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特開2024-154916半導体装置、電力変換装置、および、半導体装置の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154916
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】半導体装置、電力変換装置、および、半導体装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/78 20060101AFI20241024BHJP
   H01L 29/12 20060101ALI20241024BHJP
   H01L 29/872 20060101ALI20241024BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
H01L29/78 657D
H01L29/78 652T
H01L29/78 652F
H01L29/78 652S
H01L29/78 657E
H01L29/86 301F
H01L29/86 301D
H01L29/78 653A
H01L29/78 652J
H01L29/78 652M
H01L29/78 658A
H01L29/78 658L
H01L29/78 654Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069138
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】菅原 勝俊
(72)【発明者】
【氏名】川原 洸太朗
(72)【発明者】
【氏名】飯島 彬文
(72)【発明者】
【氏名】日野 史郎
(72)【発明者】
【氏名】藤吉 克洋
(57)【要約】
【課題】SBDが内蔵された半導体装置において、I2t耐量の低下を抑制する。
【解決手段】半導体装置は、第1の導電型のドリフト層と、第2の導電型のウェル層と、第1の導電型のソース層と、ゲート電極と、層間絶縁膜と、ソース電極とを備え、ゲート電極と平面視で重ならない位置の、ウェル層とドリフト層とで構成される複数のボディダイオードが、第1のボディダイオード動作電圧で動作する第1の動作部と、第1のボディダイオード動作電圧よりも低い第2のボディダイオード動作電圧で動作する複数の第2の動作部とを含む。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の表層に部分的に複数形成された第2の導電型のウェル層と、
それぞれの前記ウェル層の表層に部分的に形成された第1の導電型のソース層と、
前記ドリフト層と前記ソース層とに挟まれた前記ウェル層に、ゲート絶縁膜を介して接触するゲート電極と、
前記ゲート電極を覆って設けられた層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜、前記ウェル層および前記ソース層を覆って設けられたソース電極とを備え、
前記ゲート電極と平面視で重ならない位置の、前記ウェル層と前記ドリフト層とで構成される複数のボディダイオードが、第1のボディダイオード動作電圧で動作する第1の動作部と、前記第1のボディダイオード動作電圧よりも低い第2のボディダイオード動作電圧で動作する複数の第2の動作部とを含む、
半導体装置。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記ウェル層の幅が、前記第2の動作部における前記ウェル層の幅よりも狭い、
半導体装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記ウェル層間の幅が、前記第2の動作部における前記ウェル層間の幅よりも広い、
半導体装置。
【請求項4】
請求項1に記載の半導体装置であり、
前記ソース層の上面から前記ウェル層よりも深い位置まで達して形成された溝と、
前記溝の底部に形成された電界緩和層とをさらに備え、
前記ゲート絶縁膜が、前記溝内において、前記ソース層と前記ドリフト層とに挟まれる前記ウェル層の側面を覆って形成され、
前記ゲート電極が、前記溝内において、前記ゲート絶縁膜に囲まれて形成される、
半導体装置。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記電界緩和層間の幅が、前記第2の動作部における前記電界緩和層間の幅よりも広い、
半導体装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記電界緩和層の幅が、前記第2の動作部における前記電界緩和層の幅よりも狭い、
半導体装置。
【請求項7】
請求項1、2、4および5のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記ドリフト層の不純物濃度が、前記第2の動作部における前記ドリフト層の不純物濃度よりも高い、
半導体装置。
【請求項8】
請求項1、2、4および5のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部および前記第2の動作部のうちの少なくとも一方において平面視で直線状の積層欠陥を含み、
前記第2の動作部における積層欠陥密度が、前記第1の動作部における積層欠陥密度よりも低い、
半導体装置。
【請求項9】
請求項1、2、4および5のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記ウェル層の表層に部分的に形成された、第2の導電型のコンタクト領域をさらに備え、
前記コンタクト領域の不純物濃度が、前記ウェル層の不純物濃度よりも高く、
前記第1の動作部の前記コンタクト領域のコンタクト抵抗は、前記第2の動作部の前記コンタクト領域のコンタクト抵抗よりも高い、
半導体装置。
【請求項10】
請求項1、2、4および5のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部においてショットキー接触する前記ドリフト層と前記ソース電極との仕事関数の差が、前記第2の動作部においてショットキー接触する前記ドリフト層と前記ソース電極との仕事関数の差よりも高い、
半導体装置。
【請求項11】
請求項1、2、4および5のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部において前記ソース電極から前記ソース電極とは反対側の前記ドリフト層の下面側に設けられたドレイン電極に向かって流れる電子のライフタイムが、前記第2の動作部において前記ソース電極から前記ドレイン電極に向かって流れる電子のライフタイムよりも低い、
半導体装置。
【請求項12】
第1の導電型のドリフト層をエピタキシャル成長によって形成し、
前記ドリフト層の積層欠陥を検査して、単位領域あたりに存在する前記積層欠陥の数があらかじめ定められたしきい値以下である複数の特定領域を特定し、
前記ドリフト層の表層に第2の導電型の不純物をイオン注入し、
注入された前記不純物を熱処理で拡散させて、複数の前記特定領域におけるボディダイオード動作電圧を、前記特定領域以外におけるボディダイオード動作電圧よりも低くする、
半導体装置の製造方法。
【請求項13】
請求項12に記載の半導体装置の製造方法であり、
前記積層欠陥を、電気特性検査またはフォトルミネセンス法で検査する、
半導体装置の製造方法。
【請求項14】
請求項1、2、4および5のうちのいずれか1つに記載の半導体装置を有し、入力される電力を変換して出力する主変換回路と、
前記半導体装置を駆動する駆動信号を前記半導体装置に出力する駆動回路と、
前記駆動回路を制御する制御信号を前記駆動回路に出力する制御回路とを備える、
電力変換装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願明細書に開示される技術は、半導体技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
パワーエレクトロニクス機器において、モータなどの負荷への電力供給を制御するスイッチング素子として、絶縁ゲート型バイポーラトランジスタ(insulated gate bipolar transistor、すなわち、IGBT)または金属-酸化膜-半導体電界効果トランジスタ(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor、すなわち、MOSFET)などの絶縁ゲート型半導体装置が広く使用されている。
【0003】
一方、次世代のスイッチング素子として、炭化珪素(SiC)などのワイドバンドギャップ半導体を用いたMOSFETまたはIGBTなどが注目されており、1kV程度またはそれ以上の高電圧を扱う技術分野への適用が有望視されている。
【0004】
ワイドバンドギャップ半導体としては、SiCの他、たとえば、窒化ガリウム(GaN)系材料またはダイヤモンドなどがある。
【0005】
SiC-MOSFETにはMOSFETと逆方向のボディダイオード(BD)が寄生しており、BDを動作させずに逆方向通電を行うショットキーバリアダイオード(Schottky barrier diode、すなわち、SBD)内蔵MOSFETに関する技術が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2018/139556号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
SBD内蔵MOSFETでは、サージ電流と呼ばれる大きな電流が流れた場合に、一定時間破壊されないことが求められる。この一定時間破壊されないための耐量をI2t耐量と呼ぶが、SBDを内蔵してボディダイオードを通電しにくくした場合、ユニポーラ通電能力は向上するがI2t耐量に影響を与え、I2t耐量が低下してしまう場合がある。
【0008】
本願明細書に開示される技術は、以上に記載されたような問題を鑑みてなされたものであり、SBDが内蔵された半導体装置において、I2t耐量の低下を抑制するための技術である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願明細書に開示される技術の第1の態様である半導体装置は、第1の導電型のドリフト層と、前記ドリフト層の表層に部分的に複数形成された第2の導電型のウェル層と、それぞれの前記ウェル層の表層に部分的に形成された第1の導電型のソース層と、前記ドリフト層と前記ソース層とに挟まれた前記ウェル層に、ゲート絶縁膜を介して接触するゲート電極と、前記ゲート電極を覆って設けられた層間絶縁膜と、前記層間絶縁膜、前記ウェル層および前記ソース層を覆って設けられたソース電極とを備え、前記ゲート電極と平面視で重ならない位置の、前記ウェル層と前記ドリフト層とで構成される複数のボディダイオードが、第1のボディダイオード動作電圧で動作する第1の動作部と、前記第1のボディダイオード動作電圧よりも低い第2のボディダイオード動作電圧で動作する複数の第2の動作部とを含む。
【発明の効果】
【0010】
本願明細書に開示される技術の少なくとも第1の態様によれば、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0011】
また、本願明細書に開示される技術に関連する目的と、特徴と、局面と、利点とは、以下に示される詳細な説明と添付図面とによって、さらに明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】SiCを用いたSBD内蔵MOSFETである半導体装置を上面から見た平面図である。
図2図1の平面図の主に炭化珪素半導体部分の構成の例を記載する平面図である。
図3図1の平面図の主に炭化珪素半導体部分の構成の例を記載する平面図である。
図4図2または図3の活性領域におけるSBD内蔵MOSFETの構造の例を示す断面図である。
図5】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の例を示す断面図である。
図6】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。
図7】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。
図8図1の上面図の主に炭化珪素半導体部分の構成の例を記載する平面図である。
図9】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。
図10】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。
図11】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。
図12】SBD内蔵MOSFETのゲート電圧-ドレイン電流特性の例を示す図である。
図13】SBD内蔵MOSFETのドレイン電圧-ドレイン電流特性の例を示す図である。
図14】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の製造方法の例を示す図である。
図15】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の製造方法の例を示す図である。
図16】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の製造方法の例を示す図である。
図17】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の製造方法の例を示す図である。
図18】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の製造方法の例を示す図である。
図19】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の製造方法の例を示す図である。
図20】実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の製造方法の例を示す図である。
図21】実施の形態にかかる電力変換装置を適用した電力変換システムの構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付される図面を参照しながら実施の形態について説明する。以下の実施の形態では、技術の説明のために詳細な特徴なども示されるが、それらは例示であり、実施の形態が実施可能となるために、それらのすべてが必ずしも必須の特徴ではない。
【0014】
なお、図面は概略的に示されるものであり、説明の便宜のため、適宜、構成の省略、または、構成の簡略化などが図面においてなされる。また、異なる図面にそれぞれ示される構成などの大きさおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得るものである。また、断面図ではない平面図などの図面においても、実施の形態の内容を理解することを容易にするために、ハッチングが付される場合がある。
【0015】
また、以下に示される説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称と機能とについても同様のものとする。したがって、それらについての詳細な説明を、重複を避けるために省略する場合がある。
【0016】
また、本願明細書に記載される説明において、ある構成要素を「備える」、「含む」または「有する」などと記載される場合、特に断らない限りは、他の構成要素の存在を除外する排他的な表現ではない。
【0017】
また、本願明細書に記載される説明において、「第1の」または「第2の」などの序数が使われる場合があっても、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするために便宜上使われるものであり、実施の形態の内容はこれらの序数によって生じ得る順序などに限定されるものではない。
【0018】
また、本願明細書に記載される説明において、「上」、「下」、「左」、「右」、「側」、「底」、「表」または「裏」などの特定の位置または方向を意味する用語が使われる場合があっても、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするために便宜上使われるものであり、実施の形態が実際に実施される際の位置または方向とは関係しないものである。
【0019】
また、本願明細書に記載される説明において、「…の上面」または「…の下面」などと記載される場合、対象となる構成要素の上面自体または下面自体に加えて、対象となる構成要素の上面または下面に他の構成要素が形成された状態も含むものとする。すなわち、たとえば、「Aの上面に設けられるB」と記載される場合、AとBとの間に別の構成要素「C」が介在することを妨げるものではない。
【0020】
<第1の実施の形態>
以下の説明において、nおよびpは半導体の導電型を示し、第1の導電型をn型、第2の導電型をp型として説明する。しかしながら、第1の導電型をp型、第2の導電型をn型としてもよい。
【0021】
また、nは不純物濃度がnよりも低濃度であることを示し、nは不純物濃度がnよりも高濃度であることを示す。同様に、pは不純物濃度がpよりも低濃度であることを示し、pは不純物濃度がpよりも高濃度であることを示す。
【0022】
以下、添付の図面を参照しながら実施の形態について説明する。なお、図面は模式的に示されるものであり、異なる図面にそれぞれ示されている画像のサイズおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得る。また、以下の説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称および機能も同様のものとする。よって、それらについての詳細な説明を省略する場合がある。
【0023】
以下、本実施の形態に関する半導体装置について説明する。説明の便宜上、まず、発明者が知っているSBD内蔵MOSFETの構成に関する技術について説明する。
【0024】
<半導体装置の構成について>
SiCは多くの結晶多形を有している。結晶多形は結晶を構成する原子配置の違いに基づくものであり、結晶多形が異なるSiC結晶は異なる物性を示す。
【0025】
一般に電力制御用の半導体素子には結晶多形が4H-SiCであるものが用いられる。しかしながら、SiC結晶を1つの結晶型のみで構成することは困難であり、結晶成長中に他の結晶型が混入することがある。これは積層欠陥と呼ばれる。
【0026】
電力制御用のMOSFETのドレイン-ソース間にはボディダイオードと呼ばれるpnダイオードが寄生しており、ドレイン電極に正電圧を印加する順方向の動作以外に、ソース電極に正電圧を印加する逆方向の動作が可能である。
【0027】
このようなボディダイオードを利用することで、MOSFETに並列に配置する還流ダイオードを削減し、回路の素子数を減らすことができる。
【0028】
MOSFETが電子または正孔のみが流れるユニポーラ素子であるのに対し、pnダイオードはその両方が同時に流れるバイポーラ素子である。SiCがバイポーラ動作をした場合、電子-正孔対の再結合エネルギーによって上記の積層欠陥が拡張することが知られている。
【0029】
4H-SiC結晶中の積層欠陥は高抵抗体として振る舞うため、結晶欠陥の拡張は素子抵抗の増加につながる。よって、MOSFETとSBDとを並列にする際には使用する電流の範囲内でMOSFETのボディダイオードが動作しないよう、言い換えれば発生電圧がボディダイオードの立ち上がり電圧に満たないようにSBDを設計する必要がある。
【0030】
そこで、SiC-MOSFET中にSBDを内蔵し、逆方向電流をボディダイオードではなくSBDに流す、SBD内蔵MOSFET技術が開発されている。
【0031】
図1は、SiCを用いたSBD内蔵MOSFETである半導体装置を上面から見た平面図である。図1において、SBD内蔵MOSFETの上面の一部にはゲートパッド81が形成されており、ゲートパッド81に隣接してソース電極8が形成されている。また、ゲートパッド81から延びるように、ゲート配線82が形成されている。
【0032】
図2は、図1の平面図の主に炭化珪素半導体部分の構成の例を記載する平面図である。図2に例が示される半導体装置は、SBD領域を挟んでその両側にMOSFET領域が形成された単位セル領域がストライプ状に並んで設けられたものであり、「ストライプ型」とも呼ぶ。
【0033】
図2において、ドリフト層2上に、SBDにほぼ対応するn型の離間領域10とMOSFETにほぼ対応するp型のウェル層3からなる単位セル領域が平面視で一方向に繰り返し配置されたものである。SBD内蔵MOSFETが形成された領域を活性領域と呼び、活性領域の外周に形成された、p型のウェル層31などが形成されたゲートパッド81(図1を参照)の形成領域を含む領域を終端領域と呼ぶ。
【0034】
図3は、図1の平面図の主に炭化珪素半導体部分の構成の例を記載する平面図である。図3に例が示される半導体装置は、SBD領域を囲むMOSFET領域が形成された単位セル領域が平面視で縦横に繰り返し配置されたものであり、「格子型」と呼ぶ。
【0035】
図3において、ドリフト層2上に、SBDにほぼ対応するn型の離間領域10とMOSFETにほぼ対応するp型のウェル層3からなる単位セル領域が平面視で縦横方向に繰り返し配置されたものである。SBD内蔵MOSFETが形成された領域を活性領域と呼び、活性領域の外周に形成された、p型のウェル層31などが形成されたゲートパッド81の形成領域を含む領域を終端領域と呼ぶ。
【0036】
図4は、図2または図3の活性領域におけるSBD内蔵MOSFETの構造の例を示す断面図である。
【0037】
図4に例が示されるように、SBD内蔵MOSFETは、n型の半導体基板1と、n型の半導体基板1の上面に形成されたn型のドリフト層2と、n型のドリフト層2の表層に部分的に複数形成されたp型のウェル層3と、p型のウェル層3の表層に形成されたn型のソース層4と、p型のウェル層3の表層に部分的に形成された、p型のウェル層3よりも高い不純物濃度であるp型のコンタクト領域42と、n型のドリフト層2とn型のソース層4とに挟まれたp型のウェル層3の上面に、ゲート絶縁膜5を介して対向するゲート電極7と、ゲート電極7の上面および側面を覆って形成された層間絶縁膜6と、層間絶縁膜6とn型のドリフト層2とp型のウェル層3とn型のソース層4とp型のコンタクト領域42とを覆って形成されたソース電極8と、n型の半導体基板1の下面に形成されたドレイン電極9とを備える。ゲート電極7と平面視で重ならない位置のp型のウェル層3間の領域をn型の離間領域10とする。また、図4の場合では、積層欠陥11が、複数のp型のウェル層3に跨って形成されている様子が示されている。
【0038】
ここで、SBDは、n型の離間領域10とソース電極8とで形成される。また、ボディダイオードは、p型のウェル層3とn型のドリフト層2とで形成される。
【0039】
SBDはユニポーラ素子であるため、ボディダイオードのような積層欠陥の拡張を生じさせない。内蔵されたSBDはMOSFETの外部に設けられたSBDとは異なり、ボディダイオードとの間でn型のドリフト層2を共有する。
【0040】
これによって、SBDにかかる電圧とボディダイオードにかかる電圧とが等しくなるため、通常のMOSFETに寄生するボディダイオードよりも、SBD内蔵MOSFETのボディダイオードの立ち上がり電圧は大きくなる。すなわち、SBD内蔵MOSFETは、通常のMOSFETとSBDとを並列にする場合よりも、多くのSBD電流を流すことができる。
【0041】
SBDに電流サージが流れた場合、SBDが発熱して破壊に至る可能性がある。この電流サージに対する耐性であるI2t耐量を上げるため、SBDにpnダイオードを並列接続するjunction barrier controlled schottky diode(JBS)と呼ばれる構造が用いられている。
【0042】
JBS中のSBDは立ち上がり電圧が低いのに対し、JBS中のpnダイオードは立ち上がり電圧が高い。これによって、通常動作時はSBDを動作させる一方、電流サージが流れた際にはpnダイオードを動作させて発生電圧を下げ、破壊を防ぐことができる。特に高温下においてはこのpnダイオードの動作電圧が下がるため、JBSは通常のSBDよりもI2t耐量が高くなる。
【0043】
SBD内蔵MOSFETでもボディダイオードがJBSのpnダイオードと同様の働きをする。すなわち、ある一定の電流サージが入るとボディダイオードが動作し、発生電圧が低下して電流経路が内蔵SBDからボディダイオードへと切り替わる。
【0044】
しかしながら、発明者らはSBD内蔵MOSFETのボディダイオード動作電圧(ボディダイオードが動作する電圧)のヒストグラムが複数のピークを有すること、さらにこれが上記の積層欠陥が原因となって引き起こされることを見いだした。
【0045】
図4に例が示されたように、一部の積層欠陥11はn型のドリフト層2のエピタキシャル成長後の時点ですでにn型のドリフト層2の表層に到達している。そして、この高抵抗層である積層欠陥11が内蔵SBDである離間領域10を塞ぐことで、ボディダイオードと内蔵SBDとの並列関係が局所的に解け、その部分のボディダイオードの動作電圧が下がる。
【0046】
そうすると、ボディダイオードの動作によって発生した電子-正孔対は周囲に拡散して連鎖的にボディダイオード動作を誘発するため、ボディダイオードが動作する領域はある程度の面積を有する。サージ電流はこの領域に集中するため、結果として小さい電流値で熱破壊が生じる。特に、半導体チップが多数並列に接続されたモジュールの場合、ボディダイオードの動作電圧が下がったチップに大部分の電流が集中してしまうため、全体としてのI2t耐量がさらに下がってしまう。
【0047】
一方で、積層欠陥が含まれる場合と含まれない場合とを比較すると、前者のほうがより高いI2t耐量を示す場合があることも分かった。半導体チップに積層欠陥が含まれない場合には、ボディダイオードの動作電圧が高くなるため同じ電流値での発熱量が上がり、I2t耐量は低くなる。半導体チップに含まれる積層欠陥が少ない場合には、ボディダイオードの動作電圧は下がるものの積層欠陥部分の電流密度が過度に上がってしまうため、I2t耐量はさらに低くなる。積層欠陥が多い場合には、複数個所でボディダイオード動作が起きて電流が分散するため熱破壊を起こす電流密度まで到達しにくくなり、I2t耐量は上がる。積層欠陥の位置または数は、パワーモジュールのI2t耐量ばらつきとなって現れる。
【0048】
図5は、本実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の例を示す断面図である。以下の説明では炭化珪素半導体装置としてSBD内蔵MOSFETが用いられるが、ショットキー接合とpn接合とが並列に接続されている素子であれば、たとえば、JBSなどであってもよい。
【0049】
図5に例が示されるように、SBD内蔵MOSFETは、n型の半導体基板1と、n型の半導体基板1の上面に形成されたn型のドリフト層2と、n型のドリフト層2の表層に部分的に複数形成されたp型のウェル層3と、n型のドリフト層2の表層に部分的に形成されたp型のウェル層3Aと、p型のウェル層3の表層およびp型のウェル層3Aの表層に形成されたn型のソース層4と、p型のウェル層3の表層およびp型のウェル層3Aの表層に部分的に形成された、p型のウェル層3よりも高い不純物濃度であるp型のコンタクト領域42と、n型のドリフト層2とn型のソース層4とに挟まれたp型のウェル層3の上面、および、n型のドリフト層2とn型のソース層4とに挟まれたp型のウェル層3Aの上面に、ゲート絶縁膜5を介して対向するゲート電極7と、ゲート電極7の上面および側面を覆って形成された層間絶縁膜6と、層間絶縁膜6とn型のドリフト層2とp型のウェル層3とp型のウェル層3Aとn型のソース層4とp型のコンタクト領域42とを覆って形成されたソース電極8と、n型の半導体基板1の下面に形成されたドレイン電極9とを備える。ゲート電極7と平面視で重ならない位置のp型のウェル層3間の領域を離間領域10とする。p型のウェル層3の表層におけるコンタクト領域42のコンタクト抵抗は、p型のウェル層3Aの表層におけるコンタクト領域42のコンタクト抵抗よりも高い。
【0050】
p型のウェル層3Aの幅は、p型のウェル層3の幅よりも広く形成される。また、p型のウェル層3Aの表層には、複数のゲート電極7に対向するn型のソース層4がそれぞれ形成される。すなわち、p型のウェル層3Aは、p型のウェル層3間の離間領域10を埋めるように形成され、ボディダイオード動作構造として機能する。
【0051】
上記のように、SBD内蔵MOSFETが並列に接続されたパワーモジュールでは、半導体チップに内在する積層欠陥の数によってI2t耐量がばらついてしまう。特に、積層欠陥の数が少ない場合は極端にI2t耐量が下がるため、使用中の破壊が懸念される。
【0052】
これを解決するためにはボディダイオード動作を起こす箇所が半導体チップ内に複数あればよい。すなわち、本実施の形態に関する炭化珪素半導体装置では、ボディダイオード動作電圧を下げるために、ボディダイオード動作を起こす構造であるボディダイオード動作構造を設ける。
【0053】
ボディダイオード動作構造は、積層欠陥のある部分よりもボディダイオードの立ち上がり電圧が低いか、ボディダイオードの線形抵抗が低いかのいずれか、または、その両方を満たせばよい。
【0054】
まず、ボディダイオードの立ち上がり電圧を下げるためには、SBD部分の電圧降下を小さくすればよい。
【0055】
たとえば、図5に例が示されたp型のウェル層3Aは、離間領域10をp型の不純物層で閉塞してしまう。そうすることでショットキー接合とpn接合との並列状態が解けるため、この部分のボディダイオード動作電圧は低下する。すなわち、ボディダイオード動作構造がある第2の動作部は、ボディダイオード動作構造がない通常部分である第1の動作部と比べてボディダイオード動作電圧が低下する。
【0056】
図6は、本実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。
【0057】
図6に例が示されるように、SBD内蔵MOSFETは、n型の半導体基板1と、n型の半導体基板1の上面に形成されたn型のドリフト層2と、n型のドリフト層2の表層に部分的に複数形成されたp型のウェル層3と、n型のドリフト層2の表層に部分的に形成されたp型のウェル層3Bと、p型のウェル層3の表層およびp型のウェル層3Bの表層に形成されたn型のソース層4と、p型のウェル層3の表層およびp型のウェル層3Bの表層に部分的に形成された、p型のウェル層3よりも高い不純物濃度であるp型のコンタクト領域42と、n型のドリフト層2とn型のソース層4とに挟まれたp型のウェル層3の上面、および、n型のドリフト層2とn型のソース層4とに挟まれたp型のウェル層3Bの上面に、ゲート絶縁膜5を介して対向するゲート電極7と、ゲート電極7の上面および側面を覆って形成された層間絶縁膜6と、層間絶縁膜6とn型のドリフト層2とp型のウェル層3とp型のウェル層3Bとn型のソース層4とp型のコンタクト領域42とを覆って形成されたソース電極8と、n型の半導体基板1の下面に形成されたドレイン電極9とを備える。ゲート電極7と平面視で重ならない位置のp型のウェル層3間の領域を離間領域10とする。また、p型のウェル層3B間の領域を離間領域100とする。
【0058】
p型のウェル層3Bの幅は、p型のウェル層3の幅よりも広く形成される。ただし、p型のウェル層3Bの幅は、p型のウェル層3の幅と同等であってもよい。また、p型のウェル層3B同士の間の間隔は、p型のウェル層3同士の間の間隔よりも狭い。すなわち、複数のp型のウェル層3Bで形成されるゲート電極7と平面視で重ならない位置の離間領域100が離間領域10よりも狭くなり、離間領域10でウェル層3とドリフト層2とで形成されるボディダイオード動作よりもボディダイオード動作電圧が低いボディダイオード動作構造として機能する。ここで、離間領域10においてショットキー接触するドリフト層2とソース電極8との仕事関数の差は、p型のウェル層3Bが形成される箇所におけるショットキー接触するドリフト層2とソース電極8との仕事関数の差よりも高い。また、離間領域10においてソース電極8からドレイン電極9に向かって流れる電子のライフタイムは、p型のウェル層3Bが形成される箇所においてソース電極8からドレイン電極9に向かって流れる電子のライフタイムよりも低い。
【0059】
図5に例が示されたボディダイオード動作構造のようにn型の離間領域10を閉塞しなくても、図6に例が示されるように、通常部分である第1の動作部よりも狭い間隔で複数のp型のウェル層3Bが配置されればよい。
【0060】
図7は、本実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。
【0061】
図7に例が示されるように、SBD内蔵MOSFETは、n型の半導体基板1と、n型の半導体基板1の上面に形成されたn型のドリフト層2と、n型のドリフト層2の表層に部分的に複数形成されたp型のウェル層3と、n型のドリフト層2の他の表層に部分的に複数形成された、n型のドリフト層2にn型の不純物がドープされたn型のドープ層14と、p型のウェル層3の表層に形成されたn型のソース層4と、p型のウェル層3の表層に部分的に形成された、p型のウェル層3よりも高い不純物濃度であるp型のコンタクト領域42と、n型のドープ層14とn型のソース層4とに挟まれたp型のウェル層3の上面に、ゲート絶縁膜5を介して対向するゲート電極7と、ゲート電極7の上面および側面を覆って形成された層間絶縁膜6と、層間絶縁膜6とn型のドリフト層2とp型のウェル層3とn型のソース層4とn型のドープ層14とp型のコンタクト領域42とを覆って形成されたソース電極8と、n型の半導体基板1の下面に形成されたドレイン電極9とを備える。ゲート電極7と平面視で重ならない位置のp型のウェル層3間の領域で、n型のドープ層14が形成されている領域を離間領域10とし、n型のドープ層14が形成されていない領域を離間領域101とする。
【0062】
n型のドープ層14は、n型のドリフト層2にn型の不純物(イオンなど)がドープされて形成される層であり、n型の不純物濃度がn型のドリフト層2の不純物濃度よりも高い。
【0063】
図7に例が示されるような構造であれば、n型のドリフト層2がn型のドープ層14よりも不純物濃度が低いため、n型のドリフト層2が形成される箇所(離間領域101)がボディダイオード動作構造として機能する。
【0064】
図4に例が示された構造から図5図6または図7に例が示された構造への変更は、p型のウェル層3を形成する際のマスク、または、n型のドープ層14を形成する際のマスクを一部変更するだけで実施可能であり、製造コストの増加を伴わない。
【0065】
また、ショットキー障壁高さが通常部分である第1の動作部よりも小さい金属を局所的に用いて第2の動作部を形成してもよい。
【0066】
これらの手法を用いることで、局所的にボディダイオードの立ち上がり電圧の低い構造を作ることができる。
【0067】
一方で、ボディダイオードの線形抵抗を下げるためには、図4におけるp型のウェル層3とソース電極8とが接触する領域(コンタクト領域)の抵抗を下げる(p型のコンタクト領域42を設ける)、または、局所的にライフタイムを上げればよい。
【0068】
上記の積層欠陥が形成される場合と同じように、ボディダイオード動作構造から一定の範囲にボディダイオード動作が伝播するため、形成すべきボディダイオード動作構造の大きさは、たとえば、10μm以上、かつ、500μm以下であればよい。
【0069】
図8は、図1の上面図の主に炭化珪素半導体部分の構成の例を記載する平面図である。図8に例が示される半導体装置は、活性領域では、トランジスタが形成されたストライプ状のゲートトレンチGT(後述の溝102)とストライプ状のショットキートレンチST(後述の溝102)とが、互いに平行に交互に配置されている。活性領域の周囲の終端領域には、p型のウェル層3が形成されている。
【0070】
図9は、本実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。図9では、図8の活性領域におけるSBD内蔵MOSFETの構造が示される。
【0071】
図9に例が示されるように、SBD内蔵MOSFETは、n型の半導体基板1と、n型の半導体基板1の上面に形成されたn型のドリフト層2と、n型のドリフト層2の表層に部分的に複数形成されたp型のウェル層3と、p型のウェル層3の上面からn型のドリフト層2内に達して形成された複数の溝102と、溝102のn型のドリフト層2に対向する1つの底面に1つ形成されたp型の電界緩和層16と、p型のウェル層3の表層において溝102を挟んで部分的に形成されたn型のソース層40と、p型のウェル層3の表層に部分的に形成された、p型のウェル層3よりも高い不純物濃度であるp型のコンタクト領域43と、一部の溝102の内部で側面および底面に接触して形成されたゲート絶縁膜50と、n型のドリフト層2とn型のソース層40とに挟まれたp型のウェル層3の側面に、ゲート絶縁膜50を介して対向する溝102内のゲート電極70と、ゲート電極70が形成された複数の溝102の、n型のドリフト層2に対向する底面に跨って連続的に形成されたp型の電界緩和層16Aと、ゲート電極70の上面を覆って形成された層間絶縁膜60と、層間絶縁膜60とp型のウェル層3とn型のソース層40とp型のコンタクト領域43と電界緩和層16とp型の電界緩和層16Aとを覆って形成されたソース電極8と、n型の半導体基板1の下面に形成されたドレイン電極9とを備える。ここで、p型の電界緩和層16間の領域を離間領域10Aとする。
【0072】
p型の電界緩和層16Aの幅は、p型の電界緩和層16の幅よりも広く形成される。p型の電界緩和層16Aは、p型の電界緩和層16間の離間領域10Aを埋めるように形成され、ボディダイオード動作構造として機能する。
【0073】
なお、半導体チップの大きさ、並列数または電流値に起因するものの、ボディダイオード動作構造は、半導体チップ内に複数設けられてもよい。
【0074】
一方でボディダイオード動作構造は、その性質上、通常時(サージ電流発生時以外)でもボディダイオード電流が流れることが避けられない。ボディダイオード電流は積層欠陥の拡張を引き起こすが、ボディダイオード動作構造が設けられることによって生じるボディダイオード動作領域は周囲数百μm程度にとどまる。そのため、仮に当該領域内で積層欠陥が拡張したとしても、半導体チップ全体としての特性の変動は十分に抑えられる。
【0075】
図4図5図6および図7では、プレーナ型のSBD内蔵MOSFETについて説明されたが、図9に例が示されたように、トレンチ型のSBD内蔵MOSFETであって本実施の形態の構造が適用可能である。
【0076】
トレンチ型のSBD内蔵MOSFETでは、溝102の底部にかかる電界を緩和するためにp型の電界緩和層16が設けられることが多く、プレーナ型のSBD内蔵MOSFETにおけるp型のウェル層とn型のドリフト層2とによるボディダイオードに加えて、p型の電界緩和層16とn型のドリフト層2とによるボディダイオードにも対処する必要がある。
【0077】
電界緩和層16の不純物濃度、または、電界緩和層16をどのような方法でソース電極8と接続させるかにもよるが、多くの場合、ボディダイオード電流は、p型のウェル層3とn型のドリフト層2とによるボディダイオードを中心に流れる。
【0078】
トレンチ型のSBD内蔵MOSFETにおいて、内蔵MOSFETをどの位置に設けるかには3つの候補がある。1つ目は溝102同士の間のp型のウェル層3に離間領域を設ける方法であり、2つ目は電界緩和層16に離間領域を設ける方法であり、3つ目は溝102の側面のp型のウェル層3と電界緩和層16との間を離間領域として用いる方法である。しかしながら、3つ目の方法は、トレンチ幅を広くする必要があるため好ましくない。
【0079】
1つ目の方法および2つ目の方法では、積層欠陥が離間領域を塞ぐように形成され、3つ目の方法では、積層欠陥が電界緩和層16の間を塞ぐように形成されることで、それぞれプレーナ型と同様のボディダイオード動作電圧の低下が起こりうる。
【0080】
これに対するボディダイオード動作構造も、プレーナ型のSBD内蔵MOSFETにおけるものと同様の方針のものを用いることができる。1つ目の方法の場合には、プレーナ型と同じ対策(図9のボディダイオード動作構造を参照)でよい。2つ目の方法および3つ目の方法の場合には、p型のウェル層を電界緩和層16と読み替えればよい。
【0081】
図10は、本実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。
【0082】
図10に例が示されるように、SBD内蔵MOSFETは、n型の半導体基板1と、n型の半導体基板1の上面に形成されたn型のドリフト層2と、n型のドリフト層2の表層に部分的に複数形成されたp型のウェル層3と、p型のウェル層3の上面からn型のドリフト層2内に達して形成された複数の溝102と、溝102のn型のドリフト層2に対向する1つの底面に1つ形成されたp型の電界緩和層16と、p型のウェル層3の表層において溝102を挟んで部分的に形成されたn型のソース層40と、p型のウェル層3の表層に部分的に形成された、p型のウェル層3よりも高い不純物濃度であるp型のコンタクト領域43と、一部の溝102の内部で側面および底面に接触して形成されたゲート絶縁膜50と、n型のドリフト層2とn型のソース層40とに挟まれたp型のウェル層3の側面に、ゲート絶縁膜50を介して対向する溝102内のゲート電極70と、ゲート電極70が形成された複数の溝102の、n型のドリフト層2に対向する底面に跨って不連続に形成されたp型の電界緩和層16Bと、ゲート電極70の上面を覆って形成された層間絶縁膜60と、層間絶縁膜60とp型のウェル層3とn型のソース層40とp型のコンタクト領域43と電界緩和層16とp型の電界緩和層16Bとを覆って形成されたソース電極8と、n型の半導体基板1の下面に形成されたドレイン電極9とを備える。
【0083】
複数の溝102の底面に跨るp型の電界緩和層16Bは、互いに離間する電界緩和層16B同士の間の間隔(離間領域100A)が、複数の電界緩和層16同士の間の間隔(離間領域10A)よりも狭く配置される。すなわち、p型の電界緩和層16Bはボディダイオード動作構造として機能する。
【0084】
図11は、本実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の構造の他の例を示す断面図である。
【0085】
図11に例が示されるように、SBD内蔵MOSFETは、n型の半導体基板1と、n型の半導体基板1の上面に形成されたn型のドリフト層2と、n型のドリフト層2の表層に部分的に複数形成されたp型のウェル層3と、n型のドリフト層2の他の表層に部分的に複数形成された、n型のドリフト層2にn型の不純物がドープされたn型のドープ層14Aと、p型のウェル層3の上面からn型のドリフト層2内およびn型のドープ層14A内に達して形成された複数の溝102と、溝102のn型のドリフト層2側に対向する1つの底面に1つ形成されたp型の電界緩和層16と、p型のウェル層3の表層において溝102を挟んで部分的に形成されたn型のソース層40と、p型のウェル層3の表層に部分的に形成された、p型のウェル層3よりも高い不純物濃度であるp型のコンタクト領域43と、一部の溝102の内部で側面および底面に接触して形成されたゲート絶縁膜50と、n型のドープ層14Aとn型のソース層40とに挟まれたp型のウェル層3の側面に、ゲート絶縁膜50を介して対向する溝102内のゲート電極70と、ゲート電極70の上面を覆って形成された層間絶縁膜60と、層間絶縁膜60とp型のウェル層3とn型のソース層40とp型のコンタクト領域43と電界緩和層16とを覆って形成されたソース電極8と、n型の半導体基板1の下面に形成されたドレイン電極9とを備える。ここで、p型の電界緩和層16間のn型のドープ層14Aが形成されている領域を離間領域10Aとし、p型の電界緩和層16間のn型のドープ層14Aが一部形成されていない領域を離間領域101Aとする。
【0086】
n型のドープ層14Aは、n型のドリフト層2にn型の不純物(イオンなど)がドープされて形成される層であり、n型の不純物濃度がn型のドリフト層2の不純物濃度よりも高い。
【0087】
図11に例が示されるような構造であれば、n型のドリフト層2がn型のドープ層14Aよりも不純物濃度が低いため、n型のドリフト層2が形成される箇所(離間領域101A)がボディダイオード動作構造として機能する。
【0088】
<第2の実施の形態>
本実施の形態に関する半導体装置について説明する。なお、以下の説明においては、以上に記載された実施の形態で説明された構成要素と同様の構成要素については同じ符号を付して図示し、その詳細な説明については適宜省略するものとする。
【0089】
<半導体装置の構成について>
第1の実施の形態では、SBD内蔵MOSFETにボディダイオード動作電圧の異なる第1の動作部と第2の動作部とを形成して、半導体チップのボディダイオード動作電圧を下げた。一方で、積層欠陥をボディダイオード動作構造としてもよい。
【0090】
具体的にはボディダイオード動作電圧の低いもののみを選別してモジュール化することで、モジュールのI2t耐量ばらつきを改善することができる。
【0091】
モジュールのI2t耐量ばらつきが起こる原因は、ボディダイオード動作電圧の異なる半導体チップが並列に接続されることにある。すなわち、モジュールに用いる半導体チップを事前に検査してボディダイオード動作電圧の低いものを選別することで、モジュールのI2t耐量ばらつきは改善される。
【0092】
この場合、積層欠陥はMOSFET領域内に含まれている必要がある。具体的には、あるp型のウェル層3からそれに隣接するp型のウェル層3まで、積層欠陥が平面的に存在して離間領域を塞ぐことによって、積層欠陥部分のボディダイオード動作電圧が低下する。また、第1の実施の形態に記載されたボディダイオード動作構造が用いられていてもよいし、用いられていなくともよい。
【0093】
ボディダイオード動作電圧は、チップ段階での測定で求めることができる。ただし、SBD内蔵MOSFETは、その性質上ボディダイオードが動きにくくなっており、ボディダイオード動作電圧を確認するためには、高温かつ、高電流密度での測定が必要となる。
【0094】
これと異なる手法として、他の電気特性に基づいてボディダイオード動作電圧を選別する手法を用いてもよい。
【0095】
たとえば、SBD内蔵MOSFETであれば、ボディダイオード動作電圧を下げる積層欠陥はゲート・ソース間の電気特性にも影響を与える場合がある。SBD内蔵MOSFETのp型のウェル層の構造によっては、ゲート電圧-ドレイン電流特性が図12に例が示されるように裾を引く場合がある。これは、ボディダイオード動作電圧を下げるものと同種の積層欠陥に起因している。ここで、図12は、SBD内蔵MOSFETのゲート電圧-ドレイン電流特性の例を示す図である。図12において、縦軸はドレイン電流を示し、横軸はゲート電圧を示す。図12の例では、ドレイン電流Id1でのゲート電圧Vg1a(点線を参照)が、ボディダイオードの動作電圧を低下させるような積層欠陥を有さないSBD内蔵MOSFETのドレイン電流Id1でのゲート電圧Vg1(実線を参照)に比べて低くなっている。
【0096】
よって、あるドレイン電流Id1を流す際のゲート電圧Vg1は、SBD内蔵MOSFETが積層欠陥を含む場合にはVg1aへと低下する。このように、SBD内蔵MOSFETのゲート電圧を比較することで、ボディダイオード動作電圧が低い半導体チップを選別することができる。
【0097】
また、図13に例が示されるように、積層欠陥はSBD内蔵MOSFETの耐圧特性にも影響を及ぼす。あるドレイン電圧Vd2でのSBD内蔵MOSFETのドレイン電流値Id2(実線を参照)は、積層欠陥を含む場合にはId2a(点線を参照)へと増加する。よって、ドレイン電流を測定することでもボディダイオード動作電圧が低い半導体チップを選別することができる。ここで、図13は、SBD内蔵MOSFETのドレイン電圧-ドレイン電流特性の例を示す図である。図13において、縦軸はドレイン電流を示し、横軸はドレイン電圧を示す。
【0098】
これらの手法は単一の測定による結果で判別されてもよいし、電流および電圧の異なる複数の測定結果の差分または比に基づいて判別されてもよい。
【0099】
また、これらとは異なる手法として、積層欠陥をエピタキシャル成長後の段階で検査することも可能である。積層欠陥は4H-SiCとはバンドギャップが異なるため、フォトルミネッセンスなどの手法で面内位置を確認することができる。これを半導体チップの位置と照合し、積層欠陥を含む半導体チップを選別してもよい。
【0100】
上記のいずれかの手法によってドリフト層2の積層欠陥を検査して、単位領域あたりに存在する積層欠陥の数があらかじめ定められたしきい値以下である複数の特定領域を特定する。そして、ドリフト層2の表層にp型の不純物をイオン注入した後、注入された不純物を熱処理で拡散させて、上記の特定領域におけるボディダイオード動作電圧を、特定領域以外におけるボディダイオード動作電圧よりも低くする。
【0101】
以上、3つの手法が説明されたが、これらのうちの1つが単独で用いられてもよいし、複数を組み合わせて判別されてもよい。
【0102】
以上より、ボディダイオード動作電圧が低い半導体チップを選別して用いることで、パワーモジュールのI2t耐量ばらつきを改善することができる。
【0103】
<第3の実施の形態>
本実施の形態に関する半導体装置の製造方法について説明する。なお、以下の説明においては、以上に記載された実施の形態で説明された構成要素と同様の構成要素については同じ符号を付して図示し、その詳細な説明については適宜省略するものとする。
【0104】
<炭化珪素半導体装置(プレーナ型)の製造方法について>
次に、本実施の形態の炭化珪素半導体装置であるSBD内蔵MOSFET(プレーナ型)の製造方法について、図14から図16を参照しつつ説明する。なお、図14から図16は、本実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の製造方法の例を示す図である。
【0105】
まず、第1の主面の面方位がオフ角を有する(0001)面であり、4Hのポリタイプを有する、n型で低抵抗の炭化珪素からなる半導体基板1の上面に、化学気相堆積(chemical vapor deposition、すなわち、CVD)法によって、1×1015cm-3以上、かつ、1×1017cm-3以下のn型の不純物濃度で、5μm以上、かつ、50μm以下の厚さの炭化珪素からなるドリフト層2をエピタキシャル成長させる。
【0106】
次に、ドリフト層2の表層の所定の領域にフォトレジストなどにより注入マスクを形成し、p型の不純物であるAl(アルミニウム)をイオン注入する。このとき、Alのイオン注入の深さはドリフト層2の厚さを超えない0.5μm以上、かつ、3μm以下程度とする。また、イオン注入されたAlの不純物濃度は、1×1017cm-3以上、かつ、1×1019cm-3以下の範囲であり、ドリフト層2の不純物濃度よりも高くする。
【0107】
その後、注入マスクを除去する。本工程によりAlイオン注入された領域が、活性領域においてはウェル層3、ウェル層3Aとなり、終端領域においてはウェル層31となる。
【0108】
次に、終端領域のドリフト層2の表層にフォトレジストなどにより注入マスクを形成し、p型の不純物濃度であるAlをイオン注入する。この際、Alのイオン注入の深さはドリフト層2の厚さを超えない0.5μm以上、かつ、3μm以下程度とする。また、イオン注入されたAlの不純物濃度は、1×1016cm-3以上、かつ、1×1018cm-3以下の範囲であり、ドリフト層2の不純物濃度よりも高く、かつ、ウェル層3の不純物濃度よりも低いものとする。
【0109】
その後、注入マスクを除去する。本工程によりAlがイオン注入された領域がJTE領域(ここでは図示せず)となる。
【0110】
同様に、所定の領域にウェル層3の不純物濃度よりも高い1×1016cm-3以上、かつ、1×1018cm-3以下の範囲の不純物濃度でAlをイオン注入することによって、コンタクト領域42を形成する。
【0111】
次に、ドリフト層2の表層のウェル層3の内側の所定の箇所が開口するようにフォトレジストなどにより注入マスクを形成し、n型の不純物であるN(窒素)をイオン注入する。Nのイオン注入深さは、ウェル層3の厚さよりも浅いものとする。また、イオン注入したNの不純物濃度は、1×1018cm-3以上、かつ、1×1021cm-3以下の範囲であり、ウェル層3のp型の不純物濃度を超えるものとする。本工程でNが注入された領域のうち、n型を示す領域がソース層4となる。
【0112】
次に、熱処理装置によって、アルゴン(Ar)ガスなどの不活性ガス雰囲気中で、1300℃以上、かつ、1900℃以下の温度で、30秒以上、かつ、1時間以下のアニールを行う。このアニールによって、イオン注入されたNおよびAlを電気的に活性化させる。図14において、このようにイオン注入を終えた段階の活性領域の構成が示される。
【0113】
次に、CVD法、フォトリソグラフィー技術などを用いて、ウェル層3が形成された領域にほぼ対応する活性領域を除く領域の半導体層の上に、膜厚が0.5μm以上、かつ、2μm以下でゲート絶縁膜の膜厚よりも厚く、酸化珪素からなるフィールド絶縁膜(ここでは図示せず)を形成する。
【0114】
次に、フィールド絶縁膜に覆われていない炭化珪素の上面を熱酸化して所望の厚みのゲート絶縁膜5である酸化珪素膜を形成する。次に、ゲート絶縁膜5およびフィールド絶縁膜の上面に、導電性を有する多結晶シリコン膜を減圧CVD法により形成し、これをパターニングしてゲート電極7を形成する。次に、ゲート絶縁膜よりも膜厚が大きく、酸化珪素からなる層間絶縁膜6を減圧CVD法により形成する。図15において、この段階までの工程を終えた活性領域の構成が示される。
【0115】
次に、層間絶縁膜6とゲート絶縁膜5とを貫く、活性領域内のソース層4に到達する活性領域コンタクトホールを形成する。
【0116】
図16において、この段階までの工程を終えた活性領域の構成が示される。
【0117】
次に、半導体基板1の上面にスパッタ法または蒸着法によりAlなどの配線金属を形成し、フォトリソグラフィー技術により所定の形状に加工することで、ソース電極8を形成する。また、半導体基板1の下面にドレイン電極9を形成する。このようにして、図5に示される炭化珪素半導体装置を製造することができる。
【0118】
次に、図5に示されるSBD内蔵MOSFETの動作について説明する。ここで、半導体材料が4H型の炭化珪素の半導体装置を例に説明する。この場合、pn接合の拡散電位はおおよそ2Vである。
【0119】
本実施の形態に関するSBD内蔵MOSFETの動作を、3つの状態に分けて簡単に説明する。
【0120】
1つ目の状態は、ソース電極8に対してドレイン電極9に高い電圧が印加され、かつ、ゲート電極7にしきい値以上の正の電圧が印加されている場合で、以下「オン状態」と呼ぶ。このオン状態では、チャネル領域に反転チャネルが形成され、n型のソース層4からゲート電極7の直下のドリフト層2に達する範囲でキャリアである電子が流れる経路が形成される。一方、離間領域10とソース電極8との間では、電流は流れない。ソース電極8からドレイン電極9へ流れ込む電子は、ドレイン電極9に印加される正電圧により形成される電界にしたがって、ソース電極8から、ソース層4、チャネル領域、ドリフト層2および半導体基板1を経由してドレイン電極9に到達する。したがって、ゲート電極7に正電圧を印加することによって、ドレイン電極9からソース電極8にオン電流が流れる。
【0121】
このときにソース電極8とドレイン電極9の間に印加される電圧をオン電圧と呼び、オン電圧をオン電流の密度で除した値をオン抵抗と呼び、上記電子が流れる経路の抵抗の合計に等しい。オン抵抗とオン電流の自乗の積は、MOSFETが通電時に消費する通電損失に等しいため、オン抵抗は低い方が好ましい。
【0122】
2つ目の状態は、ソース電極8に対してドレイン電極9に高い電圧が印加され、かつ、ゲート電極7にしきい値以下の電圧が印加されている場合で、以下「オフ状態」と呼ぶ。この状態では、チャネル領域に反転キャリアが存在しないため、オン電流は流れず、オン状態では負荷にかかっていた高電圧がMOSFETのソース電極8とドレイン電極9間に印加される。離間領域10とソース電極8との間には理想的には電流が流れないが、「オン状態」よりも遥かに高い電界が印加されるため、リーク電流が発生し得る。リーク電流が大きいと、MOSFETの発熱を増大させ、MOSFETおよびMOSFETを用いたモジュールを熱破壊させることがあることから、リーク電流を低減すべく、ショットキー接合にかかる電界は低く抑えることが好ましい。
【0123】
3つ目の状態は、ソース電極8に対してドレイン電極9に低い電圧、すなわち、MOSFETに逆起電圧が印加された状態で、ソース電極8からドレイン電極9に向かって還流電流が流れる。以下、この状態を「還流状態」と呼ぶ。還流状態では、離間領域10とソース電極8との間に順方向の電界(順バイアス)が印加され、ソース電極8からn型の離間領域10に向かって電子電流からなるユニポーラ電流が流れる。この時、還流ダイオードの還流電流成分は主にこのユニポーラ成分である。
【0124】
なお、ソース電極8とウェル層3とは同電位となっている。その結果、p型のウェル層3とドリフト層2との間のpn接合にも順バイアスが印加されるが、pn接合はn型の離間領域10とソース電極8とで形成されるショットキー接合と並列に形成されており、オフ状態から還流状態になるときに、しきい値電圧がより低いショットキー接合の方がpn接合より先にオンするので、還流電流はほぼショットキー接合に流れ、pn接合には流れない。
【0125】
このように、SBDを内蔵することによって、還流状態においてもpn接合にバイポーラ電流である順方向電流が流れることを抑制することができる。
【0126】
pn接合にバイポーラ電流が流れ、このような箇所に基底面転位などの起点が存在すると、積層欠陥が拡張し、トランジスタの耐圧が低下してしまうことがある。具体的には、トランジスタがオフ状態のときに漏れ電流が発生し、漏れ電流による発熱によって素子または回路が破壊してしまうことがある。
【0127】
しかしながら、SBDを内蔵することによって、還流時にpn接合にバイポーラ電流が流れることを抑制でき、半導体装置の信頼性を高めることができる。
【0128】
<炭化珪素半導体装置(トレンチ型)の製造方法について>
次に、本実施の形態の炭化珪素半導体装置であるSBD内蔵MOSFET(トレンチ型)の製造方法について、図17から図20を参照しつつ説明する。なお、図17から図20は、本実施の形態に関する炭化珪素半導体装置の製造方法の例を示す図である。
【0129】
まず、第1の主面の面方位がオフ角を有する(0001)面であり、4Hのポリタイプを有する、n型で低抵抗の炭化珪素からなる半導体基板1の上面に、化学気相堆積(chemical vapor deposition、すなわち、CVD)法によって、1×1015cm-3以上、かつ、1×1017cm-3以下のn型の不純物濃度で、5μm以上、かつ、50μm以下の厚さの炭化珪素からなるドリフト層2をエピタキシャル成長させる。
【0130】
次に、ドリフト層2の表層の所定の領域にフォトレジストなどにより注入マスクを形成し、p型の不純物であるAl(アルミニウム)をイオン注入する。このとき、Alのイオン注入の深さはドリフト層2の厚さを超えない0.5μm以上、かつ、3μm以下程度とする。また、イオン注入されたAlの不純物濃度は、1×1017cm-3以上、かつ、1×1019cm-3以下の範囲であり、ドリフト層2の不純物濃度よりも高くする。
【0131】
その後、注入マスクを除去する。本工程によりAlイオン注入された領域が、活性領域においてはウェル層3となり、終端領域においてはウェル層31となる。ウェル層3は、エピタキシャル法によってドリフト層2上に形成してもよい。
【0132】
次に、ウェル層3の表層部の所定の領域にウェル層3の不純物濃度より高い1×1016cm-3以上、かつ、1×1018cm-3以下の範囲の不純物濃度でAlをイオン注入することによって、コンタクト領域43を形成する。
【0133】
また、ドリフト層2の表層のウェル層3の内側の所定の領域にn型の不純物であるNをイオン注入する。Nのイオン注入深さは、ウェル層3の厚さよりも浅いものとする。また、イオン注入したNの不純物濃度は、1×1018cm-3以上、かつ、1×1021cm-3以下の範囲であり、ウェル層3のp型の不純物濃度を超えるものとする。本工程でNが注入された領域のうち、n型を示す領域がソース層40となる。図17において、この段階の活性領域の構成が示される。
【0134】
次に、ソース層40が形成されている箇所に溝102を形成し、さらに、溝102の底部にp型不純物であるAlをイオン注入することによって、溝102の底部に電界緩和層16を形成する。電界緩和層16の不純物濃度については、1×1017cm-3以上、かつ、1×1019cm-3以下の範囲であればよい。なお、後の工程でゲート電極70が形成されない溝102の一部については、隣接する電界緩和層と接続されるようにイオン注入量および注入方向(たとえば、斜めイオン注入)を調整し、複数の溝102の底部に跨るp型の電界緩和層16Aを形成する。
【0135】
ここで、半導体基板1の第1の主面の面方位が<11-20>方向にオフ角を有する(0001)面である場合、活性領域の溝102をともに<11-20>方向に平行に形成すればよい。このようにすると、溝102の両側の側面が半導体基板1のオフ方向の影響を受けなくなるため、溝102のショットキー界面のバリア高さのばらつきを低減することができる。また、溝102のMOSFETのしきい値電圧が半導体基板1のオフ方向の影響を受けなくなるため、MOSFETのしきい値電圧のばらつきを低減することができる。
【0136】
次に、熱処理装置によって、Arガスなどの不活性ガス雰囲気中で、1300℃以上、かつ、1900℃以下の温度で、30秒以上、かつ、1時間以下のアニールを行う。このアニールによって、イオン注入されたNおよびAlを電気的に活性化させる。図18において、この段階の活性領域の構成が示される。
【0137】
次に、図19に示されるように、一部の溝102の内部に酸化珪素などの保護絶縁膜52を充填する。
【0138】
次に、保護絶縁膜52に覆われていないドリフト層2の上面を熱酸化して所望の厚みのゲート絶縁膜50である酸化珪素膜を形成する。そして、ゲート絶縁膜50の上面に、導電性を有する多結晶シリコン膜を減圧CVD法により形成し、これをパターニングすることによりゲート電極70を形成する。
【0139】
次に、ゲート絶縁膜50よりも膜厚が大きい、酸化珪素からなる層間絶縁膜60を減圧CVD法により形成する。次に、活性領域内のソース層40が露出するように、層間絶縁膜60とゲート絶縁膜50とをウェットエッチングにより除去する。図20において、このようにイオン注入を終えた段階の活性領域の構成が示される。
【0140】
次に、溝102内の保護絶縁膜52をフッ酸などにより除去する。そして、ドリフト層2の上面を覆うように、Alを主とするソース電極8を形成する。ゲートパッド81とゲート配線82も、ソース電極8と同時に形成すればよい。
【0141】
さらに、半導体基板1の下面に、金属膜であるドレイン電極9を形成する。このようにして、図9に示される炭化珪素半導体装置を製造することができる。
【0142】
次に、図9に示されるSBD内蔵MOSFETの動作について説明する。トレンチ型のSBD内蔵MOSFETの動作については、「オン状態」および「オフ状態」では、プレーナ型のSBD内蔵MOSFETと同様の動作となる。
【0143】
また、還流状態においては、ソース電極8に対してドレイン電極9に低い電圧、すなわち、MOSFETに逆起電圧が印加された状態で、ソース電極8からドレイン電極9に向かって還流電流が流れる。還流状態では、ドリフト層2とソース電極8との接触部に形成されるショットキー接合に順方向の電界(順バイアス)が印加され、ソース電極8からn型のドリフト層2に向かって電子電流からなるユニポーラ電流が流れる。この時、還流ダイオードの還流電流成分は主にこのユニポーラ成分である。
【0144】
ソース電極8とウェル層3とは同電位となっている。その結果、p型のウェル層3とドリフト層2の間のpn接合にも順バイアスが印加されるが、pn接合はn型の離間領域10Aとソース電極8とで形成されるショットキー接合と並列に形成されており、オフ状態から還流状態になるときに、しきい値電圧がより低いショットキー接合の方がpn接合より先にオンするので、還流電流はほぼショットキー接合に流れ、pn接合には流れない。
【0145】
このように、SBDを内蔵することによって、還流状態においてもpn接合にバイポーラ電流である順方向電流が流れることを抑制することができる。
【0146】
pn接合にバイポーラ電流が流れ、このような箇所に基底面転位などの起点が存在すると、積層欠陥が拡張し、トランジスタの耐圧が低下してしまうことがある。具体的にはトランジスタがオフ状態のときに漏れ電流が発生し、漏れ電流による発熱によって素子または回路が破壊してしまうことがある。
【0147】
しかしながら、SBDを内蔵することによって、還流時にpn接合にバイポーラ電流が流れることを抑制でき、半導体装置の信頼性を高めることができる。
【0148】
<以上に記載された複数の実施の形態によって生じる効果について>
次に、以上に記載された複数の実施の形態によって生じる効果の例を示す。なお、以下の説明においては、以上に記載された複数の実施の形態に例が示された具体的な構成に基づいて当該効果が記載されるが、同様の効果が生じる範囲で、本願明細書に例が示される他の具体的な構成と置き換えられてもよい。すなわち、以下では便宜上、対応づけられる具体的な構成のうちのいずれか1つのみが代表して記載される場合があるが、代表して記載された具体的な構成が対応づけられる他の具体的な構成に置き換えられてもよい。
【0149】
また、当該置き換えは、複数の実施の形態に跨ってなされてもよい。すなわち、異なる実施の形態において例が示されたそれぞれの構成が組み合わされて、同様の効果が生じる場合であってもよい。
【0150】
以上に記載された実施の形態によれば、半導体装置は、第1の導電型(n型)のドリフト層2と、第2の導電型(p型)のウェル層3(または、ウェル層3A、ウェル層3B)と、n型のソース層4(または、ソース層40)と、ゲート電極7(または、ゲート電極70)と、層間絶縁膜6(または、層間絶縁膜60)と、ソース電極8とを備える。p型のウェル層3は、ドリフト層2の表層に部分的に複数形成される。n型のソース層4は、それぞれのウェル層3の表層に部分的に形成される。ゲート電極7は、ドリフト層2とソース層4とに挟まれたウェル層3に、ゲート絶縁膜5(または、ゲート絶縁膜50)を介して接触する。層間絶縁膜6は、ゲート電極7を覆って設けられる。ソース電極8は、層間絶縁膜6、ウェル層3およびソース層4を覆って設けられる。そして、ゲート電極7と平面視で重ならない位置の、ウェル層3とドリフト層2とで構成される複数のボディダイオードが、第1のボディダイオード動作電圧で動作する第1の動作部(たとえば、図6の離間領域10におけるボディダイオード)と、第1のボディダイオード動作電圧よりも低い第2のボディダイオード動作電圧で動作する複数の第2の動作部(たとえば、図6の離間領域100におけるボディダイオード)とを含む。
【0151】
このような構成によれば、ボディダイオード動作電圧が積層欠陥が形成された部分よりも低い箇所を複数設けることによって、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。また、第1の動作部で積層欠陥が発生しても、半導体装置の特性への影響を抑えることができる。また、ボディダイオード動作電圧が低い積層欠陥を含むことで、半導体チップ全体のボディダイオード動作電圧を下げて、許容可能なサージ電流を大きくすることができる。そのため、半導体装置のI2t耐量を高めて早期破壊を抑制することができる。SBD内蔵MOSFETに積層欠陥が含まれている場合、積層欠陥が存在する部分ではSBD電流経路が積層欠陥で遮断されており、この部分のボディダイオード動作電圧を低くすることができる。なお、pn接合にバイポーラ電流が流れると、積層欠陥などの結晶欠陥が拡張してしまう可能性があるが、サージ電流が流れている状態のシーケンスの時間としては、数百nsから数μsの短い時間が想定されるため、積層欠陥などの結晶欠陥の拡張が生じにくい。
【0152】
なお、上記の構成に本願明細書に例が示された他の構成を適宜追加した場合、すなわち、上記の構成としては言及されなかった本願明細書中の他の構成が適宜追加された場合であっても、同様の効果を生じさせることができる。
【0153】
また、以上に記載された実施の形態によれば、第1の動作部におけるウェル層3間の幅が、第2の動作部におけるウェル層3B間の幅よりも広い。このような構成によれば、複数のp型のウェル層3Bで形成される離間領域100が離間領域10よりも狭くなり、ボディダイオード動作構造として機能することで、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0154】
また、以上に記載された実施の形態によれば、第1の動作部におけるウェル層3の幅が、第2の動作部におけるウェル層3Aの幅よりも狭い。このような構成によれば、p型のウェル層3Aがp型のウェル層3間の離間領域10を埋めるように形成されてボディダイオード動作構造として機能することで、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0155】
また、以上に記載された実施の形態によれば、半導体装置は、ソース層40の上面からウェル層3よりも深い位置まで達して形成された溝102と、溝102の底部に形成された電界緩和層16(または、電界緩和層16A、電界緩和層16B)とを備える。そして、ゲート絶縁膜50は、溝102内において、ソース層40とドリフト層2とに挟まれるウェル層3の側面を覆って形成される。また、ゲート電極70は、溝102内において、ゲート絶縁膜50に囲まれて形成される。このような構成によれば、トレンチ型の半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0156】
また、以上に記載された実施の形態によれば、第1の動作部における電界緩和層16間の幅が、第2の動作部における電界緩和層16B間の幅よりも広い。このような構成によれば、p型の電界緩和層16Bはボディダイオード動作構造として機能することで、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0157】
また、以上に記載された実施の形態によれば、第1の動作部における電界緩和層16の幅が、第2の動作部における電界緩和層16Aの幅よりも狭い。このような構成によれば、p型の電界緩和層16Aがp型の電界緩和層16間の離間領域10Aを埋めるように形成されてボディダイオード動作構造として機能することで、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0158】
また、以上に記載された実施の形態によれば、第1の動作部におけるドリフト層2の不純物濃度が、第2の動作部におけるドリフト層2の不純物濃度よりも高い。このような構成によれば、n型のドリフト層2がn型のドープ層14よりも不純物濃度が低いためn型のドリフト層2が形成される箇所がボディダイオード動作構造として機能することで、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0159】
また、以上に記載された実施の形態によれば、第1の動作部および第2の動作部のうちの少なくとも一方において平面視で直線状の積層欠陥に含む。そして、第2の動作部における積層欠陥密度が、第1の動作部における積層欠陥密度よりも低い(なお、第2の動作部が積層欠陥を含まなくてもよい)。このような構成によれば、積層欠陥が平面的に存在して離間領域を塞ぐなどによってボディダイオード動作構造として機能することで、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0160】
また、以上に記載された実施の形態によれば、半導体装置は、ウェル層3の表層に部分的に形成された、p型のコンタクト領域42(または、コンタクト領域43)を備える。そして、コンタクト領域42の不純物濃度が、ウェル層3の不純物濃度よりも高く、第1の動作部のコンタクト領域42のコンタクト抵抗は、第2の動作部のコンタクト領域42のコンタクト抵抗よりも高い。このような構成によれば、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0161】
また、以上に記載された実施の形態によれば、第1の動作部においてショットキー接触するドリフト層2とソース電極8との仕事関数の差が、第2の動作部においてショットキー接触するドリフト層2とソース電極8との仕事関数の差よりも高い。このような構成によれば、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0162】
また、以上に記載された実施の形態によれば、第1の動作部においてソース電極8からソース電極8とは反対側のドリフト層2の下面側に設けられたドレイン電極9に向かって流れる電子のライフタイムが、第2の動作部においてソース電極8からドレイン電極9に向かって流れる電子のライフタイムよりも低い。このような構成によれば、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0163】
以上に記載された実施の形態によれば、半導体装置の製造方法において、n型のドリフト層2をエピタキシャル成長によって形成する。そして、ドリフト層2の積層欠陥を検査して、単位領域あたりに存在する積層欠陥の数があらかじめ定められたしきい値以下である複数の特定領域を特定する。そして、ドリフト層2の表層にp型の不純物をイオン注入する。そして、注入された不純物を熱処理で拡散させて、複数の特定領域におけるボディダイオード動作電圧を、特定領域以外におけるボディダイオード動作電圧よりも低くする。
【0164】
このような構成によれば、ボディダイオード動作電圧が積層欠陥が形成された部分よりも低い箇所を複数設けることによって、半導体チップ全体でのボディダイオード動作電圧を効果的に下げて、I2t耐量の低下を抑制することができる。
【0165】
なお、特段の制限がない場合には、それぞれの処理が行われる順序は変更することができる。
【0166】
また、上記の構成に本願明細書に例が示された他の構成を適宜追加した場合、すなわち、上記の構成としては言及されなかった本願明細書中の他の構成が適宜追加された場合であっても、同様の効果を生じさせることができる。
【0167】
また、以上に記載された実施の形態によれば、積層欠陥を、電気特性検査またはフォトルミネセンス法で検査する。このような構成によれば、積層欠陥の数があらかじめ定められたしきい値以下である特定領域を効果的に発見することができる。
【0168】
<第4の実施の形態>
本実施の形態は、上述した第1の実施の形態から第3の実施の形態にかかる半導体装置を電力変換装置に適用したものである。本実施の形態は特定の電力変換装置に限定されるものではないが、以下、第4の実施の形態として、三相のインバータに上記の半導体装置を適用した場合について説明する。
【0169】
図21は、本実施の形態にかかる電力変換装置を適用した電力変換システムの構成を示すブロック図である。
【0170】
図21に示す電力変換システムは、電源400、電力変換装置200、負荷300から構成される。電源400は、直流電源であり、電力変換装置200に直流電力を供給する。電源400は種々のもので構成することが可能であり、例えば、直流系統、太陽電池、蓄電池で構成することができるし、交流系統に接続された整流回路やAC/DCコンバータで構成することとしてもよい。また、電源400を、直流系統から出力される直流電力を所定の電力に変換するDC/DCコンバータによって構成することとしてもよい。
【0171】
電力変換装置200は、電源400と負荷300の間に接続された三相のインバータであり、電源400から供給された直流電力を交流電力に変換し、負荷300に交流電力を供給する。電力変換装置200は、図21に示すように、直流電力を交流電力に変換して出力する主変換回路201と、主変換回路201の各スイッチング素子を駆動する駆動信号を出力する駆動回路202と、駆動回路202を制御する制御信号を駆動回路202に出力する制御回路203とを備えている。
【0172】
負荷300は、電力変換装置200から供給された交流電力によって駆動される三相の電動機である。なお、負荷300は特定の用途に限られるものではなく、各種電気機器に搭載された電動機であり、例えば、ハイブリッド自動車や電気自動車、鉄道車両、エレベーター、もしくは、空調機器向けの電動機として用いられる。
【0173】
以下、電力変換装置200の詳細を説明する。主変換回路201は、スイッチング素子と還流ダイオードを備えており(図示せず)、スイッチング素子がスイッチングすることによって、電源400から供給される直流電力を交流電力に変換し、負荷300に供給する。主変換回路201の具体的な回路構成は種々のものがあるが、本実施の形態にかかる主変換回路201は2レベルの三相フルブリッジ回路であり、6つのスイッチング素子とそれぞれのスイッチング素子に逆並列された6つの還流ダイオードから構成することができる。主変換回路201の各スイッチング素子には、上述した実施の形態のいずれかにかかる半導体装置を適用する。6つのスイッチング素子は2つのスイッチング素子ごとに直列接続され上下アームを構成し、各上下アームはフルブリッジ回路の各相(U相、V相、W相)を構成する。そして、各上下アームの出力端子、すなわち主変換回路201の3つの出力端子は、負荷300に接続される。
【0174】
駆動回路202は、主変換回路201のスイッチング素子を駆動する駆動信号を生成し、主変換回路201のスイッチング素子の制御電極に供給する。具体的には、後述する制御回路203からの制御信号に従い、スイッチング素子をオン状態にする駆動信号とスイッチング素子をオフ状態にする駆動信号とを各スイッチング素子の制御電極に出力する。スイッチング素子をオン状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以上の電圧信号(オン信号)であり、スイッチング素子をオフ状態に維持する場合、駆動信号はスイッチング素子の閾値電圧以下の電圧信号(オフ信号)となる。
【0175】
制御回路203は、負荷300に所望の電力が供給されるよう主変換回路201のスイッチング素子を制御する。具体的には、負荷300に供給すべき電力に基づいて主変換回路201の各スイッチング素子がオン状態となるべき時間(オン時間)を算出する。例えば、出力すべき電圧に応じてスイッチング素子のオン時間を変調するPWM制御によって主変換回路201を制御することができる。そして、各時点においてオン状態となるべきスイッチング素子にはオン信号を、オフ状態となるべきスイッチング素子にはオフ信号が出力されるよう、駆動回路202に制御指令(制御信号)を出力する。駆動回路202は、この制御信号に従い、各スイッチング素子の制御電極にオン信号又はオフ信号を駆動信号として出力する。
【0176】
本実施の形態に係る電力変換装置では、主変換回路201のスイッチング素子として実施の形態1から3にかかる半導体装置を適用するため、信頼性向上を実現することができる。
【0177】
本実施の形態では、2レベルの三相インバータに本技術を適用する例を説明したが、本技術は、これに限られるものではなく、種々の電力変換装置に適用することができる。本実施の形態では、2レベルの電力変換装置としたが3レベルやマルチレベルの電力変換装置であっても構わないし、単相負荷に電力を供給する場合には単相のインバータに本技術を適用しても構わない。また、直流負荷等に電力を供給する場合にはDC/DCコンバータやAC/DCコンバータに本技術を適用することも可能である。
【0178】
また、本技術を適用した電力変換装置は、上述した負荷が電動機の場合に限定されるものではなく、例えば、放電加工機やレーザー加工機、又は誘導加熱調理器や非接触器給電システムの電源装置として用いることもでき、さらには太陽光発電システムや蓄電システム等のパワーコンディショナーとして用いることも可能である。
【0179】
<以上に記載された複数の実施の形態の変形例について>
以上に記載された複数の実施の形態では、それぞれの構成要素の材質、材料、寸法、形状、相対的配置関係または実施の条件などについても記載する場合があるが、これらはすべての局面においてひとつの例であって、限定的なものではない。
【0180】
したがって、例が示されていない無数の変形例と均等物とが、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。たとえば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合、さらには、少なくとも1つの実施の形態における少なくとも1つの構成要素を抽出し、他の実施の形態における構成要素と組み合わせる場合が含まれるものとする。
【0181】
また、以上に記載された少なくとも1つの実施の形態において、特に指定されずに材料名などが記載された場合は、矛盾が生じない限り、当該材料に他の添加物が含まれた、たとえば、合金などが含まれるものとする。
【0182】
また、矛盾が生じない限り、以上に記載された実施の形態において「1つ」の構成要素が備えられる、と記載された場合に、当該構成要素が「1つ以上」備えられていてもよい。
【0183】
さらに、以上に記載された実施の形態におけるそれぞれの構成要素は概念的な単位であって、本願明細書に開示される技術の範囲内には、1つの構成要素が複数の構造物から成る場合と、1つの構成要素がある構造物の一部に対応する場合と、さらには、複数の構成要素が1つの構造物に備えられる場合とを含むものとする。
【0184】
また、以上に記載された実施の形態におけるそれぞれの構成要素には、同一の機能を発揮する限り、他の構造または形状を有する構造物が含まれるものとする。
【0185】
また、本願明細書における説明は、本技術に関連するすべての目的のために参照され、いずれも、従来技術であると認めるものではない。
【0186】
以下、本開示の諸態様を付記としてまとめて記載する。
【0187】
(付記1)
第1の導電型のドリフト層と、
前記ドリフト層の表層に部分的に複数形成された第2の導電型のウェル層と、
それぞれの前記ウェル層の表層に部分的に形成された第1の導電型のソース層と、
前記ドリフト層と前記ソース層とに挟まれた前記ウェル層に、ゲート絶縁膜を介して接触するゲート電極と、
前記ゲート電極を覆って設けられた層間絶縁膜と、
前記層間絶縁膜、前記ウェル層および前記ソース層を覆って設けられたソース電極とを備え、
前記ゲート電極と平面視で重ならない位置の、前記ウェル層と前記ドリフト層とで構成される複数のボディダイオードが、第1のボディダイオード動作電圧で動作する第1の動作部と、前記第1のボディダイオード動作電圧よりも低い第2のボディダイオード動作電圧で動作する複数の第2の動作部とを含む、
半導体装置。
【0188】
(付記2)
付記1に記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記ウェル層の幅が、前記第2の動作部における前記ウェル層の幅よりも狭い、
半導体装置。
【0189】
(付記3)
付記1または2に記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記ウェル層間の幅が、前記第2の動作部における前記ウェル層間の幅よりも広い、
半導体装置。
【0190】
(付記4)
付記1に記載の半導体装置であり、
前記ソース層の上面から前記ウェル層よりも深い位置まで達して形成された溝と、
前記溝の底部に形成された電界緩和層とをさらに備え、
前記ゲート絶縁膜が、前記溝内において、前記ソース層と前記ドリフト層とに挟まれる前記ウェル層の側面を覆って形成され、
前記ゲート電極が、前記溝内において、前記ゲート絶縁膜に囲まれて形成される、
半導体装置。
【0191】
(付記5)
付記4に記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記電界緩和層間の幅が、前記第2の動作部における前記電界緩和層間の幅よりも広い、
半導体装置。
【0192】
(付記6)
付記4または5に記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記電界緩和層の幅が、前記第2の動作部における前記電界緩和層の幅よりも狭い、
半導体装置。
【0193】
(付記7)
付記1から6のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部における前記ドリフト層の不純物濃度が、前記第2の動作部における前記ドリフト層の不純物濃度よりも高い、
半導体装置。
【0194】
(付記8)
付記1から7のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部および前記第2の動作部のうちの少なくとも一方において平面視で直線状の積層欠陥を含み、
前記第2の動作部における積層欠陥密度が、前記第1の動作部における積層欠陥密度よりも低い、
半導体装置。
【0195】
(付記9)
付記1から8のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記ウェル層の表層に部分的に形成された、第2の導電型のコンタクト領域をさらに備え、
前記コンタクト領域の不純物濃度が、前記ウェル層の不純物濃度よりも高く、
前記第1の動作部の前記コンタクト領域のコンタクト抵抗は、前記第2の動作部の前記コンタクト領域のコンタクト抵抗よりも高い、
半導体装置。
【0196】
(付記10)
付記1から9のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部においてショットキー接触する前記ドリフト層と前記ソース電極との仕事関数の差が、前記第2の動作部においてショットキー接触する前記ドリフト層と前記ソース電極との仕事関数の差よりも高い、
半導体装置。
【0197】
(付記11)
付記1から10のうちのいずれか1つに記載の半導体装置であり、
前記第1の動作部において前記ソース電極から前記ソース電極とは反対側の前記ドリフト層の下面側に設けられたドレイン電極に向かって流れる電子のライフタイムが、前記第2の動作部において前記ソース電極から前記ドレイン電極に向かって流れる電子のライフタイムよりも低い、
半導体装置。
【0198】
(付記12)
第1の導電型のドリフト層をエピタキシャル成長によって形成し、
前記ドリフト層の積層欠陥を検査して、単位領域あたりに存在する前記積層欠陥の数があらかじめ定められたしきい値以下である複数の特定領域を特定し、
前記ドリフト層の表層に第2の導電型の不純物をイオン注入し、
注入された前記不純物を熱処理で拡散させて、複数の前記特定領域におけるボディダイオード動作電圧を、前記特定領域以外におけるボディダイオード動作電圧よりも低くする、
半導体装置の製造方法。
【0199】
(付記13)
付記12に記載の半導体装置の製造方法であり、
前記積層欠陥を、電気特性検査またはフォトルミネセンス法で検査する、
半導体装置の製造方法。
【0200】
(付記14)
付記1、2、4および5のうちのいずれか1つに記載の半導体装置を有し、入力される電力を変換して出力する主変換回路と、
前記半導体装置を駆動する駆動信号を前記半導体装置に出力する駆動回路と、
前記駆動回路を制御する制御信号を前記駆動回路に出力する制御回路とを備える、
電力変換装置。
【符号の説明】
【0201】
1 半導体基板、2 ドリフト層、3 ウェル層、3A ウェル層、3B ウェル層、4 ソース層、5 ゲート絶縁膜、6 層間絶縁膜、7 ゲート電極、8 ソース電極、9 ドレイン電極、10 離間領域、10A 離間領域、11 積層欠陥、14 ドープ層、14A ドープ層、16 電界緩和層、16A 電界緩和層、16B 電界緩和層、31 ウェル層、40 ソース層、52 保護絶縁膜、60 層間絶縁膜、70 ゲート電極、71 ショットキー電極、81 ゲートパッド、82 ゲート配線、90 活性領域コンタクトホール、91 終端領域コンタクトホール、95 ゲートコンタクトホール、102 溝、GT ゲートトレンチ、Id1 ドレイン電流、Id2 ドレイン電流値、ST ショットキートレンチ、Vd2 ドレイン電圧、Vg1 ゲート電圧、Vg1a ゲート電圧、200 電力変換装置、201 主変換回路、202 駆動回路、203 制御回路、300 負荷、400 電源。
図1
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