(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154906
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】加工寸法管理システム
(51)【国際特許分類】
B23Q 15/04 20060101AFI20241024BHJP
B23Q 17/09 20060101ALI20241024BHJP
G05B 19/404 20060101ALI20241024BHJP
G05B 19/18 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B23Q15/04
B23Q17/09 C
G05B19/404 E
G05B19/18 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069123
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000237271
【氏名又は名称】株式会社FUJI
(74)【代理人】
【識別番号】100125737
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 昭博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 俊史
【テーマコード(参考)】
3C001
3C029
3C269
【Fターム(参考)】
3C001KA01
3C001KA04
3C001KB01
3C001TA02
3C001TB03
3C001TC01
3C029DD04
3C269AB02
3C269BB03
3C269BB10
3C269JJ14
3C269JJ18
3C269KK04
3C269MN13
3C269PP02
3C269PP03
(57)【要約】
【課題】作業者が直接測定する測定器を使用した加工寸法管理システムを提供すること。
【解決手段】制御装置に格納された加工プログラムに従い工具を備えた加工装置の駆動制御によってワークの自動加工を行う工作機械と、前記工作機械で加工された加工済みのワークを作業者が測定して得られた測定値を測定データとして前記工作機械側に転送する転送機能を備えた測定器と、を有し、前記制御装置は、前記測定器から転送された測定データに基づき、前記加工プログラムに従った前記加工装置の駆動制御について自動補正を実行する補正処理プログラムを備え、その補正処理プログラムでは、例えば前記測定値とワーク加工における設計値との差をズレ量として算出し、そのズレ量が公差を超えない範囲で設定された第1閾値を基準に自動補正を判断する加工寸法管理システム。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御装置に格納された加工プログラムに従い工具を備えた加工装置の駆動制御によってワークの自動加工を行う工作機械と、
前記工作機械で加工された加工済みのワークを作業者が測定して得られた測定値を測定データとして前記工作機械側に転送する転送機能を備えた測定器と、
を有し、
前記制御装置は、前記測定器から転送された測定データに基づき、前記加工プログラムに従った前記加工装置の駆動制御について自動補正を実行する補正処理プログラムを備えた加工寸法管理システム。
【請求項2】
前記補正処理プログラムは、前記測定値とワーク加工における設計値との差をズレ量として算出し、そのズレ量が公差を超えない範囲で設定された第1閾値を基準に自動補正を判断する請求項1に記載の加工寸法管理システム。
【請求項3】
前記補正処理プログラムは、前記ズレ量が公差の範囲を超えた異常値を示した場合に、異常の内容に従って予め設定された任意の閾値と前記ズレ量とを比較することにより異常の内容を判断する請求項2に記載の加工寸法管理システム。
【請求項4】
前記補正処理プログラムは、作業者による測定ミスを判断するために設定された第2閾値を基に、前記ズレ量と前記第2閾値とを比較することにより測定ミスを判断する請求項2に記載の加工寸法管理システム。
【請求項5】
前記補正処理プログラムは、前記加工装置の工具による刃先の折損を判断するために設定された第3閾値を基に、前記ズレ量と前記第3閾値とを比較することにより工具交換を判断する請求項2に記載の加工寸法管理システム。
【請求項6】
前記補正処理プログラムは、前記加工装置の工具による刃先の溶着を判断するために設定された第4閾値を基に、前記ズレ量と前記第4閾値とを比較することにより工具交換を判断する請求項2に記載の加工寸法管理システム。
【請求項7】
前記補正処理プログラムは、作業者が加工済みのワークを複数個所測定して得られた複数の測定データを基に、各箇所において算出されたズレ量から自動補正を判断する請求項2に記載の加工寸法管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業者が測定したワークの寸法に応じて、工作機械における加工装置の駆動制御を自動補正する加工寸法管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械におけるワークの加工は、その加工寸法が厳しく管理されている。そのため、多くのワークについて工作機械で自動加工が行われる場合、常に加工済みのワークについて加工寸法の測定が行われ、その測定値に基づく加工制御の自動補正が行われている。下記特許文献1に記載の工作機械の場合、加工プログラムに従った送り指令によりワークを加工する目標寸法が与えられて刃物台の移動制御が行われる。その際、計測手段が加工処理されたワークの実寸法を測定することにより、ワークに対して加工が行われた加工部分の寸法が確認される。そして、データフィードバック手段により、目標寸法と測定値との差が求められ、その差を補正量として工作機械に対するフィードバック制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
前記従来例の計測手段は、工作機械とは別に設けられた機外計測機であり、加工済みのワークが搬送装置によって機外計測機へと運ばれることにより、そこで加工寸法の測定が行われる。そのため、従来の加工ラインは、工作機械とともに機外計測機が並べられることにより、全体のコストが上がってしまうほか、機外計測機を配置するだけの設置スペースが必要であった。また、機外計測機は、測定対象となるワークに合わせて構成されるため、自動で行われる測定動作の調整おおび設定が必要になる。また、そうした機外計測機は、形状の異なる様々なワークに対応することが難しく、更にはワークに対する複数の測定箇所にも制限が生じる、
【0005】
そこで、本発明は、かかる課題を解決すべく、作業者が直接測定する測定器を使用した加工寸法管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る加工寸法管理システムは、制御装置に格納された加工プログラムに従い工具を備えた加工装置の駆動制御によってワークの自動加工を行う工作機械と、前記工作機械で加工された加工済みのワークを作業者が測定して得られた測定値を測定データとして前記工作機械側に転送する転送機能を備えた測定器と、を有し、前記制御装置は、前記測定器から転送された測定データに基づき、前記加工プログラムに従った前記加工装置の駆動制御について自動補正を実行する補正処理プログラムを備えたものである。
【発明の効果】
【0007】
前記構成によれば、作業者が取り扱い可能な測定器を使用して加工処理されたワークの加工寸法を測定するようにしたため、前記従来例で示すような機外計測機に比べて大幅な費用削減を図ることが可能である。また、計測機は、作業者が手に取って扱うことができるため、機外計測機のような設置スペースを必要とすることもない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】加工寸法管理システムの一実施形態を工作機械と測定器で示した概念図である。
【
図2】工作機械を制御する制御システムを示したブロック図である。
【
図3】補正処理プログラムの工程を示したフローチャート図である。
【
図4】測定器で測定した値を基に設計値と加工寸法との誤差をグラフで示し図である。
【
図5】
図4と同じグラフであってズレ量が異常値を示した場合を示した図である。
【
図6】加工寸法管理システムの一実施形態を工作機械と測定器で示した概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明に係る加工寸法管理システムの一実施形態について、図面を参照しながら以下に説明する。
図1は、本実施形態の加工寸法管理システムを構成する工作機械と測定器を示した概念図である。加工寸法管理システムは、工作機械1が実行する加工プログラムにおいて設定された工具の加工位置を自動補正するものである。工作機械1ではミクロン単位の加工精度が要求されるため、前記従来例と同様に、加工済みのワークWについて加工寸法を測定することにより加工精度の確認が行われる。そして、設計値を外れるような場合には、工具の加工位置の調整を行うため刃物台の駆動に対する補正が行われる。
【0010】
従来例では加工済みのワークWに関する加工寸法測定に機外計測機が使用されているが、本実施形態では、作業者がデジタルマイクロメータなどの測定器3を使用してワークWを直接測定する方法がとられている。ただ、本実施形態の加工寸法管理システムは、データ転送機能付きの測定器3が使用され、工作機械1および測定器3は測定データの転送を可能にする通信機能を有している。そこで、作業者が測定器3を使用して得たワークWの測定値は、測定データとして工作機械1に転送されるようになっている。なお、測定器3は、図面に示すデジタルマイクロメータに限らず、転送機能を有するものであればデジタルノギス、デジタルダイヤルゲージなども対象となる。
【0011】
図2は、工作機械1を制御する制御システムを示したブロック図である。工作機械1の制御装置10にはマイクロプロセッサ(CPU)11、ROM12、RAM13、不揮発性メモリ14がバスラインを介して接続されている。CPU11は、制御装置全体を統括制御するものであり、ROM12にはCPU11が実行するシステムプログラムや制御パラメータ等が格納され、RAM13には一時的な計算データや表示データ等が格納される。不揮発性メモリ14にはCPU11が行う処理に必要な情報が記憶され、工作機械1のシーケンスプログラムなどが格納されている。
【0012】
旋盤である工作機械1は、ワークWを回転可能に把持する主軸装置21、複数の工具を旋回割り出し可能に保持するタレット装置22、ワークを主軸チャックに対して搬送するワーク自動搬送装置23などによって構成されている。制御装置10にはI/Oポート15が設けられ、主軸装置21、タレット装置22およびワーク自動搬送装置23などの駆動モータが各々ドライバを介して接続されている。また、工作機械1は、
図1に示すように、機体前面部にモニタを有する操作表示装置25が取り付けられ、これもI/Oポート15を介して制御装置10に接続されている。
【0013】
本実施形態の工作機械1には受信装置26が設けられ、測定器3に備えられた送信装置31との間で無線通信が可能になっている。ただし、工作機械1と測定器3とが有線で通信接続する構成であってもよい。よって、測定器3を使用して得たワークWの測定値は、送信装置31から受信装置26へと送られ、測定データとして利用されることとなる。デジタルマイクロメータなどの測定器3にはデータ転送ボタン33が設けられている。そのため、そのデータ転送ボタン33が押されることにより、測定表示部35に示された測定値が制御装置10へと測定データとして転送される。
【0014】
工作機械1は、制御装置10に格納された加工プログラム41に従った駆動制御が行われる。すなわち、工作機械1は、ワーク自動搬送装置23によってストッカなどから主軸装置21へと運ばれたワークWが主軸チャックに受け渡しされ、そこでワークWに対する所定の加工が行われる。例えば、主軸装置21の駆動制御によりワークWに対して一定速度の回転が与えられ、タレット装置22の駆動により旋回割り出しされた工具がワークWに当てられ、外径加工などが実行される。そうした加工済みのワークWは、ワーク自動搬送装置23によって主軸チャックから取り外され、次の工程や回収用ストッカへと搬送される。
【0015】
工作機械1においてワークWの加工が継続される中、作業者によって抜き取り測定が行われる。ワークWの抜き取り測定は、一定数のワークWが加工される毎に一つのワークWが作業者によって工作機械1から取り出され、測定器3を使用した加工寸法の測定が行われる。作業者が測定した加工箇所の寸法(測定値)は、測定器3に測定データとして取り込まれ、測定表示部35に測定値が表示される。そして、作業者がデータ転送ボタン33を押すことにより、測定器3から工作機械1の制御装置10へと測定データが転送される。
【0016】
本実施形態の加工寸法管理システムは、制御装置10に補正処理プログラム42が格納され、測定器3から転送された測定データを基に補正値が算出され、工具の刃先について加工位置を決定する座標値の書き換えが行われる。
図3は、その補正処理プログラムの工程を示したフローチャート図である。また、
図4は、測定器3で測定した値を基に設計値と加工寸法との誤差をグラフで示し図であり、縦軸はズレ量であり、横軸はワークWの加工個数である。このグラフでは、例えば加工処理された10個のワークWに対して1個の割合で加工寸法の測定が行われ、その測定値と設計値との誤差がズレ量としてグラフ上に示されている。
【0017】
測定値がワークWの設計値と一致する場合をズレ量ゼロとし、測定値が設計値よりも大きい場合をプラス、そして小さい場合をマイナスとして表されている。そして、ワークWの設計値にはズレ量G3,G4に相当する一定寸法の公差が設けられている。従って、ワークWの加工に当たって、ズレ量がこの公差の範囲内(G3-G4)に収まっていればよいが、いずれは公差から外れてしまう。
【0018】
ズレ量の変化は工具の摩耗のほか様々な要因で生じるが、公差を超えて加工寸法に狂いが生じてしまえば加工処理されたワークWはNGワークとして廃棄処分となる。そこで工具の加工位置を調整して公差範囲内に収めるための自動補正が実行される。そのためには、作業者が10個に1個の割合で工作機械1から加工済みのワークWを取り出し、それについて測定器3を使用した測定を行い、その値が測定器3から測定データとして工作機械1側に転送される。すると、工作機械1において補正処理プログラムが実行される。
【0019】
図3に示す補正処理プログラムでは、先ず、測定器3から転送された測定データが制御装置10に取得され、測定データ保持部に格納される(S101)。次に、その測定値と設計値との差からズレ量が算出され(S102)、そのズレ量が、自動補正のため任意に設定した閾値G1-G2(第1閾値に相当)の範囲内であるか否かについて確認が行われる(S103)。
図4に示す例では、加工処理されたn個目のワークWまでは複数回行われた測定に基づく測定値は閾値G1を超えてはいない(S103:YES)。その場合、ワークWを加工する工具の加工位置に問題はないと判断して補正処理プログラム42が終了する。
【0020】
一方で、
図4に示す加工処理されたn1個目のワークWは、その測定データに基づくズレ量が閾値G1を超えてしまっている(S103:NO)。そこで、次にそのズレ量が公差G3-G4の範囲内であるか否かについて確認が行われる(S104)。そして、図示するように、加工処理されたn1個目のワークWのように、そのズレ量がまだ公差G3を超えていない場合には(S104:YES)、自動補正が実行される(S105)。加工処理されたn1個目のワークWはNGワークではないが、続く10個のワークWを加工する間に公差を超えた加工になってしまう可能性があるためである。
【0021】
ステップS105の自動補正は、ズレ量が補正量として記憶され、加工プログラム41に従ったタレット装置22の駆動制御に関して、ワークWが設計値で加工されるように工具の刃先位置を調整する補正が行われる。そして、この補正処理プログラム42が終了するが、ワークWの加工が継続される間は、一定の間隔で行われる測定データの転送に応じてステップS101-S105が実行される。しかし、測定器3を使用した本実施形態の加工寸法管理システムでは、補正処理の対象とは異なる事態にも対応可能な構成がとられている。
【0022】
ここで、
図5は、
図4と同じグラフであって、ズレ量が異常値を示した場合を示した図である。ズレ量が異常値を示す場合とは、公差G3-G4の範囲を超えてしまった場合をいう(S104:NO)。測定器3を使用した加工寸法管理システムでは、ズレ量が公差G3-G4の範囲を超えてしまう場合として作業者による測定ミスが考えられる。作業者が測定器3の取り扱いを誤るほか、ワークWの測定位置がずれてしまうことなどが考えられる。また、ズレ量が公差G3-G4の範囲を超えてしまう場合としては工具の刃先に欠損が生じてしまうことがある。更には、工具の刃先に切削で生じた熱等によって切りくずが溶解し、それがまとわりつく溶着などもある。
【0023】
このようにズレ量が異常値を示す場合は、前述した自動補正の対象外である。そして、前述したようにズレ量が異常値を示す状況は複数存在する。そこで、
図5に示すように、異常値を示すズレ量を場合分けした設定が行われている。ここでは、測定ミスを判定する閾値G7,G8(第2閾値に相当)、工具の刃先が折損した場合を判定する閾値G5(第3閾値に相当)、そして工具の刃先への溶着を判定する閾値G6(第4閾値に相当)が設定されている。なお、測定ミスによって生じるズレ量は、工具の刃先に異常が生じた場合のズレ量よりも大きいと考えられるため、本実施形態では
図5に示すように閾値が設定されている。
【0024】
そこで、ズレ量が公差G3-G4の範囲を超えてしまった場合には(S104:NO)、次にそのズレ量が閾値G7-G8の範囲を超えているか否かについて確認が行われる(S106)。ズレ量が閾値G7-G8の範囲を超えている場合は(S106:YES)、ワークWについて再度測定が必要であるため、作業者に対して再測定の指示が行われ(S107)、この補正処理プログラム42が一旦終了する。工作機械1には前面に操作表示装置25が設けられており、ワークWに対する再測定が作業者に分かるように、音声指示が行われるとともに、モニタに再測定に関する指示が表示される。そして、再測定が行われてステップS101からの処理が繰り返される。
【0025】
一方で、ズレ量が閾値G7-G8の範囲内である場合には(S104:NO)、次に、そのズレ量が閾値G5,G6を超えてしまっているか否かについて確認が行われる(S108)。工具の刃先が欠損によって閾値G5を、または工具の刃先に溶着が生じて閾値G6を超えてしまっている場合には(S108:YES)、工作機械1における駆動停止が行われる(S109)。そして、作業者に対して工具交換の指示が行われ(S110)、この補正処理プログラム42が終了する。
【0026】
工具交換指示は、操作表示装置25から音声指示が行われるとともに、モニタに工具交換に関する指示が表示される。その際、モニタには工具番号などが表示されるため、作業者は該当する工具を用意し、工作機械1のタレット装置22に対する工具交換作業を実行する。一方で、工具異常がないとする場合(S108:NO)、すなわちズレ量が公差G3,G4を超えてしまっているが、設定した工具の折損や溶着の状況を示す閾値G5,G6は超えていない場合は、このときも工作機械1における駆動停止が行われる(S111)。
【0027】
ズレ量が公差G3,G4を超えてしまっていることから、加工処理されたワークWはNGワークとなって廃棄処分となる。そこで、NGワークWを増やさないためにも、工作機械1について加工不良発生の原因を把握して改善する必要があり、作業者に対して異常確認指示が行われ(S112)、その後この補正処理プログラム42が終了する。なお、異常確認指示は、やはり操作表示装置25から音声指示やモニタにおける表示が行われ、モニタには加工寸法のズレ量が大きくなった原因となり得る項目が列挙して表示される。
【0028】
よって、本実施形態の加工寸法管理システムによれば、作業者が取り扱い可能な測定器3を使用して加工処理されたワークWの寸法を測定するようにしたため、前記従来例で示すような機外計測機に比べて大幅に費用を削減することができる。また、計測機3は、作業者が手に取って扱うものであるため、機外計測機のような設置スペースを必要とすることもない。
【0029】
一方で、機外計測機は設計値と加工寸法とのズレ量を自動で算出することができる。この点は測定器3が転送機能を有しているので、工作機械1側でズレ量を算出させることができる。そのため、測定器3で得られた測定値を作業者自らが計算する必要がなく、工作機械1へ補正値を入力するといった作業も必要でない。従って、計算間違いや入力ミスといった作業者による人的ミスを回避することができる。ただし、測定器3の場合には作業者によって生じる人的ミスとして測定ミスが起こり得る。この点、本実施形態では閾値G7,G8を設定し、作業者に測定ミスがあった場合には、そのことを知らせる補助機能が備えられている。
【0030】
更に、本実施形態では、測定器3で測定したワークWの加工寸法が設計値との間で大幅な差が生じた場合、すなわちズレ量が公差を超えてしまった場合は、異常が生じたと判断して所定の対応が採られるようになっている。その一つが前述した測定ミスである。本実施形態ではそのほかにも、工具の刃先に折損が生じた場合、同じく刃先に溶着が生じた場合などを判断する閾値G5,G6も設定されている。そして、各々の異常が生じた場合には、必要に応じて工作機械1の駆動を停止し、異常の原因として該当し得る内容が作業者の対応指示としてモニタに表示などされる。
【0031】
ところで、機外計測機では測定可能なワークの形状変更に対して対応が困難であるが、測定器3を使用して作業者が行う本実施形態の加工寸法管理システムであれば容易に対応することができる。例えば、
図6は、
図1と同様に加工寸法管理システムを構成する工作機械と測定器を示した概念図であり、棒状ワークWbの加工を例に挙げたものである。その棒状ワークWbは、片持ち梁のように主軸チャックに端部が把持された状態で、刃先の当てられた工具が軸方向に移動することで表面を旋削する外径加工などが行われる。
【0032】
外径加工における棒状ワークWbは、主軸チャックに把持された固定端b1に対して反対の自由端b2側は、回転軸に直交する工具の加工荷重が撓みによって逃げやすくなっている。そのため、棒状ワークWbは、その材質や長さ、径の大きさなどによって、自由端b2側と固定端b1側とで一致させるべき径の寸法に僅かな差が生じ、テーパ形状になってしまうことがある。そのような場合、工作機械1では棒状ワークWbが軸方向に同一径となるように、棒状ワークWbの自由端b2側から固定端b1側に直線移動する工具の刃先位置について調整する軸方向補正処理が行われる。その軸方向補正処理などを実行させるための測定データが作業者によって測定器3から得られる。
【0033】
すなわち、工作機械1において棒状ワークWbの加工が継続される中、作業者によって抜き取り測定が行われる。工作機械1から取り出した棒状ワークWbは、作業者によって図示するように、固定端b1と自由端b2の両端が測定器3によって測定される。2つの測定データは、それぞれの測定後にデータ転送ボタン33を押すことにより、測定器3から工作機械1の制御装置10へと測定データが転送される。そして、制御装置10に格納されている棒状ワークWb用の補正処理プログラムに従い、前例のワークWと同様な自動補正などが行われる。
【0034】
具体的にフローチャートなどは図示しないが、棒状ワークWbの補正処理は、ワークWの場合と同様に公差を基にした径寸法補正処理に加え、軸方向に同一径になるための軸方向補正処理が行われる。また、この補正処理プログラムでも測定ミスの確認や工具の刃先における欠損や溶着など、ズレ量が異常値を示す場合の確認も行われる。
【0035】
よって、本実施形態の加工寸法管理システムによれば、円盤形状のワークWや棒状ワークWbなど、測定するワークの形状や測定を必要とする数が異なったとしても、工作機械1側に対応する補正処理プログラムを有することによって自動補正が可能になる。また、本実施形態の加工寸法管理システムによれば、機外計測機などのような自動測定では困難な箇所でも測定器3を使用することで測定が可能になるため、そうして得た測定データを基に適切な自動補正を実行すれば、より精度の高いワーク加工の可能性が期待できる。
【0036】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
例えば、前記実施形態では、ズレ量が異常値を示すことにより自動補正の対象外となる場合について、測定ミス、工具の刃先の欠損や溶着を例として挙げたが、それ以外であってもよい。
【符号の説明】
【0037】
1…工作機械 3…測定器 10…制御装置 11…CPU 12…ROM 13…RAM 14…不揮発性メモリ 21…主軸装置 22…タレット装置 23…ワーク自動搬送装置 25…操作表示装置 26…受信装置 31…送信装置 33…データ転送ボタン 35…測定表示部