(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155032
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】1液型エポキシ樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
C08G 59/66 20060101AFI20241024BHJP
C08G 59/68 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08G59/66
C08G59/68
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069398
(22)【出願日】2023-04-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-11
(71)【出願人】
【識別番号】391021031
【氏名又は名称】株式会社ダイゾー
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山内 健太
(72)【発明者】
【氏名】阿部 亨
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AA01
4J036DA05
4J036DD02
4J036DD07
4J036FA10
4J036GA04
4J036JA07
(57)【要約】
【課題】透明性、低温硬化性、及び、長期保存安定性に優れた1液型エポキシ樹脂組成物を提供する。
【解決手段】(A)エポキシ樹脂、(B)チオール系硬化剤、(C)硬化遅延剤、及び、(D)液状のリン系硬化促進剤を含有し、
前記(C)硬化遅延剤は、カルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、及び、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子、又はアルキル基を示す。)
で表されるエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする1液型エポキシ樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)エポキシ樹脂、(B)チオール系硬化剤、(C)硬化遅延剤、及び、(D)液状のリン系硬化促進剤を含有し、
前記(C)硬化遅延剤は、カルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、及び、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子、又はアルキル基を示す。)
で表されるエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)エポキシ樹脂は、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、及び、グリシジルアミン系エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)エポキシ樹脂の含有量は、前記1液型エポキシ樹脂組成物を100質量%として、10~90質量%である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
前記(B)チオール系硬化剤は、脂肪族系チオール化合物、エステル系チオール化合物、芳香族系チオール化合物、及び、イソシアヌレート系チオール化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
前記(B)チオール系硬化剤の含有量は、前記(A)エポキシ樹脂を100質量部として、10~200質量部である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
前記(C)硬化遅延剤は、カルボン酸、カルボン酸塩、及び、カルボン酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
前記(C)硬化遅延剤の含有量は、前記(A)エポキシ樹脂を100質量部として、0.5~30質量部である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記(D)液状のリン系硬化促進剤は、ホスフィン類、及び、ホスホニウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
前記(D)液状のリン系硬化促進剤の含有量は、前記(A)エポキシ樹脂を100質量部として、0.1~10質量部である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項10】
ブルックフィールドDV-IIIコーンプレート型粘度計を用いて、測定温度23℃の条件で測定した粘度が100~50000cPである、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【請求項11】
更に、アクリル系樹脂を含有する、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1液型エポキシ樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体素子は、樹脂組成物により封止が行われている。このような樹脂組成物としては、透明性、耐熱性を備えるエポキシ樹脂組成物が用いられている。
【0003】
上述の半導体素子の封止用の樹脂組成物として、エポキシ樹脂、酸無水物系硬化剤、n-アルキルチオールを含有するエポキシ樹脂、組成物が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物は、1液型エポキシ樹脂組成物として用いるための特性について十分に検討されてない。1液型エポキシ樹脂組成物には、半導体素子の封止を行うために適切な長期保存安定性(シェルライフ)が要求される。特許文献1に記載のエポキシ樹脂組成物は、シェルライフが十分でないという問題がある。
【0005】
更に、1液型エポキシ樹脂組成物には、低温硬化性が要求される。1液型エポキシ樹脂組成物の低温硬化性が劣るために高温硬化させると、硬化時に1液型エポキシ樹脂組成物中に着色が生じることや冷却中にひずみが発生し製品性能を著しく損なうという問題がある。
【0006】
従って、透明性、低温硬化性、及び、長期保存安定性に優れる1液型エポキシ樹脂組成物の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、透明性、低温硬化性、及び、長期保存安定性に優れた1液型エポキシ樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、(A)エポキシ樹脂、(B)チオール系硬化剤、(C)硬化遅延剤、及び、(D)液状のリン系硬化促進剤を含有し、上記(C)硬化遅延剤が特定の化合物である1液型エポキシ樹脂組成物によれば上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の1液型エポキシ樹脂組成物に関する。
1.(A)エポキシ樹脂、(B)チオール系硬化剤、(C)硬化遅延剤、及び、(D)液状のリン系硬化促進剤を含有し、
前記(C)硬化遅延剤は、カルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、及び、下記一般式(1)
【化1】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素原子、又はアルキル基を示す。)
で表されるエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、
ことを特徴とする1液型エポキシ樹脂組成物。
2.前記(A)エポキシ樹脂は、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、及び、グリシジルアミン系エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
3.前記(A)エポキシ樹脂の含有量は、前記1液型エポキシ樹脂組成物を100質量%として、10~90質量%である、項1又は2に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
4.前記(B)チオール系硬化剤は、脂肪族系チオール化合物、エステル系チオール化合物、芳香族系チオール化合物、及び、イソシアヌレート系チオール化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~3のいずれかに記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
5.前記(B)チオール系硬化剤の含有量は、前記(A)エポキシ樹脂を100質量部として、10~200質量部である、項1~4のいずれかに記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
6.前記(C)硬化遅延剤は、カルボン酸、カルボン酸塩、及び、カルボン酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~5のいずれかに記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
7.前記(C)硬化遅延剤の含有量は、前記(A)エポキシ樹脂を100質量部として、0.5~30質量部である、項1~6のいずれかに記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
8.前記(D)液状のリン系硬化促進剤は、ホスフィン類、及び、ホスホニウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、項1~7のいずれかに記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
9.前記(D)液状のリン系硬化促進剤の含有量は、前記(A)エポキシ樹脂を100質量部として、0.1~10質量部である、項1~8のいずれかに記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
10.ブルックフィールドDV-IIIコーンプレート型粘度計を用いて、測定温度23℃の条件で測定した粘度が100~50000cPである、項1~9のいずれかに記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
11.更に、アクリル系樹脂を含有する、項1~10のいずれかに記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明の1液型エポキシ樹脂組成物は、透明性、低温硬化性、及び、長期保存安定性に優れている。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.1液型エポキシ樹脂組成物
本発明の1液型エポキシ樹脂組成物(以下、単に「樹脂組成物」とも示す。)は、(A)エポキシ樹脂、(B)チオール系硬化剤、(C)硬化遅延剤、及び、(D)液状のリン系硬化促進剤を含有し、前記(C)硬化遅延剤は、カルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、及び、フタル酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種である1液型エポキシ樹脂組成物である。上記特徴を有する本発明の樹脂組成物は、(C)硬化遅延剤としてカルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、及び、フタル酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種を用いることにより、1液型の樹脂組成物であっても優れた長期安定性(シェルライフ)を示すことができる。また、本発明の樹脂組成物は、液状のリン系硬化促進剤を用いるので、透明性、優れたシェルライフを示すことができ、且つ、優れた低温硬化性を示すことができる。すなわち、本発明の樹脂組成物は、上記(A)~(D)成分を含有することがあいまって、透明性、及び、低温硬化性に優れ、且つ、優れた長期保存安定性を示すことができる。
【0013】
なお、本明細書において「液状」とは、23℃、大気圧下において、流動性があることをいい、ペースト状も含まれる。
【0014】
また、本明細書において「常温」とは、23℃を意味する。
【0015】
以下、本発明の樹脂組成物に含まれる各成分について説明する。
【0016】
((A)エポキシ樹脂)
(A)エポキシ樹脂(以下、「(A)成分」とも示す。)としては特に限定されず、公知のエポキシ樹脂を用いることができる。このようなエポキシ樹脂としては、分子内に1個以上のオキシラン基を有するエポキシ樹脂が挙げられる。
【0017】
上記(A)成分としては、具体的には、脂肪族エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂(ビスフェノールA型、ビスフェノールF型等)、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、及び、グリシジルアミン系エポキシ樹脂、ナフタレン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらの中でも、より透明性、長期保存安定性、及び、ポットライフが向上する観点から、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂が好ましい。
【0018】
上記(A)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0019】
1液型エポキシ樹脂組成物中の(A)成分の含有量は、1液型エポキシ樹脂組成物を100質量%として、10~90質量%が好ましく、20~80質量%がより好ましく、30~70質量%が更に好ましく、40~65質量%が特に好ましく、45~60質量%が最も好ましい。(A)成分の含有量が上記範囲であることにより、1液型エポキシ樹脂組成物の耐熱性、及び長期保存安定性がより向上する。
【0020】
上記(A)成分としては、市販品を用いることができる。このような市販品としては、DIC社製 商品名850S、新日本理化社製 商品名HBE-100等が挙げられる。
【0021】
((B)チオール系硬化剤)
(B)チオール系硬化剤(以下、「(B)成分」とも示す。)としては特に限定されず、公知のチオール系硬化剤を用いることができる。このようなチオール系硬化剤としては、1以上の官能基を有するチオールを用いることができる。このようなチオールとしては、脂肪族系チオール化合物、エステル系チオール化合物、芳香族系チオール化合物、イソシアヌレート系チオール化合物等が挙げられる。これらの中でも、1液型エポキシ樹脂組成物の耐熱性がより向上する観点から、脂肪族系チオール化合物が好ましい。
【0022】
上記脂肪族系チオール化合物としては、分子内に1~6個のメルカプト基を有する化合物が挙げられる。このような化合物としては、ペンタエリトリトールの3-メルカプトプロピオン酸エステル等が挙げられる。より具体的には、ペンタエリスリトール テトラキス(3-メルカプトブチレート)、2,2-ビス[[(3-メルカプトプロピオニル)オキシ]メチル]トリメチレン ビス[3-メルカプトプロピオネート]等が挙げられる。
【0023】
上記芳香族系チオール化合物としては特に限定されず、例えば、1,4-ベンゼンジチオール、1,5-ジメルカプトナフタレン、1,3,6-トリメルカプトナフタレン等が挙げられる。
【0024】
上記イソシアヌレート系チオール化合物としては、特に限定されず、例えば、1,3,5-トリス[3-(2メルカプトエチルスルファニル)プロピル]イソシアヌート、トリス-[(3-メルカプトプロピオニルオキシ)-エチル]-イソシアヌレート等が挙げられる。
【0025】
(B)成分は、常温(23℃)で液状であるものが好ましい。なお、本明細書において、常温とは23℃を意味しており、(B)成分は、23℃で液状のチオール系硬化剤であることが好ましい。また、(B)成分として用いられるチオールは、一級、二級、これらが混在したチオールであってもよい。
【0026】
上記(B)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
1液型エポキシ樹脂組成物中の(B)成分の含有量は、(A)エポキシ樹脂を100質量部として、10~200質量部が好ましく、40~150質量部がより好ましく、45~120質量部が更に好ましく、50~100質量部が特に好ましく、60~80質量部が最も好ましい。(B)成分の含有量の下限が上記範囲であることにより、1液型エポキシ樹脂組成物の耐熱性、長期保存安定性、及び、ポットライフがより向上する。(B)成分の含有量の上限が上記範囲であることにより、1液型エポキシ樹脂組成物の強度がより向上する。
【0028】
((C)硬化遅延剤)
本発明の1液型エポキシ樹脂組成物は、硬化遅延剤(以下、「(C)成分」とも示す。)を含有する。本発明においては、(C)成分としては、カルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物、及び、下記一般式(1)
【化2】
(式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素、又はアルキル基を示す。)
で表されるエステル化合物からなる群より選択される少なくとも1種が用いられる。これらの中でも、1液型エポキシ樹脂組成物の耐熱性がより向上する点で、カルボン酸、カルボン酸塩、カルボン酸無水物が好ましい。
【0029】
カルボン酸としては特に限定されず、アジピン酸等が挙げられる。
【0030】
カルボン酸塩としては、上述のカルボン酸の塩が挙げられ、例えば、カルシウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩等の金属塩が挙げられる。また、カルボン酸無水物としては、上述のカルボン酸の無水物が挙げられる。
【0031】
下記一般式(1)
【化3】
で示される化合物において、式中、R
1及びR
2は、同一又は異なって、水素、又はアルキル基を示す。アルキル基としては、具体的には炭素数1~10のアルキル基であることが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基及びデシル基からなる鎖状アルキル基、シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等の環状アルキル基等が挙げられる。
【0032】
上記一般式(1)で示される化合物としては、具体的にはフタル酸エステルが挙げられ、例えば、フタル酸ジブチル、フタル酸ジブチルベンジル、フタル酸ジエチルヘキシル、フタル酸ジイソデシル、フタル酸ジイソノイル、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジイソブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジメチル、フタル酸ジイソオクチル、フタル酸ジプロピル、フタル酸ジシクロヘキシル、フタル酸ジノニル、フタル酸ジペンチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジベンジル、フタル酸ジフェニル、フタル酸ビス(2-エチルヘキシル)等が挙げられる。
【0033】
1液型エポキシ樹脂組成物中の(C)成分の含有量は、(A)エポキシ樹脂を100質量部として、0.5~30質量部が好ましく、1.0~20質量部がより好ましく、1.5~10質量部が更に好ましく、1.5~5質量部が特に好ましい。(C)成分の含有量が上記範囲であることにより、1液型エポキシ樹脂組成物の透明性、長期保存安定性、及び、ポットライフがより向上する。
【0034】
((D)液状のリン系硬化促進剤)
(D)液状のリン系硬化促進剤(以下、「(D)成分」とも示す。)としては特に限定されず、常温で液状の公知のリン系硬化促進剤を用いることができる。なお、本明細書において、常温とは23℃を意味しており、(D)成分は、23℃で液状のリン系硬化促進剤である。
【0035】
(D)成分としては特に限定されず、ホスフィン類、ホスホニウム化合物等を用いることができる。これらの中でも、1液型エポキシ樹脂組成物の透明性がより向上する観点から、ホスフィン類、ホスホニウム化合物が好ましい。
【0036】
上記ホスフィン類としては、テトラブチルホスホニウムo,o-ジエチルホスホロジチオエート、トリフェニルホスフィン、テトラフェニルホスホニウム・テトラフェニルボレート等が挙げられる。これらの中でも、1液型エポキシ樹脂組成物の透明性がより向上する観点から、テトラブチルホスホニウムo,o-ジエチルホスホロジチオエートが好ましい。
【0037】
上記ホスホニウム化合物としては、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルホスホニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルホスホニウムヒドロキシド等が挙げられる。これらの中でも、1液型エポキシ樹脂組成物の透明性がより向上する観点から、テトラエチルホスホニウムヒドロキシドが好ましい。
【0038】
上記(D)成分は、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
1液型エポキシ樹脂組成物中の(D)成分の含有量は、(A)エポキシ樹脂を100質量部として、0.1~10質量部が好ましく、0.2~5質量部がより好ましく、0.5~3質量部が更に好ましい。(D)成分の含有量の下限が上記範囲であることにより、1液型エポキシ樹脂組成物の透明性、長期保存安定性、及び、ポットライフがより向上する。(D)成分の含有量の上限が上記範囲であることにより、1液型エポキシ樹脂組成物の透明性がより向上する。
【0040】
((E)アクリル系樹脂)
本発明の1液型エポキシ樹脂組成物は、上記(A)成分~(D)成分に加え、更に、(E)アクリル系樹脂 (以下、「(E)成分」とも示す。)を含有していてもよい。本発明の1液型エポキシ樹脂組成物が上記(E)成分を含有することにより、1液型エポキシ樹脂組成物の耐熱性、耐クラック性、及び透明性がより向上する。
【0041】
アクリル系樹脂としては特に限定されず、メチルメタアクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルメタアクリレート、グリシジルメタアクリレート等が挙げられる。
【0042】
例えば、アクリル系樹脂の例として、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド類、(メタ)アクリロニトリル等をモノマー成分として構成される重合体(ホモポリマー、コポリマー)を例示できる。
【0043】
1液型エポキシ樹脂組成物中の(E)成分の含有量は、(A)エポキシ樹脂を100質量部として、5~85質量部が好ましく、30~60質量部がより好ましい。(E)成分の含有量の下限が上記範囲であることにより、作業性、耐熱性、耐クラック性、及び透明性がより向上する。(E)成分の含有量の上限が上記範囲であることにより、1液型エポキシ樹脂組成物の耐クラック性がより向上する。
【0044】
(添加剤)
本発明の1液型エポキシ樹脂組成物は、上記(A)成分~(E)成分の他に、添加剤を含んでいてもよい。添加剤としては、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が挙げられる。
【0045】
(1液型エポキシ樹脂組成物の特性)
本発明の1液型エポキシ樹脂組成物の、ブルックフィールドDV-IIIコーンプレート型粘度計を用いて、測定温度23℃の条件で測定した粘度は、100~50000cPが好ましく、200~40000cPがより好ましい。1液型エポキシ樹脂組成物の粘度の上限が上記範囲であることにより、1液型エポキシ樹脂組成物の長期保存安定性がより向上する。1液型エポキシ樹脂組成物の粘度の下限が上記範囲であることにより、1液型エポキシ樹脂組成物の作業性がより向上する。
【0046】
2.1液型エポキシ樹脂組成物の製造方法
上記本発明の1液型エポキシ樹脂組成物の製造方法は特に限定されず、例えば、(A)成分~(D)成分、並びに、必要に応じて(E)成分及び添加剤を含有する樹脂組成物を、好ましくは温度40℃以上150℃以下で溶融させる工程を含む製造方法により製造することができる。以下、上記製造方法について例示的に説明する。
【0047】
上記樹脂組成物を調製する方法としては特に制限はないが、上記各成分を混練機に供給し、溶融混練して1液型エポキシ樹脂組成物を得る方法が挙げられる。
【0048】
溶融混練における混練温度は特に制限されず、30℃以上200℃以下が好ましく、40℃以上180℃以下がより好ましく、樹脂の劣化を抑制する観点から、60℃以上80℃以下が更に好ましい。また、樹脂の溶融混練の際の劣化を抑制するため、混練機に窒素等の不活性ガスをパージしてもよい。
【0049】
以上説明した製造方法により、1液型エポキシ樹脂組成物を製造することができる。
【実施例0050】
以下に実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
【0051】
なお、実施例及び比較例で用いた原料は以下のとおりである。
【0052】
(A)エポキシ樹脂(主剤):
・(A1)エポキシ樹脂:DIC社製 商品名エピクロン850S
・(A2)エポキシ樹脂:新日本理化社製 商品名HBE-100
【0053】
(B)硬化剤:
・(B1)チオール系硬化剤:昭和電工社製 商品名カレンズPE-1
・(B2)チオール系硬化剤:SC有機化学社製 商品名PEMP
・(B3)酸無水物系硬化剤:新日本理化社製 商品名リカジットMH-700P
【0054】
(C)硬化遅延剤:
・(C1)カルボン酸:商品名PM182
・(C2)エステル:アジピン酸ジイソデシル(DIDA)
・(C3)カルボン酸:サリチル酸
・(C4)カルボン酸:チオグリコール酸
【0055】
(D)硬化促進剤:
・(D1)リン系硬化促進剤:液状、日本化学工業社製 商品名ヒシコーリンPX-4ET
・(D2)アミン系硬化促進剤:液状、ピーティーアイ社製 商品名アンカミンK54
・(D3)イミダゾール系硬化促進剤:液体、四国化成社製 商品名キュアゾール2E4MZ-CN
・(D4)イミダゾール系硬化促進剤:固体、味の素ファインテクノ社製 商品名アミキュアPN-23
・(D5)アミン系硬化促進剤:固体、味の素ファインテクノ社製 商品名アミキュアMY-24
【0056】
(E)沈降防止剤:
・(E1)アエロジル:EVONIK社製 商品名アエロジルR972
【0057】
(実施例及び比較例)
上述した原料を、それぞれ表1に示す配合量で、撹拌混練機中に投入した。23℃で1分間混練して、1液型エポキシ樹脂組成物を製造した。
【0058】
(評価方法)
実施例及び比較例について、下記評価を行った。
【0059】
粘度
ブルックフィールドDV-IIIコーンプレート型粘度計を用いて、測定温度23℃の条件で、1液型エポキシ樹脂組成物の粘度を測定した。製造直後の1液型エポキシ樹脂組成物の粘度を初期粘度とした。また、恒温槽内で-20℃の条件で30日、90日、180日静置した後の粘度を測定した。
【0060】
シェルライフ(長期保存安定性)
1液型エポキシ樹脂組成物のシェルライフを評価した。具体的には、恒温槽内で-20℃の条件で静置し、30日、90日、180日静置後の粘度を最長で180日まで測定し、粘度の値が初期の2倍を超えた時点をシェルライフとした。
【0061】
ゲル化の有無(低温硬化性)
1液型エポキシ樹脂組成物を80℃の恒温槽内で1時間、又は、4時間静置した後のゲル化の有無を指触で観察し、下記評価基準に従って評価した。なお、4時間静置した後のゲル化の有無の評価が〇であれば実使用において問題ないと評価できる。
〇:ゲル化していた。
×:液状であった。
【0062】
透明性
1液型エポキシ樹脂組成物の透明性を目視で観察し、下記評価基準に従って評価した。
〇:完全に透明であった。
×:濁りが生じていた。
【0063】
結果を表1に示す。なお、表1において、配合の数値は質量部を示す。
【0064】
前記(A)エポキシ樹脂は、脂環式エポキシ樹脂、グリシジルエーテル系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂、及び、グリシジルアミン系エポキシ樹脂からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
前記(B)チオール系硬化剤は、脂肪族系チオール化合物、エステル系チオール化合物、芳香族系チオール化合物、及び、イソシアヌレート系チオール化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
前記(D)液状のリン系硬化促進剤は、ホスフィン類、及び、ホスホニウム化合物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
前記(D)液状のリン系硬化促進剤の含有量は、前記(A)エポキシ樹脂を100質量部として、0.1~10質量部である、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
ブルックフィールドDV-IIIコーンプレート型粘度計を用いて、測定温度23℃の条件で測定した粘度が100~50000cPである、請求項1に記載の1液型エポキシ樹脂組成物。
上記ホスホニウム化合物としては、テトラメチルホスホニウムヒドロキシド、テトラエチルホスホニウムヒドロキシド、テトラプロピルホスホニウムヒドロキシド、テトラブチルホスホニウムヒドロキシド、ベンジルトリメチルホスホニウムヒドロキシド、ヘキサデシルトリメチルホスホニウムヒドロキシド等が挙げられる。これらの中でも、1液型エポキシ樹脂組成物の透明性がより向上する観点から、テトラエチルホスホニウムヒドロキシドが好ましい。