(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155154
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂成型体、シーラントフィルム及び包装材
(51)【国際特許分類】
C08L 23/00 20060101AFI20241024BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20241024BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241024BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
C08L23/00
C08K7/00
B32B27/32 Z
B32B27/18 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069606
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【弁理士】
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】竹之内 基邦
(72)【発明者】
【氏名】▲崎▼山 徹三
【テーマコード(参考)】
4F100
4J002
【Fターム(参考)】
4F100AC03A
4F100AC03H
4F100AK03A
4F100AR00B
4F100BA02
4F100GB15
4F100JB16A
4F100JD03
4F100JL12B
4J002BB031
4J002BB051
4J002BB061
4J002BB071
4J002BB081
4J002BB111
4J002BB121
4J002BB131
4J002BB212
4J002BK001
4J002CE001
4J002DJ036
4J002DJ056
4J002FD202
4J002FD206
(57)【要約】
【課題】酸素バリア性を向上させることが可能な熱可塑性樹脂成型体を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂フィルム1は、マトリックス相2となるポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と、前記マトリックス相2中に分散相3として分散して存在する層状粘土鉱物(B)と、を少なくとも含む。分散相3は、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向に薄い扁平状に形成され、且つ、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と直交する予め設定した方向を長さ方向とし、熱可塑性樹脂フィルム1を、その厚み方向と長さ方向とに平行な面で切断した縦断面において、分散相3は、分散相3の厚み方向が熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と平行な方向であり、分散相3の長軸が長さ方向と平行な方向となるように存在し、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と平行な線分と分散相3の長軸とがなす角度の標準偏差が20°以下である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マトリックス相となるポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と、前記マトリックス相中に分散相として分散して存在する層状粘土鉱物(B)と、を少なくとも含む熱可塑性樹脂成型体であって、
前記分散相は、当該熱可塑性樹脂成型体の厚み方向に薄い扁平状に形成され、且つ、前記厚み方向と直交する予め設定した方向を長さ方向とし、当該熱可塑性樹脂成型体を、前記厚み方向と前記長さ方向とに平行な面で切断した縦断面において、前記分散相は、当該分散相の厚み方向が前記熱可塑性樹脂成型体の厚み方向と平行な方向であり、長軸が前記長さ方向と平行な方向となるように存在し、
前記熱可塑性樹脂成型体の厚み方向と平行な線分と前記分散相の前記長軸とがなす角度の標準偏差が20°以下であることを特徴とする熱可塑性樹脂成型体。
【請求項2】
相溶化剤(C)をさらに含み、
前記分散相は、前記層状粘土鉱物(B)が前記相溶化剤(C)で周囲を包まれた状態で、前記マトリックス相中に存在し、
前記相溶化剤(C)は、官能基として酸変性部を備えており、
前記分散相と前記相溶化剤(C)の前記官能基とが結合することを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂成型体。
【請求項3】
当該熱可塑性樹脂成型体の全体重量に対する前記相溶化剤(C)の官能基の重量割合が0.1wt%以上3wt%未満の範囲内であることを特徴とする請求項2に記載の熱可塑性樹脂成型体。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂成型体と、
当該熱可塑性樹脂成型体の少なくとも一方の面に積層されたシール層と、を備えることを特徴とするシーラントフィルム。
【請求項5】
請求項1から3のいずれか1項に記載の熱可塑性樹脂成型体を含むことを特徴とする包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、熱可塑性樹脂成型体、シーラントフィルム及び包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
SDGs(Sustainable Development Goals)に代表されるように、プラスチック製品において環境配慮型の製品の需要が高まっている。軟包装材のような積層プラスチックフィルムでは、従来、ポリエステルやポリアミドフィルムやポリオレフィンといった異種材料を積層することが多い。しかしながら、異種材料を積層したプラスチックフィルムはリサイクルを行うことが難しいため、使用後のプラスチックフィルムは焼却されてしまい環境負荷が大きくなる問題がある。
積層プラスチックフィルムのリサイクル性を高めるためには、主成分が同じフィルムを積層する、モノマテリアル化が有効である。
【0003】
オレフィン系樹脂を用いたモノマテリアル軟包装材は、その他の樹脂を用いたモノマテリアル軟包装材と比較して、ヒートシール性、水蒸気に対するバリア性に優れているが、酸素に対するバリア性(酸素バリア性)が劣るという問題がある。つまり酸素バリア性に劣ることで、内容物の劣化が抑制できない懸念がある。
そのため、従来は、オレフィン系樹脂フィルムの酸素バリア性を向上するための手段として、例えばエチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」ともいう)やMXDナイロン等のバリア性樹脂を積層させたり、無機化合物の蒸着層や塗布層を形成させたりして、酸素バリア性を担保してきた。
【0004】
しかしながら、バリア性樹脂の積層によってオレフィン系樹脂フィルムの酸素バリア性を向上する方法は、近年のモノマテリアル化の方向性と逆行している。またバリア層として蒸着層や塗布層を形成する手法は、バリア層の屈曲性が悪いため、過度な屈曲によりバリア層が割れてガスバリア性が低下してしまう場合があった。
そこで、こうしたモノマテリアル化の動きの中で、上記のような他樹脂(バリア性樹脂)の積層、蒸着層形成、塗布層形成などの方法に代えて、オレフィン系樹脂に添加剤として層状鉱物を添加し、酸素バリア材として使用することで酸素バリア性を担保することが見直されている。
【0005】
層状鉱物をオレフィン樹脂中に分散させる方法としては、例えば官能基を含有するポリオレフィン系重合体を混ぜて混練することにより層状鉱物の剥離を行い、層状鉱物をオレフィン樹脂中に分散させる技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記技術は貯蔵弾性率等の機械特性の向上を目的としており、得られた複合材料(層状鉱物を分散したオレフィン樹脂)において、ガスバリア機能については何ら触れていない。また、剥離した層状鉱物のオレフィン樹脂内での存在状態なども、図中でランダムに示されているだけで何ら言及されていない。つまり、オレフィン系樹脂への層状鉱物添加による酸素バリア性の向上は、実現できていなかった。
本開示は上述した問題に鑑みてなされたものであり、酸素バリア性を向上させることが可能な熱可塑性樹脂成型体、これを用いたシーラントフィルム、及び包装材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の一態様によれば、マトリックス相となるポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と、前記マトリックス相中に分散相として分散して存在する層状粘土鉱物(B)と、を少なくとも含む熱可塑性樹脂成型体であって、前記分散相は、当該熱可塑性樹脂成型体の厚み方向に薄い扁平状に形成され、且つ、前記厚み方向と直交する予め設定した方向を長さ方向とし、当該熱可塑性樹脂成型体を、前記厚み方向と前記長さ方向とに平行な面で切断した縦断面において、前記分散相は、当該分散相の厚み方向が前記熱可塑性樹脂成型体の厚み方向と平行な方向であり、長軸が前記長さ方向と平行な方向となるように存在し、前記熱可塑性樹脂成型体の厚み方向と平行な線分と前記分散相の前記長軸とがなす角度の標準偏差が20°以下である、熱可塑性樹脂成型体が提供される。
【0009】
また、本発明の他の態様によれば、上記態様の熱可塑性樹脂成型体と、当該熱可塑性樹脂成型体の少なくとも一方の面に積層されたシール層と、を備える、シーラントフィルムが提供される。
さらに、本発明の他の態様によれば、上記態様の熱可塑性樹脂成型体を含む、包装材が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本願発明の一態様によれば、より酸素バリア性に優れた熱可塑性樹脂成型体、これを用いたシーラントフィルム、及び包装材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの一例を模式的に示す断面模式図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの一例を模式的に示す平面模式図である。
【
図3】本発明の他の実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムの一例を模式的に示す断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本開示について詳細に記述する。なお、各図面は模式的に示した図であり、各部の大きさや形状等は理解を容易にするため現実のものとは異なり適宜誇張して示している場合が含まれる。また、以下に示す実施形態は、本開示の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本開示の技術的思想は構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに限定されるものではない。本開示の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
また、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本開示の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90°回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180°回転すれば「左」が「右」になり、「右」が「左」になることは勿論である。
【0013】
[実施形態]
以下、
図1及び
図2を参照して、本開示の実施形態(以下、本実施形態という)に係る熱可塑性樹脂成型体の構成について説明する。
本実施形態に係る熱可塑性樹脂成型体は、マトリックス相となるポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と、前記マトリックス相中に分散相として分散して存在する層状粘土鉱物(B)と、を少なくとも含む熱可塑性樹脂成型体であって、前記分散相は、当該熱可塑性樹脂成型体の厚み方向に薄い扁平状に形成され、且つ、前記厚み方向と直交する予め設定した方向を長さ方向とし、当該熱可塑性樹脂成型体を、前記厚み方向と前記長さ方向とに平行な面で切断した縦断面において、前記分散相は、当該分散相の厚み方向が前記熱可塑性樹脂成型体の厚み方向と平行な方向であり、長軸が前記長さ方向と平行な方向となるように存在し、前記熱可塑性樹脂成型体の厚み方向と平行な線分と前記分散相の前記長軸とがなす角度の標準偏差が20°以下である。
ここでは、本実施形態に係る熱可塑性樹脂成型体を、熱可塑性樹脂フィルムに適用した場合について説明する。なお、本実施形態に係る熱可塑性樹脂成型体は、熱可塑性樹脂フィルムに限るものではなく、任意の成型体に適用することができる。
【0014】
[熱可塑性樹脂フィルムの構成]
図1は、本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム1の一例を示す断面模式図である。より詳細には、
図1は、本発明に係る熱可塑性樹脂フィルム1を、その厚み方向に切断した断面を模式的に示す縦断面図である。なお、
図1では、判りやすくするために、マトリックス相2にハッチングをしていない。
図1に示すように、本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム1は、マトリックス相2を形成するポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と、分散相3を形成する層状粘土鉱物(B)とを備える。
【0015】
より具体的には、熱可塑性樹脂フィルム1は、少なくともポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と、層状粘土鉱物(B)とを含むフィルムであって、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)で形成されたマトリックス相2の中に、分散相3として層状粘土鉱物(B)が分散して存在している。分散相3は、酸素バリア性に優れた層状粘土鉱物(B)からなり、分散相3は、マトリックス相2中に複数個独立して存在する。分散相3は、層状粘土鉱物(B)の単体または複数の凝集体として存在してもよく、後述する層状粘土鉱物角度θの評価においては、ひとつの分散相3から複数の層状粘土鉱物(B)の角度が得られても良い。
【0016】
[マトリックス相の組成]
熱可塑性樹脂フィルム1が包装材料として好適に使用されるためには、適度な柔軟性を持ち、ならびに加工性が良いことが求められる。そのため、マトリックス相2を形成するポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)としては、オレフィン由来の構成単位を有するポリマーであれば良く、例えばオレフィンをベースとした、低密度ポリエチレン(LDPE)、α-オレフィンとエチレンを共重合した直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、また、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマー等があるポリプロピレン、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンとオレフィンを共重合したシクロオレフィンコポリマー及び、上記オレフィンと酢酸ビニルを共重合して得られるエチレン-酢酸ビニルコポリマーやオレフィンの側鎖を変性して得られる、エチレン-メチルアクリレート共重合(EMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-ブチルアクリレート共重合体(EBA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)等のうち単体または複数を選択し適宜使用する事が可能である。
【0017】
またポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)には、エラストマー等のゴム成分を混練しても良い。ゴム成分を混ぜることで、耐衝撃特性を付与することができる。ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)としてこれらの樹脂材料を用いて形成されたマトリックス相2は、適度な柔軟性を持ちならびに加工性が良く、包装材料として好適に使用することができる。
【0018】
[マトリックス相の重量割合]
熱可塑性樹脂フィルム1におけるポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、すなわち熱可塑性樹脂フィルム1の全体重量に対するマトリックス相2の重量割合は、40wt%以上95wt%未満の範囲内であることが好ましい。マトリックス相2の重量割合が40wt%未満であると、熱可塑性樹脂フィルム1における耐衝撃性等の物性低下がみられる。また、マトリックス相2の重量割合が95wt%以上であると、分散相3(層状粘土鉱物(B))の重量割合が少なくなり酸素バリア効果が不十分となってしまう。
【0019】
[分散相の組成]
分散相3を形成する層状粘土鉱物(B)としては、モンモリロナイト、ベントナイト、スクメタイト、マイカ、あるいはそれらの有機修飾物等、公知の層状鉱物から選択することが可能である。
分散相3(層状粘土鉱物(B))は、例えば
図2に示すように平面視が略扁平楕円形状であり、
図1に示すように、縦断面視で厚み方向に薄い扁平状に形成される。また、分散相3は、縦断面視で、長軸方向が熱可塑性樹脂フィルム1の予め設定した長さ方向と平行に形成され、厚み方向が熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と平行に形成されている。ここで、熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向とは、熱可塑性樹脂フィルム1を製造したときの熱可塑性樹脂フィルム1の搬送方向(成型方向)と平行な方向のことをいう。マトリックス相2となるオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と分散相3となる層状粘土鉱物(B)とを混合させて、例えば押出成形により熱可塑性樹脂フィルムを作成した場合、層状粘土鉱物(B)は、その長軸が、オレフィン系熱可塑性樹脂(A)と層状粘土鉱物(B)との混合物の搬送方向と略平行となるように押し出される。このときのオレフィン系熱可塑性樹脂(A)及び層状粘土鉱物(B)の混合物の搬送方向(成型方向)、すなわち、層状粘土鉱物(B)の長軸が向く方向を、熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向としている。この熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向は、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向に対して直交する方向である。また、分散相3及び層状粘土鉱物(B)の厚み方向を、分散相3及び層状粘土鉱物(B)の短軸方向とする。
【0020】
また、層状粘土鉱物(B)は、熱可塑性樹脂フィルム1を、その厚み方向及び長さ方向に平行な面で切断した縦断面において、単層では厚みが1nm以上2nm以下程度、長軸及び短軸が100nm以上1000nm以下程度の扁平状になっており、これら単層が電気的引力により多層化し層状鉱物となっている。
【0021】
図1では、扁平楕円形状の分散相3を例示している。
図1において、左右方向が長さ方向であり上下方向が厚み方向である。さらに、分散相3は、層状粘土鉱物(B)同士の末端基が水素結合により凝集し、一般的には凝集物として安定しているものである。
分散相3、すなわち層状粘土鉱物(B)に用いられる有機修飾物は一般的には1種類または2種類のアルキルアンモニウム塩が用いられる場合が多く、有機修飾物の修飾量は、20wt%以上60wt%以下程度である。層状粘土鉱物(B)間に有機修飾物を修飾することで、層状粘土鉱物(B)間の層間距離が広くなり、オレフィン系熱可塑性樹脂がインターカレートしやすくなる。これにより、層状粘土鉱物(B)の層間剥離が起こりやすくなる。
なお、分散相3の形状は、平面視が扁平楕円でなくてもよく、平面視で熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向と幅方向とに伸びた形状を有していればよい。例えば、分散相3は平面視で、長方形形状でもよいし、円形形状でもよい。
【0022】
[分散相の重量割合]
熱可塑性樹脂フィルム1における分散相3、すなわち熱可塑性樹脂フィルム1の全体重量に対する層状粘土鉱物(B)の重量割合は、1wt%以上40wt%未満であることが好ましい。層状粘土鉱物(B)の重量割合が1wt%未満であると、層状粘土鉱物(B)が少なくなりすぎて酸素バリア効果が不十分となってしまう場合がある。また、層状粘土鉱物(B)の重量割合が40wt%以上であると、オレフィン系熱可塑性樹脂(A)の割合が過少になるため、成形機から吐出された溶融樹脂の成形加工適性が失われてしまい、安定生産が難しい。
層状粘土鉱物(B)の重量割合は、材料投入割合から求めてもよく、得られた熱可塑性樹脂フィルム1を分析する手法から求めてもよい。
熱可塑性樹脂フィルム1中の層状粘土鉱物(B)の重量を分析する手法は特に限定されるものではないが、加熱して層状粘土鉱物(B)以外の成分を除去し、残存成分の重量を測定する熱重量測定がよく用いられる。
【0023】
[その他の構成材料について]
熱可塑性樹脂フィルム1は、上述したマトリックス相2(ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A))、分散相3(層状粘土鉱物(B))、及び相溶化剤(C)4以外に、造核剤、補強フィラー、酸化防止剤、熱安定剤、耐候剤、光安定剤、可塑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、顔料、染料、分散剤、銅害防止剤、中和剤、気泡防止剤、ウェルド強度改良剤、天然油、合成油、ワックス等の添加材を用いても良い。これらは1種のみを用いてもよく2種以上を併用してもよい。
【0024】
造核剤及び補強フィラーとしては、タルク、シリカ、クレー、モンモリロナイト、炭酸カルシウム、炭酸リチウムアルミナ、酸化チタン、アルミニウム、鉄、銀、銅等の金属、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物、セルロースミクロフィブリル、酢酸セルロース等のセルロース類、ガラス繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ナイロン繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、アラミド繊維、ビニロン繊維、ポリアクリレート繊維等の繊維状フィラー、カーボンナノチューブ等のカーボン類等が挙げられる。
【0025】
酸化防止剤としては、フェノール系化合物、有機ホスファイト系化合物、チオエーテル系化合物等が挙げられる。
熱安定剤としては、ヒンダードアミン系化合物等が挙げられる。
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾエート系化合物等が挙げられる。
帯電防止剤としては、ノニオン系化合物、カチオン系化合物、アニオン系化合物等が挙げられる。
難燃剤としては、ハロゲン系化合物、リン系化合物、窒素系化合物、無機化合物、ホウ素系化合物、シリコーン系化合物、硫黄系化合物、赤リン系化合物等が挙げられる。
難燃助剤としては、アンチモン化合物、亜鉛化合物、ビスマス化合物、水酸化マグネシウム、粘土質珪酸塩等が挙げられる。
【0026】
[熱可塑性樹脂フィルムの構造]
図1に示すように、本実施形態の熱可塑性樹脂フィルム1は、マトリックス相2中の分散相3が、その厚み方向がフィルムの厚み方向と平行となるように分散して形成されている。さらに、マトリックス相2を形成するポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)中の分散相3(層状粘土鉱物(B))の長軸方向が、厚み方向と直交する熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向(幅方向または奥行方向)に形成されている。
図1では、熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向は左右方向として図示されている。
そして、「熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と平行な線分と分散相3の長軸とがなす角度」、すなわち、「熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向に平行な線分と、分散相3に含まれる層状粘土鉱物(B)の長軸方向に平行な線分とがなす角度(以下、層状粘土鉱物角度ともいう。)θ」の標準偏差が、ある一定の標準偏差範囲内となるように、熱可塑性樹脂フィルム1は形成されている。当該層状粘土鉱物角度θについての詳細は、後述する。
【0027】
図2は熱可塑性樹脂フィルム1を、一方の表面側から見た平面透視図である。
図2に示すように、分散相3(層状粘土鉱物(B))は、扁平な形状(本例では、扁平楕円形状)を有し、分散相3は、熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向に長く厚み方向に薄くなるように形成され、
図2の平面透視図において、扁平な分散相3の一方の面側が視認されるように形成されている。
【0028】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム1において、扁平な層状粘土鉱物(B)、すなわち分散相3が、
図1に示すように、分散相3の長軸方向が熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向と平行となるように分散され、扁平な分散相3の上下の面を略平面としたとき、分散相3の上下の略平面と、熱可塑性樹脂フィルム1の
図1における上下の面と、が略平行となるように、分散相3を形成することで迷路構造を効率的に形成し、酸素ガスが熱可塑性樹脂フィルム1を透過する際に直線状に通過することができず、いわゆる迷路効果による酸素ガスバリア性の向上を図るようになっている。つまり、層状粘土鉱物は酸素を通しにくいという特性を有している。そのため、
図2の平面透視図に示すように、熱可塑性樹脂フィルム1の幅方向及び長さ方向全体に分散相3が存在すると、熱可塑性樹脂フィルム1の一方の面から進入した酸素分子は、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向に沿って直進することはできず、
図1に示すように、厚み方向に配置された複数の分散相3に進路を遮られつつ反対側の面側に進むことになる。つまり、複数の分散相3により迷路構造を形成することで、一方の面から他方の面に到達するまでの酸素分子の移動経路を長くすることで、酸素バリア性を発生させるようにしている。
【0029】
ここで、複数の分散相3によって迷路構造を形成する場合、迷路効果を十分に発揮させるためには、
図1に示すように、熱可塑性樹脂フィルム1の上下の面に対し、分散相3の上下の略平面とが略平行となるように配置することが好ましく、
図1中の分散相3のように、熱可塑性樹脂フィルム1の上下の面に対し、分散相3の上下の略平面とが不平行となると、熱可塑性樹脂フィルム1の上下の面と分散相3の上下の略平面とがなす角度が大きくなるほど、すなわち、
図1に示すように、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と平行な線分と、分散相3の長軸方向と平行な線分とがなす層状粘土鉱物角度θが90°からずれるほど、熱可塑性樹脂フィルム1内における酸素分子の移動経路は短くなり、迷路効果が低下する。つまり、熱可塑性樹脂フィルム1においてこの迷路効果を十分に発揮するためには、分散相3の長軸方向と平行な線分と、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と平行な線分とがなす角度、すなわち層状粘土鉱物角度θが所定の条件を満たすことが好ましい。以下、分散相3の層状粘土鉱物角度θについて詳細に説明する。
【0030】
[層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θの標準偏差]
マトリックス相2中の分散相3は、上述のように、熱可塑性樹脂フィルム1の上下の面と扁平な分散相3の上下の略平面とが略平行となるように分散されて存在することが好ましい。分散相3に含まれる層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θの標準偏差は、
図1に示されるような層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θを、すべての層状粘土鉱物(B)について算出し、これら全ての層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θの標準偏差を評価するものである。
なお、分散相3が、層状粘土鉱物(B)の複数の凝集体として存在する場合には、一つの分散相3から複数の層状粘土鉱物(B)の角度を得てもよく、いずれか一つの層状粘土鉱物(B)の角度を一つの分散相3の代表値として用いてもよい。
【0031】
層状粘土鉱物角度θの具体的な評価方法は以下のとおりである。
熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向及び長さ方向と平行な面で切断した面が観察視野に含まれ、且つ熱可塑性樹脂フィルムの幅方向が観察視野の奥行方向となるよう作成された薄片試料を用い、TEM(透過電子顕微鏡)により、倍率100,000倍にて、視野が1980nm×2800nmとなるようにTEM観察を実施しTEM画像(D)を撮影する。また、上記TEM画像(D)と同じ位置を、熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向が判断できるように低倍率で観察し、熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向に平行な直線を引いたのち、倍率100,000倍にてTEM画像(E)を撮影する。
【0032】
TEM画像(D)を画像処理ソフト(例えばImageJ)にて読み込み、平均値フィルタにて前処理を行う(処理範囲5×5ピクセル)。続いて256段階の色調の白黒画像に変換したのち、TEM観察視野中の層状粘土鉱物(B)の面積割合が、熱可塑性樹脂フィルムに含まれる層状粘土鉱物成分の重量割合と同じになるような閾値を用いて、二値化処理を行う。二値化処理された画像にて、各粒子の面積及び層状粘土鉱物(B)の長軸方向の角度(°)(層状粘土鉱物角度θ’)を解析する。なお、ここでいう、各粒子の面積とは、二値化処理された画像中に存在する層状粘土鉱物(B)からなる粒子の面積のことをいう。また、層状粘土鉱物角度θ’(°)とは、TEM画像の水平方向に平行な線分と層状粘土鉱物(B)の長軸方向に平行な線分とがなす角度をいう。
そして、二値化処理された画像中に存在する層状粘土鉱物(B)からなる粒子のうち、面積が大きい順に並べ、画像処理上ノイズとして生じてしまう小面積成分を除去するため、累積面積率が80%となるまでの粒子を抽出し、それ以外の粒子の面積及び長軸方向の角度は除外する。
【0033】
TEM画像(E)を画像処理ソフトにて読み込み、熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向に平行な直線の角度を解析する。
TEM画像(E)から得られた熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向に平行な直線の角度が0°となるような直交座標系で、TEM画像(D)から累積面積率が80%となるまで抽出された層状粘土鉱物(B)それぞれについてその長軸方向の角度を変換する。すなわち、
図1に示されるような層状粘土鉱物角度θを、抽出された相状粘土鉱物(B)毎に得る。この変換後の層状粘土鉱物角度θの標準偏差を求める。これをこの薄片試料における層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θの標準偏差とする。なお、ここでいう、層状粘土鉱物角度θ(°)とは、熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向に平行な線分と層状粘土鉱物(B)の長軸方向に平行な線分とがなす角度をいう。
【0034】
上記二値化処理において、TEM観察視野中の層状粘土鉱物(B)の面積割合が、熱可塑性樹脂フィルムに含まれる層状粘土鉱物成分の重量割合と同じになるような閾値が存在しない場合がある。この場合、TEM観察視野中の層状粘土鉱物(B)の面積割合が、熱可塑性樹脂フィルムに含まれる層状粘土鉱物成分の重量割合以上である最小の値となるような閾値を、二値化の閾値として設定する。
同様にして、上記の累積面積率が80%となるまでの粒子を抽出する手順において、累積面積率80%丁度とならない場合がある。この場合、累積面積率80%以上である最小の値となるよう、粒子の抽出を行う。
【0035】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム1において、層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θの標準偏差は20°以下である。つまり、押出成形等により熱可塑性樹脂フィルム1を製造した場合、分散相3(層状粘土鉱物(B))の長軸は、マトリックス相2中に、熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向と平行となるように分散するため、層状粘土鉱物(B))の長軸と熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と平行な線分とがなす角度の平均は、90°程度となる。そのため、層状粘土鉱物角度θの標準偏差が20°以下であれば、層状粘土鉱物(B)の長軸は、熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向と略平行となり、その結果、迷路効果が十分に発揮され酸素バリア性を十分に得られる。分散相3(層状粘土鉱物(B))の層状粘土鉱物角度θの標準偏差が20°よりも大きいと、酸素分子が分散相3に沿って移動するときに、厚み方向へ移動しやすくなるため、迷路効果が十分に発揮されない。分散相3(層状粘土鉱物(B))の層状粘土鉱物角度θの標準偏差は、より好ましくは15°以下である。
【0036】
このように、マトリックス相2中において扁平な分散相3(層状粘土鉱物(B))の層状粘土鉱物角度θの標準偏差が所定条件(20°以下)を満たす構造を形成することで、上述の迷路効果による酸素ガスバリア性の向上が見られる。分散相3(層状粘土鉱物(B))の層状粘土鉱物角度θの標準偏差が20°以下である熱可塑性樹脂フィルム1であれば、その酸素ガスバリア性の観点から、食品包装や、シャンプー、ボディーソープの詰替容器等のトイレタリー等に好適である。
なお、ここでは、TEM画像(D)及びTEM画像(E)を用いて、分散相3(層状粘土鉱物(B))の層状粘土鉱物角度θの標準偏差を取得する場合について説明したが、これに限るものではなく、層状粘土鉱物角度θの標準偏差を取得することができれば任意の方法を用いることができる。例えば、SEM画像を用いて同様の処理を行うことで、層状粘土鉱物角度θの標準偏差を得ることもできる。
【0037】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム1は、
図1及び
図2に示す構成に限られない。例えば、本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルムは、相溶化剤(C)を含んで形成されてもよい。
図3は、本実施形態の一変形例に係る熱可塑性樹脂フィルム1aの一構成例を示す断面模式図である。熱可塑性樹脂フィルム1aは、マトリックス相2が分散相3及び相溶化剤(C)4を含む点で、
図1及び
図2に示す熱可塑性樹脂フィルム1と異なる。
【0038】
以下、本変形に係る熱可塑性樹脂フィルム1aの構成について説明する。なお、マトリックス相2は相溶化剤(C)4を含む点以外は熱可塑性樹脂フィルム1のマトリックス相2と同等である。このため、相溶化剤(C)4についてのみ詳しい説明を行い、同等の箇所については説明を省略する。また分散相3は、熱可塑性樹脂フィルム1の分散相3と同等のため同一の符号を付して説明は省略する。
【0039】
[相溶化剤(C)の組成]
相溶化剤(C)4は、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)(マトリックス相)2とは相溶する樹脂であって、分散相3を構成する層状粘土鉱物(B)と結合し得る官能基が付与された分子構造からなる熱可塑性樹脂である。ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と層状粘土鉱物(B)との化学的親和性は必ずしも高くないが、相溶化剤(C)4により、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と層状粘土鉱物(B)との化学的親和性を向上させることができる。より具体的には、相溶化剤(C)4は層状粘土鉱物(B)の層間にインターカレート(侵入)して有機修飾物と結合し、層状粘土鉱物(B)の層間距離をさらに広げ、層間剥離が起こりやすい状態にさせることができる。
【0040】
熱可塑性樹脂フィルム1aの酸素バリア性向上において、相溶化剤(C)4は必ずしも必要ではないが、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)中の分散相3(層状粘土鉱物(B))の層間距離を広げて層間剥離を起こりやすくさせ、さらに粗大な凝集物を減少させ外観や成形性を向上させることができるため、一定量の添加を行う方が好ましい。
相溶化剤(C)4の例としては、水酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アミド基、無水マレイン酸機等が挙げられる。マトリックス相2に含まれる相溶化剤(C)4は、官能基として酸変性部を備えており、分散相3と相溶化剤(C)4とが良好に結合することが好ましい。このため、特に無水マレイン酸基を有した相溶化剤(C)が好適に用いられる。
【0041】
[相溶化剤(C)の重量割合]
熱可塑性樹脂フィルム1aの全体質量に対する相溶化剤(C)4の重量割合は、5wt%以上50wt%未満の範囲内であることが好ましい。重量割合が5wt%未満であると、分散相3である層状粘土鉱物(B)が層剥離するための十分な重量が確保できない状態となってしまう。このため、相溶化剤(C)4を添加しても熱可塑性樹脂フィルム1aの酸素バリア性が不十分となる場合がある。また、相溶化剤(C)の重量割合が50wt%以上であると、熱可塑性樹脂フィルム1aにおける耐衝撃性等の物性低下が起こる場合がある。相溶化剤(C)の重量割合は、より好ましくは10wt%以上30wt%未満の範囲内である。
【0042】
また熱可塑性樹脂フィルム1aにおける相溶化剤(C)4の官能基の重量割合は、0.1wt%以上3wt%未満の範囲内であることが好ましい。官能基の重量割合が0.1wt%未満であると、分散相3である層状粘土鉱物(B)が層剥離するための十分な重量が確保できない状態となってしまい酸素バリア性が不十分となる場合がある。また、官能基の重量割合が3wt%以上であると、マトリックス相2であるポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)との相溶性が悪くなってしまい、熱可塑性樹脂フィルム1aにおける耐衝撃性等の物性低下が起こる場合がある。官能基の重量割合は、より好ましくは0.3wt%以上2wt%未満の範囲内である。
【0043】
[製造方法]
本実施形態の熱可塑性樹脂フィルム1,1aを製造する方法は特に制限されるものではなく、公知の方法を使用することが可能である。
熱可塑性樹脂フィルム1,1aの作製方法としては、例えば、射出成型機や、押出成形機、インフレーション法を用いた製膜方法を用いる事が可能である。また押出成形においても、フィードブロック法やマルチマニホールドを介したTダイで製膜する方法など、いずれの方法で製造しても良い。
【0044】
本実施形態では、押出成形機を用いた熱可塑性樹脂フィルム1,1aの成形方法を説明する。マトリックス相2となるポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と分散相3となる層状粘土鉱物(B)、熱可塑性樹脂フィルム1aに含有される相溶化剤(C)4は、例えば単軸押出機や二軸押出機、混練機などで混練される。好ましくは二軸押出機や混練機のようなせん断応力が強くかかる方法が良く、さらに好ましくは、二軸押出機のような連続的に製造できる方が好ましい。
【0045】
押出機で混練する方法は任意の方法を選択すれば良く、スクリューの構成や材料の投入順序、設定温度等は適宜調整を行えば良い。層状粘土鉱物(B)の分散のためにせん断応力を強くかけたければ、より低温設定で混練したり、滞留時間を長くしたりするようなスクリュー構成などで混練すれば良い。さらに例えば、二酸化炭素や窒素ガスを押出機内に添加し材料の可塑化を進行させれば、通常融点よりもさらに低い温度設定での混練も可能である。
【0046】
上記押出機で混練した材料は、Tダイを通してそのままフィルム化することも可能である。または、束状(ストランド)としてマスターバッチ化し、改めて別の押出機でフィルム化を行っても良い。単層で押出して形成した熱可塑性樹脂フィルム1,1aを別のポリオレフィン系熱可塑性樹脂(F)と接着剤を介して積層し、シーラントフィルムとしても良い。あるいは、上記押出機で混練した材料をフィルム化する際に他の押出機を共押出として、そのまま2層または3層構造のシーラントフィルムとしても良い。シーラントフィルムについては後述する。
【0047】
熱可塑性樹脂フィルム1,1aとなるフィルムの冷却方法に関しては、上述成形機に準じて使用する事が可能であり、例えばTダイ法では、エアーチャンバー、バキュームチャンバー、エアナイフ等の空冷方式、冷水パンへ冷却ロールをディッピングする等の水冷方式等特に制限されることはない。熱可塑性樹脂フィルム1,1aまたはこれを用いたシーラントフィルムに表面凹凸形状を付与する場合には、シリコーンゴム、NBRゴム、またはフッ素樹脂等を加工したニップロールと、金属を切削加工した冷却ロールとを0.1MPa以上の圧力を印加した接触部に溶融樹脂を流入し、冷却する方式が特に好ましい。
【0048】
図3に示す熱可塑性樹脂フィルム1,1aのように分散相3(層状粘土鉱物(B))の向き(長軸方向)を良好に揃えるには、フィルム化する際の樹脂流速を早めたり、引取機とのドロー比を大きくしたりするのも有効である。また、得られた熱可塑性樹脂フィルム1,1aを延伸機を用いて延伸するのも有効である。これら製造方法は特に制限されない。
【0049】
本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム1,1aは、他基材と積層して包装材とすることができる。包装材については後述する。熱可塑性樹脂フィルム1,1aを単体フィルムまたは積層体(シーラントフィルム)として用いる包装材の場合、スタンディングパウチの他に、三方袋、合掌袋、ガゼット袋、スパウト付きパウチ、ビーク付きパウチ等にも用いる事が可能である。また、当該包装材(包装袋)の製袋様式は特に制限されるものではない。
【0050】
上述の様に、熱可塑性樹脂フィルム1,1aを単体フィルムとして用いる、又は他基材と積層して用いる(シーラントフィルム、包装材)のいずれの場合でも、適宜、後工程適性を向上する表面改質処理を実施することが可能である。例えば、単体フィルムとしての使用時の印刷適性向上、積層構成(シーラントフィルム、包装材)として使用時のラミネート適性向上のために他基材と接触する面に対して表面改質処理を行うことが可能である。表面改質処理はコロナ放電処理、プラズマ処理、フレーム処理等のフィルム表面を酸化させる事により官能基を発現させる手法や、易接着層のコーティング等のウェットプロセスによる改質を好適に用いることが可能である。
【0051】
なお製造方法は上述した方法に限定されるものではなく、成形機により製膜した樹脂成型体を、インラインまたはオフラインの延伸処理を施しても構わない。その他、適宜必要な工程や添加剤を加えることは制限されるものではない。
以上、本開示の実施形態を例示したが、本開示は上記実施形態に限定されるものではないことはいうまでもない。
【0052】
〔本実施形態の効果〕
(1)本実施形態に係る熱可塑性樹脂フィルム1は、マトリックス相2となるポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)と、マトリックス相2中に分散して存在する分散相3となる層状粘土鉱物(B)と、を少なくとも含む熱可塑性樹脂成型体において、分散相3は、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向に薄い扁平状に形成されている。また、分散相3は、その厚み方向が熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と平行な方向であり、分散相3の長軸が、熱可塑性樹脂フィルム1の長さ方向と平行な方向に存在し、さらに、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向と平行な線分と分散相3の長軸とがなす層状粘土鉱物角度θの標準偏差が20°以下である。
【0053】
そのため、熱可塑性樹脂フィルム1において、熱可塑性樹脂フィルム1を通過する酸素分子の進路を、分散相3が妨げる迷路構造を形成し、さらに、分散相3が、熱可塑性樹脂フィルム1の厚み方向への酸素分子の移動距離をより長くするように配置されることになる。その結果、熱可塑性樹脂フィルム1の酸素バリア性を向上させることができる。
そして、このように、ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)に層状粘土鉱物(B)を添加することによって、酸素バリア性の高い熱可塑性樹脂フィルム1を実現することができるため、モノマテリアル軟包装材を実現することができ、リサイクル性を向上させることができる。
【0054】
(2)また、分散相3は、層状粘土鉱物(B)が相溶化剤(C)4で周囲を包まれた状態で、マトリックス相2中に存在し、相溶化剤(C)4は、官能基として酸変性部を備えている。この官能基と分散相3とが結合することによって、分散相3と相溶化剤(C)4とを良好に結合することができる。そのため、層状粘土鉱物(B)を層剥離させることができ、迷路効果を得ることができる。
【0055】
(3)また、熱可塑性樹脂フィルム1の全体重量に対する、相溶化剤(C)4の官能基の重量割合が0.1wt%以上3wt%未満の範囲内となるようにしている。
そのため、分散相3である層状粘土鉱物(B)が層剥離するための十分な、相溶化剤(C)4の官能基の重量を確保することができ、十分な酸素バリア性を発することができると共に、相溶化剤(C)が多すぎることによって、マトリックス相2であるポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)との相溶性が悪くなり、熱可塑性樹脂フィルム1aにおける耐衝撃性等の物性低下が起こることを抑制することができる。
【0056】
(4)さらに、上述の熱可塑性樹脂フィルム1と、少なくとも一方の面に積層されたシール層とからなるシーラントフィルムを形成することによって、酸素バリア性の高いシーラントフィルムを実現することができる。同様に、上述の熱可塑性樹脂フィルム1を含む包装材を形成することによって、酸素バリア性の高い包装材を得ることができる。
【実施例0057】
本開示の各実施形態を参照しつつ、以下、各実施例、比較例について説明する。なお、本開示は、以下の実施例のみに限定されるものではない。
【0058】
(実施例1)
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)として「株式会社プライムポリマー社製ホモPP樹脂(F-300SP)」を用いてマトリックス相を形成し、層状粘土鉱物(B)として有機処理ベントナイト「株式会社ホージュン社製有機処理ベントナイト(エスベンNX)」を用いて分散相を形成した。さらに、相溶化剤(C)として「理研ビタミン株式会社製PP酸無水物(MG-441P)」を添加して熱可塑性樹脂フィルムを形成した。
上記各材料の重量割合は、(A):(B):(C)=85:5:10とした。各材料を「株式会社日本製鋼所製二軸押出機(TEX25αIII)」に入れ、温度160℃にて溶融混練を行った後、ストランドダイから押出し水槽にて冷却した後、カッターにて切断しマスターバッチとして成型体を得た。この成型体を「アクスモールディング株式会社製Φ40mm単軸押出機」にてTダイを通してフィルム化し、エアナイフを用いて冷却ロールにて引取り、得られたフィルムを実施例1による熱可塑性樹脂フィルムとして評価した。
【0059】
(実施例2)
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、層状粘土鉱物(B)及び相溶化剤(C)の各材料の重量割合を、(A):(B):(C)=90:5:5とした。それ以外は、実施例1と同様の方法で実施例2の熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
(実施例3)
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、層状粘土鉱物(B)及び相溶化剤(C)の各材料の重量割合を、(A):(B):(C)=80:5:15とした。それ以外は、実施例1と同様の方法で実施例3の熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0060】
(実施例4)
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、層状粘土鉱物(B)及び相溶化剤(C)の各材料の重量割合を、(A):(B):(C)=75:10:15とした。それ以外は、実施例1と同様の方法で実施例4の熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
(実施例5)
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、層状粘土鉱物(B)及び相溶化剤(C)の各材料の重量割合を、(A):(B):(C)=65:20:15とした。それ以外は、実施例1と同様の方法で実施例5の熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0061】
(実施例6)
マスターバッチをフィルム化する際に、引取機の速度を3倍にして引取時のドロー比を3倍にした。それ以外は、実施例1と同様の方法で実施例6の熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
(実施例7)
実施例1と同様の手順で押出機にてフィルム化したサンプルを、さらにオフラインで逐次二軸延伸により延伸した。延伸温度は160℃、延伸倍率は3×3倍とした。それ以外は、実施例1と同様の方法で実施例7の熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
(実施例8)
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、層状粘土鉱物(B)及び相溶化剤(C)の各材料の重量割合は、(A):(B):(C)=89:1:10とした。それ以外は、実施例7と同様の方法で実施例8の熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0062】
(比較例1)
実施例1において、マスターバッチをフィルム化する際に、押出機の吐出量及び引取機の速度をともに3分の1にした。それ以外は、実施例1と同様の方法で比較例1による熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
(比較例2)
ポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)、層状粘土鉱物(B)及び相溶化剤(C)の各材料の重量割合を(A):(B):(C)=89:1:10とした。それ以外は、実施例1と同様の方法で比較例2による熱可塑性樹脂フィルムを作製した。
【0063】
[測定・評価結果]
各実施例及び比較例の熱可塑性樹脂フィルムに対し、「層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θの標準偏差」及び「酸素バリア性」を評価した。評価方法としては、以下に記載した方法を用いた。
【0064】
(層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θの標準偏差)
熱可塑性樹脂フィルムの層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θの標準偏差は、作成した熱可塑性樹脂フィルムそれぞれについて、この熱可塑性樹脂フィルムを、熱可塑性樹脂フィルムの長手方向及び厚み方向と平行な面で切断した断面において、熱可塑性樹脂フィルムの厚み方向の中央部近傍の断面を透過型電子顕微鏡「株式会社日立ハイテクサイエンス製 透過電子顕微鏡 H-9500」にて撮影し、得られたTEM画像に対し、前述の画像処理及び角度変換処理を行って層状粘土鉱物(B)の層状粘土鉱物角度θの標準偏差を求めた。この標準偏差が20°以下であれば、評価「〇」とし、15°以下であれば評価「◎」とした。
【0065】
(酸素バリア性評価)
酸素バリア性評価では、「GTRテック株式会社製 高感度水蒸気透過度測定装置 GTR-3000」を用い、温度30℃、ドライ環境で酸素透過度の測定を実施した。酸素透過度がポリプロピレンフィルム(PP)単体比として、サンプル/PP単体の値が0.1(1/10)以下となる条件を高バリア性フィルムであり評価「◎」、0.1より大きく0.2(1/5)以下となる条件をバリア性フィルムであり評価「〇」、0.2より大きいものをバリア性が不十分であり評価「×」とした。
【0066】
上記各実施例及び、各比較例における測定・評価結果を、フィルムの組成とともに表1に記載する。
【0067】
【0068】
(評価結果)
表1に示したように、本開示の上記実施形態に基づく実施例1~8では、迷路効果が十分に発揮されたため酸素バリア性が良好で、酸素バリア性に優れたポリオレフィン系熱可塑性樹脂(A)を提供できることが確認された。
【0069】
一方比較例1では、押出機の吐出量が小さくなりTダイでの樹脂流速が低下したため、分散相3が一定の方向に向かなくなった。そのため、層状粘土鉱物角度θの標準偏差が大きくなり、迷路効果が十分に発揮されずに酸素バリア性の評価が不合格(×)となった。比較例2は、実施例8の延伸工程を実施しないものである。層状粘土鉱物(B)が少なく樹脂流動の乱れによる影響を受けやすいため、分散相3が一定の方向に向かなくなった。そのため、層状粘土鉱物角度θの標準偏差が大きくなり、迷路効果が十分に発揮されずに酸素バリア性の評価が不合格(×)となった。実施例8では、延伸工程にてマトリックス相2とともに分散相3も引張を受けたことで層状粘土鉱物(B)の向きが揃ったため、酸素バリア性が改善された。
本開示は、酸素バリア性が向上した熱可塑性樹脂フィルム等の熱可塑性樹脂成型体を安定的に製造することができ、リサイクル性まで考慮した熱可塑性樹脂成型体として利用できる。さらに、これを用いたシーラントフィルム、包装材として利用できる。