(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024155218
(43)【公開日】2024-10-31
(54)【発明の名称】モータ制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 25/22 20060101AFI20241024BHJP
H02M 7/48 20070101ALI20241024BHJP
H02P 21/14 20160101ALI20241024BHJP
【FI】
H02P25/22
H02M7/48 E
H02P21/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023069711
(22)【出願日】2023-04-21
(71)【出願人】
【識別番号】000001845
【氏名又は名称】サンデン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098361
【弁理士】
【氏名又は名称】雨笠 敬
(72)【発明者】
【氏名】荒木 雄志
(72)【発明者】
【氏名】柏原 辰樹
(72)【発明者】
【氏名】小林 孝次
【テーマコード(参考)】
5H505
5H770
【Fターム(参考)】
5H505AA06
5H505CC01
5H505DD08
5H505EE41
5H505EE49
5H505GG04
5H505HB01
5H505HB05
5H505JJ03
5H505JJ04
5H505LL01
5H505LL22
5H505LL41
5H770BA05
5H770DA03
5H770DA22
5H770DA27
5H770DA41
5H770EA01
5H770HA02Y
(57)【要約】
【課題】インバータ回路を用いて多重巻線構造のモータを制御する制御装置において、各巻線に流れる電流を検出するための電流センサの数を削減する。
【解決手段】モータ制御装置20は、相互に磁気的に結合したスター結線の第1巻線6及び第2巻線7を有するモータ1を制御する。三相交流出力を第1巻線6及び第2巻線7に印加するインバータ回路21、22と、インバータ回路21を流れる電流を検出する電流センサ48、49と、第1巻線6と第2巻線7が相互に干渉しあうことを利用し、電流センサ48、49の検出値に基づいて、第2巻線7に流れる電流の値を推定する相電流推定部43を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
相互に磁気的に結合したスター結線の第1巻線及び第2巻線を有するモータを制御する制御装置において、
三相交流出力を前記第1巻線及び第2巻線に印加するインバータ回路と、
該インバータ回路を流れる電流を検出する電流センサと、
前記第1巻線と前記第2巻線が相互に干渉しあうことを利用し、前記電流センサの検出値に基づいて、前記第1巻線に流れる電流と、前記第2巻線に流れる電流の値を求める相電流推定部を備えたことを特徴とするモータの制御装置。
【請求項2】
前記第1巻線に三相交流出力を印加する第1インバータ回路と、
前記第2巻線に三相交流出力を印加する第2インバータ回路を備え、
前記電流センサは、前記第1インバータ回路から前記第1巻線に流れる電流を検出すると共に、
前記相電流推定部は、前記電流センサの検出値から、前記第2巻線が前記第1巻線に干渉する成分を導出することで、前記第2巻線に流れる電流の値を推定することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項3】
前記相電流推定部は、前記電流センサの検出値から求まる値をシステムの制御入力と出力とし、前記第2巻線が前記第1巻線に干渉する成分を外乱とし、前記システムの逆モデルから当該システムの入力を推定して前記制御入力との差分をとることで前記外乱を求め、前記第2巻線に流れる電流の値を推定する電流推定オブザーバを用いることを特徴とする請求項2に記載のモータ制御装置。
【請求項4】
前記インバータ回路に対して前記第1巻線及び前記第2巻線が並列に接続され、且つ、前記第2巻線はスイッチング素子を介して前記インバータ回路に接続されており、
前記電流センサは、前記第1巻線と第2巻線に流れる電流の合算値を検出すると共に、
前記相電流推定部は、前記電流センサの検出値から、前記第2巻線が前記第1巻線に干渉する成分を導出することで、前記第2巻線に流れる電流の値を推定し、推定した値を前記合算値から差し引くことで、前記第1巻線に流れる電流の値を推定することを特徴とする請求項1に記載のモータ制御装置。
【請求項5】
前記相電流推定部は、前記電流センサの検出値から求まる値をシステムの制御入力と出力とし、前記第2巻線が前記第1巻線に干渉する成分を外乱とし、前記システムの逆モデルから当該システムの入力を推定して前記制御入力との差分をとることで前記外乱を求め、前記第2巻線に流れる電流の値を推定し、推定した値を前記合算値から差し引くことで、前記第1巻線に流れる電流の値を推定する電流推定オブザーバを用いることを特徴とする請求項4に記載のモータ制御装置。
【請求項6】
前記相電流推定部が用いる前記電流推定オブザーバでは、前記制御入力及び前記出力としてdq軸電流値又はそれから求まる値を採用し、前記システムとしては前記モータの伝達関数を採用することを特徴とする請求項3又は請求項5に記載のモータ制御装置。
【請求項7】
前記第1巻線と前記第2巻線は、前記モータを構成するステータのティースに共通巻きされていることを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のモータ制御装置。
【請求項8】
前記電流センサは、前記インバータ回路の二相を流れる電流を検出することを特徴とする請求項1乃至請求項5のうちの何れかに記載のモータ制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インバータ回路により三相交流出力を多重巻線構造のモータに印加して駆動するモータ制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多重巻線構造のモータは、一つのステータに第1巻線と第2巻線を巻装したモータであり、大容量・大トルク化に加え、入力電圧の要求範囲の拡大も可能となることから、従来より広く用いられている(例えば、特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第6076456号公報
【特許文献2】特開2020-195240号公報
【特許文献3】WO2016/117067号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、第1巻線と第2巻線に流れる電流(相電流)を検出するために、それぞれ電流センサを取り付けなければならず、一般的なモータと比較してセンサ数が増大し、コストが高騰すると共に、センサ故障等により信頼性が低下する問題があった。
【0005】
本発明は、係る従来の技術的課題を解決するためになされたものであり、インバータ回路を用いて多重巻線構造のモータを制御する制御装置において、各巻線に流れる電流を検出するための電流センサの数を削減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のモータ制御装置は、相互に磁気的に結合したスター結線の第1巻線及び第2巻線を有するモータを制御するものであって、三相交流出力を第1巻線及び第2巻線に印加するインバータ回路と、このインバータ回路を流れる電流を検出する電流センサと、第1巻線と第2巻線が相互に干渉しあうことを利用し、電流センサの検出値に基づいて、第1巻線に流れる電流と、第2巻線に流れる電流の値を求める相電流推定部を備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2の発明のモータ制御装置は、上記発明において第1巻線に三相交流出力を印加する第1インバータ回路と、第2巻線に三相交流出力を印加する第2インバータ回路を備え、電流センサは、第1インバータ回路から第1巻線に流れる電流を検出すると共に、相電流推定部は、電流センサの検出値から、第2巻線が第1巻線に干渉する成分を導出することで、第2巻線に流れる電流の値を推定することを特徴とする。
【0008】
請求項3の発明のモータ制御装置は、上記発明において相電流推定部は、電流センサの検出値から求まる値をシステムの制御入力と出力とし、第2巻線が第1巻線に干渉する成分を外乱とし、システムの逆モデルから当該システムの入力を推定して制御入力との差分をとることで外乱を求め、第2巻線に流れる電流の値を推定する電流推定オブザーバを用いることを特徴とする。
【0009】
請求項4の発明のモータ制御装置は、請求項1の発明においてインバータ回路に対して第1巻線及び第2巻線が並列に接続され、且つ、第2巻線はスイッチング素子を介してインバータ回路に接続されており、電流センサは、第1巻線と第2巻線に流れる電流の合算値を検出すると共に、相電流推定部は、電流センサの検出値から、第2巻線が第1巻線に干渉する成分を導出することで、第2巻線に流れる電流の値を推定し、推定した値を合算値から差し引くことで、第1巻線に流れる電流の値を推定することを特徴とする。
【0010】
請求項5の発明のモータ制御装置は、上記発明において相電流推定部は、電流センサの検出値から求まる値をシステムの制御入力と出力とし、第2巻線が第1巻線に干渉する成分を外乱とし、システムの逆モデルから当該システムの入力を推定して制御入力との差分をとることで外乱を求め、第2巻線に流れる電流の値を推定し、推定した値を合算値から差し引くことで、第1巻線に流れる電流の値を推定する電流推定オブザーバを用いることを特徴とする。
【0011】
請求項6の発明のモータ制御装置は、請求項3又は請求項5の発明において相電流推定部が用いる電流推定オブザーバでは、制御入力及び出力としてdq軸電流値又はそれから求まる値を採用し、システムとしてはモータの伝達関数を採用することを特徴とする。
【0012】
請求項7の発明のモータ制御装置は、請求項1乃至請求項5の発明において第1巻線と第2巻線は、モータを構成するステータのティースに共通巻きされていることを特徴とする。
【0013】
請求項8の発明のモータ制御装置は、請求項1乃至請求項5の発明において電流センサは、インバータ回路の二相を流れる電流を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、相互に磁気的に結合したスター結線の第1巻線及び第2巻線を有するモータを制御するモータ制御装置において、三相交流出力を第1巻線及び第2巻線に印加するインバータ回路と、このインバータ回路を流れる電流を検出する電流センサと、第1巻線と第2巻線が相互に干渉しあうことを利用し、電流センサの検出値に基づいて、第1巻線に流れる電流と、第2巻線に流れる電流の値を求める相電流推定部を設けたので、第1巻線に流れる電流の値と第2巻線に流れる電流の値を検出するための電流センサの数を削減することが可能となる。
【0015】
これにより、多重巻線構造のモータを制御する制御装置のコストの削減を図ることができるようになると共に、センサ故障の発生を抑制し、信頼性の向上も図ることが可能となる。
【0016】
ここで、第1巻線に三相交流出力を印加する第1インバータ回路と、第2巻線に三相交流出力を印加する第2インバータ回路を備える場合には、請求項2の発明の如く電流センサが第1インバータ回路から第1巻線に流れる電流を検出するようにし、相電流推定部が、電流センサの検出値から第2巻線が第1巻線に干渉する成分を導出することで、第2巻線に流れる電流の値を推定するようにする。
【0017】
その場合は、請求項3の発明の如く相電流推定部が、電流センサの検出値から求まる値をシステムの制御入力と出力とし、第2巻線が第1巻線に干渉する成分を外乱とし、システムの逆モデルから当該システムの入力を推定して制御入力との差分をとることで外乱を求め、第2巻線に流れる電流の値を推定する電流推定オブザーバを用いることで、的確に第2巻線に流れる電流の値を推定することができるようになる。
【0018】
また、インバータ回路に対して第1巻線及び第2巻線が並列に接続され、且つ、第2巻線がスイッチング素子を介してインバータ回路に接続されている場合には、請求項4の発明の如く電流センサが、第1巻線と第2巻線に流れる電流の合算値を検出するようにし、相電流推定部が、電流センサの検出値から第2巻線が第1巻線に干渉する成分を導出することで、第2巻線に流れる電流の値を推定し、推定した値を合算値から差し引くことで、第1巻線に流れる電流の値を推定するようにする。
【0019】
その場合は、請求項5の発明の如く相電流推定部が、電流センサの検出値から求まる値をシステムの制御入力と出力とし、第2巻線が第1巻線に干渉する成分を外乱とし、システムの逆モデルから当該システムの入力を推定して制御入力との差分をとることで外乱を求め、第2巻線に流れる電流の値を推定し、推定した値を合算値から差し引くことで、第1巻線に流れる電流の値を推定する電流推定オブザーバを用いることで、的確に第2巻線に流れる電流の値と第1巻線に流れる電流の値を推定することができるようになる。
【0020】
そして、以上のことは請求項7の発明の如く第1巻線と第2巻線がステータのティースに共通巻きされている場合に特に有効である。
【0021】
尚、相電流推定部が用いる上記電流推定オブザーバでは、請求項6の発明の如く制御入力及び出力としてdq軸電流値又はそれから求まる値を採用し、システムとしてはモータの伝達関数を採用する。
【0022】
また、電流センサは請求項8の発明の如く、インバータ回路の二相を流れる電流を検出するようにすることで、より簡単且つ正確に各巻線の電流の値を検出/推定可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のモータ制御装置の一実施例の電気回路図である(実施例1)。
【
図2】二重三相巻線構造のモータの実施例を説明する図である。
【
図3】
図1におけるモータのd軸に関するモータモデルを示すブロック図である。
【
図4】
図1におけるモータのq軸に関するモータモデルを示すブロック図である。
【
図5】外乱オブザーバの概要を説明するブロック図である。
【
図6】第1巻線のみに着目した
図3のモータモデルを示すブロック図である。
【
図7】
図6を
図5の外乱オブザーバに当てはめた場合の電流推定オブザーバの概要を説明するブロック図である。
【
図8】実際に構築した
図7の電流推定オブザーバの概要を説明するブロック図である。
【
図9】q軸に関して実際に構築した電流推定オブザーバの概要を説明するブロック図である。
【
図10】
図1における各巻線を流れる電流の値の推定結果と実際の値を説明する図である。
【
図11】本発明のモータ制御装置の他の実施例の電気回路図である(実施例2)。
【
図12】
図11の第1巻線のみに着目し、d軸に関して実際に構築した電流推定オブザーバの概要を説明するブロック図である。
【
図13】
図11の第1巻線のみに着目し、q軸に関して実際に構築した電流推定オブザーバの概要を説明するブロック図である。
【
図14】
図11における各巻線を流れる電流の値の推定結果と実際の値を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について、図面に基づき詳細に説明する。先ず、
図2を参照しながら、本発明を適用する実施例のモータMの構造について説明する。
(1)モータ1
実施例のモータ1は、所謂インバータ一体型車載用電動コンプレッサの圧縮機構を駆動するものであり、圧縮機構と共に電動コンプレッサの図示しないハウジング内に設けられる。実施例の場合、モータ1はハウジングに固定されたステータ2と、このステータ2の内側で回転する永久磁石内蔵型のロータ3から成るIPMSM(Interior Permanent Magnet Synchronous Motor)である。
【0025】
実施例のモータ1のステータ2のティース4には、第1巻線6と第2巻線7が共通巻きされている。即ち、モータ1は二重三相巻線構造のモータである。尚、
図2中の11は第1巻線6のU相の電機子コイル、12は第1巻線6のV相の電機子コイル、13は第1巻線6のW相の電機子コイルを示し、N
1は第1巻線6の巻数を示している。また、
図2中の16は第2巻線7のU相の電機子コイル、17は第2巻線7のV相の電機子コイル、18は第2巻線7のW相の電機子コイルを示し、N
2は第2巻線7の巻数を示している。
【0026】
第1巻線6と第2巻線7は、何れも三相がスター結線とされている。また、第1巻線6と第2巻線7は、同一の相が同一のティース4に巻装されており、相互に磁気的に結合している。尚、
図2ではティース4を3個のみ示すが実際には更に複数存在している。即ち、
図2はUVW各相(三相)の位相差120°を示すためにティース4を3個示している。
【実施例0027】
(2)モータ制御装置20
次に、
図1は本発明の一実施例のモータ制御装置20の電気回路図である。この実施例のモータ制御装置20は、何れも本発明におけるインバータ回路としての第1インバータ回路21と、第2インバータ回路22の二系統のインバータ回路と、各系統にそれぞれ接続された平滑コンデンサ23、24、Yコンデンサ26A、27A、26B、27Bと、制御部30等から構成されている。
【0028】
(2-1)第1インバータ回路21
モータ制御装置20の第1インバータ回路21は、直流電源(車両に搭載されたHVバッテリ:例えば、350V)28の直流電圧を三相交流電圧(三相交流出力)に変換してモータ1の第1巻線6に印加する回路である。第1インバータ回路21は、U相ハーフブリッジ回路29U、V相ハーフブリッジ回路29V、W相ハーフブリッジ回路29Wを有しており、各相ハーフブリッジ回路29U~29Wは、それぞれ上アームスイッチング素子31A~31C(実施例ではIGBT)と、下アームスイッチング素子31D~31F(実施例ではIGBT)を個別に有している。更に、各スイッチング素子31A~31Fには、それぞれフライホイールダイオード32が逆並列に接続されている。
【0029】
そして、第1インバータ回路21の上アームスイッチング素子31A~31Cの上端側(IGBTのコレクタ)は、直流電源28の上アーム電源ライン(正極側母線HV+)33に接続されている。一方、第1インバータ回路21の下アームスイッチング素子31D~31Fの下端側(IGBTのエミッタ)は、直流電源28の下アーム電源ライン(負極側母線HV-)34に接続されている。
【0030】
この場合、U相ハーフブリッジ回路29Uの上アームスイッチング素子31Aと下アームスイッチング素子31Dが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路29Vの上アームスイッチング素子31Bと下アームスイッチング素子31Eが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路29Wの上アームスイッチング素子31Cと下アームスイッチング素子31Fが直列に接続されている。
【0031】
そして、U相ハーフブリッジ回路29Uの上アームスイッチング素子31Aと下アームスイッチング素子31Dの接続点である中性点(U相電圧Vu1)は、モータ1の第1巻線6のU相の電機子コイル11に接続され、V相ハーフブリッジ回路29Vの上アームスイッチング素子31Bと下アームスイッチング素子31Eの接続点である中性点(V相電圧Vv1)は、モータ1の第1巻線6のV相の電機子コイル12に接続され、W相ハーフブリッジ回路29Wの上アームスイッチング素子31Cと下アームスイッチング素子31Fの接続点である中性点(W相電圧Vw1)は、モータ1の第1巻線6のW相の電機子コイル13に接続されている。
【0032】
(2-2)第2インバータ回路22
また、モータ制御装置20の第2インバータ回路22は、直流電源28の直流電圧を三相交流電圧(三相交流出力)に変換してモータ1の第2巻線7に印加する回路である。第2インバータ回路22は、U相ハーフブリッジ回路36U、V相ハーフブリッジ回路36V、W相ハーフブリッジ回路36Wを有しており、各相ハーフブリッジ回路36U~36Wは、それぞれ上アームスイッチング素子37A~37C(実施例ではIGBT)と、下アームスイッチング素子37D~37F(実施例ではIGBT)を個別に有している。更に、各スイッチング素子37A~37Fには、それぞれフライホイールダイオード38が逆並列に接続されている。
【0033】
そして、第2インバータ回路22の上アームスイッチング素子37A~37Cの上端側(IGBTのコレクタ)は、直流電源28のもう一つの上アーム電源ライン(正極側母線HV+)41に接続されている。一方、第2インバータ回路22の下アームスイッチング素子37D~37Fの下端側(IGBTのエミッタ)は、直流電源28のもう一つの下アーム電源ライン(負極側母線HV-)42に接続されている。
【0034】
この場合、U相ハーフブリッジ回路36Uの上アームスイッチング素子37Aと下アームスイッチング素子37Dが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路36Vの上アームスイッチング素子37Bと下アームスイッチング素子37Eが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路36Wの上アームスイッチング素子37Cと下アームスイッチング素子37Fが直列に接続されている。
【0035】
そして、U相ハーフブリッジ回路36Uの上アームスイッチング素子37Aと下アームスイッチング素子37Dの接続点である中性点(U相電圧Vu2)は、モータ1の第2巻線7のU相の電機子コイル16に接続され、V相ハーフブリッジ回路36Vの上アームスイッチング素子37Bと下アームスイッチング素子37Eの接続点である中性点(V相電圧Vv2)は、モータ1の第2巻線7のV相の電機子コイル17に接続され、W相ハーフブリッジ回路36Wの上アームスイッチング素子37Cと下アームスイッチング素子37Fの接続点である中性点(W相電圧Vw2)は、モータ1の第2巻線7のW相の電機子コイル18に接続されている。
【0036】
(2-3)制御部30
次に、モータ制御装置20の制御部30は、プロセッサを有するマイクロコンピュータから構成されており、実施例では車両ECUから回転数指令値を入力し、モータ1から相電流を入力して、これらに基づき、第1インバータ回路21の各スイッチング素子31A~31FのON/OFF状態(スイッチング)を制御し、第2インバータ回路22の各スイッチング素子37A~37FのON/OFF状態を制御する。具体的には、各スイッチング素子31A~31F、37A~37Fのゲート端子に印加するゲート電圧を制御する。
【0037】
実施例の制御部30は、相電流推定部43と、相電圧指令演算部44と、PWM信号生成部46と、ゲートドライバ47と、第1インバータ回路21から第1巻線6に流れる相電流であるU相電流iu1、V相電流iv1、及び、W相電流iw1を検出するための電流センサ48、49を有しており、各電流センサ48、49は相電流推定部43に接続されている。
【0038】
(2-3-1)相電流推定部43
尚、電流センサ48は第1インバータ回路21から第1巻線6に流れるU相電流iu1を検出し、電流センサ49は第1インバータ回路21から第1巻線6に流れるW相電流iw1を検出する。そして、第1インバータ回路21から第1巻線6に流れるV相電流iv1については、これらから計算により求める。
【0039】
また、この実施例では相電流推定部43が、これら第1インバータ回路21から第1巻線6に流れるUVW相の各相電流iu1、iv1、iw1に基づき、後述する如く第2インバータ回路22から第2巻線7に流れるUVW相の各相電流iu2、iv2、iw2を推定する。実際には第1インバータ回路21から第1巻線6に流れる相電流iu1、iv1、iw1から座標変換して得られる第1巻線6のd軸電流id1、q軸電流iq1から、第2インバータ回路22から第2巻線7に流れるd軸電流id2、q軸電流iq2(第2巻線7のd軸電流id2、q軸電流iq2)を推定するものであるが、これについては後に詳述する。
【0040】
(2-3-2)相電圧指令演算部44
相電圧指令演算部44は、モータ1の電気角、電流指令値と相電流iu1、iv1、iw1から得られる上記d軸電流id1、q軸電流iq1に基づくベクトル制御により、モータ1の第1巻線6の各相の電機子コイル11~13に印加するU相電圧Vu1、V相電圧Vv1、W相電圧Vw1を生成するための三相変調電圧指令値Vu1’(以下、U相電圧指令値Vu1’)、Vv1’(以下、V相電圧指令値Vv1’)、Vw1’(以下、W相電圧指令値Vw1’)を演算し、生成する。
【0041】
また、相電圧指令演算部44は、モータ1の電気角、電流指令値と相電流推定部43により推定される前記d軸電流id2、q軸電流iq2に基づくベクトル制御により、モータ1の第2巻線7の各相の電機子コイル16~18に印加するU相電圧Vu2、V相電圧Vv2、W相電圧Vw2を生成するための三相変調電圧指令値Vu2’(以下、U相電圧指令値Vu2’)、Vv2’(以下、V相電圧指令値Vv2’)、Vw2’(以下、W相電圧指令値Vw2’)を演算し、生成する。
【0042】
(2-3-3)PWM信号生成部46
PWM信号生成部46は、相電圧指令演算部44により演算された三相変調電圧指令値Vu1’、Vv1’、Vw1’を入力し、これら三相変調電圧指令値Vu1’、Vv1’、Vw1’と、キャリア信号(キャリア三角波)の大小を比較することによって、第1インバータ回路21のU相ハーフブリッジ回路29U、V相ハーフブリッジ回路29V、W相ハーフブリッジ回路29Wの駆動指令信号となる第1インバータ回路21用のPWM信号を生成し、出力する。
【0043】
また、PWM信号生成部46は、相電圧指令演算部44により演算された三相変調電圧指令値Vu2’、Vv2’、Vw2’を入力し、これら三相変調電圧指令値Vu2’、Vv2’、Vw2’と、キャリア信号(キャリア三角波)の大小を比較することによって、第2インバータ回路22のU相ハーフブリッジ回路36U、V相ハーフブリッジ回路36V、W相ハーフブリッジ回路36Wの駆動指令信号となる第2インバータ回路22用のPWM信号を生成し、出力する。
【0044】
(2-3-4)ゲートドライバ47
ゲートドライバ47は、PWM信号生成部46から出力される第1インバータ回路21用のPWM信号に基づき、第1インバータ回路21のU相ハーフブリッジ回路29Uの上アームスイッチング素子31A、下アームスイッチング素子31Dのゲート電圧と、V相ハーフブリッジ回路29Vの上アームスイッチング素子31B、下アームスイッチング素子31Eのゲート電圧と、W相ハーフブリッジ回路29Wの上アームスイッチング素子31C、下アームスイッチング素子31Fのゲート電圧を発生させる。
【0045】
また、ゲートドライバ47は、PWM信号生成部46から出力される第2インバータ回路22用のPWM信号に基づき、第2インバータ回路22のU相ハーフブリッジ回路36Uの上アームスイッチング素子37A、下アームスイッチング素子37Dのゲート電圧と、V相ハーフブリッジ回路36Vの上アームスイッチング素子37B、下アームスイッチング素子37Eのゲート電圧と、W相ハーフブリッジ回路36Wの上アームスイッチング素子37C、下アームスイッチング素子37Fのゲート電圧を発生させる。
【0046】
そして、第1インバータ回路21の各スイッチング素子31A~31Fは、ゲートドライバ47から出力されるゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。このゲートドライバ47は、スイッチング素子31A~31F、37A~37Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
【0047】
上記第1インバータ回路21のU相ハーフブリッジ回路29Uの上アームスイッチング素子31Aと下アームスイッチング素子31Dの接続点の電圧がU相電圧Vu1(相電圧)としてモータ1の第1巻線6のU相の電機子コイル11に印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路29Vの上アームスイッチング素子31Bと下アームスイッチング素子31Eの接続点の電圧がV相電圧Vv1(相電圧)としてモータ1の第1巻線6のV相の電機子コイル12に印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路29Wの上アームスイッチング素子31Cと下アームスイッチング素子31Fの接続点の電圧がW相電圧Vw1(相電圧)としてモータ1の第1巻線6のW相の電機子コイル13に印加(出力)される。
【0048】
また、第2インバータ回路22のU相ハーフブリッジ回路36Uの上アームスイッチング素子37Aと下アームスイッチング素子37Dの接続点の電圧がU相電圧Vu2(相電圧)としてモータ1の第2巻線7のU相の電機子コイル16に印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路36Vの上アームスイッチング素子37Bと下アームスイッチング素子37Eの接続点の電圧がV相電圧Vv2(相電圧)としてモータ1の第2巻線7のV相の電機子コイル17に印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路36Wの上アームスイッチング素子37Cと下アームスイッチング素子37Fの接続点の電圧がW相電圧Vw2(相電圧)としてモータ1の第2巻線7のW相の電機子コイル18に印加(出力)される。
【0049】
(3)相電流推定部43による推定動作
次に、
図3~
図10を参照しながら制御部30の相電流推定部43の具体的な推定動作について説明する。
図3は
図1におけるモータ1のd軸に関するモータモデルを示すブロック図、
図4は
図1におけるモータ1のq軸に関するモータモデルを示すブロック図である。各図は下記数式(I)より求められる。
【0050】
【0051】
尚、数式(I)及び
図3、
図4中のv
d1は第1巻線6のd軸電圧(指令値)、v
q1は第1巻線6のq軸電圧(指令値)、v
d2は第2巻線7のd軸電圧(指令値)、v
q2は第2巻線7のq軸電圧(指令値)、i
d1は第1巻線6のd軸電流、i
q1は第1巻線6のq軸電流、i
d2は第2巻線7のd軸電流、i
q2は第2巻線7のq軸電流、L
d1は第1巻線6のd軸インダクタンス、L
d2は第2巻線7のd軸インダクタンス、R
1は第1巻線6の抵抗、R
2は第2巻線7の抵抗、M
dはd軸の第1巻線6と第2巻線7の相互インダクタンス、M
qはq軸の第1巻線6と第2巻線7の相互インダクタンス、ω
reは電気角速度、kは結合係数、k
E1は第1巻線6の誘起電圧定数、k
E2は第2巻線7の誘起電圧定数、sは微分演算子、T
sはキャリア周期である。
【0052】
前述した如く第1巻線6と第2巻線7は相互に磁気的に結合しているので、各巻線6、7は相互に干渉しあう性質を有しており、
図3の枠51で囲んだ部分がd軸に関する干渉成分、
図4の枠52で囲んだ部分がq軸に関する干渉成分をそれぞれ示している。
【0053】
(3-1)外乱オブザーバ
ここで、本発明で用いる外乱オブザーバの概要を
図5にブロック図で示す。外乱オブザーバは、システムG(s)の制御入力uと出力yより外乱Eを推定する手法である。システムG(s)が既知の場合、システムの逆モデルG(s)
-1からシステム入力x(ハット)を推定し、制御入力uとの差分をとることで、入力に発生している外乱Eを推定する。現実世界のシステムG(s)は全てプロパーなシステム(微分項がない)とされているため、逆モデルG(s)
-1の多くは微分項を含む。そのため、ローパスフィルタF(s)を入れることで不完全微分とし、システムを実現させている。
【0054】
(3-2)電流推定オブザーバ
次に、
図3のd軸について第1巻線6のみに着目すると、モータモデルは
図6のようなブロック図となる。
図6より、第1巻線6から見て第2巻線7のd軸電流i
d2は外乱のように働いている(q軸も同様)。このことに着目して、電流センサ48、49の検出値に基づく第1巻線6の電流情報(i
d1、i
q1)のみで、第2巻線7の電流を外乱として推定する電流推定オブザーバを構築し、第2巻線7の電流(i
d2、i
q2)の推定を行う。
【0055】
即ち、電流推定オブザーバでは、第2巻線7が第1巻線6に干渉する成分を
図3の外乱Eとし、
図3のシステムG(s)としてモータ1の伝達関数を採用し、
図3の制御入力uとして第1巻線6のd軸電流i
d1から求まる値を採用し、
図3の出力yとして第1巻線6のq軸電流i
q1を採用し、システムG(s)の逆モデルG(s)
-1からシステムの入力xハットを推定して、制御入力uとの差分をとることで、外乱Eを求め(第2巻線7が第1巻線6に干渉する成分の導出)、それから第2巻線7のd軸電流i
d2、q軸電流i
q2の推定を行う。
【0056】
これをブロック図で示したものが
図7である。d軸の第1巻線6について外乱オブザーバを導入すると
図7のようになる。推定する外乱Eは第2巻線7のd軸電流i
d2となる。制御入力は本来はv
d1、v
d2であるが、第1巻線6の電流が検出可能であるため、速度起電力に関する干渉項を含んだ入力とすることで、外乱Eをd軸電流i
d2に限定している。
【0057】
そして、実際に構築した電流推定オブザーバは
図8のブロック図となる。相電流推定部43は
図8の電流推定オブザーバを用いて、電流センサ48、49の検出値から第2巻線7のd軸電流i
d2ハットの値を推定する。
図8を離散方程式で表すと数式(II)~(IX)のようになる。尚、
図8及び数式(II)~(IX)中のω
LPFはローパスフィルタのカットオフ周波数である。
【0058】
【0059】
【0060】
同様に、q軸に関して実際に構築した電流推定オブザーバのブロック図を
図9に示す。相電流推定部43は
図9の電流推定オブザーバを用いて、電流センサ48、49の検出値から第2巻線7のq軸電流i
q2ハットの値を推定する。
図9を離散方程式で表すと数式(X)~(XV)のようになる。
【0061】
【0062】
【0063】
以上の電流推定オブザーバを用いて相電流推定部43が推定した第2巻線7のd軸電流i
d2ハット、q軸電流i
q2ハットと、実際に測定した第2巻線7のd軸電流i
d2c、q軸電流i
q2cを
図10の上から2段目と最下段に示す。尚、
図10の最上段と下から2段目は、前述とは逆に第2インバータ回路22に流れる電流を電流センサで検出し、第1巻線6のd軸電流i
d1ハットとq軸電流i
q1ハットを電流推定オブザーバで推定した場合と、実際に測定した第1巻線6のd軸電流i
d1c、q軸電流i
q1cを参考として示している。
【0064】
この図から明らかな如く、推定結果(推定値id2ハット、iq2ハット、id1ハット、iq1ハット)と実際の値(実測値id2c、iq2c、id1c、iq1c)は殆ど差が無く、略同一となった。
【0065】
以上のように、第1巻線6と第2巻線7が相互に干渉しあうことを利用し、相電流推定部43により、電流センサ48、49の検出値に基づいて、第1巻線6に流れる電流と、第2巻線7に流れる電流の値を求めるようにしたので、第1巻線6に流れる電流の値と第2巻線7に流れる電流の値を検出するための電流センサの数を削減することが可能となる。
【0066】
即ち、本発明を用いない場合、第2巻線7に流れる電流の値を検出する電流センサも2個必要となり、合計で4個必要となるが、本発明によれば電流センサ48、49の2個で済むことになる。これにより、多重巻線構造のモータ1を制御する制御装置20のコストの削減を図ることができるようになると共に、センサ故障の発生を抑制し、信頼性の向上も図ることが可能となる。
【0067】
特に、この実施例の如く第1巻線6に三相交流出力を印加する第1インバータ回路21と、第2巻線7に三相交流出力を印加する第2インバータ回路22を備える場合には、例えば、電流センサ48、49が第1インバータ回路21から第1巻線6に流れる電流を検出するようにし、相電流推定部43が、電流センサ48、49の検出値から第2巻線7が第1巻線6に干渉する成分を導出することで、第2巻線7に流れる電流の値を推定する。
【0068】
具体的には上記実施例の如く相電流推定部43は、電流センサ48、49の検出値から求まる値をシステムG(s)の制御入力uと出力yとし、第2巻線7が第1巻線6に干渉する成分を外乱Eとし、システムG(s)の逆モデルG(s)-1から当該システムの入力を推定して制御入力uとの差分をとることで外乱Eを求め、第2巻線7に流れる電流の値(推定値id2ハット、iq2ハット)を推定する電流推定オブザーバを用いているので、的確に第2巻線7に流れる電流の値(推定値id2ハット、iq2ハット)を推定することができるようになる。
そして、インバータ回路53の上アームスイッチング素子62A~62Cの上端側(IGBTのコレクタ)は、直流電源28の上アーム電源ライン(正極側母線)33に接続されている。一方、インバータ回路53の下アームスイッチング素子62D~62Fの下端側(IGBTのエミッタ)は、直流電源28の下アーム電源ライン(負極側母線)34に接続されている。
この場合、U相ハーフブリッジ回路61Uの上アームスイッチング素子62Aと下アームスイッチング素子62Dが直列に接続され、V相ハーフブリッジ回路61Vの上アームスイッチング素子62Bと下アームスイッチング素子62Eが直列に接続され、W相ハーフブリッジ回路61Wの上アームスイッチング素子62Cと下アームスイッチング素子62Fが直列に接続されている。
そして、U相ハーフブリッジ回路61Uの上アームスイッチング素子62Aと下アームスイッチング素子62Dの接続点である中性点(U相電圧Vu)は、モータ1の第1巻線6のU相の電機子コイル11に接続され、V相ハーフブリッジ回路61Vの上アームスイッチング素子62Bと下アームスイッチング素子62Eの接続点である中性点(V相電圧Vv)は、モータ1の第1巻線6のV相の電機子コイル12に接続され、W相ハーフブリッジ回路61Wの上アームスイッチング素子62Cと下アームスイッチング素子62Fの接続点である中性点(W相電圧Vw)は、モータ1の第1巻線6のW相の電機子コイル13に接続されている。
また、切換用スイッチング素子62Gの上端側(IGBTのコレクタ)が電機子コイル16に接続され、下端側(IGBTのエミッタ)がU相ハーフブリッジ回路61Uの上アームスイッチング素子62Aと下アームスイッチング素子62Dの接続点である中性点に接続され、切換用スイッチング素子62Hの上端側(IGBTのコレクタ)が電機子コイル17に接続され、下端側(IGBTのエミッタ)がV相ハーフブリッジ回路61Vの上アームスイッチング素子62Bと下アームスイッチング素子62Eの接続点である中性点に接続され、切換用スイッチング素子62Iの上端側(IGBTのコレクタ)が電機子コイル18に接続され、下端側(IGBTのエミッタ)がW相ハーフブリッジ回路61Wの上アームスイッチング素子62Cと下アームスイッチング素子62Fの接続点である中性点に接続されている。尚、各切換用スイッチング素子62G~62Iにも、それぞれフライホイールダイオード63が逆並列に接続されている。
この実施例の制御部59は、相電流推定部66と、相電圧指令演算部67と、PWM信号生成部68と、ゲートドライバ69と、切換制御部71と、インバータ回路53を流れる相電流であるU相電流iu、V相電流iv、及び、W相電流iwを検出するための電流センサ72、73を有しており、各電流センサ72、73は相電流推定部66に接続されている。
そして、インバータ回路53の各スイッチング素子62A~62Fは、ゲートドライバ69から出力されるゲート電圧に基づき、ON/OFF駆動される。即ち、ゲート電圧がON状態(所定の電圧値)となるとスイッチング素子がON動作し、ゲート電圧がOFF状態(零)となるとスイッチング素子がOFF動作する。このゲートドライバ69は、スイッチング素子62A~62Fが前述したIGBTである場合には、PWM信号に基づいてゲート電圧をIGBTに印加するための回路であり、フォトカプラやロジックIC、トランジスタ等から構成される。
上記インバータ回路53のU相ハーフブリッジ回路61Uの上アームスイッチング素子62Aと下アームスイッチング素子62Dの接続点の電圧がU相電圧Vu(相電圧)としてモータ1の第1巻線6のU相の電機子コイル11及び第2巻線7のU相の電機子コイル16に印加(出力)され、V相ハーフブリッジ回路61Vの上アームスイッチング素子62Bと下アームスイッチング素子62Eの接続点の電圧がV相電圧Vv(相電圧)としてモータ1の第1巻線6のV相の電機子コイル12と第2巻線7のV相の電機子コイル17に印加(出力)され、W相ハーフブリッジ回路61Wの上アームスイッチング素子62Cと下アームスイッチング素子62Fの接続点の電圧がW相電圧Vw(相電圧)としてモータ1の第1巻線6のW相の電機子コイル13と第2巻線7のW相の電機子コイル18に印加(出力)される。
以上のようにこの実施例においても、第1巻線6と第2巻線7が相互に干渉しあうことを利用し、相電流推定部66により、電流センサ72、73の検出値に基づいて、第1巻線6に流れる電流と、第2巻線7に流れる電流の値を求めるようにしたので、第1巻線6に流れる電流の値と第2巻線7に流れる電流の値を検出するための電流センサの数を削減することが可能となる。
即ち、本発明を用いない場合、第2巻線7に流れる電流の値を検出する電流センサも2個必要となり、合計で4個必要となるが、本発明によれば電流センサ72、73の2個で済むことになる。これにより、多重巻線構造のモータ1を制御する制御装置20のコストの削減を図ることができるようになると共に、センサ故障の発生を抑制し、信頼性の向上も図ることが可能となる。
特に、この実施例の如くインバータ回路53に対して第1巻線6及び第2巻線7が並列に接続され、且つ、第2巻線7が切換用スイッチング素子62G~62Iを介してインバータ回路53に接続されている場合には、例えば、電流センサ72、73が第1巻線6と第2巻線7に流れる電流の合算値を検出するようにし、相電流推定部66が、電流センサ72、73の検出値から第2巻線7が第1巻線6に干渉する成分を導出することで、第2巻線7に流れる電流の値を推定し、推定した値を合算値から差し引くことで、第1巻線6に流れる電流の値を推定する。
具体的には上記実施例の如く相電流推定部66が、電流センサ72、73の検出値から求まる値をシステムG(s)の制御入力uと出力yとし、第2巻線7が第1巻線6に干渉する成分を外乱Eとし、システムG(s)の逆モデルG(s)-1から当該システムの入力を推定して制御入力uとの差分をとることで外乱Eを求め、第2巻線7に流れる電流の値(推定値id2ハット、iq2ハット)を推定し、推定した値を合算値(id、iq)から差し引くことで、第1巻線6に流れる電流の値(推定値id1ハット、iq1ハット)を推定する電流推定オブザーバを用いることで、的確に第2巻線7に流れる電流の値と第1巻線6に流れる電流の値を推定することができるようになる。
また、実施例では本発明のモータ制御装置20を電動コンプレッサに適用したが、それに限らず、インバータ回路により多重巻線構造のモータを制御する種々の機器について本発明は有効である。
更に、実施例では第1巻線6と第2巻線7をティース4に共通巻きしたが、請求項7以外の発明ではそれに限らず、磁気的結合関係がある状態で第1巻線6と第2巻線7を異なるティースに巻装したモータにも本発明は有効である。
更にまた、実施例ではインバータ回路21、53を流れる二相の電流を電流センサ48、49、72、73で検出するようにしたが、請求項8以外の発明ではそれに限らず、各インバータ回路の下アーム電源ラインに流れる電流値をシャント抵抗により検出するものや、各インバータ回路を流れる一相の電流を電流センサで検出するものにも本発明は有効である。