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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154930
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】アーモンドアレルゲンの検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20241024BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G01N33/543 521
G01N33/53 Q
G01N33/543 525Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069165
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000113067
【氏名又は名称】プリマハム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【弁理士】
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】大黒 そのみ
(72)【発明者】
【氏名】加藤 重城
(57)【要約】
【課題】食品等の被検試料から、ペカンナッツ等の他の種実類等との交差反応性を示すことなく、アーモンドアレルゲンをイムノクロマト法により迅速に検出できる手段を提供すること。
【解決手段】アーモンド11Sグロブリンに結合し、アーモンド以外の種実類等の11Sグロブリンに結合しない2種類のモノクローナル抗体を使用することにより、アーモンドを精度よく検出することができることを確認した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルとを用い、測定サンプルを展開支持体に展開させた後、前記所定の位置における金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法において、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM1であり、他方がPDAM1と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM2であることを特徴とするイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項2】
抽出液が、SDS、TWEEN20、及びチオ硫酸ナトリウムを含むことを特徴とする請求項1記載のイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項3】
アレルゲンの測定サンプルが、被検試料から抽出液を用いて加熱抽出した測定サンプルであることを特徴とする請求項1又は2記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項4】
アレルゲンの測定サンプルが、被検試料から抽出液を用いて未加熱抽出した測定サンプルであることを特徴とする請求項1又は2記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項5】
被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるアーモンドに対する反応性が、アーモンドのタンパク質濃度が被検試料中の濃度として2ppm~20ppmで判定することができることを特徴とする請求項1又は2記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項6】
測定サンプルにおけるアーモンドのタンパク質濃度が0.1ppm~1ppmで判定することができることを特徴とする請求項1又は2記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【請求項7】
アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体とを備え、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM1であり、他方がPDAM1と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM2であることを特徴とするアーモンドアレルゲンの検出キット。
【請求項8】
SDS、TWEEN20、及びチオ硫酸ナトリウムを含む、被検試料からアレルゲンを抽出するための抽出液をさらに含むことを特徴とする請求項7記載のアーモンドアレルゲンの検出キット。
【請求項9】
FBSをさらに含むことを特徴とする請求項7又は請求項8記載のアーモンドアレルゲンの検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アーモンドに特異的に結合するモノクローナル抗体、及び、かかる抗体を用いて、アーモンドアレルゲンを検出する方法やキットに関する。
【背景技術】
【0002】
自然環境の減少、車や工場などからの排気ガス、住宅事情等、或いは食べ物の変化など様々な要因により、現在では、3人に1人が何らかのアレルギー疾患をもつといわれている。特に、食物アレルギーは、食品中に含まれるアレルギー誘発物質(以下、「食物アレルゲン」という)の摂取が原因となる有害な免疫反応であり、皮膚炎、喘息、消化管障害、アナフィラキシーショック等を引き起こすことが知られている。これらの症状は死に至ることもあることから、卵、乳、小麦、えび、かに、落花生、そばの7品目が特定原材料として、容器包装された加工食品で表示が義務づけられている。また、アーモンド、アワビ、イカ、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、クルミ、ごま、さけ、サバ、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、マツタケ、モモ、ヤマイモ、リンゴ、ゼラチンの21品目が、特定原材料に準ずるものとして、できるだけ表示することが推奨されている。
【0003】
上記の食物アレルゲンを迅速かつ簡易に検出するため、抗原抗体反応を利用して特定の抗原又は抗体よりなる被検出物質を検出する免疫測定法が広く用いられており、試料中の被検出物質に、蛍光物質等からなる標識物質により標識された抗体又は抗原を免疫反応により結合させ、結合した標識物質を測定する免疫測定法が採用されている。これらの免疫測定法では、競合型反応、サンドイッチ型反応が広く用いられており、サンドイッチ型反応を利用したイムノクロマトグラフィー法(例えば、特許文献1参照)等によるアレルゲン検出方法が提案されている。
【0004】
一方、アーモンド(Prunus dulcis)は、種実類の一種であって、50質量%以上の脂質を含み、その約7割は、一価不飽和脂肪酸のオレイン酸であり、さらにビタミンEやビタミンBを多く含むとされる。近年、菓子類等への使用や、乳糖やコレステロールを略含まないアーモンド飲料の生産が増えており、今後のアーモンドによるアレルギー発症者の増加を見越して、2019年に特定原材料に準ずるものとして、新たにアーモンドが追加された。そのため、原料、食品、食品製造装置、食品包装等に意図せず混入したアーモンドを検出し、また食品表示との整合性を確認するために、アーモンドについての適切な検出手段が求められている。
【0005】
現在、市販されているアーモンドアレルゲン検出用キット「AlerTox Sticks Kit(登録商標)アーモンド(KIT3030)」(ハイジエナダイアグノスティカエスパーナ社製)は、イムノクロマト法によるキットであるが、検出限界は20ppmにすぎない。また、NEOGEN社のReveal3-Dアーモンドキットの取扱説明書には、拭い液や洗浄液からアーモンド成分をスクリーニングできるようにデザインされている旨明示されており、食品中のアーモンド成分の検出には必ずしも適切ではない。
【0006】
他方、アーモンド検出用PCRプライマーセット等を用いるアーモンド、ヘーゼルナッツ、マカダミアナッツ及びブラジルナッツの同時PCR検出方法(例えば、特許文献2等参照)が提案されているが、PCR等の操作が必要であるので判定までに時間がかかると考えられ、また、アーモンドのみを検出する方法ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5-010950号公報
【特許文献2】特開2022-160499号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、食品等の被検試料から、他の種実類等と交差反応性を示すことなく、アーモンドアレルゲンをイムノクロマト法により迅速に検出できる手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、より低濃度においても、アーモンドアレルゲンを検出できるイムノクロマト法によるアレルゲン検出方法について検討を続けてきたが、アーモンド11Sグロブリンに結合する、特定の2種類のモノクローナル抗体を使用することにより、アーモンドアレルゲンを従来のキットよりも低い濃度にて検出することができることを見いだした。さらに、SDS、Tween20、及びチオ硫酸ナトリウムを含む抽出液を用いて加熱処理を行った試料をイムノクロマトに供することにより、非常に低い濃度のアレルゲンを交差反応性なく検出できることを確認し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルとを用い、測定サンプルを展開支持体に展開させた後、前記所定の位置における金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法において、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM1であり、他方がPDAM1と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM2であることを特徴とするイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出方法。
[2]抽出液が、SDS、Tween20、及びチオ硫酸ナトリウムを含むことを特徴とする上記[1]記載のイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出方法。
[3]アレルゲンの測定サンプルが、被検試料から抽出液を用いて加熱抽出した測定サンプルであることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
[4]アレルゲンの測定サンプルが、被検試料から抽出液を用いて未加熱抽出した測定サンプルであることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
[5]被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるアーモンドに対する反応性が、アーモンドのタンパク質濃度が被検試料中の濃度として2ppm~20ppmで判定することができることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
[6]測定サンプルにおけるアーモンドのタンパク質濃度が0.1ppm~1ppmで判定することができることを特徴とする上記[1]又は[2]記載のアーモンドアレルゲンの検出方法。
【0011】
また、本発明は以下のとおりである。
[7]アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体とを備え、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM1であり、他方がPDAM1と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM2であることを特徴とするアーモンドアレルゲンの検出キット。
[8]SDS、Tween20、及びチオ硫酸ナトリウムを含む、被検試料からアレルゲンを抽出するための抽出液をさらに含むことを特徴とする上記[7]記載のアーモンドアレルゲンの検出キット。
[9]FBSをさらに含むことを特徴とする上記[7]又は[8]記載のアーモンドアレルゲンの検出キット。
【発明の効果】
【0012】
本発明の検出方法によると、アーモンドのアレルゲンを迅速かつ精度よく定性的に検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)は、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生に対する、PDAM1抗体の反応性を示すグラフである。(b)は、アーモンド、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生に対する、PDAM2抗体の反応性を示すグラフである。
図2】製品Aにおいて、a)抽出液としてPBSを使用して加熱処理を行って抽出した場合、b)IC抽出液を使用して未加熱にて抽出した場合、及びc)IC抽出液を使用して加熱処理を行って抽出した場合の、イムノクロマトストリップにおける判定ラインの着色の濃度を示すグラフである。
図3】製品Bにおいて、a)抽出液としてPBSを使用して加熱処理を行って抽出した場合、b)IC抽出液を使用して未加熱にて抽出した場合、及びc)IC抽出液を使用して加熱処理を行って抽出した場合の、イムノクロマトストリップにおける判定ラインの着色の濃度を示すグラフである。
図4】製品Cにおいて、a)抽出液としてPBSを使用して加熱処理を行って抽出した場合、b)IC抽出液を使用して未加熱にて抽出した場合、及びc)IC抽出液を使用して加熱処理を行って抽出した場合の、イムノクロマトストリップにおける判定ラインの着色の濃度を示すグラフである。
図5】ポリフェノールを含む食品4種類について、抽出液としてPBSを使用して加熱処理を行って抽出した場合と、IC抽出液を使用して加熱処理を行って抽出した場合の、イムノクロマトストリップにおける判定ラインの着色の濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のアーモンドアレルゲンの検出方法としては、アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体と、被検試料から抽出液を用いて未加熱で又は加熱して抽出したアレルゲンの測定サンプルとを用い、測定サンプルを展開支持体に展開させた後、前記所定の位置における金コロイドの集積の有無により、アレルゲンを検出するイムノクロマト法において、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM1であり、他方がPDAM1と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM2である検出方法であれば特に制限されず、上記アーモンドの11Sグロブリンとは、一般に可溶性の球状タンパク質であるグロブリンのうち、沈降係数が11Sに相当するものの総称であって、植物における貯蔵タンパク質として知られており、アーモンドにおける主要アレルゲンのひとつとして知られている。
【0015】
本発明におけるアーモンドとしては、バラ科サクラ属(Rosaceae Cerasus)の落葉高木に属するアーモンド(Prunus dulcis)の木から採取される果実から、果肉と種子の殻を取り除いた仁(生アーモンド)を加熱処理したナッツを挙げることができ、アーモンドは、ビター種と、スイート種(甘扁桃)とに大別できるが、ビター種は苦みを生じさせるアミグダリンを含むので、スイート種が好ましい。スイート種としては、ノンパレル(Nonpareil)種、カリフォルニア(California)種、カーメル(Carmel)種、ミッション(Mission)種、ビュート(Bute)種等の多数の品種が知られている。
【0016】
上記加熱変性アーモンド11Sグロブリンには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、モノクローナル抗体の一方は、抗体産生細胞(ハイブリドーマ)(NITE P-03345)が産生する抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM1であり、PDAM1と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しないモノクローナル抗体の他方は、ハイブリドーマ(NITE P-03346)が産生する抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM2である。
【0017】
上記アーモンド11Sグロブリンに結合するモノクローナル抗体の抗体産生細胞の調製方法としては、加熱処理したアーモンド11Sグロブリン若しくはその粉砕処理物を、そのまま又は適当なアジュバントと共に免疫原として哺乳動物に投与し、免疫感作させる方法を例示することができる。
【0018】
上記哺乳動物としては、ラット、マウス、ウサギ、ヤギを挙げることができるが、調製の簡便性からラットやマウスを用いることが好ましく、ラットに由来するモノクローナル抗体やマウスに由来するモノクローナル抗体を好適に用いることができる。投与箇所としては、静脈注射、皮下、腹腔内を例示することができる。追加免疫は、数日から数週間後に行うことができ、10日~3週間後がより好ましい。抗アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体産生細胞の分離は、最終の免疫日から1~60日後、好ましくは1~10日後に免疫動物から採取することにより行うことができ、抗体産生細胞としては、脾臓細胞やリンパ節細胞や末梢血由来細胞が好ましく、マウスの脾臓細胞やラット腸骨リンパ節細胞がより好ましい。
【0019】
上記アーモンド11Sグロブリンに対するモノクローナル抗体の調製方法としては、上記抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合をおこない、上記アーモンド11Sグロブリンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを、培地上で培養するか、又は動物腹腔内に投与して腹水内で増殖させた後、培養培地又は腹水からモノクローナル抗体を採取する、ケラーとミルシュタインによるハイブリドーマ法(Nature 256, 495-497, 1975)等の公知の方法を挙げることができる。
【0020】
上記ミエローマ細胞としては、一般に入手可能な株化細胞を用いることができるが、未融合の状態ではHAT選択培地で生存できず、抗体産生細胞と融合した状態でのみ、陽性ハイブリドーマとして生存できる性質を有することが好ましく、具体的には、P3-X63-Ag8-U、P3X63Ag8.653、NSI/1-Ag4-1、NS0/1等のマウスミエローマ細胞株、YB2/0等のラットミエローマ細胞株などを挙げることができる。
【0021】
上記細胞融合の方法としては、抗体産生細胞とミエローマ細胞とをポリエチレングリコール等の融合促進剤の存在下で混合することにより行なうことができる。例えば、細胞融合終了後、RPMI1640培地等で適当に希釈し、遠心分離し、沈殿をHAT培地等の選択培地に懸濁して培養することによりハイブリドーマを選択し、次いで、培養上清を用いて酵素抗体法等により抗体産生ハイブリドーマを検索し、限界希釈法等によりクローニングを行ない、アーモンド11Sグロブリンを認識するモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマを得ることができる。
【0022】
上記ハイブリドーマ(NITE P-03345)が産生する抗アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体PDAM1(PDAM1抗体)や、ハイブリドーマ(NITE P-03346)が産生する抗アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体PDAM2(PDAM2抗体)は、2020年12月22日付で独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)特許微生物寄託センター(NPMD)(住所:千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 122号室)に受託されている。
【0023】
上記PDAM1抗体及びPDAM2抗体は、それぞれ、カシューナッツ(Anacardium occidentale:ウルシ科カシューナットノキ属(Anacardiaceae Anacardium))、ヘーゼルナッツ(Corylus avellana:カバノキ科ハシバミ属(Betulaceae Corylus)一部はセイヨウハシバミとムラサキセイヨウハシバミの雑種)、ピスタチオ(Pistacia vera:ウルシ科カイノキ属(Anacardiaceae Pistacia))、マカデミアナッツ(Macadamia integrifolia:ヤマモガシ科マカダミア属(Proteaceae Macadamia))、クルミ(クルミ科クルミ属(Juglandaceae Juglans))、ペカンナッツ(クルミ科ペカン属(Juglandaceae Carya))、及び、落花生(Arachis hypogaea:マメ科ラッカセイ属(Fabaceae Arachis))(本願明細書において、まとめて「他の木の実類」ということもある)のタンパク質、とりわけ可食部を構成するタンパク質に反応せず、エピトープに結合しない。
【0024】
本発明において、上記PDAM1抗体及びPDAM2抗体を使用する場合、上記金コロイドを結合した金コロイド標識抗体としてPDAM2抗体、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体とするPDAM1抗体の組合せ;又は、上記金コロイドを結合した金コロイド標識抗体としてPDAM1抗体、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体としてPDAM2抗体の組合せ;を使用することができるが、金コロイド標識抗体としてPDAM2抗体、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル(メンブレン固相)抗体としてPDAM1抗体の組合せ;を使用することがより好ましい。
【0025】
上記モノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体の作製方法としては従来公知の方法を含め特に限定されないが、例えば、0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液に、2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)にモノクローナル抗体を溶解した溶液を加え、室温で30分間反応した後、10%BSA溶液を加え、さらに15分間反応させ、遠心分離する方法を挙げることができる。また、作製した金コロイド標識抗体を、例えばガラスウール製コンジュゲートパッドに塗布し、乾燥させることにより金コロイド標識抗体担持体を作製することもできる。
【0026】
上記展開支持体(抗体固定化メンブレン)は、金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識する変性及び未変性のアレルゲンを共に認識するモノクローナル抗体を含む緩衝液を、例えば、ニトロセルロースメンブレンに直線状に塗布し乾燥させた後、ブロッキング処理することにより作製することができる。
【0027】
上記測定サンプルを担持させることができるサンプル用担体部としては、ガラスウール製のサンプルパッドを例示することができる。上記ガラスウール製サンプルパッド、必要に応じて上記金コロイド標識抗体担持体、展開支持体、展開支持体の他端に吸収パッドを順次連結することによりイムノクロマトストリップを作製することができる。
【0028】
上記測定サンプルを調製する際に用いられる抽出液としては、被検試料に加えて抽出をすることにより、アレルゲンであるアーモンドの11Sグロブリンを検出できる抽出液であれば特に制限されないが、好ましくは、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween20(登録商標))、及びチオ硫酸ナトリウムを含む溶液を挙げることができ、より好ましくはSDS、Tween20、チオ硫酸ナトリウムをダルベッコPBS溶液中に含む抽出液を挙げることができ、かかる抽出液を使用した場合に、よりアレルゲンの抽出効率が高く、かつ非特異反応を抑制できる。
【0029】
上記SDSの濃度としては、0.1~2.0%、好ましくは0.2~1.0%、より好ましくは0.3~0.7%を挙げることができ、上記Tween20の濃度としては、0.01~1.0%、好ましくは0.08~0.5%、より好ましくは0.1~0.3%を挙げることができ、上記チオ硫酸ナトリウムの濃度としては、0.01~5.0%、好ましくは0.02~0.5%、より好ましくは0.05~0.2%を挙げることができる
【0030】
(被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプル)
上記被検試料としては、アレルゲンが存在する可能性のある食品や、拭き取り液若しくは洗浄液を挙げることができ、上記食品としては、食品そのもののほか、該食品を製造するために用いられる原料又はその飛散物、該食品を包装した包装紙や包装容器に残るカス、食品製造工程における沈殿物等の残留物などを含めることができる。
【0031】
上記拭き取り液若しくは洗浄液としては、アーモンドを含む可能性のある液体であれば広く含めることができ、例えば、食品製造現場等におけるアーモンドアレルゲンを含む可能性のある溶液を挙げることができる。具体的には、食品等を製造するために用いられる装置を洗浄した洗浄水;該洗浄水を取り除くために使用されたすすぎ液;のほか、上記洗浄水の乾燥物、上記すすぎ液の乾燥物を便宜上含めることができる。
【0032】
上記拭き取り液若しくは洗浄液からなる測定サンプルにおける溶媒としては、水道水や純水等の水、(生理)食塩水、PBS等の水性溶媒を好適に挙げることができるが、これらの2種以上の混合液でもよく、例えば、水で拭き取り水に溶解してもよいし、(生理)食塩水で拭き取り水に溶解してもよいし、PBSで拭き取り水に溶解してもよいし、水で拭き取り(生理)食塩水に溶解してもよいし、(生理)食塩水で拭き取り(生理)食塩水に溶解してもよいし、PBSで拭き取り(生理)食塩水に溶解してもよいし、水で拭き取りPBSに溶解してもよいし、(生理)食塩水で拭き取りPBSに溶解してもよいし、PBSで拭き取りPBSに溶解してもよい。なお、上記抽出液により拭取や洗浄を行って、拭き取り液や洗浄液とすることも可能である。
【0033】
上記被検試料は、上記抽出液を添加して20倍抽出(例えば1mLの拭き取り液若しくは洗浄液に19mLの抽出液を加える)を行った後、加熱処理を行うことにより、又は、加熱処理を行わずに(未加熱処理)、測定サンプルとしてイムノクロマト処理を施され、アレルゲンの検出を行うことができる。上記抽出液により拭取や洗浄を行って、拭き取り液や洗浄液とする場合、上記20倍抽出を行うことなく、加熱処理を経て又は未加熱処理のまま、拭き取り液や洗浄液を測定サンプルとして、上記イムノクロマト処理を施すこともできる。
【0034】
上記加熱処理を行う場合の加熱処理の時間としては、例えば沸騰水浴中で5~30分を挙げることができ、好ましくは8~15分を挙げることができる。
【0035】
上記抽出液を用いて加熱抽出したアレルゲンの測定サンプルに、上記金コロイド標識抗体、及び好ましくは展開液を添加してイムノクロマトストリップにスポットすることにより、アーモンド11Sグロブリンを認識する金コロイド標識抗体と、測定サンプル中のアーモンドアレルゲンとが結合して抗原抗体複合体が形成され;形成された抗原抗体複合体がイムノクロマトストリップ上の展開支持体を毛管現象等により移動し;金コロイド標識抗体と異なる11Sグロブリンのエピトープを認識するアーモンドアレルゲンを認識するモノクローナル抗体が固定された所定の位置において、上記抗原抗体複合体が捕捉され;金コロイドの集積により現れる判定ラインの着色の有無により、アレルゲンを検出することができる。なお、前述したように、イムノクロマトストリップにあらかじめ金コロイド標識抗体を担持させておいてもよく、その場合は、上記測定サンプルに金コロイド標識抗体を添加する必要は必ずしもない。
【0036】
上記展開液としては、ウシ胎児血清(FBS)が含まれている溶液が好ましく、その場合のウシ胎児血清(FBS)濃度としては、10~50重量%を挙げることができ、20~40重量%が好ましく、25~35重量%がより好ましく、10重量%未満の場合、非特異反応を生じやすく好ましくない場合もあるが、ウシ胎児血清(FBS)を添加しなくてもよい場合がある。また、展開液には、必要に応じて他の界面活性剤、防腐剤、無機塩などの各種添加剤を懸濁もしくは乳濁又は溶解せしめて調製することもできる。上記展開液に緩衝液を添加する場合には、そのpHが4~10、特にpH6~8が好ましく、例えば、リン酸緩衝液(PBS)やトリス緩衝液(TBS)などを好適に例示することができる。また、上記緩衝液は、綿棒等のイムノクロマトのスティックの先端部分に含ませておくこともできる。
【0037】
上記測定サンプルのイムノクロマト法によるアーモンドアレルゲンの検出においては、上記測定サンプルにイムノクロマトストリップのサンプル用担体部を浸漬させることにより、上記測定サンプル中のアーモンド11Sグロブリンとアーモンドアレルゲンを認識する金コロイド標識抗体とが結合して抗原抗体複合体を形成し;形成された抗原抗体複合体がイムノクロマトストリップ上の展開支持体を毛管現象等により移動し;金コロイド標識抗体と異なる11Sグロブリンのエピトープを認識するアーモンドアレルゲンを認識するモノクローナル抗体が固定された所定の位置において、上記抗原抗体複合体が捕捉され;金コロイドの集積により現れる着色ラインの有無により、アレルゲンを検出することができる。
【0038】
本発明において、抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルにおけるアーモンドに対する反応性としては、被検試料におけるアーモンド(標準品)のタンパク質濃度の濃度として2ppm~20ppmで検出できることを挙げることができる。
【0039】
本発明のアレルゲンの検出方法は、非診断目的のアレルゲンの検出方法とすることもできる。
【0040】
本発明のイムノクロマト用アレルゲンの検出キットとしては、アレルゲンを認識するモノクローナル抗体に金コロイドを結合した金コロイド標識抗体と、アレルゲンを認識し、前記金コロイド標識抗体と異なるエピトープを認識するモノクローナル抗体が所定の位置に固定された展開支持体とを備え、前記アレルゲンが加熱変性アーモンド11Sグロブリンであり、前記モノクローナル抗体の一方がアーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM1であり、他方がPDAM1と異なるエピトープを認識して、アーモンドには結合するが、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生とは結合しない、抗アーモンドモノクローナル抗体PDAM2であることを特徴とするアーモンドアレルゲンの検出キットであれば特に制限されず、測定サンプルの調製方法や、測定サンプルからアーモンドアレルゲンを検出する方法を記載した取扱説明書や、イムノクロマトストリップに含まれている試薬液の各成分についての説明書等の添付文書が含まれるキットの構成としてもよい。また、製造年月日から1年以上常温保存した場合においても、実用性に耐えうる精度・安定性を有するキットが望ましい。
【0041】
上記キットが、被検試料から抽出液を用いて抽出したアレルゲンの測定サンプルを使用するキットである場合には、上記キットに抽出液として、SDS、Tween20、及びチオ硫酸ナトリウムを含んでもよい。また、展開液に添加するFBSを加えることができる。さらに、上記取扱説明書には、上記抽出液は拭き取り液や洗浄液として使用することもできる旨記載してもよい。
【0042】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例0043】
[実施例1]
[アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体の確立]
(加熱変性アーモンド標準溶液の調製)
生アーモンド(ノンパレル種)の可食部(果肉と種子の殻を取り除いた仁の部分)をミルサーにより粉砕し、アセトンを用いて脱脂したのち一晩室温にて風乾し、アセトンを除去したものを脱脂アーモンド粉末として調製した。かかる脱脂アーモンド粉末を1.0g量り取り、0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、0.2%Tween20、及び0.1%チオ硫酸ナトリウムを含むダルベッコPBS(以下「IC抽出液」ともいう)を20mL加えて攪拌し、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却後に遠心し、各遠心上清を回収して、加熱変性アーモンド標準溶液(D-AM)として調製した。
【0044】
(加熱変性木の実類抽出溶液の調製)
カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生の可食部をそれぞれミルサーにより粉砕した後各1gを量り取り、上記IC抽出液を19mL加えて撹拌した後、沸騰水中で10分間加熱して変性処理を行い、冷却後に遠心し、各遠心上清を回収して、カシューナッツ加熱変性タンパク質(「D-CS」IC抽出溶液、ヘーゼルナッツ加熱変性タンパク質(「D-HZ」)IC抽出溶液、ピスタチオ加熱変性タンパク質(「D-PS」)IC抽出溶液、マカダミアナッツ加熱変性タンパク質(「D-MC」)IC抽出溶液、ペカンナッツ加熱変性タンパク質(「D-PE」)IC抽出溶液、クルミ加熱変性タンパク質IC抽出溶液(「D-WN」)、及び落花生加熱変性タンパク質(「D-PN」)IC抽出溶液の各溶液として調製した。各溶液におけるタンパク質の濃度は、2-D QuantKit(GE Healthcare Life Science社製)を用いて必要に応じて測定した。
【0045】
(アーモンドアレルゲンの指標となるアーモンド11Sグロブリンの精製)
上記脱脂アーモンド粉末を、プレップセル960(Bio Rad社製)を用いて精製した。11Sグロブリン画分を透析後、凍結乾燥を行った。かかる凍結乾燥粉末を用い、生理食塩水で0.1%のアーモンド11Sグロブリンの溶液を作製し、1mL容チューブに500μLずつ分注して、アーモンド11Sグロブリンの抗原溶液とし、免疫に供するまで-40℃にて凍結保管した。
【0046】
(ラット由来抗アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体の作製)
(1)ラットへの免疫
供試動物として、8週齢のF344/DuCrlCrljラット(日本チャールズリバー社から入手)1匹を用いた。ラットの初回免疫には、完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich社製)を0.1%のアーモンド11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを用い、このエマルジョン200μLを尾根部より注射した。初回免疫から2週間後に、100μLの0.1%11Sグロブリン溶液を尾部静脈より注射して追加免疫とした。
【0047】
(2)ラット由来抗体産生ハイブリドーマの作製
ラット由来抗体産生ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、上記尾部静脈注射から4日後、供試ラットから腸骨リンパ節を無菌的に摘出した。腸骨リンパ節を細切後、RPMI1640(富士フィルム和光純薬社製)で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュ(CellStrainer、70mm、Becton Dickinson社製)に通し、腸骨リンパ節細胞懸濁液を得た。1000rpm×10分の遠心分離により腸骨リンパ節細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この腸骨リンパ節細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を混合し、再度1000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加えて希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×10細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson社製)に分注し、5%CO下37℃にて培養した。
【0048】
(3)抗体産生ハイブリドーマの限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清を、ELISA法の一次抗体として供試し、抗11Sグロブリン抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISA法により11Sグロブリンに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレートに移し、限界希釈法によるクローニングを行った。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0049】
(4)モノクローナル抗体のスクリーニング
上記培養上清の、アーモンド11Sグロブリンを含むD-AMに対する反応性が認められるモノクローナル抗体について、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生それぞれにおける11Sグロブリン含む加熱変性処理粗タンパク質、すなわち、D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE及びD-PNに対する反応性をインダイレクトELISA法にて判定し、D-AMに対して陽性を示し、D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE及びD-PNに対して陰性を示すラット由来モノクローナル抗体を3種類選抜した。
【0050】
(5)マウスの腹水の採取及びラット由来モノクローナル抗体の精製
Jonesら(1990)に従い、まず、CB-17/scidマウス(日本クレア社から入手)に不完全フロイントアジュバント(Sigma-Aldrich社製)を200μL腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×10細胞にクローニングされた、上記選抜された抗体を産生する3種類のハイブリドーマをそれぞれ接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採取した腹水をProteinGカラム(GEヘルスケア社製)により精製し、アーモンド11Sグロブリンに対して特異性を有する3種類のラット由来精製モノクローナル抗体(MAb)を取得し、それぞれA、B及びPDAM2抗体と呼ぶこととした。
【0051】
(マウス由来抗アーモンド11Sグロブリンモノクローナル抗体の作製)
(1)マウスへの免疫
供試動物として、4週齢のBALB/cマウス(日本クレア社から入手)2匹を用いた。マウスの初回免疫には、完全フロイントアジュバントを0.1%の上記アーモンド11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試し、このエマルジョンを一尾当たり100μL腹腔内に注射した。追加免疫には、不完全フロイントアジュバントを0.1%の11Sグロブリン溶液が500μL入ったチューブに等量加え、ボルテックスミキサーにて攪拌して作製したエマルジョンを供試した。このエマルジョンを1匹当たり100μL腹腔内に注射した。
【0052】
(2)血中抗体価の測定
初回又は追加免疫で11Sグロブリンを注射した1週間後に、各BALB/cマウスの尾部静脈より採血を行った。採血した血液は室温にて2時間放置後、遠心分離を行い、血清を得た。これらの血清の10倍希釈段を作製し、非競合法ELISA法によりマウス血中の抗11Sグロブリン抗体価を調べた。なお、二次抗体にはアルカリフォスファターゼ標識抗マウスIgG(H+L)抗体(Jackson Immuno Research Laboratories社製)を用いた。さらに追加免疫を2週間の間隔で5回行い、十分に抗体価が上がったマウスに、100μLの0.1%11Sグロブリン溶液を尾部静脈より注射した。
【0053】
(3)マウス由来抗体産生ハイブリドーマの作製
マウス由来抗体産生ハイブリドーマの作製は、ケラーとミルシュタインの方法(1975)に従った。すなわち、上記11Sグロブリン溶液の尾部静脈注射から4日後、マウスより脾臓を無菌的に摘出した。脾臓を細切後、RPMI1640で洗浄して、滅菌ナイロンメッシュを通し、脾臓細胞懸濁液を得た。1000rpm×10分の遠心分離により脾臓細胞を集め、再度RPMI1640で再懸濁し細胞数をカウントした。この脾臓細胞懸濁液とマウスミエローマ細胞(P3X63Ag8.653)懸濁液を混合し、再度1000rpm×10分の遠心分離を行い、ペレットを得た。このペレットに平均分子量3350の45%ポリエチレングリコールを滴下し細胞融合を行った。細胞溶液にRPMI1640を加え希釈後、遠心分離でペレットにした。このペレットに、ハイブリドーマ用培地(10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地)に100μMのヒポキサンチン、0.4μMのアミノプテリン、16μMのチミジンを含むHAT選択培地を加え、5×10細胞/ウェルとなるように24ウェルの細胞培養用プレート(Becton Dickinson社製)に分注し、5%CO下37℃にて培養した。
【0054】
(4)マウス由来抗体産生ハイブリドーマの限界希釈法によるクローニング
細胞培養用プレートの各ウェルの培養上清を、ELISA法の一次抗体として供試し、抗11Sグロブリン抗体を産生しているハイブリドーマの存在を調べた。ELISA法により11Sグロブリンに対して陽性を示したウェルのハイブリドーマについて、0.9細胞/ウェルとなるように96ウェルの細胞培養用プレートに移し、限界希釈法によるクローニングを行った。クローニングされたハイブリドーマの培養には、10%牛胎児血清、40μMの2-メルカプトエタノール、100U/mLのペニシリン、100μg/mLのストレプトマイシンを含むRPMI1640培地を用いた。
【0055】
(5)モノクローナル抗体のスクリーニング
上記培養上清の、アーモンド11Sグロブリンを含むD-AMに対する反応性が認められるクローンについて、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生の7種類のそれぞれにおける11Sグロブリン含む加熱変性タンパク質、すなわち、D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE、及びD-PNに対する反応性をインダイレクトELISA法にて判定し、D-AMに対して陽性を示すが、上記7種類の他の木の実類のタンパク質に対して陰性を示すマウス由来モノクローナル抗体を1種類選抜した。
【0056】
(6)マウスの腹水の採取及びマウス由来モノクローナル抗体の精製
Jonesら(1990)に従い、まず、BALB/cマウスに不完全フロイントアジュバントを200μL腹腔内に注射した。1週間後、一尾当たり5×10細胞のクローニングされた、上記選抜された抗体を産生するハイブリドーマをそれぞれ接種した。腹水貯留後、シリンジにより腹水を採取した。採取した腹水をProteinGカラム(GEヘルスケア社製)により精製し、アーモンド11Sグロブリンに対して特異性を有する1種類のマウス由来精製モノクローナル抗体を取得し、PDAM1抗体と呼ぶこととした。
【0057】
[実施例2]
[抗体の組合せ評価]
上記A、B、PDAM1抗体及びPDAM2抗体から、二種類の抗体を選択することによる、アーモンドタンパク質の検出に適した抗体の組合せを検討することとした。
【0058】
[1.サンドイッチELISA法による抗体の組合せ評価]
(抗体の固相化)
96ウェルマイクロプレート(Nunc-Immuno Module plate F8NAL、468667)を用い、固相化抗体を調製した。上記4種類の精製抗体をそれぞれリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline:PBS)で5μg/mLの固相用抗体溶液に調製し、各抗体について100μL/ウェルを8ウェルずつ分注した。37℃にて1.5時間静置して固相化反応させた後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄し、1%牛血清アルブミン(Bovine Serum Albumin:BSA、Sigma-Aldrich社製)/PBSを150μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキングを行い、その後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄して、4種類の固相化抗体を8ウェルずつ調製した。
【0059】
(測定用アーモンドタンパク質溶液の調製と添加)
上記D-AMを、PBSTを用いて0.1ppm又は1ppmの濃度のD-AM溶液となるように調製し、測定用アーモンドタンパク質溶液とした。上記固相化した抗体が調製された16ウェルに0.1ppmのD-AM溶液を100μL/ウェル分注し、別の16ウェルに1ppmのD-AM溶液を100μL/ウェル分注し、37℃にて1.5時間静置して、D-AMと各固相化抗体とを反応させた。その他PBSTをブランクとした。その後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0060】
(HRP標識抗体による反応)
上記4種類の精製モノクローナル抗体それぞれについて、西洋わさびペルオキシダーゼ(Horseradish peroxidase;HRP)による酵素標識をPeroxidase Labeling Kit-SH(LK09、株式会社同仁化学研究所製)を用いて行った。PBSTを用いて0.1μg/mLのHRP標識抗体を調製し、100μL/ウェル分注し、37℃にて1.5h静置して反応させた。その後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0061】
(発色)
発色剤3、3’、5、5’テトラメチルベンジジン溶液(TMB溶液、1-Component Microwell Peroxidase Substrate, SureBlue、5120-0075、KPL社製)を100μL/ウェル分注し、遮光下常温にて10分静置して反応させた。1規定塩酸を100μL/ウェル分注することにより反応を停止させ、主波長450nm、副波長620nmにて吸光度を測定した。マイクロプレート上の抗体の組合せのレイアウト、及び、各ウェルにおける主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値を実質吸光度として、以下の表1に示す。なお、620nmの副波長は、検体によるウェル内の汚れや洗浄操作等によるウェルのくもり、キズ等によるウェル間吸光度差をキャンセルするために測定された吸光度である。
【0062】
【表1】
【0063】
(結果)
上記主波長450nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値(実質吸光度:450nm-620nm)においては、PDAM1抗体を固相化抗体とし、PDAM2抗体を、Peroxidaseを用いた酵素標識抗体とした場合に、実質吸光度が高いことが確認され、アーモンドタンパク質に対する反応性が強いことが確認された。
【0064】
[実施例3]
[2.イムノクロマトグラフィーによる抗体の組合せ評価]
上記[1.サンドイッチELISA法による抗体の組合せ評価]において、アーモンドタンパク質に対する反応性が強いことが示された、PDAM1抗体とPDAM2抗体とを用いて、以下の手順でイムノクロマトストリップを作製し、アーモンドタンパク質の検出について、イムノクロマトストリップにおける金コロイド標識抗体とメンブレン上に固定化された抗体の組合せについて、より好適な抗体の組合せを検討することにした。
【0065】
(アーモンドタンパク質を含む測定サンプルの作製)
上記D-AMをそれぞれの被検液中の濃度が、1.0ppm(20ppm)、0.5ppm(10ppm)、0.2ppm(4ppm)、0.1ppm(2ppm)、及び0ppm(ネガティブコントロール)となるように調整し、各濃度のアーモンド加熱変性タンパク質を含む測定サンプルを作製した。なお、カッコ内は、20倍抽出を想定した製品換算濃度である。
【0066】
(イムノクロマトストリップの作製)
(1)金コロイド標識抗体の作製
PDAM1及びPDAM2の各抗体について、2mMホウ酸緩衝液(pH9.0)で1mg/mLとなるように各抗体溶液を調製した。あらかじめ0.2M炭酸カリウム溶液でpH9.0に調製した金コロイド溶液(BBI solutions社製)5mLに上記抗体溶液をそれぞれ500μL加え、室温で30分間反応させた後、10%BSA溶液を635μL加え、さらに15分間反応させた。遠心分離を行い、1%BSA溶液でOD525=1.0になるよう調製して、2種類の金コロイド標識抗体溶液を調製した。
【0067】
(2)抗体固定化メンブレンの作製
PDAM1及びPDAM2の各抗体について、PBSで4mg/mLとなるように各抗体溶液を調製し、ニトロセルロースメンブレンに直線状に各抗体溶液を塗布し乾燥させた。その後、1%スキムミルクを含むリン酸緩衝液(Phosphate Buffer:PB)で37℃にて1時間ブロッキング後、PBで洗浄し乾燥させることにより、上記各抗体をメンブレンに固定化し、PDAM1抗体固定化メンブレン及びPDAM2抗体固定化メンブレンを調製した。
【0068】
(3)イムノクロマトストリップの組立
上記2種類の抗体固定化メンブレンに加えて、被検液スポット用のガラスウール製サンプルパッド、被検液吸収用のガラスウール製吸収パッドを別途用意し、サンプルパッド、抗体固定化メンブレン、吸収パッドの順にそれぞれ貼り付け、2種類のイムノクロマトストリップを作製した。
【0069】
(4)イムノクロマトグラフィーによる、アーモンドタンパク質の検出の確認
上記各金コロイド標識抗体を20μL、展開液として牛胎児血清(FBS)を30μLに、上記各濃度の測定サンプルを50μLそれぞれ加えたものを、被検液として各抗体がメンブレンに固定化されているイムノクロマトストリップにスポットし、各抗体の組合せにおいてアーモンドタンパク質(アレルゲン)検出の有無の確認を行った。メンブレンに固定化された抗体と金コロイド標識抗体との各組合せにおける、アーモンドタンパク質溶液の各濃度における検出の有無を以下の表2に示す。判定はラインの着色が強い方から順に「+」、「+w」と表記し、陰性を「-」とした。なお、「N.T.」は検出試験を行っていないことを示す。
【0070】
【表2】
【0071】
(結果)
上記表2から明らかなとおり、メンブレンに固定化された抗体がPDAM1抗体であり、金コロイド標識抗体がPDAM2から調製されている場合に、被検液中のアーモンドタンパク質(D-AM)の濃度が1.0ppmと0.5ppmのときは「+」、0.2ppm及び0.1ppmのときにも「+w」を示し、高い反応性があることが確認された。なお、メンブレンに固定化された抗体がPDAM2抗体であり、金コロイド標識抗体がPDAM1抗体から調製されている場合にも、測定サンプル中のアーモンドタンパク質の濃度が1.0ppmのときは「+」を示し、また、0.5ppmのときは「+w」を示したので、0.5ppm以上であれば反応性があることが確認されたが、メンブレンに固定化された抗体がPDAM1抗体であり、金コロイド標識抗体がPDAM2抗体である場合が、アーモンドタンパク質を検出する能力がより高いことが確認された。
【0072】
[実施例4]
[PDAM1抗体とPDAM2抗体の特異性評価]
[アーモンド以外の他の木の実類のタンパク質とのイムノクロマトグラフィーによる交差反応性の確認]
上記イムノクロマトストリップのうち、メンブレンに固定化された抗体がPDAM1抗体であり、金コロイド標識抗体がPDAM2抗体であるイムノクロマトストリップを使用して、前記D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE、及びD-PNをイムノクロマトグラフィーによる検出対象として交差反応性の有無を評価することとした。
【0073】
(各他の木の実類のタンパク質を含む測定試料の作製)
カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生について各1gを、上記IC抽出液を用いて20倍でタンパク質を抽出し、各測定試料を作製した。
【0074】
(イムノクロマトグラフィーによる各他の木の実類の検出の確認)
上記金コロイド標識PDAM2抗体溶液を20μL、展開液として牛胎児血清(FBS)を30μL、他の木の実類のそれそれのタンパク質を含む上記各測定試料をそれぞれ50μL加えて、被検液とした。かかる被検液をPDAM1抗体がメンブレンに固定化されているイムノクロマトストリップにスポットし、各木の実のタンパク質の検出の有無の確認を行った。結果を表3に示す。
【0075】
【表3】
【0076】
(結果)
表3から明らかなとおり、PDAM1抗体とPDAM2抗体とを用いる上記イムノクロマトストリップは、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生の各タンパク質に対して反応性を示さず、これらの木の実タンパク質との交差反応性がないことが確認された。
【0077】
[実施例5]
[アーモンド以外の木の実タンパク質との交差反応性についてインダイレクトELISA法による確認]
アーモンドタンパク質(D-AM)と、アーモンド以外の7種類のタンパク質(D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE、及びD-PN)の合計8種類のタンパク質を抗原とした場合の、PDAM1抗体とPDAM2抗体の各タンパク質への反応性をインダイレクトELISA法で確認することとした。
【0078】
(抗原の固相化)
96ウェルマイクロプレートを用い、D-AM、D-CS、D-HZ、D-PS、D-MC、D-WN、D-PE、及びD-PNを抗原として固相化した。ダルベッコPBSで100μg/mLの各抗原溶液を調製し、それぞれ2ウェルずつ100μL/ウェル分注した。37℃にて1.5時間静置して、抗原の固相化反応をさせた後、0.05%Tween20/PBS(PBST)250μLで各ウェルを5回洗浄した。1%BSA/PBSを150μL/ウェル分注し、37℃にて1時間静置して反応させてブロッキング反応を行った後PBST250μLで各ウェルを5回洗浄して、8種類の固相化抗原を2ウェルずつ調製した。
【0079】
(一次抗体反応)
PBSTで1μg/mLのPDAM1抗体溶液を調製し、8種類の固相化抗原が調製されたウェルに100μL/ウェル分注した(8ウェル)。PBSTで1μg/mLのPDAM2抗体溶液を調製し、8種類の固相化抗原が調製されたウェルに100μL/ウェル分注した(8ウェル)。37℃にて1.5時間静置して反応させた後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0080】
(二次抗体反応)
上記PDAM1抗体溶液を分注した8ウェルには、抗ラットIgG抗体(Alkaline Phosphatase-conjugated AffiniPure F(ab’)Fragment Donkey Anti-Rat IgG(H+L)(Jackson Immuno Research、712-056-153))を100μL/ウェル分注し、上記PDAM2抗体溶液を分注した8ウェルには、抗マウスIgG抗体(Alkaline Phosphatase-conjugated AffiniPure Rabbit Anti-Mouse IgG(H+L)(Jackson Immuno Research、315-055-003))を100μL/ウェル分注した。37℃にて1.5時間静置して反応させた後、PBST250μLで各ウェルを5回洗浄した。
【0081】
(発色)
p-ニトロフェニルリン酸二ナトリウム六水和物0.01g、及び、1%2,2’-イミノジエタノール+1%塩化マグネシウム六水和物+0.02%アジ化ナトリウム溶液(pH9.8)(ジエタノールアミンバッファー)10mLを混合して調製された発色剤を、上記16ウェルに100μL/ウェル分注し、遮光下常温にて30分静置して反応させた。5規定水酸化ナトリウムを50μL/ウェル分注することにより反応を停止させ、主波長405nm、副波長620nmにて吸光度を測定した。各抗原における主波長405nmにおける吸光度の測定値から副波長620nmにおける吸光度の測定値を差し引いた値について、図1に示す。
【0082】
(結果)
図1(a)から明らかなとおり、PDAM1抗体は、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生のいずれに対しても反応性を示さず、アーモンドに対して反応性を示した。図1(b)から明らかなとおり、PDAM2抗体も、カシューナッツ、ヘーゼルナッツ、ピスタチオ、マカダミアナッツ、クルミ、ペカンナッツ、及び落花生のいずれに対して反応性を示さず、アーモンドに対してのみ反応性を示した。
【0083】
[食品中のアーモンドタンパク質の検出]
アーモンドを含むことが明らかな市販のチョコレート菓子3種類(製品A、製品B、及び製品C)を用いて、本発明のイムノクロマト法によるアレルゲン検出を行った。各サンプル1.0gを量り取り、抽出液を19mL加え、未加熱のまま、又は沸騰水中に10分間加熱処理を行って抽出処理を行い、冷却後に遠心し、各遠心上清を回収して、上記3種類の各食品抽出溶液を調製したが、各食品抽出溶液を調製する際の上記抽出処理として、上記製品A、製品B、及び製品Cそれぞれについて、以下の4種類の手順で行い、イムノクロマト法における効率的な抽出について検討を行った。
【0084】
1)ダルベッコPBSを抽出液として未加熱抽出を行う
2)ダルベッコPBSを抽出液として沸騰水中で10分間加熱する加熱抽出を行う(PBS加熱抽出)
3)上記IC抽出液を抽出液として未加熱抽出を行う((IC)未加熱抽出)
4)上記IC抽出液を抽出液として沸騰水中で10分間加熱する加熱抽出を行う((IC)加熱抽出)
上記4種類の各抽出処理が行われた製品A及び製品Bの各食品抽出溶液(12種類)について、上記抽出時に用いた抽出液にて、×100、×1000、×10000、×20000に希釈して、各濃度のサンプルとして、上記イムノクロマトストリップに供した。判定ラインの着色の濃さ(mABS)をイムノクロマトリーダC10066-10(浜松ホトニクス株式会社製)によって測定し、結果を図2図4に示す。
【0085】
(結果)
図2図4から明らかなとおり、製品A、製品B及び製品Cいずれにおいても、上記IC抽出液を抽出液として用いて加熱抽出を行った場合は、PBSを用いた加熱抽出よりも高い感度で測定が可能であることが確認された。また、IC抽出液を抽出液として用いて未加熱で抽出を行った場合でも、製品Aを除いては、PBSを用いた加熱抽出よりも高い感度で測定が可能であることが確認された。なお、上記1)のダルベッコPBSを抽出液として未加熱抽出を行った場合は、いずれの場合も判定ラインの着色が認められず陰性であったため、図2図4の各グラフの記載から除外した。
【0086】
以上の結果から、正確な濃度がわからず、また、加工の程度が異なる市販製品についても、前記IC抽出液を使用した場合には、加熱抽出、未加熱抽出いずれにおいても少なくとも製品の80000倍希釈(20×4000)程度の溶液をサンプルとすればアーモンドアレルゲンを定性的に十分に検出できることが確認された。
【0087】
(ポリフェノール含有飲料における検出)
コーヒーやお茶に含まれるポリフェノールは、タンパク質を吸着する性質があり、免疫学的測定を阻害することが知られている。そこで、ポリフェノール含量が多いと思われる、ブラックコーヒー、ほうじ茶、ルイボスティー、及び、抹茶入り緑茶の4種類のアーモンドを含まない市販の飲料に、アーモンドミルクを添加した各試料について、アーモンドアレルゲンの検出を試みた。
【0088】
上記4種類の市販の飲料を1.0g量り取り、上記IC抽出液を19mL加えた後、アーモンドミルクをタンパク質量として10ppmとなるように添加して測定サンプルを調製した後、各飲料について、抽出液として、PBSとIC抽出液の2種類のいずれかを使用して、沸騰水中で10分間加熱処理を行い、加熱抽出を行った。加熱抽出後、サンプルの上清を回収して、8種類の加熱抽出サンプルとした。
【0089】
上記8種類の加熱抽出サンプルをイムノクロマトで測定した。判定ラインの着色の濃さ(mABS)をイムノクロマトリーダC10066-10(浜松ホトニクス株式会社製)によって測定した。結果を図5に示す。
【0090】
(結果)
図5から明らかなとおり、いずれの飲料においても、PBSを抽出液として加熱処理したサンプルからは、アレルゲンを検出することはほとんどできなかった。一方、IC抽出液を用いて加熱処理したサンプルからは、アーモンドタンパク質が検出することができることが確認された。したがって、IC抽出液を用いて加熱抽出した場合には、免疫学的測定を阻害するポリフェノールを含む食品においても、アーモンドアレルゲンの有無について、濃度が10ppm以上あれば、定性的な検査が可能であることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0091】
試料中のアーモンドアレルゲンを迅速かつ精度よく検出することのできる、本発明のアーモンドアレルゲンの検出方法や、それに用いることができる本発明のアレルゲンの検出キットは、食品産業において特に有用である。
図1
図2
図3
図4
図5