(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155016
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】起立補助装置
(51)【国際特許分類】
A61G 7/12 20060101AFI20241024BHJP
A61G 5/14 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61G7/12
A61G5/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069353
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】弁理士法人大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】輿石 健
(72)【発明者】
【氏名】塚本 智宏
【テーマコード(参考)】
4C040
【Fターム(参考)】
4C040AA08
4C040JJ03
4C040JJ04
(57)【要約】
【課題】ユーザの姿勢の安定性を高めつつ、起立動作の屈曲相においてユーザの上半身の自然な前傾を促す。
【解決手段】起立補助装置1は、昇降可能に設けられる支柱6と、ユーザUの両腕を支えるべく支柱6に設けられる腕支持部7と、を備え、腕支持部7は、ユーザUの一方の腕を支えるべく前方に向かって延びる第1支持部68と、ユーザUの他方の腕を支えるべく第1支持部68から横方向に向かって延びる第2支持部69と、を備える。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ユーザの起立動作を補助するための起立補助装置であって、
昇降可能に設けられる支柱と、
ユーザの両腕を支えるべく前記支柱に設けられる腕支持部と、を備え、
前記腕支持部は、
ユーザの一方の腕を支えるべく前方に向かって延びる第1支持部と、
ユーザの他方の腕を支えるべく前記第1支持部から横方向に向かって延びる第2支持部と、を備える起立補助装置。
【請求項2】
前記第1支持部の中心線と前記第2支持部の中心線は、平面視において直交している請求項1に記載の起立補助装置。
【請求項3】
前記第2支持部の少なくとも一部は、横方向に向かって延びる使用位置と、前方に向かって延びる非使用位置と、の間で前記第1支持部に対して回転可能に設けられている請求項1又は2に記載の起立補助装置。
【請求項4】
前記第1支持部は、
前後方向に延びる第1延出部と、
前記第1延出部の前端部に設けられる第1グリップと、
前記第1延出部の後端部に設けられる第1肘当てと、を備え、
前記第2支持部は、
左右方向に延びる第2延出部と、
前記第2延出部の前記第1支持部側の端部に設けられる第2グリップと、
前記第2延出部の前記第1支持部とは反対側の端部に設けられる第2肘当てと、を備えている請求項1又は2に記載の起立補助装置。
【請求項5】
前記第2グリップは、前記第1グリップよりも後方に位置している請求項4に記載の起立補助装置。
【請求項6】
前記第1グリップは、上方に向かって前方に傾斜しており、
前記第2グリップは、上方に向かって前記第1支持部側に傾斜している請求項4に記載の起立補助装置。
【請求項7】
前記第1グリップには、前記支柱の上昇操作及び下降操作を受け付ける操作部が設けられている請求項4に記載の起立補助装置。
【請求項8】
前記第1肘当ては、前側が開かれ、後側が閉じられた上向きの第1凹部を形成し、
前記第2肘当ては、左右両側が開かれた上向きの第2凹部を形成している請求項4に記載の起立補助装置。
【請求項9】
前記第1延出部の前部は、前記支柱の上端部に取り付けられており、
前記第2延出部は、前記第1延出部の前部から横方向に向かって延びている請求項4に記載の起立補助装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザの起立動作を補助するための起立補助装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人間の動作の訓練又は補助に関する研究開発が注目されている。特に、人間の起立動作に関するデータ等を取得し、人間の起立動作を補助するための研究開発が盛んに行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、被介助者の体の一部を支えて、被介助者の起立および着座を補助する起立補助装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一般的に、人間の起立動作は、上半身を前傾させる屈曲相と、臀部をシートから離間させる離殿相と、上半身を起こしながら両足を伸ばす伸展相と、によって構成されている。特許文献1の起立補助装置は、コの字型ハンドルで被介助者の両脇を支持して起立動作を補助しているため、起立動作の屈曲相において被介助者の上半身の自然な前傾を促すことができない虞がある。
【0006】
本発明は、以上の背景に鑑み、ユーザの姿勢の安定性を高めつつ、起立動作の屈曲相においてユーザの上半身の自然な前傾を促すことが可能な起立補助装置を提供することを課題とする。延いては、人間の動作の訓練又は補助に関する研究開発に寄与することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために本発明のある態様は、ユーザ(U)の起立動作を補助するための起立補助装置(1)であって、昇降可能に設けられる支柱(6)と、ユーザの両腕を支えるべく前記支柱に設けられる腕支持部(7)と、を備え、前記腕支持部は、ユーザの一方の腕を支えるべく前方に向かって延びる第1支持部(68)と、ユーザの他方の腕を支えるべく前記第1支持部から横方向に向かって延びる第2支持部(69)と、を備える。
【0008】
この態様によれば、ユーザが第1、第2支持部に両腕を置くことで、ユーザの上半身が前傾し、起立動作の屈曲相が完了する。このように、起立動作の屈曲相においてユーザの上半身の自然な前傾を促すことができるため、起立動作を適切に補助することができる。また、第1支持部がユーザの一方の腕を縦方向に支え、第2支持部がユーザの他方の腕を横方向に支える。このように、第1、第2支持部がユーザの両腕を縦横両方向に支えることで、ユーザの姿勢の安定性を高めることができる。
【0009】
上記の態様において、前記第1支持部の中心線(L1)と前記第2支持部の中心線(L2)は、平面視において直交していても良い。
【0010】
この態様によれば、第1支持部と第2支持部を互いに適切な角度で配置することができる。そのため、起立動作の屈曲相においてユーザの上半身を適切な角度で前傾させることができる。
【0011】
上記の態様において、前記第2支持部の少なくとも一部は、横方向に向かって延びる使用位置と、前方に向かって延びる非使用位置と、の間で前記第1支持部に対して回転可能に設けられていても良い。
【0012】
この態様によれば、ユーザの起立動作が完了した後、第2支持部の少なくとも一部を使用位置から非使用位置まで回転させることで、横方向に向かって延びる第2支持部がユーザの前進の妨げになるのを抑制することができる。
【0013】
上記の態様において、前記第1支持部は、前後方向に延びる第1延出部(71)と、前記第1延出部の前端部に設けられる第1グリップ(72)と、前記第1延出部の後端部に設けられる第1肘当て(73)と、を備え、前記第2支持部は、左右方向に延びる第2延出部(81)と、前記第2延出部の前記第1支持部側の端部に設けられる第2グリップ(82)と、前記第2延出部の前記第1支持部とは反対側の端部に設けられる第2肘当て(83)と、を備えていても良い。
【0014】
この態様によれば、第1支持部によってユーザの一方の腕の前腕部を安定的に支え、第2支持部によってユーザの他方の腕の前腕部を安定的に支えることができる。そのため、ユーザの姿勢の安定性を更に高めることができる。
【0015】
上記の態様において、前記第2グリップは、前記第1グリップよりも後方に位置していても良い。
【0016】
この態様によれば、第1支持部と第2支持部を適切な位置関係で配置することができる。そのため、起立動作の屈曲相においてユーザの上半身を適切な角度で前傾させることができる。
【0017】
上記の態様において、前記第1グリップは、上方に向かって前方に傾斜しており、前記第2グリップは、上方に向かって前記第1支持部側に傾斜していても良い。
【0018】
この態様によれば、ユーザの手が第1、第2グリップを握りやすくなる。そのため、ユーザの姿勢の安定性を更に高めることができる。
【0019】
上記の態様において、前記第1グリップには、前記支柱の上昇操作及び下降操作を受け付ける操作部(74)が設けられていても良い。
【0020】
この態様によれば、ユーザは、第1グリップから手を放すことなく、支柱を昇降させることができる。そのため、ユーザの姿勢の安定性を更に高めることができる。
【0021】
上記の態様において、前記第1肘当ては、前側が開かれ、後側が閉じられた上向きの第1凹部(79)を形成し、前記第2肘当ては、左右両側が開かれた上向きの第2凹部(89)を形成していても良い。
【0022】
この態様によれば、第1肘当てによって形成される第1凹部の後側が閉じられていることで、第1肘当てに置かれたユーザの一方の肘が後方にずれるのを抑制するとともに、第1支持部の動きによる力をユーザの一方の肘ひいては腕に効果的に伝えることができる。また、第2肘当てによって形成される第2凹部の左右両側が開かれていることで、ユーザが第2肘当てに他方の肘を容易に置くことができる。
【0023】
上記の態様において、前記第1延出部の前部は、前記支柱の上端部に取り付けられており、前記第2延出部は、前記第1延出部の前部から横方向に向かって延びていても良い。
【0024】
この態様によれば、支柱によって腕支持部を安定的に支持することができる。そのため、ユーザの姿勢の安定性を更に高めることができる。
【発明の効果】
【0025】
以上の態様によれば、ユーザの姿勢の安定性を高めつつ、起立動作の屈曲相においてユーザの上半身の自然な前傾を促すことが可能な起立補助装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一実施形態に係る起立補助装置において、ユーザの起立動作が開始される前の状態を示す斜視図
【
図2】本発明の一実施形態に係る起立補助装置において、腕支持部が前方に向かって移動する前の状態を示す側面図
【
図3】本発明の一実施形態に係る起立補助装置において、腕支持部が前方に向かって移動する前の状態を示す平面図
【
図5】本発明の一実施形態に係る起立補助装置において、ユーザの起立動作の屈曲相が完了した状態を示す斜視図
【
図6】本発明の一実施形態に係る起立補助装置において、腕支持部が前方に向かって移動した状態を示す側面図
【
図7】本発明の一実施形態に係る起立補助装置において、ユーザの起立動作の離殿相が完了した状態を示す斜視図
【
図8】本発明の一実施形態に係る起立補助装置において、腕支持部が上昇した状態を示す側面図
【
図9】本発明の一実施形態に係る起立補助装置において、ユーザの起立動作の伸展相が完了した状態を示す斜視図
【
図10】本発明の一実施形態に係る起立補助装置において、ユーザが第2支持部の回転領域を使用位置から非使用位置まで回転させた状態を示す斜視図
【
図11】本発明の他の実施形態に係る起立補助装置において、腕支持部が前方に向かって移動する前の状態を示す平面図
【発明を実施するための形態】
【0027】
<起立補助装置1>
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る起立補助装置1について説明する。以下、上下、前後、左右等の方向を示す用語は、起立補助装置1を利用するユーザUから見た方向を基準として用いる。各図に適宜付される矢印Frは、起立補助装置1の前方を示す。
【0028】
起立補助装置1は、ユーザUの起立動作及び着座動作を補助するための装置である。ユーザUの起立動作とは、シートS(例えば、ベッドや便座)に着座しているユーザUが起立する動作である。ユーザUの着座動作とは、起立しているユーザUがシートSに着座する動作である。起立補助装置1は、フロアFに敷かれた矩形状のプレートPの右側部に固定されている。
【0029】
図1~
図3を参照して、起立補助装置1は、装置本体3と、リンク4と、アクチュエータ5と、支柱6と、腕支持部7と、を備えている。以下、
図1~
図3に示す状態(支柱6が最も下降した状態)を基準として、起立補助装置1の構成要素について説明する。
【0030】
<装置本体3>
図1~
図3を参照して、装置本体3は、箱型を成している。なお、
図2では、箱型の装置本体3の内部を表示するために、装置本体3のうちの一方の側壁部31のみが表示されている。
【0031】
装置本体3の側壁部31には、ガイド溝32(ガイド部の一例)が設けられている。ガイド溝32は、上方に向かって前方に傾斜する方向に直線状に延びている。装置本体3の上壁部33は、後方に向かって下方に傾斜している。装置本体3の上壁部33には、貫通穴34が設けられている。貫通穴34は、カバー(図示せず)によって覆われている。
【0032】
<リンク4>
図2を参照して、リンク4は、装置本体3の下部に収容されている。リンク4は、装置本体3の側壁部31に回転可能に支持されており、回転軸Xを中心に回転するように構成されている。
【0033】
リンク4は、回転軸Xから前上方(第1の方向の一例)に直線状に延びる第1アーム部41と、回転軸Xから後下方(第2の方向の一例)に直線状に延びる第2アーム部42と、を有する。第1アーム部41と第2アーム部42とは、回転軸Xから互いに逆方向に延びている。第2アーム部42の先端部から回転軸Xまでの距離は、第1アーム部41の先端部から回転軸Xまでの距離よりも長い。
【0034】
<アクチュエータ5>
図2を参照して、アクチュエータ5は、装置本体3の前部に収容されている。アクチュエータ5は、リンク4に回転駆動力を付与する装置である。アクチュエータ5は、電動シリンダ機構によって構成された直動型アクチュエータである。アクチュエータ5は、装置本体3の側壁部31に揺動可能に支持されるベース部材51と、ベース部材51に昇降可能に支持されるロッド部材52と、を備える。
【0035】
ベース部材51は、その上端部に設けられた揺動軸Yを中心に揺動するように構成されている。ベース部材51には、電動モータ53が収容されている。電動モータ53は、正逆回転可能に設けられている。
【0036】
ロッド部材52は、ボールねじ機構(図示せず)を介して電動モータ53に接続されており、電動モータ53の正逆回転に応じて昇降するように構成されている。ロッド部材52の先端部(下端部)は、第1結合軸Z1を介して、リンク4の第1アーム部41の先端部に相対回転可能に結合している。
【0037】
<支柱6>
図1、
図2を参照して、支柱6は、上下方向に直線状に延びている。支柱6は、装置本体3の上壁部33に設けられた貫通穴34を貫通している。支柱6の上端部は、装置本体3の外部に露出している。支柱6の下端部は、装置本体3に収容されている。支柱6の下端部は、第2結合軸Z2を介して、リンク4の第2アーム部42の先端部に相対回転可能に結合している。
【0038】
支柱6の上端部と下端部の間の中間部には、係合突起61(係合部の一例)が設けられている。係合突起61は、装置本体3のガイド溝32に回転可能に係合している。これにより、支柱6が装置本体3に昇降可能に支持されると共に、支柱6が係合突起61を中心に回転可能となっている。
【0039】
<腕支持部7>
図1~
図3を参照して、腕支持部7は、ユーザUの両腕を支えるべく支柱6の上端部に設けられている。腕支持部7は、ユーザUの右腕を支えるべく前方に向かって延びる第1支持部68と、ユーザUの左腕を支えるべく第1支持部68の前部から左方(横方向の一例)に向かって延びる第2支持部69と、を備えている。第1支持部68の左右方向の中心線L1と第2支持部69の前後方向の中心線L2は、平面視において直交している。
【0040】
第1支持部68は、前後方向に延びる第1延出部71と、第1延出部71の前端部の上面に設けられる第1グリップ72と、第1延出部71の後端部の上面に設けられる第1肘当て73と、を備えている。
【0041】
第1延出部71の前部は、支柱6の上端部に取り付けられている。これにより、腕支持部7が支柱6によって支持されている。第1延出部71は、前後方向に伸縮可能に設けられていても良い。
【0042】
第1グリップ72は、ユーザUが右手で握る部分である。第1グリップ72は、上方に向かって前方に傾斜している。第1グリップ72の先端部には、支柱6の上昇操作及び下降操作を受け付ける操作部74が設けられている。
【0043】
第1肘当て73は、ユーザUが右肘を置く部分である。第1肘当て73は、装置本体3よりも後方に配置されている。第1肘当て73は、前後方向に延びる第1底壁部76と、第1底壁部76の左右両側から上方に向かって延びる左右両壁部77と、左右両壁部77の後端部同士を接続すべく、第1底壁部76の後側から上方に向かって延びる後壁部78と、によって構成されている。このような構成により、第1肘当て73は、前側が開かれ、後側が閉じられた上向きの第1凹部79を形成している。
【0044】
第2支持部69は、左右方向に延びる第2延出部81と、第2延出部81の右端部(第1支持部68側の端部)の上面に設けられる第2グリップ82と、第2延出部81の左端部(第1支持部68とは反対側の端部)の上面に設けられる第2肘当て83と、を備えている。
【0045】
第2延出部81は、第1延出部71の前部から左方(横方向)に向かって延びている。第2延出部81は、左右方向に伸縮可能に設けられていても良い。第2延出部81は、第1延出部71と一体的に設けられる支点部84と、支点部84に回転可能に支持される可動部85と、を備えている。
【0046】
第2グリップ82は、ユーザUが左手で握る部分である。第2グリップ82は、第2延出部81の支点部84に取り付けられている。第2グリップ82は、上方に向かって右方(第1支持部68側)に傾斜している。第2グリップ82は、第1グリップ72よりも後方に位置している。
【0047】
第2肘当て83は、ユーザUが左肘を置く部分である。第2肘当て83は、第2延出部81の可動部85の左端部(第1支持部68とは反対側の端部)に固定されている。第2肘当て83は、左右方向に延びる第2底壁部87と、第2底壁部87の前後両側から上方に向かって延びる前後両壁部88と、によって構成されている。このような構成により、第2肘当て83は、左右両側が開かれた上向きの第2凹部89を形成している。
【0048】
以下、第2グリップ82及び第2延出部81の支点部84のことを「第2支持部69の固定領域82、84」と称し、第2肘当て83及び第2延出部81の可動部85のことを「第2支持部69の回転領域83、85」と称する。第2支持部69の回転領域83、85は、横方向に向かって延びる使用位置(
図3の実線参照)と、前方に向かって延びる非使用位置(
図3の二点鎖線参照)と、の間で、第1支持部68及び第2支持部69の固定領域82、84に対して回転可能に設けられている。
【0049】
<人間の起立動作>
次に、人間の起立動作について説明する。
【0050】
図4を参照して、一般的に、人間の起立動作は、屈曲相、離殿相、伸展相の3相によって構成されている。屈曲相、離殿相、伸展相は、それぞれ、人間の起立動作の第1段階、第2段階、第3段階と言い換えることができる。
【0051】
まず、屈曲相において、人間は、シートに着座したまま上半身を前傾させることで、重心を臀部から両足に移動させる。次に、離殿相において、人間は、臀部を持ち上げることで、臀部をシートから離間させる。最後に、伸展相において、人間は、上半身を起こしながら両足を伸ばす。これにより、人間の起立動作が完了する。
【0052】
<起立動作の補助>
次に、起立補助装置1によるユーザUの起立動作の補助について説明する。
【0053】
図1、
図2を参照して、ユーザUがシートSに着座している状態では、腕支持部7が装置本体3の後上方に配置されている。また、係合突起61は、ガイド溝32の下端部に係合している。また、第2支持部69の回転領域83、85は、使用位置にある。
【0054】
図5を参照して、ユーザUは、まず、シートSに着座したまま、腕支持部7の第1支持部68に右腕を置いて右手で第1グリップ72を握り、腕支持部7の第2支持部69に左腕を置いて左手で第2グリップ82を握る。これにより、ユーザUの上半身が前傾し、ユーザUの重心が臀部から両足に移動する。即ち、ユーザUの起立動作の屈曲相が完了する。
【0055】
ユーザUは、次に、第1グリップ72の操作部74に対して支柱6の上昇操作を行う。これに応じて、電動モータ53が正回転し、電動モータ53にボールねじ機構(図示せず)を介して接続されたロッド部材52がベース部材51に対して下降する。
【0056】
図6を参照して、このようにロッド部材52がベース部材51に対して下降すると、ベース部材51が揺動軸Yを中心に前方に揺動すると共に、リンク4が回転軸Xを中心に第1回転方向(
図6では、反時計方向)に回転する。これに従い、支柱6が係合突起61を中心に上記の第1回転方向に回転する。同時に、支柱6が係合突起61をガイド溝32に沿って移動させながら上昇する。これに従い、腕支持部7が前方に向かって移動する。
【0057】
図7を参照して、上記のように腕支持部7が前方に向かって移動すると、腕支持部7の動きによる力を受けて腕支持部7に両腕を置いたユーザUの重心が前方に移動することで、ユーザUの臀部がシートSから離間する。即ち、ユーザUの起立動作の離殿相が完了する。
【0058】
図8を参照して、ロッド部材52がベース部材51に対して更に下降すると、ベース部材51が揺動軸Yを中心に後方に揺動すると共に、リンク4が回転軸Xを中心に第1回転方向に更に回転する。これに従い、支柱6が係合突起61を中心に上記の第1回転方向とは反対の第2回転方向(
図6では、時計方向)に回転する。同時に、支柱6が係合突起61をガイド溝32に沿って移動させながら更に上昇する。これに従い、腕支持部7が上昇する。
【0059】
図9を参照して、このように腕支持部7が上昇すると、腕支持部7に両腕を置いたユーザUの上半身が上昇し、ユーザUの上半身が起きると共に、ユーザUの両足が伸びる。即ち、ユーザUの起立動作の伸展相が完了し、ユーザUが起立する。
【0060】
図10を参照して、次に、ユーザUは、第2支持部69の回転領域83、85を使用位置から非使用位置まで回転させる。これにより、ユーザUは、第2支持部69によって妨げられることなく、前進することができる。
【0061】
なお、起立補助装置1は、上記の作用とは逆の作用によって、ユーザUの着座動作を補助することができる。即ち、ユーザUが第1グリップ72の操作部74に対して支柱6の下降操作を行うと、電動モータ53が逆回転し、ロッド部材52がベース部材51に対して上昇し、リンク4が回転軸Xを中心に上記の第2回転方向に回転する。これに従い、支柱6が係合突起61をガイド溝32に沿って移動させながら下降し、腕支持部7が下降した後に後方に移動する。
【0062】
<効果>
本実施形態では、腕支持部7は、ユーザUの右腕を支えるべく前方に向かって延びる第1支持部68と、ユーザUの左腕を支えるべく第1支持部68から左方(横方向の一例)に向かって延びる第2支持部69と、を備えている。そのため、ユーザUが第1、第2支持部68、69に両腕を置くことで、ユーザUの上半身が前傾し、起立動作の屈曲相が完了する。このように、起立動作の屈曲相においてユーザUの上半身の自然な前傾を促すことができるため、起立動作を適切に補助することができる。また、第1支持部68がユーザUの右腕を縦方向に支え、第2支持部69がユーザUの左腕を横方向に支える。このように、第1、第2支持部68、69がユーザUの両腕を縦横両方向に支えることで、ユーザUの姿勢の安定性を高めることができる。
【0063】
特に、前方に向かって延びる第1支持部68が存在することで、起立動作において腕支持部7の駆動による前方および上方への力がユーザUの腕(右腕)を通じて体に伝わりやすく、効果的にユーザUの起立動作を補助することができる。また、左方(横方向の一例)に向かって延びる第2支持部69が存在することで、ユーザUの上半身の自然な前傾を促しやすくなる。
【0064】
<変形例>
上記実施形態では、第2グリップ82が第1グリップ72よりも後方に位置している。
図11を参照して、他の実施形態では、第2グリップ82が第1グリップ72の真横に位置していても良い。更に、他の実施形態では、第1支持部68と第2支持部69に共通の1個のグリップのみが腕支持部7に設けられていても良い。
【0065】
上記実施形態では、第2支持部69が第1支持部68の前部から横方向に向かって延びている。
図11を参照して、他の実施形態では、第2支持部69が第1支持部68の前端部から横方向に向かって延びていても良い。
【0066】
上記実施形態では、第1肘当て73と第2肘当て83が異なる形状を有している。
図11を参照して、他の実施形態では、第1肘当て73と第2肘当て83が同様の形状(例えば、上記実施形態における第1肘当て73の形状)を有していても良い。
【0067】
上記実施形態では、第1支持部68の左右方向の中心線L1と第2支持部69の前後方向の中心線L2が平面視において直交している。他の実施形態では、第1支持部68の左右方向の中心線L1と第2支持部69の前後方向の中心線L2が平面視において互いに傾斜していても良い。
【0068】
上記実施形態では、第2支持部69の回転領域83、85が第1支持部68及び第2支持部69の固定領域82、84に対して回転可能に設けられている。他の実施形態では、第2支持部69の全体が第1支持部68に対して回転可能に設けられていても良い。
【0069】
上記実施形態では、第1グリップ72が上方に向かって前方に傾斜しており、第2グリップ82が上方に向かって右方に傾斜している。他の実施形態では、第1、第2グリップ72、82が上記の方向とは異なる方向に傾斜していても良いし、第1、第2グリップ72、82が鉛直方向に延びていても良い。
【0070】
上記実施形態では、起立補助装置1がプレートPの右側部に固定されている。他の実施形態では、上記実施形態の起立補助装置1とは左右対称形状の起立補助装置1がプレートPの左側部に固定されていても良い。この場合、第2支持部69は、第1支持部68から右方(横方向の一例)に向かって延びることになり、ユーザUは、第1支持部68に左腕を置き、第2支持部69に右腕を置くことになる。
【0071】
上記実施形態では、起立補助装置1がプレートPに固定されている。他の実施形態では、起立補助装置1がプレートPを介さずにフロアFに直接固定されていても良い。更に、他の実施形態では、装置本体3の下端にキャスターが取り付けられることで、起立補助装置1がフロアFに対して移動可能であっても良い。
【0072】
上記実施形態では、アクチュエータ5は、電動シリンダ機構によって構成されている。他の実施形態では、アクチュエータ5は、電動シリンダ機構以外のシリンダ機構(例えば、油圧シリンダ機構)によって構成されていても良いし、シリンダ機構以外の機構(例えば、カム機構)によって構成されていても良い。
【0073】
上記実施形態では、起立補助装置1は、ユーザUの起立動作と着座動作の両方を補助している。他の実施形態では、起立補助装置1は、ユーザUの起立動作のみを補助しても良い。つまり、起立補助装置1は、少なくともユーザUの起立動作を補助すれば良い。
【0074】
以上で具体的な実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態や変形例に限定されることなく、幅広く変形実施することができる。
【符号の説明】
【0075】
1 :起立補助装置
3 :装置本体
6 :支柱
7 :腕支持部
68 :第1支持部
69 :第2支持部
71 :第1延出部
72 :第1グリップ
73 :第1肘当て
74 :操作部
79 :第1凹部
81 :第2延出部
82 :第2グリップ
83 :第2肘当て
89 :第2凹部
L1 :第1支持部の中心線
L2 :第2支持部の中心線
U :ユーザ