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特開2024-155015画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155015
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G06T 1/00 20060101AFI20241024BHJP
   G06T 7/00 20170101ALI20241024BHJP
【FI】
G06T1/00 290Z
G06T7/00 612
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069351
(22)【出願日】2023-04-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-29
(71)【出願人】
【識別番号】500550980
【氏名又は名称】株式会社中京メディカル
(71)【出願人】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100131048
【弁理士】
【氏名又は名称】張川 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100174377
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100215038
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 友子
(72)【発明者】
【氏名】市川 一夫
(72)【発明者】
【氏名】田中 清
(72)【発明者】
【氏名】横山 翔
(72)【発明者】
【氏名】田中 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】安澤 幸輔
【テーマコード(参考)】
5B057
5L096
【Fターム(参考)】
5B057AA07
5B057BA02
5B057CA02
5B057CA08
5B057CA12
5B057CA16
5B057CB02
5B057CB06
5B057CB12
5B057CB16
5B057CE12
5B057DA03
5B057DA08
5B057DB02
5B057DB05
5B057DB08
5B057DC03
5B057DC08
5B057DC09
5B057DC36
5L096AA03
5L096AA06
5L096BA06
5L096BA13
5L096CA17
5L096DA01
5L096DA02
5L096EA12
5L096EA35
5L096EA43
5L096FA03
5L096FA04
5L096FA53
5L096FA54
5L096FA55
5L096FA62
5L096FA64
5L096FA66
5L096FA67
5L096FA69
5L096GA22
5L096GA24
5L096GA32
5L096GA51
5L096GA55
5L096JA11
5L096JA16
(57)【要約】
【課題】水晶体の混濁判定がしやすい水晶体混濁判定用の画像を得ることができる画像処理装置、画像処理方法又はプログラムを提供する。
【解決手段】画像処理装置4は、撮影装置2が撮影した水晶体の徹照画像を取得し、その徹照画像中の照明ムラを小さくするフラット補正処理を行う。フラット補正処理では、徹照画像の原画像に基づいて平均値フィルタを作成し、原画像を平均値フィルタで除算し、除算後の値に原画像の平均輝度を乗算する。フラット補正処理後の徹照画像を白と黒の2値化画像に変換する。この2値化画像に基づいて、水晶体混濁を判定する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶体の徹照画像を取得する取得部と、
前記徹照画像中の照明ムラを小さくする補正を行う補正部と、
前記補正後の前記徹照画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理部と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記2値化画像に基づいて水晶体の混濁を判定する判定部を備える請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記補正部は、
前記徹照画像から平均値フィルタを作成するフィルタ作成部と、
前記徹照画像の各画素値を前記平均値フィルタで除算する除算部と、
前記除算部により除算された後の前記徹照画像の各画素値に、前記徹照画像の平均輝度を乗算する乗算部と、
を備える請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記2値化画像に基づいて水晶体皮質の混濁領域である皮質混濁領域を検出する皮質混濁検出部を備える請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記皮質混濁検出部は、
瞳孔の中心領域とそれ以外の周辺領域とを特定する領域特定部と、
前記2値化画像に表された各混濁領域の中心である混濁中心を取得する混濁中心取得部と、
前記2値化画像に表された各混濁領域の近似直線を取得する近似直線取得部と、
前記混濁中心が前記周辺領域に位置し、かつ、前記近似直線が前記中心領域に重なる前記混濁領域を前記皮質混濁領域と判定する皮質混濁判定部と、
を備える請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記皮質混濁検出部が検出した前記皮質混濁領域の大きさを判定する混濁大きさ判定部を備える請求項4又は5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記2値化画像に基づいて水晶体後嚢下の混濁領域である後嚢下混濁領域を検出する後嚢下混濁検出部を備える請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記後嚢下混濁検出部は、
前記2値化画像に表された各混濁領域の中心である混濁中心を取得する混濁中心取得部と、
前記2値化画像に表された各混濁領域のうち、前記混濁中心と水晶体の中心との距離が最小の前記混濁領域を前記後嚢下混濁領域と判定する後嚢下混濁判定部と、
を備える請求項7に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記後嚢下混濁検出部が検出した前記後嚢下混濁領域の大きさを判定する混濁大きさ判定部を備える請求項7又は8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記判定部は、前記2値化画像に基づいて水晶体の混濁の程度を判定する混濁度判定部を備える請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項11】
水晶体の徹照画像を取得する取得ステップと、
前記徹照画像中の照明ムラを小さくする補正を行う補正ステップと、
前記補正後の前記徹照画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理ステップと、
を備える画像処理方法。
【請求項12】
水晶体の徹照画像を取得する取得ステップと、
前記徹照画像中の照明ムラを小さくする補正を行う補正ステップと、
前記補正後の前記徹照画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理ステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、水晶体の徹照画像を処理する画像処理装置、画像処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
白内障の検査として水晶体の徹照画像に基づいて水晶体の混濁の有無や程度を判定する検査がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】北舞,”年齢を考慮した白内障手術適応”,日本白内障学会誌,2017年,Vol.29,p.56-61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来では、水晶体の混濁判定は医師等の主観評価により行われるので、評価者の経験などにより評価(混濁判定)に違いがでるという問題がある。
【0005】
本開示は上記問題に鑑みてなされ、水晶体の混濁判定がしやすい水晶体混濁判定用の画像を得ることができる画像処理装置、画像処理方法又はプログラムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の画像処理装置は、
水晶体の徹照画像を取得する取得部と、
前記徹照画像中の照明ムラを小さくする補正を行う補正部と、
前記補正後の前記徹照画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理部と、
を備える。
【0007】
本開示の画像処理方法は、
水晶体の徹照画像を取得する取得ステップと、
前記徹照画像中の照明ムラを小さくする補正を行う補正ステップと、
前記補正後の前記徹照画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理ステップと、
を備える。
【0008】
本開示のプログラムは、
水晶体の徹照画像を取得する取得ステップと、
前記徹照画像中の照明ムラを小さくする補正を行う補正ステップと、
前記補正後の前記徹照画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理ステップと、
をコンピュータに実行させる。
【0009】
本開示の画像処理装置、画像処理方法又はプログラムによれば、徹照画像中の照明ムラを小さくしたうえで、徹照画像の画素値を2値化するので、水晶体の混濁判定がしやすい水晶体混濁判定用の画像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】画像処理システムの構成図である。
図2】画像処理装置のCPUが実行する水晶体混濁判定処理のフローチャートである。
図3図2の処理に続く処理のフローチャートである。
図4】水晶体の徹照画像の原画像の一例である。
図5図4の画像に対してメディアンフィルタを適用した後の画像である。
図6】水晶体領域を白色、それ以外の領域を黒色とした2値化画像である。
図7図6の画像に対して余分な黒色領域を切り取った後の水晶体マスク画像である。
図8図2のステップS3で抽出される水晶体領域の徹照画像の一例であって、フラット補正前の徹照画像である。
図9】フラット補正処理前と後のそれぞれの画像における、X座標に対する輝度の変化を示す図である。
図10図2のステップS4のフラット補正処理の詳細な処理のフローチャートである。
図11】平均値フィルタの作成方法を説明する図であって、原画像の画素値と平均値フィルタのマス目とを示すとともに、マス目の一部に値が定められた様子を示す図である。
図12】平均値フィルタの作成方法を説明する図であって、原画像の画素値と平均値フィルタのマス目とを示すとともに、図11に続いてマス目の一部に値が定められた様子を示す図である。
図13】原画像の画素値を平均値フィルタで除算することを示す図である。
図14】原画像の画素値と平均値フィルタとの除算値に原画像の平均輝度を乗算することを示す図である。
図15】フラット補正処理後の水晶体徹照画像の一例である。
図16】フラット補正処理後の徹照画像と、その徹照画像の2値化画像とを例示した図である。
図17図16の右の画像と、図7のマスク画像との排他的論理和の処理により得られた画像である。
図18】瞳孔(水晶体)の中心領域と周辺領域とを示す図である。
図19】瞳孔中心領域のマスク画像である。
図20】瞳孔中心領域の混濁を抽出した図である。
図21】皮質混濁の検出のアルゴリズムを説明する図であって、水晶体混濁の2値化画像中に、注目混濁領域の中心及び近似直線を図示した図である。
図22図3のステップS11の皮質混濁抽出処理の詳細な処理のフローチャートである。
図23】瞳孔(水晶体)の周辺領域のマスク画像である。
図24】皮質混濁に該当する混濁領域を例示した図である。
図25】皮質混濁に該当しない混濁領域を例示した図である。
図26図3のステップS12の皮質評価処理の詳細な処理のフローチャートである。
図27】抽出された皮質混濁の画像の一例である。
図28】皮質混濁の角度を算出する様子を示す図である。
図29図3のステップS13の後嚢下混濁抽出処理の詳細な処理のフローチャートである。
図30】ステップS5で得られる混濁画像の一例であって、各混濁領域の中心と水晶体中心との距離を算出する様子を示す図である。
図31図3のステップ13で抽出される後嚢下混濁の徹照像の一例である。
図32】水晶体の徹照像の原画像と、フラット補正処理無の2値化画像と、フラット補正処理有の2値化画像との一例である。
図33】水晶体の徹照像の原画像と、フラット補正処理無の2値化画像と、フラット補正処理有の2値化画像との一例である。
図34】水晶体の徹照像の原画像と、フラット補正処理無の2値化画像と、フラット補正処理有の2値化画像との一例である。
図35】水晶体の徹照像の原画像と、フラット補正処理無の2値化画像と、フラット補正処理有の2値化画像との一例である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態を図面を参照しつつ説明する。図1は本実施形態の画像処理システム1(以下、単にシステムという場合がある)を示している。システム1は、白内障を検査するため、又は白内障と診断された眼に対して白内障手術の方法などを決定するために、水晶体の徹照画像に基づいて水晶体の混濁を判定するシステム(水晶体混濁判定システム)である。
【0012】
システム1は、撮影装置2と表示部3と画像処理装置4とを備える。撮影装置2は、例えば細隙灯顕微鏡であり、混濁判定対象の水晶体を含んだ眼球の徹照像を撮影する装置である。撮影装置2は、眼球に光を照射して、その照射光が眼球の網膜(眼底)で反射することにより形成された反射光で水晶体を照明し、その照明状態の眼球(水晶体)の正面像を撮影する。
【0013】
撮影装置2は、例えばグレースケールの徹照画像を出力する。この徹照画像の階調数は例えば256階調である。256階調のグレースケール画像では、各画素値が「0」~「255」のいずれかの値で与えられる。画素値「0」は黒を示し、画素値「255」は白を示し、画素値「1」~「254」は濃淡(明暗)が互いに異なる灰色を示している。灰色は、画素値が大きいほど白に近づく。また、画素値が大きいほど、高輝度であることを示す。撮影装置2で撮影された徹照画像は画像処理装置4に送られる。
【0014】
表示部3は、撮影装置2で撮影された徹照画像や、画像処理装置4で処理された画像などを表示する。表示部3は例えば液晶ディスプレイであるが、プラズマディスプレイ、有機ELディスプレイなど他の方式のディスプレイでもよい。
【0015】
画像処理装置4はシステム1の全体的制御を司る部位である。画像処理装置4は、通常のコンピュータと同様の構成を有し、すなわちCPU5、RAM、ROM等から構成される。
【0016】
画像処理装置4は記憶部6を備える。記憶部6は、不揮発性記憶部であり、コンピュータによって読み取り可能なプログラム及びデータを非一時的に格納する非遷移的実体的記憶媒体(non-transitory tangible storage medium)である。非遷移的実体的記憶媒体は半導体メモリ又は磁気ディスクなどによって実現される。なお、記憶部6は、画像処理装置4に内蔵された内蔵記憶部として構成されてもよいし、画像処理装置4に外付けされた外付記憶部として構成されてもよい。記憶部6には、CPU5が実行する処理のプログラム7など各種データが記憶されている。
【0017】
以下、画像処理装置4のCPU5がプログラム7に基づいて実行する処理の詳細を説明する。図2図3はその処理の一例を示すフローチャートである。図2図3の処理は水晶体の混濁を判定する処理である。図2の処理を開始すると、CPU5は、撮影装置2が撮影した徹照画像を取得する(S1)。図4は、ステップS1で取得する徹照画像を例示している。ステップS1で取得する徹照画像(図4の画像)は、円形の瞳孔領域(水晶体領域)101とその周囲の領域(虹彩領域)102とを含む。なお、ステップS1を実行するCPU5が本開示の取得部に相当する。ステップS1が本開示の取得ステップに相当する。
【0018】
次に、ステップS1で取得した徹照画像に基づいて、水晶体領域を抽出するためのマスク画像を作成する(S2)。具体的には、先ず、徹照画像中の水晶体領域(瞳孔領域)を明瞭にする処理を行う。ここでは、例えば、ステップS1で取得した原画像に対してメディアンフィルタを適用する。メディアンフィルタは、周辺画素値の大きさを順に並べ、メディアン(中央値)を注目画素に置き換える処理である。図5は、図4の画像に対してメディアンフィルタを適用した後の画像を示している。図5に示すように、水晶体領域101とそれ以外の領域102との境界が明瞭になっている。
【0019】
次に、メディアンフィルタ後の画像の各画素値を、しきい値を境にして白(最大画素値(輝度値)=255)と黒(最小画素値(輝度値)=0)のいずれかに変換する2値化処理を行う。具体的には、各画素値を、しきい値以上の場合に白の画素値に、しきい値より小さい場合に黒の画素値に変換する。しきい値は、水晶体領域が白の画素値、それ以外の領域が黒の画素値となるように設定する。この際、水晶体領域中に混濁領域が有る場合であっても、その混濁領域も白の画素値となるように、しきい値を設定する。図6は、図5の画像に対して2値化処理後の画像(2値化画像)を示している。
【0020】
次に、図6の2値化画像中の余分な黒色領域を切り取る。図7は、図6の画像に対して余分な黒色領域を切り取った後の画像を示している。図7の画像は、水晶体領域に対応する領域の画素値が最大画素値(=「255」)、それ以外の領域の画素値が最小画素値(=「0」)であるマスク画像である。言い換えれば、図7の画像は、水晶体領域に対応する領域が開き、それ以外の領域を隠したマスク画像である。以上がステップS2の処理である。
【0021】
図2に戻って、次に、ステップS2で作成したマスク画像を、ステップS1で取得した原画像(徹照画像)に適用することで、原画像中の水晶体領域を抽出する(S3)。このように、水晶体のマスク画像を用いることで、正確な水晶体領域を抽出できる。図8は、ステップS3で抽出された水晶体領域の徹照画像を例示している。また、図9の分布110は、図8の画像の、X軸に沿った輝度変化を示している。図9の横軸はX軸上の座標(X座標)であり、縦軸は輝度値(画素値)である。図8の画像では、撮影装置2による照明のスポット光を示す像115を含んでいる。この像115は、水晶体領域の中心付近に位置する。図9に示すように、分布110の中心は、図8の像115に対応して極大輝度を示している。分布110は、極大輝度を示す中心から外側に向かって徐々に輝度が低くなる。このように、撮影装置2で撮影される原画像には照明ムラが存在する。
【0022】
そこで、次に、ステップS3で抽出された水晶体領域の画像中の照明ムラ(撮影装置2の照射光のムラ)を小さくする補正を行う(S4)。ステップS4では、撮影装置2にて眼球に照射される照射光に起因した、画像の領域間の輝度変化の勾配(輝度極大を示す中心位置から外側に向かって変化する輝度の勾配)を小さくする(平坦に近づける)フラット補正処理を行う。フラット補正処理として、例えば図10のフローチャートの処理を行う。
【0023】
図10の処理では、先ず、ステップS3で抽出された水晶体領域の原画像(徹照画像)に基づいて平均値フィルタを作成する(S20)。図11図12は平均値フィルタの作成方法を説明する図である。図11図12では、原画像の各画素値を例示しており、濃いハッチング部分が注目画素、薄いハッチング部分が注目画素の周囲の画素を示している。注目画素及びその周囲の画素の各画素値の平均値を求め、その平均値を、平均値フィルタの、注目画素に対応する位置の値とする。図11の例では、注目画素値「58」とその周囲の画素値との平均値が「53」となるので、注目画素値「58」に対応する平均値フィルタの値が「53」となる。図12の例では、注目画素値「21」とその周囲の画素値との平均値が「55」となるので、注目画素値「21」に対応する平均値フィルタの値が「55」となる。上記処理を、各画素に対して行うと、図13に示す平均値フィルタが得られる。
【0024】
次に、ステップS3で抽出された画像の各画素値を、ステップS20で得られた平均値フィルタで除算する(S21)。図13は、左から、原画像の画素値、平均値フィルタ、原画像の画素値を平均値フィルタで除算することで得られた除算値を示している。
【0025】
次に、ステップS21で得られた各除算値(平均値フィルタで除算された後の各画素値)に、ステップS3で得られた水晶体領域の原画像全体の平均輝度(原画像の各画素値の平均値)を乗算する(S22)。図14は、左から、ステップS21で得られた除算値(除算後の画素値)、原画像の平均輝度、それらを乗算することにより得られた補正後画素値を示している。図13の原画像の画素値と、図14の補正後画素値とに示されるように、注目画素とその周囲の画素との輝度変化が小さい領域の輝度(画素値)は、画像全体の平均輝度付近の値に収束するように補正される。これに対して、注目画素とその周囲の画素との輝度変化が大きい領域の輝度(例えば図13の原画像における画素値が「21」、「69」の領域)は、原画像の値に近い輝度となるように補正される。
【0026】
図15は、図8の画像に対してステップS4のフラット補正処理(図10の処理)を行った後の画像を示している。図9の分布111は、図15の画像のX軸に沿った輝度変化を示している。分布111は、フラット補正処理前の分布110に比べて、中心から外側に向かう輝度変化の勾配が小さくなっている。また、フラット補正処理前の分布110の、輝度変化の大きい部分の輝度情報(高周波情報)は、フラット補正処理後の分布111にも現われている。これによって、フラット補正処理により水晶体の混濁領域が消失又は不明瞭になってしまうのを抑制できる。
【0027】
なお、ステップS4を実行するCPU5が本開示の補正部に相当する。ステップS4が補正ステップに相当する。ステップS20を実行するCPU5がフィルタ作成部に相当する。ステップS20がフィルタ作成ステップに相当する。ステップS21を実行するCPU5が除算部に相当する。ステップS21が除算ステップに相当する。ステップS22を実行するCPU5が乗算部に相当する。ステップS22が乗算ステップに相当する。
【0028】
図2に戻って、次に、ステップS4のフラット補正処理後の画像から、2値化による水晶体の混濁領域を抽出する処理を行う(S5)。水晶体の混濁領域は、混濁が無い領域に比べて輝度が低い。そこで、ステップS5では、混濁領域と、混濁が無い領域との輝度の違いに基づいて、混濁領域とそれ以外の領域とを分ける。具体的には、先ず、フラット補正処理後の画像の各画素値を、しきい値を境にして白(最大画素値(輝度値)=255)と黒(最小画素値(輝度値)=0)のいずれかに変換する2値化処理を行う。2値化処理では、各画素値を、しきい値以上の場合に白の画素値に、しきい値より小さい場合に黒の画素値に変換する。2値化処理として、例えば適応的2値化の手法を用いてよい。適応的2値化では、白と黒を分けるしきい値を画素ごとに設定する手法であって、注目画素とその周りの画素との輝度に応じてしきい値を設定する手法である。図16の左の画像は2値化処理前の画像を示している。図16の右の画像は、図16の左の画像を2値化処理することにより得られた2値化画像を示している。
【0029】
ステップS5では、さらに、得られた2値化画像中の白色領域(高輝度領域)を黒色領域(低輝度領域)に、かつ、黒色領域(低輝度領域)を白色領域(高輝度領域)に変換する処理を行う。すなわち、画素値「0」を「255」に、画素値「255」を「0」に変換する。例えば、ステップS2で得られたマスク画像の各画素値と、2値化画像の各画素値との排他的論理和の処理を行うことで、混濁領域が高輝度領域となり、それ以外の領域が低輝度領域となるように変換できる。図17は、図16の右の画像と、図7のマスク画像との排他的論理和の処理により得られた画像を示している。なお、ステップS5を実行するCPU5が本開示の2値化処理部に相当する。ステップS5が2値化処理ステップに相当する。
【0030】
ここで、徹照画像の中心領域と周辺領域とについて図18を参照して述べる。図18中の内側の円120は、徹照画像中の瞳孔(換言すれば瞳孔内の水晶体領域)の中心領域の外周縁を示している。すなわち、円120内の領域は、瞳孔(水晶体)の中心領域を示している。外側の円121は瞳孔の外周縁を示している。外側円121と内側円120との間の領域は瞳孔(水晶体)の周辺領域を示している。瞳孔の周辺領域は、瞳孔の大きさ(円121の大きさ)によって見えやすさが異なる。他方、瞳孔の中心領域は、必ず視界として捉えるため、白内障の影響を受けやすい。そこで、図2のステップS6、S7では、瞳孔(水晶体)の中心領域とそれ以外の領域(周辺領域)とを特定する。
【0031】
具体的には、ステップS6では、水晶体(瞳孔)の中心座標を特定する。ここでは、ステップS2で得られたマスク画像のモーメント特徴に基づいて、水晶体中心座標を特定する。モーメント特徴は以下の式1で表される。ここで、式1のxは、マスク画像中の画素のx座標を示している。式1のyは、マスク画像中の画素のy座標を示している。f(x、y)は、座標(x、y)の画素値が「0」の場合は「0」となり、画素値が「255」の場合は「1」となる関数である。
【数1】
【0032】
水晶体の中心座標(Mx、My)は以下の式2で表される。中心座標(Mx、My)は、水晶体マスク画像の白色領域の中心(モーメントがつりあう位置)である。
(Mx、My)=(M10/M00、M01/M00) ・・・(式2)
【0033】
式2中のM00は、式1のモーメント特徴Mijにおける、i=0、j=0とした値であって、水晶体のマスク画像における画素値「255」の領域(水晶体領域)の画素数の総和(つまり面積)を示している。M10は、式1のモーメント特徴Mijにおける、i=1、j=0とした値である。M01は、式1のモーメント特徴Mijにおける、i=0、j=1とした値である。
【0034】
次に、瞳孔の中心領域を特定する(S7)。ここでは、瞳孔の中心領域と周辺領域との境界を示す円120(図18参照)を特定する。円120は以下の式3で表される。
(x-Mx)+(y-My)=r ・・・(式3)
【0035】
式3において、xは、円120上の画素の左右方向(水平方向)における座標である。yは、円120上の画素の上下方向(垂直方向)における座標である。Mxは、ステップS6で得られる水晶体中心のx座標である。Myは、ステップS6で得られる水晶体中心のy座標である。rは円120の半径である。半径rは例えば以下に説明するようにWHO分類を考慮して求める。
【0036】
白内障の種類としては、皮質白内障、核白内障、後嚢下白内障などがある。これら各白内障の評価の一つにWHO分類がある。WHO分類では、皮質白内障の程度(等級)は、瞳孔縁の円周全体に占める混濁の割合で判定することが定められている。また、WHO分類では、後嚢下白内障の程度(等級)は、瞳孔中心3mmにかかる混濁の垂直径で判定することが定められている。さらに、WHO分類の検査環境の指針では、水晶体混濁の判定のためには、散瞳径は6.5mm以上が必要であることが定められている。
【0037】
そこで、例えば、図18の円120の直径が3.0mmとし、外側の円121の直径(散瞳径)Dが6.5mmであるとして、式3の半径rを求める。なお、散瞳径Dを正確に計測できる場合には、6.5mmの代わりにその計測値を散瞳径Dとしてもよい。
【0038】
具体的には、以下の式4により、1画素当たりの長さlを求める。式4中のDは散瞳径であり、ここでは6.5mmである。Nは、散瞳径Dの画素数である。
l=D/N ・・・(式4)
【0039】
そして、以下の式5により、瞳孔中心領域の半径rを求める。式5中のMyは、ステップS6で得られる水晶体中心のy座標である。ここでは、Myは、瞳孔の上端又は下端からの画素数[px](pxはピクセルを示す)で表されているものとする。wは、瞳孔周辺領域の幅(図18参照)であり、以下の式6で求めることができる。ここでは、D=6.5mm、r=1.5mm(=3mm/2)として、w=1.75mmとなる。lは、式4で得られる1画素当たりの長さである。
r=My-w/l ・・・(式5)
w=D/2-r ・・・(式6)
【0040】
以上により、式3で示される瞳孔中心領域が特定される。なお、ステップS2で得られるマスク画像の白色領域中の、瞳孔中心領域以外の領域が瞳孔(水晶体)の周辺領域となる。図2に戻って、次に、ステップS7で特定した瞳孔中心領域のマスク画像を作成する(S8)。具体的には、以下の式7を満たす座標(x、y)の領域を瞳孔中心領域として、その瞳孔中心領域を画素値「255」(白)とし、それ以外の領域(瞳孔周辺領域)を画素値「0」(黒)としたマスク画像を作成する。式7のMx、Myは上記式2で得られる。半径rは上記式5で得られる。
(x-Mx)+(y-My)≦r ・・・(式7)
【0041】
図19は、ステップS8で得られるマスク画像を例示している。図19の画像は、瞳孔中心領域が開き、それ以外の領域を隠したマスク画像である。
【0042】
ステップS8の後、図3の処理に移行して、次に、瞳孔中心領域における混濁領域を抽出する(S9)。具体的には、例えばステップS5で得られる瞳孔全体の混濁領域の2値化画像(図17の画像)と、ステップS8で得られるマスク画像(図19の画像)との論理積を計算する。図20は、図17の画像と図19の画像との論理積により得られる画像を示している。図20の画像は、瞳孔中心領域における混濁領域が白色(画素値「255」)で表され、それ以外の領域が黒色(画素値「0」)で表された2値化画像である。
【0043】
次に、水晶体の混濁率を算出する(S10)。ここでは、例えば、ステップS5で得られる瞳孔全体の混濁領域の2値化画像(図17の画像)と、ステップS2で得られる瞳孔全体のマスク画像(図7の画像)とに基づいて、瞳孔全体の水晶体混濁率(以下、全体混濁率という場合がある)を算出する。具体的には、以下の式8により全体混濁率を算出する。すなわち、図17の画像中の画素値「255」の画素数を、図7の画像中の画素値「255」の画素数で除算する。
全体混濁率[%]=瞳孔全体の混濁2値化画像中の白色画素の数/瞳孔全体のマスク画像中の白色画素の数 ・・・(式8)
【0044】
また、ステップS10では、例えば、ステップS9で得られる瞳孔中心領域の混濁2値化画像(図20の画像)と、ステップS8で得られる瞳孔中心領域のマスク画像(図19の画像)とに基づいて、瞳孔中心領域の水晶体混濁率(以下、中心領域混濁率という場合がある)を算出する。具体的には、以下の式9により中心領域混濁率を算出する。すなわち、図20の画像中の画素値「255」の画素数を、図19の画像中の画素値「255」の画素数で除算する。
中心領域混濁率[%]=瞳孔中心領域の混濁2値化画像中の白色画素の数/瞳孔中心領域のマスク画像中の白色画素の数 ・・・(式9)
【0045】
なお、ステップS10及び後述のステップS12、S14を実行するCPU5が本開示の混濁度判定部に相当する。ステップS10、S12、S14が本開示の混濁度判定ステップに相当する。
【0046】
次に、ステップS5で得られる混濁の2値化画像(図17の画像)から、水晶体皮質の混濁領域(以下、皮質混濁という場合がある)を抽出(検出)する(S11)。ここで、皮質混濁は以下の特徴がある。
・放射状に広がる。
・水晶体の周辺領域から現れる。
【0047】
そこで、ステップS11では、以下のアルゴリズムに基づいて皮質混濁を抽出する。
図21において、注目する混濁領域130を最小二乗法により直線131で表したとき、その直線131が水晶体の中心に向かって伸びているか。
図21において、注目する混濁領域130の中心132が水晶体の周辺領域に位置しているか。
【0048】
ステップS11は例えば図22に示す処理を実行する。図22の処理に移行すると、先ず、皮質混濁保存用の画像を作成(準備)する(S30)。
【0049】
次に、ステップS5で抽出した混濁領域を構成する、互いに分離した個々の混濁領域を特定する(S31)。具体的には、ステップS5で抽出した各混濁領域の輪郭を検出し、検出した輪郭で囲まれた各領域を個別に特定する。ステップS31では、n個の混濁領域を特定したとして、n個の混濁領域ごとに、以下のステップS32~S36を実行する。
【0050】
すなわち、n個の混濁領域のうちの一つに注目して、注目混濁領域の中心(以下、混濁中心という場合がある)の座標を取得する(S32)。混濁中心として例えば注目混濁領域中のモーメントがつりあう位置の座標を求める。
【0051】
次に、最小二乗法により、注目混濁領域の近似直線を取得する(S33)。
【0052】
次に、ステップS32で得られた混濁中心が、水晶体の周辺領域(言い換えれば瞳孔周辺領域)に位置するかを判断する(S34)。具体的には例えばステップS2で得られる瞳孔全体(水晶体全体)のマスク画像(図7の画像)と、ステップS8で得られる瞳孔中心領域(水晶体中心領域)のマスク画像(図19のマスク画像)との排他的論理和を計算することで、水晶体周辺領域(瞳孔周辺領域)を画素値「255」とし、それ以外の領域を画素値「0」とした周辺領域マスク画像を得る。図23は周辺領域マスク画像を例示している。
【0053】
ステップS34では、ステップS32で得られた混濁中心が周辺領域マスク画像中の白色領域(水晶体周辺領域)に位置するか否かを判断する。混濁中心が水晶体周辺領域に位置しない場合(S34:No)、今回注目する混濁領域は皮質混濁には該当しないとして、以降の処理には進まずに、注目する混濁領域を別の混濁領域に切り替える。
【0054】
一方、混濁中心が水晶体周辺領域に位置する場合には(S34:Yes)、ステップS33で得られた近似直線が、ステップS7で特定した瞳孔中心領域にかかっているかを判断する(S35)。ここでは、例えば、ステップS33で得られた近似直線が、ステップS8で得られた中心領域マスク画像(図19の画像)中の白色領域(瞳孔中心領域)に重なるかを判断する。例えば、近似直線(画素値が「255」の直線)と、中心領域マスク画像(瞳孔中心領域の画素値が「255」)との論理積を計算することで、近似直線と中心領域マスク画像中の瞳孔中心領域との重複の有無を判断できる。例えば、図24に示す混濁領域140の近似直線141は、図19の中心領域マスク画像にかかっていると判断される。図25に示す混濁領域142の近似直線143は、図19の中心領域マスク画像にかかっていないと判断される。
【0055】
近似直線が瞳孔中心領域にかかっていない場合には(S35:No)、今回注目する混濁領域は皮質混濁には該当しないとして、以降の処理には進まずに、注目する混濁領域を別の混濁領域に切り替える。
【0056】
近似直線が瞳孔中心領域にかかっている場合には(S35:Yes)、今回注目する混濁領域は皮質混濁には該当するとして、この混濁領域を、ステップS30で作成した画像中に保存する(S36)。n個の混濁領域に対してステップS32~S36を実行した後、図22の処理を終了して、図3の処理に戻る。ステップS11では、皮質混濁の領域が白色領域(画素値「255」の領域)となり、それ以外の領域が黒色領域(画素値「0」の領域)となる2値化画像が得られる。図27はステップS11で得られる2値化画像を例示している。
【0057】
なお、ステップS6~S8、S11を実行するCPU5が本開示の皮質混濁検出部に相当する。ステップS6~S8、S11が皮質混濁検出ステップに相当する。ステップS6、S7を実行するCPU5が領域特定部に相当する。ステップS6、S7が領域特定ステップに相当する。ステップS32を実行するCPU5が混濁中心取得部に相当する。ステップS32が混濁中心取得ステップに相当する。ステップS33を実行するCPU5が近似直線取得部に相当する。ステップS33が近似直線取得ステップに相当する。ステップS34、S35を実行するCPU5が皮質混濁判定部に相当する。ステップS34、S35が皮質混濁判定ステップに相当する。
【0058】
次に、ステップS11で抽出した皮質混濁を評価する(S12)。ここでは、皮質混濁の大きさ、具体的には周方向における皮質混濁の総角度を判定する。なお、ステップS12を実行するCPU5が混濁大きさ判定部に相当する。ステップS12が混濁大きさ判定ステップに相当する。図26は、ステップS12の詳細な処理を示している。図26の処理に移行すると、先ず、初期化処理として、以降の処理で使用する変数である計測角度及び混濁角度にそれぞれ0°を格納する(S40)。
【0059】
次に、現在の計測角度が360°未満か否かを判断する(S41)。計測角度が360°未満の場合には(S41:Yes)、計測角度を示す直線である計測線が、ステップS11で抽出した皮質混濁の領域に重なっているかを判断する(S42)。なお、計測線は、ステップS6で特定した水晶体中心から径方向に延びる直線であって、X軸方向(画像の左右方向)に対して計測角度だけ傾いた直線である。図27は、ステップS11で得られた皮質混濁の画像中に計測線150を設定した例を示している。
【0060】
計測線が皮質混濁の領域に重なっている場合には(S42:Yes)、変数の混濁角度の値を0.1°増加させる(S43)。また、計測角度の値を0.1°増加させる(S44)。その後、ステップS41に戻る。
【0061】
ステップS42において、計測線が皮質混濁の領域に重なっていない場合には(S42:No)、混濁角度の更新を行わずに、計測角度の値を0.1°増加させる(S44)。その後、ステップS41に戻る。
【0062】
ステップS41において計測角度が360°に達した場合には(S41:No)、図26の処理を終了する。このように、図26の処理では、皮質混濁の画像(図27の画像)中に計測線を設定し、計測線を矢印方向に0.1°ずつ360°回転させたとき、計測線と皮質混濁領域とが重なっている間の角度の総和を混濁角度として算出する。図28は、混濁角度を算出している途中の様子を示している。
【0063】
図3に戻って、次に、ステップS5で得られる混濁の2値化画像から、水晶体後嚢下の混濁領域(以下、後嚢下混濁という場合がある)を抽出(検出)する(S13)。図30は、ステップS5で得られる混濁画像を例示している。ステップS13では、図30の混濁画像中の、水晶体中心Cに最も近い混濁領域160を後嚢下混濁として抽出する。図29はステップS13の詳細な処理を例示している。
【0064】
図29の処理に移行すると、先ず、初期化処理として、以降の処理で使用する変数である最小距離に、数値として表せる最大値を格納する(S50)。
【0065】
次に、ステップS5で抽出した混濁領域を構成する、互いに分離した個々の混濁領域を特定する(S51)。具体的には、ステップS5で抽出した各混濁領域の輪郭を検出し、検出した輪郭で囲まれた各領域を個別に特定する。なお、個々の混濁領域は、図22のステップS31で既に特定されているので、ステップS51は省略してもよい。ステップS51では、n個の混濁領域を特定したとして、n個の混濁領域ごとに、以下のステップS52~S55を実行する。
【0066】
すなわち、n個の混濁領域のうちの一つに注目して、注目混濁領域の中心の座標P(Px、Py)(以下、混濁中心座標という場合がある)を取得する(S52)。混濁中心座標として、例えば注目混濁領域中のモーメントがつりあう位置の座標を取得する。なお、混濁中心座標は、図22のステップ32で得られるので、ステップS52では、ステップS32で得られた混濁中心座標を取得してよい。
【0067】
次に、ステップS52で取得した混濁中心座標P(Px、Py)と、水晶体中心座標C(Cx、Cy)とのユークリッド距離dを下記式10により算出する(S53)。水晶体中心座標C(Cx、Cy)は、ステップS6(上記式2)で得られる座標(Mx、My)とすればよい。算出されたユークリッド距離dを変数である計測距離に格納する。
【数2】
【0068】
次に、ステップS53で得られた計測距離が、最小距離より小さいか否かを判断する(S54)。計測距離が最小距離より小さい場合には(S54:Yes)、変数の最小距離の値を計測距離に更新する(変数の最小距離に計測距離を格納する)とともに、最小距離を示す混濁領域を保存(更新)する(S55)。
【0069】
ステップS54において、計測距離が最小距離以上の場合には(S54:No)、注目する混濁領域を別の混濁領域に切り替えて、ステップS52以降の処を実行する。全ての混濁領域に対してステップS52~S55を実行した後、図29の処理を終了する。
【0070】
このように、図29の処理では、n個の混濁領域のうち水晶体中心Cに最も近い混濁領域を後嚢下混濁として抽出(検出)する。なお、ステップS13(図29の処理)で抽出される後嚢下混濁は、ステップS7で特定した瞳孔中心領域に重なっており、かつ、ステップS11で抽出される皮質混濁には該当しない混濁領域としてよい。図31は、ステップS13で抽出された後嚢下混濁の徹照像を例示している。
【0071】
なお、ステップS13を実行するCPU5が本開示の後嚢下混濁検出部に相当する。ステップS13が後嚢下混濁検出ステップに相当する。ステップS52を実行するCPU5が混濁中心取得部に相当する。ステップS52が混濁中心取得ステップに相当する。ステップS53~S55を実行するCPU5が後嚢下混濁判定部に相当する。ステップS53~S55が後嚢下混濁判定ステップに相当する。
【0072】
図3に戻って、次に、ステップ13で抽出した後嚢下混濁を評価する(S14)。ここでは、後嚢下混濁の大きさ、具体的には後嚢下混濁の垂直方向(画像の上下方向)における幅を判定する。図31の例では、後嚢下混濁の上下方向幅Bを求める。幅Bは例えば以下のように求める。すなわち、WHO分類の検査環境指針を考慮して、瞳孔径Aを6.5mmとする。1画素の長さを以下の式11で求める。式11で求めた1画素の長さを以下の式12に代入することで、幅Bを求めることができる。
1画素の長さ[mm/px]=6.5/瞳孔径Aの画素数 ・・・(式11)
B[mm]=幅Bの画素数×1画素の長さ ・・・(式12)
【0073】
なお、ステップS14を実行するCPU5が混濁大きさ判定部に相当する。ステップS14が混濁大きさ判定ステップに相当する。
【0074】
ステップS14の後、図3の処理を終了する。CPU5は、図2図3の処理で得られた各種情報を表示部3に表示させてよい。例えば、CPU5は、図2のステップS5又は図3のステップS9で抽出された混濁領域の画像(図17図20の画像)を表示部3に表示させてよい。また、CPU5は、図3のステップS10で得られた混濁率、ステップS11で抽出された皮質混濁の画像(図27の画像)、ステップS12で得られた皮質混濁の総角度、ステップS13で抽出された後嚢下混濁の画像(図31の画像)、又はステップS14で得られた後嚢下混濁の幅を表示部3に表示させてよい。
【0075】
CPU5は、ステップS12で得られた皮質混濁の総角度に基づいて、複数に分類された皮質混濁の等級のうちいずれの等級に該当するかを判定するとともに、その判定結果を表示部3に表示させてよい。WHO分類では、皮質混濁の等級を、瞳孔縁の円周全体に対する皮質混濁の占める割合で判定することが定められている。具体的には、上記割合が1/8未満の場合に等級「C1」、1/4未満の場合に等級「C2」、1/2未満の場合に等級「C3」、1/2以上の場合に等級「C4」となる。CPU5は、皮質混濁の総角度に基づいて、WHO分類の等級を判定してもよい。さらに、WHO分類では、瞳孔中心3mm内に皮質混濁があれば、Central+(cen+)と判定することが定められている。そこで、CPU5は、ステップS11で抽出された皮質混濁が、ステップS7で特定された瞳孔中心領域に重なるか否かを判断し、重なる場合には、cen+と判定してもよい。
【0076】
また、CPU5は、ステップS14で得られた後嚢下混濁の幅に基づいて、複数に分類された後嚢下混濁の等級のうちいずれの等級に該当するかを判定するとともに、その判定結果を表示部3に表示させてよい。WHO分類では、瞳孔中心3mm内にかかる後嚢下混濁の幅が1mm未満の場合に等級「P1」、1mm以上2mm未満の場合に等級「P2」、2mm以上3mm未満の場合に等級「P3」、3mm以上の場合に等級「P4」となる。CPU5は、後嚢下混濁の幅に基づいて、WHO分類の等級を判定してもよい。
【0077】
なお、ステップS6~S14を実行するCPU5が本開示の判定部に相当する。ステップS6~S14が判定ステップに相当する。
【0078】
以上説明したように、本実施形態では、水晶体の徹照画像に対して、フラット補正処理及び2値化処理を行うので、水晶体の混濁判定がしやすい水晶体混濁判定用の画像を得ることができる。これにより、水晶体混濁の誤判定を抑制できる。
【0079】
図32図35は、異なる被検者から得られた画像を示しており、図32は健常者、図33図35は白内障患者の画像を示している。図32図35の左図は、水晶体の徹照像の原画像を示している。図32図35の中央図は、ステップS4のフラット補正処理を行わずに、原画像を2値化処理した場合の画像を示している。図32図35の右図は、ステップS4のフラット補正処理を行った後に、補正後の徹照画像を2値化処理した場合の画像を示している。
【0080】
図32図35に示すように、フラット補正処理を行うことで、照明の暗い領域が2値化画像中に黒色領域として現れてしまうのを抑制でき、混濁の位置、形状、大きさなどを判定しやすい画像を得ることができる。
【0081】
下記表1は、図32図35の各画像に対する、図2図3の処理により得られた混濁判定結果を示している。表1の(1)は図32の画像による混濁判定結果を示している。(2)は図33の画像による混濁判定結果を示している。(3)は図34の画像による混濁判定結果を示している。(4)は図35の画像による混濁判定結果を示している。また、皮質の等級は、皮質の角度に基づいて定まるWHO分類の等級を示している。後嚢の等級は、後嚢の幅に基づいて定まるWHO分類の等級を示している。表1に示すように、(1)の被検者は白内障には該当せず、(2)の被検者は皮質白内障に該当し、(4)の被検者は後嚢下白内障に該当するという結果が得られた。また、(3)は水晶体混濁が存在するという結果が得られた。
【0082】
【表1】
【0083】
このように、本実施形態では、水晶体混濁の種類(皮質混濁又は後嚢下混濁)を自動で判定できるし、混濁の大きさ(程度)を自動で判定できる。水晶体の混濁を自動で判定できることで、客観的な混濁判定結果を得ることができる。
【0084】
なお、本開示は上記実施形態に限定されず種々の変更が可能である。例えば上記実施形態では、混濁の種類として皮質混濁又は後嚢下混濁を判定する例を示したが、フラット補正処理後の2値化画像に基づいて他の種類の混濁を判定しておよい。また、上記実施形態では、混濁の等級としてWHO分類を例示したが、他の分類に基づいて混濁の等級を判定してもよい。
【0085】
また、上記実施形態では、フラット補正処理後の2値化画像に基づいて混濁を自動で判定する例を示したが、その2値化画像に基づいて、医師等の主観により混濁を判定してもよい。
【符号の説明】
【0086】
1 画像処理システム
2 撮影装置
3 表示部
4 画像処理装置
5 CPU
6 記憶部
7 プログラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
【手続補正書】
【提出日】2023-07-03
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水晶体領域とその周囲の領域とを含む徹照画像であって、極大輝度を示す中心から外側に向かって徐々に輝度が低くなる輝度勾配を有した徹照画像を取得する取得部と、
前記徹照画像中の前記水晶体領域を抽出する抽出部と、
前記抽出部が抽出した前記水晶体領域の画像中の照明ムラである前記輝度勾配を小さくする補正を行う補正部と、
前記補正後の画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理部と、
を備える画像処理装置。
【請求項2】
前記2値化画像に基づいて水晶体の混濁を判定する判定部を備える請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項3】
前記補正部は、
前記抽出部が抽出した前記水晶体領域の原画像から平均値フィルタを作成するフィルタ作成部と、
前記画像の各画素値を前記平均値フィルタで除算する除算部と、
前記除算部により除算された後の画像の各画素値に、前記画像の平均輝度を乗算する乗算部と、
を備える請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項4】
前記判定部は、前記2値化画像に基づいて水晶体皮質の混濁領域である皮質混濁領域を検出する皮質混濁検出部を備える請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項5】
前記皮質混濁検出部は、
瞳孔の中心領域とそれ以外の周辺領域とを特定する領域特定部と、
前記2値化画像に表された各混濁領域の中心である混濁中心を取得する混濁中心取得部と、
前記2値化画像に表された各混濁領域の近似直線を取得する近似直線取得部と、
前記混濁中心が前記周辺領域に位置し、かつ、前記近似直線が前記中心領域に重なる前記混濁領域を前記皮質混濁領域と判定する皮質混濁判定部と、
を備える請求項4に記載の画像処理装置。
【請求項6】
前記判定部は、前記皮質混濁検出部が検出した前記皮質混濁領域の大きさを判定する混濁大きさ判定部を備える請求項4又は5に記載の画像処理装置。
【請求項7】
前記判定部は、前記2値化画像に基づいて水晶体後嚢下の混濁領域である後嚢下混濁領域を検出する後嚢下混濁検出部を備える請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項8】
前記後嚢下混濁検出部は、
前記2値化画像に表された各混濁領域の中心である混濁中心を取得する混濁中心取得部と、
前記2値化画像に表された各混濁領域のうち、前記混濁中心と水晶体の中心との距離が最小の前記混濁領域を前記後嚢下混濁領域と判定する後嚢下混濁判定部と、
を備える請求項7に記載の画像処理装置。
【請求項9】
前記判定部は、前記後嚢下混濁検出部が検出した前記後嚢下混濁領域の大きさを判定する混濁大きさ判定部を備える請求項7又は8に記載の画像処理装置。
【請求項10】
前記判定部は、前記2値化画像に基づいて水晶体の混濁を判定する混濁度判定部を備える請求項2に記載の画像処理装置。
【請求項11】
瞳孔の中心領域を特定する領域特定部と、
前記2値化画像と前記中心領域とに基づいて、前記中心領域における混濁領域を抽出する混濁抽出部とを備え、
前記混濁度判定部は、前記領域特定部が特定した前記中心領域と、前記混濁抽出部が抽出した前記混濁領域とに基づいて、前記中心領域での水晶体混濁率を算出する算出部を含む請求項10に記載の画像処理装置。
【請求項12】
前記徹照画像に基づいて、前記水晶体領域が白の画素値、それ以外の領域が黒の画素値となるマスク画像を作成するマスク画像作成部を備え、
前記抽出部は、前記マスク画像に基づいて、前記徹照画像中の前記水晶体領域を抽出する請求項1に記載の画像処理装置。
【請求項13】
前記混濁大きさ判定部は、周方向における前記皮質混濁領域の総角度を判定する請求項6に記載の画像処理装置。
【請求項14】
水晶体の徹照画像を取得する取得部と、
前記徹照画像中の照明ムラを小さくする補正を行う補正部と、
前記補正後の前記徹照画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理部と、
瞳孔の中心領域とそれ以外の周辺領域とを特定する領域特定部と、
前記2値化画像に表された各混濁領域の中心である混濁中心を取得する混濁中心取得部と、
前記2値化画像に表された各混濁領域の近似直線を取得する近似直線取得部と、
前記混濁中心が前記周辺領域に位置し、かつ、前記近似直線が前記中心領域に重なる前記混濁領域を皮質混濁領域と判定する皮質混濁判定部と、
を備える画像処理装置。
【請求項15】
水晶体領域とその周囲の領域とを含む徹照画像であって、極大輝度を示す中心から外側に向かって徐々に輝度が低くなる輝度勾配を有した徹照画像を取得する取得ステップと、
前記徹照画像中の前記水晶体領域を抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップで抽出した前記水晶体領域の画像中の照明ムラである前記輝度勾配を小さくする補正を行う補正ステップと、
前記補正後の画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理ステップと、
を備える画像処理方法。
【請求項16】
水晶体領域とその周囲の領域とを含む徹照画像であって、極大輝度を示す中心から外側に向かって徐々に輝度が低くなる輝度勾配を有した徹照画像を取得する取得ステップと、
前記徹照画像中の前記水晶体領域を抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップで抽出した前記水晶体領域の画像中の照明ムラである前記輝度勾配を小さくする補正を行う補正ステップと、
前記補正後の画像の画素値を2値化して水晶体混濁判定用の2値化画像を得る2値化処理ステップと、
をコンピュータに実行させるプログラム。