(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155112
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法及びシミュレーション方法
(51)【国際特許分類】
G16C 60/00 20190101AFI20241024BHJP
【FI】
G16C60/00
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069542
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】馬場 昭典
(57)【要約】 (修正有)
【課題】所望の分子量分布に近似する高分子鎖の数値解析モデルを作成する方法を提供する。
【解決手段】高分子鎖に基づいて、複数の粒子モデルと、隣接する粒子モデル間を結合する結合モデルとを含む高分子鎖モデルをコンピュータに入力する工程と、コンピュータが、高分子鎖モデルの結合を切断する切断工程と、を含む方法であって、切断工程は、高分子鎖モデルを構成する結合モデルから一つの切断対象の結合モデルを選択する工程S43と、選択された結合モデルで高分子鎖モデルを切断したと仮定したときに、選択された結合モデルを除く他の結合モデルで連結された粒子モデルの集まりである断片モデルの大きさが何れも、予め定められた閾値よりも大きいか否かを予測する工程S44と、予測された切断後の断片モデルの大きさが、何れも閾値よりも大きい場合に、選択された結合モデルで、高分子鎖モデルを切断する条件的工程S46とを含む。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子鎖の数値解析用モデルを作成するための方法であって、
前記高分子鎖に基づいて、複数の粒子モデルと、隣接する前記粒子モデル間を結合する結合モデルとを含む高分子鎖モデルをコンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記高分子鎖モデルの結合を切断する切断工程とを含み、
前記切断工程は、
前記高分子鎖モデルを構成する前記結合モデルから一つの切断対象の結合モデルを選択する工程と、
選択された前記結合モデルを切断したと仮定したときに、選択された前記結合モデルを除く他の結合モデルで連結された粒子モデルの集まりである断片モデルについて、それら(前記切断によって1つ又は2つ生じる前記断片モデル)の大きさが何れも、予め定められた閾値よりも大きいか否かを予測する工程と、
予測された前記断片モデルの大きさが、何れも前記閾値よりも大きい場合に、選択された前記結合モデルで、前記高分子鎖モデルを切断する条件的切断工程とを含む、
高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
【請求項2】
前記予測する工程に先立ち、前記閾値を設定する工程を含み、
前記閾値を設定する工程は、前記高分子鎖を含む高分子材料の分子量分布を取得する工程と、
前記分子量分布において頻度が最も大きくなる分子量に基づいて、前記閾値を設定する工程とを含む、請求項1に記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
【請求項3】
前記予測する工程は、選択された前記結合モデルに結合された2つの粒子モデルのうち、一方の粒子モデルから出発して、選択された前記結合モデル以外の結合モデルを経由して、前記断片モデルを構成する粒子モデルを探索する工程を含み、
前記探索する工程は、前記断片モデルの大きさが前記閾値よりも大きいことが明らかとなった時点で、前記粒子モデルの探索を打ち切る工程を含む、請求項1又は2に記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
【請求項4】
前記断片モデルの大きさは、分子量である、請求項1又は2に記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
【請求項5】
前記断片モデルの大きさは、最大鎖長である、請求項1又は2に記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
【請求項6】
前記予測する工程は、選択された前記結合モデルで結合された2つの粒子モデルのうち、一方の粒子モデルから出発して、選択された前記結合モデル以外の結合モデルを経由して、出発した粒子モデルから最も遠い粒子モデルの一つである第1粒子モデルを探索する工程と、
前記第1粒子モデルから出発して、選択された前記結合モデル以外の前記結合モデルを経由して、前記第1粒子モデルから最も遠い粒子モデルの一つである第2粒子モデルを探索する工程と、
前記第1粒子モデルと前記第2粒子モデルとの間の鎖長に基づいて、前記最大鎖長を予測する工程とを含む、請求項5に記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
【請求項7】
コンピュータが、請求項1又は2に記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法に基づいて、前記高分子鎖モデルを作成する工程と、
前記コンピュータが、前記高分子鎖モデルを含む高分子材料モデルを作成する工程と、
前記コンピュータが、前記高分子材料モデルの変形を計算する工程と、
前記コンピュータが、前記変形の計算結果を出力する工程とを含む、
高分子材料のシミュレーション方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法及びシミュレーション方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、高分子材料モデル作成方法が記載されている。この方法では、高分子材料の少なくとも一部の体積に相当する予め定められた仮想の空間に、少なくとも一個のフィラー粒子モデルを有するフィラーモデルと、複数のポリマー粒子モデルを含むポリマーモデルとを配置して、高分子材料モデルが作成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような高分子材料モデルを用いて、粘弾性などの物理量の予測を精度よく行うためには、高分子鎖の分子量分布を適切に再現する必要がある。高分子材料は、例えば、混練時、押出工程時、経年劣化時、摩耗時等の各状態において、高分子鎖の切断等が生じることによって、高分子鎖の分子量分布が変化し、粘弾性などの物理量に影響を及ぼす。このため、解析対象の分子量分布に基づいて、高分子鎖が切断された数値解析モデルを作成する必要がある。
【0005】
しかしながら、例えば、コンピュータによる自動処理によって、高分子鎖がランダムに切断されたモデルでは、極端に分子量の小さい断片が生じやすく、所望の分子量分布に近似する高分子鎖の数値解析用モデルを作成できないという問題があった。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、所望の分子量分布に近似する高分子鎖の数値解析モデルを作成することが可能な方法を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、高分子鎖の数値解析用モデルを作成するための方法であって、前記高分子鎖に基づいて、複数の粒子モデルと、隣接する前記粒子モデル間を結合する結合モデルとを含む高分子鎖モデルをコンピュータに入力する工程と、前記コンピュータが、前記高分子鎖モデルの結合を切断する切断工程とを含み、前記切断工程は、前記高分子鎖モデルを構成する前記結合モデルから一つの切断対象の結合モデルを選択する工程と、選択された前記結合モデルを切断したと仮定したときに、選択された前記結合モデルを除く他の結合モデルで連結された粒子モデルの集まりである断片モデルについて、それら(前記切断によって1つ又は2つ生じる前記断片モデル)の大きさが何れも、予め定められた閾値よりも大きいか否かを予測する工程と、予測された前記断片モデルの大きさが、何れも前記閾値よりも大きい場合に、選択された前記結合モデルで、前記高分子鎖モデルを切断する条件的切断工程とを含む、高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明の高分子材料モデルの作成方法は、上記の工程を採用することにより、所望の分子量分布に近似する高分子鎖の数値解析モデルを作成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法を実行するためのコンピュータを示す斜視図である。
【
図3】高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図4】高分子鎖モデル(Kremer-Grestモデル)の概念図である。
【
図5】高分子鎖モデルが配置されたセルを示す概念図である。
【
図6】切断工程の処理手順を示すフローチャートである。
【
図7】閾値設定工程の処理手順を示すフローチャートである。
【
図8】高分子材料の分子量分布を示すグラフである。
【
図9】(a)、(b)は、切断対象の高分子鎖モデルを示す概念図である。
【
図10】予測工程の処理手順を示すフローチャートである。
【
図11】第1工程の処理手順を示すフローチャートである。
【
図12】追加の判定工程の処理手順を示すフローチャートである。
【
図13】(a)は、
図9(a)の高分子鎖モデルが切断された状態を示す概念図、(b)は、
図9(b)の高分子鎖モデルが切断された状態を示す概念図である。
【
図14】高分子鎖モデルの分子量分布を示すグラフである。
【
図15】相互作用が定義された高分子鎖モデルを示す概念図である。
【
図16】高分子材料のシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
【
図17】実施例及び比較例の分子量分布を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態が図面に基づき説明される。図面は、発明の内容の理解を助けるために、誇張表現や、実際の構造の寸法比とは異なる表現が含まれることが理解されなければならない。また、各実施形態を通して、同一又は共通する要素については同一の符号が付されており、重複する説明が省略される。さらに、実施形態及び図面に表された具体的な構成は、本発明の内容理解のためのものであって、本発明は、図示されている具体的な構成に限定されるものではない。
【0011】
本実施形態の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法(以下、単に「作成方法」ということがある。)は、所望の分子量分布に近似する高分子鎖の数値解析用モデル(以下、単に「高分子鎖モデル」ということがある。)の作成に用いられる。本実施形態の作成方法には、コンピュータ1が用いられる。
【0012】
[コンピュータ]
図1は、高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法を実行するためのコンピュータ1を示す斜視図である。本実施形態のコンピュータ1は、本体1a、キーボード1b、マウス1c及びディスプレイ装置1dを含んで構成されている。本体1aには、例えば、演算処理装置(CPU)、ROM、作業用メモリ、磁気ディスクなどの記憶装置、及び、ディスクドライブ装置1a1、1a2が設けられている。記憶装置には、本実施形態の作成方法を実行するためのソフトウェア等が予め記憶されている。
【0013】
[高分子鎖]
高分子鎖は、高分子材料を構成している。本実施形態の高分子材料は、ゴム(本例では、cis-1,4ポリブタジエン(以下、単に「ポリブタジエン」ということがある。))である場合が例示されるが、特に限定されるわけではない。また、高分子材料は、例えば、複数のゴムで構成されていてもよいし、架橋されていてもよいし、フィラー(例えば、シリカやカーボン)等が配合されたものでもよい。また、高分子材料は、現時点では存在しない新たな構造を有するものでもよい。
【0014】
図2は、ポリブタジエンの構造式である。本実施形態の高分子鎖2は、複数の原子(本例では、炭素原子及び水素原子)で構成されている。本実施形態の高分子鎖2は、メチレン基(-CH
2-)とメチン基(-CH-)とからなるモノマー3の{-[CH
2-CH=CH-CH
2]-}が、重合度nで連結されて構成されている。この高分子鎖2の両末端は、メチレン基(-CH
2-)に替えて、メチル基(-CH
3)で構成される。
【0015】
高分子鎖2は、例えば、混練時、押出工程時、経年劣化時、摩耗時等において切断される。このため、これらの各状態において、高分子鎖の分子量分布が或る傾向を示す。
【0016】
[高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法]
次に、本実施形態の作成方法が説明される。本実施形態の作成方法では、解析対象の分子量分布(例えば、混練時、押出工程時、経年劣化時、摩耗時等の分子量分布)に基づいて、高分子鎖2が切断された数値解析モデルが作成される。
図3は、高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0017】
[高分子鎖モデルを入力]
本実施形態の作成方法では、先ず、高分子鎖2(
図2に示す)に基づいて、高分子鎖モデルがコンピュータ1(
図1に示す)に入力される(工程S1)。本実施形態では、高分子鎖モデルとして、粗視化分子モデル(本例では、Kremer-Grestモデル)が用いられるが、特に限定されるわけではなく、例えば、全原子モデルや、ユナイテッドアトムモデルであってもよい。
図4は、高分子鎖モデル5(Kremer-Grestモデル5B)の概念図である。
【0018】
本実施形態の高分子鎖モデル5は、複数の粒子モデル6と、隣接する粒子モデル6、6間を結合する結合モデル7とを含んで構成されている。本実施形態のように、高分子鎖モデル5がKremer-Grestモデル5Bである場合には、高分子鎖2(
図2に示す)を構成する複数の原子よりも少ない複数の粒子モデル6を用いて、高分子鎖2が表現される。
【0019】
本実施形態の粒子モデル6は、後述の分子動力学に基づく構造緩和の計算において、運動方程式の質点として取り扱われる。このため、粒子モデル6には、例えば、質量、体積、直径又は電荷などのパラメータが定義される。
【0020】
粒子モデル6は、
図2に示した高分子鎖2のモノマー3又はモノマー3の一部分をなす構造単位を置換したものである。1つの高分子鎖モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)を構成する粒子モデル6の合計数は、従来と同様に適宜設定(例えば、10~5000程度(本例では、5000))することができる。本実施形態では、後述の切断工程S4(
図3に示す)において、所望の分子量分布に近似するように、高分子鎖モデル5が切断されるため、その所望の分子量分布よりも大きな分子量分布を有するように、粒子モデル6の合計数が設定される。
【0021】
本実施形態の結合モデル7は、粒子モデル6、6間に設定された第1ポテンシャルP1によって定義される。本実施形態の第1ポテンシャルP1は、LJポテンシャルとFENEポテンシャルとの和で定義されうる。LJポテンシャル及びFENEポテンシャルの詳細や定数等は、論文1( Kurt Kremer & Gary S. Grest 著、「Dynamics of entangled linear polymer melts: A molecular-dynamics simulation」、J. Chem Phys. vol.92, No.8, 15 April 1990、p5057-5086)に記載のとおりである。
【0022】
本実施形態の工程S1では、高分子鎖モデル5(本例では、Kremer-Grestモデル5B)のみが設定されたが、このような態様に限定されない。例えば、高分子鎖以外の物質(分子)をモデリングした分子モデル(図示省略)が設定されてもよい。このような分子モデルは、例えば、1つ以上の粒子モデル6と、0個以上の結合モデル7とを含んで構成されうる。高分子鎖モデル5は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0023】
[セルを入力]
次に、本実施形態の作成方法では、高分子材料の一部に対応する仮想空間であるセルが、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される(工程S2)。
図5は、高分子鎖モデル5が配置されたセル10を示す概念図である。
図5では、2つの高分子鎖モデル5が代表して示されている。
【0024】
本実施形態のセル10は、少なくとも互いに向き合う一対の面11、11(本実施形態では、互いに向き合う三対の面11、11)を有している。本実施形態のセル10は、直方体又は立方体(本実施形態では、立方体)として定義されている。
【0025】
セル10の各面11、11は、周期境界条件が定義されている。セル10の一辺の各長さL1は、例えば、高分子鎖モデル5の拡がりを示す量である慣性半径(図示省略)の2倍以上が望ましい。これにより、後述の分子動力学に基づく構造緩和計算において、周期境界条件による自己のイメージとの衝突の発生を防ぐことができる。セル10は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0026】
[高分子鎖モデルを配置]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、セル10の内部に、複数の高分子鎖モデル5を配置する(工程S3)。本実施形態の工程S3では、複数の高分子鎖モデル5が、工程S1で入力された配置に従ってランダムに配置される。なお、工程S1において、分子モデル(図示省略)が入力された場合には、分子モデルも併せて配置される。高分子鎖モデル5の個数は、例えば、コンピュータ1の計算能力、セル10の大きさ、及び、高分子鎖モデル5の大きさ等に基づいて、適宜設定(例えば、10~100個設定)されうる。
【0027】
高分子鎖モデル5を配置する手順は、特に限定されない。例えば、分子モデル(図示省略)が入力されない場合には、高分子鎖モデル5がモンテカルロ法に基づいて、セル10の内部にランダムに配置されてもよい。このような高分子鎖モデル5の初期配置には、例えば、市販ソフト(例えば、(株)JSOL社製のソフトマテリアル総合シミュレーター(J-OCTA)に含まれるCOGNAC)が用いられうる。高分子鎖モデル5が配置されたセル10は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0028】
[高分子鎖モデルを切断(切断工程)]
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、高分子鎖モデル5の結合を切断する(切断工程S4)。本実施形態の切断工程S4では、解析対象の分子量分布(例えば、混練時、押出工程時、経年劣化時、摩耗時等の分子量分布)に基づいて、高分子鎖モデル5が切断される。
【0029】
従来、高分子鎖モデル5を特定の分子量分布に従うように切断する方法については、確立された方法は知られていない。例えば、コンピュータ1(
図1に示す)による自動処理によって、高分子鎖モデル5がランダムに切断された場合、極端に分子量の小さい断片が多数発生する傾向があり、所望の分子量分布に近似する高分子鎖の数値解析用モデルを作成できないという問題がある。
【0030】
上記のような小さい断片が多数発生することが実際の高分子鎖で起こらない原因としては、切断が起きた場合に小さい断片となり得るような高分子鎖の末端付近において、周囲の分子鎖との絡み合いが少ないためであると考えられる。すなわち、末端付近では、絡み合いが少ないことで拡散運動が速くなり、それによって、変形の際に発生する分子鎖の張力の応力緩和が進み、末端付近の分子鎖に強い張力が発生しづらくなる結果、切断反応が進みにくくなると推察される。
【0031】
本実施形態では、実際の高分子鎖の切断過程と同様に、高分子鎖モデル5の大きさについて、予め定められた閾値以下となる小さな高分子鎖モデル5が切断されるのを抑制することで、所望の分子量分布に近似する高分子鎖モデル5が作成される。本実施形態において、高分子鎖モデル5の大きさは、最大鎖長(本例では、断片内で取り得る鎖長のうちで最大のもの)である場合が例示される。
図6は、切断工程S4の処理手順を示すフローチャートである。
【0032】
[閾値を設定(閾値設定工程)]
本実施形態の切断工程S4では、先ず、閾値が設定される(閾値設定工程S41)。閾値は、高分子鎖モデル5の切断を判断するために用いられる。閾値は、適宜定義されうる。本実施形態において、特定の高分子材料の分子量分布に近似する高分子鎖モデル5を作成するために、例えば、以下の手順に基づいて、閾値が定義される。
図7は、閾値設定工程S41の処理手順を示すフローチャートである。
【0033】
本実施形態の閾値設定工程S41では、先ず、高分子鎖2(
図2に示す)を含む高分子材料(図示省略)の分子量分布が取得される(工程S411)。高分子材料の分子量分布は、適宜取得されうる。本実施形態では、先ず、解析対象(例えば、混練時、押出工程時、経年劣化時又は摩耗時等)の高分子材料(試験片)が製造される。そして、公知のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)に基づいて、高分子材料の分子量分布が取得される。
【0034】
図8は、高分子材料の分子量分布(微分分子量分布)を示すグラフである。これは、分子量について対数をとったグラフであり、単一のピークを持った対数正規分布に近い形状となっている。このような形状の特徴は、製造時だけでなく、加工や経年劣化などによって、高分子鎖の切断が起きた後も、ピークとなる分子量がより小さくなるように全体的にシフトするものの、形状自体はあまり変化しない傾向がある。一方、高分子鎖にランダムな切断が起きると仮定すると、分子量分布はポアソン分布に近づき、極端に小さい分子量に大きなピークが現れると予想される。しかしながら、そのような小さい分子量のピークは、実際の高分子鎖には見られない。したがって、実際には、極端に分子量の小さい高分子鎖2を発生させるようなランダムな切断が発生し難く、代わりに、分子量の大きい高分子鎖2が優先的に切断されることが示唆される。分子量分布は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0035】
次に、本実施形態の閾値設定工程S41では、分子量分布(
図8に示す)に基づいて、閾値が設定される(工程S412)。閾値は、分子量分布に基づいて、適宜設定される。高分子材料の物性等は、分子量分布において、微分分子量分布のピークとなるような(すなわち、頻度が最も大きくなるような)分子量W1を有する高分子鎖2の影響を最も受けると考えられる。このような観点より、分子量分布において頻度が最も大きくなる分子量W1に基づいて、閾値が設定される。
【0036】
本実施形態では、分子量分布において、頻度が最も大きくなる分子量W1に対応する高分子鎖モデル5が最も多く作成されることを目標に、閾値が適宜設定される。このため、その分子量W1よりもわずかに小さい分子量W2(例えば、分子量W1の85%~99%)が、閾値として設定されてもよい。また、様々な閾値を設定して高分子鎖モデル5をそれぞれ作成し、それらの閾値の中で、高分子鎖モデル5の頻度が最も大きくなる分子量が上記の分子量W1に最も近い閾値が選択されてもよい。
【0037】
また、高分子鎖モデル5の大きさは、分子量ではなく、最大鎖長、すなわち断片モデル内で取り得る鎖長のうちで最大のものとして特定されてもよい。ここで、鎖長は、高分子鎖の長さに関する量であれば、適宜定義され、例えば、両末端として選んだ2つの粒子モデル6、6の間について、結合モデル7及び粒子モデル6を経由する道のりの長さに関する量として定義されうる。鎖長の単位も、長さ、粒子数、質量などを用いて適宜定義されうる。本実施形態の鎖長は、取り得る経路の内の最短路(すなわち、経由する結合モデル7の数が最小となるような経路)に含まれる粒子モデル6の数として定義される。高分子鎖モデル5の最大鎖長と、対応する分子量との関係は、発生する断片の高分子鎖の分岐数などによって変化しうる。このため、本実施形態の閾値は、粒子モデル6の分子量と、分岐に関する定数との積で、分子量が除された値として設定される。また、分岐に関する定数は、1以上の実数値として適宜定義されうる。本実施形態において、分岐に関する定数には、1が用いられる。閾値は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0038】
[切断数の上限値を設定]
次に、本実施形態の切断工程S4では、高分子鎖モデル5の合計切断数の上限値が設定される(工程S42)。上限値は、切断工程S4後の高分子鎖モデル5の分子量分布(
図14に示す)と、高分子材料の分子量分布(
図8に示す)とが近似可能であれば、適宜設定されうる。本実施形態では、閾値が分子量である場合、高分子鎖モデル5の総分子量を、閾値で除した値から、さらに1を引くことで、合計切断数の上限値が設定される。一方、閾値が最大鎖長である場合には、高分子鎖モデル5の総粒子数を、閾値と分岐に関する定数との積で除した値から、さらに1を引くことで、合計切断数の上限値が設定される。ここで、高分子鎖モデル5の総分子量は、高分子鎖モデル5の総粒子数に、粒子モデル6の1個あたりの分子量を乗じることで求められる。このような上限値が設定されることで、高分子鎖モデル5が過度に切断されるのが抑制され、高分子材料の分子量分布(
図8に示す)に近似させることが可能となる。上限値は、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0039】
[結合モデルを選択]
次に、本実施形態の切断工程S4では、高分子鎖モデル5を構成する結合モデル7(
図4に示す)から一つの切断対象の結合モデル7が選択される(工程S43)。
図9(a)、(b)は、切断対象の高分子鎖モデル5を示す概念図である。
図9(a)、(b)では、
図4及び
図5に比べて、高分子鎖モデル5が簡略化して示されている。また、
図9(b)では、架橋点14の結合モデル7で結合された高分子鎖モデル5が示されている。
【0040】
本実施形態のように、複数の高分子鎖モデル5(
図5に示す)が入力されている場合には、それらの高分子鎖モデル5から、一つの高分子鎖モデル5が選択される。この高分子鎖モデル5は、ランダムに選択されてもよいし、予め定められた基準(例えば、結合モデル7の結合エネルギーなど)に基づいて選択されてもよい。そして、
図9(a)、(b)に示されるように、選択された高分子鎖モデル5を構成する複数の結合モデル7から、一つの切断対象の結合モデル7aがランダムに選択される。切断対象の結合モデル7aは、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0041】
[切断後の断片モデルの大きさを予測(予測工程)]
次に、本実施形態の切断工程S4では、選択された結合モデル7aで高分子鎖モデル5を切断したと仮定したときに、選択された結合モデル7aを除く他の結合モデル7で連結された粒子モデル6の集まりである断片モデル13について、それら(切断によって1つ又は2つ生じる断片モデル13)の大きさが何れも、予め定められた閾値よりも大きいか否かが予測される(予測工程S44)。断片モデル13は、前述の通り、選択された結合モデル7aを除く他の結合モデル7で連結された粒子モデル6の集まりであると定義される。これらの断片モデル13は、適宜決定することができる。例えば、選択された結合モデル7aによって結合している2つの粒子モデル6の一方及び他方のそれぞれから出発し、かつ、選択された結合モデル7a以外の結合モデル7を経由して粒子モデル6を全て探索することで、2つの断片モデル13を決定することができる。ただし、選択された結合モデル7aによって結合している2つの粒子モデル6の一方から他方に向かって、選択された結合モデル7a以外の結合を経由して連結されている場合には、これら2つの断片モデル13が互いに等しくなり、決定される断片モデル13の総数が(2つではなく)1つとなることに注意する必要がある。
図10は、予測工程S44の処理手順を示すフローチャートである。
【0042】
[第1断片モデルの大きさが閾値よりも大きいかを予測(第1工程)]
本実施形態の予測工程S44では、先ず、
図9(a)、(b)に示されるように、選択された結合モデル7aに対して一方側の断片モデル13である第1断片モデル13Aの大きさが、閾値よりも大きくなるか否かが予測される(第1工程S441)。
図9(a)、(b)では、第1断片モデル13Aが色付けして示されている。
【0043】
ところで、第1断片モデル13Aの大きさが閾値よりも大きくなるか否かを計算するために、素朴に、第1断片モデル13Aの大きさを計算する方法が考えられる。しかしながら、このような方法では、断片の大きさを計算する際に、最大で、高分子鎖モデル5を構成する全ての粒子モデル6を探索する可能性があるため、非常に多くの計算量(系全体の粒子モデル6と結合モデル7の総数に比例するかそれ以上)を要し、大変非効率となりうるという問題がある。このため、第1断片モデル13Aの大きさが、閾値よりも大きくなることが明らかとなった時点で、それ以上の探索を打ち切ることが望ましい。
図11は、第1工程S441の処理手順を示すフローチャートである。
【0044】
[第1断片モデルを構成する粒子モデルの組の大きさを探索]
上述したように、本実施形態の第1工程S441では、まず、第1断片モデル13Aを構成する粒子モデル6の組の大きさが閾値を超えない範囲で、第1断片モデル13Aの粒子モデル6が探索される(工程S51)。
【0045】
本実施形態の工程S51では、断片モデル13の大きさが分子量である場合、選択された結合モデル7aに結合している一方の粒子モデル6eから出発して、選択された結合モデル7a以外の結合モデル7を経由して、第1断片モデル13Aを構成する粒子モデル6が次々に探索される。そして、新しく見つかった(探索された)粒子モデル6の数に、粒子モデル6の1個あたりの分子量を乗じた値が、第1断片モデル13Aの分子量として計算され、この分子量が閾値よりも大きいことが明らかとなった時点で、第1断片モデル13Aの大きさが閾値よりも大きくなったと判断され、それ以上の探索が打ち切られる。一方、第1断片モデル13Aの分子量が、閾値よりも大きくない(閾値以下の)場合には、計算された分子量が閾値以下であるうちに、全ての探索が完了する。探索のアルゴリズムは、適宜選択される。たとえば、深さ優先探索や、幅優先探索、ランダムな探索などが利用可能である。本実施形態では、幅優先探索が用いられる。
【0046】
本実施形態の工程S51では、断片モデル13の大きさが最大鎖長である場合、選択された結合モデル7aに結合している一方の粒子モデル6eから出発して、選択された結合モデル7a以外の結合モデル7を経由して、第1断片モデル13Aを構成する粒子モデル6が、幅優先探索を用いて次々に探索される。そして、探索の深さ(すなわち、経由した結合モデル7の数に1を足した値)を最大鎖長の下限として、この最大鎖長の下限である探索の深さが閾値よりも大きいことが明らかとなった時点で、すなわち最大鎖長が閾値よりも大きいことが明らかとなるため、粒子モデル6の探索が打ち切られる。一方、第1断片モデル13A内でとりうる最大鎖長が、閾値よりも大きくない(閾値以下の)場合には、計算された最大鎖長の下限が閾値以下であるうちに、全ての探索が完了する(すなわち、第1断片モデル13Aを構成する粒子モデル6の組が決定する)。なお、閾値が分子量の場合と異なり、上述の方法で算出された最大鎖長の下限が閾値以下となる場合でも、実際の最大鎖長が閾値よりも大きくなる場合がありうる。このため、上述の方法で算出された最大鎖長の下限が閾値以下となる場合について、最大鎖長をより正確に推定するための判定工程(後述の追加の判定工程S55)が追加されるのが好ましい。追加の判定工程S55で得られた最大鎖長(の近似値)が閾値よりも大きくなるかどうかにより、第1断片モデル13Aの大きさが閾値よりも大きくなるかどうかが(近似的に)計算されうる。
【0047】
なお、本実施形態の工程S51において、断片モデル13の大きさが最大鎖長である場合に、幅優先探索に代えて、他の探索アルゴリズムが採用されうる。しかしながら、他の探索アルゴリズムが採用された場合には、第1断片モデル13Aの大きさが、閾値よりも大きくなることが明らかとなった時点で、それ以上の探索を打ち切るようにしたとしても、最大鎖長の小さいほうから探索することが保証されている幅優先探索に比べて、打ち切りの条件を満たしづらく、より多くの探索を行う傾向となり、非効率となりうる。したがって、幅優先探索が用いられるのが好ましい。
【0048】
本実施形態の工程S51では、最終的に、探索された第1断片モデル13Aを構成する粒子モデル6の組の大きさが、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0049】
[第1断片モデルの粒子モデルの組の大きさが閾値よりも大きいか否かを判断]
次に、本実施形態の第1工程S441では、探索された第1断片モデル13Aを構成する粒子モデル6の組の大きさが、閾値よりも大きいか否かが判断される(工程S52)。
【0050】
工程S52において、第1断片モデル13Aを構成する粒子モデル6の組の大きさが、閾値よりも大きいと判断された場合(工程S52で、[Yes])、最終的に、第1断片モデル13Aの大きさが閾値よりも大きいと判断される(工程S53)。そして、これが第1工程S441の最終的な判断結果(すなわち、第1断片モデル13Aの大きさが閾値よりも大きい)としてコンピュータ1(
図1に示す)に記憶され、第1工程S441の一連の処理が終了する。
【0051】
一方、工程S52において、第1断片モデル13Aの大きさが閾値以下と判断された場合(工程S52で「No」)、上述の追加の判定工程S55で判定される対象として、第1断片モデル13Aを構成する粒子モデル6の組が、もれなく決定される(工程S54)。工程S54において、第1断片モデル13Aを構成する粒子モデル6の組は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。そして、この粒子モデル6の組に基づいて、最大鎖長をより正確に推定するための追加の判定工程S55が実施される。
【0052】
[追加の判定工程]
追加の判定工程S55には、例えば、ワーシャルフロイド法が用いられうる。この方法が用いられることで、常に正確な最大鎖長が算出されうる。しかしながら、この方法の計算量は、第1断片モデル13Aに含まれる粒子モデル6の総数の3乗に比例するため、とりわけ、大規模な分子モデルで大きな閾値を用いる場合には、現実的でないという問題がある。
【0053】
本実施形態の追加の判定工程S55では、ワーシャルフロイド法に代えて、後述される横型探索を2回実施する方法が用いられる。この方法は、ループが無い(グラフ理論における、木構造のグラフとなる)場合の最大鎖長(グラフの直径)の算出方法として知られており、計算量が第1断片モデル13Aに含まれる結合モデル7の総数に正比例(すなわち、1乗に比例)するため、粒子モデル6の総数の3乗に比例するワーシャルフロイド法よりもはるかに高速である。この方法は、ループが無い場合には、高速に、かつ正確な最大鎖長が算出される利点があるが、第1断片モデル13Aにループが含まれている場合には、高速ではあるものの、正確な最大鎖長ではなく、最大鎖長の近似値のみが得られるという欠点がある。しかしながら、そのようなループが含まれている場合でも、得られる近似値は最大鎖長の下限であり、閾値以下の最大鎖長を持つ第1断片モデル13Aの大きさを、閾値よりも大きいと誤判定することはないため、閾値以下の大きさの第1断片モデル13Aの発生を確実に防止できる。なお、選択された結合モデル7aが実際には切断可能であるにもかかわらず切断しないことがあるが、その発生確率は非常に低いため、実用上の問題はほとんどないと考えられる。
図12は、追加の判定工程S55の処理手順を示すフローチャートである。
【0054】
[第1粒子モデルを特定]
本実施形態の追加の判定工程S55では、上述の手順を考慮して、先ず、第1断片モデル13A(
図9(a)、(b)に示す)において、選択された結合モデル7aに結合している粒子モデル6eから最も遠い粒子モデル6の一つである第1粒子モデル6aが探索される(工程S61)。この第1粒子モデル6aは、より詳しくは、選択された結合モデル7aで結合された2つの粒子モデル6のうち、一方の粒子モデル6eから出発して、選択された結合モデル7a以外の結合モデル7を経由して、出発した粒子モデル6eから到達可能な粒子モデル6の中で最も遠い(すなわち経由する最小の結合モデル7の数が最大となる)粒子モデル6の一つである。
【0055】
なお、最も遠い第1粒子モデル6aが複数存在する場合は、これらのいずれか一つが、第1粒子モデル6aとして適宜選択される。本実施形態では、最初に見つかった最も遠い粒子モデル6が、第1粒子モデル6aとして選択される。
【0056】
第1粒子モデル6aは、適宜特定されうる。本実施形態では、予め定められたアルゴリズムに基づいて、第1粒子モデル6aが特定される。アルゴリズムは適宜選択しうるが、計算量の観点から、幅優先探索を用いることが望ましい。同様に、本実施形態の後述の第2工程S442において、追加の判定についても、幅優先探索を用いることが望ましい。
第1粒子モデル6aは、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0057】
[第2粒子モデルを特定]
次に、本実施形態の追加の判定工程S55では、上述の手順を考慮して、第1断片モデル13Aにおいて、第1粒子モデル6aから出発して、第1粒子モデル6aから最も遠い粒子モデル6の一つである第2粒子モデル6bが探索される(工程S62)。この第2粒子モデル6bは、より詳しくは、第1粒子モデル6aから出発して、選択された結合モデル7a以外の結合モデル7を経由して、出発した第1粒子モデル6aから到達可能な粒子モデル6の中で最も遠い(すなわち経由する最小の結合モデル7の数が最大となる)粒子モデル6の一つである。この第2粒子モデル6bは、適宜特定されうる。本実施形態では、予め定められたアルゴリズム(例えば、幅優先探索)に基づいて、第2粒子モデル6bが特定される。なお、最も遠い粒子モデル6が複数存在する場合は、これらのいずれか一つが、第2粒子モデル6bとして選択される。第2粒子モデル6bは、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0058】
[第1粒子モデルと第2粒子モデルとの間の鎖長を特定]
次に、本実施形態の追加の判定工程S55では、第1粒子モデル6aと第2粒子モデル6bとの間の鎖長が、第1断片モデル13Aの大きさ(第1断片モデル13Aの最大鎖長)として特定される(工程S63)。本実施形態の工程S63では、上述の手順に基づいて、第1断片モデル13Aの大きさが特定される。本実施形態において、第1断片モデル13Aにループが含まれている場合には、第1断片モデル13Aの大きさの近似値が、第1断片モデル13Aの大きさとして近似的に特定されうる。特定された鎖長は、第1断片モデル13Aの大きさとして(近似的に)特定され、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0059】
[第1断片モデルの大きさが閾値よりも大きいかを判断]
次に、本実施形態の追加の判定工程S55では、第1断片モデル13Aの大きさが、閾値よりも大きくなるか否かが判断される(工程S64)。判断結果は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0060】
[追加の判定結果から第1断片モデルの大きさが閾値よりも大きいかを最終的に判断]
次に、本実施形態の第1工程S441では、追加の判定工程S55の判定結果について、第1断片モデル13Aの大きさが、閾値よりも大きいか否かが最終的に判断される(工程S56)。工程S56において、第1断片モデル13Aの大きさが閾値よりも大きいと判断された場合(工程S56で「Yes」)、これが第1工程S441の最終的な判断結果(すなわち、第1断片モデル13Aの大きさが閾値よりも大きい)としてコンピュータ1(
図1に示す)に記憶される(工程S53)。一方、工程S56において、第1断片モデル13Aの大きさが閾値以下と判断された場合(工程S56で「No」)、これが第1工程S441の最終的な判断結果(すなわち、第1断片モデル13Aの大きさが閾値以下である)としてコンピュータ1(
図1に示す)に記憶される(工程S57)。
【0061】
[第2断片モデルの大きさを計算(第2工程)]
次に、
図10に示されるように、本実施形態の予測工程S44では、選択された結合モデル7aに対して他方側の断片モデル13である第2断片モデル13Bの大きさが、閾値よりも大きくなるか否かが予測される(第2工程S442)。第2工程S422において、第2断片モデル13Bの大きさの計算は、第1工程S441と同様の手順で行われうる。すなわち、第2工程S442では、先ず、第2断片モデル13B(
図9(a)、(b)に示す)において、選択された結合モデル7aに結合している一方の粒子モデル6eとは異なる他方の粒子モデル6fから最も遠い第3粒子モデル6cが特定される。
【0062】
次に、第1工程S441と同様に、第2断片モデル13Bにおいて、第3粒子モデル6cから出発して、第3粒子モデル6cから最も遠い粒子モデル6の一つである第4粒子モデル6dが特定される。そして、第3粒子モデル6cと第4粒子モデル6dとの間の鎖長が、第2断片モデル13Bの大きさ(第2断片モデル13Bの最大鎖長)として特定される。本実施形態において、第2断片モデル13Bにループが含まれている場合には、第2断片モデル13Bの大きさの近似値が、第2断片モデル13Bの大きさとして近似的に特定されうる。そして、第2断片モデル13Bの大きさが、閾値よりも大きくなるか否かが判断される。判断結果は、コンピュータ1に記憶される。
【0063】
このように、本実施形態の予測工程S44では、
図9(a)に示した直鎖状の高分子鎖モデル5だけでなく、
図9(b)に示した架橋点14で結合された高分子鎖モデル5において、第1断片モデル13A及び第2断片モデル13Bの大きさが、閾値よりも大きいか否かを予測することができる。また、分岐を含む高分子鎖モデル5についても同様に、第1断片モデル13A及び第2断片モデル13Bの大きさが、閾値よりも大きいか否かを予測することができる。なお、第2断片モデル13Bは、第1断片モデル13Aと同一である場合があり得る。そのような場合、同一の断片モデルを2回検査するという計算の無駄が発生し得るものの、これらが同一でなかった場合と同様に、本実施形態の予測工程S44において、それらの大きさが何れも、閾値よりも大きいか否かが、正常に予測される。
【0064】
[断片モデルの大きさが閾値よりも大きいか否か判断]
次に、本実施形態の切断工程S4では、予測された切断後の断片モデル13(本例では、第1断片モデル13A及び第2断片モデル13B)の大きさが、何れも閾値よりも大きいか否かが判断される(工程S45)。工程S45では、予測工程S44での予測結果に基づいて、上記の判断がなされる。
【0065】
断片モデル13の大きさ(第1断片モデル13A及び第2断片モデル13Bの各鎖長)が、何れも閾値よりも大きいと判断された場合(工程S45で「Yes」)、選択された結合モデル7aで、高分子鎖モデル5が切断される(条件的切断工程S46)。
図13(a)は、
図9(a)の高分子鎖モデル5が切断された状態を示す概念図である。
図13(b)は、
図9(b)の高分子鎖モデル5が切断された状態を示す概念図である。
【0066】
[条件的切断工程]
条件的切断工程S46では、例えば、選択された結合モデル7aが、削除または無効にされる。これにより、高分子鎖モデル5が切断される。条件的切断工程S46では、結合モデル7aで高分子鎖モデル5が切断されることにより、
図13(a)に示されるように、選択された結合モデル7aで結合された2つの粒子モデル6の一方の粒子モデル6eと他方の粒子モデル6fとの間において、結合モデル7を経由して連結する経路が失われた場合には、2つの断片、すなわち、断片モデル13(第1断片モデル13A及び第2断片モデル13B)から構成された新たな高分子鎖モデル5、5に分離される。一方、そうでない場合(選択された結合モデル7aを切断しても、他の結合モデル7を経由して、断片モデル13に含まれる全ての粒子モデル6が連結する経路が残る場合)には、第1断片モデル13Aと第2断片モデル13Bとが同一となり(すなわち、第1断片モデル13Aと第2断片モデル13Bとを構成する全ての粒子モデル6及び結合モデル7が互いに同一な、一つの断片モデル13として構成され)、新たな断片は発生しない。切断された高分子鎖モデル5(2つの断片に分離された場合は、第1断片モデル13A及び第2断片モデル13B)は、コンピュータ1(
図1に示す)に入力される。
【0067】
一方、断片モデル13の大きさ(第1断片モデル13A及び第2断片モデル13Bの各鎖長)のいずれかが、閾値以下であると判断された場合(工程S45で「No」)、選択された結合モデル7aで、高分子鎖モデル5が切断されない。そして、工程S43~S45が再度実施される。再度実施される工程S43では、前回選択された高分子鎖モデル5(
図9(a)、(b)に示す)の結合モデル7から、新たな切断対象の結合モデル7aが選択されてもよい。また、工程S43では、前回選択された高分子鎖モデル5とは異なる新たな高分子鎖モデル5が選択されて、その選択された高分子鎖モデル5から、切断対象の結合モデル7aが選択されてもよい。
【0068】
このように、本実施形態の作成方法では、断片モデル13の大きさ(第1断片モデル13A及び第2断片モデル13Bの各分子量、または、最大鎖長)が、何れも閾値よりも大きい場合にのみ、高分子鎖モデル5が切断される。これにより、実際の高分子鎖の切断過程と同様に、切断後の大きさが閾値以下となるような小さな高分子鎖モデル5の切断が抑制される。したがって、本実施形態の作成方法では、所望の分子量分布に近似する高分子鎖2の数値解析モデル(高分子鎖モデル5)を作成することが可能となる。
【0069】
[切断数が上限値に達したか否か判断]
次に、本実施形態の切断工程S4では、高分子鎖モデル5の合計切断数が、上限値以上か否かが判断される(工程S47)。合計切断数が上限値以上であると判断された場合(工程S47で「Yes」)、切断工程S4の一連の処理が終了する。一方、合計切断数が上限値未満であると判断された場合(工程S47で「No」)、工程S43~工程S47が再度実施される。再度実施される工程S43では、例えば、前回選択された高分子鎖モデル5とは異なる新たな高分子鎖モデル5が選択されて、その選択された高分子鎖モデル5から、切断対象の結合モデル7aが選択されてもよい。
【0070】
このように、本実施形態の切断工程S4では、高分子鎖モデル5の合計切断数が上限値に達するまで、切断後の断片モデル13の大きさが閾値よりも大きくなるように、高分子鎖モデル5が切断される。これにより、本実施形態の切断工程S4では、高分子鎖モデル5の過度の切断を抑制しつつ、高分子鎖モデル5の分子量分布を、高分子材料の分子量分布(
図8に示す)に近似させることが可能となる。
【0071】
図14は、高分子鎖モデル5の分子量分布(微分分子量分布)を示すグラフである。この微分分子量分布において、頻度が最も大きくなる、すなわちピークとなる分子量W1は、
図8に示した高分子材料の分子量分布の分子量W1に対応している。そして、本実施形態では、高分子材料の物性への影響が最も大きい分子量W1を有する高分子鎖モデル5が、最も多く作成されている。したがって、本実施形態では、高分子鎖モデル5の分子量分布を、高分子材料の分子量分布(
図8に示す)に近似させうることが示された。
【0072】
[相互作用を定義]
次に、
図3に示されるように、本実施形態の作成方法では、高分子鎖モデル5の粒子モデル6、6間に、相互作用が定義される(工程S5)。なお、相互作用の定義が必要ない場合には、工程S5が省略されてもよい。
図15は、相互作用が定義された高分子鎖モデル5を示す概念図である。
【0073】
本実施形態の相互作用は、一対の高分子鎖モデル5、5の粒子モデル6、6間に定義された第2ポテンシャルP2として定義される。第2ポテンシャルP2は、適宜設定することができ、例えば、引力及び斥力が作用するものが定義される。本実施形態の第2ポテンシャルP2は、例えば、LJポテンシャルで定義することができる。LJポテンシャルの詳細や定数等に設定手順は、上記論文1に記載のとおりである。第2ポテンシャルP2は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0074】
[構造緩和を計算]
次に、本実施形態の作成方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、分子動力学に基づく高分子鎖モデル5の構造緩和を計算する(工程S6)。なお、構造緩和の計算が必要ない場合には、工程S6が省略されてもよい。本実施形態の構造緩和計算では、例えば、セル10において所定の時間、高分子鎖モデル5の粒子モデル6が古典力学に従うものとして、ニュートンの運動方程式が適用される。そして、各時刻での粒子モデル6の動きが、単位時間ステップ毎に追跡される。
【0075】
分子動力学計算では、セル10において、圧力及び温度が一定、又は、体積及び温度が一定に保たれる。これにより、工程S6では、実際の高分子材料の分子運動に近似させて、高分子鎖モデル5の初期配置が緩和される。本実施形態では、高分子鎖モデル5の初期配置が十分に緩和されるまで行われる。これにより、高分子材料をモデリングした高分子材料モデル12が作成される。構造緩和の計算には、例えば、上記の市販ソフトが用いられうる。
【0076】
本実施形態において、高分子鎖モデル5の構造緩和計算の必要がない場合には、相互作用の定義(工程S5)及び構造緩和計算(工程S6)が省略されてもよい。さらに、セル10の内部には、例えば、高分子材料に配合されるフィラーをモデリングしたフィラーモデル(図示省略)が配置されてもよいし、カップリング剤をモデリングしたカップリング材モデル(図示省略)が配置されてもよい。高分子材料モデル12は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0077】
[高分子材料のシミュレーション方法]
これまでの実施形態の作成方法で作成された高分子鎖の数値解析用モデル(高分子鎖モデル5)は、高分子材料のシミュレーションに用いられる。次に、高分子材料のシミュレーション方法が説明される。
図16は、高分子材料のシミュレーション方法の処理手順を示すフローチャートである。
【0078】
[高分子鎖モデルを作成]
本実施形態のシミュレーション方法は、先ず、コンピュータ1(
図1に示す)が、高分子鎖モデル5を作成する(工程S7)。本実施形態の工程S7では、これまでの実施形態の作成方法の工程S1~切断工程S4の手順(
図3に示す)に基づいて、所望の分子量分布に近似する高分子鎖モデル5(
図15に示す)が作成される。高分子鎖モデル5は、コンピュータ1に記憶される。
【0079】
[高分子材料モデルを作成]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、高分子鎖モデル5を含む高分子材料モデル12(
図15に示す)を作成する(工程S8)。本実施形態の工程S8では、これまでの実施形態の工程S5及び工程S6の手順(
図3に示す)に基づいて、セル10に配置された高分子材料モデル12の粒子モデル6、6間に相互作用が定義され、高分子鎖モデル5の構造緩和が計算される。これにより、高分子材料をモデリングした高分子材料モデル12(
図15に示す)が作成される。高分子鎖モデル5及び高分子材料モデル12は、コンピュータ1に記憶される。
【0080】
[高分子材料モデルの変形を計算]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、高分子材料モデル12(
図15に示す)の変形を計算する(工程S9)。高分子材料モデル12の変形計算は、適宜実施ことができる。例えば、特許第6408856号公報に記載された手順に基づいて、高分子材料モデル12の一端(一方側の面11a)と他端(他方側の面11b)とが互いに離間するように、高分子材料モデル12の伸長が計算されてもよい。また、高分子材料モデル12に周期的な歪が加えられてもよい。このような変形計算には、上記市販ソフトが用いられうる。
【0081】
本実施形態の工程S9では、高分子材料モデル12の変形計算により、高分子材料モデル12の物理量(応力やエネルギーロス等)が計算されうる。本実施形態では、所望の分子量分布(本例では、
図8に示した解析対象の分子量分布)に近似する高分子鎖モデル5が用いられるため、分子量分布に大きく影響する物理量(応力やエネルギーロス等)を、高い精度で計算しうる。変形の計算結果は、コンピュータ1(
図1に示す)に記憶される。
【0082】
[変形の計算結果を出力]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、コンピュータ1(
図1に示す)が、変形の計算結果を出力する(工程S10)。計算結果は、適宜出力されうる。計算結果は、例えば、ディスプレイ装置1d(
図1に示す)に表示されてもよいし、プリンタ(図示省略)等に印刷されてもよい。これにより、高分子材料モデル12の変形の計算結果を、オペレータ等に知らせることが可能となる。
【0083】
[変形の計算結果を評価]
次に、本実施形態のシミュレーション方法では、変形の計算結果が評価される(工程S11)。計算結果の評価は、コンピュータ1(
図1に示す)によって行われてもよいし、オペレータによって行われてもよい。
【0084】
本実施形態の工程S11では、変形の計算結果(本例では、高分子材料モデル12の物理量)が、予め定められた基準を満たすか否かが評価される。基準は、高分子材料や、高分子材料を用いた製品(例えば、タイヤ等)に求められる性能等に応じて、適宜設定されうる。
【0085】
本実施形態では、変形の計算結果が基準を満たすと判断された場合(工程S11で「Yes」)、高分子材料モデル12の性能が良好であると判断される。この場合、高分子鎖2の構造や、高分子材料モデル12に設定された諸条件等に基づいて、高分子材料が製造される(工程S12)。
【0086】
一方、変形の計算結果が基準を満たさないと判断された場合(工程S11で「No」)、高分子材料モデル12の性能が良好ではないと評価される。この場合、高分子鎖2の構造や、高分子材料モデル12に設定された諸条件等が変更されて(工程S13)、工程S7~工程S11が再度実施される。
【0087】
このように、本実施形態のシミュレーション方法では、高分子材料の性能が良好になるまで、高分子鎖2の構造や、高分子材料モデルに設定された諸条件等が変更されるため、良好な性能を有する高分子材料を、効率よく製造することができる。
【0088】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。
【実施例0089】
高分子鎖をモデリングした高分子鎖モデル(粗視化分子モデル)を入力して、高分子鎖モデルを切断した高分子鎖の数値解析用モデルが作成された(実施例、比較例)。
【0090】
実施例では、
図6に示した手順に基づいて、高分子鎖モデルを切断する切断工程が実施された。実施例では、高分子鎖モデルを構成する結合モデルから一つの切断対象の結合モデルが選択され、選択された結合モデルで高分子鎖モデルを切断したときの切断後の断片モデルの大きさが、予め定められた閾値よりも大きいか否かを予測する予測工程が実施された。
【0091】
実施例の予測工程では、
図10及び
図11に示した手順に基づいて、選択された結合モデルに対して一方側の第1断片モデルの大きさと、他方側の第2断片モデルの大きさとが閾値よりも大きいかが予測された。そして、第1断片モデル及び第2断片モデルの大きさが、何れも閾値よりも大きいと予測された場合に、選択された結合モデルで、高分子鎖モデルが切断された。
【0092】
一方、比較例では、コンピュータによる自動処理によって、高分子鎖モデルがランダムに切断された。そして、実施例及び比較例において、高分子鎖モデルの分子量分布が取得された。共通仕様は、次のとおりである。
高分子鎖モデルの個数:30個
1つの高分子鎖モデルの粒子モデルの合計数:5000個
架橋点の個数:70
断片モデルの大きさ:最大鎖長(断片内で取り得る鎖長のうちで最大のもの、鎖長は選んだ2つの粒子モデル間の結合モデルを経由する最短路の粒子モデルの個数)
閾値(最大鎖長)W2:100個
【0093】
図17は、実施例及び比較例の分子量分布を示すグラフである。実施例では、高分子鎖モデルが閾値W2以下の大きさに切断されるのが抑制されており、頻度が最も大きくなる分子量W1を、
図8に示した高分子材料の分子量分布の分子量W1に対応させることができた。一方、比較例では、高分子鎖モデルが閾値W2以下の大きさに切断されており、頻度が最も大きくなる分子量W3を、
図8に示した分子量W1に対応させることができなかった。したがって、実施例は、比較例に比べて、所望の分子量分布に近似する高分子鎖の数値解析モデルを作成することができた。
【0094】
[付記]
本発明は以下の態様を含む。
【0095】
[本発明1]
高分子鎖の数値解析用モデルを作成するための方法であって、
前記高分子鎖に基づいて、複数の粒子モデルと、隣接する前記粒子モデル間を結合する結合モデルとを含む高分子鎖モデルをコンピュータに入力する工程と、
前記コンピュータが、前記高分子鎖モデルの結合を切断する切断工程とを含み、
前記切断工程は、
前記高分子鎖モデルを構成する前記結合モデルから一つの切断対象の結合モデルを選択する工程と、
選択された前記結合モデルを切断したと仮定したときに、選択された前記結合モデルを除く他の結合モデルで連結された粒子モデルの集まりである断片モデルについて、それら(前記切断によって1つ又は2つ生じる前記断片モデル)の大きさが何れも、予め定められた閾値よりも大きいか否かを予測する工程と、
予測された前記断片モデルの大きさが、何れも前記閾値よりも大きい場合に、選択された前記結合モデルで、前記高分子鎖モデルを切断する条件的切断工程とを含む、
高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
[本発明2]
前記予測する工程に先立ち、前記閾値を設定する工程を含み、
前記閾値を設定する工程は、前記高分子鎖を含む高分子材料の分子量分布を取得する工程と、
前記分子量分布において頻度が最も大きくなる分子量に基づいて、前記閾値を設定する工程とを含む、本発明1に記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
[本発明3]
前記予測する工程は、選択された前記結合モデルに結合された2つの粒子モデルのうち、一方の粒子モデルから出発して、選択された前記結合モデル以外の結合モデルを経由して、前記断片モデルを構成する粒子モデルを探索する工程を含み、
前記探索する工程は、前記断片モデルの大きさが前記閾値よりも大きいことが明らかとなった時点で、前記粒子モデルの探索を打ち切る工程を含む、本発明1又は2に記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
[本発明4]
前記断片モデルの大きさは、分子量である、本発明1ないし3のいずれかに記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法
[本発明5]
前記断片モデルの大きさは、最大鎖長である、本発明1ないし4のいずれかに記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
[本発明6]
前記予測する工程は、選択された前記結合モデルで結合された2つの粒子モデルのうち、一方の粒子モデルから出発して、選択された前記結合モデル以外の結合モデルを経由して、出発した粒子モデルから最も遠い粒子モデルの一つである第1粒子モデルを探索する工程と、
前記第1粒子モデルから出発して、選択された前記結合モデル以外の前記結合モデルを経由して、前記第1粒子モデルから最も遠い粒子モデルの一つである第2粒子モデルを探索する工程と、
前記第1粒子モデルと前記第2粒子モデルとの間の鎖長に基づいて、前記最大鎖長を予測する工程とを含む、本発明5に記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法。
[本発明7]
コンピュータが、本発明1ないし7のいずれかに記載の高分子鎖の数値解析用モデルの作成方法に基づいて、前記高分子鎖モデルを作成する工程と、
前記コンピュータが、前記高分子鎖モデルを含む高分子材料モデルを作成する工程と、
前記コンピュータが、前記高分子材料モデルの変形を計算する工程と、
前記コンピュータが、前記変形の計算結果を出力する工程とを含む、
高分子材料のシミュレーション方法。