(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155128
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】歯周病の予防又は改善剤
(51)【国際特許分類】
A61K 33/00 20060101AFI20241024BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20241024BHJP
A61K 33/06 20060101ALI20241024BHJP
A61P 1/02 20060101ALI20241024BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20241024BHJP
A61Q 11/00 20060101ALI20241024BHJP
A61P 29/00 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
A61K33/00
A61K8/25
A61K33/06
A61P1/02
A61P31/04 171
A61P31/04
A61Q11/00
A61P29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069568
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】502341546
【氏名又は名称】学校法人麻布獣医学園
(71)【出願人】
【識別番号】000104814
【氏名又は名称】クニミネ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002631
【氏名又は名称】弁理士法人クオリオ
(74)【代理人】
【識別番号】100076439
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 敏三
(74)【代理人】
【識別番号】100161469
【弁理士】
【氏名又は名称】赤羽 修一
(72)【発明者】
【氏名】福山 朋季
(72)【発明者】
【氏名】加島 幸二
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AB441
4C083AB442
4C083CC01
4C083CC41
4C083EE33
4C086AA01
4C086AA02
4C086HA02
4C086HA06
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA57
4C086NA14
4C086ZA67
4C086ZB11
4C086ZB35
(57)【要約】
【課題】歯周病菌を吸着して当該歯周病菌を口腔外へと排出したり、歯周病菌のバイオフィルムの形成を抑制したり、歯周病菌に起因する炎症性サイトカインの産生を抑制したりすることができ、さらに、生体安全性にも優れる、歯周病の予防又は改善に係る各種の剤ないし方法を提供する。
【解決手段】ベントナイトを有効成分とする歯周病の予防又は改善剤、歯周病菌除去剤、歯周病菌バイオフィルムの形成抑制剤、及び炎症性サイトカインの産生抑制剤、並びに当該剤をペット又は家畜の口腔内に作用させることを含む方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベントナイトを有効成分とする、歯周病の予防又は改善剤。
【請求項2】
ベントナイトを有効成分とする、炎症性サイトカインの産生抑制剤。
【請求項3】
ベントナイトを有効成分とする、歯周病菌バイオフィルムの形成抑制剤。
【請求項4】
ベントナイトを有効成分とする、歯周病菌除去剤。
【請求項5】
前記ベントナイトが、その層間陽イオンがCaイオンからNaイオンに置換されたNa型ベントナイトである、請求項1~4のいずれか1項に記載の剤。
【請求項6】
対象生物がペット又は家畜である、請求項1~4のいずれか1項に記載の剤。
【請求項7】
ペット又は家畜の口腔内にベントナイトを作用させることを含む、歯周病の予防又は改善方法。
【請求項8】
ペット又は家畜の口腔内にベントナイトを作用させることを含む、炎症性サイトカインの産生抑制方法。
【請求項9】
ペット又は家畜の口腔内にベントナイトを作用させることを含む、歯周病菌バイオフィルムの形成抑制方法。
【請求項10】
ペット又は家畜の口腔内にベントナイトを作用させることを含む、歯周病菌除去方法。
【請求項11】
前記ベントナイトが、その層間陽イオンがCaイオンからNaイオンに置換されたNa型ベントナイトである、請求項7~10のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベントナイトを有効成分とする、歯周病の予防又は改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト口腔内には、およそ400~700種類の細菌が生息していることが知られている。これらの細菌は、歯の表面や舌の表面、歯周ポケットなどそれぞれの部位に特異的な細菌叢を形成している。
これら細菌の中でも、いわゆる歯周病菌と呼ばれる細菌は歯の表面や歯周ポケットにデンタルプラークと呼ばれるバイオフィルムを形成し、このバイオフィルム内で歯周病菌がさらに増殖することにより、歯周炎、歯肉炎、歯槽膿漏等の歯周病が発症する。薬剤等の処理によりバイオフィルムの形成を阻害したり、歯磨き等の物理的な洗浄により定期的にデンタルプラークを除去したりすることで、口腔内における歯周病菌の割合を減少させることが、歯周病の予防や症状の改善に重要である。
例えば特許文献1には、オートインデューサー-2受容体のアンタゴニストである化合物が、歯周病菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas
gingivalis)及びエイケネラ・コロデンス(Eikenella
corrodens)の生育及びバイオフィルムの形成を抑制することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
歯周病菌が産出するリポポリサッカライド(lipopolysaccharide;LPS)が口内の細胞に取り込まれることにより、細胞内に炎症性サイトカインが分泌され、これら炎症性サイトカインにより破骨細胞が活性化されて歯槽骨が吸収され、歯周病が進行することが知られている。そのため、歯周病菌を物理的に除去し、またバイオフィルムの形成を抑制するとともに、炎症性サイトカインの産生を抑制することも、歯周病の予防及び改善に重要である。
LPSは歯周病菌の細胞膜(外膜)の構成成分であるため、歯周病菌の死滅等によっても遊離する。そのため、歯周病菌に対して強い殺菌作用等を有する薬剤等を投与し、口腔内で歯周病菌を死滅、破壊させてしまうと、歯周病菌は除去できても、一時的により多くのLPSが口腔内に遊離してしまう。
さらに歯周病の予防剤及び改善剤は、通常は口腔内に投与されるため、誤飲しても、また長期間に亘り繰り返し使用しても、生体安全性が高いことが望まれる。
【0005】
本発明は、歯周病菌を吸着して当該歯周病菌を口腔外へと排出したり、歯周病菌のバイオフィルムの形成を抑制したり、歯周病菌に起因する炎症性サイトカインの産生を抑制したりすることができ、さらに、生体安全性にも優れる、歯周病の予防又は改善に係る各種の剤(Agent)ないし方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは上記課題に鑑み鋭意検討を行った。その結果、製品として生体への使用実績が豊富な粘土であるベントナイトが、歯周病菌に対する結合能(吸着能)を有すること(ベントナイトに歯周病菌を吸着させて口腔外に排出できること)、歯周病菌に対してベントナイトを投与することで歯周病菌バイオフィルムの形成も抑制できること、さらに、歯周病菌に起因する炎症性サイトカインの産生も抑制できることを見出した。
本発明はこれらの知見に基づき完成されるに至ったものである。
【0007】
本発明の上記課題は、下記の手段により解決された。
[1]
ベントナイトを有効成分とする、歯周病の予防又は改善剤。
[2]
ベントナイトを有効成分とする、炎症性サイトカインの産生抑制剤。
[3]
ベントナイトを有効成分とする、歯周病菌バイオフィルムの形成抑制剤。
[4]
ベントナイトを有効成分とする、歯周病菌除去剤。
[5]
前記ベントナイトが、その層間陽イオンがCaイオンからNaイオンに置換されたNa型ベントナイトである、前記[1]~[4]のいずれかに記載の剤。
[6]
対象生物がペット又は家畜である、前記[1]~[5]のいずれかに記載の剤。
[7]
ペット又は家畜の口腔内にベントナイトを作用させることを含む、歯周病の予防又は改善方法。
[8]
ペット又は家畜の口腔内にベントナイトを作用させることを含む、炎症性サイトカインの産生抑制方法。
[9]
ペット又は家畜の口腔内にベントナイトを作用させることを含む、歯周病菌バイオフィルムの形成抑制方法。
[10]
ペット又は家畜の口腔内にベントナイトを作用させることを含む、歯周病菌除去方法。
[11]
前記ベントナイトが、その層間陽イオンがCaイオンからNaイオンに置換されたNa型ベントナイトである、前記[7]~[10]のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の各種の剤は、有効成分として生体安全性の高いベントナイトを含有し、これを口腔内に作用させることにより、口腔内の歯周病菌の生菌数を減少させたり、歯周病菌バイオフィルムの形成を抑制したり、炎症性サイトカインの産生を抑制したりして、歯周病の予防又は改善効果を発揮する。また、本発明の各種の方法によれば、生体安全性の高いベントナイトを口腔内に作用させることにより、口腔内の歯周病菌の生菌数を減少させたり、歯周病菌バイオフィルムの形成を抑制したり、炎症性サイトカインの産生を抑制したりして、歯周病の予防又は改善効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、クニボンド及びベントナイト精製品を投与することによるポルフィロモナス・グラエ(
Porphyromonas
gulae;以下、「
P. gulae」とも称す。)菌の生菌数(%)を示すグラフである。
【
図2】
図2は、ネオクニボンド及びネオクニボンド粉砕品を投与することによる
P. gulae菌の生菌数(%)を示すグラフである。
【
図3】
図3は、クニボンド、ベントナイト精製品、ネオクニボンド及びネオクニボンド粉砕品と
P. gulae菌を混合して遠心分離した後の上清中の
P. gulae菌の生菌数(%)を示すグラフである。
【
図4】
図4は、クニボンドと
P. gulae菌を混合後10分後及び24時間後におけるクニボンドと
P. gulae菌との結合の様子を電子顕微鏡により観察した図面代用写真である。
【
図5】
図5は、ベントナイト精製品と
P. gulae菌を混合後10分後及び24時間後におけるベントナイト精製品と
P. gulae菌との結合の様子を電子顕微鏡により観察した図面代用写真である。
【
図6】
図6は、ネオクニボンドと
P. gulae菌を混合後10分後及び24時間後におけるネオクニボンドと
P. gulae菌との結合の様子を電子顕微鏡により観察した図面代用写真である。
【
図7】
図7は、ネオクニボンド粉砕品と
P. gulae菌を混合後10分後及び24時間後におけるネオクニボンド粉砕品と
P. gulae菌との結合の様子を電子顕微鏡により観察した図面代用写真である。
【
図8】
図8は、ネオクニボンドと
P. gulae菌を混合後1分後におけるネオクニボンドと
P. gulae菌との結合の様子を電子顕微鏡により観察した図面代用写真である。
【
図9】
図9は、ネオクニボンド粉砕品と
P. gulae菌を混合後1分後におけるネオクニボンド粉砕品と
P. gulae菌との結合の様子を電子顕微鏡により観察した図面代用写真である。
【
図10】
図10は、クニボンド、ベントナイト精製品、ネオクニボンド及びネオクニボンド粉砕品と
P. gulae菌を混合した際のバイオフィルム形成度合いを示したグラフである。
【
図11】
図11は、クニボンド及びベントナイト精製品による、
P. gulae菌に起因する炎症性サイトカインの産生量の抑制効果を示すグラフであるである。
【
図12】
図12は、ネオクニボンド及びネオクニボンド粉砕品による、
P. gulae菌に起因する炎症性サイトカインの産生量の抑制効果を示すグラフであるである。
【
図13】
図13は、クニボンド、ベントナイト精製品、ネオクニボンド及びネオクニボンド粉砕品と
P. gulae菌を混合して遠心分離した後の上清を投与することによる炎症性サイトカインの産生量を測定したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明ないし本明細書において「予防」とは、個体における疾患若しくは症状の発症の防止若しくは遅延、又は個体の疾患若しくは症状の発症の危険性を低下させることをいう。また、本明細書において「改善」とは、疾患、症状若しくは状態の好転若しくは緩和、疾患、症状若しくは状態の悪化の防止若しくは遅延、又は疾患、症状若しくは状態の進行の逆転、防止若しくは遅延をいう。
【0011】
また、本発明ないし本明細書において「歯周病」とは、歯の周囲組織の疾患の総称であり、歯槽膿漏、歯肉炎、歯周炎等を含む炎症性疾患を意味する。また本発明ないし本明細書において「歯周病菌」とは、上記歯周病発症の原因となる菌全般を意味する。
【0012】
また、本発明ないし本明細書において「歯周病菌除去」とは、口腔内に存在する歯周病菌の生菌数を減少させることを意味する。
【0013】
本発明の歯周病の予防又は改善剤は、ベントナイトを有効成分として含有する。本発明の歯周病の予防又は改善剤は、当該剤を、例えばチュアブル錠のような形態で摂取させたり、歯磨剤(歯磨き粉等)や洗口液(マウスウォッシュ)などに使用したりして口腔内に作用させることにより、口腔内に存在する歯周病菌と相互作用してその活性を抑え、歯周病を予防又は改善することができる。例えば、ベントナイトが歯周病菌と結合した状態で口腔外へ排出することができる。また、ベントナイトが歯周病菌と結合し、これにより歯周病菌バイオフィルムの形成を抑制することができる。さらに、ベントナイトが歯周病菌に作用した結果として口腔内の細胞における炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。
したがって、本発明の歯周病の予防又は改善剤の好ましい一実施形態は、歯周病菌除去剤である。また、別の好ましい実施形態は、歯周病菌バイオフィルムの形成抑制剤である。また、さらに別の好ましい実施形態は、炎症性サイトカインの産生抑制剤である。本発明の上記の各種剤(これらをまとめて「本発明の剤」とも称す。)は、ヒト及び非ヒト動物全般に適用することができる。なかでも哺乳動物に適用することが好ましい。また、ペット又は家畜への適用が好ましく、例えば、イヌやネコに好適に用いることができる。
【0014】
また、本発明の歯周病の予防又は改善方法によれば、ベントナイトを、必要により他の成分と混合し、例えば、チュアブル錠のような形態で摂取させたり、歯磨き粉等やマウスウォッシュなどに使用したりして口腔内に作用させることにより、口腔内に存在する歯周病菌と相互作用してその活性を抑え、歯周病を予防又は改善することができる。例えば、ベントナイトが歯周病菌と結合した状態で口腔外へ排出することができる。また、ベントナイトが歯周病菌と結合し、これにより歯周病菌バイオフィルムの形成を抑制することができる。さらに、ベントナイトが歯周病菌に作用した結果として口腔内の細胞における炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。
したがって、本発明の歯周病の予防又は改善方法の好ましい一実施形態は、歯周病菌除去方法である。また、別の好ましい実施形態は、歯周病菌バイオフィルムの形成抑制方法である。また、さらに別の好ましい実施形態は、炎症性サイトカインの産生抑制方法である。本発明の上記の各方法(これらをまとめて「本発明の方法」とも称す。)は、ヒト及び非ヒト動物全般に適用することができる。なかでも哺乳動物に適用することが好ましい。また、ペット又は家畜に適用が好ましく、例えば、イヌやネコに好適に用いることができる。
本発明の方法において、口腔内にベントナイトを作用させる方法は、本発明の剤を口腔内に作用させるものである。
【0015】
以下、本発明の好ましい実施の形態について具体的に説明するが、本発明で規定すること以外はこれらの形態に限定されるものではない。
【0016】
前記歯周病菌としては、動物の口腔内に存在し、歯肉炎、歯周炎及び歯槽膿漏などの歯周病を引き起こす原因となる細菌(歯周病菌)であれば特に制限されない。このような歯周病菌としては、例えばポルフィロモナス(Porphyromonas)属細菌、タネレラ(Tannerella)属細菌、トレポネーマ(Treponema)属細菌、カンピロバクター(Campylobacter)属細菌、ユーバクテリウム(Eubacterium)属細菌、フソバクテリウム(Fusobacterium)属細菌、プレボテラ(Prevotella)属細菌、ペプトストレプトコッカス(Peptostreptococcus)属細菌、ストレプトコッカス(Streptococcus)属細菌などが挙げられる。
前記歯周病菌の具体例としては、イヌやネコ等における歯周病の主要な病原体であるポルフィロモナス・グラエ(Porphyromonas
gulae;以下、「P. gulae」とも称す。)や、ヒト等における歯周病の主要な病原体であるポルフィロモナス・ジンジバリス(Porphyromonas
gingivalis)、タネレラ・フォーサイシア(旧名をタネレラ・フォーサイセンシス)(Tannerella
forsythia)、トレポネーマ・デンティコラ(Treponema
denticola)、カンピロバクター・グラシリス(Campylobacter
gracilis)、カンピロバクター・レクタス(Campylobacter
rectus)、カンピロバクター・ショーエ(Campylobacter
showae)、ユーバクテリウム・ノダタム(Eubacterium
nodatum)、フソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium
nucleatum)、フソバクテリウム・ポリモルファム(Fusobacterium
polymorphum)、プレボテラ・インタメディア(Prevotella
intermedia)、プレボテラ・ニグレッセンス(Prevotella
nigrescens)、ペプトストレプトコッカス・マイクロス(Peptostreptococcus
micros)、ストレプトコッカス・コンステラタス(Streptococcus
constellatus)などが挙げられる。
本発明における前記歯周病菌は、ポルフィロモナス属細菌、タネレラ属細菌、及びトレポネーマ属細菌から選ばれる1種又は2種以上であることが好ましく、ポルフィロモナス・グラエ、ポルフィロモナス・ジンジバリス、タネレラ・フォーサイシア、及びトレポネーマ・デンティコラから選ばれる1種又は2種以上であることがより好ましい。
【0017】
本発明の剤における有効成分であるベントナイトは、前記歯周病菌に対する結合能(ないし吸着能)を有する。当該ベントナイトが前記歯周病菌に結合する具体的なメカニズムは定かではないが、歯周病菌がベントナイト中に含まれるモンモリロナイトと電気的に相互作用をすることで、モンモリロナイトに結合(吸着)していると思われる。そのため、前記ベントナイトは、上述した歯周病菌に対して広く結合能を有するものと考えられる。
【0018】
本発明の剤の有効成分であるベントナイトとは、シリカとアルミナとを主成分とする層状ケイ酸塩鉱物の1種であるモンモリロナイトを主成分とし、一般に石英、クリストバライト、沸石、長石などを不純物として含む粘土である。本発明において「ベントナイト」という場合、通常よりも広義の意味で用いている。すなわち、天然由来のベントナイトであっても良いし、天然由来のベントナイトを精製した精製ベントナイト(好ましくは、精製モンモリロナイト)であってもよく、合成モンモリロナイトであってもよい。また、これらのベントナイトの粉砕品であってもよい。
上記合成モンモリロナイトは常法により合成することができる。例えば、原料を所望の組成比となるように混合して出発ゲルを調製し、このゲルを水熱処理に付してモンモリロナイトを合成することができる。水熱合成法はモレー型反応容器やオートクレーブを用いて行うことができる。また、合成時の原料組成を、常法により適宜に調節することにより、得られる合成モンモリロナイトの陽イオン交換容量(Cation Exchange Capacity、CEC)を所望のレベルへと調整することができる。
前記ベントナイトにおける前記モンモリロナイトの含有量は、50質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがより好ましい。また、当該含有量は70質量%以上であってもよく、80質量%以上であってもよく、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、99質量%以上であってもよい。
【0019】
前記ベントナイトの市販品としては、例えば、クニボンド(商品名、クニミネ工業株式会社製)、クニピアF(商品名、クニミネ工業株式会社製)、ネオクニボンド(商品名、クニミネ工業株式会社製)などが挙げられる。
上記クニボンドは、未精製のベントナイトである。具体的には、宮城県蔵王町に位置する土浮山鉱山又は川崎町に位置する川崎鉱山から採取されたCa型のベントナイトである。通常、前記クニボンドに含まれるモンモリロナイトの含有量は70~80質量%である。
上記クニピアFは、精製ベントナイトである。具体的には、山形県大江町に位置する月布鉱山から採取されたNa型のベントナイトの精製品である。当該精製ベントナイトにおけるモンモリロナイトの含有量は99質量%以上である。
上記ネオクニボンドは、未精製のベントナイトである。具体的には、宮城県蔵王町に位置する土浮山鉱山又は川崎町に位置する川崎鉱山から採取されたCa型ベントナイトを、イオン交換によりNa型に置換したベントナイトである。通常、前記ネオクニボンドに含まれるモンモリロナイトの含有量は60~70質量%である。
【0020】
特に、上記ネオクニボンドは、歯周病菌をより短時間で吸着することができる。ベントナイトはその産地により特有の性質を有することが知られており、特に宮城県蔵王山付近から採掘されるCa型ベントナイトを活性化した(イオン交換によりNa型に置換した)活性型ベントナイトは、Na型ベントナイト、Ca型ベントナイトの両方の性質を合わせ持つと共に、粒子径(一次粒子径)が小さく、比表面積が大きいという特徴がある。そのため、宮城県蔵王産のCa型ベントナイトを活性化した活性型ベントナイトであるネオクニボンドは、歯周病菌に対し特に高い吸着性、結合作用を有するものと考えられる。
【0021】
モンモリロナイトは、厚みが約1nmの薄い板状結晶が積み重なった層状構造を形成しており、結晶同士の間である層間には、一般的にアルカリ金属やアルカリ土類金属などの陽イオンが存在する。本発明に用いるベントナイトにおいて、モンモリロナイトの結晶層間に存在する陽イオンに特に制限はない。例えば、Na(ナトリウム)型、Li(リチウム)型、K(カリウム)型、NH4(アンモニウム)型、Ca(カルシウム)型、Mg(マグネシウム)型、Ba(バリウム)型、Al(アルミニウム)型、Fe(鉄)型、Cu(銅)型、及びZn(亜鉛)型の各ベントナイトから選ばれる1種又は2種以上のベントナイトを用いることができる。中でも、対象生物に摂取させる、又は口腔内に投与する観点から、前記ベントナイトはNa型、K型、Ca型、又はMg型であることがより好ましい。また、天然由来のCa型ベントナイトの層間陽イオンをNaイオンに置換した(ベントナイトの主要な層間陽イオンをCaイオンからNaイオンに置換した)Na型ベントナイトであることがさらに好ましい。ベントナイトの主要な層間陽イオンをCaイオンからNaイオンに置換したNa型ベントナイトは、Na型ベントナイト、Ca型ベントナイトの両方の性質を合わせ持ち、その具体的なメカニズムは明らかでないが、歯周病菌に対してより高い吸着性、結合作用を有する。
本明細書において「主要な層間陽イオン」とは、前記モンモリロナイトの層間陽イオンのうち、50%(モル%)以上を占める陽イオンを意味する。また、当該陽イオンの割合は60%以上としてもよく、70%以上としてもよく、80%以上としてもよく、90%以上としてもよい。ベントナイトの層間陽イオンのイオン交換方法については、ベントナイトのイオン交換方法について一般的に行われる方法を適用することができる。
なお、本発明に用いるベントナイトは、上記と同様の観点から、重金属が50ppm以下、砒素が2ppm以下であることが好ましい。
【0022】
本発明において、ベントナイトの陽イオン交換容量は80meq以上/100gであることが好ましく、90meq以上/100gであることがより好ましく、100meq以上/100gであることがさらに好ましい。また、本発明に用いるベントナイトの陽イオン交換容量は、通常120meq以下/100gである。モンモリロナイトの陽イオン交換容量は、Schollenberger法(粘土ハンドブック第三版,日本粘土学会編,2009年5月,453~454頁)に準じた方法で測定することができる。より具体的には、日本ベントナイト工業会標準試験方法JBAS-106-77に記載の方法で測定することができる。
【0023】
本発明において「ベントナイト」と言う場合、微粒子状のベントナイトを意味する。より具体的には、前記ベントナイトは、その粒子径(一次粒子径)が5~500nmであることが好ましく、10~250nmであることがより好ましく、15~200nmであることがさらに好ましく、20~120nmであることが特に好ましい。前記ベントナイトの粒子径を上記好ましい範囲内とすることにより、ベントナイト粒子の比表面積が大きくなるため、例えば水分散体として対象生物の口腔内に作用させた際に、歯周病菌と、より効率よく結合することができる。
なお、本発明において水分散体中の前記ベントナイトの「粒子径」とは、体積基準のメディアン径である。この粒子径は、例えばレーザー回析/散乱式粒子径分布測定装置により決定することができる。
【0024】
本発明の剤の形態に特に制限はなく、歯周病の予防又は改善剤、歯周病菌除去剤、歯周病菌バイオフィルムの形成抑制剤、並びに炎症性サイトカインの産生抑制剤として口腔内ケア商品等として使用可能な種々の形態とすることができる。本発明の剤はベントナイトそのものであってもよい。また、本発明の剤には、医薬品、医薬部外品、化粧品、飲食品、咀嚼品等の口腔ケア商品に使用可能なその他の配合成分を、本発明の効果を阻害しない範囲で、ベントナイトに加えて適宜配合してもよい。例えば、粘結剤、抗酸化剤、湿潤剤、香料、甘味剤、非イオン性界面活性剤、陰イオン性界面活性剤、油剤、研磨剤、pH調整剤、フッ化物、殺菌剤、抗炎症剤、歯石予防剤、水溶性ビタミン、知覚過敏予防改善剤、防腐剤、植物抽出物、その他薬効成分などを、本発明の効果が阻害されない範囲で適宜配合してもよい。
【0025】
本発明の剤は、使用の態様に応じて、常法に従って、固体状、液状(分散液状)、ゲル状などにすることができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、トローチ剤等として調製することができる。
種々の剤型に調製するには、ベントナイトに加えて添加剤を配合して、常法に従って製造すればよい。添加剤は、通常用いられているものを使用することができる。添加剤の例としては、薬学的に許容される賦形剤、液体担体、油性担体、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、崩壊剤、滑沢剤、増量剤、界面活性剤、分散剤、懸濁剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、緩衝剤、保存剤、嬌味剤、香料、被膜剤、矯臭剤、細菌抑制剤等が挙げられる。
【0026】
本発明の剤における前記有効成分であるベントナイトの含有量は特に制限されず、生物種、口腔内の状態、体重、性別、年齢、素材の活性、使用スケジュール、使用量、製剤形態又はその他の要因に応じて適宜決定できる。例えば、本発明の剤中のベントナイトの含有量は0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.2質量%以上であることがさらに好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましく、1.0質量%以上であることがさらに好ましい。また、10質量%以上としてもよく、20質量%以上としてもよく、30質量%以上としてもよく、40質量%以上としてもよく、50質量%以上としてもよく、60質量%以上としてもよく、70質量%以上としてもよく、80質量%以上としてもよい。なお、本発明の剤中のベントナイトの含有量の上限値は特に限定されないが、80質量%以下とすることができ、70質量%以下としてもよく、60質量%以下としてもよく、50質量%以下としてもよく、40質量%以下としてもよく、30質量%以下としてもよく、20質量%以下としてもよく、10質量%以下としてもよく、5質量%以下としてもよい。
【0027】
本発明の剤を使用する対象生物は、好ましくは哺乳動物であり、ペット又は家畜がより好ましい。本明細書において哺乳動物は、例えば、ヒト、並びにサル、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、及びブタなどの非ヒト動物が挙げられる。本発明の剤及び前記各組成物は、ヒト、イヌ又はネコの口腔内に作用させる(適用する)のに好適であり、イヌ及びネコの口腔内に作用させる(適用する)のに好適である。
【0028】
本発明の剤を口腔内に作用させることにより、口腔内に存在する歯周病菌とベントナイトとが相互作用し、歯周病発症に対する歯周病菌の活性を抑えることができる。例えば、歯周病菌由来のバイオフィルムの形成を抑制したり、炎症性サイトカインの産生を抑制したりすることができる。また、ベントナイトを口腔内から除去することにより、ベントナイトに吸着した歯周病菌を物理的に口腔外へ排出することができる。
【0029】
本発明の剤は、歯周病の程度や口腔内の状態により異なるため一概に規定することはできないが、1日1回~数回に分け、又は任意の期間及び間隔で口腔内に適用される。例えば歯周病の予防等を目的とする場合、1週間に1回以上、口腔内に適用するのが好ましく、3日に1回以上、口腔内に適用するのがより好ましく、2日に1回以上、口腔内に適用するのがより好ましく、1日に1回以上、口腔内に適用するのがより好ましい。また、例えば歯周病の病状改善等を目的とする場合には、上記よりも高頻度に適用されることが好ましく、1日に2回以上、口腔内に適用させてもよく、1日に3回以上、口腔内に適用させてもよい。また、その使用期間は特に制限されず、歯周病の症状が緩和又は完治するまで継続することが好ましい。具体的には、例えば、1週間~6年間が好ましく、1か月~1年間がより好ましい。
なお、1回の使用において、本発明の剤は、好ましくは10秒間以上口腔内に存在することが好ましく、1分間以上口腔内に存在することがより好ましい。また、3分以上口腔内に存在することも好ましく、5分間以上口腔内に存在することも好ましく、10分間以上口腔内に存在することも好ましい。
【0030】
本発明の剤を口腔内に作用させることにより、前記歯周病菌を口腔内から除去することができる。より具体的には、口腔内に存在する歯周病菌の生菌数を減少させることができる。上記の通りベントナイトは歯周病菌に対する結合能を有しているため、ベントナイトを歯周病菌と結合させ、結合させたままベントナイトを口腔外へ排出することにより、口腔内の歯周病菌の生菌数を減少させることができると考えられる。また、特定の歯周病菌を除去することにより、口腔内の細菌叢を好ましい状態へと整える作用が期待できる。
さらに口腔内の歯周病菌の増殖は口臭の悪化の原因ともなり得るため、口腔内の歯周病菌の生菌数を減少させることにより口臭の改善効果も見込まれる。
【0031】
また、本発明の剤を口腔内に作用させることにより、歯周病菌バイオフィルムの形成を抑制することができる。「バイオフィルム」とは、物質表面に付着した微生物同士の集合体と、それを覆う細胞外物質からなる構造物である。本発明ないし本明細書において、前記「歯周病菌バイオフィルム」とは、具体的には口腔内に形成される歯周病菌同士の集合体を含むバイオフィルムである。また本発明ないし本明細書において、「歯周病菌バイオフィルム」には歯垢(デンタルプラーク)が含まれ、具体的には歯肉縁上プラークや歯肉縁下プラークが含まれる。
前記ベントナイトがバイオフィルムの形成を阻害する具体的なメカニズムは定かではないが、前記ベントナイトが前記歯周病菌に結合(吸着)することにより、当該歯周病菌の活性が抑制されるものと推測される。
【0032】
また、本発明の剤を口腔内に作用させることにより、歯周病菌に起因する炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。歯周病菌が死滅した際には、歯周病菌の外膜を構成するリポポリサッカライド(lipopolysaccharide;LPS)が歯周病菌の破壊によって浮遊する。このLPSは内毒素(エンドトキシン)としても知られており、LPSが細胞内ないし血管内に取り込まれることにより、炎症性サイトカインの産生などを介して強力な炎症作用が惹起され、歯周病が進行すると考えられる。本発明の剤が炎症性サイトカインの産生を抑制する具体的なメカニズムは定かでないが、本発明の剤の有効成分であるベントナイトが歯周病菌に作用してLPSの遊離を抑制するか、又は遊離したLPSを吸着することにより、遊離するLPS量が減少することで、炎症性サイトカインの産生を抑制するものと考えられる。
また本発明に用いるベントナイト自体には歯周病菌を殺菌する作用は観察されないため、一般的な殺菌剤のように歯周病菌を死滅させることによるLPSの遊離が生じにくいと考えられる。
【0033】
さらに、本発明の剤を口腔内に作用させることにより、歯周病菌を除去することができ、歯周病菌バイオフィルムの形成を抑制することができ、さらに歯周病菌に起因する炎症性サイトカインの産生を抑制することができる。そのため本発明の剤を口腔内に適用することにより、歯周病を予防又は改善することができる。
【0034】
また、本発明の剤の有効成分であるベントナイトはモンモリロナイトや石英等の随伴鉱物を含有する粘土であるため、例えば本発明の剤を歯磨き粉等の歯磨剤の形態で用いる場合には、物理的に歯の表面を研磨することにより、歯垢や歯石を効果的に除去することができる。歯垢や歯石を除去することにより、歯周病を予防又は改善することも期待できる。
【実施例0035】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0036】
実施例1.ベントナイトのポルフィロモナス・グラエ(
Porphyromonas
gulae)に対する殺菌作用の検証
本実施例には、ベントナイトとしてクニミネ工業株式会社製のクニボンド(未精製品、Ca型、「KB」とも称す。)、クニピアF(ベントナイト精製品、モンモリロナイト99質量%以上、Na型、「BE」とも称す。)、及びネオクニボンド(未精製品、Ca型をNa型に置換して得たNa型、「NKB」とも称す)、並びに当該ネオクニボンドの粉砕品(以下、「ネオクニボンド粉砕品」、「NKB2」とも称す。)を用いた。なお、これらを総称して、単に「ベントナイト」とも称す。
P. gulae菌を嫌気性菌用ヒツジ血液寒天培地(M)(商品名、日本ベクトン・ディッキンソン株式会社製)に播種して嫌気条件下で3日間培養した後、極東 ウマ溶血液加ブルセラブロス(商品名、極東製薬工業株式会社製)液体培地にて濁度がOD
600=1.0となるように調整して
P. gulae菌懸濁液を得た。得られた各懸濁液に上記の各ベントナイトを0.063質量%、0.125質量%、0.250質量%、0.500質量%、1.000質量%となるように入れて混合し、嫌気条件下において30分、4時間、24時間培養した。培養後の各ベントナイト処理サンプル(懸濁液)中の生菌数を、BacTiter-Glo
TM Microbial Cell Viability Assay(プロメガ社製)を用いて測定した。
ベントナイト未含有の上記
P. gulae菌懸濁液(濁度をOD
600=1.0に調整したもの)をコントロールとし、コントロールサンプルを30分、4時間、24時間培養したときのコントロールサンプル中の生菌数を上記と同様に測定し、培養後のコントロールサンプル中の生菌数に対する、培養後の各ベントナイト処理サンプル中の生菌数の比を算出した。
上記の試験を計4回行った結果を、
図1及び
図2に示す。
【0037】
(統計検定)
図1及び
図2における各グラフについて、コントロール群と各ベントナイト処理群間の統計学的有意差の有無を危険率5および1%レベルで解析した。対照群と各処理群間でのデータについては、まずBartlettの等分散検定を行なった。この検定によって全用量群における分散が均一(p>0.05)であるという判定が出た場合には、一元配置分散分析法を用いて群間の有意差の有無を調べた。その結果群間に有意差が認められた時(p≦0.05)は、Dunnettの多重比較法を実施して対照群と各処理群間における有意差の有無を判定した。Bartlettの等分散検定で各群の分散が等しくない(p≦0.05)という判定が出た場合は、Kruskal-Wallisの検定法を用いて群間の有意差の有無を調べた。その結果群間に有意差が認められた時(p≦0.05)は、Dunnett型のノンパラメトリックな多重比較法を用いて対照群と各処理群間における有意差の有無を判定した。
なお、以下の実施例においても、同様の統計処理を行った。
【0038】
図1及び
図2より、上記
P. gulae菌懸濁液にクニボンド、クニボンド精製品、ネオクニボンド粉砕品を混合したサンプルでは、混合30分後に各サンプル中の生菌数がベントナイトの濃度依存的に増加し、特に懸濁液におけるベントナイト濃度が0.250質量%~1.000質量%であるサンプルにおいて、コントロールと比較して有意な生菌数の増加が認められた。生菌数の増加はベントナイトの混合後4時間および24時間培養をしても継続して確認され、ネオクニボンド粉砕品およびベントナイト精製品でその増加は顕著であった。また
図2より、ネオクニボンド処理群では混合後30分培養してもコントロールと比較して生菌数の変化は認められなかったものの、処理後4時間および24時間培養後ではコントロールと比較して有意に生菌数が増加していた。
【0039】
以上の通り、いずれのベントナイトもP. gulaeに対して直接的な殺菌・静菌作用は有しておらず、むしろベントナイトの濃度依存的に生菌数が増加することが示された。各ベントナイトに含まれる金属イオンは細菌の栄養になり得ることから、これらベントナイトに含まれる金属イオンがP. gulaeの増殖を促している可能性が示唆された。
【0040】
実施例2.ベントナイトのP. gulaeに対する結合能の検証
2.1 ベントナイトの遠心分離による結合能の確認
P. gulae菌と各ベントナイトを混合し、遠心分離後の上清中の生菌数を測定した。
【0041】
実施例1で用いた各ベントナイトを、実施例1で得られた濁度がOD
600=1.0の
P. gulae菌懸濁液に1質量%となるように入れ、得られた混合液を10分間又は2時間試験管ミキサーで混合した。当該混合液を、小型遠心分離機(型番:CFM-100、AGCテクノグラス株式会社製)により12000rpmで10秒間遠心分離して上清を回収し、当該上清中の生菌数をBacTiter-Glo
TM Microbial Cell Viability Assay(商品名、プロメガ社製)を用いて測定した。なお、当該遠心分離の条件は、
P. gulae菌単独(ベントナイトに結合せずに浮遊している菌)は沈降しない条件である。コントロールサンプルとしては、
P. gulae菌懸濁液にベントナイトを入れずに、上記と同様の方法で10分間又は2時間混合した後に遠心分離により回収した上清を用いた。
混合後のコントロールサンプル(上清)中の生菌数に対する、混合後の各ベントナイト処理サンプル(上清)中の生菌数の相対値(%)を算出した。当該試験を計6~8回行った結果を
図3に示す。
【0042】
図3より、
P. gulaeと各ベントナイトを10分間および2時間混合することにより、その後の遠心分離により得られた上清中の生菌数が、コントロールと比較して有意に減少することが明らかとなった。特に、2時間混合したサンプルではその減少が顕著であった。この結果より、
P. gulaeと各ベントナイトとが結合したため、遠心分離によりベントナイトを沈殿させることで、
P. gulaeも共沈殿したことが示唆された。
【0043】
2.2 走査型電子顕微鏡による結合能の確認
P. gulae菌と各ベントナイトの結合能を、走査型電子顕微鏡により観察した。実施例1と同様の方法で培養した
P. gulae菌懸濁液(濁度をOD
600=1.0に調整したもの)を、終濃度が1質量%となるように注射用水に懸濁した各ベントナイトとを混合し、得られた混合液を1分間、10分間及び24時間攪拌した後にベントナイトと
P. gulae菌の結合を走査型電子顕微鏡(倍率:3000倍、株式会社日立ハイテク製)で観察した。観察結果を
図4~9に示す。
【0044】
図4及び
図5は、
P. gulae菌懸濁液とクニボンド(
図4)又はベントナイト精製品(
図5)を混合して10分間及び24時間撹拌した後の電子顕微鏡写真である。混合10分後において、クニボンド及びベントナイト精製品の周囲に
P. gulae菌の集簇が観察され、さらに混合24時間後ではさらに多く集簇している様子が観察された。なお、
図4及び
図5中の白矢印は、ベントナイトの周囲に集簇した
P. gulae菌を示す。
【0045】
図6及び
図7は、
P. gulae菌懸濁液とネオクニボンド(
図6)又はネオクニボンド粉砕品(
図7)を混合して10分間及び24時間撹拌した後の電子顕微鏡写真である。混合10分後及び24時間後のいずれにおいても、ネオクニボンド及びネオクニボンド粉砕品の周囲に
P. gulae菌の多くの集簇が観察された。なお、
図6及び
図7中の白矢印は、ベントナイトの周囲に集簇した
P. gulae菌を示す。
そこで、ネオクニボンド又はネオクニボンド粉砕品を混合したサンプルの、混合1分後の状態についても調べた、その結果、1分後においても、既に
P. gulae菌とネオクニボンド又はネオクニボンド粉砕品との結合が観察された(ネオクニボンドについて
図8、ネオクニボンド粉砕品について
図9)。なお、
図8及び
図9中の黒矢印は、ベントナイトを示す。
【0046】
上記電子顕微鏡観察により、いずれのベントナイトもP. gulae菌と結合することが明らかとなった。また、当該結合力(菌凝集力)はクニボンド又はベントナイト精製品に比べてネオクニボンド又はネオクニボンド粉砕品を用いた場合の方が強く、さらにネオクニボンド又はネオクニボンド粉砕品では混合1分後において既にP. gulae菌と結合できる(菌を凝集させることができる)ことが明らかとなった。このようなネオクニボンド又はネオクニボンド粉砕品で特異的に観察されたP. gulae菌との強い結合力は、ネオクニボンド又はネオクニボンド粉砕品の有する電荷の影響が一因であると推察された。
【0047】
実施例3.ベントナイトによる
P. gulae菌のバイオフィルム形成阻害作用の検証
P. gulae菌を含む歯周病菌は、歯に付着し複数の菌同士が集合することによってバイオフィルムを形成する。細菌の塊である歯垢もバイオフィルムの一種で、バイオフィルムが形成されることによって、抗菌薬を含む外的な治療に対して抵抗力を持つことになる。本実施例では各ベントナイトが
P. gulae菌によるバイオフィルム形成に及ぼす効果を、Biofilm Formation Assay Kit(商品名、DOJINDO社製)を用いて検証した。
実施例1で調製した
P. gulae菌懸濁液(濁度をOD
600=1.0に調整したもの)20μLに対し、最終サンプル中の各ベントナイトの終濃度が0.250~1.000質量%となるように各ベントナイトを予め懸濁させた培養液180μLを添加して200μLとし、96 wellプレートに当該サンプル全量(200μL)を添加した。サンプルを添加した96 wellプレートに、96-peg Lidを被せて37℃インキュベーター内で、嫌気条件下で24時間培養した。培養24時間後に96-peg Lidを取り外し、培養液(菌を含まない培養液)200μLを添加した別の96 wellプレートに被せて37℃インキュベーター内で、嫌気条件下で更に72時間培養した。その後、96-peg Lidを生理食塩水で2回洗浄し、クリスタルバイオレット液で30分間染色し、生理食塩水で再度洗浄した後にエタノールで染色液を抽出した。抽出した染色液について、590nm吸光度をプレートリーダーで測定した。なお、対照実験として、上記
P. gulae菌懸濁液20μLにベントナイトを含まない培養液180μLを添加したサンプル(コントロール)について、上記と同様にして、抽出液の吸光度を測定した。
各ベントナイト処理サンプルの抽出液の吸光度を、コントロールの抽出液の吸光度で除した値を、コントロールのバイオフィルム形成率を100%としたときの各ベントナイト処理サンプルにおけるバイオフィルム形成率(%)とした。当該試験を計4回行った結果を
図10に示す。
【0048】
図10より明らかなように、
P. gulae菌とベントナイトを混合させることで、いずれのベントナイト濃度であってもコントロールと比較して有意なバイオフィルムの形成阻害が認められた。この結果から、ベントナイトの歯垢形成阻害作用の可能性が示唆された。
【0049】
実施例4
P. gulae菌によるヒト歯肉上皮細胞の炎症性サイトカイン産生に及ぼすベントナイトの効果
4.1 炎症性サイトカイン産生量の測定1
ベントナイトの抗炎症作用を、ベントナイトにより処理した
P. gulae菌によりヒト歯肉上皮細胞から産生される炎症性サイトカイン(IL-1β、IL-6、IL-8およびTNFα)産生量を測定することで調査した。ヒト歯肉上皮細胞(Ca9-22細胞)は10%牛胎児血清を添加したE-MEM培地で培養継代し、1×10
4 cells/wellとなるように96ウェル培養プレートに播種した。
E-MEM培地に
P. gulae菌と、各ベントナイトが0.063~1.000質量%となるように混合し、24時間培養後の培養液中のIL-1β、IL-8およびTNFαのタンパク質量をELISA法にて測定した。当該試験を7回行った結果を
図11及び
図12に示す。
【0050】
図11及び
図12より明らかなように、無処置群(Untreated)と比較して培養液に
P. gulae菌のみを添加した群(図中、「P.g control」と表記する。)では、IL-1β、IL-8およびTNFα産生量は有意に増加していた。一方で、
P. gulae菌に加えて各ベントナイトを上記の含有量となるように添加した処理群では、いずれのサイトカイン産生量もP.g controlと比較して顕著に減少していた。
【0051】
4.2 炎症性サイトカイン産生量の測定2
実施例1で調製した
P. gulae菌懸濁液に各ベントナイトを1質量%添加して10分間試験管ミキサーで混合し、その後、小型遠心分離機で10秒間遠心分離して上清を回収した。回収した上清をヒト歯肉上皮細胞(Ca9-22細胞)と共培養し、24時間培養後の培養液中のIL-1β、IL-6およびTNFαのタンパク質量をELISA法にて測定した。当該試験を7回行った結果を
図13に示す。
図13より明らかなように、いずれのベントナイトを混合して得られた上清を使用しても、コントロールと比較して顕著なサイトカイン産生の減少が認められ、特にネオクニボンド粉砕品ではその減少がより顕著であった。すなわち、ベントナイトを予め
P. gulae菌と混合させることにより上清中のLPS量が減少し、その結果、上清をCa9-22細胞に投与しても炎症性サイトカインの産生が抑えられたことが示唆された。