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特開2024-154848地下構造物用蓋、地下構造物用親子蓋および地下構造物用受枠
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  • 特開-地下構造物用蓋、地下構造物用親子蓋および地下構造物用受枠 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154848
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】地下構造物用蓋、地下構造物用親子蓋および地下構造物用受枠
(51)【国際特許分類】
   E02D 29/14 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
E02D29/14 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069000
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】508165490
【氏名又は名称】アクアインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178951
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 和家
(72)【発明者】
【氏名】大波 豊明
【テーマコード(参考)】
2D147
【Fターム(参考)】
2D147BB22
(57)【要約】
【課題】局部的な腐食を抑える工夫がなされた、地下構造物用蓋、地下構造物用親子蓋および地下構造物用受枠を提供する。
【解決手段】地下構造物用受枠3によって画定され地下構造物につながる開口H1を塞ぐ地下構造物用蓋2において、鉄製の蓋本体2Aと、蓋本体2Aの、地上に露出するおもて面211以外の部分における少なくとも一部の最外層に形成された、亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜91と、を有するものである。また、電着塗装以外の塗装方法によって、溶射皮膜91上であって最外層に形成された塗膜92と、を有するものであってもよい。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
地下構造物用受枠によって画定され地下構造物につながる開口を塞ぐ地下構造物用蓋において、
鉄製の蓋本体と、
前記蓋本体の、地上に露出するおもて面以外の部分における少なくとも一部の最外層に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、を有するものであることを特徴とする地下構造物用蓋。
【請求項2】
地下構造物用受枠によって画定され地下構造物につながる開口を塞ぐ地下構造物用蓋において、
鉄製の蓋本体と、
前記蓋本体の、地上に露出するおもて面以外の部分における少なくとも一部に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、
電着塗装以外の塗装方法によって、前記金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜と、を有するものであることを特徴とする地下構造物用蓋。
【請求項3】
親蓋と該親蓋に形成された親蓋開口を塞ぐ子蓋とを備え、地下構造物用受枠によって画定され地下構造物につながる開口を塞ぐ地下構造物用親子蓋において、
前記親蓋は、
鉄製の親蓋本体と、
前記親蓋本体における、地上に露出するおもて面以外の部分における少なくとも一部の最外層に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、を有するものであることを特徴とする地下構造物用親子蓋。
【請求項4】
親蓋と該親蓋に形成された親蓋開口を塞ぐ子蓋とを備え、地下構造物用受枠によって画定され地下構造物につながる開口を塞ぐ地下構造物用親子蓋において、
前記親蓋は、
鉄製の親蓋本体と、
前記親蓋本体の、地上に露出するおもて面以外の部分における少なくとも一部に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、
電着塗装以外の塗装方法によって、前記金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜と、を有するものであることを特徴とする地下構造物用親子蓋。
【請求項5】
地下構造物につながる開口を画定し、地下構造物用蓋または地下構造物用親子蓋によって閉蓋されることで該開口が塞がれる地下構造物用受枠において、
鉄製の受枠本体と、
前記受枠本体における、地上に露出する上端面以外の部分における少なくとも一部の最外層に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、を有するものであることを特徴とする地下構造物用受枠。
【請求項6】
地下構造物につながる開口を画定し、地下構造物用蓋または地下構造物用親子蓋によって閉蓋されることで該開口が塞がれる地下構造物用受枠において、
鉄製の受枠本体と、
前記受枠本体における、地上に露出する上端面以外の部分における少なくとも一部に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、
電着塗装以外の塗装方法によって、前記金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜と、を有するものであることを特徴とする地下構造物用受枠。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下構造物用受枠によって画定され地下構造物につながる開口を塞ぐ地下構造物用蓋および地下構造物用親子蓋、ならびに地下構造物につながる開口を画定する地下構造物用受枠に関する。
【背景技術】
【0002】
下水道や上水道、あるいは電力、ガス、通信等における地下埋設物や地下施設等の地下構造物が地上につながる箇所には、地下構造物につながる開口を画定する地下構造物用受枠と、この地下構造物用受枠に支持されることで開口を塞ぐ地下構造物用蓋が設置される場合がある。また、マンホール内のポンプその他の設備の導入や点検、整備等に用いられる、直径が900mm程度の開口を画定する大型の地下構造物用受枠と、この開口を塞ぐ地下構造物用親子蓋が設置される場合もある。地下構造物用親子蓋は、日常点検等で用いられる親蓋開口を有する大型の親蓋と、親蓋開口を塞ぐ小型の子蓋を備えたものである。
【0003】
本明細書では、地下構造物用蓋を蓋と、地下構造物用親子蓋を親子蓋と、地下構造物用受枠を受枠と略称する場合がある。また、蓋と親子蓋を蓋等と総称する場合がある。さらに、蓋等が受枠に支持され、開口が塞がれた状態(蓋等が受枠に嵌め込まれた状態)を閉蓋状態と称することがある。
【0004】
前述した地下構造物内は、下水道管路施設など、特に下水が滞留するような箇所で硫化水素等が発生し、腐食雰囲気となり易い。蓋等の裏面や受枠の露出する箇所は、腐食雰囲気に曝される厳しい環境となるため、それに耐えうる防食性能が要求される。このため、一般的に、鉄製の蓋本体や受枠本体の表面に、エポキシ樹脂やアクリル樹脂を主成分とする塗料を用いて電着塗装を施すことによって樹脂層(電着塗膜)を形成する表面処理方法が用いられている。また、本出願人は、蓋本体のおもて面における電着塗膜の厚みよりも、蓋本体における下水道管路内等の地下構造物内に露出する部分、すなわち、下水道管路内等の雰囲気に接触する部分における電着塗膜の厚みを厚くする技術について特許を取得している(特許文献1参照)。このように、表面に電着塗膜を形成すれば、傷がない通常環境であれば蓋や受枠の腐食を長期に亘って抑えることができる。さらに、電着塗膜の厚みを厚くすることによって、鉄製の蓋本体や受枠本体に到達するような傷を生じにくくすることも可能になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5874101号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が調査、研究を行った結果、鉄製の蓋本体等にまで達してしまう傷が電着塗膜に生じた場合には、その傷部分から孔状に深く腐食していく現象が判明した。これは、非電導の電着塗膜に囲まれた傷の部分、すなわち、導電性である鉄製の蓋本体等が露出した部分から集中的に鉄イオンが溶出して赤錆が発生し、局部的に腐食が進行していくためと考えられる。このような局部的な腐食は、破損や形状・構造の欠落等につながる虞がある。
【0007】
ここで、蓋や受枠は、屋外環境であることから運用時、施工時、維持管理時等、傷が生じてしまうリスクが多く、樹脂層の厚みを厚くしたとしても、鉄製の蓋本体等に達してしまう傷を完全に防ぐことは難しい。特に、大型重量物の親子蓋やその受枠は、重機を用いて設置せざるを得ず、その際に、鉄製の親蓋本体等に達してしまう傷が生じてしまうリスクは格段に大きくなる。
【0008】
そこで、本発明者は、鉄製の蓋本体等に達してしまう傷の発生を防止するといった従来の技術思想とは異なるアプローチを試み、本発明をなしたものである。
【0009】
本発明は前述した事情に鑑み、局部的な腐食を抑える工夫がなされた、地下構造物用蓋、地下構造物用親子蓋および地下構造物用受枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を解決する本発明の第1の地下構造物用蓋は、地下構造物用受枠によって画定され地下構造物につながる開口を塞ぐ地下構造物用蓋において、
鉄製の蓋本体と、
前記蓋本体の、地上に露出するおもて面以外の部分における少なくとも一部の最外層に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、を有するものであることを特徴とする。
【0011】
本発明の第1の地下構造物用蓋によれば、前記おもて面や該おもて面以外の部分に前記蓋本体に達するような傷が生じた場合であっても、前記金属皮膜の犠牲防食作用により、該傷部分の局部的な防食を抑えることができる。
【0012】
前記目的を解決する本発明の第2の地下構造物用蓋は、地下構造物用受枠によって画定され地下構造物につながる開口を塞ぐ地下構造物用蓋において、
鉄製の蓋本体と、
前記蓋本体の、地上に露出するおもて面以外の部分における少なくとも一部に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、
電着塗装以外の塗装方法によって、前記金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜と、を有するものであることを特徴とする。
【0013】
本発明の第2の地下構造物用蓋によれば、前記塗膜が電着塗装以外の塗装方法によって形成されたものであるため、前記金属皮膜の犠牲防食作用が発揮され、前記第1の地下構造物用蓋と同じく、前記蓋本体に達するような傷部分の局部的な防食を抑えることができる。さらに、黒色の前記塗膜を用いることにより、例えば、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の塗料によって黒色に塗装したおもて面との外観的統一を図ることも可能になる。
【0014】
前記目的を解決する本発明の第1の地下構造物用親子蓋は、親蓋と該親蓋に形成された親蓋開口を塞ぐ子蓋とを備え、地下構造物用受枠によって画定され地下構造物につながる開口を塞ぐ地下構造物用親子蓋において、
前記親蓋は、
鉄製の親蓋本体と、
前記親蓋本体における、地上に露出するおもて面以外の部分における少なくとも一部の最外層に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、を有するものであることを特徴とする。
【0015】
本発明の第1の地下構造物用親子蓋によれば、前記おもて面や該おもて面以外の部分に前記親蓋本体に達するような傷が生じた場合であっても、前記金属皮膜の犠牲防食作用により、該傷部分の局部的な防食を抑えることができる。
【0016】
前記目的を解決する本発明の第2の地下構造物用親子蓋は、親蓋と該親蓋に形成された親蓋開口を塞ぐ子蓋とを備え、地下構造物用受枠によって画定され地下構造物につながる開口を塞ぐ地下構造物用親子蓋において、
前記親蓋は、
鉄製の親蓋本体と、
前記親蓋本体の、地上に露出するおもて面以外の部分における少なくとも一部に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、
電着塗装以外の塗装方法によって、前記金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜と、を有するものであることを特徴とする。
【0017】
本発明の第2の地下構造物用親子蓋によれば、前記塗膜が電着塗装以外の塗装方法によって形成されたものであるため、前記金属皮膜の犠牲防食作用が発揮され、前記第1の地下構造物用親子蓋と同じく、前記親蓋本体に達するような傷部分の局部的な防食を抑えることができる。さらに、黒色の前記塗膜を用いることにより、例えば、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の塗料によって黒色に塗装したおもて面や子蓋との外観的統一を図ることも可能になる。
【0018】
前記目的を解決する本発明の第1の地下構造物用受枠は、地下構造物につながる開口を画定し、地下構造物用蓋または地下構造物用親子蓋によって閉蓋されることで該開口が塞がれる地下構造物用受枠において、
鉄製の受枠本体と、
前記受枠本体における、地上に露出する上端面以外の部分における少なくとも一部の最外層に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、を有するものであることを特徴とする。
【0019】
本発明の第1の地下構造物用受枠によれば、前記上端面や該上端面以外の部分に前記受枠本体に達するような傷が生じた場合であっても、前記金属皮膜の犠牲防食作用により、該傷部分の局部的な腐食を抑えることができる。
【0020】
前記目的を解決する本発明の第2の地下構造物用受枠は、地下構造物につながる開口を画定し、地下構造物用蓋または地下構造物用親子蓋によって閉蓋されることで該開口が塞がれる地下構造物用受枠において、
鉄製の受枠本体と、
前記受枠本体における、地上に露出する上端面以外の部分における少なくとも一部に形成された、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、
電着塗装以外の塗装方法によって、前記金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜と、を有するものであることを特徴とする。
【0021】
本発明の第2の地下構造物用受枠によれば、前記塗膜が電着塗装以外の塗装方法によって形成されたものであるため、前記金属皮膜の犠牲防食作用が発揮され、前記第1の地下構造物用受枠と同じく、前記受枠本体に達するような傷部分の局部的な腐食を抑えることができる。さらに、黒色の前記塗膜を用いることにより、例えば、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の塗料によって黒色に塗装した上端面との外観的統一を図ることも可能になる。
【0022】
ここで、前述した本発明において、地上に露出するおもて面以外の部分および地上に露出する上端面以外の部分とは、閉蓋状態において、下水道管路内等の地下構造物内に露出する部分、すなわち、下水道管路内等の雰囲気に接触する部分をいう。また、前記金属皮膜は、亜鉛・アルミニウム合金(ZnAl15(JIS H 8261の表3のコード番号2.3に規定する材料))の溶射皮膜であってもよいし、所謂どぶ漬けで形成した金属皮膜であってもよい。
【0023】
さらに、前述した本発明において、前記金属皮膜の面積は、前記おもて面または前記上端面の面積よりも大きくしてもよいし、前記おもて面以外の部分または前記上端面以外の部分(下水道管路内面)全体に前記金属皮膜を形成してもよい。また、前記塗膜は、エポキシ樹脂やアクリル樹脂を主成分とする塗料や塩化ビニル系の塗料、封孔剤を塗装したものであってもよい。耐硫酸に対する要求性能としては、「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」における「塗布型ライニング工法の品質規格(表5-10-1)」のD種を満足しない塗膜が用いられる。さらに、前記塗膜は、全体の前記金属皮膜上に形成してもよいし、一部の前記金属皮膜上に形成してもよい。
【0024】
またさらに、前述した本発明において、電着塗装以外の塗装方法とは、スプレー塗装や刷毛塗り、浸漬塗装(どぶ漬け塗装)等をいう。また、前記おもて面や前記上端面は、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の塗料を用いた刷毛塗りによって、黒色(例えばマンセル記号における明度が1.5(N1.5))に塗装してもよい。
【0025】
さらにまた、前述した本発明の地下構造物用蓋および地下構造物用親子蓋において、前記蓋本体や前記親蓋本体に組付けられた鉄製の部品は、最外層に前記金属皮膜を形成してもよい。
【0026】
またさらに、前述した本発明の地下構造物用親子蓋において、前記子蓋は、エポキシ樹脂やアクリル樹脂を主成分とする塗料を用いた電着塗装によって形成された電着塗膜を有するものであってもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、局部的な腐食を抑える工夫がなされた、地下構造物用蓋、地下構造物用親子蓋および地下構造物用受枠を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】(a)は、本発明の一実施形態である蓋と、本発明の一実施形態である受枠とを備えた蓋受枠セットの平面図であり、(b)は、(a)に示す蓋受枠セットのA-A線断面図である。
図2】(a)は、図1(b)に示す蓋を抜き出して示す図であり、(b)は、図1(b)に示す受枠を抜き出して示す図である。(c)は、図1(a)に示す蓋受枠セットのB-B線断面図である。
図3】(a)は、本発明の一実施形態である親子蓋と、本発明の一実施形態である受枠とを備えた親子蓋受枠セットの平面図であり、(b)は、(a)に示す親子蓋受枠セットのC-C線断面図である。
図4】(a)は、図3(a)に示す親蓋を抜き出して示す図であり、(b)は、(a)のD-D線断面図である。
図5】(a)は、図3(a)に示す子蓋を抜き出して示す図であり、(b)は、(a)のE-E線断面図である。
図6】(a)は、図3(a)に示す受枠を抜き出して示す図であり、(b)は、(a)のF-F線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
【0030】
初めに、蓋(地下構造物用蓋)と受枠(地下構造物用受枠)について説明する。図1(a)は、本発明の一実施形態である蓋2と、本発明の一実施形態である受枠3とを備えた蓋受枠セット10の平面図であり、同図(b)は、同図(a)に示す蓋受枠セット10のA-A線断面図である。なお、図1(b)では、地面Gを示し、同図(a)では、地面Gを省略している。
【0031】
図1には、蓋2と、その蓋2を支持する受枠3とを備えた蓋受枠セット10が示されている。地下埋設物である下水道用排水管は地表から所定の深さの位置に埋設されており、その下水道用排水管の途中に、地下施設として、マンホールが設けられている。下水道用排水管もマンホールも地下構造物に相当する。マンホールは、既製のコンクリート成型品を積み上げた躯体によって、下水道用排水管から地表へ向かう縦穴として形成されている。受枠3はその躯体の上に設けられたものであり、地下構造物であるマンホールにつながる開口H1を画定している。この地下構造物内は、発生した硫化水素等によって腐食雰囲気になっている。
【0032】
蓋2は、地下構造物であるマンホールにつながる開口H
1を開閉自在に塞ぐ平面視で円形のものであり、図1に示す蓋2は、開口H1を塞いでいる。図1に示す蓋2は、蓋本体2A(図2(a)参照)が鋳造によって成形された、例えば材質がFCD700からなる鋳鉄製のものである。また、受枠3は、受枠本体3A(図2(b)参照)が鋳造によって成形された、例えば材質がFCD700からなる鋳鉄製のものである。なお、蓋本体2Aおよび受枠本体3Aは、鋳鉄以外の鉄製であってもよい。蓋2は、円盤状の天板部21と、その天板部21の外周部分に設けられ天板部21を囲む環状壁部22と、天板部21の裏面212から下方に突出した蓋リブ23とを備えている。環状壁部22の外周には、外周面221(図2(a)参照)が形成されている。
【0033】
図1に示すように、受枠3は、平面視で環状に形成された筒状部31と、筒状部31の下端部分から外側に張り出したフランジ部32と、フランジ部32の上面に設けられた枠リブ33とを有している。筒状部31の内周部分には、受枠3の内側にリング状に突出した停止部312が設けられている。この停止部312は、長期間の使用により蓋2のずり下がりが進行していくと、蓋2の環状壁部22の下端が当接し、これ以上のずり下がりを阻止するものである。筒状部31の内周部分における、停止部312の上側には、内周面311(図2(b)参照)が形成されている。
【0034】
図2(a)は、図1(b)に示す蓋2を抜き出して示す図である。以下の説明では、円で囲んで拡大して示す部分を拡大円と称して説明する。
【0035】
地上に露出するおもて面211の拡大円aに示すように、本実施形態のおもて面211の最外層には、例えばエポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の塗料を用いた刷毛塗りによって蓋本体2A上に塗膜92が形成されている。この塗膜92は、アスファルト舗装との調和や設置後景観に害することがないよう黒色(例えばマンセル記号における明度が1.5(N1.5))のものを採用している。
【0036】
また、本実施形態の蓋2は、おもて面211以外の部分の最外層には、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜が形成されている。おもて面211以外の部分とは、閉蓋状態において、下水道管路内等の地下構造物内に露出する部分、すなわち、下水道管路内等の雰囲気に接触する部分であり、裏面212や環状壁部22、蓋リブ23が該当する。例えば、本実施形態では、外周面221の拡大円b1で示すように、外周面221には、亜鉛・アルミニウム合金(ZnAl15(JIS H 8261の表3のコード番号2.3に規定する材料))の溶射皮膜91が蓋本体2A上に形成されている。おもて面211以外の部分の最外層に、亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜91が形成された蓋2が、本発明の第1の地下構造物用蓋の一例に相当する。
【0037】
さらに、おもて面211以外の部分は、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、この金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜とを有する態様としてもよい。例えば、外周面221の拡大円b2で示すように、外周面221には、蓋本体2A上に形成された亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜91と、溶射皮膜91上であって最外層に形成された塗膜92とを有する態様とすることもできる。この塗膜92は、スプレー塗装や刷毛塗り、浸漬塗装(どぶ漬け塗装)等の電着塗装以外の塗装方法によって形成されたものである。また、エポキシ樹脂やアクリル樹脂を主成分とする塗料や塩化ビニル系の塗料、封孔剤を用いることができる。塗膜92には、耐硫酸に対する要求性能として、「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」における「塗布型ライニング工法の品質規格(表5-10-1)」のD種を満足しないものが用いられる。拡大円b2を用いて説明した蓋2が、本発明の第2の地下構造物用蓋の一例に相当する。
【0038】
図2(b)は、図1(b)に示す受枠3を抜き出して示す図である。
【0039】
地上に露出する上端面31aの拡大円cに示すように、本実施形態の上端面31aの最外層には、受枠本体3A上に、図2(a)に示す蓋2のおもて面211と同じ塗膜92が形成されている。
【0040】
また、本実施形態の受枠3は、上端面31a以外の部分の最外層には、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜が形成されている。上端面31a以外の部分とは、筒状部31の上端面31a以外の部分やフランジ部32、枠リブ33が該当する。例えば、本実施形態では、筒状部31の拡大円e1で示すように、筒状部31には、図2(a)に示す蓋2と同じ溶射皮膜91が受枠本体3A上に形成されている。上端面31a以外の部分の最外層に、亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜91が形成された蓋2が、本発明の第1の地下構造物用受枠の一例に相当する。
【0041】
さらに、上端面31a以外の部分は、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、この金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜とを有する態様としてもよい。例えば、筒状部31の拡大円e2で示すように、筒状部31には、図2(a)の拡大円b2と同じく、受枠本体3A上に形成された溶射皮膜91と、溶射皮膜91上であって最外層に形成された塗膜92とを有する態様とすることもできる。拡大円e2を用いて説明した受枠3が、本発明の第2の地下構造物用受枠の一例に相当する。
【0042】
また、内周面311の拡大円d1に示すように、内周面311には、溶射皮膜91上に防食用シートSを設けてもよいし、内周面311の拡大円d2に示すように、内周面311には、塗膜92上に防食用シートSを設けてもよい。この防食用シートSは、NBR(ニトリルゴム)やCR(クロロプレンゴム)、IIR(ブチルゴム)等の合成ゴムを素材とした、硬度が60°~100°、厚さが0.5~5.0mmのシートである。
【0043】
防食用シートSを設ける態様によれば、閉蓋状態において、蓋2に荷重が掛かると、防食用シートSによって、受枠3の拡径または蓋2の縮径、あるいは受枠3の拡径および蓋2の縮径が促進される。この結果、弾性変形して拡径した受枠3が縮径しようとする力や、弾性変形して縮径した蓋2が拡径しようとする力によって、いわゆるくさび効果が強まり、防食用シートSと、蓋2の外周面221との面接触の密着性が高まる。これにより、長期間の使用によっても、外周面221と防食用シートSとの間に腐食雰囲気が入り込みにくくなり、外周面221の腐食を長期間にわたり安定して防止することができる。
【0044】
図2(c)は、図1(a)に示す蓋受枠セット10のB-B線断面図である。
【0045】
天板部21における、図1(a)では下側に位置する周縁部分には、開閉工具を挿入するための鍵穴213が形成されている。図2(c)に示すように、この鍵穴213の裏面側には、蓋2が開口H1を塞いだ状態を維持する錠81が設けられている。一方、錠81とは180度反対側の位置(図2(c)では右側)には、蓋2を受枠3に回動自在に連結する蝶番82が設けられている。これら錠81や蝶番82などの蓋2に組み付けられた部品は、鉄製の本体上に亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜91を形成してもよい。
【0046】
図1及び図2に示す蓋2および受枠3によれば、詳しくは後述する試験結果で示すように、蓋本体2Aや受枠本体3Aに達するような傷が生じた場合であっても、溶射皮膜91の犠牲防食作用により局部的な腐食を抑えることができる。
【0047】
次いで、親子蓋(地下構造物用親子蓋)と受枠(地下構造物用受枠)について説明する。図3(a)は、本発明の一実施形態である親子蓋4と、本発明の一実施形態である受枠7とを備えた親子蓋受枠セット11の平面図であり、同図(b)は、同図(a)に示す親子蓋受枠セット11のC-C線断面図である。
【0048】
図3には、親子蓋4と、その親子蓋4を支持する受枠7とを備えた親子蓋受枠セット11が示されている。親子蓋受枠セット11は大型で重量が大きいため、重機を用いて設置される。受枠7は、マンホール内のポンプその他の設備の導入や点検、整備等に用いられる、直径が900mm程度の開口H1を画定する大型のものである。
【0049】
親子蓋4は、開口H1を開閉自在に塞ぐ平面視で円形の大型のものであり、親蓋5と子蓋6とを備えている。親蓋5は、親蓋本体5A(図4(b)参照)が鋳造によって成形された鋳鉄製のものであり、円盤状の天板部51と、その天板部51の外周部分に設けられ天板部51を囲む環状壁部52と、日常点検等で用いられる親蓋開口H2を画定する親蓋筒状部53とを備えている。なお、環状壁部52の外周には、外周面521(図4(b)参照)が形成されている。
【0050】
子蓋6は、図1に示す蓋2と略同様の構成のものであり、子蓋本体6A(図5(b)参照)が鋳造によって成形された、例えば材質がFCD700からなる鋳鉄製のものである。また、図3に示すように、子蓋6は、円盤状の天板部61と、その天板部61の外周部分に設けられ天板部61を囲む環状壁部62(図5(b)参照)と、天板部61の裏面612から下方に突出した蓋リブ63とを備えている。環状壁部62の外周には、外周面621が形成されている(図6(b)参照)。なお、鍵穴613の裏面側には錠81が設けられ、錠81とは180度反対側の位置(図3(b)では右側)には蝶番82が設けられている。これら錠81や蝶番82などの子蓋6に組み付けられた部品も、図2(c)に示す蓋2と同じく、鉄製の本体上に亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜を形成してもよい。
【0051】
受枠7は、受枠本体7A(図6(b)参照)が鋳造によって成形された、例えば材質がFCD600からなる鋳鉄製のものである。受枠7は、図1に示す受枠3と略同様の構成を有し、平面視で環状に形成された筒状部71と、筒状部71の下端部分から外側に張り出したフランジ部72と、フランジ部72の上面に設けられた枠リブ73とを有している。筒状部71の内周部分には、受枠7の内側にリング状に突出した停止部712が設けられている。筒状部71の内周部分における、停止部712の上側には、内周面711(図6(b)参照)が形成されている。
【0052】
図4(a)は、図3(a)に示す親蓋5を抜き出して示す図であり、図4(b)は、同図(a)のD-D線断面図である。
【0053】
図4(b)に示すように、親蓋5は、地上に露出するおもて面511の拡大円fに示すように、本実施形態のおもて面511の最外層には、図2(a)の拡大円aに示す蓋2のおもて面211と同じ塗膜92が形成されている。
【0054】
また、本実施形態の親蓋5は、おもて面511以外の部分の最外層には、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜が形成されている。おもて面511以外の部分とは、閉蓋状態において、下水道管路内等の地下構造物内に露出する部分、すなわち、下水道管路内等の雰囲気に接触する部分であり、具体的には、裏面512や環状壁部52、親蓋筒状部53が該当する。例えば、本実施形態では、親蓋筒状部53の拡大円g1で示すように、外周面221には、亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜91が親蓋本体5A上に形成されている。おもて面511以外の部分の最外層に、亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜91が形成された親蓋5を備えた親子蓋4(図3参照)が、本発明の第1の地下構造物用親子蓋の一例に相当する。
【0055】
さらに、おもて面511以外の部分は、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜と、この金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜と、を有する態様としてもよい。例えば、親蓋筒状部53の拡大円g2で示すように、親蓋筒状部53には、親蓋本体5A上に形成された亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜91と、溶射皮膜91上であって最外層に形成された塗膜92とを有する態様とすることもできる。この塗膜92は、図2(a)の拡大円b2を用いて説明した塗膜92と同じものを採用することができる。拡大円g2を用いて説明した親蓋5を備えた親子蓋4(図3参照)が、本発明の第2の地下構造物用親子蓋の一例に相当する。
【0056】
さらに、内周面531の拡大円h1に示すように、内周面531には、溶射皮膜91上に防食用シートSを設けてもよいし、内周面531の拡大円h2に示すように、内周面531には、塗膜92上に防食用シートSを設けてもよい。この防食用シートSは、図2(b)を用いて説明した受枠3の防食用シートSと同じものを用いることができる。
【0057】
図5(a)は、図3(a)に示す子蓋6を抜き出して示す図であり、図5(b)は、同図(a)のE-E線断面図である。
【0058】
本実施形態の子蓋6は、全体に電着塗装が施されている。このため、図5(b)において、おもて面611の拡大円iや外周面621の拡大円jに示すように、子蓋本体6A上に電着塗膜93が形成されている。この電着塗膜93は、エポキシ樹脂を主成分とした塗膜であり、膜厚が約20μmに形成されている。また、おもて面511や外周面621以外の部分、具体的には、環状壁部62における外周面621以外の部分、裏面612や蓋リブ63には、裏面612の拡大図kに示すように、電着塗膜93上に樹脂塗膜94が設けられている。この樹脂塗膜94は、電着塗膜93と同様に、エポキシ樹脂を主成分とした塗膜であるが、膜厚が約1000μmに形成されている。なお、電着塗膜93または樹脂塗膜94は、エポキシ系樹脂の他に、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、ポリエチレン系樹脂或いはこれらの樹脂のうちのいくつかを混合した混合樹脂を用いてもよい。
【0059】
このように、本実施形態の子蓋6は、犠牲防食作用を利用せず、電着塗膜93や樹脂塗膜94によって子蓋本体6Aを腐食雰囲気から保護する態様を採用している。これは、子蓋6は、親蓋5や受枠7と比べて格段に軽量であり、重機を用いて設置する必要もないため、子蓋本体6Aに達してしまうような傷の発生を抑える対策を採用したものである。なお、子蓋6についても、図2(a)に示す蓋2と同様の溶射皮膜91を設け、犠牲防食作用によって局部的な腐食を抑制する態様としてもよい。
【0060】
図6(a)は、図3(a)に示す受枠7を抜き出して示す図であり、図6(b)は、同図(a)のF-F線断面図である。
【0061】
本実施形態の受枠7は、図2(b)に示す受枠3と同じく、溶射皮膜91、塗膜92及び防食用シートSが設けられている。具体的には、地上に露出する上端面71aの拡大円lに示すように、本実施形態の上端面71aの最外層には、受枠本体7A上に塗膜92が形成されている。また、上端面71a以外の部分の最外層には、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜が形成されている。例えば、本実施形態では、筒状部71の拡大円m1で示すように、筒状部71には、溶射皮膜91が受枠本体7A上に形成されている。上端面71a以外の部分の最外層に、亜鉛・アルミニウム合金の溶射皮膜91が形成された受枠7が、本発明の第1の地下構造物用受枠の一例に相当する。
【0062】
さらに、上端面71a以外の部分は、例えば、筒状部71の拡大円m2で示すように、筒状部71には、受枠本体7A上に形成された溶射皮膜91と、溶射皮膜91上であって最外層に形成された塗膜92とを有する態様とすることもできる。拡大円m2を用いて説明した受枠7が、本発明の第2の地下構造物用受枠の一例に相当する。
【0063】
また、内周面711の拡大円n1に示すように、内周面711には、溶射皮膜91上に防食用シートSを設けてもよいし、内周面311の拡大円d2に示すように、内周面311には、塗膜92上に防食用シートSを設けてもよい。
【0064】
図3図6に示す親子蓋4および受枠7によれば、詳しくは後述する試験結果で示すように、親蓋本体5Aや受枠本体7Aに達するような傷が生じた場合であっても、溶射皮膜91の犠牲防食作用により局部的な腐食を抑えることができる。特に、重機によって設置するため鉄製の本体に達するまでの傷が生じるリスクが大きい、大型の親蓋5や受枠7には、局部的な腐食を抑える手段として特に有効である。
【0065】
次いで、本発明の地下構造物用蓋、地下構造物用親子蓋および地下構造物用受枠の作用効果を実証するために実施した試験を説明する。
【0066】
まず、鋳鉄製の板材を本体に用い、本発明の地下構造物用蓋、地下構造物用親子蓋および地下構造物用受枠に相当する実施例の試験体と、鉄よりも碑なる金属皮膜を付し電着塗装を施した比較例の試験体とを用意した。そして、「下水道コンクリート構造物の腐食抑制技術及び防食技術マニュアル」における「塗布型ライニング工法の品質規格(表5-10-1)」のD種に準拠した試験を実施した。具体的には、10%の硫酸水溶液に60日間浸せきし、本体(鉄)の腐食について評価する試験1~試験3を実施した。
【0067】
なお、試験1~試験3における溶射皮膜は、亜鉛・アルミニウム合金(ZnAl15(JIS H 8261の表3のコード番号2.3に規定する材料))を溶射して形成した。電着塗膜は、エポキシ樹脂を主成分とした塗料を用いて電着塗装によって形成した。封孔剤には、アルコキシシラン化合物を主成分とした無溶剤1液型のものを用いた。
【0068】
(試験1)本体の両面に溶射皮膜(膜厚100μm)を形成したものを実施例1とした。また、本体の両面に溶射皮膜(膜厚50μm)を形成し、さらに溶射皮膜上に封孔剤を塗布したものを実施例2とした。比較例としては、本体の両面に溶射皮膜を形成するとともに溶射皮膜上に電着塗膜を形成し、溶射皮膜の膜厚が150μmのものを比較例1とし、溶射皮膜の膜厚が50μmのものを比較例2とした。また、試験1では、試験体に傷は付けなかった。試験1の結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
実施例1,2では、溶射皮膜の腐食生成物の発生(白錆)が認められ、比較例1,2では、電着塗膜の浮きや膨れが認められた。しかしながら、表1に示すように、傷がない状態であれば、いずれの試験体も本体(鉄)の腐食は認められず、評価は良好であった。
【0071】
(試験2)本体の両面に溶射皮膜を形成し、溶射皮膜の膜厚が150μmのものを実施例3、溶射皮膜の膜厚が50μmのものを実施例4とした。また、本体の両面に溶射皮膜(膜厚50μm)を形成するとともに溶射皮膜上に封孔剤を塗布し、溶射皮膜の膜厚が150μmのものを実施例5、溶射皮膜の膜厚が50μmのものを実施例6とした。比較例としては、本体の両面に溶射皮膜を形成するとともに溶射皮膜上に電着塗膜を形成し、溶射皮膜の膜厚が150μmのものを比較例3とし、溶射皮膜の膜厚が100μmのものを比較例4とし、溶射皮膜の膜厚が50μmのものを比較例5した。また、試験2では、それぞれの試験体の片面に、本体に達する×状の傷を付けた。試験2の結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
実施例3~6では、溶射皮膜の腐食生成物の微粉が剥離するとともに、傷部分が溶射皮膜の腐食生成物(白錆)で埋まり、犠牲防食の作用が認められた。この結果、本体(鉄)の腐食は生じなかった。一方、比較例3~5では、傷部分に鉄の損壊や空隙が認められ、特に、溶射皮膜の膜厚が50μと薄い比較例5では、他方の面へ傷の進行も認められた。さらに、比較例3~5において皮膜を剥離し素地の状態を調べたところ、傷が付けられた皮膜から鉄が溶出し鉄が砂利状に変化と空隙崩壊の状態であり、特に、溶射皮膜の膜厚が薄い比較例5では、他方の面に貫通する孔が生じる結果になった。なお、皮膜を剥がす際、手でばりばりと剥がすことができた。
【0074】
(試験3)本体の両面に膜厚50μmの溶射皮膜を形成するとともに、A面(一方の面)のみ溶射皮膜上に封孔剤を塗布し、A面に本体に達する傷を付けたものを実施例7、B面(他方の面)に本体に達する傷を付けたものを実施例8とした。また、本体のA面に封孔剤を塗布し、B面に膜厚50μmの溶射皮膜を形成し、A面に本体に達する傷を付けたものを実施例9、B面に本体に達する傷を付けたものを実施例10とした。試験3の結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
実施例7~10では、溶射皮膜の腐食生成物の微粉が剥離するとともに、傷部分が溶射皮膜の腐食生成物(白錆)で埋まり、犠牲防食の作用が認められた。この結果、本体(鉄)の腐食は生じなかった。なお、封孔剤に代えて、エポキシ樹脂系やアクリル樹脂系の塗料をスプレーで塗布した場合であっても、同様の結果となることが予想できる。
【0077】
試験1~3の結果から明らかなように、鉄製の蓋本体や鉄製の受枠本体の最外層に、鉄よりも碑なる金属からなる金属皮膜(亜鉛・アルミニウム合金からなる溶射皮膜)を有するものであれば、金属皮膜の犠牲防食作用が発揮され、局部的な腐食を抑えることができることが分かる。また、電着塗装以外の塗装方法によって、金属皮膜上であって最外層に形成された塗膜(封孔剤の塗膜)を有していても、金属皮膜の犠牲防食作用が発揮される。さらに、実施例9および実施例10によれば、金属皮膜の面積が半分以上であれば、金属皮膜の犠牲防食作用が発揮されることも分かる。
【0078】
一方、電着塗膜が形成されたものは、比較例1、2に示すように、傷がない状態では、膜厚を厚くすれば防食性に優れるものとなるが、いったん本体にまで達する傷が生ずると、比較例3~5に示すように、その傷部分から局部的に腐食が進行していくことが分かる。
【0079】
以上説明した、地下構造物用蓋2、地下構造物用親子蓋4および地下構造物用受枠3,7によれば、局部的な腐食を抑えることができる。
【0080】
本発明は前述した実施形態に限られることなく特許請求の範囲に記載した範囲で種々の変更を行うことができる。例えば、前述した実施形態では、図2(a)に示す蓋2におけるおもて面211以外の部分の全体、図2(b)に示す受枠3における上端面31a以外の部分の全体、図4(b)に示す親蓋5におけるおもて面511以外の部分の全体、および図6(b)に示す受枠7における上端面71a以外の部分の全体に溶射皮膜91を設ける態様を説明したが、その一部に溶射皮膜91を設ける態様としてもよい。ただし、実施例9および実施例10から、溶射皮膜91の面積は、おもて面211,511や上端面31a,71aの面積以上とすることが好ましい。
【符号の説明】
【0081】
10 蓋受枠セット
11 親子蓋受枠セット
2 蓋(地下構造物用蓋)
2A 蓋本体
211 おもて面
3 受枠(地下構造物用受枠)
3A 受枠本体
31a 上端面
4 親子蓋(地下構造物用親子蓋)
5 親蓋
5A 親蓋本体
511 おもて面
6 子蓋
6A 子蓋本体
91 溶射皮膜
92 塗膜
S 防食用シート
図1
図2
図3
図4
図5
図6