IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東レ株式会社の特許一覧

特開2024-154855長繊維不織布、分離膜支持体および分離膜
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154855
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】長繊維不織布、分離膜支持体および分離膜
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/147 20120101AFI20241024BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241024BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241024BHJP
   B01D 71/06 20060101ALI20241024BHJP
   D04H 3/16 20060101ALI20241024BHJP
   D04H 3/14 20120101ALI20241024BHJP
【FI】
D04H3/147
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/06
D04H3/16
D04H3/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069010
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】若林 千夏
(72)【発明者】
【氏名】池尻 祐希
(72)【発明者】
【氏名】松浦 博幸
【テーマコード(参考)】
4D006
4L047
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006MA01
4D006MA03
4D006MA09
4D006MB11
4D006MB15
4D006MB16
4D006MB19
4D006MC18
4D006MC22
4D006MC29
4D006MC48
4D006MC54
4D006MC58
4D006MC62X
4D006MC63
4D006NA45
4D006NA74
4D006PA01
4D006PB02
4D006PB03
4D006PB07
4L047AA13
4L047AA19
4L047AA21
4L047AA27
4L047AB03
4L047AB07
4L047BA09
4L047BB06
4L047BB09
4L047CA05
4L047CC12
(57)【要約】
【課題】 分離膜とした際に膜剥離強度の強弱差を小さくでき、なおかつ製膜時の製膜欠点数を減少させることに優れた長繊維不織布、分離膜支持体および分離膜を提供すること。
【解決手段】 熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布であって、該長繊維不織布の断面空隙率が1%以上10%以下であり、断面空隙率のCV値が1%以上60%以下であって、平均単繊維直径が10.0μm以上20.0μm以下である、長繊維不織布、前記長繊維不織布で構成された分離膜支持体および前記分離膜支持体を含んでなる分離膜。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布であって、該長繊維不織布の断面空隙率が1%以上10%以下であり、断面空隙率のCV値が1%以上60%以下であって、平均単繊維直径が10.0μm以上20.0μm以下である長繊維不織布。
【請求項2】
前記繊維が高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維である、請求項1に記載の長繊維不織布。
【請求項3】
長繊維不織布の目付が20g/m以上120g/m以下である、請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項4】
長繊維不織布の一方の面における王研式平滑度の最大値と最小値の差Rが5秒以上20秒以下であり、かつ、もう一方の面における王研式平滑度の最大値と最小値の差Rが1秒以上10秒以下である、請求項1または2に記載の長繊維不織布。
【請求項5】
請求項1または2に記載の長繊維不織布で構成された分離膜支持体。
【請求項6】
請求項5に記載の分離膜支持体を含んでなる分離膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長繊維不織布、分離膜支持体および分離膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の水処理には、多くの場合において膜技術が適用されている。例えば、浄水場での水処理には、精密ろ過膜や限外ろ過膜が用いられており、海水の淡水化には、逆浸透膜が用いられている。また、半導体製造用水、ボイラー用水、医療用水およびラボ用純水などの処理には、逆浸透膜やナノろ過膜が用いられている。さらに、下廃水の処理には、精密ろ過膜や限外ろ過膜を用いた膜分離活性汚泥法も適用されている。
【0003】
これらの分離膜は、その形状から平膜と中空糸膜に大別される。これらの分離膜のうち、主に合成重合体から形成される平膜は、分離機能を有する膜単体では機械的強度に劣るため、一般に不織布や織布等の支持体と一体化して使用されることが多い。
【0004】
一般に、分離機能を有する膜と支持体は、不織布や織布等の支持体上に、分離機能を有する膜の原料となる高分子重合体の溶液を流延して固着させる方法により一体化される。また、逆浸透膜等の半透膜においては、不織布や織布等の支持体上に高分子重合体の溶液を流延し支持層を形成させた後に、その支持層上に半透膜を形成させる方法等により一体化される。
【0005】
したがって、支持体となる不織布や織布等には、高分子重合体の溶液を流延した際にそれが過浸透により裏抜けしたり、膜物質が剥離したり、さらには支持体の毛羽立ち等により膜の不均一化や製膜欠点が生じたりすることがないような優れた製膜性が要求される。
【0006】
また、海水淡水化等に使用される逆浸透複合膜の場合は、該逆浸透複合膜が組み込まれている海水淡水化装置を、ある一定の運転圧力で継続して連続運転をする場合もあれば、供給海水の水質や温度の変化、目標とする造水量の管理値の変動などに対応して、運転圧力をその都度変化させるような運転をする場合もある。実際には、後者のような運転が一般的であるが、その場合、逆浸透複合膜の厚さ方向に付与される運転圧力が変動することにより、逆浸透複合膜はその膜厚方向における伸縮動作を反復し、逆浸透複合膜の支持膜と支持体が剥離することもある。また、装置停機時に透過水側から供給水側に正浸透が働き、支持膜と支持体が剥離することもある。そのため、分離膜支持体には分離膜を形成した際の高い剥離強度も要求される。
【0007】
従来、このような分離膜支持体として、親水性を有さない不織布を用いた分離膜支持体からなり、膜剥離強度が特定の範囲内であることを特徴とした分離膜が提案されている(特許文献1参照。)。
【0008】
また、長繊維不織布からなる分離膜支持体上に分離機能を有する膜が形成されてなる分離膜であって、分離膜支持体と膜の境界面に発生するマクロボイドの割合が特定の範囲であることから、膜剥離強度に優れることを特徴とした分離膜が提案されている(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2013-71106号公報
【特許文献2】特開2019-93366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献1や2で提案された技術は、機械的強度に優れた不織布を分離膜支持体としており、ある程度の膜剥離強度を持った分離膜となることを特徴としている。しかしながら、特許文献1や2で提案された技術では、分離膜支持体となる不織布の密度差ができてしまい、膜剥離強度が強い箇所と弱い箇所が生じる可能性が高いという課題がある。また、製膜した際に分離膜支持体となる不織布の密度差が原因の製膜欠点が発生する可能性が高いという課題がある。
【0011】
そこで、本発明は、分離膜とした際に膜剥離強度の強弱差を小さくでき、なおかつ製膜時の製膜欠点数を減少させることに優れた長繊維不織布、分離膜支持体および分離膜を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、上記の目的を達成するべく鋭意検討した結果、繊維ウェブを形成したあとに予備熱圧着を施した単層長繊維不織布を数枚作製し、金属ロールと弾性ロールを適切に組み合わせたフラットロールに通して積層させることで、長繊維不織布内の断面空隙率が均一化された長繊維不織布が得られることを見出した。さらに、この長繊維不織布の断面空隙率が特定の範囲となることから、分離膜支持体にも好適な長繊維不織布が得られることを見いだした。
【0013】
本発明は、この知見に基づいて完成に至ったものであり、本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0014】
[1] 熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布であって、該長繊維不織布の断面空隙率が1%以上10%以下であり、断面空隙率のCV値が1%以上60%以下であって、平均単繊維直径が10μm以上20μm以下である長繊維不織布。
【0015】
[2] 前記繊維が高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維である、前記[1]に記載の長繊維不織布。
【0016】
[3] 長繊維不織布の目付が20g/m以上120g/m以下である、前記[1]または[2]に記載の長繊維不織布。
【0017】
[4] 長繊維不織布の一方の面における王研式平滑度の最大値と最小値の差Rが5秒以上20秒以下であり、かつ、もう一方の面における王研式平滑度の最大値と最小値の差Rが1秒以上10秒以下である、前記[1]~[3]のいずれかに記載の長繊維不織布。
【0018】
[5] 前記[1]~[4]のいずれかに記載の長繊維不織布で構成された分離膜支持体。
【0019】
[6] 前記[5]に記載の分離膜支持体を含んでなる分離膜。
【発明の効果】
【0020】
本発明により、分離膜とした際に膜剥離強度差を小さくでき、なおかつ製膜時の製膜欠点数を減少させることに優れた長繊維不織布、分離膜支持体および分離膜が得られるようになった。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の長繊維不織布は、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる長繊維不織布であって、該長繊維不織布の断面空隙率が1%以上10%以下であり、断面空隙率のCV値が1%以上60%以下であって、平均単繊維直径が10μm以上20μm以下である。
【0022】
以下に、その構成要素について詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下に説明する範囲に何ら限定されるものではなく、そして、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0023】
[熱可塑性樹脂を主成分とする繊維]
まず、本発明の長繊維不織布は、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる。ここで、本発明に係る繊維において「熱可塑性樹脂を主成分とする」とは、繊維全体の質量に対する当該熱可塑性樹脂の質量の割合が、50質量%より多いことを指す。この熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィン、あるいは、これらの混合物や共重合体等を挙げることができる。なかでも、ポリエステルが機械的強度や耐熱性、耐水性、耐薬品性等の耐久性に優れることから好ましく用いられる。
【0024】
ポリエステルは、酸成分とジオール成分とをモノマーとする、もしくはヒドロキシカルボン酸成分をモノマーとする高分子重合体である。本発明において、酸成分としては、フタル酸(オルト体)、イソフタル酸およびテレフタル酸等の芳香族カルボン酸、コハク酸、アジピン酸やセバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸、およびシクロヘキサンカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を用いることができる。また、ジオール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコールおよび1,4-ブタンジオール等を用いることができる。また、L-乳酸等のヒドロキシカルボン酸を単量体とするポリエステルであってもよい。
【0025】
前記のポリエステルの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリ乳酸(PLA)およびポリブチレンサクシネート(PBS)等が挙げられる。後述する高融点重合体として用いられるポリエステルとしては、より融点が高く耐熱性に優れ、かつ、剛性にも優れた、ポリエチレンテレフタレート(PET)が最も好ましく用いられる。
【0026】
これらのポリエステル原料には、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤、艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤、金属酸化物、脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミド、そして、親水剤等の添加剤を添加することができる。なかでも、酸化チタン等の金属酸化物は、繊維の表面摩擦を低減し繊維同士の融着を防ぐことにより紡糸性を向上し、また長繊維不織布の熱ロールによる融着成形の際、熱伝導性を増すことにより長繊維不織布の融着性を向上させる効果がある。また、エチレンビスステアリン酸アミド等の脂肪族ビスアミドおよび/またはアルキル置換型の脂肪族モノアミドは、熱ロールと不織布ウェブとの間の離型性を高め、搬送性を向上させる効果がある。なお、他の熱可塑性樹脂を用いる場合においても、これらの添加剤を用いることができる。
【0027】
本発明で用いる繊維としては、高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維であることが好ましい。このような形態の複合繊維とすることにより、繊維が長繊維不織布内において強固に融着されやすくなり、その結果、長繊維不織布の表面の毛羽立ちを抑え、容易に平滑な表面を得ることができる。さらに、長繊維不織布を構成する繊維同士が、互いに強固に融着されることに加え、融点の異なる繊維同士を混繊させたものに比べて長繊維不織布における繊維同士の融着点の数も多くすることができるため、機械的強度をも向上することができる。
【0028】
上記の高融点重合体の融点と低融点重合体の融点との差(以降、単に「融点の差」と略記することがある)としては、10℃以上140℃以下が好ましい。換言すれば、高融点重合体の融点よりも、10℃以上140℃以下の範囲で低い融点を有する低融点重合体であることが好ましい。融点の差が好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、さらに好ましくは30℃以上であることで、各繊維間の融着性を高めることができる。また、前記の融点の差が好ましくは140℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下であることで、前記の繊維同士を融着させる時に、熱ロールに低融点重合体成分が融着してしまうことが抑制され、長繊維不織布の表面の毛羽立ちを少なくでき、さらには、長繊維不織布の表面に発生する欠点をも少なくすることができる。
【0029】
本発明において、前記の複合繊維における高融点重合体の融点は、160℃以上320℃以下の範囲であることが好ましい。前記の複合繊維における高融点重合体の融点が好ましくは160℃以上、より好ましくは170℃以上、さらに好ましくは180℃以上であることにより、分離膜支持体として用いた場合において、熱が加わるような加工を行ったとしてもその形態が維持できるような、形態安定性に優れた長繊維不織布とすることができる。また、前記の複合繊維における高融点重合体の融点が320℃以下、より好ましくは300℃以下、さらに好ましくは280℃以下であることにより、長繊維不織布製造時に溶融するための熱エネルギーを多大に消費し生産性が低下することを抑制することができる。
【0030】
一方、上記複合繊維における低融点重合体の融点は、前記の融点の差を確保した上で、150℃以上310℃以下の範囲であることが好ましい。上記複合繊維における低融点重合体の融点が好ましくは150℃以上、より好ましくは160℃以上、さらに好ましくは170℃以上であることにより、長繊維不織布を分離膜支持体として使用する際、熱が加わるような加工を行ったとしてもその形態が維持できるような、形態安定性に優れた長繊維不織布とすることができる。また、上記複合繊維における低融点重合体の融点が好ましくは310℃以下、より好ましくは290℃以下、さらに好ましくは270℃以下であることにより、長繊維不織布を製造する際の融着性に優れ、機械的強度に優れる長繊維不織布を容易に得ることができる。
【0031】
なお、本発明において、熱可塑性樹脂の融点は、示差走査型熱量計(例えば、パーキンエルマー社製「DSC-2」型など)を用い、昇温速度20℃/分、測定温度範囲30℃から350℃の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を当該熱可塑性樹脂の融点とする。また、示差走査型熱量計において融解吸熱曲線が極値を示さない樹脂については、ホットプレート上で加熱し、顕微鏡観察により樹脂が溶融した温度を融点とする。
【0032】
熱可塑性樹脂がポリエステルの場合、高融点重合体と低融点重合体の組み合わせ(以下、高融点重合体/低融点重合体の順に記載することがある)としては、例えば、PET/PBT、PET/PTT、PET/ポリ乳酸、およびPET/共重合PET等の組み合わせを挙げることができ、これらの中でも、紡糸性に優れることからPET/共重合PETの組み合わせが好ましく用いられる。また、共重合PETの共重合成分としては、特に紡糸性に優れることから、イソフタル酸共重合PETが好ましく用いられる。
【0033】
複合繊維の複合形態については、例えば、同心芯鞘型、偏心芯鞘型および海島型等が挙げられ、なかでも、繊維同士を均一かつ強固に融着させることができることから同心芯鞘型のものが好ましい。さらにその複合繊維の断面形状としては、円形断面、扁平断面、多角形断面、多葉断面および中空断面等の形状が挙げられる。なかでも、複合繊維の断面形状としては円形断面の形状のものを用いることが好ましい態様である。
【0034】
また、熱可塑性樹脂を主成分とする繊維における高融点重合体と低融点重合体との含有比率は、高融点重合体:低融点重合体の質量比で90:10~60:40の範囲であることが好ましく、85:15~70:30の範囲がより好ましい態様である。高融点重合体を両者の合計100質量%に対し、60質量%以上90質量%以下とすることにより、長繊維不織布の耐久性を優れたものとすることができる。一方、低融点重合体を両者の合計100質量%に対し、10質量%以上40質量%以下とすることにより、長繊維不織布を構成する繊維同士が強固に融着され、機械的強度に優れた長繊維不織布とすることができる。
【0035】
本発明に係る繊維の平均単繊維直径は、10.0μm以上20.0μm以下である。平均単繊維直径の範囲について、その下限が10.0μm以上であることで、機械的強度に優れた長繊維不織布とすることができる。一方、平均単繊維直径の範囲について、その上限が20.0μm以下、好ましくは19.0μm以下、より好ましくは18.0μm以下であることで長繊維不織布の均一性を向上させ、緻密な表面を有する長繊維不織布とすることができ、例えば、分離膜支持体用長繊維不織布として製膜加工などの樹脂の塗布処理を加える場合には、樹脂剤の塗布ムラを少なくすることができる。
【0036】
なお、本発明において、長繊維不織布の平均単繊維直径(μm)は、以下の方法によって求められる値を採用することとする。
(i)長繊維不織布からランダムに小片サンプル10個を採取する。
(ii)採取した小片サンプルの表面を走査型電子顕微鏡(例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」等)で500~2000倍の範囲で繊維の太さを計測することが可能な写真を撮影する。
(iii)各小片サンプルの撮影した写真から10本ずつ、計100本の繊維を任意に選び出して、その太さを測定する。繊維は断面が円形と仮定し、太さを単繊維直径とする。
(iv)それらの算術平均値の小数点以下第二位を四捨五入して算出した値を平均単繊維直径とする。
【0037】
[長繊維不織布]
本発明の長繊維不織布は、前記の熱可塑性樹脂を主成分とする繊維からなる。ここで、本発明でいう「長繊維不織布」とは、後述する製造方法によって製造されるような、スパンボンド不織布やメルトブロー不織布などの不織布のことを指すものであり、一定長(例えば、100mm)にカットされた繊維のみから構成されてなる不織布(短繊維不織布)は除かれるものである。
【0038】
また、本発明において、「長繊維不織布のMD方向」とは、長繊維不織布を製造する際のシート搬送方向、すなわち、不織布ロールにおける巻き取り方向を指すものであり、「長繊維不織布のCD方向」とは、長繊維不織布を製造する際のシート搬送方向、すなわち、不織布ロールにおける巻き取り方向に対して垂直に交差する方向を指すものである。つまり、長繊維不織布の見た目からMD方向が決定できる場合、すなわち、不織布ロールにおける巻取方向が一義に決定できる場合には、この方法をMD方向とする。一方で、長繊維不織布が切断された場合などでロール状態にない場合など、見た目からMD方向が決定できない場合には、以下の手順によってMD方向、CD方向を決定することとする。
(a)長繊維不織布の面内において、任意の1方向を定め、その方向に沿って、長さ30cm、幅5.0cmの試験片を等間隔で5枚採取する。
(b)採取した方向から30度、60度、90度回転させた方向においても、同様に長さ30cm、幅5.0cmの試験片を等間隔で5枚ずつ採取する。
(c)各方向の試験片について、以下の(c-1)~(c-2)に示す長繊維不織布の引張強力の測定方法に基づいて、各試験片の引張強力を測定する。なお、この引張強力(N/5cm)は、JIS L1913:2010「一般長繊維不織布試験方法」の6.3「引張強さおよび伸び率」に準拠して、以下のように測定される値を採用するものとする。
(c-1)つかみ間隔20cm、引張速度100±10mm/分の条件で、サンプルが切断するまで加重を加える。
(c-2)サンプルの最大荷重時の強さを引張強力(N/5cm)とし、5点の平均値を算出し、小数点第一位を四捨五入した値を、長繊維不織布の引張強力とする。
(d)測定により得られた値が最も高い方向をその長繊維不織布のMD方向とし、これに直交する方向をCD方向とする。最も高い方向が2方向以上ある場合には、それらの方向と直交する方向の引張強力がより低くなる方向をその長繊維不織布のMD方向とし、最も高い方向が2方向以上ある場合において、それらの方向と直交する方向の引張強力も等しい場合、例えば、4方向の引張強力が全て等しい場合には、その4方向のいずれかの方向をMD方向であるとし、これに直交する方向をCD方向とする。
【0039】
本発明の長繊維不織布は、その長繊維不織布の断面における断面空隙率が1%以上10%以下である。断面空隙率の範囲について、その下限が1%以上、好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上であることで、繊維表面がフィルムのようなシート形態になってしまうことが抑制され、分離膜支持体として膜成分を十分に含浸することができる長繊維不織布となる。一方、断面空隙率の範囲について、その上限が10%以下、好ましくは9%以下であることで、長繊維不織布を構成する繊維同士が強固に融着され、機械的強度に優れた長繊維不織布とすることができる。
【0040】
ここで、本発明における断面空隙率(%)の値とは、以下のようにして求めた値を採用することとする。
(i)長繊維不織布から断面が観察できる小片サンプルを長繊維不織布のCD方向等間隔に10個採取する。
(ii)採取した小片サンプルの断面を、走査型電子顕微鏡(SEM、例えば、株式会社キーエンス製「VHX-D500」など)を用いて、500倍で写真を撮影する。
(iii)各小片サンプルの撮影した写真を140ピクセル×140ピクセルの大きさに切り取る。
(iv)切り取った各写真をグレースケール画像(8bit画像)とし、画素値の0~127が黒、128~255が白となるように閾値を設定し、二値化する。
(v)画像解析ソフト(例えば、「ImageJ」など)を用いて写真全体(白色領域、黒色領域)(なお写真として観察される領域全体がサンプル断面であるものとする。)に対する黒色領域の割合を、断面空隙率とする。
(vi)10個の小片サンプルについて同様に断面空隙率(%)を算出し、10個の小片サンプルの断面空隙率の算術平均値(%)を算出する。
(vii)(vi)で得られた10個の小片サンプルの断面空隙率の算術平均値(%)を小数点以下第1位で四捨五入し、この値を長繊維不織布の断面空隙率(%)とする。
【0041】
なお、この長繊維不織布の断面空隙率を上記の範囲とするための手段としては、後述するような、積層熱圧着する工程において熱圧着条件を調整したり、長繊維不織布を構成する繊維の平均単繊維直径を調整したりすることなどが挙げられる。
【0042】
本発明における長繊維不織布の断面空隙率のCV値は、1%以上60%以下である。断面空隙率CV値の範囲について、その下限については、0%(バラツキがない)であることが理想であるが、現実的には下限として1%程度が限界である。一方、断面空隙率CV値の範囲について、その上限が60%以下、好ましくは55%以下、より好ましくは45%以下であることで、密度が均一な長繊維不織布となり、後に示す膜剥離強度差を小さくでき、さらには製膜欠点数を抑制することができる。
【0043】
ここで、本発明における断面空隙率CV値(%)の値とは、以下のようにして求めた値を採用することとする。
(i)長繊維不織布から断面が観察できる小片サンプルを長繊維不織布のCD方向等間隔に10個採取する。
(ii)各小片サンプルの断面空隙率(%)をそれぞれ測定する。
(iii)(ii)で得られた値から、平均値(Aave)と標準偏差(Asdv)を求める。
(iv)(i)~(iii)の結果を基に、以下の式により断面空隙率CV値(%)を計算し、小数点以下第一位を四捨五入する
断面空隙率CV値(%)=[(Asdv)/(Aave)]×100 。
【0044】
なお、上記断面空隙率と断面空隙率CV値の測定において、各小片サンプルの断面空隙率(%)をそれぞれ測定する工程は同じであるので、これを同時に測定してもよい。
【0045】
また、長繊維不織布の断面空隙率のCV値を上記の範囲とするための手段としては、例えば、後述する方法、具体的にはクラウンロールの弾性ロールを用いることが挙げられる。
【0046】
本発明における長繊維不織布の目付は、20g/m以上120g/m以下であることが好ましい。長繊維不織布の目付の範囲について、その下限が好ましくは20g/m以上、より好ましくは30g/m以上、さらに好ましくは40g/m以上であることで、機械的強度に優れた長繊維不織布となる。一方、長繊維不織布の目付の範囲について、その上限が好ましくは120g/m以下、好ましくは110g/m以下、より好ましくは100g/m以下であることで、分離膜の厚さを低減し、流体分離素子ユニットあたりの分離膜面積を増大させることができる。
【0047】
なお、本発明において、長繊維不織布の目付は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の「6.2 単位面積当たりの質量」に準拠して、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(i)25cm×25cmの試験片を、試料のCD方向等間隔で1m当たり3枚採取する。なお、長繊維不織布の幅方向1列で採取できない場合は、幅方向複数列とし、試験片中、MD方向と平行な中心線の延長線が、CD方向に等間隔に並ぶような配置で採取する。
(ii)標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量る。
(iii)その平均値を1m当たりの質量(g/m)で表す。
【0048】
本発明における長繊維不織布の厚さは、0.03mm以上0.20mm以下であることが好ましい。厚さを上記の範囲とすることで、例えば分離膜支持体用不織布として使用した際に、高分子溶液流延時の過浸透等が少なく良好な製膜性を得ることができ高い膜剥離強度および機械的強度を有し耐久性に優れた分離膜を得ることができる。また、分離膜の厚さを低減し、流体分離素子ユニットあたりの分離膜面積を増大させることができる。
【0049】
なお、本発明において、長繊維不織布の厚さは、以下の手順によって測定される値を採用するものとする。
(i)厚さ計(例えば、株式会社テクロック製“TECLOCK”(登録商標)SM-114等)を使用して、測定子の直径を10mm、測定力を2.5Nに設定し、長繊維不織布の厚さをCD方向に10cm間隔で測定する。
(ii)上記算術平均値から小数点以下第3位を四捨五入し、長繊維不織布の厚さ(mm)とする。
【0050】
本発明における長繊維不織布の通気量は、0.5cm/cm/秒以上2.5cm/cm/秒以下であることが好ましい。通気量を上記の範囲とすることで、例えば分離膜支持体用不織布として使用した際に、高分子溶液流延時の樹脂の裏抜けが少なく均一に樹脂を製膜することができる。
【0051】
なお、本発明において、長繊維不織布の通気量は、JIS L1913:2010「一般不織布試験方法」の6.8「通気性(JIS法)」の6.8.1「フラジール形法」に基づいて、以下のように測定される値を採用することとする。
(i)長繊維不織布のCD方向に等間隔で縦150mm×横150mmの試験片を10枚採取する。なお、長繊維不織布の幅方向1列で10枚採取できない場合は、5枚以上であれば採取できる枚数で実施するものとし、1列5枚採取できない場合は、幅方向複数列とし、試験片中、MD方向と平行な中心線の延長線が、CD方向に等間隔に並ぶような配置で5枚採取する。
(ii)試験機の円筒の一端に試験片を取り付けた後、下限抵抗器によって傾斜型気圧計が125Paの圧力を示すように、吸込みファン及び空気孔を調整し、その時の垂直型気圧計の示す圧力を測る。
(iii)測定した圧力と使用した空気孔の種類とから、試験機に付属の換算表によって試験片を通過する空気量(cm/cm/秒)を求める。
(iv)各試験片の通気量から得られた値の平均値の小数点以下第二位を四捨五入した値を長繊維不織布の通気量(cm/cm/秒)とする。
【0052】
本発明の長繊維不織布は一方の表面と他方の表面で平滑度が異なることが好ましい。長繊維不織布において、平滑度が高い方をA面、低い方をB面と称する。本発明の長繊維不織布を分離膜支持体として用いる場合には、A面を製膜面側とし、B面を非製膜面側とすることが好ましい。
【0053】
本発明における長繊維不織布のA面の平滑度は20秒以上70秒以下であることが好ましい。長繊維不織布のA面の平滑度の範囲について、その下限を好ましくは20秒以上、より好ましくは22秒以上、さらに好ましくは25秒以上、また、その上限を好ましくは70秒以下、より好ましくは68秒以下、さらに好ましくは65秒以下とすることで、支持体上に流延した高分子溶液が支持体内部へ十分に浸透した後に凝固させ、形成した分離膜の膜剥離強度を向上させることができる。
【0054】
本発明における長繊維不織布のB面の平滑度は5秒以上30秒以下であることが好ましい。長繊維不織布のB面の平滑度の範囲について、その下限を好ましくは5秒以上、より好ましくは6秒以上、さらに好ましくは7秒以上、また、その上限を好ましくは30秒以下、より好ましくは28秒以下、さらに好ましくは25秒以下とすることで、分離膜製造時に分離膜支持体内部の空気が速やかに排出され、部分的な膜剥離強度の低下を抑制し、またピンホールなどの製膜欠点の発生を抑制することができる。
【0055】
なお、本発明において、長繊維不織布の平滑度は、王研式平滑度試験機を用い、JIS P8155:2010に基づいて、以下のように測定される値を採用することとする。
(i)長繊維不織布のCD方向に等間隔で縦150mm×横150mmの試験片を10枚採取する。なお、長繊維不織布の幅方向1列で10枚採取できない場合は、5枚以上であれば採取できる枚数で実施するものとし、1列5枚採取できない場合は、幅方向複数列とし、試験片中、MD方向と平行な中心線の延長線が、CD方向に等間隔に並ぶような配置で5枚採取する。
(ii)試験片の測定面を下に向け、測定ヘッドを載せ、ゴム製押さえ板、加圧板及びおもりを重ね、測定圧力4.91±0.02kPa条件下で平滑度を測定する。
(iii)各試験片の平滑度から得られた値の平均値の小数点第一位を四捨五入した値を長繊維不織布の測定面の平滑度(秒)とする。
(iv)他方の表面についても同様に測定し、平滑度(秒)を求める。
【0056】
本発明における長繊維不織布の一方の面における平滑度の最大値と最小値の差Rは5秒以上20秒以下であり、かつ、もう一方の面における平滑度の最大値と最小値の差Rが1秒以上10秒以下であることが好ましい。なお、上記平滑度の最大値と最小値の差は後述の方法で測定されるものである。すなわち、後述の方法によればCD方向特定間隔で試料を採取して測定されるので、CD方向における平滑度の最大値と最小値の差を意味することになる。そしてこの値が小さいことは、CD方向において、均一な平滑度を有することを意味する。以下上記平滑度の最大値と最小値の差については「CD方向平滑度差」と略称する。
【0057】
なかでも、長繊維不織布のA面のCD方向平滑度差は5秒以上20秒以下であることが好ましい。より好ましくは6秒以上19秒以下である。A面のCD方向平滑度の差を上記の範囲とすることで、長繊維不織布の表面状態が均一になり、分離膜支持体として使用した際に均一に樹脂を製膜することができる。また、長繊維不織布のB面のCD方向平滑度差は1秒以上10秒以下であることが好ましい。より好ましくは1秒以上9秒以下である。B面の平滑度の差を上記の範囲とすることで、長繊維不織布の表面状態が均一になり、分離膜製造時に分離膜支持体内部の空気が速やかに排出され、均一に樹脂を製膜することができる。
【0058】
ここで、本発明における長繊維不織布のCD方向平滑度差(秒)の値とは、以下のようにして求めた値を採用することとする。
(i)長繊維不織布のCD方向に等間隔で縦100mm×横100mmの試験片を10枚採取する。なお、長繊維不織布の幅方向1列で10枚採取できない場合は、5枚以上であれば採取できる枚数で実施するものとし、1列5枚採取できない場合は、幅方向複数列とし、試験片中、MD方向と平行な中心線の延長線が、CD方向に等間隔に並ぶような配置で5枚採取する。
(ii)得られた試験片の一方の面について、平滑度(秒)を測定する。
(iii)(ii)で得られた平滑度(秒)の最大値と最小値の差を求め、小数点第一位を四捨五入した値を長繊維不織布の一方の面の平滑度差(秒)とする。
(iv)長繊維不織布のもう一方の面についても(ii)~(iii)の手順で平滑度差(秒)を求める。
【0059】
なお、上記平滑度とCD方向平滑度差の測定において、各面の平滑度をそれぞれ測定する工程は同じであるので、これを同時に測定してもよい。
【0060】
[長繊維不織布の製造方法]
次に、本発明の長繊維不織布の製造方法について説明する。本発明の長繊維不織布は、下記(a)~(d)の工程を順次施すことによって製造されるスパンボンド法であることが好ましい。
(a)熱可塑性樹脂を紡糸口金から溶融押出し、紡出された該熱可塑性樹脂をエジェクターにより牽引、延伸して繊維を形成する工程。
(b)開繊板により該繊維の配列を規制し、移動するネットコンベアー上に堆積させ、繊維ウェブを形成する工程。
(c)得られた繊維ウェブを予備熱圧着し、単層長繊維不織布を形成する工程。
(d)得られた単層長繊維不織布を積層熱圧着し、長繊維不織布を形成する工程。
【0061】
以下に、上記の各工程について、さらに詳細を説明する。
【0062】
(a)繊維を形成する工程
まず、この工程では、前記の熱可塑性樹脂を紡糸口金から溶融押出する。特に、長繊維不織布を構成する繊維を、高融点重合体の周りに該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維とする場合には、高融点重合体と、低融点重合体とを、それぞれ、その融点以上(融点+70℃)以下で溶融し、高融点重合体の周りに、この高融点重合体の融点に対して、10℃以上140℃以下の低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維となるように、口金温度が融点以上、(融点+70℃)以下の紡糸口金から溶融押出することが好ましい。また、溶融した熱可塑性樹脂が押出される紡糸口金の吐出孔の形状は、前記の繊維の断面形状に合わせ、円形、楕円形、多角形、多葉形、あるいは、これらの組み合わせの形状が挙げられる。なかでも、円形断面の形状のものを用いることが効率的に繊維同士の接着点を得られ、熱圧着により繊維同士を強固に接着させることができる点からより好ましい態様である。
【0063】
そして、前記のように溶融押出し、紡出された該熱可塑性樹脂を、エジェクターにより牽引、延伸して繊維を形成する。この際、紡糸速度は、3000m/分以上6000m/分以下で牽引することが好ましい。
【0064】
(b)繊維ウェブを形成する工程
この工程において、上記の工程により形成した繊維については、開繊板により該繊維の配列を規制する。具体的には、エジェクターにて吸引させた繊維をエジェクターの下部に設けられたスリット状を有する開繊板から噴射させることが好ましい。そして、その繊維を移動するネットコンベアー上に堆積させることで繊維ウェブを形成することが好ましい。
【0065】
(c)繊維ウェブを予備熱圧着し、単層長繊維不織布を形成する工程
この工程では、前記の工程で得られた繊維ウェブを、上下一対のフラットロールにより予備熱圧着し、単層長繊維不織布を形成させる方法が好ましく用いられる。
【0066】
この方法で用いられる「フラットロール」とは、ロールの表面に凹凸のない金属製ロールや弾性ロールのことであり、さらに、上下一対のフラットロールとは、金属製ロールと金属製ロールを対にしたもの、あるいは、金属製ロールと弾性ロールを対にしたものなどのことである。ここで、弾性ロールとは、金属製ロールと比較して、弾性を有する材質からなるロールのことである。弾性ロールとしては、ペーパー製、コットン製、アラミドペーパー製などのいわゆるペーパーロール、あるいは、ウレタン系樹脂、エポキシ樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂および硬質ゴム等や、これらの混合物からなる樹脂製ロールなどが挙げられる。
【0067】
予備熱圧着する際の上下一対のフラットロールの温度は、熱可塑性樹脂の融点(繊維が高融点重合体の周りに当該高融点重合体の融点よりも低い融点を有する低融点重合体を配した複合繊維の場合は、その低融点重合体の融点)に対して20℃以上120℃以下低い温度とすることが好ましい。このような温度とすることにより、繊維同士を過度に融着させることなく、単層長繊維不織布を製造する際の搬送性を改善することができる。
【0068】
また、予備熱圧着する際の線圧は、49N/cm以上656N/cm以下であることが好ましい。線圧を上記の範囲とすることで、繊維ウェブを搬送する上で必要な機械的強度を付与することができ、かつ、繊維同士の過度な融着を防ぐことができる。
【0069】
(d)単層長繊維不織布を積層熱圧着し、長繊維不織布を形成する工程
本発明の長繊維不織布の製造方法では、前記の工程で得られた単層長繊維不織布を、そのまま1層で熱圧着させる、あるいは2~5層積層熱圧着させ一体化することが好ましい。単層長繊維不織布の積層数が2層以上であれば、単層時に比べて地合いが向上し、十分な均一性が得られる。また、積層数が5層以下であれば、積層熱圧着時にシワが入ることを抑制し、層間の剥離を抑制することができる。
【0070】
ここで、単層長繊維不織布を2~5層積層熱圧着させ、長繊維不織布を形成するための熱圧着の方法としては、例えば分離膜支持体として使用する場合、分離膜を形成した際に製膜性が良好であり、機械的強度と耐久性に優れ、さらには膜剥離強度に優れる分離膜を得るために、表面が平滑であり機械的強度に優れる点で、上下一対のフラットロールにより単層長繊維不織布を積層熱圧着し、一体化する方法を好ましく用いることができる。このフラットロールとは、ロールの表面に凹凸のない金属製ロールや弾性ロールのことであり、金属製ロールと金属製ロールを対にしたり、金属製ロールと弾性ロールを対にしたりして用いることができる。特に、不織布の表面の繊維の融着を抑え、形態を保持することにより、分離膜支持体として使用した際に分離膜の膜剥離強度を向上できることから、単層長繊維不織布を、加熱した金属製ロールと弾性ロールにより積層熱圧着する方式が好ましく用いられる。さらに、分離膜の膜剥離強度を向上させるとともに、分離膜製造時に支持体上に流延した高分子重合体溶液の過浸透を抑制できることから、長繊維不織布の金属製ロールと接触した面を分離膜支持体の製膜面に、弾性ロールと接触した面を分離膜支持体の非製膜面に用いることが好ましい。
【0071】
ここで弾性ロールとは、金属製ロールと比較して弾性を有する材質からなるロールのことである。弾性ロールの材質としては、ペーパー、コットンおよびアラミドペーパー等のいわゆるペーパーロールや、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、シリコン系樹脂、ポリエステル系樹脂および硬質ゴム等の樹脂製ロールが挙げられる。
【0072】
弾性ロールの硬度(Shore D)は、60~99であることが好ましい。弾性ロールの硬度(Shore D)を好ましくは60以上、より好ましくは62以上、さらに好ましくは64以上とすることにより、長繊維不織布の弾性ロールと接触した面を非製膜面として用いた際に、分離膜支持体の非製膜面の平滑性を向上させ、分離膜製造時に水を主成分とする凝固液の分離膜支持体非製膜面から内部への過度の浸透を抑制し、支持体上に流延した高分子溶液が支持体内部へ十分に浸透した後に凝固させ、形成した分離膜の膜剥離強度を向上させることができる。一方、弾性ロールの硬度(Shore D)を好ましくは99以下、より好ましくは97以下、さらに好ましくは95以下とすることにより、長繊維不織布の弾性ロールと接触した面を非製膜面に用いた際に、分離膜支持体の非製膜面の平滑性の過度な向上を抑制することで、分離膜製造時に水を主成分とする凝固液が分離膜支持体内部へ浸透することが可能となり、製膜面に流延した高分子重合体の過浸透、すなわち裏抜けを抑制することができる。
【0073】
また、2本以上のフラットロールの構成としては、金属/弾性ロールの組み合わせを製造工程中で連続して、または非連続で2組以上用いる2本ロール×2組方式、2本ロール×3組方式や、弾性/金属/弾性、弾性/金属/金属、金属/弾性/金属などの3本ロール方式なども好ましく用いることができる。
【0074】
2本ロール×2組方式の場合、長繊維不織布に対して2度熱と圧力を加えることができるため、長繊維不織布の特性のコントロールが容易になり、製造する際の速度を上げることも可能となり、また1組目と2組目の弾性ロール接着面の反転が容易なため、長繊維不織布の表裏面の表面特性のコントロールもしやすくなる。
【0075】
一方、3本ロール方式の場合、例えば、弾性1/金属/弾性2の、弾性1/金属ロール間で熱圧着した長繊維不織布を折り返して金属/弾性2ロール間でさらに熱圧着することにより、上記2本ロール×2組方式と同じように長繊維不織布に対して2度熱と圧力を加えることができる上、連続した2本ロール×2組方式に比べて設備費の抑制や省スペース化が可能となる。
【0076】
これらの弾性ロールを2本以上使用する製造方法においては、長繊維不織布と1段目に接触する弾性ロールと2段目に接触する弾性ロールの硬度(Shore D)を変更させても構わない。
【0077】
長繊維不織布の製造において従来用いられてきた弾性ロールの形状は、ストレートロールが一般的であるが、このようなストレートロールのみで製造すると、長繊維不織布の幅方向中央付近における断面空隙が、他の部分と比較して異なった状態になりやすく、結果として、断面空隙率がばらついてしまう。
【0078】
本発明においては、本発明で規定する長繊維不織布が得られる限り、その製造方法に限定はないが、弾性ロールによる処理が長繊維不織布の幅方向で均質になされるようにすることで、容易に断面空隙率のばらつきを低減することができる。
【0079】
具体的には弾性ロールとしては、用いる弾性ロールの少なくとも一本をクラウンロールとすることが好ましい。それにより、長繊維不織布の幅方向での処理をより均質に行うことができ、結果として長繊維不織布内の断面空隙率を均一化することができる。弾性ロールを2本以上使用する製造方法においては長繊維不織布と1段目に接触する弾性ロールと2段目に接触する弾性ロールの形状は、通常のストレートロールやクラウンロールを組み合わせることが好ましい。
【0080】
上記において、ストレートロールとは、軸方向中央部における径の寸法と、ロール端部の径の寸法が同じロールであり、後述するクラウン値でいえば0mmのロールである。クラウンロールとは、軸方向中央部における径の寸法が、そのロール軸方向の中で最も大きい形状となるロールである。中央から端にかけて緩やかな円弧を描くような形状であるラジアルクラウンロールが好ましい。
【0081】
クラウンロールの弾性ロールを用いる場合のクラウン値は、0mm超1.0mm以下であることが好ましい。クラウン値を好ましくは0mm超、より好ましくは0.1mm以上とすることで、長繊維不織布のCD方向の密度の均一性が向上し、膜剥離強度が均一化される。一方、弾性ロールのクラウン値を好ましくは1.0mm以下、より好ましくは0.9mm以下とすることで、長繊維不織布表面繊維の過度な融着を抑制することができる。なお、弾性ロールのクラウン値は下記手順で算出される値を採用することとする。
(i)対象の弾性ロールと対になるロールの間に感圧フィルムを挟み、線圧をかけて加圧する。このときの線圧は指定されるものではない。
(ii)感圧フィルムに転写されたニップ幅を、両端2箇所、中央部1箇所測定する。両端2箇所については、測定値を平均したものを端部ニップ幅とする。
(iii)下記式を用いてクラウン値を算出する。
(式) ΔC=(n-N)×(D+D)/(2×D×D
ここで、式中 ΔC:クラウン値、n:端部ニップ幅、N:中央部ニップ幅、D:弾性ロール外径、D:ニップ相手のロール外径である。
【0082】
金属ロールの表面温度は、長繊維不織布を構成する繊維の少なくとも表面を構成する高分子重合体の融点よりも20℃以上90℃以下低いことが好ましく、さらには30℃以上70℃以下低いことが好ましい。金属ロールの表面温度が長繊維不織布を構成する繊維の少なくとも表面を構成する高分子重合体の融点よりも20℃以上低ければ、長繊維不織布表面繊維の過度の融着を抑制することができ、高分子重合体溶液が浸透しやすくなり、膜剥離強度に優れた分離膜支持体を得ることができる。一方、金属ロールの表面温度と長繊維不織布を構成する繊維の少なくとも表面を構成する高分子重合体の融点の差が90℃以下であれば、長繊維不織布を構成する繊維同士を強固に接着させ、また長繊維不織布を高密度化することにより機械的強度に優れた分離膜支持体を得ることができる。また、高分子重合体溶液の流延時の過浸透等が少なく良好な製膜性を得ることができる。
【0083】
さらに、金属ロールと弾性ロールの間に温度差を設け、弾性ロールの表面温度を金属ロールの表面温度よりも10℃以上120℃以下低い温度とすることも好ましい態様である。
【0084】
フラットロールの線圧は、196N/cm以上4900N/cm以下であることが好ましい。フラットロールの線圧は、より好ましくは490N/cm以上、さらに好ましくは980N/cm以上である。フラットロールの線圧が196N/cm以上であれば、長繊維不織布を構成する繊維同士を強固に接着させ、また長繊維不織布を高密度化することにより機械的強度に優れた分離膜支持体を得ることができる。一方、フラットロールの線圧が4900N/cm以下であれば、長繊維不織布表面繊維の過度な融着を抑制することができ、高分子重合体溶液の不織布内部への浸透を妨げず、膜剥離強度に優れた分離膜支持体を得ることができる。
【0085】
本発明の長繊維不織布の製造方法において、上記の単層長繊維不織布を形成するための予備熱圧着と積層熱圧着とは一つの製造ライン上で連続して行ってもよく、予備熱圧着をした後に一度巻き取り、再度巻き出して積層熱接着を施すこともできる。
【0086】
かくして得られる長繊維不織布は、断面空隙率のばらつきを小さくすることができるので、CD方向のサイズ、すなわち幅50cm以上の長繊維不織布において、好ましく効果を発揮する。なかでも80cm以上、特に100cm以上の長繊維不織布であっても、CD方向における断面空隙率のばらつきを小さくすることができる。さらには幅200cm以上の長繊維不織布とすることも可能である。上限としては、本発明で規定する範囲を満たす限り制限はないが、現実には400cm以下程度である。通常、広幅になるほどCD方向のばらつきが大きくなりやすいが、本発明においては、上記領域であってもCD方向における断面空隙率のばらつきを小さくすることができることは特記に値する。
【0087】
[分離膜支持体]
本発明の長繊維不織布は、分離膜とした際に膜剥離強度の強弱差を小さくでき、なおかつ製膜時の製膜欠点数を減少させることができるので、分離膜支持体に好ましく用いることができる。すなわち本発明の分離膜支持体は、前記の長繊維不織布で構成された分離膜支持体である。具体的には後述するが、例えば前記の長繊維不織布の片側の面に分離膜層を設けて分離膜とするが、本発明の長繊維不織布は、この分離膜を支持する分離膜支持体とすることができる。本発明の分離膜支持体は、前記長繊維不織布を親水処理等の機能付与処理をしてもよいし、他の部材を含んでいても差し支えない。
【0088】
なかでも前述のとおり、平滑度が高いA面(通常、長繊維不織布の金属製ロールと接触した面)を分離膜支持体の製膜面に、平滑度が低いB面(通常、弾性ロールと接触した面)を分離膜支持体の非製膜面に用いることが好ましい。
【0089】
本発明の長繊維不織布に分離膜層を設ける方法としては、グラビア方式、グラビアオフセット方式、フレキソ方式、ロールコーティング方式、コンマコーティング方式、ナイフコーティング方式などによって、前記の分離膜層を形成する方法が好ましい。
【0090】
[分離膜]
本発明の分離膜とは、分離膜支持体を含んでなる分離膜であり、通常上記の分離膜支持体の上に、分離機能を有する膜(分離膜層)を形成してなる分離膜である。そのような分離膜の例として、浄水場での水処理や工業プロセス用水の製造等に利用される精密ろ過膜、限外ろ過膜や、半導体製造用水、ボイラー用水、医療用水およびラボ用純粋等の処理や、海水淡水化処理に移用されるナノろ過膜、逆浸透膜等の半透膜が挙げられる。
【0091】
分離膜の製造方法としては、上記の分離膜支持体の少なくとも片方の表面上に、高分子重合体溶液を流延して分離機能を有する膜を形成させ分離膜とする方法が好ましく用いられる。また、分離膜が半透膜の場合は、分離機能を有する膜を支持層と半透膜層を含む複合膜とし、この複合膜を分離膜支持体の少なくとも片方の表面上に積層することも好ましい形態である。
【0092】
本発明の分離膜支持体に流延する高分子重合体溶液は、膜となった際に分離機能を有するものであり、例えば、ポリスルホンやポリエーテルスルホンのようなポリアリールエーテルスルホン、ポリイミド、ポリフッ化ビニリデンおよび酢酸セルロースなどの溶液が好ましく用いられる。なかでも特に、化学的、機械的および熱的な安定性の点で、ポリスルホンとポリアリールエーテルスルホンの溶液が好ましく用いられる。溶媒は、膜形成物質に応じて、適宜選定することができる。また、分離膜が支持層と半透膜層を含む複合膜の場合の半透膜として、多官能酸ハロゲン化物と多官能アミンとの重縮合などによって得られる架橋ポリアミド膜などが好ましく用いられる。
【0093】
本発明の分離膜は、膜剥離強度が15cN/15mm以上80cN/15mm以下であることが好ましい。膜剥離強度が15cN/15mm以上とすることにより、流体分離素子として使用した際の運転圧力の変動や、分離膜の洗浄のためのいわゆる逆洗操作により分離膜が支持体から剥離することを防止することができる。一方、膜剥離強度が好ましくは80cN/15mm以下とすることにより、分離膜製造時の高分子重合体溶液の過度の消費を抑制することができる。なお、分離膜が支持層と半透膜層を含む複合膜の場合の膜剥離強度とは、分離膜支持体と直接的に接着している支持層と分離膜支持体の間の剥離強度のことである。
【実施例0094】
次に、実施例に基づき本発明の長繊維不織布について具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各物性の測定において、特段の記載がないものは、前記の方法に基づいて測定を行ったものである。
【0095】
[測定方法]
(1)ポリエステルの融点(℃)
パーキンエルマー社製の示差走査型熱量計「DSC-2型」を用い、前記のとおり昇温速度20℃/分の条件で測定し、得られた融解吸熱曲線において極値を与える温度を融点とした。
【0096】
(2)ポリエステルの固有粘度(IV)
ポリエステルの固有粘度(IV)は、オルソクロロフェノール100mLに対し試料8gを溶解し、温度25℃においてオストワルド粘度計を用いて相対粘度ηを、下記式により求めた。
η=η/η=(t×d)/(t×d
(ここで、ηはポリマー溶液の粘度、ηはオルソクロロフェノールの粘度、tは溶液の落下時間(秒)、dは溶液の密度(g/cm)、tはオルソクロロフェノールの落下時間(秒)、dはオルソクロロフェノールの密度(g/cm)をそれぞれ表す。)
次いで、相対粘度ηから、下記式により固有粘度(IV)を算出した。
固有粘度(IV)=0.0242η+0.2634。
【0097】
(3)平均単繊維直径(μm)
本発明に係る繊維の平均単繊維直径は、株式会社キーエンス製「VHX-D500」の走査型電子顕微鏡を用いて前記の方法で測定、算出した。
【0098】
(4)長繊維不織布の目付(g/m
長繊維不織布の目付は前記の方法で測定、算出した。なお、単層長繊維不織布の目付も測定対象を単層長繊維不織布とする以外は同様の方法で算出した。
【0099】
(5)長繊維不織布の厚さ(mm)
長繊維不織布の厚さは、厚さ計として、株式会社テクロック製“TECLOCK”(登録商標)SM-114を使用し、前記の方法で測定、算出した。
【0100】
(6)長繊維不織布の通気量(cm/cm/秒)
長繊維不織布の通気量は前記の方法で測定、算出した。
【0101】
(7)長繊維不織布の断面空隙率(%)
長繊維不織布の断面空隙率は前記の方法で測定、算出した。
【0102】
(8)長繊維不織布の断面空隙率CV値(%)
長繊維不織布の断面空隙率CV値は前記の方法で測定、算出した。
【0103】
(9)長繊維不織布の平滑度(秒)
長繊維不織布の平滑度は前記の方法で測定、算出した。
【0104】
(10)長繊維不織布の平滑度差(秒)
長繊維不織布の平滑度差は前記の方法で測定、算出した。
【0105】
(11)分離膜の膜剥離強度(cN/15mm)
作製したポリスルホン膜を形成した分離膜をCD方向に等間隔で縦130mm×横50mmの試験片を20枚採取し、菊水製キクラフトテープをポリスルホン膜面に貼り付け、その一端のポリスルホン層の縦方向8cm分を分離膜支持体から引き剥がし、定速伸長型引張試験機のつかみ部の一方にポリスルホン層を、もう一方に分離膜支持体を固定し、つかみ間隔が50mmで、引張速度50mm/分の条件で、強力を測定し、強力が安定したつかみ間隔15mmから75mmとなるまでの強力の平均値を計算し、15mm幅単位に換算し、小数点以下第一位を四捨五入した値を膜剥離強度とした。
【0106】
(12)分離膜の膜剥離強度の最大値と最小値の差(cN/15mm)
前記(11)で測定した20点の膜剥離強度測定値の最大値から最小値の差を求め、小数点第一位を四捨五入した値を膜剥離強度の最大値と最小値の差とした。
【0107】
(13)分離膜の製膜欠点数
作製したポリスルホン膜を形成した分離膜を、非製膜面側から、110WのLED蛍光灯で光を当て、透過した箇所を欠点と見なし、欠点の個数を数え、検反したポリスルホン膜を形成した分離膜の長さで割り、製膜欠点数(個/m)を小数点一桁まで算出する。なお、検反は製膜スタート部を0mとし、500~10000mの範囲内で行った。すなわち500m検反時に欠点数が0.0個/mの場合は、さらに検反を行なう方法で、最長1000mまで検反した。
【0108】
[使用した樹脂]
次に、実施例・比較例において使用した樹脂について、その詳細を記載する。
・高融点重合体:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.65で融点が260℃の、ポリエチレンテレフタレート(表1において、PETと表記した。)
・低融点重合体:水分率50質量ppm以下に乾燥した、固有粘度(IV)が0.64、イソフタル酸共重合率が11mol%で融点が230℃の、共重合ポリエチレンテレフタレート(表1において、cо-PETと表記した。)。
【0109】
[実施例1]
(繊維を形成する工程)
前記の高融点重合体と低融点重合体とを、それぞれ、295℃、280℃の温度で溶融させた。その後、高融点重合体を芯成分とし、低融点重合体を鞘成分として、口金温度が295℃で、芯:鞘=80:20の質量比率で円形の紡糸口金の吐出孔から紡出した後、エジェクターにより紡糸速度4900m/分で牽引し、高融点重合体の周りに低融点重合体を配した、円形断面形状の複合繊維を紡糸した。
【0110】
(繊維ウェブを形成する工程)
前記工程で紡糸した複合繊維の配列を開繊板により規制した後、移動するネットコンベアー上に堆積させ、平均単繊維直径が11.4μmの繊維からなる繊維ウェブを捕集した。
【0111】
(繊維ウェブを予備熱圧着する工程)
前記のようにして補修した繊維ウェブを、上下1対の金属製フラットロール間に通し、各フラットロールの表面温度が135℃、線圧が588N/cmの条件で予備熱圧着し、目付が36g/mの仮接着状態の単層長繊維不織布(a)を得た。
【0112】
(積層熱圧着する工程)
前記で得られた仮接着状態の単層長繊維不織布(a)を2枚重ね合わせ、その積層不織布を、上が硬度(Shore D)94、クラウン値0mmの樹脂製の弾性ロールで、中が金属製ロールで、下が硬度(Shore D)66、クラウン値0.1mmの樹脂製の弾性ロールからなる1組の3本のフラットロールの中-下間に通し、さらにその積層不織布を折り返して上-中間を通し熱圧着し、熱圧着した積層不織布の弾性ロールと接触させた裏面を、表面温度が45℃の金属製の冷却ロールに1秒間接触させ、幅100cm、目付が72g/m、厚さが0.09mm、平均単繊維直径11.4μm、断面空隙率が5%、断面空隙率CV値が50%、通気量が1.1cm/cm/秒、A面の平滑度が34秒、B面の平滑度が9秒、A面の幅方向平滑度差が11秒、B面の幅方向平滑度差が3秒の長繊維不織布を得た。このとき、3本のフラットロールの表面温度は、上が130℃、中が195℃、下が140℃とし、線圧は1314N/cmとした。
【0113】
(分離膜を形成する工程)
得られた長繊維不織布を分離膜支持体用長繊維不織布として、分離膜の形成に供した。
【0114】
すなわち、得られた分離膜支持体用長繊維不織布を、12m/分の速度で巻き出し、その上にポリスルホン(ソルベイアドバンスドポリマーズ社製の”Udel”(登録商標)-P3500)の16質量%ジメチルホルムアミド溶液(キャスト液)を50μm厚みで、室温(20℃)でキャストし、ただちに純水中に室温(20℃)で10秒間浸漬した後、75℃の温度の純水中に120秒間浸漬し、続いて90℃の温度の純水中に120秒間浸漬し、100N/全幅の張力で巻き取り、ポリスルホン膜を形成して分離膜を作製した。このときキャスト液の裏抜けが全く見られず、また作製した分離膜の幅は100cm、膜剥離強度は33cN/15mm、膜剥離強度の最大値と最小値の差は30cN/15mm、製膜欠点数は0.1個/mであった。結果を表1に示す。
【0115】
[実施例2]
(繊維を形成する工程)において、円形の紡糸口金の吐出孔から紡出する溶融ポリマー量を変えて、繊維の平均単繊維直径を11.4μmから10.5μmに変更し、(繊維ウェブを形成する工程)において、移動するネットコンベアーの速度を変えて単層長繊維不織布(a)の目付を36g/mから38g/mに変更し、(繊維ウェブを予備熱圧着する工程)において、予備熱圧着する際の金属製フラットロールの温度を135℃から130℃に変更し、(積層熱圧着する工程)において、熱圧着する際の3本のフラットロールの表面温度を上が130℃から135℃に、中が195℃から190℃に、線圧を1314N/cmから1196N/cmに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、分離膜支持体用長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は幅100cm、目付が76g/m、厚さが0.09mm、平均単繊維直径10.5μm、断面空隙率が8%、断面空隙率CV値が37%、通気量が0.8cm/cm/秒、A面の平滑度が35秒、B面の平滑度が9秒、A面の幅方向平滑度差が9秒、B面の幅方向平滑度差が5秒であった。また、作製した分離膜の幅は100cm、膜剥離強度は56cN/15mm、膜剥離強度の最大値と最小値の差は36cN/15mm、製膜欠点数は0.0個/mであった。結果を表1に示す。
【0116】
[実施例3]
(繊維ウェブを予備熱圧着する工程)において、予備熱圧着する際の金属製フラットロールの温度を上下とも130℃から上を140℃、下を130℃にし、(積層熱圧着する工程)において、熱圧着する際の3本のフラットロールの表面温度を上が135℃から110℃に、下が140℃から130℃に、線圧を1196N/cmから1294N/cmに変更したこと以外は実施例2と同様にして、分離膜支持体用長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は幅100cm、目付が76g/m、厚さが0.10mm、断面空隙率が8%、断面空隙率CV値が58%、通気量が0.9cm/cm/秒、A面の平滑度が40秒、B面の平滑度が10秒、A面の幅方向平滑度差が13秒、B面の幅方向平滑度差が8秒であった。また、作製した分離膜の幅は100cm、膜剥離強度は68cN/15mm、膜剥離強度の最大値と最小値の差は35cN/15mm、製膜欠点数は0.0個/mであった。結果を表1に示す。
【0117】
[実施例4]
(繊維を形成する工程)において、円形の紡糸口金の吐出孔から紡出する溶融ポリマー量を変えて、繊維の平均単繊維直径を10.5μmから9.5μmに変更し、(積層熱圧着する工程)において、熱圧着する際の3本のフラットロールのうち中の表面温度を190℃から180℃に変更したこと以外は実施例2と同様にして、分離膜支持体用長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は幅100cm、目付が76g/m、厚さが0.09mm、平均単繊維直径9.5μm、断面空隙率が4%、断面空隙率CV値が30%、通気量が0.9cm/cm/秒、A面の平滑度が32秒、B面の平滑度が7秒、A面の幅方向平滑度差が10秒、B面の幅方向平滑度差が4秒であった。また、作製した分離膜の幅は100cm、膜剥離強度は50cN/15mm、膜剥離強度の最大値と最小値の差は32cN/15mm、製膜欠点数は0.0個/mであった。結果を表1に示す。
【0118】
[比較例1]
(積層熱圧着する工程)において、上の樹脂製弾性ロールの硬度(Shore D)を94から91に、下の樹脂製弾性ロールの硬度(Shore D)を66から75に、クラウン値を0.1mmから0mmに、熱圧着する際の線圧を1314N/cmから1726N/cmにしたこと以外は実施例1と同様にして、分離膜支持体用長繊維不織布を得た。この長繊維不織布は幅100cm、目付が72g/m、厚さが0.09mm、断面空隙率が20%、断面空隙率CV値が68%、通気量が1.5cm/cm/秒、A面の平滑度が48秒、B面の平滑度が17秒、A面の幅方向平滑度差が16秒、B面の幅方向平滑度差が11秒であった。また、作製した分離膜の幅は100cm、膜剥離強度は35cN/15mm、膜剥離強度の最大値と最小値の差は49cN/15mm、製膜欠点数は0.5個/mであった。結果を表1に示す。
【0119】
[比較例2]
(抄紙不織布)
融点が260℃のポリエチレンテレフタレート樹脂からなる、平均単繊維直径が11.0μm、目付が35g/m、厚さが0.2mmの抄紙不織布(x)と、融点が260℃のポリエチレンテレフタレート樹脂からなる、平均単繊維直径が10μm、目付が35g/m、厚さが0.2mmの抄紙不織布(y)を用意した。
【0120】
(積層熱圧着する工程)
用意した抄紙不織布(x)と抄紙不織布(y)を、抄紙不織布(x)が上になるように1枚ずつ重ね合わせ、それを、上が金属ロールで、下が硬度(Shore D)85のコットンペーパー製の弾性ロールの1組2本のフラットロールの間に通して熱圧着し、幅100cm、目付が70g/m、厚さが0.09mm、平均単繊維直径10.5μm、断面空隙率が30%、断面空隙率CV値が62%、通気量が2.1cm/cm/秒、A面の平滑度が26秒、B面の平滑度が18秒、A面の幅方向平滑度差が8秒、B面の幅方向平滑度差が6秒の分離膜支持体用長繊維不織布を得た。このとき、2本のフラットロールの表面温度は、上が230℃、下が130℃とし、線圧は1176N/cmとした。
【0121】
(分離膜を形成する工程)
実施例1と同様にして、分離膜を得た。作製した分離膜の幅は100cm、膜剥離強度は74cN/15mm、膜剥離強度の最大値と最小値の差は42cN/15mm、製膜欠点数は0.1個/mであった。結果を表1に示す。
【0122】
【表1】
【0123】
得られた不織布の特性は表1に示したとおりであり、実施例1~4の長繊維不織布はいずれも、平均単繊維直径が10.0μm以上20.0μm以下、断面空隙率が1%以上10%以下、断面空隙率CV値が1%以上60%以下となり、分離膜としたときの膜剥離強度、膜剥離強度の最大値と最小値の差についても問題なく、また、製膜欠点数が少なく製膜性が良好である長繊維不織布の特性を示したものであった。一方、比較例1は長繊維不織布内の密度差が大きいことから膜剥離強度の最大値と最小値の差が大きく、また製膜欠点数が多く劣位であった。比較例2では、断面空隙率CV値が大きいことから膜剥離強度の最大値と最小値の差が大きく劣位であった。