(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155019
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】測定システム、及び、測定方法
(51)【国際特許分類】
G01P 5/08 20060101AFI20241024BHJP
G01P 5/16 20060101ALI20241024BHJP
G01P 13/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
G01P5/08 Z
G01P5/16 E
G01P13/00 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069362
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】598121341
【氏名又は名称】慶應義塾
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124800
【弁理士】
【氏名又は名称】諏澤 勇司
(74)【代理人】
【識別番号】100206966
【弁理士】
【氏名又は名称】崎山 翔一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 英俊
(72)【発明者】
【氏名】岸本 卓大
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 恭大
【テーマコード(参考)】
2F034
【Fターム(参考)】
2F034AA04
2F034DA01
2F034DB01
(57)【要約】
【課題】簡易な構造でありながら流体の流速及び流向を測定し得る測定システムを提供する。
【解決手段】測定システム1は、センサ部12と、筐体部11と、を備えている。センサ部12は、流体の流速及び流向に関する情報を出力する。筐体部11は、センサ部12の少なくとも一部を収容している。筐体部11は、所定の軸の周方向に延在する環状面S1を含んでいる。センサ部12は、流体αの圧力を検出する複数の検出部15を含んでいる。複数の検出部15は、流体αの圧力を検出する。複数の検出部15は、環状面S1に沿って周方向に配列されている。複数の検出部15は、当該複数の検出部15にそれぞれ対応する複数の絶対圧センサ素子を含んでいる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の流速及び流向に関する情報を出力するセンサ部と、
前記センサ部の少なくとも一部を収容していると共に、所定の軸の周方向に延在する環状面を含んでいる筐体部と、を備え、
前記センサ部は、前記環状面に沿って前記周方向に配列されており、前記流体の圧力を検出する複数の検出部を含んでおり、
前記複数の検出部は、当該複数の検出部にそれぞれ対応する複数の絶対圧センサ素子を含んでいる、測定システム。
【請求項2】
前記複数の絶対圧センサ素子は、前記環状面に沿って前記周方向において等間隔に配列されている、請求項1に記載の測定システム。
【請求項3】
前記環状面は、円周形状を呈しており、
前記複数の検出部は、3個以上の前記絶対圧センサ素子を含んでいる、請求項1に記載の測定システム。
【請求項4】
前記複数の絶対圧センサ素子は、6個の絶対圧センサ素子からなる、請求項3に記載の測定システム。
【請求項5】
前記複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号に基づいて、前記流体の流速及び流向に関する情報を演算する演算部をさらに備えている、請求項1に記載の測定システム。
【請求項6】
前記演算部は、前記複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号の入力に応じて前記流体の流速及び流向に関する情報を出力するモデルを含んでおり、
前記モデルは、前記複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号と前記筐体部の位置及び姿勢との関係を示す情報を含んでいる、請求項5に記載の測定システム。
【請求項7】
流体の流速及び流向に関する情報を出力するセンサ部の少なくとも一部を収容していると共に、所定の軸の周方向に延在する環状面を含んでいる筐体部を流体中に位置させること、
前記環状面に沿って前記周方向に配列されている複数の検出部にそれぞれ対応する複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号を取得することと、
前記複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号に基づいて、前記流体の流速及び流向に関する情報を演算することと、を有している、測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、測定システム、及び、測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流体の流速を測定する測定システムが知られている。例えば、非特許文献1には、測定システムにおいて、流速に関する情報を出力するセンサ部が示されている。このセンサ部は、流体の流れによって生じる圧力に基づく情報を出力する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】T.Kishimoto, et al. 2021. “Pitot-Static-Tube-Based Waterflow Sensor for MarineBiologging via Inside Sealing of an Incompressible Liquid” IEEE SENSORSJOURNAL, VOL. 21, NO. 18, SEPTEMBER 15, 2021.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
非特許文献1において、センサ部は、差圧センサ素子を用いたピトー管構造を有している。このピトー管構造には、液体の流速を図るため、オイルが封入されている。しかし、このようなピトー管構造では、オイルの封入作業は困難であり、流向の検出はできない。
【0005】
本発明の一つの態様は、簡易な構造でありながら、流速及び流向を測定し得る測定システムを提供することを目的とする。本発明の別の態様は、容易に流速及び流向を測定し得る測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一つの態様における測定システムは、センサ部と、筐体部と、を備えている。センサ部は、流体の流速及び流向に関する情報を出力する。筐体部は、センサ部の少なくとも一部を収容している。筐体部は、所定の軸の周方向に延在する環状面を含んでいる。センサ部は、流体の圧力を検出する複数の検出部を含んでいる。複数の検出部は、流体の圧力を検出する。複数の検出部は、上記環状面に沿って周方向に配列されている。複数の検出部は、当該複数の検出部にそれぞれ対応する複数の絶対圧センサ素子を含んでいる。
【0007】
本発明の別の態様における測定方法は、筐体部を流体中に位置させること、複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号を取得することと、複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号に基づいて、流体の流速及び流向に関する情報を演算することと、を有している。筐体部は、センサ部の少なくとも一部を収容している。筐体部は、所定の軸の周方向に延在する環状面を含んでいる。センサ部は、流体の流速及び流向に関する情報を出力する。複数の絶対圧センサ素子は、複数の検出部にそれぞれ対応している。複数の検出部は、上記環状面に沿って記周方向に配列されている。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一つの態様は、簡易な構造でありながら、流体の流速及び流向を測定し得る測定システムを提供する。本発明の別の態様は、容易に流体の流速及び流向を測定し得る測定方法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態における測定システムによる測定の一例を示す図である。
【
図4】周方向の角度と圧力との関係を示すグラフである。
【
図5】流体の流向と圧力との関係を説明するための図である。
【
図7】基準姿勢からの傾き角度と、基準姿勢である場合の圧力に対する圧力差との関係を示すグラフである。
【
図9】本実施形態における測定方法の一例を示すフローチャートである。
【
図12】流速と流速の推定精度との関係を示すグラフである。
【
図13】流速と角度の推定精度との関係を示すグラフである。
【
図14】実際の流速と推定流速と角度との関係を示すグラフである。
【
図15】実際の角度と推定角度と実際の速度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
【0011】
最初に本開示の実施形態を列記して説明する。
【0012】
[1]本開示の実施形態における測定システムは、センサ部と、筐体部と、を備えている。センサ部は、流体の流速及び流向に関する情報を出力する。筐体部は、センサ部の少なくとも一部を収容している。筐体部は、所定の軸の周方向に延在する環状面を含んでいる。センサ部は、流体の圧力を検出する複数の検出部を含んでいる。複数の検出部は、流体の圧力を検出する。複数の検出部は、上記環状面に沿って周方向に配列されている。複数の検出部は、当該複数の検出部にそれぞれ対応する複数の絶対圧センサ素子を含んでいる。
【0013】
上記[1]における測定システムにおいて、複数の検出部が、筐体部の環状面に沿って周方向に配列されている。複数の検出部は、当該複数の検出部にそれぞれ対応する複数の絶対圧センサ素子を含んでいる。この場合、差圧センサ素子でなく絶対圧センサ素子が用いられているため、オイルの封入が不要な簡易な構成によって流速が測定され得る。さらに、それぞれ絶対圧センサ素子を含んでいる複数の検出部が周方向に配列されているため、流向も測定され得る。各絶対圧センサ素子の出力値によって、流速及び流向の測定精度も確保され得る。
【0014】
[2]上記[1]の測定システムにおいて、複数の絶対圧センサ素子は、上記環状面に沿って周方向において等間隔に配列されていてもよい。この場合、簡易な構成によって、さらに容易に流速及び流向が測定され得る。
【0015】
[3]上記[1]又は[2]の測定システムにおいて、上記環状面は、円周形状を呈していてもよい。複数の検出部は、3個以上の絶対圧センサ素子を含んでいてもよい。この場合、簡易な構成によって、流速及び流向の測定精度が確保される。
【0016】
[4]上記[3]の測定システムにおいて、複数の絶対圧センサ素子は、6個の絶対圧センサ素子からなってもよい。この場合、流速及び流向の測定精度がさらに向上し得る。
【0017】
[5]上記[1]から[4]のいずれか一つの測定システムは、演算部をさらに備えていてもよい。演算部は、複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号に基づいて、流体の流速及び流向に関する情報を演算してもよい。この場合、各絶対圧センサ素子の出力値を用いて流速及び流向が演算され、測定精度が向上され得る。
【0018】
[6]上記[5]の測定システムにおいて、演算部は、複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号の入力に応じて流体の流速及び流向に関する情報を出力するモデルを含んでいてもよい。上記モデルは、複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号に応じた筐体部の位置及び姿勢に関する情報を含んでいてもよい。この場合、測定精度がさらに向上され得る。
【0019】
[7]本開示の別の形態における測定方法は、筐体部を流体中に位置させること、複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号を取得することと、複数の絶対圧センサ素子の各々から出力される信号に基づいて、流体の流速及び流向に関する情報を演算することと、を有している。筐体部は、センサ部の少なくとも一部を収容している。筐体部は、所定の軸の周方向に延在する環状面を含んでいる。センサ部は、流体の流速及び流向に関する情報を出力する。複数の絶対圧センサ素子は、複数の検出部にそれぞれ対応している。複数の検出部は、上記環状面に沿って記周方向に配列されている。
[本開示の実施形態の詳細]
【0020】
以下、図面を参照しつつ本発明における測定システムの実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては、同一又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
まず、
図1から
図7を参照して、本開示の実施形態における測定システムの概略構成について説明する。
図1は、本実施形態における測定システムによる測定の一例を示す図である。
図2は、測定システムのブロック図である。
図3は、測定システムの構造の一例を示している。
【0022】
測定システム1は、流体αの流速及び流向を測定する。例えば、測定システム1は、流体αとして、液体の流速及び流向を推定する。例えば、
図1に示されているように、測定システム1は、海洋環境の観測に用いられる。
図1に示されている例では、測定システム1は、海中の貧酸素水塊による養魚の酸欠死防止するため、海流の流速及び流向を推定する。測定システム1は、例えば、測定装置10を備えている。例えば、測定装置10は、養殖用のケージ2の周囲に配置される。
【0023】
本実施形態に示す例において、測定システム1は、さらに、演算部20と、格納部30とを含んでいる。演算部20は、測定装置10から出力された信号に基づいて、流体の流速及び流向を演算する。格納部30は、演算部20の演算結果を格納する。格納部30は、測定装置10から出力された信号をさらに格納してもよい。
【0024】
測定装置10は、筐体部11と、センサ部12とを含んでいる。筐体部11は、所定の軸AXの周方向に延在する環状面S1を含んでいる。本実施形態に示す例において、環状面S1は、円筒形状の筐体部11の側面であり、軸AXに直交する断面において円形状を呈している。本実施形態の変形例として、環状面S1は、四角柱形状の筐体部11の側面であってもよく、軸AXに直交する断面において四角形状を呈していてもよい。
【0025】
筐体部11は、センサ部12の少なくとも一部を収容している。筐体部11は、例えば、軸AX方向に延在する筒形状を呈している。筐体部11は、例えば、円筒形状を呈している。例えば、筐体部11の外径は約50mmであり、筐体部11の高さは約60mmである。
【0026】
センサ部12は、流体の流速及び流向に関する情報を出力する。センサ部12は、流体αの圧力を検出する複数の検出部15を含んでいる。複数の検出部15は、流体αの圧力を検出する。
図1及び
図3に示されているように、複数の検出部15は、環状面S1に沿って周方向に配列されている。複数の検出部15は、例えば、
図3に示されているように、複数の絶対圧センサ素子41と、FPC(フレキシブルプリント基板)42と、変換基板43と、マルチプレクサ44と、配線45とを含んでいる。
【0027】
FPC42は、複数の絶対圧センサ素子41の各々に接続され、複数の絶対圧センサ素子41と変換基板43とを電気的に接続する。FPC42は、複数の絶対圧センサ素子41の各々からの信号を変換基板43へ出力する。変換基板43は、FPC42からDIP(Dual in-line package)に変換する基板である。変換基板43は、不図示の配線によって、マルチプレクサ44に電気的に接続されている。マルチプレクサ44は、配線45に電気的に接続されている。
【0028】
各絶対圧センサ素子41から出力された信号は、FPC42と変換基板43とマルチプレクサ44と配線45とを介して、演算部20へ送信される。本実施形態の変形例として、各絶対圧センサ素子41から出力された信号は、配線45の代わりに、無線で演算部20に送信されてもよい。
【0029】
複数の絶対圧センサ素子41は、複数の検出部15にそれぞれ対応している。例えば、複数の絶対圧センサ素子41は、環状面S1に沿って周方向に配列されている。複数の検出部15は、3個以上の絶対圧センサ素子41を含んでいる。
【0030】
例えば、複数の絶対圧センサ素子41は、環状面S1に沿って周方向において等間隔に配列されている。本実施形態に示す例において、複数の絶対圧センサ素子41は、6個の絶対圧センサ素子CH0,CH1,CH2,CH3,CH4,CH5からなる。例えば、絶対圧センサ素子CH0,CH1,CH2,CH3,CH4,CH5は、筐体部11の周方向に60度毎に設けられている。絶対圧センサ素子CH0の位置が基準である場合、絶対圧センサ素子CH0,CH1,CH2,CH3,CH4,CH5は、それぞれ、軸AX方向から見て、0度、60度、120度、180度、240度、及び、300度の位置に配置される。
【0031】
流体αの流向が軸AXに直交する一方向において一定である場合に測定装置10を軸AXの周方向に回転させると、絶対圧センサ素子CH0,CH1,CH2,CH3,CH4,CH5からの出力値は、
図4に示されるように、それぞれ、60度ずつずれた値になる。
図4において、絶対圧センサ素子CH0,CH1,CH2,CH3,CH4,CH5からの出力値は、圧力係数Cpとして表されている。全ての絶対圧センサ素子CH0,CH1,CH2,CH3,CH4,CH5の出力値は、前方淀点と考えられる位置で最大値になり、剥離点付近と考えられる位置で最小値になる。各絶対圧センサ素子41からの出力値は2つの位置で最小値になり、剥離点は2つの位置で検出される。各絶対圧センサ素子41からの出力値が最小値となる2つの位置は、約120度離れている。剥離点と考えられる2つの位置は、約120度離れている。
【0032】
本実施形態に示す例において、
図5に示されているように、測定装置10に対してX軸Y軸Z軸が設定される。軸AX方向がZ軸方向に相当し、X軸方向が流体αの流向に相当する場合、非粘性一様場中の円筒周りのベルヌーイの定理から、式(1)が導き出される。
【数1】
【0033】
“θ”は、Z軸方向から見た場合におけるX軸方向からの角度である。“Pθ”は、XY軸平面において、X軸に対して角度θの位置βにおける圧力である。“P∞”は、一様場中の流体αの圧力である。“ρ”は、一様場中の流体αの密度である。“U∞”は、一様場中の流体αの流速である。
【0034】
図6は、測定装置10の位置及び姿勢を示す図である。筐体部11の位置及び姿勢は、X軸方向、Y軸方向、及び、Z軸方向のそれぞれへの移動量と、X軸周りの回転角度、Y軸周りの回転角度、Z軸周りの回転角度とによって特定される。Z軸方向への移動量が“ΔZ”で表され、X軸周りの回転角度が“φ
x”で表され、Y軸周りの回転角度が“φ
y“で表さ、Z軸周りの回転角度が”φ
z“で表される。
【0035】
本実施形態に示す例において、Z軸方向は、水深に相当する。この場合、水深zと圧力P
Dとの関係は式(2):P
D=ρgzによって示される。“g”は、重力加速度である。水深の高低差Δzと圧力差P
Iとの関係は、式(3):P
I=ρgΔzによって示される。高低差Δzは、測定装置10の傾き角度に相当する。
図7は、各絶対圧センサ素子CH0,CH1,CH2,CH3,CH4,CH5について、基準姿勢からの傾き角度と、基準姿勢である場合の圧力に対する圧力差ΔPとの関係を示している。例えば、基準姿勢は、軸AXが鉛直方向に延在している場合における測定装置10の姿勢である。
【0036】
各絶対圧センサ素子41に加わる圧力P
CHは、式(1)、式(2)、及び、式(3)に基づいて、以下の式(4)によって表される。
【数2】
【0037】
式(4)は、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号と筐体部11の位置及び姿勢との関係を示す情報を含んでいる。“f(v,θ)”は、絶対圧センサ素子41の位置と流体αの流速とが関連付けられた関数である。絶対圧センサ素子41の位置は、XY軸平面におけるX軸に対する角度θによって表される。式(4)は、例えば、以下の式(5)における多項式によって表され得る。
【数3】
【0038】
演算部20は、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号に基づいて、流体αの流速及び流向に関する情報を演算する。演算部20による演算結果が、測定システム1による流速及び流向の推定値に相当する。各絶対圧センサ素子41から出力される信号は、当該絶対圧センサ素子41に加わる圧力に対応する。演算部20は、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号の入力に応じて流体αの流速及び流向に関する情報を出力する演算モデルを含んでいる。この演算モデルは、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号と筐体部11の位置及び姿勢との関係を示す情報を含んでいる。筐体部11の位置及び姿勢は、センサ部12の位置及び姿勢に相当し、測定装置10の位置及び姿勢にも相当する。
【0039】
式(5)は、演算部20に含まれる演算モデルに相当する。この演算モデルによって、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号の入力に応じて流体αの流速及び流向に関する情報が出力される。式(5)の左辺は、目的変数ベクトルに相当し、流体αの流速と流向とを示す値である。目的変数ベクトルの値は、例えば、vsinθ又はvcosθによって表される。式(5)の右辺の第一項は、説明変数行列と回帰係数ベクトルとの席に相当する。説明変数行列は、6個の各々の絶対圧センサ素子41から出力される信号に基づく圧力を示している。回帰係数ベクトルは、f(θ)に相当する。式(5)の右辺の第二項は、誤差ベクトルに相当する。誤差ベクトルは、最小二乗法による誤差である。
【0040】
次に、
図8を参照して、演算部20及び格納部30のハードウェア構成について説明する。
図8は、演算部20及び格納部30のハードウェア構成の一例を示す図である。
【0041】
測定システム1は、演算部20及び格納部30からなる構成において、それぞれ、プロセッサ101と、主記憶装置102と、補助記憶装置103と、通信装置104と、入力装置105と、出力装置106とを備えている。演算部20及び格納部30は、それぞれ、これらのハードウェアと、プログラム等のソフトウェアとにより構成された1又は複数のコンピュータを含んでいる。演算部20及び格納部30は、1つのコンピュータによって構成されていてもよいし、複数のコンピュータによって構成されていてもよい。演算部20及び格納部30は、ハードウェアと協働して実現されている。
【0042】
演算部20及び格納部30が複数のコンピュータによって構成される場合には、これらのコンピュータはローカルで接続されてもよいし、インターネット又はイントラネットなどの通信ネットワークを介して接続されてもよい。この接続によって、論理的に1つの演算部20及び格納部30が構築される。
【0043】
プロセッサ101は、オペレーティングシステム及びアプリケーション・プログラムなどを実行する。主記憶装置102は、ROM(Read Only Memory)及びRAM(Random Access Memory)により構成される。例えば、演算部20及び格納部30の各種機能部の少なくとも一部は、プロセッサ101及び主記憶装置102によって実現され得る。
【0044】
補助記憶装置103は、ハードディスク及びフラッシュメモリなどにより構成される記憶媒体である。補助記憶装置103は、一般的に主記憶装置102よりも大量のデータを記憶する。例えば、演算部20及び格納部30の少なくとも一部は、補助記憶装置103によって実現され得る。
【0045】
通信装置104は、ネットワークカード又は無線通信モジュールにより構成される。例えば、演算部20及び格納部30の少なくとも一部は、通信装置104によって実現され得る。入力装置105は、入力ポート、キーボード、マウス、及び、タッチパネルなどにより構成される。例えば、演算部20及び格納部30の少なくとも一部は、入力装置105によって実現され得る。出力装置106は、出力ポート、ディスプレイ、及び、プロジェクタなどの投影装置などにより構成される。
【0046】
補助記憶装置103は、予め、プログラム及び処理に必要なデータを格納している。このプログラムは、演算部20及び格納部30の各機能要素をコンピュータに実行させる。このプログラムによって、例えば、後述する通信方法において行われる各処理がコンピュータにおいて実行される。通信方法としては、例えば、上述の通信システムにおいて行われる処理が行おこなわれる。このプログラムは、例えば、CD-ROM、DVD-ROM、半導体メモリなどの有形の記録媒体に記録された上で提供されてもよい。このプログラムは、データ信号として通信ネットワークを介して提供されてもよい。
【0047】
次に、
図9を参照して、測定方法について説明する。
図9は、測定方法の一例を示すフローチャートである。
【0048】
まず、流体中に測定装置10が配置される(処理S1)。例えば、処理S1において、センサ部12を収容している筐体部11を流体α中に位置させる。流体αに筐体部11を沈下してもよいし、流体αが流れ込む位置に予め筐体部11を配置してもよい。
【0049】
次に、複数の絶対圧センサ素子41から出力される信号が取得される(処理S2)。例えば、処理S2において、演算部20が、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号を取得する。例えば、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号は、圧力を示す情報を含んでいる。
【0050】
次に、流速及び流向に関する情報が演算される(処理S3)。例えば、処理S3において、演算部20が、流速及び流向に関する情報を演算する。演算部20による演算結果が、測定システム1による流速及び流向の推定値に相当する。この場合、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号の入力に応じて流体αの流速及び流向に関する情報を出力するモデルが、用いられてもよい。例えば、演算部20は、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号に基づいて、筐体部11及びセンサ部12が位置する水深及び筐体部11の姿勢を考慮して、流速及び流向を演算する。
【0051】
次に、流速及び流向に関する情報が出力される(処理S4)。例えば、処理S4において、演算部20が、演算された結果として、流速及び流向に関する情報を出力する。
【0052】
次に、測定の処理を終了するか否かが判断される(処理S5)。例えば、演算部20が、測定の処理を終了するか否かを判断する。測定の処理を終了すると判断された場合には(処理S5のYES)、一連の処理が終了される。測定の処理を終了すると判断されなかった場合には(処理S5のNO)、処理は処理S2に戻る。
【0053】
以上、測定方法の一例について説明したが、各処理の順序はこれに限定されない。例えば、処理S1から処理S5は、繰り返し実行される。
【0054】
次に、上述した実施形態にかかる測定システム、及び、測定方法による作用効果について説明する。
【0055】
測定システム1において、複数の検出部15が、筐体部11の環状面S1に沿って周方向に配列されている。複数の検出部15は、当該複数の検出部15にそれぞれ対応する複数の絶対圧センサ素子41を含んでいる。この場合、差圧センサ素子でなく絶対圧センサ素子41が用いられているため、オイルの封入が不要な簡易な構成によって流速が測定され得る。さらに、絶対圧センサ素子41をそれぞれ含んでいる複数の検出部15が周方向に配列されているため、流向も測定され得る。各絶対圧センサ素子41の出力値によって、流速及び流向の測定精度も確保され得る。
【0056】
複数の絶対圧センサ素子41は、環状面S1に沿って周方向において等間隔に配列されている。この場合、簡易な構成によって、さらに容易に流速及び流向が測定され得る。
【0057】
測定システム1において、環状面S1は、円周形状を呈している。複数の検出部15は、3個以上の絶対圧センサ素子41を含んでいる。この場合、簡易な構成によって、流速及び流向の測定精度が確保される。
【0058】
測定システム1において、複数の絶対圧センサ素子41は、6個の絶対圧センサ素子41からなってもよい。この場合、環状面S1に対する流体の剥離を考慮して、流速及び流向の測定精度がさらに向上され得る。例えば、筐体部11が円筒形状である場合、剥離点は約120度離れた2箇所に位置する。この場合、6個の絶対圧センサ素子41が用いられれば、流速及び流向の測定精度がより確実に確保され得る。
【0059】
測定システム1は、演算部20をさらに備えている。演算部20は、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号に基づいて、流体αの流速及び流向に関する情報を演算する。この場合、各絶対圧センサ素子41の出力値を用いて流速及び流向が演算され、測定精度が向上され得る。
【0060】
演算部20は、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号の入力に応じて流体の流速及び流向に関する情報を出力するモデルを含んでいてもよい。上記モデルは、複数の絶対圧センサ素子41の各々から出力される信号に応じた筐体部11の位置及び姿勢に関する情報を含んでいてもよい。この場合、測定精度がさらに向上され得る。
【0061】
次に、
図10から
図15を用いて、測定システム1を用いた検証結果について説明する。
【0062】
本検証において、回流水槽実験が行われた。流速の計測範囲は0.4m/s~2.0m/sであり、実験の刻み幅は0.2m/sであった。流速の計測範囲の下限値は、絶対圧センサ素子41の感度次第で、さらに低くてもよい。流速の計測範囲の上限値は、10m/s以上であってもよい。軸AX周りの角度の計測範囲は、0度~355度であり、実験の刻み幅は5度であった。6個の絶対圧センサ素子41が、環状面S1に沿って周方向に60度間隔で配列された。各絶対圧センサ素子41において、100個のデータを取得した。
【0063】
図10及び
図11は、推定値の精度を示すグラフである。
図10は、式(5)において目的変数ベクトルの値をvcosθとした場合におけるデータである。
図11は、式(5)において目的変数ベクトルの値をvsinθとした場合におけるデータである。データD1及びデータD3は、測定システム1による推定値である。データD2及びデータD4は、回流水槽によって得られた実験データである。測定システム1において、回流水槽によって得られた実験データを教師データとして、演算部20におけるモデルが作成された。この結果、測定システム1における推定値が教師データに追従していることが確認された。
【0064】
図12から
図15は、流速と推定精度との関係を示している。
図12は、実際の流速と推定流速と角度との関係を示すグラフである。データD8は、実際の流速が0.4m/sである場合のデータである。データD9は、実際の流速が0.6m/sである場合のデータである。データD10は、実際の流速が0.8m/sである場合のデータである。データD11は、実際の流速が1.0m/sである場合のデータである。データD12は、実際の流速が1.2m/sである場合のデータである。データD13は、実際の流速が1.4m/sである場合のデータである。データD14は、実際の流速が1.6m/sである場合のデータである。データD15は、実際の流速が1.8m/sである場合のデータである。データD16は、実際の流速が2.0m/sである場合のデータである。
図12に示されているように、実際の流速が速いほど、流速が安定して正確に測定されることが確認された。
【0065】
図13は、実際の角度と推定角度と実際の速度との関係を示すグラフである。データD17は、実際の流速が2.0m/sである場合のデータである。データD18は、実際の流速が0.4m/sである場合のデータ、実際の流速が0.6m/sである場合のデータ、実際の流速が0.8m/sである場合のデータ、実際の流速が1.0m/sである場合のデータの集合である。
図13に示されているように、実際の流速が速いほど、流向の角度が安定して正確に測定されることが確認された。
【0066】
図14は、流速に関する二乗平均平方根誤差(RMSE)と実際の流速との関係を示している。データD6は、RMSEと実際の流速との関係をプロットした値である。
図14におけるRMESEは、流速の教師データと流速の推定値とに関する値である。
図14に示されているように、流速が速いほどRMSEが低下しており、流速が速いほど推定値が教師データに近づくことが確認された。
【0067】
図15は、流向の角度に関するRMSEと実際の流速との関係を示している。
図15におけるRMESEは、流向の角度の教師データと流向の角度の推定値とに関する値である。データD7は、RMSEと実際の流速との関係をプロットした値である。
図15に示されているように、流速が速いほどRMSEが低下しており、流速が速いほど推定値が教師データに近づくことが確認された。
図14及び
図15に示されているデータから、測定システム1において、流速分解能は0.02m/sであり、流向分解能は2.8度であると読み取れた。
【0068】
以上、本発明の実施形態及び変形例について説明してきたが、本発明は必ずしも上述した実施形態及び変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変更が可能である。
【0069】
例えば、本実施形態に示す例において、演算部20及び格納部30は、測定装置10と別に構成されている。変形例として、演算部20及び格納部30の少なくとも一方が、測定装置10内に設けられていてもよい。この場合、例えば、筐体部11に、演算部20及び格納部30の少なくとも一方が収容されてもよい。
【0070】
本実施形態に示す例において、測定装置10は海中に浮遊している。複数の絶対圧センサ素子41から出力された信号に基づいて、測定装置10の水深及び軸AXの傾きが演算された。測定システム1は、測定装置10の回転位置を検出する検出素子をさらに備え、測定装置10の回転位置を検出してもよい。
【0071】
さらなる変形例として、測定システム1は、測定装置10の姿勢を駆動する駆動部をさらに備えてもよい。駆動部は、筐体部11の軸AXの方向を傾斜させてもよい。この場合、駆動部から出力される情報に基づいて、測定装置10の姿勢が演算されてもよい。換言すれば、駆動部から出力される情報に基づいて、測定装置10の水深、軸AXの傾き、及び、回転位置の少なくとも1つが演算されてもよい。
【0072】
本実施形態において、流体αが液体である場合について説明した。しかし、流体αは、液体に限定されず、空気であってもよい。
【符号の説明】
【0073】
1…測定システム、11…筐体部、12…センサ部、15…検出部、20…演算部、41,CH0,CH1,CH2,CH3,CH4,CH5…絶対圧センサ素子、AX…軸、S1…環状面、α…流体。