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  • 特開-スラグ材の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001550
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】スラグ材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 5/00 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
C04B5/00 B
C04B5/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100275
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000207735
【氏名又は名称】大平洋金属株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000174943
【氏名又は名称】三井住友建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【弁理士】
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】大舘 広克
(72)【発明者】
【氏名】三上 昌人
(72)【発明者】
【氏名】箱田 竜一
(72)【発明者】
【氏名】松田 拓
(72)【発明者】
【氏名】春日 昭夫
(72)【発明者】
【氏名】星 秀明
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112JB00
4G112JC06
4G112JD00
4G112JE00
(57)【要約】
【課題】セメントコンクリートやセメントモルタルの自己収縮を抑制可能なスラグ材の製造方法を提供する。
【解決手段】スラグ材の製造方法は、溶融したスラグを冷却し粒子化させながら飛翔させる冷却粒子化工程と、飛翔後に落下したスラグを所定時間保温する保温工程と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶融したスラグを冷却し粒子化させながら飛翔させる冷却粒子化工程と、
飛翔後に落下した前記スラグを所定時間保温する保温工程と、
を有するスラグ材の製造方法。
【請求項2】
前記保温工程において、前記スラグは落下した際の温度またはそれ以上の温度で保温される、請求項1に記載のスラグ材の製造方法。
【請求項3】
前記保温工程において、前記スラグは1100~1350℃の温度範囲で保温される、請求項2に記載のスラグ材の製造方法。
【請求項4】
前記保温工程の後に前記スラグを自然冷却する冷却工程を有する、請求項1または2に記載のスラグ材の製造方法。
【請求項5】
前記冷却粒子化工程において、前記スラグは500℃/s以下の冷却速度で冷却される、請求項1または2に記載のスラグ材の製造方法。
【請求項6】
前記所定時間は30~120分である、請求項1または2に記載のスラグ材の製造方法。
【請求項7】
前記所定時間は20~30分である、請求項1または2に記載のスラグ材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスラグ材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントコンクリートやセメントモルタルの作成に用いられる細骨材として、製銑/製鋼プロセス、合金鉄製錬プロセスなどから排出されるスラグが用いられることがある。スラグは近年、環境保護の観点から、川砂、陸砂、砕砂、海砂などの天然材料の代替物として利用されている。特許文献1には、溶融スラグを風砕し凝固させる工程と、凝固したスラグを破砕してスラグ材とする工程と、を有するスラグ材の製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-163175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1には、開示された製造方法で作られたスラグ材がセメントコンクリートやセメントモルタルの自己収縮を抑制できることは記載されていない。本発明は、セメントコンクリートやセメントモルタルの自己収縮を抑制可能なスラグ材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のスラグ材の製造方法は、溶融したスラグを冷却し粒子化させながら飛翔させる冷却粒子化工程と、飛翔後に落下したスラグを所定時間保温する保温工程と、を有する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、セメントコンクリートやセメントモルタルの自己収縮を抑制可能なスラグ材の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の一実施形態に係るスラグ材の製造方法を示す模式図である。
図2】実施例と比較例の概要を示す図である。
図3】比較例におけるスラグ材の製造方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明のスラグ材の製造方法を実施形態によって説明する。スラグ材はセメントコンクリートやセメントモルタルの細骨材として使用される。セメントコンクリート及びセメントモルタルは、セメントと、スラグ材を含む骨材と、水とを含み、膨張材を含んでいてもよい。スラグ材を製造する方法はいくつかあるが、本発明では、溶融したスラグ(以下、溶融スラグという)を冷却し粒子化させながら飛翔させる方式(風砕方式)を用いている。溶融スラグは溶融状態のフェロニッケルスラグであるが、これに限定されない。本実施形態では、溶融スラグを高圧圧縮空気により飛翔させながら冷却、造粒し、溶融状態から半溶融状態を経て結晶状態に鉱物組織が移行する各段階で、溶融スラグまたは半溶融スラグの冷却温度と冷却速度を制御している。なお、以下の説明で空隙はスラグ粒子の内部に形成される空間部を意味し、気孔はスラグ粒子の表面に形成され内部の空隙と連通する孔を意味する。
【0009】
図1にスラグ材の製造装置と製造方法を示す。スラグ材の製造装置1は風砕機2を有している。フェロニッケル製錬電気炉3から風砕機2に溶融スラグが供給される。溶融スラグは、フェロニッケル製錬電気炉3の下部から、スラグ樋4を経由して風砕機2に直接流下注入される。風砕機2に供給される溶融スラグの温度は約1500~1600℃である。
【0010】
スラグ材の製造装置1は、風砕機2の内部に開口する高圧圧縮空気の供給ノズル5と、供給ノズル5に接続され、供給ノズル5に高圧圧縮空気を供給するブロア6と、を有している。高圧圧縮空気の風量及び風速は、ブロア6の回転数を制御することによって調整可能である。風砕機2に供給された溶融スラグは供給ノズル5から吹き付けられた高圧圧縮空気によって風砕機2の内部を飛翔する。溶融スラグは冷却され粒子化しながら飛翔する(冷却粒子化工程)。すなわち、溶融スラグは飛翔しながら多数の溶融状態の粒子に分解され、且つ飛翔中の全行程(風砕機2への投入直後から飛翔の終了まで)に渡り空気によって冷却される。以下の説明で、粒子化したスラグをスラグ粒子という。スラグ粒子の表層は凝固した外殻となり、外殻には凹凸形状や粒子内部と連結した気孔が形成される。スラグ粒子の内部は半溶融状態にある。
【0011】
風砕機2はスラグ樋4と反対側の位置に、衝突板7を備えている。衝突板7は風砕機2の側壁の一部であってよい。飛翔するスラグ粒子は衝突板7に衝突し、向きを変え、重力によって下降し、風砕機2の底部の排出口8から排出される。排出されたスラグ粒子の温度は1300℃程度まで低下しているが、スラグ粒子の内部は依然として半溶融状態にある。多くのスラグ粒子は衝突板7に衝突して落下するが、衝突板7に衝突することなく自然落下するスラグ粒子もある。落下とはスラグ粒子の飛翔が終了し風砕機2の内部で着地する現象を意味する。冷却粒子化工程において、スラグは500℃/s以下の冷却速度(飛翔中の全行程における平均冷却速度)で冷却される。溶融スラグの冷却温度及び冷却速度は、高圧圧縮空気の風速及び風量、溶融スラグの単位時間当たり供給量と高圧圧縮空気の風量との比率等によって制御可能である。高圧圧縮空気は衝突板7の上方に設けられた排気口9から排気される。
【0012】
飛翔後に落下して風砕機2から排出されたスラグ粒子は保温容器12に送られる。具体的には、風砕機2の底部には開閉可能な排出ゲート10が設けられており、風砕機2に溜まったスラグ粒子は所定のタイミングで開放される排出ゲート10を通って排出され、コンベア11によって保温容器12の上部まで搬送される。保温容器12の上部にはスラグ粒子の供給口13が、底部には開閉可能なスラグ粒子の排出口14が設けられている。保温容器12に供給されたスラグ粒子は、所定時間保温容器12の内部に滞留し保温される(保温工程)。保温工程では、スラグ粒子は落下した際の温度と同程度の温度で保温される。保温工程におけるスラグ粒子の温度変化はできるだけ小さいことが好ましく、例えば数℃/分程度以下が好ましい。保温温度はスラグ粒子の落下時の温度によるが、1100~1350℃の温度範囲から選択されることが好ましい。必要に応じて保温容器12の外壁にヒータなどの加熱手段を設けてもよい。保温工程における上記所定時間は20~30分であるが、30~120分でもよい。スラグ粒子を1100~1350℃の所定の温度で保温し熟成養生することにより、スラグ粒子の気孔及び空隙の形成及び成長、すなわち気孔及び空隙の大きさ、数、形状等を制御することができる。
【0013】
保温容器12はできるだけ大型として、保温容器12に高い充填率でスラグ粒子を充填することが好ましい。これは大型の保温容器12に大量のスラグ粒子を充填することで、スラグ粒子の保有熱が増加し、スラグ粒子の自己保温効果が促進されるためである。また、充填率が一定の場合、スラグ粒子の保有熱は保温容器12のサイズの3乗に比例するが、周囲壁からの熱の放熱は保温容器12のサイズの2乗に比例するので、このことからも保温容器12のサイズが大きいほうが保温には有利であることが理解できる。
【0014】
保温工程では、スラグ粒子内部の空隙構造を生成する結晶核が徐々に成長し空隙構造が構築される。結晶化の際にスラグ粒子は発熱するが、この発熱も保温効果に寄与する。上述のように、飛翔中のスラグは500℃/s以下の冷却速度で冷却されるため、実施例で述べるように飛翔中のスラグの結晶化の進行は比較的緩慢である。この結果、結晶化は保温中により進行しやすくなり、保温中のスラグ粒子の結晶化による発熱もその分大きくなる。つまり、飛翔中のスラグの冷却速度を500℃/s以下にすることと、大型の保温容器12を用いることないしスラグ粒子の充填率を上げることによる相乗効果が発揮され、保温効果が一層向上する。場合によってはスラグ粒子の結晶化の際の発熱が放熱を上回り、スラグ粒子の温度が上昇することもある。
【0015】
保温工程の終了したスラグ粒子は保温容器12の排出口14から排出され、ハンドリングが可能となる温度まで大気中(常温環境下)で自然冷却される(自然冷却工程)。自然冷却工程では、スラグ粒子の冷却速度はスラグ材の特性に大きな影響を与えないと考えられる。これは、気孔及び空隙の大きさ、数、形状等が保温工程でほぼ決定されるためである。
【0016】
表面及び内部に気孔及び空隙の形成されたスラグ粒子では内部養生効果が得られる。一般に、セメント量に対して水量が少ない配合条件で混練したコンクリートないしモルタルは、水和反応が進行する過程及び硬化後に自己収縮を生じる。しかし、表面及び内部に大きな気孔及び空隙を有するスラグ粒子を細骨材として、コンクリートないしモルタルの混練時に他の材料(粗骨材、セメントなど)と共に配合して用いると、自己収縮が大きく低減され、密実で品質の良いコンクリートないしモルタルを製造することが可能となる。これは水和反応が進行し硬化する過程において、気孔及び空隙が保持する水分が内部養生水として機能し、自己収縮を抑制するためと考えられる。
【0017】
スラグ粒子の気孔及び空隙の大きさ、数、形状等は、保温条件だけでなく冷却粒子化工程におけるスラグの飛翔条件にも依存する。逆に言えば、冷却粒子化工程における高圧圧縮空気の風量及び風速、並びに保温条件を調整するという簡便な方法で、一つの製造装置1で様々な特性を有するスラグ材の製造が可能である。
【0018】
以下、実施例と比較例によって本発明をさらに詳細に説明する。図2には実施例と比較例の概要を示す。
【0019】
(実施例)
図1に示す装置を用いて、1600℃の溶融スラグを風砕機2に供給し、高圧圧縮空気によって風砕してスラグ粒子を形成した。溶融スラグの飛翔条件は、飛翔距離約18m、飛翔時間約1秒とした。飛翔後のスラグ粒子の冷却条件は、溶融スラグの初期温度1600℃、冷却速度約300℃/secである。飛翔後のスラグ粒子の保温方法は、外部加熱なしで30分保温とした。保温後のスラグ粒子は空冷した。冷却後のスラグ粒子の表面及び内部に、多くの気孔、空隙の生成が確認された。スラグ粒子の吸水率は2.92%であった。風砕されたスラグ粒子の表面は過冷却融体状態から凝固する。保温工程で冷却速度は横ばいになり、この間徐々に結晶生成が進み、スラグ粒子の外殻及び内部に気孔及び空隙が形成される。これは、溶融スラグが液体から固体に変化するときに、その密度が10%程度増加するためである。実施例では、気孔及び空隙は、飛翔中及び保温工程で徐々に形成される。
【0020】
また、飛翔中の冷却過程ではガスによる気孔及び空隙が生成される。具体的には、溶融スラグに含まれるS(硫黄)が飛翔中に大気中の酸素により酸化されてSOガスとなり、これに起因する気孔及び空隙が形成される。溶融スラグが粒子化される際に高圧圧縮空気によって溶融スラグ流の流れが乱れ、これによる空気の巻込みによって気孔及び空隙が形成されることもある。実施例では、飛翔中のスラグ粒子の冷却条件を500℃/秒以下としているため、結晶化が緩やかに進行し、この間、これらの気体によって形成された小さな気孔及び空隙が成長し、合体して粗大な気孔及び空隙となり、その状態で凝固(結晶化)すると考えられる。
【0021】
(比較例)
比較例1では、図3に示す装置を用いて、1600℃の溶融スラグをダクト2Aに供給し、高圧圧縮空気によって風砕してスラグ粒子を形成した。比較例1では、風砕機2の代わりに風砕機2より小型のダクト2Aを用いている。溶融スラグの飛翔条件は、飛翔距離約6m、飛翔時間約0.5秒とした。飛翔後のスラグ粒子の冷却条件は、溶融スラグの初期温度1600~1650℃、冷却速度約700~800℃/secである。飛翔後のスラグ粒子の保温方法は、外部加熱なしで常温冷却とした。保温後のスラグ粒子はダクト2A内で放冷した。スラグ粒子の吸水率は0.05%であった。比較例1では、スラグ粒子の表面、内部とも実施例のような粗大な気孔及び空隙が形成されず、微細な気孔が表面に点在する程度のスラグ粒子しか得られなかった。比較例1では飛翔中のスラグ粒子の冷却速度が500℃/秒より大きく、実施例と比べてスラグ粒子の表面、内部ともに冷却速度が速い。このため、スラグ粒子の表面及び内部で直ちに結晶化が生じ、スラグ粒子の表面にも内部にも気孔及び空隙が十分に形成されなかったものと考えられる。同様の理由から、大気中のガスによる気孔及び空隙も成長することができなかったと考えられる。
【0022】
比較例2ではダクト2Aから取り出したスラグ粒子をスラグ貯留槽15に供給し、さらにスラグ貯留槽15を加熱炉16に投入し、1200℃で60分加熱した。溶融スラグの飛翔条件、飛翔後のスラグ粒子の冷却条件は比較例1と同じである。飛翔後のスラグ粒子の保温方法は、1200℃で60分加熱とした。保温後のスラグ粒子はかき混ぜながら放冷した。スラグ粒子の吸水率は1.53%であった。比較例3ではダクト2Aから取り出したスラグ粒子をスラグ貯留槽15に供給し、さらにスラグ貯留槽15を加熱炉16に投入し、1250℃で30分加熱した。スラグ貯留槽15は保温容器12より小型の容器である。溶融スラグの飛翔条件、飛翔後のスラグ粒子の冷却条件は比較例1と同じである。飛翔後のスラグ粒子の保温方法は、1250℃で30分加熱とした。保温後のスラグ粒子はかき混ぜながら放冷した。スラグ粒子の吸水率は1.71%であった。比較例2~3では、スラグ粒子表面に少数の気孔が形成されたが、内部に大きな空隙は確認できなかった。比較例2~3では実施例と同様に保温がされているが、飛翔中のスラグ粒子の冷却速度が速いことから、比較例1と同様の理由により気孔及び空隙が十分に形成されなかったものと考えられる。
【符号の説明】
【0023】
1 スラグ材の製造装置
2 風砕機
3 フェロニッケル製錬電気炉
4 スラグ樋
5 高圧圧縮空気の供給ノズル
6 ブロア
11 コンベア
12 保温容器
図1
図2
図3