IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日新電機株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-DC-DCコンバータ 図1
  • 特開-DC-DCコンバータ 図2
  • 特開-DC-DCコンバータ 図3
  • 特開-DC-DCコンバータ 図4
  • 特開-DC-DCコンバータ 図5
  • 特開-DC-DCコンバータ 図6
  • 特開-DC-DCコンバータ 図7
  • 特開-DC-DCコンバータ 図8
  • 特開-DC-DCコンバータ 図9
  • 特開-DC-DCコンバータ 図10
  • 特開-DC-DCコンバータ 図11
  • 特開-DC-DCコンバータ 図12
  • 特開-DC-DCコンバータ 図13
  • 特開-DC-DCコンバータ 図14
  • 特開-DC-DCコンバータ 図15
  • 特開-DC-DCコンバータ 図16
  • 特開-DC-DCコンバータ 図17
  • 特開-DC-DCコンバータ 図18
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155042
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】DC-DCコンバータ
(51)【国際特許分類】
   H02M 3/28 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
H02M3/28 H
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069411
(22)【出願日】2023-04-20
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000003942
【氏名又は名称】日新電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】清水 健介
(72)【発明者】
【氏名】前地 洋明
【テーマコード(参考)】
5H730
【Fターム(参考)】
5H730BB27
5H730DD03
5H730EE04
5H730EE07
5H730EE57
5H730EE59
5H730FD01
5H730FD11
5H730FD31
(57)【要約】
【課題】簡易な制御によって、様々な状況での送電を可能にすることを目的とする。
【解決手段】第1端子対(13)に接続されたブリッジ回路(10)と、第2端子対(23)に接続されたブリッジ回路(20)と、の間にトランス(Tr)を備えたDC-DCコンバータ(1)は、トランスについての換算電圧として表した第1端子対および第2端子対における端子管電圧のより大きくない方を第1電圧と称し、より小さくない方を第2電圧と称し、送電する電流、第1電圧および第2電圧に基づき、ブリッジ間位相差、第1レグ間位相差、および第2レグ間位相差を決定し、各スイッチング素子を制御する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスイッチング素子を含み、第1端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、
複数のスイッチング素子を含み、第2端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、
トランスを有し、前記2つのブリッジ回路の間に接続される変換部と、
前記2つのブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、
前記制御部は、
前記トランスについての換算電圧として表した、前記第1端子対および前記第2端子対における端子間電圧のうち、より大きくない方の端子間電圧を第1電圧Vsmallと称し、より小さくない方の端子間電圧を第2電圧Vlargeと称したとき、
前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流に応じて、前記第1電圧側における前記ブリッジ回路と、前記第2電圧側における前記ブリッジ回路と、の間のブリッジ間位相差φBを決定し、
前記第1電圧の前記第2電圧に対する比と前記ブリッジ間位相差とに基づいて、前記第1電圧側の前記ブリッジ回路における前記2つのレグ間での第1レグ間位相差を決定し、
前記第1レグ間位相差に前記比を乗じて、前記第2電圧側の前記ブリッジ回路における前記2つのレグ間での第2レグ間位相差を決定し、
前記各スイッチング素子におけるデューティを一定として、決定した前記ブリッジ間位相差と前記第1レグ間位相差と前記第2レグ間位相差とに従って、前記各スイッチング素子のスイッチングを制御する、DC-DCコンバータ。
【請求項2】
前記第1レグ間位相差は、第1関係式(1)によって求まる位相差φlarge1と、第2関係式(2)によって求まる位相差φlarge2と、のうちより大きくない方の値とする、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【数1】
【数2】
【請求項3】
前記制御部は、前記変換部を流れる交流電流において電流ゼロ区間を設けるように、前記第1レグ間位相差を決定する、請求項1に記載のDC-DCコンバータ。
【請求項4】
前記制御部は、前記ブリッジ間位相差φBを、前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流を参照したフィードバック制御により決定する、請求項1から3のいずれか1項に記載のDC-DCコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はDC-DCコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
直流電力の送電に、デュアルアアクティブブリッジ方式(以下、DABと省略する)のDC-DCコンバータが広く用いられている。特許文献1には、所望の出力電流を作り出すためのスイッチングパターンを示すスイッチングモードマップが定義されている。スイッチングモードマップに従い制御することによって、1次側から2次側への送電(力行)および2次側から1次側への送電(回生)、ならびに、1次側から2次側への昇圧動作、1次側から2次側への降圧動作、および1次側と2次側とをバランスさせた定格電圧動作が可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2016-101089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来技術はスイッチングモードマップに従い、複数のスイッチング素子を管理するために、各動作パターンを網羅した制御則を実装する必要があり、制御部のメモリの圧迫および制御の複雑化を招く。さらに、スイッチングモードマップはDC-DCコンバータを構成する各回路素子の回路定数によって変化するために、回路の構成に応じて、各制御則の設計をやり直す必要がある。また、複数の制御則を切り替えるために、制御則の変化時に挙動が急変化する。
【0005】
本発明の一態様は、簡易な制御によって、様々な状況での送電を可能にすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るDC-DCコンバータは、複数のスイッチング素子を含み、第1端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、複数のスイッチング素子を含み、第2端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、トランスを有し、前記2つのブリッジ回路の間に接続される変換部と、前記2つのブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記トランスについての換算電圧として表した、前記第1端子対および前記第2端子対における端子間電圧のうち、より大きくない方の端子間電圧を第1電圧Vsmallと称し、より小さくない方の端子間電圧を第2電圧Vlargeと称したとき、前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流に応じて、前記第1電圧側における前記ブリッジ回路と、前記第2電圧側における前記ブリッジ回路と、の間のブリッジ間位相差φBを決定し、前記第1電圧の前記第2電圧に対する比と前記ブリッジ間位相差とに基づいて、前記第1電圧側の前記ブリッジ回路における前記2つのレグ間での第1レグ間位相差を決定し、前記第1レグ間位相差に前記比を乗じて、前記第2電圧側の前記ブリッジ回路における前記2つのレグ間での第2レグ間位相差を決定し、前記各スイッチング素子におけるデューティを一定として、決定した前記ブリッジ間位相差と前記第1レグ間位相差と前記第2レグ間位相差とに従って、前記各スイッチング素子のスイッチングを制御する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、簡易な制御によって、様々な状況での送電を可能にできる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態に係るDC-DCコンバータの回路図である。
図2】制御部の動作を示すブロック図である。
図3】定格電圧動作における力行時の各スイッチング素子のタイミングチャートである。
図4】定格電圧動作における力行時のグラフである。
図5】定格電圧動作における回生時のグラフである。
図6】定格電圧動作において出力電流を徐々に上げていった場合におけるグラフである。
図7】昇圧動作における力行時の各スイッチング素子のタイミングチャートである。
図8】昇圧動作における低出力での力行時のグラフである。
図9】昇圧動作における高出力での力行時のグラフである。
図10】昇圧動作における低出力での回生時のグラフである。
図11】昇圧動作における高出力での回生時のグラフである。
図12】昇圧動作において出力電流を徐々に上げていった場合におけるグラフである。
図13】降圧動作における力行時の各スイッチング素子のタイミングチャートである。
図14】降圧動作における低出力での力行時のグラフである。
図15】降圧動作における高出力での力行時のグラフである。
図16】降圧動作における低出力での回生時のグラフである。
図17】降圧動作における高出力での回生時のグラフである。
図18】降圧動作において出力電流を徐々に上げていった場合におけるグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
〔実施形態〕
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本実施形態に係るDC-DCコンバータ1の回路図である。DC-DCコンバータ1は、1次側ブリッジ回路10と、2次側ブリッジ回路20と、変換部30と、制御部40と、を備える。
【0010】
(DC-DCコンバータ1の構成)
1次側ブリッジ回路10は、第1端子対13に接続されている。第1端子対13の電圧、すなわち、端子13aから端子13bに向けた電圧は電圧V1である。なお、第1端子対13には、電源または負荷が接続されていてもよい。また、端子13bに流れ込む電流は電流I1である。
【0011】
2次側ブリッジ回路20は、第2端子対23に接続されている。第2端子対23の電圧、すなわち、端子23aから端子23bに向けた電圧は電圧V2である。なお、第2端子対23には、電源または負荷が接続されていてもよい。また、端子23bに流れ込む電流は電流I2である。
【0012】
なお、電圧V1、電圧V2、電流I1、および電流I2は、制御部40が取得する時間平均値であり、後述する制御に用いる。
【0013】
ここで、本明細書では、1次側ブリッジ回路10から2次側ブリッジ回路20へと電力が伝送されることを「力行」という表現を用い、2次側ブリッジ回路20から1次側ブリッジ回路10へと電力が伝送されることを「回生」という表現を用いる。また、1次側ブリッジ回路10側を「1次側」、2次側ブリッジ回路20側を「2次側」とも称する。「力行」は、出力電力Pout>0となる。「回生」は、出力電力Pout<0となる。
【0014】
1次側ブリッジ回路10は、4つのスイッチング素子S1~S4が設けられたフルブリッジ回路に、コンデンサ素子C1が並列に接続されている回路である。1次側ブリッジ回路10は、第1レグ11と、第2レグ12と、コンデンサ素子C1とにより構成されている。第1レグ11は、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2とが直列に接続されて構成される。第2レグ12は、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4とが直列に接続されて構成される。
【0015】
2次側ブリッジ回路20は、4つのスイッチング素子S5~S8が設けられたフルブリッジ回路に、コンデンサ素子C2が並列に接続されている回路である。2次側ブリッジ回路20は、第3レグ21と、第4レグ22と、コンデンサ素子C2とにより構成されている。第3レグ21は、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6とが直列に接続されて構成される。第4レグ22は、スイッチング素子S7とスイッチング素子S8とが直列に接続されて構成される。
【0016】
スイッチング素子S1~S8はそれぞれMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)またはその他のFET(Field Effect Transistor)で構成できる。あるいは、スイッチング素子S1~S8は、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、その他のトランジスタで構成されてもよい。
【0017】
変換部30は、巻線比nのトランスTrと、リアクトルLとを備え、1次側ブリッジ回路10と2次側ブリッジ回路20との間に接続される。図1の回路図においては、変換部30のインダクタンス成分が、1次側に設けられたリアクトルLとして等価的に表されている。
【0018】
ここで、リアクトルLは、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2との接続点と、トランスTrの1次側の巻線の一端に接続されているようにあらわされている。また、トランスTrの1次側の巻線の他端は、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4との接続点に接続されているようにあらわされている。
【0019】
ここでは、リアクトルLをトランスTrの1次側の巻線に接続するように記載したが、これに限定されない。また、リアクトルLはトランスTrに含まれないインダクタンス成分を含めて表すが、現実のリアクトル素子は回路上に存在しなくても構わない。変換部30に現実の素子としてのリアクトル素子が設けられる場合には、リアクトル素子は、トランスTrの1次側に配置されても、2次側に配置されても、あるいは両方に配置されてもよい。
【0020】
リアクトルLは、トランスTrの漏れインダクタンスを含んでもよい。図1の回路図においては、トランスTrの2次側の巻線は、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6との接続点およびスイッチング素子S7とスイッチング素子S8との接続点に接続されているように表されている。
【0021】
変換部30の1次側の電圧、すなわち、スイッチング素子S3とスイッチング素子S4との接続点から、スイッチング素子S1とスイッチング素子S2との接続点までの電圧を、1次側交流電圧Vac1とする。また、変換部30の1次側の電流、すなわち、変換部30と1次側ブリッジ回路10との間に流れる電流を、1次側交流電流Iac1とする。
【0022】
変換部30の2次側の電圧、すなわち、スイッチング素子S7とスイッチング素子S8との接続点から、スイッチング素子S5とスイッチング素子S6との接続点までの電圧を、2次側交流電圧Vac2とする。また、変換部30の2次側の電流、すなわち、変換部30と2次側ブリッジ回路20との間に流れる電流を、2次側交流電流Iac2とする。
【0023】
(ブロック図)
図2は、制御部40の動作を示すブロック図である。制御部40は、ブロック図に従って各スイッチング素子S1~S8を制御する。ブロック図では、各スイッチング素子同士の位相差を決定している。
【0024】
(ブリッジ間位相差φB)
符号41において、目標電流Irefと、現在の出力電流Ioutとを比較する。なお、目標電流Irefおよび出力電流Ioutは、2次側ブリッジ回路20の電流I2の目標値と現在値であり、1次側から2次側への送電を正とする。つまり、符号41では出力電流Ioutの目標電流Irefに対する偏差を求めている。
【0025】
符号42において、該偏差に対してPI制御を行う。PI制御をおこなった結果は、ブリッジ間位相差φBとなる。ここで、ブリッジ間位相差φBは、1次側ブリッジ回路10と2次側ブリッジ回路20との位相差である。ブリッジ間位相差φBは、1次側交流電圧Vac1および2次側交流電圧Vac2に着目して、1次側交流電圧Vac1が、2次側交流電圧Vac2に対して進み位相の場合が正である。なお、ブリッジ間位相差φBは負の値をとることもあり、正の値の場合は力行となり、負の値の場合は回生となる。また、ブリッジ間位相差φBは、-π/2~π/2の範囲の値となる。
【0026】
(巻線比n、第1電圧Vsmallおよび第2電圧Vlarge)
トランスTrの巻線比nは、1次巻線の巻き数n1と2次巻線の巻き数n2とでもって、次のように表せる。
【0027】
【数1】
そのため、トランスTrについての1次側の換算電圧として表した、第1端子対13の電圧はV1であり、第2端子対23の電圧はnV2である(符号43)。符号44において、数2に示すように、これらの電圧の大小を比較して、電圧がより大きくない方をVsmallとし、電圧がより小さくない方をVlargeと呼称する。
【0028】
【数2】
(第1レグ間位相差φL_large)
符号45において、VsmallおよびVlargeを用いて次式によって、位相差φlarge1を求める。
【0029】
【数3】
符号46において、VsmallおよびVlargeを用いて次式によって、位相差φlarge2を求める。
【0030】
【数4】
符号47において、位相差φlarge1および位相差φlarge2を比較し、より大きくない方を選択し、第1レグ間位相差φL_largeとする。
【0031】
【数5】
第1レグ間位相差φL_largeは、第1電圧Vsmall側のブリッジ回路における2つのレグ間の位相差である。仮に、第1電圧Vsmallが1次側のブリッジ回路の場合、第1レグ間位相差φL_largeは、第1レグ11に対して第2レグ12が進んでいる場合が正である。仮に、第1電圧Vsmallが2次側のブリッジ回路の場合、第1レグ間位相差φL_largeは、第3レグ21に対して第4レグ22が進んでいる場合が正である。なお、第1レグ間位相差φL_largeは常に正の値を取る。また、第1レグ間位相差φL_largeは、0~πの範囲の値となる。
【0032】
なお、第1レグ間位相差φL_largeは、トランスTrを流れる交流電流において電流ゼロ区間を設けるように、決定されている。
【0033】
(第2レグ間位相差φL_small)
符号48において、第1レグ間位相差φL_largeに、第1電圧Vsmallの第2電圧Vlargeに対する比(Vsmall/Vlarge)を乗算することで、第2レグ間位相差φL_smallを求める。
【0034】
第2レグ間位相差φL_smallは、第2電圧Vlarge側のブリッジ回路における2つのレグ間の位相差である。仮に、第2電圧Vlargeが1次側のブリッジ回路の場合、第2レグ間位相差φL_smallは、第1レグ11に対して第2レグ12が進んでいる場合が正である。仮に、第2電圧Vlargeが2次側のブリッジ回路の場合、第2レグ間位相差φL_smallは、第3レグ21に対して第4レグ22が進んでいる場合が正である。なお、第2レグ間位相差φL_smallは常に正の値を取る。また、第2レグ間位相差φL_smallは、0~πの範囲の値となる。
【0035】
(三角波比較)
符号49において、決定されたブリッジ間位相差φB、第1レグ間位相差φL_large、および第2レグ間位相差φL_smallに従って、各スイッチング素子S1~S8のスイッチングを制御する。このとき、各スイッチング素子S1~S8のデューティは、例えば0.5として固定する。なお、各スイッチング素子S1~S8についての所要のスイッチングの位相差を生じさせるために、三角波と位相差に応じた値の大小を比較してスイッチングのタイミングを決定する、いわゆる三角波比較法を用いてもよい。
【0036】
なお、制御信号を作る手段は限定されず、ブリッジ間位相差φB、第1レグ間位相差φL_large、および第2レグ間位相差φL_smallを考慮した任意の手段を用いてもよい。
【0037】
(動作パターン)
以降は、図2に示すブロック図に基づき、制御をおこなったときの動作を詳細に説明する。動作としては、電力の送電方向と、1次側と2次側との電圧差と、の二種類の観点で区分することができる。
【0038】
電力の送電方向では、上述したように、1次側から2次側へと送電する場合を「力行」と称し、2次側から1次側へと送電する場合を「回生」と称する。また、1次側と2次側との電圧差では、大きく分けて3パターンあり、定格電圧動作、昇圧動作、および降圧動作がある。定格電圧動作は、1次側と2次側との換算電圧がほぼ釣り合っている状態である。昇圧動作は、1次側よりも2次側の電圧が大きい状態である。降圧動作は、1次側よりも2次側の電圧が小さい状態である。
【0039】
上述したブロック図では、電力の送電方向と、1次側と2次側との電圧差と、を合わせた合計6種類の動作パターンがあり、全て実行可能である。
【0040】
(定格電圧動作)
図3は、定格電圧動作における力行時の各スイッチング素子のタイミングチャートである。ここで、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のオンオフは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のオンオフの逆位相である。なお、各スイッチング素子S1~S8の動作には、実際には短絡を防止するためのデッドタイムを設けるが、簡素化のためにここではデッドタイムを省略して記載している。
【0041】
なお、図3ではブリッジ間位相差が正の値であるため、力行となっているが、負の値では、回生となる。つまり、1次側交流電圧Vac1が、2次側交流電圧Vac2に対して遅れ位相の場合では、回生となる。
【0042】
図4は、定格電圧動作における力行時のグラフである。図5は、定格電圧動作における回生時のグラフである。図4および図5では、スイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のグラフに関して記載しているが、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のグラフでは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7に対して半周期遅れた波形となっている。また、各スイッチング素子S1~S8のグラフは、それぞれの素子に印加される電圧と、流れる電流とを記載している。
【0043】
図4に示す定格電圧動作における力行時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6がZCS(Zero Current Switching)可能であり、低損失である。図5に示す定格電圧動作における回生時では、スイッチング素子S1、S2、S7、S8がZCS可能であり、低損失である。
【0044】
図6は、定格電圧動作において出力電流Ioutを徐々に上げていった場合におけるグラフである。図6に示すように、1次側交流電流Iac1は、徐々に振幅が大きくなっていることがわかり、出力電流Ioutは時間が経つにつれて増大している。この場合においても、1次側交流電圧Vac1および2次側交流電圧Vac2は、振幅およびパルス幅において、大きな変化がない波形となっている。
【0045】
また、図6では、位相差φlarge1と位相差φlarge2との値の変化もプロットしてある。図6に示すように、定格電圧動作では、常に位相差φlarge1の方が位相差φlarge2よりも大きくない。そのため、常に、位相差φlarge1が第1レグ間位相差φL_largeとして制御されていることになる。
【0046】
(昇圧動作)
図7は、昇圧動作における力行時の各スイッチング素子のタイミングチャートである。ここで、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のオンオフは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のオンオフの逆位相である。なお、各スイッチング素子S1~S8の動作には、実際には短絡を防止するためのデッドタイムを設けるが、簡素化のためにここではデッドタイムを省略して記載している。
【0047】
なお、図7ではブリッジ間位相差が正の値であるため、力行となっているが、負の値では、回生となる。つまり、1次側交流電圧Vac1が、2次側交流電圧Vac2に対して遅れ位相の場合では、回生となる。
【0048】
図8は、昇圧動作における低出力での力行時のグラフである。図9は、昇圧動作における高出力での力行時のグラフである。図10は、昇圧動作における低出力での回生時のグラフである。図11は、昇圧動作における高出力での回生時のグラフである。図8図11では、スイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のグラフに関して記載しているが、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のグラフでは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7に対して半周期遅れた波形となっている。また、各スイッチング素子S1~S8のグラフは、それぞれの素子に印加される電圧と、流れる電流とを記載している。
【0049】
図8に示す昇圧動作における低出力での力行時では、スイッチング素子S1、S2、S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。図9に示す昇圧動作における高出力での力行時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。
【0050】
図10に示す昇圧動作における低出力での回生時では、スイッチング素子S1、S2、S5、S6、S7、S8がZCS可能であり、低損失である。図11に示す昇圧動作における高出力での回生時では、スイッチング素子S1、S2、S7、S8がZCS可能であり、低損失である。
【0051】
図12は、昇圧動作において出力電流Ioutを徐々に上げていった場合におけるグラフである。図12に示すように、1次側交流電流Iac1は、徐々に振幅が大きくなっていることがわかり、出力電流Ioutは時間が経つにつれて増大している。また、1次側交流電圧Vac1および2次側交流電圧Vac2は、振幅は変化がないが、パルス幅は時間が経つにつれて徐々に増大している。
【0052】
また、図12では、位相差φlarge1と位相差φlarge2との値の変化もプロットしてある。図12に示すように、昇圧動作では、位相差φlarge1と位相差φlarge2との大小関係が時刻t1において変化している。
【0053】
低出力においては、位相差φlarge2が位相差φlarge1よりも大きくない。そのため、低出力においては、位相差φlarge2が第1レグ間位相差φL_largeとして制御されていることになる。
【0054】
対して、高出力においては、位相差φlarge1が位相差φlarge2よりも大きくない。そのため、低出力においては、位相差φlarge1が第1レグ間位相差φL_largeとして制御されていることになる。
【0055】
(降圧動作)
図13は、降圧動作における力行時の各スイッチング素子のタイミングチャートである。ここで、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のオンオフは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のオンオフの逆位相である。なお、各スイッチング素子S1~S8の動作には、実際には短絡を防止するためのデッドタイムを設けるが、簡素化のためにここではデッドタイムを省略して記載している。
【0056】
なお、図13ではブリッジ間位相差が正の値であるため、力行となっているが、負の値では、回生となる。つまり、1次側交流電圧Vac1が、2次側交流電圧Vac2に対して遅れ位相の場合では、回生となる。
【0057】
図14は、降圧動作における低出力での力行時のグラフである。図15は、降圧動作における高出力での力行時のグラフである。図16は、降圧動作における低出力での回生時のグラフである。図17は、降圧動作における高出力での回生時のグラフである。図14図17では、スイッチング素子S1、S3、S5、およびS7のグラフに関して記載しているが、スイッチング素子S2、S4、S6、およびS8のグラフでは、それぞれスイッチング素子S1、S3、S5、およびS7に対して半周期遅れた波形となっている。また、各スイッチング素子S1~S8のグラフは、それぞれの素子に印加される電圧と、流れる電流とを記載している。
【0058】
図14に示す降圧動作における低出力での力行時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6、S7、S8がZCS可能であり、低損失である。図15に示す降圧動作における高出力での力行時では、スイッチング素子S3、S4、S5、S6がZCS可能であり、低損失である。
【0059】
図16に示す降圧動作における低出力での回生時では、スイッチング素子S1、S2、S3、S4、S7、S8がZCS可能であり、低損失である。図17に示す降圧動作における高出力での回生時では、スイッチング素子S1、S2、S7、S8がZCS可能であり、低損失である。
【0060】
図18は、降圧動作において出力電流Ioutを徐々に上げていった場合におけるグラフである。図18に示すように、1次側交流電流Iac1は、徐々に振幅が大きくなっていることがわかり、出力電流Ioutは時間が経つにつれて増大している。また、1次側交流電圧Vac1および2次側交流電圧Vac2は、振幅は変化がないが、パルス幅は時間が経つにつれて徐々に増大している。
【0061】
また、図18では、位相差φlarge1と位相差φlarge2との値の変化もプロットしてある。図12に示すように、降圧動作では、位相差φlarge1と位相差φlarge2との大小関係が時刻t2において変化している。
【0062】
低出力においては、位相差φlarge2が位相差φlarge1よりも大きくない。そのため、低出力においては、位相差φlarge2が第1レグ間位相差φL_largeとして制御されていることになる。
【0063】
対して、高出力においては、位相差φlarge1が位相差φlarge2よりも大きくない。そのため、低出力においては、位相差φlarge1が第1レグ間位相差φL_largeとして制御されていることになる。
【0064】
(位相差φlarge1および位相差φlarge2について)
上述したように、定格電圧動作と、昇降動作の高出力時と、降圧動作の高出力と、において、位相差φlarge1が制御に用いられる。ここで、位相差φlarge1が制御に用いられる場合において、ブリッジ間位相差φBと第2レグ間位相差φL_smallとの和がπより大きくなると、交流電流における電流ゼロ区間がなくなりZCSができるレグの数が減少する。そのため、これらの場合では、スイッチング損失が増加する。
【0065】
また、1次側交流電流Iac1および2次側交流電流Iac2の波形が、電流値がゼロの直線となす形状が四角形となっている。これは、交流電流における電流ゼロ区間がなくなっており、電流が流れる方向に波形がオフセットしたような状態になるためである。そのため、波形と電流値がゼロの直線となす形状の面積が大きくなり易く、高出力での送電が可能となっている。
【0066】
昇圧動作の低出力時と、降圧動作の低出力時と、において、位相差φlarge2が制御に用いられる。位相差φlarge2が制御に用いられる場合において、ブリッジ間位相差φBと第2レグ間位相差φL_smallとの和が第1レグ間位相差φL_large以上になると、無効電流の割合が増えてしまい、効率よく出力を出すことが困難になる。
【0067】
また、1次側交流電流Iac1および2次側交流電流Iac2の波形が、電流値がゼロの直線となす形状が三角形となっている。そのため、波形と電流値がゼロの直線となす形状の面積が小さくなり易く、低出力での送電となってしまう。
【0068】
(作用・効果)
上述したように、力行・回生および定格電圧動作・昇圧動作・降圧動作の、どの動作パターンにおいても、常に4個以上のスイッチング素子においてZCSが可能である。そのため、低損失にスイッチングすることができる。
【0069】
また、位相差φlarge1と位相差φlarge2とが等しい値になった段階において、第1レグ間位相差φL_largeとなる位相差が切り替わるため、連続した動作が可能である。そのため、制御が急変動しなく安定性が高い。
【0070】
〔変形例〕
位相差φlarge1および位相差φlarge2を導出する式は、上述した式に制限されない。例えば、補正を行う定数項または係数を追加してもよい。これら補正を追加することによって、条件式の挙動を調整することができるようになり、トランスTrなどの特性に応じた損失を含めたトータルロスを低減することができるようになる。
【0071】
また、実施形態においては、出力電流Ioutを用いて制御を行ったが、出力電力を用いて制御を行ってもよい。
【0072】
〔まとめ〕
上記の課題を解決するために、本発明の態様1に係るDC-DCコンバータは、複数のスイッチング素子を含み、第1端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、複数のスイッチング素子を含み、第2端子対の間に2つのレグを有したブリッジ回路と、トランスを有し、前記2つのブリッジ回路の間に接続される変換部と、前記2つのブリッジ回路の各スイッチング素子のスイッチングを制御する制御部と、を備えたDC-DCコンバータであって、前記制御部は、前記トランスについての換算電圧として表した、前記第1端子対および前記第2端子対における端子間電圧のうち、より大きくない方の端子間電圧を第1電圧Vsmallと称し、より小さくない方の端子間電圧を第2電圧Vlargeと称したとき、前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流に応じて、前記第1電圧側における前記ブリッジ回路と、前記第2電圧側における前記ブリッジ回路と、の間のブリッジ間位相差φBを決定し、前記第1電圧の前記第2電圧に対する比と前記ブリッジ間位相差とに基づいて、前記第1電圧側の前記ブリッジ回路における前記2つのレグ間での第1レグ間位相差を決定し、前記第1レグ間位相差に前記比を乗じて、前記第2電圧側の前記ブリッジ回路における前記2つのレグ間での第2レグ間位相差を決定し、前記各スイッチング素子におけるデューティを一定として、決定した前記ブリッジ間位相差と前記第1レグ間位相差と前記第2レグ間位相差とに従って、前記各スイッチング素子のスイッチングを制御する。
【0073】
上記の構成によれば、力行・回生および定格電圧動作・昇圧動作・降圧動作の、どの動作パターンにおいても、少なくとも4個のスイッチング素子においてZCSが可能となりスイッチング損失を低減することができる。
【0074】
本発明の態様2に係るDC-DCコンバータは、前記態様1において、前記第1レグ間位相差は、第1関係式(1)によって求まる位相差φlarge1と、第2関係式(2)によって求まる位相差φlarge2と、のうちより大きくない方の値としてもよい。
【0075】
上記の構成によれば、送電する電流または電力に対し、制御量の各位相差が連続した値をとることになり、シームレスな制御が可能になる。
【0076】
本発明の態様3に係るDC-DCコンバータは、前記態様1または2において、前記制御部は、前記変換部を流れる交流電流において電流ゼロ区間を設けるように、前記第1レグ間位相差を決定してもよい。
【0077】
上記の構成によれば、低損失で幾つかのスイッチング素子をスイッチングすることができる。
【0078】
本発明の態様4に係るDC-DCコンバータは、前記態様1から3のいずれかにおいて、前記制御部は、前記ブリッジ間位相差φBを、前記第1端子対側から前記第2端子対側へと送電する電力または電流を参照したフィードバック制御により決定してもよい。
【0079】
上記の構成によれば、ブリッジ間位相差でもって、送電する電力または電流を制御することができる。
【0080】
〔付記事項〕
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0081】
1 DC-DCコンバータ
10 1次側ブリッジ回路
11 第1レグ
12 第2レグ
13 第1端子対
20 2次側ブリッジ回路
21 第3レグ
22 第4レグ
23 第2端子対
30 変換部
40 制御部
Tr トランス
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18