(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155108
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土またはその酸処理物を用いたピネン吸着剤
(51)【国際特許分類】
B01J 20/12 20060101AFI20241024BHJP
B01D 15/00 20060101ALI20241024BHJP
D21C 9/08 20060101ALI20241024BHJP
D21H 17/68 20060101ALI20241024BHJP
D21H 19/10 20060101ALI20241024BHJP
D21H 21/14 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
B01J20/12 A
B01D15/00 K
D21C9/08
D21H17/68
D21H19/10 Z
D21H21/14 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069537
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000193601
【氏名又は名称】水澤化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福地 渓杜
(72)【発明者】
【氏名】塚原 大補
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和政
【テーマコード(参考)】
4D017
4G066
4L055
【Fターム(参考)】
4D017AA04
4D017BA05
4D017CA05
4D017DA07
4G066AA63B
4G066AA64B
4G066BA03
4G066BA36
4G066BA38
4G066CA51
4G066DA09
4L055AG27
4L055AH01
4L055AH02
4L055EA19
4L055EA32
4L055FA20
(57)【要約】
【課題】紙製品が有するピネン特有の臭気を除去するために、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土またはその酸処理物を含有するピネン吸着剤を提供すること。
【解決手段】ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土を含有し、ピネン吸着率が5%以上であるピネン吸着剤であって、好ましくは、前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土が酸処理物であること、さらに、好ましくは、Ho≦-3.0の固体酸量が0.10~0.80mmol/g-dry clayの範囲にあることを特徴とする。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくともジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土を含有するピネン吸着剤であって、ピネン吸着率が5%以上であることを特徴とするピネン吸着剤。
【請求項2】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土が酸処理物である、請求項1に記載の吸着剤。
【請求項3】
Ho≦-3.0の固体酸量が0.10~0.80mmol/g-dry clayの範囲にある、請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項4】
Ho≦-3.0の固体酸量が0.20~0.75mmol/g-dry clayの範囲にある、請求項1または2に記載の吸着剤。
【請求項5】
パルプの製造工程において、請求項1または2に記載された吸着剤を液体に添加して、ピネンを吸着した後、前記吸着剤を前記液体から濾別により分離する、ピネンの吸着方法。
【請求項6】
紙製品が請求項1または2に記載された吸着剤を保持しており、前記紙製品が液体に接触した際に紙製品から溶出するピネンを吸着することにより、前記溶出の量を低減する、ピネンの溶出量低減方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土またはその酸処理物を用いた、パルプが有する特有の臭気の原因であるピネンを吸着し得るピネン吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、紙コップ等の紙製品の主原料であるパルプは、原料である木材チップ等に苛性ソーダ等を添加して高温高圧下で煮る、いわゆるアルカリ蒸解を経て製造される。木材にはパルプ中に残存すると紙製品の強度低下や着色の原因となるリグニンが20~30重量%含まれており、前記アルカリ蒸解においてリグニンを分解し、その後の洗浄工程によりリグニンが除去される。
【0003】
木材チップ等の原材料が松等の針葉樹である場合、パルプにはテルペン類の1種であるピネンが含まれている。ピネンは六員環と四員環からなる炭化水素であり、アルカリ蒸解で分解されることはない。ピネンは特有の臭気を有していることから、ピネンがパルプ中に残存していると、紙製品から特有の臭気が発生する原因となる。前記特有の臭気に対して、活性炭やゼオライトが気体中のピネンを吸着することが知られている(特許文献1、2)。
【0004】
しかし、活性炭やゼオライトを前記アルカリ蒸解、その後の洗浄工程等の製造工程における液体等に添加したとしても、当該液体中に存在するピネンを吸着することがほとんどできず、紙コップ等の紙製品からピネン特有の臭気が発生することにより、飲料や食材が有する香り、風味を阻害するという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009-155146号公報
【特許文献2】特開平4-021616号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記事情に鑑み、紙製品が有するピネン特有の臭気を除去するために、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土またはその酸処理物を含有するピネン吸着剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、少なくともジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土を含有するピネン吸着剤であって、ピネン吸着率が5%以上であることを特徴とするピネン吸着剤が提供される。
【0008】
前記ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土が酸処理物であることが好ましい。
【0009】
Ho≦-3.0の固体酸量が0.10~0.80mmol/g-dry clayの範囲にあることが好ましい。
【0010】
Ho≦-3.0の固体酸量が0.20~0.80mmol/g-dry clayの範囲にあることが好ましい
【0011】
本発明によれば、パルプの製造工程において、前記吸着剤を液体に添加して、ピネンを吸着した後、前記吸着剤を前記液体から濾別により分離する、ピネンの吸着方法が提供される。
【0012】
本発明によれば、紙製品が前記吸着剤を保持しており、前記紙製品が液体に接触した際に紙製品から溶出するピネンを吸着することにより、前記溶出の量を低減する、ピネンの溶出量低減方法が提供される。
ここで、吸着剤を紙製品に保持するとは、吸着剤を紙コップ、紙ストロー、紙皿等の食品用の紙容器やコーヒーのドリップに用いる紙フィルター等の紙製品に漉き込んだり、ペースト状等にして塗布して紙製品に保持することをいう。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、パルプの製造工程、特にアルカリ蒸解後の洗浄工程における液体や、その後の酵素処理、漂白処理がされた後の抄紙工程における液体に添加することにより、当該液体中に存在するピネンを吸着し、その後、濾別により分離するピネン吸着剤、または、紙製品に漉き込むか塗布して用いられるピネン吸着剤である。本発明の吸着剤を用いて製造された紙製品は、ピネンに由来する特有の臭気が抑制されることから、清酒やジュース等の飲料、バーベキューにおける焼肉や野菜等の食材が有する香り、風味を阻害することなく味わうことが可能となり、また、ドリップコーヒーが有する豊かな香り、風味を損ねることもない。
【0014】
本発明のピネン吸着剤は、ピネン吸着率が少なくとも5%以上であり、好ましくは20%以上であり、さらに好ましくは40%以上であり、特に好ましくは50%以上である。
【0015】
本発明のピネン吸着剤は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土が主成分であり、非水溶性吸着剤である。本発明の長所の一つとして、アルカリ蒸解工程やその後の水洗工程等のパルプの製造工程において、水溶性吸着剤の場合は、アルカリ蒸解液や洗浄液に添加してピネンを吸着した後、そのまま廃液と共に外部に放出され、環境問題を生じる可能性があるが、非水溶性吸着剤であることから、濾紙等を用いて濾別することにより、容易にアルカリ蒸解液や洗浄液等の廃液と分離することが可能であるため、環境問題を容易に回避することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者等は、ジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土についてのピネン吸着性能について多くの実験を行い、検討した結果、天然に産出する酸性白土(モンモリロナイト系粘土)、酸性白土を硫酸等の鉱酸で処理した活性白土、及び活性白土と呼ばれる領域までの酸処理をせず、それよりも弱いレベルで酸処理している弱酸処理白土が優れたピネン吸着性能を示すという知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0017】
<酸性白土及び活性白土>
酸性白土及び活性白土は、公知のものを使用することができる。共に一般的な化学成分として、SiO2、Al2O3、Fe2O3、CaO、MgO等を有するが、本発明に使用する場合、SiO2/Al2O3比は、3.0~12.0、望ましくは、5.0~9.0が適し、Fe2O3を2~5%,CaOを0~1.5%、MgOを1~7%等を含有する組成のものが望ましい。また、比表面積は、酸処理の程度により異なるが、50~350m2/g、pH(5%サスペンジョン)は、2.5~3.5の範囲のものが使用される。
【0018】
<弱酸処理白土>
弱酸処理白土は、一般的に活性白土と称されるものに比して弱い酸処理によって得られるため、固体酸点として働くAlやMgを覆っているNa分やCa分が取り除かれ、さらには、酸処理の進行に伴ってAl分やMg分が溶出することに起因する固体酸量の減少が抑えられている。その結果、従来の酸処理で得られる一般的に活性白土と称されるもの、或いは、酸処理を行っていない酸性白土に比して同等以上の固体酸量を示す。弱酸処理白土は、好適にはHo≦-3.0の固体酸量が0.10~0.80mmol/g-dry clayの範囲にあり、比較的強い固体酸を多く含んでいることを意味している。即ち、ピネンに対して固体酸による化学的吸着性能が高められており、後述する実施例にも示されているように、少量での使用により、従来公知の酸性白土や活性白土と同等或いはそれ以上にピネン含有溶液からピネンを多く除去することができる。前記Ho≦-3.0の固体酸量は0.20~0.75mmol/g-dry clayの範囲であることがさらに好ましい。前記Ho≦-3.0の固体酸量が0.10mmol/g-dry clay未満であると、ピネン吸着剤としての性能が低下する可能性があり、0.80mmol/g-dry clayを超えると濾別時における濾過能が低下する可能性がある。
弱酸処理白土は、例えば、本特許出願人による特願2022-145966に開示された製造方法を用いて得ることができる。
【実施例0019】
以下に本発明を実施例により詳細に説明する。なお、実施例における測定方法は以下のとおりである。
【0020】
(1)ピネン吸着率
本実施例におけるピネン吸着能は、ピネンを0.2g/L濃度で含有するシクロヘキサン溶液から、1gのジオクタヘドラル型スメクタイト系粘土(酸性白土、活性白土または弱酸処理白土)の吸着剤試料(無水状態)が吸着できるピネン量の割合(%)とし、下記の方法により測定し、算出した。
先ず、α―ピネン(富士フィルム和光純薬(株)製)をシクロヘキサン1Lに溶解し、0.2g/L濃度で含有するシクロヘキサン溶液を得た。
この0.2g/L濃度で含有するシクロヘキサン溶液25gを50ml容の遠沈管に秤取し、0.8g(対溶液3.2質量%)の吸着剤試料を加えて振とう機(ヤマト科学(株)製SA300、振とうスピード5)により室温で2.5時間振とうした。
次に遠心分離機((株)クボタ製 5200)により回転数3500rpmで20分処理し、液の上澄みを試料液とした。
試料液のピネン濃度は、ピネン濃度と209nm波長光の吸光度の関係を示す検量線を用いて算出した。
吸着処理前のピネン濃度と吸着処理後のピネン濃度の差から試料単位質量あたりのピネン吸着率を計算した。
【0021】
(2)固体酸量
n-ブチルアミン滴定法にてHo≦-3.0の固体酸量を測定した。試料は、予め、150℃で3時間乾燥したものについて測定を行った(参考文献:「触媒」Vol.11,No6,P210-216(1969))。
【0022】
(3)酸度
活性白土及び弱酸処理白土は、原土を硫酸処理して作られたものであるから、少量の水溶性硫酸塩を含有している。活性白土10gを水100mlで5分間煮沸し、その上澄液をN/100水酸化ナトリウムで中和滴定しその消費量を白土1g当たりの水酸化カリウムのmgに換算したものを酸度とする。
【0023】
(4)pH
JIS.K.5101.26に準じて測定した5%サスペンジョンのpH値。
【0024】
(5)Si/Al比
粉末ろ紙法XRFで測定した結果から、SiとAlの各元素を酸化物としてSiO2/Al2O3比を求めた。
【0025】
表1には、下記の実験例1~5及び比較例1~3に示す吸着剤について、ピネン吸着率等の測定結果を示す。
【0026】
(実験例1)
酸性白土としてミズカファインMC10(水澤化学工業株式会社)のみを含む吸着剤。
【0027】
(実験例2)
活性白土としてミズカファインMC400(水澤化学工業株式会社)のみを含む吸着剤。
【0028】
(実験例3)
活性白土として白土A(水澤化学工業株式会社)のみを含む吸着剤。
【0029】
(実験例4)
活性白土としてミズカファインMC200(水澤化学工業株式会社)のみを含む吸着剤。
【0030】
(実験例5)
弱酸処理白土としてミズカファインMC500NPE(水澤化学工業株式会社)のみを含む吸着剤。
【0031】
(比較例1)
酸性白土の焼成品として白土B(水澤化学工業株式会社)のみを含む吸着剤。
【0032】
(比較例2)
シリカとしてシリカA(水澤化学工業株式会社)のみを含む吸着剤。
【0033】
(比較例3)
ベントナイトとしてベントナイトA(水澤化学工業株式会社)のみを含む吸着剤。
【0034】