(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154928
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】インクジェット捺染用インクセット、画像形成方法及び画像形成物
(51)【国際特許分類】
C09D 11/54 20140101AFI20241024BHJP
C09D 11/322 20140101ALI20241024BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20241024BHJP
D06P 5/28 20060101ALI20241024BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20241024BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C09D11/54
C09D11/322
D06P5/30
D06P5/28
B41J2/01 123
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 132
B41M5/00 114
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069162
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川邉 里美
(72)【発明者】
【氏名】小林 史明
(72)【発明者】
【氏名】福田 和浩
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4H157
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA04
2C056EA13
2C056FB03
2C056FC01
2C056HA42
2H186AB03
2H186AB05
2H186AB06
2H186AB12
2H186AB27
2H186AB35
2H186AB41
2H186AB54
2H186AB55
2H186AB56
2H186AB57
2H186BA08
2H186DA17
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB18
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB58
4H157AA01
4H157BA15
4H157CA29
4H157CB08
4H157DA01
4H157GA06
4J039AD09
4J039AE04
4J039BA04
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE19
4J039BE28
4J039CA06
4J039EA34
4J039EA36
4J039EA46
4J039FA03
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】良好な吐出安定性を有しつつ、高い洗濯堅牢性や摩擦堅牢性を有する画像を形成することができるインクジェット捺染用インクセットを提供する。
【解決手段】インクジェット捺染用インクセットは、インクと、前処理液とを含む。前処理液は、凝集剤を含む。インクは、顔料と、ブロック共重合体と、水系溶媒とを含む。前記ブロック共重合体は、その分子両末端に配置され、前記凝集剤と相互作用又は反応する少なくとも2つの親水性ブロックと、前記2つの親水性ブロックの間に配置された疎水性ブロックとを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクと、前処理液とを含むインクジェット捺染用インクセットであって、
前記前処理液は、凝集剤を含み、
前記インクは、顔料と、ブロック共重合体と、水系溶媒とを含み、
前記ブロック共重合体は、その分子両末端に配置され、前記凝集剤と相互作用又は反応する2つの親水性ブロックAと、前記2つの親水性ブロックの間に配置された疎水性ブロックBとを含む、
インクジェット捺染用インクセット。
【請求項2】
前記ブロック共重合体は、前記2つの親水性ブロックAと、1つの前記疎水性ブロックBとからなるABA型ブロック共重合体である、
請求項1に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項3】
前記2つの親水性ブロックAは、同一のモノマー組成を有する、
請求項1又は2に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項4】
前記親水性ブロックAは、水酸基、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群より選ばれる親水性官能基を含有するビニル系モノマーからなる親水性モノマーに由来する構成単位を含み、
前記親水性ブロックAにおける前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記疎水性ブロックBよりも多い、
請求項1に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項5】
前記疎水性ブロックBは、芳香環基若しくは脂環式炭化水素基を含有するビニル系モノマーからなる群より選ばれる疎水性モノマーに由来する構成単位を含み、
前記疎水性ブロックBの前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記親水性ブロックAよりも少ない、
請求項4に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項6】
前記凝集剤は、多価金属塩、有機酸又はカチオン性基を有する化合物を含む、
請求項1に記載のインクジェット捺染用インクセット。
【請求項7】
凝集剤が付着した布帛上に、インクジェット方式でインクを付与する工程を含み、
前記インクは、顔料と、ブロック共重合体と、水系溶媒とを含み、
前記ブロック共重合体は、その分子両末端に配置され、前記凝集剤と相互作用又は反応する2つの親水性ブロックAと、前記2つの親水性ブロックの間に配置された疎水性ブロックBとを含む、
画像形成方法。
【請求項8】
凝集剤が付着した布帛と、
前記布帛上に配置された画像層と、
を有し、
前記画像層は、顔料と、前記凝集剤と相互作用又は反応するブロック共重合体とを含み、
前記ブロック共重合体は、その分子両末端に配置され、前記凝集剤と相互作用又は反応する2つの親水性ブロックAと、前記2つの親水性ブロックの間に配置された疎水性ブロックBとを含む、
画像形成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット捺染用インクセット、画像形成方法及び画像形成物に関する。
【背景技術】
【0002】
捺染方法として、近年では、短時間で染色でき、生産効率が高いこと等から、インクジェット方式により布帛への画像形成を行う、インクジェット捺染が広く行われている。
【0003】
インクジェット捺染に使用される顔料系インクとしては、顔料と、顔料分散剤とを含むインクや、自己分散性顔料を含むインクが知られている。そして、顔料系インクに含まれる顔料を凝集させやすくして、顔料系インクの滲みを抑制したり、定着性を高めたりする観点などから、布帛に、顔料分散体を凝集させるための凝集剤を付与する前処理を行うことが検討されている。
【0004】
例えば、特許文献1では、布帛に前処理液を付与して前処理した後、インクジェット用インクを付与して、画像を形成する方法が開示されている。前処理液は、熱可塑性樹脂、カチオン性界面活性剤及び水を含み;インクは、顔料、アニオン性分散剤、水溶性有機溶剤及び水を含む。実施例では、顔料分散剤として、スチレン-アクリル酸共重合体(ランダム共重合体)が用いられている。
【0005】
布帛以外にも、普通紙等への画像形成に用いられる顔料系インクセットとしては、特許文献2には、カーボンブラックと分散樹脂とを含むインクと、反応性物質を含む反応液とを含むインクセットが開示されている。実施例では、分散樹脂として、疎水性ブロックセグメントA、非イオン性の親水性ブロックセグメントB、イオン性の親水性ブロックセグメントCをこの順に含む3元ブロック共重合体が使用されている。
【0006】
また、特許文献3では、ポリマー分散剤で分散されたカーボンブラックを含むインクと、該インクと反応する無機塩、ポリアミンを含む反応液とを有するインクセットが開示されている。ポリマー分散剤として、2~8単位のメタクリル酸又はその塩で構成されるAブロックと、少なくとも2単位のメタクリル酸又はその塩と少なくとも16単位のベンジルメタクリレートとを含むBブロックとを含むブロック共重合体が使用されている。
【0007】
これらの文献では、いずれもインクに含まれるカーボンブラック分散体を、反応液に含まれる反応性物質(凝集剤)によって凝集させることで、顔料の定着性や画像濃度を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008-231617号公報
【特許文献2】特開2009-298842号公報
【特許文献3】特開2010-513672号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記特許文献2及び3では、顔料を凝集させるために、顔料分散剤の親水性部位と凝集剤との反応を利用している。これらの文献で使用される顔料分散剤は、いずれも親水性部位を含むブロックを分子片末端の1か所のみに有する。しかしながら、そのような顔料分散剤を用いた顔料系インクを布帛に付与した場合、インク塗膜の布帛への密着性が十分ではなかったり、布帛が硬くなったりしやすく、それにより、画像形成物の洗濯時の耐擦過性(洗濯堅牢性)や摩擦堅牢性が低下しやすいという問題があった。また、顔料分散剤同士が相互作用することにより、顔料が凝集しやすく、インクジェット方式で吐出する際の吐出安定性も損なわれやすいという問題があった。
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、良好な吐出安定性を有しつつ、高い洗濯堅牢性や摩擦堅牢性を有する画像を形成することができるインクジェット捺染用インクセット、画像形成方法及び画像形成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0012】
[1] インクと、前処理液とを含むインクジェット捺染用インクセットであって、前記前処理液は、凝集剤を含み、前記インクは、顔料と、ブロック共重合体と、水系溶媒とを含み、前記ブロック共重合体は、その分子両末端に配置され、前記凝集剤と相互作用又は反応する2つの親水性ブロックAと、前記2つの親水性ブロックの間に配置された疎水性ブロックBとを含む、インクジェット捺染用インクセット。
[2] 前記ブロック共重合体は、前記2つの親水性ブロックAと、1つの前記疎水性ブロックBとからなるABA型ブロック共重合体である、[1]に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[3] 前記2つの親水性ブロックAは、同一のモノマー組成を有する、[1]又は[2]に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[4] 前記親水性ブロックAは、水酸基、カルボキシル基及びスルホン酸基からなる群より選ばれる親水性官能基を含有するビニル系モノマーからなる親水性モノマーに由来する構成単位を含み、前記親水性ブロックAにおける前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記疎水性ブロックBよりも多い、[1]~[3]のいずれかに記載のインクジェット捺染用インクセット。
[5] 前記疎水性ブロックBは、芳香環基若しくは脂環式炭化水素基を含有するビニル系モノマーからなる群より選ばれる疎水性モノマーに由来する構成単位を含み、前記疎水性ブロックBの前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記親水性ブロックAよりも少ない、[4]に記載のインクジェット捺染用インクセット。
[6] 前記凝集剤は、多価金属塩、有機酸又はカチオン性基を有する化合物を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のインクジェット捺染用インクセット。
[7] 凝集剤が付着した布帛上に、インクジェット方式でインクを付与する工程を含み、前記インクは、顔料と、ブロック共重合体と、水系溶媒とを含み、前記ブロック共重合体は、その分子両末端に配置され、前記凝集剤と相互作用又は反応する2つの親水性ブロックAと、前記2つの親水性ブロックの間に配置された疎水性ブロックBとを含む、画像形成方法。
[8] 凝集剤が付着した布帛と、前記布帛上に配置された画像層と、を有し、前記画像層は、顔料と、前記凝集剤と相互作用又は反応するブロック共重合体とを含み、前記ブロック共重合体は、その分子両末端に配置され、前記凝集剤と相互作用又は反応する2つの親水性ブロックAと、前記2つの親水性ブロックの間に配置された疎水性ブロックBとを含む、画像形成物。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な吐出安定性を有しつつ、高い洗濯堅牢性や摩擦堅牢性を有する画像を形成することができるインクジェット捺染用インクセット、画像形成方法及び画像形成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.インクセット
1-1.インク
本実施の形態に係るインクは、顔料と、ブロック共重合体と、水系溶媒とを含む。
【0015】
1-1-1.顔料
インクに含まれる顔料は、特に限定されないが、例えばカラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料又は無機顔料であることが好ましい。
【0016】
橙顔料の例としては、Pigment Orange31、43等が挙げられる。
【0017】
赤又はマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36が含まれる。
【0018】
青又はシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60が含まれる。
【0019】
緑顔料又は黄顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50が含まれる。黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、15、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、128、137、138、139、151、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193、213が含まれる。
【0020】
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、26が含まれる。
【0021】
顔料の市販品の例には、クロモファインイエロー2080、5900、5930、AF-1300、2700L、クロモファインオレンジ3700L、6730、クロモファインスカーレット6750、クロモファインマゼンタ6880、6886、6891N、6790、6887、クロモファインバイオレット RE、クロモファインレッド6820、6830、クロモファインブルーHS-3、5187、5108、5197、5085N、SR-5020、5026、5050、4920、4927、4937、4824、4933GN-EP、4940、4973、5205、5208、5214、5221、5000P、クロモファイングリーン2GN、2GO、2G-550D、5310、5370、6830、クロモファインブラックA-1103、セイカファストエロー10GH、A-3、2035、2054、2200、2270、2300、2400(B)、2500、2600、ZAY-260、2700(B)、2770、セイカファストレッド8040、C405(F)、CA120、LR-116、1531B、8060R、1547、ZAW-262、1537B、GY、4R-4016、3820、3891、ZA-215、セイカファストカーミン6B1476T-7、1483LT、3840、3な870、セイカファストボルドー10B-430、セイカライトローズR40、セイカライトバイオレットB800、7805、セイカファストマルーン460N、セイカファストオレンジ900、2900、セイカライトブルーC718、A612、シアニンブルー4933M、4933GN-EP、4940、4973(大日精化工業製); KET Yellow 401、402、403、404、405、406、416、424、KET Orange 501、KET Red 301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、336、337、338、346、KET Blue 101、102、103、104、105、106、111、118、124、KET Green 201(大日本インキ化学製);Colortex Yellow 301、314、315、316、P-624、314、U10GN、U3GN、UNN、UA-414、U263、Finecol Yellow T-13、T-05、Pigment Yellow1705、Colortex Orange 202、Colortex Red101、103、115、116、D3B、P-625、102、H-1024、105C、UFN、UCN、UBN、U3BN、URN、UGN、UG276、U456、U457、105C、USN、Colortex Maroon601、Colortex BrownB610N、Colortex Violet600、Pigment Red 122、ColortexBlue516、517、518、519、A818、P-908、510、Colortex Green402、403、Colortex Black 702、U905(山陽色素製);Lionol Yellow1405G、Lionol Blue FG7330、FG7350、FG7400G、FG7405G、ES、ESP-S(東洋インキ製)、Toner Magenta E02、Permanent RubinF6B、Toner Yellow HG、Permanent Yellow GG-02、Hostapeam BlueB2G(ヘキストインダストリ製);Novoperm P-HG、Hostaperm Pink E、Hostaperm Blue B2G(クラリアント製);カーボンブラック#2600、#2400、#2350、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#850、MCF88、#750、#650、MA600、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA77、#52、#50、#47、#45、#45L、#40、#33、#32、#30、#25、#20、#10、#5、#44、CF9(三菱化学製)が含まれる。
【0022】
顔料は、インク中における分散性を高める観点から、顔料分散剤でさらに分散されていることが好ましい。顔料分散剤については、後述する。
【0023】
また、顔料は、自己分散性顔料であってもよい。自己分散性顔料は、顔料粒子の表面を、親水性基を有する基で修飾したものであり、顔料粒子と、その表面に結合した親水性を有する基とを有する。親水性基の例には、カルボキシ基、スルホン酸基、及びリン含有基が含まれる。リン含有基の例には、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスファイト基、ホスフェート基が含まれる。
【0024】
自己分散性顔料の市販品の例には、Cabot社Cab-0-Jet(登録商標)200K、250C、260M、270V(スルホン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)300K(カルボン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)400K、450C、465M、470V、480V(リン酸基含有自己分散性顔料)が含まれる。
【0025】
顔料の含有量は、特に限定されないが、インクの粘度を後述する範囲に調整しやすく、より高濃度の画像を形成する観点では、インクに対して0.3~12質量%であることが好ましい。顔料の含有量が0.3質量%以上であると、得られる画像の色が鮮やかになりやすく、5質量%以下であると、インクの粘度が高くなりすぎないため、吐出安定性が損なわれにくい。同様の観点から、顔料の含有量は、インクに対して0.5~8質量%であることがより好ましい。
【0026】
1-1-2.ブロック共重合体
ブロック共重合体は、顔料分散剤として含まれてもよいし、定着性樹脂として含まれてもよい。本実施形態では、ブロック共重合体は、顔料分散剤として含まれる。
【0027】
従来、使用されている顔料分散剤は、凝集剤と相互作用又は反応する部位をランダムに含むランダム共重合体であるか、又は、凝集剤と相互作用又は反応する部位を多く含むブロック(通常は、親水性ブロックA)を分子の片末端の1か所のみに有するAB型ブロック共重合体である。
ランダム共重合体は、凝集剤と相互作用又は反応する部位を多く含むブロックを有しないため、凝集剤との相互作用又は反応が生じにくい。AB型ブロック共重合体は、凝集剤と相互作用又は反応する部位を多く含むブロックを有するものの、当該ブロックが分子末端の1か所しかないため、布帛と結合できる結合点が少ない。そのため、布帛への共重合体の密着性が得られにくく、洗濯堅牢性や摩擦堅牢性も低い。また、上記共重合体が、布帛と1か所の結合点で連続的(膜状)に結合しうるため、布帛も硬くなりやすい。
【0028】
これに対し、ABA型等の上記ブロック共重合体は、分子両末端に、凝集剤と相互作用又は反応する部位を多く含むブロックを含む。このように、当該ブロックが分子両末端の少なくとも2か所にあるため、布帛と結合できる結合点が多く、布帛との結合が強固になりやすい。それにより、布帛への密着性が向上し、洗濯堅牢性や摩擦堅牢性が高くなりやすい。また、上記共重合体が、布帛と複数の結合点で間欠的に結合しうるため、1つの結合点で連続的に結合するよりも、布帛が硬くなりにくい。なお、凝集剤と相互作用又は反応する部位を多く含むブロックは、親水性ブロックである。
【0029】
即ち、本実施形態で使用されるブロック共重合体は、分子両末端に配置された2つの親水性ブロックAと、それらの間に配置された疎水性ブロックBとを含む。
【0030】
「親水性ブロックA」は、インクに含まれる水系溶媒との親和性を高めると共に、布帛に付着した凝集剤と相互作用又は反応する部位を含むブロックであり、上記共重合体を構成する各ブロックのうち水との親和性がより大きいブロックをいう。親水性ブロックの数は、2つであることが好ましい。
【0031】
親水性ブロックAは、親水性官能基を有するモノマー(以下、「親水性モノマー」という)に由来する構成単位を含む。親水性官能基としては、水酸基、カルボキシル基及びスルホン酸基が挙げられる。
【0032】
親水性ブロックAを構成する親水性モノマーとしては、親水性官能基を含有するビニル系モノマーが挙げられ、その例には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等の不飽和多価カルボン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基若しくは酸無水物基を含有するモノマー;スチレンスルホン酸、4-(メタクリロイルオキシ)ブチルスルホン酸等のスルホン酸基を含有するモノマー;エチレンオキサイド変性(メタ)アクリル酸アルキルエステル等のエチレンオキサイド変性(メタ)アクリル酸エステルモノマーが含まれる。これらのうち、親水性モノマーは、親水性ブロックAに適度な水溶性を付与する観点から、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0033】
親水性ブロックAにおける親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、疎水性ブロックBにおける親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合よりも多ければよい。具体的には、親水性ブロックAにおける親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、親水性ブロックA100質量%に対して5質量%以上であることが好ましい。親水性モノマーに由来する構成単位の上記含有割合が5質量%以上であると、水系溶媒への分散性がより高まりやすいだけでなく、凝集剤とより相互作用又は反応しやすくなるため、布帛との密着性をより高めやすい。同様の観点から、上記含有割合は、10~40質量%であることがより好ましい。
【0034】
親水性ブロックAは、親水性モノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位をさらに含んでもよい。他のモノマーの例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルエステル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが含まれる。これらの中でも、(メタ)アクリル酸ブチルエステル等のC2以上のアルキルエステルが好ましい。ブロック共重合体のTgが低く、布帛が硬くなりにくいためである。但し、他のモノマーには、後述する疎水性モノマーは含まれない。
【0035】
「疎水性ブロックB」は、顔料に吸着する部位であり、共重合体を構成する各ブロックのうち、インクに含まれる水系溶媒との親和性がより小さいブロックをいう。疎水性ブロックBの数は、1つであることが好ましい。
【0036】
疎水性ブロックBは、疎水性官能基を有するモノマー(以下、「疎水性モノマー」という)に由来する構成単位を含む。疎水性官能基を有するモノマーとしては、芳香環基又は脂環式炭化水素基を含むビニル系モノマーが挙げられる。
【0037】
芳香環基を含むビニル系モノマーの例には、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の芳香環基を有する(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メトキシスチレン、2-ヒドロキシメチルスチレン又は1-ビニルナフタレン等の芳香族ビニル系モノマー等が挙げられ、炭素数6~15の芳香環基を有するビニル系モノマーが好ましい。
【0038】
脂環族アルキル基を有するビニル系モノマーの例には、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル又は(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等の脂環族アルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、炭素数6~15の脂環族アルキル基を有するビニル系モノマーが好ましい。
【0039】
これらのうち、顔料への吸着性を向上させる観点から、疎水性モノマーは、スチレン等の炭素数6~15の芳香環基を有するビニル系モノマーが好ましい。
【0040】
疎水性ブロックBにおける疎水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、疎水性ブロックBに対して80質量%以上であることが好ましい。上記含有割合が80質量%以上であると、顔料への吸着性がより高まりやすい。同様の観点から、上記含有割合は、90質量%超であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
疎水性ブロックBは、疎水性モノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位をさらに含んでもよい。他のモノマーの例には、上記他のモノマーや上記親水性モノマーが含まれる。但し、疎水性ブロックBが、親水性モノマーに由来する構成単位を含む場合、疎水性ブロックBにおける親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、親水性ブロックAよりも少ない。具体的には、親水性モノマーに由来する構成単位の含有量は、疎水性ブロックBに対して20質量%以下であることが好ましく、10質量%未満であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。つまり、2つの親水性ブロックAと疎水性ブロックBのうち、親水性モノマーに由来する構成単位の含有量(親水性官能基のモル数)は、疎水性ブロックBが最も少ない。
【0042】
ABA型ブロック共重合体における疎水性ブロックBの含有量は、ブロック共重合体全体に対して20質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上50質量%以下であることがより好ましい。上記含有量が20質量%以上であると、親水性ブロックAの含有量が少ない(或いは分子量が小さい)ため、橋掛け凝集をより抑制しやすく、80質量%以下であると、親水性ブロックAの含有量が多い(或いは分子量が大きい)ため、水系溶媒への親和性をより高めやすい。
【0043】
親水性ブロックをA、疎水性ブロックをBとした場合、上記ブロック共重合体の構造の例には、ABA型、ABABA型等が含まれる。中でも、上記ブロック共重合体は、分子両末端に配置された2つの親水性ブロックAと、それらの間に配置された疎水性ブロックBとからなるABA型ブロック共重合体であることが好ましい。
【0044】
上記ブロック共重合体に含まれる複数のブロックAのモノマーの種類や組成比は、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。また、上記ブロック共重合体が複数のブロックBを含む場合、複数のブロックBのモノマーの種類や組成比は、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。中でも、2つの親水性ブロックAは、同一のモノマー組成を有することが好ましい。
【0045】
ブロック共重合体の重量平均分子量は、5000~70000であることが好ましく、7000~30000であることがより好ましい。上記重量平均分子量が大きいほど、顔料の水系溶媒への分散性をより高めやすく、小さいほど、顔料分散体同士の橋掛け凝集を一層抑制しやすい。ブロック共重合体の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィによりポリスチレン換算にて測定することができる。
【0046】
分子量分布(PDI)(ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw))/(ブロック共重合体の数平均分子量(Mn))は、2.0以下であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましい。PDIが低いほど分子量分布が狭く均一であることを意味するため、分散性がより良好となる。
【0047】
上記ブロック共重合体の酸価は、例えば40~400mgKOH/gであることが好ましく、40~300mgKOH/gであることがより好ましく、40~190mgKOH/gであることがさらに好ましい。上記酸価が40mgKOH/g以上であると、顔料分散剤の親水性を高めて、顔料の分散性をより高めることができる。また、上記酸価が400mgKOH/g以下であると、顔料分散剤の親水性が過剰に高まることをより抑制し、得られる画像形成物の耐水性をより高めうる。酸価は、JIS K0070:1992の測定方法に準じて測定することができる。
【0048】
上記ブロック共重合体の含有量は、顔料に対して10~50質量%であることが好ましく、20~40質量%であることがより好ましい。上記含有量が10質量%以上であることで、顔料分散体中における顔料の分散性をより高めることができる。また、顔料分散剤の上記含有量が50質量%以下であると、顔料分散剤が過剰に含まれることによる、顔料分散体の粘度の高まりを一層抑制することができる。
【0049】
上記ブロック共重合体を合成する方法は、特に限定されないが、例えば、リビングラジカル重合法でブロックを構成するビニルモノマーを順次重合反応させることにより得られることができる。
【0050】
1-1-3.水系溶媒
水系溶媒は、水を含み、水溶性有機溶剤をさらに含むことが好ましい。
【0051】
水の含有量は、インクに対して例えば20~70質量%であり、好ましくは30~60質量%である。
【0052】
水溶性有機溶剤は、水と相溶するものであれば特に制限されないが、インクを布帛の内部まで浸透させやすくする観点、インクジェット方式での吐出安定性を損なわれにくくする観点では、インクが乾燥により増粘しにくいことが好ましい。したがって、インクは、沸点が200℃以上の高沸点溶媒を含むことが好ましい。
【0053】
沸点が200℃以上の高沸点溶媒は、沸点が200℃以上である水溶性有機溶剤であればよく、ポリオール類やポリアルキレンオキサイド類であることが好ましい。
【0054】
沸点が200℃以上のポリオール類の例には、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類;グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)等の3価以上のアルコール類が含まれる。
【0055】
沸点が200℃以上のポリアルキレンオキサイド類の例には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点305℃)、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点256℃);及びポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類のエーテルや、グリセリン(沸点290℃)、ヘキサントリオール等の3価以上のアルコール類のエーテルが含まれる。
【0056】
溶媒は、上記高沸点溶媒以外の他の溶媒をさらに含んでもよい。他の溶媒の例には、沸点が200℃未満の多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサントリオール等);沸点が200℃未満の多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル;1価アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール);アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン);アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド);複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド);及びスルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0057】
水溶性有機溶剤の含有量は、インクに対して、例えば20~70質量%、好ましくは30~60質量%である。
【0058】
1-1-4.他の成分
インクは、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、水分散性樹脂や、中和剤等の添加剤が含まれる。
【0059】
(水分散性樹脂)
水分散性樹脂は、顔料等を布帛に定着させる機能を有しうる。水分散性樹脂は、インク中において樹脂粒子として含まれうる。
【0060】
水分散性樹脂の例には、ウレタン樹脂、ブタジエン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリスチレンが含まれる。ブタジエン樹脂の例には、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体が含まれる。(メタ)アクリル樹脂の例には、(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル共重合体、シリコーン-(メタ)アクリル共重合体、アクリル変性フッ素樹脂が含まれる。中でも、ウレタン樹脂や、(メタ)アクリル樹脂としての(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル共重合体が好ましい。これらは、ブロック共重合体と分子間水素結合で結びつき、顔料の布帛に対する密着性をより高めやすく、摩擦堅牢性をより高めやすいと推測される。
【0061】
スチレン-(メタ)アクリル共重合体の例には、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含まれる。(メタ)アクリル酸エステルの例には、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノールEO変性(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0062】
ウレタン樹脂は、ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて得られる重合体である。ポリオールの例には、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、シリコーンポリオールが含まれる。イソシアネートの例には、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソサネート、水素化4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートが含まれる。
【0063】
水分散性樹脂のTgは、特に制限されないが、画像形成後でも布帛が硬くなりにくく、風合いを維持しやすくする観点では、低いことが好ましい。水分散性樹脂のTgは、例えば-30~100℃、好ましくは-10~50℃でありうる。
【0064】
水分散性樹脂の酸価は、特に制限されないが、分散安定性を高める観点などから、44mgKOH/g以上であることが好ましく、60mgKOH/g以上であることがより好ましい。酸価の上限値は、例えば110mgKOH/gとしうる。酸価は、上記と同様の方法で測定することができる。
【0065】
水分散性樹脂の平均粒子径は、特に制限されないが、インクジェットヘッドのノズル詰まりを生じにくくする観点では、300nm以下であることが好ましく、130nm以下であることがより好ましい。水分散性樹脂の平均粒子径は、レーザ回折散乱式粒子径分布測定で測定することができる。
【0066】
水分散性樹脂の含有量は、インクに対して1~15質量%であることが好ましい。水分散性樹脂の含有量が1質量%以上であると、インクの粘度を適度に高めやすいため、吐出安定性をより高めうるだけでなく、得られる画像の布帛への密着性や耐擦過性も高めやすい。水分散性樹脂の含有量が15質量%以下であると、インクの粘度が高くなりすぎないため、ノズル詰まり等を生じにくい。水分散性樹脂の含有量は、同様の観点から、インクに対して2~10質量%であることがより好ましい。
【0067】
(添加剤)
添加剤の例には、中和剤、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤等が含まれる。
【0068】
本実施形態において、上記ブロック共重合体がカルボキシル基、スルホン酸基などのアニオン性基を有するとき、インクは、中和剤をさらに含有してもよい。中和剤は、公知の塩基性化合物を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミンなどを用いることができる。顔料分散体が、中和剤を含むことで、上記アニオン性基が顔料分散体中で解離することを適度に助長して、より分散性を高めることができる。
【0069】
中和剤の含有量は、特に限定されないが、中和率が30%以上100%以下になるよう
な量を含むことが好ましい。上記中和率は、以下の式(1)で求めることができる。
【0070】
中和率(%)=(塩基性化合物の質量[g]/(塩基性化合物の当量[g/mol]×
塩基性化合物の価数))÷((顔料分散剤の酸価[mgKOH/g]×顔料分散剤の質量
[g])/(56[g/mol]×1000)) (1)
【0071】
界面活性剤は、インクの表面張力を低下させて、布帛に対する濡れ性を高めうる。界面活性剤の種類は、特に制限されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等でありうる。
【0072】
防腐剤又は防黴剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL)等が含まれる。
【0073】
pH調整剤の例には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム等が含まれる。
【0074】
1-2.前処理液
前処理液は、凝集剤を含む。
【0075】
1-2-1.凝集剤
凝集剤の種類は、インクに含まれる顔料等を凝集させるものであればよい。凝集は、pHの変化を利用したものでもよいし、電気的作用を利用したものであってもよい。
【0076】
pHの変化により凝集させる凝集剤としては、有機酸が挙げられる。有機酸は、炭素数が6以下のカルボン酸として、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸等の飽和脂肪酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸等のヒドロキシ酸等が挙げられる。
【0077】
電気的作用により凝集させる凝集剤としては、カチオン性基を有する化合物、多価金属塩が挙げられる。これらの凝集剤は、インクに含まれる顔料分散剤であるアニオン性の上記ブロック共重合体と相互作用又は反応することができる。
【0078】
カチオン性基を有する化合物におけるカチオン性基としては、2級アミノ基、3級アミノ基、4級アンモニウム塩基等が挙げられる。カチオン性基を有する化合物の例には、カチオン性樹脂、カチオン性界面活性剤が挙げられ、好ましくはカチオン性樹脂である。
【0079】
カチオン性樹脂の例には、カチオン性のウレタン樹脂、カチオン性のオレフィン樹脂、カチオン性のアルキルアミン樹脂が挙げられる。市販品の例には、MPT-60(三菱鉛筆社製)、ユニセンスKHE100L(センカ社製)、MZ477(高松油脂社製、ウレタン樹脂)が含まれる。中でも、上記ブロック共重合体との相互作用又は反応をより生じやすい観点では、カチオン性のアルキルアミン樹脂MPT-60、ユニセンスKHE100L(センカ社製)が好ましい。
【0080】
多価金属塩は、二価以上の多価金属イオンと、それと結合する陰イオンとを有する、水に可溶な化合物でありうる。多価金属イオンの例には、Ca2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+、Zn2+、Ba2+等の二価金属イオン;Al3+、Fe3+、Cr3+等の三価金属イオンが挙げられる。陰イオンの例には、Cl-、I-、Br-、SO4
2-、ClO3
-、NO3
-、及びHCOO-、CH3COO-が挙げられる。そのような多価金属塩の例には、酢酸亜鉛2水和物、硝酸マグネシウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、硫酸マグネシウム、酢酸などのカルシウム塩、マグネシウム塩、ニッケル塩、アルミニウム塩などの有機酸の金属塩が含まれる。中でも、カルシウム塩及びマグネシウム塩が好ましく、硝酸カルシウム及び塩化カルシウムが好ましい。
【0081】
これらの中でも、カチオン性基を有する化合物又は有機酸が好ましく、カチオン性基を有する化合物がより好ましい。
【0082】
前処理液における凝集剤の含有量は、特に制限されないが、前処理液に対して0.1~15質量%であることが好ましく、0.5~8質量%であることがより好ましい。
【0083】
1-2-2.他の成分
前処理液は、必要に応じて溶媒やpH調整剤、防腐剤等の添加剤をさらに含んでもよい。溶媒やpH調整剤、防腐剤は、インクに用いものとそれぞれ同様のものを使用できる。
【0084】
2.画像形成方法
本発明の一実施形態に係る画像形成物は、凝集剤が付着した布帛上に、インクジェット方式で上記インクを付与する工程を経て製造することができる。凝集剤が付着した布帛は、布帛に、凝集剤を含む前処理液を付与することによって得ることができる。インク及び前処理液としては、上記インクセットを用いることができる。
【0085】
即ち、本実施形態に係る画像形成方法は、1)布帛を前処理して、凝集剤が付着した布帛を得る工程と、2)当該布帛上に、インクジェット方式でインクを付与する工程とを含む。
【0086】
2-1.前処理液を付与する工程
本工程では、布帛を前処理して、凝集剤が付着した布帛を得る。
【0087】
具体的には、布帛を、凝集剤を含む前処理液と接触させて、凝集剤が付着した布帛を得る。布帛を前処理液と接触させる方法は、特に制限されず、例えばパッド法、コーティング法、スプレー法、又はインクジェット法等でありうる。
【0088】
前処理液と接触させた布帛を、温風、ホットプレート又はヒートローラーを用いて加熱乾燥させてもよい。
【0089】
前処理液の付与量は、特に制限されず、布帛種類、インクの付与量などに応じて調整されうる。
【0090】
2-2.インクを付与する工程
次いで、凝集剤が付着した布帛上に、上記インクをインクジェット方式で付与する。
【0091】
布帛に含まれる繊維の種類は、特に制限されず、綿(セルロース繊維)、麻、羊毛、絹等の天然繊維;レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル又はアセテート等の化学繊維、及びこれらの混紡繊維が挙げられる。このうち、綿布が好ましい。布帛は、これらの繊維を、織布、不織布、編布等、いずれの形態にしたものであってもよい。また、布帛は、2種類以上の繊維の混紡織布又は混紡不織布であってもよい。
【0092】
本実施形態では、上記インクが、顔料分散剤として上記ブロック共重合体を含む。上記ブロック共重合体は、分子両末端に親水性ブロックを有するため、分子片末端の1か所のみに親水性ブロックを有する従来のAB型ブロック共重合体よりも、他の顔料分散剤との間で橋掛け凝集を生じにくい。それにより、顔料分散体の凝集を抑制しやすく、高い吐出安定性が得られる。
【0093】
2-3.他の工程
上記画像形成方法は、必要に応じて他の工程をさらに含んでもよい。例えば、布帛に付与したインク上に、後処理液(オーバーコート液ともいう)を付与する工程をさらに行ってもよい。
【0094】
後処理液の付与方法は特に制限されず、例えばスプレー法、インクジェット法のいずれであってもよい。その後、後処理液を付与した布帛を乾燥させればよい。
【0095】
3.画像形成物
得られる画像形成物は、凝集剤が付着した布帛と、画像層とを有する。
【0096】
凝集剤は、布帛の表面に配置されていることが好ましい。画像層は、布帛の、凝集剤が配置された面上に配置されていることが好ましい。画像層は、顔料と、上記ブロック共重合体とを含み、必要に応じて上記水分散性樹脂等をさらに含みうる。
【0097】
上記ブロック共重合体は、分子両末端の2か所を含む複数の結合点で布帛と結合しうるため、分子片末端の1か所のみで布帛と結合する従来のAB型ブロック共重合体と比べて、顔料を布帛に良好に密着させることができる。それにより、画像形成物は、高い洗濯堅牢性、摩擦堅牢性を有する。また、上記ブロック共重合体は、複数か所で布帛と結合するため、1か所のみで布帛と結合する従来のAB型ブロック共重合体よりも、布帛が硬くなりにくい。
【0098】
なお、上記実施形態では、ブロック共重合体を、顔料を分散させるための分散剤として用いる例を示したが、これに限らず、水分散性樹脂(定着樹脂)として用いてもよい。
【実施例0099】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0100】
1.インクの調製
1-1.ブロック共重合体の調製
<ブロック共重合体P-1の調製>
アルゴンガス導入管、撹拌翼を備えたフラスコにメタクリル酸n-ブチル(以下「BMA」という)138.8g、メタクリル酸メチル(以下「MMA」という)73.5g、メタクリル酸(以下「MAA」という)59.6g、エチル-2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオネート(以下「BTEE」という)23.3g、ジブチルジテルリド(以下「DBDT」という)14.3g、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(以下「AIBN」という)2.6g、メチルエチルケトン166.1g、アセトニトリル 166.1gを仕込み、60℃で18時間反応させた。それにより、プレポリマー(親水性ブロックA1、Mw:6920)を得た。
【0101】
上記反応液に予めアルゴン置換したメタクリル酸ベンジル(以下「BzMA」という)233g、MAA23.3g、AIBN 2.6g、メチルエチルケトン 98.0g、アセトニトリル98.0gの混合溶液を加え、60℃で9時間反応させた。それにより、親水性ブロックAと疎水性ブロックBとを含むプレポリマー(Mw:9910)を得た。
【0102】
上記反応液に予めアルゴン置換したBMA138.8g、MMA73.5g、MAA59.6g、AIBN 1.3g、メチルエチルケトン61.1g、アセトニトリル388.5gの混合溶液を加え、60℃で23時間反応させた。それにより、親水性ブロックA1、疎水性ブロックB及び親水性ブロックA2を含むポリマー(Mw:13800)を得た。
【0103】
反応終了後、反応溶液にメチルエチルケトン 3.6kgを加え、撹拌下のヘプタン21L中に注いだ。析出した上記ポリマーを吸引濾過、乾燥して、ブロック共重合体P-1を得た。
【0104】
<ブロック共重合体P-2の調製>
アルゴンガス導入管、撹拌翼を備えたフラスコにBMA4.16g、MMA2.20g、MAA1.79g、BTEE0.70g、DBDT0.43g、AIBN0.08g、メチルエチルケトン6.20g、アセトニトリル6.28gを仕込み、60℃で13時間反応させた。それにより、プレポリマー(親水性ブロックA1、Mw:5790)を得た。
【0105】
上記反応液に予めアルゴン置換したメタクリル酸シクロヘキシル(以下「CHMA」という)7.00g、MAA0.70g、AIBN0.8g、メチルエチルケトン2.94g、アセトニトリル2.94gの混合溶液を加え、60℃で10時間反応させた。それにより、親水性ブロックA1と疎水性ブロックBとを含むプレポリマー(Mw:9180)を得た。
【0106】
上記反応液に予めアルゴン置換したBMA4.16g、MMA2.20g、MAA1.79g、AIBN0.08g、メチルエチルケトン1.84g、アセトニトリル11.66gの混合溶液を加え、60℃で24時間反応させた。それにより、親水性ブロックA1、疎水性ブロックB及び親水性ブロックA2を含むポリマー(Mw:13300)を得た。
【0107】
反応終了後、反応溶液にメチルエチルケトン108gを加え、撹拌下のヘプタン0.63L中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することによりブロック共重合体P-2を得た。
【0108】
<ブロック共重合体P-3の調製>
親水性ブロックA2のモノマー組成を表1のように変更した以外はブロック共重合体P-1と同様にしてブロック共重合体P-3を調製した。
【0109】
<ブロック共重合体P-4の調製>
特開2009-299842号公報の合成例1を参考にして、以下のBAA型のブロック共重合体P-4を調製した。
【化1】
【0110】
<ブロック共重合体P-5の調製>
特表2010-513672号公報の分散液1に記載を参考にして、ブロック共重合体P-5を調製した。
【0111】
<ブロック共重合体P-6の調製>
アルゴンガス導入管、撹拌翼を備えたフラスコにBzMA1165.0g、MAA116.5g、BTEE116.5g、DBDT43.0g、AIBN6.4g、メチルエチルケトン1282.0gを仕込み、60℃で24時間反応させた。
【0112】
上記反応液に予めアルゴン置換したBMA1388.0g、MMA734.0g、MAA596.0g、AIBN12.8g、メチルエチルケトン538.0g、アセトニトリル1677.0g、メタノール503.0gの混合溶液を加え、60℃で28時間反応させた。
【0113】
反応終了後、反応溶液にメチルエチルケトン18.7kgを加え、撹拌下のヘプタン107L中に注いだ。析出したポリマーを吸引濾過、乾燥することによりブロック共重合体を得た。
【0114】
<ランダム共重合体P-7の調製>
公知のラジカル重合により、表1に示すモノマー組成のランダム共重合体P-7を調整した。
【0115】
ブロック共重合体P-1~P-6及びランダム共重合体P-7の組成を、表1に示す。
【表1】
BMA:メタクリル酸ブチル
MMA:メタクリル酸メチル
MAA:メタクリル酸
BzMA:メタクリル酸ベンジル
【0116】
なお、表1において、酸価は、JIS K0070:1992の測定方法による測定値である。分子量は、重量平均分子量Mwであり、GPC法によりポリスチレン換算して得られた値である。
【0117】
1-2.顔料分散体の調製
<顔料分散体A-1~A-7の調製>
20.0質量部のカーボンブラック顔料に、顔料分散剤として、顔料に対する添加量が30質量%である表2に示すブロック共重合体と、20質量部のプロピレングリコール(PG)と、5質量部の1,2-ヘキサンジオール(1,2-HD)とを、顔料濃度20.0%の水系顔料分散液となるように、イオン交換水とを加え、混合した。
【0118】
横型媒体分散機(ラボスターミニ LMZ015、ジルコニアビーズ径0.3mm、アシザワ・ファインテック株式会社製)を用いて分散処理して、顔料濃度20.0%の顔料分散体A-1~A-7を調製した。
上記顔料粒子の体積基準の平均粒子径は、粒度分布測定機(ゼータナノサイザー1000HS、マルバーン社製)を用いて測定した。
【0119】
顔料分散体A-1~A-7に使用した顔料分散剤を表2に示す。
【表2】
【0120】
1-3.インクの調製
<インクB-1の調製>
下記成分を混合して、インクB-1を得た。
顔料分散体A-1:30質量部
水分散性樹脂WBR-2000U(大成ファインケミカル社製アクリット、ポリウレタン樹脂粒子 Tg:45℃):固形分として10質量部
グリセリン:10質量部
プロピレングリコール:20質量部
Proxel GXL(S)(防腐剤):0.05質量部
オルフィンE1010(日信化学工業社製、界面活性剤):0.1質量部
イオン交換水:残量
なお、イオン交換水は、インク総量が100質量部になるように調整した。
【0121】
<インクB-2~B-10の調製>
顔料分散液、水分散性樹脂の種類を表3に示すように変更した以外はインクB-1と同様にしてインクB-2~B-10を調製した。
【0122】
インクB-1~B-10に使用した顔料分散体と水分散性樹脂の種類を表3に示す。
【表3】
・WBR-2000U(大成ファインケミカル社製アクリット、ポリウレタン樹脂粒子、Tg:45℃)
・J7600(BASFジャパン社製ジョンクリル7600、(メタ)アクリル樹脂粒子、Tg:35℃)
・J390(BASFジャパン社製ジョンクリル390、スチレン-アクリル酸共重合体、Tg:-5℃、酸価:54mgKOH/g、平均粒子径:0.09μm)
・上記ブロック共重合体P-1
【0123】
2.前処理液の調製
2-1.前処理液の調製
<前処理液PC-1の調製>
下記成分を混合して、前処理液PC-1を調製した。
凝集剤1(ユニセンスKHE100L):4質量部
グリセリン:10質量部
プロピレングリコール:20質量部
Proxel GXL(S)(防腐剤):0.05質量部
オルフィンE1010(日信化学工業社製、界面活性剤):0.1質量部
イオン交換水:44.85質量部
【0124】
<前処理液PC-2~PC-3の調製>
凝集剤の種類と含有量を表4のように変更し、合計量が100質量部になるようにイオン交換水の量を調整した以外は同様にして前処理液PC-2~PC-3を調製した。
【0125】
前処理液PC-1~PC-3の組成を表4に示す。
【表4】
・ユニセンスKHE100L:ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)
【0126】
3.画像形成及び評価
3-1.画像形成
<試験1>
(1)前処理
綿100%の布帛(白色)を準備した。
次いで、布帛の表面に、表5に示される種類の前処理液を、10g/m2の付与量となるようにインクジェット方式で付与した後、100℃で2分間乾燥させた。
【0127】
(2)インクの付与
次いで、画像形成装置として、インクジェットヘッド(コニカミノルタヘッド KM1024iMAE)を有するインクジェットプリンターを準備した。そして、表5に示されるインクを、上記インクジェットヘッドのノズルから15g/m2の付与量となるように吐出させて、前処理した布帛上にベタ画像を形成した(インク付与工程)。
【0128】
具体的には、主走査540dpi×副走査720dpiにて、ベタ画像(全体で200mm×200mm)を形成した。dpiとは、2.54cm当たりのインク液滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。
【0129】
(3)乾燥・定着
その後、インクを付与した布帛を、ベルト搬送式乾燥機にて150℃で3分間乾燥させ
た。それにより、画像形成物を得た。
【0130】
<試験2~24>
前処理液の種類とインクの種類の少なくとも一方を、表5に示されるように変更した以外は試験1と同様にして画像形成を行った。
【0131】
3-2.評価
得られた画像形成物について、下記の評価を実施した。
【0132】
(洗濯堅牢性)
画像形成物の洗濯堅牢性は、家庭用洗濯機で1回洗濯後(水による洗濯)のサンプルと、洗濯していないサンプルと対比して、色落ちを評価した。そして、以下の評価基準に
基づいて評価した。
◎:水濯後の色落ちがほとんどなく、実用上全く問題ないレベルである
〇:水濯後の色落ちが軽微であり、実用上全く問題ないレベルである
△:水濯後の色落ちがあるが、実用上問題ないレベルである
×:水濯後の色落ちが顕著であり、実用上問題となるレベルである
△以上であれば、許容範囲とした。
【0133】
(摩擦堅牢性)
学振型摩擦堅牢度試験機(製品名:AB-301、テスター産業株式会社製)を使用し、200.0gの加重、10.0cm/sの速度条件下で、JIS染色堅牢度試験用白布(JIS L 0803:2011準拠3-1号)に純水を含侵させ、画像形成物のインク付与面に10.0回の往復を実施した。
その後、試験用白布への移染濃度を評価した。そして、以下の評価基準に基づいて評価した。
〇:移染濃度が軽微であるかまたはほとんどなく、実用上全く問題ないレベルである
△:移染濃度があるが、実用上問題ないレベルである
×:移染濃度が顕著であり、実用上問題となるレベルである
△以上であれば、許容範囲とした。
【0134】
(吐出安定性)
画像形成に用いたインクB-1~B-10の射出安定性及びノズル詰まりの有無を、以下の方法で評価した。
【0135】
(1)射出安定性
画像形成条件で連続吐出を10分間行った後の射出欠や曲がり等の確認を射出検査機にて行った。そして、射出安定性を、以下の基準で評価した。
5:長時間の連続使用でも問題がない
4:射出不良が発生しない
3:軽微な曲りが発生するが、問題は無い
2:射出中にプリント中に射出欠が発生する
1:すぐに射出欠が発生する、又は正常に射出できない
3以上であれば良好と判断した。
【0136】
(2)ノズル詰まり
プリント試験機を用いて画像形成する途中にノズル面のメンテナンスを行い、当該メンテナンス後のノズル欠の状態を、ノズルチェックチャートにて確認した。そして、ノズル詰まりを、以下の基準で評価した。
5:長時間の連続使用でも詰りは発生しない
4:詰りは発生しない
3:詰りが発生してもメンテナンスで回復する
2:メンテナンスで回復しない詰りが多数発生する
1:正常に射出できない
3以上であれば良好と判断した
【0137】
試験1~24の画像形成物の評価結果を表5に示し、インクの吐出安定性の評価結果を表6に示す。
【0138】
【0139】
【0140】
画像形成評価について
表5に示されるように、試験7~10、14~17、21~24(比較)で得られた画像形成物は、洗濯堅牢性、摩擦堅牢性ともに劣るのに対し、試験1~6、11~13、18~20(本発明)で得られた画像形成物は、洗濯堅牢性、摩擦堅牢性ともに良好であった。
【0141】
これらの結果から、親水性ブロックがポリマーの2か所あるABA型、ABC型ブロック型共重合体は、末端の1か所に疎水性ブロックがあるAB型ブロック共重合体よりも、凝集剤と反応する部位数が複数になるため、布帛との結合性が高く、強固になると考えられる。それにより、布帛への密着性が向上し、洗濯堅牢性、摩擦堅牢性が改善したものと考えられる。
【0142】
特に、試験1、11及び18の対比から、水分散性樹脂としてウレタン樹脂を用いた場合、凝集剤としてカチオン樹脂を用いた前処理液と組み合わせることで、洗濯堅牢性がより高く、布帛との結合性がさらに良くなることがわかる。
【0143】
吐出性評価について
また、表6に示されるように、試験7~10、14~17、21~24(比較)で使用したインクB-7~B-10は、射出安定性、ノズル詰まりが劣るのに対し、試験1~6、11~13、18~20(本発明)に使用したインクB-1~B-6は、射出安定性、ノズル詰まりが良好であることがわかる。
【0144】
これらのことから、親水性ブロックがポリマーの2か所あるABA型、ABC型ブロック型共重合体は、末端の1か所に親水性ブロックがあるAB型ブロック共重合体よりも、他の分散剤との橋掛け凝集が起こりにくく、顔料分散体の凝集物の生成が抑制されやすくなり、吐出安定性が改善したものと考えられる。
本発明によれば、良好な吐出安定性を有しつつ、高い洗濯堅牢性や摩擦堅牢性を有する画像を形成することができるインクジェット捺染用インクセットを提供することができる。