(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155185
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】柱の設計方法
(51)【国際特許分類】
E04B 1/18 20060101AFI20241024BHJP
E04B 1/30 20060101ALI20241024BHJP
E04B 1/24 20060101ALI20241024BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20241024BHJP
【FI】
E04B1/18 F
E04B1/30 C
E04B1/24 R
E04H9/02 301
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069649
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100154003
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 憲一郎
(72)【発明者】
【氏名】柴田 淳平
(72)【発明者】
【氏名】大住 和正
(72)【発明者】
【氏名】中島 俊介
(72)【発明者】
【氏名】溝呂木 健
【テーマコード(参考)】
2E139
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA05
2E139AB01
2E139AC06
2E139AC26
2E139AC27
2E139AC43
2E139AC72
2E139AD01
(57)【要約】
【課題】柱をより長尺なものとすることが可能な柱の設計方法を提供することである。
【解決手段】複数の階層を有する建築物1における柱の設計方法であって、柱20を、複数の階層に亘って設けられた吹抜け部分13の外壁2bに沿って配置され、建築物1の内側から延びる大梁21,22が柱20の下端20a及び上端20bにのみに接合されたものとし、柱20の、下端20aから上方に向けた所定範囲の部分または上端20bから下方に向けた所定範囲の部分に、所定範囲の部分を外側から覆って拘束するコンクリート製の拘束部30を設けることで、柱20の座屈長さL2を短くして柱20の強度計算を行うことを特徴とする柱の設計方法。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の階層を有する建築物における柱の設計方法であって、
前記柱を、複数の階層に亘って設けられた吹抜け部分の外壁に沿って配置され、前記建築物の内側から延びる大梁が前記柱の下端及び上端にのみに接合されたものとし、
前記柱の、下端から上方に向けた所定範囲の部分及び上端から下方に向けた所定範囲の部分の少なくとも何れか一方に、前記所定範囲の部分を外側から覆って拘束するコンクリート製の拘束部を設けることで、前記柱の座屈長さを短くして前記柱の強度計算を行うことを特徴とする柱の設計方法。
【請求項2】
前記拘束部を、鉄筋コンクリート製とする、請求項1に記載の柱の設計方法。
【請求項3】
前記拘束部を、前記建築物の地下部分において前記建築物の基礎と一体に設ける、請求項2に記載の柱の設計方法。
【請求項4】
前記柱を、内部にコンクリートが充填されたコンクリート充填鋼管とする、請求項1~3の何れか1項に記載の柱の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の階層を有する建築物における柱の設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物として、例えばオフィスビル、商業ビルなどの、複数の階層を有する多層階ビルの形態とされたものが知られている。
【0003】
このような建築物は、その構造ないし躯体が、複数本の柱と、柱に接合されて両端支持された梁とを有する構成に設計されるのが一般的である(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような建築物として、複数の階層に亘る吹抜け部分が外壁に沿って設けられたものがある。このような建築物では、例えば当該吹抜け部分にエスカレータ等の設備が配置されることがあるため、吹抜け部分の外壁に沿って配置される柱は、外壁の内側から延びる大梁が上端及び下端にのみ接合され、上端と下端との間の中間部分には外壁の内側から延びる大梁が接合されない構成に設計されることになる。
【0006】
しかし、上記の設計方法では、吹抜け部分をより高さが高いものとしようとすると、柱の大梁に支持されない部分が長尺となり、柱の座屈長さが問題となって所望の高さを有する吹抜け部分を設計することが困難になる、という問題点があった。
【0007】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、柱をより長尺なものとすることが可能な柱の設計方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の柱の設計方法は、複数の階層を有する建築物における柱の設計方法であって、前記柱を、複数の階層に亘って設けられた吹抜け部分の外壁に沿って配置され、前記建築物の内側から延びる大梁が前記柱の下端及び上端にのみに接合されたものとし、前記柱の、下端から上方に向けた所定範囲の部分及び上端から下方に向けた所定範囲の部分の少なくとも何れか一方に、前記所定範囲の部分を外側から覆って拘束するコンクリート製の拘束部を設けることで、前記柱の座屈長さを短くして前記柱の強度計算を行うことを特徴とする。
【0009】
本発明の柱の設計方法は、上記構成において、前記拘束部を、鉄筋コンクリート製とするのが好ましい。
【0010】
本発明の柱の設計方法は、上記構成において、前記拘束部を、前記建築物の地下部分において前記建築物の基礎と一体に設けるのが好ましい。
【0011】
本発明の柱の設計方法は、上記構成において、前記柱を、内部にコンクリートが充填されたコンクリート充填鋼管とするのが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、柱をより長尺なものとすることが可能な柱の設計方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の一実施形態に係る柱の設計方法により設計された柱を有する建築物の正面図である。
【
図3】
図1に示す建築物の、躯体の構造を示す説明図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る柱の設計方法が適用された柱の構造を示す断面図である。
【
図5】(a)は、
図4に示す柱の座屈長さを模式的に示す説明図であり、(b)は、拘束部が設けられない比較例の柱の座屈長さを模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ本発明の一実施形態に係る柱の設計方法について詳細に例示説明する。
【0015】
図1、
図2に示す建築物1は、本発明の一実施形態に係る柱の設計方法により設計された柱を有する建築物の一例である。この建築物1は、例えばオフィスビル、商業ビルなどとして利用される、複数(多数)の階層を有するビルディングである。
【0016】
建築物1の1階(地上階)から3階までの下層階の部分における、正面(
図1に示す側の面)の外壁2a、側面(
図2に示す側の面)の外壁2b及び正面と側面との間の角面の外壁2cは、それぞれ地面3に垂直な平面状である。これらの正面の外壁2a、側面の外壁2b及び角面の外壁2cは、それぞれ道路に面する壁である。
【0017】
これに対し、建築物1の4階よりも上階の上層階の部分に複数の階層に亘って設けられた正面の外壁4a、側面の外壁4b及び角面の外壁4cは、それぞれ平面状であるとともに、建築基準法上の斜線制限ないし天空率の制限をクリアするために、それぞれ地面3に垂直な方向(鉛直方向)に対して一定の角度で上向きとなるように傾斜している。
【0018】
図3に示すように、建築物1の躯体(構造)10は、複数本の柱11と、それぞれ対応する柱11に接合されて柱11に支持された複数本の梁12とを有している。なお、便宜上、
図3においては、一部の柱及び梁にのみ符号を付している。
【0019】
図4に示すように、建築物1は、その内部に、複数の階層に亘って設けられた吹抜け部分13を有している。より具体的には、吹抜け部分13は、建築物1の外壁2bの内側に隣接して設けられており、外壁2bの内面に沿って地下1階から地上3階に亘って上下方向に向けて延びている。すなわち、吹抜け部分13は、4階層分の高さを有する上下に連続した空間となっている。
【0020】
建築物1の吹抜け部分13に面する外壁2bに沿って配置された柱20は、本発明の一実施形態に係る柱の設計方法により設計された柱である。この柱20は、建築物1の躯体10を構成するものであり、外壁2bに沿って地下1階の床部分から地上3階の天井部分にまで鉛直方向に延びている。
【0021】
柱20は、その内部にコンクリートCが充填されてコンクリート充填鋼管により構成されたものとすることができる。柱20を、コンクリート充填鋼管により構成されたものとすることで、柱20をより径の細いものとしつつ所望の強度、剛性、変形性能を有するものとすることができる。
【0022】
なお、柱20は、複数の階層に亘って連続して延びる一体物として構成されたものであってもよく、所定の長さに分割された複数の分割柱を連結した構成であってもよい。
【0023】
建築物1の地下1階の床部分には、躯体10を構成する大梁(基礎梁)21が建築物1の内側から外壁2bの側に向けて延びて設けられている。柱20は、その下端20aにおいて大梁21の端部に接合されている。本実施形態では、大梁21の端部を含む一部は、鉄筋コンクリートより建築物1の地下部分に形成された基礎14に埋設されている。
【0024】
一方、建築物1の地上3階の天井部分には、躯体10を構成する大梁22が建築物1の内側から外壁2bの側に向けて延びて設けられている。柱20は、その上端20bにおいて大梁22の端部に接合されている。
【0025】
これに対し、建築物1の地上1階から3階までの各階の床部分において建築物1の内側から外壁2bの側に向けて延びて設けられた大梁23は、それぞれ端部が吹抜け部分13を挟んで柱20との間に間隔を空けて配置されている。すなわち、それぞれの大梁23は、建築物1の吹抜け部分13よりも内側に配置された柱(不図示)に片持ちに支持され、その端部は柱20には接合されていない。
【0026】
このように、柱20は、下端20aと上端20bにおいてのみ建築物1の内側から延びる大梁21、22に接合され、下端20aと上端20bとの間においては建築物1の内側から延びる大梁23には接合されていない。
【0027】
なお、
図3に示すように、柱20は、下端20aと上端20bとの間の部分において、外壁2bに沿って配置された隣の柱24との間に外壁2bに沿って延びる大梁25が接合された構成であってもよい。
【0028】
柱20の上端20bには、外壁4bに沿って鉛直方向に対して傾斜して延びる上側柱26の下端が接合されている。
【0029】
ここで、上記のように、柱20を、下端20aと上端20bにおいてのみ建築物1の内側から延びる大梁21、22に接合され、下端20aと上端20bとの間においては建築物1の内側から延びる大梁23には接合されない構成とすると、
図5(a)に示すように、柱20の大梁21、22に支持されない部分が長尺となり、柱20を設計する際に、柱20の座屈長さL1が長いことから、所望の高さを有する吹抜け部分13を設計することが困難になる、という問題が生じることになる。
【0030】
そこで、本実施形態に係る柱の設計方法では、柱20の、下端20aから上方に向けた所定範囲の部分及び上端20bから下方に向けた所定範囲の部分の少なくとも何れか一方に、当該所定範囲の部分を外側から覆って拘束するコンクリート製の拘束部30を設けることで、柱20の座屈長さが短くなるように柱20を設計するようにしている。すなわち、本実施形態に係る柱の設計方法では、柱20を、下端20aから上方に向けた所定範囲の部分及び上端20bから下方に向けた所定範囲の部分の少なくとも何れか一方が、コンクリート製の拘束部30により外側から覆われて拘束される構成に設計することで、
図5(b)に示すように、柱20の座屈長さL2が、拘束部30が設けられない場合の座屈長さL1に比べて実質的に短くなるようにし、当該座屈長さL2に基づいて柱20の強度計算を行うようにしている。柱20を、実際の長さと等しい座屈長さL1ではなく、実際の長さよりも短い座屈長さL2を有するものとして強度計算を行うことで、柱20を、所望の座屈強度を有しつつ、より長尺のものとして設計することができる。
【0031】
本実施形態では、柱20は、下端20aから1階の床部分(地上部分)までの部分がコンクリート製の拘束部30で覆われて拘束される構成に設計されている。より具体的には、柱20は、下端20aから1階の床部分(地上部分)までの部分がコンクリート製の拘束部30に埋設されて拘束された構成に設計されている。
【0032】
このように、本実施形態に係る柱の設計方法では、柱20を、複数の階層に亘って設けられた吹抜け部分13の外壁2bに沿って配置され、建築物1の内側から延びる大梁21、22が下端20a及び上端20bにのみに接合されたものとし、柱20の、下端20aから上方に向けた所定範囲の部分及び上端20bから下方に向けた所定範囲の部分の少なくとも何れか一方に、所定範囲の部分を外側から覆って拘束するコンクリート製の拘束部30を設けることで、柱20の座屈長さL2を短くして柱20の強度計算を行うようにしたので、柱20を、所望の座屈強度を有しつつより長尺のものとして設計することができる。
【0033】
また、建築物1を設計する際に、本実施形態に係る柱の設計方法により柱20を設計することで、建築物1を、より高さの高い吹抜け部分13を有するものに設計することが可能となる。
【0034】
本実施形態に係る柱の設計方法では、拘束部30を、鉄筋コンクリート製とするのが好ましい。これにより、拘束部30の強度を高めて、柱20を、より確実に座屈長さL2よりも実際の長さが長い長尺のものとすることができる。
【0035】
また、本実施形態に係る柱の設計方法では、拘束部30を鉄筋コンクリート製とする場合には、拘束部30を、建築物1の地下部分において建築物1の基礎14と一体に設けた構成とすることもできる。これにより、拘束部30をより容易に設けることができるとともに拘束部30により柱20の下端20aから所定範囲の部分がより効果的に拘束されるようにして、柱20を、より確実に座屈長さL2よりも実際の長さが長い長尺のものとすることができる。
【0036】
本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0037】
例えば、前記実施形態では、柱20を、下端20aから上方に向けた所定範囲の部分がコンクリート製の拘束部30で覆われて拘束される構成に設計するようにしているが、柱20を、上端20bから下方に向けた所定範囲の部分がコンクリート製の拘束部30で覆われて拘束される構成に設計するようにしてもよく、下端20aから上方に向けた所定範囲の部分及び上端20bから下方に向けた所定範囲の部分の両方がコンクリート製の拘束部30で覆われて拘束される構成に設計するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0038】
1 建築物
2a 外壁
2b 外壁
2c 外壁
3 地面
4a 外壁
4b 外壁
4c 外壁
10 躯体
11 柱
12 梁
13 吹抜け部分
14 基礎
20 柱
20a 下端
20b 上端
21 大梁
22 大梁
23 大梁
24 柱
25 大梁
26 上側柱
30 拘束部
C コンクリート
L1 座屈長さ
L2 座屈長さ