(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155152
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】リチウム選択透過膜及び、リチウム選択透過膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/44 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
C23C18/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069601
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】390007227
【氏名又は名称】東邦チタニウム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】399133947
【氏名又は名称】日本高純度化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】西島 一元
(72)【発明者】
【氏名】堺 英樹
(72)【発明者】
【氏名】大平原 祐樹
(72)【発明者】
【氏名】上村 宇慶
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和也
【テーマコード(参考)】
4K022
【Fターム(参考)】
4K022AA04
4K022AA43
4K022BA18
4K022CA06
4K022DA01
4K022DB03
4K022DB05
4K022EA01
(57)【要約】
【課題】比較的簡易な構造で、リチウム濃縮装置を構築することができるリチウム選択透過膜及び、リチウム選択透過膜の製造方法を提供する。
【解決手段】この発明のリチウム選択透過膜1は、リチウムイオンを含む液体中にて、電極間への電圧の印加により前記リチウムイオンを選択的に透過させるものであって、リチウムイオンのイオン伝導体を含む膜本体部2と、前記膜本体部2の両面2a、2bの少なくとも一方に固着して形成されて、前記電極として用いられる金属皮膜層3a、3bとを有し、前記イオン伝導体が、一般式(I):A
2/3-xLi
3xTiO
3(0.04<x<0.14、A:ランタノイドから選択される一種以上の元素)で表される酸化物の焼結体を含むものである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムイオンを含む液体中にて、電極間への電圧の印加により前記リチウムイオンを選択的に透過させるリチウム選択透過膜であって、
リチウムイオンのイオン伝導体を含む膜本体部と、前記膜本体部の両面のうちの少なくとも一方に固着して形成されて、前記電極として用いられる金属皮膜層とを有し、
前記イオン伝導体が、下記一般式(I)で表される酸化物の焼結体を含むリチウム選択透過膜。
A2/3-xLi3xTiO3 (I)
(一般式(I)中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。)
【請求項2】
前記金属皮膜層が、白金族元素から選択される少なくとも一種を含有する請求項1に記載のリチウム選択透過膜。
【請求項3】
前記金属皮膜層が白金を含有する請求項2に記載のリチウム選択透過膜。
【請求項4】
前記金属皮膜層の膜厚が0.05μm以上かつ10μm未満である請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム選択透過膜。
【請求項5】
前記膜本体部の両面のそれぞれに、前記金属皮膜層が形成されている請求項1~3のいずれか一項に記載のリチウム選択透過膜。
【請求項6】
リチウムイオンを含む液体中にて、電極間への電圧の印加により前記リチウムイオンを選択的に透過させるリチウム選択透過膜を製造する方法であって、
リチウムイオンのイオン伝導体を含む膜状部材に対し、金属イオン、錯化剤及び還元剤を含むめっき液を用いて無電解めっきを行い、前記膜状部材の両面のうちの少なくとも一方に、金属を析出させて金属皮膜層を形成するめっき工程と、前記めっき工程の後、両面の少なくとも一方に金属皮膜層が形成された膜状部材を、700℃以上の最高到達温度及び1時間以上の総加熱時間で加熱するアニール工程とを含み、
前記イオン伝導体が、下記一般式(I)で表される酸化物の焼結体を含み、
前記膜状部材としての膜本体部と、前記膜本体部の両面のうちの少なくとも一方に固着して形成されて、前記電極として用いられる金属皮膜層とを有するリチウム選択透過膜を製造する、リチウム選択透過膜の製造方法。
A2/3-xLi3xTiO3 (I)
(一般式(I)中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。)
【請求項7】
前記めっき液が、水素化ホウ素化合物、アミノボラン化合物及びヒドラジン化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含む、請求項6に記載のリチウム選択透過膜の製造方法。
【請求項8】
前記めっき液がさらに、下記一般式(II)で表されるヒドロキシメチル化合物及び/又はその塩を含む、請求項6又は7に記載のリチウム選択透過膜の製造方法。
R1-CH2-OH (II)
(一般式(II)中、R1は、アルデヒド基又はケトン基を有する原子団である。)
【請求項9】
前記めっき液が、白金族元素から選択される少なくとも一種の可溶性塩を含む、請求項6又は7に記載のリチウム選択透過膜の製造方法。
【請求項10】
前記めっき液が、白金塩を含む、請求項9に記載のリチウム選択透過膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、リチウムイオンを含む液体中にて、電極間への電圧の印加によりリチウムイオンを選択的に透過させるために用いられるリチウム選択透過膜及び、リチウム選択透過膜の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
リチウムは、常温常圧で銀白色の柔らかい金属であり、イオン半径が小さいことからアルカリ金属としては電荷/イオン半径の比が大きく、金属元素のなかで標準酸化還元電位が最も低い。そのような性質を有するリチウムは、電池、ガラスや陶磁器の添加剤、電気・電子機器のグリースや潤滑剤、医薬品、核融合燃料等に広く用いられている。なかでも、近年のリチウムイオン二次電池その他の電池の需要の拡大に伴い、今後はリチウム消費量の更なる増大が見込まれる。
【0003】
リチウムは、主に鉱石や塩湖かん水から産出されているが、多量に存在する海水に含まれており、海水からの採取が検討されている。これに関する技術としては、たとえば特許文献1及び2に記載されたものがある。
【0004】
特許文献1には、「金属が金属イオンの形で含まれる水溶液である原液から前記金属イオンを回収液の中に回収する金属イオン回収装置であって、前記金属のイオン伝導体で構成された平板状の選択透過膜と、前記選択透過膜の一方の主面に固定されたメッシュ状の正極と、前記選択透過膜の他方の主面に固定されたメッシュ状の負極と、を具備し、前記原液と前記回収液とが、前記正極及び前記負極が固定された前記選択透過膜で仕切られる構成とされたことを特徴とする金属イオン回収装置」が提案されている。この「金属イオン回収装置」では、「前記選択透過膜は、Li3N、Li10GeP2S12、(Lax,Liy)TiOz(ここで、x=2/3-a、y=3a-2b、z=3-b、0<a≦1/6、0≦b≦0.06、y>0)、Li1+x+yAlx(Ti,Ge)2-xSiyP3-yO12(ここで、0≦x≦0.6、0≦y≦0.6)のいずれかで構成される」ことが記載されている。
【0005】
特許文献2には、「一方の主面側から他方の主面側に向かってリチウム(Li)イオンを選択的に透過させるリチウム選択透過膜であって、リチウムのイオン伝導体を主体として構成された選択透過膜本体と、前記選択透過膜本体における前記一方の主面側の表面において形成され、前記リチウムイオンを選択的に吸着させるリチウム吸着層と、を具備することを特徴とするリチウム選択透過膜」で、「前記イオン伝導体は、(Lix,Lay)TiOz(ここで、x=3a-2b、y=2/3-a、z=3-b、0<a≦1/6、0≦b≦0.06、x>0)である」ものが記載されている。また、特許文献2には、「前記リチウム選択透過膜の前記一方の主面側に固定されたメッシュ状の第1電極と、前記リチウム選択透過膜の他方の主面側に固定されたメッシュ状の第2電極と、を具備することを特徴とするリチウム回収装置」についても記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2015/020121号
【特許文献2】特開2017-131863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2に記載されたようなリチウム濃縮装置では、リチウムイオンを選択的に透過させるイオン伝導体として、高いイオン伝導率ならびに、優れた安定性及び耐久性を有するA2/3-xLi3xTiO3(0.04<x<0.14、A:ランタノイドから選択される一種以上の元素)を用いることが有効であると考えられる。
【0008】
ところで、特許文献1及び2では、平板状のイオン伝導体の両面のそれぞれに、メッシュ状の正極及び負極の各電極を接合等により固定して設けたものが使用されている。この場合、イオン伝導体へのメッシュ状の電極の取付けが必要であり、イオン伝導体及び電極の構造の簡略化の観点から、代替案の検討の余地があった。
【0009】
この発明は、このようなことを課題とするものであり、その目的は、比較的簡易な構造で、リチウム濃縮装置を構築することができるリチウム選択透過膜及び、リチウム選択透過膜の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明のリチウム選択透過膜は、リチウムイオンを含む液体中にて、電極間への電圧の印加により前記リチウムイオンを選択的に透過させるものであって、リチウムイオンのイオン伝導体を含む膜本体部と、前記膜本体部の両面のうちの少なくとも一方に固着して形成されて、前記電極として用いられる金属皮膜層とを有し、前記イオン伝導体が、下記一般式(I)で表される酸化物の焼結体を含むものである。
A2/3-xLi3xTiO3 (I)
(一般式(I)中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。)
【0011】
前記金属皮膜層は、白金族元素から選択される少なくとも一種、なかでも特に白金を含有することが好ましい。
【0012】
前記金属皮膜層の膜厚は、0.05μm以上かつ10μm未満であることが好ましい。
【0013】
上記のリチウム選択透過膜は、前記膜本体部の両面のそれぞれに、前記金属皮膜層が形成されていることが好ましい。
【0014】
前記金属皮膜層は、前記膜本体部の全面に形成されていてもよいが、前記膜本体部に露出部を残すように部分的に形成されていてもよい。部分的に形成する場合、前記金属皮膜層は、電圧印加用通電部と連続的に導通したネットワーク状のパターンであることが好ましい。
【0015】
この発明のリチウム選択透過膜の製造方法は、リチウムイオンを含む液体中にて、電極間への電圧の印加により前記リチウムイオンを選択的に透過させるリチウム選択透過膜を製造する方法であって、リチウムイオンのイオン伝導体を含む膜状部材に対し、金属イオン、錯化剤及び還元剤を含むめっき液を用いて無電解めっきを行い、前記膜状部材の両面の少なくとも一方に、金属を析出させて金属皮膜層を形成するめっき工程と、前記めっき工程の後、両面の少なくとも一方に金属皮膜層が形成された膜状部材を、700℃以上の最高到達温度及び1時間以上の総加熱時間で加熱するアニール工程とを含み、前記イオン伝導体が、下記一般式(I)で表される酸化物の焼結体を含み、前記膜状部材としての膜本体部と、前記膜本体部の両面のうちの少なくとも一方に固着して形成されて、前記電極として用いられる金属皮膜層とを有するリチウム選択透過膜を製造するというものである。
A2/3-xLi3xTiO3 (I)
(一般式(I)中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。)
【0016】
前記めっき液は、水素化ホウ素化合物、アミノボラン化合物及びヒドラジン化合物からなる群から選択される少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0017】
前記めっき液がさらに、下記一般式(II)で表されるヒドロキシメチル化合物及び/又はその塩を含むことが好ましい。
R1-CH2-OH (II)
(一般式(II)中、R1は、アルデヒド基又はケトン基を有する原子団である。)
【0018】
前記めっき液は、白金族元素から選択される少なくとも一種の可溶性塩、なかでも特に白金塩を含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
この発明のリチウム選択透過膜によれば、比較的簡易な構造で、リチウム濃縮装置を構築することができる。この発明のリチウム選択透過膜の製造方法は、そのようなリチウム選択透過膜の製造に適したものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明の一の実施形態のリチウム選択透過膜を模式的に示す、厚み方向に沿う断面図である。
【
図2】
図1のリチウム選択透過膜を備えるリチウム濃縮装置を模式的に示す、深さ方向に沿う断面図である。
【
図3】この発明の他の実施形態のリチウム選択透過膜を模式的に示す、厚み方向に沿う断面図である。
【
図4】
図3のリチウム選択透過膜を備えるリチウム濃縮装置を模式的に示す、深さ方向に沿う断面図である。
【
図5】実施例1のピール試験後のリチウム選択透過膜の写真である。
【
図6】比較例1のピール試験後のリチウム選択透過膜の写真である。
【
図7】比較例2のピール試験後のリチウム選択透過膜の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に図面を参照しながら、この発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0022】
(リチウム選択透過膜)
図1に例示するリチウム選択透過膜1は、イオン伝導体を含む膜本体部2と、膜本体部2の両面2a及び2bのうちの少なくとも一方、
図1の実施形態では両面2a及び2bのそれぞれに固着して形成された金属皮膜層3a及び3bとを有する。
【0023】
ここで、膜本体部2を構成するイオン伝導体は、いわゆる超リチウムイオン伝導体としてリチウムイオンに対するイオン伝導性を有し、その内部で、リチウム原子ないしイオンが結晶格子内のサイトを移動して拡散するものである。それにより、当該イオン伝導体を含む膜本体部2は、他の陽イオンや陰イオンの透過を阻害しつつ、実質的にリチウムイオンのみを選択的に透過させることができる。これを実現する材料として、この実施形態では、膜本体部2のイオン伝導体に、一般式(I):A2/3-xLi3xTiO3(0.04<x<0.14、A:ランタノイドから選択される一種以上の元素)で表される酸化物の焼結体が含まれる。なお、一般的な電気透析で用いられる陽イオン交換膜では、リチウムイオンだけでなく他の陽イオンも透過するので、リチウムイオンの選択的な透過はできない。
【0024】
またここで、金属皮膜層3a及び3bは、通電可能であって電圧が印加される電極として用いられるものである。金属皮膜層3a及び3bの詳細については後述する。
【0025】
このようなリチウム選択透過膜1は、たとえば
図2に例示するリチウム濃縮装置51に使用され得る。
図2のリチウム濃縮装置51は、内部にリチウムイオンを含む液体を貯留させることができる容器状の濃縮槽52と、濃縮槽52の内部で当該液体に浸漬させて配置した上記のリチウム選択透過膜1とを備えるものである。濃縮槽52の内部は、そこに配置されたリチウム選択透過膜1により、原液室52aと濃縮室52bとに区画される。
【0026】
リチウム濃縮装置51を使用する場合、濃縮槽52内に海水等のリチウムイオンを含む原液Ldを貯留させ、一方の金属皮膜層3aを陽極、他方の金属皮膜層3bを陰極として、それらの電極間に電圧を印加する。そうすると、
図2に矢印で示すように、原液室52a内の原液Ld中のリチウムイオンは、リチウム選択透過膜1に向けて移動し、金属皮膜層3aを通過して膜本体部2に至る。そしてリチウムイオンは、膜本体部2の内部をイオン伝導体の存在の故に透過し、さらに金属皮膜層3bを通過して、濃縮室52b側に移る。このようにして、原液室52a側の原液Ldでは、リチウムイオン濃度が減少する一方で、濃縮室52b側の液体は、リチウムイオン濃度が上昇して濃縮液Lcとなる。したがって、これによれば、液体のリチウムイオンを濃縮することができる。たとえば濃縮液Lcに対して晶析等を行うことにより、そこに含まれるリチウムをリチウム塩等として回収することができる。
【0027】
ここにおいて、この実施形態のリチウム選択透過膜1では、膜本体部2の両面2a及び2bのうちの少なくとも一方に、金属皮膜層3a及び3bが固着して形成されている。それにより、たとえばメッシュ状の電極用部材を膜本体部2に別途、接合する等して取り付けることが不要であり、リチウム選択透過膜1の電極及びイオン伝導体の構造の簡略化を図ることができる。また、メッシュ状の電極用部材を膜本体部2に接合する場合に比して、金属皮膜層3a及び3bと膜本体部2との密着性が向上し、印加電圧がリチウムイオンの透過に効率よく用いられると考えられる。
【0028】
図1及び2に示すリチウム選択透過膜1では、膜本体部2の両面2a及び2bのそれぞれに金属皮膜層3a及び3bを形成しているが、
図3に示すように、膜本体部2の両面22a及び22bのうちの一方の片側だけに金属皮膜層23aを形成したリチウム選択透過膜21としてもよい。両面22a及び22bのうちの一方のみに金属皮膜層23aが設けられたリチウム選択透過膜21であっても、その一方の片側について上述したような利点が得られる。
【0029】
図3のリチウム選択透過膜21は、たとえば、
図4に示すように、両面22a及び22bのうちの他方に、メッシュ状の電極用部材61を接合等により取り付けて、リチウム濃縮装置51で使用することが可能である。この場合、片側の金属皮膜層23aと、その反対側の電極用部材61との間に、電圧を印加することができる。
【0030】
ところで、リチウム選択透過膜1に含まれる膜本体部2のイオン伝導体には、先にも述べたように、一般式(I):A2/3-xLi3xTiO3で表される酸化物の焼結体が含まれる。一般式(I)中、xは、0.04<x<0.14を満たし、Aは、ランタノイドから選択される一種以上の元素である。このような酸化物の焼結体は、高いイオン伝導率を示すとともに、優れた化学的安定性を有することから、リチウム濃縮装置51に有効に用いることができる可能性がある。
【0031】
特に、膜本体部2のイオン伝導体は、上記一般式(I)中のAがLaであるLa2/3-xLi3xTiO3(0.04<x<0.14)の酸化物を含むことが好適である。上記一般式(I)中のAがLaであるペロブスカイト結晶構造の複合酸化物は、LLTO(登録商標)とも称され得る。たとえば、一般式(I-a):LaxLi2-3xTiO3-aSrTiO3、一般式(I-b):LaxLi2-3xTiO3-aLa0.5K0.5TiO3、一般式(I-c):LaxLi2-3xTi1-aMaO3-a、又は、一般式(I-d):Srx-1.5aLaaLi1.5-2xTi0.5Ta0.5O3(一般式(I-a)~一般式(I-d)中、xは、0.55≦x≦0.59を満たし、aは、0≦a≦0.2を満たし、Mは、Al、Fe、Gaから選択される少なくとも一種である。)で表され、Al2O3含有量が0.35重量%以下であり、かつ、SiO2含有量が0.1重量%以下であるもの等が挙げられる。
【0032】
膜本体部2が、上記一般式(I)で表される酸化物を含むことは、膜本体部2に対してX線回折法を実施することにより確認することができる。X線回折法では、PANalytical X’pert Proにより得られた膜本体部2のX線回折パターンを、ICDDデータベース(PANalytical Example DatabaseとPDF-4+ 2019RDB)と照合して、膜本体部2に含まれる上記一般式(I)で表される酸化物を同定する。
【0033】
ここでは、X線回折法により得られノイズを除去した膜本体部2のX線回折パターンを上記ICDDデータベースと照合して、膜本体部2のX線回折パターン中に上記一般式(I)で表される酸化物のX線回折パターンが存在すると認められる場合に、膜本体部2に上記一般式(I)で表される酸化物が含まれていると判断する。一方、同様に上記ICDDデータベースと照合して、膜本体部2のX線回折パターン中に上記一般式(I)で表される酸化物のX線回折パターンが存在しないと認められる場合には、膜本体部2に上記一般式(I)で表される酸化物が含まれていないと判断する。
【0034】
膜本体部2中の上記一般式(I)で表される酸化物は、酸素の一部がFやClなどの他の元素に置換されている場合や、遷移金属の一部が、Fe、Cr、Ti、Nb、W、Mo、Na、K、Mg、Caなどの他の金属で置換されている場合がある。また、上記一般式(I)で表される酸化物の化学量論組成に対してLiや酸素が過剰か欠損の場合もある。また、膜本体部2中の上記一般式(I)で表される酸化物の結晶構造に歪みが生じている場合もある。上記のような酸化物の化学量論組成に対して構成元素が置換し、欠損し、もしくは過剰である場合、または結晶構造に歪みが生じている場合についても、それが、膜本体部2のイオン伝導体としての特性に大きな影響を及ぼさない範囲内であれば、上記一般式(I)で表される酸化物として許容されるものとする。
構成元素が欠損している酸化物や構成元素が過剰な酸化物の各X線回折パターンを上記ICDDデータベースに照合した場合、上記一般式(I)で表される酸化物のX線回折パターンからピークがシフト(ピークシフト)する可能性がある。そのようなピークシフトについては、上記ICDDデータベースのリファレンス値に対して±10%以内であれば、膜本体部2中に上記一般式(I)で表される酸化物が含まれているものとみなす。
【0035】
膜本体部2には、上記一般式(I)で表される酸化物が、99.0質量%以上で含まれることが好ましく、さらに99.5質量%以上で含まれることがより一層好ましい。この酸化物の含有量は多いほど望ましいので、その好ましい上限値は特にないが、たとえば99.999質量%以下、典型的には99.99質量%以下になることがある。当該酸化物の含有量は、ICP(Inductively Coupled Plasma)により測定する。膜本体部2は、上記一般式(I)で表される酸化物の他、不純物として、Si、Al及びFeからなる群から選択される少なくとも一種を含むことがある。膜本体部2中の不純物の含有量は、好ましくは1.0質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0036】
膜本体部2の厚みは、たとえば0.1mm~10.0mm、典型的には0.2mm~2.0mmとすることがある。膜本体部2は、ある程度の厚みとすることにより、欠陥の発生が抑えられて所要の強度を確保することができ、また厚くし過ぎないことにより、リチウムイオンが良好な速度で透過するようになる。膜本体部2の厚みは、ノギスにより測定することができる。
【0037】
また、金属皮膜層3a及び3bはそれぞれ、白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)及び白金(Pt))から選択される少なくとも一種を含有するものであることが好ましい。白金族元素は、電圧印加時においても高い耐食性を有するからである。金属皮膜層3a、3b中の白金族元素の含有量は、複数種含有する場合はそれらの合計で、80質量%~100質量%であることが好適である。金属皮膜層3a及び3bはそれぞれ、上記の白金族元素のなかでも特に白金(Pt)を含有することが好ましい。白金は、特に高い耐食性を有し、上記のイオン伝導体を含む膜本体部2と有効に密着するためである。白金族元素や白金の含有量が少なすぎると、耐食性が低下して剥落するおそれがある。白金族元素を含有する金属皮膜層3a及び3bは、その他に、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、ホウ素(B)、炭素(C)、窒素(N)、酸素(O)、リン(P)及び硫黄(S)からなる群から選択される少なくとも一種を、0.1質量%~30質量%で含むことがある。
【0038】
金属皮膜層3a、3bが白金族元素を含有することは、蛍光X線分光法(XRF)、エネルギー分散型X線分光法(EDX)またはX線回折法(XRD)により確認することができ、また、その含有量は、蛍光X線分光法(XRF)、エネルギー分散型X線分光(EDX)により分析することで測定可能である。白金族元素のうちの一種以上の元素を含有する金属皮膜層3a、3bでは、多くの場合、当該元素が単体金属又は合金等の形態で存在し得るが、これに限らない。
【0039】
金属皮膜層3a、3bの膜厚は、たとえば0.01μm~20μm、典型的には0.05μm以上かつ10μm未満とすることがある。厚くしすぎないことによってコストを抑えつつ、ある程度厚くして導通を良好にするためである。金属皮膜層3a、3bの膜厚は、蛍光X線分光法(XRF)により測定することができる。後述するようなめっき工程を含む製造方法等により製造されたリチウム選択透過膜1は、膜本体部2の両面2a及び2bのうちの少なくとも一方に、めっき層としての金属皮膜層3a及び3bが形成されたものになることがある。
【0040】
(製造方法)
上述したようなリチウム選択透過膜を製造するには、たとえば、リチウムイオンのイオン伝導体を含む膜状部材に対し、めっき工程及びアニール工程を順次に行うことがある。
【0041】
膜状部材のイオン伝導体は、先述した一般式(I):A2/3-xLi3xTiO3で表される酸化物の焼結体を含むものである。膜状部材は、既に作製されたものを購入等により入手してもよいが、次に述べるようにして作製することもできる。但し、この作製方法に限らない。
【0042】
リチウム原料として水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物と、チタン原料として酸化チタン、メタチタン酸、オルトチタン酸等のチタン化合物(たとえば平均粒子径D50:0.1μm~1.0μm、BET比表面積:5.0m2/g~100.0m2/g)と、ランタン原料として酸化ランタンとをそれぞれ、いずれも粉末状のものとして用意する。なお必要に応じて、Sr、K、Fe、Ga及びTaからなる群から選択される少なくとも一種の水酸化物、塩化物及び/又は炭酸塩等も用意する。
【0043】
次いで、第一湿式粉砕工程で、上記のリチウム原料、チタン原料及びランタン原料等の原料を所定のモル比で、ボールミル等にて、純水とエタノール等の混合溶媒と混合して粉砕する。粉砕の後、スプレードライヤー乾燥機、流動層乾燥機、転動造粒乾燥機、凍結乾燥機または熱風乾燥機等を用いて乾燥し、第一粉砕粉末を得る。
【0044】
その後、仮焼工程で、第一粉砕粉末を、酸素もしくは大気雰囲気または、窒素等の不活性ガス雰囲気の下、1000℃~1200℃で1時間~12時間にわたって加熱する。これにより、仮焼粉末が得られる。
【0045】
さらにその後、第二湿式粉砕工程で、仮焼粉末を、ボールミル等で溶媒を加えて粉砕した後に乾燥し、第二粉砕粉末を得る。しかる後、乾式粉砕工程として、ボールミル等を用いて第二粉砕粉末を乾式で粉砕し、さらに必要に応じて乾式もしくは湿式のジェットミル等による微粒子化を行った後に、酸化物粉末が得られる。
【0046】
そして、上記の酸化物粉末に対して、たとえば80MPa~120MPa、好ましくは100MPa~120MPaの一軸圧縮を施す成形工程を行い、成形体を得る。この成形体は、たとえば1300℃~1450℃、好ましくは1350℃~1450℃に加熱する焼結工程に供される。それにより、一般式(I):A2/3-xLi3xTiO3で表される酸化物の焼結体を含む膜状部材が得られる。
【0047】
めっき工程では、上記の膜状部材に対し、金属イオン、錯化剤及び還元剤を含むめっき液を用いて無電解めっきを行う。これにより、膜状部材の両面の少なくとも一方に、金属が析出し、めっき層としての金属皮膜層が形成される。
【0048】
めっき液に含ませる金属イオンは、製造しようとするリチウム選択透過膜が有する金属皮膜層の組成に応じて適宜決定することができる。白金族元素(ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)及び白金(Pt))から選択される少なくとも一種を含有する金属皮膜層を形成する場合、めっき液は、白金族元素から選択される少なくとも一種の可溶性塩を含むものとする。なかでも白金(Pt)を含有する金属皮膜層の場合、白金塩を含むめっき液を使用する。
【0049】
めっき液が白金族元素から選択される少なくとも一種の可溶性塩を含む場合、当該白金族元素の金属イオン濃度は、複数種含む場合はそれらの合計で0.01g/L~20g/Lとすることが好ましい。また、めっき液が白金塩を含む場合、白金イオン濃度は0.1g/L~5g/Lとすることが好ましい。白金族元素や白金の濃度は低すぎると、めっき速度が低下するおそれがあり、また高すぎると、めっき液が高コストとなることが懸念される。
【0050】
めっき液に含ませる還元剤としては、水素化ホウ素化合物、アミノボラン化合物及びヒドラジン化合物、次亜リン酸化合物、亜リン酸化合物、ギ酸化合物、ホルムアルデヒドからなる群から選択される少なくとも一種とすることが好ましい。これらの化合物は、低コストかつ十分なめっき速度を得ることができる還元剤として作用するからである。めっき液に当該還元剤は、0.01g/L~100g/L含ませることが好適である。上記の還元剤が少なすぎると、めっき速度が低下することが懸念される。一方、上記の還元剤が多すぎる場合は、めっき液の安定性が低下する可能性がある。還元剤の種類によっては、膜状部材上に形成される金属皮膜層が、ホウ素、窒素及び/又はリンを含むものになる場合がある。
【0051】
めっき液に含ませる錯化剤としては、エチレンジアミン、プロパンジアミン、ジエチレントリアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン等のポリアミン化合物(複数のアミノ基(-NH2)を有する化合物)及びアンモニアからなる群から選択される少なくとも一種とすることが好ましい。これらの化合物は、良好な無電解めっき性能、水への溶解のし易さ、入手のし易さ、低コスト等の観点からも好ましい。めっき液に当該錯化剤は、めっき液中の金属イオンに対して当量以上配位できる量、具体的には0.1g/L~300g/L含ませることが好適である。上記の錯化剤が少なすぎると、めっき液の安定性が低下することが懸念される。一方、上記の錯化剤が多すぎる場合は、めっき速度が低下する可能性がある。
【0052】
めっき液に含ませるパターン外析出防止剤としては、一般式(II):R1-CH2-OH(R1:アルデヒド基又はケトン基を有する原子団)で表されるヒドロキシメチル化合物及び/又はその塩とすることが好ましい。これにより、触媒を付与した部分以外にめっき皮膜がはみ出すことを抑制し、必要な箇所のみにめっきされるため、好適なパターン電極としての金属皮膜層を形成することができる。具体的には、糖、アスコルビン酸、エリソルビン酸等が挙げられる。めっき液に当該パターン外析出防止剤は、0.01g/L~10g/L含ませることが好適である。上記のパターン外析出防止剤が少なすぎると、パターン形成不良となることが懸念される。一方、上記のパターン外析出防止剤が多すぎる場合は、めっき速度が低下する可能性がある。なお、膜状部材の表面に対し、パターン状ではなく全体に金属皮膜層を形成する場合は、めっき液にパターン外析出防止剤を含ませることを要しない。
【0053】
めっき液のpHは7以上とすることが好ましい。pHが低すぎる場合は、めっき速度が低下するおそれがある。典型的には、めっき液のpHは9~14とすることがある。
【0054】
このようなめっき液を用いる無電解めっきは、公知の方法に従って行うことができる。たとえば、めっき液中に膜状部材を浸漬させる。そうすると、めっき液中では、還元剤の作用により金属イオンが膜状部材の表面上で析出し、その表面に当該金属イオンに応じた組成の金属皮膜層が形成される。たとえばマスキングを施すこと等により、膜状部材の両面のうちの一方又は両方のいずれかに、金属皮膜層を形成するかを選択することが可能である。
【0055】
めっき工程の後は、膜状部材への金属皮膜層の密着力を高めるため、アニール工程を行う。アニール工程では、両面の少なくとも一方に金属皮膜層が形成された膜状部材を加熱する。ここでは、加熱の開始による昇温から降温が終了するまでの総加熱時間を1時間以上とし、そのなかでの最高到達温度を700℃以上とする。
【0056】
アニール工程の最高到達温度を700℃未満とした場合や、総加熱時間を1時間未満とした場合は、膜状部材への金属皮膜層の密着性をそれほど向上させることができない。一方、最高到達温度が高すぎると、膜状部材が変質するおそれがある。このため、最高到達温度は、700℃~1400℃とすることが好ましい。総加熱時間を長くしすぎても密着力がそれ以上高くならず、製造効率が低下する。それ故に、総加熱時間は、0.5時間~10時間、特に1時間から10時間とすることができる。
【0057】
アニール工程では、たとえば、昇温速度は1℃/分~20℃/分、最高到達温度での保持時間は0分~120分、降温速度は1℃/分~20℃/分とすることがある。
【0058】
アニール工程により、膜状部材の両面のうちの少なくとも一方に金属皮膜層が固着し、膜状部材を膜本体部としたリチウム選択透過膜が得られる。但し、リチウム選択透過膜は、無電解めっき以外のめっき法、スパッタリングや各種の蒸着法等によっても製造できる可能性があり、ここで詳説した無電解めっきを用いる製造方法に限らない。
【実施例0059】
次に、この発明のリチウム選択透過膜を試作し、その性能を確認したので以下に説明する。但し、ここでの説明は単なる例示であり、これに限定されることを意図するものではない。
【0060】
(実施例1)
厚みが約0.5mmであってLa0.57Li0.29TiO3で表される酸化物の焼結体をイオン伝導体として含む膜状部材(東邦チタニウム株式会社製のLLTO(登録商標))に、無電解めっきを行い、膜状部材への金属皮膜層の形成を試みた。
【0061】
無電解めっきでは、まず、塩化白金酸30g/L水溶液を数滴、膜状部材に塗布し、乾燥後、水素化ホウ素ナトリウム10g/L水溶液に浸漬することで白金触媒を付与した。触媒を付与した膜状部材を30℃のめっき液中に20時間にわたって浸漬させて、膜状部材の両面のそれぞれに白金(Pt)を1μm析出させ、両面に金属皮膜層を形成した。このめっき液には、白金塩としてのテトラアンミン白金(II)硝酸塩をPtで0.2g/L、80%ヒドラジン一水和物を0.35mL/L、25%アンモニアを1mL/L含むpH12.2のめっき液Aを使用した。
【0062】
無電解めっきの後、表1に示すように、アニールの有無、及び、アニールを行った場合の最高到達温度を変化させた試験を行った。アニールは、昇温時間を1時間とし、最高到達温度に到達した後に直ちに降温させ、降温時間を8時間とし、総加熱時間を9時間とした。これにより、膜状部材を膜本体部としたリチウム選択透過膜を製造した。
【0063】
(比較例1)
膜状部材に金属皮膜層を、ペーストA(白金ペースト(品名 TR-7605 田中貴金属社製))により形成し、リチウム選択透過膜を製造した。
【0064】
具体的には、まず、12gのペーストAを7.2gのエタノールで希釈した。その後、スピンコーター(ACT-300A II アクティブ社製)に、膜状部材をセットし、該膜状部材を、大気雰囲気下(温度20℃、湿度30%)で、白金ペーストをスポイトで0.5g滴下と同時に、500rpm、10秒間の条件でスピンコートした後、1000rpm、10秒間の条件でスピンコートを行い、更に、3000rpm、30秒間の条件でスピンコートを3段階で行った。
【0065】
そして、乾燥機で60℃、2時間の乾燥を行い、400℃(昇温速度:1.7℃/分)で2時間の加熱処理を行い、その後930℃(昇温速度:10℃/分)で2時間の加熱処理を行った。
【0066】
以上により、膜状部材に白金ペーストで形成した金属皮膜層を備えたリチウム選択透過膜を製造した。
【0067】
(比較例2)
比較例1のペーストAを、ペーストB(品名:TR-7905(田中貴金属社製))に代えたことを除いて、比較例1と同様にしてリチウム選択透過膜を製造した。
【0068】
(比較例3)
La2/3-xLi3xTiO3(0.04<x<0.14)で表される酸化物の焼結体をイオン伝導体として含む膜状部材(東邦チタニウム株式会社製のLLTO(登録商標))に、金属皮膜層を形成せず、膜状部材をそのままリチウム選択透過膜とした。
【0069】
(比較例4)
膜状部材として、Li6.25La3Zr2Al0.25O12で表される酸化物の焼結体(いわゆるLLZO)をイオン伝導体として含む膜状部材(株式会社豊島製作所製のLi6.25La3Zr2Al0.25O12(cubic))を使用したことを除いて、実施例1とほぼ同様にしてリチウム選択透過膜を製造した。なお、LLZOは空気中で不安定な物質であり、表面が空気中の水分と反応して水酸化リチウムになり、その後、空気中の二酸化炭素と反応して表面が炭酸リチウムの層で覆われやすい。この影響を無くすため、比較例4では、無電解めっきの前に、#1200の市販研磨紙でLLZO表面を研磨し、フレッシュなLLZO表面を露出させることを行った。
【0070】
(評価)
実施例1並びに比較例1、2及び4の各方法で、膜状部材の両面に金属皮膜層を形成できるか否かを確認した。その結果を表1に示す。表1中、「〇」は、金属皮膜層が形成できたことを意味し、「×」は、めっき上がりの状態で膜状部材が全面露出しており金属皮膜層が形成できなかったことを意味する。
【0071】
表1に示すように、実施例1では、アニール無しの場合と、無電解めっきの後、アニールで最高到達温度を600℃以上とした場合に、膜状部材の両面に金属皮膜層を形成することができた。
比較例1及び2では、アニール無しの場合と、アニールの最高到達温度を600℃以上930℃以下とした場合に、膜状部材の両面に金属皮膜層を形成することができた。
比較例4では、金属皮膜層を形成することができなかった。これは、LLZOを含む膜状部材をめっき液に浸漬させた際に、めっき液が強塩基性であることにより、LLZO表面に水酸化物や白金酸リチウム(Li2PtO3)が形成したことにより、金属皮膜層が形成されなかったものと考えられる。
【0072】
また、上記のようにして製造した各リチウム選択透過膜について、ピール試験による膜本体部からの金属皮膜層の密着性の確認、及びイオン伝導度の測定を行った。それらの結果を表1、2に示している。なお、比較例3は、膜状部材をそのままリチウム選択透過膜としたことから、上記の密着性の確認の測定を行っていない。また、比較例4は、金属皮膜層を形成することができなかったため、上記の密着性の確認及びイオン伝導度の測定を行わなかった。
【0073】
ピール試験は、リチウム選択透過膜の膜本体部上に形成された金属皮膜層の表面に、3M製の透明粘着テープを接着させ、金属皮膜層を膜本体部から引き剥がす方向に当該テープを引っ張り、膜本体部から金属皮膜層が剥がれるかどうかを確認した。表1中、「〇」は、膜本体部から金属皮膜層が全く剥がれなかったことを意味し、「△」は、膜本体部から金属皮膜層がごく一部のみ剥がれたが、実用上は問題ないレベルであることを意味し、「×」は、膜本体部から金属皮膜層が全面剥がれてしまい、実用上支障が出るレベルであることを意味する。参考として、実施例1並びに比較例1及び2のピール試験後の各リチウム選択透過膜の写真を、
図5~7に示す。
【0074】
イオン伝導度の測定は、次のようにして行った。リチウム選択透過膜のプレート(Φ12mm)の両面に、実施例1、比較例1及び2は金属皮膜層、比較例3はPt蒸着膜をそれぞれ貼り付けて、これをステンレス製の電極で挟み込んだ。ここでは、金属皮膜層とPt蒸着膜が電極として用いられる。そして、インピーダンスアナライザ E4990A(Keysight Technologies社製)を用いて、測定周波数20Hz~20MHzでナイキストプロットを測定し、測定データから粒内、粒界の抵抗値を読み取った。リチウムイオン伝導率は、以下の計算式より求めた。
リチウムイオン伝導度(Scm-1)=1/(Rb+Rgb)×(L/S)
Rb:粒内の抵抗値(Ω)
Rgb:粒界の抵抗値(Ω)
L:板状のリチウムランタンチタン酸化物の厚み(cm)
S:電極の面積(cm2)
【0075】
表2から分かるように、実施例1のリチウム選択透過膜は、比較例1及び2のものよりも、高いイオン伝導度を示した。このため、実施例1のリチウム選択透過膜は、リチウム濃縮装置に好適に用いられ得ることが期待される。
【0076】
【0077】
【0078】
以上より、この発明のリチウム選択透過膜によれば、比較的簡易な構造で、リチウム濃縮装置を構築できる可能性があることが示唆された。