(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155070
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】メカニカルシール保全装置、メカニカルシール保全用部材、及びメカニカルシール保全方法
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20241024BHJP
G01M 13/005 20190101ALN20241024BHJP
【FI】
F16J15/34 Z
G01M13/005
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069476
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000192590
【氏名又は名称】株式会社神鋼環境ソリューション
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】南淵 智洋
【テーマコード(参考)】
2G024
3J041
【Fターム(参考)】
2G024AA13
2G024BA21
2G024CA04
2G024CA13
2G024DA12
2G024FA02
3J041BA03
3J041BD01
3J041DA20
(57)【要約】
【課題】簡易な構成によってメカニカルシール又は回転装置の異常を検知しうるメカニカルシールの保全装置及び保全方法、並びにメカニカルシール保全用部材を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明に係るメカニカルシール保全装置は、回転環10と固定環20とでシール面を構成するメカニカルシールの保全装置1であって、前記回転環10と係合し且つ測定面31を有する被測定部材30と、前記測定面31の変位を測定しうる測定手段40と、を備え、前記測定面31は、前記回転環11よりも径方向外側において軸方向と交差するように配置されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転環と固定環とでシール面を構成するメカニカルシールの保全装置であって、
前記回転環と係合し且つ測定面を有する被測定部材と、
前記測定面の変位を測定しうる測定手段と、を備え、
前記測定面は、前記回転環よりも径方向外側において軸方向と交差するように配置されている、メカニカルシール保全装置。
【請求項2】
前記回転環は、前記固定環と当接して前記シール面を構成する第一回転環と、回転軸に固定される第二回転環とを備え、
前記被測定部材は、前記第一回転環と前記第二回転環との間に備えられた付勢部材によって前記第一回転環に対して付勢された状態で固定される、請求項1記載のメカニカルシール保全装置。
【請求項3】
前記測定手段は、前記被測定部材を基準として、前記シール面とは反対側に配置されている、請求項1記載のメカニカルシール保全装置。
【請求項4】
前記測定手段は、前記測定面の回転と連動する周期的な振れを測定し得るものである、請求項1記載のメカニカルシール保全装置。
【請求項5】
前記測定手段は、前記測定面の振動を測定し得るものである、請求項1記載のメカニカルシール保全装置。
【請求項6】
前記測定手段は、前記測定面の所定の基準位置に対する軸方向における変位を測定し得るものである、請求項1記載のメカニカルシール保全装置。
【請求項7】
前記被測定部材が導電性のディスクプレートであり、前記測定手段が渦電流式の非接触変位計である、請求項1記載のメカニカルシール保全装置。
【請求項8】
回転環と固定環とでシール面を構成するメカニカルシールの保全に使用されるメカニカルシール保全用部材であって、
前記回転環に係合される係合部と、該係合部から径方向外側に向けて膨出する膨出部と、該膨出部に備えられ測定手段によって変位を測定される測定面とを有し、
前記測定面は、軸方向と交差するように配置される、
メカニカルシール保全用部材。
【請求項9】
回転環と固定環とでシール面を構成するメカニカルシールの保全方法であって、
前記回転環に係合された被測定部材の測定面であって前記回転環よりも径方向外側において軸方向と交差するように配置される測定面の変位を測定する、メカニカルシールの保全方法。
【請求項10】
前記測定面の回転と連動する周期的な振れを測定する、請求項9記載のメカニカルシールの保全方法。
【請求項11】
前記測定面の振動を測定する、請求項9記載のメカニカルシールの保全方法。
【請求項12】
前記測定面の所定の基準位置に対する軸方向における変位を測定する、請求項9記載のメカニカルシールの保全方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸の封止に使用されるメカニカルシールの保全技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、回転装置を備えた種々の化学装置が使用されており、回転装置を用いて化学装置内に収容された被処理物の撹拌、乾燥、濾過、粉砕といった種々の処理が行われている。回転装置は、化学装置の容器本体を貫通する回転軸を備えており、その貫通部分には化学装置の容器本体を密封するべくメカニカルシールが設けられている。メカニカルシールは、具体的には、回転軸に取り付けられて回転軸と共に回転する回転環と、化学装置の容器本体に固定される固定環とを備えて構成される。そして、回転環の摺動面と固定環の摺動面とを密接させた状態で回転(摺動)させることによってシール面を形成し、化学装置内部の被処理物が回転軸の貫通部分から外部へ漏出することを防止している。
【0003】
メカニカルシールは、上記のような構成であるが故、摺動面が経時的に摩耗するものであるため、適切な時期に交換する必要がある。しかしながら、化学装置の使用状況によって摩耗の速度は異なり、適切な交換時期を予測することは難しい。
【0004】
また、摩耗以外の要因、例えば、メカニカルシールのシール面に異物が混入した場合や、シール面を構成する回転環又は固定環が破損した場合など、様々な要因によってメカニカルシール又はその周辺の機器に異常が生じる場合がある。このような場合においても、速やかにその異常を検知し、早期に対応することが化学装置を長期間トラブルなく運転する上で重要となる。
【0005】
メカニカルシールの摩耗を検知する技術としては、例えば、以下の特許文献に記載の装置が知られている。即ち、特許文献1には、互いに相対回転可能に配置された第1の密封環(回転環)及び第2の密封環(静止密封環)、ならびに前記第1及び第2の密封環の互いに対向するシール面同士が摺接するように、第1の密封環を前記第2の密封環に押圧させる付勢部材、を備えたメカニカルシールが開示されており、第1の密封環(回転環)側に被変位検出部を設け、第2の密封環(静止密封環)側に変位検出部を設け、第2の密封環の内周部に形成された照射路を介して変位検出部から被変位検出部に向けて軸方向にレーザ光を照射し、被変位検出部から反射したレーザ光を変位検出部で測定することにより、第1の密封環と第2の密封環との軸方向の距離を測定する摩耗検知装置が開示されている。
【0006】
また、特許文献2には、回転軸に固定され回転軸と一体回転するメイティングリング(回転環)と、ハウジングの内側に軸方向に移動自在に設けられたシールリング(固定環)と、該シールリング(回転環)を軸方向に押圧してメイティングリング(固定環)に圧接させるバネと、を備えたメカニカルシールにおいて、シールリング(固定環)の反メイティングリング側の端面の位置を検出する非接触式位置センサが、前記シールリングの反メイティングリング側の所定の位置に設けられたメカニカルシールの摩耗検知装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2019-066001号公報
【特許文献2】実開平2-110761号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、従来の摩耗検知装置は、上記特許文献1や特許文献2のようにメカニカルシールの内部、又はメカニカルシールを構成するハウジングの内部に摩耗検知手段を設ける必要があり、メカニカルシールの内部構造が複雑になるという問題がある。また、既存のメカニカルシールに対してこのような摩耗検知装置を採用しようとした場合、メカニカルシール自体の構造を大幅に変更する必要が生じ、コスト高となるという問題がある。
【0009】
また、メカニカルシールに摩耗以外の検知すべき異常が生じる場合があり、このような場合にはメカニカルシール内部に設置された測定装置ではその異常を検知することが困難であった。
【0010】
本発明は、簡易な構成によってメカニカルシール又は回転装置の異常を検知しうるメカニカルシールの保全装置及び保全方法、並びにメカニカルシール保全用部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係るメカニカルシール保全装置は、回転環と固定環とでシール面を構成するメカニカルシールの保全装置であって、
前記回転環と係合し且つ測定面を有する被測定部材と、
前記測定面の変位を測定しうる測定手段と、を備え、
前記測定面は、前記回転環よりも径方向外側において軸方向と交差するように配置されたものである。
【0012】
かかる構成のメカニカルシール保全装置によれば、被測定部材の測定面が回転環よりも径方向外側に配置されているため、該測定面の変位を測定する測定手段についても回転環よりも径方向外側に配置することができ、被測定部材および測定手段の配置を比較的簡易なものとすることができる。また、測定面が回転環よりも径方向外側に配置されることにより、回転軸が振れるような振動に対しては測定面の振幅が大きくなり、異常を検知しやすくなるという効果がある。
【0013】
一態様に係るメカニカルシール保全装置において、前記回転環は、前記固定環と当接して前記シール面を構成する第一回転環と、回転軸に固定される第二回転環とを備え、
前記被測定部材は、前記第一回転環と前記第二回転環との間に備えられた付勢部材によって前記第一回転環に対して付勢された状態で固定されたものとすることができる。
【0014】
かかる構成によれば、第一回転環を固定環に対して付勢するための付勢部材によって被測定部材を第一回転環に対して係合させることができ、メカニカルシールの構造を複雑化させることなく簡易な構成で被測定部材を取り付けることができるという効果がある。
【0015】
一態様に係るメカニカルシール保全装置において、前記測定手段は、前記被測定部材を基準として、前記シール面とは反対側に配置されたものとすることができる。
【0016】
かかる構成によれば、シール面から被処理物が噴出した場合であっても、測定手段に吹きかかる虞が低減されるという効果がある。
【0017】
一態様に係るメカニカルシール保全装置において、前記測定手段は、前記測定面の回転と連動する周期的な振れを測定し得るものとすることができる。
【0018】
かかる構成によれば、回転軸の振れを検知することができる。
【0019】
一態様に係るメカニカルシール保全装置においては、前記測定手段は、前記測定面の振動を測定し得るものとすることができる。
【0020】
かかる構成によれば、振動の原因となっている種々の異常を検知することができる。
【0021】
一態様に係るメカニカルシール保全装置において、前記測定手段は、前記測定面の所定の基準位置に対する軸方向における変位を測定し得るものとすることができる。
【0022】
かかる構成によれば、メカニカルシールの摩耗を検知することができる。
【0023】
また、一態様に係るメカニカルシール保全装置において、前記被測定部材が導電性のディスクプレートであり、前記測定手段が渦電流式の非接触変位計とすることができる。
【0024】
かかる構成によれば、測定面の変位を正確に測定でき、前記測定手段として防爆仕様の変位計を選択できるという効果がある。
【0025】
本発明の一態様に係るメカニカルシール保全用部材は、
回転環と固定環とでシール面を構成するメカニカルシールの保全に使用されるメカニカルシール保全用部材であって、
前記回転環に係合される係合部と、該係合部から径方向外側に向けて膨出する膨出部と、該膨出部に備えられ測定手段によって変位を測定される測定面とを有し、
前記測定面は、軸方向と交差するように配置されるものである。
【0026】
かかる構成のメカニカルシール保全用部材によれば、係合部を回転環に係合させることによって膨出部が該係合部よりも径方向外側、すなわち回転環よりも径方向外側に膨出した状態となる。該メカニカルシール保全用部材は、その膨出部に測定面を有しているため、該測定面の変位を測定する測定手段についても回転環よりも径方向外側に配置することができ、測定手段の配置の自由度を高め、簡易な構成を採用しやすいという効果がある。また、測定面が回転環よりも径方向外側に配置されることにより、回転軸が振れるような振動に対しては測定面の振幅が大きくなり、異常を検知しやすくなるという効果がある。
【0027】
本発明の一態様に係るメカニカルシール保全方法は、
回転環と固定環とでシール面を構成するメカニカルシールの保全方法であって、
前記回転環に係合された被測定部材の測定面であって前記回転環よりも径方向外側において軸方向と交差するように配置される測定面の変位を測定するものである。
【0028】
かかる構成のメカニカルシール保全方法によれば、被測定部材の測定面が回転環よりも径方向外側に配置されているため、該測定面の変位測定を容易に行えるという効果がある。また、回転環よりも径方向外側に配置された測定面を測定することにより、回転軸が振れるような振動に対しては測定面の振幅が大きくなり、異常を検知しやすくなるという効果がある。
【0029】
一態様に係るメカニカルシールの保全方法においては、前記測定面の回転と連動する周期的な振れを測定するものとしうる。
【0030】
かかる構成によれば、回転軸の振れを検知することができる。
【0031】
一態様に係るメカニカルシールの保全方法においては、前記測定面の振動を測定するものとしうる。
【0032】
かかる構成によれば、振動の原因となっている種々の異常を検知することができる。
【0033】
一態様に係るメカニカルシールの保全方法においては、前記測定面の所定の基準位置に対する軸方向における変位を測定するものとしうる。
【0034】
かかる構成によれば、メカニカルシールの摩耗を検知することができる。
【発明の効果】
【0035】
以上より、本発明の一態様によれば、簡易な構成によってメカニカルシールの種々の異常を検知しうるメカニカルシールの保全装置及び保全方法、並びにメカニカルシール保全用部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【
図1】
図1は、メカニカルシール保全装置の一実施形態を示す軸方向断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ具体的に説明する。
【0038】
なお、本実施形態の説明においては、メカニカルシールが装着される回転装置の回転軸の中心線に沿った方向を軸方向、該中心線に対して垂直な方向を径方向、該中心線と直交する面内において該中心線を中心とする円の円周に沿った方向を周方向と称する。また、前記径方向において回転軸の中心軸に近い側を内側、回転軸の中心軸から遠い側を外側と称する。
【0039】
一実施形態に係るメカニカルシール保全装置1は、例えば回転装置が設けられる化学装置の容器本体60において、回転装置の回転軸50が貫通する部分に配置され、回転環10(11)と固定環20とでシール面を構成するメカニカルシールに装着される。該メカニカルシールは、前記容器本体側に固定され且つ回転装置の回転軸が挿通される固定環と、前記回転軸に装着され回転軸と共に回転する回転環とを備える。固定環および回転環は、両者が対向する端面にそれぞれシール面を有しており、このシール面同士が接触しつつ相対回転することにより、容器本体内に収容された被処理物が外部に漏洩しないようにシールする構成となっている。
【0040】
本実施形態において、回転環10は、固定環20と当接するシール面(摺接面)を有する第一回転環11と、回転軸50に固定される第二回転環12とを備える。
【0041】
第一回転環11は、パッキン15(例えばОリング)を介して回転軸50に外挿され、回転軸50に対して軸方向に移動可能に装着される環状の部材である。該第一回転環11は、軸方向の一端側(
図1において下方側)に固定環20と当接する第一シール面11aを有し、軸方向における他端側(
図1において上方側)に後述する被測定部材30が当接される当接面11bを有している。
【0042】
一方、第二回転環12は、回転軸50に外挿され、固定具16によって回転軸50に固定される環状の部材である。第一回転環11と第二回転環12との間には周方向に沿って複数の付勢部材18が配置されている。付勢部材18は、例えば圧縮コイルバネであり、一端側(
図1において上方側)が第二回転環12に保持されている。該複数の付勢部材18は、第一回転環11を固定環20に向けて付勢することで前記シール面に適切な圧力を作用させるものである。なお、本実施形態では付勢部材18は直接第一回転環11には当接しておらず、後述する被測定部材30と当接し、被測定部材30を介して第一回転環11を間接的に付勢している。
【0043】
また、第一回転環11と第二回転環12とは複数の係合ピン19によって係合されている。具体的には、第二回転環12に形成された貫通孔12aに挿通され且つ先端が第一回転環11に係止される係合ピン19が複数備えられている。該係合ピン19を備えることにより、回転軸50に固定された第二回転環12の回転力が該複数の係合ピン19を介して第一回転環11に伝達され、第一回転環11と第二回転環12とが周方向において一体となって回転する構成となっている。なお、第一回転環11の第一シール面11aの摩耗に伴って第一回転環11は第二回転環12から少しずつ離間することとなるため、各係合ピン19は、その基端側が第二回転環12に対して軸方向に相対移動可能な状態で係合されている。
【0044】
なお、本実施形態においては、第一回転環11と第二回転環12との間に被測定部材30が配置されており、該被測定部材30に形成された複数の貫通孔35を前記複数の係合ピン19が挿通している。これにより、回転軸50に固定された第二回転環12の回転力は、該複数の係合ピン19を介して該被測定部材30にも伝達され、第一回転環11、第二回転環12及び被測定部材30が周方向において一体となって回転する構成となっている。
【0045】
固定環20は例えばセラミックスやタングステン等の硬質な材料で構成されており、第一回転環11は該固定環20よりも軟質な材料、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等の樹脂、によって構成されている。そのため、両者が摺動すると第一回転環11の第一シール面11aが摩耗し、該第一回転環11は前記付勢部材18に付勢されて固定環20側へと徐々に変位する。
【0046】
本実施形態のメカニカルシール保全装置は、上記のような構成のメカニカルシールに装着されるものであり、具体的には、前記第一回転環11と係合し且つ測定面31を有する被測定部材30と、前記測定面31の変位を測定しうる測定手段40と、を備える。なお、被測定部材30は、本明細書においてメカニカルシール保全用部材とも称されるものであり、本実施形態における被測定部材30は、メカニカルシール保全用部材の一実施形態でもある。
【0047】
本実施形態における被測定部材30は、その中央部に回転軸50を挿通しうる開口を有する円環状の部材であり、例えば板状の部材によって構成される。被測定部材30は、径方向内側において前記第一回転環11と係合する係合部32と、該係合部32から径方向外側に向けて膨出する膨出部33とを有する。また、該被測定部材30は、前記係合部32の一方の面(
図1において下向きの面)が係合面32aとなっており、前記膨出部33における該一方の面と反対側の面(
図1における上向きの面)に測定面31を有している。本実施形態では、上述のように第一回転環11と第二回転環12との間に複数の付勢部材18が備えられており、係合面32aの反対側の面がこれら複数の付勢部材18によって付勢されている。また、上述のように、被測定部材30には前記複数の係合ピン19を挿通するための複数の貫通孔35が形成されており、該係合ピン19によって被測定部材30は第一回転環11および第二回転環12と共に一体となって回転する。
【0048】
また、本実施形態における被測定部材30の測定面31は、後述する測定手段40によって変位が測定される面である。該測定面31は、具体的には、回転装置やメカニカルシールに異常が生じていない状態で被測定部材30が第一回転環11と共に回転した際に、測定面31と測定手段40との距離が一定となるよう平滑な面として構成されている。該測定面31は、軸方向と交差するように配置されており、言い換えると軸方向に対して直交するか又は傾斜するように配置されている。本実施形態では該測定面31が軸方向と直交するように配置されている。
【0049】
測定面31は、被測定部材30が第一回転環11と係合する係合面32aの径方向外側端部から離れた位置、例えば1mm以上、更には5mm以上離れた位置であればよく、好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上、径方向外側へ離れた位置に配置される。測定面31を、このような位置に配置することにより、測定手段40の設置位置をメカニカルシールから外側に離れた位置に配置しやすくなり、測定手段40の設置場所の自由度が高くなる。また、既存のメカニカルシールに対して本実施形態に係るメカニカルシール保全装置を適用する場合であっても、メカニカルシール自体の構成を大幅に変更することなく該メカニカルシール保全装置を設置することができる。
さらに、上記構成により、回転装置やメカニカルシールの異常によって生じる振動が伝わりにくい場所、例えば、メカニカルシールのケーシングの外側に測定装置を設置することが可能となり、測定手段40の設置場所の自由度が高くなるとともに測定面31の変位をより正確に測定することが可能になるという効果がある。
【0050】
また、本実施形態において、測定手段40は、被測定部材30を基準として前記シール面とは反対側に配置されている。具体的には、被測定部材30の測定面31は、該被測定部材30が前記第一回転環11と係合する係合面32aと反対側の面であり、該測定面31の変位を測定する測定手段40も同じく係合面32aと反対側に配置される。つまり、測定手段40は、被測定部材30を基準として係合面32aと反対側に配置されることとなり、その結果、被測定部材30によってメカニカルシールのシール面から遮蔽された位置に配置されることとなる。かかる構成により、万一メカニカルシールの異常によってシール面のシール性が低下し、シール面から被処理物であるガス等が噴出した場合であっても、測定手段40は被測定部材30に遮られ被処理物が測定手段40に吹きかかる虞が低減されるという効果がある。
シール面から噴出するガスが測定手段に直接吹きかかることを低減する観点では、本実施形態のように測定手段を被測定部材の外側端部よりも径方向内側となる位置に設けることが好ましく、また、被測定部材の端部を上方又は下方に屈曲させた構造としてもよい。
【0051】
また、本実施形態において、測定手段40は、測定面31と対向するよう測定面31に対して垂直な向き(本実施形態では、軸方向下向き)に配置されている。これは、測定手段40が、測定面31の軸方向における変位をより精度よく測定できる配置であり、後述する異常の検知をより精度よく行うことができるという効果がある。
【0052】
また、上述のように、測定面31を、被測定部材30が第一回転環11と係合する係合面32aの径方向外側端部から、好ましくは1cm以上、より好ましくは2cm以上、径方向外側へ離れた位置に配置した場合、回転軸50の中心と回転中心とが一致せずに回転軸50が回転する状態(いわゆる軸ブレ)を検知しやすくなるという効果がある。なお、軸ブレの具体的な検知方法については後述する。
【0053】
被測定部材30の材質は、第一回転環11から係合面32aに伝わる変位を測定面31まで正確に伝達できるものであれば特に限定されず、金属製や樹脂製等の剛体を使用することができる。より正確に変位を伝えるという観点から、被測定部材30として金属製の部材を好適に使用することができる。
【0054】
測定手段40としては、測定面31の変位を測定できるものであれば特に限定されず、例えば、非接触式の変位計を使用することができる。測定手段40として非接触式の変位計を用いることにより、より正確に測定面の変位を測定しうるという効果がある。
【0055】
非接触式の変位計としては、渦電流式の変位計、静電容量式の変位計、レーザ光や赤外線を用いた光学式の変位計、超音波を用いた超音波式の変位計等を採用することができる。また、測定面31に一定幅の線で回転軸を中心とする円を描いた場合、その画像や映像を撮影するカメラを非接触式の変位計として採用することもできる。この場合、カメラによってその線を撮影し、撮影された線の太さを画像解析し、測定面と測定手段との距離の変化を求めるようにしてもよい。例えば測定面と測定手段との距離が離れる場面においては線の太さが細くなる。なお、画像の解析については撮影された線の太さだけでなく、線のズレを解析することで軸ブレや振動を検知するようにしてもよい。
【0056】
測定手段40として渦電流式の非接触変位計を使用する場合、被測定部材としては導電性の部材を使用する必要がある。本実施形態では、測定手段40として渦電流式の非接触変位計を採用するとともに、被測定部材30として炭素鋼(SS400)製の導電性ディスクプレートを使用している。測定手段40として渦電流式の非接触変位計を使用する場合、該変位計と測定面31との距離は0.5mm~1mmとすることが好ましい。渦電流式の非接触変位計は、導電性の被測定部材の測定面に微細な振動が発生したような場合であっても、その振動を極めて正確に測定することができるという効果がある。また、渦電流式の場合、防爆仕様の変位計を選択できるという利点があり、爆発の可能性がある処理対象物を取り扱う化学装置において採用しやすいという効果がある。
【0057】
測定手段40によって測定された測定面の変位に関する情報は、送信手段を介して制御部(図示せず)へ信号として送られる。送信手段としては、有線又は無線の任意の構成を採用することができ、例えば
図1に示すような伝送器や受信器を好適に使用できる。制御部は、その信号(変位出力)を処理し、測定面の変位に関する情報から幾つかの現象を特定することができるように構成されている。
【0058】
また、本実施形態では、上記構成のメカニカルシールは、回転装置を備えた化学装置とともにケーシング70の内側に配置されており、これに伴い、メカニカルシール保全装置1を構成する被測定部材30及び測定手段40も、ケーシング70の内側に配置されている。なお、前記ケーシング70としては、防爆仕様のケーシングを採用することもできる。
【0059】
本実施形態では、制御部は、受信した信号から少なくとも3つの現象を把握することができるように構成される。第一の現象は、測定面の位置が、メカニカルシールの使用、すなわちシール面を摺動させることに起因して経時的に所定の基準位置から徐々に離れる(本実施形態では測定手段と測定面との距離が徐々に大きくなる)現象であり、メカニカルシールの摩耗を示すものである。制御部は、受信した信号が測定手段と測定面との距離がメカニカルシールの使用とともに徐々に大きくなることを示す場合に、メカニカルシールの摩耗が生じていると判断する。上記実施形態のメカニカルシールの構成においては、固定環よりも摩耗しやすい材質で構成された第一回転環の摩耗を示すこととなる。この第一の現象に関しては、測定面の位置の変化量としての上限値(閾値)を予め設定しておき、測定開始からの変化量が該上限値(閾値)を超えた場合に摩耗に関する何らかの警告を発するように構成することが好ましい。前記上限値としては、例えば2mm~3mmの範囲内の値を設定することができる。
【0060】
第二の現象は、回転軸が回転した場合にその回転と連動して測定面と測定手段との距離が周期的に増減する現象であり、回転軸の中心と回転中心とが一致せずに回転軸が回転する状態(いわゆる軸ブレ)を示すものである。ここで、回転と連動して測定面と測定手段との距離が周期的に増減するとは、必ずしも回転軸の回転周期と一致した周期で増減する場合に限らない。即ち、回転軸が1回転する間に測定面と測定手段との距離が数回程度増減する場合のように、回転軸の回転周期よりも短い周期で増減する場合も含まれる。制御部は、受信した信号が、測定面と測定手段との距離が周期的に増減することを示す場合に、軸ブレが生じていると判断する。この第二の現象に関しては、測定面と測定手段との距離の増減の幅(即ち、振幅)について所定の上限値(閾値)を予め設定しておき、増減の幅が該上限値(閾値)を超えた場合に軸ブレに関する何らかの警告を発するように構成することが好ましい。
【0061】
第三の現象は、回転軸の回転中に測定面が小刻みに振動する現象であり、メカニカルシールのほか、回転装置を構成する部材(例えば軸受けなど)に、何らかの原因によって異常が生じている状態である。異常の具体的原因としては、例えば、異物の混入や部材の破損等が挙げられる。制御部は、受信した信号が、測定面と測定手段との距離が回転軸の回転周期と比較して極めて短い周期(波長)で且つ極めて小さい振幅で変化する場合に、このような異常が発生していると判断する。
【0062】
なお、上記のような第一、第二および第三の現象であると判断することができない変位については、メカニカルシール又は回転装置に関連しない他の装置の異常が原因である場合、作業者等が装置にぶつかることで生じた衝撃が原因である場合、又は、地震によって生じた装置の揺れが原因である場合など、種々の外乱が原因であるものと考えられ、これを第四の現象として報知する構成としてもよい。
【0063】
本実施形態に係るメカニカルシール保全装置1が使用される化学装置としては、攪拌装置を備えた化学反応器、混合器、濃縮器、乾燥機、ろ過器等を挙げることができる。
【0064】
本発明の一実施形態に係るメカニカルシールの保全方法は、上記のような構成のメカニカルシール保全装置1を用い、被測定部材30の測定面31の変位を測定すること、を含む方法である。
【0065】
測定面31の変位を測定する場合には、測定面31の、回転軸50の回転と連動する周期的な振れを測定することができ、その測定結果を例えば前記制御部によって解析することによって回転軸50の軸ブレを検知することができる。
【0066】
また、測定面の変位を測定する際には、測定面31の振動を測定することができ、その測定結果を例えば前記制御部によって解析することによってメカニカルシールや回転装置を構成する部材(例えば、軸受けなど)の異常を検知することができる。
【0067】
また、測定面の変位を測定する際には、測定面31の所定の基準位置に対する軸方向における変位を測定することができ、その測定結果を例えば前記制御部によって解析することによってメカニカルシールの摩耗を検知することができる。
【0068】
上記実施形態に係るメカニカルシール保全装置1によれば、被測定部材30を第一回転環11と第二回転環12との間に介在させる、という簡易な構成で被測定部材30をメカニカルシールに設置することができ、第一回転環11よりも径方向外方に配置された測定面31の変位を測定するようにしたことで、測定手段40の配置の自由度が高まるという効果がある。また、測定手段40の配置の自由度が高まることによって渦電流式の位置センサを採用することが可能となり、測定面31の変位を極めて正確に測定することが可能になるという効果がある。
【0069】
また、上記実施形態によれば、第一回転環11と第二回転環12との間に配置された複数の付勢部材18による第一回転環11への付勢力を利用して、被測定部材(メカニカルシール保全用部材)30を第一回転環11と係合させるため、既存のメカニカルシールの構造を変更することなく、容易に設置(すなわち、後付け)することができるという効果がある。
【0070】
尚、本発明に係るメカニカルシール保全装置、保全方法およびメカニカルシール保全用部材は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【0071】
具体的には、上記実施形態では、被測定部材として円環状に形成された一枚の板状の部材を用いた場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、例えば円環を周方向において2以上に分割した部材を用いて被測定部材を構成しても良い。また、被測定部材は、径方向外側へ向かって放射状に広がったプロペラ状のもの等であってもよい。
【0072】
上記実施形態では、測定面が軸方向と直交するように構成された被測定部材を例示したが、測定面が回転環よりも径方向外側において軸方向と交差するように配置されるものであればよく、例えば、測定面が径方向外方に向かって下向きに傾斜したものや、測定面が径方向外方に向かって上向きに傾斜したものであってもよい。
測定面を傾斜させる場合、傾斜させる角度は0度より大きければよく、5度以上、10度以上、15度以上、30度以上としてもよく、60度以下、50度以下、40度以下、30度以下としてもよい。
【0073】
従って、被測定部材は、中心軸を含む断面においてその片側の断面形状が、上辺が外側に下降するよう斜面した直角三角形、上底が下底より短い直角台形、又は上底が下底より長い直角台形であるものなど、任意の形状とすることができる。
【0074】
また、上記実施形態では、測定面を軸方向と直交するように配置したことに伴い、測定部材を測定面に対して垂直な向き(即ち、軸方向における下向き)に配置したが、上記の如く測定面が径方向外側に向かって下向きに傾斜又は上向きに傾斜している場合、測定手段もその傾斜にあわせて斜め下方に向くように配置してもよい。あるいは、測定手段は測定面と直交する向きではなく、測定面に対して傾斜した向きに配置してもよい。
例えば、測定面が径方向外側に向かって下向きに傾斜している場合に測定手段を軸方向と平行となるように配置(すなわち、測定面に対して傾斜した向きに配置)した場合、軸方向における変位だけでなく、径方向における変位も精度よく測定することができ、振れや振動を精度よく検出することができる。
【0075】
また、上記実施形態では、測定手段が測定面の軸方向における変位を測定できるように配置されているが、測定手段を軸方向と直交するように配置し、測定面の径方向における変位のみを測定できるように配置してもよい。この場合、測定面を軸方向に対して傾斜させることで、上記実施形態と同様にメカニカルシールの摩耗、軸ブレ、その他の異常、を検知することが可能となる。あるいは、測定手段を軸方向と直交するように(すなわち、
図1において水平向きとなるように)配置し、測定面を径方向と直交するように(すなわち、
図1において垂直となるように)配置した場合であっても、測定面に一定幅の線で回転軸を中心とする円を描き、その画像や映像を撮影するカメラを非接触式の変位計として採用し、カメラによってその線を撮影するようにしてもよい。この場合、撮影された線の太さを画像解析することで、測定面と測定手段との距離の変化を求め、軸ブレや径方向の振動を検知するようにしてもよい。また、線が軸方向にズレた距離やズレの周期及び振幅を画像解析によって求めることで、メカニカルシールの摩耗や振動を検知することができる。
【0076】
また、上記実施形態では、測定面を
図1における上向きの面とし、測定手段を被測定部材の上方に配置した場合について説明したが、被測定部材の測定面を、第一回転環との係合面と同じ側(
図1における下向きの面)とし、測定手段を被測定部材の下方に配置してもよい。この場合、例えばシール面負磨耗が起こった場合、上記実施形態とは逆に測定手段と測定面との距離が徐々に小さくなる。
【0077】
さらに、上記実施形態では、測定手段40をケーシング70の内側に配置した場合について説明したが、測定手段40として前記カメラを採用した場合には、ケーシングの一部を透明な部材で構成し、該測定手段40をケーシング70の外側に配置してもよい。なお、ケーシングの一部を例えばプラスティックなどの透明な部材で構成する場合の測定手段はカメラに限られずレーザ光や赤外線を用いた光学式の変位計などを利用してもよい。 また、測定手段をケーシングの外側に配置する場合、測定手段はメカニカルシールと独立して、更にはメカニカルシールが備えられた化学装置と独立して固定されてもよい。すなわち、測定手段を化学装置やメカニカルシールではなく、建屋に固定するようにしてもよい。メカニカルシールと独立して固定することにより、振れや振動を精度よく検知することができる。
【0078】
また、上記実施形態では、第一回転環と軸方向において当接するように被測定部材を配置し、複数の付勢部材によって被測定部材を第一回転環に向けて付勢することにより、被測定部材を第一回転環に係合させる構成としたが、このような構成に限定されるものではない。例えば、本実施形態の第一回転環の外周面に被測定部材の内周面又は側面を固定又は係止し、測定面が第一回転環の変位と連動するように被測定部材を配置してもよい。
【0079】
また、上記実施形態では、第一回転環と被測定部材とが別体である場合について説明したが、被測定部材を回転環と一体成型して一つの部材として構成してもよい。この場合、メカニカルシール自体が保全機構を備えたものとなる。この場合、一実施形態としての保全機構付きのメカニカルシールは、
固定環と、
該固定環に向けた付勢力を受ける付勢面(付勢部)、および該付勢面(付勢部)よりも径方向外側において軸方向と交差するように配置される測定面、を有する回転環と、
前記測定面の変位を測定し得る測定手段と、を備え、
前記回転環と前記固定環とでシール面を構成するものである。
【0080】
かかる構成の保全機構付きメカニカルシールによれば、被測定部材が回転環と一体成型されたことによって回転環の変位が測定面へより一層伝わり易くなるとともに、測定面が付勢面(付勢部)よりも径方向外側に位置することにより、メカニカルシールの構成を複雑化することなく前記測定手段を設置することができる、という効果がある。
また、被測定部材を回転環と一体成型して一つの部材として構成する場合、一実施形態としての保全機構付きのメカニカルシールは、
固定環と、
前記固定環と当接して前記シール面を構成する第一回転環と、回転軸に固定される第二回転環とを備え、
前記第一回転環と第二回転環との間に付勢部材が備えられ、
前記第一回転環は前記付勢部材によって前記固定環に向けた付勢力を受ける付勢面(付勢部)、および該付勢面(付勢部)よりも径方向外側において軸方向と交差するように配置される測定面、を有し、
前記測定面の変位を測定し得る測定手段と、を備えるものである。
【符号の説明】
【0081】
1…メカニカルシール保全装置、10…回転環、11…第一回転環、11a…第一シール面、11b…当接面、12…第二回転環、12a…貫通孔、15…パッキン、18…付勢部材、19…係合ピン、20…固定環、30…被測定部材、31…測定面、32…係合部、32a…係合面、33…膨出部、35…貫通孔、40…測定手段、50…回転軸、60…容器本体、70…ケーシング