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特開2024-154884動物の腸内環境改善用組成物及びその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154884
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】動物の腸内環境改善用組成物及びその使用
(51)【国際特許分類】
   A23K 10/38 20160101AFI20241024BHJP
【FI】
A23K10/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069089
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000115991
【氏名又は名称】ロート製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149032
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 敏明
(74)【代理人】
【識別番号】100181906
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 一乃
(72)【発明者】
【氏名】菊地 数晃
(72)【発明者】
【氏名】島田 洋平
(72)【発明者】
【氏名】山田 耕太郎
【テーマコード(参考)】
2B150
【Fターム(参考)】
2B150AA02
2B150AA03
2B150AA05
2B150AB05
2B150BB01
2B150CC05
(57)【要約】
【課題】
本発明の目的は、未利用資源を有効利用しつつも、肉質や脂肪の質に優れた食用肉を得るために、動物の腸内環境を改善すると共に健全な肥育を促進し得る組成物を提供することにある。
【解決手段】
上記目的は、酒類の醸造粕を含む組成物等により解決される。また、当該組成物においては、酒類の醸造粕が、泡盛の醸造粕であることが好ましい。さらに、当該組成物は、酒類の醸造粕と固形飼料とを含む発酵原料が発酵処理に供された発酵物であることが好ましい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酒類の醸造粕を含む、動物の腸内環境改善用組成物。
【請求項2】
酒類の醸造粕を含む、動物の脂肪質改善用組成物。
【請求項3】
酒類の醸造粕を含む、動物の腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
【請求項4】
酒類の醸造粕を含む、動物の腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加用組成物。
【請求項5】
酒類の醸造粕を含む、動物の肥育促進用組成物。
【請求項6】
前記酒類の醸造粕が、泡盛の醸造粕である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、前記酒類の醸造粕と固形飼料とを含む発酵原料が発酵処理に供された発酵物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記短鎖脂肪酸が、酢酸、酪酸及びプロピオン酸からなる群から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸である、請求項3又は4に記載の組成物。
【請求項9】
前記短鎖脂肪酸産生菌が、Clostridium属、Roseburia属、Prevotella属、Ruminococcus属、Copracoccus属、Butyrivibrio属、Eubacterium属、Bifidobacterium属、Anaerobutyricum属及びBacteroides属からなる群から選択される少なくとも1種の細菌である、請求項4に記載の組成物。
【請求項10】
前記動物は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、トリ、ウマ及びシカからなる群から選ばれる少なくとも1種の動物である、請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物を動物に給餌する工程を含む、動物の肥育促進方法。
【請求項12】
請求項1~5のいずれか1項に記載の組成物を動物に給餌して、動物の腸内環境を改善する工程を含む、動物の腸内環境改善方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酒類の醸造粕を含む動物の腸内環境改善用組成物及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
食用肉の肉質を改良する方法は、食肉加工を改善する方法と、食用肉となる家畜の飼育方法を改善する方法とに大別される。家畜の飼育方法を改善するために、家畜に給餌する飼料がしばしば見直される。
【0003】
例えば、ウシの飼料としては、稲ワラ、牧草などの繊維質が多く含まれる粗飼料と、デンプン、タンパク質などの栄養素を多く含み、栄養価が高い穀物主体の濃厚飼料とがある。粗飼料及び濃厚飼料の配合割合を変えること、濃厚飼料に含まれる栄養素を変えることなどにより、飼育方法を介してウシの肉質の改良が試みられている。
【0004】
また、粗飼料及び濃厚飼料に加えて、ウシの成長及び肉質を改良する成分を添加物として使用する方法がある。例えば、ウシの成長促進を目的として、テトラサイクリン、アボパルシン等の抗生物質を添加物として飼料に添加する方法がある。しかし、これらの抗生物質は、ウシの体内において突然変異による耐性菌を誘発するおそれがあるだけでなく、ウシの体内に残留して食肉等を介して人体に取り込まれる危険性がある。
【0005】
このような状況下から、添加物を使用する場合は、抗生物質とは別の添加物を使用することが望ましい。そのような添加物の一つとして、家畜の腸内環境の改善効果を期待した添加物がある。例えば、ヒトの食品や家畜の飼料に対してオリゴ糖等のプレバイオティクスを添加し、腸内細菌叢を改善することが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
腸内細菌叢は、腸内フローラともいわれ、腸内の細菌が構成する体内の生態系である。腸内細菌叢は、腸管上皮を介して宿主と相互作用しており、例えば、便秘、下痢、感染症、アレルギー性疾患、炎症性腸疾患、肥満及び糖尿病などの種々の疾患に関係することが明らかになっている。
【0007】
腸内細菌が生産する物質の一つとして、短鎖脂肪酸がある。短鎖脂肪酸は、有機酸の一種であり、腸内細菌が腸内で消化されにくい食物繊維やオリゴ糖を発酵することにより生成される。腸内細菌によって生成された短鎖脂肪酸は、腸の粘膜上皮から吸収され、腸上皮細胞の増殖や粘液分泌の促進を図り、腸上皮細胞のエネルギー源として利用される。短鎖脂肪酸の一部は、血流に乗って全身に運ばれ、肝臓や腎臓、筋肉等の組織でエネルギー源として利用され、脂肪を合成する材料として利用される。さらに、短鎖脂肪酸が生成することによって腸内のpHが低下し、病原性微生物が生育しにくい環境が生まれ、腸内細菌叢のバランスが整えられる。その他、腸管上皮細胞のバリア機能の強化や感染防御の手助けとなること、腸管を刺激して腸の蠕動運動を高めて便通を促すことなどが知られている(例えば、非特許文献1及び2参照)。
【0008】
このような短鎖脂肪酸の効果に着目して、短鎖脂肪酸の産生量に対する家畜動物の生産性の関係性を検証した研究も行われている(例えば、非特許文献3及び4参照)。
【0009】
一方で、酒類の製造工程においては、副産物として醸造粕が産生される。このような醸造粕は、昨今の持続可能な開発目標(SDGs)の観点から、廃棄ロスの削減のため、有効利用が求められている。しかし、例えば、泡盛の醸造粕である泡盛粕は、沖縄県内で年間約4万tが排出され、そのうちの30%にあたる1.2万tが利用されずに廃棄物処理されている(例えば、非特許文献5参照)。泡盛粕は、クエン酸などの有機酸や必須アミノ酸が豊富に含まれているため、圧搾ろ過などの固液分離に供して得られる液体が「もろみ酢」として利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特表2018-509176号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】C.E.Stevwns,I.D.Hume.“Comparative physiology of the vertebrate digestive system”,2nd ed.,CambridgeUniversity Press,Cambridge.(1995)
【非特許文献2】宇佐美眞他、外科領域における短鎖脂肪酸投与効果、外科と代謝・栄養 44:129-139、2010
【非特許文献3】Uryu,Tsukahara et al.,2020.Microorganisms
【非特許文献4】Inoue,Tsukahara et al.,2021.Pathogens
【非特許文献5】沖縄県畜産研究センター研究報告、第49号(2011)、pp.41-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1に記載の方法によれば、腸内細菌叢が改善されることが期待される。しかし、飼料へのプレバイオティクス等の添加は食用肉の生産コスト増加に直結することから、経済的に不利である。また、SDGsの観点に立てば、新たに製造された物質を使用することよりも、これまでに利用されていない資源を有効利用することが望ましい。
【0013】
泡盛粕はもろみ酢などとして有効利用することが期待されている。しかし、非特許文献5に記載されているように、泡盛粕は水分量が多く、収集が困難であり、有効利用するには一定の制限がある。
【0014】
そこで、本発明は、未利用資源を有効利用しつつも、肉質や脂肪の質に優れた食用肉を得るために、動物の腸内環境を改善すると共に健全な肥育を促進し得る組成物を提供することを、発明が解決しようとする課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行う中で、未利用資源として泡盛粕といった酒類の醸造粕に着目した。そして、本発明者らはさらに試行錯誤を繰り返して、酒類の醸造粕と濃厚飼料である固形飼料とを混合し、さらに得られた混合物を自然発酵することにより、新たな発酵飼料を作製することに成功した。そして、この発酵飼料をウシに給餌したところ、驚くべきことに、飼育したウシから得られた食用肉は、市販の食用肉に比べ、モノ不飽和脂肪酸(MUFA)の量が多く、脂肪質が良好であり、嗜好性に優れるものであった。
【0016】
そこで、本発明者らは、この肉質改善作用の原因について究明したところ、上記飼料を給餌したウシの糞便において、短鎖脂肪酸の量が増加していることがわかった。さらに、このことを裏付ける事実として、ウシの腸内細菌叢中の細菌構成比から、糞便中の短鎖脂肪酸産生菌が増加していることがわかった。短鎖脂肪酸は、ウシといった反芻家畜の腸内環境を改善し、さらに筋肉、肝臓といった組織などの主要なエネルギー源になり、脂肪を合成する材料として利用される。したがって、ウシの腸内における短鎖脂肪酸量の増加が、栄養価が高く良好な脂肪質である嗜好性の優れた食用肉を得ることに結びつくと考えられる。
【0017】
上記の知見を基にして、本発明者らは、遂に、本発明の課題を解決できるものとして、酒類の醸造粕を含む組成物及びその使用方法を創作することに成功した。本発明はこのような成功例や、本発明者らによって初めて見出された知見に基づいて完成するに至った発明である。
【0018】
したがって、本発明の一態様によれば、以下のものが提供される:
[1]酒類の醸造粕を含む、動物の腸内環境改善用組成物。
[2]酒類の醸造粕を含む、動物の脂肪質改善用組成物。
[3]酒類の醸造粕を含む、動物の腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物。
[4]酒類の醸造粕を含む、動物の腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加用組成物。
[5]酒類の醸造粕を含む、動物の肥育促進用組成物。
[6]前記酒類の醸造粕が、泡盛の醸造粕である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[7]前記組成物が、前記酒類の醸造粕と固形飼料とを含む発酵原料が発酵処理に供された発酵物である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[8]前記短鎖脂肪酸が、酢酸、酪酸及びプロピオン酸からなる群から選択される少なくとも1種の短鎖脂肪酸である、[3]又は[4]に記載の組成物。
[9]前記短鎖脂肪酸産生菌が、Clostridium属、Roseburia属、Prevotella属、Ruminococcus属、Copracoccus属、Butyrivibrio属、Eubacterium属、Bifidobacterium属、Anaerobutyricum属及びBacteroides属からなる群から選択される少なくとも1種の細菌である、[4]に記載の組成物。
[10]前記動物は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、トリ、ウマ及びシカからなる群から選ばれる少なくとも1種の動物である、[1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物。
[11][1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物を動物に給餌する工程を含む、動物の肥育促進方法。
[12][1]~[5]のいずれか1項に記載の組成物を動物に給餌して、動物の腸内環境を改善する工程を含む、動物の腸内環境改善方法。
[13]酒類の醸造粕を含む、食用肉の食味改善用組成物。
[14]酒類の醸造粕を含む、牛肉の食味改善用組成物。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、動物への給餌を通じて、腸内の短鎖脂肪酸産生菌が相対的に増加し、短鎖脂肪酸の産生量が促進されるために、動物の腸内環境が改善し、健全な肥育が促進される。その結果、本発明によれば、モノ不飽和脂肪酸の量が増加し、ほどよく脂身が分散した栄養価の高い脂肪質であって食味の優れた食用肉が得られる。また、本発明の一態様の組成物は、有効成分である酒類の醸造粕が産業廃棄物として処理される未利用資源であることから、SDGsの観点から、持続的社会の一助になるという側面を併せもつことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、後述する実施例に記載されているとおりの、糞便中の酢酸量の結果を示した図である。
図2図2は、後述する実施例に記載されているとおりの、糞便中のプロピオン酸量の結果を示した図である。
図3図3は、後述する実施例に記載されているとおりの、糞便中の酪酸量の結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の各態様の詳細について説明するが、本発明の技術的範囲は本項目の事項によってのみに限定されるものではなく、本発明はその目的を達成する限りにおいて種々の態様をとり得る。
【0022】
本明細書における各用語は、別段の定めがない限り、当業者により通常使用される意味で使用され、不当に限定的な意味を有するものとして解釈されるべきではない。
【0023】
「組成物」は、通常用いられている意味のものとして特に限定されないが、例えば、2種以上の成分が組み合わさってなる物である。
「含有量」との用語は、本明細書において、濃度と同義であり、組成物の全体量(例えば、体積)に対する成分の量(例えば、質量)の割合(例えば、質量%)を意味する。
「含む」は、含まれるものとして明示されている要素以外の要素を付加できることを意味する(「少なくとも含む」と同義である)が、「からなる」及び「から本質的になる」を包含する。すなわち、「含む」は、明示されている要素及び任意の1種若しくは2種以上の要素を含み、明示されている要素からなり、又は明示されている要素から本質的になることを意味し得る。要素としては、成分、工程、条件、パラメーターなどの制限事項などが挙げられる。
数値範囲の「~」は、その前後の数値を含む範囲であり、例えば、「0%~100%」は、0%以上であり、かつ、100%以下である範囲を意味する。「超過」及び「未満」は、その前の数値を含まずに、それぞれ下限及び上限を意味し、例えば、「1超過」は1より大きい数値であり、「100未満」は100より小さい数値を意味する。
整数値の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、1の有効数字は1桁であり、10の有効数字は2桁である。また、小数値は小数点以降の桁数と有効数字の桁数とは一致する。例えば、0.1の有効数字は1桁であり、0.10の有効数字は2桁である。
【0024】
「動物の腸内環境改善作用」は、動物の腸内細菌叢中において、短鎖脂肪酸産生菌が相対的に増加する作用を意味する。
「動物の脂質改善作用」は、肉脂質中の脂肪酸組成が変化し、多価不飽和脂肪酸やモノ不飽和脂肪酸の含有率が増加することにより、脂質が改善する作用を意味する。
「動物の腸内短鎖脂肪酸産生促進作用」は、動物の腸管内の短鎖脂肪酸の産生を促進する作用を意味する。
「動物の腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加作用」は、動物の腸内細菌叢中において、短鎖脂肪酸産生菌が相対的に増加する作用を意味する。
「動物の肥育促進作用」は、動物の肥育を促進する作用を意味する。
動物の腸内環境改善作用、動物の脂質改善作用、動物の腸内短鎖脂肪酸産生促進作用、動物の腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加作用及び動物の肥育促進作用を総称して「有効作用」とよぶ。有効作用は、これらの作用のいずれか1種、2種、3種、4種又は5種全ての作用をいう。
【0025】
本発明の一態様の組成物は、酒類の醸造粕を有効成分として含む。そして、本発明の一態様の組成物は、有効成分を含むことにより、動物の腸内環境改善作用、動物の脂質改善作用、動物の腸内短鎖脂肪酸産生促進作用、動物の腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加作用及び動物の肥育促進作用からなる群から選ばれる少なくとも1種の有効作用を発揮する。本発明の一態様の組成物は、有効作用を有することにより、代表的には、動物の腸内環境改善用組成物、動物の脂質改善用組成物、動物の腸内短鎖脂肪酸産生促進用組成物、動物の腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加用組成物、動物の肥育促進用組成物等の態様をとり得る。また、本発明の一態様の組成物は、有効作用を有することにより、食用肉の食味改善用組成物、牛肉の食味改善用組成物等の態様もとり得る。さらに、本発明の別の一態様は、動物に酒類の醸造粕を給餌して、動物の肥育を促進する方法、又は動物の腸内環境を改善する方法である。
【0026】
後述する実施例に示される事実から導き得る事項は以下のとおりである。
固形飼料に泡盛粕を混合したものをウシに3ヶ月間投与し、ウシの糞便中における短鎖脂肪酸の量を確認したところ、短鎖脂肪酸である酢酸、プロピオン酸及び酪酸の量が増加していることがわかった。このことから、ウシが泡盛粕を含む組成物を摂取することによって、腸内の短鎖脂肪酸の産生を促進することができると考えられる。そして、糞便中における短鎖脂肪酸量増加の事実に基づき、ウシの糞便中における短鎖脂肪酸産生菌の占有率についても確認したところ、Clostridium属等を代表に短鎖脂肪酸産生菌の占有率が増大していることがわかった。このことから、ウシが泡盛粕を含む組成物を摂取することによって、腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌が相対的に増加されると考えられる。短鎖脂肪酸は、動物の肝臓や腎臓、筋肉等の組織でエネルギー源として利用され、脂肪を合成する材料としても利用されることから、肉脂質においては、脂肪酸組成が変化し、多価不飽和脂肪酸やモノ不飽和脂肪酸の含有率が増加し、脂質が改善することが期待される。また、短鎖脂肪酸は、弱酸性であることから、短鎖脂肪酸量の増加は、腸内環境を弱酸性に維持し、病原性微生物等の有害な菌の増殖を抑制し、腸内細菌叢のバランスを調整することが期待される。以上のことから、固形飼料に泡盛粕を混合したものをウシに3ヶ月間投与することによって、ウシの腸内細菌叢中において、短鎖脂肪酸産生菌が相対的に増加することに伴って短鎖脂肪酸量が増加するため、腸内環境が改善され、その結果、腸疾患、免疫疾患、代謝疾患等の種々の疾患の予防が期待されると共に、健全な肥育を促進することができ、ひいては、栄養価が高く肉脂質が向上し、嗜好性の優れた家畜動物を育成することができると考えられる。
【0027】
[酒類の醸造粕]
本発明の一態様の組成物は、酒類の醸造粕を有効成分として含有する。酒類の醸造粕は、酒類の製造工程において産生される副産物(残渣)であり、いわゆる酵母発酵物である。
酒類の醸造粕は、飲食品等として使用実績があることから、動物に安全なものである。また、大部分が廃棄物として処理されていることからも、入手するに際して経済的に有利である。
【0028】
酒類としては、特に限定されないが、清酒、焼酎(泡盛を含む)、果実酒類(ワイン等)、ウイスキー類、スピリッツ類、リキュール類、ビール、発泡酒類等が挙げられる。これらの中でも、特に泡盛が好ましい。
【0029】
酒類の醸造粕としては、市販されているものを使用しても、公知の方法で得られたものを使用してもよい。
酒類の醸造粕は、残渣をそのまま使用することが好ましいが、適当な手段で固液分離し、液体部分をそのまま、あるいは濃縮した濃縮液や、さらにこれを乾燥した乾燥物として使用することもできる。または、固液分離した固体部分をそのまま、あるいは乾燥した乾燥物、さらに粉末にして粉末物として使用してもよい。
【0030】
ここで、泡盛粕は、泡盛の製造工程で生じる残渣である。泡盛は、通例、原料のタイ米(インディカ米)に黒麹を添加して米麹とし、これに水と酵母を加えてもろみを調製した後、アルコール発酵することにより熟成もろみとし、この熟成もろみを蒸留することにより製造される。熟成もろみの蒸留工程における蒸留残渣が泡盛粕である。泡盛粕については、泡盛の製造に使用されるタイ米や黒麹、酵母などに特に制限はない。
【0031】
泡盛粕の成分としては、特に限定されないが、通常、例えば、水分(95%±3%)、粗タンパク質(3%±1%)、粗繊維(1%±1%)、粗脂肪(0.5%±0.5%)、粗灰分(0.1%±0.1%)などとされる。
また、泡盛粕には、クエン酸などの酸が含まれるため、泡盛粕のpHは低く、弱酸性であり、具体的には、3.0~6.0程度である。
【0032】
本発明の一態様の組成物において、酒類の醸造粕の含有割合は、本発明の課題を解決し得れば、特に限定されない。
本発明の一態様の組成物においては、酒類の醸造粕が含まれていれば、本発明の課題を解決し得る限り、他の成分が含まれていてもよい。
本発明の一態様の組成物の形態は、本発明の課題を解決し得る限り、特に限定されず、例えば、液体、固体、粉体等が挙げられるが、動物への給餌効率の観点から、粉体であることが好ましい。
【0033】
[固形飼料]
本発明の一態様の組成物においては、栄養価の観点から、酒類の醸造粕に加え、固形飼料を含むことが好ましい。
固形飼料としては、家畜の固形飼料として一般的に使用されるものであれば、特に限定されない。
例えば、固形飼料は、牧草や穀類などを粉砕、混合及び/又は乾燥などして加工した固形状の飼料である。特に、穀実類、油かす類、ぬか類、製造粕類、動物性飼料などで調製され、繊維が少なく、デンプンやタンパク質などの栄養濃度が高い固形状(粉体状)の濃厚飼料が好ましい。
【0034】
固形飼料としては、市販されているものを使用しても、公知の製造方法で製造したものを使用してもよい。
固形飼料の市販品としては、例えば濃厚飼料である「JA石垣牛 後期」(沖縄県農業協同組合製)(穀類73%(とうもろこし、加熱処理大麦、加熱処理とうもろこし、大麦)、そうこう類18%(ふすま、コーングルテンフィード、米ぬか)、植物性油かす類7%(なたね油かす、大豆油かす)、その他2%(糖蜜、食塩、炭酸カルシウム))が挙げられる。
【0035】
固形飼料の形態は、特に限定されないが、例えば、粉体状、ペレット状、フレーク状などが挙げられる。
固形飼料の含水量は、15質量%以下、より具体的には、5質量%~15質量%であることが好ましい。
また、固形飼料のpHは、特に限定されないが、6.0~7.5程度であることが好ましい。
【0036】
[発酵物]
本発明の一態様の組成物においては、さらなる栄養価増強の観点から、酒類の醸造粕と固形飼料とを少なくとも含む飼料原料が発酵処理に供された発酵物であることが好ましい。
【0037】
発酵物は、少なくとも酒類の醸造粕及び固形飼料を含む飼料原料に含有(付着)される微生物や空気中に存在する落下菌による自然発酵物である。自然発酵を行う微生物は、麹菌、酵母、乳酸菌、酢酸菌などが挙げられる。
なお、本発明において、発酵物は、飼料原料に由来する微生物などが主体となって進む自然発酵によって得られるもの(すなわち、発酵促進用の微生物を添加せずに発酵させたもの)であるが、自然発酵と共に、発酵促進用の微生物を添加して発酵させたものを除外するものではない。
【0038】
発酵処理の条件としては、特に限定されないが、発酵温度は15℃~45℃であることが好ましく、より好ましくは37℃~41℃であり、発酵期間は、数日間~数十日間であることが好ましく、より好ましくは1日間~10日間、さらに好ましくは3日間~7日間である。また、発酵の開始時において、発酵飼料のpHは、発酵効率の観点から、4.0~9.0が好ましく、より好ましくは5.0~8.0、さらにより好ましくは6.0~7.0程度に調整される。
【0039】
発酵物は、別段の記載がある場合を除き、発酵物をそのまま使用してもよいし、適宜希釈した希釈物若しくは適宜濃縮した濃縮物を発酵物として使用してもよい。また、発酵物を乾燥した乾燥物や粗精製した精製物を発酵物として使用してもよい。
【0040】
発酵物における微生物菌数(CFU)は、特に限定されないが、例えば、好気性菌(一般生菌)の菌数が、3.0×102 CFU/g~4.0×105 CFU/g程度であり、酵母の菌数が、1.0×103 CFU/g~1.0×108 CFU/g程度である。
微生物菌数(CFU)は、適当に希釈した飼料Cの希釈液を3MペトリフィルムACプレート(一般細菌)、3MペトリフィルムLABプレート(乳酸菌)及び3MペトリフィルムRYMプレート(酵母)に塗抹し、各微生物の増殖に適した温度及び時間で培養することによって形成されるコロニー数(CFU/g)により測定することができる。
【0041】
発酵物における乳酸菌は、該発酵物のpHが、3.0~6.0程度であるため、自然発酵により乳酸菌が増殖したこと、その後自ら生成した乳酸により死滅していると考えられる。
なお、本発明において、発酵物におけるpHは、pHメーター(「防水型ペンタイプ pHTestr10BNC」、ニッコー・ハンセン(株)製)を使用して測定することができる。
【0042】
発酵物の形態は、酒類の醸造粕及び/又固形飼料の形態によって異なるが、動物への給餌効率の観点から、湿潤状態又は低湿潤状態の粉体であることが好ましい。
発酵物の含水量は、特に限定されないが、例えば、10質量%~90質量%が好ましく、より好ましくは20質量%~70質量%、さらにより好ましくは30質量%~50質量%である。
【0043】
飼料原料における酒類の醸造粕の割合は、有効作用が認められる程度であれば特に限定されないが、固形飼料 100質量部に対して、10質量部~90質量部であることが好ましく、より好ましくは20質量部~70質量部、さらにより好ましくは30質量部~40質量部である。
【0044】
飼料原料には、本発明の課題を解決し得る限り、酒類の醸造粕及び固形飼料に加え他の成分が含まれていてもよい。他の成分としては、特に限定されないが、例えば、糖蜜、塩、ビタミン、酵素などが挙げられる。これらのなかでも、発酵促進の観点から、糖蜜、塩が好ましい。
飼料原料における他の成分の割合は、固形飼料 100質量部に対して0.1質量部~5質量部であることが好ましく、より好ましくは、1質量部~3質量部である。
飼料原料の含有比率については、本発明の課題を解決し得る限り特に限定されないが、具体例として、(固形飼料:酒類の醸造粕:糖蜜:塩)が、質量比で4.5~90:10~90:0.5~5:0.1~0.5である。
【0045】
[飼料原料の発酵物の製造方法]
本発明の一態様の組成物が、酒類の醸造粕と固形飼料とを含む発酵原料が発酵処理に供された発酵物である場合においては、その製造方法としては、例えば、酒類の醸造粕と固形飼料とを混合して飼料原料を得る工程と、飼料原料を発酵して飼料原料の発酵物を得る工程とを含む方法が挙げられる。また例えば、酒類の醸造粕が泡盛粕の場合においては、固形飼料に、泡盛粕を噴霧して、飼料原料を得る工程と、飼料原料を、発酵して、飼料原料の発酵物を得る工程とを含む。このようにして得られた発酵物は、そのまま、又は、必要に応じて、乾燥処理や殺菌処理などをして使用することができる。
【0046】
酒類の醸造粕が泡盛粕の場合における具体的な製造方法としては、以下の通りである。
工程1;固形飼料として濃厚飼料をサイロに投入する。
工程2;液状の泡盛粕、糖蜜及び塩を混合して、液状混合物を得る。
工程3;通気性のないビニール袋に、工程1の濃厚飼料をサイロから投入しながら、同時に工程2で得られた液状混合物を均等に噴霧して混合することにより、飼料原料を得る。
工程4;工程3で得られた飼料原料の入ったビニール袋の口を閉めて、室温(例えば25℃)で3日以上静置し、該飼料原料を自然発酵することにより発酵物を得る。
【0047】
工程2においては、次工程3で得る飼料原料の水分調整のため、液状混合物に水を添加してもよい。含水量としては、使用する飼料原料の含水量、天候や季節によって適宜設定されるが、飼料原料において30質量%~50質量%であることが好ましい。
【0048】
工程3において、工程2で得られた液状混合物を固形飼料に均等に噴霧する方法としては、特に限定されないが、例えば定量吐出の高粘度液移送ポンプ、汚泥用スラリーポンプなどを使用して噴霧することができる。
【0049】
工程4においては、閉口状態又は準閉口状態で、飼料原料を室温で静置することにより、麹菌、酵母、乳酸菌などの微生物の作用によって自然発酵が行われる。
工程4の自然発酵においては、具体的には、酵母発酵及び乳酸発酵が行われると考えられる。酵母発酵においては、アルコールと二酸化炭素が生成されると共に、酸素が消費されるため、乳酸発酵は嫌気条件下で行われる。
発酵条件としては、発酵温度は15℃~45℃であることが好ましく、より好ましくは37℃~41℃であり、発酵期間は、数日間~数十日間であることが好ましく、より好ましくは1日間~10日間、さらに好ましくは3日間~7日間である。また、発酵の開始時において、飼料原料のpHは、発酵効率の観点から、4.0~9.0が好ましく、より好ましくは5.0~8.0、さらにより好ましくは6.0~7.0程度に調整される。
【0050】
本発明の一態様の組成物は、有効作用の程度については特に限定されないが、例えば、酒類の醸造粕を含有しない組成物と比べて、同一条件で測定した場合に、有効作用が認められる程度の作用である。
【0051】
本発明の一態様の組成物が有する有効作用は、後述の実施例に記載される方法によって評価する。それぞれの方法の概要は以下のとおりである。なお、「測定すること」には、定量的に確認すること及び定性的に観察することの両方が含まれる。
【0052】
本発明の一態様の組成物が有する動物の腸内環境改善作用は、動物の糞便中の短鎖脂肪酸産生菌の占有率(相対存在率)(%)を測定することにより評価することができる。具体的には、本発明の一態様の組成物を動物に給餌した場合に、本発明の一態様の組成物を給餌しない場合と比べて、糞便中の短鎖脂肪酸産生菌の占有率(相対存在率)が増加していることにより確認することができる。
【0053】
本発明の一態様の組成物が有する動物の腸内短鎖脂肪酸産生促進作用は、動物の糞便中の短鎖脂肪酸の量を測定することにより評価することができる。具体的には、本発明の一態様の組成物を動物に給餌した場合に、本発明の一態様の組成物を給餌しない場合と比べて、糞便中の短鎖脂肪酸量が増加していることにより確認することができる。具体的態様としては、短鎖脂肪酸のうち、酢酸量が2.0mg/g以上である場合、プロピオン酸量が0.6mg/g以上である場合、及び/又は、酪酸量が0.8mg/g以上である場合に、短鎖脂肪酸産生促進作用を有するものとすることができる。
【0054】
本発明の一態様の組成物が有する動物の腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加作用は、動物の糞便中の短鎖脂肪酸産生菌の占有率(相対存在率)(%)を測定することにより評価することができる。具体的には、本発明の一態様の組成物を動物に給餌した場合に、本発明の一態様の組成物を給餌しない場合と比べて、糞便中の短鎖脂肪酸産生菌の占有率(相対存在率)が増加していることにより確認することができる。具体的態様としては、短鎖脂肪酸産生菌のうち、Clostridium属の占有率(相対存在率)が9%以上である場合に、短鎖脂肪酸産生菌増加作用を有するものとすることができる。
【0055】
ここで、短鎖脂肪酸としては、炭素数2~4の脂肪酸が挙げられ、具体的には、酢酸、プロピオン酸、酪酸等が挙げられる。
【0056】
また、短鎖脂肪酸産生菌としては、短鎖脂肪酸を一次代謝物として産生する菌であり、具体的には、Clostridium属、Roseburia属、Prevotella属、Ruminococcus属、Copracoccus属、Butyrivibrio属、Eubacterium属、Bifidobacterium属、Anaerobutyricum属、Faecalibacterium属、Bacteroides属、Anaerostipes属等が挙げられる。
【0057】
本発明の一態様の組成物は、上記した短鎖脂肪酸産生菌を増加する作用を有するものであれば特に限定されないが、例えば、占有率が大きいことから、Clostridium属、Roseburia属、Prevotella属、Ruminococcus属、Copracoccus属、Butyrivibrio属、Eubacterium属及びBifidobacterium属からなる群から選ばれる少なくとも1種の短鎖脂肪酸産生菌を増加する作用を有するものであることが好ましく、Clostridium属、Roseburia属、Prevotella属、Ruminococcus属、Copracoccus属及びButyrivibrio属からなる群から選ばれる少なくとも1種の短鎖脂肪酸産生菌を増加する作用を有するものであることがより好ましく、Clostridium属、Roseburia属及びPrevotella属からなる群から選ばれる少なくとも1種の短鎖脂肪酸産生菌を増加する作用を有するものであることがさらに好ましい。
【0058】
[動物]
本発明の一態様の組成物の使用個体は動物であればよく、特に限定されないが、例えば、給餌による飼育が可能であるという観点から家畜であることが好ましく、ウシ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、トリ、ウマ、シカ等が挙げられるが、ウシ、ヒツジ、ウマなどの反芻動物であることがより好ましく、ウシがさらに好ましい。
【0059】
[給餌量]
本発明の一態様の組成物の給餌量としては、動物の種類や月齢などにより適宜選択できるが、例えば、1日当たり、1g/kg体重~20g/kg体重が好ましく、より好ましくは5g/kg体重~10g/kg体重である。
【0060】
[給餌時期]
本発明の一態様の組成物の給餌時期としては、動物の種類や月齢などにより適宜選択できるが、例えばウシの場合、生後以降、特に、離乳期以降が好ましい。
【0061】
[給餌方法]
本発明の一態様の組成物は、単独で動物に給餌しても、他の飼料と共に給餌してもよい。
他の飼料としては、例えば、粗飼料、濃厚飼料などが挙げられる。なお、粗飼料は、栄養価が濃厚飼料に比べて低いものであり、例えば、生草、サイレージ、乾草、わら類などが挙げられる。
他の飼料の給餌量としては、例えば粗飼料においては、1日当たり、4g/kg体重~10g/kg体重が好ましく、また例えば濃厚飼料においては、1日当たり、10g/kg体重~25g/kg体重が好ましい。すなわち、1日当たり1kg体重当たりの飼料として、(粗飼料:濃厚飼料:本発明の組成物)が質量比で、0.8~2:2~5:1~2である。
【0062】
[動物の肥育促進方法]
本発明の一態様の動物の肥育促進方法は、本発明の一態様の組成物を、動物に給餌する工程を含む。このように、該組成物を動物の飼料として給餌することにより、経済性が高く、動物の健康を阻害することなく安全に肥育促進を図ることができる。
【0063】
[動物の腸内環境改善方法]
本発明の一態様の動物の腸内環境改善方法は、本発明の一態様の組成物を、動物の腸内環境を改善する工程を含む。このように、該組成物を動物の飼料として給餌することにより、経済性が高く、動物の健康を阻害することなく安全に腸内環境の改善を図ることができる。
【0064】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の課題を解決し得る限り、本発明は種々の態様をとることができる。
【実施例0065】
[1.動物の腸内短鎖脂肪酸産生促進作用の評価]
酒類の醸造粕を含む組成物を飼料として摂取することによる腸内短鎖脂肪酸産生促進作用を評価するため、動物の糞便中の短鎖脂肪酸量を測定した。
【0066】
1-1.飼料の準備
下記A~Cを飼料として準備した。
・飼料A:粗飼料(稲わら)
・飼料B:濃厚飼料「JA石垣牛 後期」(穀類73%(とうもろこし、加熱処理大麦、加熱処理とうもろこし、大麦)、そうこう類18%(ふすま、コーングルテンフィード、米ぬか)、植物性油かす類7%(なたね油かす、大豆油かす)、その他2%(糖蜜、食塩、炭酸カルシウム))
【0067】
・飼料C:以下の工程1~4によって得た。
工程1;上記飼料Bの濃厚飼料「JA石垣牛 後期」1,000kgをサイロに投入した。
工程2;どろどろとした液状の泡盛粕500Lに、糖蜜(石垣島製糖(株)製;糖度75%)20L(30kg)及び塩(「石垣の塩」、(株)石垣の塩製;にがり含有)2kgを入れて、ロータリーポンプ(「VRP-1D-FA」、三浦工業(株)製)を使用して混合し、液状混合物を得た。
工程3;工程1のサイロに入れた濃厚飼料250kgを内側に通気性のないビニール袋を敷いたフレキシブルコンテナバッグに入れつつ、同時に工程2で得られた液状混合物125Lを均等に濃厚飼料と混ざるようにロータリーポンプ(「VRP-1D-FA」、三浦工業(株)製)を使用して噴霧して混合することにより、飼料原料を得た。なお、飼料原料の含水量が40質量%程度となるように、水を添加した。
工程4;工程3で得られた飼料原料の入ったビニール袋の口を閉めて、室温(25℃)で3日間以上静置し、該飼料原料を自然発酵することにより飼料Cを得た。
【0068】
飼料Cの各成分の含有比率については、下記表1の通りである。
【0069】
【表1】
【0070】
1-2.供試動物
供試動物として、下記表2に示す肥育牛(石垣牛)〔1〕~〔7〕を使用した。
【0071】
【表2】
【0072】
1-3.給餌方法
試験群〔1〕~〔4〕には、サンプル(糞便)採取日までの3ヶ月間、飼料A、飼料B及び飼料Cを下記表3に示す量で給餌した。一方、対照群の肥育牛〔5〕~〔7〕には、サンプル(糞便)採取日までの3ヶ月間、飼料A及び飼料Bを下記表3に示す量で給餌した。なお、試験群及び対照群の肥育牛ともに、サンプル(糞便)採取までの3ヶ月以前までは、飼料A及び飼料Bを下記表3に示す量で給餌した。
【0073】
【表3】
【0074】
1-4.糞便中の短鎖脂肪酸量の測定方法
試験群及び対照群の肥育牛の糞便を採取し、糞便中の短鎖脂肪酸(酢酸、酪酸及びプロピオン酸)の量(mg/g)を測定した。
短鎖脂肪酸量は、検体に含まれる短鎖脂肪酸量を高速液体クロマトグラフィーによって測定した(システム;島津有機酸分析システム(Shimadzu,Japan)、カラム;Shim-pack Fast-OA,100mm×7.8mm ID,3本直列で使用、ガードカラム;Shim-pack Fast-OA,10mm×4.0mm ID、溶離液;5mmol/L p-トルエンスルホン酸、反応液;5mmol/L p-トルエンスルホン酸,100μmol/L EDTA,20mmol/L Bis-Tris、流速;0.8mL/min、オーブン温度;50℃、検出器;電気伝導度検出器 CDD-10Avp)。前処理は、一定量の検体をビーズチューブに精秤し、抽出溶液で懸濁後に熱処理(85℃、15分間)した。ビーズにより破砕した後に遠心(18,400×g,10分間)し、上清を孔径0.20μmのメンブレンフィルターで濾過し、試料溶液とした。結果を図1~3に示す。なお、図1~3の結果について、試験群及び対照群の群間比較においては、対応のない片側検定を実施した。有意差水準は、5%として有意差検定を行った。
【0075】
図1~3の結果より、試験群の短鎖脂肪酸量は、対照群の短鎖脂肪酸量に比べ、酢酸、酪酸及びプロピオン酸のいずれも多いことが示された。中でも、試験群の酢酸量は、対照群の酢酸量に比べ、顕著に多かった。
【0076】
以上の結果より、酒類の醸造粕を含む組成物を飼料としてウシ等の動物に給餌することにより、糞便中の短鎖脂肪酸量が増加することが示された。
このような結果から、短鎖脂肪酸量の増加は、動物の腸内細菌叢中の細菌構成比が変化したため、短鎖脂肪酸量が増加したと考えられる。そこで、動物の腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌の構成比を測定することにより、腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加作用を以下の通り評価した。
【0077】
[2.腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加作用の評価]
酒類の醸造粕を含む組成物を飼料として摂取することによる腸内細菌叢中の短鎖脂肪酸産生菌増加作用を評価するため、動物糞便中の短鎖脂肪酸産生菌の占有率(相対存在率)(%)を測定した。
【0078】
2-1.飼料、試供動物及び給餌方法
上記1-1~1-3と同様の飼料、試供動物及び給餌方法により実施した。
【0079】
2-2.糞便中の短鎖脂肪酸産生菌の測定方法
給餌後、試験群及び対照群の糞便を採取し、糞便中のメタン産生菌の占有率(%)を16SリボソームRNA解析により測定し、比較した。
【0080】
16SrDNA(16SrRNA)部分塩基配列を標的としたアンプリコンシーケンス解析により、検体の微生物群集を解析した。
定法に従ってDNAを抽出し、16SrRNA遺伝子のV3-V4領域を増幅し、Illumina MiSeqによるメタ16S菌叢解析を行った。Metagenome@KIN(World Fusion,Japan)を用いて菌叢解析を行った。得られた菌叢解析から、科・属レベルの菌叢構成を求めた。短鎖脂肪酸産生菌として、Clostridium属、Roseburia属、Prevotella属、Ruminococcus属、Copracoccus属、Butyrivibrio属、Eubacterium属、Bifidobacterium属、Anaerobutyricum属、Faecalibacterium属、Bacteroides属及びAnaerostipes属の細菌の糞便中の占有率(相対存在率)(%)を表4に示す。
【0081】
【表4】
【0082】
表4の結果より、試験群の短鎖脂肪酸産生菌の占有率に比べ、対照群の短鎖脂肪酸産生菌、特にClostridium属、Roseburia属、Prevotella属、Ruminococcus属、Copracoccus属、Butyrivibrio属、Eubacterium属、Bifidobacterium属、Anaerobutyricum属及びBacteroides属の細菌の占有率が高いことが示された。中でも、試験群のClostridium属の占有率(平均)は14.34%であり、対照群の6.44%に比べ顕著に増大したことが示された。
【0083】
また、上記試験群の肥育牛から得られた食肉について、焼いて調理し喫食したところ、まろやかな風味とコクがあり、口当たりが柔らかく嗜好性が高かった。
【0084】
以上の結果から、酒類の醸造粕を含む組成物を飼料として動物に給餌することにより、動物の腸内細菌叢中の細菌の存在割合が変化して、短鎖脂肪酸産生菌の存在割合が増加し、従って、腸内の短鎖脂肪酸量が増加したと考えられる。そして、短鎖脂肪酸量が増加したことにより、肉脂質中の脂肪酸組成が変化し、モノ不飽和脂肪酸の含有率が増加し、脂質が改善したと考えられる。その結果として、栄養価が高く肉脂質が向上し、嗜好性の優れた食肉が得られたと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明によれば、酒類の醸造粕を含む組成物を飼料として使用することにより、動物の健康を阻害することなく腸内環境を改善し、健全な肥育促進を図ることができ、その上、廃棄ロス及びコストの削減を図ることができ、もって地球環境保護に貢献する。また、本発明によれば、酒類の醸造粕の大部分が廃棄物として処理されていることからも、入手するに際して経済的に有利であるため、工業的規模で製造し、産業的に使用することが可能なものである。

図1
図2
図3