(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155193
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】削り加工装置
(51)【国際特許分類】
B23C 3/12 20060101AFI20241024BHJP
【FI】
B23C3/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069670
(22)【出願日】2023-04-20
(71)【出願人】
【識別番号】000196107
【氏名又は名称】西川ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121728
【弁理士】
【氏名又は名称】井関 勝守
(74)【代理人】
【識別番号】100165803
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 修平
(72)【発明者】
【氏名】工藤 晃志
(72)【発明者】
【氏名】田淵 裕規
【テーマコード(参考)】
3C022
【Fターム(参考)】
3C022DD01
3C022DD11
3C022DD19
(57)【要約】
【課題】切削具を食い込ませることなく、長尺部材における端部の表面を、大きな過不足を生じさせずに削り取ることが可能な削り加工装置を提供する。
【解決手段】長尺部材50’の端部の表面50aを削り取る削り加工装置1である。長尺部材50’を固定する固定部3と、長尺部材50’と同じ方向に延びる超硬刃10と、超硬刃10を回転させる回転駆動部20と、回転駆動部20を移動させる位置変更部30と、位置変更部30を制御する制御部40と、を備えている。超硬刃10は、長尺部材50’のゴムよりも硬い材料のみで形成されている。制御部40は、長尺部材50’の外形の設計寸法に基づいて、長尺部材50’の外形よりも内側に僅かに小さく設定した仮想の外形に沿って、超硬刃10が移動するように、位置変更部30を制御する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断面略U字状の部位を有する長尺部材における端部の表面を削り取る削り加工装置であって、
上記断面略U字状の部位の内側に嵌ることで、上記長尺部材を固定する固定部と、
上記固定部で固定された上記長尺部材の長手方向と同じ方向に延び、外周面に刃を有する略円柱状の切削具と、
上記切削具を、当該切削具の延びる方向の周りに回転させる回転駆動部と、
上記切削具が取り付けられた上記回転駆動部を、上記固定された上記長尺部材の長手方向と直交する二次元方向で移動させることが可能な位置変更部と、
上記位置変更部を制御する制御部と、を備え、
上記切削具は、上記長尺部材のゴムよりも硬い材料のみで形成されており、
上記制御部は、上記長尺部材の外形の設計寸法に基づいて、当該長尺部材の外形よりも内側に僅かに小さく設定した仮想の外形に沿って、回転する上記切削具が移動するように、上記位置変更部を制御することを特徴とする削り加工装置。
【請求項2】
上記請求項1に記載の削り加工装置において、
上記制御部は、上記長尺部材の外形の設計寸法を反映したCADデータに基づいて、上記切削具を移動させる軌跡を設定するように構成されていることを特徴とする削り加工装置。
【請求項3】
上記請求項2に記載の削り加工装置において、
上記制御部は、上記長尺部材の表面を削り取る動作を複数パス行うとともに、1パス毎に、上記長尺部材の外形を前回のパスよりも所定値だけ内側に小さく設定した外形データに基づいて、上記切削具を移動させる軌跡を設定するように構成されていることを特徴とする削り加工装置。
【請求項4】
上記請求項1に記載の削り加工装置において、
上記切削具は、超硬刃で構成されていることを特徴とする削り加工装置。
【請求項5】
上記請求項1に記載の削り加工装置において、
上記位置変更部は、上記回転駆動部を上下方向に移動させる鉛直方向アクチュエータと、当該鉛直方向アクチュエータを上記長尺部材の長手方向と上下方向とに直交する方向に移動させる水平方向アクチュエータと、を含んで構成されていることを特徴とする削り加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺部材における端部の表面を削り取る削り加工装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えばドアの端部に取り付けられ、ドアを閉じた際に、ドアの前端部とドア開口縁部との間をシールするゴム製のウェザーストリップが知られている。このようなウェザーストリップを製造する場合には、半製品(以下、「長尺部材」ともいう。)を一旦押出成形した後、かかる長尺部材からリップ等を部分的に取り除いたり、長尺部材を適正な長さ(一定寸法)に切断したりすることで、製品として仕上げていくことが多い。
【0003】
ところで、ウェザーストリップの一種であるガラスランでは、部分的に植毛や塗装を行う場合があり、かかる場合には、パイル材料や塗料などがガラスランの表面に固定され易くなるように、ガラスランの表面部分を粗くする(所謂「バフ掛け」を行う)のが一般的である。
【0004】
例えば特許文献1には、ガラスランの半製品である長尺のワークを、送りローラや形状ローラにてその長手方向に搬送しながら、ワイヤバフやナイロンバフをワークに押し付けることで、バフ掛けを行うバフ装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、ウェザーストリップの一種として、例えばワゴン車等におけるスライドドアの前端部に取り付けられ、スライドドアを閉じた際に、スライドドアの前端部とドア開口縁部との間をシールするとともに、これらの間に挟まれた異物の存在を検知するセンサが組込まれたプロテクターが知られている。
【0007】
かかるセンサ付きのプロテクターは、スライドドアの前端部に取り付けられる、芯金が埋設された断面略U字状の取付け基部の他、センサ用の導線が埋設されたセンサ部や、スライドドアパネルの一部を覆うリップを一体的に押出成形した後、その表面に塗料を塗布しているため、断面形状が複雑な形状となっているとともに、その表面には塗膜層が形成されているのが一般的である。
【0008】
また、かかるプロテクターでは、その端部から露出させたセンサ用の導線や、導線に結線された抵抗器などを被覆するために、半製品である長尺部材の端部を金型にセット(インサート)し、長尺部材の端部と共に導線や抵抗器などを被覆するシール層を射出成型することが多い。このため、かかる長尺部材では、長尺部材とシール層との接着力を向上させるために、長尺部材における端部の表面の塗膜層を削り取る必要がある。
【0009】
この点、上記特許文献1には、バフ掛けの対象となるワークの形状について何ら記載されていないが、センサ付きのプロテクターのように、複雑な断面形状を有するとともに、長手方向の全長に亘ってバフ掛けを施す必要がなく、端部のみバフ掛けが要求されるものに対しては、単にワイヤバフやナイロンバフを押し付ける特許文献1のものは不適といえる。
【0010】
そこで、例えば、長尺部材の長手方向と同じ方向に延び、外周面に刃を有する略円柱状の切削具を、当該切削具の延びる方向の周りに回転させながら、長尺部材における端部の表面に押し付けることで、表面の塗膜層を削り取ることが考えられる。
【0011】
もっとも、このようにしてバフ掛けを行う場合には、例えば鞍状の固定部に断面略U字状の取付け基部を被せて長尺部材を固定するが、長尺部材における取付け基部以外の部位は柔らかいため、外周面に刃を有する切削具を回転させながら、かかる柔らかい部位に強く押し付けると、回転する切削具が長尺部材に食い込むことで、長尺部材の表面が必要以上に荒らされるおそれがある。
【0012】
また、長尺部材の表面を、センサで検出することで、検出データに基づいて、長尺部材の外形に沿うように、切削具を移動させることも考えられるが、センサの検出値は直線近似されるため、複雑な断面形状(曲線部)を有する長尺部材の表面に、切削具を上手く当てられず、削取り量が不足するケースも想定される。
【0013】
そこで、例えば硬い砥粒をゴムに練り込んだゴム砥石を回転させながら、長尺部材の表面に押し付ける手法が考えられるが、かかる手法では、長尺部材の表面を上手く削り取ることはできるものの、ゴム砥石の摩耗により切削具の径が変化してしまい、削取り量が変わってしまうという問題がある。
【0014】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、切削具を食い込ませることなく、長尺部材における端部の表面を、大きな過不足を生じさせずに削り取ることが可能な削り加工装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
前記目的を達成するため、本発明に係る削り加工装置では、長尺部材の外形の設計寸法に基づいて、長尺部材の外形に沿うように、回転する切削具を移動させるようにしている。
【0016】
具体的には、本発明は、断面略U字状の部位を有する長尺部材における端部の表面を削り取る削り加工装置をその対象としている。
【0017】
そして、この削り加工装置は、上記断面略U字状の部位の内側に嵌ることで、上記長尺部材を固定する固定部と、上記固定部で固定された上記長尺部材の長手方向と同じ方向に延び、外周面に刃を有する略円柱状の切削具と、上記切削具を、当該切削具の延びる方向の周りに回転させる回転駆動部と、上記切削具が取り付けられた上記回転駆動部を、上記固定された上記長尺部材の長手方向と直交する二次元方向で移動させることが可能な位置変更部と、上記位置変更部を制御する制御部と、を備え、上記切削具は、上記長尺部材のゴムよりも硬い材料のみで形成されており、上記制御部は、上記長尺部材の外形の設計寸法に基づいて、当該長尺部材の外形よりも内側に僅かに小さく設定した仮想の外形に沿って、回転する上記切削具が移動するように、上記位置変更部を制御することを特徴とするものである。
【0018】
この構成によれば、切削具が長尺部材のゴムよりも硬い材料のみで形成されていることから、摩耗により切削具の径が変化しないので、削取り量を一定に維持することができる。
【0019】
また、加工ロットの違いにより、長尺部材の実寸法が多少異なっていても、制御部は、加工ロットの違い等に左右されない設計寸法に基づいて、長尺部材の外形よりも内側に僅かに小さく設定した仮想の外形に沿って、回転する切削具を移動させることから、長尺部材における端部の表面を、大きな過不足を生じさせることなく削り取ることが可能となる。
【0020】
しかも、長尺部材の外形よりも内側に僅かに小さく設定した仮想の外形に沿って、切削具を移動させることから、外周面に刃を有する切削具が長尺部材に食い込むのを抑えることができる。
【0021】
以上のように、本発明によれば、切削具を食い込ませることなく、長尺部材における端部の表面を、大きな過不足を生じさせずに削り取ることができる。
【0022】
また、上記削り加工装置では、上記制御部は、上記長尺部材の外形の設計寸法を反映したCADデータに基づいて、上記切削具を移動させる軌跡を設定するように構成されていてもよい。
【0023】
この構成によれば、設計寸法を反映したCADデータに基づくことから、長尺部材の外形よりも内側に僅かに小さく設定した仮想の外形に沿うような、切削具を移動させる軌跡を容易に設定することができる。
【0024】
さらに、上記削り加工装置では、上記制御部は、上記長尺部材の表面を削り取る動作を複数パス行うとともに、1パス毎に、上記長尺部材の外形を前回のパスよりも所定値だけ内側に小さく設定した外形データに基づいて、上記切削具を移動させる軌跡を設定するように構成されていてもよい。
【0025】
この構成によれば、1パス毎に、切削具を移動させる軌跡を前回のパスよりも所定値だけ内側に小さくして、長尺部材の表面を削り取る動作を複数パス行うことから、長尺部材における端部の表面を、所望の削取り量(所定値×パス数)だけ確実に削り取ることが可能となる。
【0026】
また、上記削り加工装置では、上記切削具は、超硬刃で構成されていてもよい。
【0027】
なお、「超硬刃」とは、高融点金属の炭化物を主成分とした炭化タングステンに、コバルトの粉末を加えて焼き固めた、非常に硬い焼結合金をろう付け等により刃先に付けた刃物をいう。
【0028】
この構成によれば、削り加工を多数回行っても摩耗が生じないので、より一層確実に削取り量を一定に維持することができる。
【0029】
さらに、上記削り加工装置では、上記位置変更部は、上記回転駆動部を上下方向に移動させる鉛直方向アクチュエータと、当該鉛直方向アクチュエータを上記長尺部材の長手方向と上下方向とに直交する方向に移動させる水平方向アクチュエータと、を含んで構成されていてもよい。
【0030】
この構成によれば、切削具が取り付けられた回転駆動部を、固定された長尺部材の長手方向と直交する二次元方向で、換言すると、長尺部材の外形に沿うように移動させることが可能な位置変更部を、汎用性の高いアクチュエータを用いて容易に実現することができる。
【発明の効果】
【0031】
以上説明したように、本発明に係る削り加工装置によれば、切削具を食い込ませることなく、長尺部材における端部の表面を、大きな過不足を生じさせずに削り取ることできる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【
図1】本発明の実施形態に係る削り加工装置の概要を模式的に示す斜視図である。
【
図2】センサ付きのプロテクターを模式的に示す断面図である。
【
図3】シール層が形成された、プロテクターの端部を模式的に示す斜視図である。
【
図5】位置変更部の一例を模式的に示す斜視図である。
【
図6】位置変更部の他の例を模式的に示す斜視図である。
【
図7】長尺部材の表面の削り方法を模式的に説明する図である。
【
図8】長尺部材の表面の削り方法を模式的に説明する図である。
【
図9】長尺部材の表面の削り方法を模式的に説明する図である。
【
図10】長尺部材の表面の削り方法の参考例を模式的に説明する図である。
【
図11】長尺部材の表面の削り方法の参考例を模式的に説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明を実施するための形態を図面に基づいて説明する。
【0034】
図1は、本実施形態に係る削り加工装置1の概要を模式的に示す斜視図である。この削り加工装置1は、全長に亘って芯金54が埋め込まれた断面略U字状の取付け基部51を有する、センサ付きのプロテクター50(
図2参照)の半製品である長尺部材50’における端部の表面50aを削り取るものである。なお、
図1における、矢印Fwは長尺部材50’の長手方向の先端側である第1水平方向前側を示し、また、矢印Rrは第1水平方向後側を示し、また、矢印Upは上下方向上側を示し、また、矢印Dwは上下方向下側を示し、また、矢印Rhは第1水平方向と上下方向とに直交する方向である第2水平方向右側を示し、また、矢印Lfは第2水平方向左側を示している。
【0035】
削り加工装置1の説明に先立ち、削り加工装置1の加工対象である長尺部材50’乃至プロテクター50について説明する。
【0036】
図2は、センサ付きのプロテクター50を模式的に示す断面図である。プロテクター50は、ウェザーストリップの一種であり、ワゴン車等におけるスライドドア(図示せず)の前端部とドア開口縁部との間をシールするのみならず、スライドドアの前端部とドア開口縁部との間に挟まれた異物の存在を検知するように構成されている。このプロテクター50は、ゴム製であり、
図2に示すように、スライドドアの前端部に取り付けられる断面略U字状の取付け基部51と、センサ用の2本の導線58が埋設された、中空部52aを有するセンサ部52と、を備えている。
【0037】
取付け基部51には、剛性を高めるための芯金54が埋め込まれているとともに、スライドドアの前端部に取付け基部51が取り付けられた場合に、スライドドアの内壁を押圧する保持リップ53が設けられている。また、プロテクター50には、例えばスライドドアパネルの一部を覆う意匠リップ55や、ワイヤーハーネス(図示せず)を保持するためのCリップ57が設けられている。
【0038】
このようなプロテクター50を製造する場合には、半製品である長尺部材50’を一旦押出成形した後、その表面に耐久性等の向上を目的とした塗料を塗布したり、かかる長尺部材50’から意匠リップ55やCリップ57等を部分的に取り除いたり、長尺部材50’を適正な長さ(一定寸法)に切断したり、両端部の導線58を剥き出して露出させたりすることで、製品として仕上げていく。なお、意匠リップ55やCリップ57等が部分的に取り除かれていることを除けば、プロテクター50および長尺部材50’を構成する各部は共通しているので、以下では、長尺部材50’を説明する場合にも、各部についてはプロテクター50の場合と同じ符号を用いる。
【0039】
図3は、シール層60が形成された、プロテクター50の端部を模式的に示す斜視図である。プロテクター50の端部では、
図3に示すように、導線58や抵抗器61等が、プロテクター50の端部と共に、シール層60で被覆されている。より詳しくは、プロテクター50の半製品である長尺部材50’では、端部から露出させたセンサ用の導線58に、溶接等によって抵抗器61が結線されるとともに、導線58および抵抗器61で区画される空間がインサート62で埋められる。そうして、長尺部材50’の端部を、抵抗器61やインサート62と共に、金型(図示せず)にセットし、端部および導線58や抵抗器61やインサート62を被覆するシール層60を射出成型にて形成する。このため、かかる長尺部材50’では、シール層60との接着力を向上させるために、
図3のハッチングで示すように、長尺部材50’における端部の表面50aの塗膜層を削り取る必要がある。
【0040】
図10および
図11は、長尺部材50’の表面50aの削り方法の参考例を模式的に説明する図である。なお、
図10および
図11では、図を見易くするために、ゴムハッチングを省略している。削り方法として、
図10に示すように、固定部3を断面略U字状の取付け基部51の内側に嵌めることで、長尺部材50’を固定した後、固定された長尺部材50’と同じ方向に延びる超硬刃10を、
図10の太線矢印で示すように回転させながら、長尺部材50’における端部の表面50aに押し付けることで、表面50aの塗膜層を削り取ることが考えられる。
【0041】
もっとも、長尺部材50’における、芯金54が埋め込まれた取付け基部51以外の部位は柔らかいため、超硬刃10を回転させながら、かかる柔らかい部位に強く押し付けると、
図10に示すように、回転する超硬刃10が長尺部材50’に食い込むことで、長尺部材50’の表面50aが必要以上に荒らされる場合がある。
【0042】
また、別の削り方法として、長尺部材50’の表面50aを、センサ(図示せず)で検出することで、実物の検出データに基づいて、長尺部材50’の外形に沿うように、回転する超硬刃10を移動させることも考えられるが、
図11の二点鎖線で示すように、センサの検出値は直線近似されるため、複雑な断面形状(曲線部)を有する長尺部材50’の表面50aに、超硬刃10を上手く当てることができず、削取り量が不足するケースも想定される。
【0043】
そこで、例えば硬い砥粒をゴムに練り込んだゴム砥石(図示せず)を回転させながら、長尺部材50’の表面50aに押し付ける手法が考えられるが、かかる手法では、長尺部材50’の表面50aを上手く削り取ることはできるものの、例えば100回程度の削り加工を行うだけでゴム砥石の摩耗により切削具の径が変化してしまい、その結果、削取り量が変わってしまうという問題がある。
【0044】
そこで、本実施形態では、長尺部材50’の外形の設計寸法に基づいて、回転する超硬刃10を移動させるようにしている。より詳しくは、本実施形態に係る削り加工装置1は、
図1に示すように、固定部3と、超硬刃(切削具)10と、回転駆動部20と、位置変更部30と、制御部40と、を備えていて、長尺部材50’の外形の設計寸法に基づいて決定される、制御部40からの指令により、超硬刃10を移動させるように構成されている。
【0045】
固定部3は、
図1に示すように、第1水平方向に延びる略鞍状に形成されていて、断面略U字状の取付け基部51の内側に嵌ることで、長尺部材50’を固定するようになっている。このように、芯金54が埋め込まれた取付け基部51を固定部3によって固定することで、取付け基部51自体はしっかりと位置決めすることができるものの、センサ部52や意匠リップ55といった相対的に柔らかい部位は、上述の如く、回転する超硬刃10を強く押し付けることが困難となっている。
【0046】
図4は、超硬刃10の一例を模式的に示す図である。超硬刃10は、略円柱状に形成されていて、先端側の外周面に所定方向に延びる刃11を有する、クロスカットのロータリーバーとして構成されている。ここで、「超硬刃」とは、高融点金属の炭化物を主成分とした炭化タングステンに、コバルトの粉末を加えて焼き固めた、非常に硬い焼結合金をろう付け等により刃先に付けた刃物をいう。このように本実施形態の超硬刃10は、長尺部材50’のゴムよりも硬い材料のみで形成されており、それ故、ゴム砥石とは異なり、例えば1万回を超える削り加工を行っても摩耗が生じないので、削取り量を一定に維持することが可能となっている。
【0047】
この超硬刃10は、固定部3で固定された長尺部材50’の長手方向と同じ方向(第1水平方向)に延びるように、その基端部12がチャック(図示せず)で回転駆動部20に取り付けられている。回転駆動部20は、チャックで取り付けられた超硬刃10を、超硬刃10の延びる方向、すなわち、第1水平方向の周りに回転させるように構成されている。なお、回転駆動部20から第1水平方向後側への超硬刃10の突出長は、例えばチャックにて調整することが可能となっている。
【0048】
位置変更部30は、超硬刃10が取り付けられた回転駆動部20を、超硬刃10が第1水平方向に延びた姿勢を維持したまま、
図1の白抜き矢印および黒塗り矢印で示すように、固定された長尺部材50’の長手方向と直交する二次元方向(第1水平方向と直交する平面内)で移動させることが可能に構成されている。
【0049】
(位置変更部の第1の態様)
図5は、位置変更部30の一例を模式的に示す斜視図である。位置変更部30は、
図5に示すように、各々軸A1,A2,A3,A4,A5,A6周りに回転可能な6つの関節を有する公知の6軸多関節ロボット31で構成されていてもよい。このように、位置変更部30として6軸多関節ロボット31を採用すれば、超硬刃10が第1水平方向に延びた姿勢を維持したまま、超硬刃10が取り付けられた回転駆動部20を、換言すると、回転する超硬刃10を上下左右に自在に移動させることができる。
【0050】
(位置変更部の第2の態様)
図6は、位置変更部30’の他の例を模式的に示す斜視図である。位置変更部30’は、
図6に示すように、鉛直方向アクチュエータ33と、水平方向アクチュエータ35と、を含んで構成されていてもよい。
【0051】
より詳しくは、鉛直方向アクチュエータ33は、例えば電動式のアクチュエータであり、本体部33aと可動部33bとを備えていて、可動部33bを本体部33aに対して上下に昇降させることが可能に構成されている。それ故、超硬刃10が取り付けられた回転駆動部20を可動部33bに取り付ければ、
図6の白抜き矢印で示すように、超硬刃10が第1水平方向に延びた姿勢を維持したまま、超硬刃10が取り付けられた回転駆動部20を、上下に自在に移動させることができる。
【0052】
一方、水平方向アクチュエータ35は、例えば電動式のアクチュエータであり、鉛直方向アクチュエータ33を、固定された長尺部材50’の長手方向と上下方向とに直交する方向、すなわち、第2水平方向に移動させることが可能に構成されている。このため、鉛直方向アクチュエータ33の本体部33aを水平方向アクチュエータ35に取り付ければ、
図6の黒塗り矢印で示すように、鉛直方向アクチュエータ33を、左右に自在に移動させることができる。
【0053】
それ故、水平方向アクチュエータ35による左右の移動と、鉛直方向アクチュエータ33による上下の移動とを組み合わせれば、超硬刃10が第1水平方向に延びた姿勢を維持したまま、超硬刃10が取り付けられた回転駆動部20を、換言すると、回転する超硬刃10を、固定された長尺部材50’の長手方向と直交する二次元方向で移動させることが可能となる。
【0054】
制御部40は、例えば、演算処理等を行うCPU(Central Processing Unit)、CPUによって実行される演算プログラム等が記憶されたROM(Read Only Memory)、処理データ等を一時的に記憶するRAM(Random Access Memory)等からなるマイクロコンピュータを中心にして構成されている。この制御部40は、
図1に示すように、回転駆動部20および位置変更部30と電気的にそれぞれ接続されていて、ROMに記憶された演算プログラム等に従って、回転駆動部20による超硬刃10の回転、および、位置変更部30による、第1水平方向と直交する平面内での超硬刃10の移動を制御するように構成されている。
【0055】
図7は、長尺部材50’の表面50aの削り方法を模式的に説明する図である。なお、
図7では、図を見易くするために、ゴムハッチングを省略している。以上のように構成された削り加工装置1では、取付け基部51の内側に固定部3を嵌めることで、長尺部材50’を固定した後、制御部40の指令に基づき、回転駆動部20が超硬刃10を回転させるとともに、位置変更部30が、超硬刃10が第1水平方向に延びた姿勢を維持したまま、回転する超硬刃10を移動させる。そうして、制御部40の指令に基づき、
図7に示すように、位置変更部30が回転する超硬刃10を、長尺部材50’の外形に沿うように、長尺部材50’における端部の表面50aに当てながら移動させることで、長尺部材50’の表面50aの塗膜層を削り取ることができ、これにより、長尺部材50’の端部とシール層60との接着力を向上させることが可能となる。
【0056】
次に、制御部40による位置変更部30の具体的な制御例について、より詳細に説明する。
【0057】
(制御部による制御例1)
図8は、長尺部材50’の表面50aの削り方法を模式的に説明する図である。本実施形態の削り加工装置1では、上述の如く、長尺部材50’の外形に沿うように超硬刃10を移動させるが、その際、長尺部材50’の外形の設計寸法に基づいて、
図8に示すように、長尺部材50’の外形よりも内側に僅かに小さく(例えば0.2mm小さく)設定した仮想の外形VOに沿って、回転する超硬刃10を相対的に速く移動させるように、制御部40を構成している。
【0058】
ここで、「相対的に速く」とは、超硬刃10を長尺部材50’に確実に当てることを重視して、回転する超硬刃10を長尺部材50’の外形に沿ってゆっくりと移動させるような、換言すると、回転する超硬刃10が長尺部材50’に食い込むような移動速度よりも速い移動速度で、という意味である。
【0059】
より詳しくは、本制御例1では、回転する超硬刃10が移動することによって、超硬刃10の外周が描く軌跡が、第1水平方向(固定された長尺部材50’の長手方向)に見て、
図8の二点鎖線で示す仮想の外形VOと重なるよう、位置変更部30を制御するように制御部40を構成している。また、長尺部材50’の外形の設計寸法に基づいて、仮想の外形VOを設定する際、長尺部材50’の外形の設計寸法を反映したCADデータに基づいて、超硬刃10を移動させる軌跡を設定するように制御部40を構成している。
【0060】
以上のような制御例1によれば、加工ロットの違いにより、長尺部材50’の実寸法が多少異なっていても、制御部40は、加工ロットの違い等に左右されない設計寸法に基づいて、長尺部材50’の外形よりも内側に僅かに小さく設定した仮想の外形VOに沿って、回転する超硬刃10を移動させることから、
図8の実線(長尺部材50’の外形)と二点鎖線(仮想の外形VO)とを見比べれば分かるように、長尺部材50’における端部の表面50aを、大きな過不足を生じさせることなく削り取ることが可能となる。
【0061】
しかも、長尺部材50’の外形よりも内側に僅かに小さく設定した仮想の外形VOに沿って、超硬刃10を相対的に速く移動させることから、超硬刃10が長尺部材50’に食い込むのを抑えることができる。
【0062】
また、元々存在するCADデータに基づく(を用いる)ことから、仮想の外形VOに沿うような、超硬刃10を移動させる軌跡を容易に設定することができる。
【0063】
(制御部による制御例2)
図9は、長尺部材50’の表面50aの削り方法を模式的に説明する図である。なお、
図9では、図を見易くするために、ゴムハッチングを省略している。また、
図9では、図を見易くするために、超硬刃10による長尺部材50’の表面50aの削取り量を誇張して表現している。
【0064】
本制御例2では、長尺部材50’における端部の表面50aを削り取る動作を複数パス行うとともに、1パス毎に、長尺部材50’の外形を前回のパスよりも所定値だけ内側に小さく設定した外形データに基づいて、超硬刃10を移動させる軌跡を設定するように制御部40を構成している。
【0065】
より詳しくは、1回目のパスにおいて、
図9の二点鎖線で示すように、長尺部材50’の外形よりも内側に僅かに小さく(例えば0.2mm小さく)設定した仮想の外形VOに沿って、回転する超硬刃10を移動させることで、長尺部材50’における端部の表面50aを(例えば0.2mmだけ)削り取る。
【0066】
次いで2回目のパスにおいて、
図9の破線で示すように、1回目のパスにおける仮想の外形VOよりも所定値(例えば0.2mm)だけ内側に小さく設定した仮想の外形VO’(外形データ)に沿って、回転する超硬刃10を移動させることで、長尺部材50’における端部の表面50aを(例えば合計で0.4mmだけ)削り取る。
【0067】
さらに3回目のパスにおいて、
図9の点線で示すように、2回目のパスにおける仮想の外形VO’よりも所定値(例えば0.2mm)だけ内側に小さく設定した仮想の外形VO”(外形データ)に沿って、回転する超硬刃10を移動させることで、長尺部材50’における端部の表面50aを(例えば合計で0.6mmだけ)削り取る。
【0068】
以上のような制御例2によれば、1パス毎に、超硬刃10を移動させる軌跡を前回のパスよりも所定値だけ内側に小さくして、長尺部材50’の表面50aを削り取る動作を複数パス行うことから、長尺部材50’における端部の表面50aを、所望の削取り量(所定値×パス数)だけ確実に削り取ることができる。
【0069】
(その他の実施形態)
本発明は、実施形態に限定されず、その精神又は主要な特徴から逸脱することなく他の色々な形で実施することができる。
【0070】
上記実施形態では、回転駆動部20が取り付けられた鉛直方向アクチュエータ33を水平方向アクチュエータ35にて左右に自在に移動させるようにしたが、これに限らず、例えば、回転駆動部20が取り付けられた水平方向アクチュエータ35を鉛直方向アクチュエータ33にて上下に自在に移動させるようにしてもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、長尺部材50’の外形を前回のパスよりも0.2mmだけ内側に小さく設定した外形データに基づいて、長尺部材50’における端部の表面50aを削り取る動作を3パス行うようにしたが、これに限らず、長尺部材50’の外形を前回のパスよりも0.2mm未満(または0.2mmを超えて)内側に小さく設定した外形データに基づいて、長尺部材50’における端部の表面50aを削り取る動作を2パス以下(または4パス以上)行うようにしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、ゴム製のプロテクター50の半製品である長尺部材50’に本発明を適用したが、長尺部材50’の材質は、ゴムのような弾性体であれば特に限定はなく、例えば熱可塑性エラストマー等の各種熱可塑性樹脂材などであってもよい。
【0073】
このように、上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0074】
本発明によると、切削具を食い込ませることなく、長尺部材の表面を、大きな過不足を生じさせずに削り取ることできるので、長尺部材における端部の表面を削り取る削り加工装置に適用して極めて有益である。
【符号の説明】
【0075】
1 削り加工装置
3 固定部
10 超硬刃(切削具)
20 回転駆動部
30、30’ 位置変更部
33 鉛直方向アクチュエータ
35 水平方向アクチュエータ
40 制御部
50’ 長尺部材
50a 表面
51 取付け基部(断面略U字状の部位)