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特開2024-154842二軸配向ポリエステルフィルム、サンドマットフィルムの製造方法、および印刷ラベルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154842
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】二軸配向ポリエステルフィルム、サンドマットフィルムの製造方法、および印刷ラベルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20241024BHJP
   G09F 3/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B32B27/36
G09F3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023068989
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】荘司 秀夫
(72)【発明者】
【氏名】多和田 誠司
(72)【発明者】
【氏名】御子柴 翔太
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA20B
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AK36B
4F100AK41A
4F100AK42A
4F100AK42B
4F100AK42D
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA04
4F100BA07
4F100CA23B
4F100EJ34
4F100GB90
4F100HB31C
4F100JA11
4F100JK14B
4F100JL00
4F100JL04
4F100JL11
4F100JM01B
4F100YY00B
(57)【要約】
【課題】ブロッキングと滑り性、および深いサンドマット処理後の印刷密着性を両立した二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いたサンドマットフィルム、ならびにそれを用いた印刷ラベルを提供すること。
【解決手段】ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最外層に厚みが150nm以上400nm以下の樹脂層(A層)を有し、前記A層がポリエステルを主成分とするB層に接してなり、前記A層側の表面で測定したクルトシスSkuが20以上250以下である、二軸配向ポリエステルフィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最外層に厚みが150nm以上400nm以下の樹脂層(A層)を有し、前記A層がポリエステルを主成分とするB層に接してなり、前記A層側の表面で測定したクルトシスSkuが20以上250以下である、二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
前記A層側で測定した全反射測定法赤外分光分析(ATR-IR)により求められる表面結晶化度が0.70以上1.10未満である、請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
前記A層に樹脂粒子を有する、請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
23℃で測定したカール量が0.2mm以上3.0mm以下である、請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
前記B層の厚みが0.5μm以上4.0μm以下である、請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルムをサンドマット処理する工程を含むサンドマットフィルムの製造方法であって、前記B層が比率0.5%以上10.0%以下で露出している、サンドマットフィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルムに前記B層が比率0.5%以上10.0%以下で露出するようサンドマット処理されたサンドマットフィルムと、印刷層とを有し、前記印刷層が前記A層および前記B層の両層に接してなる、印刷ラベルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブロッキングと滑り性、および深いサンドマット処理後の印刷密着性を両立した二軸配向ポリエステルフィルム、サンドマットフィルムの製造方法、および印刷ラベルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルムは、耐熱性、印刷適性、接着特性に優れることからラベルなどの基材フィルムとして広く用いられている。また、ラベルの風合いや印刷の鮮明性を良好とする目的から、光沢度を下げる加工(マット加工)をポリエステルフィルムの表面に施すことが必要となる場合がある。
【0003】
フィルムの光沢度を下げる代表的な加工(マット加工)としては、サンドブラスト加工や、ヘアライン加工が挙げられる。サンドブラスト加工は、粉粒体(サンド)をフィルムの表面に高速で衝突せしめ、フィルム表面の形状を変化させて、フィルムの光沢度を下げるものである。ヘアライン加工は、金属の旋盤で表面に髪の毛状のキズをつけることで光沢度を下げる加工であり、いずれもフィルム表面に凹凸を形成せしめることで、光を乱反射する表面形状とするものである。求められる光沢度の要求に応じてマット加工の強度は適宜調整されるが、近年のより高度な低光沢意匠への要求を満たすために、凹凸が深くかつより緻密である表面形状を形成する必要性が高まっている。
【0004】
他方、ポリエステルフィルムをラベルなどの基材フィルムとして用いる場合、印刷層との密着性を良好とする目的からポリエステルフィルムの表面に易接着層を設けることがある。しかしながら、易接着層を有するフィルムに前記のマット加工を行うことで易接着層が剥落し、マット加工後の易接着性が不十分となる課題があった。易接着層の剥落を防ぐ目的でマット加工の強度を調整した場合にマット感が不十分となることがあり、両者を両立することが困難であることが多く、特により低光沢な意匠のラベルにおいて大きな課題となっている。
【0005】
かかる課題を解決するため、易接着層を厚くする構成でサンドマット後の易接着性を担保する検討がなされている(特許文献1、2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-124875号公報
【特許文献2】特開平2-42475号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2のフィルムでは、易接着層の厚膜化がフィルム表面の平滑化を伴い、サンドマット加工前にフィルム同士が密着するブロッキングが生じてしまうことがある点、および特に近年求められるより低光沢とするための深いサンドマット加工後に表面に残存した易接着層の粒子が、印刷加工後に脱落し密着不良や印刷ヌケが生じることがあり、マット加工を行う基材の特性としては改善の余地があった。
【0008】
そこで本発明は、ブロッキングと滑り性、および深いサンドマット処理後の印刷密着性を両立した二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いたサンドマットフィルム、ならびにそれを用いた印刷ラベルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の好ましい一態様は以下の構成をとる。
(1)ポリエステルフィルムの少なくとも片側の最外層に厚みが150nm以上400nm以下の樹脂層(A層)を有し、前記A層がポリエステルを主成分とするB層に接してなり、前記A層側の表面で測定したクルトシスSkuが20以上250以下である、二軸配向ポリエステルフィルム。
(2)前記A層側で測定した全反射測定法赤外分光分析(ATR-IR)により求められる表面結晶化度が0.70以上1.10未満である、(1)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(3)前記A層に樹脂粒子を有する、(1)または(2)に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(4)23℃で測定したカール量が0.2mm以上3.0mm以下である、(1)~(3)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(5)前記B層の厚みが0.5μm以上4.0μm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
(6)(1)~(5)に記載の二軸配向ポリエステルフィルムをサンドマット処理する工程を含むサンドマットフィルムの製造方法であって、前記B層が比率0.5%以上10.0%以下で露出している、サンドマットフィルムの製造方法。
(7)(1)~(5)に記載の二軸配向ポリエステルフィルムに前記B層が比率0.5%以上10.0%以下で露出するようサンドマット処理されたサンドマットフィルムと、印刷層とを有し、前記印刷層が前記A層および前記B層の両層に接してなる、印刷ラベルの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ブロッキングと滑り性、および深いサンドマット処理後の印刷密着性を両立した二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いたサンドマットフィルム、ならびにそれを用いた印刷ラベルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明の好ましい一態様を詳細に説明する。
【0012】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルム(以下、単に「本発明のフィルム」とも呼ぶ場合もある。)に用いられるポリエステル樹脂とはエステル結合を主鎖に持つ高分子をいうが、本発明に用いるポリエステル樹脂は、ジカルボン酸とジオールとが縮重合した構造を持つポリエステル樹脂が好ましい。ジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、マレイン酸、フマル酸などの脂肪族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、パラオキシ安息香酸などのオキシカルボン酸などの各成分を挙げることができる。また、ジカルボン酸エステル誘導体成分として、上記ジカルボン酸化合物のエステル化物、たとえばテレフタル酸ジメチル、テレフタル酸ジエチル、テレフタル酸2-ヒドロキシエチルメチルエステル、2,6-ナフタレンジカルボン酸ジメチル、イソフタル酸ジメチル、アジピン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、ダイマー酸ジメチルなどの各成分を挙げることができる。また、ジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール(ネオペンチルグリコール)などの脂肪族ジヒドロキシ化合物、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのポリオキシアルキレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどの脂環族ジヒドロキシ化合物、ビスフェノールA、ビスフェノールSなどの芳香族ジヒドロキシ化合物など各成分が挙げられる。これらはそれぞれ1種だけであっても2種以上用いられるものであってもよい。また、フィルムとして製膜性に影響が出なければトリメリット酸、ピロメリット酸およびそのエステル誘導体のうち1種以上を少量共重合されたものであっても構わない。
【0013】
ポリエステル樹脂の具体的な例は、ポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略称する)、ポリエチレン-2,6-ナフタレンジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレフタレートなどは安価に入手でき、かつ製膜性も良好であるため、特に好適に用いることができる。
【0014】
また、ポリエステル樹脂はホモポリマーであってもコポリマーであってもよい。コポリマーにおける共重合成分としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環族ジカルボン酸、炭素数2~15のジオール成分を挙げることができ、これらの例としては、たとえばイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、フタル酸、スルホン酸塩基含有イソフタル酸、およびこれらのエステル形成性化合物、エチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、数平均分子量400~20,000のポリアルキレングリコールなどを挙げることができる。
【0015】
更に、このポリエステル中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、耐候定剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、有機の易滑剤、顔料、染料、有機または無機の微粒子、充填剤、帯電防止剤、核剤などが適宜選択して添加されていてもよい。
【0016】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの厚みは特に限定されるものではなく、用途や種類に応じて適宜選択されるが、機械的強度、ハンドリング性などの点から、通常は10μm以上500μm以下、より好ましくは23μm以上125μm以下である。また、ポリエステルフィルムは、共押出しによる複合フィルムであってもよいし、得られたフィルムを各種の方法で貼り合わせた複合フィルムであってもよい。
【0017】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、樹脂層(以下A層と称する)を少なくとも片側の最外層に有し、ポリエステル樹脂を主成分とするB層に接してA層が積層されている必要がある。A層はB層を含む基材フィルムにA層の塗料組成物を塗布することで設けることができる。本発明のフィルムにおいて表層とは、フィルムの少なくとも一方の空気側に層を有するものである。また、ポリエステルを主成分とするB層とは当該層100質量%中にポリエステルを60質量%以上含有するものを指す。
【0018】
本発明のA層は、バインダー樹脂を含むとB層および印刷層との密着性を向上させることができるため好ましい。バインダー樹脂として、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、オキサゾリン化合物、カルボジイミド化合物、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、およびポリアミド樹脂より選ばれる1種類以上を含むことが好ましい。
【0019】
バインダー樹脂として用いることができるポリエステル樹脂は、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するもので、ジカルボン酸とジオールから重縮合して得られるものが好ましい。
【0020】
該ポリエステル樹脂の原料となるジカルボン酸としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸が使用できる。芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p-p’-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを用いることができる。脂肪族及び脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1 ,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1 ,4-シクロヘキサンジカルボン酸など、及びそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
【0021】
該ポリエステル樹脂の原料となるジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1, 8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1 ,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1 ,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1, 3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1、3-シクロブタンジオール、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールA 、4 、4’-メチレンジフェノール、4、4’-(2-ノルボルニリデン) ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、o-、m-、及びp-ジヒドロキシベンゼン、4,’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1, 2’-ジオール、シクロヘキサン-1、2-ジオール、シクロヘキサン-1 ,4-ジオールなどを用いることができる。
【0022】
また、該ポリエステル樹脂として、変性ポリエステル共重合体、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシなどで変性したブロック共重合体、グラフト共重合体などを用いることも可能である。
【0023】
バインダー樹脂として用いることができるアクリル樹脂は、特に限定されることはないが、アルキルメタクリレート及び/ またはアルキルアクリレートから構成されるものが好ましい。
【0024】
アルキルメタクリレート及び/ またはアルキルアクリレートとしては、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n- ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n-ヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸ヒドロキシプロピル、アクリル酸、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸n-ヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸2- エチルヘキシル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸ヒドロキシプロピル、マレイン酸、イタコン酸、アクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどを用いるのが好ましい。これらは1種もしくは2種以上を用いることができる。
【0025】
バインダー樹脂として用いることができるエポキシ樹脂としては、例えば、ソルビトールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤、ジグリセロールポリグリシジルエーテル系架橋剤及びポリエチレングリコールジグリシジルエーテル系架橋剤などを用いることができる。エポキシ樹脂として、市販されているものを使用してもよく、例えば、ナガセケムテック株式会社製エポキシ化合物“デナコール” (登録商標)EX-611、EX-614、EX-614B、EX-512、EX-521、EX-421、EX-313、EX-810、EX-830、EX-850など)、坂本薬品工業株式会社製のジエポキシ・ポリエポキシ系化合物(SR-EG、SR-8EG、SR-GLGなど)、大日本インキ工業株式会社製エポキシ架橋剤“EPICLON”(登録商標)EM-85-75W、あるいはCR-5Lなどを好適に用いることができ、中でも、水溶性を有するものが好ましく用いられる。
【0026】
バインダー樹脂として用いることができるメラミン樹脂としては、例えば、メラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、及びこれらの混合物などを用いることができる。また、メラミン樹脂としては、単量体または2 量体以上の多量体からなる縮合物のいずれでもよく、これらの混合物でもよい。エーテル化に用いられる低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール及びイソブタノールなどを用いることができる。官能基としては、イミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基等のアルコキシメチル基を1分子中に有するもので、イミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂及び完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などである。その中でも、メチロール化メラミン樹脂が最も好ましく用いられる。
【0027】
バインダー樹脂として用いることができるオキサゾリン化合物は、該化合物中に官能基としてオキサゾリン基を有するものであり、オキサゾリン基を含有するモノマーを少なくとも1種以上含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーを共重合させて得られるオキサゾリン基含有共重合体からなるものが好ましい。オキサゾリン基を含有するモノマーとしては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン及び2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどを用いることができ、これらの1種または2 種以上の混合物を使用することもできる。中でも、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0028】
オキサゾリン化合物において、オキサゾリン基を含有するモノマーに対して用いられる少なくとも1種の他のモノマーは、該オキサゾリン基を含有するモノマーと共重合可能なモノマーであり、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲン-α ,β-不飽和モノマー類、スチレン及びα-メチルスチレンなどのα ,β-不飽和芳香族モノマー類などを用いることができ、これらは1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0029】
バインダー樹脂として用いることができるカルボジイミド化合物は、該化合物中に官能基としてカルボジイミド基、またはその互変異性の関係にあるシアナミド基を分子内に1個または2個以上有する化合物である。このようなカルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルメタンカルボジイミド、ジシクロヘキシルカルボジイミド、テトラメチルキシリレンカルボジイミド及びウレア変性カルボジイミド等を挙げることができ、これらは1種または2種以上の混合物を使用することもできる。
【0030】
バインダー樹脂として用いることができるウレタン樹脂は、ポリヒドロキシ化合物とポリイソシアネート化合物を、乳化重合、懸濁重合などの公知のウレタン樹脂の重合方法によって反応させて得られる樹脂であることが好ましい。
【0031】
ポリヒドロキシ化合物としては、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレン・プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、テトラメチレングリコール、1,5-ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリカプトラクトン、ポリヘキサメチレンアジペート、ポリヘキサメチレンセバケート、ポリテトラメチレンアジペート、ポリテトラメチレンセバケート、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ポリカーボネートジオール、グリセリンなどを挙げることができる。
【0032】
ポリイソシアネート化合物としては、例えばヘキサメチレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネートとトリメチレンプロパンの付加物、ヘキサメチレンジイソシアネートとトリメチロールエタンの付加物などを用いることができる。
【0033】
さらに、本発明のフィルムのA層は、樹脂または化合物としてイソシアネート化合物を含んでいてもよい。イソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、ヘキサメチレン-1,6-ジイソシアネート、1,6-ジイソシアネートヘキサン、トリレンジイソシアネートとヘキサントリオールの付加物、トリレンジイソシアネートとトリメチロールプロパンの付加物、ポリオール変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5-ナフタレンジイソシアネート、3,3’-ビトリレン-4,4’ジイソシアネート、3,3’ジメチルジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、メタフェニレンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0034】
さらに、イソシアネート基は水と反応し易いため、塗剤のポットライフの点で、イソシアネート基をブロック剤などでマスクしたブロックイソシアネート系化合物などを好適に用いることができる。この場合、ポリエステルフィルムに塗料組成物を塗布した後の乾燥工程において熱がかかることで、ブロック剤が解離し、イソシアネート基が露出する結果、架橋反応が進行することになる。
【0035】
バインダー樹脂として用いることができるポリアミド樹脂は、主鎖に複素環式アミン骨格を有しているポリマーであることが好ましい。またポリアミド樹脂は、主鎖や側鎖の任意の位置に置換基を有していてもよいし、ピペラジン、ピリジン、イミダゾールまたはカルバゾール等の複素環式アミン骨格の任意の位置に置換基を有していてもよい。ピペラジン骨格を主鎖に有する場合、主鎖のカルボニル基とカルボニル基の間に、ピペラジン骨格を有し、ピペラジン骨格の複素環中の窒素とカルボニル基がアミド結合を構成していることが好ましい。ピリジン、イミダゾールまたはカルバゾール骨格等の1級または2級のアミノ基を2以上有する他の複素環式アミン骨格を主鎖に有する場合も、カルボニル基とカルボニル基の間に、複素環式アミン骨格を有することが好ましい。
【0036】
本発明のバインダー樹脂として用いるポリアミド樹脂が、ピペラジン骨格を有する場合、アミド基を連結する炭素にピペラジン骨格直接が結合していてもよいし、アルキル基、アミノ基を介してピペラジン骨格が結合していてもよい。ピリジン、イミダゾールまたはカルバゾール骨格等のピペラジン骨格以外の複素環式アミン骨格を有する場合、アミド基を連結する炭素にピリジン、イミダゾールまたはカルバゾール骨格等の複素環式アミン骨格が直接結合していてもよいし、アルキル基、アミノ基を介して結合していてもよい。
【0037】
本発明のバインダー樹脂として用いるポリアミド樹脂は、ピペラジン骨格を主鎖または側鎖に有するポリマーが好ましく、ピペラジン骨格を主鎖に有するポリマーがより好ましい。本発明で用いる主鎖にピペラジン骨格を有するポリアミドは、ピペラジン骨格を有するアミンと、ジカルボン酸との重縮合反応によって得られることが好ましい。
【0038】
ピペラジン骨格を有するアミンの好ましい例としては、ピペラジン、アミノメチルピペラジン、アミノエチルピペラジン、アミノプロピルピペラジン、アミノブチルピペラジン、1,4-ビス( アミノメチル)ピペラジン、1 ,4-ビス(2-アミノエチル) ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン、1,4-ビス(4-アミノブチル)ピペラジンなどが挙げられる。これらの中でも、アミノエチルピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジンがより好ましい。また、これらのアミンは、アミド結合を形成し得る窒素以外の任意の位置に、置換基を有していてもよい。
【0039】
ジカルボン酸の好ましい例としては、1H-イミダゾール-2,4-ジカルボン酸、1H-イミダゾール-2,5-ジカルボン酸、1H-イミダゾール-4,5-ジカルボン酸、ピリジン-2,3-ジカルボン酸、ピリジン-2,4-ジカルボン酸、ピリジン- 2,5-ジカルボン酸、ピリジン-2,6-ジカルボン酸、ピリジン-3,4-ジカルボン酸、ピリジン-3,5-ジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などが挙げられる。また、これらのジカルボン酸は、アミド結合を形成し得るカルボキシル基以外の任意の位置に、置換基を有していてもよい。
【0040】
本発明のバインダー樹脂として用いるポリアミド樹脂は、上記のアミンとジカルボン酸の組み合わせで得られるポリアミドであれば好ましく用いることができ、アミノエチルピペラジンとアジピン酸の組み合わせで得られるポリアミドが特に好ましい。
【0041】
本発明のバインダー樹脂として用いるポリアミド樹脂は、主鎖にポリアルキレングリコールの構造を有していてもよい。具体的には、アミノエチルピペラジン、アジピン酸、およびビスアミノプロピルポリエチレングリコールの骨格を有するポリアミドが挙げられる。
【0042】
本発明のバインダー樹脂として用いるポリアミド樹脂は、ピペラジン、ピリジン、イミダゾールまたはカルバゾールの骨格を有するポリアミドと、その他のポリマーとの混合物や、共重合体であってもよい。この場合、その他のポリマーの具体例としては、ポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリペンタメチレンアジパミド(ナイロン5 6)、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6 T)、ポリヘキサメチレンアジパミド/ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン66/6T/6I)、ポリヘキサメチレンテレフタルアミド/ ポリヘキサメチレンイソフタルアミドコポリマー(ナイロン6T/6 I)、ポリキシリレンアジパミド(ナイロンXD6)などが挙げられる。
【0043】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、A層側の表面で測定したクルトシスSkuが20以上250以下であることが必要である。Skuは表面粗さの高さ分布曲線における、山部や谷部の先端形状に関するパラメータであり、一般に表面粗さの高さ分布曲線が正規分布である場合に3となり、3未満のときは尖りが緩やかで裾が短く、3より大きいときは尖りが急で裾が長い分布となる。SkuはJISB0601-2013のクルトシスの定義を3次元パラメータに拡張したものであり、実施例に記載の方法で求められるものである。本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、Skuが20以上であることにより、鋭く均一な突起形状かつ平滑なベース面の形状を並立させることができ、耐ブロッキング性と深い形状のサンドマット加工後の易接着性を両立可能である。特に、深いサンドマット加工を行う際に、局所的に樹脂層が大きく削られ不均一な形状となる場合にも、より裾の長い平坦箇所を有することにより、樹脂層の残存量を平均化することができ、サンドマット加工後の易接着不良を抑制することができる場合がある。また、Skuが250以下であることで、突起部への荷重および摩擦負荷の局所集中が低減され、フィルム製膜工程および加工工程で搬送中に突起部が脱落しキズが多発する現象を抑制できる。また、本発明の特徴とするA層の厚みが大きい設計では膜厚斑の絶対値が大きくなり易く、特にSkuが250を超える極端な平坦表面では局所的な膜厚斑によるサンドマット後の易接着不良が生じる場合がある。Skuは40以上235以下であるとより好ましく、60以上220以下であると最も好ましい。Skuを上記の特定範囲とする方法は大粒径粒子をまばらに含む方法が挙げられるが、以下の方法を組み合わせて実施する様態が好ましい。
(i)A層に含有される粒子の平均粒子径とA層の厚みのバランスを後述の特定範囲とする。
(ii)乾燥硬化前のA層樹脂組成溶液の固形分濃度を6.0~15.0質量%とした特定粘度領域とする。
(iii)後述のインラインコート法において、A層樹脂組成溶液の塗布~延伸開始区間におけるウェット厚み減少速度を0.5μm/秒以上8.0μm/秒以下とする。
【0044】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのA層の厚みは、150nm以上400nm以下であることが必要である。A層の厚みを上記範囲とすることで、前記Skuの数値範囲を実現でき、かつブロッキングの抑制とサンドマット後の易接着性の両立が可能である。A層の厚みが150nm未満の場合には、深いサンドマット処理後に樹脂層の残存が不十分となり易接着性が不十分となることがある。また、A層の厚みが400nmより大きい場合には、粒子が埋没し前記Skuの数値を満たすことが困難であり、また、後述するインラインコート法では延伸による膜厚斑が大きくなる場合がある。A層の厚みは170nm以上380nm以下であるとより好ましく、180nm以上360nm以下であると最も好ましい。
【0045】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのA層には、前記Skuを特定範囲に制御する目的より、無機および/または樹脂粒子を含有し、その含有量が前記塗料組成物中の全固形分質量に対して0.15~3.0質量%であることが好ましい。また、粒子の平均粒径は0.30μm以上1.00μm以下であることが好ましく、0.45μm以上0.85μm以下であると最も好ましい。粒子の平均粒径が0.30μm未満、および1.00より大きい場合には、前記Skuを満たすことが難しい場合がある。
【0046】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのA層では、A層に含有される粒子の平均粒径とA層の厚みの差が、100nm以上500nm以下であることが好ましい。A層に含有される粒子の平均粒径とA層の厚みの差が100nm未満であると粒子が工程中で脱落しフィルムにキズが付き易く、500nmより大きい場合にはブロッキングが悪化する場合があり、また、いずれの場合も前記Skuの値を本願の特徴とする好ましい範囲とすることが困難となる場合がある。A層に含有される粒子の平均粒径とA層の厚みの差は、200nm以上400nm以下であるとより好ましい。
【0047】
本発明のA層に含有される粒子は、シリカ、アルミナ、カオリン、炭酸カルシウム、酸化チタン、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化珪素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、タルク、クレー、マイカ、アジルコニア、アルミノケイ酸塩粒子などの無機粒子や、架橋ポリスチレン粒子、アクリル粒子、ポリエステル粒子などの樹脂粒子が好ましく用いられる。サンドマット加工にてフィルム表面が削られる際に粒子が脱落し最表面に残りにくいという観点からは、無機粒子よりA層のバインダー樹脂との密着性が低い点から樹脂粒子が好ましく、特に非極性の架橋ポリスチレン粒子が好ましい。サンドマット加工にてフィルム表面が削られる際に粒子が脱落することで基材層が部分的に露出されて印刷層との密着性がより向上することができる。
【0048】
さらに本発明の主旨を損なわない範囲において、A層には必要に応じて消泡剤、離型剤、塗布性改良剤、増粘剤、有機系潤滑剤、帯電防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、発泡剤、染料等が含有されてもよい。
【0049】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、A層側で測定したATR-IRにより求められる表面結晶化度が0.70以上1.10未満であることが好ましい。表面結晶化度が0.70未満であるとフィルム表層近傍の非晶性が過剰であり、サンドマット後の易接着性はより良好となる一方で製膜および加工搬送時のキズ付きや厚み斑などの品位面が悪化する場合がある。また、表面結晶化度が1.10以上である場合には、フィルム表層近傍の結晶化が過剰であり、サンドマット後の印刷層との密着性が不十分となる場合がある。なお、表面結晶化度は実施例に記載の方法で求めるものとする。表面結晶化度を前記特定の範囲とする方法は特に限定されないが、前記A層を設け、かつ二軸配向したポリエステルを主成分とするB層をA層に隣接して設ける方法などが挙げられる。
【0050】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのB層は、厚みが0.5μm以上4.0μm以下であることが好ましい。厚みが0.5μm未満であると深いサンドマット加工後にB層が削れ、本発明で目的とする易接着性の発現が不十分となる場合があり、厚みが4.0μmより大きい場合には、加工搬送時やラベルとしての使用時にカールが課題となる場合がある。
【0051】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのB層は、二軸配向したポリエステルを主成分とし、B層中のポリエステルにおけるグリコール成分として、エチレングリコール成分を80モル%以上95モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上が5モル%以上20モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、90モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。さらに好ましくは、グリコール成分として、エチレングリコール成分を85モル%以上95モル%未満含有し、ジエチレングリコール成分、1,4-シクロヘキサンジメタノール成分、ネオペンチルグリコール成分の少なくとも1種類以上が5モル%以上15モル%未満含有し、ジカルボン酸成分として、95モル%以上がテレフタル酸成分、さらに好ましくは、上記グリコール成分の内、ジカルボン酸成分の98モル%以上がテレフタル酸成分であることが好ましい。当該組成とすることで、A層側から測定した表面結晶化度を好ましい範囲に制御することができる。
【0052】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのA層側で測定したATR-IRにより求められる表面結晶化度は、A層およびB層の両層における各樹脂の高次構造を反映したパラメータであり、特に二軸延伸の条件で配向状態が大きく変動するB層の影響を強く受けるものである。B層は前記の組成とすることにより延伸による二軸配向が適度であることで、本願の目的とするサンドマット後の易接着性に寄与するが、後述する二軸延伸過程における135℃以上の高温延伸による配向緩和過程を設けることは、より本特性を良好とする観点から好ましく用いられる。
【0053】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、23℃で測定したカール量が0.2mm以上3.0mm以下であることが好ましい。カール量が3.0mmより大きい場合は、加工搬送時にフィルム端部の浮き上がる工程不具合が生じる場合があり、また、カール量が0.2mm未満であるとサンドマット加工後の反対面加工時に逆側へのカールが生じる場合がある。なお、カール量は実施例に記載の方法で求めるものとする。カール量を前記特定の範囲とする方法は特に限定されないが、B層の昇温結晶化温度Tccから20℃以上60℃以下低い温度で緩和熱処理を行い非晶構造を固定化する方法などが挙げられる。
【0054】
次に本発明の二軸配向ポリエステルフィルムの製造方法について、好ましい態様を説明する。なお、本発明のフィルムは下記の製法により得られたものに限定されるものではない。A層と二軸配向したB層の積層構成とする好ましい方法としては、2種類以上の原料を共押出して積層する方法、2種類以上のフィルムを貼り合せる方法、インラインコート法、オフコート法などが挙げられる。中でも生産性を考慮すると、インラインコート法が最も好適である。
【0055】
ここでインラインコート法とは、基材フィルムの製造の工程内で塗布を行う方法である。基材フィルムとしてポリエステルフィルムを用いる場合、結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に、塗料組成物を塗布した後、少なくとも一軸方向に延伸し、次いで熱処理を施して、該ポリエステルフィルムの結晶配向を完了させる製造方法によって製造されることが好ましい。また、オフコート法とは、製造が完了したポリエステルフィルムの少なくとも一方の表層に、前述の塗料組成物を塗布し、次いで乾燥、硬化することにより形成する方法である。基材フィルムへの樹脂組成物の塗布方式は、公知の塗布方式を任意で用いることができる。例えばワイヤーバーコート法、リバースコート法、グラビアコート法、ダイコート法、ブレードコート法、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法などが挙げられる。
【0056】
本発明では、基材フィルムとなるポリエステルフィルムの少なくとも片面に、塗料組成物を塗布した後、乾燥せしめることにより表層を形成させることが好ましい。本発明において、塗料組成物に溶媒を含有せしめる場合は、溶媒として水系溶媒を用いることが好ましい。水系溶媒を用いることで、乾燥工程での溶媒の急激な蒸発を抑制でき、均一な樹脂層を形成できるだけでなく、環境負荷の点で優れる。
【0057】
ここで、水系溶媒とは、水、または水とメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、ブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類など水に可溶である有機溶媒が任意の比率で混合させているものを指す。
【0058】
塗料組成物のフィルムへの塗布方法は、特に限定するものではないが、前述したとおり、インラインコート法であることが好ましい。具体的には、ポリエステル樹脂を溶融押し出ししてから二軸延伸後熱処理して巻き上げるまでの任意の段階で塗布を行う方法を指し、通常は、溶融押出し後・急冷して得られる実質的に非晶状態の未延伸(未配向)フィルム(Aフィルム)、その後に長手方向または幅方向に延伸された一軸延伸(一軸配向) フィルム(Bフィルム)、またはさらに幅方向または長手方向に延伸された熱処理前の二軸延伸(二軸配向)フィルム(Cフィルム)の何れかのフィルムに塗布する。
【0059】
本発明では、結晶配向が完了する前の上記Aフィルム、Bフィルム、の何れかのフィルムに、塗料組成物を塗布し、その後、フィルムを一軸方向又は二軸方向に延伸し、溶媒の沸点より高い温度で熱処理を施しフィルムの結晶配向を完了させるとともに樹脂層を設ける方法を採用することが好ましい。この方法によれば、フィルムの製膜と、塗料組成物の塗布乾燥(すなわち、樹脂層の形成) を同時に行うことができるために製造コスト上のメリットもある。
【0060】
中でも、長手方向に一軸延伸されたフィルム(Bフィルム)に、塗料組成物を塗布し、その後、幅方向に延伸し、熱処理する方法が優れている。この方法の場合、未延伸フィルムに塗布した後、二軸延伸する方法に比べ、塗料組成物を塗布した後の延伸工程が1回少ないため、延伸による樹脂層の欠陥や亀裂が発生しづらく、平滑性に優れた表層を形成できるためである。また、先述の通り、結晶配向完了前のフィルムへ塗料組成物を塗布することで、表層とフィルムとの密着性を付与することができる。
【0061】
従って、本発明において好ましい表層の形成方法は、水系溶媒を用いた塗料組成物を、基材フィルム上にインラインコート法を用いて塗布し、乾燥、熱処理することによって形成する方法である。またより好ましくは、一軸延伸後のBフィルムに塗料組成物をインラインコートする方法である。
【0062】
次に、本発明のフィルムの製造方法について、ポリエステルフィルムを例示して説明するが、本発明はかかる例に限定して解釈されるものではない。
【0063】
使用する原料を真空乾燥し水分率が50ppm以下となるようにした後、単軸押出機に供給し溶融押出する。この際、樹脂温度は265℃~295℃に制御することが好ましい。また、基材フィルムが複数の層から構成される場合には、少なくとも2台の一軸もしくは二軸押出機、または主押出機と副押出機を有する複合製膜装置において、主押出機にB層の原料となる樹脂、副押出機にA層の原料となる樹脂を投入し溶融押出を行い、例えば2台の押出機と直線状のリップを有する金型(Tダイ)上部に設置したフィードブロックやマルチマニホールドにてA/BやA/B/A等の積層フィルムとすることができる。その後、冷却されたドラム上で密着冷却固化し未延伸(未配向)PETフィルム(Aフィルム)を作製する。このフィルムを必要に応じて赤外線加熱等でポリマーのガラス転移温度(Tg)以上に加熱し、長手方向(以降、MDと呼ぶ)に延伸する(MD延伸)。逐次二軸延伸の場合、MD延伸は2個以上のロールの周速差を利用して行う。MD延伸の倍率は1.5~6.0倍が好ましい。1.5倍以上、より好ましくは2.0倍以上、さらに好ましくは2.8倍以上とすることで、実用的な範囲に厚み斑の小さいフィルムを得ることができる。また、6.0倍以下、より好ましくは4.0倍以下とすることで、製膜中の破断の発生を防ぐことができる。また、MD延伸の温度は、フィルムのTg以上Tg+20℃以下であることが均一な延伸とロール粘着を抑制する観点から好ましい。また、延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが望ましい。
【0064】
PETフィルムにさらに樹脂層を設ける場合は、Bフィルムの片面に所定の濃度に調製した塗料組成物を塗布しても良く、さらに、塗布前にPETフィルムの塗布面にコロナ放電処理等の表面処理を行ってもよい。コロナ放電処理等の表面処理を行うことで、樹脂組成物のPETフィルムへの濡れ性を向上させ、樹脂組成物のハジキを防止し、均一な塗布厚みを達成することができる。
【0065】
ここで、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのSkuを前記の好ましい範囲に制御する目的から、塗料組成物の固形分濃度は6質量%以上15質量%以下であることが好ましい。固形分濃度が6質量%未満であると塗料組成物の粘度が低く、A層の粒子が硬化前に凝集乃至は沈降してしまい、目的とする表面形状とは異なる形態となることでSkuを好ましい範囲とすることが難しくなる場合がある。また、固形分濃度が15質量%より大きい場合には、塗料組成物の粘度が過剰となりSkuのばらつきが大きくなる場合がある。なお、固形分濃度とは、塗料組成物の質量に対して、塗料組成物の質量から溶媒の質量を除いた質量が占める割合を表す(すなわち、[固形分濃度(質量%)]=[(塗料組成物の質量)-(溶媒の質量)]/[塗料組成物の質量]×100である)。
【0066】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムのSkuを前記の好ましい範囲に制御する目的から、Bフィルムへの塗料組成物の塗布後に延伸を行う際に、塗布~延伸開始区間におけるウェット厚みの減少速度を0.5μm/秒以上8.0μm/秒以下とすることが好ましい。塗布~延伸開始区間におけるウェット厚みの減少速度が0.5μm/秒未満の場合は塗料組成物中の粒子が乾燥過程で凝集乃至は沈降し、目的とする表面形状とは異なる形態となることでSkuを好ましい範囲とすることが難しくなる場合がある。また、塗布~延伸開始区間におけるウェット厚みの減少速度が8.0μm/秒より大きい場合には、A層の厚み方向における粒子濃度の不均一が生じ易くなり、同様に設計通りの表面形状を実現することが難しく、Skuを好ましい範囲に制御することが困難となる場合がある。塗布~延伸開始区間におけるウェット厚みの減少速度は1.0μm/秒以上7.0μm/秒以下であるとより好ましく、1.5μm/秒以上6.5μm/秒以下であると最も好ましい。塗布~延伸開始区間におけるウェット厚みの減少速度は、乾燥温度、乾燥区間長さ、ラインスピードおよびA層やフィルム全体の厚みの設定から調整が可能である。
【0067】
MD延伸後、続いて、MDと直交する方向(以降、TDと呼ぶ)に延伸して(TD延伸)、熱固定、熱弛緩の処理を順次施して二軸配向フィルムとすることができる。これらの処理はフィルムを走行させながら行う。このとき、TD延伸のための予熱および延伸温度はポリマーのガラス転移温度Tgに対して、Tg以上、Tg+50℃以下で行うのが好ましい。TD延伸の倍率は、2.5~6.0倍が好ましい。2.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上とすることで、最終用途である印刷ラベルとしての加工および使用に必要な機械特性、耐熱性等を十分なものとすることができる。6.0倍以下、より好ましくは4.0倍以下とすることで、製膜中の破断の発生を抑制と広幅の一括製膜による高い生産性を両立することができる。また、TD方向の延伸速度は1,000%/分以上200,000%/分以下であることが望ましい。
【0068】
本発明の二軸配向ポリエステルでは、基材フィルム中のポリエステルの配向および結晶状態を制御しサンドマット加工後の易接着性を良好とする目的から、TD方向の延伸における最終温度を135℃以上150℃以下の範囲とする配向緩和過程を設けることが好ましい。TD方向の延伸における最終温度が135℃未満では配向緩和が不十分となり、150℃より高い場合には結晶化が進行しすぎるため、いずれもATR-IR法で求められる表面結晶化度を好ましい範囲に制御することが難しい場合がある。TD方向の延伸における最終温度は、140℃以上150℃以下であるとより好ましい。本延伸条件を適用することにより、特にB層のポリエステル樹脂として前記特定組成のグリコール成分としたポリエステル系において、ATR-IR法で求められる表面結晶化度を好ましい範囲とすることができ、例えばホモPETなどの結晶性の高いポリエステル組成においては効果が十分に得られない場合がある。
【0069】
さらに、二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行う。180~240℃の熱処理ゾーン(熱固定ゾーン)へ導き1~60秒間の熱処理を行い、結晶配向を完了させる。この熱処理工程(熱固定工程)で、必要に応じて幅方向、あるいは長手方向に1~15%の弛緩処理を施してもよい。また、0.1%以上10%以下の倍率で幅方向、あるいは長手方向に微延伸を行うことも、幅方向の物性均一性を高める有効な方法である。熱処理はオーブン中、加熱したロール上など従来公知の任意の方法により行うことができる。
【0070】
その後、均一に徐冷後、室温まで冷却し、ロールに巻き取る。この過程において、B層の昇温結晶化温度Tccから20℃以上60℃以下低い温度で1秒以上10秒以下の時間緩和熱処理を行うことが好ましい。前記の高温熱処理工程は結晶化を伴うプロセスであるが、サンドマット加工後の易接着性を良好とする目的からは、結晶化は抑制しつつ高温熱処理により配向は緩和させることが理想である。そこで発明者らが鋭意検討した結果、より効果的な配向緩和工程として、延伸温度近傍かつ昇温結晶化温度Tccを下回る温度に一定時間曝す徐冷条件が有効であることを見出した。該温度条件は昇温結晶化温度Tccから30度以上50℃以下低い温度であるとより好ましい結果を与える場合がある。
【0071】
ここでは逐次二軸延伸法によって延伸する場合を例に詳細に説明したが、逐次二軸延伸法、同時二軸延伸法のいずれを採用してもよい。
【0072】
また、本発明の効果が損なわれない範囲で、少なくとも一方のA層の表面に、易滑性や帯電防止性、紫外光吸収性能等を付与するために、公知の技術を用いて種々の塗液を塗布したり、耐衝撃性を高めるためにハードコート層などを設けてもよい。塗布は、フィルム製造時に塗布(インラインコーティング)してもよいし、フィルム製造後の二軸配向ポリエステルフィルム上に塗布(オフラインコーティング)してもよい。
【0073】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、表面にマット処理を施すことで、低光沢の意匠性を特徴とするラベルとして好適に用いることができる。特に60°光沢度が5以下となる緻密なマット処理後においても易接着性が良好であり、高いインキ密着性と意匠性を両立可能であるため、マット処理用二軸配向ポリエステルフィルムとして好適に用いることができ、60°光沢度が5以下となるマット処理用二軸配向ポリエステルフィルムとしてより好適に用いることができる。また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムはブロッキングと滑り性に優れ、深いサンドマット処理後の印刷密着性を両立することから、サンドマット用二軸配向ポリエステルフィルムとして好適に用いることができ、サンドマットされた印刷用二軸配向ポリエステルフィルムとしてより好適に用いることができる。
【0074】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムをサンドマット処理したサンドマットフィルムは、前記のB層が部分的に最表面に露出しており、露出する箇所の比率が0.5%以上10.0%以下であることが好ましい。なお、露出する箇所の比率は実施例に記載の方法で求めるものとする。B層が最表面に露出していることで、前記二軸延伸工程において配向構造の制御されたB層による易接着性が発現し、A層の易接着性との複合により幅広いインキへの密着性を良好とできる。B層が最表面に露出する箇所の比率は1.5%以上8.0%以下であるとより好ましい。B層が最表面に露出する箇所の比率が0.5%未満であるとB層に由来する易接着特性が不十分となる場合があり、また、10.0%より高い場合にはA層に由来する易接着特性が不十分となる場合がある。つまり、本発明のサンドマットフィルムの製造方法の好ましい一態様は、前記二軸配向ポリエステルフィルムをサンドマット処理する工程を含むサンドマットフィルムの製造方法であって、前記B層が比率0.5%以上10.0%以下で露出している、サンドマットフィルムの製造方法、である。またこのようなサンドマットフィルムに印刷をすることで高い意匠性と易接着性を有することから、本発明の印刷ラベルの製造方法の好ましい一態様は、前記二軸配向ポリエステルフィルムに前記B層が比率0.5%以上10.0%以下で露出するようサンドマット処理されたサンドマットフィルムと、印刷層とを有し、前記印刷層が前記A層および前記B層の両層に接してなる、印刷ラベルの製造方法、である。
【実施例0075】
以下、実施例により本発明を詳述する。なお、各特性値は以下の方法で測定した。
【0076】
(1)フィルム厚み、フィルム層構成
フィルムの幅方向に対する中心部分の断面を5枚切り出し、走査電子顕微鏡(日立製作所製電界放射型走査電子顕微鏡(FE-SEM)S-4000)を用いて、フィルムが厚み方向にわたって視野に収まるよう500~5,000倍に拡大観察し、撮影した断面写真より、フィルムの厚み、および積層構成の場合はフィルム層構成(各層厚み)を特定した。
【0077】
(2)樹脂組成
フィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、H-NMRおよび13C-NMRを用いて各モノマー残基成分や副生ジエチレングリコールについて含有量を定量することができる。積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで各層単体を構成する成分を採取し評価することができる。なお、本発明のフィルムについては、フィルム製造時の混合比率から計算により、樹脂組成を算出した。
【0078】
(3)樹脂層(A層)厚み
フィルムをRuO及び/またはOsOを用いて染色した。次に、フィルムを凍結せしめ、フィルム厚み方向に切断し、樹脂層断面観察用の超薄切片サンプルを10点(1 0個)得た。それぞれのサンプル断面をTEM(透過型電子顕微鏡:(株)日立製作所製H7100FA型)にて1万倍~100万倍で観察し、断面写真を得た。その10点(10個)のサンプルの樹脂層厚みの測定値を平均して、フィルムの樹脂層厚みとした。
【0079】
(4)塗料組成物中の固形分含有率
塗料組成物を適量秤量し、これを150℃で残存物(固形分)の質量が恒量に達するまで加熱して、固形分含有率を算出した。
【0080】
(5)A層側表面のSku
3次元表面粗さ計(小坂研究所製、ET4000AK)を用い、次の条件でJISB0601-2013に準じて3次元触針法により測定を行った。
針径 2(μmR)
針圧 10(mg)
測定長 500(μm)
縦倍率 20000(倍)
CUTOFF 250(μm)
速度 100(μm/s)
測定間隔 5(μm)
記録本数 80本
ヒステリシス幅 ±6.25(nm)
基準面積 0.1(mm)。
【0081】
(6)A層側表面のATR-IR法による表面結晶化度
以下の装置、条件により、FT-IRのATR法にてA層側の面のスペクトルを測定した後、同様に測定した東レ株式会社製ポリエステルフィルム“ルミラー”(登録商標) #50T60のスペクトルを除算し、差スペクトルを得る。
【0082】
表面結晶化度はエチレングリコールのトランス構造の変角振動に相当する1340cm-1付近に現れる吸収と結晶、配向の構造因子に依らない1410cm-1付近に現れる吸収のスペクトル強度を除して(1340cm-1/1410cm-1)算出した。
【0083】
なお、該当波数近傍に吸光度の極大値が2つ以上存在する場合は吸光度の大きな方の値を用いて算出する。
装置: Nicolet6700(サーモフィッシャーサイエンティック株式会社製)
光源: Ever-Glo(中赤外)
検知器: DTGS KBr
分解能: 4cm-1
積算回数: 16回
付属装置: 1回反射型ATR測定付属装置(Smart iTR)
ATR結晶;ダイヤモンド
入射角: 45°
【0084】
(7)カール量
フィルムをロール長手方向および幅方向が直交するように150mm×150mmの大きさに切り出した。23℃×65%RH(室温)にて24時間放置後、試料をガラス板 上に置き、ガラス板面から垂直方向で4隅(4か所)の浮き上がり量の平均高さを測定した。同様の測定をサンプリングの場所を変えて10点で行い、全データの平均値をカール量として採用した。なお、フィルムの方向が明確でない場合は、任意の方向から30度毎に回転させた3方向について事前測定を行い、3方向の測定にて最もカール量が大きい方向でサンプリングし上記の測定を実施した。
【0085】
(7-2)60度光沢度
JIS-Z-8741(1997年)に規定された方法に従って、スガ試験機製デジタル変角光沢度計UGV-5Dを用いて、60°鏡面光沢度をN=3で測定し、その平均値を採用した。本発明のフィルムにおいては、サンドマット処理を行った面について測定を行った。
【0086】
(7-3)B層のTcc
日立ハイテクサイエンス製のEXSTAR DSC6220(示差走査熱量計)を用いて測定した。
まず、(1)に記載の方法で特定したB層を約10mgサンプリングし装置にセットした。その後、窒素雰囲気下、25℃から280℃まで20℃/分の速度で測定サンプルを昇温させ5分間保持した後、液体窒素で5分間急冷した。このサンプルを20℃/分で昇温し、ガラス状態からの結晶化発熱ピーク温度(Tcc(℃))を検知した。
【0087】
(8)サンドマット加工
ショットブラスト(遠心式ブラスト)で回転するブレードに粒径約1mmの微細な砂を供給し、3台のローター式投砂機を用いてフィルムをRtoRで搬送させながら60度光沢度が3以下となるよう投砂強度、搬送速度を調整して表面にマット処理を施した。その後高圧シャワーで水洗し、乾燥してサンドマット加工サンプルを得た。
【0088】
(9)B層が最表面に露出する箇所の比率
(8)に記載の方法でサンドマット処理を施したフィルムを(1)に記載の方法で倍率5000倍の断面画像を得た。断面画像の面方向長さ30μm分を30分割し、サンドマット側表面についてB層が面方向長さで30%以上露出した分割箇所を数え、30で割り返し、同様の操作をフィルムの位置を変えた15点について行い得られた値の平均値×100(%)をサンプルの値として採用した。
【0089】
(10)耐ブロッキング性
フィルムを200cm×200cmのサイズに切り出した。切り出した2枚のフィルムにおいて、塗膜層をフィルム片面に施している場合は、塗膜層面と塗膜層を施していない面を重ね合わせ、塗膜層をフィルム両面に施している場合は、塗膜層面を重ね合わせ、60℃×80%RHの雰囲気下でこれに1.5kg/cmの圧力を65時間かけた後剥離力を測定する。剥離力の測定は、引張試験機(オリエンテック製テンシロンUCT-100)を用いて、初期引張チャック間距離100mm、引張速度を20mm/分として、180°剥離試験を行った。剥離長さ130mm(チャック間距離230mm)になるまで測定を行い、剥離長さ25mm~125mmの荷重の平均値を剥離強度とした。なお、測定はN=3で行い、その平均値について評価した(5cm当たりのg数)。なお、評価は剥離力から下記の基準で行いA~Cを合格とした。
A:2g未満
B:2g以上~3g未満
C:3g以上~5g未満
D:5g以上~破れ。
【0090】
(11)品位
A4カットサイズのフィルムを蛍光灯下で観察し、下記の基準で評価しA~Cを合格とした。
A:長さ1cm以上のキズが0本
B:長さ1cm以上のキズが1本以上3本以下
C:長さ1cm以上のキズが4本以上9本以下
D:長さ1cm以上のキズが10本以上。
【0091】
(12)マット感
(8)に記載の方法にてサンドマット処理を施したフィルムのサンドマット処理面の60度光沢度を測定し、以下の基準で評価した。
A:3.0以下
B:4.0以下
C:5.0以下
D:5.0より大。
【0092】
(13)インキ密着性
(8)に記載の方法でサンドマット処理を施したフィルムのサンドマット処理面に、以下3種類のインクを5.0μmの厚さにアプリケーターを用いて塗布した。インクA、Bについては、紫外線ランプにて、照射強度80W/cm、照射距離9cm、照射時間5秒で硬化させた。インクCは40℃×30分の条件で乾燥させた。その後形成した印刷層に1mmのクロスカットを100個入れ、ニチバン製セロハン粘着テープ(CT405AP-24)をその上に貼り付け、ゴムローラーを用いて、荷重19.6Nで3往復させ、押しつけた後、90°方向に剥離し、該インク膜の残存した個数を3種のインクについて数え、一番残存した数の少ないインクの残存数について下記基準で評価しA~Cを合格とした。
インキA:十条ケミカル(株)製“レイキュアー”(登録商標)SL6100
インクB:東洋インキ製造(株)製“FLASH DRY”(登録商標)FD MP 墨 M
インクC:(株)セイコーアドバンス製CAVメイバン。
A:100(合格)
B:80~99(合格)
C:50~79(合格)
D:0~49(不合格)。
【0093】
(14)加工性
(8)に記載の方法にてサンドマット処理を施したフィルムをRtoRでロール間距離500mm、搬送張力1.2MPaの条件で搬送した際の、ロール間におけるフィルム端部の浮き上がり(搬送フィルムの中央部分の高さを基準とした端部部分の上下位置)量を下記の基準で評価しA~Cを合格とした。
A:浮き上がり無し
B:浮き上がりが2mm以下
C:浮き上がりが5mm以下
D:浮き上がりが5mmより大きい。
【0094】
(原料)
ポリエステル樹脂としては、以下の特性を有するものを用いた。
【0095】
(ポリエステルA)
テレフタル酸ジメチル100質量部、エチレングリコール57.5質量部、酢酸マグネシウム2水和物0.03質量部、三酸化アンチモン0.03質量部を150℃、窒素雰囲気下で溶融した。この溶融物を撹拌しながら230℃まで3時間かけて昇温し、メタノールを留出させ、エステル交換反応を終了した。エステル交換反応終了後、リン酸0.005質量部をエチレングリコール0.5質量部に溶解したエチレングリコール溶液(pH5.0)を添加した。このときのポリエステル組成物の固有粘度は0.2未満であった。この後、重合反応を最終到達温度285℃、真空度0.1Torrで行い、固有粘度0.65、のポリエチレンテレフタレートを得た。
【0096】
(ポリエステルB)
1,4-シクロヘキサンジメタノールがグリコール成分に対し33mol%共重合された共重合ポリエステル(イーストマン・ケミカル社製 GN001)を、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートとして使用した(固有粘度0.75)。
【0097】
(ポリエステルC)
ジカルボン酸成分としてテレフタル成分が100モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が70モル%、ネオペンチルグリコール成分が30モル%であるネオペンチルグリコール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.75)。
【0098】
(ポリエステルD)
ジカルボン酸成分としてテレフタル成分が82.5モル%、イソフタル成分が17.5モル%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100モル%であるイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.7)。
【0099】
(粒子マスターE)
上記ポリエステルAを製造する際、エステル交換反応後に平均粒子径2.2μmの凝集シリカ粒子のエチレングリコールスラリーを添加してから重縮合反応を行い、ポリマー中の粒子濃度2質量%の粒子マスターを作製した。
【0100】
(樹脂層形成用溶液)
以下に示す、塗剤をそれぞれ表に記載の質量比、および固形分濃度となるように混合し純水で希釈した。
【0101】
・バインダー樹脂1(アクリル変性ポリエステル樹脂):ポリエステル樹脂成分はテレフタル酸50質量部、イソフタル酸50質量部、エチレングリコール50質量部、ネオペンチルグリコール30質量部を重合触媒である三酸化アンチモン0.3質量部と酢酸亜鉛0.3質量部とともに窒素パージした反応器に仕込み、水を除去しながら常圧下で190~220℃で12時間重合反応を行い、ポリエステルグリコールを得た。次に、得られたポリエステルグリコールに5-ナトリウムスルホイソフタル酸を5質量部、溶媒としてキシレンを反応器に仕込み、0.2mmHgの減圧下、260℃にてキシレンを留去しつつ、3時間重合させポリエステル樹脂成分を得た。このポリエステル樹脂成分にアンモニア水およびブチルセルロースを含む水に溶解させた。次に、アクリル樹脂成分はメタクリル酸メチル40質量部、メタクリルアミド10質量部の合計50質量部を、前述したポリエステル樹脂成分を含む水分散体中にアクリル樹脂成分/ポリエステル樹脂成分=50/50の質量比になるように添加した。さらに、重合開始剤として過酸化ベンゾイルを5質量部添加し、窒素パージした反応器の中で70~80℃で3時間重合反応を行い、アクリル変性ポリエステルを含む塗液を得た。
【0102】
・バインダー樹脂2(メラミン樹脂):メチル化メラミン/尿素共重合の架橋製樹脂((株)三和ケミカル製“ニカラック” (登録商標)「MW12LF」)
【0103】
・バインダー樹脂3(ポリエステル樹脂):テレフタル酸25モル%、イソフタル酸24モル%、5-Naスルホイソフタル酸1モル%、エチレングリコール25モル%、ネオペンチルグリコール25モル%の混合重合物を25質量%に水で希釈した分散体。
【0104】
・バインダー樹脂4(アクリル樹脂):ステンレス反応容器に、メタクリル酸メチル(α)、メタクリル酸ヒドロキシエチル(β)、ウレタンアクリレートオリゴマー(根上工業(株)製、“アートレジン”(登録商標)UN-3320HA、アクリロイル基の数が6)(γ)を(α)/(β)/(γ)=94/1/5の質量比で仕込み、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを(α)~(γ)の合計100質量部に対して2質量部を加えて撹拌し、混合液1を調製した。次に、攪拌機、環流冷却管、温度計及び滴下ロートを備えた反応装置を準備した。上記混合液1を60質量部と、イソプロピルアルコール200質量部、重合開始剤として過硫酸カリウム5質量部を反応装置に仕込み、60℃に加熱し、混合液2を調製した。混合液2は60℃の加熱状態のまま20分間保持させた。次に、混合液1の40質量部とイソプロピルアルコール50質量部、過硫酸カリウム5質量部からなる混合液3を調製した。続いて、滴下ロートを用いて混合液3を2時間かけて混合液2へ滴下し、混合液4を調製した。その後、混合液4は60℃に加熱した状態のまま2時間保持した。得られた混合液4を50℃以下に冷却した後、攪拌機、減圧設備を備えた容器に移した。そこに、25%アンモニア水60質量部、及び純水900質量部を加え、60℃に加熱しながら減圧下にてイソプロピルアルコール及び未反応モノマーを回収し、純水に分散されたアクリル樹脂を得た。
【0105】
・バインダー樹脂4(ウレタン樹脂):還流冷却管、窒素導入管、温度計、攪拌機を備えた4つ口フラスコ中に、脂肪族ポリイソシアネート化合物として1,6-ヘキサンジイソシアネートを70質量部、ポリオール化合物としてポリイソブチレングリコールを30質量部、溶媒として、アセトニトリル60質量部、N-メチルピロリドン30質量部とを仕込んだ。次に窒素雰囲気下で、反応液温度を75~78℃に調整して、反応触媒としてオクチル酸第1錫を0.06質量部加え、7時間反応させた。次いで、これを30℃まで冷却し、イソシアネート基末端脂肪族ウレタン樹脂を得た。次に、高速攪拌可能なホモディスパーを備えた反応容器に、水を添加し25℃に調整して、2000rpmで攪拌混合しながら、イソシアネート基末端脂肪族ウレタン樹脂を添加して水分散した。その後、減圧下で、アセトニトリルおよび水の一部を除去することにより、ウレタン樹脂を含む塗液を調製した。
【0106】
・無機粒子1:平均粒径1000nmの球状シリカ粒子
・無機粒子2:平均粒径700nmの球状シリカ粒子
・無機粒子3:平均粒径200nmの球状シリカ粒子
・無機粒子4:平均粒径100nmのシリカ粒子(触媒化成工業(株)“キャタロイド”(登録商標))
・樹脂粒子1:平均粒径700nmの球状ポリスチレン粒子
・樹脂粒子2:平均粒径500nmの球状PMMA(ポリメタクリル酸メチル)粒子
・樹脂粒子3:平均粒径350nmの球状PMMA粒子。
【0107】
(実施例1)
表に示した組成の原料を180℃の温度で6時間真空乾燥した。その後、主押出機にB層の原料を供給し、280℃の温度で溶融押出後、30μmカットフィルターにより濾過を行った。また、副押出機にC層の原料を供給し、290℃の温度で溶融押出後、30μmカットフィルターにより濾過を行った。
【0108】
引き続いて、これらの溶融ポリマーをTダイ複合口金内で、B層がC層に積層(B/C)されるよう合流させた。合流した溶融ポリマーをシート状に押出して溶融シートとし、当該溶融シートを、表面温度25℃に保たれたドラム上に直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加法で密着させ冷却固化させて未延伸フィルムとした。
【0109】
次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、予熱温度を85℃、延伸温度を92℃で長手方向に3.3倍延伸し、すぐに40℃に温度制御した金属ロールで冷却した。
【0110】
その後、コロナ放電処理を施し、表に示した組成の樹脂層形成用溶液(水分散体)をメタリングバーを用いてB層上にウェット厚みが13.5μmとなるように塗布した。
【0111】
次いでテンター式横延伸機にて予熱温度120℃、延伸温度145℃で幅方向に3.8倍延伸し、そのままテンター内にて定長にて温度227℃で熱処理を行い、その後同温度にて3%の弛緩処理を行い、さらに温度220℃にて2%の弛緩処理を行った。なお、樹脂層形成用溶液の塗布~延伸開始区間におけるウェット厚み減少速度は、2.3μm/秒であった。さらに温度150℃のゾーンに導き熱処理を行った後、室温まで冷却してフィルム厚み50μmの二軸配向ポリエステルフィルムを得た。なお、塗布乾燥して設けられた層がA層である。
【0112】
(実施例2~17、比較例3)
表に示した原料、条件とした以外は実施例1と同様にしてフィルム厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの評価結果を表に示す。
【0113】
(比較例1、4)
表に示した組成のB層の原料を180℃の温度で6時間真空乾燥した。その後、主押出機にB層の原料を供給し、280℃の温度で溶融押出後、30μmカットフィルターにより濾過を行った。以降は表に示した原料、条件とした以外は実施例1と同様にしてフィルム厚み50μmのポリエステルフィルムを得た。得られたポリエステルフィルムの評価結果を表に示す。
【0114】
(比較例2)
比較例1に記載の二軸配向ポリエステルフィルムに60°光沢度が6となるように条件を調整してサンドマット加工を施した。得られたポリエステルフィルムの評価結果を表に示す。
【0115】
【表1】
【0116】
【表2】
【0117】
【表3】
【0118】
【表4】
【0119】
【表5】
【産業上の利用可能性】
【0120】
本発明によれば、ブロッキングと滑り性、および深いサンドマット処理後の印刷密着性を両立した二軸配向ポリエステルフィルム、およびそれを用いたサンドマットフィルム、ならびにそれを用いた印刷ラベルを得ることができる。