IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アサヒビール株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-発酵飲料及びその製造方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154883
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】発酵飲料及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12C 7/04 20060101AFI20241024BHJP
   C12C 11/02 20060101ALI20241024BHJP
   C12C 7/047 20060101ALI20241024BHJP
   C12C 11/00 20060101ALI20241024BHJP
   C12C 12/04 20060101ALI20241024BHJP
   A23L 2/00 20060101ALI20241024BHJP
   C12G 3/021 20190101ALI20241024BHJP
   C12G 3/025 20190101ALI20241024BHJP
【FI】
C12C7/04
C12C11/02
C12C7/047
C12C11/00 A
C12C11/00 Z
C12C12/04
A23L2/00 H
C12G3/021
C12G3/025
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069088
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】311007202
【氏名又は名称】アサヒビール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 あかね
(72)【発明者】
【氏名】岡田 啓介
【テーマコード(参考)】
4B115
4B117
4B128
【Fターム(参考)】
4B115AG03
4B115AG05
4B115LH11
4B115LP02
4B117LC03
4B117LC10
4B117LG16
4B117LG24
4B117LK23
4B117LK24
4B117LP05
4B117LP06
4B117LP10
4B128CP11
4B128CP21
4B128CP38
4B128CP39
(57)【要約】
【課題】低いアルコール濃度であっても、穀物香の強度のバランス、及びボディ感に優れる発酵飲料及びその製造方法を提供する。
【解決手段】〔1〕でんぷん質原料から糖化液を得る仕込工程、得られた糖化液を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程、及び、得られた発酵液を水で希釈する希釈工程を含み、前記仕込工程において、資化性糖から非資化性糖を生成する酵素、及び、デキストリンを加水分解する酵素を添加する、発酵飲料の製造方法、及び、〔2〕アルコール濃度が4.0vol%未満であり、原麦汁エキス濃度が10質量%未満であり、デキストリン濃度が10.0g/L以下であり、甘味度が5以上である、発酵飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
でんぷん質原料から糖化液を得る仕込工程、
得られた糖化液を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程、及び、
得られた発酵液を水で希釈する希釈工程を含み、
前記仕込工程において、資化性糖から非資化性糖を生成する酵素、及び、デキストリンを加水分解する酵素を添加する、発酵飲料の製造方法。
【請求項2】
前記非資化性糖が、イソマルトオリゴ糖である、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項3】
前記資化性糖から非資化性糖を生成する酵素が、トランスグルコシダーゼを含む、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項4】
前記デキストリンを加水分解する酵素が、デキストリンのα-1,6グルコシド結合を加水分解する酵素、及び、デキストリンのα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項5】
前記デキストリンのα-1,6グルコシド結合を加水分解する酵素が、プルラナーゼを含む、請求項4に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項6】
前記デキストリンのα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素が、マルトース生成型α-アミラーゼを含む、請求項4に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項7】
前記デキストリンのα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素が、耐熱性α-アミラーゼを含む、請求項4に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項8】
前記でんぷん質原料が、麦芽を含む、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項9】
前記発酵飲料は、ビールテイスト飲料である、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項10】
前記発酵飲料のアルコール濃度が、4.0vol%未満である、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項11】
前記希釈工程において、原麦汁エキス濃度を10質量%未満に調整する、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項12】
前記発酵飲料のデキストリン濃度が、10.0g/L以下である、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項13】
前記発酵飲料の甘味度が、5以上である、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項14】
前記発酵液からアルコールを除去する工程を含む、請求項1に記載の発酵飲料の製造方法。
【請求項15】
アルコール濃度が4.0vol%未満であり、
原麦汁エキス濃度が10質量%未満であり、
デキストリン濃度が10.0g/L以下であり、
甘味度が5以上である、発酵飲料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発酵飲料及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ビールと同様のテイストを有しつつ、アルコール濃度の低い低アルコールビールや、実質的にアルコールを含まないノンアルコールビールといったビールテイスト飲料に対する消費者のニーズが高まっている。これらのビールテイスト飲料は、一般的には、アルコール濃度が高いビールを飲めない場合に、ビールの代替として飲まれるものであるため、アルコール濃度以外は、ビールと同等のテイストを有することが好ましい。このため、ビールとより同等のテイストを有するビールテイスト飲料の開発が望まれている。
【0003】
アルコール濃度の低いビールテイスト飲料を製造する方法としては、仕込工程において、発酵前の糖化液にα-グルコシダーゼ(トランスグルコシダーゼ)を添加して、発酵性糖を非発酵性糖に転換する方法が知られている(例えば、特許文献1又は特許文献2参照)。
一方で、発酵性糖からトランスグルコシダーゼにより合成されたイソマルトオリゴ糖は、ショ糖と比較すれば甘味度は低いものの、ある程度の甘味性を有している。このため、トランスグルコシダーゼを添加するビールテイスト飲料を製造する方法においては、通常のビール類と同様のコク味やボディ感が得られる程度にまで、充分な量のイソマルトオリゴ糖を製品中に含有させた場合には、突出した甘味も付与されることとなり、ビールテイスト飲料としての香味、風味の調和度合いとしては好ましくないという問題点があった。
この問題点に対して、特許文献3では、甘味やその他の不自然な香味が突出することなく、通常のビール類と比べて遜色のないバランスの良い味感、風味を有する低アルコール発酵麦芽飲料の製造方法の提供を目的に、最終製品のpHが3.5~4.4になるように有機酸を添加する低アルコール発酵麦芽飲料の製造方法を開示している。
また、特許文献4では、充分なコク味を有しつつ、優れた香味を有し、かつドリンカビリティが高められた低アルコールビールテイスト飲料の製造方法の提供を目的として、最終製品のエキス分に対する苦味価が所定の範囲になるように調整する低アルコールビールテイスト飲料の製造方法を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-68528号公報
【特許文献2】特開平5-68529号公報
【特許文献3】特開2012-239460号公報
【特許文献4】特開2015-133924号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
トランスグルコシダーゼを添加して製造されたビールテイスト飲料には、上記の問題点以外にも、アルコール濃度が低いゆえに、相対的に麦芽由来の穀物香が目立ってしまうという問題がある。アルコール濃度に応じて希釈することで、穀物香の強度のバランスを取ることも可能であるが、そうすると、同時にボディ感が損なわれ、薄っぺらい味感になってしまうという問題が生じてしまう。特許文献3及び特許文献4の技術では、穀物香の強度のバランス及びボディ感については改善の余地があることが判明した。
本発明は、低いアルコール濃度であっても、穀物香の強度のバランス、及びボディ感に優れる発酵飲料及びその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、アルコール濃度が低いビールテイスト飲料においては、デキストリンよりも甘味度の高い糖類の方が、ボディ感の増強に対する寄与が大きいことに着目し、でんぷん質原料から糖化液を得る仕込工程において、資化性糖から非資化性糖を生成する酵素、及び、デキストリンを加水分解する酵素を添加し、さらに、得られた発酵液を水で希釈する希釈工程を含むことにより、上記課題を解決し得ることを見出した。
【0007】
すなわち、本発明は、次の[1]~[15]を提供する。
[1] でんぷん質原料から糖化液を得る仕込工程、
得られた糖化液を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程、及び、
得られた発酵液を水で希釈する希釈工程を含み、
前記仕込工程において、資化性糖から非資化性糖を生成する酵素、及び、デキストリンを加水分解する酵素を添加する、発酵飲料の製造方法。
[2] 前記非資化性糖が、イソマルトオリゴ糖である、前記[1]に記載の発酵飲料の製造方法。
[3] 前記資化性糖から非資化性糖を生成する酵素が、トランスグルコシダーゼを含む、前記[1]又は[2]に記載の発酵飲料の製造方法。
[4] 前記デキストリンを加水分解する酵素が、デキストリンのα-1,6グルコシド結合を加水分解する酵素、及び、デキストリンのα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素からなる群から選択される少なくとも1種を含む、前記[1]~[3]のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
[5] 前記デキストリンのα-1,6グルコシド結合を加水分解する酵素が、プルラナーゼを含む、前記[4]に記載の発酵飲料の製造方法。
[6] 前記デキストリンのα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素が、マルトース生成型α-アミラーゼを含む、前記[4]に記載の発酵飲料の製造方法。
[7] 前記デキストリンのα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素が、耐熱性α-アミラーゼを含む、前記[4]に記載の発酵飲料の製造方法。
[8] 前記でんぷん質原料が、麦芽を含む、前記[1]~[7]のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
[9] 前記発酵飲料は、ビールテイスト飲料である、前記[1]~[8]のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
[10] 前記発酵飲料のアルコール濃度が、4.0vol%未満である、前記[1]~[9]のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
[11] 前記希釈工程において、原麦汁エキス濃度を10質量%未満に調整する、前記[1]~[10]のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
[12] 前記発酵飲料のデキストリン濃度が、10.0g/L以下である、前記[1]~[11]のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
[13] 前記発酵飲料の甘味度が、5以上である、前記[1]~[12]のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
[14] 前記発酵液からアルコールを除去する工程を含む、前記[1]~[13]のいずれかに記載の発酵飲料の製造方法。
[15] アルコール濃度が4.0vol%未満であり、
原麦汁エキス濃度が10質量%未満であり、
デキストリン濃度が10.0g/L以下であり、
甘味度が5以上である、発酵飲料。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低いアルコール濃度であっても、穀物香の強度のバランス、及びボディ感に優れる発酵飲料及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1、比較例1、及び比較例2の発酵飲料の各糖類の含有量を示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[発酵飲料の製造方法]
本発明の発酵飲料の製造方法は、でんぷん質原料から糖化液を得る仕込工程、得られた糖化液を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程、及び、得られた発酵液を水で希釈する希釈工程を含み、前記仕込工程において、資化性糖から非資化性糖を生成する酵素、及び、デキストリンを加水分解する酵素を添加する製造方法である。
本発明において「デキストリン」とは、でんぷん質の加水分解物であって、グルコースの重合度が7以上のオリゴ糖又は多糖を意味する。
【0011】
本発明の発酵飲料の製造方法によれば、低いアルコール濃度であっても、穀物香の強度のバランス、及びボディ感に優れる発酵飲料を得ることができる。その理由は定かではないが、以下のように考えられる。
従来、ビールテイスト飲料のボディ感(コク、飲みごたえ)の増強には、甘味やデキストリンが寄与すると考えられてきた。しかしながら、本発明者らの研究によれば、アルコール濃度が低いビールテイスト飲料においては、デキストリンよりも甘味度の高い糖類の方が、ボディ感の増強に対する寄与が大きいという知見が得られた。この知見から、本発明では、でんぷん質原料から糖化液を得る仕込工程において、資化性糖から非資化性糖を生成する酵素に加えて、デキストリンを加水分解する酵素を添加することにより、従来のビールテイスト飲料中に存在しているデキストリンに代わり、低分子の糖として存在させることができ、その結果、ボディ感を増強させる効果が得られていると考えられる。そして、得られた発酵液を水で希釈する希釈工程を含むことにより、ボディ感を損なうことなく、穀物香の強度を抑制して穀物香のバランスを取ることができるため、低いアルコール濃度であっても、穀物香の強度のバランス、及びボディ感に優れる発酵飲料が得られると考えられる。
【0012】
<仕込工程>
本発明の製造方法は、でんぷん質原料から糖化液を得る仕込工程(以下、単に「仕込工程」ともいう)を含む。
仕込工程においては、でんぷん質原料と原料水とを含む混合物(以下、「マイシェ」ともいう)を調製して加温し、でんぷん質原料のでんぷん質を糖化させる糖化処理を行うことにより、糖化液を得ることが好ましい。
そして、本発明の製造方法では、アルコール濃度を調整する観点、及びボディ感を増強させる観点から、仕込工程において、資化性糖から非資化性糖を生成する酵素、及び、デキストリンを加水分解する酵素を添加する。
【0013】
(でんぷん質原料)
本発明において、でんぷん質原料は、でんぷん質を含む発酵原料であれば特に制限はないが、好ましくは麦芽を含む。
本発明で用いられる麦芽としては、例えば、大麦麦芽、小麦麦芽、ライ麦麦芽、及び燕麦麦芽からなる群から選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。麦芽は、一般的な製麦処理により、大麦、小麦、ライ麦、燕麦等を発芽させることにより得られる。具体的には、収穫された大麦、小麦、ライ麦、燕麦等を、水に浸けて適度に発芽させた後、熱風により焙燥することにより、麦芽を製造することができる。麦芽は、常法により粉砕された粉砕物として用いてもよい。
麦芽以外のでんぷん質原料としては、例えば、大麦、小麦、コーンスターチ、コーングリッツ、米、こうりゃんが挙げられる。
でんぷん質原料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
でんぷん質原料中の麦芽使用比率は、ボディ感を増強させる観点から、好ましくは25質量%以上、より好ましくは40質量%以上、更に好ましくは50質量%以上であり、そして、味わいのバランスを調整する観点から、好ましくは100質量%以下、より好ましくは90質量%以下、更に好ましくは80質量%以下である。
【0015】
また、仕込工程において、でんぷん質原料以外に液糖や砂糖等の糖質原料を添加してもよい。ここで、液糖とは、でんぷん質を酸又は糖化酵素により分解、糖化して製造されるものであり、主にグルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マルトトリオース等が含まれる。
糖質原料は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
(資化性糖から非資化性糖を生成する酵素)
仕込工程において、資化性糖から非資化性糖を生成する酵素を添加することにより、資化性糖が非資化性糖に転換される。具体的には、グルコース、フルクトース、スクロース、マルトース、マルトトリオース等の資化性糖が、コージビオース、ニゲロース、イソマルトース、エルロース、パノース、イソマルトトリオース等の非資化性糖に転換される。これらの中でも、該酵素により生成される非資化性糖としては、アルコール濃度を調整する観点、及びボディ感を増強させる観点から、イソマルトオリゴ糖が好ましい。
イソマルトオリゴ糖は、グルコースを構成糖とし、α-1,6結合、α-1,2結合及びα-1,3結合等を分子内に少なくとも1つ以上有する、重合度2以上10以下のオリゴ糖である。イソマルトオリゴ糖としては、例えば、イソマルトース、イソマルトトリオース、パノースが挙げられる。
本発明において、非資化性糖は発酵工程における発酵には利用されず、アルコールの生成を抑制することができるため、得られる発酵飲料のアルコール濃度を低減することができる。
【0017】
資化性糖から非資化性糖を生成する酵素は、アルコール濃度を調整する観点から、トランスグルコシダーゼを含むことが好ましい。
トランスグルコシダーゼとしては、糖転移反応に対する触媒活性を有する酵素であれば特に制限はなく、各種生物由来のトランスグルコシダーゼを任意に用いることができる。その形状は、液体、粉末、担体に固定化されたものなど、いずれであってもよい。また、市販されているトランスグルコシダーゼを用いてもよい。市販されているトランスグルコシダーゼとしては、例えば、トランスグルコシダーゼL「アマノ」(天野エンザイム株式会社製)が挙げられる。
トランスグルコシダーゼは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0018】
資化性糖から非資化性糖を生成する酵素の添加量は、アルコール濃度を調整する観点から、例えば、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム株式会社製 トランスグルコシダーゼL「アマノ」)を添加する場合には、でんぷん質原料100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.8質量部以下、更に好ましくは0.6質量部以下である。
【0019】
資化性糖から非資化性糖を生成する酵素の添加は、仕込工程終了時点までに添加した酵素による反応が充分に行われる時点であれば特に制限はない。例えば、資化性糖から非資化性糖を生成する酵素としてトランスグルコシダーゼを用いる場合には、トランスグルコシダーゼは、でんぷん質原料と原料水とを含む混合物(マイシェ)の調製時に、でんぷん質原料と共に添加されてもよく、また、でんぷん質原料のでんぷん質の糖化処理時に添加してもよい。本発明においては、酵素反応を充分に進行させる観点から、仕込工程の早い段階でトランスグルコシダーゼを添加することが好ましく、仕込工程におけるマイシェの調製時に添加することがより好ましい。
【0020】
(デキストリンを加水分解する酵素)
仕込工程において、デキストリンを加水分解する酵素を添加することにより、でんぷん質原料のでんぷん質を糖化する際に生成するデキストリンが加水分解されて単糖、二糖、及びオリゴ糖に転換される。
【0021】
デキストリンを加水分解する酵素としては、デキストリンのα-1,6グルコシド結合又はα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素であれば特に制限はない。
デキストリンのα-1,6グルコシド結合を加水分解する酵素としては、プルラナーゼ、イソアミラーゼが挙げられ、プルラナーゼを含むことが好ましい。
デキストリンのα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素としては、α-アミラーゼ、β-アミラーゼが挙げられ、α-アミラーゼを含むことが好ましい。α-アミラーゼとしては、耐熱性α-アミラーゼ及びマルトース生成型α-アミラーゼからなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。
α-1,4グルコシド結合及びα-1,6グルコシド結合を加水分解する酵素としては、グルコアミラーゼが挙げられる。
これらの中でも、デキストリンを加水分解する酵素は、デキストリンの濃度を低減してボディ感を増強させる観点から、好ましくはデキストリンのα-1,6グルコシド結合を加水分解する酵素、及び、デキストリンのα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素からなる群から選択される少なくとも1種を含み、より好ましくはデキストリンのα-1,6グルコシド結合を加水分解する酵素、及び、デキストリンのα-1,4グルコシド結合を加水分解する酵素を含み、更に好ましくはプルラナーゼ及びα-アミラーゼを含み、より更に好ましくはプルラナーゼ、耐熱性α-アミラーゼ、及びマルトース生成型α-アミラーゼを含む。
【0022】
デキストリンを加水分解する酵素の添加量は、デキストリンの濃度を低減してボディ感を増強させる観点から、例えば、プルラナーゼ、耐熱性α-アミラーゼ、及びマルトース生成型α-アミラーゼの複合酵素(Novozymes社製 「Ceremix(登録商標) Flex」)を添加する場合には、でんぷん質原料100質量部に対して、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上、更に好ましくは0.2質量部以上であり、そして、好ましくは1質量部以下、より好ましくは0.8質量部以下、更に好ましくは0.6質量部以下である。
【0023】
デキストリンを加水分解する酵素の添加は、仕込工程終了時点までに添加した酵素による反応が充分に行われる時点であれば特に制限はない。例えば、デキストリンを加水分解する酵素の添加として、プルラナーゼ、耐熱性α-アミラーゼ、及びマルトース生成型α-アミラーゼの複合酵素(Novozymes社製 「Ceremix(登録商標) Flex」)を用いる場合には、プルラナーゼ、耐熱性α-アミラーゼ、及びマルトース生成型α-アミラーゼの複合酵素は、でんぷん質原料と原料水とを含む混合物(マイシェ)の調製時に、でんぷん質原料と共に添加されてもよく、でんぷん質原料のでんぷん質の糖化処理時に添加してもよい。本発明においては、酵素反応を充分に進行させる観点から、仕込工程の早い段階で、プルラナーゼ、耐熱性α-アミラーゼ、及びマルトース生成型α-アミラーゼの複合酵素を添加することが好ましく、仕込工程におけるマイシェの調製時に添加することがより好ましい。
【0024】
(糖化処理)
糖化処理は、マイシェを所定の温度で一定期間保持することにより、でんぷん質原料由来の酵素及び添加する酵素を利用して行う。
マイシェの調製は、35℃以上70℃以下で20分間以上90分間以下保持する等の常法により行うことができる。
糖化処理時の温度及び時間は、でんぷん質原料等の種類及び量、添加する酵素の種類及び量、マイシェの量、目的とする発酵飲料の品質等を考慮して、適宜調整することができる。
例えば、糖化処理は、マイシェを徐々に昇温して50℃以上72℃以下にて30分間以上90分間以下保持することにより行うことができる。
デキストリンを加水分解する酵素として、2種以上の酵素を添加する場合には、マイシェにデキストリンを加水分解する酵素を添加した後、段階的に昇温してそれぞれの酵素の至適温度付近で保持することが好ましい。
糖化処理後においては、76℃以上78℃以下で10分間程度保持して酵素を失活させた後、糖化処理したマイシェを麦汁濾過槽にて濾過することにより、透明な麦汁を糖化液として得ることが好ましい。
【0025】
得られた糖化液(麦汁)は煮沸される。煮沸方法及びその条件は、適宜決定することができる。煮沸処理前又は煮沸処理中に、香草や香料等を適宜添加することにより、所望の香味を有する発酵飲料を製造することができる。
本発明においては、煮沸処理前又は煮沸処理中に、ホップを添加することが好ましい。ホップの存在下で煮沸処理することにより、ホップの風味及び香気を煮出することができる。ホップの添加量、添加態様(例えば数回に分けて添加するなど)、及び煮沸条件は、適宜決定することができる。
煮沸した糖化液(麦汁)は、ワールプールと呼ばれる槽に移し、煮沸により生じたホップ粕や凝固したタンパク質等を除去しておくことが好ましい。その後、プレートクーラーにより適切な発酵温度まで冷却して、冷却した糖化液(麦汁)を得る。該発酵温度は、通常8℃以上15℃以下である。
【0026】
<発酵工程>
本発明の製造方法は、得られた糖化液を酵母により発酵させて発酵液を得る発酵工程(以下、単に「発酵工程」ともいう)を含む。
発酵工程では、仕込工程で得られた冷却した糖化液(麦汁)に酵母を接種して、発酵タンクに移し、発酵を行うことが好ましい。
発酵に用いる酵母は特に制限はなく、通常、酒類の製造に用いられる酵母の中から適宜選択して用いることができる。発酵に用いる酵母は、上面発酵酵母であってもよく、下面発酵酵母であってもよいが、大型醸造設備への適用が容易である観点から、下面発酵酵母であることが好ましい。
本発明においては、発酵工程におけるアルコール発酵を抑制することにより、発酵により生成されるアルコール量がより低減されるため、アルコール濃度が4vol%未満の低アルコールビールやアルコール濃度が1vol%未満のノンアルコールビールをより容易に製造することができる。
【0027】
本発明の製造方法においては、さらに、貯酒工程として、得られた発酵液を、貯酒タンク中で熟成させ、0℃程度の低温条件下で貯蔵して安定化させた後、濾過工程として、熟成後の発酵液を濾過することにより酵母及びタンパク質等を除去することができる。
【0028】
本発明の製造方法においては、アルコール濃度を低減する観点から、得られた発酵液からアルコールを除去する工程(以下、「脱アルコール工程」ともいう)を含んでもよい。アルコールの除去は、減圧蒸留法、逆浸透膜法等の常法により行うことができる。
脱アルコール工程は、希釈工程の前に行うことが好ましい。すなわち、本発明の製造方法が脱アルコール工程を含む場合には、発酵液からアルコールを除去して得られる脱アルコール発酵液を希釈工程に供することが好ましい。
【0029】
<希釈工程>
本発明の製造方法は、穀物香の強度のバランスを調整する観点から、得られた発酵液を水で希釈する希釈工程(以下、単に「希釈工程」ともいう)を含む。希釈工程において、発酵液に水又は炭酸水を添加及び混合することにより発酵飲料を得ることができる。
希釈工程における発酵液の希釈は、製品として所望する原麦汁エキス濃度、アルコール濃度、真正エキス濃度等に合わせて適宜調整することができるが、原麦汁エキス濃度を10質量%未満に調整するように行うことが好ましい。
希釈倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、更に好ましくは1.3倍以上であり、そして、好ましくは6倍以下、より好ましくは4倍以下、更に好ましくは2倍以下である。
本発明の製造方法によれば、通常のビールテイスト飲料の製法に比べて希釈倍率を高くすることができるため、歩留まりを改善することもできる。
【0030】
本発明においては、酵母による発酵工程以降の工程にて、例えばスピリッツと混和することにより、酒税法におけるリキュール類を製造することもできる。
本発明の製造方法により得られた発酵飲料は、通常、充填工程により缶、瓶、樽等の容器に充填されて、製品として出荷される。
【0031】
[発酵飲料]
本発明の発酵飲料は、ビールテイスト飲料であることが好ましい。
本発明において「ビールテイスト飲料」とは、アルコールの含有量とは無関係に、ビールの風味を有する発酵飲料をいう。ビールテイスト飲料の具体例としては、ビール、発泡酒、新ジャンルビール(発泡性酒類のうち、ホップを原料の一部とした酒類で、ビール及び発泡酒に該当しないもの)、低アルコールビール、ノンアルコールビール等が挙げられる。
【0032】
本発明の発酵飲料のアルコール濃度は、4.0vol%未満であることが好ましい。この場合には、本発明の発酵飲料は、アルコール濃度が4.0vol%未満の低アルコールビールやアルコール濃度が1.0vol%未満のノンアルコールビールとすることができる。
アルコール濃度は、発酵飲料全体の体積に対する該発酵飲料に含まれるアルコールの体積の百分率で表され、改訂BCOJビール分析法に規定されている方法(「BCOJビール分析法(2013改訂版)」の「8.3アルコール」に記載の方法)に準じて測定される。
【0033】
本発明の発酵飲料の原麦汁エキス濃度は、穀物香の強度のバランスを調整する観点から、好ましくは10質量%未満、より好ましくは9.5質量%以下、更に好ましくは9.0質量%以下であり、そして、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは3.0質量%以上、更に好ましくは5.0質量%以上、より更に好ましくは7.0質量%以上である。
原麦汁エキス濃度は、改訂BCOJビール分析法に規定されている方法(「BCOJビール分析法(2013改訂版)」の「8.5エキス関係計算法」に記載の方法)に準じて測定される。
【0034】
本発明の発酵飲料のデキストリン濃度は、ボディ感を増強させる観点から、好ましくは10.0g/L以下、より好ましくは7.0g/L以下、更に好ましくは5.0g/L以下であり、下限は特に制限はないが、生産性の観点から、好ましくは0.5g/L以上、より好ましくは1.0g/L以上、更に好ましくは2.0g/L以上である。
デキストリン濃度は、実施例に記載の各糖類の含有量の測定方法において、マルトヘキサオースより分子量の大きい糖の分析値として測定される。
【0035】
本発明の発酵飲料は、ボディ感を増強させる観点から、好ましくはグルコースが2以上6以下結合したオリゴ糖を含有し、より好ましくはマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、及びマルトヘキサオースからなる群から選択される1種以上のオリゴ糖を含有することが好ましい。
【0036】
本発明の発酵飲料中のグルコースが2以上6以下結合したオリゴ糖の合計含有量は、ボディ感を増強させる観点から、好ましくは20g/L以上、より好ましくは25g/L以上、更に好ましくは30g/L以上、より更に好ましくは33g/L以上であり、そして、好ましくは45g/L以下、より好ましくは40g/L以下、更に好ましくは35g/L以下である。
本発明の発酵飲料中のグルコースが2以上6以下結合したオリゴ糖の合計含有量は、実施例に記載の方法により測定される各オリゴ糖の含有量(g/L)の合計値である。
本発明の発酵飲料中のデキストリン濃度(g/L)に対するグルコースが2以上6以下結合したオリゴ糖の合計含有量(g/L)の比[グルコースが2以上6以下結合したオリゴ糖の合計含有量/デキストリン濃度]は、ボディ感を増強させる観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは7以上、より更に好ましくは9以上であり、そして、好ましくは15以下、より好ましくは13以下、更に好ましくは11以下である。
【0037】
本発明の発酵飲料中のマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、及びマルトヘキサオースからなる群から選択される1種以上のオリゴ糖の合計含有量は、ボディ感を増強させる観点から、好ましくは20g/L以上、より好ましくは25g/L以上、更に好ましくは30g/L以上、より更に好ましくは33g/L以上であり、そして、好ましくは45g/L以下、より好ましくは40g/L以下、更に好ましくは35g/L以下である。
本発明の発酵飲料中のマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、及びマルトヘキサオースからなる群から選択される1種以上のオリゴ糖の合計含有量は、実施例に記載の方法により測定される各オリゴ糖の含有量(g/L)の合計値である。
本発明の発酵飲料中のデキストリン濃度(g/L)に対するマルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、及びマルトヘキサオースからなる群から選択される1種以上のオリゴ糖の合計含有量(g/L)の比[マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、及びマルトヘキサオースからなる群から選択される1種以上のオリゴ糖の合計含有量/デキストリン濃度]は、ボディ感を増強させる観点から、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは7以上、より更に好ましくは9以上であり、そして、好ましくは15以下、より好ましくは13以下、更に好ましくは11以下である。
【0038】
本発明の発酵飲料の甘味度は、ボディ感を増強させる観点から、好ましくは5以上、より好ましくは7以上、更に好ましくは9以上であり、そして、好ましくは25以下、より好ましくは20以下、更に好ましくは15以下である。
本発明において「発酵飲料の甘味度」は、発酵飲料に含まれる各糖類のスクロースを1としたときの甘味度と発酵飲料中の各糖類の含有量(g/L)とを乗じた値の合計値として算出される。
【0039】
以上のとおり、本発明の発酵飲料は、アルコール濃度が4.0vol%未満であり、原麦汁エキス濃度が10質量%未満であり、デキストリン濃度が10.0g/L以下であり、甘味度が5以上であることが好ましい。
【実施例0040】
次に実施例を挙げて本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、各種測定は以下のように行った。
【0041】
<原麦汁エキス濃度の測定>
原麦汁エキス濃度の測定は、改訂BCOJビール分析法に規定されている方法(「BCOJビール分析法(2013改訂版)」の「8.5エキス関係計算法」に記載の方法)に準じて行った。
【0042】
<アルコール濃度の測定>
アルコール濃度の測定は、改訂BCOJビール分析法に規定されている方法(「BCOJビール分析法(2013改訂版)」の「8.3アルコール」に記載の方法)に準じて行った。
【0043】
<真正エキス濃度の測定>
真正エキスの測定は、改訂BCOJビール分析法に規定されている方法(「BCOJビール分析法(2013改訂版)」の「8.4真正(性)エキス」に記載の方法)に準じて行った。
【0044】
<各糖類の含有量の測定>
発酵飲料中の各糖類の含有量(g/L)は、高速液体クロマトグラフィーにより測定した。
(HPLC条件)
装置:高速液体クロマトグラフ「LC-20A」(株式会社島津製作所製)
カラム:糖分析用カラム「アミネックスHPX-42A」(300×7.8mm、Bio-RAD社製)
カラム温度:80℃
検出器:示差屈折率検出器
移動相:超純水
流速:0.5mL/min
サンプルの調製:発酵飲料を超純水(ミリQ水)で希釈した後、0.45μmのフィルターでろ過し、サンプルを得た。
サンプル注入量:5μL
なお、各糖類は、D(-)フルクトース、D(+)グルコース、マルトース一水和物、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースの試薬を用い、試薬のピークと同一の箇所をそれぞれ、フルクトース、グルコース、マルトース、マルトトリオース、マルトテトラオース、マルトペンタオース、マルトヘキサオースとした。
本分析方法の特性上、分岐鎖糖は分離していない。このため、マルトースの分析値は、マルトース、イソマルトース、トレハロース、コージビオース、及びニゲロースの合計量であり、マルトトリオースの分析値は、マルトトリオース、イソマルトトリオース、及びパノースの合計量であり、マルトテトラオースの分析値は、マルトテトラオース及びイソマルトテトラオースの合計量であり、マルトペンタオースの分析値は、マルトペンタオース及びイソマルトペンタオースの合計量であり、マルトヘキサオースの分析値は、マルトヘキサオース及びイソマルトヘキサオースの合計量である。
マルトヘキサオースより分子量の大きい糖の分析値を、高重合度画分(デキストリン)として測定した。
【0045】
<発酵飲料の甘味度の算出>
発酵飲料に含まれる各糖類のスクロースを1としたときの甘味度(表1及び表2に示す括弧内の数値)と発酵飲料中の各糖類の含有量(g/L)とを乗じた値の合計値を、発酵飲料の甘味度として算出した。
【0046】
[実施例1]
硬度調整した湯に、でんぷん質原料の使用量に対する原料水の使用量の質量比(張り湯比)4となるように、でんぷん質原料として麦芽の粉砕物20kg及びコーンスターチ20kgを添加及び混合した後、プルラナーゼ、耐熱性α-アミラーゼ、及びマルトース生成型α-アミラーゼの複合酵素(Novozymes社製 「Ceremix(登録商標) Flex」)をでんぷん質原料1kgに対して4g、並びに、トランスグルコシダーゼ(天野エンザイム株式会社製 トランスグルコシダーゼL「アマノ」)をでんぷん質原料1kgに対して4g添加して、50℃で30分間、64.5℃で45分間、70℃で10分間の3段のダイヤグラムで加温することにより糖化処理を行い、その後、76℃で酵素失活を行い、糖化処理したマイシェを得た。
糖化処理したマイシェを濾過し、得られた糖化液(麦汁)を煮沸釜に入れ、原麦汁エキス濃度12質量%になるように水を添加した。次いで、ホップを適量添加し、70分間煮沸した後、原麦汁エキス濃度が12質量%になるように加水調整し、ワールプール(旋回分離槽)で固液分離した後、熱交換器によって麦汁を冷却した。
次いで、冷却した麦汁に酵母を添加して発酵させて、発酵液を得た。
得られた発酵液は製品として所望する原麦汁エキス濃度に合わせて希釈及び濾過による清澄化を行い、発酵飲料を得た。
【0047】
[比較例1]
実施例1において、プルラナーゼ、耐熱性α-アミラーゼ、及びマルトース生成型α-アミラーゼの複合酵素を添加しないこと、及び、発酵液を希釈する際の希釈倍率を実施例1のアルコール濃度と同じとなるように変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、発酵飲料を得た。
【0048】
[比較例2]
比較例1と同様の方法により得られた発酵液を用いて、希釈倍率を実施例1の原麦汁エキス濃度と同じとなるように変更して発酵飲料を得た。
【0049】
得られた発酵飲料について、原麦汁エキス濃度、アルコール濃度、真正エキス濃度、及び各糖類の含有量を測定し、甘味度を算出した。結果を表1に示す。図1には、実施例1、比較例1、及び比較例2の発酵飲料の各糖類の含有量を示す。
また、ビールの専門パネリスト10名によって、下記の穀物香及びボディ感の官能評価を行った。
<穀物香及びボディ感の官能評価>
市販のレギュラービール(アルコール濃度5vol%のピルスナービール)を基準として、穀物香及びボディ感の強度がそれぞれ同等であるか否か、その度合いに応じて下記評価基準により各専門パネリストによる評価を行い、10名の専門パネリストの平均値の小数点以下第1位を四捨五入した値を評価点として表1に示す。
〔評価基準〕
4:市販のレギュラービールと同等である。
3:市販のレギュラービールとほぼ同等である。
2:市販のレギュラービールよりやや劣る。
1:市販のレギュラービールよりかなり劣る。
【0050】
【表1】
【0051】
表1より、比較例1の発酵飲料は、ボディ感はあるものの、穀物香が強すぎて、ビールテイスト飲料としてのバランスを損なっている。また、比較例2の発酵飲料は、比較例1の発酵飲料を更に希釈しているため、ビールテイスト飲料としての穀物香の強度は適しているが、ボディ感が乏しくなっている。
一方、表1及び図1より、実施例1の発酵飲料は、比較例1及び比較例2の発酵飲料と比べて、糖類の総含有量は低いにもかかわらず、穀物香及びボディ感のいずれもビールテイスト飲料として適した強度となっている。これは、仕込工程において、デキストリンを加水分解する酵素を添加したため、図1に示すように、デキストリン濃度は減少したものの、比較的甘味度の高いオリゴ糖が生成したためボディ感が増強され、さらに、得られた発酵液を水で希釈する希釈工程を含むことにより穀物香の強度が最適になるように調整することができたため、穀物香の強度のバランス及びボディ感に優れた発酵飲料が得られたものと考えられる。
また、表1より、実施例1では、得られた発酵液を水で希釈する希釈工程を含むことにより穀物香の強度が最適になるように調整することができるため、比較例1と同程度のボディ感を有していながら、同じ原料の投入量からより多くの発酵飲料を製造することが可能となり、歩留まりも向上させることができることが分かる。
【0052】
[実施例2、比較例3、比較例4]
実施例1、比較例1、比較例2の発酵飲料の製造において、得られた発酵液を90mbar付近の減圧下で、脱ガスタンク内にスプレーして炭酸ガスを除去した後、プレートクーラーを用いて50℃付近まで加熱した。その後、90mbar付近の減圧カラム内で50℃付近に加熱した水蒸気と接触させ、揮発成分を水蒸気に吸着させ、アルコール及び揮発成分を除去し、アルコール濃度0.5vol%の脱アルコール発酵液を得た。
得られた脱アルコール発酵液に脱気水を加えることで真正エキス濃度が実施例1、比較例1、比較例2と同様になるように希釈し、ガス圧が2.9ガスボリュームとなるように炭酸ガスを溶解させて発酵飲料を得た。
【0053】
得られた発酵飲料について、実施例1、比較例1、比較例2と同様に、アルコール濃度、真正エキス濃度、及び各糖類の含有量を測定し、甘味度を算出した。結果を表2に示す。
また、ビールの専門パネリスト10名によって、前記と同様の方法により、穀物香及びボディ感の官能評価を行った。
【0054】
【表2】
【0055】
実施例2、比較例3、比較例4は、脱アルコール工程を経て、実施例1、比較例1、比較例2に比べてアルコール濃度を更に低減した例であるが、実施例2の発酵飲料は、糖類の総含有量は低いにもかかわらず、比較例3及び比較例4の発酵飲料と比べて、穀物香及びボディ感のいずれもビールテイスト飲料としてより適した強度となっている。このことから、アルコール濃度を低くした場合であっても、実施例1、比較例1、比較例2と同様の傾向を示すことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明によれば、低いアルコール濃度であっても、穀物香の強度のバランス、及びボディ感に優れる発酵飲料を得ることができ、その製造方法は低アルコールビールテイスト飲料やノンアルコールビールテイスト飲料等のビールテイスト飲料の製造方法に幅広く適用可能である。また、これらのビールテイスト飲料は、一般的には、アルコール濃度が高いビールを飲めない場合に、ビールの代替として飲まれるものとして消費者のニーズにも応えることができる。
図1