(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154852
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04225 20160101AFI20241024BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20241024BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20241024BHJP
H01M 8/04302 20160101ALI20241024BHJP
H01M 8/04 20160101ALI20241024BHJP
H01M 8/0612 20160101ALI20241024BHJP
C01B 3/38 20060101ALI20241024BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20241024BHJP
【FI】
H01M8/04225
H01M8/0432
H01M8/04746
H01M8/04302
H01M8/04 Z
H01M8/0612
C01B3/38
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069006
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】市川 正樹
【テーマコード(参考)】
4G140
5H126
5H127
【Fターム(参考)】
4G140EA03
4G140EA06
4G140EB03
4G140EB16
4G140EB43
5H126BB06
5H127AA07
5H127AB23
5H127AC02
5H127BA01
5H127BA05
5H127BA13
5H127BA34
5H127BA37
5H127BB02
5H127BB07
5H127BB12
5H127BB19
5H127BB27
5H127BB37
5H127DA01
5H127DB47
5H127DB79
5H127DC22
5H127DC83
5H127EE03
5H127GG03
5H127GG09
(57)【要約】
【課題】燃料電池や改質部に炭素を析出することなく、起動処理を適切に行なう。
【解決手段】燃料電池システムは、燃料電池からのオフガスを燃焼させる燃焼部と、燃焼部と熱伝達可能に配置された改質部と、燃焼部と熱伝達可能で且つ改質部よりも燃焼部から離れた位置に配置された蒸発部と、システムの起動が要求されたとき、起動処理を開始し、起動処理の実行中において、燃料電池温度センサにより検出される温度が水蒸気の供給がなければ燃料電池に炭素が析出する温度として設定された第1閾値以上であり且つ蒸発部温度センサにより検出される温度が蒸発部で水蒸気を生成可能な温度として設定された第2閾値未満である場合には、起動処理を一時停止して燃焼部の予熱で蒸発部を昇温させた後、起動処理を再開する制御部と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する燃料電池を含む燃料電池システムであって、
前記燃料電池からのオフガスを燃焼させる燃焼部と、
前記燃焼部と熱伝達可能に配置され、水蒸気を用いて炭化水素系の原燃料ガスを前記燃料ガスに改質する改質部と、
前記燃焼部と熱伝達可能で且つ前記改質部よりも前記燃焼部から離れた位置に配置され、改質水を蒸発させて前記水蒸気を生成する蒸発部と、
断熱性を有し、前記燃料電池と前記改質部と前記蒸発部と前記燃焼部とを収容するケースと、
前記改質部に前記原燃料ガスを供給する原燃料ガス供給装置と、
前記蒸発部に前記改質水を供給する改質水供給装置と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記ケース内に設けられ、前記燃料電池の温度を検出する燃料電池温度センサと、
前記ケース内に設けられ、前記蒸発部の温度を検出する蒸発部温度センサと、
システムの起動が要求されたとき、前記原燃料ガスと前記酸化剤ガスとを供給して前記燃焼部で燃焼させる起動処理を開始するように前記原燃料ガス供給装置と前記酸化剤ガス供給装置とを制御し、前記起動処理の実行中において、前記燃料電池温度センサにより検出される温度が水蒸気の供給がなければ前記燃料電池に炭素が析出する温度として設定された第1閾値以上であり且つ前記蒸発部温度センサにより検出される温度が前記蒸発部で水蒸気を生成可能な温度として設定された第2閾値未満である場合には、少なくとも前記原燃料ガスの供給を停止することにより前記起動処理を一時停止して前記燃焼部の予熱で前記蒸発部を昇温させた後、前記起動処理を再開するように前記原燃料ガス供給装置と前記酸化剤ガス供給装置とを制御する制御部と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池温度センサは、前記燃料電池の温度を代用する温度を検出し、
前記制御部は、前記起動処理を開始するときに前記燃料電池温度センサにより検出される温度に基づいて前記第1閾値を変更する、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記燃料電池温度センサは、前記燃料電池の温度を代用する温度を検出し、
前記制御部は、前記起動処理の実行中において前記燃料電池温度センサにより検出される温度が所定温度以上である場合に、前記改質水の供給を開始するように前記改質水供給装置を制御するものであり、
前記起動処理を開始するときに前記燃料電池温度センサにより検出される温度に基づいて前記所定温度または前記改質水の供給流量を変更する、
燃料電池システム。
【請求項4】
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する燃料電池を含む燃料電池システムであって、
前記燃料電池からのオフガスを燃焼させる燃焼部と、
前記燃焼部と熱伝達可能に配置され、水蒸気を用いて炭化水素系の原燃料ガスを前記燃料ガスに改質する改質部と、
前記燃焼部と熱伝達可能で且つ前記改質部よりも前記燃焼部から離れた位置に配置され、改質水を蒸発させて前記水蒸気を生成する蒸発部と、
断熱性を有し、前記燃料電池と前記改質部と前記蒸発部と前記燃焼部とを収容するケースと、
前記改質部に前記原燃料ガスを供給する原燃料ガス供給装置と、
前記蒸発部に前記改質水を供給する改質水供給装置と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記ケース内に設けられ、前記改質部の温度を検出する改質部温度センサと、
前記ケース内に設けられ、前記蒸発部の温度を検出する蒸発部温度センサと、
システムの起動が要求されたとき、前記原燃料ガスと前記酸化剤ガスとを供給して前記燃焼部で燃焼させる起動処理を開始するように前記原燃料ガス供給装置と前記酸化剤ガス供給装置とを制御し、前記起動処理の実行中において、前記改質部温度センサにより検出される温度が水蒸気の供給がなければ前記改質部に炭素が析出する温度として設定された第1閾値以上であり且つ前記蒸発部温度センサにより検出される温度が前記蒸発部で水蒸気を生成可能な温度として設定された第2閾値未満である場合には、少なくとも前記原燃料ガスの供給を停止することにより前記起動処理を一時停止して前記燃焼部の予熱で前記蒸発部を昇温させた後、前記起動処理を再開するように前記原燃料ガス供給装置と前記酸化剤ガス供給装置とを制御する制御部と、
を備える燃料電池システム。
【請求項5】
請求項4に記載の燃料電池システムであって、
前記改質部温度センサは、前記改質部の温度を代用する温度を検出し、
前記制御部は、前記起動処理を開始するときに前記改質部温度センサにより検出される温度に基づいて前記第1閾値を変更する、
燃料電池システム。
【請求項6】
請求項1ないし5いずれか1項に記載の燃料電池システムであって、
前記蒸発部温度センサは、前記蒸発部の温度を代用する温度を検出し、
前記制御部は、前記起動処理を開始するときに前記蒸発部温度センサにより検出される温度に基づいて前記第2閾値を変更する、
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、燃料電池システムについて開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料電池システムとしては、起動制御において、改質器の温度が部分酸化改質反応開始温度(T1)未満の場合に燃料ガスによる燃焼熱によって改質器を加熱する制御を実行し、改質器の温度がT1以上で水蒸気改質反応可能温度(T2)未満の場合に部分酸化改質反応(POX)工程を実行し、改質器の温度がT2以上の場合にオートサーマル改質反応(ATR)工程を実行し、水蒸気改質反応(SR)工程へ移行するものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。このシステムでは、起動制御を開始するときにおける改質器の温度がT2以上である場合には、ATR工程から起動制御を開始することなく、改質器の温度がT2未満に低下するまで改質器を空気により強制冷却した後に、POX工程を実行する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した燃料電池システムでは、POX工程やATR工程を実行するための専用の空気ポンプや空気流量計を必要とするため、コスト増を招いてしまう。水蒸気改質反応のみにより燃料改質を行なう燃料電池システムでは、燃料電池スタックや改質器の温度が、水蒸気の供給がなければ炭素が析出する炭素析出温度以上となるときに、蒸発部に改質水を供給して水蒸気を生成させつつ起動処理を行なう。しかし、蒸発器の配置によっては、蒸発器の温度が水蒸気を生成可能な蒸気生成可能温度に達する前に、燃料電池スタックや改質器の温度が炭素析出温度に達する場合が生じる。
【0005】
本開示の燃料電池システムは、燃料電池や改質部に炭素を析出させることなく、起動処理を適切に行なうことを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の燃料電池システムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本開示の第1の燃料電池システムは、
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する燃料電池を含む燃料電池システムであって、
前記燃料電池からのオフガスを燃焼させる燃焼部と、
前記燃焼部と熱伝達可能に配置され、水蒸気を用いて炭化水素系の原燃料ガスを前記燃料ガスに改質する改質部と、
前記燃焼部と熱伝達可能で且つ前記改質部よりも前記燃焼部から離れた位置に配置され、改質水を蒸発させて前記水蒸気を生成する蒸発部と、
断熱性を有し、前記燃料電池と前記改質部と前記蒸発部と前記燃焼部とを収容するケースと、
前記改質部に前記原燃料ガスを供給する原燃料ガス供給装置と、
前記蒸発部に前記改質水を供給する改質水供給装置と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記ケース内に設けられ、前記燃料電池の温度を検出する燃料電池温度センサと、
前記ケース内に設けられ、前記蒸発部の温度を検出する蒸発部温度センサと、
システムの起動が要求されたとき、前記原燃料ガスと前記酸化剤ガスとを供給して前記燃焼部で燃焼させる起動処理を開始するように前記原燃料ガス供給装置と前記酸化剤ガス供給装置とを制御し、前記起動処理の実行中において、前記燃料電池温度センサにより検出される温度が水蒸気の供給がなければ前記燃料電池に炭素が析出する温度として設定された第1閾値以上であり且つ前記蒸発部温度センサにより検出される温度が前記蒸発部で水蒸気を生成可能な温度として設定された第2閾値未満である場合には、少なくとも前記原燃料ガスの供給を停止することにより前記起動処理を一時停止して前記燃焼部の予熱で前記蒸発部を昇温させた後、前記起動処理を再開するように前記原燃料ガス供給装置と前記酸化剤ガス供給装置とを制御する制御部と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本開示の第1の燃料電池システムでは、起動処理の実行中において、燃料電池温度センサにより検出される温度が第1閾値以上であり且つ蒸発部温度センサにより検出される温度が第2閾値未満である場合には、少なくとも原燃料ガスの供給を停止することで、燃料電池に炭素が析出するのを防止する。そして、燃焼部の予熱で蒸発部を昇温させた後、起動処理を再開することで、蒸発部の温度を第2閾値以上として改質水の投入により起動処理を継続させることができる。この結果、燃料電池に炭素を析出することなく、起動処理を適切に行なうことができる。
【0009】
本開示の第2の燃料電池システムは、
燃料ガスと酸化剤ガスとの反応により発電する燃料電池を含む燃料電池システムであって、
前記燃料電池からのオフガスを燃焼させる燃焼部と、
前記燃焼部と熱伝達可能に配置され、水蒸気を用いて炭化水素系の原燃料ガスを前記燃料ガスに改質する改質部と、
前記燃焼部と熱伝達可能で且つ前記改質部よりも前記燃焼部から離れた位置に配置され、改質水を蒸発させて前記水蒸気を生成する蒸発部と、
断熱性を有し、前記燃料電池と前記改質部と前記蒸発部と前記燃焼部とを収容するケースと、
前記改質部に前記原燃料ガスを供給する原燃料ガス供給装置と、
前記蒸発部に前記改質水を供給する改質水供給装置と、
前記燃料電池に前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記ケース内に設けられ、前記改質部の温度を検出する改質部温度センサと、
前記ケース内に設けられ、前記蒸発部の温度を検出する蒸発部温度センサと、
システムの起動が要求されたとき、前記原燃料ガスと前記酸化剤ガスとを供給して前記燃焼部で燃焼させる起動処理を開始するように前記原燃料ガス供給装置と前記酸化剤ガス供給装置とを制御し、前記起動処理の実行中において、前記改質部温度センサにより検出される温度が水蒸気の供給がなければ前記改質部に炭素が析出する温度として設定された第1閾値以上であり且つ前記蒸発部温度センサにより検出される温度が前記蒸発部で水蒸気を生成可能な温度として設定された第2閾値未満である場合には、少なくとも前記原燃料ガスの供給を停止することにより前記起動処理を一時停止して前記燃焼部の予熱で前記蒸発部を昇温させた後、前記起動処理を再開するように前記原燃料ガス供給装置と前記酸化剤ガス供給装置とを制御する制御部と、
を備えることを要旨とする。
【0010】
この本開示の第2の燃料電池システムでは、起動処理の実行中において、改質部温度センサにより検出される温度が第1閾値以上であり且つ蒸発部温度センサにより検出される温度が第2閾値未満である場合には、少なくとも原燃料ガスの供給を停止することで、改質部に炭素が析出するのを防止する。そして、燃焼部の予熱で蒸発部を昇温させた後、起動処理を再開することで、蒸発部の温度を第2閾値以上として改質水の投入により起動処理を継続させることができる。この結果、改質部に炭素を析出することなく、起動処理を適切に行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の燃料電池システムの概略構成図である。
【
図2】起動処理の一例を示すフローチャートである。
【
図3】起動処理の一例を示すフローチャートである。
【
図4】蒸気発生可能代用温度閾値設定用マップの一例を示す説明図である。
【
図5】スタック炭素析出代用温度閾値設定用マップの一例を示す説明図である。
【
図6】改質触媒炭素析出代用温度閾値設定用マップの一例を示す説明図である。
【
図7】改質触媒の炭素析出条件の一例を示す説明図である。
【
図8】目標比設定用マップの一例を示す説明図である。
【
図9】起動時における蒸発部代用温度T1、スタック代用温度T4、改質触媒代用温度T7、燃料流量およびエア流量の時間変化の様子を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本開示を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の燃料電池システム10の概略構成図である。本実施形態の燃料電池システム10は、
図1に示すように、アノードガス(燃料ガス)中の水素とカソードガス(酸化剤ガス)中の酸素との電気化学反応により発電する燃料電池スタック21を含む発電モジュール20と、発電モジュール20にアノードガスの原料となる炭化水素系の原燃料ガス(例えば天然ガスやLPガス)を供給する原燃料ガス供給装置30と、発電モジュール20に原燃料ガスからアノードガスへの改質(水蒸気改質)に必要な改質水を供給する改質水供給装置40と、発電モジュール20(燃料電池スタック21)にカソードガスとしてのエアを供給するエア供給装置50と、発電モジュール20において発生した排熱を回収する排熱回収装置60と、システム全体をコントロールする制御装置100と、を備える。
【0014】
発電モジュール20は、燃料電池スタック21や、蒸発器22、改質器23、燃焼器24、熱交換器26を含み、これらは、断熱性を有するモジュールケース29に収容されている。
【0015】
燃料電池スタック21は、
図1に示すように、本実施形態では、複数の平板型の単セルが板厚方向に積層されてなる平板型の固体酸化物形燃料電池スタックとして構成される。各単セルSは、電解質と、電解質の一方の面に配置されたアノードと、電解質の他方の面に配置されたカソードとをそれぞれ有する。燃料電池スタック21のアノード入口には、アノードガス配管71の一端が接続され、アノードガス配管71の他端には、改質器23が接続されている。燃料電池スタック21のカソード入口には、カソードガス配管72の一端が接続され、カソードガス配管72の他端には、エア供給装置50(エア供給管51)が接続されている。また、燃料電池スタック21のアノード出口には、アノードオフガス配管73の一端が接続され、アノードオフガス配管73の他端には、燃焼器24が接続されている。燃料電池スタック21のカソード出口には、カソードオフガス配管74の一端が接続され、カソードオフガス配管74の他端には、燃焼器24が接続されている。また、燃料電池スタック21の近傍には、温度センサ112が設置されている。温度センサ112は、燃料電池スタック21の温度を代用する温度(スタック代用温度T4)を検出する温度センサであり、本実施形態では、カソード出口付近に設置されている。なお、温度センサ112は、燃料電池スタック21の温度やこれに相関する温度を検出できるものであれば、如何なる位置に設置されてもよい。
【0016】
発電モジュール20の蒸発器22、改質器23および燃焼器24は、モジュールケース29内の燃料電池スタック21の上方に配設される。燃焼器24は、燃料電池スタック21のアノード出口とカソード出口とからそれぞれ排出されるガスを導入して燃焼させることで、燃料電池スタック21の作動や蒸発器22および改質器23での反応に必要な熱を発生させる。燃焼器24には、導入したガスを着火するための着火装置25や、燃焼室内の温度を検出するための温度センサ113が設置されている。
【0017】
蒸発器22は、その内部に充填された蓄熱用の多数のボール(セラミック製やステンレス製のボール)を内部に有し、燃焼器24からの熱によりボールに蓄熱された状態で改質水が供給されることで、改質水を蒸発させて水蒸気を生成する。蒸発器22で生成された水蒸気は、原燃料ガスと混合され、その混合ガスは、当該蒸発器22から改質器23に流入する。蒸発器22には、蒸発器22の温度を代用する温度(蒸発部代用温度T1)を検出する温度センサ111が設置されている。温度センサ111は、蒸発器22の温度やこれに相関する温度を検出できるものであれば、如何なる位置に設置されてもよい。
【0018】
改質器23は、その内部に充填された例えばRu系またはNi系の改質触媒を有し、燃焼器24からの熱の存在下で、改質触媒による蒸発器22からの混合ガスの反応(水蒸気改質反応)によって水素ガスと一酸化炭素とを生成する。更に、改質器23は、水蒸気改質反応にて生成された一酸化炭素と水蒸気との反応(一酸化炭素シフト反応)によって水素ガスと二酸化炭素とを生成する。これにより、改質器23によって、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、未改質の原燃料ガス等を含むアノードガスが生成されることになる。改質器23により生成されたアノードガスは、アノードガス配管71を通って各単セルSのアノードに供給される。
【0019】
また、改質器23は、本実施形態では、燃焼器24から熱伝達可能に燃焼器24の外周を覆うように配置される。このため、燃焼器24に設置される温度センサ113は、改質触媒の温度を代用する温度(改質触媒代用温度T7)を検出する温度センサとしても機能する。なお、触媒の温度やこれと相関する温度を検出するために専用の温度センサが設置されてもよい。一方、蒸発器22は、改質器23よりも燃焼器24から離れた位置に燃焼器24と熱伝達可能に配置されている。蒸発器22は、通常は、燃焼器24で生成された高温の燃焼排ガスの供給を受けてボールに蓄熱して水蒸気を生成する。
【0020】
カソードガスとしてのエアは、カソードガス配管72を介して各単セルSのカソードに供給される。各単セルSのカソードでは、酸化物イオン(O2-)が生成され、当該酸化物イオンが電解質を透過してアノードで水素や一酸化炭素と反応することにより電気エネルギが得られる。
【0021】
各単セルSにおいて電気化学反応(発電)に使用されなかったアノードガス(以下、「アノードオフガス」という)は、アノードオフガス配管73を通って燃焼器24に供給され、各単セルSにおいて電気化学反応(発電)に使用されなかったカソードガス(以下、「カソードオフガス」という)は、カソードオフガス配管74を通って燃焼器24に供給される。アノードオフガスは、水素や一酸化炭素等の燃料成分を含む可燃性ガスであり、燃焼器24において、酸素を含むカソードオフガスと混合される。そして、混合ガスが燃焼することにより、燃料電池スタック21の作動や、蒸発器22での原燃料ガスの予熱や水蒸気の生成、改質器23での水蒸気改質反応等に必要な熱が発生することになる。
【0022】
燃焼器24において混合ガスの燃焼により生成された燃焼排ガスは、改質器23、熱交換器26、蒸発器22を順に通過し、それぞれ、水蒸気改質に必要な熱、カソードガス(エア)の昇温に必要な熱、水蒸気の生成に必要な熱を供給した後、燃焼排ガス配管75を通って凝縮器62に供給される。なお、燃焼排ガス配管75の出口付近には、燃焼排ガスに含まれる未燃燃料を燃焼させるための燃焼触媒28(酸化触媒)が設けられている。凝縮器62へ供給された燃焼排ガスは、凝縮器62により冷却させられて燃焼排ガス中に含まれる水蒸気の少なくとも一部が除去された後、大気中に排出される。
【0023】
原燃料ガス供給装置30は、原燃料ガスを供給する原燃料供給源1と蒸発器22とを接続する原燃料ガス供給管31と、当該原燃料ガス供給管31に対して上流から順に並ぶように設置された開閉弁(2連弁)32,33、流量センサ39、ガスポンプ34および脱硫器35を有する。原燃料ガスは、ガスポンプ34を作動させることで、原燃料供給源1から脱硫器35を介して蒸発器22へと圧送(供給)される。流量センサ39は、原燃料ガス供給管31を流れる原燃料ガスの単位時間当りの流量(ガス流量Fg)を検出する。
【0024】
改質水供給装置40は、改質水を貯留する改質水タンク42と、改質水タンク42と蒸発器22とを接続する改質水供給管41と、改質水供給管41に設置された改質水ポンプ43と、を有する。改質水タンク42内の改質水は、改質水ポンプ43を作動させることで、当該改質水ポンプ43により蒸発器22へと圧送(供給)される。
【0025】
エア供給装置50は、モジュールケース29内に設置されたカソードガス配管72に接続されるエア供給管51と、エア供給管51の入口に設置されたエアフィルタ52と、エア供給管51に設置されたエアポンプ53および流量センサ54と、を有する。流量センサ54は、エア供給管51を流れるエアの単位時間当りの流量(エア流量Fa)を検出する。エアポンプ53を作動させることで、カソードガスとしてのエアは、エアフィルタ52を介してエア供給管51に吸引され、カソードガス配管72を通って燃料電池スタック21(カソード)へと圧送(供給)される。カソードガス配管72には、熱交換器26が設置されており、熱交換器26に流入したエアは、燃焼器24から排出された高温の燃焼排ガスとの熱交により必要な温度まで昇温させられた後、燃料電池スタック21のカソードに供給される。
【0026】
排熱回収装置60は、湯水を貯留する貯湯タンク61と、燃料電池スタック21からアノードオフガス配管73を流れるアノードオフガスと湯水とを熱交換してアノードオフガス中に含まれる水蒸気を凝縮させる凝縮器62と、貯湯タンク61と凝縮器62とに接続された循環配管63と、循環配管63に組み込まれた循環ポンプ64と、を有する。貯湯タンク61内に貯留されている湯水は、循環ポンプ64を作動させることで、凝縮器62へと導入され、凝縮器62でアノードオフガスとの熱交換によって昇温させられた後、貯湯タンク61へと返送される。
【0027】
また、凝縮器62における燃焼排ガス側の通路出口には、凝縮水配管44と燃焼排ガス配管76とが接続されており、燃焼排ガス中の水蒸気が貯湯タンク61からの湯水との熱交換により凝縮することにより得られた凝縮水は、凝縮水配管44を通って改質水タンク42内に導入される。なお、改質水タンク42には、凝縮水配管44を通過した凝縮水を精製する図示しない水精製器が設置されている。また、上述したように、凝縮器62において水蒸気が除去された燃焼排ガスは、燃焼排ガス配管76を通って大気中に排出される。
【0028】
燃料電池スタック21の出力端子には、パワーコンディショナ80の入力端子が接続され、当該パワーコンディショナ80の出力端子は、図示しないリレーを介して電力系統2から負荷4への電力ライン3に接続されている。パワーコンディショナ80は、燃料電池スタック21から出力された直流電力を所定電圧(例えば、DC250V~300V)の直流電力に変換するDC/DCコンバータや、変換された直流電力を電力系統と連系可能な電圧(例えば、AC200V)の交流電力に変換するインバータを有する。これにより、燃料電池スタック21からの直流電力を交流電力に変換して家電製品等の負荷4に供給することが可能となる。なお、燃料電池スタック21の出力端子には、燃料電池スタック21を流れる電流を検出する電流センサ114が取り付けられ、燃料電池スタック21の出力端子間には、燃料電池スタック21の端子間電圧を検出する電圧センサ115が取り付けられている。
【0029】
パワーコンディショナ80には電源基板81が接続されている。電源基板81は、燃料電池スタック21からの直流電力や電力系統2からの交流電源を低圧の直流電力に変換して、ガスポンプ34や改質水ポンプ43、エアポンプ53、循環ポンプ64の各駆動回路、流量センサ39,54や温度センサ111,112,113、電流センサ114、電圧センサ115等のセンサ類、制御装置100へ供給する。また、パワーコンディショナ80や電源基板81等が配置される補機室には、当該パワーコンディショナ80や電源基板81を冷却するための図示しない冷却ファンや換気ファンが配置されている。冷却ファンは、パワーコンディショナ80や電源基板81の発熱部に空気を送り込んで空気との熱交換により発熱部を冷却する。発熱部を冷却して昇温した空気は、換気ファンにより大気中へ排出される。
【0030】
制御装置100は、CPU101を中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPU101の他に処理プログラムを記憶するROM102と、データを一時的に記憶するRAM103と、図示しない入出力ポートと、を備える。制御装置100には、流量センサ39,54や温度センサ111,112,113、電流センサ114、電圧センサ115等からの各種検出信号が入力ポートを介して入力されている。また、制御装置100からは、開閉弁32,33のソレノイドや、ガスポンプ34のポンプモータ、改質水ポンプ43のポンプモータ、エアポンプ53のポンプモータ、循環ポンプ64のポンプモータ等への各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。また、制御装置100には、無線式または有線式の通信回線を介して図示しないリモコンが接続される。制御装置100は、燃料電池システム10のユーザにより操作された当該リモコンからの信号に基づいて各種制御を実行する。
【0031】
次に、こうして構成された燃料電池システム10の動作について説明する。制御装置100のCPU101は、システム起動が要求されると、脱硫器35に燃料成分を吸着させる燃料吸着工程や、発電モジュール20内をエアの供給によってパージするパージ工程、燃焼器24に原燃料ガスとエアとを供給してその混合ガスを着火させる着火工程、蒸発器22に原燃料ガスと改質水とを供給して改質器23において水蒸気改質反応を生起させる水蒸気改質工程を順次実行してシステムを起動する。
【0032】
システム起動が完了すると、CPU101は、システムに要求される要求出力に応じた電流(電流指令Ireq)が燃料電池スタック21から出力されるよう原燃料ガス、改質水およびエアの供給量を制御して発電を開始する。原燃料ガスの供給量の制御は、燃料利用率Ufが目標利用率Uftagに一致するように電流指令Ireqに応じたガス流量を目標ガス流量Fgtagに設定し、流量センサ39により検出されるガス流量Fgが設定した目標ガス流量Fgtagに一致するようにフィードバック制御によりガスポンプ34を制御することにより行なわれる。なお、燃料利用率Ufは、アノードに供給したアノードガスの量に対する発電に利用されたアノードガスの量の割合である。改質水の供給量の制御は、改質器23におけるスチームカーボン比SCが目標比SCtagに一致するように目標ガス流量Fgtagに基づいて目標改質水流量Fwtagを設定し、設定した目標改質水流量Fwtagの改質水が供給されるよう改質水ポンプ43を制御することにより行なわれる。なお、スチームカーボン比SCは、原燃料ガス中の炭化水素に含まれる炭素と水蒸気改質のために添加される水蒸気とのモル比である。エアの供給量の制御は、温度センサ112により検出されるスタック代用温度T4が目標温度T4tagに一致するようにフィードバック制御により目標エア流量Fatagを設定し、流量センサ54により検出されるエア流量Faが設定した目標エア流量Fatagに一致するようにフィードバック制御によりエアポンプ53を制御することにより行なわれる。
【0033】
システムの停止が要求されると、CPU101は、燃料電池スタック21や改質器23が冷却されると共に高温雰囲気下において当該燃料電池スタック21のアノードが酸化劣化しないように原燃料ガス、改質水およびエアの供給量を調整し、燃料電池スタック21等の冷却が完了すると、原燃料ガス、改質水およびエアの供給を停止するシステム停止処理を実行する。
【0034】
次に、起動処理の詳細について更に説明する。
図2および
図3は、制御装置100のCPU101により実行される起動処理の一例を示すフローチャートである。このルーチンは、上位システムによりシステムの起動が指示されたときに実行される。
【0035】
起動処理では、CPU101は、まず、上述した燃料吸着工程とパージ工程と着火工程とを順次実行した後(ステップS100)、温度センサ111からの蒸発部代用温度T1や温度センサ112からのスタック代用温度T4、温度センサ113からの改質触媒代用温度T7を入力する(ステップS102)。続いて、CPU101は、入力した蒸発部代用温度T1を起動時蒸発部代用温度T1stに設定し、入力したスタック代用温度T4を起動時スタック代用温度T4stに設定し、入力した改質触媒代用温度T7を起動時改質触媒代用温度T7stに設定する(ステップS104)。
【0036】
次に、CPU101は、起動時蒸発部代用温度T1stに基づいて蒸気発生可能代用温度閾値α(第2閾値)を設定する(ステップS106)。ここで、蒸気発生可能代用温度閾値αは、温度センサ111からの蒸発部代用温度T1を用いて蒸発器22が水蒸気を生成可能な状態に至ったことを判定するための判定用閾値である。蒸気発生可能代用温度閾値αの設定は、本実施形態では、起動時蒸発部代用温度閾値T1stと蒸気発生可能代用温度閾値αとの関係を予め求めて蒸気発生可能代用温度閾値設定用マップとしてROM102に記憶しておき、起動時蒸発部代用温度閾値T1stが与えられると、マップから対応する蒸気発生可能代用温度閾値αを導出することにより行なわれる。蒸気発生可能代用温度閾値設定用マップの一例を
図4に示す。蒸気発生可能代用温度閾値αは、
図4に示すように、起動時蒸発部代用温度閾値T1stが大きくなるにつれて大きくなるように設定される。温度センサ111は、設置される位置により、温度センサ111により検出される蒸発部代用温度T1と蒸発器22の水蒸気を生成する部位の温度との間に相関ずれが生じる場合がある。そこで、本実施形態では、起動時蒸発部代用温度T1stに応じて蒸気発生可能代用温度閾値αを設定することで、相関ずれを補正し、蒸発器22が水蒸気を生成可能な状態に達するタイミングを蒸発部代用温度T1に基づいて適切に判定することができる。
【0037】
次に、CPU101は、起動時スタック代用温度T4stに基づいてスタック炭素析出代用温度閾値β(第1閾値)を設定する(ステップS108)。ここで、スタック炭素析出代用温度閾値βは、温度センサ112からのスタック代用温度T4を用いて、水蒸気の供給がなければ炭化水素系の原燃料ガスの供給により燃料電池スタック21に炭素が析出する状態にあることを判定するための判定用閾値である。スタック炭素析出代用温度閾値βの設定は、本実施形態では、起動時スタック代用温度T4stとスタック炭素析出代用温度閾値βとの関係を予め求めてスタック炭素析出代用温度閾値設定用マップとしてROM102に記憶しておき、起動時スタック代用温度T4stが与えられると、マップから対応するスタック炭素析出代用温度閾値βを導出することにより行なわれる。スタック炭素析出代用温度閾値設定用マップの一例を
図5に示す。スタック炭素析出代用温度閾値βは、
図5に示すように、起動時スタック代用温度T4stが大きくなるにつれて大きくなるように設定される。水蒸気の供給がなければ燃料電池スタック21に炭素が析出するタイミングは、燃料電池スタック21における温度が最も高い部位の温度(最高温度)に基づいて決定される。温度センサ112は、燃料電池スタック21の最高温度となる部位とは異なる位置に設置されるから、温度センサ112により検出されるスタック代用温度T4は、燃料電池スタック21の最高温度と相関ずれが生じる。そこで、本実施形態では、起動時スタック代用温度T4stに応じてスタック炭素析出代用温度閾値βを設定することで、相関ずれを補正し、燃料電池スタック21の水蒸気の供給がなければ炭素が析出するタイミングをスタック代用温度T4に基づいて適切に判定することができる。
【0038】
次に、CPU101は、起動時改質触媒代用温度T7stに基づいて改質触媒炭素析出代用温度閾値γ(第1閾値)を設定する(ステップS110)。ここで、改質触媒炭素析出代用温度閾値γは、温度センサ113からの改質触媒代用温度T7を用いて、水蒸気の供給がなければ炭化水素系の原燃料ガスの供給により改質器23の改質触媒に炭素が析出する状態にあることを判定するための判定用閾値である。改質触媒炭素析出代用温度閾値γの設定は、本実施形態では、起動時改質触媒代用温度T7stと改質触媒炭素析出代用温度閾値γとの関係を予め求めて改質触媒炭素析出代用温度閾値設定用マップとしてROM102に記憶しておき、起動時改質触媒代用温度T7stが与えられると、マップから対応する改質触媒炭素析出代用温度閾値γを導出することにより行なわれる。改質触媒炭素析出代用温度閾値設定用マップの一例を
図6に示す。改質触媒炭素析出代用温度閾値γは、
図6に示すように、起動時改質触媒代用温度T7stが大きくなるにつれて大きくなるように設定される。水蒸気の供給がなければ改質触媒に炭素が析出するタイミングは、改質触媒における温度が最も高い部位の温度(最高温度)に基づいて決定される。温度センサ113は、改質触媒の最高温度となる部位とは異なる位置に設置されるから、温度センサ113により検出される改質触媒代用温度T7は、改質触媒の最高温度と相関ずれが生じる。そこで、本実施形態では、起動時改質触媒代用温度T7stに応じて改質触媒炭素析出代用温度閾値γを設定することで、相関ずれを補正し、改質触媒の水蒸気の供給がなければ炭素が析出するタイミングを改質触媒代用温度T7に基づいて適切に判定することができる。
【0039】
そして、CPU101は、ステップS102と同様に、温度センサ111,112,113から蒸発部代用温度T1やスタック代用温度T4、改質触媒代用温度T7を入力し(ステップS112)、入力した蒸発部代用温度T1が蒸気発生可能代用温度閾値α未満であり、且つ、入力したスタック代用温度T4がスタック炭素析出代用温度閾値β以上であるか否か(ステップS114)、入力した蒸発部代用温度T1が蒸気発生可能代用温度閾値α未満であり、且つ、入力した改質触媒代用温度T7が改質触媒炭素析出代用温度閾値γ以上であるか否か(ステップS116)、をそれぞれ判定する。ステップS114の処理は、水蒸気の供給がなければ原燃料ガスの供給により燃料電池スタック21に炭素が析出する状態にあるにも拘わらず、蒸発器22が未だ水蒸気を生成可能な状態にないことを判定するための処理である。ステップS116の処理は、水蒸気の供給がなければ原燃料ガスの供給により改質器23の改質触媒に炭素が析出する状態にあるにも拘わらず、蒸発器22が未だ水蒸気を生成可能な状態にないことを判定するための処理である。
図7は、改質触媒の炭素析出条件の一例を示す説明図である。図示するように、改質触媒は、その入口温度が所定温度Tinrefに達するまでは、必要なスチームカーボン比SCは値0であり、水蒸気の供給がなくても、炭素が析出することはない。一方、改質触媒の入口温度が所定温度Tinrefを超えると、温度が高くなるにつれて必要なスチームカーボン比SCの値が大きくなり、炭素を析出させないために、多くの水蒸気を必要とする。
【0040】
CPU101は、ステップS112およびS114で共に否定的な判定を行なった場合には、原燃料ガスとエアとの供給をそのまま維持して起動を継続する(ステップS118)。続いて、CPU101は、スタック代用温度T4と起動時スタック代用温度T4stとに基づいて目標比SCtagを設定する(ステップS120)。目標比SCtagの設定は、本実施形態では、スタック代用温度T4と目標比SCtagとの関係を予め求めて目標比設定用マップとしてROM102に記憶しておき、スタック代用温度T4が与えられると、マップから対応する目標比SCtagを導出することにより行なわれる。目標比設定用マップの一例を
図8に示す。図示するように、目標比SCtagは、基本的には、スタック代用温度T4が一定の温度に達するまでは、値0であり、スタック代用温度T4が一定の温度を超えると、大きくなるにつれて大きくなるように設定される。目標比SCtagは、値0である場合には、水蒸気(改質水)が不要であり、値0を超える場合には、原燃料ガスに応じた量の水蒸気が必要である。このため、目標比SCtagは、燃料電池スタック21に炭素が析出しないように改質水(水蒸気)の供給を開始するタイミングとそのときに必要な水蒸気の量を設定するものとなる。そして、燃料電池スタック21の温度(スタック代用温度T4)が上昇するにつれて、目標比SCtagが大きくなるため、蒸発器22に供給される改質水が増量され、生成される水蒸気により原燃料ガスを改質する水蒸気改質反応工程へ移行する。
【0041】
目標比設定用マップは、本実施形態では、起動時スタック代用温度T4stの高低に応じて異なる複数のマップが用意されている。
図8に示すように、目標比SCtagは、起動時スタック代用温度T4stが通常の場合には、スタック代用温度T4が第2所定温度T4ref2以上となるタイミングで値0よりも大きくなる。一方、起動時スタック代用温度T4stが通常よりも低い場合には、目標SCtagは、スタック代用温度T4が第2所定温度T4ref2よりも低い第1所定温度T4ref1以上となるタイミングで値0よりも大きくなると共に通常よりも大きな値に設定される。また、起動時スタック代用温度T4stが通常よりも高い場合には、スタック代用温度T4が第2所定温度T4ref2よりも高い第3所定温度T4ref3以上となるタイミングで値0よりも大きくなると共に通常よりも小さな値に設定される。上述したように、温度センサ112により検出されるスタック代用温度T4は、燃料電池スタック21の最高温度と相関ずれが生じる。そこで、本実施形態では、起動時スタック代用温度T4stに応じて異なる目標比設定用マップを用いることで、相関ずれを補正し、燃料電池スタック21の最高温度が水蒸気を必要とする温度に達するタイミングと必要な水蒸気の量とをスタック代用温度T4に基づいて適切に判定することができる。
【0042】
CPU101は、目標比SCtagを設定すると、設定した目標比SCtagが値0よりも大きいか否かを判定する(ステップS122)。CPU101は、目標比SCtagが値0であると判定すると、目標比SCtagが値0よりも大きくなるまで、ステップS112に戻ってステップS112~S122の処理を繰り返す。一方、CPU101は、目標比SCtagが値0よりも大きいと判定すると、水蒸気の生成が必要であると判断し、目標比SCtagと原燃料ガスの流量とに基づいて目標改質水流量Fwtagを設定し、設定した目標改質水流量Fwtagで改質水の供給が開始されるように改質水ポンプ43を制御する(ステップS124)。これにより、蒸発器22で水蒸気を生成され、必要な水蒸気が燃料電池スタック21や改質触媒に供給されることで、燃料電池スタック21や改質触媒に炭素が析出するのを防止することができる。
【0043】
そして、CPU101は、スタック代用温度T4を入力し(ステップS126)、入力したスタック代用温度T4が発電可能温度に達したか否かを判定する(ステップS128)。CPU101は、スタック代用温度T4が発電可能温度に達していないと判定すると、ステップS126に戻る。上述したように、スタック代用温度T4が上昇するにつれて、目標SCtagが大きくなり、目標SCtagに応じて生成される水蒸気により水蒸気改質反応工程へ移行する。CPU101は、スタック代用温度T4が発電可能温度に達したと判定すると、燃料電池スタック21が発電可能状態に至ったと判断し、発電を開始して(ステップS130)、起動処理を終了する。
【0044】
CPU101は、ステップS112~S122の処理の繰り返しの過程において、ステップS114またはS116で肯定的な判定がなされると、水蒸気の供給がなければ燃料電池スタック21あるいは改質触媒に炭素が析出する状態にあるにも拘わらず、蒸発器22が未だ水蒸気を生成可能な状態にないと判断して、起動を中断する(ステップS132)。起動の中断は、本実施形態では、ガスポンプ34とエアポンプ53の駆動を停止して原燃料ガスおよびエアの供給を停止することにより行なわれる。なお、起動の中断中であっても、エアの供給は継続して行なうようにしてもよい。そして、CPU101は、所定時間(例えば、15分間)が経過するまで待機する(ステップS134)。所定時間が経過すると、CPU101は、着火工程から起動を再開し(ステップS136)、ステップS112に戻る。起動の再開は、原燃料ガスとエアとがそれぞれ供給されるようにポンプ34とエアポンプ53とを制御しつつ、着火装置25をオンして燃焼器24に導入される原燃料ガスとエアとの混合ガスを着火させることにより行なわれる。起動の中断による原燃料ガスの停止により燃焼器24の燃焼は終了するものの、蒸発器22は、燃焼器24の予熱によって加熱される。したがって、起動の中断と再開とを繰り返し実行することで、蒸発器22の温度(蒸発部代用温度T1)を水蒸気の生成が可能な温度まで昇温させることができる。この結果、燃料電池スタック21や改質触媒に炭素が析出するのを防止しつつ、起動を進行させることができる。なお、本実施形態では、CPU101は、起動を中断した後、所定時間が経過するまで待機するものとした。しかし、CPU101は、起動を中断した後、温度センサ111により検出される温度(蒸発部代用温度T1)を監視し、蒸発部代用温度T1が所定温度以上上昇するまで待機するようにしてもよい。
【0045】
図9は、起動時における蒸発部代用温度T1、スタック代用温度T4、改質触媒代用温度T7、燃料流量およびエア流量の時間変化の様子を示す説明図である。起動処理に際して、着火工程の実行により燃焼器24が着火すると、燃焼器24からの燃焼熱や燃焼排ガスにより、燃料電池スタック21や改質器23、蒸発器22が加熱される。本実施形態では、蒸発器22は、改質器23よりも燃焼器24から離れた位置に設置されており、蒸発器22の温度(蒸発部代用温度T1)は、改質器23の温度(改質触媒代用温度T7)よりも緩やかに上昇する。そして、スタック代用温度T4あるいは改質触媒代用温度T7がそれぞれのスタック炭素析出代用温度閾値βあるいは改質触媒炭素析出代用温度閾値γを超えたにも拘わらず、蒸発部代用温度T1が蒸気発生可能代用温度閾値αに達していない場合には、CPU101は、原燃料ガスの供給を停止して起動を中断する(時刻t1)。そして、CPU101は、所定時間が経過すると、原燃料ガスの供給を開始して起動を再開する(時刻t2)。これにより、水蒸気が供給されなければ燃料電池スタック21や改質触媒に炭素が析出する状態にあるにも拘わらず、蒸発器22が水蒸気を生成できない場合に、起動を中断して燃焼器24の予熱で蒸発器22を加熱することで、蒸発器22で水蒸気を生成可能な状態とすることができる。この結果、燃料電池スタック21や改質触媒に炭素を析出させることなく、起動を完了させることができる。
【0046】
上述した実施形態では、CPU101は、起動処理において、起動時蒸発部代用温度T1stに基づいて蒸気発生可能代用温度閾値αを設定し、蒸発部代用温度T1が蒸気発生可能代用温度閾値α未満であれば蒸発器22が水蒸気を生成可能な状態にないと判定した。しかし、蒸発部代用温度T1と蒸発器22の水蒸気を生成する部位の温度との間の相関ずれが少ない場合には、蒸気発生可能代用温度閾値αとして一定値を用いてもよい。
【0047】
上述した実施形態では、CPU101は、起動処理において、起動時スタック代用温度T4stに基づいてスタック炭素析出代用温度閾値βを設定し、スタック代用温度T4がスタック炭素析出代用温度閾値β以上であれば水蒸気の供給がなければ燃料電池スタック21に炭素が析出する状態にあると判定した。しかし、スタック代用温度T4と燃料電池スタック21の最高温度との間の相関ずれが少ない場合には、スタック炭素析出代用温度閾値βとして一定値を用いてもよい。
【0048】
上述した実施形態では、CPU101は、起動処理において、起動時改質触媒代用温度T7stに基づいて改質触媒炭素析出代用温度閾値γを設定し、改質触媒代用温度T7が改質触媒炭素析出代用温度閾値γ以上であれば、水蒸気の供給がなければ改質触媒に炭素が析出する状態にあると判定した。しかし、改質触媒代用温度T7と改質触媒の最高温度との間の相関ずれが少ない場合には、改質触媒炭素析出代用温度閾値γとして一定値を用いてもよい。
【0049】
以上、本開示を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本開示はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本開示の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本開示は、燃料電池システムの製造産業に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 燃料電池システム、21 燃料電池スタック(燃料電池)、22 蒸発器(蒸発部)、23 改質器(改質部)、24 燃焼器(燃焼部)、29 モジュールケース(ケース)、30 原燃料ガス供給装置、40 改質水供給装置、50 エア供給装置(酸化剤ガス供給装置)、100 制御装置(制御部)、111 温度センサ(蒸発部温度センサ)、112 温度センサ(燃料電池温度センサ)、113 温度センサ(改質部温度センサ)。