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特開2024-155002バイオセンサ電極用皮膜、バイオセンサ電極及び汗成分センサ用電極
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155002
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】バイオセンサ電極用皮膜、バイオセンサ電極及び汗成分センサ用電極
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/00 20060101AFI20241024BHJP
   G01N 27/416 20060101ALI20241024BHJP
   A61B 5/1486 20060101ALN20241024BHJP
【FI】
A61B5/00 N
G01N27/416 338
A61B5/1486
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069324
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003506
【氏名又は名称】第一工業製薬株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】304036754
【氏名又は名称】国立大学法人山形大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浅井 千穂
(72)【発明者】
【氏名】長峯 邦明
(72)【発明者】
【氏名】岩佐 繁之
【テーマコード(参考)】
4C038
4C117
【Fターム(参考)】
4C038KK10
4C038KL09
4C038KY04
4C038KY08
4C038KY11
4C117XB01
4C117XE06
4C117XE20
(57)【要約】
【課題】応答性に優れるバイオセンサ電極を形成することができるバイオセンサ電極用皮膜及び該皮膜を含むバイオセンサ電極並びに汗成分センサ用電極を提供する。
【解決手段】本発明のバイオセンサ電極用皮は、バイオセンサの電極に用いられる皮膜であって、沸点が100℃以上である多価アルコールと、カルボキシメチルセルロース塩と、電解質とを含む。本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、応答性に優れるバイオセンサ電極を形成することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオセンサの電極に用いられる皮膜であって、
沸点が100℃以上である多価アルコールと、
カルボキシメチルセルロース塩と、
電解質と
を含む、バイオセンサ電極用皮膜。
【請求項2】
前記多価アルコールが、グリセリン、ブチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及びポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
【請求項3】
前記カルボキシメチルセルロース塩は、エーテル化度が0.5~1.0である、請求項1に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
【請求項4】
前記電解質は、リン酸塩化合物を含む、請求項1に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
【請求項5】
含水率が50質量%以下である、請求項1に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
【請求項6】
架橋剤を含まない、請求項1に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
【請求項7】
前記バイオセンサ電極が汗成分を検出するための電極である、請求項1に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
【請求項8】
前記バイオセンサ電極が汗中のグルコース及び/又は乳酸を検出するための電極である、請求項1に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のバイオセンサ電極用皮膜を備える、バイオセンサ電極。
【請求項10】
請求項7又は8に記載のバイオセンサ電極用皮膜を備える、汗成分センサ用電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオセンサ電極用皮膜、バイオセンサ電極及び汗成分センサ用電極に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、例えば健康診断において、血液に代わる非侵襲な体液サンプルとして汗成分が注目されている。汗は、その90%近くが水であり夾雑物が少なく、体表に出た汗は比較的容易に、非侵襲的に採取可能である。また、近年の網羅的解析技術の進歩により、汗成分と疾患の関連性が示唆されつつある。この観点から、汗の成分を高精度に検出することが可能なセンサ等の装置の構築が重要となる。
【0003】
例えば、特許文献1には、被験者の皮膚から汗を抽出するための塩含有水溶液を含む多孔質体(例えば、アガロースゲル)から形成され、被験者の皮膚が当接されることにより汗を順次抽出する汗抽出部と、汗反応体と、作用電極と、参照電極とを備える汗成分センサが提案されている。斯かるセンサにより、汗の成分を高精度に検出することを実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-115103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、汗の成分を検出するセンサをはじめとして各種のバイオセンサには応答性を更に向上させることが強く求められており、この点において、従来のバイオセンサの応答性には改善の余地が残されているものであった。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、応答性に優れるバイオセンサ電極を形成することができるバイオセンサ電極用皮膜及び該皮膜を含むバイオセンサ電極並びに汗成分センサ用電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の多価アルコール、カルボキシメチルセルロース塩及び電解質を利用することにより上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、例えば、以下の項に記載の主題を包含する。
項1
バイオセンサの電極に用いられる皮膜であって、
沸点が100℃以上である多価アルコールと、
カルボキシメチルセルロース塩と、
電解質と
を含む、バイオセンサ電極用皮膜。
項2
前記多価アルコールが、グリセリン、ブチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及びポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種である、項1に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
項3
前記カルボキシメチルセルロース塩は、エーテル化度が0.5~1.0である、項1又は2に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
項4
前記電解質は、リン酸塩化合物を含む、項1~3のいずれか1項に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
項5
含水率が50質量%以下である、項1~4のいずれか1項に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
項6
架橋剤を含まない、項1~5のいずれか1項に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
項7
前記バイオセンサ電極が汗成分を検出するための電極である、項1~6のいずれか1項に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
項8
前記バイオセンサ電極が汗中のグルコース及び/又は乳酸を検出するための電極である、項1~6のいずれか1項に記載のバイオセンサ電極用皮膜。
項9
項1~8のいずれか1項に記載のバイオセンサ電極用皮膜を備える、バイオセンサ電極。
項10
項7又は8に記載のバイオセンサ電極用皮膜を備える、汗成分センサ用電極。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、応答性に優れるバイオセンサ電極を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】(a)は、バイオセンサ電極の平面図であって、電極側面を示す概略図、(b)は、概略断面図である。
図2】(a)は、バイオセンサ電極用皮膜が設けられたバイオセンサ電極の平面図であって、電極側の表面を示す概略図、(b)は、概略断面図である。
図3】試験例1で行ったクロノアンペロメトリ測定における電流値の変化を示すグラフである。
図4】試験例2で行ったクロノアンペロメトリ測定における電流値の変化を示すグラフである。
図5】参考試験例1で行ったクロノアンペロメトリ測定における電流値の変化を示すグラフである。
図6】試験例3-1、3-2、3-3及び3-4の測定における電流変化を示す結果である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書中において、「含有」及び「含む」なる表現については、「含有」、「含む」、「実質的にからなる」及び「のみからなる」という概念を含む。
【0012】
1.バイオセンサ電極用皮膜
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、バイオセンサの電極に用いられる皮膜であって、沸点が100℃以上である多価アルコールと、カルボキシメチルセルロース塩と、電解質とを含む。本発明のバイオセンサ電極用皮膜によれば、応答性に優れるバイオセンサ電極を形成することができる。
【0013】
(多価アルコール)
本発明のバイオセンサ電極用皮膜に含まれる多価アルコールは、沸点が100℃以上である。多価アルコールとは、分子中に2個以上のヒドロキシル基を有するアルコールを示す。なお、本明細書でいう多価アルコールの沸点とは、大気圧における沸点を意味する。
【0014】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、前記多価アルコールを含むことで、バイオセンサ電極は、応答性に優れるものとなる。また、電極用皮膜は肌に直接触れるものであるところ、多価アルコールは、刺激性が少なく保湿効果もたらすことも可能にする。本発明のバイオセンサ電極用皮膜が、前記多価アルコールを含まない場合は、バイオセンサ電極の応答性が低下し、また、皮膜を形成することも難しくなる。
【0015】
多価アルコールは、沸点が100℃以上である限り、その種類は特に限定されず、沸点が100℃以上である多価アルコールを広く使用することができる。多価アルコールは、二価又は三価のアルコールであることが好ましく、二価であることがより好ましい。
【0016】
多価アルコールの沸点は、130℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、190℃以上であることがさらに好ましく、220℃以上であること特に好ましい。多価アルコールの沸点は、350℃以下であることが好ましく、330℃以下であることがより好ましく、320℃以下であることがさらに好ましく、310℃以下であること特に好ましい。
【0017】
この観点から、多価アルコールは、グリセリン、ブチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル及びポリエチレングリコールからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。この場合、バイオセンサ電極に含まれる酵素がより安定化し、バイオセンサとしての応答性が向上しやすい。特に好ましくは、多価アルコールがグリセリンを含むことである。
【0018】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜に含まれる多価アルコールは、1種のみとすることができ、あるいは、異なる2種以上を含むこともできる。なお、本発明の効果が阻害されない限り、バイオセンサ電極用皮膜は、沸点が100℃以上である多価アルコール以外の多価アルコールを含むこともできる。
【0019】
(カルボキシメチルセルロース塩)
本発明のバイオセンサ電極用皮膜に含まれるカルボキシメチルセルロース塩は、皮膜を形成するためのポリマー成分(マトリックス成分)である。カルボキシメチルセルロース塩は、セルロースを構成するグルコース残基中の水酸基がカルボキシメチルエーテル基に置換された構造を有し、かつ、カルボキシ基は塩を形成している。
【0020】
カルボキシメチルセルロース塩において、塩の種類は特に制限されず、例えば、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アルキルアミン塩、アルカノールアミン塩等が挙げられ、中でもアルカリ金属塩が好ましい。アルカリ金属は、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム等であり、ナトリウムが好ましい。すなわち、カルボキシメチルセルロース塩は、カルボキシメチルセルロースナトリウム塩であることが特に好ましい。
【0021】
カルボキシメチルセルロース塩のエーテル化度は特に制限されない。カルボキシメチルセルロース塩のエーテル化度は、例えば、0.5~1.0であることが好ましい。この場合、本発明のバイオセンサ電極用皮膜は強度が向上しやすくなり、これにより、本発明のバイオセンサ電極は耐久性に優れるものとなりやすい。エーテル化度は、0.6以上であることがより好ましく、0.65以上であることがさらに好ましく、また、0.9以下であることがより好ましく、0.8以下であることがさらに好ましい。
【0022】
カルボキシメチルセルロース塩のエーテル化度は下記方法により測定される。カルボキシメチルセルロース塩0.6gを105℃で4時間乾燥する。乾燥物の質量を精秤した後、ろ紙に包んで磁製ルツボ中で灰化する。灰化物を500mLビーカーに移し、水250mL及び0.05mol/Lの硫酸水溶液35mLを加えて30分間煮沸する。冷却後、過剰の酸を0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液で逆滴定する(指示薬としてフェノールフタレイン使用)。その後、下記式
(エーテル化度)=162×A/(10000-80A)
(ここで、Aは、(af-bf1)/乾燥物の質量(g)の値であって、試料1g中の結合アルカリに消費された0.05mol/Lの硫酸水溶液の量(mL)を意味し、aは0.05mol/Lの硫酸水溶液の使用量(mL)fは0.05mol/Lの硫酸水溶液の力価、bは0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の滴定量(mL)、f1は0.1mol/Lの水酸化カリウム水溶液の力価を示す)
によりエーテル化度を算出する。
【0023】
カルボキシメチルセルロース塩の重量平均分子量(Mw)は特に限定されず、例えば、10万~50万とすることができ、12万~25万であることが好ましい。カルボキシメチルセルロース塩のMwはGPC(Gel Permeation Chromatography;ゲル浸透クロマトグラフィー)により測定される。詳細には下記方法により測定される。
装置:高速HPLC:Prominence-i LC-2030、島津製作所製
検出器:示差屈折率検出器RID-20A、島津製作所製
カラム:TSKgel G3000SW+G4000SW+ガードカラム、東ソー製
測定方法:0.08mol/L酢酸ソーダ水溶液を移動相溶媒として、有効成分約66mgを移動相溶媒10mLで溶解し、フィルター濾過後、10μL注入する。
・分析条件:流速[mL/min]=0.70、カラム温度=40℃、測定圧力[kg/cm]=1~15、測定時間[min]=60として、標準物質は分子量既知のポリエチレンオキシドを用いる。
【0024】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜に含まれるカルボキシメチルセルロース塩は、1種のみとすることができ、あるいは、異なる2種以上を含むこともできる。カルボキシメチルセルロース塩は、公知の方法で製造することができ、あるいは、市販品等から入手することも可能である。カルボキシメチルセルロース塩の市販品としては、第一工業製薬株式会社製「セロゲン(登録商標)」シリーズを挙げることができる。
【0025】
(電解質)
本発明のバイオセンサ電極用皮膜に含まれる電解質の種類は特に限定されず、例えば、公知の電解質を広く使用することができる。中でも前記電解質は、リン酸塩化合物を含むことが好ましい。
【0026】
リン酸塩化合物としては、リン酸アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸ナトリウム、リン酸一水素ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム等が挙げられ、また、各種リン酸緩衝液に含まれるリン酸塩化合物であってもよい。リン酸緩衝液としては、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(DPBS)、トリス緩衝生理食塩水等を挙げることができる。中でもリン酸塩化合物としては、リン酸緩衝溶液由来であることが好ましく、斯かるリン酸緩衝溶液としては、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水が好ましい。
【0027】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜に含まれる電解質は、1種のみとすることができ、あるいは、異なる2種以上を含むこともできる。
【0028】
(バイオセンサ電極用皮膜)
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、多価アルコールと、カルボキシメチルセルロース塩と、電解質とを含む他、必要に応じて他の成分を含むこともできる。他の成分としては、例えば、pH調整剤、光安定剤、酸化防止剤、防腐剤、界面活性剤、顔料、着色剤、防カビ剤、粘度調整剤、架橋剤等が挙げられる。これらの添加剤は1種又は2種以上がバイオセンサ電極用皮膜に含まれていてもよい。
【0029】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、架橋剤を含まないことが好ましい。この場合、本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、人体の影響が小さくなり、肌への負担等が起こりにくい。架橋剤としては、例えば、酢酸アルミニウム等の各種キレート化合物が挙げられる。従って、本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、金属を有するキレート化合物を含まないことがより好ましく、酢酸アルミニウムを含まないことがさらに好ましい。
【0030】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜において、多価アルコール、カルボキシメチルセルロース塩、及び、電解質の含有割合は特に限定されない。カルボキシメチルセルロース塩は、多価アルコール100質量部あたり、5~200質量部含むことができ、10~150質量部であることが好ましく、15~100質量部であることがより好ましく、20~80質量部であることがさらに好ましい。また、電解質の含有割合は、バイオセンサ電極用皮膜が安定した電位を示すことができる程度に適宜調整することができる。
【0031】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、前記多価アルコール、カルボキシメチルセルロース塩及び電解質を80質量%以上含むことが好ましく、90質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、前記多価アルコール、カルボキシメチルセルロース塩及び電解質のみからなるものであってもよい。
【0032】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、含水率が50質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましく、10質量%以下であることが特に好ましい。
【0033】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、多価アルコール、カルボキシメチルセルロース塩、及び、電解質を含むことで、薄膜化が可能である。例えば、本発明のバイオセンサ電極用皮膜の厚みは、0.5mm以下であることが好ましく、0.3mm以下であることがより好ましく、0.2mm以下であることがさらに好ましく、0.15mm以下であることが特に好ましい。本発明のバイオセンサ電極用皮膜の厚みは、例えば、0.01mm以上、好ましくは0.02mm以上、さらに好ましくは0.03mm以上、特に好ましくは0.05mm以上である。
【0034】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜を形成する方法は特に限定されない。例えば、カルボキシメチルセルロース塩の水溶液と、多価アルコールと、電解質を所定の割合で混合することでコーティング液を調製し、このコーティング液を用いて、本発明のバイオセンサ電極用皮膜を形成することができる。カルボキシメチルセルロース塩の水溶液の濃度は特に限定されず、例えば、0.1~5質量%濃度とすることができる。コーティング液は前記架橋剤を含まないことが好ましい。
【0035】
コーティング液を用いた皮膜の形成方法も特に限定されない。例えば、コーティング液を塗布して形成した塗膜を形成する方法、コーティング液を型枠内に充填して乾燥させる方法によって、本発明のバイオセンサ電極用皮膜が形成され得る。
【0036】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、バイオセンサ電極に適用することで、バイオセンサ電極の応答性を向上させることができ、また、薄膜化が可能であるので、電極の小型化も実現しやすい。従来バイオセンサ電極に使用されていたハイドロゲルは薄膜化が難しいものであったのに対し、本発明のバイオセンサ電極用皮膜は薄膜化が容易である。
【0037】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、各種のバイオセンサ電極に適用することができ、特に本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、グルコース、乳酸等の検出性能に優れるものであることから、バイオセンサ電極が汗成分を検出するための電極、汗中のグルコース及び/又は乳酸を検出するための電極に好適に使用することができる。
【0038】
2.バイオセンサ電極
本発明のバイオセンサ電極用皮膜が適用できるバイオセンサ電極は特に限定されない。すなわち、バイオセンサ電極は、本発明のバイオセンサ電極用皮膜を備える限り、公知のバイオセンサ電極と同様とすることができる。
【0039】
例えば、バイオセンサ電極は、基板と、基板上に形成された電極と、電極上に形成された検知素子層と、検知素子層上に形成されたバイオセンサ電極用皮膜を少なくとも備えることができる。
【0040】
基板は、例えば、絶縁性材料で形成されている各種基材を広く挙げることができ、例えば、樹脂版、ガラス板、Si(シリコン)、紙等を挙げることができる。樹脂板としては、シリコーン、ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリイミド、ポリパラキシリレン(パリレン(登録商標))、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルエーテルケトン等を挙げることができる。
【0041】
電極は、前記基板上に形成されるものであり、通常、作用電極、参照電極及び対極が形成される。作用電極は、例えば、後記する酵素と汗等の成分とが反応して変化する電流あるいは電位を検出することができる。作用電極で検出される電流の変化は、例えば、酵素と汗が反応して生じた酸化還元物質と作用電極の電子授受により生じる応答である。参照電極は、作用電極に対する基準電位を示すもので、汗等の成分の影響などにより電位が大きく変動しないように形成され得る。対極、作用電極と対をなして電流が流れる回路を形成するものであり、参照電極への通電を極力抑えることで安定した基準電位を示させるものである。
【0042】
上記各電極を基板上に形成する方法は特に限定されず、例えば、公知の電極を形成する方法を広く採用することができる。各電極は、例えば、カーボン、金属を含む材料、導電性高分子等で形成することができる。
【0043】
電極を形成する方法の一例として、水性カーボンインクを用いる方法を用いたスクリーン印刷法を挙げることができる。斯かる水性カーボンインクは、カーボンと、分散剤とを含む分散液が例示される。カーボンとしては、ケッチェンブラック、カーボンナノチューブ、グラファイト等を挙げることができる。分散剤としては、ヒドロキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、及びそのアルカリ金属塩、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース等のセルロース類;その他の水溶性高分子化合物;ポリウレタン樹脂等を挙げることができる。スクリーン印刷の方法も特に限定されず、公知のスクリーン印刷を広く採用することができる。
【0044】
参照電極には、例えば、は銀/塩化銀ペーストを塗布することができる。すなわち、参照電極は、Ag/AgCl電極を使用することができる。
【0045】
電極の形状も特に限定されず、例えば、公知のバイオセンサ電極の電極形状と同じ形状とすることができる。
【0046】
検知素子層は電極上に形成されるものであって、検出対象となる成分を検出するための層である。例えば、検知素子層は乳酸やグルコース、その他汗成分を検出することができる層である。この観点から、検知素子層は、例えば、酵素、抗体、イオノフォア、核酸(DNA、RNA)、アプタマー、人工受容体、細胞、微生物、組織、臓器等を含むことができる。検知素子層は、汗成分と選択的に安定して反応する点から、酵素、抗体、イオノフォア、核酸(DNA、RNA)、アプタマー、人工受容体を用いることができ、中でも酵素が好ましい。酵素としては、グルコース脱水素酵素、乳酸酸化酵素等が例示される。
【0047】
検知素子層は、メディエーターを含むこともできる。メディエーターの種類は特に限定されず、例えば、バイオセンサ電極で用いられるメディエーターを広く挙げることができる。メディエーターは、例えば、公知のプルシンブルー(PB)含有カーボンペーストで形成することができ、その他、1,2-ナフトキノンで形成することもできる。
【0048】
以上より、検知素子層は、酵素及びメディエーターを含む層とすることができる。検知素子層は、単層構造であってもよく、積層構造であってもよい。積層構造の場合、例えば、酵素を含む層と、メディエーターを含む層が積層された構造を有することができる。
【0049】
検知素子層が、酵素及びメディエーターを含む場合、酵素及びメディエーターの含有割合は特に限定されず、例えば、公知の検知素子層と同様とすることができる。
【0050】
検知素子層は、作用電極上に形成されていることが好ましい。検知素子層は、作用電極上の一部分のみ形成することができる。
【0051】
検知素子層は、例えば、酵素及びメディエーターを含む溶液を用いて形成することができる。酵素及びメディエーターを含む溶液において、溶媒は、水、炭素数1~3のアルコール及びこれらの混合溶媒を挙げることができる。酵素及びメディエーターを含む溶液は、例えば、酵素のリン酸緩衝液と、メディエーターを含む前記アルコール溶液とを混合することで調製することができる。
【0052】
検知素子層上には、必要に応じて保護層を設けることもできる。保護層は、例えば、高分子化合物で形成することができ、具体的には、ポリウレタン樹脂等が挙げられる。保護層は、例えば、高分子化合物の水溶液又は水分散液を用いて形成することができる。保護層は、検知素子層上に形成することができる。保護層は、検知素子層上のみならず、検知素子層が形成されていない作用電極上にも形成することができる。
【0053】
本発明のバイオセンサ電極用皮膜は、前記検知素子層を覆うように設けられる。より具体的には、バイオセンサ電極用皮膜は、作用電極、参照電極及び対極の一部又は全部を覆うように貼付した。ただし、前記検知素子層は、その全面をバイオセンサ電極用皮膜で覆うことが好ましい。前記検知素子層が保護層で覆われている場合は、前記検知素子層とバイオセンサ電極用皮膜との間には保護層が介在する。
【0054】
バイオセンサ電極は本発明のバイオセンサ電極用皮膜を備えるので、応答性に優れるものであり、とりわけ、グルコース、乳酸等の検出性能に優れるものである。従って、バイオセンサ電極は汗成分センサ用電極として特に好適に使用することができる。
【0055】
バイオセンサ電極は、例えば、タッチ式の電気化学センサを構築することができ、例えば、指等の人体に接することで検出対象の成分を検出することが可能となる。この場合、例えば、指等の人体がバイオセンサ電極に形成された検知素子層上のバイオセンサ電極用皮膜に触れることで、所望の成分を検出することができる。バイオセンサ電極は、液体中でも対象とする成分を検出することもできる。
【0056】
バイオセンサ電極を用いた対象成分の検出は、種々の電気化学測定法により行うことができ、例えば、クロノアンペロメトリ測定により、電流応答特性を評価することで、対象成分の検出性能を判断することができる。
【0057】
本開示に包含される発明を特定するにあたり、本開示の各実施形態で説明した各構成(性質、構造、機能等)は、どのように組み合わせられてもよい。すなわち、本開示には、本明細書に記載される組み合わせ可能な各構成のあらゆる組み合わせからなる主題が全て包含される。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の態様に限定されるものではない。
【0059】
後記する実施例で皮膜を作製するにあたって使用した原料は以下の(使用原料)のとおりである。
【0060】
(使用原料)
<カルボキシメチルセルロースナトリウム塩>
・C-1:第一工業製薬株式会社製「セロゲン6HS9」(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、1質量%水溶液粘度(25℃):3000mPa・s、エーテル化度:0.80)
・C-2:第一工業製薬株式会社製「セロゲンBSH-12」(カルボキシメチルセルロースナトリウム塩、1質量%水溶液粘度(25℃): 6000mPa・s、エーテル化度:0.65)
<電解質水溶液>
・DPBS:ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水(2.7mM KCl、137mM NaCl、1.5mM KHPO、8.1mM NaHPO、pH7.4)
<多価アルコール>
・グリセリン(ナカライテスク社製)
・ジエチレングリコールモノエチルエーテル(ナカライテスク社製)
・ブチレングリコール
・ポリエチレングリコール200(富士フィルム和光純薬社製)
【0061】
(実施例1)
C-1を1gと、防腐剤として2-フェノキシエタノール(富士フィルム和光純薬社製)1gと、純水98gとを混合し、ディスパーで攪拌して溶解させ、1%のカルボキシメチルセルロースナトリウム水溶液(以下、CMC水溶液と表記する)を得た。得られたCMC水溶液22gと、グリセリン0.8gと、電解質としてのDPBS0.8gとを混合し、スターラーで攪拌し、コーティング液を得た。このコーティング液5gを59.5mm×28.5mmの角型ケースに流し、25℃で24時間乾燥させ水分を揮発させた。これにより、厚み110μmのバイオセンサ電極用皮膜A1を得た。乾燥前後の質量変化から90%以上の水分が揮発したことを確認した。
【0062】
(実施例2)
C-1の代わりにC-2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、厚み110μmのバイオセンサ電極用皮膜A2を得た。
【0063】
(実施例3)
CMC水溶液の使用量を44gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、厚み130μmのバイオセンサ電極用皮膜A3を得た。
【0064】
(実施例4)
CMC水溶液の使用量を11gに変更したこと以外は実施例1と同様の方法で、厚み90μmのバイオセンサ電極用皮膜A4を得た。
【0065】
(実施例5)
グリセリンの代わりにジエチレングリコールモノエチルエーテルを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、厚み90μmのバイオセンサ電極用皮膜A5を得た。
【0066】
(実施例6)
グリセリンの代わりにブチレングリコールを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、厚み100μmのバイオセンサ電極用皮膜A6を得た。
【0067】
(実施例7)
グリセリンの代わりにポリエチレングリコール200を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で、厚み100μmのバイオセンサ電極用皮膜A7を得た。
【0068】
(適用例1)
図1に示すように、基板1上に作用電極2、参照電極3及び対極4を備えるバイオセンサ電極を作製した。なお、図1(a)は、バイオセンサ電極の平面図であって、電極側の表面を示す概略図、図1(b)は、作用電極2に沿って電極を切断したときの概略断面図である。まず、ケッチェンブラック水分散体(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製「ライオンペーストW376R」、固形分17.5質量%)56g、カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬株式会社製「セロゲンBSH-6」)1.2g、水系ウレタン樹脂(第一工業株式会社製「スーパーフレックス500M」)2g及び純水39.8gを混合してディスパーで分散して、水性カーボンインキを得た。次いで、得られた水性カーボンインキをスクリーン印刷機で基板1(PET基板)に塗工し、80℃で10分間乾燥させて、作用電極2、参照電極3及び対極4からなる印刷電極を得た。図1に示すように、作用電極2の端部は、円形(直径3mm)とした。参照電極には銀/塩化銀ペーストを塗布することで銀/塩化銀5を形成し、Ag/AgCl電極とした。
【0069】
次に、作用電極2上に検知素子層6を形成した。まず、PQQグルコース脱水素酵素(東洋紡株式会社製)をpH7.4の0.1mol/mのリン酸緩衝液に10mg/mLとなるように溶解した溶液を調製し、この溶液と、0.5mol/mの1,2-ナフトキノンエタノール溶液とを、1:1(質量比)で混合することで、溶液Aを得た。この溶液Aを、前記作用電極の円形部に10μL滴下し、30℃で1時間乾燥させることで、作用電極2上に、酵素及びメディエーターを含む検知素子層6を形成した。次いで、不揮発分が5質量%になるように純水で希釈した水系ウレタン樹脂(「スーパーフレックス460」第一工業株式会社製、不揮発分36%)を検知素子層6上に6μL滴下し、30℃で1時間乾燥させることで、保護層(図示せず)を形成した。
【0070】
最後に、実施例1で得られたバイオセンサ電極用皮膜A1を直径12mmの円形に切り取り、作用電極2、参照電極3及び対極4の一部を覆うように、前記保護層上に貼り合わせた。この貼り合わせにあたっては、検知素子層6がバイオセンサ電極用皮膜A1の略中心に配置されるようにした。これにより、バイオセンサ電極用皮膜A1が設けられたバイオセンサ電極を得た。
【0071】
図2(a)は、バイオセンサ電極用皮膜が設けられたバイオセンサ電極の平面図であって、電極側の表面を示す概略図、図2(b)は、作用電極2に沿って電極を切断したときの概略断面図である。
【0072】
(参考例1:酵素未修飾電極の作製)
検知素子層6を設けなかったこと以外は適用例1と同様の方法で電極を得た。次いで、実施例1で得られたバイオセンサ電極用皮膜A1を直径12mmの円形に切り取り、作用電極2、参照電極3及び対極4の一部を覆うように、保護層上に貼り合わせた。これにより、酵素未修飾電極を得た。
【0073】
(参考例2:アガロースゲル層を備える酵素電極の作製)
図1に示すバイオセンサ電極を適用例1と同様の手順で作製した後、作用電極2上に、酵素及びメディエーターを含む検知素子層6を適用例1と同様の手順で形成した。検知素子層6を設けた作用電極2上に、不揮発分が5質量%になるように純水で希釈した水系ウレタン樹脂(「スーパーフレックス460」第一工業株式会社製、不揮発分36%)を6μL滴下し、30℃で1時間乾燥させて保護層を形成し、酵素電極を得た。最後に、厚さ0.5mmのシリコーンゴムシートの中央部に直径12mmの円形の穴を形成したシリコーンゴム枠を作製し、酵素電極の作用電極、参照電極、対極が穴から露出するようにシリコーンゴムシートを酵素電極に貼付した。その後、0.04gのアガロース(ナカライテスク社製)を1mLのDPBS溶液に添加し、沸騰させることで溶解させてアガロース溶液を調製し、このアガロース溶液を35℃付近まで冷却させ、シリコーンゴム枠に充填しゲル化させた。これにより、アガロースゲルを備える酵素電極を得た。
【0074】
(試験例1;水溶液中グルコースの検出)
適用例1のバイオセンサ電極を用いてクロノアンペロメトリ測定を行い、グルコースセンサとしての電流応答特性を評価した。装置にはポテンショガルバノスタット(VSP-300、Biologic社製)を用いた。ビーカーに前記DPBSを10mL加え、試験液とした。この試験液をスターラーで攪拌しながら+100mVの定電位を印加した状態で電流測定を開始した。前記印加開始から360秒後に100mMのグルコース水溶液を1μL添加し、試験液中のグルコース濃度を10μMとした。さらに、前記印加開始から480秒で1Mのグルコース溶液を1μL添加し、試験液中の濃度が100μMになるようにした。その後、前記印加開始から600秒で1Mのグルコース溶液を10μL添加し、試験液中のグルコース濃度を1mMとした。前記印加開始から720秒で1Mのグルコース溶液を100μL添加し、試験液中のグルコース濃度を10mMとした。
【0075】
図3は、試験例1で行ったクロノアンペロメトリ測定における電流値の変化を示すグラフである。図3から、適用例1で得た電極は、グルコースの濃度依存的な応答性能を有することがわかる。すなわち、検出電極用皮膜A1を透過したグルコースは、適用例1のバイオセンサ電極で計測可能であることが示された。
【0076】
(試験例2;タッチ式グルコースセンサ)
適用例1のバイオセンサ電極をポテンショガルバノスタット(VSP-300、Biologic社製)と接続し、クロノアンペロメトリ測定を行った。この測定では、適用例1のバイオセンサ電極に+100mVの定電位を印加した状態で電流測定を開始した。
【0077】
図4は、試験例2で行ったクロノアンペロメトリ測定における電流値の変化であって、適用例1のバイオセンサ電極に、印加開始から120秒で被験者1名の人差し指を接触させた時の電位差の変化を示すものである。この接触によって電流値が増加することが確認され、印加開始から150秒の時点で指を離したところ、電流値が減少することも確認された。この結果は、適用例1のバイオセンサ電極がグルコースを検出できることを示している。
【0078】
(参考試験例1)
参考例1で得た酵素未修飾電極を用いた以外は試験例2と同様の方法で、クロノアンペロメトリ測定を行った。
【0079】
図5は、参考試験例1で行ったクロノアンペロメトリ測定における電流値の変化であって、参考例1で得た酵素未修飾電極に、印加開始から120秒で被験者1名の人差し指を接触させた時の電位差の変化を示すものである。この接触によって電流値の変化は見られず、また、印加開始から150秒の時点で指を離しても電流値の変化は認められなかった。この結果は、グルコース以外の汗成分が電極と直接反応して電位応答を生じることはほとんどないことを示している。
【0080】
この参考試験例1及び前述の試験例2の結果を勘案すれば、適用例1で得たバイオセンサ電極がグルコースを精度よく検出できることが明らかである。
【0081】
(比較試験例1)
参考例2で得たアガロースゲル層を備える酵素電極を用いたこと以外は試験例2と同様の方法で、クロノアンペロメトリ測定を行った。この測定の結果、印加開始から120秒の時点で指を接触させたところ、約20秒のタイムラグの後に電流値の増加が認められ、また、印加開始から150秒の時点で指を離したところ、約20秒のタイムラグの後に電流値の減少が認められた。
【0082】
従って、参考例2で得たアガロースゲル層を備える酵素電極もグルコースに対する応答する性質を有するものの、応答性能は、適用例1で得たバイオセンサ電極の方が優れていることがわかった。
【0083】
(適用例2-1)
乳酸酸化酵素(ナカライテスク株式会社)をpH7.4の0.1mol/mのリン酸緩衝液に10mg/mLとなるように溶解した溶液を調製し、この溶液と、0.5mol/mの1,2-ナフトキノンエタノール溶液とを、1:1(質量比)で混合することで、溶液Bを得た。この溶液Bを溶液Aの代わりに用いたこと以外は適用例1と同様の方法により、バイオセンサ電極用皮膜A1が設けられたバイオセンサ電極を得た。
【0084】
(適用例2-2)
バイオセンサ電極用皮膜A1の代わりに実施例2で得られたバイオセンサ電極用皮膜A2を用いたこと以外は適用例2-1と同様の方法で、バイオセンサ電極を得た。
【0085】
(適用例2-3)
バイオセンサ電極用皮膜A1の代わりに実施例3で得られたバイオセンサ電極用皮膜A3を用いたこと以外は適用例2-1と同様の方法で、バイオセンサ電極を得た。
【0086】
(適用例2-4)
バイオセンサ電極用皮膜A1の代わりに実施例4で得られたバイオセンサ電極用皮膜A4を用いたこと以外は適用例2-1と同様の方法で、バイオセンサ電極を得た。
【0087】
(適用例2-5)
バイオセンサ電極用皮膜A1の代わりに実施例5で得られたバイオセンサ電極用皮膜A5を用いたこと以外は適用例2-1と同様の方法で、バイオセンサ電極を得た。
【0088】
(適用例2-6)
バイオセンサ電極用皮膜A1の代わりに実施例6で得られたバイオセンサ電極用皮膜A6を用いたこと以外は適用例2-1と同様の方法で、バイオセンサ電極を得た。
【0089】
(適用例2-7)
バイオセンサ電極用皮膜A1の代わりに実施例7で得られたバイオセンサ電極用皮膜A7を用いたこと以外は適用例2-1と同様の方法で、バイオセンサ電極を得た。
【0090】
(試験例3-1;乳酸の検出)
適用例2-1のバイオセンサ電極を用いてクロノアンペロメトリ測定を行い、乳酸センサとしての電流応答特性を評価した。装置にはポテンショガルバノスタット(VSP-300、Biologic社製)を用いた。ビーカーに前記DPBSを10mL加え、試験液とした。この試験液をスターラーで攪拌しながら+100mVの定電位を印加した状態で電流測定を開始した。前記印加開始から120秒後に100mMの乳酸水溶液を1μL添加し、試験液中の乳酸濃度を100μMとして電流変化をモニターした。
【0091】
(試験例3-2;乳酸の検出)
試験液中の乳酸濃度を1mMに変更したこと以外は試験例3―1と同様の方法で電流変化をモニターした。
【0092】
(試験例3-3;乳酸の検出)
試験液中の乳酸濃度を10mMに変更したこと以外は試験例3―1と同様の方法で電流変化をモニターした。
【0093】
(試験例3-4;乳酸の検出)
試験液中の乳酸濃度を100mMに変更したこと以外は試験例3―1と同様の方法で電流変化をモニターした。
【0094】
図6は、試験例3-1、3-2、3-3及び3-4の測定における電流変化を示す結果である。この結果から、乳酸の濃度が増加すると電流値の上昇が認められたことから、適用例2-1で得た電極は、乳酸の濃度依存的な応答性能を有することがわかる。すなわち、検出電極用皮膜A1を透過した乳酸は、適用例2-1のバイオセンサ電極で計測可能であることが示された。
【0095】
(試験例4-1;タッチ式乳酸センサ)
適用例2-1のバイオセンサ電極をポテンショガルバノスタット(VSP-300、Biologic社製)と接続し、クロノアンペロメトリ測定を行った。この測定では、適用例2-1のバイオセンサ電極に+100mVの定電位を印加した状態で電流測定を開始した。適用例2-1のバイオセンサ電極に、印加開始から60秒で被験者1名の人差し指を接触させると、217nAの電流値の増加が確認された。この結果は、適用例2-1のバイオセンサ電極が乳酸を検出できることを示している。
【0096】
(試験例4-2;タッチ式乳酸センサ)
適用例2-1のバイオセンサ電極の代わりに適用例2-2のバイオセンサ電極を用いたこと以外は試験例4-1と同様の方法でクロノアンペロメトリ測定を行った。適用例2-2のバイオセンサ電極に、印加開始から60秒で被験者1名の人差し指を接触させると、220nAの電流値の増加が確認された。この結果は、適用例2-2のバイオセンサ電極が乳酸を検出できることを示している。
【0097】
(試験例4-3;タッチ式乳酸センサ)
適用例2-1のバイオセンサ電極の代わりに適用例2-3のバイオセンサ電極を用いたこと以外は試験例4-1と同様の方法でクロノアンペロメトリ測定を行った。適用例2-3のバイオセンサ電極に、印加開始から60秒で被験者1名の人差し指を接触させると、131nAの電流値の増加が確認された。この結果は、適用例2-3のバイオセンサ電極が乳酸を検出できることを示している。
【0098】
(試験例4-4;タッチ式乳酸センサ)
適用例2-1のバイオセンサ電極の代わりに適用例2-4のバイオセンサ電極を用いたこと以外は試験例4-1と同様の方法でクロノアンペロメトリ測定を行った。適用例2-4のバイオセンサ電極に、印加開始から60秒で被験者1名の人差し指を接触させると、192nAの電流値の増加が確認された。この結果は、適用例2-4のバイオセンサ電極が乳酸を検出できることを示している。
【0099】
(試験例4-5;タッチ式乳酸センサ)
適用例2-1のバイオセンサ電極の代わりに適用例2-5のバイオセンサ電極を用いたこと以外は試験例4-1と同様の方法でクロノアンペロメトリ測定を行った。適用例2-5のバイオセンサ電極に、印加開始から60秒で被験者1名の人差し指を接触させると、162nAの電流値の増加が確認された。この結果は、適用例2-5のバイオセンサ電極が乳酸を検出できることを示している。
【0100】
(試験例4-6;タッチ式乳酸センサ)
適用例2-1のバイオセンサ電極の代わりに適用例2-6のバイオセンサ電極を用いたこと以外は試験例4-1と同様の方法でクロノアンペロメトリ測定を行った。適用例2-6のバイオセンサ電極に、印加開始から60秒で被験者1名の人差し指を接触させると、152nAの電流値の増加が確認された。この結果は、適用例2-6のバイオセンサ電極が乳酸を検出できることを示している。
【0101】
(試験例4-7;タッチ式乳酸センサ)
適用例2-1のバイオセンサ電極の代わりに適用例2-7のバイオセンサ電極を用いたこと以外は試験例4-1と同様の方法でクロノアンペロメトリ測定を行った。適用例2-7のバイオセンサ電極に、印加開始から60秒で被験者1名の人差し指を接触させると、134nAの電流値の増加が確認された。この結果は、適用例2-7のバイオセンサ電極が乳酸を検出できることを示している。
【符号の説明】
【0102】
1:基板
2:作用電極
3:参照電極
4:対極
5:銀/塩化銀
6:検知素子層
7:バイオセンサ電極用皮膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6