IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日産自動車株式会社の特許一覧 ▶ 国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学の特許一覧 ▶ ルノー エス.ア.エス.の特許一覧

<>
  • 特開-非水電解質二次電池用電極 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154878
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】非水電解質二次電池用電極
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20241024BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20241024BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20241024BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20241024BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20241024BHJP
   C08G 77/60 20060101ALI20241024BHJP
   C08G 79/08 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/133
H01M4/13
H01M4/587
H01M4/139
C08G77/60
C08G79/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069083
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304024430
【氏名又は名称】国立大学法人北陸先端科学技術大学院大学
(71)【出願人】
【識別番号】507308902
【氏名又は名称】ルノー エス.ア.エス.
【氏名又は名称原語表記】RENAULT S.A.S.
【住所又は居所原語表記】122-122 bis, avenue du General Leclerc, 92100 Boulogne-Billancourt, France
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】在原 一樹
(72)【発明者】
【氏名】松見 紀佳
【テーマコード(参考)】
4J030
4J246
5H050
【Fターム(参考)】
4J030CA01
4J030CB01
4J030CB03
4J030CC06
4J030CC16
4J030CD11
4J030CE11
4J030CG01
4J030CG02
4J246AA05
4J246AB01
4J246BA02X
4J246BB05X
4J246CA40X
4J246GA01
4J246GA02
4J246GB04
4J246HA56
4J246HA67
5H050AA02
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA01
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB02
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050DA11
5H050EA23
5H050EA24
5H050EA28
5H050GA10
5H050GA12
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】非水電解質二次電池において、レート特性を向上させうる手段を提供する。
【解決手段】電極活物質およびバインダを含有する電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる非水電解質二次電池用電極において、ケイ素原子とホウ素原子とが酸素原子を介して交互に結合した所定の構造を有するポリボロシロキサンからなる第1のバインダ、および、前記ポリボロシロキサン以外の第2のバインダを、電極活物質層に含ませる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質およびバインダを含有する電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる非水電解質二次電池用電極であって、
前記バインダが、下記化学式1:
【化1】

式中、RおよびRは、それぞれ独立して1価の有機基を表し、RおよびRの少なくとも一方は1価の芳香族基を表す、
で表される繰り返し単位と、下記化学式2:
【化2】

式中、Rは、1価の有機基を表す、
で表される繰り返し単位と、を有し、前記化学式1におけるケイ素原子と前記化学式2におけるホウ素原子とが酸素原子を介して交互に結合した構造を有するポリボロシロキサンからなる第1のバインダと、前記ポリボロシロキサン以外の第2のバインダと、を含む、非水電解質二次電池用電極。
【請求項2】
前記ポリボロシロキサンに含まれるケイ素原子とホウ素原子とのモル比率(Si/B)は、0.4≦Si/B≦0.6を満たす、請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項3】
前記電極活物質層における前記第1のバインダの含有量が1~3質量%である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項4】
前記バインダの全量100質量%に対する前記第1のバインダの質量割合が10~70質量%である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項5】
前記第2のバインダが、ビニリデンフルオライド(VdF)に由来する繰り返し単位を有する重合体を含む、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項6】
前記重合体が直鎖状の構造を有するものである、請求項5に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項7】
前記電極活物質として少なくともグラファイトを含む負極である、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用電極。
【請求項8】
正極活物質層と、電解質層と、負極活物質層と、がこの順に積層されてなる発電要素を備え、前記正極活物質層または前記負極活物質層の少なくとも1つが、請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用電極である、非水電解質二次電池。
【請求項9】
請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極の製造方法であって、
前記電極活物質および前記第1のバインダを有機溶媒中で混合して混合物を調製することと、
前記第2のバインダを前記混合物に添加し、混合して電極活物質スラリーを調製することと、
前記電極活物質スラリーを前記集電体の表面に塗布して前記電極活物質層を形成することと、
を含む、非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【請求項10】
前記第2のバインダの添加前に、前記混合物から前記有機溶媒を蒸発させることにより除去することをさらに含む、請求項9に記載の非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解質二次電池用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境・エネルギー問題の解決へ向けて、種々の電気自動車の普及が期待されている。これら電気自動車の普及の鍵を握るモータ駆動用電源などの車載電源として、二次電池の開発が鋭意行われている。二次電池としては、高エネルギー密度、高出力が期待できるリチウムイオン二次電池等の非水電解質二次電池に注目が集まっている。
【0003】
ここで、特許文献1には、固体電解質を含む二次電池において、固体電解質と電極との間の接触を改善し、イオン輸送性を向上させることを目的として、電極活物質層に含まれるバインダとしてシロキサン結合(Si-O-Si)を有する重合体を用いる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2016-503564号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、本発明者らが検討を行ったところ、特許文献1に記載の技術を非水電解質二次電池に適用した場合には、十分なレート特性を発揮できない場合があることが判明した。
【0006】
そこで本発明は、非水電解質二次電池において、レート特性を向上させうる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その過程で、非水電解質二次電池を構成する電極活物質層に所定のバインダを含む2種以上のバインダを含ませることにより、上記課題が解決されうることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
すなわち、本発明の一形態によれば、電極活物質およびバインダを含有する電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる非水電解質二次電池用電極が提供される。そして、当該電極に含有される前記バインダは、下記化学式1:
【0009】
【化1】
【0010】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して1価の有機基を表し、RおよびRの少なくとも一方は1価の芳香族基を表す、
で表される繰り返し単位と、下記化学式2:
【0011】
【化2】
【0012】
式中、Rは、1価の有機基を表す、
で表される繰り返し単位と、を有し、前記化学式1におけるケイ素原子と前記化学式2におけるホウ素原子とが酸素原子を介して交互に結合した構造を有するポリボロシロキサンからなる第1のバインダと、前記ポリボロシロキサン以外の第2のバインダとを含む点に特徴がある。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、非水電解質二次電池において、レート特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態である、積層型(扁平型)の非双極型(内部並列接続タイプ)二次電池を模式的に表した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の一形態は、電極活物質およびバインダを含有する電極活物質層が集電体の表面に配置されてなる非水電解質二次電池用電極であって、
前記バインダが、下記化学式1:
【0016】
【化3】
【0017】
式中、RおよびRは、それぞれ独立して1価の有機基を表し、RおよびRの少なくとも一方は1価の芳香族基を表す、
で表される繰り返し単位と、下記化学式2:
【0018】
【化4】
【0019】
式中、Rは、1価の有機基を表す、
で表される繰り返し単位と、を有し、前記化学式1におけるケイ素原子と前記化学式2におけるホウ素原子とが酸素原子を介して交互に結合した構造を有するポリボロシロキサンからなる第1のバインダと、前記ポリボロシロキサン以外の第2のバインダと、を含む、非水電解質二次電池用電極である。
【0020】
本形態に係る非水電解質二次電池用電極を備えた非水電解質二次電池は、レート特性に優れる。
【0021】
以下、図面を参照しながら、上述した本形態の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて定められるべきであり、以下の形態のみに制限されない。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。本明細書において、範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)、相対湿度40~50%RHの条件で行う。
【0022】
図1は、本発明の一実施形態である扁平型(積層型)の非双極型(内部並列接続タイプ)二次電池(以下、単に「積層型二次電池」とも称する)を模式的に表した断面図である。
【0023】
図1に示すように、本実施形態の積層型二次電池10aは、実際に充放電反応が進行する略矩形の発電要素21が、ラミネートフィルム29の内部に封止された構造を有する。ここで、発電要素21は、正極集電体11’の両面に正極活物質層13が配置された正極と、電解液を含有するセパレータからなる電解質層17と、負極集電体12の両面に負極活物質層15が配置された負極とを積層した構成を有している。具体的には、1つの正極活物質層13とこれに隣接する負極活物質層15とが、電解質層17を介して対向するようにして、正極、電解質層および負極がこの順に積層されている。
【0024】
これにより、正極、電解質層および負極は、1つの単電池層19を構成する。したがって、図1に示す積層型二次電池10aは、単電池層19が複数積層されることで、電気的に並列接続されてなる構成を有するともいえる。なお、発電要素21の両最外層に位置する最外層の正極集電体には、いずれも片面のみに正極活物質層13が配置されているが、両面に活物質層が設けられてもよい。すなわち、片面にのみ活物質層を設けた最外層専用の集電体とするのではなく、両面に活物質層がある集電体をそのまま最外層の集電体として用いてもよい。また、図1とは正極および負極の配置を逆にすることで、発電要素21の両最外層に最外層の負極集電体が位置するようにし、該最外層の負極集電体の片面または両面に負極活物質層が配置されるようにしてもよい。
【0025】
正極集電体11’および負極集電体12には、各電極(正極および負極)と導通される正極集電板25および負極集電板27がそれぞれ取り付けられ、ラミネートフィルム29の端部に挟まれるようにしてラミネートフィルム29の外部に導出される構造を有している。正極集電板25および負極集電板27は、それぞれ必要に応じて正極端子リードおよび負極端子リード(図示せず)を介して、各電極の正極集電体11’および負極集電体12に超音波溶接や抵抗溶接等により取り付けられていてもよい。
【0026】
《非水電解質二次電池用電極》
以下、本形態に係る非水電解質二次電池用電極の主要な構成部材について説明する。本形態に係る非水電解質二次電池用電極は、正極活物質と、バインダとを必須に含む電極活物質層を有する。
【0027】
[集電体]
集電体は、後述する正極活物質層や負極活物質層からの電子の移動を媒介する機能を有する。集電体を構成する材料に特に制限はない。集電体の構成材料としては、例えば、金属や、導電性を有する樹脂が採用されうる。
【0028】
具体的には、金属としては、アルミニウム、ニッケル、鉄、ステンレス、チタン、銅などが挙げられる。これらのほか、ニッケルとアルミニウムとのクラッド材、銅とアルミニウムとのクラッド材などが用いられてもよい。また、金属表面にアルミニウムが被覆されてなる箔であってもよい。なかでも、電子伝導性や電池作動電位、集電体へのスパッタリングによる負極活物質の密着性等の観点からは、アルミニウム、ステンレス、銅、ニッケルが好ましい。また、後者の導電性を有する樹脂としては、非導電性高分子材料に導電性フィラーが添加された樹脂が挙げられる。
【0029】
なお、集電体は、単独の材料からなる単層構造であってもよいし、あるいは、これらの材料からなる層を適宜組み合わせた積層構造であっても構わない。集電体の軽量化の観点からは、少なくとも導電性を有する樹脂からなる導電性樹脂層を含むことが好ましい。また、単電池層間のリチウムイオンの移動を遮断する観点からは、集電体の一部に金属層を設けてもよい。
【0030】
[電極活物質層]
電極活物質層は、任意に設けられる集電体の表面に形成されてなり、電極活物質およびバインダを必須に含む。電極活物質層は、導電助剤等の他の成分をさらに含んでもよい。本形態に係る電極が正極である場合には、電極活物質は正極活物質であり、本形態に係る電極が負極である場合には、電極活物質は負極活物質である。なお、本明細書において、特記しない限り、正極および負極に共通する事項については「電極」として表記するものとする。
【0031】
(正極活物質)
正極活物質は、充電時にリチウムイオン等のイオンを放出し、放電時にリチウムイオン等のイオンを吸蔵する機能を有する。本形態において、正極活物質の種類は特に制限されないが、より高い容量を有することから、R3mの空間群からなるものであることが好ましい。空間群R3mに帰属される正極活物質は所定の層状構造(層状岩塩型構造)を有する。したがって、このような正極活物質を用いることで、非水電解質二次電池の電池容量を向上させることができる。
【0032】
正極活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、Li(Ni-Mn-Co)O等の層状岩塩型活物質、LiMn、LiNi0.5Mn1.5等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO等のオリビン型活物質、LiFeSiO、LiMnSiO等のSi含有活物質等が挙げられる。また上記以外の金属酸化物としては、例えば、LiTi12が挙げられる。これらのなかでも、リチウムとニッケルとを含有する複合酸化物が好ましく用いられ、さらに好ましくはLi(Ni-Mn-Co)Oおよびこれらの遷移金属の一部が他の元素により置換されたもの(以下、単に「NMC複合酸化物」とも称する)が用いられる。NMC複合酸化物は、リチウム原子層と遷移金属(Mn、NiおよびCoが秩序正しく配置)原子層とが酸素原子層を介して交互に積み重なった層状結晶構造を持ち、遷移金属Mの1原子あたり1個のLi原子が含まれ、取り出せるLi量が、スピネル系リチウムマンガン酸化物の2倍、つまり供給能力が2倍になり、高い容量を持つことができる。
【0033】
NMC複合酸化物は、上述したように、遷移金属元素の一部が他の金属元素により置換されている複合酸化物も含む。その場合の他の元素としては、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Cr、Fe、B、Ga、In、Si、Mo、Y、Sn、V、Cu、Ag、Znなどが挙げられ、好ましくは、Ti、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crであり、より好ましくは、Ti、Zr、P、Al、Mg、Crであり、サイクル特性向上の観点から、さらに好ましくは、Ti、Zr、Al、Mg、Crである。
【0034】
NMC複合酸化物は、理論放電容量が高いことから、好ましくは、一般式(1):LiNiMnCo(但し、式中、a、b、c、d、xは、0.98≦a≦1.2、0.6≦b≦0.9、0<c≦0.4、0<d≦0.4、0≦x≦0.3、b+c+d+x=1を満たす。MはTi、Zr、Nb、W、P、Al、Mg、V、Ca、Sr、Crから選ばれる元素で少なくとも1種類である)で表される組成を有する。ここで、aは、Liの原子比を表し、bは、Niの原子比を表し、cは、Mnの原子比を表し、dは、Coの原子比を表し、xは、Mの原子比を表す。また、本形態に係る非水電解質二次電池用電極において、正極活物質は、上述した一般式(1)において、0.8≦b≦0.9、0<c≦0.2、0<d≦0.2、0≦x≦0.2を満たすNMC複合酸化物(ハイニッケルNMC複合酸化物)であることが特に好ましい。
【0035】
正極活物質の平均粒子径は、高出力化の観点からは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~20μmである。本明細書において、粒子の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法の粒度分布測定装置により計測されたメディアン径(D50)を採用するものとする。
【0036】
正極活物質層における正極活物質の含有量は、特に限定されないが、例えば、活物質層の全固形分100質量%に対して、60~99質量%の範囲内であることが好ましく、80~98質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0037】
(負極活物質)
負極活物質は、放電時にリチウムイオン等のイオンを放出し、充電時にリチウムイオン
等のイオンを吸蔵する機能を有する。負極活物質としては、例えば、グラファイト(黒鉛)、ソフトカーボン、ハードカーボン等の炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物(例えば、LiTi12)、金属材料(スズ、シリコン)、ケイ素含有合金系負極材料(例えば、Si60Sn10Ti30)、リチウム合金系負極材料(例えばリチウム-スズ合金、リチウム-シリコン合金、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-アルミニウム-マンガン合金等)、酸化ケイ素(SiO)などが挙げられる。場合によっては、2種以上の負極活物質が併用されてもよい。好ましくは、容量、出力特性の観点から、ケイ素含有合金系負極材料、炭素材料、リチウム-遷移金属複合酸化物、リチウム合金系負極材料が、負極活物質として好ましく用いられる。中でも、本形態においては、第1のバインダを用いた場合におけるレート特性の向上効果に特に優れるという観点から、負極活物質は少なくともグラファイトを含むことが特に好ましい。なお、上記以外の負極活物質が用いられてもよいことは勿論である。
【0038】
負極活物質の平均粒子径(D50)は特に制限されないが、高出力化の観点からは、好ましくは1~100μm、より好ましくは1~20μmである。
【0039】
負極活物質層における負極活物質の含有量は、活物質層の全固形分100質量%に対して、例えば60質量%以上100質量%未満であり、好ましくは80質量%以上99.5%以下であり、より好ましくは90質量%を超えて99.0質量%以下であり、さらに好ましくは92質量%以上98.5質量%以下である。負極活物質の含有量が上記範囲であれば、電池容量と出力特性とを両立させることができる。
【0040】
(バインダ)
バインダは、電極活物質層に含まれる部材を互いに結着することにより、電極活物質層の構造を維持する機能を有する。本形態に係る電極では、電極活物質層が、2種の異なるバインダ(第1のバインダおよび第2のバインダ)を含有する点に特徴がある。なお、本形態に係る電極が用いられる非水電解質二次電池においては、正極活物質層または負極活物質層の少なくとも1つが上記特徴を有していればよい。
【0041】
〈第1のバインダ〉
第1のバインダは、下記化学式1で表される繰り返し単位と、下記化学式2で表される繰り返し単位と、を有し、前記化学式1におけるケイ素原子と前記化学式2におけるホウ素原子とが酸素原子を介して交互に結合した構造を有するポリボロシロキサンからなるものである。
【0042】
【化5】
【0043】
上述したように、第1のバインダとしてのポリボロシロキサンは、化学式1で表される繰り返し単位と、化学式2で表される繰り返し単位と、を有し、前記化学式1におけるケイ素原子と前記化学式2におけるホウ素原子とが酸素原子を介して交互に結合した構造(本明細書中、単に「交互構造」とも称する)を有するものである。すなわち、上記ポリボロシロキサンは、下記化学式3で表される繰り返し単位を有する重合体であるともいえる。
【0044】
【化6】
【0045】
上記化学式において、RおよびRは、それぞれ独立して1価の有機基を表し、RおよびRの少なくとも一方は1価の芳香族基を表す。また、上記化学式において、Rは、1価の有機基を表す。
【0046】
「1価の有機基」の種類は特に制限されず、公知の1価の有機基が使用されうる。1価の有機基としては、例えば、置換または無置換のアルキル基、置換または無置換のアルケニル基、置換または無置換のアルキニル基、置換または無置換の芳香族基(置換または無置換のアリール基、置換または無置換のヘテロアリール基)等が挙げられる。
【0047】
1価の有機基としてのアルキル基、アルケニル基およびアルキニル基は、それぞれ、直鎖状、分岐状、または環状のいずれであってもよいが、直鎖状であることが好ましい。アルキル基の炭素数は、特に制限されないが、1以上20以下であることが好ましく、1以上10以下であることがより好ましく、1以上4以下であることがさらに好ましい。アルケニル基、アルキニル基の炭素数は、特に制限されないが、それぞれ、2以上20以下であることが好ましく、2以上10以下であることがより好ましく、2以上4以下であることがさらに好ましい。
【0048】
1価の有機基としてのアリール基は、一部または全体として芳香族性を有する炭化水素環に由来する基である。アリール基が2以上の、一部または全体として芳香族性を有する炭化水素環を含む場合、これらの環は、互いに単結合で結合または縮合していてもよい。アリール基の炭素数は、特に制限されないが、6以上30以下であることが好ましい。アリール基の炭素数は、6以上12以下であることがより好ましく、6であることがさらに好ましい。特に、アリール基は、環形成原子数6以上の芳香族炭化水素環から誘導された1価の基であることが好ましく、環形成原子数6~16の芳香族炭化水素環から誘導された1価の基であることがより好ましい。これらの芳香族炭化水素環の具体例としては、フェニル基等の単環基、ビフェニル基、フェナントリル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基等の縮合多環式炭化水素基が挙げられる。
【0049】
1価の有機基としてのヘテロアリール基は、一部または全体として芳香族性を有する複素環に由来する基である。ヘテロアリール基が2以上の、一部または全体として芳香族性を有する複素環を含む場合、これらの環の一部または全部は、互いに単結合で結合していてもよい。ヘテロアリール基が2以上の、一部または全体として芳香族性を有する複素環、またはその他の環を含む場合、これらの環は、互いに縮合していてもよい。また、ヘテロアリール基が2以上の、一部または全体として芳香族性を有する複素環、またはその他の環を含む場合、1つの原子が、これらの環の環形成原子を兼ねていてもよい。ヘテロアリール基が有するヘテロ原子としては、特に限定されないが、例えば、環形成原子として1以上のヘテロ原子(例えば、窒素原子(N)、酸素原子(O)、リン原子(P)、硫黄原子(S)、ケイ素原子(Si)、セレン原子(Se)、ゲルマニウム原子(Ge))等が挙げられる。ヘテロアリール基の炭素数は3以上30以下が好ましい。また、ヘテロアリール基の環形成原子数は、特に制限されないが、5以上30以下であることが好ましい。さらに、ヘテロアリール基の環形成原子数は、5以上14以下であることがより好ましく、5以上13以下であることがさらに好ましい。ヘテロアリール基のヘテロ原子数は、特に制限されないが、1以上3以下であることが好ましい。また、ヘテロアリール基のヘテロ原子数は、1以上2以下であることがより好ましく、1であることがさらに好ましい。特に、ヘテロアリール基は、環形成原子数5以上の芳香族複素環から誘導された1価の基であることが好ましい。なお、本明細書において、「芳香族基」との語は、アリール基およびヘテロアリール基の総称である。
【0050】
1価の有機基としてのアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基およびヘテロアリール基は、それぞれ、置換された基であってもよい。置換基としては、特に制限されないが、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アルケニル基、アルキニル基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、アミノ基、カルバモイル基等が挙げられる。なお、上記置換基は同種の基を置換することはない。例えば、アルキル基を置換する置換基にはアルキル基は含まれない。
【0051】
中でも、本発明の効果がより優れ、得られるポリボロシロキサンの安定性がより優れる点で、RおよびRの両方が1価の芳香族基であることが好ましく、これらの両方が1価の芳香族炭化水素基であることがより好ましい。また、Rは、好ましくは1価の芳香族基であり、より好ましくは1価の芳香族炭化水素基である。ポリボロシロキサンの好ましい化学構造の一例は、以下の通りである。
【0052】
【化7】
【0053】
第1のバインダとしてのポリボロシロキサン中には、上述した交互構造(化学式1で表される繰り返し単位と、化学式2で表される繰り返し単位と、を有し、化学式1におけるケイ素原子と化学式2におけるホウ素原子とが酸素原子を介して交互に結合した構造)が主構成単位として含まれることが好ましい。ここで、主構成単位とは、交互構造中の化学式1で表される繰り返し単位と化学式2で表される繰り返し単位との合計含有量が、ポリボロシロキサンの全繰り返し単位に対して、70モル%以上であることを意味し、80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましい。上限は特に制限されず、100モル%が挙げられる。また、本発明の作用効果をより一層顕著に発現させるという観点から、第1のバインダとしてのポリボロシロキサンに含まれるケイ素原子とホウ素原子とのモル比率(Si/B)は、0.4≦Si/B≦0.6を満たすことが好ましく、0.45≦Si/B≦0.55を満たすことがより好ましい。
【0054】
なお、ポリボロシロキサン中には、上記交互構造以外の構造(繰り返し単位)が含まれていてもよく、例えば、化学式1で表される繰り返し単位が連続して結合した構造が含まれていてもよい。ここで、2つの化学式1で表される繰り返し単位が結合する場合、一方の化学式1で表される繰り返し単位の酸素原子が、他方の化学式1で表される繰り返し単位のケイ素原子に結合する。このことは、化学式2で表される繰り返し単位についても同様である。
【0055】
第1のバインダとしてのポリボロシロキサンの数平均分子量(Mn)は特に制限されないが、取扱い性の点から、350~100000が好ましく、5000~50000がより好ましく、10000~50000がさらに好ましい。また、ポリボロシロキサンの分散度(Mw/Mn)は特に制限されないが、取扱い性の点から、1.0~3.5が好ましく、1.1~3.0がより好ましく、1.2~2.5がさらに好ましい。ポリボロシロキサンの形状は特に制限されないが、取扱い性の点から、直鎖状のポリマーであることが好ましい。
【0056】
なお、上記数平均分子量および分散度の測定方法は、下記条件で、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)を用いて行う:
装置:島津製作所製LC-20AD
カラム:東ソー社製 TSK-GEL G3000H
カラム温度:35℃
流速:1.0 mL/min
溶離液:テトラヒドロフラン
検量線:ポリスチレン。
【0057】
第1のバインダとしてのポリボロシロキサンについては、例えば、特開2015-168804号公報の記載に基づいて作製することができる。
【0058】
電極活物質層に含まれるバインダの全量100質量%に対する第1のバインダ(ポリボロシロキサン)の質量割合について特に制限はないが、電池のレート特性をよりいっそう向上させるという観点から、好ましくは10~70質量%であり、より好ましくは15~60質量%であり、さらに好ましくは20~50質量%であり、特に好ましくは20~40質量%である。
【0059】
電極活物質層における第1のバインダ(ポリボロシロキサン)の含有量について特に制限はないが、電池のレート特性をよりいっそう向上させるという観点から、好ましくは1~3質量%であり、より好ましくは1~2質量%である。
【0060】
〈第2のバインダ〉
第2のバインダは、上述したポリボロシロキサン以外のバインダである。ポリボロシロキサン以外のものであれば第2のバインダの具体的な種類について特に制限はない。ただし、第2のバインダは、ビニリデンフルオライド(VdF)に由来する繰り返し単位(VdF単位)を有する重合体を含むことが好ましい。このような構成とすることで、電極活物質層における結着性を確保しつつ、第1のバインダ(ポリボロシロキサン)中で第2のバインダとしての上記重合体を均一に分布させることができる。
【0061】
第2のバインダがビニリデンフルオライド(VdF)に由来する繰り返し単位を有する重合体を含む場合、当該重合体は、VdF単位のみからなるVdFホモポリマー(PVdF)であってもよいし、VdF単位およびVdFと共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位を有するものであってもよい。好ましい一実施形態において、第2のバインダは、PVdFを含む。この際、PVdFにおけるVdF単位の含有量は、PVdFの全繰り返し単位に対して、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限は特に制限されず、100モル%が挙げられる。
【0062】
また、上記重合体がVdF単位およびVdFと共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位を有するものである場合、VdFと共重合可能な単量体としては、フッ素化単量体、非フッ素化単量体等が挙げられ、フッ素化単量体が好ましい。当該フッ素化単量体としては、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フルオロアルキルビニルエーテル、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、(パーフルオロアルキル)エチレン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、トランス-1,3,3,3-テトラフルオロプロペン等が挙げられる。上記非フッ素化単量体としては、エチレン、プロピレン等が挙げられる。中でも、VdFと共重合可能な単量体としては、CTFE、フルオロアルキルビニルエーテル、HFPおよび2,3,3,3-テトラフルオロプロペンからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化単量体が好ましく、CTFE、HFPおよびフルオロアルキルビニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種のフッ素化単量体がより好ましく、HFPが特に好ましい。なお、上記重合体は、上記以外の単量体に由来する繰り返し単位をさらに含むものであってもよい。ここで、上記重合体におけるVdFと共重合可能な単量体単位の含有量は、全単量体単位に対して、好ましくは8.0モル%以下であり、より好ましくは7.0モル%以下であり、さらに好ましくは6.0モル%以下であり、いっそう好ましくは5.0モル%以下であり、特に好ましくは4.0モル%以下であり、特に好ましくは3.0モル%以下である。本明細書において、重合体の組成は、例えば、19F-NMR測定により測定できる。VdFと共重合可能な単量体に由来する繰り返し単位の割合が上記範囲であることにより、電解液への膨潤性、柔軟性が向上しうる。その結果、電極活物質層におけるイオン伝導性や、電子伝導性が向上し、優れた出力特性を発揮することができる(特に、高い放電レートでの放電の際に多くの容量を取り出すことができる)。
【0063】
なお、第2のバインダとしてのビニリデンフルオライド(VdF)に由来する繰り返し単位(VdF単位)を有する重合体は、直鎖状の構造を有するものであることが好ましい。直鎖状の構造を有する重合体は結晶性も高いことから、このような構成によれば、電極活物質層におけるリチウムイオンの拡散経路を確保することにも寄与しうる。なお、本明細書において、「重合体が直鎖状の構造を有する」とは、当該重合体の構成単位100モル%に占める分岐状の構成単位の割合が8モル%以下であることを意味するものとする。
【0064】
また、第2のバインダは、ポリボロシロキサンおよびビニリデンフルオライド(VdF)に由来する繰り返し単位(VdF単位)を有する重合体以外のバインダをさらに含んでもよい。ただし、本発明の効果をより一層発揮させる観点からは、ポリボロシロキサンおよびビニリデンフルオライド(VdF)に由来する繰り返し単位(VdF単位)を有する重合体を含む電極活物質層におけるこれら以外のバインダ(他のバインダ)の含有量は、バインダの総量に対して、好ましくは10質量%以下であり、より好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは3質量%以下であり、特に好ましくは1質量%以下であり、最も好ましくは0質量%である(すなわち、他のバインダを含まない)。他のバインダとしては、特に制限されず、公知の材料を適宜採用できる。
【0065】
電極活物質層に含まれるバインダの全量100質量%に対する第2のバインダの質量割合について特に制限はないが、電池のレート特性をよりいっそう向上させるという観点から、好ましくは30~90質量%であり、より好ましく40~85質量%であり、さらに好ましくは50~80質量%であり、特に好ましくは60~80質量%である。
【0066】
電極活物質層における第2のバインダの含有量について特に制限はないが、電池のレート特性をよりいっそう向上させるという観点から、好ましくは1.5~4質量%であり、より好ましくは2~4質量%であり、さらに好ましくは3~4質量%である。
【0067】
(導電助剤)
電極活物質層は、導電助剤をさらに含むことが好ましい。導電助剤は、正極活物質層中で電子伝導パス(導電通路)を形成する機能を有する。このような電子伝導パスが正極活物質層中に形成されると、電池の内部抵抗が低減し、高レートでの出力特性が向上しうる。導電助剤としては、アセチレンブラック、カーボンブラック、チャンネルブラック、サーマルブラック、ケッチェンブラック(登録商標)等の粒子状炭素材料、およびカーボンナノチューブ(単層カーボンナノチューブおよび複層カーボンナノチューブ)、カーボンナノファイバー、気相成長炭素繊維、電界紡糸法炭素繊維、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維等の繊維状炭素材料が挙げられる。導電助剤は、1種のみが単独で使用されてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0068】
電極活物質層に含まれる導電助剤の含有量は、電極活物質層の全固形分100質量%に対して、2質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましい。かような上限値であると、導電助剤同士の凝集が抑制されることにより電子伝導パスが良好に形成されるため、出力特性をより向上することができる。また、非水電解質二次電池のエネルギー密度をより向上させることが可能となる。なお、導電助剤の含有量の下限値は特に制限されないが、0質量%を超え、0.1質量%以上であることが好ましく、0.2質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがさらに好ましい。かような下限値であると、電子伝導パスを形成するための十分な導電助剤が存在することから、出力特性をより向上することができる。
【0069】
本形態に係る非水電解質二次電池用電極において、電極活物質層の厚さは特に制限されず、電池についての従来公知の知見が適宜参照されうる。一例を挙げると、電極活物質層の厚さは、通常1~1000μm程度、好ましくは20~800μmであり、より好ましくは30~500μmであり、さらに好ましくは40~200μmである。電極活物質層の厚さが大きいほど、十分な容量(エネルギー密度)を発揮するための電極活物質を保持することが可能となる。一方、電極活物質層の厚さが小さいほど、出力特性が向上しうる(特に、高い放電レートでの放電の際に多くの容量を取り出すことができる)。
【0070】
上述したように、本形態に係る非水電解質二次電池用電極は、電極活物質層に含まれるバインダが第1のバインダおよび第2のバインダを含む点に特徴がある。このような構成とすることにより、本形態に係る電極を有する非水電解質二次電池において、レート特性を向上させることができる(特に、高い放電レートでの放電の際に多くの容量を取り出すことができる)。上記効果が奏される詳細なメカニズムは不明であるが、本発明者らは以下のように推測している。ただし、本発明の技術的範囲は下記メカニズムに何ら制限されない。
【0071】
本発明者らの検討によると、第1のバインダ(ポリボロシロキサン)と、ポリボロシロキサン以外の第2のバインダ(例えば、PVdFやPVdF-HFP)とを併用することで、これらを単独で用いる場合と比較して、非水電解質二次電池のレート特性が有意に向上することが判明した。ここで、第1のバインダ(ポリボロシロキサン)のポリマー分子内には大量のホウ素原子が均一に分布している。したがって、第1のバインダとしてポリボロシロキサンを用いることで、ポリボロシロキサン中のホウ素原子によるアニオントラップ効果が発現し、それによって電極活物質層におけるリチウムイオンの輸送経路が好適に形成される。その結果、電極活物質層におけるリチウムイオンの拡散抵抗が低下し、レート特性の大幅な向上が達成されるものと考えられる。
【0072】
《非水電解質二次電池用電極の製造方法》
本発明によれば、上述した本発明の一形態に係る非水電解質二次電池用電極の製造方法もまた、提供する。この製造方法は、電極活物質および上述した第1のバインダを有機溶媒中で混合して混合物を調製することと、上述した第2のバインダを前記混合物に添加し、混合して電極活物質スラリーを調製することと、前記電極活物質スラリーを集電体の表面に塗布して電極活物質層を形成することとを含む点に特徴がある。この製造方法によれば、本発明の一形態に係る非水電解質二次電池用電極が得られる。また、この製造方法によれば、上記とは異なる順序で電極活物質、第1のバインダおよび第2のバインダを添加、混合した場合と比較して、得られる電極を用いた電池のレート特性がより一層向上する。これは、第2のバインダが存在しない状態で第1のバインダが電極活物質の表面を十分に被覆することができ、上述したアニオントラップ効果がより顕著に発現することによるものと考えられる。
【0073】
また、上述した形態に係る製造方法において、第2のバインダの添加前に、上記混合物から有機溶媒を蒸発させることにより除去することをさらに含むことが好ましい。このような構成とすることで、得られる電極を用いた電池のレート特性がより一層向上する。これは、いったん有機溶媒を蒸発により除去することで電極活物質層における構成成分の結着状態が安定化し、その後に第2のバインダを混合したとしてもこの結着状態が維持されることによるものと考えられる。
【0074】
本形態に係る非水電解質二次電池用電極は、非水電解質二次電池に適用されることにより、非水電解質二次電池の出力特性を向上することができる。よって、本発明の他の形態によれば、正極活物質層と、電解質層と、負極活物質層と、がこの順に積層されてなる発電要素を備え、前記正極活物質層または前記負極活物質層の少なくとも1つが、上述した本発明の一形態に係る非水電解質二次電池用電極である非水電解質二次電池が提供される。非水電解質二次電池の電極以外の構成要素について、以下に簡単に説明する。
【0075】
[電解質層]
電解質層は、セパレータに電解液(液体電解質)が含浸されてなる構成を有することが好ましい。
【0076】
(電解液)
電解液は、リチウムイオンのキャリヤーとしての機能を有する。電解液は、非水溶媒にリチウム塩が溶解した形態を有する。
【0077】
非水溶媒は、例えば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジプロピルカーボネート(DPC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、プロピオン酸メチル(MP)、酢酸メチル(MA)、ギ酸メチル(MF)、4-メチルジオキソラン(4MeDOL)、ジオキソラン(DOL)、2-メチルテトラヒドロフラン(2MeTHF)、テトラヒドロフラン(THF)、ジメトキシエタン(DME)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、およびγ-ブチロラクトン(GBL)などが挙げられる。なかでも、非水溶媒は、急速充電特性および出力特性をより向上できるとの観点から、好ましくは鎖状カーボネートであり、より好ましくはジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0078】
リチウム塩としては、Li(FSON(リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド;LiFSI)、Li(CSON、LiPF、LiPO、LiBF、LiClO、LiAsF、LiCFSO等が挙げられる。なかでも、リチウム塩は、電池出力および充放電サイクル特性の観点から、好ましくはLiPF、LiPO等のフッ化リン酸系のリチウム塩を含む。電解液中におけるリチウム塩の濃度は、0.1~3.0mol/Lであることが好ましく、0.8~2.2mol/Lであることがより好ましい。
【0079】
電解液は、上述した成分以外の添加剤をさらに含有してもよい。かような化合物の具体例としては、例えば、エチレンカーボネート、ビニレンカーボネート、メチルビニレンカーボネート、ジメチルビニレンカーボネート、フェニルビニレンカーボネート、ジフェニルビニレンカーボネート、エチルビニレンカーボネート、ジエチルビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1,2-ジビニルエチレンカーボネート、1-メチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-メチル-2-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-1-ビニルエチレンカーボネート、1-エチル-2-ビニルエチレンカーボネート、ビニルビニレンカーボネート、アリルエチレンカーボネート、ビニルオキシメチルエチレンカーボネート、アリルオキシメチルエチレンカーボネート、アクリルオキシメチルエチレンカーボネート、メタクリルオキシメチルエチレンカーボネート、エチニルエチレンカーボネート、プロパルギルエチレンカーボネート、エチニルオキシメチルエチレンカーボネート、プロパルギルオキシエチレンカーボネート、メチレンエチレンカーボネート、1,1-ジメチル-2-メチレンエチレンカーボネートなどが挙げられる。これらの添加剤は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。また、添加剤を電解液に使用する場合の使用量は、適宜調整することができる。
【0080】
(セパレータ)
電解質層を構成するセパレータは、電解質を保持して正極と負極との間のリチウムイオン伝導性を確保する機能、および正極と負極との間の隔壁としての機能を有する。セパレータの形態としては、例えば、上記電解液を吸収保持するポリマーや繊維からなる多孔性シートのセパレータや不織布セパレータ等を挙げることができる。
【0081】
[正極集電板および負極集電板]
集電板(25、27)を構成する材料は、特に制限されず、リチウムイオン二次電池用の集電板として従来用いられている公知の高導電性材料が用いられうる。集電板の構成材料としては、例えば、アルミニウム、銅、チタン、ニッケル、ステンレス鋼(SUS)、これらの合金等の金属材料が好ましい。軽量、耐食性、高導電性の観点から、より好ましくはアルミニウム、銅であり、特に好ましくはアルミニウムである。なお、正極集電板25と負極集電板27とでは、同一の材料が用いられてもよいし、異なる材料が用いられてもよい。
【0082】
[正極リードおよび負極リード]
また、図示は省略するが、集電体11と集電板(25、27)との間を正極リードや負極リードを介して電気的に接続してもよい。正極および負極リードの構成材料としては、公知のリチウムイオン二次電池において用いられる材料が同様に採用されうる。なお、外装体から取り出された部分は、周辺機器や配線などに接触して漏電したりして製品(例えば、自動車部品、特に電子機器等)に影響を与えないように、耐熱絶縁性の熱収縮チューブなどにより被覆することが好ましい。
【0083】
[電池外装体]
電池外装体としては、公知の金属缶ケースを用いることができるほか、図1に示すように発電要素を覆うことができる、アルミニウムを含むラミネートフィルム29を用いた袋状のケースが用いられうる。該ラミネートフィルムには、例えば、PP、アルミニウム、ナイロンをこの順に積層してなる3層構造のラミネートフィルム等を用いることができるが、これらに何ら制限されるものではない。高出力化や冷却性能に優れ、EV、HEV用の大型機器用電池に好適に利用することができるという観点から、ラミネートフィルムが望ましい。また、外部から掛かる発電要素への群圧を容易に調整することができ、所望の電解液層厚みへと調整容易であることから、外装体はアルミネートラミネートがより好ましい。
【0084】
本形態に係る非水電解質二次電池は、優れた出力特性を発揮することができる。したがって、本形態に係る非水電解質二次電池は、EV、HEVの駆動用電源として好適に使用される。
【0085】
なお、以下の実施形態も本発明の範囲に含まれる:請求項2の特徴を有する請求項1に記載の非水電解質二次電池用電極;請求項3の特徴を有する請求項1または2に記載の非水電解質二次電池用電極;請求項4の特徴を有する請求項1~3のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極;請求項5の特徴を有する請求項1~4のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極;請求項6の特徴を有する請求項5に記載の非水電解質二次電池用電極;請求項7の特徴を有する請求項1~6のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極;請求項1~7のいずれかに記載の非水電解質二次電池用電極を含む、請求項8に記載の非水電解質二次電池;請求項10の特徴を有する請求項9に記載の非水電解質二次電池用電極の製造方法。
【実施例0086】
以下、実施例および比較例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明が以下の実施例のみに限定されるわけではない。
【0087】
[実施例1]
<負極の作製>
負極活物質としてのグラファイト(Gr、平均粒子径(D50)=20μm)94質量部と、導電助剤としてのアセチレンブラック(AB、デンカ株式会社製、デンカブラック(登録商標);平均粒子径(一次粒子径):0.023μm)1質量部とからなる粉体組成物を、遊星撹拌型混合混練装置「あわとり練太郎」(ARE-310、株式会社シンキー製)を用いて2000rpmで1分間混合した。次いで、スラリー粘度調整溶媒であるN-メチル-2-ピロリドン(NMP)の適量を上記粉体組成物に添加し、同装置を用いて2000rpmで2分間混合した。その後、第1のバインダとして以下の化学構造:
【0088】
【化8】
【0089】
を有するポリボロシロキサン(PBS、数平均分子量(Mn)=42500、分散度(PDI)(Mw/Mn)=1.2、ケイ素原子とホウ素原子とのモル比率(Si/B)=1.0)1質量部をNMPに溶解させた溶液を添加し、同装置を用いて2000rpmで3分間混合した。その後、得られたスラリーを80℃にて10分間乾燥させて、溶媒を除去した。次いで、第2のバインダとして、直鎖状の構造を有するPVdF(株式会社クレハ製、クレハKFポリマー(登録商標)W#9700)4質量部をNMPに溶解させた溶液をさらに添加し、同装置を用いて2000rpmで4分間混合して、負極活物質スラリーを作製した。負極活物質スラリーを平滑盤上に設置したCu箔(厚さ10μm)の上に、負極活物質質量(負極活物質の目付量)が5mg/cmとなるように、ドクターブレードを用いて均一に塗布し、80℃のホットプレート上で1時間乾燥させた。その後、得られた積層体を、ロールプレス機を用いてプレスした。その後、真空乾燥機に入れ、真空条件下、130℃にて8時間乾燥させて、本実施例の負極を作製した。なお、得られた負極における負極活物質層の空孔率は25%であり、厚さは31μmであった。
【0090】
<リチウムイオン二次電池(コインセル)の作製>
上記で作製した負極と対極Liとを対向させ、この間にセパレータ(ポリオレフィン、厚さ:20μm)を2枚配置した。次いで、負極、セパレータおよび対極(Li金属)の積層体をコインセル(CR2032、材質:ステンレス鋼(SUS316))の底部側に配置した。さらに、電極同士の絶縁性を保つためガスケットを装着し、電解液をシリンジにより注入し、スプリングおよびスペーサを積層し、コインセルの上部側を重ねあわせ、かしめることにより密閉して、本実施例のリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。なお、上記電解液としては、電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒(体積比3:7)にLiPF 1mol/Lを溶解させて得られた電解液を用いた。
【0091】
[実施例2]
第1のバインダ(ポリボロシロキサン)の添加量を2質量部に変更し、第2のバインダ(PVdF)の添加量を3質量部に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、本実施例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0092】
[実施例3]
第1のバインダ(ポリボロシロキサン)の添加量を3質量部に変更し、第2のバインダ(PVdF)の添加量を2質量部に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、本実施例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0093】
[実施例4]
第1のバインダ(ポリボロシロキサン)のNMP溶液および第2のバインダ(PVdF)のNMP溶液を、上記粉体組成物に対して同時に添加し、遊星撹拌型混合混練装置を用いて2000rpmで4分間混合して負極活物質スラリーを作製したこと以外は、上述した実施例3と同じ方法により、本実施例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0094】
[実施例5]
第1のバインダ(ポリボロシロキサン)のNMP溶液と第2のバインダ(PVdF)のNMP溶液との添加順序を逆にして負極活物質スラリーを作製したこと以外は、上述した実施例3と同じ方法により、本実施例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0095】
[実施例6]
第2のバインダとして、PVdFに代えて、直鎖状の構造を有するポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP(1))(Kyner Flex 2851、Arkema製、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位数の割合:2.4モル%)を用いたこと以外は、上述した実施例2と同じ方法により、本実施例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0096】
[実施例7]
第2のバインダとして、PVdFに代えて、直鎖状の構造を有するポリフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン(PVdF-HFP(2))(Kyner Flex 2501、Arkema製、ヘキサフルオロプロピレン由来の構成単位数の割合:6.9モル%)を用いたこと以外は、上述した実施例2と同じ方法により、本実施例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0097】
[比較例1]
第1のバインダのNMP溶液を添加せず、また、グラファイトおよび第2のバインダ(PVdF)の添加量をそれぞれ89質量部および10質量部に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、本比較例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0098】
[比較例2]
第2のバインダのNMP溶液を添加せず、また、第1のバインダ(ポリボロシロキサン)の添加量を5質量部に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、本比較例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)の作製を試みた。しかしながら、負極活物質層を成形することができなかった。
【0099】
[比較例3]
第2のバインダのNMP溶液を添加せず、また、グラファイトおよび第1のバインダ(ポリボロシロキサン)の添加量をそれぞれ91質量部および8質量部に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、本比較例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)の作製を試みた。しかしながら、負極活物質層を成形することができなかった。
【0100】
[比較例4]
第2のバインダのNMP溶液を添加せず、また、グラファイトおよび第1のバインダ(ポリボロシロキサン)の添加量をそれぞれ89質量部および10質量部に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、本比較例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0101】
[比較例5]
第1のバインダのNMP溶液を添加せず、また、第2のバインダ(PVdF)の添加量を5質量部に変更したこと以外は、上述した実施例1と同じ方法により、本比較例の負極およびリチウムイオン二次電池(コインセル)を作製した。
【0102】
[レート特性の評価]
レート特性の評価は、25℃に設定した恒温槽内(エスペック株式会社製)に上記で作製したリチウムイオン二次電池(コインセル)を設置して実施した。具体的には、1C=360mAh/gとし、0.1Cのレートで充放電を3回繰り返した。この際、セル電圧として0.01~2.0Vの範囲で、放電をCC-CVモードで実施し、充電をCCモードで実施した。この際、充電および放電の間の休止時間を8時間とした。その後、0.1Cで0.01VまでCC-CVモードで放電した後、3CでのCCモードでセル電圧2.0Vまで充電を行った。この際に得られた0.1Cでの充電容量(基準容量)に対する3Cでの充電容量(実効容量)の百分率を実効容量比[%]として算出した。結果を下記の表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
表1に示す結果から、第1のバインダ(ポリボロシロキサン)と第2のバインダ(PVdFまたはPVdF-HFP)とを併用している本発明に係る非水電解質二次電池用電極実施例1~7)によれば、レート特性を向上させることができることがわかる。これに対し、第1のバインダと第2のバインダの少なくとも一方を用いていない比較例1~5では、負極活物質層を成形できなかったり、十分なレート特性が達成できていないことがわかる。また、比較例1や比較例4と実施例との対比から、本願発明によれば、より少ないバインダ量でも(つまり、電池のエネルギー密度を高めつつ)、レート特性を向上させうることもわかる。
【0105】
また、実施例3、5および6の対比から、電極活物質および第1のバインダを有機溶媒中に含む混合物を先に得た後、そこへ第2のバインダを添加して得られた負極活物質スラリーを用いて電極活物質層を形成することで、レート特性のより一層の向上が図られることもわかる。
【符号の説明】
【0106】
10a 積層型二次電池、
11a 正極側の最外層集電体、
11b 負極側の最外層集電体、
11’ 正極集電体
12 負極集電体
13 正極活物質層、
15 負極活物質層、
17 電解質層、
19 単電池層、
21 発電要素、
25 正極集電板(正極タブ)、
27 負極集電板(負極タブ)、
29 ラミネートフィルム。
図1