IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧 ▶ 日本重化学工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-電極材料、及び電極材料の製造方法 図1
  • 特開-電極材料、及び電極材料の製造方法 図2
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024154983
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】電極材料、及び電極材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/091 20210101AFI20241024BHJP
   C25B 11/052 20210101ALI20241024BHJP
   C25B 11/054 20210101ALI20241024BHJP
   C25B 11/089 20210101ALI20241024BHJP
   C25B 11/031 20210101ALI20241024BHJP
   C25B 1/04 20210101ALI20241024BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20241024BHJP
   B01J 25/02 20060101ALI20241024BHJP
   B01J 23/755 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C25B11/091
C25B11/052
C25B11/054
C25B11/089
C25B11/031
C25B1/04
C25B9/00 A
B01J25/02 M
B01J23/755 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069266
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(71)【出願人】
【識別番号】000231372
【氏名又は名称】日本重化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】白井 敬介
(72)【発明者】
【氏名】岡西 岳太
(72)【発明者】
【氏名】杉本 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】丹羽 淳一
(72)【発明者】
【氏名】河野 聡
(72)【発明者】
【氏名】澤 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】工藤 勝幸
(72)【発明者】
【氏名】近藤 駿太
(72)【発明者】
【氏名】相馬 友樹
【テーマコード(参考)】
4G169
4K011
4K021
【Fターム(参考)】
4G169AA02
4G169AA03
4G169AA08
4G169BA08B
4G169BB02A
4G169BB02B
4G169BB02C
4G169BB03A
4G169BB03B
4G169BB05C
4G169BC01C
4G169BC16C
4G169BC66A
4G169BC66B
4G169BC67A
4G169BC67B
4G169BC68A
4G169BC68B
4G169CB81
4G169DA06
4G169FB39
4G169FC04
4G169FC07
4G169FC08
4G169FC09
4K011AA11
4K011AA23
4K011AA49
4K011AA67
4K011BA08
4K011BA10
4K011DA01
4K021AA01
4K021BA02
4K021DB16
4K021DB19
4K021DC01
4K021DC03
(57)【要約】
【課題】高い活性を示す水電解用電極の触媒材料を製造する。
【解決手段】水電解装置の電極に用いられる電極材料の製造方法は、特定NiAl合金をアルカリ物質で処理することにより特定NiAl合金からアルミニウムを溶出させることによりラネーニッケルを得るアルカリ処理工程を有する。特定NiAl合金は、組成式AlNi(n-(x+y))FeCo(nは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。)で示される合金である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水電解装置の電極に用いられる電極材料の製造方法であって、
NiAl合金をアルカリ物質で処理することにより前記NiAl合金からアルミニウムを溶出させることによりラネーニッケルを得るアルカリ処理工程を有し、
前記NiAl合金は、組成式AlNi(n-(x+y))FeCo(nは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。)で示される合金であることを特徴とする電極材料の製造方法。
【請求項2】
前記NiAl合金は、組成式AlNi(2-x)Fe(xは0.01≦x≦0.8を満たす値である。)で示される合金である請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項3】
前記NiAl合金は、組成式AlNi(1-x)Fe(xは0.005≦x≦0.7を満たす値である。)で示される合金である請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項4】
前記NiAl合金は、組成式AlNi(2-(x+y))FeCo(x,yは0<2-(x+y)<2、0.01≦x≦0.8、0<y≦0.8を満たす値である。)で示される合金である請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項5】
前記NiAl合金は、組成式AlNi(1-(x+y))FeCo(x,yは0<1-(x+y)<1、0.005≦x≦0.3、0<y≦0.7を満たす値である。)で示される合金である請求項1に記載の電極材料の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ処理工程は、前記アルカリ物質の水溶液であるアルカリ性水溶液と前記NiAl合金とを100℃以上の温度で反応させる処理を含み、
前記アルカリ物質は、アルカリ金属水酸化物であり、
前記アルカリ性水溶液の濃度は、3M以上である請求項1~5のいずれか一項に記載の電極材料の製造方法。
【請求項7】
前記アルカリ処理工程は、前記アルカリ物質の水溶液であるアルカリ性水溶液と前記NiAl合金とを140℃以上の温度で反応させる処理を含み、
前記アルカリ物質は、アルカリ金属水酸化物であり、
前記アルカリ性水溶液の濃度は、14M以上である請求項6に記載の電極材料の製造方法。
【請求項8】
前記アルカリ処理工程により得られたラネーニッケルの表面を酸化させる酸化工程を有する請求項1~5のいずれか一項に記載の電極材料の製造方法。
【請求項9】
水電解装置の電極に用いられる電極材料であって、
ニッケル、鉄、及びコバルトのモル比(ニッケル:鉄:コバルト)が、(n-(x+y)):x:y(nは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。)であるラネーニッケルを含むことを特徴とする電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水電解装置の電極に用いられる電極材料、及び電極材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水電解は、水を水素と酸素に電気分解することであり、例えば、水素を製造するための技術として利用されている。水素発生用の水電解装置は、例えば、アルカリ水等の電解液が収容された電解槽と、電解槽中においてセパレータを間に挟んで配置された陽極及び陰極とを有する。上記水電解装置では、陽極と陰極との間に電流を流すことにより、陽極において酸素が発生し、陰極において水素が発生する。
【0003】
特許文献1は、上記水電解装置の陽極に用いる触媒として、ラネーニッケルを用いる技術を開示する。ラネーニッケルは、ニッケルとアルミニウムを含むNiAl合金から、アルカリ処理によってアルミニウムのみを溶解して除去した後に残存するニッケルである。ラネーニッケルは、アルミニウムが溶解することにより多数の細孔が形成された比表面積の大きい多孔質体である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平01-028837号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、鋭意研究の結果、特定組成のNiAl合金から得られるラネーニッケルが水電解装置の電極に用いる触媒として高い活性を示すことを見出した。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する電極材料の製造方法は、水電解装置の電極に用いられる電極材料の製造方法であって、NiAl合金をアルカリ物質で処理することにより前記NiAl合金からアルミニウムを溶出させることによりラネーニッケルを得るアルカリ処理工程を有し、前記NiAl合金は、組成式AlNi(n-(x+y))FeCo(nは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。)で示される合金である。
【0007】
上記製造方法において、前記NiAl合金は、組成式AlNi(2-x)Fe(xは0.01≦x≦0.8を満たす値である。)で示される合金であることが好ましい。
上記製造方法において、前記NiAl合金は、組成式AlNi(1-x)Fe(xは0.005≦x≦0.7を満たす値である。)で示される合金であることが好ましい。
【0008】
上記製造方法において、前記NiAl合金は、組成式AlNi(2-(x+y))FeCo(x,yは0<2-(x+y)<2、0.01≦x≦0.8、0<y≦0.8を満たす値である。)で示される合金であることが好ましい。
【0009】
上記製造方法において、前記NiAl合金は、組成式AlNi(1-(x+y))FeCo(x,yは0<1-(x+y)<1、0.005≦x≦0.3、0<y≦0.7を満たす値である。)で示される合金であることが好ましい。
【0010】
上記製造方法において、前記アルカリ処理工程は、前記アルカリ物質の水溶液であるアルカリ性水溶液と前記NiAl合金とを100℃以上の温度で反応させる処理を含み、前記アルカリ物質は、アルカリ金属水酸化物であり、前記アルカリ性水溶液の濃度は、3M以上であることが好ましい。
【0011】
上記製造方法において、前記アルカリ処理工程は、前記アルカリ物質の水溶液であるアルカリ性水溶液と前記NiAl合金とを140℃以上の温度で反応させる処理を含み、前記アルカリ物質は、アルカリ金属水酸化物であり、前記アルカリ性水溶液の濃度は、14M以上であることが好ましい。
【0012】
上記製造方法において、前記アルカリ処理工程により得られたラネーニッケルの表面を酸化させる酸化工程を有することが好ましい。
上記課題を解決する電極材料は、水電解装置の電極に用いられる電極材料であって、ニッケル、鉄、及びコバルトのモル比(ニッケル:鉄:コバルト)が、(n-(x+y)):x:y(nは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。)であるラネーニッケルを含む。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、高い活性を示す水電解用電極の材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、試験1における触媒活性の評価結果を示すグラフである。
図2図2は、試験2における触媒活性の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の電極材料の製造方法の一実施形態について説明する。なお、本明細書において、数値範囲として記載する「A~B」は、「A以上B以下」を意味する。
本実施形態の製造方法により製造される電極材料は、水電解装置の電極に用いられる触媒である。また、上記電極材料は、水電解装置の陽極である酸素発生極、及び陰極である水素発生極のいずれに用いることもできる。上記電極材料は、陽極である酸素発生極に用いることが特に好ましい。
【0016】
本実施形態の電極材料の製造方法は、NiAl合金からラネーニッケルを得るアルカリ処理工程と、アルカリ処理工程にて得られたラネーニッケルの表面を酸化させる酸化工程とを含む。酸化工程は、必要に応じて省略できる。なお、以下では、アルカリ処理工程にて得られたラネーニッケルであって、酸化工程が行われる前のラネーニッケルを第1ラネーニッケルと記載する場合がある。そして、酸化工程が行われた後のラネーニッケルを第2ラネーニッケルと記載する場合がある。
【0017】
<アルカリ処理工程>
アルカリ処理工程は、特定組成のNiAl合金(以下、特定NiAl合金と記載する。)をアルカリ物質で処理することによりNiAl合金からアルミニウムを溶出させることによって第1ラネーニッケルを得る工程である。
【0018】
(特定NiAl合金)
アルカリ処理工程に供される特定NiAl合金は、組成式AlNi(n-(x+y))FeCoで示される合金である。上記式中のnは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。なお、本明細書において、組成式AlNi(n-(x+y))FeCoで示される特定NiAl合金とは、アルミニウム、ニッケル、及び鉄の合金、又はアルミニウム、ニッケル、鉄、及びコバルトの合金であって、合金全体におけるアルミニウム、ニッケル、鉄、及びコバルトのモル比(アルミニウム:ニッケル:鉄:コバルト)が、3:(n-(x+y)):x:yである合金を意味する。したがって、特定NiAl合金は、AlNi(n-(x+y))FeCo相からなる単一の相により構成される合金であってもよいし、複数相により構成される合金、例えば、主相及び副相を含む合金であってもよい。
【0019】
本明細書において、特定NiAl合金の主相とは、特定NiAl合金の大部分を占める特定の1相又は2相を意味する。そして、特定NiAl合金の主相は、以下に記載する体積条件及び面積条件の少なくとも一方を満たす相として定義できる。
【0020】
体積条件:合金全体に占める特定の1相の体積比率、又は合金全体に占める体積比率が最も大きい2相の体積比率の合計が、50%超えること。なお、体積条件に関する上記数値は、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上としてもよい。合金を構成する各相の体積は、例えば、合金のX線回折(XRD)測定データをリートベルト解析することで算出できる。
【0021】
面積条件:合金を割ることにより形成される任意の断面に占める特定の1相の面積比率、又は上記断面に占める面積比率が最も大きい2相の面積比率の合計が50%超えること。なお、面積条件に関する上記数値は、60%以上、70%以上、80%以上、又は90%以上としてもよい。合金の上記断面における各相の面積は、例えば、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)で得られる、合金断面の元素マッピングデータを画像解析することで算出できる。
【0022】
[第1NiAl合金]
特定NiAl合金の一例は、組成式AlNi(2-x)Feで示される合金(以下、第1NiAl合金と記載する。)である。第1NiAl合金を示す上記式中のxは、例えば、0.01≦x≦0.8を満たす値であり、好ましくは0.03≦x≦0.7を満たす値であり、より好ましくは0.05≦x≦0.6を満たす値であり、さらに好ましくは0.1≦x≦0.4を満たす値である。
【0023】
第1NiAl合金を構成する上記単一の相、上記主相、及び上記副相としては、例えば、AlNi(2-x)Fe相、AlNi相、AlNi相、AlFe相が挙げられる。また、第1NiAl合金は、副相として、製造上必然的に形成される相を含んでもよい。第1NiAl合金としては、例えば、主相がAlNi相であり、かつ、モル比(アルミニウム:ニッケル:鉄)が3:(2-x):xである合金が挙げられる。
【0024】
[第2NiAl合金]
特定NiAl合金の一例は、組成式AlNi(1-x)Feで示される合金(以下、第2NiAl合金と記載する。)である。第2NiAl合金を示す上記式中のxは、例えば、0.005≦x≦0.7を満たす値であり、好ましくは0.05≦x≦0.3を満たす値であり、より好ましくは0.05≦x≦0.1を満たす値である。
【0025】
第2NiAl合金を構成する上記単一の相、上記主相、及び上記副相としては、例えば、AlNi(1-x)Fe相、AlNi相、AlNi相、AlNi相、AlFe相、AlFeNi相、AlNiFe相が挙げられる。また、第2NiAl合金は、副相として、製造上必然的に形成される相を含んでもよい。第2NiAl合金としては、例えば、主相がAlNi相であり、かつ、モル比(アルミニウム:ニッケル:鉄)が3:(1-x):xである合金が挙げられる。
【0026】
[第3NiAl合金]
特定NiAl合金の一例は、組成式AlNi(2-(x+y))FeCoで示される合金(以下、第3NiAl合金と記載する。)である。
【0027】
第3NiAl合金を示す上記式中のx,yは、例えば、0<2-(x+y)<2、0.01≦x≦0.8、0<y≦0.8を満たす値である。上記式中のxは、好ましくは0.03≦x≦0.7を満たす値であり、より好ましくは0.05≦x≦0.6を満たす値であり、さらに好ましくは0.1≦x≦0.4を満たす値である。上記式中のyは、好ましくは0.1<y<0.8を満たす値であり、より好ましくは0.2≦y≦0.7を満たす値であり、さらに好ましくは0.2≦y≦0.6を満たす値である。また、ニッケルに対するコバルトの比率(y/(2-(x+y))は、例えば、0.05~1.0であり、好ましくは0.3~0.8である。鉄に対するコバルトの比率(y/x)は、例えば、0.25~12.0であり、好ましくは1.0~6.0である。
【0028】
第3NiAl合金を構成する上記単一の相、上記主相、及び上記副相としては、例えば、AlNi(2-(x+y))FeCo相、AlNi相、AlNi相、AlFe相、及びそれらのコバルト含有物が挙げられる。また、第3NiAl合金は、副相として、製造上必然的に形成される相を含んでもよい。第3NiAl合金としては、例えば、主相がAlNi相及びAlNi相であり、かつ、モル比(アルミニウム:ニッケル:鉄:コバルト)が3:(2-(x+y)):x:yである合金が挙げられる。
【0029】
[第4NiAl合金]
特定NiAl合金の一例は、組成式AlNi(1-(x+y))FeCoで示される合金(以下、第4NiAl合金と記載する。)である。
【0030】
第4NiAl合金を示す上記式中のx,yは、例えば、0<1-(x+y)<1、0.005≦x≦0.3、0<y≦0.7を満たす値である。上記式中のxは、好ましくは0.05≦x≦0.3を満たす値であり、好ましくは0.05≦x≦0.1を満たす値である。上記式中のyは、好ましくは0.1≦y≦0.6を満たす値であり、より好ましくは0.2≦y≦0.6を満たす値である。また、ニッケルに対するコバルトの比率(y/(1-(x+y))は、例えば、0.1~3であり、好ましくは0.25~3.0である。鉄に対するコバルトの比率(y/x)は、例えば、0.3~12.0である。
【0031】
第4NiAl合金を構成する上記単一の相、主相、及び副相としては、例えば、AlNi(1-(x+y))FeCo相、AlNi相、AlNi相、AlNi相、AlFe相、AlFeNi相、AlNiFe相が挙げられる。また、第4NiAl合金は、副相として、製造上必然的に形成される相を含んでもよい。第4NiAl合金としては、主相がAlNi相であり、かつ、モル比(アルミニウム:ニッケル:鉄:コバルト)が3:(1-(x+y)):x:yである合金が挙げられる。
【0032】
ここで、水電解装置の電極材料として用いるラネーニッケルは、運転中に複合(酸)水酸化物を生成することに基づいて触媒活性を発現する。複合(酸)水酸化物の複合は、例えば、Ni(O)OH、Fe(O)OH、Al(O)OH、Co(O)OHのうちの少なくとも2以上の複合を意味する。
【0033】
鉄の割合を上記各範囲の下限値以上とした特定NiAl合金から得られるラネーニッケルは、水電解装置の運転中において、高活性なFe(O)OHを多く生成できるとともに、表面側にFe(O)OHを相対的に多く含むコアシェル構造が形成されやすい。そのため、鉄の割合を上記各範囲の下限値以上とすることにより、高い活性を示すラネーニッケルが得られる。
【0034】
鉄の割合を上記各範囲の上限値以下とした特定NiAl合金から得られるラネーニッケルは、水電解装置の運転中において、電解液中への鉄イオンの溶出を抑制できる。そのため、溶出した鉄イオンがセパレータに目詰まりすることに起因する抵抗増大を抑制できる。また、溶出した鉄イオンは、陽極側において、発生した酸素ガスと反応することにより、鉄酸化物(例えば、Fe)として陽極表面に析出する場合がある。この鉄酸化物は、陽極よりも酸素発生活性が低いため、陽極表面における鉄酸化物の析出は、陽極の活性を低下させる原因になる。加えて、溶出した鉄イオンは、陰極側において、電子伝導性を有する鉄酸化物(例えば、Fe)として陰極表面にデンドライド状に析出することにより、内部短絡の原因になる場合がある。そのため、鉄イオンの溶出を抑えることにより、陽極側における活性低下、及び内部短絡を抑制できる。
【0035】
コバルトの割合を上記各範囲の下限値以上とした特定NiAl合金から得られるラネーニッケルは、水電解装置の運転中において、より高活性な複合(酸)水酸化物を生成できるとともに、NiOOHとCoOOHの界面を多く有する構造が形成されやすい。そのため、コバルトの割合を上記各範囲の下限値以上とすることにより、高い活性を示すラネーニッケルが得られる。
【0036】
コバルトの割合を上記各範囲の上限値以下とした特定NiAl合金から得られるラネーニッケルは、水電解装置の運転中において、電解液中へのコバルトイオンの溶出を抑制できる。そのため、溶出したコバルトイオンがセパレータに目詰まりすることに起因する抵抗増大を抑制できる。また、溶出したコバルトイオンは、陰極側において、金属コバルトとして陰極表面にデンドライド状に析出することにより、内部短絡の原因になる場合がある。そのため、コバルトイオンの溶出を抑えることにより、セル内短絡を抑制できる。
【0037】
また、特定NiAl合金におけるアルミニウムの割合が多い場合、アルミニウムを溶出させて得られる第1ラネーニッケルは、相対的に空隙率が高くなる、即ち、比表面積が高くなる。そのため、より高い活性を示すラネーニッケルを得る観点においては、上記nが1である特定NiAl合金を用いることが好ましい。一方、特定NiAl合金におけるアルミニウムの割合が少ない場合、アルミニウムを溶出させて得られる第1ラネーニッケルは、相対的に空隙率が低くなる。そのため、強度が高いラネーニッケルを得る観点においては、上記nが2である特定NiAl合金を用いることが好ましい。
【0038】
特定NiAl合金の製造方法は、特に限定されるものでなく、公知の合金の製造方法を適用できる。特定NiAl合金の製造方法としては、例えば、鋳造法、急冷法、メカニカルアロイング法、スパッタリング法が挙げられる。
【0039】
アルカリ処理工程に供される特定NiAl合金は、例えば、粉末状である。特定NiAl合金の平均粒子径は、例えば、1~150μmである。本明細書に記載する平均粒子径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0040】
(処理条件)
アルカリ処理工程は、特定NiAl合金を、アルカリ物質を含むアルカリ性水溶液と反応させることにより実施される。アルカリ性水溶液との反応により、特定NiAl合金中のアルミニウムが溶出することにより、比表面積の大きい多孔質体である第1ラネーニッケルが得られる。具体的な処理方法としては、例えば、アルカリ性水溶液中に粉末状の特定NiAl合金を少量ずつ投入した後、アルカリ性水溶液の温度を所定温度にて所定時間、撹拌することが挙げられる。また、溶射等によって所定の基材に担持させた状態の特定NiAl合金に対して、アルカリ性水溶液と反応させる処理方法を採用してもよい。
【0041】
上記アルカリ物質は、例えば、アルカリ金属水酸化物、アルカリ金属塩である。アルカリ金属水酸化物としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムが挙げられる。アルカリ金属塩としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウムが挙げられる。なお、上記アルカリ物質は、アルカリ金属水酸化物であることが好ましい。
【0042】
アルカリ処理工程における処理温度は、例えば、100~140℃である。アルカリ処理工程における処理時間は、例えば、60~360分である。アルカリ処理工程に用いるアルカリ性物質の量は、特定NiAl合金に含まれるアルミニウムの量に応じて、適宜設定できる。上記アルカリ性物質の量は、特定NiAl合金に含まれるアルミニウムの量に対して、化学量論量で、等量未満、等量、過剰となる量のいずれであってもよい。また、アルカリ処理工程における特定NiAl合金とアルカリ性水溶液との固液比(特定NiAl合金:アルカリ性水溶液)は、例えば、質量比で1:10~1:500である。
【0043】
アルカリ処理工程の処理条件の好ましい一例は、高濃度のアルカリ金属水酸化物のアルカリ性水溶液を用いて高温で処理することである。当該処理条件におけるアルカリ性水溶液の濃度は、例えば、3M以上であり、好ましくは7M以上であり、より好ましくは14M以上である。また、当該処理条件におけるアルカリ性水溶液の濃度は、20M以下である。当該処理条件における処理温度は、例えば、100℃以上であり、好ましくは110℃以上であり、より好ましくは140℃以上である。また、当該処理条件における処理温度は、例えば、148℃以下である。なお、上記処理温度を高くするためには、アルカリ性水溶液の濃度を高くすることによってアルカリ性水溶液の沸点を上記処理温度以上にする必要がある。例えば、処理温度が100℃以上である場合、アルカリ性水溶液の濃度は3M以上であることが好ましく、処理温度が140℃以上である場合、アルカリ性水溶液の濃度は14M以上であることが好ましい。また、アルカリ処理工程は、常圧で行うことが好ましい。この場合には、加圧した場合と比較して、処理中に発生する水素を容易に除くことができる。特に、処理中に発生する水素を除くための装置の複雑化を抑制できる。
【0044】
この場合には、高い活性を示す第1ラネーニッケルを得ることができる。特に、上記処理温度が高いことにより、アルカリ処理工程において、粒子の表面に鉄原子が移行して、表面側に鉄を相対的に多く含むコアシェル構造の第1ラネーニッケルが得られやすくなる。また、アルカリ性水溶液と特定NiAl合金との反応時間を短くできる。当該処理条件におけるアルカリ性水溶液と特定NiAl合金との反応時間は、アルカリ性水溶液の濃度が3M以上であり、処理温度が100℃以上である場合には、例えば、3時間以上6時間以下であり、アルカリ性水溶液の濃度が14M以上であり、処理温度が140℃以上である場合には、例えば、1時間以上6時間以下である。
【0045】
なお、アルカリ処理工程の処理条件は、特定NiAl合金に含まれる全てのアルミニウムを溶出させる処理条件であってもよいし、アルミニウムの一部が溶出せずに残留する処理条件であってもよい。
【0046】
上記処理により得られた第1ラネーニッケルは、ろ過処理を行うことにより回収できる。その際に、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。ろ過処理としては、ラネーニッケルの製造に用いられる公知の固液分離処理を適用できる。洗浄処理としては、ラネーニッケルの製造に用いられる公知の洗浄処理、例えば、水洗処理を適用できる。
【0047】
<酸化工程>
アルカリ処理工程により得られた第1ラネーニッケルはその表面の活性が高いため、空気中において自然発火する場合がある。そのため、保管時等の取り扱いが難しく、溶媒中で保管する等して空気に触れないように取り扱う必要がある。
【0048】
酸化工程は、アルカリ処理工程により得られた第1ラネーニッケルの表面を酸化させる工程である。表面が酸化された第1ラネーニッケルである第2ラネーニッケルは、空気中における自然発火が抑制される。そのため、第2ラネーニッケルは、第1ラネーニッケルと比較して、保管時等の取り扱いが容易である。
【0049】
酸化工程の一例は、第1ラネーニッケルを、酸性物質を含む酸性水溶液と反応させることにより実施される。具体的な処理方法としては、例えば、酸性水溶液に粉末状の第1ラネーニッケルを少量ずつ投入した後、所定温度にて所定時間、撹拌することが挙げられる。
【0050】
上記酸性物質としては、例えば、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過炭酸ナトリウム、過ホウ酸ナトリウムが挙げられる。これらの中でも、上記酸性物質は、過酸化水素であることが好ましい。
【0051】
酸性水溶液の濃度、並びに酸化工程における処理温度及び処理時間は、適宜設定できる。酸性水溶液の濃度は、例えば、0.7~10Mである。酸化工程における処理温度は、例えば、15~80℃である。酸化工程における処理時間は、例えば、5~720分である。酸化工程における第1ラネーニッケルと酸性水溶液との固液比(第1ラネーニッケル:酸性水溶液)は、例えば、質量比で1:9~1:100である。
【0052】
上記処理により得られた第2ラネーニッケルは、ろ過処理を行うことにより回収できる。その際に、必要に応じて、洗浄処理を行ってもよい。ろ過処理としては、ラネーニッケルの製造に用いられる公知の固液分離処理を適用できる。洗浄処理としては、ラネーニッケルの製造に用いられる公知の洗浄処理、例えば、水洗処理を適用できる。
【0053】
<ラネーニッケル>
上記の製造方法により製造される第1ラネーニッケル及び第2ラネーニッケル(以下、本実施形態のラネーニッケルと記載する場合がある。)は、ニッケル及び鉄を特定の割合で含有する、又はニッケル、鉄、及びコバルトを特定の割合で含有する。本実施形態のラネーニッケルにおけるニッケル、鉄、及びコバルトの割合は、製造に用いた特定NiAl合金におけるニッケル、鉄、及びコバルトの割合に等しい。したがって、本実施形態のラネーニッケルにおけるニッケル、鉄、及びコバルトのモル比は、(n-(x+y)):x:yである。上記モル比において、nは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。
【0054】
本実施形態のラネーニッケルは、アルミニウムを含有していてもよい。この場合、本実施形態のラネーニッケルに含まれるアルミニウムの質量割合は、例えば、22質量%以下であり、好ましくは11質量%以下である。また、上記アルミニウムの質量割合は、例えば、0.6質量%以上であり、好ましくは1質量%以上である。
【0055】
なお、本実施形態のラネーニッケルは、Ni(n-(x+y))FeCo相からなる単一の相により構成される合金であってもよいし、複数相により構成される合金、例えば、主相及び副相を含む合金であってもよい。例えば、主相及び副相を含む特定NiAl合金から得られる本実施形態のラネーニッケルは、特定NiAl合金の主相由来の相、及び特定NiAl合金の副相由来の相を有する場合がある。特定NiAl合金の主相由来の相は、例えば、特定NiAl合金の主相からアルミニウムの一部又は全部が除かれた相である。特定NiAl合金の副相由来の相は、例えば、特定NiAl合金の副相からアルミニウムの一部又は全部が除かれた相である。
【0056】
第1NiAl合金から得られる本実施形態のラネーニッケルとしては、例えば、Ni(2-x)Fe相からなる単一の相の合金、及び主相がAlNi相及びAlNi相由来のNi相であり、かつ、モル比(ニッケル:鉄)が(2-x):xである合金が挙げられる。
【0057】
第2NiAl合金から得られる本実施形態のラネーニッケルとしては、例えば、Ni(1-x)Fe相からなる単一の相の合金、及び主相がAlNi相由来のNi相であり、かつ、モル比(ニッケル:鉄)が(1-x):xである合金が挙げられる。
【0058】
第3NiAl合金から得られる本実施形態のラネーニッケルとしては、例えば、Ni(2-(x+y))FeCo相からなる単一の相の合金、及び主相がAlNi相及びAlNi相由来のNi相であり、かつ、モル比(ニッケル:鉄:コバルト)が(2-(x+y)):x:yである合金が挙げられる。
【0059】
第4NiAl合金から得られる本実施形態のラネーニッケルとしては、例えば、Ni(1-(x+y))FeCo相からなる単一の相の合金、及び主相がAlNi相由来のNi相であり、かつ、モル比(ニッケル:鉄:コバルト)が(1-(x+y)):x:yである合金が挙げられる。
【0060】
本実施形態のラネーニッケルのBET比表面積は、例えば、5~100m/gである。BET比表面積とは、BET法でN吸着にて測定したラネーニッケルの単位質量当たりの表面積を意味する。
【0061】
本実施形態のラネーニッケルの平均粒子径は、例えば、0.1~100μmである。
<作用>
次に、本実施形態の作用について説明する。
【0062】
本実施形態の製造方法によれば、鉄を特定割合で含むラネーニッケル、又は鉄及びコバルトを特定割合で含むラネーニッケルが得られる。本実施形態のラネーニッケルは、水電解装置の電極材料、即ち、電極の触媒として用いた場合に、運転中に高活性な複合(酸)水酸化物を生成することに基づいて、高い触媒活性を発現する。
【0063】
特に、本実施形態のラネーニッケルは、水電解装置の陽極の材料、即ち、酸素発生反応用触媒として適用した場合に高い活性を示す。具体的には、本実施形態のラネーニッケルは、酸素発生反応用触媒として適用した場合に、例えば、50~226mV/dec.のTafel勾配を有する。Tafel勾配は、酸素発生電流の対数を横軸とし、作用極電位から酸素発生反応の理論分解電位を差し引いた値である過電圧を縦軸とするTafelプロットから求められる。酸素発生電流の対数を横軸とするTafelプロットから得られるTafel勾配は、酸素発生電流を10倍大きくするために要する電圧であり、絶対値が小さいほど酸素発生に対する触媒活性が高いことを意味する。
【0064】
詳細には、組成式AlNi(2-x)Feで示される特定NiAl合金から得られる本実施形態のラネーニッケルは、例えば、121~226mV/dec.のTafel勾配を有する。組成式AlNi(1-x)Feで示される第2特定NiAl合金から得られる本実施形態のラネーニッケルは、例えば、75~120mV/dec.のTafel勾配を有する。組成式AlNi(2-(x+y))FeCoで示される第3特定NiAl合金から得られる本実施形態のラネーニッケルは、例えば、86~126mV/decのTafel勾配を有する。組成式AlNi(1-(x+y))FeCoで示される第4特定NiAl合金から得られる本実施形態のラネーニッケルは、例えば、50~91mV/dec.のTafel勾配を有する。Tafel勾配の測定は、実施例に記載された測定方法により測定することができる。
【0065】
<効果>
次に、本実施形態の効果について説明する。
(1)水電解装置の電極に用いられる電極材料の製造方法は、特定NiAl合金をアルカリ物質で処理することにより特定NiAl合金からアルミニウムを溶出させることによりラネーニッケルを得るアルカリ処理工程を有する。特定NiAl合金は、組成式AlNi(n-(x+y))FeCo(nは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。)で示される合金である。
【0066】
上記構成によれば、水電解装置の電極材料として用いた場合に高い触媒活性を示すラネーニッケルを製造できる。製造されたラネーニッケルは、水電解装置の陽極材料として用いた場合には、高い酸素発生活性を示し、陰極材料として用いた場合には、高い水素発生活性を示す。
【0067】
(2)アルカリ処理工程は、アルカリ物質の水溶液であるアルカリ性水溶液と特定NiAl合金とを100℃以上の温度で反応させる処理を含む。アルカリ物質は、アルカリ金属水酸化物である。アルカリ性水溶液の濃度は、3M以上である。上記構成によれば、アルカリ処理工程において、粒子の表面に鉄原子が移行して、表面側に鉄を相対的に多く含むコアシェル構造のラネーニッケルが得られやすくなる。また、アルカリ性水溶液と特定NiAl合金との反応時間を短くできる。
【0068】
(3)アルカリ処理工程は、アルカリ物質の水溶液であるアルカリ性水溶液と特定NiAl合金とを140℃以上の温度で反応させる処理を含む。アルカリ物質は、アルカリ金属水酸化物である。アルカリ性水溶液の濃度は、14M以上である。上記構成によれば、上記(2)の効果が更に向上する。
【0069】
(4)水電解装置の電極に用いられる電極材料の製造方法は、アルカリ処理工程により得られたラネーニッケルの表面を酸化させる酸化工程を有する。上記構成によれば、得られたラネーニッケルの空気中における自然発火を抑制できる。これにより、保管時等の取り扱いが容易であるラネーニッケルが得られる。
【実施例0070】
以下に、上記実施形態をさらに具体化した実施例について説明する。
<試験1>
試験1では、鉄を含む第1NiAl合金から得られるラネーニッケルの触媒活性を評価した。
【0071】
(ラネーニッケルの作製)
所定量のアルミニウム、ニッケル、鉄を混合したものを、高周波溶解炉を用いて1600℃にて加熱溶融した後、冷却することにより、主相がAlNi相であり、組成式AlNi(2-x)Feで示されるNiAl合金の合金塊を得た。合金塊は、上記式中のxが0,0.05,0.1,0.2,0.4,0.7であるものをそれぞれ作製した。得られた合金塊を粉砕することにより、上記組成のNiAl合金の粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は、レーザー回折・散乱法による測定の結果、40~60μmの範囲であった。
【0072】
次いで、得られたNiAl合金の粉末(2g)を、14M水酸化ナトリウム水溶液(30g)に浸漬させた状態として、140℃にて3時間のアルカリ処理を行った。その後、ろ過処理及び水洗による洗浄処理を行うことにより、NiAl合金からアルミニウムが溶出してなる第1ラネーニッケルを得た。
【0073】
得られた第1ラネーニッケルの粉末(1.5g)を、5質量%過酸化水素水溶液(14g)に浸漬させた状態として、20℃にて10時間の酸化処理を行った。その後、ろ過処理及び水洗による洗浄処理を行うことにより、表面が酸化された第2ラネーニッケルの粉末を得た。
【0074】
(触媒活性の評価)
得られた第2ラネーニッケルの酸素発生活性を、3電極式の電気化学測定装置を用いて評価した。
【0075】
水とエタノールの混合溶媒に、第2ラネーニッケルの粉末、ケッチェンブラック、及び20%ナフィオン(登録商標)分散液(DE2020CSタイプ:富士フイルム和光純薬社製)を分散させたスラリーを作製した。作製したスラリーをグラッシーカーボン基板に塗布することにより電極体を得た。電極体における第2ラネーニッケルの担持量は、0.05mg/cmとした。
【0076】
電解液として7mol/Lの水酸化カリウム水溶液を使用し、対極である白金コイル及び作製した作用極を電解液に浸漬させた。参照電極には水銀-酸化水銀電極を使用し、液絡を用いて上記電解液と接続した。参照電極に対して作用極の電位を10mV/sで掃引し、電極電位に対する酸素発生電流を室温にて測定した。
【0077】
次いで、測定された酸素発生電流(A)の対数を横軸とし、作用極電位から酸素発生反応の理論分解電位を差し引いた値である過電圧(V)を縦軸とするTafelプロットを作成し、作成したTafelプロットからTafel勾配(mV/dec.)を求めた。なお、過電圧は、酸素発生反応の理論分解電圧を1.23Vとして算出した。その結果を図1のグラフに示す。上記のとおり、酸素発生電流の対数を横軸とすることで得られるTafel勾配は、酸素発生電流を10倍大きくするために要する電位の変化量である。Tafel勾配の絶対値が小さいほど酸素発生に対する触媒活性が高いことを意味する。
【0078】
下記の表1は、図1に示すグラフの各点におけるFe比率とTafel勾配の値をまとめた表である。表1の酸素発生活性の相対評価欄には、Fe比率を異ならせた各例の酸素発生活性の評価を併せて示している。当該評価は、Fe比率が「0」である場合のTafel勾配の値を基準値とする相対評価である。当該評価の評価基準は、以下のとおりである。
【0079】
「=」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して98%以上102%以下であり、Fe比率が「0」である場合と同等の酸素発生活性を有する。
「○」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して85%以上98%未満であり、Fe比率が「0」である場合よりも高い酸素発生活性を有する。
【0080】
「◎」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して85%未満であり、Fe比率が「0」である場合よりも顕著に高い酸素発生活性を有する。
【0081】
【表1】
図1及び表1に示すように、Tafel勾配は、組成式AlNi(2-x)Feで示されるNiAl合金における鉄の比率x(Fe比率)が増加するにしたがって下に凸となる曲線状に変化している。この結果から、鉄の比率xが0.8以下である範囲において鉄を含むNiAl合金から得られるラネーニッケルは、鉄を含まないNiAl合金から得られるラネーニッケルと比較して酸素発生活性が高いことが分かる。また、Tafel勾配は、鉄の比率xが0.2の付近で極小値をとっている。この結果から、鉄を含むNiAl合金の中でも、組成式AlNi(2-x)Fe(xは0.1≦x≦0.4を満たす値である。)で示されるNiAl合金から得られるラネーニッケルが特に高い酸素発生活性を示すことが分かる。
【0082】
<試験2>
試験2では、鉄を含む第2NiAl合金から得られるラネーニッケルの触媒活性を評価した。
【0083】
(ラネーニッケルの作製)
所定量のアルミニウム、ニッケル、鉄を混合したものを、高周波溶解炉を用いて1550℃にて加熱溶融した後、冷却することにより、主相がAlNi相であり、組成式AlNi(1-x)Feで示されるNiAl合金の合金塊を得た。合金塊は、上記式中のxが0,0.05,0.1,0.2,0.3,0.7であるものをそれぞれ作製した。得られた合金塊を粉砕することにより、上記組成のNiAl合金の粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は、レーザー散乱法による測定の結果、50~70μmの範囲であった。
【0084】
次いで、得られたNiAl合金の粉末を用いて、試験1と同様のアルカリ処理及び酸化処理を行うことにより、第2ラネーニッケルの粉末を得た。
(触媒活性の評価)
試験1と同様にして、得られた第2ラネーニッケルの酸素発生活性を評価した。その結果を図2のグラフに示す。下記の表2は、図2に示すグラフの各点におけるFe比率とTafel勾配の値をまとめた表である。表2の酸素発生活性の相対評価欄には、Fe比率を異ならせた各例の酸素発生活性の評価を併せて示している。当該評価は、Fe比率が「0」である場合のTafel勾配の値を基準値とする相対評価である。当該評価の評価基準は、以下のとおりである。
【0085】
「=」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して98%以上102%以下であり、Fe比率が「0」である場合と同等の酸素発生活性を有する。
「○」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して85%以上98%未満であり、Fe比率が「0」である場合よりも高い酸素発生活性を有する。
【0086】
「◎」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して85%未満であり、Fe比率が「0」である場合よりも顕著に高い酸素発生活性を有する。
【0087】
【表2】
図2及び表2に示すように、Tafel勾配は、組成式AlNi(1-x)Feで示されるNiAl合金における鉄の比率x(Fe比率)が増加するにしたがって下に凸となる曲線状に変化している。この結果から、鉄の比率xが0.8以下である範囲において鉄を含むNiAl合金から得られるラネーニッケルは、鉄を含まないNiAl合金から得られるラネーニッケルと比較して酸素発生活性が高いことが分かる。また、Tafel勾配は、鉄の比率xが0.1の付近で極小値をとっている。この結果から、鉄を含むNiAl合金の中でも、組成式AlNi(1-x)Fe(xは0.05≦x≦0.3を満たす値である。)で示されるNiAl合金から得られるラネーニッケルが特に高い酸素発生活性を示すことが分かる。
【0088】
<試験3>
試験3では、鉄を含む第2NiAl合金、並びに鉄及びコバルトを含む第4NiAl合金から得られるラネーニッケルの触媒活性を評価した。なお、本試験では、Fe比率に関して、試験2において最も高い酸素発生活性を示したFe比率である0.1を採用した。
【0089】
(ラネーニッケルの作製)
所定量のアルミニウム、ニッケル、鉄、コバルトを混合したものを、高周波溶解炉を用いて1550℃にて加熱溶融した後、冷却することにより、主相がAlNi相であり、組成式AlNiで示されるNiAl合金(試験例1)、主相がAlNi相であり、組成式AlNi0.9Fe0.1で示されるNiAl合金(試験例2)、主相がAlNi相であり、組成式AlNi0.75Co0.25で示されるNiAl合金(試験例3)、及び主相がAlNi相であり、組成式AlNi0.7Fe0.1Co0.2で示されるNiAl合金(試験例4)の各合金塊を得た。得られた合金塊を粉砕することにより、NiAl合金の粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は、レーザー散乱法による測定の結果、40~60μmの範囲であった。
【0090】
次いで、得られたNiAl合金の粉末を用いて、試験1と同様のアルカリ処理及び酸化処理を行うことにより、第2ラネーニッケルの粉末を得た。
(触媒活性の評価)
試験1と同様にして、得られた第2ラネーニッケルの酸素発生活性を評価した。その結果を表3に示す。
【0091】
【表3】
表3に示すように、鉄を含むNiAl合金(試験例2)から得られるラネーニッケルは、コバルトを含むNiAl合金(試験例3)から得られるラネーニッケルと比較して、Tafel勾配の値が小さい。この結果から、酸素発生活性を高めるためにNiAl合金に含ませる金属として、コバルトなどの他の金属と比較して鉄を含ませることが有効であることが分かる。また、鉄及びコバルトの両方を含むNiAl合金(試験例4)から得られるラネーニッケルは、鉄を含むNiAl合金(試験例2)と比較して、Tafel勾配の値が小さい。この結果から、酸素発生活性を高めるためにNiAl合金に含ませる金属として、鉄とコバルトの両方を併用することが有効であることが分かる。
【0092】
<試験4>
試験4では、鉄及びコバルトを含む第3NiAl合金から得られるラネーニッケルの触媒活性を評価した。本試験では、NiAl合金における鉄の比率を一定としている。なお、本試験では、Fe比率を、試験1において最も高い酸素発生活性を示したFe比率である0.2に固定して、Co比率を変化させた。
【0093】
(ラネーニッケルの作製)
所定量のアルミニウム、ニッケル、鉄、コバルトを混合したものを、高周波溶解炉を用いて1600℃にて加熱溶融した後、冷却することにより、主相がAlNi相及びAlNi相であり、組成式AlNi(1.8-y)Fe0.2Coで示されるNiAl合金の合金塊を得た。合金塊は、上記式中のyが0,0.1,0.2,0.4,0.6であるものをそれぞれ作製した。得られた合金塊を粉砕することにより、上記組成のNiAl合金の粉末を得た。得られた粉末の平均粒子径は、レーザー散乱法による測定の結果、50~70μmの範囲であった。
【0094】
次いで、得られたNiAl合金の粉末を用いて、試験1と同様のアルカリ処理及び酸化処理を行うことにより、第2ラネーニッケルの粉末を得た。
(触媒活性の評価)
試験1と同様にして、得られたラネーニッケル粉末の酸素発生活性を評価した。その結果を表4に示す。表4の酸素発生活性の相対評価欄に示す評価の詳細は、表1に示した評価と同様である。表4の酸素発生活性の相対評価欄には、Co比率を異ならせた各例の酸素発生活性の評価を併せて示している。当該評価は、Fe比率及びCo比率が共に「0」である場合のTafel勾配の値を基準値とする相対評価である。当該評価の評価基準は、以下のとおりである。
【0095】
「=」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して98%以上102%以下であり、Fe比率が「0」である場合と同等の酸素発生活性を有する。
「○」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して85%以上98%未満であり、Fe比率が「0」である場合よりも高い酸素発生活性を有する。
【0096】
「◎1」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して50%以上85%未満であり、Fe比率が「0」である場合よりも顕著に高い酸素発生活性を有する。
「◎2」:Tafel勾配の値が上記基準値に対して50%未満であり、Fe比率が「0」である場合よりも顕著に高い酸素発生活性を有する。
【0097】
【表4】
表4に示すように、鉄及びコバルトの両方を含むNiAl合金から得られるラネーニッケルのTafel勾配は、Fe比率及びコバルトの比率(Co比率)が0である場合(NiAl合金に鉄及びコバルトが含まれていない場合)よりも低く、かつFe比率が0.2であり及びCo比率が0である場合と略同等又はそれ以下である。中でも、Co比率が0.2~0.6の範囲でコバルトを含む場合は、Tafel勾配が極めて小さい値になっている。これらの結果から、コバルトを併用した場合においても、鉄を含ませることによる酸素発生活性の向上効果が得られること、及びCo比率を0.2~0.6とすることが酸素発生活性の向上に有効であることが分かる。
【0098】
次に、上記実施形態から把握できる技術的思想について以下に追記する。
[態様1]
水電解装置の電極に用いられる電極材料の製造方法であって、NiAl合金をアルカリ物質で処理することにより前記NiAl合金からアルミニウムを溶出させることによりラネーニッケルを得るアルカリ処理工程を有し、前記NiAl合金は、組成式AlNi(n-(x+y))FeCo(nは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。)で示される合金であることを特徴とする電極材料の製造方法。
【0099】
[態様2]
前記NiAl合金は、組成式AlNi(2-x)Fe(xは0.01≦x≦0.8を満たす値である。)で示される合金である態様1に記載の電極材料の製造方法。
【0100】
[態様3]
前記NiAl合金は、組成式AlNi(1-x)Fe(xは0.005≦x≦0.7を満たす値である。)で示される合金である態様1に記載の電極材料の製造方法。
【0101】
[態様4]
前記NiAl合金は、組成式AlNi(2-(x+y))FeCo(x,yは0<2-(x+y)<2、0.01≦x≦0.8、0<y≦0.8を満たす値である。)で示される合金である態様1に記載の電極材料の製造方法。
【0102】
[態様5]
前記NiAl合金は、組成式AlNi(1-(x+y))FeCo(x,yは0<1-(x+y)<1、0.005≦x≦0.3、0<y≦0.7を満たす値である。)で示される合金である態様1に記載の電極材料の製造方法。
【0103】
[態様6]
前記アルカリ処理工程は、前記アルカリ物質の水溶液であるアルカリ性水溶液と前記NiAl合金とを100℃以上の温度で反応させる処理を含み、前記アルカリ物質は、アルカリ金属水酸化物であり、前記アルカリ性水溶液の濃度は、3M以上である態様1~5のいずれか一つに記載の電極材料の製造方法。
【0104】
[態様7]
前記アルカリ処理工程は、前記アルカリ物質の水溶液であるアルカリ性水溶液と前記NiAl合金とを140℃以上の温度で反応させる処理を含み、前記アルカリ物質は、アルカリ金属水酸化物であり、前記アルカリ性水溶液の濃度は、14M以上である態様6に記載の電極材料の製造方法。
【0105】
[態様8]
前記アルカリ処理工程により得られたラネーニッケルの表面を酸化させる酸化工程を有する態様1~7のいずれか一項に記載の電極材料の製造方法。
【0106】
[態様9]
水電解装置の電極に用いられる電極材料であって、組成式AlNi(n-(x+y))FeCo(nは1又は2であり、x,yは0<n-(x+y)<2、0.005≦x≦0.8、0≦y≦0.8を満たす値である。)で示されるNiAl合金からアルミニウムを溶出させることによりラネーニッケルを含むことを特徴とする電極材料。
【0107】
[態様10]
前記電極は、陽極であり、Tafel勾配が50~226mV/dec.である態様9に記載の電極材料。
図1
図2