(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154814
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】歯周病菌用増殖抑制剤、およびその用途
(51)【国際特許分類】
A61K 35/747 20150101AFI20241024BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20241024BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20241024BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241024BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241024BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20241024BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K35/747
A61P1/04
A61P9/00
A61P1/02
A61P31/04
A61P29/00
A61P35/00
A61K8/99
A61Q11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068906
(22)【出願日】2023-04-19
(71)【出願人】
【識別番号】520136261
【氏名又は名称】株式会社アズフレイヤ
(71)【出願人】
【識別番号】523196666
【氏名又は名称】エクソピア カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100129137
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 ゆみ
(72)【発明者】
【氏名】落谷 孝広
【テーマコード(参考)】
4C083
4C087
【Fターム(参考)】
4C083AA031
4C083AA032
4C083CC41
4C083DD23
4C083EE33
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA02
4C087BC56
4C087BC57
4C087CA09
4C087MA52
4C087MA57
4C087MA59
4C087MA60
4C087MA65
4C087NA14
4C087ZA32
4C087ZA36
4C087ZA66
4C087ZB11
4C087ZB26
4C087ZB35
(57)【要約】
【課題】 歯周病菌の増殖を抑制する、新たな有効成分の提供を目的とする。
【解決手段】 本発明の歯周病菌用増殖抑制剤は、ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)の膜小胞およびカゼイ菌(Lactobacillus casei)の膜小胞の少なくとも一方を含むことを特徴とする。本発明の歯周病菌の増殖抑制方法は、前記本発明の歯周病菌用増殖抑制剤と、歯周病菌とを共存させることを特徴とする。前記歯周病菌は、例えば、フソバクテリウム属細菌、ポルフィロモナス属細菌、およびタンネレラ属細菌である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)の膜小胞およびカゼイ菌(Lactobacillus casei)の膜小胞の少なくとも一方を含むことを特徴とする歯周病菌用増殖抑制剤。
【請求項2】
前記歯周病菌が、フソバクテリウム属細菌、ポルフィロモナス属細菌、およびタンネレラ属細菌からなる群から選択された少なくとも一つである、請求項1に記載の増殖抑制剤。
【請求項3】
前記フソバクテリウム属細菌が、Fusobacterium nucleatumである、請求項2に記載の増殖抑制剤。
【請求項4】
前記ポルフィロモナス属細菌が、Porphyromonas gingivalisである、請求項2に記載の増殖抑制剤。
【請求項5】
前記タンネレラ属細菌が、Tannerella forsythensisである、請求項2に記載の増殖抑制剤。
【請求項6】
前記膜小胞が、ロイテリ菌の培養物から単離された膜小胞である、請求項1から5のいずれか一項に記載の増殖抑制剤。
【請求項7】
前記膜小胞が、カゼイ菌の培養物から単離された膜小胞である、請求項1請求項5のいずれか一項に記載の増殖抑制剤。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の歯周病菌用増殖抑制剤と、歯周病菌とを共存させることを特徴とする歯周病菌の増殖抑制方法。
【請求項9】
前記共存が、in vivoまたはin vitroでの共存である、請求項8に記載の増殖抑制方法。
【請求項10】
前記共存が、ヒトまたは非ヒト動物の生体内における共存である、請求項8または9に記載の増殖抑制方法。
【請求項11】
有効成分として請求項1から7のいずれか一項に記載の歯周病菌用増殖抑制剤を含むことを特徴とする歯周病菌関連疾患用薬剤。
【請求項12】
さらに賦形剤を含む、請求項11に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
【請求項13】
前記歯周病菌関連疾患が、心筋梗塞、脳梗塞、口腔疾患、または消化器系疾患である、請求項11または12に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
【請求項14】
前記口腔疾患が、歯周病またはむし歯である、請求項13に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
【請求項15】
前記消化器系疾患が、大腸疾患である、請求項13に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
【請求項16】
前記大腸疾患が、大腸炎または大腸癌である、請求項15に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯周病菌用増殖抑制剤、およびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
フソバクテリウム属細菌、ポルフィロモナス細菌、タンネレラ属細菌等は、口腔内常在菌であり、歯周病への関与が知られている。近年では、さらに、フソバクテリウム属細菌の大腸癌への関与も報告されている。このため、生体内に存在する歯周病菌の増殖を抑制することは、それが関与する疾患の予防および治療にもつながると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本発明は、歯周病菌の増殖を抑制する、新たな有効成分の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
前記目的を達成するために、本発明の歯周病菌用増殖抑制剤は、ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)の膜小胞およびカゼイ菌(Lactobacillus casei)の膜小胞の少なくとも一方を含むことを特徴とする。
【0005】
本発明の歯周病菌の増殖抑制方法は、前記本発明の歯周病菌用増殖抑制剤と、歯周病菌とを共存させることを特徴とする。
【0006】
本発明の歯周病菌関連疾患用薬剤は、有効成分として前記本発明の歯周病菌用増殖抑制剤を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明者らは、ロイテリ菌およびカゼイ菌の膜小胞が、フソバクテリウム属細菌等の歯周病菌の増殖を抑制することを見出し、本発明を確立するにいたった。本発明によれば、歯周病菌の増殖を抑制できるため、例えば、前記増殖の抑制によって、歯周病菌が原因となる疾患の改善が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施例1において調製したロイテリ菌由来の膜小胞の粒子径分布の結果を示すグラフである。
【
図2】
図2は、実施例1において調製したカゼイ菌由来の膜小胞の粒子径分布の結果を示すグラフである。
【
図3】
図3は、実施例2において、ロイテリ菌またはカゼイ菌由来の膜小胞の存在下で培養したフソバクテリウム属細菌の培養状態を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[1] ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)の膜小胞およびカゼイ菌(Lactobacillus casei)の膜小胞の少なくとも一方を含むことを特徴とする歯周病菌用増殖抑制剤。
[2] 前記歯周病菌が、フソバクテリウム属細菌、ポルフィロモナス属細菌、およびタンネレラ属細菌からなる群から選択された少なくとも一つである、[1]に記載の増殖抑制剤。
[3] 前記フソバクテリウム属細菌が、Fusobacterium nucleatumである、[2]に記載の増殖抑制剤。
[4] 前記ポルフィロモナス属細菌が、Porphyromonas gingivalisである、[2]に記載の増殖抑制剤。
[5] 前記タンネレラ属細菌が、Tannerella forsythensisである、[2]に記載の増殖抑制剤。
[6] 前記膜小胞が、ロイテリ菌の培養物から単離された膜小胞である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の増殖抑制剤。
[7] 前記膜小胞が、カゼイ菌の培養物から単離された膜小胞である、[1]から[5]のいずれか一項に記載の増殖抑制剤。
[8] [1]から[7]のいずれか一項に記載の歯周病菌用増殖抑制剤と、歯周病菌とを共存させることを特徴とする歯周病菌の増殖抑制方法。
[9] 前記共存が、in vivoまたはin vitroでの共存である、[8]に記載の増殖抑制方法。
[10] 前記共存が、ヒトまたは非ヒト動物の生体内における共存である、[8]または[9]に記載の増殖抑制方法。
[11] 有効成分として[1]から[7]のいずれか一項に記載の歯周病菌用増殖抑制剤を含むことを特徴とする歯周病菌関連疾患用薬剤。
[12] さらに賦形剤を含む、[11]に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
[13] 前記歯周病菌関連疾患が、心筋梗塞、脳梗塞、口腔疾患、または消化器系疾患である、[11]または[12]に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
[14] 前記口腔疾患が、歯周病またはむし歯である、[13]に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
[15] 前記消化器系疾患が、大腸疾患である、[13]に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
[16] 前記大腸疾患が、大腸炎または大腸癌である、[15]に記載の歯周病菌関連疾患用薬剤。
【0010】
本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いることができる。
【0011】
本明細書において、「膜小胞」は、細菌の生体膜から放出される袋状体であり、MV(Membrane Vesicle;MV)ともいう。
【0012】
本明細書において、「増殖の抑制」は、例えば、有効成分の非存在下における対象細菌の増殖程度と比較して、有効成分の存在下における同じ対象細菌の増殖程度が低いことを意味する。また、「増殖の抑制」は、例えば、有効成分との接触により、対象細胞が死滅することを意味してもよい。
【0013】
本明細書において、「治療」は、例えば、対象となる疾患の症状について、悪化の抑制、緩和(好転)、寛解、治癒(完治)のいずれの意味でもよい。また、本明細書において、「治療」は、例えば、広義の意味で、「予防」を含んでもよい。本明細書において、「予防」は、例えば、対象となる疾患の発症を抑制する、発症を遅延させる等の意味を含む。本明細書において、例えば、「治療」を狭義の意味とする場合、本明細書における「治療」は、例えば、予防に読み替え可能であり、本発明は、治療方法および予防方法を含んでもよい。
【0014】
本発明について、以下に具体例をあげて説明するが、これらの例には制限されない。また、各発明における例示は、それぞれ互いに援用できる。
【0015】
(1)増殖抑制剤
本発明の歯周病菌用増殖抑制剤は、前述のように、ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)の膜小胞およびカゼイ菌(Lactobacillus casei)の膜小胞の少なくとも一方を含むことを特徴とする。本発明の歯周病菌用増殖抑制剤は、以下、「増殖抑制剤」ともいう。
【0016】
本発明の増殖抑制剤が対象とする細菌は、歯周病菌である。前記歯周病菌の具体例は、例えば、フソバクテリウム属細菌(Fusobacterium)、ポルフィロモナス細菌(Porphyromonas)、タンネレラ属細菌(Tannerella)等であり、これらは、嫌気性のグラム陰性菌であり、口腔内常在菌である。フソバクテリウム属細菌の具体例は、F. nucleatum、F. necrophorum、F. varium、F. mortiferum等があげられる。ポルフィロモナス属細菌の具体例は、例えば、Porphyromonas gingivalis等があげられる。タンネレラ属細菌の具体例は、例えば、Tannerella forsythensis等があげられる。本発明が対象とする歯周病菌は、これらの例示には制限されず、例えば、Treponema denticola等のトレポネマ属細菌等もあげられる。
【0017】
本発明の増殖抑制剤は、有効成分として、ロイテリ菌の膜小胞およびカゼイ菌の膜小胞の少なくとも一方の膜小胞を含み、例えば、両者のうちロイテリ菌の膜小胞のみを含んでもよいし、両者のうちカゼイ菌の膜小胞のみを含んでもよい。本発明の増殖抑制剤は、例えば、膜小胞として、ロイテリ菌の膜小胞およびカゼイ菌の膜小胞以外の膜小胞を、さらに含んでもよい。
【0018】
本発明の増殖抑制剤において、前記膜小胞の含有量は、特に制限されず、例えば、使用目的に応じて適宜設定でき、具体例は後述する。
【0019】
ロイテリ菌は、バチルス属に分類され、学名ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)であり、グラム陽性、嫌気性の乳酸桿菌である。本発明におけるロイテリ菌の株は、特に制限されず、例えば、BAA-2837、DSM 17938、ATCC PTA 6475等があげられる。
【0020】
カゼイ菌は、バチルス属に分類され、学名ラクトバチルス・カゼイ(Lacticaseibacillus casei)であり、グラム陽性、嫌気性の乳酸桿菌である。本発明におけるカゼイ菌の株は、特に制限されず、例えば、K-1、シロタ、BC-90、SBR1202、NY1301等があげられる。
【0021】
ロイテリ菌およびカゼイ菌は、前述のようにグラム陽性菌であり、これらの菌体由来の膜小胞は、例えば、生体膜である脂質二重膜から構成される袋状体、具体的には球状の構造体ともいえる。
【0022】
ロイテリ菌の膜小胞およびカゼイ菌の膜小胞は、例えば、ロイテリ菌およびカゼイ菌の少なくとも一方を原料菌として培養することにより製造できる。以下に原料菌の培養方法を例示するが、以下の例において、原料菌は、例えば、ロイテリ菌およびカゼイ菌の両方でもよいし、ロイテリ菌のみでもよいし、カゼイ菌のみでもよい。
【0023】
培養は、原料菌を培地に播種し、インキュベートすることによって行うことができる。前記原料菌を培養することによって、前記原料菌から分泌される膜小胞が、前記培地に放出される。前記MV培養条件は、特に制限されず、乳酸菌(好ましくはラクトバチルス属細菌)に対する一般的な培養条件が選択できる。
【0024】
培地は、特に制限されず、例えば、de Man-Rogosa-Sharpe(MRS)培地、アルギニン含有MRS培地、Brain Heart Infusion(BHI)培地、L-グルタミン含有Advanced RPMI1640(L-グルタミン 終濃度10mM)培地等があげられる。前記膜小胞を回収する観点から、前記培地は、液体培地が好ましい。前記培地は、例えば、アミノ酸、グルコース等の添加剤を含んでもよい。前記添加剤は、例えば、RPMI1640培地およびDMEM培地等に含まれるアミノ酸およびグルコースの種類ならびに濃度が参照できる。
【0025】
培養温度は、特に制限されず、例えば、乳酸菌(好ましくはラクトバチルス属細菌)の至適温度であり、具体例としては、28~40℃、29~38℃、30~37℃等である。培養時間は、特に制限されず、例えば、培養スケール、原料菌の種類等によって適宜決決定してもよく、また、コンフルエントに達するまで行ってもよい。コンフルエントの判断は、例えば、培養液の光学濃度(Optical Density:OD)が利用でき、具体例として、OD600の値が約2.5~3.5の範囲に達することで、コンフルエントと判断することもできる。培養時間は、例えば、12~72時間、12~24時間、24~48時間、48~72時間等があげられる。
【0026】
前記膜小胞は、例えば、前記培養液から培養菌体を除去し、膜小胞を含む画分(例えば、培養上清)を回収することにより、前記培養液から分離できる。前記分離の方法は、特に制限されず、例えば、前記培養液の遠心分離等があげられる。前記培養菌体と前記培養上清の分離を遠心分離で行う場合、その条件は、特に制限されず、例えば、4,000~6,000×g、10~15分である。
【0027】
本発明は、前記膜小胞として、例えば、前記培養液を使用することもできるが、好ましくは、前記培養液から培養菌体を除去した画分(前記培養上清)をそのまま使用してもよいし、前記培養上清から夾雑物を除去した精製物を使用してもよいし、前記培養上清に含まれる膜小胞をさらに濃縮した濃縮物を使用してもよいし、夾雑物の除去と濃縮とを行った濃縮精製物を使用してもよい。前記夾雑物の確認は、例えば、ナノ粒子解析システム等を用いて行うことができる。
【0028】
前記夾雑物を除去する精製方法としては、例えば、静置、超遠心分離等の遠心分離、ろ過、クロマトグラフィー、電気泳動等があげられる。
【0029】
静置の場合、例えば、前記培養上清を撹拌した後、静置することによって夾雑物を沈殿させ、前記膜小胞を含む液体画分を回収する。静置の条件は、特に制限されず、例えば、5~60分である。
【0030】
前記遠心分離は、例えば、前記培養上清について、夾雑物を沈殿させて、前記膜小胞を含む液体画分を回収してもよいし、前記膜小胞を沈殿させ、夾雑物を含む液体画分を除去してもよく、前者の後に、さらに後者を行ってもよい。前記夾雑物を沈殿させる場合、前記遠心分離の条件は、特に制限されず、例えば、400~3000×g、5~30分であり、粗遠心ともいう。また、前記膜小胞を沈殿させる場合は、例えば、超遠心分離が好ましく、その条件は、特に制限されず、例えば、50,000~150,000×g、50~140分である。前記膜小胞を含む沈殿画分は、例えば、液体溶媒に懸濁してもよく、前記懸濁液は、例えば、冷蔵または冷凍保存してもよい。
【0031】
前記ろ過は、例えば、フィルダー等のろ材を用いたろ過であり、具体例として限外ろ過等があげられる。前記ろ材は、例えば、前記膜小胞が通過するろ材を用いてもよいし、前記膜小胞が通過できないろ材を用いてもよい。前者の場合は、例えば、前記ろ材の残存物を夾雑物として除去し、前記膜小胞を含む液体画分(ろ液)を回収すればよく、前記ろ材の孔の大きさは、例えば、前記膜小胞が通過できる孔であればよい。後者の場合は、例えば、夾雑物を含むろ液を除去し、前記ろ材に捕捉された前記膜小胞を回収すればよく、前記ろ材の孔の大きさは、例えば、前記膜小胞が通過できない孔であればよい。後者において、前記ろ材に捕捉された前記膜小胞は、例えば、前記液体溶媒に懸濁すればよい。
【0032】
前記クロマトグラフィーは、例えば、ゲルろ過クロマトグラフィー等があげられ、前記電気泳動は、例えば、フリーフロー電気泳動、毛細管電気泳動等があげられる。
【0033】
前記液体溶媒は、特に制限されず、例えば、水、緩衝液、生理食塩水、生理的緩衝液等の水系溶媒があげられる。
【0034】
前記膜小胞を濃縮する濃縮方法は、例えば、超遠心分離、ろ過、凍結乾燥等の乾燥等があげられる。超遠心分離の場合は、例えば、前記膜小胞を沈殿させて、得られた沈殿画分を所望の量の前記液体溶媒に懸濁すればよく、ろ過の場合、例えば、ろ材に捕捉された前記膜小胞を所望の量の前記液体溶媒に懸濁すればよい。また、凍結乾燥の場合は、膜小胞を含む液体(例えば、前記培養上清、前記液体画分、前記懸濁液等)を乾燥させ、得られた乾燥体を所望の量の前記液体溶媒に懸濁すればよい。
【0035】
前記培養液からの前記膜小胞の分離、精製、および濃縮は、例えば、冷却条件~室温条件(例えば、4℃~37℃)で行うことができ、遠心分離、ろ過、クロマトグラフィー等は、4℃±2℃で行うことが好ましい。
【0036】
本発明に使用するロイテリ菌由来の膜小胞の大きさは、例えば、粒子径分布により確認でき、大きさは、例えば、最頻値、平均値、およびSDの少なくともいずれかで表すことができる。前記最頻値は、例えば、粒子径分布におけるピークということもできる。ロイテリ菌由来の膜小胞は、例えば、以下の大きさが例示できる。
【0037】
(ロイテリ菌由来の膜小胞)
粒子径分布における粒子径の最頻値(mode)
ピーク1:例えば、60~80nm、71±10、71±5(具体例:71nm)
ピーク2:例えば、85nm~110nm、93±10nm、93±5nm(具体例:93nm)
ピーク3:例えば、150~170nm、160±10、160±5(具体例:160nm)
粒子径分布における粒子径の平均値(mean):例えば、121±20nm、121±10nm、121±5nm(具体例:121.4nm)
【0038】
ロイテリ菌由来の膜小胞は、例えば、粒子径分布において、1つのピークを有してもよいし、2つのピークを有してもよいし、3つのピークを有してもよく、また、4つ以上のピークを有してもよい。ロイテリ菌由来の膜小胞は、例えば、上記に例示したいずれかの範囲に該当するピークを有することが好ましく、具体例として、ピーク1、ピーク2、およびピーク3のいずれを有してもよく、いずれか2つのピーク(例えば、ピーク1およびピーク2)を有してもよく、3つのピークを有してもよい。
【0039】
本発明に使用するカゼイ菌由来の膜小胞の大きさは、例えば、粒子径分布により確認でき、大きさは、例えば、最頻値、平均値、およびSDの少なくともいずれかで表すことができる。前記最頻値は、例えば、粒子径分布におけるピークということもできる。カゼイ菌由来の膜小胞は、例えば、以下の大きさが例示できる。
【0040】
(カゼイ菌由来の膜小胞)
粒子径分布における粒子径の最頻値(mode)
ピーク1:例えば、90~110nm、99±10nm、99±5nm(具体例:99nm)
ピーク2:例えば、120nm~140nm、136±10nm、136±5nm(具体例:136nm)
粒子径分布における粒子径の平均値(mean):例えば、134±20nm、134±10nm、134±5nm(具体例:134.4nm)
【0041】
カゼイ菌由来の膜小胞は、例えば、粒子径分布において、1つのピークを有してもよいし、2つのピークを有してもよく、また、3つ以上のピークを有してもよい。カゼイ菌由来の膜小胞は、例えば、上記に例示したいずれかの範囲に該当するピークを有することが好ましく、具体例として、ピーク1、およびピーク2のいずれを有してもよく、両方(例えば、ピーク1およびピーク2)を有してもよい。
【0042】
前記膜小胞の粒子径分布の測定方法は、特に制限されず、例えば、レーザー回折法、動的光散乱法等の光散乱法、粒子軌跡解析法、ナノトラッキング解析法等が採用できる。前記測定には、例えば、NanoSight(商品名、QuantumDesigh社)等の市販の装置が使用できる。
【0043】
本発明の増殖抑制剤は、歯周病菌の増殖を抑制する有効成分のみを含んでもよいし、前記有効成分とその他の添加成分とを含んでもよい。本発明において、前記有効成分は、前述のように、ロイテリ菌の膜小胞およびカゼイ菌の膜小胞の少なくとも一方を含んでいればよく、ロイテリ菌の膜小胞を含み且つカゼイ菌の膜小胞を含まない形態でもよいし、カゼイ菌の膜小胞を含み且つロイテリ菌の膜小胞を含まない形態でもよいし、ロイテリ菌の膜小胞およびカゼイ菌の膜小胞の両方を含む形態でもよい。また、本発明は、前記有効成分として、前記ロイテリ菌の膜小胞または前記カゼイ菌の膜小胞の他に、歯周病菌の増殖を抑制する成分を含んでもよい。
【0044】
本発明の増殖抑制剤において、前記その他の添加成分は、特に制限されず、例えば、本発明の増殖抑制剤を適用する分野に応じて、適宜選択できる。
【0045】
本発明の増殖抑制剤は、例えば、前述のように、前記膜小胞を、前記原料菌の培養液から調製できるため、前記培養液に含まれる前記膜小胞以外の成分が含まれてもよい。また、本発明の増殖抑制剤は、前述のように、前記膜小胞として、例えば、前記培養液から培養菌体を除去した前記膜小胞を含む画分(前記培養上清)、または前記培養上清からさらに前記膜小胞を精製および/または濃縮した画分等を使用することが好ましい。このため、本発明の増殖抑制剤は、例えば、前記原料菌であるロイテリ菌およびカゼイ菌の菌体そのものを実質的に含まないことが好ましい。菌体を実質的に含まないとは、例えば、本発明の増殖抑制剤を、微生物学上の検出方法に供しても、ロイテリ菌およびカゼイ菌の生菌または死菌が検出限界以下であることを意味する。
【0046】
本発明の増殖抑制剤は、例えば、目的に応じて、in vivo、またはin vitroで使用できる。
【0047】
本発明の増殖抑制剤をin vivoで使用する場合、本発明の増殖抑制剤は、例えば、薬学的組成物でもよいし、食品組成物でもよい。
【0048】
本発明の増殖抑制剤が薬学的組成物の場合、例えば、生体における歯周病菌の増殖抑制、歯周病菌が原因となる疾患(以下、歯周病菌関連疾患という)の治療等に使用できる。この場合、本発明の薬学組成物は、例えば、対象の生体に投与すればよい。前記生体は、例えば、ヒト、非ヒト動物であり、前記非ヒト動物は、例えば、マウス、ラット、イヌ、ネコ、サル、ウサギ、ウシ、ヤギ、ラクダ等の哺乳類動物が例示できる。
【0049】
本発明の薬学的組成物の投与量は、特に制限されず、薬学的に有効な量で投与することが好ましい。薬学的に有効な量は、例えば、投与経路、疾患の種類、発症の有無、重症度、年齢等に応じて決定できる。また、本発明の薬学的組成物における前記膜小胞の含有量は、特に制限されず、例えば、薬学的に有効な量での投与となるような含有量とすることが好ましい。
【0050】
前記投与経路は、特に制限されず、例えば、非経口でも経口でもよい。前記非経口の経路は、例えば、経皮、皮下、静脈内、動脈内、腹腔内、鼻腔内、口腔内、吸入、腸等の消化管、局所等があげられる。
【0051】
具体例として、本発明の薬学的組成物が非経口用の場合、1日あたりの前記膜小胞の投与量は、例えば、100~1,000mg等であり、1日あたりの投与回数は、例えば、1~3回、1~2回、1回である。本発明の薬学的組成物が経口用の場合、1日あたりの前記膜小胞の投与量は、例えば、10~100mg等であり、1日あたりの投与回数は、特に制限されず、例えば、1~3回、1~2回、1回である。本発明の薬学的組成物における前記膜小胞の含有量は、前述のように、特に制限されず、例えば、例示する投与量を満たすように配合することができる。
【0052】
本発明の薬学的組成物は、例えば、前述のように、前記有効成分と、その他の添加成分を含んでもよい。前記添加成分は、例えば、薬学的に許容される成分等があげられる。具体例としては、例えば、賦形剤、担体(基材)等があげられる。前記賦形剤および前記担体は、例えば、水、生理食塩水、緩衝液等の水系溶媒;大豆油等の油脂;ワセリン;グリセロール等のアルコール;マルトース、デキストロース、デキストリン等の糖;キシリトール等の糖アルコール;リン脂質;リポソーム等があげられる。また、この他に、前記添加成分として、例えば、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、乳化剤、抗酸化剤、潤滑剤、湿潤剤、増粘剤、安定化剤、UV遮蔽剤、防腐剤、保存剤、ビタミン、ミネラル、着色剤等があげられる。
【0053】
本発明の薬学的組成物の剤型は、特に制限されず、投与経路に応じて適宜選択できる。前記剤型の具体例は、例えば、注射剤、経口剤(内服薬)、外用剤(外用薬)等があげられ、前記経口剤の形態は、例えば、液剤、エマルジョン剤、ゲル剤、ゾル剤、顆粒剤、丸薬、錠剤、カプセル剤、タブレット等があげられる。前記外用剤は、例えば、外皮用薬等の経皮薬、点鼻薬、点眼薬、点耳薬、口腔薬、坐薬等があげられる。前記外用剤の形態は、例えば、液剤、エマルジョン剤、ゲル剤、ゾル剤、軟膏剤、顆粒剤、丸薬、錠剤、カプセル剤等があげられる。
【0054】
本発明の薬学的組成物は、例えば、医薬品でもよいし、医薬部外品でもよいし、ヘルスプロダクトでもよい。
【0055】
本発明の増殖抑制剤が飲食品組成物の場合、例えば、前記有効成分の膜小胞を含む飲食品である。本発明の飲食品組成物は、例えば、食品でもよいし、飲料でもよい。本発明の飲食品組成物は、例えば、健康機能食品組成物でもよい。
【0056】
本発明の飲食品組成物の摂取量は、特に制限されず、1日あたりの前記膜小胞の摂取量は、例えば、100~1,000mg等であり、1日あたりの摂取回数は、例えば、1~3回、1~2回、1回である。本発明の飲食品組成物における前記膜小胞の含有量は、前述のように、特に制限されず、例えば、例示する摂取量を満たすように配合することができる。
【0057】
本発明の飲食品組成物は、例えば、前述のように、前記有効成分と、その他の添加成分を含んでもよい。前記添加成分は、例えば、水、生理食塩水、緩衝液等の水系溶媒、大豆油等の油脂、エタノール等のアルコール、ブドウ糖等の糖、キシリトール等の糖アルコール、乳化剤、抗酸化剤、増粘剤、有機酸、pH調節剤、安定化剤、防腐剤、保存剤、ビタミン、ミネラル、香料、着色剤、充填剤、炭酸化剤等があげられる。
【0058】
(2)増殖抑制方法
本発明の増殖抑制方法は、前述のように、前記本発明の歯周病菌用増殖抑制剤と、歯周病菌とを共存させることを特徴とする。本発明の増殖抑制方法は、前述した本発明の増殖抑制剤の記載が援用できる。本発明において対象となる歯周病菌は、特に制限されず、前述したフソバクテリウム属細菌、ポルフィロモナス属細菌、およびタンネレラ属細菌等があげられる。
【0059】
本発明の増殖抑制方法において、前記増殖抑制剤と歯周病菌とを共存させる工程(共存工程)は、例えば、前記増殖抑制剤に歯周病菌を曝露する工程ともいえる。前記工程は、例えば、目的に応じて、in vivoでもよいし、in vitroでもよい。
【0060】
本発明の増殖抑制方法をin vivoで行う場合、前記共存工程は、例えば、ターゲットに前記増殖抑制剤を投与する工程であり、前記ターゲットは、生体、すなわち動物個体である。前記生体は、例えば、前述のようなヒトまたは非ヒト動物である。
【0061】
本形態によれば、例えば、生体内における歯周病菌の増殖を抑制できる。また、本形態によれば、例えば、歯周病菌の増殖抑制によって、歯周病菌が関連する疾患を治療できる。歯周病菌関連疾患の例示は、後述する。
【0062】
前記増殖抑制剤の投与経路は、例えば、前述のような、非経口または経口があげられ、前記増殖抑制剤の投与量は、特に制限されず、前述の例示を援用できる。
【0063】
本発明の増殖抑制方法をin vitroで行う場合、前記共存工程は、例えば、培地において、前記増殖抑制剤と歯周病菌とを共存させる工程である。具体例として、前記共存工程は、前記増殖抑制剤を含む前記培地において、歯周病菌を培養する工程である。本形態によれば、歯周病菌の増殖を抑制することができる。
【0064】
前記歯周病菌の培養条件は、特に制限されない。前記培地の種類は、例えば、ABHK培地、HK寒天培地等が使用できる。培地は、例えば、寒天培地、液体培地があげられる。培養温度は、特に制限されず、例えば、歯周病菌の至適温度であり、具体例としては、28~40℃、29~38℃、30~37℃である。培養は、例えば、嫌気培養でもよいし、好気培養でもよい。
【0065】
前記歯周病菌に対する前記増殖抑制剤の添加割合は、特に制限されない。具体例として、前記増殖抑制剤の添加割合は、例えば、歯周病菌の菌体数1個に対して、前記有効成分の膜小胞100~1,000個である。また、前記培地における前記有効成分の膜小胞の濃度は、例えば、50~100μg/mLである。
【0066】
(3)歯周病菌関連疾患用薬剤および治療方法
本発明の歯周病菌関連疾患用薬剤(以下、疾患用薬剤という)は、有効成分として前記本発明の歯周病菌用増殖抑制剤を含むことを特徴とする。本発明の疾患用薬剤は、例えば、生体に対する薬剤であり、医薬品でもよいし、医薬部外品でもよいし、ケアプロダクトでもよい。
【0067】
本発明の疾患用薬剤は、前記(1)の本発明の増殖抑制剤の記載を援用でき、具体的には、前記(1)における前記薬学的組成物の記載を援用できる。
【0068】
本発明の歯周病菌関連疾患の治療方法は、患者に、前記本発明の歯周病菌用増殖抑制剤を投与する工程を含むことを特徴とする。また、本発明の歯周病菌関連疾患の治療方法において、前記投与工程は、例えば、患者に、ロイテリ菌の膜小胞およびカゼイ菌の膜小胞の少なくとも一方を投与する工程と言い換えることもできる。
【0069】
本発明において、歯周病菌関連疾患は、歯周病菌が関連する疾患である。前記疾患は、例えば、心筋梗塞、脳梗塞、消化器系疾患または口腔疾患である。前記記消化器系疾患は、例えば、大腸疾患であり、具体例としては、大腸炎または大腸癌があげられる。前記口腔疾患は、例えば、歯周病またはむし歯である。これらの疾患は、歯周病菌が関連している。このため、前記本発明の増殖抑制剤における有効成分である膜小胞の投与によって、歯周病菌の増殖が抑制され、結果的に疾患を治療できる。
【0070】
前記増殖抑制剤の投与方法は、特に制限されず、例えば、前述のように、非経口投与または経口投与のいずれでもよい。また、前記増殖抑制剤の投与量は、特に制限されず、例えば、前述のような例が援用できる。
【0071】
対象疾患が前記心筋梗塞の場合、前記増殖抑制剤の投与は、例えば、経口投与、静脈投与等が好ましい。
【0072】
対象疾患が前記脳梗塞の場合、前記増殖抑制剤の投与は、例えば、経口投与、点鼻投与、静脈投与等が好ましい。
【0073】
対象疾患が前記消化器系疾患の場合、前記増殖抑制剤の投与は、例えば、経口投与、静脈投与、座薬等が好ましい。
【0074】
対象疾患が前記口腔疾患の場合、前記増殖抑制剤の投与は、例えば、口腔内投与が好ましい。口腔内投与の場合、前記増殖抑制剤は、例えば、マウスウォッシュ、口腔塗布剤、口腔内で溶解または崩壊する製剤(例えば、トローチまたはパッチ)等があげられる。
【0075】
(4)用途
本発明は、歯周病菌の増殖抑制に使用するための、ロイテリ菌の膜小胞またはカゼイ菌の膜小胞である。
【0076】
本発明は、歯周病菌関連疾患の治療に使用するための、ロイテリ菌の膜小胞またはカゼイ菌の膜小胞である。本発明は、歯周病菌関連疾患用薬剤を製造するための、ロイテリ菌の膜小胞またはカゼイ菌の膜小胞である。
【0077】
本発明におけるロイテリ菌の膜小胞およびカゼイ菌の膜小胞は、前記(1)における記載を援用できる。
【0078】
以下、実施例等により、本発明を詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0079】
[実施例1]
ロイテリ菌およびカゼイ菌から、それぞれ、膜小胞を回収した。
【0080】
原料菌として、ロイテリ菌は、Lactobacillus reuteri BAA-2837株(ATCC)を使用し、カゼイ菌は、市販製剤(一般名:カゼイ菌製剤散、商品名:ビオラクチス(登録商標)散)から分離したLactobacillus casei YA921株を使用した。前記原料菌の培養は、BHI培地(2% Yeastextract、0.2%システイン)を使用し、培養条件は、37℃、CO2濃度5%、嫌気下とした。
【0081】
前記原料菌(ロイテリ菌またはカゼイ菌)を寒天培地でコロニー形成し、前記培養条件で48時間、前培養を行った。つぎに、前培養の培養コロニーを、新たなBHI液体培地1Lに移し、前記培養条件で、24時間、サブコンフルエント(OD600=2.5-3.5)になるまで本培養を行った。本培養の培養液を、遠心分離(6,000xg、15分、4℃)に供し、上清を回収した。前記上清を孔径0.22μmのフィルターでろ過し、ろ液を回収した。そして、前記ろ液を超遠心分離(100,000g、70分、4℃)に供し、沈殿画分(ペレット)を回収した。ペレット1gを生理食塩水10mLに懸濁して、膜小胞(MV)サンプルとして回収した。前記MVサンプルをナノ粒子解析システム(商品名NanoSight、LM10、レーザー405nm、Malvern社)に供し、前記MVサンプルに含まれる膜小胞の粒子径分布を確認した。解析ソフトは、NTA3.4(Malvern panalytical社)を使用した。
【0082】
ロイテリ菌由来の前記MVサンプル(ペレット1g/10mL)の粒子径分布の結果を、以下に示す。
膜小胞濃度: 9.35×1010particles/mL
平均値(mean): 121.4nm
最頻値(mode): 93nm
SD: 52.1nm
メジアン径: D10 71.4nm
D50 104.7nm
D90 208.8nm
【0083】
カゼイ菌由来の前記MVサンプル(ペレット1g/10mL)の粒子径分布の結果を、以下に示す。
膜小胞濃度: 1.5×1010particles/mL
平均値(mean): 134.3nm
最頻値(mode): 98.6nm
SD: 49.5nm
メジアン径: D10 92.3nm
D50 120.0nm
D90 210.2nm
【0084】
[実施例2]
ロイテリ菌由来のMVおよびカゼイン菌由来のMVについて歯周病菌の増殖抑制能を評価した。
【0085】
(1)Fusobacterium nucleatum
歯周病菌として、Fusobacterium nucleatum KWIK-STIK株(ATCC 25586)を使用した。膜小胞は、前記実施例1で調製したロイテリ菌MVサンプルおよびカゼイ菌MVサンプルを使用した。前記MVサンプルは、必要に応じて、滅菌水で希釈した。
【0086】
滅菌した液体状のABHK寒天培地に、所定の濃度(0%、1%、5%)となるように、前記ロイテリ菌MVサンプルまたは前記カゼイ菌MVサンプルを添加し、プレートでABKH寒天培地を固めた。フソバクテリウム属細菌を一白金耳量採取して、寒天を含まないABHK液体培地8mLに懸濁した。そして、前記懸濁菌を前記プレートに播種して、37℃、嫌気下、24時間の培養を行った。培養後のプレートについて、フソバクテリウム属細菌の目視確認とCFU(コロニーフォーミングユニット)のカウントを行った。
【0087】
フソバクテリウム属細菌のプレートの写真を
図3に示し、表1にCFUの結果を示す。
図3は、MV存在下でのフソバクテリウム属細菌の培養状態を示す写真であり、上段が、ロイテリ菌MV存在下の結果、下段が、カゼイ菌存在下の結果であり、上段下段ともに、左からMVの濃度が0%、1%、5%の結果である。
【0088】
【0089】
図3および表1に示すように、前記ロイテリ菌MVおよび前記カゼイ菌MVのいずれを使用した場合も、MVの添加によって、フソバクテリウム属細菌の生菌数が減少し、さらに、MVの濃度に依存して生菌数が減少した。これらの結果から、前記ロイテリ菌MVおよび前記カゼイ菌MVによって、フソバクテリウム属細菌の増殖が抑制できることが確認できた。
【0090】
(2)Aggregatibacter actinomycetemcomitans
歯周病菌として、Aggregatibacter actinomycetemcomitans(標準菌株LYFO DISC、ATCC 29522)、およびPorphyromonas gingivalis (標準菌株KWIK-STIK、ATCC 33277)を使用した。膜小胞は、前記実施例1で調製したロイテリ菌MVサンプルおよびカゼイ菌MVサンプルを使用した。前記MVサンプルは、必要に応じて、滅菌水で希釈した。
【0091】
歯周病菌としてA. actinomycetemcomitansおよびP. gingivalisをそれぞれ使用した以外は、前記(1)と同様にして、前記ロイテリ菌MVサンプルまたは前記カゼイ菌MVサンプルの存在下における歯周病菌の培養を行い、培養状態を確認した。
【0092】
表2に、A. actinomycetemcomitansのCFUの結果を示し、表3に、P. gingivalisのCFUの結果を示す。表2および表3に示すように、前記ロイテリ菌MVおよび前記カゼイ菌MVのいずれを使用した場合も、MVの添加によって、歯周病菌の生菌数が減少し、さらに、MVの濃度に依存して生菌数が減少した。これらの結果から、前記ロイテリ菌MVおよび前記カゼイ菌MVによって、フソバクテリウム属細菌にかかわらず、その他の歯周病菌の増殖も抑制できることが確認できた。
【0093】
【0094】
[実施例3]
膜小胞を単離することによる、増殖抑制能の向上を確認した。
【0095】
前記実施例1と同様にして、ロイテリ菌の培養、ろ過、超遠心分離を行った。その過程において、ロイテリ菌の本培養終了時には、本培養の培養液をサンプリングした(サンプル1:培養原液サンプル)。また、前記超遠心分離により、MVを含む沈殿画分と、上清とを分離し、前記上清をサンプリングした(サンプル2:MV除去後サンプル)。MVを含む前記沈殿画分は、本培養に使用した培地と同量の生理食塩水に懸濁して、膜小胞(MV)サンプル(サンプル3)とした。前記沈殿画分から調製したMVサンプルの粒子径分布は、前記実施例1の
図1と同様であった。
【0096】
そして、前記実施例2(1)と同様にして、各サンプル1mLの存在下におけるフソバクテリウム属細菌の培養を行い、培養状態を確認した。また、サンプルに代えて、生理食塩水1mLを添加して、未処理のコントロールについても同様に培養状態の確認を行った。表4にフソバクテリウム属細菌のCFUの結果を示す。また、未処理のコントロールのCFUを「1」とした場合の、各サンプル使用時におけるCFUの相対値をあわせて示す。相対値が小さい程、増殖を抑制していることを示す。
【0097】
【0098】
表4に示すように、前記ロイテリ菌そのものを含む培養原液(サンプル1)についても、未処理のコントロールと比較して増殖の抑制は確認できたが、培養原液から回収したMVサンプル(サンプル3)によれば、著しくフソバクテリウム属細菌の増殖を抑制できた。この結果から、菌体そのものを含む培養液ではなく、分泌された膜小胞を菌体から分離することによって、より効果的に増殖抑制を行えることがわかった。なお、サンプル3は、そのボリュームを、EV回収に使用した培養液のボリュームとあわせていることから、EV濃度による効果ではなく、単離EVとすることによる効果であるといえる。
【0099】
以上、実施形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、本願発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。