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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154931
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】画像形成方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20241024BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20241024BHJP
   B41J 2/18 20060101ALI20241024BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B41M5/00 100
B41M5/00 120
C09D11/322
B41J2/18
B41J2/01 501
B41J2/01 401
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069166
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 史明
(72)【発明者】
【氏名】福田 和浩
(72)【発明者】
【氏名】戸枝 孝由
(72)【発明者】
【氏名】川邉 里美
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056EA26
2C056EB16
2C056EB48
2C056EC14
2C056EC17
2C056EC29
2C056EC40
2C056EC46
2C056FC01
2C056HA46
2C056KB16
2C056KB26
2H186AB12
2H186BA08
2H186DA10
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB22
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
4J039BE01
4J039BE22
4J039CA06
4J039EA42
4J039EA46
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】良好な吐出安定性を有しつつ、フィルターでの目詰まりを抑制でき、高濃度且つ高品質の良好な画像形成が可能な画像形成方法を提供する。
【解決手段】画像形成方法は、水系インクをインクジェットヘッドのノズルから吐出させて、記録媒体に付着させる工程と、前記ノズルから吐出されなかった前記水系インクを前記インクジェットヘッドから排出し、前記インクジェットヘッドに再供給して循環させる工程と、を有する。前記水系インクは、顔料と、顔料分散剤と、水系溶媒とを含み、前記ブロック共重合体は、親水性ブロックAと、疎水性ブロックBとを含む、ブロック共重合体である。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系インクをインクジェットヘッドのノズルから吐出させて、記録媒体に付着させる工程と、
前記ノズルから吐出されなかった前記水系インクを前記インクジェットヘッドから排出し、前記インクジェットヘッドに再供給して循環させる工程と、
を有する画像形成方法であって、
前記水系インクは、顔料と、顔料分散剤と、水系溶媒とを含み、
前記顔料分散剤は、親水性ブロックAと、疎水性ブロックBとを含むブロック共重合体を含む、
画像形成方法。
【請求項2】
前記ブロック共重合体は、分子両末端に配置された2つの親水性ブロックAと、前記2つの親水性ブロックの間に配置された疎水性ブロックBとを含む、
請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記親水性ブロックAは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ケトン基及びスルホン酸基からなる群より選ばれる親水性官能基を含有する親水性モノマーに由来する構成単位を含み、
前記親水性ブロックAにおける前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記疎水性ブロックBよりも多い、
請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項4】
前記疎水性ブロックBは、芳香環基若しくは脂環式炭化水素基を含有するビニル系モノマーからなる群より選ばれる疎水性モノマーに由来する構成単位を含み、
前記疎水性ブロックBの前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記親水性ブロックAよりも少ない、
請求項3に記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記親水性ブロックAにおける前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記親水性ブロックAに対して10質量%以上であり、
前記疎水性ブロックBにおける前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記疎水性ブロックBに対して10質量%未満である、
請求項3又は4に記載の画像形成方法。
【請求項6】
前記水系インクは、(メタ)アクリル樹脂又はウレタン樹脂をさらに含む、
請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項7】
前記水系インクを、フィルターに通過させる工程をさらに含む、
請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項8】
前記フィルターのメッシュ数は、80×700以上である、
請求項7に記載の画像形成方法。
【請求項9】
前記水系インクの流量は、5mL/分以上120mL/分以下である、
請求項1に記載の画像形成方法。
【請求項10】
前記水系インクにおける前記顔料の含有量は、5質量%以上15質量%以下である、
請求項1に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
版を用いないデジタル印刷を可能とするインクジェット法は、簡易且つ安価に画像を形成できることから、各種印刷分野で用いられている。
【0003】
インクジェット法に用いられるインクには、種々のものがあるが、このうち、臭気が少なく安全性が高い等の観点から、水系インクが用いられている。例えば、特許文献1には、顔料と、樹脂粒子と、所定のワックスとを含む水系インクが開示されている。樹脂粒子は、画像の定着性を高めるために添加される。
【0004】
一方で、顔料を含む水系インクは、インクジェットヘッドのノズルで目詰まりしやすく、吐出安定性が低下しやすい。そこで、吐出安定性を高めるために、水系インクを、インクジェットヘッド内で循環させながら吐出する方法が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献2には、水系インクを、循環流路を有するインクジェットヘッドで循環させながら吐出させて、画像形成を行う方法が開示されている。この文献では、水系インクとして、顔料と、低酸価の樹脂粒子と、アミノアルコール類とを含む水系インクが使用されている。顔料は、スチレン・アクリルランダム共重合体等の高分子分散剤で分散されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-218543号公報
【特許文献2】特開2021-91822号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献2に示すように、インクをインクジェットヘッド内で循環させることで、ノズルでの目詰まりを低減でき、吐出安定性を高めることができる。しかしながら、インクを循環させることで、循環流路に配置されたフィルターでの目詰まりを生じやすい場合があることが明らかとなった。フィルターでの目詰まりが生じると、流路内の圧力が上昇し、循環不良を生じやすい。それにより、インク中の固形分濃度等が変動しやすく、色ムラや定着性の低下等の画像品質の低下を生じやすい。
【0008】
高濃度且つ高品質の画像形成の要求に伴い、顔料濃度の高い水系インクの使用が求められている。顔料濃度の高い水系インクにおいては、特に上記のようなフィルターでの目詰まりや、それによる画像品質の低下が生じやすく、これらを抑制できることが一層求められている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、良好な吐出安定性を有しつつ、フィルターでの目詰まりを抑制でき、高濃度且つ高品質の良好な画像形成が可能な画像形成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、以下の構成によって解決することができる。
【0011】
[1] 水系インクをインクジェットヘッドのノズルから吐出させて、記録媒体に付着させる工程と、前記ノズルから吐出されなかった前記水系インクを前記インクジェットヘッドから排出し、前記インクジェットヘッドに再供給して循環させる工程と、を有する画像形成方法であって、前記水系インクは、顔料と、顔料分散剤と、水系溶媒とを含み、前記顔料分散剤は、親水性ブロックAと、疎水性ブロックBとを含むブロック共重合体を含む、画像形成方法。
[2] 前記ブロック共重合体は、分子両末端に配置された2つの親水性ブロックAと、前記2つの親水性ブロックの間に配置された疎水性ブロックBとを含む、[1]に記載の画像形成方法。
[3] 前記親水性ブロックAは、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ケトン基及びスルホン酸基からなる群より選ばれる親水性官能基を含有する親水性モノマーに由来する構成単位を含み、前記親水性ブロックAにおける前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記疎水性ブロックBよりも多い、[1]又は[2]に記載の画像形成方法。
[4] 前記疎水性ブロックBは、芳香環基若しくは脂環式炭化水素基を含有するビニル系モノマーからなる群より選ばれる疎水性モノマーに由来する構成単位位を含み、前記疎水性ブロックBの前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記親水性ブロックAよりも少ない、[3]に記載の画像形成方法。
[5] 前記親水性ブロックAにおける前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記親水性ブロックAに対して10質量%以上であり、前記疎水性ブロックBにおける前記親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、前記疎水性ブロックBに対して10質量%未満である、[1]~[4]のいずれかに記載の画像形成方法。
[6] 前記水系インクは、(メタ)アクリル樹脂又はウレタン樹脂をさらに含む、[1]~[5]のいずれかに記載の画像形成方法。
[7] 前記水系インクを、フィルターに通過させる工程をさらに含む、[1]~[6]のいずれかに記載の画像形成方法。
[8] 前記フィルターのメッシュ数は、80×700以上である、[7]に記載の画像形成方法。
[9] 前記水系インクの流量は、5mL/分以上120mL/分以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の画像形成方法。
[10] 前記水系インクにおける前記顔料の含有量は、5質量%以上15質量%以下である、[1]~[9]のいずれかに記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な吐出安定性を有しつつ、フィルターでの目詰まりを抑制でき、高濃度且つ高品質の良好な画像形成が可能な画像形成方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明の一実施の形態に係る画像形成方法を実施するのに用いることができる画像形成装置の構成を示した模式図である。
図2図2は、本発明の一実施の形態に係る画像形成装置に用いられるインクジェットヘッドの概要を示す分解斜視図である。
図3図3は、図2におけるA-A線に沿った、共通インク室の断面図である。
図4図4は、本発明の一実施の形態に係る画像形成方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
上述の通り、顔料を含む水系インクのノズルでの目詰まりは、水系インクを循環させることによって抑制することができる。その一方で、水系インクを循環させることにより、インクが流通する流路に配置されたフィルターでの目詰まりが生じやすい場合があった。
【0015】
フィルターでの目詰まりが生じると、流路内の圧力上昇が生じやすく、インク液滴中の固形分濃度が低下する等、インクの組成も変動しやすい。その結果、記録媒体上に付着したインク膜の状態も不均一となり、色むらや定着性の低下等の画像品質の低下を生じやすい。フィルターでの目詰まりは、水系インクの固形分濃度が高い場合や水系インクの流量を多くした場合に、特に生じやすい。
【0016】
本発明者らの検討によれば、フィルターの目詰まりは、水系インクがフィルターを通過する時に大きな剪断力を受けて、顔料分散剤が顔料粒子から剥がれる結果、顔料粒子同士が凝集したり、一方の顔料粒子から剥がれかけた顔料分散剤が、他方の顔料粒子の顔料分散剤と相互作用し、橋渡しすることで顔料分散体同士が凝集(橋掛け凝集)したりすることによって生じる。これに対し、本発明者らは、顔料分散剤として、従来のランダム共重合体ではなく、所定のブロック共重合体を用いることで、フィルターの目詰まりを抑制できることを見出した。
【0017】
このメカニズムは、以下のように考えられる。
従来、使用されている顔料分散剤は、親水性部位と、疎水性部位とをランダムに含むランダム共重合体である。ランダム共重合体は、親水性部位と疎水性部位とが混在しているため、疎水性部位の顔料粒子への吸着性が弱い。そのため、ランダム共重合体は、フィルターを通過する時にかかる剪断力によって顔料粒子から剥がれやすい。それにより、顔料粒子同士が凝集したり、顔料分散体同士の間で橋掛け凝集したりしやすく、当該凝集物がフィルターの目に詰まりやすい。
【0018】
これに対し、ブロック共重合体は、親水性部位と疎水性部位とが明確に分離されているため、疎水性部位である疎水性ブロックの顔料粒子への吸着性が高い。そのため、ブロック共重合体は剪断力を受けても、顔料から剥がれにくく、顔料同士の凝集や顔料分散体同士の橋掛け凝集を抑制できる。その結果、凝集物によるフィルターの目詰まりを抑制できる。フィルターの目詰まりを抑制することで、流路の圧力上昇を抑制でき、インクの組成の変動も少なくすることができる。それにより、記録媒体上に付着したインク膜状態も均一化でき、高品質な画像を得ることができる。
【0019】
特に、ブロック共重合体が、2つの親水性ブロックAと、それらの間に配置された1つの疎水性ブロックBとを有するABA型ブロック共重合体であると、1つの親水性ブロックAと1つの疎水性ブロックBとを有するAB型ブロック共重合体よりも1つの親水性ブロックAが短くすることができる。そのため、顔料分散体のブロック共重合体同士が絡み合うことによる橋掛け凝集をより生じにくくすることができるため、剪断力を受けてもより凝集しにくく、フィルターでの目詰まりを一層抑制することができる。
【0020】
即ち、本発明の一実施形態に係る画像形成方法は、水系インクを循環させながら画像形成を行う方法であって、水系インクが、顔料分散剤として所定のブロック共重合体を含む。
【0021】
まず、本実施形態に係る画像形成方法に用いる水系インク及び画像形成装置について説明した後、画像形成方法について説明する。
【0022】
1.水系インク
本実施の形態に係るインクは、顔料と、ブロック共重合体と、水系溶媒とを含む。
【0023】
1-1.顔料
インクに含まれる顔料は、特に限定されないが、例えばカラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料又は無機顔料であることが好ましい。
【0024】
顔料の例には、イエロー顔料、マゼンタ顔料、シアン顔料、ブラック顔料、白色顔料などが含まれる。
【0025】
イエロー顔料の例には、C.I.ピグメントイエロー12、C.I.ピグメントイエロー13、同14、同15、同15:3、同17、同74、同93、同128、同94、同138、および同155(いずれも東京化成工業株式会社製)などが含まれる。
【0026】
マゼンタ顔料の例には、C.I.ピグメントレッド2、C.I.ピグメントレッド3、同5、同6、同7、同15、同16、同48;1、同53;1、同57;1、同122、同123、同139、同144、同149、同150、同166、同177、同178、同184、同222、同238などが含まれる。
【0027】
シアン顔料の例には、C.I.ピグメントブルー15、同15;2、同15;3、同15;4、同16、同60、同62、同66(いずれも東京化成工業株式会社製)などが含まれる。
【0028】
ブラック顔料の例には、カーボンブラック、C.I.Pigment Black7、同26、同28などが含まれる。
【0029】
白色顔料には、無機顔料および有機顔料が含まれる。上記無機顔料の例には、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、チタンホワイト、タルク、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、炭酸マグネシウム、非晶質シリカ、コロイダルシリカ、ホワイトカーボン、カオリン、焼成カオリン、デラミネートカオリン、アルミノ珪酸塩、セリサイト、ベントナイト、スメクサイトなどが含まれる。上記有機顔料の例には、ポリスチレン樹脂粒子、尿素ホリマリン樹脂粒子などが含まれる。
【0030】
白色顔料以外の顔料の含有量は、特に限定されないが、水系インクに対して2質量%以上15質量%以下であることが好ましく、5質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。顔料の上記含有量が2質量%以上であると、インクにより形成される画像の色再現性をより向上させることができ、20質量%以下であると、インク中における顔料の分散安定性がより損なわれにくい。
【0031】
白色顔料の含有量は、水系インクに対して、4質量%以上15質量%以下であることが好ましい。
【0032】
1-2.顔料分散剤
顔料分散剤は、親水性ブロックAと、疎水性ブロックBとを含むブロック共重合体を含む。
【0033】
上記ブロック共重合体の1分子に含まれる親水性ブロックAと疎水性ブロックBの数は、それぞれ1つであってもよいし、2以上あってもよい。即ち、親水性ブロックをA、疎水性ブロックをBとした場合、上記ブロック共重合体の構造の例には、ABA型、ABABA型等が含まれる。中でも、インクの循環による剪断力によって、ブロック共重合体が顔料からより剥がれにくくし、橋掛け凝集をより抑制する観点では、親水性ブロックAと疎水性ブロックBの数は、それぞれ1つであるか、親水性ブロックAが2つ、疎水性ブロックBが1つであることが好ましく、分子両末端に配置された2つの親水性ブロックAと、それらの間に配置された疎水性ブロックBとを含むブロック共重合体がより好ましい。親水性ブロックが2つあることで、1つ当たりの親水性ブロックの大きさを小さくすることができる。そのため、水系溶媒への分散性を維持しつつ、顔料分散体同士の橋掛け凝集をより生じにくくすることができる。
【0034】
上記ブロック共重合体に含まれる複数のブロックAのモノマーの種類や組成比は、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。また、上記ブロック共重合体が複数のブロックAを含む場合、複数のブロックAのモノマーの種類や組成比は、互いに同じであってもよいし、異なってもよい。中でも、2つの親水性ブロックAは、同一のモノマー組成を有することが好ましい。
【0035】
以下、親水性ブロックAと、疎水性ブロックBについて、それぞれ説明する。
【0036】
「親水性ブロックA」は、インクに含まれる水系溶媒との親和性を高めると共に、布帛に付着した凝集剤と相互作用又は反応する部位を含むブロックであり、上記共重合体を構成する各ブロックのうち水との親和性がより大きいブロックをいう。親水性ブロックの数は、1~2であり、好ましくは2つである。
【0037】
親水性ブロックAは、親水性官能基を有するモノマー(以下、「親水性モノマー」という)に由来する構成単位を含む。親水性官能基としては、水酸基、カルボキシル基、アミノ基、ケトン基及びスルホン酸基が挙げられる。
【0038】
親水性ブロックAを構成する親水性モノマーの例には、(メタ)アクリル酸、マレイン酸等の不飽和多価カルボン酸、無水マレイン酸等のカルボキシル基若しくは酸無水物基を含有するモノマー;スチレンスルホン酸、4-(メタクリロイルオキシ)ブチルスルホン酸等のスルホン酸基を含有するモノマー;エチレンオキサイド変性(メタ)アクリル酸アルキルエステル等のエチレンオキサイド変性(メタ)アクリル酸エステルモノマーが含まれる。これらのうち、親水性モノマーは、親水性ブロックAに適度な水溶性を付与する観点から、(メタ)アクリル酸であることが好ましい。
【0039】
親水性ブロックAにおける親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、疎水性ブロックBよりも多い。具体的には、親水性ブロックAにおける親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、親水性ブロックAに対して10質量%以上であることが好ましい。親水性ブロックAにおける親水性モノマーの上記含有割合が10質量%以上であると、水系溶媒への分散性がより高まりやすい。同様の観点から、上記含有割合は、15質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。
【0040】
親水性ブロックAは、親水性モノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位をさらに含んでもよい。他のモノマーの例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸tert-ブチルエステル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル;後述する芳香環基又は脂環式炭化水素基を含むビニル系モノマーが含まれる。
【0041】
具体的には、ABA型ブロック共重合体における疎水性ブロックBの含有量は、ブロック共重合体全体に対して10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、20質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。上記含有量が10質量%以上であると、親水性ブロックAの含有量が少ない(或いは分子量が小さい)ため、橋掛け凝集をより抑制しやすく、80質量%以下であると、親水性ブロックAの含有量が多い(或いは分子量が大きい)ため、水系溶媒への親和性をより高めやすい。
【0042】
また、親水性ブロックAの含有量は、疎水性ブロックBの含有量に対して150質量%以下であることが好ましい。それにより、1つの親水性ブロックAあたりの長さを適度に短くすることができ、橋掛け凝集をより生じにくくすることができる。
【0043】
「疎水性ブロックB」は、顔料に吸着する部位であり、共重合体を構成する各ブロックのうち、インクに含まれる水系溶媒との親和性がより小さいブロックをいう。疎水性ブロックBの数は、特に制限されないが、1つであることが好ましい。
【0044】
疎水性ブロックBにおける親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、親水性ブロックAにおける親水性モノマーに由来する構成単位の含有割合よりも少ない。例えば、ブロック共重合体が、2つの親水性ブロックAと1つの疎水性ブロックBを含む場合、親水性モノマーに由来する構成単位の含有量は、疎水性ブロックBが、2つの親水性ブロックAのどちらよりも少ない。具体的には、疎水性ブロックBにおける親水性モノマーに由来する構成単位の含有量は、疎水性ブロックBに対して10質量%未満、好ましくは5質量%以下とする。
【0045】
疎水性ブロックBは、疎水性官能基を有するモノマー(以下、「疎水性モノマー」という)に由来する構成単位を含むことが好ましい。疎水性官能基を有するモノマーとしては、芳香環基又は脂環式炭化水素基を含むビニル系モノマーが挙げられる。
【0046】
芳香環基を含むビニル系モノマーの例には、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル等の芳香環基を有する(メタ)アクリレート;スチレン、α-メチルスチレン、4-メチルスチレン、2-メチルスチレン、3-メチルスチレン、4-メトキシスチレン、2-ヒドロキシメチルスチレン又は1-ビニルナフタレン等の芳香族ビニル系モノマー等が挙げられ、炭素数6~15の芳香環基を有するビニル系モノマーが好ましい。
【0047】
脂環族アルキル基を有するビニル系モノマーの例には、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロドデシル、(メタ)アクリル酸ボルニル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル又は(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル等の脂環族アルキル基を有する(メタ)アクリレート等が挙げられ、炭素数6~15の脂環族アルキル基を有するビニル系モノマーが好ましい。
【0048】
これらのうち、顔料への吸着性を向上させる観点から、疎水性モノマーは、(メタ)アクリル酸ベンジル等の炭素数6~15の芳香環基を有するビニル系モノマーが好ましい。
【0049】
疎水性ブロックBにおける疎水性モノマーに由来する構成単位の含有割合は、疎水性ブロックBに対して10質量%以上であることが好ましい。上記含有割合が10質量%以上であると、顔料への吸着性がより高まりやすい。同様の観点から、上記含有割合は、15質量%以上100質量%以下であることがより好ましい。
【0050】
疎水性ブロックBは、疎水性モノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位をさらに含んでもよい。他のモノマーの例には、上記(メタ)アクリル酸アルキルエステルや上記親水性モノマーが含まれる。
【0051】
ブロック共重合体の分散性をより高める観点では、分子量分布(PDI)(ブロック共重合体の重量平均分子量(Mw))/(ブロック共重合体の数平均分子量(Mn))は、2.0以下であることが好ましい。重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により求めることができる。
【0052】
ブロック共重合体の重量平均分子量は、7000以上21000以下であることが好ましく、10000以上20000以下であることがより好ましい。上記重量平均分子量が大きいほど、顔料の水系溶媒への分散性をより高めやすく、小さいほど、顔料分散体同士の橋掛け凝集を一層抑制しやすい。ブロック共重合体の重量平均分子量は、上述と同様の方法で測定することができる。
【0053】
上記ブロック共重合体の酸価は、例えば40mgKOH/g以上400mgKOH/g以下であることが好ましく、40mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることがより好ましく、40mgKOH/g以上190mgKOH/g以下であることがさらに好ましい。上記酸価が40mgKOH/g以上であると、顔料分散剤の親水性を高めて、顔料の分散性をより高めることができる。また、上記酸価が400mgKOH/g以下であると、顔料分散剤の親水性が過剰に高まることをより抑制し、得られる画像形成物の耐水性をより高めることができる。酸価は、JIS K0070:1992の測定方法に準じて測定することができる。
【0054】
上記ブロック共重合体の含有量は、顔料に対して5質量%以上90質量%以下であることが好ましく、15質量%以上80質量%以下であることがより好ましい。上記含有量が5質量%以上であると、水系溶媒中での顔料の分散性をより高めることができる。上記含有量が90質量%以下であると、上記ブロック共重合体が過剰に含まれることによる、水系インクの粘度の過度な上昇を一層抑制することができる。
【0055】
上記ブロック共重合体を合成する方法は、特に限定されないが、例えば、リビングラジカル重合法でブロックを構成するビニルモノマーを順次重合反応させることにより得られることができる。
【0056】
1-3.水系溶媒
水系溶媒は、水を含み、水溶性有機溶剤をさらに含むことが好ましい。
【0057】
水の含有量は、水系インクに対して例えば20質量%以上90質量%以下であり、好ましくは30質量%以上80質量%以下である。
【0058】
水溶性有機溶剤は、水と相溶するものであれば特に制限されないが、インクを布帛の内部まで浸透させやすくする観点、インクジェット方式での吐出安定性を損なわれにくくする観点では、インクが乾燥により増粘しにくいことが好ましい。したがって、インクは、沸点が200℃以上の高沸点溶媒を含むことが好ましい。
【0059】
沸点が200℃以上の高沸点溶媒は、沸点が200℃以上である水溶性有機溶剤であればよく、ポリオール類やポリアルキレンオキサイド類であることが好ましい。
【0060】
沸点が200℃以上のポリオール類の例には、1,3-ブタンジオール(沸点208℃)、1,6-ヘキサンジオール(沸点223℃)、ポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類;グリセリン(沸点290℃)、トリメチロールプロパン(沸点295℃)等の3価以上のアルコール類が含まれる。
【0061】
沸点が200℃以上のポリアルキレンオキサイド類の例には、ジエチレングリコールモノエチルエーテル(沸点202℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点245℃)、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点305℃)、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル(沸点256℃);及びポリプロピレングリコール等の2価のアルコール類のエーテルや、グリセリン(沸点290℃)、ヘキサントリオール等の3価以上のアルコール類のエーテルが含まれる。
【0062】
溶媒は、上記高沸点溶媒以外の他の溶媒をさらに含んでもよい。他の溶媒の例には、沸点が200℃未満の多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサントリオール等);沸点が200℃未満の多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル;1価アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、ベンジルアルコール);アミン類(例えば、エタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン);アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド);複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、N-シクロヘキシル-2-ピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジン)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド);及びスルホン類(例えば、スルホラン)が含まれる。
【0063】
水溶性有機溶剤の含有量は、水系インクに対して、例えば1質量%以上70質量%以下、好ましくは1質量%以上60質量%以下である。
【0064】
1-4.他の成分
インクは、必要に応じて上記以外の他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、水分散性樹脂や、中和剤等の添加剤が含まれる。
【0065】
(水分散性樹脂)
水分散性樹脂は、顔料等を布帛に定着させる機能を有しうる。水分散性樹脂は、インク中において樹脂粒子として含まれる。
【0066】
水分散性樹脂の例には、ウレタン系樹脂、ブタジエン系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリスチレンが含まれる。ブタジエン系樹脂の例には、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体が含まれる。これらの中でも、ウレタン樹脂や(メタ)アクリル系樹脂が好ましい。これらの樹脂は、上記ブロック共重合体の疎水性ブロックBとの相溶性が特に良好であり、顔料の記録媒体への定着性をより高めやすい。なお、本願明細書において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの少なくとも一方を意味する。同様に、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及びメタクリロイル基の少なくとも一方を意味する。
【0067】
ウレタン樹脂は、ポリオールと、ポリイソシアネートとを反応させて得られる重合体である。ポリオールの例には、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ(エチレンアジペート)、ポリ(ジエチレンアジペート)、ポリ(プロピレンアジペート)、ポリ(テトラメチレンアジペート)、ポリ(ヘキサメチレンアジペート)、ポリ-ε-カプロラクトン、ポリ(ヘキサメチレンカーボネート)、シリコーンポリオールが含まれる。イソシアネートの例には、トリレンジイソシアネート、4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、水素化トリレンジイソサネート、水素化4,4-ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートが含まれる。
【0068】
(メタ)アクリル系樹脂は、(メタ)アクリロイル基を含む単量体の単独重合体又は共重合体である。(メタ)アクリロイル基を含む単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸等が挙げられ、好ましくは(メタ)アクリル酸を含むことが好ましい。アクリル系樹脂の例には、アクリル酸エステル共重合体、スチレン-アクリル共重合体、シリコーン-アクリル共重合体、アクリル変性フッ素樹脂が含まれる。中でも、スチレン-アクリル共重合体が好ましい。
【0069】
スチレン-アクリル共重合体の例には、スチレン-(メタ)アクリル酸共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸-(メタ)アクリル酸エステル共重合体が含まれる。(メタ)アクリル酸エステルの例には、ベンジル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシルカルビトール(メタ)アクリレート、フェノールEO変性(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0070】
これらの水分散性樹脂は、顔料分散剤として上記ブロック共重合体を用いることで、ランダム共重合体を用いるよりも、良好な相溶性を示す。即ち、ランダム共重合体では、親水性部位と疎水性部位が混在しているため、水分散性樹脂との相溶性が十分ではなく、相分離(微粒子形成)しやすい。これに対し、上記ブロック共重合体では、親水性部位と疎水性部位が明確に分離されているため、水分散性樹脂と疎水性ブロックBとが良好に相溶することができる。
【0071】
水分散性樹脂のTgは、特に制限されないが、流量増加時の摩擦熱に対する耐性の観点から、40℃以上100℃以下であることが好ましく、40℃以上80℃以下であることがより好ましい。
【0072】
水分散性樹脂の酸価は、特に制限されないが、分散安定性を高める観点等から、44mgKOH/g以上であることが好ましく、60mgKOH/g以上であることがより好ましい。酸価の上限値は、例えば110mgKOH/gとしうる。酸価は、上記と同様の方法で測定することができる。
【0073】
水分散性樹脂の平均粒子径は、特に制限されないが、インクジェットヘッドのノズル詰まりを生じにくくする観点では、300nm以下であることが好ましく、130nm以下であることがより好ましい。水分散性樹脂の平均粒子径は、レーザ回折散乱式粒子径分布測定で測定することができる。
【0074】
水分散性樹脂の含有量は、インクに対して1質量%以上40質量%以下であることが好ましい。水分散性樹脂の含有量が1質量%以上であると、画像の定着性をより高めることができる。水分散性樹脂の含有量が30質量%以下であると、インクの粘度が高くなりすぎないため、ノズルやフィルターでの目詰まりをより生じにくくすることができる。水分散性樹脂の含有量は、同様の観点から、インクに対して2質量%以上30質量%以下であることがより好ましく、2質量%以上20質量%以下であることがさらに好ましい。
【0075】
(添加剤)
添加剤の例には、中和剤、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、pH調整剤等が含まれる。
【0076】
本実施形態において、上記ブロック共重合体がカルボキシル基、スルホン酸基等のアニオン性基を有するとき、インクは、中和剤をさらに含有してもよい。中和剤は、公知の塩基性化合物を用いることができ、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン等を用いることができる。顔料分散体が、中和剤を含むことで、上記アニオン性基が顔料分散体中で解離することを適度に助長して、より分散性を高めることができる。
【0077】
中和剤の含有量は、特に限定されないが、中和率が30%以上100%以下になるよう
な量を含むことが好ましい。上記中和率は、以下の式(1)で求めることができる。
【0078】
中和率(%)=(塩基性化合物の質量[g]/(塩基性化合物の当量[g/mol]×
塩基性化合物の価数))÷((顔料分散剤の酸価[mgKOH/g]×顔料分散剤の質量
[g])/(56[g/mol]×1000)) (1)
【0079】
界面活性剤は、インクの表面張力を低下させて、布帛に対する濡れ性を高めうる。界面活性剤の種類は、特に制限されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等でありうる。
【0080】
防腐剤又は防黴剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL)等が含まれる。
【0081】
pH調整剤の例には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウム等が含まれる。
【0082】
次に、本実施形態に係る画像形成方法に用いられる画像形成装置について説明する。
【0083】
2.画像形成装置
図1は、本実施形態に係る画像形成方法に用いられる画像形成装置100の構成を示した模式図である。
【0084】
画像形成装置100は、インクジェットヘッド101と、インク供給流路102と、インク排出流路109と、第1タンク110と、第2タンク111とを有する。また、画像形成装置100は、送液ポンプ103と、圧力センサ104と、フィルター105と、供給ダンパ106と、流量計107と、排出ダンパ108とをさらに有する。
【0085】
画像形成装置100では、第1タンク110に収容されたインクを、送液ポンプ103により、インク供給流路102を介してインクジェットヘッド101に供給する。そして、インクジェットヘッド101から吐出されなかったインクを、送液ポンプ103により、インク排出流路109に排出し、排出されたインクを、第1タンク110に戻す。これにより、インクジェットヘッド101から吐出されなかったインクを、インク排出流路109から、インク供給流路102に向かって循環させ、インクジェットヘッド101に再供給することができる。
【0086】
このように、画像形成装置100内でインクを循環させることで、インク中の顔料粒子等が沈降又は凝集することによる、ノズル付近のインク粘度の上昇を抑制して、吐出安定性を高めやすくすることができる。
【0087】
上記の通り、画像形成装置100では、循環させるインク中の異物等を除去するために、インクが流通する流路にフィルターが配置される。即ち、画像形成装置100は、インク供給流路102中に設置されたフィルター105と、インクジェットヘッド101内に設置されたフィルター2c、2d(後述する図3参照)とを有する。画像形成装置100は、本実施の形態のように、インクが流通する流路(インクジェットヘッド101内部の流路を含む)内に複数のフィルターを有してもよいし、インク供給流路102及びインクジェットヘッド101のいずれか一方のみにフィルターを有してもよい。
【0088】
フィルター105、フィルター2c、及び2dの材料は、特に限定されないが、例えば、ステンレス、銅、ニッケル等の金属、ポリエチレン、テフロン(「テフロン」は、デュポン社の登録商標)、ポリフッ化ビニリデン等の非金属である。これらのうち、インク溶媒への親和性や溶解性、耐久性の観点から、ステンレス、銅、ニッケル等金属製であることが好ましい。
【0089】
フィルター105、フィルター2c、及び2dのメッシュ数は、縦×横が80×700以上であることが好ましく、150×1200以上であることが好ましい。上記メッシュ数が80×700以上であることで、インクに含まれるサイズが大きい樹脂粒子などが通過しにくくなるため、ノズル詰まりによる吐出安定性の低下をより抑制することができる。一方で、上記メッシュ数が80×700以上であることで、フィルターを通過する際に剪断熱が生じやすくなるため、インク中の水不溶性樹脂(後述)が軟化しやすくなり、上述した、流路内の圧力上昇及び定着性の低下の問題が生じやすくなる。また、フィルター2c及び2dが、インクに含まれる顔料や樹脂などを過剰に捕集することを抑制する観点からは、上記メッシュ数は、510×3600以下であることが好ましい。なお、本明細書において、「メッシュ数」とは、1インチ間に存在するフィルターの線数のことをいう。
【0090】
なお、フィルター105、フィルター2c及び2dは、それぞれ同一のフィルターでもよいし、異なるフィルターでもよい。また、フィルター105は、インク排出流路109中に設置されていてもよい。
【0091】
以下、画像形成装置100の具体的な構成について、さらに説明する。
【0092】
インクジェットヘッド101は、インク液滴を記録媒体Mに射出するための複数のノズルを有する。
【0093】
インクジェット法で使用するインクジェットヘッドの例には、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型及びシェアードウォール型を含む電気-機械変換方式、並びにサーマルインクジェット型及びバブルジェット(「バブルジェット」はキヤノン株式会社の登録商標)型を含む電気-熱変換方式等が含まれる。
【0094】
インクジェットヘッドは、スキャン式及びライン式のいずれのインクジェットヘッドでもよいが、ライン式であることが好ましい。
【0095】
図2は、インクジェットヘッド101の概要を示す分解斜視図である。図3は、図2におけるA-A線に沿った、共通インク室2の断面図である。
【0096】
図2に示すように、インクジェットヘッド101は、共通インク室2と、保持部3と、ヘッドチップ4と、フレキシブル配線基板5と、を有する。
【0097】
共通インク室2は、中空の略直方体状に形成されており、保持部3と対向する一面が開口している(図3参照)。共通インク室2の上記開口と対向する一面には、インクを供給するためのインク供給口2aと、インクジェットヘッドから吐出されなかったインクを外部に排出するためのインク排出口2bが設けられている。
【0098】
共通インク室2は、内部にフィルター2c、及び2dを有する。
フィルター2cは、インクジェットヘッド101から吐出されずに、インクジェットヘッド101から排出されるインクを通すフィルターである。フィルター2cは、インク供給口2aから供給され、インクジェットヘッド101から吐出されずに、インク排出口2bに向かうインクから異物を除去する。
フィルター2dは、インクジェットヘッド101から吐出されるインクが通るフィルターである。フィルター2dは、インク供給口2aから供給され、インクジェットヘッド101の吐出口(後述するノズル孔11)に向かうインクから異物を除去する。
【0099】
保持部3は、略中央に開口部3aを有する略平板状に形成されており、共通インク室2の上記開口を覆うように配置されている。これにより、保持部3の一方の面には、開口部3aを覆うようにして共通インク室2が接続される。また、保持部3の他方の面には、開口部3aを覆うようにしてヘッドチップ4が接続される。保持部3は、開口部3aを介して、共通インク室2とヘッドチップ4とを連通させる。
【0100】
保持部3の外周部には、挿通孔3bが設けられている。挿通孔3bには、フレキシブル配線基板5が挿通される。フレキシブル配線基板5は、その一方の端部が、後述するヘッドチップ4の配線基板50に接続される。また、フレキシブル配線基板5は、その他方の端部が、保持部3に設けた挿通孔3bを保持部3の他方の面から挿通して、共通インク室2側に引き出される。
【0101】
インク供給流路102は、送液ポンプ103から、インクジェットヘッド101へ、インクを供給させる流路である。
【0102】
インク排出流路109は、インクジェットヘッド101のインク排出口2bから、インクジェットヘッド101から吐出されなかったインクを排出させる流路である。
【0103】
送液ポンプ103は、インク供給流路102、インク排出流路109及びインク補給流路112に、それぞれ配置されている。送液ポンプ103は、上述のように、第1タンク110内のインクをインクジェットヘッド101に送液し、インクジェットヘッド101から排出されたインクを第1タンク110内に送液する。また、インク補給流路112に配置された送液ポンプ103は、第2タンク111内のインクを第1タンク110へ送液する。
【0104】
圧力センサ104は、流路内の圧力値を測定する装置である。本実施の形態では、圧力センサ104は、インク供給流路102中に複数設置されている。そして、各圧力センサ104の数値を読み取り、圧力値の差から、各圧力センサ104の間の流路で圧力上昇が生じているか否かを判断することができる。
【0105】
供給ダンパ106は、インク供給流路102中に配置され、インクジェットヘッド101に送液されるインクを貯留することができる。供給ダンパ106により、インク供給流路102内における脈動の発生を抑制することができる。
【0106】
排出ダンパ108は、インク排出流路109中に配置され、インクジェットヘッド101から排出されるインクを貯留することができる。排出ダンパ108により、インク排出流路109における脈動の発生を抑制することができる。
【0107】
供給ダンパ106、及び排出ダンパ108には、それぞれ圧力センサ104が備え付けられており、供給ダンパ106、及び排出ダンパ108内の圧力変動を圧力センサ104により測定することができる。
【0108】
流量計107は、インク排出流路109中に設置され、流路内を流れるインク流量を測定する。流量計107は、インク供給流路102に設置されていてもよい。
【0109】
第1タンク110は、インクジェットヘッド101に供給するためのインク、及びインクジェットヘッド101から吐出されずに排出されたインクを収容するためのタンクである。また、第2タンク111は、第1タンク110に収容されたインクの量が少なくなったときに、第1タンク110に供給するためのインクを収容するタンクである。本実施の形態では、送液ポンプ103により、第2タンク111から第1タンク110に、インク補給流路112を介してインクを供給する。
【0110】
第1タンク110、及び第2タンク111は、不図示の撹拌装置を有していてもよい。第1タンク110、及び第2タンク111は、画像形成装置100の画像形成性能や大きさ等に応じて適宜に決めることが可能である。
【0111】
搬送装置113は、記録媒体Mを搬送するための装置であり、ベルトコンベア113aと、回転自在な送りローラー113bとを備える。
【0112】
なお、本実施の形態において、画像形成装置100は、乾燥機114を有していてもよい。乾燥機114は、記録媒体Mに付与されたインクを乾燥させる装置である。乾燥機114は、公知のヒーター及び赤外線ランプを照射する照射器等を、用いることができる。
【0113】
また、画像形成装置100は、脱気モジュール115をさらに有していてもよい。本実施の形態において、脱気モジュール115は、インク供給流路102中に配置されている。脱気モジュール115により、インク供給流路102を流れるインク中に含まれる気泡を脱気して取り除くことができる。
【0114】
次に、本実施形態に係る画像形成方法について説明する。
【0115】
3.画像形成方法
本実施形態に係る画像形成方法は、上述の水系インクをインクジェットヘッドのノズルから吐出させて、記録媒体に付着させる工程(後述する工程S30)と、ノズルから吐出されなかった水系インクをインクジェットヘッドから排出し、インクジェットヘッドに再供給する工程(後述する工程S50、S60)とを有する。本実施形態では、上述の画像形成装置100を用いて、画像形成を行うことができる。
【0116】
図4は、本実施形態に係る画像形成方法のフローチャートである。
【0117】
図4に示されるように、画像形成装置100を用いた画像形成方法は、例えば、1)水系インクをフィルターに通過させる工程(工程S10)、2)インクジェットヘッドに水系インクを供給する工程(工程S20)、3)インクを吐出する工程(工程S30)、4)乾燥させる工程(工程S40、5)水系インクをインクジェットヘッドから排出する工程(工程S50)、6)インクをインクジェットヘッドに再供給する工程(工程S60)を有しうる。
【0118】
1)水系インクをフィルターに通過させる工程(工程S10)
本工程では、インク供給流路102に設置されたフィルター105に水系インクを通過させる。それにより、水系インクから異物を除去して、インクジェットヘッド101に供給することができる。
【0119】
2)インクジェットヘッドに水系インクを供給する工程(工程S20)
本工程では、上述のフィルター105を通過させた水系インクを、インクジェットヘッド101に供給する。
【0120】
本実施の形態では、第1タンク110に収容された水系インクを、送液ポンプ103により、インク供給流路102を介してインクジェットヘッド101に供給する。そして、送液ポンプ103により、インクジェットヘッド101に供給するインクの流量を調整することができる。
【0121】
インクジェットヘッド101に供給する水系インクの流量は、特に制限されないが、5mL/分以上120mL/分以上であることが好ましく、10mL/分以上100mL/分以下であることがより好ましく、20mL以上80mL/分以下であることがさらに好ましく、30mL/分以上80mL/分以下であることが特に好ましい。上記流量が5mL/分以上であると、インクジェットヘッド101に供給するインクの流量がより多くなるため、ノズルの乾燥をより抑制することができる。一方で、フィルター105等での剪断力がより大きくなるため、流路内の圧力上昇やインクの固形分濃度等の変動がより生じやすくなる。本実施の形態では、上記水系インクを用いることで、これらの問題を解消することができる。上記流量が120mL/分以下であると、流路内で過剰な剪断熱が生じることによる、水系インクに含まれる水分散性樹脂等の軟化をより抑制し、流路壁面に固着することをより抑制することができる。
【0122】
本実施の形態において、インクジェットヘッド101に供給する流量は、インク供給流路102を、インクジェットヘッド101から取り外し、取り外したインク供給流路102から排出される、単位時間あたりのインクの重量を測定し、測定した値をインクの比重で除して求めることができる。上記インクの比重は、例えば、比重計(DMA 35 Basic、Anton Paar社製)を用いて測定することができる。
【0123】
3)水系インクを吐出する工程(工程S30)
本工程では、インクジェットヘッド101のノズルから水系インクを吐出する。
【0124】
インクジェットヘッド101からの、水系インクの吐出量は、インクジェットヘッド101の種類によって適宜設定されるが、例えば、1.5~9pLである。
【0125】
本工程では、インクジェットヘッド101のノズルから水系インクを吐出して、記録媒体に付与させてもよいし、中間転写体に付与させてもよい。
【0126】
記録媒体の種類は、特に限定されず、例えば吸水性の高い紙基材でもよいし、フィルム、プラスチックボード(軟質塩化ビニル、硬質塩化ビニル、アクリル板、ポリオレフィン系等)等の非吸水性の基材であってもよい。また、記録媒体は、布帛であってもよい。布帛に含まれる繊維の種類は、特に制限されず、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維であってもよいし、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステル又はアセテート等の化学繊維であってもよい。
【0127】
4)水系インクを乾燥させる工程(工程S40)
本工程では、記録媒体に付与された水系インクを乾燥させる。
【0128】
水系インクを乾燥させる方法は、特に限定されず、例えば、公知のヒーターや赤外線ランプ等を用いて行うことができる。
【0129】
インクを乾燥させる温度は、定着性をより向上させる観点から、60℃以上であることが好ましく、省エネルギーで定着させる観点から、180℃以下であることが好ましい。
【0130】
5)水系インクを排出する工程(工程S50)
本工程では、工程S20で、インクジェットヘッド101から吐出されなかったインクを、インクジェットヘッド101から排出する。
【0131】
本実施の形態では、インクジェットヘッド101から吐出されなかったインクを、送液ポンプ103により、インク排出流路109へ排出することができる。排出されたインクは、インク排出流路109を介して、第1タンク110に戻される。
【0132】
6)排出した水系インクを再供給する工程(工程S60)
本工程では、工程S50でインクジェットヘッド101から排出された水系インクを、再度インクジェットヘッド101に供給する。
【0133】
本実施の形態では、工程S50で、インクジェットヘッド101から排出され、第1タンク110に戻された水系インクを、送液ポンプ103によって、インク供給流路102を介して、インクジェットヘッド101に再供給することができる。
【0134】
また、インク排出流路109と、インク供給流路102とを接続するにバイパス流路を設けて、上記排出された水系インクを、上記バイパス流路、及びインク供給流路102を介して、インクジェットヘッド101に再供給してもよい。
【0135】
上記本実施形態に係る画像形成方法では、ノズルから吐出されなかった水系インクをインクジェットヘッドから排出し、インクジェットヘッドに再供給して循環させることで(工程S50、S60)、水系インクのノズルでの目詰まりを抑制することができる。
【0136】
また、上述の水系インクは、顔料分散剤として、所定のブロック共重合体を含む。そのため、工程S10において、水系インクがフィルターを通過する際に、大きな剪断力を受けても、顔料分散剤が顔料粒子から剥がれるのを抑制でき、フィルターでの目詰まりを抑制することができる。それにより、流路の圧力上昇を抑制でき、インクの組成の変動も低減できるため、高品質な画像を得ることができる。
【0137】
なお、本実施の形態では、工程S10は、工程S20の前に行われるが、これに限定されない。例えば、工程S10は、工程S20と工程S30との間に行われてもよい。この場合、インクジェットヘッド101内に設置されたフィルターに水系インクを通過させる。また、工程S10は、水系インクをインクジェットヘッドから排出する工程(工程S50)の後に行われてもよい。この場合は、水系インクを、インク排出流路109に設置されたフィルターに通過させる。
【0138】
また、工程S40及び工程S50は、工程S10の後に行われればよく、工程S20及び工程S30と並行して行ってもよい。
【0139】
また、上記実施形態では、上記ブロック共重合体を顔料分散剤として用いる例を示したが、これに限らず、水分散性樹脂(定着樹脂)として用いてもよい。
【実施例0140】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0141】
1.顔料分散剤の調製
<ブロック共重合体P-1(ABA型)の調製>
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル207部、メタクリル酸ベンジル(BzMA)17.6質量部、メタクリル酸2-エチルヘキシル(2EHMA)29.7質量部、メタクリル酸(MAA)1.0質量部、ヨウ素2.0部、AMDV4.0部、及びジフェニルメタン(DPM)0.08部を入れた。40℃で5時間重合してポリマー鎖Bを得た。
【0142】
メタクリル酸シクロヘキシル(CHMA)25.2質量部、メタクリル酸メチル(MMA)10.0質量部及びMAA8.6質量部を添加した。3時間重合してポリマー鎖A1を形成し、ポリマー鎖A1とポリマー鎖BからなるAB型ブロック共重合体を得た。
【0143】
BzMA4.3質量部及びMAA8.6質量部を添加し、2時間重合してポリマー鎖A2を形成し、ポリマー鎖A1、ポリマー鎖B、及びポリマー鎖A2からなるABA型ブロック共重合体を得た。
【0144】
室温まで冷却した後、水酸化ナトリウム8.0部とイオン交換水199部の均一化された水溶液を添加して中和した。イオン交換水を添加して固形分を調整し、固形分30%のABA型ブロック共重合体の水溶液を得た。得られたブロック共重合体の重量平均分子量は12000、PDIは1.36、酸価は113.1mgKOH/gであった。
【0145】
<ブロック共重合体P-2(AB型)の調製>
窒素置換したグローブボックス内で、撹拌機を備えたフラスコにBzMA90g(511mmol)、重合開始剤としてエチル-2-メチル-2-n-ブチルテラニル-プロピオネート(BTEE)2.00g(6.67mmol)、ジブチルジテルリド(DBDT)1.22g(3.33mmol)、2,2’-アゾビス-イソブチロニトリル(大塚化学社製AIBN)0.33g(2.00mmol)、及びメトキシプロパノール90gを仕込み、60℃で16時間反応させた。
【0146】
得られた溶液に、メタクリル酸ブチル(n-BMA)45g(317mmol)、MAA25g(290mmol)、AIBN0.22g(1.33mmol)、及びメトキシプロパノール70gを加え、60℃で22時間反応させて、ポリマー鎖Aを形成した。
【0147】
反応終了後、反応溶液をヘプタン5L中に注ぎ、沈殿物を吸引濾過、乾燥することにより、白色粉末状のブロック共重合体を得た。得られたブロック共重合体の重量平均分子量は11000、PDIは1.49、酸価は104mgKOH/gであった。
【0148】
<ランダム共重合体P-3の調製>
反応容器に滴下装置、温度計、水冷式還流コンデンサー、攪拌機を備え、イオン交換水100質量部を入れ、攪拌しながら窒素雰囲気70℃で、重合開始剤の過硫酸アンモニウムを0.4質量部添加しておき、スチレン70質量部、メチルアクリレート19質量部、メチルメタクリレート31質量部、n-ブチルアクリレート20質量部を入れたモノマー溶液を、反応容器に滴下して反応させてポリマーを重合し作製した。その後、0.3μmのフィルターで濾過することによりエマルジョン状態の樹脂粒子を得た。
【0149】
ブロック共重合体P-1~P-3の組成を、表1に示す。なお、表1中の括弧内の数値は、ブロックを構成するモノマーの質量比を示す。
【表1】
MAA:メタクリル酸
MMA:メタクリル酸メチル
BzMA:メタクリル酸ベンジル
CHMA:メタクリル酸シクロヘキシル
n-BMA:メタクリル酸ブチル
【0150】
2.インクの調製
2-1.顔料分散体A-1~A-3の調製
18.0質量部のシアン顔料(ピグメントブルー15:3、東京化成工業株式会社製)に、13.5質量部の表2の顔料分散剤(共重合体)と、20質量部のプロピレングリコールと、48.5質量部のイオン交換水とを加え、混合した。その後、平均粒子径が0.5mmであるジルコニアビーズを50体積%充填したサンドグラインダーを用いて分散し、上記顔料の含有量が18.0質量%の顔料分散体A-1~A-3を調製した。
【0151】
顔料分散体A-1~A-3に使用した顔料分散剤を表2に示す。
【表2】
【0152】
2-2.水系インクの調製
<水系インク1-1の作製>
22.2質量部の表3に示される顔料分散体を撹拌させながら、有機溶剤として15.6質量部のプロピレングリコール(PG)と、樹脂粒子として15質量部のアクリル樹脂(SE841A、大成ファインケミカル株式会社製、Tg75℃)と、1.0質量部の界面活性剤(KF351A、信越化学工業株式会社製)と、を添加し、全体が100質量部となるようにイオン交換水をさらに添加した。得られた溶液を0.8μmのフィルターで濾過して、水系インク1-1を得た。
【0153】
<水系インク1-2~3-2の作製>
顔料濃度及び顔料分散体の種類の少なくとも一方を表3に示すように変更した以外は水系インク1-1と同様にして水系インク1-2~3-2を得た。なお、顔料濃度は、顔料分散体の配合量によって調整した。
【0154】
<水系インク4-1及び4-2の作製>
水分散性樹脂の種類を、ポリエステル樹脂(MD2000、東洋紡株式会社製、Tg67℃、酸価<2mgKOH/g)に変更した以外は水系インク1-1及び1-2とそれぞれ同様にして、水系インク4-1及び4-2を得た。
【0155】
<水系インク5-1及び5-2の作製>
水分散性樹脂の種類を、ウレタン樹脂(MZ477、高松油脂社製)に変更した以外は水系インク1-1及び1-2とそれぞれ同様にして、水系インク5-1及び5-2を得た。
【0156】
得られた水系インク1-1~5-2の組成を、表3に示す。
【表3】
【0157】
3.画像形成及び評価
3-1.画像形成
<試験1~2、5~6、9~10、13~14、17~18、21~22>
図に示した、画像形成装置と同様の構成を有する画像形成装置の液タンク(第1タンク)に、表4に示す水系インクを充填し、ピエゾ型インクジェットヘッド(KM1024aLHG-RC、コニカミノルタ株式会社製、360dpi、吐出量27pL)に流入するインクの流量が表4に示した値となるように、送液ポンプで制御し、インク流路にインクを循環させた。なお、フィルターとして、2300 MESH(有限会社こだま製作所、通過粒子参考値5μm、メッシュ数:325×2300)を用いた。
【0158】
上記流量の測定は、インクジェットヘッドにインクを流入させる配管を,インクジェットヘッドから取り外し、所定時間内に上記配管から流出したインクの重量を測定した後、測定値をインクの密度で除して求めた。上記インクの密度は、比重計(DMA 35 Basic、Anton Paar社製)を用いて測定した。
【0159】
画像形成装置100において、インクジェットヘッドからインク排出流路を外し、インク排出口に蓋をした。画像形成装置の液タンク(第1タンク)に、各実験で用いるインクを充填し、インクジェットヘッドに流入するインクの流量が表に示した値となるように、ポンプの出力を調整し、インクジェットヘッドからインクを吐出させながら、インクをインクジェットヘッドに送液した。
【0160】
上記コニカミノルタ社製ピエゾ型インクジェットヘッド(360dpi、吐出量14pL)の独立駆動ヘッド二つをノズルが互い違いになるように配置し、720dpi×720dpiのヘッドモジュールを作成し、ステージ搬送機上に、搬送方向にノズル列が直交するように設置した。ヘッドモジュールのインクジェットに、表4に示す水系インクを充填し、ステージ搬送機によって搬送されるフィルム基材の被膜上にシングルパス方式でベタ画像を記録できるように画像形成装置を構成した。
【0161】
フィルム基材としてOPPフィルム、FOS(フタムラ株式会社製)を用いた。上記ヘッドを用いて、インク付量が11.2cc/mである720dpi×720dpiのベタ画像が形成されるように、表4に示す水系インクの液滴を吐出した。
【0162】
<試験3~4、7~8、11~12、15~16、19~20、23~24>
インク循環を行わず、水系インクの種類と流量条件を表4に示すように変更した以外は試験1と同様にして画像形成を行った。
【0163】
<試験25~36>
水系インクの種類と流量条件を表5に示すように変更した以外は試験1と同様にして画像形成を行った。
【0164】
3-2.評価
試験1~24については、圧力上昇、吐出安定性及び画像品質を評価した。また、試験25~36については、圧力上昇、吐出安定性及び定着性を評価した。
【0165】
(圧力上昇)
上記試験において、それぞれの画像形成装置内において、インク流路壁面やフィルターに樹脂粒子が固着することによる、流路内の圧力上昇値を、インク供給流路に設置された2つの圧力センサの圧力値差分から算出した。圧力上昇値について、以下の基準に沿って評価を行い、3~6を合格とした。なお、下記評価において2つの圧力センサ間の流路にインクを100L(300L)通液させたことは、インクの流量と通液させた時間と、から判断した。
1:100L通液後の圧力上昇値が10kPa以上である
2:100L通液後の圧力上昇値が7kPa以上10kPa未満
3:100L通液後の圧力上昇値が5kPa以上7kPa未満である
4:100L通液後の圧力上昇値が3kPa以上5kPa未満である
5:100L通液後の圧力上昇値が3kPa未満であり、300L通液後の圧力上昇値が3kPa以上である
6:300L通液後の圧力上昇値が3kPa未満である
【0166】
(吐出安定性)
上記インクジェットヘッドからインクを吐出して、画像を形成してから一日経過後に、1024個の各ノズルから射出できているかを確認できるパターン画像を印刷し、以下の基準に沿って吐出安定性を評価した。
ノズル欠0.3%未満はノズル欠がノズル1024個中1個以上3個以下であり、ノズル欠0.3%以上0.5%未満はノズル1024個中4個又は5個であり、0.5%以上はノズル欠5個以上である。
A:ノズル欠が確認されなかった
B:ノズル欠が確認されたものの0.3%未満であった
C:ノズル欠が確認されたものの0.3%以上0.5%未満であった
D:ノズル欠が0.5%以上確認された
C以上を合格とする。
【0167】
(画質)
形成したベタ画像全体のベタ品質を目視にて観察し、以下の基準で評価した。
A:インクの濡れ性が非常に良好で、濃度ムラがなく均一な画像で、インクの抜けが観察されない良好な画像
B:インクの濡れ性が良好で、濃淡が異なる箇所があるが、インクの抜けが観察されない実用上許容可能な画像
C:インクの濡れ性がわずかに足りず、インクの抜け落ちている箇所があり、わずかに白抜けが発生している画像
D:インクの濡れ性が十分でなく、画像中にインクが抜け落ちている箇所が多く存在し、白抜けが目立つ画像
C以上を合格とする。
【0168】
(定着性)
上記インクジェットヘッドからインクを吐出して、印字幅100nm×100nm、解像度720dpi×720dpiの条件で、コート紙(OK トップコート、王子製紙)上にベタ画像を形成した。その後、温度75℃10分の条件下で上記ベタ画像を乾燥させた。形成したベタ画像に対して、クロスカットによるテープ剥離試験を実施した。そして、以下の基準に沿って、画像の定着性を評価した。
A:テープにより剥離した画像の面積が、ベタ画像の面積に対して1%未満である
B:テープにより剥離した画像の面積が、ベタ画像の面積に対して1%以上3%未満である
C:テープにより剥離した画像の面積が、ベタ画像の面積に対して3%以上5%未満である
D:テープにより剥離した画像の面積が、ベタ画像の面積に対して5%以上10%未満である
E:テープにより剥離した画像の面積が、ベタ画像の面積に対して10%以上である
A~Dが特に良好と判断した。
【0169】
試験1~24の評価結果を表4に示し、試験25~36の評価結果を表5に示す。
【0170】
【表4】
【0171】
【表5】
【0172】
表4に示すように、顔料分散体A-3(ランダム共重合体)を含むインク3-1、3-2を用いた場合、インク循環を行うと、インクジェットヘッド内の圧力上昇が大きく、吐出安定性、画像品質ともに低いことがわかる(試験1~8参照)。
【0173】
これに対し、顔料分散体A-2、A-1(ブロック共重合体)を含むインク2-1、2-2、1-1及び1-2を用いた場合、インク循環を行っても、インクジェットヘッド内の圧力上昇が少なく、吐出安定性、画像品質も良好であることがわかる(試験9~24参照)。
【0174】
これらのことから、顔料分散剤としてブロック共重合体を含む顔料分散体を用いることで、インクの循環により吐出安定性を高めつつ、インクの循環を行ったときのフィルターの目詰まりを抑制でき、圧力上昇を低減できることがわかる。また、インクの組成が安定しているため、画像品質も良好となることがわかる。
【0175】
特に、共重合体P-1(ABA型ブロック共重合体)を用いた場合(試験17~18、21~22)ほうが、共重合体P-2(AB型ブロック共重合体)を用いた場合(試験9~10、13~14)よりも、圧力上昇がより少なく、吐出安定性や画像品質もより良好となることがわかる。
【0176】
なお、試験1~2(インク循環あり)と試験3~4(インク循環なし)との対比から、顔料分散剤として従来のランダム共重合体を含む顔料分散体を用いた場合に、フィルターの目詰まりに起因する圧力上昇が生じることがわかる。
【0177】
また、表5に示すように、水分散性樹脂として、アクリル樹脂やウレタン樹脂を用いたほうが、ポリエステル樹脂を用いるよりも定着性がより高いことがわかる(試験29~36と試験25~28との対比)。これは、アクリル樹脂やウレタン樹脂が、ポリエステル樹脂よりもブロック共重合体P-1との相溶性がより良好であるためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0178】
本発明によれば、良好な吐出安定性を有しつつ、フィルターでの目詰まりを抑制でき、高濃度且つ高品質の良好な画像形成が可能な画像形成方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0179】
100 画像形成装置
101、201 インクジェットヘッド
102 インク供給流路
103 送液ポンプ
104 圧力センサ
105 フィルター
106 供給ダンパ
107 流量計
108 排出ダンパ
109 インク排出流路
110 第1タンク
111 第2タンク
112 インク補給流路
113 搬送装置
114 乾燥機
115 脱気モジュール
M 記録媒体
図1
図2
図3
図4