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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155073
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】炊飯器
(51)【国際特許分類】
   A47J 27/00 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
A47J27/00 109K
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069479
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000002473
【氏名又は名称】象印マホービン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129791
【弁理士】
【氏名又は名称】川本 真由美
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】野瀬 陽介
(72)【発明者】
【氏名】田橋 泰平
【テーマコード(参考)】
4B055
【Fターム(参考)】
4B055AA09
4B055BA05
4B055CD02
4B055DB14
4B055GB01
4B055GB11
4B055GC01
4B055GC21
4B055GC40
4B055GD02
4B055GD03
(57)【要約】
【課題】誤使用により炊飯処理が実行されることによる鍋の劣化を防止できる炊飯器を提供する。
【解決手段】炊飯器10は、炊飯鍋15と、炊飯鍋15を加熱するコイル26,27と、炊飯鍋15の温度を検出するための鍋温度センサ50と、炊飯鍋15内の水を沸騰させる主加熱ステップを含む炊飯処理を実行する制御部60と、炊飯鍋15内の収容物が炊飯材料であるか液体を含まない冷やご飯であるかを判定する判定部63とを備える。判定部63は、鍋温度センサ50による検出温度Taと鍋温度閾値Ttの比較と、主加熱ステップの経過時間tpと時間閾値ttの比較によって、収容物が第2被加熱物であるか否かを判定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
飯米及び水を含む第1被加熱物を収容する有底筒状の鍋と、
前記鍋を加熱する加熱部と、
前記鍋の温度を検出するための鍋温度検出部と、
前記加熱部を制御し、前記鍋内の前記水を沸騰させる主加熱ステップを含む炊飯処理を実行する制御部と、
前記主加熱ステップの実行時、前記鍋内の収容物が液体を含まない第2被加熱物であるか否かを判定する判定部と
を備え、
前記主加熱ステップには、前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱したときの前記鍋温度検出部の検出温度の変化に基づいて、鍋温度閾値と時間閾値が設定されており、
前記判定部は、前記鍋温度検出部による検出温度と前記鍋温度閾値の比較と、前記主加熱ステップの経過時間と前記時間閾値の比較によって、前記収容物が前記第2被加熱物であるか否かを判定する、炊飯器。
【請求項2】
前記判定部は、
前記鍋温度検出部による検出温度が前記鍋温度閾値以上になり、前記主加熱ステップの経過時間が前記時間閾値未満のときに、前記収容物が前記第2被加熱物であると判定する一方、
前記鍋温度検出部による検出温度が前記鍋温度閾値以上になり、前記主加熱ステップの経過時間が前記時間閾値以上のときに、前記収容物が前記第1被加熱物であると判定する、請求項1に記載の炊飯器。
【請求項3】
前記鍋温度閾値は、許容される最多量の前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱して前記水が沸騰したときの鍋温度よりも低く、許容される最少量の前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱して前記水が沸騰したときの鍋温度よりも高い、請求項1又は2に記載の炊飯器。
【請求項4】
前記時間閾値は、許容される最多量の前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱したときに前記鍋温度閾値を超える時間よりも短く、許容される最少量の前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱したときに前記鍋温度閾値を超える時間よりも長い、請求項1又は2に記載の炊飯器。
【請求項5】
前記鍋内で発生した蒸気を検出するための蒸気検出部を備え、
前記主加熱ステップには、前記鍋内の前記水が沸騰したと判断するための蒸気閾値が設定されており、
前記判定部は、前記鍋温度検出部による検出温度が前記鍋温度閾値を超えることなく、前記蒸気検出部による検出結果が前記蒸気閾値を超えると、前記収容物が前記第1被加熱物であると判定する、請求項1又は2に記載の炊飯器。
【請求項6】
前記加熱部は、前記鍋の外面側に間隔をあけて位置し、前記鍋の軸線まわりに間隔をあけて配置された環状で複数のコイルを有し、
前記主加熱ステップで前記制御部は、前記複数のコイルを個別に制御、又は前記複数のコイルのうち2個を一組のコイル群として複数組の前記コイル群を個別に制御し、全ての前記コイル又は前記コイル群を順番に通電する構成であり、
前記時間閾値は、以下の式を満たすように設定されている、請求項1又は2に記載の炊飯器。
tt=(n+1)×te×α
tt:時間閾値
te:1個のコイル又は一組のコイル群への通電時間
n:コイル又はコイル群の数
α:係数
【請求項7】
前記複数のコイルは、前記鍋の軸線側に配置された複数の内側コイルと、前記軸線に対して前記内側コイルよりも離れて配置された前記内側コイルと同数である複数の外側コイルとを含み、
前記鍋温度検出部は、前記複数の内側コイルのうちの1個に隣接して配置されており、
前記主加熱ステップで前記制御部は、前記複数の内側コイルのうちの1個と前記複数の外側コイルのうちの1個を一組のコイル群として、複数組の前記コイル群を個別に制御し、前記鍋温度検出部が隣接した前記内側コイルを含むコイル群を最初に通電する、請求項6に記載の炊飯器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炊飯器に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に開示された炊飯器は、鍋内に収容された飯米と水を加熱して米飯を炊き上げる炊飯処理と、鍋内に収容された米飯を適切な温度に再加熱する再加熱処理とを備える。炊飯処理は、保温処理が実行されていない状態での炊飯スイッチの操作によって実行される。再加熱処理は、保温処理が実行された状態での炊飯スイッチの操作によって実行される。炊飯処理では、再加熱処理よりも大きい投入電力(加熱力)で鍋が加熱される。再加熱処理での加熱対象には、保温された米飯と、保温されることなく常温に冷えた米飯(冷やご飯)とが含まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-54903号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冷やご飯を再加熱するときには保温処理は実行されていないため、特許文献1の炊飯器では、保温スイッチの操作により保温処理を実行した後、炊飯スイッチを操作する必要がある。しかし、誤使用により保温スイッチを操作することなく炊飯スイッチを操作すると炊飯処理が実行される。この場合、鍋には、水が収容されていないので通常の炊飯処理よりも大きな熱量が加わり、鍋の内面のフッ素皮膜が浮き上がったり変色したりする。このような鍋の劣化は、冷やご飯を再加熱するときの誤使用に限られず、鍋に水を入れ忘れて飯米のみを収容して炊飯を行うという誤使用によっても生じ得る。特許文献1では、このような誤使用による炊飯処理の実行によって過加熱される鍋の劣化について、何ら考慮されていない。
【0005】
本発明は、誤使用により炊飯処理が実行されることによる鍋の劣化を防止できる炊飯器を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
鍋を介して飯米と水を含む第1被加熱物に付与可能な熱量は、鍋温度が同じであっても第1被加熱物の炊飯容量によって異なり、炊飯容量が少ないときよりも多いときの方が少なくなる。これにより、鍋温度が同じであっても、炊飯容量が少ない場合には水が沸騰し、炊飯容量が多い場合には水が沸騰していない状態になることもある。また、沸騰状態での蒸気量は、やはり第1被加熱物に付与可能な単位容積当たりの熱量の違いにより、炊飯容量が多いときよりも少ないときの方が多くなる。一方で、冷やご飯等の液体を含まない第2被加熱物が鍋に収容されている場合、水を含む第1被加熱物が鍋に収容されている場合と比較して、鍋との接触面積が少ない。そのため、鍋が第2被加熱物に付与可能な単位容積当たりの熱量は、第1被加熱物よりも少なくなる。本発明は、このような知見に基づき、鍋内の収容物が第1被加熱物であるか第2被加熱物であるかを迅速かつ高精度に判定できるようにしたものである。
【0007】
本発明の一態様は、飯米及び水を含む第1被加熱物を収容する有底筒状の鍋と、前記鍋を加熱する加熱部と、前記鍋の温度を検出するための鍋温度検出部と、前記加熱部を制御し、前記鍋内の前記水を沸騰させる主加熱ステップを含む炊飯処理を実行する制御部と、前記主加熱ステップの実行時、前記鍋内の収容物が液体を含まない第2被加熱物であるかを判定する判定部とを備え、前記主加熱ステップには、前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱したときの前記鍋温度検出部の検出温度の変化に基づいて、鍋温度閾値と時間閾値が設定されており、前記判定部は、前記鍋温度検出部による検出温度と前記鍋温度閾値の比較と、前記主加熱ステップの経過時間と前記時間閾値の比較によって、前記収容物が前記第2被加熱物であるか否かを判定する、炊飯器を提供する。
【0008】
鍋温度検出部による検出温度と鍋温度閾値の比較と、主加熱ステップの経過時間と時間閾値の比較によって、鍋内の収容物が液体を含まない第2被加熱物であるか否かを判定する判定部を備える。よって、制御部は、判定部が液体を含まない第2被加熱物でないと判定している場合、つまり飯米及び水を含む第1被加熱物であると判定している場合、引き続いて炊飯処理を実行できる。一方で、制御部は、判定部が第2被加熱物であると判定している場合、炊飯処理を中止するように制御できる。このように、誤使用により炊飯処理が実行されても、判定部の判定結果に基づいて制御部は炊飯処理を中止できる。しかも、判定部による判定は、鍋内の水を沸騰させる主加熱ステップで行われるため、鍋には過剰な電力が投入されていない。よって、過加熱による鍋の劣化を防止できる。
【0009】
前記判定部は、前記鍋温度検出部による検出温度が前記鍋温度閾値以上になり、前記主加熱ステップの経過時間が前記時間閾値未満のときに、前記収容物が前記第2被加熱物であると判定する一方、前記鍋温度検出部による検出温度が前記鍋温度閾値以上になり、前記主加熱ステップの経過時間が前記時間閾値以上のときに、前記収容物が前記第1被加熱物であると判定する。この構成により、制御部は、収容物が第1被加熱物のときには炊飯処理を確実に継続でき、収容物が第2被加熱物のときには炊飯処理を中止して鍋の劣化を確実に防止できる。
【0010】
前記鍋温度閾値は、許容される最多量の前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱して前記水が沸騰したときの鍋温度よりも低く、許容される最少量の前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱して前記水が沸騰したときの鍋温度よりも高い。この構成により、収容物が第2被加熱物(冷やご飯)の場合、焦げを生じさせることなく昇温できる。
【0011】
前記時間閾値は、許容される最多量の前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱したときに前記鍋温度閾値を超える時間よりも短く、許容される最少量の前記第1被加熱物を前記加熱部によって加熱したときに前記鍋温度閾値を超える時間よりも長い。この構成により、判定部は、収容物が第2被加熱物であるか否かを確実に判定できる。
【0012】
前記鍋内で発生した蒸気を検出するための蒸気検出部を備え、前記主加熱ステップには、前記鍋内の前記水が沸騰したと判断するための蒸気閾値が設定されており、前記判定部は、前記鍋温度検出部による検出温度が前記鍋温度閾値を超えることなく、前記蒸気検出部による検出結果が前記蒸気閾値を超えると、前記収容物が前記第1被加熱物であると判定する。この構成により、収容物が第1被加熱物であるにも拘わらず第2被加熱物であると、判定部が誤判定することを防止できる。よって、制御部は、収容物が第1被加熱物であるときには、炊飯処理を確実に継続して完遂できる。
【0013】
前記加熱部は、前記鍋の外面側に間隔をあけて位置し、前記鍋の軸線まわりに間隔をあけて配置された環状で複数のコイルを有し、前記主加熱ステップで前記制御部は、前記複数のコイルを個別に制御、又は前記複数のコイルのうち2個を一組のコイル群として複数組の前記コイル群を個別に制御し、全ての前記コイル又は前記コイル群を順番に通電する構成であり、前記時間閾値は、以下の式を満たすように設定されている。
【0014】
【数1】
【0015】
主加熱ステップで制御部は、複数のコイルを個別に制御、又は複数のコイルのうち2個を一組のコイル群として複数組のコイル群を個別に制御して、全てのコイル又はコイル群を順番に通電する。この構成により、1つのコイルによって鍋全体を加熱する場合と比較して、鍋の一部が局所的に誘導加熱されるため、飯米の撹拌に適した対流を鍋内に生じさせることができる。また、時間閾値ttは、コイル又はコイル群の数nに1を加算した数に通電時間teを乗算した時間に、係数αを乗算した時間に設定されている(tt=te×(n+1)×α)。この構成により、鍋が局所加熱される回数を低減できるため、過加熱による鍋の劣化を防止できる。
【0016】
前記複数のコイルは、前記鍋の軸線側に配置された複数の内側コイルと、前記軸線に対して前記内側コイルよりも離れて配置された前記内側コイルと同数である複数の外側コイルとを含み、前記鍋温度検出部は、前記複数の内側コイルのうちの1個に隣接して配置されており、前記主加熱ステップで前記制御部は、前記複数の内側コイルのうちの1個と前記複数の外側コイルのうちの1個を一組のコイル群として、複数組の前記コイル群を個別に制御し、前記鍋温度検出部が隣接した前記内側コイルを含むコイル群を最初に通電する。この構成により、鍋温度検出部が近い内側コイルを含むコイル群には2回通電され、鍋温度検出部から離れた内側コイルを含むコイル群には1回のみ通電されるため、誘導加熱による鍋の温度を鍋温度検出部によって正確に検出できる。よって、鍋温度検出部の検出精度と信頼性を向上できる。
【発明の効果】
【0017】
本発明では、誤使用により炊飯処理が実行されることによる鍋の劣化を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施形態に係る炊飯器の概略図。
図2】誘導加熱するコイルの配置と炊飯器の構成を示すブロック図。
図3】少量の場合の炊飯処理の一例を示すタイムチャート。
図4図3のIV部分の拡大図。
図5】多量の場合の炊飯処理の一例を示すタイムチャート。
図6図5のVI部分の拡大図。
図7】判定部による判定の概要を説明するためのタイムチャート。
図8】冷やご飯を炊飯処理で加熱した場合の一例を示すタイムチャート。
図9図8のIX部分の拡大図。
図10】本実施形態の主加熱ステップのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に従って説明する。
【0020】
図1及び図2を参照すると、本発明の実施形態に係る炊飯器10は、炊飯鍋15、炊飯器本体20、及び蓋体30を備え、炊飯器本体20内に複数のコイル(加熱部)26,27を配置したマルチコイル型である。
【0021】
炊飯器10は更に、鍋温度センサ(鍋温度検出部)50、蓋温度センサ(蓋温度検出部)51、蒸気センサ(蒸気検出部)52、及び制御部60を備える。また、図1において左側に位置する正面側には、液晶パネル(表示部)55と複数のスイッチ(入力部)56が配置されている。複数のスイッチ56には、炊飯処理を実行するための炊飯スイッチ、保温処理を実行するための保温スイッチ、及び実行中の処理を中止するためのとりけしスイッチが含まれている。
【0022】
制御部60は、いずれの処理も実行していないとりけし状態で炊飯スイッチが操作されると、センサ50~52の検出結果に基づいてコイル26,27を制御して炊飯処理を行う。この炊飯処理は、例えば飯米と水を炊飯鍋15に収容した状態で行われる。この炊飯処理で制御部60は、保温処理及び再加熱処理のいずれよりも高出力でコイル26,27に高周波電流を通電し、炊飯鍋15を誘導加熱する。
【0023】
飯米と水は、第1被加熱物の代表例である。但し、炊き込みご飯のときには、第1被加熱物には、飯米と水の他に具材が含まれ、水の代わりに水を含む出汁が含まれることもある。以下の説明では、第1被加熱物として飯米と水を例に挙げて説明する。また、飯米と水を纏めて炊飯材料と言うことがあり、炊飯材料を収容した状態での炊飯処理を通常炊飯と言うことがある。
【0024】
制御部60は、炊飯処理による米飯の炊き上げ後、引き続いて米飯を所定温度(例えば60℃)に保温する保温処理を行う。また、保温処理は、いずれの処理も実行していないとりけし状態で保温スイッチが操作されると行われる。この保温処理は、炊き上げた米飯を炊飯鍋15に収容した状態で行われる。この保温処理で制御部60は、炊飯処理及び再加熱処理のいずれよりも低出力でコイル26,27に高周波電流を通電し、炊飯鍋15を誘導加熱する。
【0025】
制御部60は、保温処理の実行中に炊飯スイッチが操作されると、保温中の米飯を所定温度(例えば80℃)まで昇温させる再加熱処理を行う。この再加熱処理は、保温処理と同様に、炊き上げた米飯を炊飯鍋15に収容した状態で行われる。この再加熱処理で制御部60は、炊飯処理よりも低く保温処理よりも高い出力でコイル26,27に高周波電流を通電し、炊飯鍋15を誘導加熱する。
【0026】
炊き上げた米飯の水分の蒸発を避けるために、炊飯処理の終了後に引き続いて行われる保温処理を好まないユーザが存在する。このようなユーザは、例えば炊飯処理の終了後に保温処理に移行すると、とりけしスイッチの操作によって保温処理を終了する。ユーザが保温中の米飯温度よりも冷めた米飯(以下「冷やご飯」と言う。)を温めて食べたいときには、炊飯器10によって再加熱処理を行う。
【0027】
冷やご飯は、水等の液体を含まない第2被加熱物の代表例である。但し、第2被加熱物には水を含まない飯米のみが含まれる。飯米のみとは、炊飯鍋15への水の入れ忘れによって生じる誤使用の一例である。以下の説明では、第2被加熱物として冷やご飯を例に挙げて説明する。
【0028】
ユーザが冷やご飯を再加熱するとき、保温スイッチを操作し忘れて炊飯スイッチを操作すると、炊飯処理が実行される。この場合、液体を含まない米飯のみが収容された炊飯鍋15が、再加熱処理よりも高出力で誘導加熱される。液体を含まない冷やご飯は、水を含む炊飯材料と比較して炊飯鍋15との接触面積が少ない。そのため、炊飯鍋15から冷やご飯に付与可能な熱量は、炊飯材料よりも少なくなる。よって、冷やご飯が炊飯鍋15内に収容された状態で炊飯処理が実行されると、過度な熱量が加わる炊飯鍋15のフッ素皮膜層19が浮き上がったり変色したりする。
【0029】
このような誤使用による炊飯鍋15の劣化を避けるために、本実施形態では、炊飯処理の実行時に、炊飯鍋15内の収容物が炊飯材料であるのか冷やご飯であるのかを判定する機能が備えられている。
【0030】
以下、図1及び図2を参照して、炊飯鍋15、炊飯器本体20、蓋体30、センサ50~52、及び制御部60について具体的に説明する。
【0031】
炊飯鍋15は、底壁部16、筒状の周壁部17、及び底壁部16と周壁部17に連なる連続部18を有する有底筒状である。この炊飯鍋15の内面には、塗装によってフッ素皮膜層19が設けられている。炊飯鍋15は磁性材料からなり、プレス加工又は鋳造によって成形されている。
【0032】
炊飯器本体20は、外装体21に形成された開口の下側に、炊飯鍋15を着脱可能に収容する収容部23を備える。収容部23は、炊飯鍋15よりも一回り大きい有底筒状であり、円筒状で金属製の内胴24と、受皿状で樹脂(非導電性材料)製の保護枠25とで構成されている。収容部23内への炊飯鍋15の配置によって、保護枠25の軸線と炊飯鍋15の軸線Aとが一致する。
【0033】
保護枠25の外面側、つまり外装体21と収容部23の間には、加熱部として複数のコイル26,27が配置されている。コイル26,27は、複数の巻線を楕円環状に巻回した形状であり、高周波電流が通電されることで渦電流を発生させ、炊飯鍋15を誘導加熱する。そのうち、内側コイル26は、炊飯鍋15の底壁部16と連続部18を誘導加熱するために、軸線A側に位置するように保護枠25に配置されている。外側コイル27は、炊飯鍋15の周壁部17と連続部18を誘導加熱するために、軸線Aに対して内側コイル26よりも離れて位置するように保護枠25に配置されている。
【0034】
本実施形態では、コイル26,27がそれぞれ同数の3個用いられ、炊飯鍋15の軸線Aまわりの周方向に間隔をあけて配置されている。それぞれ複数の内側コイル26と外側コイル27は周方向に間隔をあけて配置され、複数の内側コイル26のうちの1個と複数の外側コイル27のうちの1個とが、それぞれ径方向に対向している。但し、コイルの配置、数、及び形状等は、必要に応じて変更可能である。
【0035】
蓋体30は、それぞれ樹脂製の蓋本体31と蓋カバー32を備え、外装体21のヒンジ接続軸22に回転可能に取り付けられ、炊飯鍋15の開口は勿論、炊飯器本体20の上部を開放可能に覆う。蓋本体31のうち炊飯鍋15を臨む下側面には、炊飯鍋15の開口を覆う放熱板33が取り付けられている。放熱板33の下面には、炊飯鍋15の開口を塞ぐ金属製の内蓋34が取り付けられている。内蓋34は、炊飯鍋15の内周面との間をシールするシール部材35を備える。放熱板33の上面には、放熱板33を介して内蓋34を加熱し、内蓋34に付着した露を蒸発させる蓋ヒータ36が配設されている。
【0036】
蓋体30には、加熱によって上昇した炊飯鍋15内の圧力によって、炊飯鍋15内で発生した蒸気を外部に排出するための排気通路40が形成されている。排気通路40は、炊飯鍋15内に空間的に連なる流入部41と、流入部41に空間的に連なる流出部である蒸気口セット47とで構成されている。
【0037】
流入部41は、放熱板33、内蓋34、及び放熱板33と内蓋34の間をシールする無端状のシール部材44によって画定されている。内蓋34の概ね中央には、排気通路40の入口を構成する通気口42が設けられている。放熱板33には、軸線Aが延びる方向から見て通気口42を含むように、貫通した開口部43が設けられている。シール部材44は、放熱板33の開口部43の縁に取り付けられ、通気口42を取り囲んで内蓋34に圧接されている。このシール部材44によって、放熱板33と内蓋34の間の空隙部は、蒸気が流入可能な流入部41と、蒸気が流入不可能な閉鎖空間部45とに仕切られる。
【0038】
蒸気口セット47は、蓋本体31と蓋カバー32の間に配置されたダクトである。蒸気口セット47は流入部41に接続するための筒状の接続部47aを備え、この接続部47aが蓋本体31に形成された連通口46にシール部材を介して接続されている。蒸気口セット47は排気通路40の出口を構成する筒状の排気部47bを備え、この排気部47bが蓋カバー32の開口に配置され、外部に開放されている。
【0039】
鍋温度センサ(鍋温度検出部)50は、サーミスタによって構成され、炊飯鍋15の周壁部17を介して炊飯鍋15内の温度を検出する。鍋温度センサ50は、保護枠25の外面側に配置されており、保護枠25を貫通して炊飯鍋15の外面に接触するように配置された検出部50aを有する。本実施形態の鍋温度センサ50は、炊飯鍋15の周壁部17の下部の温度を検出するサイドセンサであり、複数の内側コイル26のうちの1個の径方向外側に隣接して配置されている。但し、鍋温度センサ50は、炊飯鍋15のうち底壁部16の中心の温度を検出するセンタセンサであってもよい。
【0040】
蓋温度センサ(蓋温度検出部)51は、サーミスタによって構成され、蓋体30のうち炊飯鍋15の開口を塞ぐ隔壁である放熱板33と内蓋34を介して、炊飯鍋15内の温度を検出する。蓋温度センサ51は、排気通路40外であるシール部材44の外側、つまり閉鎖空間部45上に位置するように、放熱板33の上面側に配置されており、放熱板33に接触する検出部51aを有する。但し、蓋温度センサ33を蓋本体31の上面側に配置し、検出部51aは、蓋本体31を貫通して放熱板33の上面に接触するように配置されてもよいし、蓋本体31と放熱板33を貫通して内蓋34の上面に接触するように配置されてもよい。
【0041】
蒸気センサ(蒸気検出部)52は、炊飯鍋15内で発生した蒸気を検出する。本実施形態の蒸気センサ52は、排気通路40内を通る蒸気の温度を検出する蒸気温度センサ(サーミスタ)によって構成されている。蒸気センサ52は、蓋本体31の上面側に配置されており、蓋本体31を貫通して流入部41内に配置された検出部52aを有する。検出部52aは、排気通路40内であるシール部材44の内側に配置されている。但し、検出部52aは、蒸気口セット47内に配置されてもよいし、放熱板33と内蓋34を貫通して炊飯鍋15内に配置されてもよい。また、蒸気検出部は、湿度センサであってもよく、炊飯鍋15内で発生した蒸気を検出可能な構成であればよい。
【0042】
制御部60は、単一又は複数のマイクロコンピュータ、及びその他の電子デバイスにより構成され、炊飯処理、保温処理、再加熱処理、及びその他の処理を実行する。制御部60は、これらの処理を実行するためのプログラム、及びプログラムに用いられる設定値や閾値(温度や時間)等が記憶されたメモリ61を備える。また、制御部60は、これらの処理における所定の工程及びステップの経過時間等を計測するタイマ62を備える。
【0043】
本実施形態の制御部60は、炊飯処理の実行時、炊飯鍋15内の収容物が水を含む炊飯材料であるのか液体を含まない冷やご飯であるのかを判定する判定部63を備える。但し、判定部63は、制御部60とは別で専用のマイクロコンピュータ、及びその他の電子デバイスにより構成されてもよい。
【0044】
判定部63を含む制御部60は、図1において左側に配置された制御基板58に配置されている。この制御基板58には、制御部60の他にインバータ回路64と切換部65が配置され、複数のコイル26,27、蓋ヒータ36、3つのセンサ50~52、液晶パネル55、及び複数のスイッチ56がそれぞれ接続されている。制御部60と複数のコイル26,27は、インバータ回路64及び切換部65を介して接続されている。
【0045】
インバータ回路64は、パワートランジスタ(例えばIGBT)を備え、炊飯鍋15の径方向に対向する内側コイル26と外側コイル27を一組のコイル群とし、切換部65を介して3つのコイル群に個別に接続されている。炊飯鍋15を加熱する火力に対応するインバータ回路64によるコイル26,27への投入電力は、制御部60によってデューティ制御される。以下、図2において、それぞれ3個の内側コイル26と外側コイル27のうち、内側コイル26Aと外側コイル27Aを第1組のコイル群を言い、内側コイル26Bと外側コイル27Bを第2組のコイル群と言い、内側コイル26C及び外側コイル27Cを第3組のコイル群と言うことがある。
【0046】
切換部65は、制御部60とインバータ回路64に接続され、複数組のコイル群に高周波電流が順番に通電されるように切り換えられる。この切換部65は、コイル26,27の数に応じて設けられた複数のスイッチ(例えばリレー)によって構成され、第1組のコイル26A,27Aに通電して残りのコイル26,27への通電を遮断した第1通電状態、第2組のコイル26B,27Bに通電して残りのコイル26,27への通電を遮断した第2通電状態、及び第3組のコイル26C,27Cに通電して残りのコイル26,27への通電を遮断した第3通電状態の順で切り換えられ、この切換動作を繰り返す。
【0047】
次に、制御部60による通常炊飯について具体的に説明する。
【0048】
図3は許容される最少量の飯米を炊飯処理したときタイムチャートの一例を示し、図5は許容される最多量の飯米を炊飯処理したときタイムチャートの一例を示す。図3及び図5において、縦軸は温度(℃)と電力(W)であり、横軸は時間(分)である。図3及び図5において、太い実線は鍋温度センサ50による検出温度Taで、細い実線は蓋温度センサ51による検出温度Tbで、破線は蒸気センサ52による検出温度Tcである。
【0049】
例えば最大炊飯容量(最多量炊飯)が10Cupの炊飯器10の場合、少量炊飯とは概ね1Cup以上3Cup以下の範囲であり、最少量炊飯とは1Cupである。多量炊飯とは7Cupよりも多く10Cup以下の範囲であり、3Cupよりも多く7Cup以下の範囲は中量炊飯である。
【0050】
図3及び図5を参照すると、炊飯処理において制御部60は、3つのセンサ50~52の検出結果から得られる検出温度Ta,Tb,Tcのうち所定の検出結果に基づいて、予熱工程、中ぱっぱ工程、沸騰維持工程、及びむらし工程をこの順で実行し、炊飯鍋15内の飯米を炊き上げる。
【0051】
図3及び図5を参照すると、予熱工程では、定められた予熱温度(例えば40℃)を維持するように、炊飯鍋15を加熱(温調)して飯米に水を吸収させる。この予熱工程では、制御部60は、複数組のコイル26,27を順番にデューティ制御するとともに、鍋温度センサ50による検出温度Taに基づいてオンオフ制御する。予熱工程は、定められた時間が経過(移行条件が成立)すると終了する。
【0052】
中ぱっぱ工程では、予熱温度よりも高い沸騰温度になるまで炊飯鍋15を高出力で加熱して、内部の水を早急かつ短時間で沸騰させる。この中ぱっぱ工程では、制御部60は、開始から終了まで、複数組のコイル26,27を順番に定格電力の100%の出力(フルパワー)でオン状態を維持するように制御する。図4及び図6を参照すると、中ぱっぱ工程は、慣らし加熱ステップ、主加熱ステップ、及び調整加熱ステップに細分化して制御される。制御部60は、主加熱ステップにて炊飯鍋15内の炊飯容量を判別する。慣らし加熱ステップ、主加熱ステップ、及び調整加熱ステップについては後に詳述する。
【0053】
沸騰維持工程では、沸騰温度を維持するように炊飯鍋15を加熱(温調)して、内部の水を無くす。この沸騰維持工程では、制御部60は、複数組のコイル26,27を順番にデューティ制御するとともに、鍋温度センサ50の検出温度Taに基づいてオンオフ制御する(第1ステップ)。鍋温度センサ50による検出温度Taが定められたドライアップ温度(例えば110℃)を示すと、出力を抑えて炊飯鍋15を弱火で加熱する(第2ステップ)。この第2ステップを定められた時間(例えば5分)行うと、出力を上げて炊飯鍋15を中火で加熱する(第3ステップ)。そして、鍋温度センサ50による検出温度Taが再び定められたドライアップ温度(例えば110℃)を示すと、沸騰維持工程を終了する。
【0054】
むらし工程では、炊飯鍋15を低出力で温調し、炊き上げた米飯を蒸らす。このむらし工程では、制御部60は、蓋温度センサ51の検出温度Tbに基づいて蓋ヒータ36を制御し、コイル26,27への通電は停止(遮断)する。中ぱっぱ工程で判別した炊飯容量に基づいて定められたむらし時間が経過すると、むらし工程は終了する。つまり、むらし工程の実行時間は炊飯容量によって異なる。なお、多量炊飯の場合、このむらし工程の途中に、火力を上げた二度炊き工程が実行される。
【0055】
次に、中ぱっぱ工程を構成する慣らし加熱ステップ、主加熱ステップ、及び調整加熱ステップの制御について説明する。
【0056】
図4及び図6を参照すると、中ぱっぱ工程を構成する慣らし加熱ステップ、主加熱ステップ、及び調整加熱ステップでは、炊飯容量に関わらずコイル26,27への投入電力は同一かつフルパワーである。そのため、炊飯鍋15を介して水を含む炊飯材料に付与可能な熱量は、鍋温度が同じであっても炊飯材料の量によって異なり、炊飯容量が少ないときよりも多いときの方が少なくなる。これにより、鍋温度が同じであっても、炊飯容量が少ない場合には水が沸騰し、炊飯容量が多い場合には水が沸騰していない状態になることもある。また、沸騰状態での蒸気量は、炊飯材料に付与可能な単位容積当たりの熱量の違いにより、炊飯容量が多いときよりも少ないときの方が多くなる。これらの知見に基づき、慣らし加熱ステップ、主加熱ステップ、及び調整加熱ステップは以下のように構成されている。
【0057】
慣らし加熱ステップは、センサ50~52に対する室内温度等の影響を無くし、センサ50~52の温度を庫内温度に馴染ませることで、温度を正確に検出可能とするために設けられている。この慣らし加熱ステップは、鍋温度センサ50による検出温度Taが定められた移行温度Tx(例えば60℃)に達したことを示すと終了する。
【0058】
主加熱ステップは、慣らし加熱ステップの後に実行され、炊飯鍋15内を沸騰させるための主たる中ぱっぱ工程である。この主加熱ステップは、蒸気センサ52による検出温度Tcが定められた移行温度(以下「蒸気温度閾値」と言う。)Ty(例えば80℃)に達したことを示すと終了する。この主加熱ステップの開始から終了までの時間(つまり温度上昇勾配)によって、制御部60は炊飯鍋15内の炊飯容量を判別する。また、この主加熱ステップにて判定部63は、炊飯鍋15内の収容物が水を含む炊飯材料であるか液体を含まない冷やご飯であるかを判定する。この判定部63による判定方法については、後に詳述する。
【0059】
調整加熱ステップは、主加熱ステップの後に実行され、中ぱっぱ工程全体の加熱時間を調整するために設けられている。この調整加熱ステップは、蓋温度センサ51による検出温度Tbが定められた移行温度Tz(例えば63℃)に達したことを示すと終了する。ここで、主加熱ステップで蒸気センサ52による検出温度Tcが蒸気温度閾値(蒸気閾値)Tyに達して調整加熱ステップに移行したとき、既に蓋温度センサ51による検出温度Tbが移行温度Tzに達している場合がある(図6参照)。この場合、調整加熱ステップは殆ど実行されることなく、中ぱっぱ工程が終了することになる。
【0060】
次に、判定部63による炊飯材料であるか冷やご飯であるかの判定、及び判定部63が冷やご飯であると判定した場合の制御部60による制御について、具体的に説明する。
【0061】
主加熱ステップの実行時、判定部63によって収容物が炊飯材料であるか冷やご飯であるかを判定するために、主加熱ステップには、前述した蒸気温度閾値Tyに加え、許容される最多量(例えば10Cup)の炊飯材料をコイル26,27によって加熱したときの鍋温度センサ50の検出温度Taの変化に基づいて、鍋温度閾値Ttと時間閾値ttが設定されている。そして、判定部63は、鍋温度センサ50による検出温度Taと鍋温度閾値Ttの比較、主加熱ステップの経過時間tpと時間閾値ttの比較、及び蒸気センサ52による検出蒸気温度Tcと蒸気温度閾値Tyの比較によって、収容物が炊飯材料であるか冷やご飯であるかを判定する。但し、鍋温度閾値Ttと時間閾値ttは、最多量以外の適量の炊飯材料をコイル26,27によって加熱したときの鍋温度センサ50の検出温度Taの変化に基づいて設定されてもよく、基準とする炊飯量は必要に応じて変更が可能である。
【0062】
より具体的には、判定部63は、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Tt以上になり、主加熱ステップの経過時間tpが時間閾値tt未満のときに、収容物が冷やご飯であると判定する。一方で、判定部63は、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Tt以上になり、主加熱ステップの経過時間tpが時間閾値tt以上のときに、収容物が炊飯材料であると判定する。また、判定部63は、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Ttを超えることなく、蒸気センサ52による検出温度Tcが蒸気温度閾値Tyを超えると、収容物が炊飯材料であると判定する。
【0063】
制御部60は、炊飯鍋15内の収容物が炊飯材料であると判定部63が判定すると、図3及び図5に示す炊飯処理、より具体的には中ぱっぱ工程の調整加熱ステップ以降を引き続き行う。一方で、制御部60は、炊飯鍋15内の収容物が冷やご飯であると判定部63が判定すると、図3及び図5に示す炊飯処理、より具体的には中ぱっぱ工程の調整加熱ステップ以降を中止し、図8に示す副次加熱処理を行う。
【0064】
以下、主加熱ステップに設定される鍋温度閾値Ttと時間閾値ttについて、具体的に説明する。
【0065】
図7は、最少量と最多量の炊飯材料を炊飯鍋15に収容して主加熱ステップを実行したとき、及び最少量と最多量の冷やご飯を炊飯鍋15に収容して主加熱ステップを実行したときの、鍋温度センサ50による検出温度Taと時間の関係をそれぞれ示すグラフである。図7において、縦軸は鍋温度センサ50による検出温度Ta(℃)であり、横軸は時間(分)である。
【0066】
図7を参照すると、通常炊飯最少量の場合、鍋温度閾値Ttに達する前に鍋温度センサ50による検出温度Taの昇温が停止している。これは、通常炊飯最少量の場合、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Ttに達する前に、蒸気センサ52による検出温度Tcが蒸気温度閾値Tyに達するためである。また、通常炊飯最多量の場合、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Ttを超えている。これは、通常炊飯最多量の場合、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Ttを超えても、蒸気センサ52による検出温度Tcが蒸気温度閾値Tyを超えないためである。
【0067】
鍋温度閾値Ttは、最多量の炊飯材料を加熱して水が沸騰したときの鍋温度センサ50による検出温度Ta(例えば110℃)よりも低く、最少量の炊飯材料を加熱して水が沸騰したときの鍋温度センサ50による検出温度Ta(例えば100℃)よりも高い温度範囲に設定されている。鍋温度閾値Ttを過度に低く設定した場合、収容物が炊飯材料であるにも拘わらず冷やご飯であると誤判定する可能性があり、鍋温度閾値Ttを過度に高く設定した場合、冷やご飯が収容されているときに焦げを生じさせる可能性がある。これらの不都合を避けるために、鍋温度閾値Ttは、101℃以上109℃以下の温度範囲に設定することが好ましく、本実施形態では105℃に設定されている。
【0068】
時間閾値ttは、最多量の炊飯材料を加熱したときに、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Ttを超える時間tm1(例えば200秒)よりも短く、最少量の炊飯材料を加熱したときに鍋温度閾値Ttを超える時間tm2(例えば40秒)よりも長く、また中量の炊飯材料を加熱したときに鍋温度閾値Ttを超える時間tm3(例えば150秒)よりも短い時間範囲に設定されている。ここで、前述のように、最少量の炊飯材料を加熱したときには、先に蒸気センサ52による検出温度Tcが蒸気温度閾値Tyに達するため、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Ttを超えることはない。そのため、最少量の炊飯材料を加熱したときに鍋温度閾値Ttを超える時間tm2とは、通常炊飯最少量の鍋温度センサ50による検出温度Taの温度勾配の延長線と鍋温度閾値Ttとが交差する時点のことを意味する。時間閾値ttを過度に長くした場合、収容物が炊飯材料であるにも拘わらず冷やご飯であると誤判定する可能性があり、時間閾値ttを過度に短くした場合、収容物が冷やご飯であるにも拘わらず炊飯材料であると誤判定する可能性がある。これらの不都合を避けるために、時間閾値ttは、40秒以上140秒以下の時間範囲に設定することが好ましく、本実施形態では80秒に設定されている。より具体的には、時間閾値ttは、以下の数式2を満たすように設定される。
【0069】
【数2】
【0070】
慣らし加熱ステップ、主加熱ステップ、及び調整加熱ステップでは、一組のコイル群への通電時間teは、炊飯鍋15内での対流(撹拌)を促進するために、2秒以上30秒以下に設定されることが好ましい。複数の内側コイル26と複数の外側コイル27からなるコイル群の数nは、1組以上3組以下に設定されることが好ましい。係数αは、0.5以上2.0以下の範囲に設定されることが好ましい。そして、本実施形態では通電時間teが20秒に設定され、コイル群の数nが3組に設定され、係数αが1に設定されている。よって、時間閾値ttは、前述のように80秒に設定されている。
【0071】
数式2において、コイル群の数nに1を加算している理由は次の通りである。前述のように、鍋温度センサ50は、複数の内側コイル26のうちの1個に隣接して配置されている。そのため、鍋温度センサ50による温度検出の応答性は、鍋温度センサ50から離れた内側コイル26B,26Cを含むコイル群への通電状態よりも、鍋温度センサ50に近い内側コイル26Aを含むコイル群への通電状態の方が良好である。そこで、主加熱ステップで制御部60は、鍋温度センサ50が隣接した内側コイル26Aを含むコイル群を最初に通電する構成としている。つまり、鍋温度センサ50が近い内側コイル26Aを含むコイル群には2回通電され、その他の内側コイル26B,26Cを含むコイル群には1回のみ通電される構成としている。これにより、誘導加熱による炊飯鍋15の温度を鍋温度センサ50によって正確に検出できるようにしている。
【0072】
次に、液体を含まない冷やご飯を収容し、誤って炊飯処理を実行した場合の処理について説明する。
【0073】
図8は最多量の冷やご飯を誤って炊飯処理したときタイムチャートの一例を示す。図8において、縦軸は温度(℃)と電力(W)であり、横軸は時間(分)である。図8において、太い実線は鍋温度センサ50による検出温度Taで、細い実線は蓋温度センサ51による検出温度Tbで、破線は蒸気センサ52による検出温度Tcである。
【0074】
図8を参照すると、冷やご飯を誤って炊飯処理した場合、制御部60は、通常炊飯と同様に予熱工程を行った後、中ぱっぱ工程を行う。図9を参照すると、中ぱっぱ工程では、制御部60は、通常炊飯と同様に慣らし加熱ステップを行い、鍋温度センサ50による検出温度Taが移行温度Tx(例えば60℃)に達すると主加熱ステップを行う。
【0075】
図10を参照すると、主加熱ステップでは、制御部60は、ステップS1で、タイマ62による時間計測を開始した後、ステップS2で、第1組のコイル群に通電を開始する。続いて、ステップS3で、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Tt以上になったか否かを判断する。そして、検出温度Taが鍋温度閾値Tt以上の場合にはステップS4に進み、検出温度Taが鍋温度閾値Tt未満の場合にはステップS8に進む。
【0076】
ステップS4では、主加熱ステップの開始から、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Ttを超えた時点までの経過時間tpが、時間閾値tt未満であるか否かを判断する。そして、経過時間tpが時間閾値tt未満の場合、ステップS5で、収容物が冷やご飯であると判定し、ステップS6で、タイマ62による時間計測を停止し、ステップS7で、炊飯処理を中止し、副次加熱処理に移行する。一方で、ステップS4で経過時間tpが時間閾値tt以上の場合にはステップS8に進む。
【0077】
ステップS8では、蒸気センサ52による検出温度Tcが蒸気温度閾値Ty以上になったか否かを判断する。そして、検出温度Tcが蒸気温度閾値Ty以上の場合、ステップS9で、収容物が第1非加熱物であると判定し、ステップS10で、タイマ62による時間計測を停止し、引き続き炊飯処理の調節加熱ステップに移行する。一方で、検出温度Tcが蒸気温度閾値Ty未満の場合にはステップS11に進む。
【0078】
ステップS11では、個々のコイル群に対する通電時間teが経過したか否かを判断する。そして、通電時間teが経過した場合、ステップS12で、通電するコイル群を切り換える。つまり、通電しているコイル群が、第1組の場合には第2組に通電するように切り換え、第2組の場合には第3組に通電するように切り換え、第3組の場合には第1組に通電するように切り換えて、ステップS3に進む。一方で、ステップS11で通電時間teが経過していない場合には、ステップS12を行うことなく、そのままステップS3に進む。
【0079】
次に、収容物が冷やご飯であると判定部63が判定したときの副次加熱処理について説明する。
【0080】
図8を参照すると、副次加熱処理で制御部60は、炊飯処理の沸騰維持工程よりも低く保温処理よりも高い出力(中火)で、複数組のコイル26,27を順番にデューティ制御するとともに、鍋温度センサ50の検出温度Taに基づいてオンオフ制御する(第1ステップ)。この第1ステップによって鍋温度センサ50による検出温度Taが定められた温度(例えば120℃)を示すと、第2ステップで、出力を抑えて炊飯鍋15を弱火で加熱する。この第2ステップを定められた時間(例えば5分)行うと、第3ステップで、出力を上げて炊飯鍋15を中火で加熱する。
【0081】
第3ステップを定められた温度(例えば105℃)を示すと、制御部60は、むらし工程と同様に、蓋温度センサ51の検出温度Tbに基づいて蓋ヒータ36を制御し、コイル26,27への通電は停止(遮断)する(第4ステップ)。この第4ステップを定められた時間(例えば3分)行うと、沸騰維持工程よりも低く保温処理よりも高い出力(中火)で、複数組のコイル26,27を順番にデューティ制御する(第5ステップ)。この第5ステップを定められた時間(例えば3分)行うと、第6ステップで再びコイル26,27への通電は停止し、この第6ステップを定められた時間(例えば3分)行うと、第7ステップで再び中火で複数組のコイル26,27を順番にデューティ制御する。この第7ステップを定められた時間(例えば3分)行うと、第8ステップで再びコイル26,27への通電は停止し、この第8ステップを定められた時間(例えば10分)行うと、副次加熱処理を終了する。
【0082】
このように、副次加熱処理では、炊飯処理よりも低く保温処理よりも高い出力で炊飯鍋15を誘導加熱する。そのため、冷やご飯を焦がすことなく、保温温度よりも高い温度に加熱できる。
【0083】
このように構成された炊飯器10は、以下の特徴を有する。
【0084】
鍋温度センサ50による検出温度Taと鍋温度閾値Ttの比較と、主加熱ステップの経過時間tpと時間閾値ttの比較によって、炊飯鍋15内の収容物が液体を含まない冷やご飯であるか否かを判定する判定部63を備える。よって、制御部60は、判定部63が冷やご飯でないと判定している場合、つまり炊飯材料であると判定している場合、引き続いて炊飯処理を実行できる。一方、制御部60は、判定部63が冷やご飯であると判定している場合、炊飯処理を中止するように制御できる。このように、誤使用により炊飯処理が実行されても、判定部63の判定結果に基づいて制御部60は炊飯処理を中止できる。しかも、判定部63による判定は、炊飯鍋15内の水を沸騰させる主加熱ステップで行われるため、炊飯鍋15には過剰な電力が投入されていない。よって、過加熱による炊飯鍋15の劣化を防止できる。
【0085】
判定部63は、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Tt以上で、経過時間tpが時間閾値tt未満のときには冷やご飯であると判定する一方、経過時間tpが時間閾値tt以上のときには冷やご飯でないと判定する。この構成により、制御部60は、収容物が炊飯材料のときには炊飯処理を確実に継続でき、収容物が冷やご飯のときには炊飯処理を中止して炊飯鍋15の劣化を確実に防止できる。
【0086】
鍋温度閾値Ttは、最多量の炊飯材料を加熱して水が沸騰したときの鍋温度よりも低く、最少量の炊飯材料を加熱して水が沸騰したときの鍋温度よりも高い。この構成により、収容物が冷やご飯の場合、焦げを生じさせることなく昇温できる。
【0087】
時間閾値ttは、最多量の炊飯材料を加熱したときに鍋温度閾値Ttを超える時間tm1よりも短く、最少量の炊飯材料を加熱したときに鍋温度閾値Ttを超える時間tm2よりも長い。この構成により、判定部63は、収容物が冷やご飯であるか否かを確実に判定できる。
【0088】
判定部63は、鍋温度センサ50による検出温度Taが鍋温度閾値Ttを超えることなく、蒸気センサ52による検出結果Tcが蒸気閾値Tyを超えると、収容物が炊飯材料であると判定する。この構成により、収容物が炊飯材料であるにも拘わらず冷やご飯であると、判定部63が誤判定することを防止できる。よって、制御部60は、収容物が炊飯材料であるときには、炊飯処理を確実に継続して完遂できる。
【0089】
主加熱ステップで制御部60は、複数のコイル26,27のうち2個を一組のコイル群として複数組のコイル群を個別に制御して、全てのコイル群を順番に通電する。この構成により、1つのコイルによって鍋全体を加熱する場合と比較して、炊飯鍋15の一部が局所的に誘導加熱されるため、飯米の撹拌に適した対流を炊飯鍋15内に生じさせることができる。また、時間閾値ttは、コイル群の数nに1を加算した数に通電時間teを乗算した時間に、係数αを乗算した時間に設定されている(tt=te×(n+1)×α)。この構成により、炊飯鍋15が局所加熱される回数を低減できるため、過加熱による炊飯鍋15の劣化を防止できる。
【0090】
鍋温度センサ50は、複数の内側コイル26のうちの1個に隣接して配置されている。この場合、鍋温度センサ50による温度検出の応答性は、鍋温度センサ50から離れた内側コイル26B,26Cへの通電状態よりも、鍋温度センサ50に近い内側コイル26Aへの通電状態の方が良好である。一方で、主加熱ステップで制御部60は、鍋温度センサ50が隣接した内側コイル26Aを含むコイル群を最初に通電する。つまり、鍋温度センサ50が近い内側コイル26Aを含むコイル群には2回通電し、鍋温度センサ50から離れた内側コイル26B,26Cを含むコイル群には1回のみ通電する。この構成により、誘導加熱による炊飯鍋15の温度を鍋温度センサ50によって正確に検出できるため、鍋温度センサ50の検出精度と信頼性を向上できる。
【0091】
なお、本発明は、前記実施形態の構成に限定されず、種々の変更が可能である。
【0092】
例えば、収容物が冷やご飯であると判定部63が判定した場合、制御部60は、副次加熱処理を行うことなく、炊飯処理を停止して何の処理も実行していないとりけし状態に移行してもよい。
【0093】
加熱部は、軸線Aに近い内側と軸線Aから離れた外側に分けることなく、同じ形状の複数のコイルを軸線Aまわりに間隔をあけて配置した構成であってもよい。また、加熱部は、軸線Aと同じ中心を有する環状コイルであってもよい。
【0094】
制御部60は、2個のコイル26,27を一組として複数組のコイル群を個別に制御するのではなく、複数のコイルを個別に制御してもよい。
【符号の説明】
【0095】
10 炊飯器
15 炊飯鍋
16 底壁部
17 周壁部
18 連続部
19 フッ素皮膜層
20 炊飯器本体
21 外装体
22 ヒンジ接続軸
23 収容部
24 内胴
25 保護枠
26 内側コイル(加熱部)
27 外側コイル(加熱部)
30 蓋体
31 蓋本体
32 蓋カバー
33 放熱板(隔壁)
34 内蓋(隔壁)
35 シール部材
36 蓋ヒータ
40 排気通路
41 流入部
42 通気口
43 開口部
44 シール部材
45 閉鎖空間部
46 連通口
47 蒸気口セット
47a 接続部
47b 排気部
50 鍋温度センサ(鍋温度検出部)
50a 検出部
51 蓋温度センサ(蓋温度検出部)
51a 検出部(第2検出部)
52 蒸気センサ(蒸気検出部)
52a 検出部(第1検出部)
55 液晶パネル
56 スイッチ
58 制御基板
60 制御部
61 メモリ
62 タイマ
63 判定部
64 インバータ回路
65 切換部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10