(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155076
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】導電性接着剤及びこれを用いた電子制御装置
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
H05K9/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069482
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】509186579
【氏名又は名称】日立Astemo株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】露木 康博
(72)【発明者】
【氏名】福沢 尭之
(72)【発明者】
【氏名】河合 義夫
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】難波 明博
(72)【発明者】
【氏名】島津 ひろみ
【テーマコード(参考)】
5E321
【Fターム(参考)】
5E321AA01
5E321AA22
5E321BB57
5E321CC16
5E321GG05
(57)【要約】
【課題】電子制御装置の電磁シールド構造に用いられる導電性接着剤において、温度変化による劣化を抑制する。
【解決手段】シリコーン樹脂と、シリコーン樹脂に分散された導電性フィラと、を有する導電性接着剤であって、導電性フィラは、導電性炭素質粒子が金属で被覆された構成を有し、常温で測定した導電性接着剤のヤング率が0.1~25.0MPaである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコーン樹脂と、
前記シリコーン樹脂に分散された導電性フィラと、を有する導電性接着剤であって、
前記導電性フィラは、導電性炭素質粒子が金属で被覆された構成を有し、
常温で測定した前記導電性接着剤のヤング率が0.1~25.0MPaである、導電性接着剤。
【請求項2】
低温で測定した前記導電性接着剤の前記ヤング率と常温で測定した前記導電性接着剤の前記ヤング率との比が4未満である、請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項3】
低温で測定した前記導電性接着剤の前記ヤング率が100MPa未満である、請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項4】
高温で測定した前記導電性接着剤の前記ヤング率が14MPa未満である、請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項5】
低温で測定した前記導電性接着剤の前記ヤング率と高温で測定した前記導電性接着剤の前記ヤング率との比が8未満である、請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項6】
前記導電性フィラを構成する前記金属は、ニッケルである、請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項7】
前記導電性フィラの含有量は、40~99.9質量%である、請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項8】
前記導電性フィラは、断面形状が円形、楕円形、棒状若しくは多角形、又は微粒子が凝集した状態若しくは繊維状である、請求項1記載の導電性接着剤。
【請求項9】
電子部品を有する回路基板と、
前記回路基板を収容する導電性筐体と、
導電性カバーと、を有し、
前記回路基板は、前記導電性筐体と前記導電性カバーとの間に配置され、
前記回路基板と前記導電性筐体及び前記導電性カバーの少なくとも一方との間には、請求項1記載の導電性接着剤が配置されている、電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、導電性接着剤及びこれを用いた電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両等に用いられている電子制御装置では、装置の高性能化のために回路基板に実装されるCPUなどの演算回路の処理が高速化しており、これらの演算回路(電子部品)の発熱量も増加している。演算処理の高速化に伴い、回路基板に配置された演算回路では、高速伝送通信が行われている。高速伝送通信が行われる信号配線では、反射などの信号品質劣化を抑えるために、信号配線の特性インピーダンス制御がより重要になっている。
【0003】
さらに、演算処理の高速化に伴い、回路基板から放射される電磁ノイズの増加も懸念されている。電磁ノイズの低減には、電磁ノイズを遮蔽するための電磁シールド構造を用いることが通例である。電磁シールド構造の形成には、導電性接着剤が用いられる。
【0004】
特許文献1には、大きさが350~1000ミクロンの間の黒鉛粉末にニッケルを被覆して作製したニッケル被覆黒鉛粉末をシリコーンエラストマーのポリマーマトリックスに混合して作製した、導電性および電磁混信遮蔽性用途に向く複合材料である導電性ポリマー組成物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、充填剤としてニッケル被覆グラファイトを含む硬化性シリコーン組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007-027111号公報
【特許文献2】特表2022-544725号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
車載環境のように、-40℃の低温環境から運転時において100℃を超える高温環境に至る条件で使用される電子制御装置に用いられる導電性接着剤は、熱による膨張及び収縮が繰り返されても、耐久性を有し、導電性が維持されるものであることが求められる。
【0008】
特許文献1及び特許文献2においては、複合材料がこのような耐久性について明示されていない。
【0009】
本開示の目的は、電子制御装置の電磁シールド構造に用いられる導電性接着剤において、温度変化による劣化を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示の導電性接着剤は、シリコーン樹脂と、シリコーン樹脂に分散された導電性フィラと、を有し、導電性フィラは、導電性炭素質粒子が金属で被覆された構成を有し、常温で測定した導電性接着剤のヤング率が0.1~25.0MPaである。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、電子制御装置の電磁シールド構造に用いられる導電性接着剤において、温度変化による劣化を抑制することができる。これにより、電子制御装置の電磁シールドを長期間維持することができる。
【0012】
なお、上記した以外の課題、構成及び効果については、下記する実施例の説明により、明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】実施例1の導電性接着剤の構成を示す拡大模式断面図である。
【
図2】比較例の導電性接着剤の構成を示す拡大模式断面図である。
【
図3】実施例2の電子制御装置を示す斜視図である。
【
図5】
図3の電子制御装置の内部を示す上面図である。
【
図6】実施例3の電子制御装置を示す分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に係る導電性接着剤及び電子制御装置(Electronic Control Unit:ECU)の実施例について、添付図及び表を参照して説明する。なお、各図において、共通の部材には、同一の符号を付している。
【実施例0015】
図1は、実施例1の導電性接着剤の構成を示す拡大模式断面図である。
【0016】
本図に示す導電性接着剤は、シリコーン樹脂401に、ニッケル被覆層402を設けたグラファイト粒子403を分散した構成を有する。ニッケル被覆層402及びグラファイト粒子403は、導電性フィラを構成する。
【0017】
グラファイト粒子403の形状は、どのようなものであってもよく、断面を観察した場合に、円形、楕円形、短辺が極端に短い棒状、三角形、多角形、L字形などに見えるものであってもよい。また、グラファイト粒子403は、複数個のグラファイト微粒子が凝集した構成であってもよい。なお、グラファイト粒子403の形態又は形状が観察できれば、断面像に限らず用いることができる。また、本図に示す例においては、グラファイトを用いているが、導電性の炭素質材料で形成されたものであれば、グラファイトに限定されるものではない。例えば、炭素繊維の表面にニッケル被覆層を設けたものであってもよい。したがって、本明細書においては、グラファイト、炭素繊維等を含む導電性の炭素質材料で形成された粒子を「導電性炭素質粒子」と総称する。
【0018】
ニッケル被覆層402は、ニッケルを用いて形成したものであるが、被覆層を形成するための金属は、グラファイト等の導電性を超えるものであれば限定されるものではない。例えば、銀、銅、鉄、コバルト、金、白金、チタン、亜鉛、アルミニウムなどの金属で形成してもよい。また、グラファイト粒子403も、炭素質材料に限らず、銀、銅、鉄、コバルト、金、白金、チタン、亜鉛、アルミニウムなどの金属などでもよい。
【0019】
本実施例の導電性接着剤は、後述の耐久試験を行っても、本図に示す構成を維持している。
【0020】
剛性が異なる導電性接着剤について、硬化後のヤング率を測定した。
【0021】
ヤング率は、動的粘弾性率測定装置(アイティー計測制御株式会社:DVA200)にて、縦4mm、横20mm、厚さ1mmの短冊片を作製し、周波数10Hz、歪0.1%で測定した。
【0022】
また、硬化した導電性接着剤について、温度変化に対する耐久試験を行った。この耐久試験は、105℃の高温状態で30分保持し、10分で-40℃の低温状態とし、この低温状態で30分保持する工程を1000サイクル繰り返すものである。
【0023】
耐久試験の後、導電性接着剤の表面又は断面を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察し、亀裂の有無を確認した。
【0024】
表1は、常温のヤング率に対する亀裂の有無を示す。
【0025】
本表から、常温のヤング率が25.0MPa以下では、亀裂が発生しないことがわかる。一方、常温のヤング率が25.0MPaを超えると、亀裂が発生することがわかる。
【0026】
ヤング率は、比較的変形しやすいシリコーン樹脂の影響が大きいと考えられる。ヤング率が25.0MPa以下の場合、耐久試験における温度変化に伴う導電性接着剤の膨張・収縮において、ニッケル被覆層に加わる力が比較的小さいため、ニッケル被覆層に亀裂が発生しにくいと考えられる。
【0027】
【0028】
表2は、低温のヤング率と常温のヤング率との比に対する亀裂の有無を示す。
【0029】
本表から、当該比が4未満では、亀裂が発生しないことがわかる。一方、当該比が4以上では、亀裂が発生することがわかる。
【0030】
【0031】
表3は、低温のヤング率と高温のヤング率との比に対する亀裂の有無を示す。
【0032】
本表から、当該比が8未満では、亀裂が発生しないことがわかる。一方、当該比が8以上では、亀裂が発生することがわかる。
【0033】
【0034】
まとめると、表1から、導電性接着剤は、常温において0.1~25.0MPaのヤング率を有することが好ましい。ヤング率は、亀裂の観点からは低いほど好ましいと考えられるが、0.1MPa未満では変形しやすいため、接着剤としての機能が不十分であると考えられる。
【0035】
表2から、導電性接着剤は、低温で測定したヤング率と常温で測定したヤング率との比が4未満であることが好ましい。
【0036】
表3から、導電性接着剤は、低温で測定したヤング率と高温で測定したヤング率との比が8未満であることが好ましい。
【0037】
なお、ヤング率は、貯蔵弾性率、引張弾性率などとも呼ばれる。また、本明細書におけるヤング率は、材料の軟らかさを代表する物性値であり、このヤング率の値と相関が取れる値であれば、硬度その他の物性値でもよい。
【0038】
ヤング率は、上記の動的粘弾性率測定装置のほか、粘度計(アントンパール:MCR502)を用い、例えば、振動周波数1Hz、ひずみ0.01%、放熱材厚さ3mm、ジグ径25mmの条件で測定してもよい。ヤング率の測定は、適切な装置を用いて行えばよく、上記の例に限定されるものではない。
【0039】
なお、本明細書において、常温とは、23℃~27℃の温度をいう。なお、実際の測定条件としては25℃が好ましいが、22.4℃や27.6℃が常温の範囲から外れるといった厳密な数値限定ではない。
【0040】
本明細書において、低温とは、-38~-42℃の温度をいう。なお、実際の測定条件としては-40℃が好ましいが、-37.4℃や-42.6℃が低温の範囲から外れるといった厳密な数値限定ではない。
【0041】
さらに、低温で測定したヤング率は100MPa未満であり、高温で測定したヤング率は14MPa未満であることが好ましい。
【0042】
本明細書において、高温とは、103~107℃の温度をいう。なお、実際の測定条件としては105℃が好ましく、102.4℃や107.6℃が高温の範囲から外れるといった厳密な数値限定ではない。
【0043】
導電性接着剤の電気抵抗は、1.0×10-5Ω・m程度より低い値であることが望ましい。電気抵抗の値は、低いほどよい。ただし、この数値には限定されるものではない。電気抵抗は、一般的なテスターで測定すればよい。
【0044】
ニッケル被覆層402の硬さは、50~140HVであり、より好ましくは80~110HVであるが、グラファイト粒子403を亀裂なく被覆できる硬さであればよいものとする。ここで、試験力は3mNである。硬さ測定については、ISO 6507-1:2018「金属材料-ビッカース硬さ試験-第1部:試験方法」又はASTM E384”Standard Test Method for Microindentation Hardness of Materials”の規格に則っていれば、測定装置は問わない。
【0045】
シリコーン樹脂401に関しても、上記ヤング率を満たすものであれば、材料の種類は問わないものとする。シリコーン樹脂の場合は、主骨格も問わないが、ジメチルシロキサン、ジフェニルシロキサン等のシロキサン系が好ましい。また、ニッケル被覆層402との親和性のためにカップリング剤、接着助剤等、導電性接着剤としての効果を高めるものが入っていてもよい。
【0046】
なお、シリコーン樹脂の代わりに、炭化水素系油、アクリル樹脂、エポキシ樹脂等を用いてもよい。この場合、上記ヤング率を満たすものであれば、樹脂が硬化していてもいなくても構わない。
【0047】
また、被覆されるグラファイト粒子403は、メディアン径d50が50~130μmのもので構成されている。ここで、メディアン径d50は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置により測定したものである。ニッケル被覆層402は、厚さ1~2μmが好ましいが、グラファイト粒子403をニッケル被覆層402で被覆する構成であれば、メディアン径d50や厚さの値は問わない。また、ニッケル被覆層402を被覆するグラファイト粒子403は、全周囲均一に上記厚さで被覆されていることが好ましいが、グラファイト粒子403の周りを途切れることなく連続して被覆されていればよいものとする。つまり、何らかの形でグラファイト粒子403が導電材で完全に覆われていればそれでよいものとする。グラファイト粒子403の硬さについては20~80HVであり、より好ましくは25~50HVであるが、ニッケル被覆層402が亀裂なく被覆できる硬さであればよいものとする。
【0048】
導電性接着剤における導電性フィラの含有率は、40~99.9質量%が好ましく、70~90質量%が更に好ましい。
【0049】
(比較例)
図2は、比較例の導電性接着剤の構成を示す拡大模式断面図である。
【0050】
本図に示す導電性接着剤も、実施例1(
図1)に示す構成と同様に、シリコーン樹脂401に、ニッケル被覆層402を設けたグラファイト粒子403を分散した構成を有する。
【0051】
本図においては、硬化した導電性接着剤について温度を変化させる耐久試験を行った後の状態を示している。ここで、耐久試験は、105℃の高温状態で30分保持し、10分で-40℃の低温状態とし、この低温状態で30分保持する工程を1000サイクル繰り返すものである。
【0052】
本図に示すように、ニッケル被覆層402には、貫通亀裂501及び非貫通亀裂502、503が生じている。貫通亀裂501は、ニッケル被覆層402が断裂するように割れが生じているものである。言い換えると、ニッケル被覆層402の外側(シリコーン樹脂401側)から内側(グラファイト粒子403側)まで貫通する隙間が生じている。一方、非貫通亀裂502は、ニッケル被覆層402の外側から貫通しない程度に割れが生じている。また、非貫通亀裂503は、ニッケル被覆層402の内側から貫通しない程度に割れが生じている。
【0053】
貫通亀裂501及び非貫通亀裂502、503が生じることにより、高い導電性を担っているニッケル被覆層402が劣化し、導電性接着剤の機能が低下する。この結果、導電性接着剤の電気抵抗が低下すると考えられる。亀裂は、その向きが縦横斜めのいずれであっても含まれるものとし、導電パスが不連続の状態及び細くなった状態のすべてを含む。
【0054】
なお、本明細書においては、貫通亀裂501及び非貫通亀裂502、503を単に「亀裂」と総称する。
筐体ベース1と回路基板3とは、少なくとも角部に取り付けられるねじで締結される。筐体ベース1と筐体カバー2とについても、少なくとも角部に取り付けられるねじで締結される。
回路基板3は、例えば、熱硬化性樹脂及びガラスクロス、回路パターンが形成される金属配線からなる一般的な積層配線基板、セラミックスと金属配線とからなる配線基板、ポリイミドなどのフレキシブル基板と金属配線とからなる配線基板等が用いられる。筐体ベース1及び筐体カバー2は、例えば、鋳造、プレス加工、切削加工等により形成される。筐体ベース1及び筐体カバー2を構成する材料は、金属又はグラファイト粒子若しくは炭素繊維を含む導電性の複合材で形成されている。筐体ベース1及び筐体カバー2は、金属製であれば、単一種類の金属、マグネシウム合金、鉄鋼等であってもよい。このうち、アルミニウム合金が好ましい。
導電性接着剤4の塗布厚さに関しては、筐体ベース1及び回路基板3に接していれば、制限はない。導電性接着剤4を塗布した部位には、隙間ができないようにすることが望ましい。筐体ベース1及び回路基板3に押しつぶされていてもよい。