エステル類、ホスフィン類、ホスフィナイト類、ホスファイト類、スルホキシド類、チオエーテル類、アミド類、イミン類、芳香族類、環状ジオレフィン類、オレフィン類、イソシアニド類、およびチオシアネート類等が挙げられる。
【0037】
上記一般式(1)および(2)において、R1、R2、X1、X2、L1およびL2は、それぞれ単独で、および/または任意の組合せで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよい。
【0038】
また、ルテニウムカルベン錯体としては、上記一般式(1)または(2)で表される化合物の中でも、本発明の効果がより顕著になるという点より、上記一般式(1)で表される化合物が好ましく、中でも、以下に示す一般式(5)または一般式(6)で表される化合物であることがより好ましい。
【0039】
【0040】
上記一般式(5)中、Zは、酸素原子、硫黄原子、セレン原子、NR12、PR12またはAsR12であり、R12は、水素原子;ハロゲン原子;またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であるが、本発明の効果がより一層顕著になることから、Zとしては酸素原子が好ましい。
【0041】
なお、R1、R2、X1およびL1は、上記一般式(1)および(2)の場合と同様であり、それぞれ単独で、および/または任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成しても良いが、X1およびL1が多座キレート化配位子を形成せず、かつ、R1およびR2は互いに結合して環を形成していることが好ましく、置換基を有していてもよいインデニリデン基であることがより好ましく、フェニルインデニリデン基であることがさらに好ましい。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。
【0042】
上記一般式(5)中、R7およびR8は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、または炭素数6~20のヘテロアリール基で、これらの基は、置換基を有していてもよく、また、互いに結合して環を形成していてもよい。置換基の例としては、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基または炭素数6~10のアリール基を挙げることができ、環を形成する場合の環は、芳香環、脂環およびヘテロ環のいずれであってもよいが、芳香環を形成することが好ましく、炭素数6~20の芳香環を形成することがより好ましく、炭素数6~10の芳香環を形成することがさらに好ましい。
【0043】
上記一般式(5)中、R9、R10およびR11は、それぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子;またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。R9、R10およびR11は、水素原子または炭素数1~20のアルキル基であることが好ましく、水素原子または炭素数1~3のアルキル基であることがより好ましい。
【0044】
なお、上記一般式(5)で表わされる化合物の具体例およびその製造方法としては、例えば、国際公開第03/062253号(特表2005-515260号公報)に記載のもの等が挙げられる。
【0045】
【0046】
上記一般式(6)中、mは、0または1である。mは1が好ましく、その場合、Qは、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、メチレン基、エチレン基またはカルボニル基であり、好ましくはメチレン基である。
【0047】
上記一般式(6)中、
【化5】
は、単結合または二重結合であり、好ましくは単結合である。
【0048】
R1、X1、X2およびL1は、上記一般式(1)および(2)の場合と同様であり、それぞれ単独で、および/または任意の組み合わせで互いに結合して、多座キレート化配位子を形成してもよいが、X1、X2およびL1が多座キレート化配位子を形成せず、かつ、R1は水素原子であることが好ましい。
【0049】
R13~R21は、水素原子;ハロゲン原子;またはハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子もしくは珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基;であり、これらの基は、置換基を有していてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。また、ハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子または珪素原子を含んでいてもよい炭素数1~20の有機基の具体例としては、上記一般式(1)および(2)の場合と同様である。R13は、好ましくは炭素数1~20のアルキル基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基であり、R14~R17は、好ましくは水素原子であり、R18~R21は、好ましくは水素原子またはハロゲン原子である。
【0050】
なお、上記一般式(6)で表わされる化合物の具体例およびその製造方法としては、例えば、国際公開第11/079799(特表2013-516392号公報)に記載のもの等が挙げられる。
【0051】
また、上記一般式(1)で表される化合物としては、上記一般式(5)または一般式(6)で表される化合物のほか、以下の化合物(7)も好適に用いることができる。化合物(7)において、PCy
3はトリシクロヘキシルホスフィンを示し、Mesはメシチル基を示す。
【化6】
【0052】
メタセシス重合触媒の含有量は、反応に使用する全シクロオレフィンモノマー1モルに対して、好ましくは0.005ミリモル以上であり、より好ましくは0.01~50ミリモル、さらに好ましくは0.015~20ミリモルである。
【0053】
重合性組成物には、ラジカル発生剤、ジイソシアネート化合物、多官能(メタ)アクリレート化合物、またはその他の任意成分が、必要に応じて含まれていてもよい。
【0054】
ラジカル発生剤は、加熱によってラジカルを発生し、それにより、重合性組成物の重合により形成されるシクロオレフィン樹脂において架橋反応を誘起する作用を有する。ラジカル発生剤が架橋反応を誘起する部位は、主にシクロオレフィン樹脂中に含まれる炭素-炭素二重結合であるが、飽和結合部分でも架橋が生ずることがある。
【0055】
ラジカル発生剤としては、例えば、有機過酸化物、ジアゾ化合物および非極性ラジカル発生剤が挙げられる。有機過酸化物としては、例えば、t-ブチルヒドロペルオキシド、p-メンタンヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシド等のヒドロペルオキシド類;ジ-t-ブチルペルオキシド、ジクミルペルオキシド、t-ブチルクミルペルオキシド等のジアルキルペルオキシド類;ジプロピオニルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシド等のジアシルペルオキシド類;2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(t-ブチルペルオキシ)-3-ヘキシン、1,3-ジ(t-ブチルペルオキシイソプロピル)ベンゼン等のペルオキシケタール類;t-ブチルペルオキシアセテート、t-ブチルペルオキシベンゾエート等のペルオキシエステル類;t-ブチルペルオキシイソプロピルカルボナート、ジ(イソプロピルペルオキシ)ジカルボナート等のペルオキシカルボナート類;t-ブチルトリメチルシリルペルオキシド等のアルキルシリルペルオキサシド等が挙げられる。中でも、特に塊状重合におけるメタセシス重合反応に対する障害が少ない点で、ジアルキルペルオキシドが好ましい。
【0056】
ジアゾ化合物としては、例えば、4,4'-ビスアジドベンザル(4-メチル)シクロヘキサノン、4,4'-ジアジドカルコン、2,6-ビス(4'-アジドベンザル)シクロヘキサノン、2,6-ビス(4'-アジドベンザル)-4-メチルシクロヘキサノン、4,4'-ジアジドジフェニルスルホン、4,4'-ジアジドジフェニルメタン、2,2'-ジアジドスチルベン等が挙げられる。
【0057】
非極性ラジカル発生剤としては、2,3-ジメチル-2,3-ジフェニルブタン、2,3-ジフェニルブタン、1,4-ジフェニルブタン、3,4-ジメチル-3,4-ジフェニルヘキサン、1,1,2,2-テトラフェニルエタン、2,2,3,3-テトラフェニルブタン、3,3,4,4-テトラフェニルヘキサン、1,1,2-トリフェニルプロパン、1,1,2-トリフェニルエタン、トリフェニルメタン、1,1,1-トリフェニルエタン、1,1,1-トリフェニルプロパン、1,1,1-トリフェニルブタン、1,1,1-トリフェニルペンタン、1,1,1-トリフェニル-2-プロペン、1,1,1-トリフェニル-4-ペンテン、1,1,1-トリフェニル-2-フェニルエタン等が挙げられる。
【0058】
重合性組成物におけるラジカル発生剤の量としては、使用する全シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、通常、0.1~10質量部、好ましくは0.5~5質量部である。
【0059】
ジイソシアネート化合物としては、例えば、4,4’-ジイソシアン酸メチレンジフェニル(MDI)、トルエン-2,4-ジイソシアネート、4-メトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-イソプロピル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-クロル-1,3-フェニレンジイソシアネート、4-ブトキシ-1,3-フェニレンジイソシアネート、2,4-ジイソシアネートジフェニルエーテル、1,4-フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート(XDI)、1,5-ナフタレンジイソシアネート、ベンジジンジイソシアネート、o-ニトロベンジジンジイソシアネート、および4,4’-ジイソシアネートジベンジル等の芳香族ジイソシアネート化合物;メチレンジイソシアネート、1,4-テトラメチレンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、および1,10-デカメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート化合物;4-シクロヘキシレンジイソシアネート、4,4’-メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)、1,5-テトラヒドロナフタレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水添MDI、および水添XDI等の脂環式ジイソシアネート化合物等や、これらのジイソシアネート化合物と低分子量のポリオールやポリアミンを、末端がイソシアネートとなるように反応させて得られるポリウレタンプレポリマー等が挙げられる。また、これらの化合物をイソシアヌレート体、ビューレット体、アダクト体、またはポリメリック体とした、多官能のイソシアネート基を有するもので、従来使用されている公知のものが、特に限定なく使用できる。そのようなものとしては、例えば、2,4-トルイレンジイソシアネートの二量体、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリス-(p-イソシアネートフェニル)チオフォスファイト、多官能芳香族イソシアネート化合物、多官能芳香族脂肪族イソシアネート化合物、多官能脂肪族イソシアネート化合物、脂肪酸変性多官能脂肪族イソシアネート化合物、ブロック化多官能脂肪族イソシアネート化合物等の多官能ブロック型イソシアネート化合物、ポリイソシアネートプレポリマー等が挙げられる。これらの中でも、入手容易性、および取り扱い容易性に優れることから、多官能非ブロック型イソシアネート化合物である、芳香族ジイソシアネート化合物、脂肪族ジイソシアネート化合物、および脂環式ジイソシアネート化合物が好適に用いられる。これらの化合物は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0060】
なお、多官能ブロック型イソシアネート化合物とは、分子内の少なくとも2つのイソシアネート基を活性水素含有化合物と反応させて、常温では不活性としたものである。当該イソシアネート化合物は、一般的にはアルコール類、フェノール類、ε-カプロラクタム、オキシム類、および活性メチレン化合物類等のブロック剤によりイソシアネート基がマスクされた構造を有する。多官能ブロック型イソシアネート化合物は、一般的に常温では反応しないため保存安定性に優れるが、通常140~200℃の加熱によりイソシアネート基が再生され、優れた反応性を示しうる。
【0061】
ジイソシアネート化合物は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。本発明で用いる重合性組成物中におけるジイソシアネート化合物の配合量は、全シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは2~10質量部である。
【0062】
多官能(メタ)アクリレート化合物をジイソシアネート化合物と共に用いることで、ジイソシアネート化合物の密着性向上剤または密着性付与剤としての機能が相乗的に高められると推定される。多官能(メタ)アクリレート化合物としては、エチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレートおよびネオペンチルグリコールジメタクリレートが好ましい例として挙げられる。
【0063】
多官能(メタ)アクリレート化合物は、それぞれ単独で、または2種以上を組み合わせて用いてもよい。重合性組成物中における多官能(メタ)アクリレート化合物の配合量は、使用する全シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは1~15質量部、さらに好ましくは2~10質量部である。
【0064】
その他の任意成分としては、カップリング剤、活性剤、活性調節剤、エラストマー、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤等が挙げられる。
【0065】
カップリング剤としては、特に限定されないが、ノルボルネン構造(ノルボルネン骨格)を有する炭化水素基を少なくとも1つ有するシランカップリング剤が挙げられる。かかるシランカップリング剤の具体例としては、ビシクロヘプテニルトリメトキシラン、ビシクロヘプテニルトリエトキシシラン、ビシクロヘプテニルエチルトリメトキシシラン、ビシクロヘプテニルエチルトリエトキシシラン、ビシクロヘプテニルヘキシルトリメトキシシラン、ビシクロヘプテニルヘキシルトリエトキシシラン等が挙げられるが、好ましくはビシクロヘプテニルエチルトリメトキシシラン、ビシクロヘプテニルエチルトリエトキシシラン、ビシクロヘプテニルヘキシルトリメトキシシラン、およびビシクロヘプテニルヘキシルトリエトキシシランであり、より好ましくはビシクロヘプテニルエチルトリメトキシシラン、およびビシクロヘプテニルエチルトリエトキシシランであり、さらに好ましくはビシクロヘプテニルエチルトリメトキシシランである。
【0066】
また、重合性組成物は、ノルボルネン構造を有する炭化水素基を有しないシランカップリング剤や、チオールカップリング剤、アルミネートカップリング剤、チタネートカップリング剤、脂肪酸エステル類等のシランカップリング剤以外のカップリング剤を含有してもよい。
【0067】
活性剤は、上述したメタセシス重合触媒の共触媒として作用し、該触媒の重合活性を向上させる化合物である。活性剤としては、例えば、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド等のアルキルアルミニウムハライド;これらのアルキルアルミニウムハライドの、アルキル基の一部をアルコキシ基で置換したアルコキシアルキルアルミニウムハライド;有機スズ化合物等が用いられる。活性剤の使用量は、特に限定されないが、重合性組成物で使用する全メタセシス重合触媒1モルに対して、0.1~100モルが好ましく、より好ましくは1~10モルである。
【0068】
活性調節剤は、後述のように2以上の反応原液を混合して重合性組成物を調製し、型内に注入して重合を開始させる際に、注入途中で重合が開始することを防止するために用いられる。
【0069】
メタセシス重合触媒として周期表第5族または第6族の遷移金属の化合物を用いる場合の活性調節剤としては、メタセシス重合触媒を還元する作用を持つ化合物等が挙げられ、アルコール類、ハロアルコール類、エステル類、エーテル類、ニトリル類等を用いることができる。中でもアルコール類およびハロアルコール類が好ましく、ハロアルコール類がより好ましい。
【0070】
アルコール類の具体例としては、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール等が挙げられる。ハロアルコール類の具体例としては、1,3-ジクロロ-2-プロパノール、2-クロロエタノール、1-クロロブタノール等が挙げられる。
【0071】
メタセシス重合触媒として、特にルテニウムカルベン錯体を用いる場合の活性調節剤としては、ルイス塩基化合物が挙げられる。ルイス塩基化合物としては、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト、n-ブチルホスフィン等のリン原子を含むルイス塩基化合物;n-ブチルアミン、ピリジン、4-ビニルピリジン、アセトニトリル、エチレンジアミン、N-ベンジリデンメチルアミン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾール等の窒素原子を含むルイス塩基化合物等が挙げられる。また、ビニルノルボルネン、プロペニルノルボルネンおよびイソプロペニルノルボルネン等の、アルケニル基で置換されたノルボルネンは、前記のシクロオレフィンモノマーであると同時に、活性調節剤としても働く。これらの活性調節剤の使用量は、用いる化合物によって適宜調整すればよい。
【0072】
エラストマーとしては、例えば、天然ゴム、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン-ブタジエン共重合体(SBR)、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体(SIS)、エチレン-プロピレン-ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)およびこれらの水素化物等が挙げられる。エラストマーを重合性組成物に溶解させて用いることにより、その粘度を調節することができる。また、エラストマーを添加することで、得られる複合材料成形体の耐衝撃性を改良できる。エラストマーの使用量は、重合性組成物中の全シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、好ましくは0.5~20質量部、より好ましくは2~10質量部である。
【0073】
酸化防止剤としては、フェノール系、リン系、アミン系等の各種のプラスチック・ゴム用酸化防止剤が挙げられる。
【0074】
本発明で用いる重合性組成物は、公知の方法に従って、上記各成分を適宜混合することにより調製される。本発明で用いる重合性組成物は、複合材料を得る直前(例えば、繊維状部材に重合性組成物を含浸させる直前)に、2以上の反応原液を、混合装置などを用いて混合することにより調製してもよい。当該反応原液は、1液のみでは塊状重合しないが、全ての液を混合すると、各成分を所定の割合で含む重合性組成物(各成分含有量の合計100質量%)となるように、上記した各成分を2以上の液に分けて調製される。かかる2以上の反応原液の組み合わせとしては、用いるメタセシス重合触媒の種類により、下記(a)、(b)の二通りが挙げられる。
【0075】
(a):前記メタセシス重合触媒として、単独では重合反応活性を有しないが、活性剤を併用することで重合反応活性を発現するものを用いることができる。この場合は、シクロオレフィンモノマーおよび活性剤を含む反応原液(A液)と、シクロオレフィンモノマーおよびメタセシス重合触媒を含む反応原液(B液)とを用い、これらを混合することで重合性組成物を得ることができる。さらに、シクロオレフィンモノマーを含み、かつメタセシス重合触媒および活性剤のいずれも含まない反応原液(C液)を併用してもよい。
【0076】
(b):また、メタセシス重合触媒として、単独で重合反応活性を有するものを用いる場合は、シクロオレフィンモノマーを含む反応原液(i)と、メタセシス重合触媒を含む反応原液(ii)とを混合することで重合性組成物を得ることができる。このとき反応原液(ii)としては、通常、メタセシス重合触媒を少量の不活性溶媒に溶解または分散させたものが用いられる。かかる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン等の芳香族炭化水素;メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン等のケトン類;テトラヒドロフラン等の環状エーテル類;ジエチルエーテル、ジクロロメタン、ジメチルスルホキシド、酢酸エチル等が挙げられるが、芳香族炭化水素が好ましく、トルエンがより好ましい。
【0077】
ラジカル発生剤、ジイソシアネート化合物、多官能(メタ)アクリレート化合物などの任意成分は、前記反応原液のいずれに含有させてもよいし、または、前記反応原液以外の混合液の形で添加してもよい。
【0078】
上記反応原液の混合に用いられる混合装置としては、例えば、反応射出成型法で一般的に用いられる衝突混合装置のほか、ダイナミックミキサーやスタティックミキサー等の低圧混合機等が挙げられる。
【0079】
また、重合性組成物は、繊維状充填材層への含浸を促進させるため、20℃での粘度が0.2Pa・s以下であることが好ましい。粘度は、B型粘度計により測定する。
【0080】
[複合材料]
本発明の複合材料は、重合性組成物および繊維状部材のみからなることが好ましい。このような複合材料は、通常、サーマルリサイクルが困難な成分(たとえば、不燃性材料または難燃性材料)を含まない複合材料成形体を与えることができることから、サーマルリサイクル性に優れる。
【0081】
また、本発明の複合材料は、マテリアルリサイクル性に優れるものである。具体的には、本発明の複合材料を用いて複合材料成形体を得た場合、得られた複合材料成形体を粉砕することにより、再生材料を得ることができ、当該再生材料を各種の成形体用の充填剤などとして再利用することができる。
【0082】
本発明の複合材料は、上記の繊維状部材および上記の重合性組成物を含むものであれば特に限定されないが、上記の繊維状部材に、上記の重合性組成物を含浸させてなるものであることが好ましい。
【0083】
繊維状部材に、上記の重合性組成物を含浸させる方法としては、反応射出成形(RIM)、レジントランスファー成形(RTM)、真空アシストレジントランスファー成形(VaRTM)等、所望の成形方法を用いることができる。
【0084】
<複合材料成形体>
本発明の複合材料を硬化させることにより、本発明の複合材料成形体が得られる。本発明の複合材料成形体は、リサイクル性に優れる本発明の複合材料から得られるものであるため、それ自体もリサイクル性に優れるものである。
【0085】
本発明の複合材料成形体は、本発明の複合材料中の重合性組成物を完全硬化もしくは半硬化させることにより、得られるものである。重合性組成物を硬化させる方法としては、特に限定されず、重合性組成物中に含まれるモノマーの組成やメタセシス重合触媒の種類に応じて選択すればよいが、複合材料を得た後(例えば、繊維状部材に重合性組成物を含浸させた後)、室温下で放置する方法や、所定温度に加熱する方法などが挙げられる。
【0086】
<再生材料、再生重合性組成物および再生材料含有成形体>
本発明の複合材料成形体を粉砕することにより、本発明の再生材料が得られる。本発明の複合材料成形体を粉砕して、本発明の再生材料を得る方法としては、特に限定されないが、液体窒素(約-196℃)などの冷却材を用いる凍結粉砕法が好ましい。複合材料成形体を凍結粉砕する場合には、予め、複合材料成形体を粗砕しておき、得られる粗砕物を、凍結粉砕に供することが好ましい。
【0087】
本発明の再生材料の形状は、特に限定されないが、粉体状であることが好ましい。本発明の複合材料成形体は、炭素繊維やガラス繊維を含む成形体と比較して、容易に粉砕することができるものであるため、粉体状の再生材料を比較的容易に与えることができ、リサイクル性に優れるものである。
【0088】
本発明の再生材料のメディアン径(D50)は、特に限定されないが、1~1,000μmであることが好ましく、10~200μmであることがより好ましい。本発明の再生材料は、比較的容易に粉砕することができる本発明の複合材料成形体から得られるものであるため、必要に応じて微細な粒径を有することも可能である。たとえば、本発明の再生材料のメディアン径(D50)は、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下であることも可能である。
【0089】
本発明の再生材料は、例えば、樹脂成形体用の充填剤として好適に再利用することができ、特に、シクロオレフィン樹脂の成形体用の充填剤として好適に再利用することができる。
【0090】
本発明の再生材料を、シクロオレフィン樹脂の成形体用の充填剤として再利用する方法としては、例えば、本発明の再生材料、シクロオレフィンモノマー、およびメタセシス重合触媒を含む再生重合性組成物を得て、これを硬化されることにより、再生材料含有成形体を得る方法が挙げられる。
【0091】
本発明の再生重合性組成物は、本発明の再生材料、シクロオレフィンモノマー、およびメタセシス重合触媒を含む。シクロオレフィンモノマーおよびメタセシス重合触媒としては、上述したものを用いることができ、好適なものも上述したとおりである。また、本発明の再生重合性組成物には、ラジカル発生剤、ジイソシアネート化合物、多官能(メタ)アクリレート化合物などの、上述した重合性組成物が含有してもよい各種の成分が、必要に応じて含まれていてもよい。これらの成分の、シクロオレフィンモノマー100質量部に対する好適な使用量は、重合性組成物中におけるシクロオレフィンモノマー100質量部に対する使用量と同様である。
【0092】
再生重合性組成物中の再生材料の含有量は、シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、好ましくは1~100質量部であり、より好ましくは3~60質量部、さらに好ましくは5~40質量部である。本発明の再生材料は、リサイクル性に優れる本発明の複合材料由来の材料であるため、再生重合性組成物中に再生材料を比較的多量に配合する場合(例えば、シクロオレフィンモノマー100質量部に対して、再生材料を20質量部以上配合する場合)であっても、十分な機械的特性を有する再生材料含有成形体を与えることが可能である。
【0093】
再生重合性組成物は、公知の方法に従って、本発明の再生材料、上記のシクロオレフィンモノマー、および上記のメタセシス重合触媒を適宜混合することにより調製される。再生重合性組成物は、2以上の反応原液を、混合装置などを用いて混合することにより調製してもよい。当該反応原液は、1液のみでは塊状重合しないが、全ての液を混合すると、各成分を所定の割合で含む再生重合性組成物となるように、上記した各成分を2以上の液に分けて調製される。上記した各成分を2以上の液に分ける方法としては、上記(a)の方法において、A液、B液およびC液のうち少なくとも1の反応原液に再生材料を含有させる方法や、上記(b)の方法において、反応原液(i)に再生材料を含有させる方法等が挙げられる。
【0094】
本発明の再生重合性組成物を硬化(完全硬化または半硬化)させることにより、再生材料含有成形体が得られる。硬化方法としては、特に限定されず、再生重合性組成物を得た後、室温下で放置する方法や、所定温度に加熱する方法などが挙げられる。このようにして得られる本発明の再生材料含有成形体は、十分な機械的特性を有するものである。
【実施例0095】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明は、これら実施例により何ら限定されるものではない。なお、「部」および「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0096】
[成形性の評価]
各実施例および各比較例で得られた成形体(複合材料成形体)の形状が、型の内部空間の形状と同等の形状(長さ約250mm、幅約250mm、厚さ約2mmの直方体形状)である場合には、目的とする形状が適切に形成できたと判断し、成形性は「良」であると判断した。一方、得られた成形体(複合材料成形体)の形状が、型の内部空間の形状と異なる場合には、目的とする形状が形成できなかったと判断し、成形性は「不良」であると判断した。
【0097】
[サーマルリサイクル性の評価]
各実施例および各比較例で得られた成形体(複合材料成形体)を、105℃で24時間乾燥し、乾燥後の成形体の重量(X1)を測定した。次いで、乾燥後の成形体を、600℃で1時間加熱し、加熱残分を得た。加熱残分を冷却した後、加熱残分の重量(X2)を測定した。そして、下式から強熱減量を求め、強熱減量が95重量%以上である場合には、サーマルリサイクル性は「良」、強熱減量が95重量%未満である場合には、サーマルリサイクル性は「不良」であると判断した。
強熱減量(重量%)=100-X2/X1×100
【0098】
[マテリアルリサイクル性の評価]
各実施例および各比較例で得られた成形体(複合材料成形体)を粗砕し、粗粉体を得た。なお、粗砕は、得られる粗粉体の粒径が約5mm以下となるまで行った。得られた粗粉体を、凍結粉砕機(ターボミルを冷凍仕様に改造した特注品、フロイント・ターボ社製)を用いて、液体窒素中で凍結粉砕し、微粉体(再生材料)を得た。凍結粉砕は、得られる微粉体のメディアン径(D50)が50μmとなるまで行った。
【0099】
20℃に設定したRIMモノマー(日本ゼオン株式会社製)100部に、メタセシス重合触媒として前記化合物(7)0.04部を添加して重合性組成物を調製した。この重合性組成物70部に対して、得られた微粉体30部を添加して、再生重合性組成物を得た。また、離型処理された内寸長さ300mm、幅250mm、深さ4mmのアルミニウム5052製金型を準備し、アルミニウム5052製平板で蓋をした。次いで、型を25℃に設定したのち、得られた再生材料含有組成物を型内一杯に導入した。型を1時間放置した後、型を引き続いて120℃に昇温して1時間放置した。次いで、型を常温まで冷却した後、脱型した。以上の操作により、成形体(再生材料含有成形体)を得ることができた場合には、マテリアルリサイクル性は「良」と判断した。一方、微粉体(再生材料)が得られなかった等の理由により、成形体(再生材料含有成形体)を得ることができなかった場合には、マテリアルリサイクル性は「不良」と判断した。
【0100】
[マテリアルリサイクル品の物性]
上記のマテリアルリサイクル性の評価で得られた再生材料含有成形体について、JIS K7017に準拠して曲げ強度を測定した。成形体(複合材料成形体)の曲げ強度が、60MPa以上であった場合には、マテリアルリサイクル品の物性「良」と判断した。一方、成形体(複合材料成形体)の曲げ強度が、60MPa未満であった場合には、マテリアルリサイクル品の物性は「不良」と判断した。
【0101】
<実施例1>
離型処理されたFRP製型(内寸長さ250mm、幅250mm、深さ2mmの直方体形状の内部空間を備える型)の内部に、繊維状充填剤として、長さ250mm、幅250mmの熱可塑性有機繊維の不織布(商品名「TZF70」、倉敷繊維加工社製、目付70g/m2、融点が100℃以上であるオレフィン系重合体繊維の不織布)を配置した。
【0102】
そして、型内に、20℃に設定したRIMモノマー(日本ゼオン株式会社製)100部にメタセシス重合触媒として前記化合物(7)0.04部からなる重合性組成物(粘度(20℃):10mPa・s)を導入し、繊維状充填剤に含浸させ、複合材料を形成させた。以上により得られた、複合材料を内包する型を、内寸長さ250mmの方向が鉛直方向となるように立てた状態で固定した。
【0103】
次いで、型を40℃に昇温し、1時間放置した。引き続き型を90℃に昇温して0.5時間放置した後、さらに200℃まで昇温し1時間放置することで、複合材料成形体を得た。なお、上記のRIMモノマーの組成は、ジシクロペンタジエン約90部およびトリシクロペンタジエン約10部からなり、メタセシス重合触媒の使用量は、これらの全シクロオレフィンモノマー1モルに対して0.055ミリモルであった。得られた複合材料成形体について、上述した方法で、成形性、サーマルリサイクル性、マテリアルリサイクル性、およびマテリアルリサイクル品の物性を評価した。結果を表1に示す。
【0104】
<実施例2>
繊維状充填剤として、天然有機繊維の不織布(商品名「麻フェルト」、ケナテックス社製、目付1400g/m2、麻の不織布)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合材料成形体を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0105】
<実施例3>
繊維状充填剤として、衣類を解砕した繊維の不織布(商品名「BWPETフェルト」、ケナテックス社製、目付1250g/m2、融点が100℃以上である熱可塑性有機繊維および天然有機繊維を主成分とする衣類を、解砕することにより得られたリサイクル繊維の不織布)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合材料成形体を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0106】
<比較例1>
型内に繊維状充填剤を配置せずに、実施例1と同様の重合性組成物を型内一杯に導入した。以上により得られた、重合性組成物を内包する型を、内寸長さ250mmの方向が鉛直方向となるように立てた状態で固定した。次いで、型を40℃に昇温し、型を1時間放置した。引き続き型を90℃に昇温して0.5時間放置した後、さらに200℃まで昇温し1時間放置することで、成形体を得た。得られた成形体について、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0107】
なお、比較例1において、型に重合性組成物を導入した際には、重合性組成物が、型の内部空間以外の部分にも導入され、バリや垂れなどの成形不良が発生した。
【0108】
<比較例2>
繊維状充填剤として、一方向炭素繊維(製品名「SNU1230M」、マジックボックス社製、サイジング剤あり、目付200g/m2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合材料成形体を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0109】
<比較例3>
繊維状充填剤として、ガラス繊維の織布(商品名「WEA 180K 105」、日東紡績社製、目付205g/m2)を用いた以外は、実施例1と同様にして、複合材料成形体を得て、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
【0110】
なお、比較例2,3で得られた複合材料成形体は、粉砕が困難な材料であったため、比較例2,3で得られた複合材料成形体からは、微粉体(再生材料)が得られなかった。
【0111】
【0112】
表1から明らかなように、熱可塑性有機繊維および天然有機繊維から選択される少なくとも一種の繊維からなる繊維状部材と、シクロオレフィンモノマーおよびメタセシス重合触媒を含む重合性組成物とを含む複合材料は、成形性およびリサイクル性に優れるものであった(実施例1~3)。
【0113】
一方、繊維状部材を用いない場合や、炭素繊維またはガラス繊維からなる繊維状部材を用いる場合には、成形性とリサイクル性とを両立することができなかった(比較例1~3)。