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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154929
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ロボットの制御方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 23/19 20060101AFI20241024BHJP
   B25J 9/16 20060101ALI20241024BHJP
   B25J 19/00 20060101ALI20241024BHJP
   B25J 19/06 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G05D23/19 C
B25J9/16
B25J19/00 M
B25J19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069163
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】ニデックインスツルメンツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】桃澤 義秋
(72)【発明者】
【氏名】尾辻 淳
(72)【発明者】
【氏名】奥村 宏克
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 隆之
(72)【発明者】
【氏名】高瀬 陽介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 一樹
【テーマコード(参考)】
3C707
5H323
【Fターム(参考)】
3C707AS24
3C707BS15
3C707BS26
3C707CT04
3C707CV06
3C707CW06
3C707CX01
3C707LV12
3C707LW07
3C707MS03
3C707MT16
5H323AA05
5H323BB17
5H323CA08
5H323CB33
5H323DA01
5H323EE01
5H323FF01
5H323GG02
5H323GG04
5H323MM01
5H323MM08
(57)【要約】
【課題】アームの駆動に用いられる減速機などの駆動部を有するロボットにおいて、動作指令に基づくロボットの動作速度を変えずに駆動部における温度上昇を抑制し、かつ、ロボットの稼働率をできるだけ維持する。
【解決手段】ロボット10を動作指令に基づいてサーボ制御する制御装置50は、動作指令に基づいて各軸のサーボ制御を行なうサーボ制御部51と、ロボット10の移動の間のロボット10が停止している期間を待機時間として、サーボ制御部51に対して待機時間を設定する待機時間制御部52と、を有する。サーボ制御部51は、動作指令に基づくロボットの1回の移動ごとに、設定された待機時間が介在するようにサーボ制御を行なう。待機時間制御部52は、ロボット10からフィードバックされる温度測定値の上昇を抑制するように、温度測定値に応じて待機時間を長くする。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動部を備えるロボットを動作指令に基づいてサーボ制御する制御方法であって、
前記動作指令に基づく前記ロボットの移動の間の前記ロボットが停止している期間を待機時間として、
前記駆動部の温度を測定し、測定された温度に応じて待機時間を長くして前記駆動部における温度上昇を抑制する、制御方法。
【請求項2】
前記測定された温度が第1しきい値を超えるときに、前記駆動部の温度が前記第1しきい値まで下がるようにPI演算またはPID演算を行って前記待機時間を算出する、請求項1に記載の制御方法。
【請求項3】
算出される前記待機時間に上限値が設定されている、請求項2に記載の制御方法。
【請求項4】
前記駆動部は、前記サーボ制御によって駆動されるモータに接続した減速機を備え、前記駆動部の温度として前記減速機の温度を測定する、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の制御方法。
【請求項5】
前記ロボットにおいて、冷却用の媒体を循環させることによって前記減速機が冷却されており、
前記サーボ制御を開始する前に、前記冷却用の媒体の流量が第2しきい値未満であるときに、前記サーボ制御を開始しない、請求項4に記載の制御方法。
【請求項6】
冷却用の媒体を循環させることによって冷却される減速機を備えるロボットを動作指令に基づいてサーボ制御する制御方法であって、
前記サーボ制御を開始する前に前記冷却用の媒体の流量を測定し、
前記流量がしきい値未満であるときに前記サーボ制御を開始しない、制御方法。
【請求項7】
ロボットを動作指令に基づいてサーボ制御する制御装置であって、
前記動作指令に基づいて各軸のモータに対するサーボ制御を行なうサーボ制御部と、
前記ロボットの移動の間の前記ロボットが停止している期間を待機時間として、前記サーボ制御部に対して待機時間を設定する待機時間制御部と、
を有し、
前記サーボ制御部は、前記動作指令に基づく前記ロボットの1回の移動ごとに、前記設定された待機時間が介在するように前記サーボ制御を行ない、
前記待機時間制御部は、前記ロボットからフィードバックされる温度測定値の上昇を抑制するように、前記温度測定値に応じて前記待機時間を長くする、制御装置。
【請求項8】
前記待機時間制御部は、前記温度測定値が第1しきい値を超えるときに、前記温度測定値が前記第1しきい値まで下がるようにPI演算またはPID演算を行って前記待機時間を算出する、請求項7に記載の制御装置。
【請求項9】
前記待機時間制御部において算出される前記待機時間に上限値が設定されている、請求項8に記載の制御装置。
【請求項10】
前記ロボットは減速機を備え、前記温度測定値は、前記減速機の温度を測定して得られた値である、請求項7乃至9のいずれか1項に記載の制御装置。
【請求項11】
前記ロボットにおいて、冷却用の媒体を循環させることによって前記減速機が冷却されており、
前記サーボ制御部は、前記ロボットから前記冷却用の媒体の流量の測定値が入力し、サーボ制御を開始する前に前記流量の測定値が第2しきい値未満であるときに、前記サーボ制御を開始しない、請求項10に記載の制御装置。
【請求項12】
冷却用の媒体を循環させることによって冷却される減速機を有するロボットを動作指令に基づいてサーボ制御する制御装置であって、
前記ロボットから前記冷却用の媒体の流量の測定値が入力するとともに、前記動作指令に基づいて前記ロボットのサーボ制御を行なうサーボ制御部を有し、
前記サーボ制御部は、サーボ制御を開始する前に前記流量の測定値がしきい値未満であるときに、前記サーボ制御を開始しない、制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業用ロボット(以下、単に「ロボット」と呼ぶ)の制御に関し、特に、ロボットの各軸において過度の温度上昇が起こらないようにする制御方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ロボットの各軸は、減速機を介してモータによって駆動されるのが一般的である。ロボットの各軸を駆動したときにその軸の減速機やモータは発熱する。特に減速機は、発熱による温度上昇が大きいと障害が発生しやすくなる。減速機などで生じた熱は、通常、ロボットの表面を介してロボット周囲の空気へと伝達される。特許文献1は、ロボットのアームの駆動部の温度を検出し、温度上昇が大きいときに、ロボットの動作加速度を変化させたり、ロボットの運転動作を一定時間停止して運転を待機させたりすることを開示にしている。
【0003】
ところで、半導体装置の製造工程において半導体ウエハの搬送に用いられるロボットや、液晶表示パネルの製造工程においてガラス基板の搬送に用いられるロボットは、半導体装置や液晶表示パネルの製造工程の特徴から、真空環境に配置されることがある。真空環境ではロボットの表面からの放熱だけでは減速機などで生じた熱を排熱することが難しい。そこで特許文献2は、アームとアームの先端に取り付けられたハンドとを備えて真空環境下で使用されるロボットとして、アームを中空状に形成した上でアーム内にモータや減速機を配置し、さらにアーム内を大気圧としてアーム内に冷却用の空気などを供給するように構成されたロボットを開示している。特許文献3は、配管を介して循環する冷却用の媒体によって減速機などが冷却されるロボットにおいて、減速機の温度を測定する温度センサと冷却用の媒体の流量を検出する流量計とを設け、想定温度よりも減速機の実際の温度が上昇したときに警告を発するとともに、その温度上昇の原因が経年のためなのか冷却用の媒体の流量の不足なのかを判別する診断を行うことを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5-111891号公報
【特許文献2】特開2014-144527号公報
【特許文献3】特開2022-56757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された技術では、ロボットにおいて、アームを駆動する駆動部の温度を検出して温度上昇が大きいときに、ロボットの動作加速度を変化させたり、ロボットの運転動作を一定時間停止して運転を待機させたりする。しかしながら、動作加速度を変化させたときはロボットの速度なども変化し、減速機などにおけるバックラッシュなども変化するので、ロボットの停止位置が本来の位置からずれてしまう、という課題が生じる。ロボットの運転動作を一定時間停止した場合には、駆動部の冷却にかかる時間以上にわたってロボットを停止させることがあり、必要以上にロボットの稼働率を低下させる。
【0006】
本発明の目的は、アームの駆動に用いられる減速機などの駆動部を有するロボットの制御方法及び制御装置であって、動作指令に基づくロボットの動作速度を変えずに駆動部における温度上昇を抑制し、かつ、ロボットの稼働率をできるだけ維持できる制御方法及び制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様の制御方法は、駆動部を備えるロボットを動作指令に基づいてサーボ制御する制御方法であって、動作指令に基づくロボットの移動の間のロボットが停止している期間を待機時間として、駆動部の温度を測定し、測定された温度に応じて待機時間を長くして駆動部における温度上昇を抑制する。
【0008】
一態様の制御方法では、駆動部の温度に応じて待機時間を長くするので、駆動部の温度上昇がしきい値を超えたときに一律の時間でロボットを停止させる場合に比べ、例えば温度上昇が小さければ待機時間の伸びも小さくなり、ロボットの稼働率が向上する。また一態様の制御方法では、ロボットが停止しているタイミングである待機時間だけを変更して動作指令によるロボットの速度や加速度には変更を加えないので、バックラッシュ量なども変化せず、ロボットの停止位置が本来の位置からずれることもない。
【0009】
一態様の制御方法では、測定された温度が第1しきい値を超えるときに、駆動部の温度が第1しきい値まで下がるようにPI演算またはPID演算を行って待機時間を算出することが好ましい。PI演算またはPID演算を用いることにより、駆動部の温度を第1しきい値に素早く収束させることが可能になるともに、全体としてのロボットの稼働率も高く維持できる。この場合、算出される待機時間に上限値を設定してもよい。上限値を設定することによって、ロボットのタクトへの影響を軽減することができる。
【0010】
一態様の制御方法では、ロボットの駆動部は、例えば、サーボ制御によって駆動されるモータに接続した減速機を備えており、駆動部の温度として減速機の温度が測定されるようにすることができる。減速機は発熱が大きいとともに過度の温度上昇を避けるべき部材であるから、駆動部の温度として減速機の温度を測定することにより、一態様の制御方法による効果を最大限に得ることができる。また、減速機は冷却用の媒体を循環させることによって冷却されるものであってもよい。減速機に冷却用の媒体が循環するときは、サーボ制御を開始する前に、冷却用の媒体の流量が第2しきい値未満であるときに、サーボ制御を開始させないようにすることが好ましい。このように構成することによって、例えば冷却用の媒体を給送するポンプの起動忘れなどを防止することができる。
【0011】
本発明の別の態様の制御方法は、冷却用の媒体を循環させることによって冷却される減速機を備えるロボットを動作指令に基づいてサーボ制御する制御方法であって、サーボ制御を開始する前に冷却用の媒体の流量を測定し、流量がしきい値以下であるときにサーボ制御を開始しない。このような制御方法によれば、例えば冷却用の媒体を給送するポンプの起動忘れなどを防止することができる。
【0012】
本発明の一態様の制御装置は、ロボットを動作指令に基づいてサーボ制御する制御装置であって、動作指令に基づいて各軸のモータに対するサーボ制御を行なうサーボ制御部と、ロボットの移動の間のロボットが停止している期間を待機時間として、サーボ制御部に対して待機時間を設定する待機時間制御部と、を有し、サーボ制御部は、動作指令に基づくロボットの1回の移動ごとに、設定された待機時間が介在するようにサーボ制御を行ない、待機時間制御部は、ロボットからフィードバックされる温度測定値の上昇を抑制するように、温度測定値に応じて待機時間を長くする。
【0013】
一態様の制御装置によれば、ロボットからフィードバックされる温度測定値に応じて待機時間を長くするので、ロボット側での温度上昇がしきい値を超えたときに一律の時間でロボットを停止させる場合に比べ、例えば温度上昇が小さければ待機時間の伸びも小さくなり、ロボットの稼働率が向上する。またこの制御装置を用いた制御では、動作指令によってロボットが停止しているタイミングである待機時間だけを変更して動作指令によるロボットの速度や加速度には変更を加えないので、バックラッシュ量なども変化せず、ロボットの停止位置が本来の位置からずれることもない。
【0014】
一態様の制御装置によれば、待機時間制御部は、温度測定値が第1しきい値を超えるときに、温度測定値が第1しきい値まで下がるようにPI(比例積分)演算またはPID(比例積分微分)演算を行って待機時間を算出することが好ましい。PI演算またはPID演算を用いることにより、温度測定値すなわちロボットの温度を第1しきい値に素早く収束させることが可能になるともに、全体としてのロボットの稼働率も高く維持できる。この場合、算出される待機時間に上限値を設定してもよい。上限値を設定することによって、ロボットのタクトへの影響を軽減することができる。
【0015】
一態様の制御装置では、ロボットは減速機を備え、温度測定値は、減速機の温度を測定して得られた値とすることができる。減速機は発熱が大きいとともに過度の温度上昇を避けるべき部材であるから、温度測定値として減速機の温度を測定した値を採用することにより、一態様の制御装置による効果を最大限に得ることができる。また、減速機は冷却用の媒体を循環させることによって冷却されるものであってもよい。減速機に冷却用の媒体が循環するときは、サーボ制御部は、ロボットから冷却用の媒体の流量の測定値が入力しており、サーボ制御を開始する前に流量の測定値が第2しきい値未満であるときにサーボ制御を開始しないことが好ましい。このように構成することによって、例えば冷却用の媒体を給送するポンプの起動忘れなどを防止することができる。
【0016】
本発明の別の態様の制御装置は、冷却用の媒体を循環させることによって冷却される減速機を有するロボットを動作指令に基づいてサーボ制御する制御装置であって、ロボットから冷却用の媒体の流量の測定値が入力するとともに、動作指令に基づいてロボットのサーボ制御を行なうサーボ制御部を有し、サーボ制御部は、サーボ制御を開始する前に流量の測定値がしきい値未満であるときに、サーボ制御を開始しない。このような制御装置によれば、例えば冷却用の媒体を給送するポンプの起動忘れなどを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】(a),(b)は、それぞれロボットの側面図と平面図である。
図2】第1の実施形態の制御装置を説明するブロック図である。
図3】待機時間制御部を説明するブロック線図である。
図4】減速機の温度とロボットの動作との関係を示すグラフである。
図5】第2の実施形態の制御装置を説明するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。最初に、本発明に基づく制御方法が適用可能なロボットについて説明する。本発明に基づく制御方法は、減速機などを介してモータによって駆動される軸を有するものであれば任意のロボットに適用できるが、特に、ロボットにおける一続きの連続した動きの間にロボットが停止する期間を有するロボットに対して好適に適用することができる。例えば、ワークを搬送する搬送用ロボットは、移動元から移動先に移動した後、いったん停止してから次の移動先への移動を開始するから、本発明に基づく制御方法が好適に適用される。図1は、本発明に基づく制御方法が適用されるロボットの一例を示す図であって、(a),(b)は、それぞれ、ロボット10の側面図及び平面図である。このロボット10は、ガラス基板などの略長方形の板状のワーク80を搬送することを目的とするものであって、水平多関節型のロボットであり、ワーク80をそれぞれ保持する2つのハンド13A,13Bを備えるいわゆるダブル・ハンド・ロボットとして構成されている。
【0019】
ロボット10は、床面に直線で設けられた相互に平行な1対のレール21上を移動可能な基台22と、基台22の上に設けられ、基台22に内蔵されたモータ(不図示)によって、回転軸31の周りで水平面内で回転する回転台23と、回転台23に対して直立するように設けられた昇降機構24を備えている。レール21にはそれを覆うカバー25が取り付けられている。昇降機構24は、回転台23に取り付けられている固定部24Aと、モータ41(図2参照)によって駆動されて固定部24Aに対して昇降する移動部24Bとを備えている。図1(a)は昇降機構24の移動部24Bがその昇降範囲での最も下に位置している状態にあるロボット10を示している。移動部24Bには水平多関節機構を保持するアーム支持部26が水平方向に延びるように設けられており、アーム支持部26の先端には2組の水平多関節機構が上下方向に配列して取り付けられている。上側の水平多関節機構は、アーム支持部26に取り付けられて共通軸32の周りで水平面内を回転可能な第1アーム11Aと、第1アーム11Aの先端に取り付けられて軸33Aの周りで水平面内を回転可能な第2アーム12Aを備えており、第2アーム12Aの先端にハンド13Aが取り付けられている。同様に下側の水平多関節機構は、アーム支持部26に取り付けられて共通軸32の周りで水平面内を回転可能な第1アーム11Bと、第1アーム11Bの先端に取り付けられて軸33Bの周りで水平面内を回転可能な第2アーム12Bを備えており、第2アーム12Bの先端にハンド13Bが取り付けられている。
【0020】
ハンド13A,13Bは、下から保持することによって板状のワーク80を水平状態に保ったまま搬送できるように、複数の棒状部材を平行に配置したフォーク状の形状となっている。すなわちハンド13A,13Bは、ワーク80をそのハンド13A,13Bの上に保持する形式のものである。ハンド13A,13Bは、ロードロック室などに収納されているワーク80を取り出してハンド13A,13B上に保持したり、保持しているワーク80をロードロック室内などに収納するときにワーク80に対して前進または後退するが、このハンド13A,13Bの前進したり後退する方向は、棒状部材の延びる方向と平行な方向とされる。ハンド13A,13Bの左右方向すなわち前後方向に直交する方向での幅は、搬送対象のワーク80の左右方向の幅よりも短くなっている。
【0021】
このロボットにおいて水平多関節機構は、第1アーム11A,11Bと第2アーム12A,12Bとに組み込まれたリンク機構により、アーム支持部26が延びる方向とは直交する方向で直線運動でハンド13A,13Bが前進及び後退運動を行うように構成されている。すなわち両方のハンド13A,13Bは同一方向に前進及び後退を行う。共通軸32に対してハンド13A,13Bの先端が遠ざかる動きが前進運動であり、前進運動とは反対方向の動きが後退運動である。第1アーム11A,11Bと第2アーム12A,12Bとは全体して屈曲運動を行い、それにも関わらず水平面内でのハンド13A,13Bの向きを一定とするために、ハンド13A,13Bは、それぞれ、第2アーム12A,12Bの先端の位置で手首軸34A,34Bの周りで水平面内を回転可能に取り付けられている。上側の水平多関節機構では、アーム支持部26に設けられたモータが駆動されることによって第1アーム11A及び第2アーム12Aが動き、ハンド13Aはその向きを保ったまま、アーム支持部26の延びる方向とは直交する方向に移動する。同様に下側の水平多関節機構では、アーム支持部26に設けられたモータが駆動されることによって、第1アーム11B及び第2アーム12Bが動き、ハンド13Bはその向きを保ったまま、アーム支持部26の延びる方向とは直交する方向に移動する。このロボットでは、ハンド13Aとハンド13Bとを独立して前進及び後退させることができる。
【0022】
図1に示すロボット10の動きは、レール21に沿った水平方向の移動と、鉛直軸である回転軸31の周りでの基台に対する回転と、ハンド13A,13Bの水平方向での前進及び後退運動と、昇降機構24によるアーム支持部26の鉛直方向での昇降とに分解することができ、これらの動きは、それぞれ、ロボットにおける軸を駆動することによって実現する。動作指令に基づいてロボット10をサーボ制御するために、後述の図2に示すように、ロボット10には制御装置50が接続される。ロボット10の各軸は、制御装置50によって、動作指令に基づいてそれぞれの軸のモータ41(図2)から減速機43(図2)を介して駆動される。
【0023】
図1に示すロボット10は、大気圧下で動作するものであってもよいし、真空環境で動作するものであってもよい。特に真空環境で動作させるときは、特許文献2,3に記載されるように、空気などの冷却用の媒体によって減速機43を冷却するように構成してもよい。
【0024】
図2は、本発明の第1の実施形態の制御装置50を示している。制御装置50は、入力する動作指令に基づいて一般には複数の軸を有するロボット10の各軸をサーボ制御するものである。最初に制御装置50による制御対象としてのロボット10を説明する。ロボット10は上述したように一般には複数の軸を有するが、図2では、ロボット10として1軸分の構成が描かれており、その軸のアームなどがまとめられて負荷40として表示されている。ロボット10において、モータ41の回転軸であるモータ軸42には、減速機43が取り付けられており、モータ41による駆動力は減速機43を介して負荷40に加わる。モータ軸42には、モータ41の位置を制御装置50にフィードバックするために、エンコーダ44も取り付けられている。モータ41、モータ軸42及び減速機43は、負荷40を駆動するための駆動部を構成する。駆動部には、駆動部を温度を測定して制御装置50にフィードバックするために、温度センサ45が取り付けられている。温度センサ45として例えば熱電対を用いることができるが、サーミスタや測温抵抗体を使用してもよい。
【0025】
制御装置50は、例えば上位装置などから入力する動作指令に基づいて各軸のモータ41をサーボ制御して駆動するサーボ制御部51と、サーボ制御部51に対して待機時間を設定する待機時間制御部52とを備えている。本実施形態ではロボット10は例えばワークの搬送に用いられる搬送用ロボットであるとしており、搬送用ロボットでは、そのロボット10は、1つの動作指令に基づいて第1の位置(あるいは姿勢)から第2の位置(あるいは姿勢)に移動する。1つの動作指令によるこの移動のことを1回の移動と呼べば、各回の移動の間にロボット10が停止している期間が挟まれる。このようにロボット10が停止している期間を待機時間と呼ぶ。待機時間の間も、ロボット10の各軸は、動かないようにサーボ制御され続けている。本実施形態において制御装置50は、例えば、マイクロコンピュータやマイクロプロセッサなどを用い、これらのマイクロコンピュータやマイクロプロセッサ上で実行されるコンピュータプログラムにより実現することができる。
【0026】
サーボ制御部51は、次の動作指令が入力した場合においても、前回の動作指令によるロボット10の移動が終了してから当該次の動作指令による移動が開始するまでに、待機時間制御部52によって設定された待機時間が介在するようにロボット10のサーボ制御を実行する。すなわちサーボ制御部51は、設定された待機時間が経過するまで、次の動作指令に基づくロボット10の動作の開始を遅延させる。この遅延させているときにさらに次の動作指令が到着したときは、最後に到着したその動作指令の入力(受付け)が拒否される。
【0027】
一方、待機時間制御部52は、ロボット10の駆動部からフィードバックされる温度測定値の上昇を抑制するように、温度測定値に応じて定まる待機時間を発生する。具体的には、温度測定値が高いときには待機時間が長くなるように待機時間を発生する。このように温度測定値が高いときに待機時間を長くすると、この長くされた待機時間の間にロボット10の駆動部が冷却されるから、駆動部の温度は低下する。その結果、本実施形態では、駆動部、特に減速機43の温度が過度に上昇することを防ぐことができる。
【0028】
待機時間制御部52について、図3に示すブロック線図を用いて詳しく説明する。待機時間制御部52には、ロボット10から、温度センサ45で測定した温度がフィードバックされている。温度センサ45が測定する温度は、例えば減速機43の温度である。待機時間制御部52は、フィードバックされる温度測定値の上昇を抑制するように温度測定値に応じて長くなる待機時間を算出し、その待機時間をサーボ制御部51に設定する。図3に例示した待機時間制御部52は、PID(比例積分微分)制御の演算を実行して待機時間を算出するものであって、離散時間においてPID制御を行なう制御器としての一般的な構成を有する。待機時間制御部52では、減速機53の温度の上限に関する目標値であるしきい値(温度しきい値)が設定されている。算出される待機時間が長くなりすぎてロボット10のタクトが悪化することを防ぐために、待機時間についての上限値も設定されている。
【0029】
しきい値とロボットからフィードバックされた温度測定値との偏差を求めるために減算要素61が設けられている。本実施形態では温度測定値がしきい値以上であるときに待機時間を長くする制御を行なうので、減算要素61が出力する偏差に対して、乗算要素62によって-1が乗ぜられる。乗算要素61の出力値は、比例ゲインKpを乗ずる乗算要素63と微分要素66とに供給されるとともに、後述の減算要素73を介して積分要素64に供給される。積分要素64の出力値に対して乗算要素65において積分ゲインPiが乗ぜられ、微分要素66の出力値に対して乗算要素67において微分ゲインPdが乗ぜられる。乗算要素63,65,67の出力は加算要素68において加算される。加算要素68の出力は、上限値による制限が行われていない待機時間であり、これは、次に、リミッタ69に入力する。リミッタ69は、入力した待機時間が、待機時間について設定された上限値を超えないように制限を行い、その結果、リミッタ69から、上限値による制限が行われたのちの待機時間が出力する。リミッタ69から出力する待機時間は、待機時間制御部52が出力する待機時間であって、サーボ制御部51に入力する。上述したようにサーボ制御部51は、そこに入力した動作指令及び待機時間に基づいてプラントであるロボット10を制御し、ロボット10からは減速機43の温度測定値が待機時間制御部52にフィードバックする。
【0030】
さらに、リミッタ69の入力と出力との差を求める減算要素70が設けられており。減算要素70の出力は、遅延要素71を介して、比例ゲインKpの逆数を乗じる乗算要素72に入力される。減算要素73において、乗算要素62の出力から乗算要素72の出力が減算され、その減算結果が積分要素64に入力する。減算要素70,73と遅延要素71と乗算要素72は、リミッタ69によって待機時間の制限を行ったときの積分演算での飽和を防ぐために設けられている。このようにして本実施形態では積分演算の飽和を防止しているので、図において破線の枠によって示すように、微分要素66及び乗算要素67は必ずしも設けなくてもよい。微分要素66及び乗算要素67を設けない場合には、待機時間制御部52は、PI(比例積分)制御の演算を行うことになる。
【0031】
なお、ロボット10が複数の軸を備えているときは、軸ごとにフィードバックされる温度測定値に基づいて軸ごとに待機時間が算出される。このように複数の待機時間が算出されるときは、その中で最も長いものがサーボ制御部51に設定される待機時間として採用される。また、温度しきい値が温度測定値を減算して得られる偏差が正のとき、すなわち温度測定値が温度しきい値未満であるときは、待機時間制御部52は待機時間の算出を行わず、そのときは積分要素64はリセットされる。待機時間制御部52が待機時間の算出を行わないときは、サーボ制御部51は動作指令が到着するごとにその動作指令に基づてロボット10を動作させるが、その後、次の動作指令が到着するまではロボット10は停止状態にあるから、次の動作指令が入力しないために停止状態にある期間が見かけ上の待機時間となる。待機時間制御部52が待機時間を算出しても算出された待機時間の経過後も動作指令が入力しないのであれば、当然のことながらロボット10は、次の動作指令が入力するまでは停止状態にある。
【0032】
図4は、図2に示す制御装置50において図3に示す待機時間制御部52を使用したとしてシミュレーションを行ったときのロボット10における温度と動作との関係の一例を示すグラフである。制御装置50には、ロボットを移動させる動作指令が一定の時間間隔で入力するものとし、1回の動作指令によりロボット10が移動するときに要する時間(移動時間)も一定であるものとする。また、待機時間制御部52では、微分要素66及び乗算要素67が設けられていないものとし、温度のしきい値Thが50℃であるものとする。図4において(a)はロボット10の動作状態を示しており、「停止」である期間が待機時間である。(b)は、動作指令の入力からどの動作指令が実際に実行されるまでの遅延時間を示しており、(c)はロボット10からフィードバックされる温度測定値を示している。グラフの横軸は、ロボット10のサーボ制御を開始してから経過した時間を示している。
【0033】
ロボット10のサーボ制御を開始した時点ではロボット10の駆動部は冷えているが、時間の進行とともに駆動部の温度は上昇し、A点でしきい値温度Th以上となる。サーボ制御開始からA点までは待機時間制御部52は待機時間を算出しておらず、動作指令が入力するたびにロボット10は動作し、したがって動作の遅延時間も0のままである。A点において待機時間制御部52は待機時間の算出を開始し、サーボ制御部51が動作指令に基づくロボットの1回の移動ごとに挟む待機時間も、待機時間制御部52が算出した待機時間となる。A点を過ぎても温度上昇は続いており、その結果、各回の動作指令による移動の間に挟まれる待機時間も長くなり、遅延時間も0から増加する。やがて温度測定値は低下を開始するが、待機時間は長くなったままであり、遅延時間も大きくなったままである。その後、B点において温度測定値がしきい値温度Thを下回る。その結果、待機時間制御部52は待機時間の算出を停止し、積分要素64もリセットされる。その結果、待機時間は当初の状態に戻る。B点ではロボット10の駆動部は十分に暖まっているので、すぐに温度測定値が温度しきい値Th以上となり、待機時間制御部52による待機時間の算出が開始され、A点以降の場合と同様に制御が行われる。その後、C点で温度測定値が温度しきい値Thを下回り、その時点で待機時間制御部52は待機時間の算出を停止し、積分要素64もリセットされる。その後は、B点以降の場合と同様に制御が行われる。
【0034】
このような制御を行なうことによって、ロボット10の駆動部の温度は、しきい値温度Thを多少上回ることがあるものの全体としてはしきい値温度Thに収束する。そして温度測定値をしきい値温度Thにするように待機時間が算出されるので、待機時間が過度に長くなることが防がれる。これにより、駆動部、特に減速機53での過度の温度上昇を避けつつ、ロボット10の稼働率を維持することが可能になる。
【0035】
以上説明した第1の実施形態では、待機時間は温度測定値に応じて定まるので、温度があるしきい値を超えた時に一定の停止時間を設定する場合に比べ、ロボットの稼働率を向上させることができる。また本実施形態の制御方法では、動作指令によってロボットが停止しているタイミングである待機時間だけを変更して動作指令によるロボットの速度や加速度には変更はないのでバックラッシュ量なども変化せず、それにより、ロボットの停止位置を正確に維持することができる。
【0036】
図5は、本発明の第2の実施形態の制御装置50を示している。第2の実施形態では、ロボット10は例えば真空環境において使用されるものであって、特許文献2,3などに示されるように減速機43が冷却用の媒体によって冷却されるものであるとする。冷却用の媒体は例えば空気であり、ロボット10には、そのロボット10に供給される冷却用の媒体の流量を測定する流量計46が取り付けられている。流量計46での流量測定値は制御装置50に入力されている。
【0037】
図5に示す制御装置50は、図2に示す第1の実施形態の制御装置50と同様のものであるが、流量計46での流量測定値がサーボ制御部51に入力して、サーボ制御部51が流量測定値に基づく制御も行う点で、図2に示すものと異なっている。サーボ制御部51、ロボット10が起動したのち動作指令に基づくサーボ制御を開始する前に、流量測定値が流量に関するしきい値未満であるかを判定し、流量測定値がしきい値未満であるときはロボット10に対するサーボ制御を開始しない。ロボット10に対してサーボ制御を行なっている途中で流量測定値がしきい値を下回ることとなったときは、サーボ制御部51及び待機時間制御部52は、第1の実施形態において説明した制御をそのまま続行する。なお、サーボ制御の開始後に流量測定値が流量についてのしきい値を下回ることとなったときには、サーボ制御部51は、上位装置に対して警報を通知するようにしてもよい。
【0038】
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果が得られるほか、ロボット10の起動時に流量測定値を確認するので、冷却用の媒体を給送するポンプの起動忘れがあったとしても利用者はそれに気づくこととなり、ポンプの起動忘れなどを防止することができる。冷却用の媒体を給送するポンプの起動忘れは、減速機43における過度の温度上昇をもたらすから、ポンプの起動していないときにサーボ制御が開始されないようにすることは、減速機43の温度上昇の抑制という点では有効である。さらに第2の実施形態では、駆動部の温度と冷却用の媒体の流量の測定値が制御装置50に入力するので、それらの入力した測定値を解析することによって、特許文献3に記載されるように、ロボット10の例えば減速機43に関する問題を早期に発見することが可能になる。減速機43に関する問題を早期に発見しようとするときは、減速機43で発生する振動を検出する振動センサを減速機43に取り付けた上で、温度や流量のほかに振動のデータを用いて解析を行うこともできる。
【0039】
なお、第2の実施形態の変形例として、制御装置50に待機時間制御部52を設けないようにしてもよい。待機時間制御部52を設けないときは、温度によって待機時間の長さを変えることはできないが、冷却用の媒体の流量がしきい値未満であるときにサーボ制御が開始されないので、冷却用の媒体を給送するポンプの起動忘れなどを防止することができる。
【符号の説明】
【0040】
10…ロボット;11A,11B…第1アーム;12A,12B…第2アーム;13A,13B…ハンド;21…レール;22…基台;23…回転台;24…昇降機構;24A…固定部;24B…移動部;25…カバー;26…アーム支持部;31…回転軸;32…共通軸;33A,33B…軸;34A,34B…手首軸;40…負荷;41…モータ;42…モータ軸;43…減速機;44…エンコーダ;45…温度センサ;46…流量計;50…制御装置;51…サーボ制御部;52…待機時間制御部。
図1
図2
図3
図4
図5